生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ゲルろ過クロマトグラフィーにおけるタンパク質の回収率を高める方法
出願番号:2006058218
年次:2006
IPC分類:G01N 30/26,G01N 30/88,C07K 1/16


特許情報キャッシュ

江島 大輔 弓岡 良輔 荒川 力 JP 2006242957 公開特許公報(A) 20060914 2006058218 20060303 ゲルろ過クロマトグラフィーにおけるタンパク質の回収率を高める方法 味の素株式会社 000000066 熊倉 禎男 100082005 小川 信夫 100084009 箱田 篤 100084663 浅井 賢治 100093300 平山 孝二 100114007 山崎 一夫 100119013 江島 大輔 弓岡 良輔 荒川 力 US 60/657735 20050303 G01N 30/26 20060101AFI20060818BHJP G01N 30/88 20060101ALI20060818BHJP C07K 1/16 20060101ALI20060818BHJP JPG01N30/26 AG01N30/88 JC07K1/16 4 OL 11 4H045 4H045AA20 4H045DA75 4H045GA22 本発明は、水溶性緩衝液を用いるゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、ピークとして回収しにくいタンパク質の回収率を高め、定量的な分析と調製操作を可能とする方法、具体的には、展開溶媒に添加するもので、抗体、疎水性タンパク質または疎水性ペプチドの回収率を高める際の促進物質に関するものである。 溶液中にあるタンパク質の分子量分布を知ることは、タンパク質の機能発現に必要な分子の会合単位を規定する上できわめて重要な要素である。また、タンパク質がその機能を発現する天然状態とは異なる会合状態にいたり、期待される作用とは別の作用(副作用)を発揮したり安定性を失ったりすることは、きわめて大きな問題となる。例えば、治療用のモノクローナル抗体は単量体に保たれる限り正しい作用と安定性を発揮するが、複数の分子が会合して凝集体を形成すると、重篤な副作用や抗原性、あるいは保存安定性の低下等を招くことが知られている(非特許文献1、2)。タンパク質の分子量分布を調べることは生化学の基礎研究としてだけでなく、タンパク質性医薬品の研究・開発や品質管理にとっても重要な技術である。タンパク質の分子量分布を調べる方法としては、ゲルろ過クロマトグラフィー、超遠心分析、電気泳動分析、光散乱分析、動的光散乱分析などが知られており、最近ではX線小角散乱も実用的な技術として利用されるに至った。しかし、その中でもゲルろ過クロマトグラフィーは、水溶液中のタンパク質分子量分布を最も簡便に調べる方法として、タンパク質の研究室から生産現場まで一貫して最も頻繁に使われる技術である。ゲルろ過クロマトグラフィーは、紫外部吸収だけでなく、光散乱、屈折率、密度を検出方法として併用することにより、超遠心分析に匹敵する情報を提供し得るといわれる(非特許文献3)。しかし、ゲルろ過クロマトグラフィーにはいまだ解決されるべき課題が残されている。タンパク質はゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、カラム充填剤の提供する固定相空隙に拡散することにより、その分子量に応じた溶出順序を形成する。この溶出順序を保持時間として分子量情報に換算するわけであるが、タンパク質は固定相空隙に拡散するだけでなく、充填剤そのものとも相互作用し、その相互作用が強いと溶出順序を遅らせ、分子量情報に影響を与えることがある。タンパク質の会合凝集体は特に充填剤との相互作用が強いため、カラムからピークとして溶出することすら完全に阻害されてしまうことがある。この場合、会合凝集体が含まれているにも関わらず、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分析は、会合凝集体を一切含まないとの完全に誤った結論を下すことになる。会合凝集体だけでなく、一般に疎水性の高いタンパク質やペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーは困難、との理解が一般的である。以上の現状を踏まえ、固定相(カラム充填剤)や移動相(展開溶媒)、検出方法の組み合わせを至適化することにより、より適切にゲルろ過クロマトグラフィーを実施する提案がなされているが(非特許文献4)、タンパク質会合凝集体や疎水性の高いタンパク質、疎水性の高いペプチドの充填剤との相互作用を緩和し、ピークとして回収する有効な手法はいまだ見出されていない。Stulikらが報告したように(非特許文献4)、充填剤とタンパク質との相互作用を緩和すると考えられる添加剤、例えば酸、無機塩、有機溶媒を移動相に適量添加しても、会合凝集体の分離に改善を得た例は例外的である。また、相互作用をより効果的に緩和できると思われるタンパク質変性剤を適量だけ移動相に添加することも提案されているが、同時にタンパク質の変性を誘起する危険性があるため、条件設定の困難なことは明らかである。つまり、会合凝集体を含むタンパク質や疎水性の高いタンパク質、疎水性の高いペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーを実施するにあたり、多大な条件検討をすることなく、会合凝集体や疎水性タンパク質のピークを定量的に回収する条件を見出すことは、当該領域技術者の強く期待するところであった。Pharmaceutical Research, 11 (1994), 764-771Blood, 95 (2000), 1856-1861Analytical Biochemistry, 325 (2004), 227-239Journal of Biochemical and Biophysical Methods, 56 (2003), 1-13 商業的に入手できるゲルろ過クロマトグラフィーカラムと移動相を用い、わずかの条件検討を経ることにより、従来はピークとして回収検出することの困難であったタンパク質会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのピークをより定量的に回収すること、具体的には、移動相に従来は用いられていなかった化合物を添加することを見出すことにある。 すなわち、本発明は、会合凝集体を含むタンパク質、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーを行うにあたり、それぞれに用いる展開溶媒の水溶性緩衝液に適量のアルギニンを添加し、タンパク質と充填剤の間に発生する不必要な相互作用を弱め、会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドをより定量的に回収する方法を提供することである。 展開溶媒の水溶性緩衝液にアルギニンを添加するだけで、従来は大きな問題となっていた充填剤とタンパク質の間に発生する相互作用を緩和できる。アルギニンはタンパク質の安定性や構造に影響を与えないことが既に知られている。したがって、本発明は、タンパク質の構造や安定性に影響を与えることなく、タンパク質会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーにおけるピーク回収を高める。これは、タンパク質、ペプチドの分析だけでなく、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いるタンパク質製造法に適用できることを意味する。 本発明で用いる、タンパク質会合凝集体、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドとゲルろ過クロマトグラフィー充填剤の間の相互作用緩和剤は、天然アミノ酸の1種であるアルギニン及び/またはアルギニン誘導体である。アルギニン誘導体とは、アルギニンの他、アセチルアルギニン、N-ブチロイルアルギニン等のアシル化アルギニン、カルボキシル基を修飾したアルギニンブチルエステル、カルボキシル基を除去したアグマチン、αアミノ基の替わりに水酸基を導入したアルギニン酸等がある。これらを酸付加塩の形態で使用することもできる。酸付加塩を形成し得る酸としては、塩酸等があげられる。 また、本発明で用いるアルギニン及び/またはアルギニン誘導体を添加した展開溶媒としての緩衝液は、目的とするタンパク質会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドの性質に合致したpHや緩衝液濃度に調整されればよく、特に特別のpHや緩衝液濃度を必要とするわけではない。pHの調整は通常、使用に供するの緩衝液(例えば、リン酸ナトリウム緩衝液)を用いて実施すればよく、アルギニン及び/またはアルギニン誘導体のpH調整は不要である。展開溶媒の緩衝液に添加されるアルギニン、及び/またはアルギニン誘導体の濃度は、0.05〜1.50M、好ましく0.05 〜 1.25 M、更に好ましくは0.10 〜 0.75 Mになるように添加することにより、タンパク質ピークの回収率を改善することができる。なお、溶質すなわち、会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドを含有する溶液中への、アルギニン及び/またはアルギニン誘導体の添加はどちらでも良い。溶質を含む溶液のイオン強度をアップしたい場合は、他の塩と同様にアルギニン及び/またはアルギニン誘導体添加しても良い。 次に、本発明で用いる溶出方法は、一種類の緩衝液を展開溶媒とする、いわゆるイソクラチック溶出法を用いるのが好ましい。 更に、本発明で用いるゲルろ過クロマトグラフィーカラムには市販品を用いればよく、例えばSuperdex 200HR10/30、Superdex75HR10/30(いずれもアマシャムバイオサイエンス製)、TSKG3000SWXL(東ソー製)等がある。 本発明で用いる会合凝集体等の回収率を改善できるタンパク質として、会合凝集体を含む天然のヒト抗体、もしくは遺伝子組換え法で調製されたヒト化抗体やヒト型抗体、マウス等のモノクローナル抗体がある。抗体の種やサブクラスには関係なく、会合凝集体を含む抗体であれば全てに適用可能である。 ここで、会合凝集体を含む抗体であるが、抗体は製造過程(濃縮、酸性pH暴露、加温操作)や保存過程(溶液、凍結溶液、凍結乾燥)において分子間で会合した、いわゆる会合凝集体を形成することが知られており、これが作用の低下や副作用の発現に関係しているといわれる(Monoclonal Antibodies, Principles and Applications., p.231-265, London: Wiley Liss, Inc., 1995)。会合凝集体の定量や分離除去は抗体を産業応用する上で極めて重要である。会合凝集体の形成メカニズムは一様ではないが、一度形成されたら容易には単量体へ解離することはない。会合凝集体は単量体よりも疎水性を増しており、クロマトグラフィーでの回収率の低くなることが知られている。 また、抗体以外のタンパク質であっても、疎水性が高く、水溶性緩衝液を用いるだけではピークとして回収しづらいタンパク質やペプチドにも適用可能である。天然からの抽出、あるいは遺伝子組み換え技術で調製されたなど、調製方法に関係なく適用可能である。 ここで、疎水性タンパク質、ペプチドであるが、一般的にタンパク質とペプチドを区別する明確な規定は存在していない。構成アミノ酸が50個以上であれば、これをタンパク質とみなす考えもあるが、一般的ではない。本発明では、一般にペプチドあるいはタンパク質とみなされる可溶性化合物のことを意味するものとする。 また、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドについても一般的に明確に規定することはできないが、本発明においてはそれらの構成アミノ酸に疎水性アミノ酸の含有量が多いものを意味するものとする。疎水性アミノ酸の比率が高まると、クロマトグラフィー担体との疎水性相互作用に起因する相互作用が強まり、溶出時間の延長が認められている(プロテインバイオテクノロジー、pp. 67、培風館、1996)。本発明は、疎水性相互作用に起因するクロマトグラフィーでの回収率低下を改善することに寄与する。 会合凝集体を60 %含む抗体をゲルろ過クロマトグラフィーで分析する場合、リン酸緩衝液のみを展開溶媒に用いると、抗体ピークの回収率は検出されたピークすべてを合計しても、カラムに供された抗体量の20 %に満たない場合が多い。更にこの場合、会合凝集体の組成比率は本来の60 %を大きく下回る20 %程度と誤った解釈をする場合が多い。ところが、展開溶媒にアルギニンを0.2 M添加したリン酸緩衝液を用いると、その他の条件を一切変更することなく、回収される抗体ピークはカラムに供された抗体量のほぼ100 %に達し、会合凝集体の組成比率は正しい60 %を示す。以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。 等張リン酸ナトリウム緩衝液に溶解された精製済みの抗フォンビルブランド因子モノクローナル抗体(マウスモノクローナル抗体、サブクラスIgG1;WO96/17078)、5.28 mg/mlの120 μlに0.5 Mクエン酸ナトリウム、pH 2.72を30μl添加し、pHを3.04に調整した。ここに0.2 Mクエン酸、pH 4.50を60μl、更に3 Mアルギニン塩酸塩、pH 4.52を240μl、それぞれ添加してpHを4.5に調整した。この溶液を45 ℃で20分間加温した後、1 Mトリス塩酸塩、pH 8.50を67.5 μl添加し、517.5 μl、pH 5.13に調整、最後に45 ℃で10分間加温した。直ちに室温にて冷却後、分光光度計を用いて上清に残留する抗体濃度を測定した。抗体濃度は、波長280 nmにおける吸光度1.4を1 mg/mlとして算出した。この加熱処理済みマウスモノクローナル抗体サンプルの15 μlを、TSK G3000SWXLをカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、pH 6.8を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図1-1に示したとおり、抗体単量体の溶出位置に一致する位置に主成分のピークを、会合凝集体を副成分ピークとして確認した。あらかじめ、会合体をまったく含まないマウスモノクローナル抗体の5.28 μgを同じゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmで検出される抗体ピークの面積値から単位重量あたりのピーク面積値を確認しておき、これを用いてピークとして回収された抗体量を算出した。結果を表1に示した。吸光度測定より、加熱処理後の上清には加熱前の92.4 %の抗体が残存していたことがわかったが、ゲルろ過クロマトグラフィーで検出された抗体単量体と会合凝集体のピーク合計回収率は加熱前に対して18.5 %と低く、上清中に残存した抗体の1/5程度しか検出できなかったことがわかった。このときのピーク全体に占める会合凝集体の含量は21.7 %であった。 次に、同じ加熱処理済みマウスモノクローナル抗体サンプルの15 μlを、上記のゲルろ過クロマトグラフィーの展開溶媒にアルギニン塩酸塩を0.2 Mになるように添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図1-2に示したとおり、検出されたピークの種類も量もアルギニンを展開溶媒に添加しなかった場合(図1-1)と比べて大幅に増大し、検出された抗体単量体と会合凝集体のピーク合計回収率は加熱前に対して92.8 %となり、吸光度から算出された上清中の抗体回収率の92.4 %にほぼ完全に一致した。このときのピーク全体に占める会合凝集体の含量は67.4 %となった。ピーク全体の回収率が吸光度法による定量値にほぼ一致したことから、アルギニンを展開溶媒の緩衝液に添加することにより、従来の条件では正しく検出できなかった抗体の会合凝集体を定量的に回収でき、その結果、上清中の会合凝集体含量を正確に定量できたことを意味した。 一方、展開溶媒にアルギニンを添加しなかった場合の会合凝集体含量は21.7 %と低く見積もられたが、これは会合凝集体のカラムからの回収率が不十分だったことによる誤った定量値である。(*)加熱処理前の抗体量に対する加熱処理後の抗体量の回収率(**)抗体単量体と抗体会合凝集体とを区別できない 以上の結果より、会合凝集体を含む抗体溶液をゲルろ過クロマトグラフィーに供して精製する場合、カラム充填剤に会合凝集体を残留させることなく、繰り返しゲルろ過クロマトグラフィーによる精製を実施できることから、分析だけでなく、抗体の製造方法としても有効なことがわかった。 70 mM酢酸ナトリウム、pH 5.0に溶解されたヒトアクチビン(米国特許US6084076、及びUS6756482)、0.70 mg/mlの10 μlをSuperdex 75HR 10/30(アマシャムバイオサイエンス製)をカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、0.75 M 塩化ナトリウム、pH 7.3を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図2-1に示したとおり、ヒトアクチビンは塩類と同じ位置に検出され、そのピークのエリアは波長280 nmの吸収から200290と計算された。ヒトアクチビンの分子量(26000ダルトン)に見合った溶出位置にはピークは全く検出されなかった。以上の結果は、ヒトアクチビンのゲルろ過クロマトグラフィーが成立しなかったことを意味し、会合凝集体の組成比率を求めることはできなかった。一方、全く同じヒトアクチビンサンプルの10μlを上記のゲルろ過クロマトグラフィー展開溶媒の0.75 M 塩化ナトリウムの替わりに0. 75Mのアルギニン塩酸塩を添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図2-2に示したとおり、ヒトアクチビンはその分子量(26000)に見合った溶出位置に対称性のあるピークとして確認され、そのピークエリアは波長280 nmの吸収から155027と計算された。また、ヒトアクチビンの前方に会合凝集体ピークが確認され、そのピークエリアは3687であった。ピークエリアの比率から、会合凝集体の組成比率は2.3 %と計算された。以上、展開溶媒にアルギニンを添加するだけで、通常の緩衝液を展開溶媒とするゲルろ過クロマトグラフィーではピークを分離、回収することのできないヒトアクチビンのゲルろ過クロマトグラフィーを可能にできた。 10 mMクエン酸ナトリウム、8.7 mMリン酸ナトリウム、pH 7.0に溶解されたヒトインターロイキン6(米国特許US5610284)、2.13 mg/mlの3.5 μlをSuperdex 75HR 10/30(アマシャムバイオサイエンス製)をカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、0.75 M 塩化ナトリウム、pH 7.3を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図3-1に示したとおり、ヒトインターロイキン6の単量体と会合凝集体は分離された。単量体はヒトインターロイキン6の分子量(21000ダルトン)に見合った溶出位置に対称性の高いピークとして検出され、そのピークのエリアは波長280 nmの吸収から182028と計算された。単量体の前方に溶出された会合凝集体ピークのエリアは9012と計算された。ピークエリアの比率から、会合凝集体の組成比率は4.7 %と計算された。一方、全く同じヒトインターロイキン6サンプルの3.5μlを上記のゲルろ過クロマトグラフィー展開溶媒の0.75 M 塩化ナトリウムの替わりに0. 75Mのアルギニン塩酸塩を添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図3-2に示したとおり、ヒトインターロイキン6はその分子量(21000)に見合った溶出位置に対称性のあるピークとして同様に確認され、そのピークエリアは波長280 nmの吸収から182226と計算された。また、単量体の前方に溶出された会合凝集体ピークのエリアは4779と計算された。ピークエリアの比率から、会合凝集体の組成比率は2.6 %と計算された。ヒトインターロイキン6はゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、展開溶媒に添加された塩が塩化ナトリウムかアルギニン塩酸塩であるかに関係なく、単量体と会合凝集体のピークは良好に分離、回収されることがわかった。アルギニン塩酸塩を添加した場合でも会合凝集体が正しく分離、回収されたことから、展開溶媒中のアルギニン塩酸塩が分析進行中に会合凝集体を単量体に解離させ、不当に低い会合凝集体含量を提示することはない、とわかった。 ヒト線維芽細胞成長因子(バイオソース製、カタログ番号PHG0026)を純水に溶解し、0.25 mg/mlに調整した。この20 μlをSuperdex 75HR 10/30(アマシャムバイオサイエンス製)をカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、0.2 M 塩化ナトリウム、pH 6.8を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図4-1に示したとおり、ヒト線維芽細胞成長因子のピークはその分子量(17000)から予想される溶出位置より遅れて確認され、そのピークのエリアは波長280 nmの吸収から59281と計算された。一方、全く同じヒト線維芽細胞成長因子サンプルの20 μlを上記のゲルろ過クロマトグラフィー展開溶媒の0.2 M 塩化ナトリウムの替わりに0.2Mのアルギニン塩酸塩を添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図4-2に示したとおり、塩化ナトリウムを添加した前述よりもやや前方の位置に溶出され、そのピークエリアは波長280 nmの吸収から154616と計算された。塩化ナトリウムの替わりにアルギニン塩酸塩を添加することにより、ピークの溶出位置がより前方に移動し、かつピークエリアが2.6倍に増加したことは、ヒト線維芽細胞成長因子とカラム充填剤との不必要な相互作用が弱まり、ゲルろ過クロマトグラフィーがより良好に成立したことを意味した。尚、この場合は会合凝集体のピークはアルギニンの添加有無に関わらず検出されなかったため、会合凝集体の組成比率は算出されなかった。 40 mMトリス塩酸緩衝液、pH 7.4に溶解したヒトインターフェロンガンマ(バイオソース製、カタログ番号PHC4031)、0.96 mg/mlの5μlをSuperdex 75HR 10/30(アマシャムバイオサイエンス製)をカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、0.4 M 塩化ナトリウム、pH 6.8を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図5-1に示したとおり、溶出ピークは一切検出できなかった。展開溶媒中の塩化ナトリウム濃度を0.2 M、0 Mまで下げても同様にピークは検出できなかった。また、塩化ナトリウムの替わりにタンパク質変性剤である1 M尿素を添加しても、同様にピークは検出できなかった。一方、全く同じヒトインターフェロンガンマサンプルの5 μlを上記のゲルろ過クロマトグラフィー展開溶媒の塩化ナトリウムや尿素の替わりに0.4Mのアルギニン塩酸塩を添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図5-2に示したとおり、溶出ピークを確認でき、そのピークのエリアは波長280 nmの吸収から26914と計算された。以上、展開溶媒にアルギニンを添加するだけで、通常の緩衝液を展開溶媒とするゲルろ過クロマトグラフィーではピークを分離、回収することのできないヒトガンマインターフェロンのゲルろ過クロマトグラフィーを可能にできた。尚、この場合は会合凝集体のピークはアルギニンの添加有無に関わらず検出されなかったため、会合凝集体の組成比率は算出されなかった。マウスモノクローナル抗体のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.2 M 塩化ナトリウムを添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。条件の詳細は文中に記した。マウスモノクローナル抗体のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.2 M アルギニン塩酸塩を添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。条件の詳細は文中に記した。ヒトアクチビンのゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.75 M 塩化ナトリウムを添加): 矢印がヒトアクチビンを示す。サンプルに含まれた溶媒のピークは矢印の部分に重なった。条件の詳細は文中に記したヒトアクチビンのゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.75 M アルギニン塩酸塩を添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。20分以降のピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。溶媒条件の詳細は文中に記した。ヒトインターロイキン6のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.75 M 塩化ナトリウムを添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。20分以降のピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。ヒトインターロイキン6のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.75 M アルギニン塩酸塩を添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。20分以降のピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。ヒト線維芽細胞増殖因子のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.2 M 塩化ナトリウムを添加): 矢印がヒト線維芽細胞増殖因子を示す。その後方の大きなピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。ヒト線維芽細胞増殖因子のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.2 M アルギニン塩酸塩を添加): 矢印がヒト線維芽細胞増殖因子を示す。その後方の大きなピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。ヒトインターフェロンガンマのゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.4 M 塩化ナトリウムを添加): 条件の詳細は文中に記した。ヒトインターフェロンガンマのゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.4 M アルギニン塩酸塩を添加): 矢印がヒトインターフェロンガンマを示す。20分以降のピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。 会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質または疎水性ペプチドの少なくとも一種を含む溶液をゲルろ過クロマトグラフィーで精製する方法において、展開溶媒中に0.05 M〜1.5 Mアルギニン及び/またはアルギニン誘導体を含有させて展開することによりなる、抗体、疎水性タンパク質、または疎水性ペプチドの回収率を高める方法。 展開溶媒中のアルギニン及び/またはアルギニン誘導体濃度が、0.05 〜 1.25 M である請求項1記載の方法。 展開溶媒中のアルギニン及び/またはアルギニン誘導体濃度が、0.10 〜 0.75 M である請求項1記載の方法。 会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質または疎水性ペプチドと、ゲルろ過クロマトグラフィー充填剤との間の相互作用緩和剤であって、アルギニン及び/またはアルギニン誘導体を含む前記相互作用緩和剤。 【課題】商業的に入手できるゲルろ過クロマトグラフィーカラムと移動相を用い、わずかの条件検討を経ることにより、従来はピークとして回収検出することの困難であったタンパク質会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのピークをより定量的に回収すること、具体的には、移動相に従来は用いられていなかった化合物を添加することを見出すことにある。【解決手段】本発明は、会合凝集体を含むタンパク質、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーを行うにあたり、それぞれに用いる展開溶媒の水溶性緩衝液に適量のアルギニンを添加し、タンパク質と充填剤の間に発生する不必要な相互作用を弱め、会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドをより定量的に回収する方法を提供する。【選択図】なし


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る

特許公報(B2)_ゲルろ過クロマトグラフィーにおけるタンパク質の回収率を高める方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ゲルろ過クロマトグラフィーにおけるタンパク質の回収率を高める方法
出願番号:2006058218
年次:2012
IPC分類:C07K 1/16,G01N 30/26,G01N 30/88


特許情報キャッシュ

江島 大輔 弓岡 良輔 荒川 力 JP 4941882 特許公報(B2) 20120309 2006058218 20060303 ゲルろ過クロマトグラフィーにおけるタンパク質の回収率を高める方法 味の素株式会社 000000066 熊倉 禎男 100082005 小川 信夫 100084009 箱田 篤 100084663 浅井 賢治 100093300 平山 孝二 100114007 山崎 一夫 100119013 江島 大輔 弓岡 良輔 荒川 力 US 60/657735 20050303 20120530 C07K 1/16 20060101AFI20120510BHJP G01N 30/26 20060101ALI20120510BHJP G01N 30/88 20060101ALI20120510BHJP JPC07K1/16G01N30/26 AG01N30/88 J C07K 1/00−19/00 G01N 30/26 G01N 30/88 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) PubMed 特表2004−537042(JP,A) J. Biochem. Biophys. Methods,2003年 6月30日,Vol.56, No.1-3,pp.1-13 Protein Expr. Purif.,2004年 8月,Vol.36, No.2,pp.244-248 Biochem. Biophys. Res. Commun.,2003年 4月25日,Vol.304, No.1,pp.148-152 4 2006242957 20060914 10 20090129 小金井 悟 本発明は、水溶性緩衝液を用いるゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、ピークとして回収しにくいタンパク質の回収率を高め、定量的な分析と調製操作を可能とする方法、具体的には、展開溶媒に添加するもので、抗体、疎水性タンパク質または疎水性ペプチドの回収率を高める際の促進物質に関するものである。 溶液中にあるタンパク質の分子量分布を知ることは、タンパク質の機能発現に必要な分子の会合単位を規定する上できわめて重要な要素である。また、タンパク質がその機能を発現する天然状態とは異なる会合状態にいたり、期待される作用とは別の作用(副作用)を発揮したり安定性を失ったりすることは、きわめて大きな問題となる。例えば、治療用のモノクローナル抗体は単量体に保たれる限り正しい作用と安定性を発揮するが、複数の分子が会合して凝集体を形成すると、重篤な副作用や抗原性、あるいは保存安定性の低下等を招くことが知られている(非特許文献1、2)。タンパク質の分子量分布を調べることは生化学の基礎研究としてだけでなく、タンパク質性医薬品の研究・開発や品質管理にとっても重要な技術である。タンパク質の分子量分布を調べる方法としては、ゲルろ過クロマトグラフィー、超遠心分析、電気泳動分析、光散乱分析、動的光散乱分析などが知られており、最近ではX線小角散乱も実用的な技術として利用されるに至った。しかし、その中でもゲルろ過クロマトグラフィーは、水溶液中のタンパク質分子量分布を最も簡便に調べる方法として、タンパク質の研究室から生産現場まで一貫して最も頻繁に使われる技術である。ゲルろ過クロマトグラフィーは、紫外部吸収だけでなく、光散乱、屈折率、密度を検出方法として併用することにより、超遠心分析に匹敵する情報を提供し得るといわれる(非特許文献3)。しかし、ゲルろ過クロマトグラフィーにはいまだ解決されるべき課題が残されている。タンパク質はゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、カラム充填剤の提供する固定相空隙に拡散することにより、その分子量に応じた溶出順序を形成する。この溶出順序を保持時間として分子量情報に換算するわけであるが、タンパク質は固定相空隙に拡散するだけでなく、充填剤そのものとも相互作用し、その相互作用が強いと溶出順序を遅らせ、分子量情報に影響を与えることがある。タンパク質の会合凝集体は特に充填剤との相互作用が強いため、カラムからピークとして溶出することすら完全に阻害されてしまうことがある。この場合、会合凝集体が含まれているにも関わらず、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分析は、会合凝集体を一切含まないとの完全に誤った結論を下すことになる。会合凝集体だけでなく、一般に疎水性の高いタンパク質やペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーは困難、との理解が一般的である。以上の現状を踏まえ、固定相(カラム充填剤)や移動相(展開溶媒)、検出方法の組み合わせを至適化することにより、より適切にゲルろ過クロマトグラフィーを実施する提案がなされているが(非特許文献4)、タンパク質会合凝集体や疎水性の高いタンパク質、疎水性の高いペプチドの充填剤との相互作用を緩和し、ピークとして回収する有効な手法はいまだ見出されていない。Stulikらが報告したように(非特許文献4)、充填剤とタンパク質との相互作用を緩和すると考えられる添加剤、例えば酸、無機塩、有機溶媒を移動相に適量添加しても、会合凝集体の分離に改善を得た例は例外的である。また、相互作用をより効果的に緩和できると思われるタンパク質変性剤を適量だけ移動相に添加することも提案されているが、同時にタンパク質の変性を誘起する危険性があるため、条件設定の困難なことは明らかである。つまり、会合凝集体を含むタンパク質や疎水性の高いタンパク質、疎水性の高いペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーを実施するにあたり、多大な条件検討をすることなく、会合凝集体や疎水性タンパク質のピークを定量的に回収する条件を見出すことは、当該領域技術者の強く期待するところであった。Pharmaceutical Research, 11 (1994), 764-771Blood, 95 (2000), 1856-1861Analytical Biochemistry, 325 (2004), 227-239Journal of Biochemical and Biophysical Methods, 56 (2003), 1-13 商業的に入手できるゲルろ過クロマトグラフィーカラムと移動相を用い、わずかの条件検討を経ることにより、従来はピークとして回収検出することの困難であったタンパク質会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのピークをより定量的に回収すること、具体的には、移動相に従来は用いられていなかった化合物を添加することを見出すことにある。 すなわち、本発明は、会合凝集体を含むタンパク質、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーを行うにあたり、それぞれに用いる展開溶媒の水溶性緩衝液に適量のアルギニンを添加し、タンパク質と充填剤の間に発生する不必要な相互作用を弱め、会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドをより定量的に回収する方法を提供することである。 展開溶媒の水溶性緩衝液にアルギニンを添加するだけで、従来は大きな問題となっていた充填剤とタンパク質の間に発生する相互作用を緩和できる。アルギニンはタンパク質の安定性や構造に影響を与えないことが既に知られている。したがって、本発明は、タンパク質の構造や安定性に影響を与えることなく、タンパク質会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーにおけるピーク回収を高める。これは、タンパク質、ペプチドの分析だけでなく、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いるタンパク質製造法に適用できることを意味する。 本発明で用いる、タンパク質会合凝集体、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドとゲルろ過クロマトグラフィー充填剤の間の相互作用緩和剤は、天然アミノ酸の1種であるアルギニン及び/またはアルギニン誘導体である。アルギニン誘導体とは、アルギニンの他、アセチルアルギニン、N-ブチロイルアルギニン等のアシル化アルギニン、カルボキシル基を修飾したアルギニンブチルエステル、カルボキシル基を除去したアグマチン、αアミノ基の替わりに水酸基を導入したアルギニン酸等がある。これらを酸付加塩の形態で使用することもできる。酸付加塩を形成し得る酸としては、塩酸等があげられる。 また、本発明で用いるアルギニン及び/またはアルギニン誘導体を添加した展開溶媒としての緩衝液は、目的とするタンパク質会合凝集体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドの性質に合致したpHや緩衝液濃度に調整されればよく、特に特別のpHや緩衝液濃度を必要とするわけではない。pHの調整は通常、使用に供するの緩衝液(例えば、リン酸ナトリウム緩衝液)を用いて実施すればよく、アルギニン及び/またはアルギニン誘導体のpH調整は不要である。展開溶媒の緩衝液に添加されるアルギニン、及び/またはアルギニン誘導体の濃度は、0.05〜1.50M、好ましく0.05 〜 1.25 M、更に好ましくは0.10 〜 0.75 Mになるように添加することにより、タンパク質ピークの回収率を改善することができる。なお、溶質すなわち、会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドを含有する溶液中への、アルギニン及び/またはアルギニン誘導体の添加はどちらでも良い。溶質を含む溶液のイオン強度をアップしたい場合は、他の塩と同様にアルギニン及び/またはアルギニン誘導体添加しても良い。 次に、本発明で用いる溶出方法は、一種類の緩衝液を展開溶媒とする、いわゆるイソクラチック溶出法を用いるのが好ましい。 更に、本発明で用いるゲルろ過クロマトグラフィーカラムには市販品を用いればよく、例えばSuperdex 200HR10/30、Superdex75HR10/30(いずれもアマシャムバイオサイエンス製)、TSKG3000SWXL(東ソー製)等がある。 本発明で用いる会合凝集体等の回収率を改善できるタンパク質として、会合凝集体を含む天然のヒト抗体、もしくは遺伝子組換え法で調製されたヒト化抗体やヒト型抗体、マウス等のモノクローナル抗体がある。抗体の種やサブクラスには関係なく、会合凝集体を含む抗体であれば全てに適用可能である。 ここで、会合凝集体を含む抗体であるが、抗体は製造過程(濃縮、酸性pH暴露、加温操作)や保存過程(溶液、凍結溶液、凍結乾燥)において分子間で会合した、いわゆる会合凝集体を形成することが知られており、これが作用の低下や副作用の発現に関係しているといわれる(Monoclonal Antibodies, Principles and Applications., p.231-265, London: Wiley Liss, Inc., 1995)。会合凝集体の定量や分離除去は抗体を産業応用する上で極めて重要である。会合凝集体の形成メカニズムは一様ではないが、一度形成されたら容易には単量体へ解離することはない。会合凝集体は単量体よりも疎水性を増しており、クロマトグラフィーでの回収率の低くなることが知られている。 また、抗体以外のタンパク質であっても、疎水性が高く、水溶性緩衝液を用いるだけではピークとして回収しづらいタンパク質やペプチドにも適用可能である。天然からの抽出、あるいは遺伝子組み換え技術で調製されたなど、調製方法に関係なく適用可能である。 ここで、疎水性タンパク質、ペプチドであるが、一般的にタンパク質とペプチドを区別する明確な規定は存在していない。構成アミノ酸が50個以上であれば、これをタンパク質とみなす考えもあるが、一般的ではない。本発明では、一般にペプチドあるいはタンパク質とみなされる可溶性化合物のことを意味するものとする。 また、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドについても一般的に明確に規定することはできないが、本発明においてはそれらの構成アミノ酸に疎水性アミノ酸の含有量が多いものを意味するものとする。疎水性アミノ酸の比率が高まると、クロマトグラフィー担体との疎水性相互作用に起因する相互作用が強まり、溶出時間の延長が認められている(プロテインバイオテクノロジー、pp. 67、培風館、1996)。本発明は、疎水性相互作用に起因するクロマトグラフィーでの回収率低下を改善することに寄与する。 会合凝集体を60 %含む抗体をゲルろ過クロマトグラフィーで分析する場合、リン酸緩衝液のみを展開溶媒に用いると、抗体ピークの回収率は検出されたピークすべてを合計しても、カラムに供された抗体量の20 %に満たない場合が多い。更にこの場合、会合凝集体の組成比率は本来の60 %を大きく下回る20 %程度と誤った解釈をする場合が多い。ところが、展開溶媒にアルギニンを0.2 M添加したリン酸緩衝液を用いると、その他の条件を一切変更することなく、回収される抗体ピークはカラムに供された抗体量のほぼ100 %に達し、会合凝集体の組成比率は正しい60 %を示す。以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。 等張リン酸ナトリウム緩衝液に溶解された精製済みの抗フォンビルブランド因子モノクローナル抗体(マウスモノクローナル抗体、サブクラスIgG1;WO96/17078)、5.28 mg/mlの120 μlに0.5 Mクエン酸ナトリウム、pH 2.72を30μl添加し、pHを3.04に調整した。ここに0.2 Mクエン酸、pH 4.50を60μl、更に3 Mアルギニン塩酸塩、pH 4.52を240μl、それぞれ添加してpHを4.5に調整した。この溶液を45 ℃で20分間加温した後、1 Mトリス塩酸塩、pH 8.50を67.5 μl添加し、517.5 μl、pH 5.13に調整、最後に45 ℃で10分間加温した。直ちに室温にて冷却後、分光光度計を用いて上清に残留する抗体濃度を測定した。抗体濃度は、波長280 nmにおける吸光度1.4を1 mg/mlとして算出した。この加熱処理済みマウスモノクローナル抗体サンプルの15 μlを、TSK G3000SWXLをカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、pH 6.8を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図1-1に示したとおり、抗体単量体の溶出位置に一致する位置に主成分のピークを、会合凝集体を副成分ピークとして確認した。あらかじめ、会合体をまったく含まないマウスモノクローナル抗体の5.28 μgを同じゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmで検出される抗体ピークの面積値から単位重量あたりのピーク面積値を確認しておき、これを用いてピークとして回収された抗体量を算出した。結果を表1に示した。吸光度測定より、加熱処理後の上清には加熱前の92.4 %の抗体が残存していたことがわかったが、ゲルろ過クロマトグラフィーで検出された抗体単量体と会合凝集体のピーク合計回収率は加熱前に対して18.5 %と低く、上清中に残存した抗体の1/5程度しか検出できなかったことがわかった。このときのピーク全体に占める会合凝集体の含量は21.7 %であった。 次に、同じ加熱処理済みマウスモノクローナル抗体サンプルの15 μlを、上記のゲルろ過クロマトグラフィーの展開溶媒にアルギニン塩酸塩を0.2 Mになるように添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図1-2に示したとおり、検出されたピークの種類も量もアルギニンを展開溶媒に添加しなかった場合(図1-1)と比べて大幅に増大し、検出された抗体単量体と会合凝集体のピーク合計回収率は加熱前に対して92.8 %となり、吸光度から算出された上清中の抗体回収率の92.4 %にほぼ完全に一致した。このときのピーク全体に占める会合凝集体の含量は67.4 %となった。ピーク全体の回収率が吸光度法による定量値にほぼ一致したことから、アルギニンを展開溶媒の緩衝液に添加することにより、従来の条件では正しく検出できなかった抗体の会合凝集体を定量的に回収でき、その結果、上清中の会合凝集体含量を正確に定量できたことを意味した。 一方、展開溶媒にアルギニンを添加しなかった場合の会合凝集体含量は21.7 %と低く見積もられたが、これは会合凝集体のカラムからの回収率が不十分だったことによる誤った定量値である。(*)加熱処理前の抗体量に対する加熱処理後の抗体量の回収率(**)抗体単量体と抗体会合凝集体とを区別できない 以上の結果より、会合凝集体を含む抗体溶液をゲルろ過クロマトグラフィーに供して精製する場合、カラム充填剤に会合凝集体を残留させることなく、繰り返しゲルろ過クロマトグラフィーによる精製を実施できることから、分析だけでなく、抗体の製造方法としても有効なことがわかった。 70 mM酢酸ナトリウム、pH 5.0に溶解されたヒトアクチビン(米国特許US6084076、及びUS6756482)、0.70 mg/mlの10 μlをSuperdex 75HR 10/30(アマシャムバイオサイエンス製)をカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、0.75 M 塩化ナトリウム、pH 7.3を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図2-1に示したとおり、ヒトアクチビンは塩類と同じ位置に検出され、そのピークのエリアは波長280 nmの吸収から200290と計算された。ヒトアクチビンの分子量(26000ダルトン)に見合った溶出位置にはピークは全く検出されなかった。以上の結果は、ヒトアクチビンのゲルろ過クロマトグラフィーが成立しなかったことを意味し、会合凝集体の組成比率を求めることはできなかった。一方、全く同じヒトアクチビンサンプルの10μlを上記のゲルろ過クロマトグラフィー展開溶媒の0.75 M 塩化ナトリウムの替わりに0. 75Mのアルギニン塩酸塩を添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図2-2に示したとおり、ヒトアクチビンはその分子量(26000)に見合った溶出位置に対称性のあるピークとして確認され、そのピークエリアは波長280 nmの吸収から155027と計算された。また、ヒトアクチビンの前方に会合凝集体ピークが確認され、そのピークエリアは3687であった。ピークエリアの比率から、会合凝集体の組成比率は2.3 %と計算された。以上、展開溶媒にアルギニンを添加するだけで、通常の緩衝液を展開溶媒とするゲルろ過クロマトグラフィーではピークを分離、回収することのできないヒトアクチビンのゲルろ過クロマトグラフィーを可能にできた。 10 mMクエン酸ナトリウム、8.7 mMリン酸ナトリウム、pH 7.0に溶解されたヒトインターロイキン6(米国特許US5610284)、2.13 mg/mlの3.5 μlをSuperdex 75HR 10/30(アマシャムバイオサイエンス製)をカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、0.75 M 塩化ナトリウム、pH 7.3を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図3-1に示したとおり、ヒトインターロイキン6の単量体と会合凝集体は分離された。単量体はヒトインターロイキン6の分子量(21000ダルトン)に見合った溶出位置に対称性の高いピークとして検出され、そのピークのエリアは波長280 nmの吸収から182028と計算された。単量体の前方に溶出された会合凝集体ピークのエリアは9012と計算された。ピークエリアの比率から、会合凝集体の組成比率は4.7 %と計算された。一方、全く同じヒトインターロイキン6サンプルの3.5μlを上記のゲルろ過クロマトグラフィー展開溶媒の0.75 M 塩化ナトリウムの替わりに0. 75Mのアルギニン塩酸塩を添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図3-2に示したとおり、ヒトインターロイキン6はその分子量(21000)に見合った溶出位置に対称性のあるピークとして同様に確認され、そのピークエリアは波長280 nmの吸収から182226と計算された。また、単量体の前方に溶出された会合凝集体ピークのエリアは4779と計算された。ピークエリアの比率から、会合凝集体の組成比率は2.6 %と計算された。ヒトインターロイキン6はゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、展開溶媒に添加された塩が塩化ナトリウムかアルギニン塩酸塩であるかに関係なく、単量体と会合凝集体のピークは良好に分離、回収されることがわかった。アルギニン塩酸塩を添加した場合でも会合凝集体が正しく分離、回収されたことから、展開溶媒中のアルギニン塩酸塩が分析進行中に会合凝集体を単量体に解離させ、不当に低い会合凝集体含量を提示することはない、とわかった。 ヒト線維芽細胞成長因子(バイオソース製、カタログ番号PHG0026)を純水に溶解し、0.25 mg/mlに調整した。この20 μlをSuperdex 75HR 10/30(アマシャムバイオサイエンス製)をカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、0.2 M 塩化ナトリウム、pH 6.8を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図4-1に示したとおり、ヒト線維芽細胞成長因子のピークはその分子量(17000)から予想される溶出位置より遅れて確認され、そのピークのエリアは波長280 nmの吸収から59281と計算された。一方、全く同じヒト線維芽細胞成長因子サンプルの20 μlを上記のゲルろ過クロマトグラフィー展開溶媒の0.2 M 塩化ナトリウムの替わりに0.2Mのアルギニン塩酸塩を添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図4-2に示したとおり、塩化ナトリウムを添加した前述よりもやや前方の位置に溶出され、そのピークエリアは波長280 nmの吸収から154616と計算された。塩化ナトリウムの替わりにアルギニン塩酸塩を添加することにより、ピークの溶出位置がより前方に移動し、かつピークエリアが2.6倍に増加したことは、ヒト線維芽細胞成長因子とカラム充填剤との不必要な相互作用が弱まり、ゲルろ過クロマトグラフィーがより良好に成立したことを意味した。尚、この場合は会合凝集体のピークはアルギニンの添加有無に関わらず検出されなかったため、会合凝集体の組成比率は算出されなかった。 40 mMトリス塩酸緩衝液、pH 7.4に溶解したヒトインターフェロンガンマ(バイオソース製、カタログ番号PHC4031)、0.96 mg/mlの5μlをSuperdex 75HR 10/30(アマシャムバイオサイエンス製)をカラムに、0.1 M リン酸ナトリウム、0.4 M 塩化ナトリウム、pH 6.8を展開溶媒とする流速0.8 ml/分のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピークの溶出性を検討した。図5-1に示したとおり、溶出ピークは一切検出できなかった。展開溶媒中の塩化ナトリウム濃度を0.2 M、0 Mまで下げても同様にピークは検出できなかった。また、塩化ナトリウムの替わりにタンパク質変性剤である1 M尿素を添加しても、同様にピークは検出できなかった。一方、全く同じヒトインターフェロンガンマサンプルの5 μlを上記のゲルろ過クロマトグラフィー展開溶媒の塩化ナトリウムや尿素の替わりに0.4Mのアルギニン塩酸塩を添加した以外はまったく同一条件を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、図5-2に示したとおり、溶出ピークを確認でき、そのピークのエリアは波長280 nmの吸収から26914と計算された。以上、展開溶媒にアルギニンを添加するだけで、通常の緩衝液を展開溶媒とするゲルろ過クロマトグラフィーではピークを分離、回収することのできないヒトガンマインターフェロンのゲルろ過クロマトグラフィーを可能にできた。尚、この場合は会合凝集体のピークはアルギニンの添加有無に関わらず検出されなかったため、会合凝集体の組成比率は算出されなかった。マウスモノクローナル抗体のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.2 M 塩化ナトリウムを添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。条件の詳細は文中に記した。マウスモノクローナル抗体のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.2 M アルギニン塩酸塩を添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。条件の詳細は文中に記した。ヒトアクチビンのゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.75 M 塩化ナトリウムを添加): 矢印がヒトアクチビンを示す。サンプルに含まれた溶媒のピークは矢印の部分に重なった。条件の詳細は文中に記したヒトアクチビンのゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.75 M アルギニン塩酸塩を添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。20分以降のピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。溶媒条件の詳細は文中に記した。ヒトインターロイキン6のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.75 M 塩化ナトリウムを添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。20分以降のピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。ヒトインターロイキン6のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.75 M アルギニン塩酸塩を添加): 大きな矢印が単量体、小さな矢印が会合凝集体を示す。20分以降のピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。ヒト線維芽細胞増殖因子のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.2 M 塩化ナトリウムを添加): 矢印がヒト線維芽細胞増殖因子を示す。その後方の大きなピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。ヒト線維芽細胞増殖因子のゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.2 M アルギニン塩酸塩を添加): 矢印がヒト線維芽細胞増殖因子を示す。その後方の大きなピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。ヒトインターフェロンガンマのゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.4 M 塩化ナトリウムを添加): 条件の詳細は文中に記した。ヒトインターフェロンガンマのゲルろ過クロマトグラフィー(展開溶媒に0.4 M アルギニン塩酸塩を添加): 矢印がヒトインターフェロンガンマを示す。20分以降のピークはサンプルに含まれた溶媒に由来する。条件の詳細は文中に記した。 会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質または疎水性ペプチドの少なくとも一種を含む溶液をゲルろ過クロマトグラフィーで精製する方法において、展開溶媒中に0.05 M〜1.5 Mアルギニン及び/またはアルギニン誘導体を含有させて展開することによりなり、アルギニン誘導体がアシル化アルギニン、カルボキシル基を修飾したアルギニンブチルエステル、カルボキシル基を除去したアグマチン、αアミノ基の替わりに水酸基を導入したアルギニン酸、またはこれらの酸付加塩である、抗体、疎水性タンパク質、または疎水性ペプチドの回収率を高める方法。 展開溶媒中のアルギニン及び/またはアルギニン誘導体濃度が、0.05 〜 1.25 M である請求項1記載の方法。 展開溶媒中のアルギニン及び/またはアルギニン誘導体濃度が、0.10 〜 0.75 M である請求項1記載の方法。 会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質または疎水性ペプチドと、ゲルろ過クロマトグラフィー充填剤との間の相互作用緩和剤であって、アルギニン及び/またはアルギニン誘導体を含み、アルギニン誘導体がアシル化アルギニン、カルボキシル基を修飾したアルギニンブチルエステル、カルボキシル基を除去したアグマチン、αアミノ基の替わりに水酸基を導入したアルギニン酸、またはこれらの酸付加塩である、前記相互作用緩和剤。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る