生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_糖鎖含有アルブミン、その製造方法およびその用途
出願番号:2006223595
年次:2008
IPC分類:C12N 15/09,C12N 1/19,C12P 21/02,C07K 14/765,A61K 38/00,A61P 1/16,A61P 7/00,A61K 47/42,A61K 47/48


特許情報キャッシュ

中城 圭介 片山 直久 甲斐 俊哉 小田切 優樹 JP 2008043285 公開特許公報(A) 20080228 2006223595 20060818 糖鎖含有アルブミン、その製造方法およびその用途 ニプロ株式会社 000135036 高島 一 100080791 中城 圭介 片山 直久 甲斐 俊哉 小田切 優樹 C12N 15/09 20060101AFI20080201BHJP C12N 1/19 20060101ALI20080201BHJP C12P 21/02 20060101ALI20080201BHJP C07K 14/765 20060101ALI20080201BHJP A61K 38/00 20060101ALI20080201BHJP A61P 1/16 20060101ALI20080201BHJP A61P 7/00 20060101ALI20080201BHJP A61K 47/42 20060101ALI20080201BHJP A61K 47/48 20060101ALI20080201BHJP JPC12N15/00 AC12N1/19C12P21/02 CC07K14/765A61K37/02A61P1/16A61P7/00A61K47/42A61K47/48 17 OL 20 4B024 4B064 4B065 4C076 4C084 4H045 4B024AA01 4B024AA20 4B024BA80 4B024CA02 4B024CA20 4B024DA12 4B024EA04 4B024GA14 4B024GA25 4B024HA03 4B024HA20 4B064AG24 4B064CA06 4B064CA19 4B064CC01 4B064CC24 4B064CD06 4B064CE03 4B064CE06 4B064CE10 4B064CE12 4B064CE20 4B064DA01 4B064DA13 4B065AA01X 4B065AA58X 4B065AA72X 4B065AA77X 4B065AA87X 4B065AA93Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065AC20 4B065BA02 4B065BA03 4B065BA16 4B065BB01 4B065BB06 4B065BC01 4B065BD14 4B065CA24 4B065CA43 4B065CA44 4B065CA46 4C076AA95 4C076BB11 4C076CC26 4C076CC29 4C076CC41 4C076EE41 4C076EE59 4C076FF68 4C084AA02 4C084AA06 4C084AA07 4C084BA01 4C084BA08 4C084BA22 4C084BA23 4C084BA34 4C084CA33 4C084DA37 4C084NA05 4C084NA13 4C084NA14 4C084ZA511 4C084ZA512 4H045AA10 4H045AA20 4H045AA30 4H045BA10 4H045BA53 4H045CA40 4H045DA70 4H045EA20 4H045EA50 4H045FA74 4H045GA05 4H045GA21 4H045GA26 本発明は、特定のアミノ酸残基に選択的に糖鎖が付加された新規糖鎖含有アルブミン蛋白質、その製造方法およびその用途に関する。より詳細には、本発明は、宿主細胞による糖鎖修飾を受け得る部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンの該部分アミノ酸配列に、選択的に糖鎖が付加されてなる糖鎖含有アルブミン蛋白質、該変異型アルブミンをコードするDNA、該DNAを含む真核細胞を培養することによる該糖鎖含有アルブミン蛋白質の製造方法、並びに該蛋白質の薬物キャリアとしての用途に関する。 ヒト血清アルブミン(以下「HSA」と称することがある)は、体内において血液及び細胞間液をはじめ幅広く分布している。その一次構造は585のアミノ酸からなり、糖鎖構造を有していない分子量約66.5kDaの単純蛋白質である。この蛋白質は肝臓中で作られ、主に血流中で正常な浸透圧を維持し、血中の液体含量を維持する責を負う。そのため、HSAは種々の臨床上の状況において、例えば、外科手術、ショック、火傷、浮腫を起こす低蛋白血症など、血管からの液体の損失があるような状態の治療において用いられている。 また、HSAは種々の血清分子のキャリアーとしての機能を果たしており、安全性、生体適合性、生体分解性、血中滞留性等に富んでいるため、動態特性に問題がある薬物のドラッグデリバリーシステム(DDS)において好ましい担体として位置付けられている。 HSAと薬物の不可逆的結合によるDDSには、HSAの長い半減期を利用し結合させた薬物の血中滞留性を向上させる方法や、HSAの修飾体を能動的輸送システムの担体として用いる方法がある。前者では、半減期の短い蛋白質や生理活性ペプチドを遺伝子融合技術によりハイブリッド体として発現させる試みがなされている。一方、後者では、アニオン化やカチオン化のようにHSAの物理化学的性質を調節する方法や、糖構造やペプチドのように、細胞表面に存在する受容体の認識素子(装置)を導入することにより、精密な動態制御や細胞特異的ターゲティングの実現を図る試みが精力的に検討されている(非特許文献1乃至6)。 肝臓には糖残基や負電荷を認識する受容体が存在することが知られている。この性質を利用して、コハク酸やガラクトース、マンノース等を結合させたアルブミンが肝臓へのターゲティングに用いられている。 しかしながら、HSAを化学的に修飾する場合、(1)非常に多くの糖残基を結合させなければ肝臓へ認識されない; ガラクトース修飾アルブミンは、アルブミン1分子あたり10個以上のガラクトースが結合していなければ肝臓へ認識されない(非特許文献5参照)。(2)肝臓非実質細胞群に対する細胞特異性が低い; マンノースやフコース修飾アルブミンは肝内皮細胞及びクッパー細胞の両細胞へ取り込まれることが知られている(非特許文献6参照)。(3)均一な結合体の調製が難しく、適切な結合条件を見出す必要がある;などの問題点が指摘されている。そこで、非化学的手法を用いてHSAを修飾する方法の開発が強く望まれていた。Lee YC et al., Biochemisty, 15: 3956-3963, 1976Opanasopit P et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 280: 879-889, 2001Takakura Y et al., Int. J. Pharm. 105: 19-29, 1994Yamasaki Y et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 301: 467-477, 2002Nishikawa M et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 268:G849-G856, 1995Higuchi Y et al., Int. J. Pharm. 287: 147-154, 2004 本発明の目的は、肝臓、特にクッパー細胞に特異的に移行する、均一な糖鎖含有アルブミン、特に血清アルブミンを提供し、以って肝臓へのDDSに適した薬物キャリアを提供することである。 本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、N結合型糖鎖のコンセンサス配列(Asn-X-Thr/Ser)を部位特異的変異法によりHSAをコードするDNAに導入し、得られた変異型HSAをコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換したピキア・パストリス(Pichia pastoris)を培養することにより、肝臓移行性の高い高マンノース型の糖鎖が該コンセンサス配列のAsn残基に付加された糖鎖含有HSAを作製することに成功し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、[1]真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンの該部分アミノ酸配列に、選択的に糖鎖が付加されてなる糖鎖含有アルブミン蛋白質;[2]糖鎖が高マンノース型糖鎖である、上記[1]記載の蛋白質;[3]該部分アミノ酸配列の少なくとも1つがAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされる任意のアミノ酸を示す)である、上記[1]または[2]記載の蛋白質;[4]該部分アミノ酸配列のすべてがAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされる任意のアミノ酸を示す)である、上記[3]記載の蛋白質;[5]アルブミンがヒト血清アルブミンである、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の蛋白質;[6]配列番号2に示されるアミノ酸配列中配列番号1〜585で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列であって、アミノ酸番号63で示されるアミノ酸がAsnおよび/またはアミノ酸番号320で示されるアミノ酸がThrもしくはSerおよび/またはアミノ酸番号494で示されるアミノ酸がAsnである、上記[5]記載の蛋白質;[7]少なくともアミノ酸番号494で示されるアミノ酸がAsnである、上記[6]記載の蛋白質;[8]真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンをコードするDNA;[9]宿主真核細胞において機能的なプロモーターの制御下にある上記[8]記載のDNAを含む発現ベクター;[10]宿主真核細胞に上記[9]記載の発現ベクターを導入することにより得られる形質転換体;[11]宿主真核細胞が酵母である、上記[10]記載の形質転換体;[12]酵母がピキア属酵母である、上記[11]記載の形質転換体;[13]上記[10]〜[12]のいずれかに記載の形質転換体を培地中で培養し、得られる培養物から糖鎖含有アルブミンを回収することを含む、上記[1]記載の蛋白質の製造方法;[14]上記[1]〜[7]のいずれかに記載の蛋白質を含有してなる医薬;[15]上記[1]〜[7]のいずれかに記載の蛋白質を含有してなる肝臓への薬物キャリア;[16]標的細胞がクッパー細胞である、上記[15]記載のキャリア;および[17]肝臓に送達されるべき医薬化合物および上記[15]または[16]記載のキャリアを含有してなる医薬組成物;を提供する。 本発明の糖鎖含有アルブミンは、肝臓、特に肝臓の非実質細胞、さらに詳細にはクッパー細胞に特異的に取り込まれることから、該細胞に対する薬物キャリアとして用いることができる。例えば、本発明の糖鎖含有アルブミンに抗酸化剤や一酸化窒素を結合させたものを肝虚血再灌流障害に対して投与すると優れた治療効果が期待できる。さらに、糖鎖が1本でも肝臓に強く認識されるため、アルブミン本来の構造や機能に影響を与えずに使用することができる。また、遺伝子組換え蛋白質であるため、血液由来製剤特有の問題である未知ウイルスの混入などの恐れがなく、人体等に安全に使用することができる。 本発明におけるアルブミンとしては、血清アルブミン、卵白アルブミンなどが挙げられるが、好ましくは血清アルブミンである。アルブミンの由来は特に限定されず、例えば、ヒトまたは他の温血動物(例:ウシ、サル、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ニワトリ、ウズラ等)由来のものが挙げられるが、医薬、あるいは医薬化合物のキャリアとしての利用を考慮すれば、好ましくは、ヒトアルブミン、より好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)である。以下、本発明をHSAを例にして詳述する場合があるが、当業者であれば、本明細書の記載および公知の他のアルブミンの配列情報に基づいて、同様に糖鎖含有アルブミンを製造し、利用することができる。 本発明の糖鎖含有アルブミンは、真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンの該部分アミノ酸配列に、選択的に糖鎖が付加されたものである。「真核細胞による糖鎖修飾を受け得る部分アミノ酸配列」(以下、「グリコシル化配列」ともいう)としては、例えば、N結合型糖鎖のコンセンサス配列であるAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされるアミノ酸を示す。Asn残基に糖鎖が付加される)(以下、包括的に「Asn-Xaa-Thr/Ser」と略記する)や、O結合型糖鎖のうちO結合型フコースのコンセンサス配列であるCys-Xaa-Xaa-Gly-Gly-Thr/Ser(Xaaは上記と同義である。Thr/Ser残基に糖鎖が付加される)、O結合型グルコースのコンセンサス配列であるCys-Xaa-Ser-Xaa-Pro-Cys(Xaaは上記と同義である。Ser残基に糖鎖が付加される)等が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、N結合型糖鎖のコンセンサス配列Asn-Xaa-Thr/Serである。グリコシル化配列は1つであっても2つ以上であってもよい。糖鎖の数が多いほど肝臓、特にクッパー細胞へのターゲティング効率が向上するが、アルブミンの本来の生理機能の保持や抗原性の問題を考慮すれば、付加される糖鎖数は少ない方が有利である。後述するように、肝臓へのターゲティング機能は単純に付加される糖鎖数に依存するのではなく、付加される位置もまた重要であることから、ターゲティング効率への寄与が大きい部位にグリコシル化配列を導入することにより、少ない糖鎖数で優れたターゲティング効率を達成することができる。 天然の(野生型)アルブミンは単純蛋白質であるので、真核細胞による糖鎖修飾を受け得る部分アミノ酸配列を有しない。従って、本発明の糖鎖含有アルブミンは、上記グリコシル化配列を含む変異型のアミノ酸配列からなる。本発明の変異型アルブミンポリペプチドは、いかなる方法によって得られるものであってもよいが、該ポリペプチド中のグリコシル化配列に選択的に糖鎖が付加されるためには、それをコードするDNAを含む真核細胞を培養することにより提供されることが好ましい。 変異型アルブミンをコードするDNAを含む真核細胞は、例えば、内在的にアルブミンを産生する細胞(例えば、肝細胞など)に自然もしくは人為的に(例えば、EMS等の変異誘発剤処理、UV処理など)変異を誘発してグリコシル化配列を含む変異型アルブミンを産生する細胞をスクリーニングすることによっても得ることができるが、より好ましくは、アルブミンをコードするDNAをクローニングし、遺伝子操作により該DNAの内部にグリコシル化配列をコードする塩基配列を導入し、得られた変異DNAを適当な宿主真核細胞で機能的なプロモータを含む発現ベクターに、該プロモーターの制御下におかれるように挿入し、得られた変異アルブミン発現ベクターで該宿主真核細胞を形質転換することにより製造することができる。 アルブミンをコードするDNAとしては、ヒトまたは他の温血動物由来のゲノムDNA、アルブミン産生細胞(例えば、肝細胞など)由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。アルブミンをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、その産生細胞もしくは組織(例えば、肝臓など)より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、アルブミンをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。 アルブミンをコードするDNAとしては、例えば、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列(野生型成熟HSA)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有するDNAなどが挙げられる。「配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列」としては、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。 本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。 より好ましくは、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質とは、前記した配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、且つ配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質を意味する。 実質的に同質の活性とは、アルブミン(特に血清アルブミン)の生理機能、例えば、血清分子のキャリアとしての機能、血漿コロイド浸透圧の維持機能などが挙げられる。「実質的に同質」とは、それらの機能が定性的に同じであることを意味する。したがって、血清分子のキャリアとしての機能などは同等であることが好ましいが、その程度や蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。 また、アルブミンをコードするDNAには、例えば、(1) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNAなども含まれる。 上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、蛋白質の活性が保持される限り特に限定されない。 より好ましくは、アルブミン(特にHSA)をコードするDNAは、配列番号3に示される塩基配列中塩基番号73〜1827で示される塩基配列を含有するDNA、または配列番号3で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記した配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性(例:血清分子のキャリア機能など)を有する蛋白質をコードするDNAなどが挙げられる。配列番号3に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号3に示される塩基配列中塩基番号73〜1827で示される塩基配列と、オーバーラップする領域において約80%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。 本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。 ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。 ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。 アルブミン(特にHSA)をコードするDNAは、アルブミンをコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、アルブミンの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることができる。 上記のようにして得られたアルブミン(特にHSA)をコードするDNAに、グリコシル化配列をコードする塩基配列を導入する方法としては、自体公知の部位特異的変異誘発法(例えば、後記実施例参照)等があげられる。グリコシル化配列コード配列はアルブミンをコードするDNAのいかなる部分に導入されてもよいが、PCR法を用いた部位特異的変異誘発による場合は、例えば、N結合型糖鎖のコンセンサス配列Asn-Xaa-Thr/Serをコードする塩基配列を導入する場合、アルブミンをコードするDNAのAsn残基をコードする部分またはThrもしくはSer残基をコードする部分に導入することが好ましい。即ち、アルブミンをコードするDNAを鋳型とし、(1)アルブミン中の任意のAsn-Xaa1-Xaa2部分をコードする塩基配列を含む領域に相補的なオリゴヌクレオチド(但し、Xaa2に対応するコドンがThrもしくはSerをコードするコドンで置換されている)、あるいは(2)アルブミン中の任意のXaa1-Xaa2-Thr/Ser部分をコードする塩基配列を含む領域に相補的なオリゴヌクレオチド(但し、Xaa1に対応するコドンがAsnをコードするコドンで置換されている)を一方のプライマーとして、PCRを実施することにより、N結合型糖鎖のコンセンサス配列をコードする塩基配列を導入することができる。グリコシル化配列は、上記のようにアミノ酸置換によるだけでなく、同様の手法を用いて、アルブミンをコードするDNAにアミノ酸(もしくはアミノ酸配列)をコードする塩基配列を挿入するか、あるいは該DNAからアミノ酸(もしくはアミノ酸配列)をコードする塩基配列を欠失させることによっても該DNA中に存在させ得る。 例えばHSAの場合、より好ましくは、N結合型糖鎖のコンセンサス配列は、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号494で示されるAsp残基をAsn残基(Asn494)に置換することによって導入される(配列番号2参照)。Asn494に糖鎖が付加された糖鎖含有HSAは、分子内の糖鎖数が1つであるにもかかわらず、従来公知の化学修飾により得られる糖鎖含有アルブミン(多数の糖鎖を有する)と同等もしくはそれ以上の効率で肝臓にターゲッティングされ得る。別の好ましい態様においては、N結合型糖鎖のコンセンサス配列は、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号63で示されるAsp残基をAsn残基(Asn63)に置換することによって、あるいはアミノ酸番号320で示されるAla残基をThrもしくはSer残基(Thr/Ser320)に置換することによって導入される(配列番号2参照)。特に好ましい態様においては、本発明の糖鎖含有HSAは、Asn494に加えてさらに1以上のグリコシル化配列、好ましくはN結合型糖鎖のコンセンサス配列Asn-Xaa-Thr/Serを含むことができる。さらなる糖鎖付加部位としては、上記のAsn63および/または上記Thr/Ser320の置換の結果生ずるAsn318が挙げられる。 上記のようにしてクローン化された、真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンをコードするDNAを、制限酵素およびDNAリガーゼを用いて、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより、該DNAを含む発現ベクターを製造することができる。 発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例:pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例:pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例:pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物(昆虫)ウイルス、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。 プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。本発明において宿主細胞として用いることができるものとしては、本発明の変異型アルブミンに含まれるグリコシル化配列に糖鎖を付加し得る糖鎖修飾機構を有するものであれば特に制限はなく、哺乳動物をはじめとする動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、真菌細胞などの各種真核細胞、あるいはトランスジェニック動植物もしくは昆虫などが挙げられる。 例えば、宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。 宿主が動物細胞である場合、サイトメガロウイルス(CMV)由来プロモーター(例:CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来プロモーター(例:HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)由来プロモーター(例:RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)由来プロモーター(例:MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)由来プロモーター(例:MMTV LTR)、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来プロモーター(例:HSVチミジンキナーゼ(TK)プロモーター)、SV40由来プロモーター(例:SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV)由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来プロモーター(例:AAV p5プロモーター)、アデノウイルス(AdV)由来プロモーター(Ad2またはAd5主要後期プロモーター)などが用いられる。 宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。 発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子[メソトレキセート(MTX)耐性]、アンピシリン耐性(Ampr)遺伝子、ネオマイシン耐性(Neor)遺伝子(G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター(CHO-dhfr-)細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によって選択することもできる。さらに、挿入されるDNAが開始コドンおよび終止コドンを含まない場合には、開始コドン(ATGまたはGTG)および終止コドン(TAG、TGA、TAA)を、それぞれプロモーター領域の下流およびターミネーター領域の上流に含むベクターが好ましく使用される。 また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、変異型アルブミンをコードするDNAの5’末端側に付加してもよい。例えば、宿主が酵母である場合、MFαシグナル配列、SUC2シグナル配列などが、宿主が動物細胞である場合、インシュリンシグナル配列、α-インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などがそれぞれ用いられる。しかしながら、HSAのネイティブなプレプロ配列(配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号−24〜−1で示されるアミノ酸配列)はたいていの異種真核細胞で分泌シグナルとして機能することが知られているので、プレプロHSAをコードするDNAをそのまま発現ベクター中に挿入することもできる。 上記のように、宿主としては、例えば、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞、動物などが用いられる。 酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22、AH22R-、NA87-11A、DKD-5D、20B-12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913、NCYC2036などが用いられる。 昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合、昆虫細胞としては、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N 細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn, J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo), 13, 213-217 (1977))などが用いられる。 昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる。 動物細胞としては、例えば、サル由来細胞(例:COS-1、COS-7、CV-1、Vero)、ハムスター由来細胞(例:BHK、CHO、CHO-K1、CHO-dhfr-)、マウス由来細胞(例:NIH3T3、L、L929、CTLL-2、AtT-20)、ラット由来細胞(例:H4IIE、PC-12、3Y1、NBT-II)、ヒト由来細胞(例:HEK293、A549、HeLa、HepG2、HL-60、Jurkat、U937)などが用いられる。 形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。 酵母は、例えば、Methods in Enzymology, 194, 182-187 (1991)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978)などに記載の方法に従って形質転換することができる。 昆虫細胞および昆虫は、例えば、Bio/Technology, 6, 47-55 (1988)などに記載の方法に従って形質転換することができる。 動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール, 263-267 (1995)(秀潤社発行)、Virology, 52, 456 (1973)に記載の方法に従って形質転換することができる。 形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。 培地としては液体培地が好ましい。また、培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが;窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質が;無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。また、培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。 宿主が酵母である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地や0.5% カザミノ酸を含有するSD培地などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。培養は、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。 宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えばGrace's Insect Mediumに非働化した10% ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6.2〜6.4である。培養は、通常約27℃で、約3〜5日間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。 宿主が動物細胞である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6〜8である。培養は、通常約30℃〜40℃で、約15〜60時間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。 以上のようにして、形質転換体の細胞内または細胞外に糖鎖含有アルブミンを生成させることができる。 本発明の糖鎖含有アルブミンは、肝臓、特にクッパー細胞に特異的に移行し得るキャリア分子として好ましく用いられ得ることから、該細胞表面の受容体と親和性の高い高マンノース型の糖鎖が付加されたものがより好ましい。ここで「高マンノース型」とは、コア糖鎖(マンノース3分子を含む)に1個以上、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、特に好ましくは5個以上のマンノース分子がさらに付加された糖鎖を意味する。かかる観点からすれば、高マンノース型に加えて複合型および混成型の異なる糖鎖修飾を行い得る動物細胞や昆虫細胞よりも、高マンノース型糖鎖のみを付加し、かつ動物細胞などよりもさらにマンノース分子を多く含むハイパーマンノース型糖鎖を付加し得る酵母細胞が宿主細胞としてより好ましい。中でも、ピキア(Pichia)属酵母は、メタノールを唯一の炭素源として増殖することが可能であり、メタノール中で生育させると、メタノールおよびその代謝中間体の処理に必要な酵素が脱抑制されて発現する。このメタノール資化経路を利用すると、異種蛋白質の分泌発現量はサッカロミセス属酵母を大きく上回ることが知られている。実際、この系を利用したHSA製造は既に実用化の段階にあり(例えば、特開平6−22784号公報参照)、1 Lの培地から10 gオーダーのHSAを製造することができる。以下に、本発明の特に好ましい実施態様の1つとして、ピキア属酵母を宿主細胞として用いた本発明の糖鎖含有アルブミンの製造方法について説明する。 用いられるベクターは、ピキア属酵母の菌体内で自律的に複製されるか酵母ゲノム内に組み込まれることにより遺伝的に安定に維持されるものであれば特に制限はない。自律複製可能なベクターとして、例えばYEpベクター、YRpベクター、YCpベクター等が挙げられる。また、酵母ゲノム内に組み込まれ得るベクターとしては、例えばYIpベクター、YRpベクターが挙げられる。 ピキア属酵母で機能し得るプロモーターとしては、酵母由来のプロモーター、例えば、S.セレビシエ由来のPHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等、P.パストリス由来のアルコールオキシダーゼ(AOX)1プロモーター、AOX2プロモーター、ジヒドロキシアセトンシンターゼプロモーター、P40プロモーター、ADHプロモーター、葉酸デヒドロゲナーゼプロモーター等が挙げられる。また、上記酵母由来プロモーターが、遺伝子発現効率がさらに向上するように修飾された変異型プロモーター、例えば、変異型AOX2(mAOX2)プロモーター[Ohi et al., Mol. Gen.Genet., 243, 489-499 (1994); 特開平4-299984号公報] 等であってもよい。好ましくは、該プロモーターは、ピキア属酵母のメタノール代謝系を利用すべく、メタノールもしくはその代謝中間体の処理に必要な酵素遺伝子のプロモーター、例えば、AOX1プロモーターおよびmAOX2プロモーター等である。 本発明の変異型アルブミンをコードするDNAを含む発現ベクターは、さらにピキア属酵母で機能し得る転写終結配列(ターミネーター)(例えば、AOX1ターミネーター等)、エンハンサー配列、酵母の選択に利用できる選択マーカー遺伝子(栄養要求性遺伝子、例えば、P.パストリスもしくはS.セレビシエ由来のHIS4、LEU2、ARG4、URA3遺伝子等、または抗生物質耐性遺伝子、例えば、シクロヘキシミド、G−418、クロラムフェニコール、ブレオマイシン、ハイグロマイシン等に対する耐性遺伝子等)などを含んでいることが好ましく、また、所望により酵母で機能し得る複製可能単位を含んでいてもよい。さらに、該ベクターの大量調製のために、大腸菌で機能し得る複製可能単位および大腸菌の選択に利用できる選択マーカー遺伝子(例えば、アンピシリンやテトラサイクリンに対する耐性遺伝子等)を含んでいることがより好ましい。 発現ベクターが酵母ゲノム内に組み込まれるタイプのベクターである場合、該ベクターは、相同組換えに必要な酵母ゲノムと相同な配列をさらに含むことが望ましい。そのような相同配列としては、上述の栄養要求性遺伝子の配列が挙げられる。したがって、好ましい一実施態様において、本発明の発現ベクターは、栄養要求性遺伝子内に上記変異型アルブミンの発現カセット(本明細書において「発現カセット」とは遺伝子発現を可能にする単位を意味し、プロモーターの制御下に蛋白質コード配列が配置されたものを最小単位とするが、好ましくはプロモーター−蛋白質コード領域−ターミネーターからなる単位である)が挿入されたものである。 上記のようにして得られた発現ベクターは、例えば、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法、ポリエチレングリコール法、リチウム法、エレクトロポーレーション法、マイクロインジェクション法、リポソーム融合法、パーティクル・ガン法等、公知の形質転換技術を用いて、標的ピキア属酵母菌体内に導入することができる。 本発明で用いられるピキア属酵母は特に限定されないが、例えば、P.パストリス、ピキア・アカシエ(Pichia acaciae)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ピキア・カプスルラータ(Pichia capsulata)、ピキア・シフェリイ(Pichia ciferrii)、ピキア・エチェルシイ(Pichia etchellsii)、ピキア・ファビアニイ(Pichia fabianii)、ピキア・ファリノーサ(Pichia farinosa)、ピキア・グイリエルモンディ(Pichia guilliermondii)、ピキア・イノシトヴォラ(Pichia inositovora)、ピキア・ジャディニイ(Pichia jadinii)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ノルヴェゲンシス(Pichia norvegensis)、ピキア・オフナエンシス(Pichia ofunaensis)、ピキア・ピヌス(Pichia pinus)等が挙げられる。好ましくは、P.パストリス、就中、栄養要求性変異P.パストリス株(例えば、P.パストリスGTS115株(HIS4- )[NNRL Y−15851]、P.パストリスGS190株(ARG4- )[NNRLY−1801]、P.パストリスPPF1(HIS4- ,URA4- )[NNRL Y−18017]など)である。 形質転換されたピキア属酵母は、当該技術分野で通常使用される方法で培養することにより、糖鎖含有アルブミンを産生することができる。用いられる培地には、宿主細胞の生育に必要な炭素源および無機または有機窒素源が少なくとも含まれる必要がある。炭素源としては、メタノール、グリセロール、グルコース、ショ糖、デキストラン、可溶性デンプン等が例示される。また、無機または有機窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、大豆粕、バレイショ抽出液等が例示される。さらに、所望により他の栄養素、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム等の無機塩、ビオチン等のビタミン類、抗生物質などを含んでいてもよい。 用いられる培地としては、例えば、通常の天然培地(例えば、YPD培地、YPM培地、YPG培地等)または合成培地が挙げられる。培地のpHおよび培養温度は、酵母の増殖およびアルブミンの産生に適したpHおよび温度が適宜採用されるが、例えば、pH約5〜約8、培養温度約20〜約30℃が好ましく例示される。また、必要に応じて通気や攪拌を行うこともできる。培養は、通常約48〜約120時間行われる。 例えば、ピキア属酵母菌体内で機能し得るプロモーターとしてAOX1プロモーター、mAOX2プロモーターなどのメタノールにより発現誘導されるプロモーターを使用する場合、菌体の増殖のための炭素源としてグリセロールを含み、アルブミンの発現誘導因子としてメタノールを含む、pH約6.0に制御された天然培地を用いて液体通気攪拌培養を行う方法が最も好ましく例示される。アルブミンの発現が菌体の生育にとって好ましくない場合には、まずメタノール以外の炭素源で菌体量を増加させた後でメタノールを添加してアルブミンの発現を誘導する培養方法がより好ましい。また、ジャーファーメンターでの培養においては、高密度培養法がアルブミンの産生に好適な方法として例示される。培養は、回分培養、流加培養、連続培養のいずれの方式により行ってもよいが、好ましくは流加培養法が挙げられる。すなわち、一定期間、宿主菌体をその増殖に適した炭素エネルギー源(例えば、グルコース等)および/または栄養源を含有する培地(初期培地)中で培養し、状況に応じてある時点から、宿主菌体の増殖を支配する基質(即ち、メタノール)を該培地に追加供給しながら、アルブミンを培養終了時まで系外に抜き出さない方法が用いられる(例えば、特開平3−83595号公報を参照)。 培養物中に産生されたアルブミンは、培養終了後の培養物を遠心分離および/または濾過して培養上清(分泌発現させた場合)もしくは酵母菌体(菌体内発現させた場合)を回収し、次いで、該上清もしくは菌体から自体公知の方法に従って単離・精製することができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。 単離・精製された糖鎖含有アルブミンの確認方法としては、公知のウエスタンブロッティング法等が挙げられる。また、精製された糖鎖含有アルブミンは、アミノ酸分析、N末端アミノ酸シーケンス、一次構造解析、糖鎖解析などによりその構造を明らかにすることができる。 このようにして取得された糖鎖含有アルブミンは、変異型アルブミンのグリコシル化配列に選択的に糖鎖、好ましくは高マンノース型糖鎖が付加された、均一な糖蛋白質であるので、肝臓の非実質細胞、特にクッパー細胞への移行性が高い。従って、本発明はまた、上記した本発明の糖鎖含有アルブミンを含有してなる肝臓への薬物キャリアを提供する。 本発明の糖鎖含有アルブミン(特にHSA)を主成分とする本発明の薬物キャリアは、肝臓、好ましくは肝臓の非実質細胞、特にクッパー細胞に送達されることが予防および/または治療上有効な任意の医薬化合物を、該臓器もしくは細胞にターゲティングするのに用いることができる。そのような医薬化合物としては、例えば、抗酸化物質(例:N−アセチルシステインやアスコルビン酸等)や一酸化窒素などが挙げられる。本発明の糖鎖含有アルブミンに該医薬化合物を結合させた製剤は、肝虚血再灌流障害の治療に用いることができる。また、他の医薬化合物としては、肝線維症治療薬OK432等の肝臓薬等が挙げられる。また、アルブミンそのものも抗酸化作用を有することから、そのまま抗酸化作用医薬品として用いることができる。 糖鎖含有アルブミンと医薬化合物との結合様式は特に限定されず、例えば共有結合や水素結合、疎水結合などが挙げられるが、好ましくは共有結合である。アルブミンと医薬化合物とを結合させる方法は周知であり、例えば、「ドラッグデリバリーシステム」(1986年、CMC発行)を参照することができる。 医薬化合物−糖鎖含有アルブミン結合体は、公知の手法(限外濾過、除菌濾過、分注、凍結乾燥等)により製剤化することができる。具体的には、該結合体を5〜25%含有し、pHは6.4〜7.4程度、浸透圧比は1程度の液状製剤が例示される。該製剤には、必要に応じて、安定化剤としてアセチルトリプトファンまたはその塩(例えば、ナトリウム塩)およびカプリル酸ナトリウムが配合され得る。安定化剤の添加量としては、0.01〜0.2M、好ましくは0.02〜0.05M程度が例示される。またナトリウム含量は3.7mg/ml以下が例示される。当該安定化剤の添加時期は、限外濾過、除菌濾過、分注、凍結乾燥等の処理前である。 上記工程を経て得られた本発明の医療用製剤は、各種微生物に汚染されている可能性はきわめて低いと考えられるが、製剤の無菌性をより積極的に確保するための手段として、無菌充填後に加熱処理(パストリゼーション)による夾雑微生物の不活化を行ってもよい。 加熱処理は、投与単位当たりに容器に充填された製剤が、いずれの容器に充填されたものであっても、例えば、約50〜約70℃(好ましくは約60℃)の湯浴中に約30分間以上保持することにより十分に夾雑微生物が不活化される。加熱時間は、好ましくは約30分間〜約2時間である。 該医薬製剤は、例えば、注射剤としてヒトまたはその他の哺乳動物などに投与することができる。該製剤の投与量は、医薬化合物の種類、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、例えば、有効成分として一酸化窒素を含有する肝虚血再灌流障害治療剤の場合、通常、成人1日あたり、一酸化窒素量として0.1〜30μg/kg、好ましくは0.5〜3μg/kg、糖鎖含有アルブミン量として約0.1〜30mg/kg、好ましくは0.5〜3mg/kgの範囲であり、この量を約5〜約10mlの溶液中に含有させ、緩徐に静脈内注射または点滴静脈内投与する。 アルブミン(特にHSA)は、それ自体医薬として、例えば、主としてショック時の急速な血漿の増量、循環血液量の補充、低蛋白血症の改善、膠質浸透圧の維持等の目的に使用される。具体的な効能・効果としてはアルブミンの損失(熱傷、ネフローゼ症候群等)およびアルブミン合成低下(肝硬変等)による低アルブミン血症、出血性ショック等に有効である。従って、本発明の糖鎖含有アルブミンはまた、そのような疾患・状態の改善のための医薬としても使用することができる。この場合も上記と同様に注射剤として製剤化することができる。 アルブミン製剤の投与量は、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常成人1回、HSA25%溶液で20〜25ml(HSAとして5〜12.5g)を緩徐に静脈内注射または点滴静脈内投与する。 以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例 糖鎖含有アルブミンの製造(1)アルブミン遺伝子の変異 プラスミドpPIC9にヒト血清アルブミンの遺伝子が導入されたプラスミド(以下、pPIC9-HSA)を鋳型とし、Asn63結合型糖鎖含有アルブミン作製には配列番号5(5'-GAGTCAGCTGAAAATTGTAACAAATCACTTCATACCC-3')のD63Nセンスプライマーと配列番号6(5'-GGGTATGAAGTGATTTGTTACAATTTTCAGCTGACTC-3')のD63Nアンチセンスプライマー、Asn318結合型糖鎖含有アルブミン作製には配列番号7(5'-GGATGTTTGCAAAAACTATACTGAGGCAAAGG-3')のA320Tセンスプライマーと配列番号8(5'-CCTTTGCCTCAGTATAGTTTTTGCAAACATCC-3')のA320Tアンチセンスプライマー、Asn494結合型糖鎖含有アルブミン作製には配列番号9(5'-GCTCTGGAAGTCAATGAAACATACGTTCCC-3')のD494Nセンスプライマーと配列番号10(5'-GGGAACGTATGTTTCATTGACTTCCAGAGC-3')のD494Nアンチセンスプライマーを合成プライマーとして、N結合型糖鎖のコンセンサス配列への変異(QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit、Stratagene)を行った。変異の反応条件としては、DNAを95℃で30秒間処理した後、変性(95℃、30秒)、アニーリング(55℃、1分)及びエクステンション(68℃、10分)の反応を12サイクル行った。反応後、Dpn Iにより鋳型のプラスミドを消化し、得られたpPIC9-HSA(D63N)、pPIC9-HSA(A320T)及びpPIC9-HSA(D494N)をそれぞれXL-10-Gold ultracompetent cellに導入して形質転換を行った。目的とするプラスミドpPIC9-HSA(D63N)、pPIC9-HSA(A320T)及びpPIC9-HSA(D494N)が導入された形質転換体は、アンピシリン添加培地中でスクリーニングし、得られた形質転換体より、プラスミドを精製した(QIAprep Spin Miniprep Kit、QIAGEN製)。変異の確認は、pPIC9-HSA(D63N)については配列番号11(5'-GAAAATTTCGACGCCTTGGTGTTGATTGCC-3')のD63Nシーケンスプライマー、pPIC9-HSA(A320T)については配列番号12(5'-GGCGGACCTTGCCGACTATATCTGTGA-3')のA320Tシーケンスプライマー、pPIC9-HSA(D494N)については配列番号13(5'-GGTCTCAAGAAACCTAGGAAAAGTGGG-3')のD494Nシーケンスプライマーを用いて、ABI Prism 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)で行った。またAsn63、Asn318、Asn494の三箇所全てに糖鎖を結合させたヒト血清アルブミンの作製は、上で作製したpPIC9-HSA(D63N)を鋳型にして、配列番号7のA320Tセンスプライマーと配列番号8のA320Tアンチセンスプライマーを合成プライマーとして、同様にN結合型糖鎖のコンセンサス配列への変異(QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit、Stratagene)を行った。これで作製したpPIC9-HSA(D63N/A320T)を鋳型にして、配列番号9のD494Nセンスプライマーと配列番号10のD494Nアンチセンスプライマーを合成プライマーとして、同じように変異(QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit、Stratagene)を行い、pPIC9-HSA(D63N/A320T/D494N)を作製した。(2)糖鎖含有ヒト血清アルブミンの発現 pPIC9-HSA(D63N)、pPIC9-HSA(A320T)、pPIC9-HSA(D494N)及びpPIC9-HSA(D63N/A320T/D494N)は、それぞれ制限酵素Sal Iで消化し、フェノール抽出、エタノール沈殿による精製の後、エレクトロポレーション装置(Gene Pulser II Electroporation System、BIO-RAD製)を用いて、ピキア酵母(GS115株)のHIS4遺伝子座へ相同組換えにより形質転換を行った。得られた形質転換体をBMMY液体培地中で培養し、アルブミンの発現を確認した後、グリセロールストックした。(3)糖鎖含有アルブミンの精製 形質転換したピキア酵母は、BMGY液体培地中で48時間培養し、その後、BMMY培地中で12時間毎に1%メタノールを添加しながら96時間培養した。遠心分離(6,000g x 10分間)により酵母を分離した後、培養上清を200 mM酢酸緩衝液で透析した。その後、アルブミンをBlue Sepharose CL-6Bカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)に結合させ、0→3 M NaClの濃度勾配によりアルブミンを溶出させた。その後、この溶出液を0.65 M硫酸アンモニウム/100 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)で透析した後、HiTrap Phenyl HPカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)に通し、その非吸着画分を回収した。その後、活性炭による脱脂を行った。比較例1 糖鎖不含有(野生型)ヒト血清アルブミンの製造 N結合型糖鎖のコンセンサス配列への変異を行わない以外は実施例と同様に行い、糖鎖不含有のヒト血清アルブミンをピキア酵母で発現させ、ヒト血清アルブミン(HSA)を得た。(4)試験例1 実施例と同様にして作製した糖鎖含有アルブミンを、放射性インジウム同位体(111In)で標識し、111In糖鎖含有アルブミン(D63N、A320T、D494N及びD63N/A320T/D494N)を作製した。111In糖鎖含有アルブミンをマウスに経尾静脈投与し(投与量;1 mg/kg)、投与後一定時間経過ごとに血液及び肝臓を採取し、アルブミン濃度及び肝臓移行性を放射線量測定器により測定した。対照として比較例1で得られたヒト血清アルブミンを111Inで標識した111Inヒト血清アルブミンをマウスに投与し、同様に測定した。投与後の経過時間と投与量に対する血漿および肝臓中の糖鎖含有アルブミン濃度の割合、即ち肝臓への移行性(Hepatic accumulation (% of dose))を図1に示す。 図1の結果から、糖鎖含有アルブミン、特にD494N及びD63N/A320T/D494Nは血中から速やかに消失し、肝臓へ活発に取り込まれることが明らかとなった。またD63N、A320T及びD494Nの間で体内動態が顕著に異なることから、糖鎖含有アルブミンの肝臓への移行性は、これまで提唱されてきた分子表面の糖密度に加え、糖鎖の結合部位にも大きく依存することが示唆された。(5)試験例2 実施例の111In糖鎖含有アルブミン(D63N、A320T、D494N及びD63N/A320T/D494N)及び比較例1のヒト血清アルブミンの電荷状態を、laser electrophoresis-zeta potential analyzer(LEZA-500T)を用いて評価した。表1に示すごとく、糖鎖不含有アルブミン(HSA)と比較し、今回作製したすべての変異体において電荷の有意な差は認められなかった。このことから、真核細胞による糖鎖修飾を受けたアルブミンは、糖鎖修飾を受けていないものと比べ、蛋白質の電荷上の違いが少なく、本来の蛋白質としての性質を十分に保持しているといえる。 一方、図1より60分における肝臓への移行性(Hepatic accumulation (% of dose))を読み取った場合(表1)、糖鎖不含有アルブミン(HSA)に比べ、糖鎖含有アルブミンは6〜65倍となった。このことより、アルブミン蛋白質の性質を保ちながら肝臓への移行性が高められたことがわかる。比較例2 化学修飾アルブミンについて、非特許文献3に提示された図を参照して比較した(図2、表1)。表1は図2より読み取った値を提示したものである。化学修飾はコハク酸(Suc)修飾(ウシ血清アルブミン(BSA)のLys残基のε-アミノ基とのイミド結合)によるもので、「Sucn−BSA」はn個のコハク酸が結合したBSAであることを表している。 これまで化学修飾によるアルブミン(BSA)を用いた実験から、肝臓への移行性には修飾体分子表面の負電荷密度が重要であることが示されており、負電荷が大きいほど(修飾率が高いほど)肝臓による認識の程度は大きいとされてきた(非特許文献3参照)。しかしながら、20ものコハク酸分子で修飾したアルブミンに漸く肝臓移行性が付与できるというものであった。 一方、非修飾のBSAの電荷が−0.35程度であるのに対し、コハク酸修飾されたBSAは−0.5以上となることから、化学修飾によるアルブミンでは分子表面の電荷の変化により蛋白質の構造や機能に大きく影響を及ぼしていると考えられる。 本発明の糖鎖含有アルブミンは、肝臓の非実質細胞、特にクッパー細胞を標的としたDDSのための薬物キャリアとして使用することができる。また、遺伝子組換え蛋白質と宿主の糖鎖修飾機構とを利用するので、化学修飾法に比べて均一な蛋白質として製造でき、修飾操作を省略することができる。さらに、ウイルス等の汚染の危険性がないため、医療用として生体に安全に投与することができる。試験例1における本発明の糖鎖含有ヒト血清アルブミンの、血漿(上)及び肝臓(下)への移行性の経時変化を示すグラフである。縦軸は投与量に対する割合(%)、横軸は投与後の時間(分)を示す。コハク酸修飾(Suc−)ウシ血清アルブミン(BSA)の111In標識体をマウスに静脈内投与した際の、血漿(上)、肝臓(中)及び腎臓(下)への移行性を示すグラフである(非特許文献3参照)。Sucn-BSAのnはBSAに結合したコハク酸の数を表し、●は0.1mg/kg、○は1mg/kg、▼は10mg/kg、▽は20mg/kgのBSA投与量を表す。提示したデータは非特許文献3より必要部分を抜き出し、縦軸を追加したものである。 真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンの該部分アミノ酸配列に、選択的に糖鎖が付加されてなる糖鎖含有アルブミン蛋白質。 糖鎖が高マンノース型糖鎖である、請求項1記載の蛋白質。 該部分アミノ酸配列の少なくとも1つがAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされる任意のアミノ酸を示す)である、請求項1または2記載の蛋白質。 該部分アミノ酸配列のすべてがAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされる任意のアミノ酸を示す)である、請求項3記載の蛋白質。 アルブミンがヒト血清アルブミンである、請求項1〜4のいずれかに記載の蛋白質。 配列番号2に示されるアミノ酸配列中配列番号1〜585で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列であって、アミノ酸番号63で示されるアミノ酸がAsnおよび/またはアミノ酸番号320で示されるアミノ酸がThrもしくはSerおよび/またはアミノ酸番号494で示されるアミノ酸がAsnである、請求項5記載の蛋白質。 少なくともアミノ酸番号494で示されるアミノ酸がAsnである、請求項6記載の蛋白質。 真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンをコードするDNA。 宿主真核細胞において機能的なプロモーターの制御下にある請求項8記載のDNAを含む発現ベクター。 宿主真核細胞に請求項9記載の発現ベクターを導入することにより得られる形質転換体。 宿主真核細胞が酵母である、請求項10記載の形質転換体。 酵母がピキア属酵母である、請求項11記載の形質転換体。 請求項10〜12のいずれかに記載の形質転換体を培地中で培養し、得られる培養物から糖鎖含有アルブミンを回収することを含む、請求項1記載の蛋白質の製造方法。 請求項1〜7のいずれかに記載の蛋白質を含有してなる医薬。 請求項1〜7のいずれかに記載の蛋白質を含有してなる肝臓への薬物キャリア。 標的細胞がクッパー細胞である、請求項15記載のキャリア。 肝臓に送達されるべき医薬化合物および請求項15または16記載のキャリアを含有してなる医薬組成物。 【課題】肝臓(特にクッパー細胞)を標的としたDDSのための薬物キャリアとして機能し、かつ本来の構造及び機能を保持した均一な糖鎖含有アルブミンの提供。【解決手段】アルブミンをコードするDNAを、真核細胞による糖鎖修飾を受け得る部分アミノ酸配列、好ましくはN結合型糖鎖のコンセンサス配列を含む変異型アルブミンをコードするように変異させ、該変異DNAを含む発現ベクターを宿主真核細胞、好ましくは高マンノース型糖鎖を付加し得る宿主細胞に導入し、得られる形質転換体を培養して得られる培養物から糖鎖含有アルブミン蛋白質を回収することにより、肝臓(特にクッパー細胞)を標的としたDDSのための薬物キャリアとしての糖鎖含有アルブミンが提供される。【選択図】なし配列表


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特許公報(B2)_糖鎖含有アルブミン、その製造方法およびその用途

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_糖鎖含有アルブミン、その製造方法およびその用途
出願番号:2006223595
年次:2012
IPC分類:C12N 15/09,C07K 14/765,A61K 38/00,A61P 1/16,A61K 47/42,A61K 47/48,C12N 1/19,C12P 21/02


特許情報キャッシュ

中城 圭介 片山 直久 甲斐 俊哉 小田切 優樹 JP 4983148 特許公報(B2) 20120511 2006223595 20060818 糖鎖含有アルブミン、その製造方法およびその用途 ニプロ株式会社 000135036 高島 一 100080791 中城 圭介 片山 直久 甲斐 俊哉 小田切 優樹 20120725 C12N 15/09 20060101AFI20120705BHJP C07K 14/765 20060101ALI20120705BHJP A61K 38/00 20060101ALI20120705BHJP A61P 1/16 20060101ALI20120705BHJP A61K 47/42 20060101ALI20120705BHJP A61K 47/48 20060101ALI20120705BHJP C12N 1/19 20060101ALN20120705BHJP C12P 21/02 20060101ALN20120705BHJP JPC12N15/00 AC07K14/765A61K37/02A61P1/16A61K47/42A61K47/48C12N1/19C12P21/02 C C12N 15/00−15/90 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) PubMed Eur. J. Biochem., (2001), 268, [2], p.344-352 人工血液, (2001), 9, [4], p.88-94 10 2008043285 20080228 19 20090327 柴原 直司 本発明は、特定のアミノ酸残基に選択的に糖鎖が付加された新規糖鎖含有アルブミン蛋白質、その製造方法およびその用途に関する。より詳細には、本発明は、宿主細胞による糖鎖修飾を受け得る部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンの該部分アミノ酸配列に、選択的に糖鎖が付加されてなる糖鎖含有アルブミン蛋白質、該変異型アルブミンをコードするDNA、該DNAを含む真核細胞を培養することによる該糖鎖含有アルブミン蛋白質の製造方法、並びに該蛋白質の薬物キャリアとしての用途に関する。 ヒト血清アルブミン(以下「HSA」と称することがある)は、体内において血液及び細胞間液をはじめ幅広く分布している。その一次構造は585のアミノ酸からなり、糖鎖構造を有していない分子量約66.5kDaの単純蛋白質である。この蛋白質は肝臓中で作られ、主に血流中で正常な浸透圧を維持し、血中の液体含量を維持する責を負う。そのため、HSAは種々の臨床上の状況において、例えば、外科手術、ショック、火傷、浮腫を起こす低蛋白血症など、血管からの液体の損失があるような状態の治療において用いられている。 また、HSAは種々の血清分子のキャリアーとしての機能を果たしており、安全性、生体適合性、生体分解性、血中滞留性等に富んでいるため、動態特性に問題がある薬物のドラッグデリバリーシステム(DDS)において好ましい担体として位置付けられている。 HSAと薬物の不可逆的結合によるDDSには、HSAの長い半減期を利用し結合させた薬物の血中滞留性を向上させる方法や、HSAの修飾体を能動的輸送システムの担体として用いる方法がある。前者では、半減期の短い蛋白質や生理活性ペプチドを遺伝子融合技術によりハイブリッド体として発現させる試みがなされている。一方、後者では、アニオン化やカチオン化のようにHSAの物理化学的性質を調節する方法や、糖構造やペプチドのように、細胞表面に存在する受容体の認識素子(装置)を導入することにより、精密な動態制御や細胞特異的ターゲティングの実現を図る試みが精力的に検討されている(非特許文献1乃至6)。 肝臓には糖残基や負電荷を認識する受容体が存在することが知られている。この性質を利用して、コハク酸やガラクトース、マンノース等を結合させたアルブミンが肝臓へのターゲティングに用いられている。 しかしながら、HSAを化学的に修飾する場合、(1)非常に多くの糖残基を結合させなければ肝臓へ認識されない; ガラクトース修飾アルブミンは、アルブミン1分子あたり10個以上のガラクトースが結合していなければ肝臓へ認識されない(非特許文献5参照)。(2)肝臓非実質細胞群に対する細胞特異性が低い; マンノースやフコース修飾アルブミンは肝内皮細胞及びクッパー細胞の両細胞へ取り込まれることが知られている(非特許文献6参照)。(3)均一な結合体の調製が難しく、適切な結合条件を見出す必要がある;などの問題点が指摘されている。そこで、非化学的手法を用いてHSAを修飾する方法の開発が強く望まれていた。Lee YC et al., Biochemisty, 15: 3956-3963, 1976Opanasopit P et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 280: 879-889, 2001Takakura Y et al., Int. J. Pharm. 105: 19-29, 1994Yamasaki Y et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 301: 467-477, 2002Nishikawa M et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 268:G849-G856, 1995Higuchi Y et al., Int. J. Pharm. 287: 147-154, 2004 本発明の目的は、肝臓、特にクッパー細胞に特異的に移行する、均一な糖鎖含有アルブミン、特に血清アルブミンを提供し、以って肝臓へのDDSに適した薬物キャリアを提供することである。 本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、N結合型糖鎖のコンセンサス配列(Asn-X-Thr/Ser)を部位特異的変異法によりHSAをコードするDNAに導入し、得られた変異型HSAをコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換したピキア・パストリス(Pichia pastoris)を培養することにより、肝臓移行性の高い高マンノース型の糖鎖が該コンセンサス配列のAsn残基に付加された糖鎖含有HSAを作製することに成功し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、[1]真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンの該部分アミノ酸配列に、選択的に糖鎖が付加されてなる糖鎖含有アルブミン蛋白質;[2]糖鎖が高マンノース型糖鎖である、上記[1]記載の蛋白質;[3]該部分アミノ酸配列の少なくとも1つがAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされる任意のアミノ酸を示す)である、上記[1]または[2]記載の蛋白質;[4]該部分アミノ酸配列のすべてがAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされる任意のアミノ酸を示す)である、上記[3]記載の蛋白質;[5]アルブミンがヒト血清アルブミンである、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の蛋白質;[6]配列番号2に示されるアミノ酸配列中配列番号1〜585で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列であって、アミノ酸番号63で示されるアミノ酸がAsnおよび/またはアミノ酸番号320で示されるアミノ酸がThrもしくはSerおよび/またはアミノ酸番号494で示されるアミノ酸がAsnである、上記[5]記載の蛋白質;[7]少なくともアミノ酸番号494で示されるアミノ酸がAsnである、上記[6]記載の蛋白質;[8]真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンをコードするDNA;[9]宿主真核細胞において機能的なプロモーターの制御下にある上記[8]記載のDNAを含む発現ベクター;[10]宿主真核細胞に上記[9]記載の発現ベクターを導入することにより得られる形質転換体;[11]宿主真核細胞が酵母である、上記[10]記載の形質転換体;[12]酵母がピキア属酵母である、上記[11]記載の形質転換体;[13]上記[10]〜[12]のいずれかに記載の形質転換体を培地中で培養し、得られる培養物から糖鎖含有アルブミンを回収することを含む、上記[1]記載の蛋白質の製造方法;[14]上記[1]〜[7]のいずれかに記載の蛋白質を含有してなる医薬;[15]上記[1]〜[7]のいずれかに記載の蛋白質を含有してなる肝臓への薬物キャリア;[16]標的細胞がクッパー細胞である、上記[15]記載のキャリア;および[17]肝臓に送達されるべき医薬化合物および上記[15]または[16]記載のキャリアを含有してなる医薬組成物;を提供する。 本発明の糖鎖含有アルブミンは、肝臓、特に肝臓の非実質細胞、さらに詳細にはクッパー細胞に特異的に取り込まれることから、該細胞に対する薬物キャリアとして用いることができる。例えば、本発明の糖鎖含有アルブミンに抗酸化剤や一酸化窒素を結合させたものを肝虚血再灌流障害に対して投与すると優れた治療効果が期待できる。さらに、糖鎖が1本でも肝臓に強く認識されるため、アルブミン本来の構造や機能に影響を与えずに使用することができる。また、遺伝子組換え蛋白質であるため、血液由来製剤特有の問題である未知ウイルスの混入などの恐れがなく、人体等に安全に使用することができる。 本発明におけるアルブミンとしては、血清アルブミン、卵白アルブミンなどが挙げられるが、好ましくは血清アルブミンである。アルブミンの由来は特に限定されず、例えば、ヒトまたは他の温血動物(例:ウシ、サル、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ニワトリ、ウズラ等)由来のものが挙げられるが、医薬、あるいは医薬化合物のキャリアとしての利用を考慮すれば、好ましくは、ヒトアルブミン、より好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)である。以下、本発明をHSAを例にして詳述する場合があるが、当業者であれば、本明細書の記載および公知の他のアルブミンの配列情報に基づいて、同様に糖鎖含有アルブミンを製造し、利用することができる。 本発明の糖鎖含有アルブミンは、真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンの該部分アミノ酸配列に、選択的に糖鎖が付加されたものである。「真核細胞による糖鎖修飾を受け得る部分アミノ酸配列」(以下、「グリコシル化配列」ともいう)としては、例えば、N結合型糖鎖のコンセンサス配列であるAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされるアミノ酸を示す。Asn残基に糖鎖が付加される)(以下、包括的に「Asn-Xaa-Thr/Ser」と略記する)や、O結合型糖鎖のうちO結合型フコースのコンセンサス配列であるCys-Xaa-Xaa-Gly-Gly-Thr/Ser(Xaaは上記と同義である。Thr/Ser残基に糖鎖が付加される)、O結合型グルコースのコンセンサス配列であるCys-Xaa-Ser-Xaa-Pro-Cys(Xaaは上記と同義である。Ser残基に糖鎖が付加される)等が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、N結合型糖鎖のコンセンサス配列Asn-Xaa-Thr/Serである。グリコシル化配列は1つであっても2つ以上であってもよい。糖鎖の数が多いほど肝臓、特にクッパー細胞へのターゲティング効率が向上するが、アルブミンの本来の生理機能の保持や抗原性の問題を考慮すれば、付加される糖鎖数は少ない方が有利である。後述するように、肝臓へのターゲティング機能は単純に付加される糖鎖数に依存するのではなく、付加される位置もまた重要であることから、ターゲティング効率への寄与が大きい部位にグリコシル化配列を導入することにより、少ない糖鎖数で優れたターゲティング効率を達成することができる。 天然の(野生型)アルブミンは単純蛋白質であるので、真核細胞による糖鎖修飾を受け得る部分アミノ酸配列を有しない。従って、本発明の糖鎖含有アルブミンは、上記グリコシル化配列を含む変異型のアミノ酸配列からなる。本発明の変異型アルブミンポリペプチドは、いかなる方法によって得られるものであってもよいが、該ポリペプチド中のグリコシル化配列に選択的に糖鎖が付加されるためには、それをコードするDNAを含む真核細胞を培養することにより提供されることが好ましい。 変異型アルブミンをコードするDNAを含む真核細胞は、例えば、内在的にアルブミンを産生する細胞(例えば、肝細胞など)に自然もしくは人為的に(例えば、EMS等の変異誘発剤処理、UV処理など)変異を誘発してグリコシル化配列を含む変異型アルブミンを産生する細胞をスクリーニングすることによっても得ることができるが、より好ましくは、アルブミンをコードするDNAをクローニングし、遺伝子操作により該DNAの内部にグリコシル化配列をコードする塩基配列を導入し、得られた変異DNAを適当な宿主真核細胞で機能的なプロモータを含む発現ベクターに、該プロモーターの制御下におかれるように挿入し、得られた変異アルブミン発現ベクターで該宿主真核細胞を形質転換することにより製造することができる。 アルブミンをコードするDNAとしては、ヒトまたは他の温血動物由来のゲノムDNA、アルブミン産生細胞(例えば、肝細胞など)由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。アルブミンをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、その産生細胞もしくは組織(例えば、肝臓など)より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、アルブミンをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。 アルブミンをコードするDNAとしては、例えば、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列(野生型成熟HSA)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有するDNAなどが挙げられる。「配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列」としては、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。 本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。 より好ましくは、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質とは、前記した配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、且つ配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質を意味する。 実質的に同質の活性とは、アルブミン(特に血清アルブミン)の生理機能、例えば、血清分子のキャリアとしての機能、血漿コロイド浸透圧の維持機能などが挙げられる。「実質的に同質」とは、それらの機能が定性的に同じであることを意味する。したがって、血清分子のキャリアとしての機能などは同等であることが好ましいが、その程度や蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。 また、アルブミンをコードするDNAには、例えば、(1) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNAなども含まれる。 上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、蛋白質の活性が保持される限り特に限定されない。 より好ましくは、アルブミン(特にHSA)をコードするDNAは、配列番号3に示される塩基配列中塩基番号73〜1827で示される塩基配列を含有するDNA、または配列番号3で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記した配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜585で示されるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性(例:血清分子のキャリア機能など)を有する蛋白質をコードするDNAなどが挙げられる。配列番号3に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号3に示される塩基配列中塩基番号73〜1827で示される塩基配列と、オーバーラップする領域において約80%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。 本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。 ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。 ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。 アルブミン(特にHSA)をコードするDNAは、アルブミンをコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、アルブミンの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることができる。 上記のようにして得られたアルブミン(特にHSA)をコードするDNAに、グリコシル化配列をコードする塩基配列を導入する方法としては、自体公知の部位特異的変異誘発法(例えば、後記実施例参照)等があげられる。グリコシル化配列コード配列はアルブミンをコードするDNAのいかなる部分に導入されてもよいが、PCR法を用いた部位特異的変異誘発による場合は、例えば、N結合型糖鎖のコンセンサス配列Asn-Xaa-Thr/Serをコードする塩基配列を導入する場合、アルブミンをコードするDNAのAsn残基をコードする部分またはThrもしくはSer残基をコードする部分に導入することが好ましい。即ち、アルブミンをコードするDNAを鋳型とし、(1)アルブミン中の任意のAsn-Xaa1-Xaa2部分をコードする塩基配列を含む領域に相補的なオリゴヌクレオチド(但し、Xaa2に対応するコドンがThrもしくはSerをコードするコドンで置換されている)、あるいは(2)アルブミン中の任意のXaa1-Xaa2-Thr/Ser部分をコードする塩基配列を含む領域に相補的なオリゴヌクレオチド(但し、Xaa1に対応するコドンがAsnをコードするコドンで置換されている)を一方のプライマーとして、PCRを実施することにより、N結合型糖鎖のコンセンサス配列をコードする塩基配列を導入することができる。グリコシル化配列は、上記のようにアミノ酸置換によるだけでなく、同様の手法を用いて、アルブミンをコードするDNAにアミノ酸(もしくはアミノ酸配列)をコードする塩基配列を挿入するか、あるいは該DNAからアミノ酸(もしくはアミノ酸配列)をコードする塩基配列を欠失させることによっても該DNA中に存在させ得る。 例えばHSAの場合、より好ましくは、N結合型糖鎖のコンセンサス配列は、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号494で示されるAsp残基をAsn残基(Asn494)に置換することによって導入される(配列番号2参照)。Asn494に糖鎖が付加された糖鎖含有HSAは、分子内の糖鎖数が1つであるにもかかわらず、従来公知の化学修飾により得られる糖鎖含有アルブミン(多数の糖鎖を有する)と同等もしくはそれ以上の効率で肝臓にターゲッティングされ得る。別の好ましい態様においては、N結合型糖鎖のコンセンサス配列は、配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号63で示されるAsp残基をAsn残基(Asn63)に置換することによって、あるいはアミノ酸番号320で示されるAla残基をThrもしくはSer残基(Thr/Ser320)に置換することによって導入される(配列番号2参照)。特に好ましい態様においては、本発明の糖鎖含有HSAは、Asn494に加えてさらに1以上のグリコシル化配列、好ましくはN結合型糖鎖のコンセンサス配列Asn-Xaa-Thr/Serを含むことができる。さらなる糖鎖付加部位としては、上記のAsn63および/または上記Thr/Ser320の置換の結果生ずるAsn318が挙げられる。 上記のようにしてクローン化された、真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型アルブミンをコードするDNAを、制限酵素およびDNAリガーゼを用いて、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより、該DNAを含む発現ベクターを製造することができる。 発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例:pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例:pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例:pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物(昆虫)ウイルス、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。 プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。本発明において宿主細胞として用いることができるものとしては、本発明の変異型アルブミンに含まれるグリコシル化配列に糖鎖を付加し得る糖鎖修飾機構を有するものであれば特に制限はなく、哺乳動物をはじめとする動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、真菌細胞などの各種真核細胞、あるいはトランスジェニック動植物もしくは昆虫などが挙げられる。 例えば、宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。 宿主が動物細胞である場合、サイトメガロウイルス(CMV)由来プロモーター(例:CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来プロモーター(例:HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)由来プロモーター(例:RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)由来プロモーター(例:MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)由来プロモーター(例:MMTV LTR)、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来プロモーター(例:HSVチミジンキナーゼ(TK)プロモーター)、SV40由来プロモーター(例:SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV)由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来プロモーター(例:AAV p5プロモーター)、アデノウイルス(AdV)由来プロモーター(Ad2またはAd5主要後期プロモーター)などが用いられる。 宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。 発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子[メソトレキセート(MTX)耐性]、アンピシリン耐性(Ampr)遺伝子、ネオマイシン耐性(Neor)遺伝子(G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター(CHO-dhfr-)細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によって選択することもできる。さらに、挿入されるDNAが開始コドンおよび終止コドンを含まない場合には、開始コドン(ATGまたはGTG)および終止コドン(TAG、TGA、TAA)を、それぞれプロモーター領域の下流およびターミネーター領域の上流に含むベクターが好ましく使用される。 また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、変異型アルブミンをコードするDNAの5’末端側に付加してもよい。例えば、宿主が酵母である場合、MFαシグナル配列、SUC2シグナル配列などが、宿主が動物細胞である場合、インシュリンシグナル配列、α-インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などがそれぞれ用いられる。しかしながら、HSAのネイティブなプレプロ配列(配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号−24〜−1で示されるアミノ酸配列)はたいていの異種真核細胞で分泌シグナルとして機能することが知られているので、プレプロHSAをコードするDNAをそのまま発現ベクター中に挿入することもできる。 上記のように、宿主としては、例えば、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞、動物などが用いられる。 酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22、AH22R-、NA87-11A、DKD-5D、20B-12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913、NCYC2036などが用いられる。 昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合、昆虫細胞としては、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N 細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn, J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo), 13, 213-217 (1977))などが用いられる。 昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる。 動物細胞としては、例えば、サル由来細胞(例:COS-1、COS-7、CV-1、Vero)、ハムスター由来細胞(例:BHK、CHO、CHO-K1、CHO-dhfr-)、マウス由来細胞(例:NIH3T3、L、L929、CTLL-2、AtT-20)、ラット由来細胞(例:H4IIE、PC-12、3Y1、NBT-II)、ヒト由来細胞(例:HEK293、A549、HeLa、HepG2、HL-60、Jurkat、U937)などが用いられる。 形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。 酵母は、例えば、Methods in Enzymology, 194, 182-187 (1991)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978)などに記載の方法に従って形質転換することができる。 昆虫細胞および昆虫は、例えば、Bio/Technology, 6, 47-55 (1988)などに記載の方法に従って形質転換することができる。 動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール, 263-267 (1995)(秀潤社発行)、Virology, 52, 456 (1973)に記載の方法に従って形質転換することができる。 形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。 培地としては液体培地が好ましい。また、培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが;窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質が;無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。また、培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。 宿主が酵母である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地や0.5% カザミノ酸を含有するSD培地などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。培養は、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。 宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えばGrace's Insect Mediumに非働化した10% ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6.2〜6.4である。培養は、通常約27℃で、約3〜5日間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。 宿主が動物細胞である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6〜8である。培養は、通常約30℃〜40℃で、約15〜60時間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。 以上のようにして、形質転換体の細胞内または細胞外に糖鎖含有アルブミンを生成させることができる。 本発明の糖鎖含有アルブミンは、肝臓、特にクッパー細胞に特異的に移行し得るキャリア分子として好ましく用いられ得ることから、該細胞表面の受容体と親和性の高い高マンノース型の糖鎖が付加されたものがより好ましい。ここで「高マンノース型」とは、コア糖鎖(マンノース3分子を含む)に1個以上、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、特に好ましくは5個以上のマンノース分子がさらに付加された糖鎖を意味する。かかる観点からすれば、高マンノース型に加えて複合型および混成型の異なる糖鎖修飾を行い得る動物細胞や昆虫細胞よりも、高マンノース型糖鎖のみを付加し、かつ動物細胞などよりもさらにマンノース分子を多く含むハイパーマンノース型糖鎖を付加し得る酵母細胞が宿主細胞としてより好ましい。中でも、ピキア(Pichia)属酵母は、メタノールを唯一の炭素源として増殖することが可能であり、メタノール中で生育させると、メタノールおよびその代謝中間体の処理に必要な酵素が脱抑制されて発現する。このメタノール資化経路を利用すると、異種蛋白質の分泌発現量はサッカロミセス属酵母を大きく上回ることが知られている。実際、この系を利用したHSA製造は既に実用化の段階にあり(例えば、特開平6−22784号公報参照)、1 Lの培地から10 gオーダーのHSAを製造することができる。以下に、本発明の特に好ましい実施態様の1つとして、ピキア属酵母を宿主細胞として用いた本発明の糖鎖含有アルブミンの製造方法について説明する。 用いられるベクターは、ピキア属酵母の菌体内で自律的に複製されるか酵母ゲノム内に組み込まれることにより遺伝的に安定に維持されるものであれば特に制限はない。自律複製可能なベクターとして、例えばYEpベクター、YRpベクター、YCpベクター等が挙げられる。また、酵母ゲノム内に組み込まれ得るベクターとしては、例えばYIpベクター、YRpベクターが挙げられる。 ピキア属酵母で機能し得るプロモーターとしては、酵母由来のプロモーター、例えば、S.セレビシエ由来のPHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等、P.パストリス由来のアルコールオキシダーゼ(AOX)1プロモーター、AOX2プロモーター、ジヒドロキシアセトンシンターゼプロモーター、P40プロモーター、ADHプロモーター、葉酸デヒドロゲナーゼプロモーター等が挙げられる。また、上記酵母由来プロモーターが、遺伝子発現効率がさらに向上するように修飾された変異型プロモーター、例えば、変異型AOX2(mAOX2)プロモーター[Ohi et al., Mol. Gen.Genet., 243, 489-499 (1994); 特開平4-299984号公報] 等であってもよい。好ましくは、該プロモーターは、ピキア属酵母のメタノール代謝系を利用すべく、メタノールもしくはその代謝中間体の処理に必要な酵素遺伝子のプロモーター、例えば、AOX1プロモーターおよびmAOX2プロモーター等である。 本発明の変異型アルブミンをコードするDNAを含む発現ベクターは、さらにピキア属酵母で機能し得る転写終結配列(ターミネーター)(例えば、AOX1ターミネーター等)、エンハンサー配列、酵母の選択に利用できる選択マーカー遺伝子(栄養要求性遺伝子、例えば、P.パストリスもしくはS.セレビシエ由来のHIS4、LEU2、ARG4、URA3遺伝子等、または抗生物質耐性遺伝子、例えば、シクロヘキシミド、G−418、クロラムフェニコール、ブレオマイシン、ハイグロマイシン等に対する耐性遺伝子等)などを含んでいることが好ましく、また、所望により酵母で機能し得る複製可能単位を含んでいてもよい。さらに、該ベクターの大量調製のために、大腸菌で機能し得る複製可能単位および大腸菌の選択に利用できる選択マーカー遺伝子(例えば、アンピシリンやテトラサイクリンに対する耐性遺伝子等)を含んでいることがより好ましい。 発現ベクターが酵母ゲノム内に組み込まれるタイプのベクターである場合、該ベクターは、相同組換えに必要な酵母ゲノムと相同な配列をさらに含むことが望ましい。そのような相同配列としては、上述の栄養要求性遺伝子の配列が挙げられる。したがって、好ましい一実施態様において、本発明の発現ベクターは、栄養要求性遺伝子内に上記変異型アルブミンの発現カセット(本明細書において「発現カセット」とは遺伝子発現を可能にする単位を意味し、プロモーターの制御下に蛋白質コード配列が配置されたものを最小単位とするが、好ましくはプロモーター−蛋白質コード領域−ターミネーターからなる単位である)が挿入されたものである。 上記のようにして得られた発現ベクターは、例えば、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法、ポリエチレングリコール法、リチウム法、エレクトロポーレーション法、マイクロインジェクション法、リポソーム融合法、パーティクル・ガン法等、公知の形質転換技術を用いて、標的ピキア属酵母菌体内に導入することができる。 本発明で用いられるピキア属酵母は特に限定されないが、例えば、P.パストリス、ピキア・アカシエ(Pichia acaciae)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ピキア・カプスルラータ(Pichia capsulata)、ピキア・シフェリイ(Pichia ciferrii)、ピキア・エチェルシイ(Pichia etchellsii)、ピキア・ファビアニイ(Pichia fabianii)、ピキア・ファリノーサ(Pichia farinosa)、ピキア・グイリエルモンディ(Pichia guilliermondii)、ピキア・イノシトヴォラ(Pichia inositovora)、ピキア・ジャディニイ(Pichia jadinii)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ノルヴェゲンシス(Pichia norvegensis)、ピキア・オフナエンシス(Pichia ofunaensis)、ピキア・ピヌス(Pichia pinus)等が挙げられる。好ましくは、P.パストリス、就中、栄養要求性変異P.パストリス株(例えば、P.パストリスGTS115株(HIS4- )[NNRL Y−15851]、P.パストリスGS190株(ARG4- )[NNRLY−1801]、P.パストリスPPF1(HIS4- ,URA4- )[NNRL Y−18017]など)である。 形質転換されたピキア属酵母は、当該技術分野で通常使用される方法で培養することにより、糖鎖含有アルブミンを産生することができる。用いられる培地には、宿主細胞の生育に必要な炭素源および無機または有機窒素源が少なくとも含まれる必要がある。炭素源としては、メタノール、グリセロール、グルコース、ショ糖、デキストラン、可溶性デンプン等が例示される。また、無機または有機窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、大豆粕、バレイショ抽出液等が例示される。さらに、所望により他の栄養素、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム等の無機塩、ビオチン等のビタミン類、抗生物質などを含んでいてもよい。 用いられる培地としては、例えば、通常の天然培地(例えば、YPD培地、YPM培地、YPG培地等)または合成培地が挙げられる。培地のpHおよび培養温度は、酵母の増殖およびアルブミンの産生に適したpHおよび温度が適宜採用されるが、例えば、pH約5〜約8、培養温度約20〜約30℃が好ましく例示される。また、必要に応じて通気や攪拌を行うこともできる。培養は、通常約48〜約120時間行われる。 例えば、ピキア属酵母菌体内で機能し得るプロモーターとしてAOX1プロモーター、mAOX2プロモーターなどのメタノールにより発現誘導されるプロモーターを使用する場合、菌体の増殖のための炭素源としてグリセロールを含み、アルブミンの発現誘導因子としてメタノールを含む、pH約6.0に制御された天然培地を用いて液体通気攪拌培養を行う方法が最も好ましく例示される。アルブミンの発現が菌体の生育にとって好ましくない場合には、まずメタノール以外の炭素源で菌体量を増加させた後でメタノールを添加してアルブミンの発現を誘導する培養方法がより好ましい。また、ジャーファーメンターでの培養においては、高密度培養法がアルブミンの産生に好適な方法として例示される。培養は、回分培養、流加培養、連続培養のいずれの方式により行ってもよいが、好ましくは流加培養法が挙げられる。すなわち、一定期間、宿主菌体をその増殖に適した炭素エネルギー源(例えば、グルコース等)および/または栄養源を含有する培地(初期培地)中で培養し、状況に応じてある時点から、宿主菌体の増殖を支配する基質(即ち、メタノール)を該培地に追加供給しながら、アルブミンを培養終了時まで系外に抜き出さない方法が用いられる(例えば、特開平3−83595号公報を参照)。 培養物中に産生されたアルブミンは、培養終了後の培養物を遠心分離および/または濾過して培養上清(分泌発現させた場合)もしくは酵母菌体(菌体内発現させた場合)を回収し、次いで、該上清もしくは菌体から自体公知の方法に従って単離・精製することができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。 単離・精製された糖鎖含有アルブミンの確認方法としては、公知のウエスタンブロッティング法等が挙げられる。また、精製された糖鎖含有アルブミンは、アミノ酸分析、N末端アミノ酸シーケンス、一次構造解析、糖鎖解析などによりその構造を明らかにすることができる。 このようにして取得された糖鎖含有アルブミンは、変異型アルブミンのグリコシル化配列に選択的に糖鎖、好ましくは高マンノース型糖鎖が付加された、均一な糖蛋白質であるので、肝臓の非実質細胞、特にクッパー細胞への移行性が高い。従って、本発明はまた、上記した本発明の糖鎖含有アルブミンを含有してなる肝臓への薬物キャリアを提供する。 本発明の糖鎖含有アルブミン(特にHSA)を主成分とする本発明の薬物キャリアは、肝臓、好ましくは肝臓の非実質細胞、特にクッパー細胞に送達されることが予防および/または治療上有効な任意の医薬化合物を、該臓器もしくは細胞にターゲティングするのに用いることができる。そのような医薬化合物としては、例えば、抗酸化物質(例:N−アセチルシステインやアスコルビン酸等)や一酸化窒素などが挙げられる。本発明の糖鎖含有アルブミンに該医薬化合物を結合させた製剤は、肝虚血再灌流障害の治療に用いることができる。また、他の医薬化合物としては、肝線維症治療薬OK432等の肝臓薬等が挙げられる。また、アルブミンそのものも抗酸化作用を有することから、そのまま抗酸化作用医薬品として用いることができる。 糖鎖含有アルブミンと医薬化合物との結合様式は特に限定されず、例えば共有結合や水素結合、疎水結合などが挙げられるが、好ましくは共有結合である。アルブミンと医薬化合物とを結合させる方法は周知であり、例えば、「ドラッグデリバリーシステム」(1986年、CMC発行)を参照することができる。 医薬化合物−糖鎖含有アルブミン結合体は、公知の手法(限外濾過、除菌濾過、分注、凍結乾燥等)により製剤化することができる。具体的には、該結合体を5〜25%含有し、pHは6.4〜7.4程度、浸透圧比は1程度の液状製剤が例示される。該製剤には、必要に応じて、安定化剤としてアセチルトリプトファンまたはその塩(例えば、ナトリウム塩)およびカプリル酸ナトリウムが配合され得る。安定化剤の添加量としては、0.01〜0.2M、好ましくは0.02〜0.05M程度が例示される。またナトリウム含量は3.7mg/ml以下が例示される。当該安定化剤の添加時期は、限外濾過、除菌濾過、分注、凍結乾燥等の処理前である。 上記工程を経て得られた本発明の医療用製剤は、各種微生物に汚染されている可能性はきわめて低いと考えられるが、製剤の無菌性をより積極的に確保するための手段として、無菌充填後に加熱処理(パストリゼーション)による夾雑微生物の不活化を行ってもよい。 加熱処理は、投与単位当たりに容器に充填された製剤が、いずれの容器に充填されたものであっても、例えば、約50〜約70℃(好ましくは約60℃)の湯浴中に約30分間以上保持することにより十分に夾雑微生物が不活化される。加熱時間は、好ましくは約30分間〜約2時間である。 該医薬製剤は、例えば、注射剤としてヒトまたはその他の哺乳動物などに投与することができる。該製剤の投与量は、医薬化合物の種類、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、例えば、有効成分として一酸化窒素を含有する肝虚血再灌流障害治療剤の場合、通常、成人1日あたり、一酸化窒素量として0.1〜30μg/kg、好ましくは0.5〜3μg/kg、糖鎖含有アルブミン量として約0.1〜30mg/kg、好ましくは0.5〜3mg/kgの範囲であり、この量を約5〜約10mlの溶液中に含有させ、緩徐に静脈内注射または点滴静脈内投与する。 アルブミン(特にHSA)は、それ自体医薬として、例えば、主としてショック時の急速な血漿の増量、循環血液量の補充、低蛋白血症の改善、膠質浸透圧の維持等の目的に使用される。具体的な効能・効果としてはアルブミンの損失(熱傷、ネフローゼ症候群等)およびアルブミン合成低下(肝硬変等)による低アルブミン血症、出血性ショック等に有効である。従って、本発明の糖鎖含有アルブミンはまた、そのような疾患・状態の改善のための医薬としても使用することができる。この場合も上記と同様に注射剤として製剤化することができる。 アルブミン製剤の投与量は、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常成人1回、HSA25%溶液で20〜25ml(HSAとして5〜12.5g)を緩徐に静脈内注射または点滴静脈内投与する。 以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例 糖鎖含有アルブミンの製造(1)アルブミン遺伝子の変異 プラスミドpPIC9にヒト血清アルブミンの遺伝子が導入されたプラスミド(以下、pPIC9-HSA)を鋳型とし、Asn63結合型糖鎖含有アルブミン作製には配列番号5(5'-GAGTCAGCTGAAAATTGTAACAAATCACTTCATACCC-3')のD63Nセンスプライマーと配列番号6(5'-GGGTATGAAGTGATTTGTTACAATTTTCAGCTGACTC-3')のD63Nアンチセンスプライマー、Asn318結合型糖鎖含有アルブミン作製には配列番号7(5'-GGATGTTTGCAAAAACTATACTGAGGCAAAGG-3')のA320Tセンスプライマーと配列番号8(5'-CCTTTGCCTCAGTATAGTTTTTGCAAACATCC-3')のA320Tアンチセンスプライマー、Asn494結合型糖鎖含有アルブミン作製には配列番号9(5'-GCTCTGGAAGTCAATGAAACATACGTTCCC-3')のD494Nセンスプライマーと配列番号10(5'-GGGAACGTATGTTTCATTGACTTCCAGAGC-3')のD494Nアンチセンスプライマーを合成プライマーとして、N結合型糖鎖のコンセンサス配列への変異(QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit、Stratagene)を行った。変異の反応条件としては、DNAを95℃で30秒間処理した後、変性(95℃、30秒)、アニーリング(55℃、1分)及びエクステンション(68℃、10分)の反応を12サイクル行った。反応後、Dpn Iにより鋳型のプラスミドを消化し、得られたpPIC9-HSA(D63N)、pPIC9-HSA(A320T)及びpPIC9-HSA(D494N)をそれぞれXL-10-Gold ultracompetent cellに導入して形質転換を行った。目的とするプラスミドpPIC9-HSA(D63N)、pPIC9-HSA(A320T)及びpPIC9-HSA(D494N)が導入された形質転換体は、アンピシリン添加培地中でスクリーニングし、得られた形質転換体より、プラスミドを精製した(QIAprep Spin Miniprep Kit、QIAGEN製)。変異の確認は、pPIC9-HSA(D63N)については配列番号11(5'-GAAAATTTCGACGCCTTGGTGTTGATTGCC-3')のD63Nシーケンスプライマー、pPIC9-HSA(A320T)については配列番号12(5'-GGCGGACCTTGCCGACTATATCTGTGA-3')のA320Tシーケンスプライマー、pPIC9-HSA(D494N)については配列番号13(5'-GGTCTCAAGAAACCTAGGAAAAGTGGG-3')のD494Nシーケンスプライマーを用いて、ABI Prism 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)で行った。またAsn63、Asn318、Asn494の三箇所全てに糖鎖を結合させたヒト血清アルブミンの作製は、上で作製したpPIC9-HSA(D63N)を鋳型にして、配列番号7のA320Tセンスプライマーと配列番号8のA320Tアンチセンスプライマーを合成プライマーとして、同様にN結合型糖鎖のコンセンサス配列への変異(QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit、Stratagene)を行った。これで作製したpPIC9-HSA(D63N/A320T)を鋳型にして、配列番号9のD494Nセンスプライマーと配列番号10のD494Nアンチセンスプライマーを合成プライマーとして、同じように変異(QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit、Stratagene)を行い、pPIC9-HSA(D63N/A320T/D494N)を作製した。(2)糖鎖含有ヒト血清アルブミンの発現 pPIC9-HSA(D63N)、pPIC9-HSA(A320T)、pPIC9-HSA(D494N)及びpPIC9-HSA(D63N/A320T/D494N)は、それぞれ制限酵素Sal Iで消化し、フェノール抽出、エタノール沈殿による精製の後、エレクトロポレーション装置(Gene Pulser II Electroporation System、BIO-RAD製)を用いて、ピキア酵母(GS115株)のHIS4遺伝子座へ相同組換えにより形質転換を行った。得られた形質転換体をBMMY液体培地中で培養し、アルブミンの発現を確認した後、グリセロールストックした。(3)糖鎖含有アルブミンの精製 形質転換したピキア酵母は、BMGY液体培地中で48時間培養し、その後、BMMY培地中で12時間毎に1%メタノールを添加しながら96時間培養した。遠心分離(6,000g x 10分間)により酵母を分離した後、培養上清を200 mM酢酸緩衝液で透析した。その後、アルブミンをBlue Sepharose CL-6Bカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)に結合させ、0→3 M NaClの濃度勾配によりアルブミンを溶出させた。その後、この溶出液を0.65 M硫酸アンモニウム/100 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)で透析した後、HiTrap Phenyl HPカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)に通し、その非吸着画分を回収した。その後、活性炭による脱脂を行った。比較例1 糖鎖不含有(野生型)ヒト血清アルブミンの製造 N結合型糖鎖のコンセンサス配列への変異を行わない以外は実施例と同様に行い、糖鎖不含有のヒト血清アルブミンをピキア酵母で発現させ、ヒト血清アルブミン(HSA)を得た。(4)試験例1 実施例と同様にして作製した糖鎖含有アルブミンを、放射性インジウム同位体(111In)で標識し、111In糖鎖含有アルブミン(D63N、A320T、D494N及びD63N/A320T/D494N)を作製した。111In糖鎖含有アルブミンをマウスに経尾静脈投与し(投与量;1 mg/kg)、投与後一定時間経過ごとに血液及び肝臓を採取し、アルブミン濃度及び肝臓移行性を放射線量測定器により測定した。対照として比較例1で得られたヒト血清アルブミンを111Inで標識した111Inヒト血清アルブミンをマウスに投与し、同様に測定した。投与後の経過時間と投与量に対する血漿および肝臓中の糖鎖含有アルブミン濃度の割合、即ち肝臓への移行性(Hepatic accumulation (% of dose))を図1に示す。 図1の結果から、糖鎖含有アルブミン、特にD494N及びD63N/A320T/D494Nは血中から速やかに消失し、肝臓へ活発に取り込まれることが明らかとなった。またD63N、A320T及びD494Nの間で体内動態が顕著に異なることから、糖鎖含有アルブミンの肝臓への移行性は、これまで提唱されてきた分子表面の糖密度に加え、糖鎖の結合部位にも大きく依存することが示唆された。(5)試験例2 実施例の111In糖鎖含有アルブミン(D63N、A320T、D494N及びD63N/A320T/D494N)及び比較例1のヒト血清アルブミンの電荷状態を、laser electrophoresis-zeta potential analyzer(LEZA-500T)を用いて評価した。表1に示すごとく、糖鎖不含有アルブミン(HSA)と比較し、今回作製したすべての変異体において電荷の有意な差は認められなかった。このことから、真核細胞による糖鎖修飾を受けたアルブミンは、糖鎖修飾を受けていないものと比べ、蛋白質の電荷上の違いが少なく、本来の蛋白質としての性質を十分に保持しているといえる。 一方、図1より60分における肝臓への移行性(Hepatic accumulation (% of dose))を読み取った場合(表1)、糖鎖不含有アルブミン(HSA)に比べ、糖鎖含有アルブミンは6〜65倍となった。このことより、アルブミン蛋白質の性質を保ちながら肝臓への移行性が高められたことがわかる。比較例2 化学修飾アルブミンについて、非特許文献3に提示された図を参照して比較した(図2、表1)。表1は図2より読み取った値を提示したものである。化学修飾はコハク酸(Suc)修飾(ウシ血清アルブミン(BSA)のLys残基のε-アミノ基とのイミド結合)によるもので、「Sucn−BSA」はn個のコハク酸が結合したBSAであることを表している。 これまで化学修飾によるアルブミン(BSA)を用いた実験から、肝臓への移行性には修飾体分子表面の負電荷密度が重要であることが示されており、負電荷が大きいほど(修飾率が高いほど)肝臓による認識の程度は大きいとされてきた(非特許文献3参照)。しかしながら、20ものコハク酸分子で修飾したアルブミンに漸く肝臓移行性が付与できるというものであった。 一方、非修飾のBSAの電荷が−0.35程度であるのに対し、コハク酸修飾されたBSAは−0.5以上となることから、化学修飾によるアルブミンでは分子表面の電荷の変化により蛋白質の構造や機能に大きく影響を及ぼしていると考えられる。 本発明の糖鎖含有アルブミンは、肝臓の非実質細胞、特にクッパー細胞を標的としたDDSのための薬物キャリアとして使用することができる。また、遺伝子組換え蛋白質と宿主の糖鎖修飾機構とを利用するので、化学修飾法に比べて均一な蛋白質として製造でき、修飾操作を省略することができる。さらに、ウイルス等の汚染の危険性がないため、医療用として生体に安全に投与することができる。試験例1における本発明の糖鎖含有ヒト血清アルブミンの、血漿(上)及び肝臓(下)への移行性の経時変化を示すグラフである。縦軸は投与量に対する割合(%)、横軸は投与後の時間(分)を示す。コハク酸修飾(Suc−)ウシ血清アルブミン(BSA)の111In標識体をマウスに静脈内投与した際の、血漿(上)、肝臓(中)及び腎臓(下)への移行性を示すグラフである(非特許文献3参照)。Sucn-BSAのnはBSAに結合したコハク酸の数を表し、●は0.1mg/kg、○は1mg/kg、▼は10mg/kg、▽は20mg/kgのBSA投与量を表す。提示したデータは非特許文献3より必要部分を抜き出し、縦軸を追加したものである。 真核細胞による糖鎖修飾を受け得る1以上の部分アミノ酸配列を含む変異型血清アルブミンの該部分アミノ酸配列に、酵母細胞により選択的に高マンノース型糖鎖が付加されてなる糖鎖含有血清アルブミン蛋白質を含有してなる肝臓への薬物キャリアであって、該部分アミノ酸配列の少なくとも1つがAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされる任意のアミノ酸を示す)である、薬物キャリア。 変異型血清アルブミンが真核細胞による糖鎖修飾を受け得る2以上の部分アミノ酸配列を含む、請求項1記載のキャリア。 該部分アミノ酸配列のすべてがAsn-Xaa-ThrもしくはAsn-Xaa-Ser(Xaaは遺伝的にコードされる任意のアミノ酸を示す)である、請求項2記載のキャリア。 血清アルブミンがヒト血清アルブミンである、請求項1〜3のいずれかに記載のキャリア。 ヒト血清アルブミンが、配列番号2に示されるアミノ酸配列中配列番号1〜585で示されるアミノ酸配列であって、アミノ酸番号63で示されるアミノ酸がAsnおよび/またはアミノ酸番号320で示されるアミノ酸がThrもしくはSerおよび/またはアミノ酸番号494で示されるアミノ酸がAsnであるアミノ酸配列を有する、請求項4記載のキャリア。 少なくともアミノ酸番号494で示されるアミノ酸がAsnである、請求項5記載のキャリア。 アミノ酸番号63で示されるアミノ酸がAsnおよびアミノ酸番号320で示されるアミノ酸がThrもしくはSerおよびアミノ酸番号494で示されるアミノ酸がAsnである、請求項5記載のキャリア。 酵母がピキア属酵母である、請求項1〜7のいずれかに記載のキャリア。 標的細胞がクッパー細胞である、請求項1〜8のいずれかに記載のキャリア。 肝臓に送達されるべき医薬化合物および請求項1〜9のいずれかに記載のキャリアを含有してなる医薬組成物。配列表


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