タイトル: | 公開特許公報(A)_トルエンの分離方法 |
出願番号: | 2006124676 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C07C 7/152,C07B 63/02,C07C 15/06 |
上桝 勇 JP 2007297294 公開特許公報(A) 20071115 2006124676 20060428 トルエンの分離方法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 上桝 勇 C07C 7/152 20060101AFI20071019BHJP C07B 63/02 20060101ALI20071019BHJP C07C 15/06 20060101ALI20071019BHJP JPC07C7/152C07B63/02 BC07C15/06 3 OL 6 4H006 4H006AA02 4H006AD16 4H006AD33 4H006BA47 4H006BD84 本発明は、トルエン及びn−ヘプタンを含有する混合物原料からトルエンを分離する方法に関する。 トルエン(沸点110.8℃)とn−ヘプタン(沸点98.4℃)の分離は工業的に極めて重要である。トルエンとn−ヘプタンの沸点差は10℃以上あるので蒸留で分離できそうだが、共沸混合物をつくるので、実際には精密蒸留でも分離はできない。トルエン及びn−ヘプタンを含有する混合物原料からトルエンを分離するためには、例えば、スルホランのような芳香族炭化水素抽出溶剤を用いる方法や共沸蒸留が行われている。しかし、これらの分離法はエネルギー消費が大きいので、ゼオライト膜や液膜を用いる省エネルギー的な膜分離技術の研究開発が行われてきたが、分離膜の開発では、選択性の高い膜の作製に成功しても膜透過速度が低いために実用化に至らないというのが現状である。 一方、本発明者は、芳香族炭化水素の分離法として、種々の化学修飾されたシクロデキストリンを使用し、該芳香族炭化水素との包接錯体を形成させて分離する方法を提案している(特許文献1参照)。特開2003−300914号公報 本発明の課題は、上記トルエン及びn−ヘプタンを含有する混合物から上記シクロデキストリンを使用してトルエンを分離する方法において、最も効率的な方法を開発し、上記従来方法による問題点を解消しようとする点にある。 本発明者は、分離選択性と物質移動量とがともに実用に堪えるような性能を備えた、トルエンとn−ヘプタンの分離法を提供するため、置換型(化学修飾)シクロデキストリンを分離剤として用いる方法を検討した。その結果、置換型シクロデキストリンの種類により、トルエンの分離能には差があり、その中でも、特にヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンがトルエン分離能に優れ、これらはトルエン/n−ヘプタン(50/50)の混合系において96%という驚くべきトルエン分離能を有し、極めて実用的であることを見いだし、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。(1)トルエン及びn−ヘプタンを含有する混合物原料からトルエンを分離するに際し、該混合物原料に、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを接触させることにより、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンとトルエンとの包接錯体を形成させることを特徴とする、トルエン及びn−ヘプタンを含有する混合物原料からトルエンを分離する方法。(2)上記(1)に記載の包接錯体を有機溶媒と接触させることによって、該包接錯体からトルエンを解離させ、有機溶媒相を回収することを特徴とする、上記(1)に記載の分離方法。(3)有機溶媒がペンタン、ヘキサン、ジエチルエーテル及びジイソプロピルエーテルから選ばれるものである、上記(2)に記載の分離方法。 本発明によれば、トルエンとn−ヘプタンのような共沸混合物を形成し、蒸留分離が困難な混合物からトルエンを極めて、高選択的に分離することができる。また、全ての操作を常温に近い温度で行うことができるので、省エネルギー的な分離プロセスを提供することができる。 置換型シクロデキストリンは、芳香族炭化水素化合物と選択的に包接錯体を形成する能力を有する。芳香族炭化水素化合物と鎖状飽和炭化水素化合物または環式飽和炭化水素化合物との混合物原料とシクロデキストリンとを接触させると、芳香族炭化水素化合物と選択的に錯体を形成するので、これを利用して、芳香族炭化水素化合物を分離することができる。 本発明においては、特定の置換型シクロデキストリンを使用して、トルエンとn−ヘプタンを含有する混合物から、トルエンを分離するものである。上記したように、トルエンとn−ヘプタンは共沸混合物を形成するので、通常の方法では分離が困難である。 本発明におけるトルエンとn−ヘプタンの混合物としては、例えば、蒸留等により分離したトルエン及びn−ヘプタンのうちの一方の成分に、他方の成分が混在する場合等の実質的にトルエンとn−ヘプタンの2成分からなるもの、あるいはヘプタン価測定後の廃液等が挙げられるが、本発明は、特にこれらに限定されるものではない。 本発明においては、置換型シクロデキストリンとしてヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(以下、これらを単にシクロデキストリンという場合がある。)を用いる。これらは水溶液の形態でトルエン及びn−ヘプタンを含有する混合物原料と接触させる。水溶液濃度は、5〜20wt%が好ましい。この水溶液と、トルエンとn−ヘプタンを含有する混合物原料を混合接触させると、トルエンは水相の上記シクロデキストリンに選択的に包接される。このときの温度は5〜40℃の範囲内で、通常は室温でよい。その後、静置すると、上記シクロデキストリン水相と原料の油相とに相分離する。これにより、トルエンを選択的にシクロデキストリン水相に濃縮でき、一方、n−ヘプタンは油相に残る。 次いで、シクロデキストリン水相をジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ペンタン、ヘキサン等の有機溶媒と常温で混合接触させると、包接錯体が解離して、トルエンはジエチルエーテル等の有機溶媒相に移動し、シクロデキストリンは水相に残る。有機溶媒相に抽出されたトルエンと有機溶媒との分離は通常の蒸留による。 ペンタンを用いると、約40℃の加熱で分離できる。一方、シクロデキストリン水相は、繰り返し、トルエンあるいはその他の芳香族炭化水素の分離に用いることができる。本発明においては1回の分離操作でも、極めて高濃度のトルエンを分離することが可能であるが、さらに、高濃度のトルエンを得ようとする場合には、得られた油分を原料として上記分離操作を繰り返すことによって、芳香族炭化水素化合物の濃度が99%以上の油分を得ることができる。一方、抽出残油の側ではn−ヘプタンの濃度を高めることができる。 以上は、基本的な液液抽出分離操作について記載したものであり、本発明においては、上記した各操作を逐一行ってもよいが、本発明の分離法を実施するに際しては、例えば、本出願人による特願2000−375324号(特開2001-316301号公報)の発明における分離方法及び包接分離装置を適用することができる。上記発明の包接分離装置を使用して本発明の分離法を行う場合について以下に説明する。第1図の装置は上記先願発明の分離装置の1例であり、図1の装置は角張ったU字管1からなり、U字管1のほぼ中央部に包接錯体の水溶液の流通が可能で、かつ油分は通過しない仕切り膜2を有する。この装置に、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの水溶液を注入した後、トルエン及びn−ヘプタンを含む混合物原料及び有機溶媒を注入し、上記シクロデキストリンの水溶液からなる水相(3)、上記混合物原料からなる油相(4)及び有機溶媒からなる油相(5)を形成させ、攪拌する。この際、上記水相(3)と上記混合物原料からなる油相(4)との液−液界面において、上記混合物原料中のトルエンは上記シクロデキストリンと選択的に包接錯体を形成し、水相(3)に取り込まれる。形成された包接錯体は、仕切り膜を通過し、有機溶媒からなる油相(5)と接触し、液−液界面において包接錯体は包接した芳香族炭化水素を解離し、解離された芳香族炭化水素は有機溶媒からなる油相(5)中に移行する。一方、トルエンを解離した上記シクロデキストリンは、再び上記混合物原料中のトルエンあるいは他の芳香族炭化水素の包接錯体の形成に使用される。また、トルエンを取り込んだ有機溶媒は、該装置外に取り出され、蒸留等の操作により、トルエンを分離回収する。また、トルエン分離後の有機溶媒は、再び油相(5)に戻すことができる。仕切り膜2は上記混合物原料からなる油相(4)と有機溶媒からなる油相(5)が混じり合うのを防止させるために設けられるものであり、これには、例えば、セルロースやその誘導体、レーヨン、羊毛等の毛類、絹、ネット、ガラス、シリカ、金属等の材質でできた濾紙、濾布、不織布、ネット、織物や、多孔性プラスチック膜、プラスチックを焼結して成形したプラスチック製硬質多孔体、セラミック繊維を焼結させてなるセラミックフィルター、ステンレススチール繊維を焼結してなるステンレス焼結フィルター等の、あるいはこれらを撥油処理した仕切り膜等が挙げられる。 このような仕切り膜を設ければ、攪拌を激しく行うことにより、包接錯体形成及び解離を効率的に行うことが可能であり、トルエンを有利に回収することができる。しかし、上記混合物原料からなる油相(4)と有機溶媒からなる油相(5)が混じり合うのを防止できる手段であれば特に限定されるものではない。 以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン(置換率1.0、置換率とは、シクロデキストリンの水酸基がヒドロキシプロピル基のような置換基と換わった割合を示す。以下同じ)5wt%水溶液10mlに、トルエンとn−ヘプタンの等モル混合物1mlを加え、分液ロートで3分間激しく混合した後、静置する。すると、二層に分かれる。上層は有機相、下層はシクロデキストリン水相である。シクロデキストリン水相に抽出分離された油分を正確に分析するため、次のような処理を行った。すなわち、静置により有機相とシクロデキストリン水相はほぼ完全に相分離するが、より完全に相分離させるために、下層のシクロデキストリン水溶液を5mlとり、2,500rpmで5分間遠心分離にかけた。その水相を2mlとり、ペンタン1mlと振り混ぜ、包接されていた油分を抽出した。以上の操作は全て室温で行った。この油分の組成をキャピラリガスクロマトグラフで分析した結果を表1に示す。 ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(置換率0.6)5wt%水溶液10mlに、トルエンとn−ヘプタンの等モル混合物1mlを加え、分液ロートで3分間激しく混合した後、静置する。以下、実施例1と同じ。シクロデキストリン水相に抽出分離された油分の組成を表1に示す。比較例1 ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン(置換率0.6)5wt%水溶液10mlに、トルエンとn−ヘプタンの等モル混合物1mlを加え、分液ロートで3分間激しく混合した後、静置する。以下、実施例1と同じ。シクロデキストリン水相に抽出分離された油分の組成を表1に示す。比較例2 マルトシル−β−シクロデキストリン5wt%水溶液10mlに、トルエンとn−ヘプタンの等モル混合物1mlを加え、分液ロートで3分間激しく混合した後、静置する。以下、実施例1と同じ。シクロデキストリン水相に抽出分離された油分の組成を表1に示す。比較例3 2,6−ジ−O−メチル−α−シクロデキストリン5wt%水溶液10mlに、トルエンとn−ヘプタンの等モル混合物1mlを加え、分液ロートで3分間激しく混合した後、静置する。以下、実施例1と同じ。シクロデキストリン水相に抽出分離された油分の組成を表1に示す。参考例1 ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン(置換率0.6)の5wt%水溶液10mlに、ベンゼンとシクロヘキサンの等モル混合物1mlを加え、分液ロートで3分間激しく混合した後、静置する。すると、二層に分かれる。上層は有機相、下層はシクロデキストリン水相である。下層のシクロデキストリン水溶液を5mlとり、2,500rpmで5分間遠心分離にかけた。その水相を2mlとり、ヘキサン1mlと振り混ぜ、包接されていた油分を抽出した。以上の操作は全て室温で行った。この油分の組成をキャピラリガスクロマトグラフで分析した結果を表2に示す。参考例2 2,6−ジ−O−メチル−α−シクロデキストリンの5wt%水溶液10mlに、ベンゼンとシクロヘキサンの等モル混合物1mlを加え、分液ロートで3分間激しく混合した後、静置する。以下、参考例1と同じ。シクロデキストリン水相に抽出分離された油分の組成を表2に示す。参考例3 ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(置換率0.6)の5wt%水溶液10mlに、ベンゼンとシクロヘキサンの等モル混合物1mlを加え、分液ロートで3分間激しく混合した後、静置する。以下、参考例1と同じ。シクロデキストリン水相に抽出分離された油分の組成を表2に示す。参考例4 ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン(置換率1.0)の5wt%水溶液10mlに、ベンゼンとシクロヘキサンの等モル混合物1mlを加え、分液ロートで3分間激しく混合した後、静置する。以下、参考例1と同じ。シクロデキストリン水相に抽出分離された油分の組成を表2に示す。本発明において使用可能な包接分離装置の一例を示す図である。トルエン及びn−ヘプタンを含有する混合物原料からトルエンを分離するに際し、該混合物原料に、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを接触させることにより、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンとトルエンとの包接錯体を形成させることを特徴とする、トルエン及びn−ヘプタンを含有する混合物原料からトルエンを分離する方法。上記請求項1に記載の包接錯体を有機溶媒と接触させることによって、該包接錯体からトルエンを解離させ、有機溶媒相を回収することを特徴とする、請求項1に記載の分離方法。有機溶媒がペンタン、ヘキサン、ジエチルエーテル及びジイソプロピルエーテルから選ばれるものである、請求項2に記載の分離方法。 【課題】 共沸混合物を形成し、蒸留操作において分離困難なトルエンおよびn−ヘプタン含有混合物からトルエンを効率的かつ省エネルギーで分離する方法を提供する。【解決手段】 トルエン及びn−ヘプタンを含有する混合物原料からトルエンを分離するに際し、該混合物原料に、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを接触させることにより、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンとトルエンとの包接錯体を形成させて、トルエンを分離する。【選択図】 なし