タイトル: | 公開特許公報(A)_細胞培養基材 |
出願番号: | 2006097596 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C12M 1/00,C12M 3/00 |
浅井 量子 西井 弘行 JP 2007267673 公開特許公報(A) 20071018 2006097596 20060331 細胞培養基材 日東電工株式会社 000003964 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 大杉 卓也 100135208 浅井 量子 西井 弘行 C12M 1/00 20060101AFI20070921BHJP C12M 3/00 20060101ALI20070921BHJP JPC12M1/00 AC12M3/00 A 4 OL 7 4B029 4B029AA08 4B029AA21 4B029BB01 4B029BB11 4B029CC02 4B029CC10 4B029GB09 本発明は、細胞培養に適するように表面処理を施したポリスチレン製の細胞培養基材に関する。 細胞培養の技術は、細胞の生化学的現象や性質の解明、有用な物質の生産などの様々な目的で利用されている。培養細胞は、遺伝工学を中心としてバイオテクノロジーの進展の中で細胞による物質生産技術の開発を中心とした技術が数多く報告されているが、物質生産だけでなく細胞そのものを医療等に用いることが試みられている。例えば再生医療などに代表される生体病変部や欠損部への補綴材、薬剤の評価などが挙げられる。細胞の種類には、リンパ球のような浮遊細胞の他に、何かに付着して生育する付着依存性細胞があり、各細胞の性質に応じて培養方法が各種試みられてきた。 付着依存性細胞は、生体外での浮遊状態では長期間生存することができない。培養基材の性質は、付着依存性細胞では、細胞の増殖や培養時の血清タンパク質の必要性の他、細胞の機能、活性あるいは産生産物の発現に著しく関連している。細胞の培養において、酸素をはじめとする栄養素の効率的供給や細胞老廃物の効率的除去のみでは、長時間にわたり培養細胞の活性や機能を維持することがほとんど不可能である。そこで細胞培養用の培養基材の性質を種々改変することで、細胞の活性、機能維持を向上させる試みが近年活発に行われている。 付着依存性細胞の細胞培養容器の材質として、光学的透明性、無毒性、良好な機械的物性および成形性、低コストなどの点からポリスチレンが広く使用されている。しかし、ポリスチレン表面は疎水性が強く細胞活性維持のために細胞の付着が著しく阻害されるという重大な欠点を有している。そこで、細胞培養に用いられるポリスチレンの表面処理の検討が各種試みられている。 細胞付着性能を上げるための一般的な表面処理法として、コラーゲン、ゼラチン、カゼインなどの細胞付着性タンパク質の塗布処理が施されている。これらの細胞付着性タンパク質は、培養細胞に作用して細胞の付着を容易にしたり、細胞の形態に影響を与えることが知られている。しかし上記した付着性タンパク質は、天然または合成により得ることができるが、高価なタンパク質原料を用い、複雑な精製工程を経て得られる純度の高いものであるため経済的ではない。また、これらの付着性タンパク質(特にコラーゲン)は、不安定なために培養器具にコートした後、滅菌を施すことができないという難点がある。 細胞付着性能を上げるための他の方法として、ポリスチレンなどの表面をプラズマ処理したものが市販されている。プラズマ処理によりポリスチレン表面の親水性が増加し、細胞が付着しやすくなるというものである(特許文献1、2)。特開平5−64579号公報特表2001−507218号公報 本発明は、安価であり、かつ各種滅菌処理を問題なく実施可能な細胞培養に適した細胞培養基材を提供することを目的する。 本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、細胞培養基材であるポリスチレンのゼータ電位が、pH5.0〜7.5の10mM NaCl水溶液中では通常はゼロからプラス電荷近傍であるところ、マイナス電荷に改変することで細胞増殖が効果的なされること見出し、本発明を完成した。 すなわち本発明は、以下よりなる。1.pH5.0〜7.5の10mM NaCl水溶液中でのゼータ電位がマイナス電荷に荷電されたポリスチレンからなる細胞培養基材。2.表面のゼータ電位が−130〜−15mVである前項1に記載の細胞培養基材。3.波長180〜400nmの波長の紫外線が照射されたポリスチレンからなる前項1または2に記載の細胞培養基材。4.照度2〜20mW/cm2の紫外線を10秒〜120分間照射されたポリスチレンからなる前項3に記載の細胞培養基材。 本発明のゼータ電位がマイナス電荷されたポリスチレンからなる細胞培養基材を用いて細胞を培養すると、プラス荷電された細胞培養基材で培養した場合に比べて、効果的に細胞の増殖が認められた。 以下、本発明について詳細に説明する。 ポリスチレンは、安価でかつ強靭で取扱い易い合成高分子材料であるため、ポリスチレン材料からなる細胞培養材料は多く使用されている。しかし、ポリスチレンの細胞培養用基材は、何も処理していないものであれば細胞付着性が低い。これは、ポリスチレンの表面が疎水性であるためである。また、ポリスチレンは何も処理していないものは、表面電位はゼロからプラス電荷を帯びている傾向があるといわれている。 本発明のポリスチレンは、重合度1000〜5000程度がよいが、基板形成後の強度の面から、好ましくは3000〜4000程度が好適である。本発明の細胞培養基材として使用されるポリスチレンは、自体公知の方法で形成処理することができる。例えばガラスなどの基板上にスピンコート法により形成したポリスチレンを細胞培養用基材として作製することができる。形成した細胞培養用基材をさらに処理することにより、本発明の表面のゼータ電位がマイナス電位に荷電している細胞培養用基材を得ることができる。 ポリスチレン表面のゼータ電位は、マイナス電位に荷電していることが必要であり、具体的にはpH5.0〜7.5の10mM NaCl水溶液中で計測した場合に、−130〜−0.1mV、好ましくは−80〜−15mVであれば良い。本発明において、ゼータ電位とは、いわゆる当業者が通常に用いられる意味で使用される。このような表面電位のポリスチレンを得ることができるのであれば、その処理方法は特に限定されないが、例えばコロナ処理などの放電処理、紫外線照射処理、電子線・放射線処理、化学処理等を施すことができる。特に操作が簡便であることから紫外線照射処理が好適である。この様な処理により、ポリスチレン表面を適度なマイナス電荷を帯びた表面に改質することができ、ポリスチレンの本来持つ強靭性等のバルクの性質は残したまま、表面の細胞付着性を付与することができる。 例えば紫外線照射処理の方法として、上記に示すゼータ電位を示すことができるのであれば、特許第3340501号に示されるようなエキシマレーザーを照射して親水化する方法を適用することができる。また、紫外線源としてエキシマレーザーの代わりに低圧水銀ランプを用いることもできる。紫外線の波長は180〜400nm、好ましくは200〜380nmであり、紫外線の照度は2〜20mW/cm2であり、好ましくは5〜10mW/cm2のものを10秒〜120分間、好ましくは30秒〜20分間照射することができる。 上記処理により得られた細胞培養用基材は、さらには水静的接触角を90°〜40°の範囲とすることが好ましい。この場合の接触角は、平面状態の接触角をいう。さらにJIS表面粗さのJIS-B-0601により定義される中心線表面平均粗さ(Ra)は、1.0〜5.0nmの範囲が好ましい。この場合の表面粗さとは、100μm2内での平均の粗さである。この様な性状のポリスチレンにより、親水性が増加し、細胞の付着性がより向上するものと考えられる。 上記処理により得られた細胞培養用基材がマイナス電荷側へシフトしたり、水静的接触角低下に表される親水化がおこるのは、ポリスチレンの高分子表面のC−H結合の水素原子が紫外線によって炭素原子より外れ、水酸基や水素原子などによって置換されるからと考えられる。特に細胞培養性の点からは、C−H結合から置換される共有結合種類として、C−OH、C=Oなどが好適である。 上記のような置換基が導入されることにより、細胞外マトリックスを形成するタンパク質などが細胞培養基材に付着しやすくなり、培養性が向上すると考えられる。 以下実施例を示して説明するが、本実施例は発明の内容をより理解するためのものであって、本発明は本実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。(実施例1)(基材の作製) スピンコートにより作製した重合度3000のポリスチレン基材上に石英ガラスを置き、該石英ガラスを介して低圧水銀灯にて15分間照射した。処理後のポリスチレン表面のゼータ電位は、pH5.6の10mM NaCl水溶液中で−17.2mVであり、水静的接触角は45.6°であった。(細胞培養) 次に、得られた上記処理ポリスチレン基材を、エチレンオキサイドガスで滅菌した。次に、L6細胞(マウス骨格筋由来細胞株)を40cells/mm2となるように該基材の処理面に播種し、DMEM(1%ペニシリン/ストレプトマイシン、10%ウシ胎児血清)中で4日間培養した。 細胞数の計測は、WSTアッセイキット(DOJINDO)を使用して行った。(実施例2)(基材の作製) スピンコートにより作製した重合度3000のポリスチレン基材をプラズマ処理装置にセットした。減圧化アルゴンガスを導入し、0.03Torrで150Wの電圧を印加し、4分間処理を行った。処理後のポリスチレンの基材処理面の表面ゼータ電位は、pH5.6の10mM NaCl水溶液中での表面ゼータ電位処理後のポリスチレンの基材処理面のpH5.6の10mM NaCl水溶液中で−62.8mVであり、水静的接触角は65.7°であった。(細胞培養) 次に、得られた上記処理ポリエチレン基材を、実施例1と同様にエチレンオキサイドガスで滅菌し、同様にL6細胞を播種して4日間培養し、細胞の計測を行った。計測手技は、実施例1と同様に行った。(比較例1) スピンコートにより作製した重合度3000のポリスチレンを、表面処理しない以外は、実施例1および2と同様にして細胞培養を実施し、細胞の計測を行った。(実験例) 実施例1、実施例2および比較例1の細胞培養用基材を用いてL6細胞の培養を行ったときの結果を表1および図1に示した。その結果、ゼータ電位がマイナス電荷されている基材を用いて培養した場合のほうが4日目のL6細胞の細胞数が多く、細胞培養に適していることが確認された。 以上説明したように、本発明の培養細胞用基材を用いると、ゼータ電位がプラスに電荷された細胞培養用基材に比べて細胞が明らかに増殖した。これにより、本発明の培養細胞用基材は、細胞培養を行う際に有意義であることが確認された。実施例1、2および比較例1の細胞培養基材を用いて培養したときの細胞の増殖の程度を示す図である。符号の説明□ L6細胞数(cell/mm2)4日目◆ ゼータ電位(mV)pH5.0〜7.5の10mM NaCl水溶液中での表面のゼータ電位がマイナス電荷に荷電されたポリスチレンからなる細胞培養基材。表面のゼータ電位が、−130〜−0.1mVである請求項1に記載の細胞培養基材。波長180〜400nmの紫外線が照射されたポリスチレンからなる請求項1または2に記載の細胞培養基材。照度2〜20mW/cm2の紫外線を10秒〜120分間照射されたポリスチレンからなる請求項3に記載の細胞培養基材。 【課題】本発明は、安価であり、かつ各種滅菌処理を問題なく実施可能な細胞培養に適した細胞培養基材を提供することを目的する。【解決手段】細胞培養基材であるポリスチレンのゼータ電位が、pH5.0〜7.5の10mM NaCl水溶液中では通常はゼロからプラス電荷近傍であるところ、紫外線照射処理等により基材表面のゼータ電位をマイナス電荷に改変することによる。ゼータ電位がマイナス電荷に改変された細胞培養用基材で細胞を培養すると、ゼータ電位がプラス電荷の細胞培養用基材で培養したものに比べて細胞が明らかに増殖した。【選択図】なし