生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ヘルペスウイルスの検出方法
出願番号:2006194665
年次:2008
IPC分類:C12N 5/10,C12N 15/09,C12Q 1/02,C12Q 1/70,C12N 7/02


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上野 智規 後藤 希代子 入江 伸吉 JP 2008017811 公開特許公報(A) 20080131 2006194665 20060714 ヘルペスウイルスの検出方法 株式会社ニッピ 000135151 社本 一夫 100089705 小野 新次郎 100140109 小林 泰 100075270 千葉 昭男 100080137 富田 博行 100096013 上野 智規 後藤 希代子 入江 伸吉 C12N 5/10 20060101AFI20080104BHJP C12N 15/09 20060101ALI20080104BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20080104BHJP C12Q 1/70 20060101ALI20080104BHJP C12N 7/02 20060101ALI20080104BHJP JPC12N5/00 BC12N15/00 AC12Q1/02C12Q1/70C12N7/02 10 OL 13 4B024 4B063 4B065 4B024AA11 4B024AA14 4B024BA80 4B024CA02 4B024DA03 4B024EA04 4B063QA01 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ08 4B063QQ10 4B063QQ20 4B063QR77 4B063QR79 4B063QR80 4B063QS03 4B063QS05 4B063QX02 4B065AA90Y 4B065AA92X 4B065AA95X 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA02 4B065CA24 4B065CA46 本発明は、へルペスウイルスに対して感染感受性及び感染許容性を有し、かつ標識されたPMLボディ構成タンパク質を発現する細胞株に関する。また、本発明は、前記細胞株を用いたヘルペスウイルスの検出・モニタリング方法に関する。 ヘルペスウイルスは、α、βおよびγヘルペスウイルスの3つの亜科からなるDNAウイルスである。αヘルペスウイルスとしては、単純ヘルペスウイルス(HSV)1および2、並びに帯状疱疹ウイルス(VZV)が、βヘルペスウイルスとしては、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、並びにヒトヘルペスウイルス6(HHV−6)およびヒトヘルペスウイルス7(HHV−7)が、γヘルペスウイルスとしては、EBウイルス(EBV)およびヒトヘルペスウイルス8(HHV−8)が知られている。現在までにこれら8種のウイルスがヒトに感染するヒトヘルペスウイルスとして報告されている。 ヒトヘルペスウイルスは様々な病態の原因ウイルスであるが、その多くは日和見感染症である。多くのヒトヘルペスウイルスでは、初感染時の不顕性感染を経て、一生涯体内に滞まる潜伏感染状態へ移行する。その後、様々な刺激によって再活性化された際、免疫能が低下している場合に重篤な日和見感染症を引き起こす。例えばCMVの場合、成人になるまでに80〜90%の人が感染するが、初感染時は通常不顕性に経過し、疾患にはいたらない。しかし、免疫の未熟な胎児や、免疫の低下したエイズ患者、臓器移植患者、および癌患者などの易感染性者では、CMV脳炎、CMV網膜炎、肺炎など重篤な病態を引き起こし、多臓器不全となる場合もある。HSV−1は三叉神経節に潜伏感染し、後に再活性化され、角膜炎や口唇ヘルペスを引き起こす。HSV−2は、通常、性的接触によって獲得され、生殖器ヘルペスを引き起こす。HHV−8はエイズに頻発するカポジ肉腫の原因ウイルスである。VZVは、水痘、帯状疱疹およびヘルペス後神経痛を引き起こし、再活性化により症状を繰り返す傾向が強い。ヘルペスウイルスの治療薬(抗ヘルペスウイルス剤)としては、ウイルス遺伝子複製過程の選択的な阻害作用を利用する核酸系抗ウイルス剤(例えばガンシクロビル、アシクロビル)が用いられている。 臓器移植患者やエイズ患者のように免疫不全の状態にある患者では、HCMVに起因するHCMV感染症がしばしば重篤、致死的となり、最も警戒すべき感染症の一つである。これらの患者群においてはウイルスの再活性化がおこりやすい状態となっており、早期発見の為には血液等を試料とした感染モニタリングが非常に重要である。特に、臓器移植、骨髄移植の術後段階では、HCMV感染症は一度発症すると予後不良であり、移植自体を左右する場合も多くあるため、その発症予防、管理は最重要課題の一つである。即ち、これらの患者群において、HCMV感染症の管理のための継続的ウイルスモニタリングが必須となっている。 HCMV感染症の診断に用いられる検査法としては、血液中抗体価(特異的IgM抗体)、尿からのウイルス分離などの古典的方法が確立されている。さらに、血液中ウイルス抗原を検出するアンチゲネミア法、培養後に抗原検出するシェルバイアル法、ゲノムDNA検出のためのPCR法などが用いられている。HCMV感染モニタリングに必要な条件としては、定量性、感度、迅速性、病態との相関性があげられる。血液中抗体価は過去に於ける感染履歴を反映しており、活動中のウイルスの指標としては有用ではない。尿からのウイルス分離は操作完了までに数週間要するため、臨床現場における感染モニタリングという観点からは有用な情報は得られない。ゲノムDNA検出は感度が高く、迅速に結果が得られるが、病態に連動しない事が知られている。アンチゲネミア法は、末梢血多形核白血球細胞中のウイルス抗原陽性細胞数が分かるため定量的結果がえられ、病態との関連も示されているが、感度が十分とはいえず、ゲノムDNA検出などと組み合わせる必要がある。病態を的確に把握するための感染モニタリングには、複数の検査方法を組み合わせて総合的に判断する必要があり、定量性、感度、迅速性、病態との相関性などを備えた新しい検出法の開発が望まれている。更に、移植患者等でのHCMV感染をモニタリングするには、血液等の生体試料から直接ウイルスを定量する方法が必要である。更に、活発に活動中のウイルスを高感度で検出できれば、病態との相関性の高い指標となると予想される。 本発明者らは、ヘルペスウイルスの中和抗体価、感染阻害率などを定量的に算出する新規な検出方法について報告している(特開2005−312409号公報を参照されたい)。この方法は、標識したPMLボディ構成タンパク質を発現する細胞(例えばSE/15細胞)を用いることにより、簡便かつ高感度にヘルペスウイルス感染細胞を検出できる。PMLボディは、PMLタンパク質を含む数十種類のタンパク質から構成されている。CMVの場合、非感染細胞のPMLタンパク質は小さなドット状のPMLボディとして存在しているが、感染により前初期遺伝子産物IE1が発現すると、PMLボディが壊れてPMLタンパク質が核内全体へ拡散し、ドットが大きくなる。両者の大きさは著しく異なっているため、容易に区別することができる。さらに、PMLボディ構成タンパク質は標識されているため、抗体等による免疫染色の操作を必要とせず、例えば蛍光顕微鏡による観察だけでウイルス感染細胞を検出する事が可能である。しかし、SE/15細胞は、CHO(チャイニーズハムスター卵巣由来)細胞株を親株とした細胞であり、子孫ウイルスが増殖しないため、被検試料からのウイルス分離はできなかった。 本発明は、ヘルペスウイルスに対して感染感受性が高く、安定であり、しかも子孫ウイルスを分離可能な細胞株を提供することを目的とする。また、本発明は、組換えウイルスや免疫学的手法を用いることなく、へルペスウイルス前初期遺伝子産物の発現を高感度で迅速かつ簡便に定量解析し、ヘルペスウイルス感染を検出するための方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、ヘルペスウイルスに対して、感染感受性だけでなく、感染許容性も有する細胞を親株として用いることにより、簡便かつ高感度にヘルペスウイルス感染を検出でき、かつウイルス分離も可能である、ヘルペスウイルスの新規検出系を確立した。 即ち、本発明は、へルペスウイルスに対して感染感受性及び感染許容性を有し、かつ標識されたPMLボディ構成タンパク質を発現する細胞株を提供するものである。 また、本発明は、受領番号FERM AP−20953で表される細胞株を提供するものである。 さらに、本発明は、上記細胞株にヘルペスウイルスを感染させ、PMLボディの特異的形態変化を示す細胞を解析することを含む、ヘルペスウイルス前初期遺伝子産物の発現を検出する方法を提供するものである。 さらに、本発明は、上記細胞株にヘルペスウイルスを含む可能性のある生体試料を接種し、PMLボディの特異的形態変化を示す細胞を解析することを含む、ヘルペスウイルス感染モニタリング方法を提供する。 また、本発明は、上記細胞株にヘルペスウイルスを含む可能性のある生体試料を接種し、接種した細胞を培養し、培養細胞から子孫ウイルスを回収することを含む、ウイルス分離方法を提供する。 また、本発明は、上記細胞株に、ヘルペスウイルスと試料を接種し、PMLボディの特異的形態変化を示す細胞を解析することを含む、感染阻害物質のスクリーニング方法または薬剤感受性検査方法を提供するものである。 以下、本発明について、詳細に説明する。 本発明はヘルペスウイルス、例えばHSV−1またはHCMV、好ましくはHCMVの感染を検出するための細胞および方法に関するものである。 本発明の細胞株はPMLボディを構成するタンパク質を発現する。構成タンパク質の例としては、PML、SP100、NDP52、NDP55、DAXX、Ski/Sno、CBP、HSF2、Sp1、pRb、HP1、eIF−4などを挙げることができるが、PMLを用いることが好ましい。本発明の細胞株に導入する構成タンパク質遺伝子は、これらと同等の機能を有するタンパク質を発現する限り、1〜150塩基、好ましくは1〜100塩基、より好ましくは1〜50塩基(例えば1〜数塩基)が欠失、置換、および/または付加されたものでもよい。同等の機能とは、DNAウイルスの感染によりPMLボディから核内に拡散し、非イオン性界面活性剤処理により可溶化されることをいう。 これら構成タンパク質は、PMLボディ中でタグ標識された状態で発現する。標識には通常蛍光タンパク質、例えばグリーン蛍光タンパク質(GFP)やEGFP、EBFP、BFP2、EYFP、ECFPなどが用いられるが、本発明の検出方法に用いることができれば、蛍光標識以外の標識方法を用いることもできる。蛍光以外の標識方法の例としては、β−ガラクトシダーゼ、CAT、ルシフェラーゼなどによる化学発光を用いた方法が挙げられる。 本発明の細胞株は、ヘルペスウイルスに対して感染感受性を有し、かつ子孫ウイルスの複製が可能な感染許容性を有する細胞株である。「感染感受性を有する」とは、ウイルス粒子の細胞への吸着から前初期遺伝子産物の翻訳までに求められる宿主細胞の様々な機能が欠如していない細胞を意味する。「感染許容性を有する」とは、子孫ウイルスが増殖するまでの全てのウイルス感染複製過程が滞りなく終了するために求められる宿主細胞の様々な機能が欠如していない細胞を意味する。したがって、本発明の細胞株にヘルペスウイルスを接種すると、前初期遺伝子抗原が十分発現するとともに、試料由来の子孫ウイルスを得る事が可能である。本発明の細胞株の例として、ヒト急性単球性白血病由来のTHP/33(実施例1参照)を挙げることができる(受領番号:FERM AP−20953、受託日:2006年7月7日)。 本発明の細胞株の調製方法を以下に説明する。 細胞中で発現させる遺伝子のクローニングおよび発現細胞の作製は、常法に従って行うことができ、例えば、Katano, H. et al., Virology, 286, 2001, 446-445に記載の方法を用いることができる。 まず所望の遺伝子をPCRで増幅後、適当な発現ベクターに組み込む。その際、所望の遺伝子をタグ標識するために連結する遺伝子を、所望の遺伝子産物との融合タンパク質として発現可能なように組み込むことができるが、すでにベクター中に組み込まれたものを用いることが好ましい。発現ベクターとしては、pEGFP C3ベクター(Clontech)、Vitality hrGFPレポーターベクター(STRATAGENE)、GFP Fusion TOPOベクター(Invitrogen)、pTracerベクター(Invitrogen)などを用いることができる。 組換え発現ベクターは、例えばリポフェクチン法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法などの方法により、へルペスウイルスが感染可能な細胞へトランスフェクションする。ヘルペスウイルスが感染可能な細胞としてはMRC−5、HEL、CHO、NIH3T3、293、293T、HeLa、Ramos3、HSB−2、U937、THP−1、Vero、Caco−2、K−1034などを挙げることができる。特に、HCMV感染許容細胞としてはMRC−5、HEL、THP−1、Caco−2、K−1034、U373−MG細胞などが知られている。発現ベクターには薬剤耐性遺伝子が組み込まれていることが好ましく、この場合、発現ベクターを導入後、薬剤存在下で選択し、耐性細胞株をクローニングすることができる。 本発明者らは、HCMV感染許容細胞として最も汎用されているMRC−5、HEL細胞などを親株として、PMLタンパク質などを長期間にわたり強制発現する細胞株の樹立を試みてきたが、このような細胞株を安定的に樹立する事は困難であった。この理由の1つとして、HCMV感染許容性の必要条件の1つは内在的なPMLボディが十分に発達していることであるが、そのような性質を備えた細胞に外来性PMLタンパク質を持続的に強制発現させると細胞に悪影響をもたらすことが考えられた。したがって、本発明では、HCMV感染許容性を備えた細胞ではなく、HCMV感染許容性が刺激によって誘導されるような細胞を親株として、PMLタンパク質の強制発現細胞株の作製を試みた。THP−1細胞の感染許容性は、TPAなどのホルボールエステル刺激後に誘導されることが報告されている(Weinshenker, B.G., Wilton, S.及びRice, G.P., 1988, J. Immunol., 140: 1625-1631)。そこで、THP−1細胞を使用して研究を重ねた結果、持続的にGFP−PMLタンパク質を発現する細胞株の樹立に成功した。 THP−1細胞の他に、刺激によって感染許容性が誘導される細胞株の例としては、U937、TERA−2、TF1、U138−MGなどが挙げられる。また刺激の例として、Retinoic Acid、BUdR、IUdR、HMBA、DMA、Hydrocortisone(HC)などが知られている。 次に、本発明の細胞株を用いてヘルペスウイルス感染を検出する方法について説明する。 本発明の細胞株にウイルスサンプルを接種した後、前初期遺伝子産物の発現によりPMLボディの特異変化を誘導させる。この特異変化の例としては、HCMV前初期遺伝子産物IE1の場合はPMLタンパク質の核内への拡散、HSV−1の前初期遺伝子産物の場合はPMLタンパク質の消失などが挙げられる。例えばCMVの場合、非感染細胞のPMLタンパク質は小さなドット状のPMLボディとして存在しているが、感染によりIE1が発現するとPMLボディが壊れてPMLタンパク質が核内全体へ拡散し、ドットが大きくなる。両者の大きさは著しく異なっているため、容易に区別することができる。 核内へ拡散したPMLタンパク質は、NP−40、オクチルグルコシド、ヘプチルチオグルコシド、MEGA−10(デカノイル−N−メチルグルカミド)、Brij−35、Brij−56、Brij−58、Brij−76、Brij−96、Brij−98、Triton X−45、Triton X−114、Triton X−100、Triton X−102、Triton X−165、Triton X−305、Triton X−405、Triton N−101、Span20、Sterox 67−K、Lubrol WX、スクロースモノヘキサン酸エステル、スクロースモノラウリン酸エステル、Tween 20、Tween 40、Tween 60、Tween 80などの非イオン性界面活性剤を含む溶出バッファーで可溶化処理し、その後、可溶化したPMLタンパク質量を蛍光光度計で測定する。測定値を比較することで前初期遺伝子産物の発現の有無を迅速に検出することができる。この方法を用いることにより、HCMV感染を検出することができる。または細胞内に存在する非可溶性PMLタンパク質の残存量を測定することにより、同様にしてHCMV感染を検出することもできる。 PMLタンパク質の核内からの消失は、例えば蛍光標識したPMLタンパク質を直接測定することでモニターできる。この方法を用いることにより、HSV−1感染を検出することが可能である。 さらに、ウイルスサンプルの代わりに、ウイルスと試料との混合液を接種するかまたはあらかじめ試料で処理した細胞にウイルスを接種した後、非イオン性界面活性剤で可溶化処理し、可溶性PMLタンパク質量または細胞内に存在する非可溶性PMLタンパク質の残存量を測定することで、試料の感染阻害率を算出することができる。ここで、試料とはヘルペスウイルス感染阻害候補物質または感染阻害薬等を意味する。試料の例としては、抗ウイルス剤、中和抗体、ウイルスの細胞への吸着阻害剤、ウイルスの核移行阻害剤を挙げることができる。この方法を用いることにより、感染阻害候補物質のスクリーニングや感染阻害薬の感受性検査が可能となる。また、可溶化処理をせずに直接PMLボディの特異的形態変化を確認することにより、感染阻害候補物質のスクリーニングや感染阻害薬の感受性検査をすることも可能である。 感染用ウイルスサンプルは実験室用分離株でも臨床分離株でもよく、目的及び検出方法により適宜選択される。また、尿、血液、血液由来細胞、生検材料など、ウイルスが含まれる可能性のある生体由来材料を用いることもできる。また、本発明の検出方法は、組換えウイルスを必要としないという特徴から、ヒトへルペスウイルスの臨床分離株だけでなく、ヒト以外を宿主とするヘルペスウイルスにも応用可能である。 以下、GFP−PML融合タンパク質を発現する細胞にHCMVを感染させた場合についてさらに具体的に説明する。 本発明の細胞株をプレートに蒔き、HCMVサンプルを接種させる。一定時間培養後、IE1タンパク質の発現によりPMLボディの形態学的変化を生じさせる。細胞数(細胞/ウェル)は5×103〜4×105、好ましくは1×104〜2×105、より好ましくは5×104〜1×105で行う。培養時間は2〜96時間、好ましくは10〜24時間である。 その後、定量的解析(以下、「Sup法」という。)を行う場合には、例えばNP−40溶出バッファー(NEB)を加え、IE1タンパク質の発現により核内に拡散したGFP−PMLを可溶化する。NP−40の濃度は0.5〜0.03%、好ましくは0.2〜0.05%、より好ましくは0.1〜0.15%で行う。NEBのpHは7.0〜8.0、好ましくは7.5である。塩濃度は10〜150mM、好ましくは150mMで使用する。また、溶出温度は4〜37℃、好ましくは4〜20℃、より好ましくは4℃である。溶出時間は1〜25分、好ましくは5〜20分、より好ましくは10〜15分で行う。次にNEBを回収し、可溶化したGFP−PML量を蛍光光度計で測定する。この方法を用いることにより、非イオン性界面活性剤で感染細胞に対し可溶化処理する工程のみでヘルペスウイルス前初期遺伝子産物の発現を簡便に、精度よく定量的に検出することができる。 またもう1つの定量的解析法としてDish法が挙げられる。Dish法を行う場合は、IE1タンパク質の発現により核内に拡散したGFP−PMLをNEBで溶出・除去し、プレート上の細胞中に残存した非可溶性GFP−PML量を蛍光光度計で測定する。GFP−PMLの溶出条件はSup法と同様である。この方法は、免疫学的手法を必要とすることなく、感染細胞を蛍光顕微鏡で観察するのみで経時的にヘルペスウイルス前初期遺伝子産物の発現を追跡可能である。したがって、免疫学的手法に伴う非特異的反応を除外することができ、確実な判定をすることができる。 Sup法およびDish法は共に優れた定量的解析法として、同様の用途で使用することができる。Sup法およびDish法の実験室レベルにおける用途の具体例として以下の例が挙げられる。種々の抗体で前処理したTH/33細胞にHCMVを感染させ、NEB処理を行い、溶出した可溶性GFP−PML量、あるいは非可溶性GFP−PML量をそれぞれ測定し、得られた測定値から感染効率を算出する。これらの方法を用いてHCMV感染を阻害する抗体をスクリーニングすることにより、HCMV感染における新規受容体が迅速かつ簡便に検索できる。また臨床レベルの用途の具体例としては、次の例が挙げられる。治療に用いる薬剤あるいは治療の候補となる薬剤でTH/33細胞を処理し、臨床分離株を感染させる。あるいは臨床分離株を同様の薬剤で処理し、TH/33細胞に感染させる。そしてSup法またはDish法を用いて各薬剤の阻害作用を定量的に検出することで、臨床分離株の各々の薬剤に対する感受性を定量的に比較することが可能となる。 また、上述のようにPMLボディの形態は感染前後で明らかに異なるため、NEBで溶出操作を行うことなく画像解析により定量解析することも可能である。前述の感染細胞及び非感染細胞を蛍光顕微鏡で観察し、蛍光顕微鏡画像解析システム等を用いて観察した画像を記録する。画像の記録方法は特に限定されるものではない。記録した画像を画像解析ソフトを用いて解析する。画像解析ソフトの例としては、NIH image、Win Roof(三谷商事)、Lumina Vision(三谷商事)、MetaMorph(Molecular Devices)、Mac Scope(三谷商事)、Scion Image、ImageJなどが挙げられるが、ある一定以上あるいは以下の大きさのドットのみの面積またはドット数を測定できるものであればいかなるソフトを用いてもよい。例えばNIH imageを用いる場合は、閾値(threshold)を設定して一定面積に存在する感染細胞数あるいは非感染細胞数を定量的に検出することが可能である。界面活性剤で溶出操作を行うことなく感染あるいは非感染細胞数をカウントできるため、非常に簡便かつ精度よく定量的に検出することができる。従ってSup法、Dish法と同様に、画像解析法も感染細胞の検出や、新規抗ウイルス剤開発におけるスクリーニング法、臨床分離株の薬剤感受性検査に非常に有用である。 本発明の細胞株は持続的にGFP−PMLタンパク質を発現するため、上記方法によりウイルス感染細胞数を定量的に解析することができ、ヘルペスウイルス感染モニタリング、特にHCMV感染モニタリングに有用な検査法を提供することができる。 THP−1細胞においてHCMVを効率的に感染させるには、TPAなどのホルボールエステル刺激が有効である事が報告されている(Weinshenker, B.G., Wilton, S.及びRice, G.P., 1988, J. Immunol., 140: 1625-1631)。したがって、THP−1細胞にHCMVサンプルを接種させる場合は、細胞をTPAなどのホルボールエステルで刺激した後、TSAを添加した培地で培養し、被検試料を接種する。 本発明の細胞株は、ヘルペスウイルスに対して感染感受性を有するだけでなく、感染許容性も有する細胞株であるため、子孫ウイルスの複製が可能である。したがって、ヘルペスウイルスを含む可能性のある尿、血液等の生体試料を細胞に接種した後、さらに培養を継続すれば、生体試料に含まれるウイルスを分離する事が可能である。分離したウイルスは、薬剤感受性試験その他に使用可能である。 以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。 GFP−PMLタンパク質を発現したTHP−1細胞株(TH/33細胞)の樹立 TY1細胞由来の1本鎖cDNAを鋳型として、PCR法によりPML遺伝子を増幅し、pEGFPベクター(Clontech社製)に挿入連結してプラスミドpEGFP−PMLを得た(特開2005−312409号公報を参照)。GFP−PML融合タンパク質をTHP−1細胞中で産生させるため、以下のようしてTHP−1細胞へ遺伝子を導入した。THP−1細胞を、10%ウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地中、5%CO2存在下、37℃で培養し、遠心して5×106個の細胞を集め、PBSで洗浄後、1mlのPBS中に懸濁させた。10μgのpEGFP−PMLを20μl PBSに溶解し、細胞懸濁液に加えてよく混和した。細胞懸濁液をエレクトロポレーション用0.4cmキュベットに移し、氷上で10分間静置した後、Gene Pulser(BioRad社製)を用いて、980μF capacitor、voltage field 300V/cm、pulse time constant 10msecの条件でエレクトロポレーションを行った。処理後の細胞に10%ウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地10mlを添加し、5%CO2存在下、37℃で30時間培養した。その後、400μg/ml G418存在下で2日ごとに培地を交換し、10日間培養後に、G418耐性細胞株を限外希釈法によりクローニングし、GFP−PMLを安定に発現する細胞株TH/33細胞を樹立した(受領番号:FERM AP−20953、受託日:2006年7月7日)。 TH/33細胞の核内でGFP−PMLがPMLボディを形成するかどうかを、共焦点レーザー顕微鏡を用いて調べたところ、図1(a)に示すとおり、PMLボディを形成することを確認した。 TH/33細胞へのHCMV感染とPMLボディの変化 THP−1細胞においてHCMVを効率的に感染させるにはTPAなどのホルボールエステル刺激が有効である事が報告されている(Weinshenker, B.G., Wilton, S.及びRice, G.P., 1988, J. Immunol., 140: 1625-1631)。TPA刺激のあとにTSA(Tricostatin A)処理を続けて行うと更に感度よく感染を検出できる事が判明したので以下のような手順で感染実験を行った。 実施例1で樹立したTH/33細胞(1.0×105個)に対してTPAを終濃度50ng/mlとなるように加え、12ウェルプレート中で培養した。プレートは、刺激後の細胞が培養プレート表面に接着しやすくするために、ファイブロネクチン溶液(5μg/ml in PBS)で予め処理した。16時間培養後に培養液を除去し、PBSで洗浄後、TSA(終濃度5μM)を添加した10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地に交換し、さらに4時間培養した。HCMV Towne株(ATCC No.VR−977)をm.o.i.1になるように各ウェルに加え、37℃で60分間インキュベーションした。その後100μg/ml G418を含む5%FBS−F12/DMEM(GIBCO社)500μlを加え、37℃で18時間インキュベーションした。 蛍光顕微鏡を用いて細胞の観察を行ったところ、図1(b)に示すとおり、感染によりPMLボディが破壊されてPMLタンパク質が核内全体へ拡散し、ドットが大きくなる様子が観察され、HCMV感染細胞が容易に判定された。 本発明の方法を用いることにより、簡便で迅速かつ定量的にヘルペスウイルス前初期遺伝子産物の発現を検出し、ウイルス感染価、中和抗体価、感染阻害率を算出することができる。さらに、本発明の検出方法は組換えウイルスを必要としないため、ヒトへルペスウイルスの臨床分離株、ヒト以外を宿主とするヘルペスウイルスにも応用可能であり、感染阻害物質のスクリーニングや感受性検査にも用いることができる。さらに、本発明の方法は、活発に活動中のウイルスのみを検出するため、病態との相関性の高い指標となり、臓器移植、骨髄移植などの易感染性者のヘルペスウイルス感染モニタリングに有用な検査法を提供することができる。(a)はTH/33細胞におけるPMLボディの形成を示す。(b)はTH/33細胞にHCMVを感染させた後のPMLボディの形態変化を示す。 へルペスウイルスに対して感染感受性及び感染許容性を有し、かつ標識されたPMLボディ構成タンパク質を発現する細胞株。 標識されたPMLボディ構成タンパク質が刺激により発現する、請求項1に記載の細胞株。標識が蛍光標識である、請求項1又は2に記載の細胞株。 PMLボディ構成タンパク質がPMLタンパク質である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞株。 ウイルス分離が可能である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞株。 寄託番号FERM AP−20953で表される細胞株。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞株にヘルペスウイルスを感染させ、PMLボディの特異的形態変化を示す細胞を解析することを含む、ヘルペスウイルス前初期遺伝子産物の発現を検出する方法。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞株にヘルペスウイルスを含む可能性のある生体試料を接種し、PMLボディの特異的形態変化を示す細胞を解析することを含む、ヘルペスウイルス感染モニタリング方法。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞株にヘルペスウイルスを含む可能性のある生体試料を接種し、接種した細胞を培養し、培養細胞から子孫ウイルスを回収することを含む、ウイルス分離方法。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞株に、ヘルペスウイルスと試料を接種し、PMLボディの特異的形態変化を示す細胞を解析することを含む、感染阻害物質のスクリーニング方法または薬剤感受性検査方法。 【課題】 ヘルペスウイルスに対して感染感受性が高く、安定であり、しかも子孫ウイルスを分離可能な細胞株を提供すること。また、組換えウイルスや免疫学的手法を用いることなく、へルペスウイルス前初期遺伝子産物の発現を高感度で迅速かつ簡便に定量解析し、ヘルペスウイルス感染を検出するための方法を提供すること。【解決手段】 ヘルペスウイルスに対して、感染感受性だけでなく、感染許容性も有する細胞を親株として用いることにより、簡便かつ高感度にヘルペスウイルス感染を検出でき、かつウイルス分離も可能である。また、本発明の細胞を用いることにより、ヘルペスウイルス感染のモニタリングを行うこともできる。【選択図】 なし20060811A16333全文3 へルペスウイルスに対して感染感受性及び感染許容性を有し、かつ標識されたPMLボディ構成タンパク質を発現する細胞株。 標識されたPMLボディ構成タンパク質が刺激により発現する、請求項1に記載の細胞株。標識が蛍光標識である、請求項1又は2に記載の細胞株。 PMLボディ構成タンパク質がPMLタンパク質である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞株。 ウイルス分離が可能である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞株。 受託番号FERM P−20953で表される細胞株。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞株にヘルペスウイルスを感染させ、PMLボディの特異的形態変化を示す細胞を解析することを含む、ヘルペスウイルス前初期遺伝子産物の発現を検出する方法。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞株にヘルペスウイルスを含む可能性のある生体試料を接種し、PMLボディの特異的形態変化を示す細胞を解析することを含む、ヘルペスウイルス感染モニタリング方法。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞株にヘルペスウイルスを含む可能性のある生体試料を接種し、接種した細胞を培養し、培養細胞から子孫ウイルスを回収することを含む、ウイルス分離方法。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞株に、ヘルペスウイルスと試料を接種し、PMLボディの特異的形態変化を示す細胞を解析することを含む、感染阻害物質のスクリーニング方法または薬剤感受性検査方法。A1633000103 また、本発明は、受託番号FERM P−20953で表される細胞株を提供するものである。A1633000193 本発明の細胞株は、ヘルペスウイルスに対して感染感受性を有し、かつ子孫ウイルスの複製が可能な感染許容性を有する細胞株である。「感染感受性を有する」とは、ウイルス粒子の細胞への吸着から前初期遺伝子産物の翻訳までに求められる宿主細胞の様々な機能が欠如していない細胞を意味する。「感染許容性を有する」とは、子孫ウイルスが増殖するまでの全てのウイルス感染複製過程が滞りなく終了するために求められる宿主細胞の様々な機能が欠如していない細胞を意味する。したがって、本発明の細胞株にヘルペスウイルスを接種すると、前初期遺伝子抗原が十分発現するとともに、試料由来の子孫ウイルスを得る事が可能である。本発明の細胞株の例として、ヒト急性単球性白血病由来のTHP/33(実施例1参照)を挙げることができる(受託番号:FERM P−20953、寄託日:2006年7月7日)。A1633000423 GFP−PMLタンパク質を発現したTHP−1細胞株(TH/33細胞)の樹立 TY1細胞由来の1本鎖cDNAを鋳型として、PCR法によりPML遺伝子を増幅し、pEGFPベクター(Clontech社製)に挿入連結してプラスミドpEGFP−PMLを得た(特開2005−312409号公報を参照)。GFP−PML融合タンパク質をTHP−1細胞中で産生させるため、以下のようしてTHP−1細胞へ遺伝子を導入した。THP−1細胞を、10%ウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地中、5%CO2存在下、37℃で培養し、遠心して5×106個の細胞を集め、PBSで洗浄後、1mlのPBS中に懸濁させた。10μgのpEGFP−PMLを20μl PBSに溶解し、細胞懸濁液に加えてよく混和した。細胞懸濁液をエレクトロポレーション用0.4cmキュベットに移し、氷上で10分間静置した後、Gene Pulser(BioRad社製)を用いて、980μF capacitor、voltage field 300V/cm、pulse time constant 10msecの条件でエレクトロポレーションを行った。処理後の細胞に10%ウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地10mlを添加し、5%CO2存在下、37℃で30時間培養した。その後、400μg/ml G418存在下で2日ごとに培地を交換し、10日間培養後に、G418耐性細胞株を限外希釈法によりクローニングし、GFP−PMLを安定に発現する細胞株TH/33細胞を樹立した(受託番号:FERM P−20953、寄託日:2006年7月7日)。


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