タイトル: | 公開特許公報(A)_質量分析のための脂質修飾ペプチドの抽出方法 |
出願番号: | 2006136803 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 27/62,C12Q 1/37 |
和田 元 氏原 哲朗 福田 宏之 大津 厳生 JP 2007309695 公開特許公報(A) 20071129 2006136803 20060516 質量分析のための脂質修飾ペプチドの抽出方法 国立大学法人 東京大学 504137912 株式会社島津製作所 000001993 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 藤井 愛 100125508 和田 元 氏原 哲朗 福田 宏之 大津 厳生 G01N 27/62 20060101AFI20071102BHJP C12Q 1/37 20060101ALI20071102BHJP JPG01N27/62 VC12Q1/37 10 OL 16 特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼集会名:大学院総合文化研究科修士論文発表会 開催者:国立大学法人東京大学 発表日:平成18年2月4日 修士論文図書館配架日:平成18年4月4日 開催場所:東京大学教養学部18号館ホール ▲2▼刊行物:第47回日本植物生理学会年会要旨集 発行日:2006年3月 発行者:第47回日本植物生理学会年会委員会 開催場所:筑波大学 講演番号:P319(865) 2G041 4B063 2G041CA01 2G041DA04 2G041EA01 2G041FA10 2G041GA03 2G041GA06 2G041GA08 2G041GA09 2G041HA02 2G041JA07 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ70 4B063QQ79 4B063QR16 4B063QR41 4B063QS14 4B063QS16 4B063QS28 本発明は、脂質修飾されたペプチドを抽出する方法及びリポタンパク質の分析方法に関する。 可溶性タンパク質の生体膜への付着を促進するために、脂質によるタンパク質の翻訳後修飾はすべての生物において普遍的に見出される。細菌のリポタンパク質は、そのN末端システイン残基が脂質により修飾されたタンパク質であり、膜−水界面において、膜構造の維持などの不可欠な機能を担っている。 脂質修飾が上記のような機能に不可欠であることは公知であったが、最近、脂質修飾の構造がタンパク質の生理活性を劇的に変化させるものの、膜固定能力には影響を及ぼさないことも明らかになっている。最もよく研究された脂質修飾の例の一つは、Ras又はRhoBなどの低分子量GTPaseの脂質修飾である。Rho/Ras GTPaseファミリーのCAAXモチーフは、2つのタイプのイソプレノイド脂質、すなわち、ゲラニルゲラニル基(C20)及びファルネシル基(C15)のいずれかにより修飾されることが知られている。これらの2つのタイプの修飾はGTPaseの生体膜への会合を可能にする。しかしながら、ゲラニルゲラニル化RhoB及びファルネシル化RhoBは異なる生理活性を示す。ファルネシル化RhoBが成長促進タンパク質であるのに対して、ゲラニルゲラニル化RhoBはアポトーシス誘導タンパク質である。Rasは正常にはファルネシル化されて原形質膜に局在する。しかしながら、ゲラニルゲラニル化型に変異すると、ゲラニルゲラニル化Rasは細胞内膜系に局在することになる。 このように、脂質修飾の構造と生理機能との関係に関する研究は近年非常に重要視されており、真核生物においては、特異的阻害剤や脂質修飾に関与するアミノ酸の突然変異を用いて当該研究が行われてきた。しかしながら、細菌等の原核生物における脂質修飾については、技術的な困難のために研究は行われていない。原核生物におけるリポタンパク質は比較的量が少なく、また精製が困難だからである。従って、少量のリポタンパク質でも分析できる手段が望まれていた。 リポタンパク質の脂質修飾の構造分析のための方法としては、主に2つの方法が考えられる。一方はTLC又はガスクロマトグラフィー等を用いる化学的分析法であり、他方はLC-MS、FAB-MS又はMALDI-TOF MS等を用いる物理化学的な質量分析法である。 化学的分析法は従来多く用いられてきたが、ミリモル量という多量の精製タンパク質を必要とする。一方、リポタンパク質は両親媒性の性質から精製が容易ではなく、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC6803に由来するPsbQ及びPsb27を初めとする多くのリポタンパク質の分析には適当ではなかった。PsbQ及びPsb27を初めとする多くのリポタンパク質は、SDS-PAGE等によってマイクロモル量でゲル分離精製する方法しか知られておらず、十分量回収することができなかった。 一方、質量分析法は一般的な化学的分析法と比べて必要なサンプルの量が少なく、正確なタンパク質の分子量が得られる。しかしながら、質量分析法を用いるリポタンパク質の分析においては、脂肪酸に由来する長いアルキル鎖が質量分析におけるタンパク質のイオン化を阻害するため、脂質で修飾されたペプチドフラグメントを検出することができなかった。また、SDS-PAGE等によりゲルで分離したリポタンパク質を質量分析する場合も、疎水性のリポタンパク質や脂質修飾ペプチドをゲルから回収できないという問題があった。 本発明の目的は、リポタンパク質を少量で分析するための手段を提供することである。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リポタンパク質を加水分解して得られるペプチド群から、有機溶媒抽出により脂質修飾ペプチドを分離できること、さらに、有機溶媒と界面活性剤とを組み合わせることにより、ゲル電気泳動で分離されたリポタンパク質を質量分析できることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の発明を包含する。(1)脂質修飾されたペプチド及び脂質修飾されていないペプチドを含む試料を有機溶媒で抽出することにより、試料から脂質修飾されたペプチドを抽出する方法。(2)有機溶媒が、低極性有機溶媒及び高極性有機溶媒を含む有機溶媒である、(1)記載の方法。(3)(a) リポタンパク質を含む試料をプロテアーゼ処理する工程(b) (a)の工程でプロテアーゼ処理した試料を有機溶媒で抽出する工程(c) (b)の工程で得られた抽出物を質量分析に付す工程 を含む、リポタンパク質の分析方法。(4)(a)の工程において、リポタンパク質を含む試料に界面活性剤を添加して遠心分離することにより得られる上清を試料としてプロテアーゼ処理する、(3)記載の方法。(5)タンパク質に結合している脂質を分析する、(3)又は(4)記載の方法。(6)有機溶媒が、低極性有機溶媒及び高極性有機溶媒を含む有機溶媒である、(3)〜(5)のいずれかに記載の方法。(7)(a) リポタンパク質を含む試料をゲル電気泳動に付す工程(b) 電気泳動後のゲルをプロテアーゼ処理する工程(c) プロテアーゼ処理した試料を、界面活性剤を含む溶液で抽出する工程(d) (c)の工程で得られた抽出物をさらに有機溶媒で抽出する工程(e) (d)の工程で得られた抽出物を質量分析に付す工程 を含む、リポタンパク質の分析方法。(8)界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、(7)記載の方法。(9)有機溶媒が、低極性有機溶媒及び高極性有機溶媒を含む有機溶媒である、(7)又は(8)記載の方法。(10)タンパク質に結合している脂質を分析する、(7)〜(9)のいずれかに記載の方法。 本発明により、脂質修飾されたペプチドを試料から優先的に抽出することが可能になり、リポタンパク質をはじめとした脂質修飾タンパク質を少量で分析することが可能になる。 本発明者らは、脂質修飾されたペプチド及び脂質修飾されていないペプチドの双方を含む試料を有機溶媒で抽出することにより、脂質修飾されたペプチドが優先的に有機溶媒に抽出されることを見出した。従って、一実施形態において本発明は、脂質修飾されたペプチド及び脂質修飾されていないペプチドを含む試料を有機溶媒で抽出することにより、試料から脂質修飾されたペプチドを抽出する方法に関する。 本明細書において脂質修飾されたペプチドは、脂質とペプチドとの複合体をさす。脂質には、脂肪酸と各種アルコールとのエステル及びその類似体である単純脂質(中性脂質)、例えば、油脂(トリアシルグリセロール)、ろう(高級アルコールの脂肪酸エステル)、ステロールエステル、コレステロールエステル、ビタミンの脂肪酸エステルなど;脂肪酸とアルコールのほかにリン酸、糖、硫酸、アミンなど極性基をもつ複合脂質、例えば、リン脂質(グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質など)及び糖脂質(グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質など)など;単純脂質及び複合脂質の加水分解によって生成する化合物のうち脂溶性のものをさす誘導脂質、例えば、脂肪酸、高級アルコール、脂溶性ビタミン、ステロイド、炭化水素などが包含される。 本発明は特に脂肪酸を含む脂質で修飾されたペプチドの抽出に好適に用いられる。脂肪酸を含む脂質には、上記単純脂質、複合脂質及び脂肪酸が含まれ、好ましくはグリセロールの脂肪酸エステル(モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロール)及び脂質である。脂肪酸としては、炭素数8以上、好ましくは炭素数10〜30の長鎖飽和脂肪酸及び長鎖不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、メチレンヘキサデカン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などが挙げられる。本発明により、脂質修飾されたペプチドとして、ペプチドのN末端に脂肪酸を有するものを好適に抽出することができる。 本発明により抽出できる脂質修飾されたペプチドにおいて、ペプチドのアミノ酸鎖長は、特に制限されないが、通常1〜50アミノ酸、好ましくは1〜40アミノ酸である。 本発明の抽出方法は、リポタンパク質をプロテアーゼ等で分解したときに得られるペプチド群のうちの、脂質修飾されたペプチド、すなわち脂質が結合しているペプチドの抽出に好適に用いられる。 本明細書において、リポタンパク質は、タンパク質が脂質と共有結合によって結合してなる複合体(脂質修飾タンパク質)をさす。脂質修飾タンパク質には、天然のタンパク質及び脂質とタンパク質を人為的に組み合わせた合成修飾タンパク質の双方が含まれる。本発明の抽出方法は、天然のリポタンパク質における脂質成分の分析の際に有利に用いられることから、天然のリポタンパク質の加水分解物から脂質修飾されたペプチドを抽出するために特に好適に用いられる。 脂質修飾されたペプチド及び脂質修飾されていないペプチドを含む試料は、好ましくは上記リポタンパク質の加水分解物、より好ましくはリポタンパク質のプロテアーゼ処理物であり、リポタンパク質は好ましくは天然リポタンパク質である。 リポタンパク質のプロテアーゼ処理物としては、リポタンパク質を含む試料をプロテアーゼで処理したものを使用できる。バクテリアリポタンパク質を含む試料としてはバクテリアの細胞膜と外膜があり、これらの懸濁液、破砕物及び抽出物、並びにこれらから得られるリポタンパク質精製物が挙げられる。バクテリアリポタンパク質以外の脂質修飾されたタンパク質を含む試料としては、動物由来試料でも植物由来試料でもよく、例えば、体液(例えば、血液、血漿、血清、尿、汗、涙、髄液、腹水、リンパ液)、組織、細胞、細胞培養物、これらの懸濁液、破砕物及び抽出物、並びにこれらから得られる脂質修飾タンパク質の精製物が挙げられる。 脂質修飾タンパク質の具体例としては、バクテリアのリポタンパク質(大腸菌のLppやPalなど)、膵b細胞のプロテインキナーゼCやCa2+-ATPaseなどのパルミトイル化されるタンパク質、真核細胞の増殖制御に関わっているRasやRhoなどのファルネシル化又はゲラニルゲラニル化されるタンパク質などが挙げられる。本発明の方法は、少量の脂質修飾ペプチドも効果的に抽出できることから、少量しか存在しない原核生物由来リポタンパク質の加水分解物から脂質修飾ペプチドを抽出する場合にも好適に用いられる。 プロテアーゼ処理に用いるプロテアーゼとしては、タンパク質を加水分解できるものであれば特に制限されず、好ましくはペプチドフィンガープリント法において通常用いられるようなタンパク質を特異的に加水分解するものを使用できる。具体的には、トリプシン、リジルエンドペプチダーゼ、パパイン、ペプシン及びスブチリシンなどが挙げられ、トリプシンを用いるのが好ましい。 脂質修飾されたペプチドは水溶性であり、従来は有機溶媒の相に移動するとは考えられていなかったが、本発明者らは脂質修飾されたペプチドが有機溶媒により優先的に抽出できることを見出した。脂質修飾されたペプチドを抽出するための有機溶媒としては、水溶液に加えたときに二層に分離されるものを用いる。極性を有する有機溶媒を用いるのが好ましい。極性を有する有機溶媒には、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの低極性有機溶媒、炭素数1〜6の低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、ブタノール及びプロパノール)などの高極性有機溶媒、並びにこれらの混合物が包含される。 好ましくは低極性有機溶媒と高極性有機溶媒を含む有機溶媒を用いる。特に好ましくはクロロホルムとメタノールを含む有機溶媒を用いる。クロロホルムとメタノールを含む有機溶媒を用いる場合、クロロホルムとメタノールの体積比は、通常10:1〜5:3、好ましくは3:1〜2:1である。クロロホルムとメタノールを含む有機溶媒には、その他の有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、アセトン等が含まれていてもよい。 本発明の抽出方法により、従来抽出することが困難であった脂質修飾されたペプチドを、簡便な方法により効果的に抽出することが可能になった。 本発明はまた、上述の脂質修飾ペプチドの抽出方法を利用したリポタンパク質の分析方法に関する。 一実施形態において本発明は、(a) リポタンパク質を含む試料をプロテアーゼ処理する工程、(b) (a)の工程でプロテアーゼ処理した試料を有機溶媒で抽出する工程(c) (b)の工程で得られた抽出物を質量分析に付す工程 を含む、リポタンパク質の分析方法に関する。 (a)の工程におけるリポタンパク質を含む試料については、脂質修飾されたペプチドの抽出について記載したのと同様である。好ましくは細胞破砕物の抽出物を用いる。より好ましくは上記のようなリポタンパク質を含む試料に界面活性剤を添加して遠心分離することにより得られる上清を試料として用いる。リポタンパク質は水溶性であることから、このようにして得られた上清にリポタンパク質が含まれることになる。 ここで添加する界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が挙げられるが、好ましくはペプチドのイオン化を阻害せず疎水性ペプチドの抽出に適したものを用いる。非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルグリコシド及びアルキルチオグリコシドなどの配糖体、RO(CH2CH2O)nH(式中、Rは親油基を表し、nは1〜20の整数である)で表される化合物(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノール)、RCOO(CH2CH2O)nH(式中、Rは親油基を表し、nは1〜20の整数である)で表される化合物、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンモノイソステアレート及びソルビタンセスキオレエート)、有機酸グリセリド(例えば、コハク酸モノグリセリド)、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、ペンタグリセリンオレイン酸エステル)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸プロピレングリコール)、ショ糖脂肪酸エステル、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル等が挙げられる。 本発明においては、アルキルグリコシド及びアルキルチオグリコシドを用いるのが好ましい。アルキルグリコシドは、単糖又は少糖のヘミアセタールヒドロキシ基の水素原子が炭素数8〜30のアルキル基によって置換されたアセタールをさす。アルキルチオグリコシドは、単糖又は少糖のヘミアセタールヒドロキシ基が炭素数8〜30のアルキルチオ基によって置換されたアセタールをさす。アルキルグリコシド及びアルキルチオグリコシドにおける糖部分としては、グルコース、フルクトース、マルトース、セロビオース,ゲンチオビオース、ラクトース、ガラクトース、トレハロース、スクロースなどが挙げられる。アルキルグリコシド及びアルキルチオグリコシドの具体例としては、例えば、ドデシルマルトピラノシド、ドデシルチオマルトピラノシド、ドデシルグルコピラノシド、ドデシルチオグルコピラノシド、デシルマルトピラノシド、デシルチオマルトピラノシド、デシルグルコピラノシド、デシルチオグルコピラノシド、ノニルマルトピラノシド、ノニルチオマルトピラノシド、ノニルグルコピラノシド、ノニルチオグルコピラノシド、オクチルグルコピラノシド、オクチルチオグルコピラノシド、オクチルマルトピラノシド、オクチルチオマルトピラノシド、ヘプチルグルコピラノシド、ヘプチルチオグルコピラノシド、ヘプチルマルトピラノシド、ヘプチルチオマルトピラノシドなどが挙げられる。 プロテアーゼ処理には、脂質修飾されたペプチドの抽出について記載したのと同様に、ペプチドフィンガープリント法において通常用いられるプロテアーゼ、特にトリプシンを用いることができる。 続いて(b)の工程で、(a)の工程でプロテアーゼ処理した試料を有機溶媒で抽出する。プロテアーゼ処理した試料は、脂質修飾されたペプチド及び脂質修飾されていないペプチドを含むものであるから、すでに記載したとおり、有機溶媒で抽出することにより、脂質修飾されたペプチドを優先的に抽出することができる。有機溶媒については上記と同様である。 続いて(c)の工程で、(b)の工程で得られた抽出物を質量分析に付す。当該工程により、(b)の工程で得られた抽出物に含まれる脂質修飾されたペプチドを質量分析することができる。本発明のリポタンパク質の分析方法においては、さらに、従来の方法により抽出した脂質修飾されていないペプチドについても質量分析を行ってもよい。 本明細書において質量分析は、電気的相互作用を利用して原子・分子のイオンを質量の違いによって分析する手法をさし、イオンの生成、分離、検出の3つの工程を含む。このような質量分析としては、特に制限されず、当技術分野で公知のものを使用できる。質量分析する際に使用できるイオン化法の様式としては、レーザーイオン化法、特にマトリックス補助レーザ脱離イオン化(MALDI)法、電子衝撃によるイオン化(EI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、光イオン化法、2次イオン化法、高速原子衝突イオン化法、電界電離イオン化法、表面電離イオン化法、化学イオン化(CI)法、フィールドイオン化(FI)法、火花放電によるイオン化法等が挙げられ、マトリックス補助レーザ脱離イオン化(MALDI)法が好ましい。また、分離様式としては、飛行時間型(TOF)、単一又は多重四重極型、単一又は多重磁気セクター型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)型、イオン捕獲型、高周波型ならびにイオン捕獲/飛行時間型等が挙げられ、飛行時間型を用いるものが好ましい。上記のようなイオン化法と分離様式、電気的記録ならびに写真記録のような検出様式とを組み合わせることにより質量分析を実施することができる。マトリックス補助レーザ脱離イオン化−飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)を利用するのが好ましい。 別の実施形態において本発明は、(a) リポタンパク質を含む試料をゲル電気泳動に付す工程(b) 電気泳動後のゲルをプロテアーゼ処理する工程(c) プロテアーゼ処理した試料を、界面活性剤を含む溶液で抽出する工程(d) (c)の工程で得られた抽出物をさらに有機溶媒で抽出する工程(e) (d)の工程で得られた抽出物を質量分析に付す工程 を含む、リポタンパク質の分析方法に関する。 (a)の工程におけるリポタンパク質を含む試料については、脂質修飾されたペプチドの抽出について記載したのと同様である。好ましくは細胞破砕物の抽出物を用いる。より好ましくは上記のようなリポタンパク質を含む試料に界面活性剤を添加して遠心分離することにより得られる上清を試料として用いる。 ゲル電気泳動としては、タンパク質の分離に通常用いられるものを使用できる。好ましくはポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いる。SDS-PAGEはプロテオーム解析に広く使用されており、また、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC6803由来のタンパク質、PsbQ、Psb27、NrtA、大腸菌Escherichia coli 由来のタンパク質、Pal、Lppなどを含む多くのリポタンパク質がSDS-PAGEによって分離及び精製できることが報告されていることから、SDS-PAGEが好ましく用いられる。 (b)の工程において、上記電気泳動後のゲルをプロテアーゼ処理する。具体的には電気泳動後のゲルから目的のリポタンパク質を含みうるバンドを切り出し、プロテアーゼ、好ましくはトリプシンによって加水分解処理を行う。 (c)の工程において、上記でプロテアーゼ処理した試料を、界面活性剤を含む溶液で抽出する。ここで用いる界面活性剤については、上記実施形態で用いたものと同様である。 界面活性剤を含む溶液としては、界面活性剤濃度が0.3(w/v)%〜1.0(w/v)%の水溶液を用いることが好ましい。この濃度範囲で用いることによって、後の(e)工程での質量分析への影響を軽減することができる。 (d)の工程において、得られた抽出物をさらに有機溶媒で抽出する。ここで用いる有機溶媒についても、上記で脂質修飾されたペプチドの抽出に用いた有機溶媒と同様である。 従来、電気泳動後のゲルからリポタンパク質や脂質修飾されたペプチドを回収することは困難であったが、本発明の方法により界面活性剤による抽出と有機溶媒による抽出を組み合わせることにより、電気泳動に付したリポタンパク質を質量分析することが可能になった。 続いて、(e)の工程で、(d)の工程で得られた抽出物を質量分析に付す。質量分析については上記実施形態と同様である。さらに、従来の方法により抽出した脂質修飾されていないペプチドについても質量分析を行ってもよい。 リポタンパク質をプロテーゼで処理して得られるペプチド群を本発明の方法により質量分析することにより、マスフィンガープリント法によってリポタンパク質を同定することができる。すなわち、リポタンパク質の酵素分解物に含まれる多数の消化断片(ペプチド)に由来するイオンの質量を測定し、既知のデータベースと比較することにより、リポタンパク質を同定することができる。 ペプチドを同定するためのデータベースとしては、例えば、Mascot、MS-Tag、Peptide Search、PepFrag、SEQUESTなどが挙げられる(実験医学別冊、ポストゲノム時代の実験講座2、プロテオーム解析法、羊土社(2000))。 本発明のリポタンパク質の分析方法では、リポタンパク質のプロテアーゼ処理物に含まれる脂質修飾されたペプチドの質量をも高解像度で分析できることから、リポタンパク質における脂質成分を分析し同定することが可能になる。従って、タンパク質の脂質修飾と機能との関係に関する研究において有用な手段となる。 また、従来、リポタンパク質の分析には大量の試料が必要であったが、本発明の分析方法を用いてリポタンパク質を分析することにより、少量のリポタンパク質を用いた場合でも分析することが可能になる。 以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されない。 本実施例において使用した化学物質の入手先は以下のとおりである: Ni-NTAアガロースは、Qiagen(Valencia, CA)より;C4及びC16 ZIP TIP(登録商標)は、Millipore (Bedford, MA)より;配列決定等級の還元的にアルキル化されたトリプシンは、Promega (Madison, WI)より;トリフルオロ酢酸(TFA)及びシナピン酸は、Nacalai Tesque (Kyoto, Japan)より;α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)及びアセトニトリルは、Sigma Aldrich (St Louis, MO)より;他のすべての化学試薬は、特に記載しない限り、Wako Pure Chemical Industries (Osaka, Japan)より入手した。実施例1 大腸菌で発現したPsbQ-Hisの精製 シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC6803のPsbQ(Thornton LE, Ohkawa H, Roose JL, Kashino Y, Keren N, Pakrasi HB (2004) Homologs of plant PsbP and PsbQ proteins are necessary for regulation of photosystem II activity in the cyanobacterium Synechocystis 6803. Plant Cell 16:2164-2175)をコードするDNA領域を、プライマーセット5'-CATGCCATGGCTCGTTTACGTTCGTTACTTTCC-3'(配列番号1)及び5'-CCCAAGCTTCTAGCTTGGGGCAACAGGTTC-3'(配列番号2)を用いてPCRにより増幅した。それぞれNcoI部位及びHindIII部位を含むヌクレオチド配列、5'-CATGCCATGG-3'(配列番号3)及び5'-CCCAAGCTT-3'(配列番号4)をそれぞれのプライマーの5’末端に付加した。PCR産物をNcoI及びHindIIIにより消化し、発現ベクターpBAD/Myc-HisB (pBAD) (Invitrogen, Carlsbad, CA)のNcoI-HindIII部位に結合して、所望のインフレーム産物を得た。このプラスミドをpBAD-PsbQ-Hisと呼び、大腸菌JM109を形質転換するために用いた。 pBAD-PsbQ-Hisを有する形質転換細胞を、LB培地中、37℃で増殖させた。600 nmの濁度が0.5に達した時に、増殖培地に0.2%アラビノースを加えてPsbQ-Hisの発現を誘導し、さらに3時間インキュベートした。インキュベーションの後、細胞を回収した。回収した細胞を20 mM Tris-HCl (pH 7.5)中に懸濁し、超音波処理により破砕した。細胞破砕物を100,000 gで10分間遠心分離することによりPsbQ-Hisを含有する総膜分画を得た。次に、膜分画を1% n-ドデシルβ-D-マルトピラノシド(DM)を用いて可溶化し、100,000gで15分間遠心分離することにより、上清として可溶化されたタンパク質を得た。 次に、上清を、1% DMを含有する2倍量の20 mM Tris-HCl (pH 7.5)であらかじめ平衡化した3 mlのNi-NTAアガロースカラムに加え、4℃で1時間インキュベートした。20 mM Tris-HCl (pH 7.5)、1% DM及び20 mMイミダゾールの緩衝液によりよく洗浄した後、20 mM Tris-HCl (pH 7.5)、1% DM及び200 mMイミダゾールによりタンパク質をカラムから溶離した。溶離したタンパク質を10% トリクロロ酢酸により沈殿させ、アセトン及びジエチルエーテルにより洗浄した。1リットルの培養液から、約0.5 mgのPsbQ-Hisが得られた。実施例2 PsbQ-Hisの分析 まず、MALDI-TOF質量分析計(AXIMA-CFR; 島津製作所製)を用いて実施例1で得られたPsbQ-Hisが脂質により修飾されているかどうかを確認した。ポジティブリニアモードで測定を行った。 図2に、PsbQ-Hisのマススペクトルを示す。約17,918 (m/z)に1本のシグナルが観察され、計算されたPsbQ-Hisの理論上の質量から、これは脂質により修飾されたPsbQ-His に相当する。これは大腸菌に発現されたPsbQ-Hisが脂質により修飾されたことを示している。 次に、PsbQ-HisのN末端システイン残基のSH基に結合するS-ジアシルグリセリル基の脂肪酸組成を、ガスクロマトグラフィーにより分析した。TCAにより沈殿させ精製したPsbQ-Hisをクロロホルム/メタノールにより3回洗浄して界面活性剤及び膜脂質を除去した。次に、洗浄したPsbQ-HisをHCl/メタノールにより処理して脂肪酸メチルエステルを生成させた。脂肪酸メチルエステルをn-ヘキサンにより抽出し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラムは、PsbQ-Hisの脂肪酸組成を示している(図3)。クロマトグラムにおいて、16:0、16:1、17:0シクロ及び18:1(11)が検出された。16:0 (57.4%)及び16:1 (23.8%)が脂肪酸の主成分であった。PsbQ-Hisに結合したジアシルグリセロールの脂肪酸組成を算出した。16:1/16:0、17:0シクロ/16:0、及び18:1/16:0が最も豊富であると算出された。実施例3 MALDI-TOF MS分析のためのPsbQ-Hisの調製 実施例1で得られた精製されたPsbQ-Hisの5μgを、10% アセトニトリルを含有する40 mM炭酸水素アンモニウム20μl中で、1μgのトリプシンにより消化処理した。カラムによる分離 得られたトリプシン処理物(トリプシン消化フラグメントを含む)をC4及びC16 Ziptipカラム(Millipore (Bedford, MA))に適用し、0.1% TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液により数回洗浄した。Ziptipは、質量分析、HPLC、キャピラリー電気泳動及び他の分析技術の前にペプチド又はタンパク質を濃縮及び精製するのに理想的であることが知られている。次に、0.1% TFA水溶液及び0.1% TFAアセトニトリル溶液の異なる比の混合液、ならびにDMFなどのその他の有機溶媒によりそれぞれ溶出させ、各溶出液を2μlのマトリックス溶液(0.1% TFA、 4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸で飽和した30%アセトニトリル中)に溶解し、MALDI-プレート上にスポットした。有機溶媒による抽出 一方、得られたトリプシン処理物(トリプシン消化フラグメントを含む)を50μlのクロロホルム/メタノール(体積比が2:1、以下同様)により抽出した。クロロホルム/メタノールを蒸発させた後、抽出されたフラグメントを2μlのマトリックス溶液(0.1% TFA、 4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸で飽和した30%アセトニトリル中)に溶解し、MALDI-プレート上にスポットした。 上記2種の試料(カラム分離及び有機溶媒抽出)及びカラム分離も有機溶媒による抽出も行わない試料について、MALDI-TOF質量分析計(AXIMA-CFR;島津製作所製)を用いて質量分析を行った。トリプシン消化フラグメントを分析するために、ポジティブレフレクションモードで測定した。 まず、カラム分離も有機溶媒による抽出も行わない場合のトリプシン消化PsbQ-HisのMALDI-TOF MSのマススペクトルを図4Aに示す。多くのTイオンが観察されたが、脂質修飾されたN末端フラグメントのシグナルは観察されなかった。脂質修飾されたフラグメントは、脂質中の長いアルキル鎖がイオン化を阻害するために効果的にイオン化されないことが公知であり、イオン化のエネルギーは他のフラグメントのイオン化に使われたと考えられる。 C18又はC4Ziptipカラムを用いて0.1% TFAの100% アセトニトリル溶液により溶出させても、N末端フラグメントは効果的に溶離せず、MALDI-TOF MSにより脂質修飾されたN末端フラグメントに由来するシグナルは検出されなかった。DMF(ジメチルホルムアミド)及び他の有機溶媒で溶離した場合も効果がなかった。これらの結果は、脂質修飾されたN末端フラグメントはC4又はC18カラムから回収できないことを示している。 一方、有機溶媒(クロロホルム/メタノール)により抽出されたフラグメントをMALDI-TOF MSに適用すると、図4Bに示すように、以前のスペクトルには全く存在しなかった脂質修飾されたN末端フラグメントに由来するシグナルが観察された。これは、脂質修飾されたフラグメントがクロロホルム/メタノール抽出により効果的に抽出されたことを示している。 脂質修飾されたフラグメントは水溶性であり、有機溶媒の相に移動するとは考えられていなかったので、この種の抽出は行われたことがなかった。しかしながら、脂質修飾されたフラグメントが水よりも有機溶媒に対してより高い親和性を有することが示された。 図5に脂質修飾されたN末端フラグメントのマススペクトルを示す。シグナルは、I〜III及びI*〜III*で示される6箇所の領域に検出された。領域の質量シグナルの計算値によれば、領域I、領域II及び領域IIIは、それぞれ、2本のパルミチン酸及び1本のパルミトレイン酸(16:0/16:1/16:0)、2本のパルミチン酸及び1本のcis-9,10-メチレンヘキサデカン酸(16:0/17:0シクロ/16:0)、及び2本のパルミチン酸及び1本のバクセン酸[16:0/18:1(11)/16:0]を含む脂質により修飾されたN末端フラグメントに由来するイオンに相当する。I*、II*及びIII*は、それぞれのN末端フラグメントのナトリウム付加物に由来するイオンを示す。 計算された理論的分子量から、2,551 (m/z)のシグナルは、3本の脂肪酸(16:0/16:1/16:0)を含有するジアシルグリセロール及びアシル基により修飾されたフラグメントに相当する。また、シグナルは2,565(m/z) (2,551 + 14)及び2,579 (m/z) (2,551 +28)にも検出され、他の脂肪酸がフラグメントに結合していることを示している。計算された理論的質量から、2,566 (m/z)のシグナルは3本の脂肪酸(16:0/17:0シクロ/16:0)を含有するN末端フラグメントに相当し、2,579 (m/z)のシグナルは脂肪酸(16:0/18:1(11)/16:0)を含有するN末端フラグメントに相当する。それぞれのシグナルのナトリウム付加物に相当する別のシグナル(+22 m/z)も検出された。この結果は実施例2におけるガスクロマトグラフィー分析により得られた結果と一致する。これらの結果は、本発明の方法が脂質修飾されたN末端フラグメントに結合する脂肪酸を決定するための高い分解能を提供することを示している。実施例4 MS/MS分析 脂質修飾の構造を確認するために、脂質修飾されたN末端フラグメントのMS/MS分析を行った。MS/MS分析には、MALDI四重極イオントラップ飛行時間型質量分析計(AXIMA-QIT;島津製作所製)を用いた。 実施例3のMALDI-TOF MSのマススペクトルにおいて2,551 (m/z)に検出されたシグナルのマス/マススペクトルを図6に示す。PsbQ-HisのN末端フラグメントに由来する多くのyイオンが観察されたが、これは2,551 (m/z)のシグナルがN末端フラグメントのものであることを示している。しかし、bイオンは観察されなかった。これは、N末端システイン残基に結合する脂肪酸の長いアルキル鎖がイオン化を阻害したことを示している。2,565 (m/z)、2,579 (m/z)又は他のナトリウム型のシグナルのMS/MSスペクトルは、2,551 (m/z)のシグナルのそれと同様のスペクトルを示した。したがって、これらのシグナルはPsbQ-Hisの脂質修飾されたN末端フラグメントに由来することが確認され、異なる分子量はPsbQ-Hisに結合する脂肪酸の組成を反映している。実施例5 ポリアクリルアミドゲルからのPsbQ-Hisの調製 精製したPsbQ-Hisを、Laemmli UK (1970), Nature 227:680-685の方法に従って、12% ポリアクリルアミドゲル(厚さ1.5 mm)を用いてSDS-PAGEを行った。脱染法(Lee C, Levin A, Branton D (1987) Biochem. 166:308-312)にトリス緩衝系を使用しなければならないので、トリス-グリシン緩衝液を用いた。100 Vで電気泳動を行い、色素の先端がゲルの底部に達した時点で終了した。電気泳動の後、タンパク質を銅染色法(Leeら、1987、前掲)により可視化した。PsbQ-Hisに相当するバンドを、清潔なマイクロスパチュラを用いてゲルから削り取った。次に、ゲル切片を1.5 mlのチューブに移して脱染した。脱染はトリス−グリシン脱染溶液(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて行った。脱染されたゲル切片を、50%メタノール及び50 mM炭酸水素アンモニウムの溶液中、40℃で15分間、2回インキュベートして脱水した。インキュベーションの後、ゲル切片を砕いて、真空遠心濃縮機により室温で10〜15分間乾燥してメタノールを除去した。真空遠心濃縮を行っている間に、トリプシンを1 mg/mlの濃度で50 mM酢酸に溶解し、消化溶液(40 mM炭酸水素アンモニウム/10% アセトニトリル)により20μg/mlに希釈してトリプシン溶液を作った。乾燥したゲル切片を最小限の量のトリプシン溶液(10〜20μl)中に入れ、氷冷下で1時間プレインキュベートしてトリプシンをゲルの中に染みこませた。インキュベーションの後、消化溶液を、溶液がゲルを完全に覆うように加えて一晩インキュベートした。 次に、消化されたペプチドフラグメントを1(w/v)% DMを含有する100μlの水溶液により抽出して、ボルテックスミキサーにより1時間混合した。抽出の後、100μlのクロロホルム/メタノール(2:1)を加えて混合し、有機層を別のチューブに移した。有機溶媒を蒸発させ、抽出されたペプチドフラグメントを100μlのマトリックス溶液(アセトニトリル中の飽和CHCA/0.1% TFA (1:2))に溶解して、MALDIプレート上にスポットした。質量分析は、MALDI-TOF質量分析計(AXIMA-CFR; 島津製作所製)を用いて行い、ポジティブレフレクションモードで測定した。 図8に、上記の方法を用いてSDS-PAGEにより分離したPsbQ-Hisのマススペクトルを示す。これにより、使用したサンプルを25 pmolに減らしたにもかかわらず明瞭なシグナルが得られた。 一方、トリプシン消化されたペプチドフラグメントに対しクロロホルム/メタノール抽出のみを行った場合や(図7B)、DM抽出のみを行った場合は、MALDI-TOF質量分析において脂質修飾されたフラグメントに相当するシグナルは観察されなかった。 また、トリプシン消化されたペプチドフラグメントをアセトニトリル/0.1% TFA (1:2)により抽出して、同様にMALDI-TOF質量分析を行った場合、脂質修飾されたフラグメントに相当するシグナルは観察されなかった(図7 A)。一方、T2イオンに相当するシグナルは検出することができ、これはPsbQ-Hisがトリプシンにより効果的に消化されたことを示している。0.1% TFAを含有する100%アセトニトリルを用いても、脂質修飾されたフラグメントのシグナルは検出されなかった。 SDS-PAGEはプロテオーム解析に広く使用されるので、本発明の方法は脂質修飾されたタンパク質のプロテオーム解析に特に有用である。また、本発明の方法は、HPLCのような特別な装置を必要としない点でも有利である。図1Aは、PsbQ-Hisの成熟型(脂質修飾型)の構造及びトリプシン消化により生成するTイオンを示す。図1Bは、PsbQ-Hisのトリプシン消化フラグメントのアミノ酸配列及び計算された分子量を示す。大腸菌で発現したPsbQ-Hisのマススペクトルを示す。17,918 (m/z)にシグナルが観察された。理論的に計算された質量によれば、このシグナルは1個のジアシルグリセロール及び1個のアシル基により修飾されたPsbQ-Hisに相当する。大腸菌で発現したPsbQ-Hisに由来する脂肪酸メチルエステルのガスクロマトグラムを示す。パルミチン酸(16:0)が最も豊富な脂肪酸であった。また、パルミトレイン酸(16:1)、シクロメチレン−ヘプタデカン酸(17:0シクロ)及びバクセン酸[18:1(11)]も検出された。大腸菌で発現したPsbQ-Hisのトリプシン消化フラグメントのMALDI-TOF MSスペクトルを示す。PsbQ-Hisのトリプシン消化フラグメントを通常使用される方法(A)又は本発明の方法(B)により分析した。矢印は、脂質により修飾されたPsbQ-HisのN末端フラグメントに由来するシグナルを示す。大腸菌で発現したPsbQ-Hisの脂質修飾されたN末端フラグメントのMALDI-TOF MSスペクトルを示す。PsbQ-HisのN末端フラグメントのMS/MSスペクトルを示す。PsbQ-HisのN末端フラグメントに由来するいくつかのyイオンが観察された。SDS-PAGEにより分離されたPsbQ-HisのMALDI-TOF MSスペクトルを示す。ゲル内消化の後、ペプチドフラグメントをアセトニトリル/0.1% TFA (1:2)(A)又はクロロホルム/メタノール(2:1)(B)により抽出した。SDS-PAGEにより分離されたPsbQ-HisのMALDI-TOF MSスペクトルを示す。トリプシン消化フラグメントを1% DMを含有する溶液により溶離し、クロロホルム/メタノールにより抽出した。1% 100 pmol(A)、25 pmol(B)及び5 pmol(C)に相当するタンパク質をSDS-PAGEに載せて分析に使用した。脂質により修飾されたN末端フラグメントに相当するシグナルを矢印により示した。 脂質修飾されたペプチド及び脂質修飾されていないペプチドを含む試料を有機溶媒で抽出することにより、試料から脂質修飾されたペプチドを抽出する方法。 有機溶媒が、低極性有機溶媒及び高極性有機溶媒を含む有機溶媒である、請求項1記載の方法。(a) リポタンパク質を含む試料をプロテアーゼ処理する工程(b) (a)の工程でプロテアーゼ処理した試料を有機溶媒で抽出する工程(c) (b)の工程で得られた抽出物を質量分析に付す工程 を含む、リポタンパク質の分析方法。 (a)の工程において、リポタンパク質を含む試料に界面活性剤を添加して遠心分離することにより得られる上清を試料としてプロテアーゼ処理する、請求項3記載の方法。 タンパク質に結合している脂質を分析することを含む、請求項3又は4記載の方法。 有機溶媒が、低極性有機溶媒及び高極性有機溶媒を含む有機溶媒である、請求項3〜5のいずれか1項記載の方法。(a) リポタンパク質を含む試料をゲル電気泳動に付す工程(b) 電気泳動後のゲルをプロテアーゼ処理する工程(c) プロテアーゼ処理した試料を、界面活性剤を含む溶液で抽出する工程(d) (c)の工程で得られた抽出物をさらに有機溶媒で抽出する工程(e) (d)の工程で得られた抽出物を質量分析に付す工程 を含む、リポタンパク質の分析方法。 界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、請求項7記載の方法。 有機溶媒が、低極性有機溶媒及び高極性有機溶媒を含む有機溶媒である、請求項7又は8記載の方法。 タンパク質に結合している脂質を分析することを含む、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。 【課題】リポタンパク質を少量で分析するための手段を提供する。【解決手段】本発明は、脂質修飾されたペプチド及び脂質修飾されていないペプチドを含む試料を有機溶媒で抽出することにより、試料から脂質修飾されたペプチドを抽出する方法、並びに該抽出方法を用いてリポタンパク質を分析する方法は、(a)リポタンパク質を含む資料をプロテアーゼ処理する工程、(b)(a)の工程で得られたプロテアーゼで処理した試料を有機溶媒で抽出する工程、(c)(b)の工程で得られた抽出物を質量分析に付す工程を含む、リポタンパク質の分析方法。【選択図】なし配列表