タイトル: | 特許公報(B1)_免疫賦活剤 |
出願番号: | 2006058363 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | A61K 36/02,A61K 31/737,A61P 37/02 |
津々浦 由加 JP 3876271 特許公報(B1) 20061102 2006058363 20060303 免疫賦活剤 馬渡 祥二 506075698 津々浦 由加 506075702 津々浦 浩吉 506075713 綾田 正道 100119644 津々浦 由加 20070131 A61K 36/02 20060101AFI20070111BHJP A61K 31/737 20060101ALI20070111BHJP A61P 37/02 20060101ALI20070111BHJP JPA61K35/80 ZA61K31/737A61P37/02 A61K 36/02 A61K 31/737 特開2001−181303(JP,A) 国際公開第02/022140(WO,A1) 1 20 20060329 鶴見 秀紀 本発明は、ワカメのメカブから得られた多糖複合体からなる免疫賦活剤に関し、特に、マクロファージ等の白血球の活性特性を備えた免疫賦活剤(メカブ硫酸化ガラクトフカン)に関する。 海藻であるワカメの芽株は、ワカメの卵ともいえる遊走子が内在された胞子嚢が密生しており、生体に投与すると、免疫力を賦与するなど、多様な機能を備えていることが明らかにされている。 そして、食品化学の世界において、海藻から、アルギン酸、ポリフィランあるいはフコイダン等の興味深い多糖類が分離されている。一方、従来我国で、海藻食は健康をもたらすと信じられて来たが、近年、医学・生物学的な研究においても、海藻多糖類に免疫力増強効果があるとの報告が行われた。例えば、褐藻類のフコース含有多糖類(フコイダン)に、ヒト免疫不全症ウイルスに対する感染抑制効果(McClure et al., 1991)、担癌マウスにおける延命効果(Zhuang et al., 1995)、腺癌転移に対する抑制効果(Coombe et al., 1987)、あるいは腫瘍細胞増殖に対する抑制効果(Ellouali et al., 1991)が報告されている。私は、これらの効果の中に、白血球機能を促進させる作用が含まれていると思い、特に、海藻多糖類の貪食白血球走化活性について検討した。 そして、このようなワカメの抽出液を利用した免疫賦活剤に関する技術として、特開2002−105102号公報が知られている。特開2002−105102号公報 本願発明では、褐藻類と紅藻類に含まれる5種類の海藻多糖類抽出液を抽出し、エタノール分画により粗精製画分を得て白血球走化活性を測定したところ、限られた褐藻類の高分子多糖類画分にのみ活性が認められた。これまでに白血球走化活性が報告されている分子種は、ケモカイン類、S19リボソーム蛋白二量体、グラム陰性菌Skp等などの蛋白質と、補体C5aや細菌由来のformyl-Met-Leu-Phe、エラスチン分解ペプチド等のペプチド類が主要なもので、他には、ロイコトリエンB4等のアラキドン酸代謝産物という少数の脂質が知られているのみであり、多糖類の白血球走化因子はこれまで報告されていない。そこで、この走化性多糖類を、カラムクロマト法を用いて更に精製し、構成単糖の解析を行った。 リガンドが多糖類であることから、白血球側の走化性リセプターに関しても新たに推察する必要があったが、既知の走化性リセプターのリガンドとアンタゴニストを文献的に調べるうちに、二糖類のラクトースが、エラスチン・ペプチド・リセプターのアンタゴニストであることを想起し、それを手がかりにした実験により、エラスチン・ペプチド・リセプターそのものが走化性多糖類のリセプターであることを明らかにすることができた。 本願はこのような研究に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、マクロファージ等の白血球に強い走化活性を賦与する免疫賦活剤を提供することにある。 前記目的を達成するための手段として、請求項1記載の免疫賦活剤では、メカブ粉砕成分を含有する溶液を酵素処理することによってタンパク質を低分子へ加水分解し、その加水分解後の溶液を遠心分離し、その遠心分離後の上清画分を抽出して多糖類抽出液を調製し、その多糖類抽出液を遠心分離して沈殿画分を抽出し、その沈殿画分を1.0Mまでの食塩濃度勾配法による陰イオン交換クロマトグラフィーによって溶出し、その溶出液をウロン酸及びフコースの溶出ピークに従ってABCDの4つの区分に画分し、その区分のうち最も陰イオン度の強いD画分を抽出したことを特徴とする。 前記構成を採用したことにより、本発明では次の効果を有する。 本発明の免疫賦活剤を生体に投与すると、ワカメ胞子(メカブ)に多量に含まれる硫酸化ガラクトフカンが、ヒト貪食白血球のエラスチン・ペプチド・リセプターに作用して走化させる。 メカブから多糖類抽出液を調製し、その多糖類抽出液を遠心分離して沈殿画分を抽出するので、ワカメの芽株を変質させることなくフコイダン様多糖体を容易に抽出することができる。 そして、本発明のフコイダン様多糖体には、カリウム・カルシウム・リン・鉄等のミネラル類やビタミンA・B1・B2・ナイアシン・C等のビタミン類が豊富に含まれ、また、その他微量ではあるが生命の維持及び栄養素として必要なミネラル、即ち、必須微量元素が含まれる。 また、簡便かつ安価に工業的規模で免疫賦活物質を製造する方法が提供されるため、これにより、魚介類に限らず、哺乳動物やヒトに対しても、高い免疫賦活性を示す免疫賦活剤が提供される。さらに、この発明によって海藻類の漁獲から加工に至る間に大量に発生する海藻未利用物を有効利用でき、廃棄物を削減できる海藻未利用物の有益な分解処理方法が提供される。 そして、多糖類抽出液のうち最も陰イオン度の強いD画分を抽出するので、白血球に最も走化活性能のある免疫賦活剤が精製される。 以下、本発明を実現する最良の形態を説明する。[試料と試薬] 海藻類は近海養殖物を使用した。ヒト正常血バフィー・コートは日本赤十字社熊本血液センターから供給された。Streptomyoes griseus由来の蛋白質分解酵素Actinase ASは科研製薬(東京)から購入した。 Escherichia freundii由来のエンドβガラクトシダーゼは、(株)生化学工業(東京)製を使用した。牛胎児血清アルブミンは、Sigma社(米国セントルイス)製を用いた。フィコール・パクーは、Amersham Biosciences社(東京)製を用いた。走化活性測定用マルチウェル・チャンバーは、Neuro Probe社(米国べセスダ)から購入した。単球測定には細孔5μmの、また、多核球測定には3μmのポリカーボネイト薄膜Nuclepore filterをNuclpore社(米国プリーザント)から購入して使用した。その他の試薬は、(株)和光純薬(大阪)、あるいは(株)ナカライ薬品(京都)製の特級を使用した。エラスチン・ペプチドVal-Gly-Val-Ala-Pro-Glyは、Fmocを用いた固相合成法でCastiglione Morelli, et al.の報告(1997)に基づき抽出されたもので、九州工業大学大学院から供与を受けた。[動物] アルビノ・ハートレー系モルモット(体重 400 〜 500g前後)で、特殊病原体清潔環境下で飼育したものを九動から購入して用いた。熊本大学動物実験委員会の許可の基に実験に供した。 ワカメの胞子である芽株(メカブ)部分を純水で洗浄後、風乾させ、グラインダーにより微粒子化した。また、比較例として、クロメ及びモズクと、紅藻類のノリ及びトサカノリを風乾させ、グラインダーによりそれぞれ微粒子化した。 各パウダーを純水で膨潤させた後、オートクレーブで120℃、20分間加熱し、細胞壁を破壊すると共に蛋白質を変性させた。冷却後、NaOHを添加してpH7.0にあわせた後、密度を100mg乾燥重量/mlに調整し、乾燥重量で1/100量のActinase ASを添加して50℃で一晩処理し蛋白質を加水分解した。3,000rpmで25分間遠心処理して上清を回収し、多糖類抽出液とした。これを凍結乾燥した。 各凍結乾燥粉末を純水に再溶解後、5℃下で純エタノールを加えて、最終濃度を75%とし、5℃で6時間静置した後3000rpmで25分間の遠心処理により、沈殿画分と上清画分を得た。 沈殿画分は、90%および純エタノールで洗浄した後、凍結乾燥し、使用まで−20℃で保存した。上清画分は、エバポレーターで濃縮した後、凍結乾燥し、使用まで−20℃で保存した。各海藻の75%エタノール沈殿及び上清画分の凍結乾燥標品の供与を受けた。それらを秤量後リン酸バッファー化生食水に溶解して、走化性実験に用いた。〔 走化性多糖類の液体クロマト法による精製 〕 メカブの75%エタノール沈殿画分乾燥粉末を、12.5 mg/mlになるように20mMトリス塩酸バッファー(pH7.0)で溶解し、その20 mlを4℃下に、同バッファーで平衝化したトヨパールDEAE-650Sカラム(φ2.6cm×36cm、容積190ml)に投与した。同バッファーでカラムを洗浄した後、1.0Mまでの食塩濃度勾配法により吸着分子を順次溶出し、6mlごとに分画した。各画分の糖濃度を測定したところ、多糖の溶出パターンは4つのピークを示したので、それに基づいて各画分をプールし、それぞれのプールをA、B、C、D画分とした。これらの4画分を4℃で純水に対して透析した後、凍結乾燥した。それらを秤量後、リン酸バッファー化生食水に溶解して、走化活性測定に用いた。〔 D画分のエンドβガラクトシダーゼ処理 〕 上記のD画分凍結乾燥標品を酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.8)で、1 mg/mlの濃度に溶解し、37℃で60分間、最終濃度10 mU/mlのエンドβガラクトシダーゼで処理した。対照としては、エンドβガラクトシダーゼの代わりにその溶媒のみを加えたD画分溶液及び 10 mU/mlのエンドβガラクトシダーゼのみの溶液を、それぞれ37℃で60分間温置した。これらの試料をリン酸バッファー化生食水により、少なくとも30倍希釈し、走化性実験に用いた。〔 D画分の成分糖分析 〕 多糖類の誘導体化成分糖への分解には、トリメチルシリル(TMS)化法とアセチル化法を用いた。前者では、N,O-ビスメチルシリルアセトアミドを、後者では、ピリジン中で無水酢酸を用いて、それぞれTMS化単糖及びアセチル化単糖とした。誘導化単糖の定量分析はガスクロマト法にて行った。〔 単核球及び多核球の抽出 〕 単核球画分は正常ヒトのバフィー・コートを原料とし、Fernandezらの報告(1978)に従い、デキストラン沈殿法とフィコール・パクー濃度勾配法を順次用いて抽出した。この画分中の単球の割合は約20%で生存率は95%以上であった。多核球画分は、分子病理学分野の大学院学生から末梢血の供与を受け、同じくFernandezらの方法(1978)に従って抽出した。この画分の95%以上は好中球で生存率は98%以上であった。これらの白血球画分を走化性実験に用いた。〔 白血球走化活性の測定 〕 上記の単核球画分は、10%の非働化ウシ胎児血清を含むRPMI1640培養液に、また、多核球画分は、0.5%ウシ血清アルブミンを含むハンクスの培養液に、それぞれ106細胞/mlの密度に調整して使用した。走化活性は、Falkらの報告(1980)に従い、マルチウェル・チャンバー法を用い、5μm(単球用)あるいは3μm(多核球用)の細孔を有するNclepore膜で境した上室に細胞浮遊液を、下室に試料を注入し、37℃90分間5%炭酸ガス濃度下に温置した。Nuclepore膜を分離し、純エタノールに浸漬して細胞を固定した後、ギムザ液を用いて染色した。膜下面に遊走した細胞を光学顕微鏡強拡大5視野分数え、その数を走化活性とした。〔 皮内注射部位の組織学的観察 〕 バリカンで除毛したモルモット背部に、リン酸バッファー化生食水で充分に希釈した試料0.1mlを、27ゲージ注射針を用いて皮内注射した。12時間後、動物をエーテル麻酔下に脱血死させ、直ちに皮膚を採取して、10%ホルマリンで固定した。パラフィン包埋後、皮内注射中心部分を5μmの厚さに薄切し、ヘマトキシリン・エオジンで染色した標本を、光学顕微鏡で観察した。[結果]1.海藻多糖類分画の単球遊走活性 5種の海藻多糖類抽出液の75%エタノール沈殿画分と可溶性画分に分けて、単球遊走活性をマルチウェル・チャンバー法により測定した。対照には、貪食白血球に対して強い走化性を持つ補体系ペプチドC5aと、試料の溶媒であるリン酸バッファー化生食水を用いた。図1に、各沈殿画分を1mg/mlに合わせて測定した結果を示している。ワカメ・メカブに強い遊走活性が、また、クロメにやや弱い活性が認められた。他の褐藻類であるモズク及び紅藻類のノリとトサカノリには活性は認められなかった。一方、可溶性画分に関しては、ノリとクロメについて測定したが、いずれにおいても遊走活性は認められなかった。そこで以後の実験においてはメカブ75%エタノール沈殿画分を用いた。2.メカブ沈殿画分の遊走活性が走化活性であることの確認 単純なマルチウェル・チャンバー法では、方向性を持つ走化活性と、方向性を持たないランダム遊走活性の区別ができない。そこで、メカブ沈殿画分の示す遊走活性の濃度依存性を検討したところ、図2に示すように、10μg/ml 〜 1mg/mlまでの濃度依存性の活性曲線を示した。 そこで走化性であることを確認するために、チャンバーの下室のみならず上室にも試料を入れて細胞と共存させるチェッカーボード解析を行った。表1に示すように、下室の試料濃度が上室に比して高い程強い遊走性を、逆に、上室に共存する試料濃度が下室に比して高い程遊走性の抑制が認められた。これは、下室から上室に向った分子濃度勾配を認識して白血球が遊走していることを示しており、メカブ多糖類因子の持つ活性は、走化活性と確認された。 ギムザ染色による光顕形態像では、Nuclepore膜下面に走化して来た白血球はほぼ全て単球であった。チャンバー上室の白血球の約80%がリンパ球であること、また、膜細孔径5μmはリンパ球も充分に通過可能であることを考えると、この多糖類分子は、リンパ球よりも単球の方に指向性があるということになる。3.走化性多糖類の液体クロマト法による精製 予備実験的に、メカブ沈殿画分をSephacryl-S 200HRカラムを用いたゲル濾過法に転用したところ、多糖類の大半は100,000〜300,000の画分に集中し(データは非表示)、単球走化活性も同画分に溶出された。従って、メカブ走化性多糖類の分子量が数10万であることが明らかになったものの、精製度はほとんど上昇しなかった。 次に、メカブ沈殿画分を陰イオン交換カラムクロマトに供した。図3に示すように、全ての多糖類が20mMTris-塩酸バッファー条件下でDEAE-650Sに吸着したので、1.0Mまでの食塩濃度勾配法により溶出を試みたところ、A、B、C及びDの画分に分画された。単球に対する走化活性は、最も陰イオン荷が高い分子が含まれるD画分に集中した(図4)。そこで、D画分を用いて改めて単球走化性の濃度依存性を調べたところ、図5に示すように30μg /mlに至適濃度をもつ釣鐘状の濃度活性曲線を示した。これは、通常の走化因子に見られる型である。また、仮に走化因子の分子量を30万とした場合、至適濃度である30μg /mlは10−7 Mに相当する。4.D画分の成分糖解析 多糖類は繰り返し構造を持つ分子が多いため、単一種でも分子量がある範囲でばらつく上、硫酸化等の修飾率も完全には均一ではないため電気泳動上も幅広く移動し、精製度の検定が蛋白質分子のように明瞭にできない。そこで、D画分は精製された単一多糖類から成ると仮定し、成分糖解析を行った。 D画分の主要な単糖はガラクトースとフコースでおおよそ1対1の割合で含まれていたが、グルコース、マンノース及びウロン酸は存在しなかった。また、多量の硫酸基が認められた。このことは、D画分の多糖がほぼ単一の分子種であることを支持しており、その分子は硫酸化ガラクトフカンということになる。5.エンドβガラクトシダーゼ処理による単球走化活性の消失 ガラクトースが主要な構成成分であったので、分子内非硫酸化ガラクトースの還元末端側を加水分解するエンドβガラクトシダーゼでD画分を処理した後、単球に対する走化活性を測定したところ、図6に示すように、D画分の走化活性はほぼ完全に消失した。この結果は、D画分の主成分である硫酸化ガラクトフカン分子そのものが単球走化因子であることを支持している。6.好中球走化活性の確認 D画分の硫酸化ガラクトフカンが、好中球に対しても走化活性を示すかどうかの実験を行った。図7に示すように、D画分は好中球に対しても強い走化活性を示した。ただ、至適濃度は単球に対する場合よりもやや高いと思われた。 単球及び好中球双方に走化活性を示したことから、この硫酸化ガラクトフカンは、貪食白血球に対する走化因子と考えることができる。7.in vivoにおける貪食白血球浸潤惹起能 硫酸化ガラクトフカンがin vivoにおいても走化活性を発揮できるかどうかを調べるためにD画分、D画分をエンドβガラクトシダーゼで処理した試料及び最終濃度を一致させたエンドβガラクトシダーゼ溶液を、モルモット背部皮内に注射し、12時間後の組織切片をヘマトキシリン・エオジンで染色して光学顕微鏡で観察した。図8に示す様に、D画分注射部位には、真皮乳頭層から皮下肉様膜にかけて、好中球を主とし単球を含む白血球浸潤が広範に認められた。一方、エンドβガラクトシダーゼで処理したD画分の注射部位には極めて限定した白血球浸潤しか認めなかった。代わりに、同部には出血を認めたが、同様の出血はエンドβガラクトシダーゼ溶液でも認められたので、エンドβガラクトシダーゼそのものか、溶媒成分の作用により起こされた出血と考えられた。 従って、硫酸化ガラクトフカンはin vivoにおいても走化活性を発揮し、強い白血球浸潤を惹起すると結論された。8.D画分の単球走化性のラクトースによる抑制 硫酸化ガラクトフカンが結合して走化を惹起する貪食白血球上のリセプターを解明するにあたって、本発明者の以前の研究テーマであった単球のエラスチン・ペプチド・リセプターに関して、アンタゴニストが二糖類のラクトースであることを想起した。しかも、ラクトースはガラクトースを成分糖の一つとしている(他の単糖成分はグルコース)ので、エラスチン・ペプチド・リセプターこそが、同じくガラクトースを成分糖とする硫酸化ガラクトフカンのリセプターではないかと考えた。 そこで、メカブ75%エタノール沈殿画分にガラクトースを共存させた条件で走化活性を測定したところ、ガラクトースの濃度に依存してメカブ画分の走化活性が抑制された(図9)。これに対し、対照としてのC5aの走化活性はラクトースの共存による抑制は全く受けなかった。この結果は、エラスチン・ペプチド・リセプターが硫酸化ガラクトフカンのリセプターであることを強く示唆した。9.D画分が持つ走化活性のエラスチン・ペプチドによる競合阻害 硫酸化ガラクトフカンに対するリセプターが、エラスチン・ペプチド・リセプターであることを確認するために、エラスチン・ペプチドVal-Gly-Val-Ala-Pro-Glyを用いた競合実験を行った。走化性測定に用いる単核球画分を種々の濃度のエラスチン・ペプチドで、37℃で60分間前処理し、メカブの75%エタノール沈殿画分を用いた走化活性測定に用いたところ、前処理のエラスチン・ペプチド濃度に依存して、走化性の抑制が認められた(図10)。 この結果は、硫酸化ガラクトフカンに対する走化性リセプターがエラスチン・ペプチド・リセプターであることを示している。[考察] この発明でまず、1)海藻多糖類の中に、ヒトの貪食白血球に対する走化活性を持つ分子があること、2)その多糖類の走化活性は、エンドβガラクトシダーゼ処理で失活すること、3)その多糖類は数10万の分子量を有し、ガラクトースの他にフコースを含有し、高度に硫酸化されているために強い陰性荷電を持つことが、明らかとなった。この高分子多糖類は、構成成分から硫酸化ガラクトフカンと呼べるものである。 海藻の硫酸化ガラクトフカンで構造が明らかになっている分子はG-フコイダンと命名されているものだけである。図11のように1-6グリコシド結合で架橋された硫酸化ガラクトースの主鎖に、1-4結合で非硫酸化ガラクトースが分岐し、その非還元末端に硫酸化フコース分子が結合した6糖構造が単位となり、それが150回前後繰り返された配列であるという(Sakai, et al. 1999)。組成単糖種や陰性荷電の程度、分子量及びエンドβガラクトシダーゼに対する感受性から見て、このG-フコイダンそのものが走化因子である可能性が高いが、これまでにG-フコイダンの生理活性に関する報告はない。 一般にある分子が少なくともin vitroで白血球を走化させることが出来るためには、白血球膜表面の走化性リセプターに結合して細胞の遊走を起こし得ることが必要である。これまでに報告のある走化因子の多くは、蛋白・ペプチド性の分子であるが、その内、ケモカイン類は各種ケモカイン・リセプターに、補体系ペプチドC5a 、S19リボソーム蛋白2量体及びグラム陰性菌SkpはC5aリセプターに、また、formyl-Met-Leu-Pheはフォルミル化ペプチド・リセプターに、そしてエラスチン・ペプチドはエラスチン・ペプチド・リセプターに結合して走化活性を発揮する。 さて、これまで走化活性を持つ多糖類は知られていなかったし、種々の免疫力増強作用の報告されておるL-フコイダンやU-フコイダンの場合にも、それらが細胞に作用する際のリセプターは全く知られていなかったので、走化性硫酸化ガラクトフカンに対するリセプターが簡単に同定できるとは予想していなかった。しかし、幸運にも今回の研究で、エラスチン・ペプチド・リセプターがそのリセプターであることが明らかとなった。他の走化性リセプターが7回膜貫通性の一本鎖蛋白であるのに対して、エラスチン・ペプチド・リセプターは、3種の異なる蛋白の複合体という極めて特殊な構造を有している。それらの構成蛋白は、ガラクトース結合レクチン、シアル酸分解酵素及びカテプシンA(別名は防御蛋白)である(図11)。ガラクトース結合レクチンは、βガラクトシダーゼと同一の遺伝子にコードされたスプライス・バリアントで、酵素活性は無いが、ガラクトースへの結合部位は残っており、しかもβガラクトシダーゼには無いエラスチン結合部位が付加された分子量6万7千の蛋白とされている(Privitera, et al., 1998)。更には、このガラクトース結合レクチンは、単独でトロポエラスチンの分子シャペロンとして機能し、小胞体から細胞膜外までの輸送を担っていることも報告されている(Hinek, et al., 1996)。 従って、ガラクトースを含む硫酸化ガラクトフカン及びラクトース、並びにエラスチン・ペプチドの3分子が全てエラスチン・ペプチド・リセプターに結合するのは良く理解できる。しかしながら、硫酸化ガラクトフカンがアゴニストとして作用し、ラクトースが逆にアンタゴニストとして作用することに対する説明は難しい。7回膜貫通性リセプターの場合と同様に、エラスチン・ペプチドによる白血球の走化が百日咳毒素により抑制されることから、エラスチン・ペプチド・リセプターもG蛋白を介して細胞内にシグナルを伝達するとされている(Mochizuki, et al., 2002)。しかし、いかにしてG蛋白を活性型に変化させるかの分子機序は解明されていない。そこで、G蛋白の活性化には2個のリセプター間の架橋化が必要だとの仮説を立てることはできよう。分子内に複数のガラクトースを持つ硫酸化ガラクトフカンは、リセプターを架橋化できるのでアゴニストとして作用し、分子内に一つのガラクトースしか持たないラクトースは、結合するが架橋化出来ないのでアンタゴニストとして作用するとする考え方である。しかしその場合は、6アミノ酸残基しかないエラスチン・ペプチドがどうやってリセプターを架橋化できるかの説明が必要となる。疎水性のアミノ酸残基から成るエラスチン・ペプチドが塩溶媒の中で多量化しているかどうかを検討することが今後必要であろう。 一方、ラクトースのアンタゴニスト作用の機序として、ラクトースが結合することによりガラクトース結合レクチン分子がリセプター分子複合体から解離し、細胞膜からも遊離するとする説がある(Hance, et al., 2002)。しかし、この説は未だに実証されていない上、硫酸化ガラクトフカンがアゴニストとして作用することを説明できない。 合成エラスチン・ペプチドやエラスチンの分解産物のK-エラスチンが、エラスチン・ペプチド・リセプターに結合して単球を走化させることから、このリセプターが動脈硬化症の際の内膜への単球浸潤に関与しているとの説(Faury, et al., 1998)がある。内弾性板のエラスチン繊維が分解されて走化因子として作用するとの仮説に基づいたものである。 しかしこの仮説では、動脈硬化巣に浸潤した単球/マクロファージがエラスチン分解物の濃度が最も高いはずの内弾性板ではなくて、肥厚した内膜に局在している事実を説明できない。 それではエラスチン・ペプチド・リセプターの生体内での役割はなんなのであろうか。今回の発明で明らかになったのは、貪食白血球がこのリセプターを用いて海藻の硫酸化ガラクトフカンを認識して走化する事であった。しかし、自然の情況の中で海藻の多糖類がヒトの生体内に侵入することを想定するのは易しいものではない。走化性硫酸化ガラクトフカンは、褐藻類のワカメ・メカブに多量、クロメに少量、そして同じ褐藻類でもモズクには認められなかった。ワカメとモズクは、葉体と胞子体が分離しており、今回、ワカメは胞子体(メカブ)を、逆にモズクは葉体を抽出材料として用いている。他方、クロメでは葉体の表面に胞子が散在して付着している。このことから、走化性硫酸化ガラクトフカンは褐藻類胞子に特徴的に含まれる成分である可能性がある。胞子を形成するもので病原性を有する微生物として真菌類が挙げられる。一つの仮説として、エラスチン・ペプチド・リセプターが病原性真菌に対する生体防御に寄与している可能性がある。今のところ硫酸化ガラクトフカンを真菌類が作るという報告は見当たらないが、真菌がそれを産生することを否定することはできないと思う。むしろ、真菌が硫酸化ガラクトフカンあるいは類似の多糖類分子を産生するかどうかを積極的に調べる必要があると思われる。 走化性硫酸化ガラクトフカンは、モルモット皮内注射によっても貪食白血球浸潤を惹起した。in vivoで白血球走化を引き起こすには、その走化因子が血管外結合織成分に結合して安定な濃度勾配を作り出せることが必要である。formyl-Met-Leu-Pheとエラスチン・ペプチドを除く上記の各走化因子にはヘパリン結合能があり、それを担う塩基性部を介して血管外結合織の硫酸化グリコース・アミノグリカンに結合して安定な濃度勾配を作り、in vivoでも細胞浸潤を引き起こすとされている。これを持たないformyl-Met-Leu-Pheは、in vivoでは明瞭な白血球浸潤を惹起できない。硫酸化ガラクトフカンは、硫酸基を介して血管外結合織に結合し、安定な濃度勾配を形成していると想像される。 以上、実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。海藻多糖類75%エタノール文画画分の単球走化活性を示す図である。メカブ沈殿画分の遊走活性が走化活性であることを示す図である。陰イオン交換クロマトグラフィーによる分離状態を示す図である。陰イオン交換クロマトグラフィー各プール画分における単球の走化活性を示す図である。D画分の濃度依存性を示す図である。エンドβガラクトシターゼ処理による単球走化活性の消失を示す図である。硫酸化ガラクトフカンの好中球走化活性を示す図である。in vivo における貪食白血球浸潤惹起能を示す図である。硫酸化ガラクトフカンの単球走化性のラクトースによる抑制を示す図である。硫酸化ガラクトフカンに対する単球の走化反応のエラスチン・ペプチドによる競合阻害を示す図である。白血球膜エラスチン・ペプチド・レセプターへのエラスチン・ペプチドと硫酸化ガラクトフカンの結合模式図である。 メカブ粉砕成分を含有する溶液を酵素処理することによってタンパク質を低分子へ加水分解し、その加水分解後の溶液を遠心分離し、 その遠心分離後の上清画分を抽出して多糖類抽出液を調製し、 その多糖類抽出液を遠心分離して沈殿画分を抽出し、 その沈殿画分を1.0Mまでの食塩濃度勾配法による陰イオン交換クロマトグラフィーによって溶出し、その溶出液をウロン酸及びフコースの溶出ピークに従ってABCDの4つの区分に画分し、その区分のうち最も陰イオン度の強いD画分を抽出したことを特徴とする免疫賦活剤。【課題】 マクロファージ等の白血球に強い走化活性を賦与する免疫賦活剤を提供する。【解決手段】 メカブ粉砕成分を含有する溶液を酵素処理することによってタンパク質を加水分解し、その加水分解後の溶液を遠心分離し、その遠心分離後の上清画分を抽出して多糖類抽出液を調製し、その多糖類抽出液を遠心分離して沈殿画分を抽出し、その沈殿画分を陰イオン交換クロマトグラフィーによって溶出ピークに従ってABCDの4つの区分に画分し、その区分のうち最も陰イオン度の強いD画分を抽出した。【選択図】 図3