タイトル: | 公開特許公報(A)_亜鉛−ポルフィリン誘導体錯体による経口2型糖尿病治療薬 |
出願番号: | 2006133257 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C07D 487/22,A61K 31/555,A61P 3/10,A61P 5/50 |
桜井 弘 吉川 豊 タパン クマル サハ JP 2007302614 公開特許公報(A) 20071122 2006133257 20060512 亜鉛−ポルフィリン誘導体錯体による経口2型糖尿病治療薬 櫻井 弘 305029830 桜井 弘 吉川 豊 タパン クマル サハ C07D 487/22 20060101AFI20071026BHJP A61K 31/555 20060101ALI20071026BHJP A61P 3/10 20060101ALI20071026BHJP A61P 5/50 20060101ALI20071026BHJP JPC07D487/22A61K31/555A61P3/10A61P5/50 7 1 OL 9 4C050 4C086 4C050PA02 4C050PA05 4C086AA01 4C086AA02 4C086AA03 4C086CB04 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZC08 4C086ZC35本発明は、経口投与により、血糖降下作用、インスリン抵抗性改善作用を示し、ポルフィリン環を基本骨格とする種々の誘導体からなる化合物を配位子として含有する亜鉛有機錯体を含む、2型糖尿病治療薬剤に関する。糖尿病はインスリンの絶対的、もしくは相対的不足が生じることで、慢性の高血糖状態となり、様々な合併症が引き起こされる疾患である。1型糖尿病や重症の2型糖尿病など、インスリン依存状態である場合には、ヒトインスリンの頻回皮下注射が有効な治療法である。インスリン依存型糖尿病、糖尿病性昏睡、および厳密な血糖管理が必要な糖尿病合併妊娠などにおいては、ヒトインスリンの皮下注射が治療法として必須である。 また、軽症の成人型糖尿病においては、食事療法、運動療法が主な治療法であるが、これらの治療法で有効な効果が得られない場合、日常生活における「生活の質:クオリティー オブ ライフ」の向上を目的として、経口血糖降下薬が用いられている。代表的な経口血糖降下薬として、インスリン分泌を刺激するスルホニル尿素系の薬剤、肝臓の糖新生を抑制するビグアナイド薬、および腸管からの糖の吸収を緩除するα−グルコシダーゼ阻害薬の存在が知られている(非特許文献1−2参照)。 スルホニル尿素薬は、膵β細胞のスルホニル尿素受容体に結合し、ATP依存性Kチャネルを閉鎖することにより、β細胞を脱分極し、電位依存性カルシウムチャネルを開き、細胞内カルシウム濃度を上昇させ、内因性インスリン分泌を促進して血糖値を降下させる。ビグアイナイド薬は、肝臓における糖新生の抑制、小腸における糖吸収抑制、および筋肉、脂肪組織における糖取り込みの亢進作用により、血糖値を降下させる。またα−グルコシダーゼ阻害薬は、小腸において、二糖類を単糖類に分解する酵素であるα−グルコシダーゼの活性を減弱させることにより、糖質の分解、吸収を遅延させ、食直後の高血糖を是正し、糖尿病状態を改善する(非特許文献1−2参照)。 このような作用機構から、インスリンやスルホニル尿素薬、ビグアナイド薬、およびα−グルコシダーゼ阻害薬は、高血糖、糖尿、多尿、多飲、血管障害などの症状を呈する代謝疾患である糖尿病には有効であるが、低血糖により意識障害、脱力感、疲労感、動悸などの副作用も問題となっている(非特許文献3参照)。 一方、ポルフィリン類は、(化1)〜(化6)の構造を有する化合物であり、生体内の化学反応によってつくられる物質で、自分自身を触媒とすることができるため、「生きている有機化合物」と呼ばれることがある。さまざまなポルフィリンは生理的に重要なものが多く、たとえば、赤血球のヘモグロビン、ビタミンB12、および葉緑素のクロロフィルなども、ポルフィリン環を有している。(非特許文献4参照)。 現在ポルフィリン類は、光機能性材料、MRI造影剤、およびX線造影剤などを目的として、日常生活の数多くの分野で使用されている(特許文献1−2参照)。さらに、金属ポルフィリン錯体は、感光体、電子材料、機能性物質として利用され、特に亜鉛ポルフィリン錯体は電子供与体としての利用が可能である(特許文献3−4)。しかし、亜鉛ポルフィリン錯体の経口糖尿病治療薬としての使用は報告されていない。一方亜鉛は、インスリン様作用を持つことが報告されており、種々の亜鉛錯体が糖尿病モデル動物を用いた実験で、糖尿病治療薬としての可能性が示されているが(特許文献5および非特許文献5参照)、さらに、低毒性で活性の高い多様な錯体から、糖尿病発症の元凶であるインスリン抵抗性改善効果をもつ、抗糖尿病薬剤の開発が望まれており、本発明で用いた亜鉛錯体は、その可能性を有している。佐倉宏,ホルモンと臨床,53,(2005)9.Proks P., Reimann F., Green N., Gribble F., Ashcroft F., Diabetes,51,S(2002)368.Fanelli C.G., Porcellati F., Pampanelli S., Diabetes Metab. Res. Rev.,20,(2004)S32.Taketani S.,生化学、67(1995)233.小嶋良種,吉川豊,ビタミン,79,(2005)155.ヨードポルフィリン誘導体,特開平9−110872車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物,特開2006−69915金属ポルフィリン錯体,特開平5−255338Zn(II)ポルフィリン錯体,特開2005−350479亜鉛(II)有機錯体からなる血糖降下剤,PCT:WO 01/39769 A1本発明は、既存の糖尿病治療薬が有する低血糖障害などの副作用が少なく、低容量で高活性な糖尿病治療に有効な薬剤を提供することを目的とする。そのような課題を克服するために、本発明では、亜鉛イオンよりも毒性が低く、ほど良い安定性と、ほど良い脂溶性をもつポルフィリン誘導体を配位子とする亜鉛錯体からなる糖尿病治療薬、インスリン抵抗性改善薬を提供することを試みた。血糖降下作用を有する亜鉛錯体は、申請者らにより数多く開発されてきたが、窒素を配位原子にもち、経口投与可能な亜鉛錯体は今までにあまり開発されてこなかった。さらに、ポルフィリン誘導体を亜鉛に配位させることで、亜鉛イオンより吸収率や安全性を高め、血糖降下作用だけでなくインスリン抵抗性改善作用ももたせることが可能となった。この発明が解決しようとしている課題は、前記、亜鉛錯体を有効成分として含有する医薬組成物であり、糖尿病およびインスリン抵抗性を改善する為の医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、前記した亜鉛錯体のほかに、さらに製薬上許容される単体及びそれらの混合物を含有してなる医薬組成物が好ましい。 本発明は、亜鉛と錯体を形成し得る有機化合物と亜鉛源とを含んでなる薬剤に関する。亜鉛と錯体を形成し得る有機化合物としては、例えば、(化1)〜(化6)の他に、脂肪族のアミン誘導体等が好ましいものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明で用いられる亜鉛源としては、ヒトおよび/または他の動物への投与に好適な亜鉛源であればどのようなものでもよいが、例えば、亜鉛の鉱産塩や亜鉛有機錯体などが好ましいものとして挙げられる。亜鉛の鉱産塩としては、例えば、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、水酸化亜鉛、グルコン酸亜鉛等が挙げられる。なお、亜鉛源として亜鉛の鉱産塩を使用した場合には、pH調整剤として、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム等の塩基性水溶液や、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液を併用してもよい。本発明にかかる薬剤の形状は、粉末状、顆粒状、錠剤型、カプセル、液状、ゲル状、その他いずれのものでもよい。本発明に係る、亜鉛と錯体を形成し得る有機化合物と亜鉛源とを含んでなる薬剤は、亜鉛イオンよりも毒性が低く、ほど良い安定性と、ほど良い脂溶性をもち、かつ経口投与で血糖降下作用、インスリン抵抗性改善作用をもつ薬剤として大いに期待されるものである。さらに、糖尿病患者やその予備群などの健康状態をよくし、耐糖能障害、高脂質血症、アテロ−ム性動脈硬化症、心臓血管疾患、狭心症、高血圧、あるいは、味覚障害などの予防や治療に効果のある薬剤として大いに期待されるものである。また、本発明の錯体は、長期間の摂取においても、実質的な副作用を伴わず、安全である。以下の製造例および実施例は、この発明を説明するために示したものであり、本発明はこれらの実施例や試験例に限定されるものではない。(実施例1)本発明で用いた、亜鉛−ポルフィリン誘導体錯体は、Adlerらの方法を参考に合成した。(非特許文献6)Adler A.D. et al. J. Inorg. Nucl. Chem.,32,(1970)2443. 亜鉛(メソ−テトラキス(1−メチルピリジニウム−4−イル)ポルフィリン)錯体(Zn(TPPS))の合成は、DMF溶液中(250mL)で硫酸亜鉛と配位子(TPPS)をモル比2:1で混合し、160℃で8時間還流した。還流終了後、反応溶液を5mLまで濃縮し、アセトン溶液を加え、生じた沈殿を、セファデックスLH−20カラムを用いて精製し、目的物を得た。元素分析値:実験値、C:42.92、H:5.37、N:8.69%、ZnC44H28N4O12S4・17.5H2O・7.6C3H7NOに対する計算値、C:42.92、H:6.27、N:8.69%(実施例2) 亜鉛(メソ−テトラキス(4−スルホナトフェニル)ポルフィリン)錯体(Zn(TCCP))の合成は、DMF溶液中(250mL)で塩化亜鉛と配位子(TCCP)をモル比5:1で混合し、160℃で8時間還流した。還流終了後、反応溶液を2mLまで濃縮し、水を加え、沈殿を生成させることにより、目的物を得た。分析値:実験値、C:56.28、H:3.01、N:6.12%、ZnC44H28N4O8・C3H7NOに対する計算値、C:56.23、H:4.90、N:6.43%(薬理試験例1)非特許文献7に記載の方法に従い、以下の実験を行った。すなわち、ラット脂肪細胞の分離は、体重200gの雄性Wistarラットをエーテル麻酔下で放血致死させ、副睾丸周辺の脂肪組織から脂肪細胞を分離した。脂肪細胞をはさみで切り、1mlあたり20mgの牛血清アルブミン(BSA)および0.4mgコラナーゼを含むKRBバッファー(pH=7.4)中、37℃で1時間消化した。脂肪細胞をナイロンメッシュを通して濾過することにより未消化組織より分離し、コラゲナーゼを含まない上記バッファーで3回洗浄し、1.5×106細胞/mlに調整した。ラット脂肪細胞に対する効果は、シリコン処理されたバイアル中、上記で分離された脂肪細胞(1.5×106細胞/ml)を、各種濃度(10−4,5×10−4,10−3)のポジティブコントロールや被験物質と共に、KRBバッファー中で37℃、0.5時間プレインキュベートし、ついで、10−5 Mのエピネフリンを反応混合物に加え、得られた溶液を37℃で3時間インキュベートする事により評価した。3時間インキュベート後、反応混合物を氷冷し、3000rpmで10分間遠心分離した。細胞外溶液について、遊離脂肪酸(FFA)濃度をNEFAキットWAKOを用い、グルコース濃度はグルコースオキシダーゼ法(フジドライケム)を用いて測定し、IC50値およびEC50値を測定した(表1)。Nakai M. et.al., Biol. Pharm. Bull., 18 (1995)719.(薬理試験例2) 経口投与における抗糖尿病作用の評価には、2型糖尿病モデル動物のKK−Ayマウスを用いた。KK−Ayマウスに一日一回、28日間、5mg〜20mgZn/kg体重となるように、経口投与を行った。錯体投与時には、血糖値、体重、摂餌量、摂水量を同時にモニターした。28日間投与終了後、12時間絶食させ、体重1kgあたり1gのグルコースを経口投与し、糖負荷試験を行った。また、投与終了後にHbA1c値、血清インスリン値、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ値(GOT)、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ値(GPT)、および尿素窒素値(UN)の測定を行った。錯体投与群としてZn(TPPS)を経口投与したときの血糖値の変化及び体重の増減をそれぞれ図1と2に示し、糖負荷試験の結果を図3に示す。さらにHbA1c値、血清インスリン値、GOT、GPT、およびUNの測定結果を表2、および表3に示す。(結果)表1に示すように、本発明の亜鉛錯体は、ZnSO4と比較してラット脂肪細胞からの脂肪酸の遊離を顕著に抑制することができた。さらに、糖の取り込みに関しても、対照として用いたZnSO4と比較して有意に促進することが確認された。(表1)*p<0.05 vs. 錯体非投与群、**p<0.01 vs. 錯体非投与群 図1に示すように、血糖値は錯体投与後低下し始め、28日間の投与終了時には、投与前と比較してZn(TPPS)投与群では約250mg/dL低下した。体重は、投与期間中に大きな変化はみられなかった(図2)。28日間の投与終了後に行った糖負荷試験では、図3に見られるように、Zn(TPPS)投与群は、錯体非投与群と比較して有意に血糖値が低下しており、耐糖能の改善効果がみられた。表2に見られるように、HbA1c値も、錯体非投与群と比較して有意に低下していた。これらの結果から、Zn(TPPS)錯体の血糖値の低下は一時的なものではなく、長期にわたって持続的であることが明らかとなった。さらに、Zn(TPPS)錯体は、血清インスリン濃度も低下させ、インスリン抵抗性状態を改善できることが示された。(表2)** p<0.01 vs. 錯体非投与群表3の結果から、Zn(TPPS)錯体は、長期間の経口投与においても、肝毒性、腎毒性などは発現していないことが明らかとなった。(表3)本発明に係わるZn(TPPS)錯体を一日一回経口投与したときの血糖値の推移を示したものである。錯体非投与群(●)、Zn(TPPS)錯体投与群(○)。*p<0.05 vs. 錯体非投与群本発明に係わるZn(TPPS)錯体を一日一回経口投与したときの体重の推移を示したものである。錯体非投与群(●)、Zn(TPPS)錯体投与群(○)。28日間、Zn(TPPS)錯体を投与後、糖負荷試験を行った時の血糖値の推移を示したものである。錯体非投与群(●)、Zn(TPPS)錯体投与群(○)。*p<0.05 vs. 錯体非投与群、**p<0.01 vs. 錯体非投与群下記(化1)〜(化6)で表されるポルフィリン誘導体またはプロトポルフィリン誘導体と、二価亜鉛源から合成される亜鉛錯体。 請求項1に記載の化合物を含有することを特徴とする、経口投与可能な抗糖尿病薬剤。 二価亜鉛源が亜鉛の鉱産塩又は有機錯体である請求項2に記載の薬剤。 ポルフィリン誘導体が、構造式(化1)、(化2)、(化3)、(化4)、(化5)(式中、Rは水素、アルキル基、カルボキシル基、フェニル基、ハロゲン基、水酸基、スルホニル基、メチルピリジニル基、スルホニルフェニル基、およびカルボキシフェニル基を示す。R1〜R8は、たとえば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の、鎖状または環状の、飽和もしくは不飽和の炭化水素基;これら炭化水素基に置換していてもよい、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルバメート基、ウレア基、スルホニル基、スルフェニル基、ホスフェニル基、ホスフィニル基、スルフィド基、チオエーテル基、チオエステル基等の各種の官能基;ピリジル基、ピペリジル基、アジン基、アゾール基、イミダゾール基、トリアジル基、フリル基、カルバゾール基等の複素環基;糖、シクロデキストリンあるいはポルフィリン環を持つ有機基等の任意のものであってよい。R’はアルキル基、水酸基、カルボキシル基、スルホニル基、アミノ基、ニトロ基を示す。R’’は水素、カルボキシル基、スルホニル基、リン酸基、メチルカルボニル基)で表される化合物。 プロトポルフィリン誘導体が、構造式(化6)で表される化合物 ポルフィリン類が、(化1)〜(化6)であらわされる化合物及びそれらの混合物からなる請求項2に記載の薬剤。 抗糖尿病薬剤が、経口投与で血糖降下作用、インスリン抵抗性改善作用を有する化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載の薬剤。 【目的】本発明の目的は、長期投与において安全性が高く、高血糖およびインスリン抵抗性の治療が行える亜鉛含有の薬剤を提供することにある。【解決手段】上記目的を解決するにあたり、本発明では、ポルフィリン環を基本骨格とする種々の誘導体を配位子として含有する亜鉛有機錯体を合成し、Zn(TPPS)錯体が最も優れた血糖降下作用およびインスリン抵抗性改善作用を示すことを提案し、抗糖尿病薬剤の有効成分として使用する。【選択図】 図1