生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_間葉系幹細胞を用いる肺気腫の治療
出願番号:2006112365
年次:2008
IPC分類:A61K 35/28,A61P 11/00,A61P 9/00,A61P 43/00


特許情報キャッシュ

永谷 憲歳 JP WO2006112365 20061026 JP2006307857 20060413 間葉系幹細胞を用いる肺気腫の治療 財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 803000056 大野 聖二 230104019 森田 耕司 100106840 田中 玲子 100105991 北野 健 100114465 永谷 憲歳 JP 2005117431 20050414 A61K 35/28 20060101AFI20081114BHJP A61P 11/00 20060101ALI20081114BHJP A61P 9/00 20060101ALI20081114BHJP A61P 43/00 20060101ALI20081114BHJP JPA61K35/28A61P11/00A61P9/00A61P43/00 105 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,LY,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20081211 2007526844 19 4C087 4C087AA01 4C087AA02 4C087AA03 4C087BB44 4C087BB64 4C087CA04 4C087MA56 4C087MA66 4C087NA14 4C087ZA36 4C087ZA59 本発明は肺気腫を治療するための医薬組成物に関する。 肺気腫は,世界中で呼吸不全および死亡の主要な原因である。肺気腫は,末端細気管支から離れた気腔の異常な永久拡大により特徴づけられる(Lopez AD, Murray CC, 1990-2020. Nat Med. 1998;4:1241-1243; Michaud CM, Murray CJ, JAMA. 2001;285:535-539; American Thoracic Society. Standards for the diagnosis and care of patients with chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med. 1995;152:S77-S121)。肺気腫は,進行性の気流制限を呈する疾患であり,労作性呼吸困難を生じる。末梢気道や肺胞壁の破壊や肺胞細胞のアポトーシスによって病態が進行し,いったん生じたこれらの病理学的変化は非可逆的であるといわれている。したがって現時点では,肺気腫の治療は生活の質や運動耐容能の改善を目的とする対症療法が中心である。肺胞壁の破壊や肺胞細胞のアポトーシス抑制に対して有効な治療法はなく,また肺組織の再生に有効な薬剤はない。また,肺気腫には重複する作用を有する多くのメディエータが関与しているため,この疾病の進行を予防するための有効な治療法はない(Barnes PJ, N Engl J Med 2000;343:269-280)。 肺気腫における病理学的変化の1つである肺胞壁の破壊は,非可逆的であると考えられてきた。しかし,最近の研究は,骨髄細胞が末梢血中に移動して,肺線維芽細胞および肺胞に分化することを示した(Ishizawa K, et al., FEBS Lett. 2004;556:249-252; Yamada M, et al., J Immunol. 2004;172:1266-1272)。すなわち,肺気腫の治療には,骨髄細胞による肺再生が望ましいと考えられる。 間葉系幹細胞(MSC)は,骨髄中に存在する多能性成人幹細胞である(Pittenger MF, et al., Science. 1999;284:143-147)。MSCは,造血性幹細胞とは異なり,接着性であり,培養により増殖させることができる。MSCは種々の中胚葉細胞,例えば,骨芽細胞,軟骨細胞,骨格筋細胞,心筋細胞,および血管内皮細胞に分化することができる(Reyes M, et al., J Clin Invest. 2002;109:337-346; Toma C, et al., 2002;105: 93-98; Nagaya N, et al, Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2004;287:H2670-H2676)。しかし,MSCが,主として内胚葉に由来する肺組織の再生を誘導しうるか否かは不明である。最近の研究により,全身投与されたMSCがブレオマイシン誘起性創傷に応答して肺に集積することが示された(Ortiz LA, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2003;100:8407-8411)。また,MSCがインビトロで気道上皮細胞に分化することが示されている(Wang G, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2005;102:186-191)。しかし,MSCを投与することで実際に肺気腫の肺機能が改善するか否かは知られていなかった。また,肺機能の改善には肺胞のみでなく同時に血管が必要であるが,肺に集積したMSCは,肺胞と血管を同時に再生させることで肺組織を再生させることは知られていなかった。 本明細書において引用される参考文献は以下のとおりである。これらの文献に記載される内容はすべて本明細書の一部としてここに引用する。Lopez AD, Murray CC, 1990-2020. Nat Med. 1998;4:1241-1243Michaud CM, Murray CJ, JAMA. 2001;285:535-539American Thoracic Society. Standards for the diagnosis and care of patients with chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med. 1995;152:S77-S121Barnes PJ, N Engl J Med 2000;343:269-280Ishizawa K, et al., FEBS Lett. 2004;556:249-252Pittenger MF, et al., Science. 1999;284:143-147Reyes M, et al., J Clin Invest. 2002;109:337-346Toma C, et al., 2002;105: 93-98.Nagaya N, et al, Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2004;287:H2670-H2676Ortiz LA, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2003;100:8407-8411Wang G, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2005;102:186-191 本発明の目的は,肺気腫を治療する方法を提供することである。 本発明者らは,MSCを成熟肺胞上皮細胞とともに共培養すると肺胞に分化し,肺胞形成を誘導しうこと,ならびに,静脈内投与したMSCが肺に定着して,肺胞および血管系を再生し,このことによりラットのエラスターゼ誘起性肺気腫において肺構造および機能を改善しうることを見出した。 すなわち,本発明は,患者に間葉系幹細胞(MSC)を投与することにより肺気腫を治療する方法,ならびに間葉系幹細胞(MSC)を含有する,肺気腫を治療するための医薬組成物を提供する。間葉系幹細胞とは,種々の中胚葉細胞,例えば,骨芽細胞,軟骨細胞,骨格筋細胞,心筋細胞,および血管内皮細胞に分化することができる多能性成人幹細胞である。 本発明はまた,肺気腫の患者に間葉系幹細胞を投与することにより肺胞の再生を促進する方法,ならびに,間葉系幹細胞を含有する,肺気腫における肺胞の再生を促進するための医薬組成物を提供する。本発明はまた,肺気腫の患者に間葉系幹細胞を投与することにより毛管の血管新生を促進する方法,ならびに,肺気腫における毛管の血管新生を促進するための医薬組成物を提供する。投与方法としては,静脈内投与が好ましいが,手術時に患部に局所投与することや気管支鏡らを用いた経気道的投与も可能である。 別の観点においては,本発明は,患者から採取した間葉系幹細胞を培養することを含む,上述の本発明の医薬組成物を製造する方法を提供する。図1は,成熟肺胞上皮細胞との共培養におけるMSCの上皮様表現型への分化と共培養系における肺胞形成を示す。図2は,インビボにおけるMSCの上皮または内皮系への分化を示す。図3は,肺におけるMSC誘起性血管新生を示す。図4は,MSCによる血管新生因子および抗アポトーシス因子の産生を示す。図5は,MSCを移植したエラスターゼ処置ラットにおける肺の構造および機能の変化を示す。図6は,MSCを移植したエラスターゼ処置ラットにおける肺の構造および機能の変化を示す。 以下の実施例において示されるように,MSCを成熟肺胞上皮細胞とともに共培養すると,MSCは上皮様の表現型を示し,マトリゲル中で成熟肺胞上皮細胞と一緒に肺胞様構造を形成した。また,エラスターゼ誘起性肺気腫のラットモデルにおいて,静脈内投与したMSCは肺胞壁に取り込まれ,肺胞上皮細胞または血管内皮細胞に分化し,肺胞ネットワークおよび血管構造を形成し,このことにより,肺構造および機能が改善されることが明らかになった。 これらの結果は,MSCの移植が,肺において肺胞および血管系の再生により肺気腫に有益な効果を有することを示す。したがって,MSCの移植は,肺気腫の新たな治療方法として有用である。 間葉系幹細胞は,移植を受けるべき患者の骨髄,大腿骨,脛骨,脂肪組織,その他の組織から細胞を採取し,慣用の方法により培養することにより,容易に調製することができる。培養液としては,10〜15%の自己血清または牛胎児血清(FBS)及び抗生物質を補充したα−MEMやDMEMを用いることができる。必要に応じて塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)やアドレノメデユリンなどの成長因子を加えることがある。培養は,哺乳動物の細胞の培養に適する任意の条件で実施することができるが,一般的には37℃,5%CO2で数日間培養し,必要に応じて培地を交換する。間葉系幹細胞は培養基材に接着して増殖する性質を有するため,浮遊して増殖する造血性幹細胞と容易に分離することができる。間葉系幹細胞は,CD29,CD44,CD71,CD90,CD105等の細胞表面マーカーにより容易に確認することができる。また,培養した間葉系幹細胞は,慣用の方法を用いて凍結保存することが可能である。 このようにして得られた間葉系幹細胞は,PBS等の生理学的に許容しうる媒体に懸濁して,患者に投与することができる。投与方法としては,静脈内投与が好ましいが,手術時に患部に局所投与することや気管支鏡らを用いた経気道的投与も可能である。投与すべき間葉系幹細胞の数は,成人の場合,好ましくは1x107個〜1x109個である。細胞は,5〜10 mLのPBSに懸濁して投与する。 本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。また,本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2005−117431号の明細書および図面に記載の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。 以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが,これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。<方法>骨髄MSCの培養 MSCは先に記載されている方法にしたがって増殖させた(Pittenger MF, et al., Science. 1999;284:143-147)。簡単には,雄Lewisラットおよびグリーン蛍光蛋白質(GFP)を発現するトランスジェニックラットを犠牲死させ,大腿腔および脛骨腔をリン酸緩衝化食塩水(PBS)でフラッシングすることにより骨髄を回収した。骨髄細胞を100mmのディッシュに加え,10%FBSおよび抗生物質を補充したα−MEM中で培養した。培養第5−7日までに目に見える対称のコロニーが形成された。非接着性の造血細胞を除去し,培地を交換した。接着した紡錘形状のMSC集団は,細胞を最初に播種してから約4−5代以内の継代で5000万個以上に増殖した。肺気腫のモデル この実験では,体重180−210gの雄Lewisラット(Charles River Japan Inc.)を用いた。これらと同系のラットをMSCのドナーおよびレシピエントとして用いて,自己移植を模倣した。肺気腫は,ブタ膵臓エラスターゼ(600ユニット/kg;Sigma, St.Louis, MO)の気管内注入により生成させた。この実験プロトコルはThe Animal Care Committee of the National Cardiovascular Centerにより承認されたものである。MSC移植 エラスターゼ注入の7日後,1.5x106MSC/500μLのPBSまたは500μLのPBSのみをラットの左頸静脈から静脈内投与した。擬似ラットにも500μLのPBSを静脈内投与した。免疫蛍光染色 免疫蛍光染色は,マウス抗サイトケラチン5および8モノクローナル抗体(Chemicon)(上皮細胞のマーカー);ヤギ抗SP−Aポリクローナル抗体(Santa Cruz)(肺胞上皮細胞のマーカー);およびウサギ抗フォンビルブラント因子(vWF)ポリクローナル抗体(DAKO)(血管内皮細胞のマーカー)を用いて行った。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲート化IgG抗体(BD Pharmingen)を二次抗体として用いた。統計学的分析 数値は特に記載しない限り平均±sem.で表す。3群間のパラメータの比較は,一元分散分析(ANOVA),続いてシェフ(Scheffe)多重比較検定により分析した。3群間のパラメータの変化の比較は,反復測定用二元ANOVA,続いてシェフ多重比較検定により行った。P<0.05を有意であると考えた。<結果>肺胞上皮細胞との共培養における上皮分化および肺胞形成 MSCが上皮様表現型に分化するか否かを調べるために,GFPを発現するMSCを,成熟肺胞上皮細胞とともに4日間共培養した。最初に,ヒト成熟肺胞上皮細胞(A549)を播種し,10%FBSおよび抗生物質を補充したF−12K中で培養した。1日間培養した後,GFPを発現するMSCを肺胞上皮細胞上に1:1の比率で播種した。細胞は,10%FBSおよび抗生物質を補充したF−12K中で4日間共培養した。次に,細胞を4%パラホルムアルデヒドで15分間固定した。 結果を図1に示す。免疫細胞化学的分析により,培養した肺胞上皮細胞の大部分は,サイトケラチン(上皮細胞のマーカー)陽性であることが示された(図1A)。肺胞上皮細胞中に取り込まれたGFP発現MSCの一部はサイトケラチンを発現していた。 次に,MSCがインビトロで成熟肺胞上皮細胞とともに肺胞形成を誘導するか否かを調べるために,MSCと肺胞上皮細胞をマトリゲル中で6時間共培養した。結果を図1Bに示す。GFP発現MSCは成熟肺胞上皮細胞とともに取り込まれ,これらの細胞とともに肺胞様構造を形成した。MSCの取り込みおよび分化の評価 5匹のエラスターゼ処置ラットを用いて,移植されたMSCの肺における取り込みおよび分化を調べた。先に報告されているようにして(Messina LM, et al, Proc Natl Acad Sci USA. 1992;89:12018-12022),移植前に,懸濁したMSCをPKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kit(SigmaChemical Co.)を用いて蛍光色素で標識した。エラスターゼ注入の7日後に蛍光標識MSCを静脈内投与し,エラスターゼ注入の4週間後にラットを犠牲死させた。肺を摘出し,サンプルをOCT化合物中に埋包し,液体窒素中で急速に凍結し,切片を作成した。 結果を図2に示す。移植された細胞の一部は肺組織に集積し,肺胞壁に取り込まれた(図2A)。移植された細胞は,ホスト肺胞上皮細胞と一緒に肺胞形成に関与し,サイトケラチン陽性であった。移植されホスト肺胞細胞とともに取り込まれた細胞の一部はSP−A陽性であり,肺胞形成に寄与した(図2B)。このインビボの結果は,MSCが肺胞上皮表現型を有する細胞に分化することを示唆しており,共培養系においてMSCが成熟肺胞上皮細胞と一緒に肺胞形成を誘導したというインビトロの知見と一致する。すなわち,エラスターゼ処置肺において,移植されたMSCがホスト細胞と一緒に肺胞の再生を誘導する可能性が示唆された。 また,移植された細胞の少数が肺胞のインターセプトに認められ,これらの細胞はvWF陽性であった(図2C)。このことは,定着したMSCの一部が肺において血管内皮細胞に分化したことを示唆する。肺血管系の再生 エラスターゼ処置ラットにMSCを静脈内移植し,エラスターゼ注入の4週間後にラットを犠牲死させ,右肺(各n=5)からパラフィン切片を調製した。MSCの移植がエラスターゼ処置肺において血管新生を誘導するか否かを調べるため,組織切片をvWF(DAKO)について染色して,血管密度を評価した。肺胞数およびvWF陽性毛細管(直径100μm未満)の数は,無作為に選択した10高出力視野(x200)で計数した。毛細管密度は,100個の肺胞あたりの毛細管の数として表した。 図3に肺におけるMSC誘起性血管新生を示す。図中,スケールバー:100μm;データは平均±SEMである;*P<0.05vs.擬似群;†P<0.05vs.エラスターゼ群。図3Aは,擬似ラット(擬似群),ベヒクルを与えたエラスターゼラット(エラスターゼ群),およびMSCを与えたエラスターゼラット(エラスターゼ/MSC群)の肺におけるvWFの免疫組織化学実験を示す。MSCの移植は肺における毛細管密度を増加させた。図3Bは,毛細血管密度の半定量的分析の結果を示す。 全体として,vWF陽性の肺血管数はエラスターゼ注入の4週間後に減少した。MSCを移植すると,エラスターゼ処置肺においてvWF−ポジティブ肺血管の数が有意に増加した。 毛細管は肺胞壁の体積の実質的な部分を形成するため,肺気腫の進行にともなって毛細管ネットワークが破壊することは避けられない(Voelkel NF, Cool CD., Eur Respir J Suppl. 2003;46:28s-32s. Review)。したがって,肺気腫による変化を修復するためには,肺胞のみならず血管系の再生を同時に達成することが重要である。本発明においては,移植されたMSCの少数がvWF陽性であり,肺において血管形成に関与することが見いだされた。さらに,MSC移植は,エラスターゼ処置肺において減少したvWF陽性の肺血管数を有意に増加させた。これらの結果は,MSCがエラスターゼ処置ラットの肺において血管新生を誘導したことを示唆する。MSCにおける血管新生,抗アポトーシス,および有糸分裂促進因子の産生 MSCが血管新生,抗アポトーシス,および成長因子を産生するか否かを調べるため,培地交換の24時間後にコンディションド培地中のVEGFおよび幹細胞成長因子(HGF)を測定した。VEGFおよびHGFは,酵素イムノアッセイ(VEGF Immunoassay R&D Systems Inc.; rat HGF EIA,Institute of Immunology Co.,Ltd.)により測定した。MSCまたはベヒクルの投与の前および24時間後にVEGFおよびHGFのインビボでの循環レベルを測定した(各群n=6)。 結果を図4に示す。図中,データは平均±SEMである;*P<0.05,vs.移植前。インビトロでは,24時間培養後,MSCは線維芽細胞と比較して大量の血管内皮成長因子(VEGF)および幹細胞成長因子(HGF)を分泌していた(図4AおよびB)。インビボでは,MSCの移植は,移植の24時間後にVEGFの血中濃度を有意に増加させ,HGFも増加傾向を示したが,ベヒクル注入はこれらのパラメータを変化させなかった(図4CおよびD)。 移植されたMSCがインビボで大量の血管新生,抗アポトーシス,および有糸分裂促進因子,例えば,VEGFおよびHGFを分泌したことは,定着したMSCがパラクライン様式で血管新生を誘導した可能性を示唆する。先の血管新生の結果と合わせると,MSCは,毛細管様構造を生成する能力によるのみならず,成長因子媒介性パラクライン制御によっても,肺における新生血管形成に寄与しうると考えられる。肺上皮の再生 ラットにおいてエラスターゼ誘起性肺気腫に及ぼすMSCの静脈内投与の効果を調べるために,以下の3つの実験群を作製した:MSCを与えたエラスターゼラット(エラスターゼ/MSC群,n=11);PBSを与えたエラスターゼラット(エラスターゼ群,n=11);培地を与えた擬似ラット(擬似群,n=11)。 エラスターゼ注射の4週間後,ラットを麻酔し,コンピュータ制御小動物換気装置(flexiVent; Scireq, Montreal, PQ, Canada)を用いて静的肺コンプライアンスを測定した。肺を除去し,25cmH2Oの一定の経肺圧で24時間固定した。肺体積は,Scherleの方法(Scherle W. Mikroskopie 1970;26:57-60)により測定した。肺気腫の形態計測パラメータである平均肺胞径は,先に記載されているようにして(Thurlbeck WM. Thorax. 1967;22:483-496),光学顕微鏡により20の無作為に選択した視野について計算した。 結果を図5および図6に示す。図中,データは平均±SEM;*P<0.05vs.擬似群;†P<0.05vs.エラスターゼ群。エラスターゼ注入の4週間後,エラスターゼ群においては肺胞壁の破壊にともなう気腔拡大の発達が認められたが(図5A,倍率x100),MSCの移植はエラスターゼ誘起性肺気腫の変化(エラスターゼ/MSC群)を弱めた。エラスターゼ群における平均肺胞径は,擬似群と比較して有意に増加したが(図5B),この増加はMSCにより有意に弱められた。また,エラスターゼ群の肺体積は,擬似群と比較して有意に増加していたが(図6A),肺体積の増加は,MSC移植により有意に弱められた。静的肺コンプライアンスはエラスターゼ群において有意に増加し,この変化はMSCにより有意に弱められた(図6B)。 これらの結果は,MSCの移植が,エラスターゼ処置ラットにおいて,肺体積,静的肺コンプライアンス,および平均肺胞径の増加を有意に緩和したことを示す。したがって,MSC誘起性肺胞再生の結果として,肺の構造および機能が改善されたと考えられる。 本発明は,肺気腫の治療に有用である。間葉系幹細胞を含有する,肺気腫を治療するための医薬組成物。間葉系幹細胞を含有する,肺気腫における肺胞の再生を促進するための医薬組成物。間葉系幹細胞を含有する,肺気腫における毛管の血管新生を促進するための医薬組成物。患者から採取した間葉系幹細胞を培養することを含む,請求項1−3のいずれかに記載の医薬組成物の製造方法。肺気腫の患者に間葉系幹細胞を投与することにより,肺気腫を治療し,肺気腫における肺胞の再生を促進し,および/または,肺気腫における毛管の血管新生を促進する方法。間葉系幹細胞が静脈内投与される,請求項5記載の方法。間葉系幹細胞が患部に局所投与される,請求項5記載の方法。間葉系幹細胞が気管支鏡を用いて気道に投与される,請求項7記載の方法。 間葉系幹細胞(MSC)を含有する,肺気腫を治療するための医薬組成物が開示される。間葉系幹細胞とは,種々の中胚葉細胞,例えば,骨芽細胞,軟骨細胞,骨格筋細胞,心筋細胞,および血管内皮細胞に分化することができる多能性成人幹細胞である。本発明の医薬組成物は,肺気腫における肺胞の再生を促進し,毛管の血管新生を促進することができる。MSCを成熟肺胞上皮細胞とともに共培養すると肺胞に分化し,肺胞形成を誘導することができる。また,静脈内投与したMSCが肺に定着して,肺胞および血管系を再生し,このことによりラットのエラスターゼ誘起性肺気腫において肺構造および機能を改善することができる。


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