タイトル: | 特許公報(B2)_子宮内膜症の予防又は治療薬 |
出願番号: | 2006028011 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | A61K 31/41,A61K 31/4535,A61K 31/55,A61P 15/00 |
菅又 昌雄 JP 4074640 特許公報(B2) 20080201 2006028011 20060206 子宮内膜症の予防又は治療薬 株式会社栃木臨床病理研究所 500575673 津国 肇 100078662 齋藤 房幸 100116919 中田 ▲やす▼雄 100092716 菅又 昌雄 20080409 A61K 31/41 20060101AFI20080319BHJP A61K 31/4535 20060101ALI20080319BHJP A61K 31/55 20060101ALI20080319BHJP A61P 15/00 20060101ALI20080319BHJP JPA61K31/41A61K31/4535A61K31/55A61P15/00 A61K31/00 A61K45/00 CAP REGISTRY BIOSIS MEDLINE EMBASE JOIS 1 2000383224 20001218 2006160761 20060622 5 20060206 2007003040 20070125 塚中 哲雄 穴吹 智子 星野 紹英 本発明は、子宮内膜症の予防又は治療薬に関する。 子宮内膜症は、子宮内膜ないし内膜様組織が、本来あるべき子宮腔内面以外の部位で異所性に拡大増殖する疾患である。子宮内膜症は原因が不明であり、癒着を手術で切り離す、ホルモンを投与する、鎮痛剤を投与する等の治療が行われているが、これらはいずれも対症療法であり、根本的な治療方法は存在しない。 本発明の目的は、子宮内膜症の予防及び治療に有効な薬を提供することである。 本願発明者は、子宮内膜症患者の異所性内膜様組織(子宮内膜症材料)及び健常者の同様な部位から採取した組織を種々の方法により染色し、顕微鏡観察及び電子顕微鏡観察を行って研究した。その結果、子宮内膜症患者の子宮内膜症材料では、肥満細胞の浸潤及びその脱顆粒並びに間質成分増生が観察された。これらはI型アレルギーの典型的な徴候であり、従って、子宮内膜症の本質がアレルギー性炎であることがわかった。そこで、本願発明者は、抗アレルギー薬により子宮内膜症の治療が可能ではないかと考え、市販の複数の抗アレルギー薬を子宮内膜症動物モデルに投与し、その治療効果を調べてみたところ、予想した通り、抗アレルギー薬により子宮内膜症の症状が明確に抑制されることが実験的に確認され、本発明が完成された。 すなわち、本発明は、抗アレルギー薬を有効成分として含有する子宮内膜症の予防又は治療薬を提供する。 本発明により、子宮内膜症の本質がアレルギー性炎であることが明らかとなり、子宮内膜症の根本治療及び予防が可能となった。 本願発明者は、子宮内膜症の本質がアレルギー性炎であることを世界で初めて見出した。本発明は、この新知見に基づいてなされたものである。アレルギー症状を軽減することにより子宮内膜症の症状を軽減することができるのであるから、本発明の子宮内膜症の予防又は治療薬に有効成分として含まれる抗アレルギー薬としては、アレルギーの治療及び/又は予防に有効ないずれの抗アレルギー薬をも採用することができる。 本発明に用いられる抗アレルギー薬は、I型アレルギーの反応抑制薬又は拮抗薬であり、肥満細胞からの化学伝達物質遊離抑制薬、合成酵素阻害薬、化学伝達物質拮抗薬(抗ヒスタミン薬等)が包含される。このような抗アレルギー薬は種々のものが知られており、I型アレルギーを代表する疾患である気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎等の治療に用いられており、抗ヒスタミン作用のあるもの及びないものが包含される。本発明では、これらの公知のいずれの抗アレルギー薬をも用いることができる。本発明に用いることができる抗アレルギー薬の例として、クロモグリク酸、トラニラスト、アンレキサノクス(アンレキサノックス)、レピリナスト、タザノラスト、ペミロラストK、スプラタスト、ケトチフェン、アゼラスチン、オキサトミド、テルフェナジン(ターフェナジン)、メキタジン、エメダスチン、エピナスチン、アステミゾール、イプジラスト、ペシロラスト、オザグレル、セラトロダスト、プランルカスト、エバスチン、セチリジン、シプロヘプタジン、クロルフェニラミン、ホモクロルシクリジン、ヒドロキシジン及びクレマスチン並びにこれらの薬理学的に許容できる塩及び水和物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。これらのうち、エピナスチン、ケトチフェン及びプランルカスト並びにこれらの薬理学的に許容できる塩及び水和物が特に好ましい。 薬理学的に許容できる塩としては、塩酸塩、硫酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩及びトシル酸塩等の酸付加塩並びに活性化合物が酸の場合には、そのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。 本発明の子宮内膜症の予防又は治療薬は、有効成分である抗アレルギー薬について認められている経路で投与することができ、投与経路としては、経口投与並びに、例えば静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経腸投与等の非経口投与のいずれの投与方法も包含される。通常、経口投与が簡便で好ましい。投与量は、患者の症状の程度や用いる抗アレルギー薬の種類等に応じて適宜設定されるが、成人1日当たり、抗アレルギー薬活性成分の量として、例えば塩酸エピナスチンの場合10mg〜20mg程度であり、各種有効成分においてアレルギーの治療に採用される程度の投与量で有効である。 製剤は、医薬品の分野で通常行われているいずれの製剤方法をも採用することができる。例えば、常法に基づき、ラクトース、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール又はラウリル硫酸ナトリウム等の添加剤と共に造粒し、打錠して錠剤とすることができるが、これに限定されるものではない。上記した種々の抗アレルギー薬は、製剤されたものが市販されているので、これらの製剤された抗アレルギー薬を本発明に用いることができる。 抗アレルギー薬は、既に気管支喘息、アレルギー性鼻炎及びアレルギー性皮膚塩等の種々のアレルギーに対する治療剤として用いられているので、医薬品に要求される程度の安全性は確認されている。 以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。参考例1 ヒト子宮内膜症標本の観察 子宮内膜症(外子宮内膜症)患者の骨盤腔内癒着病変部を採取し、常法によりヘマトキシリン・エオジン染色又はトルイジンブルー染色し、光学顕微鏡で観察した。観察倍率は、ヘマトキシリン・エオジン染色標本が10倍、トルイジンブルー染色標本が20倍又は100倍であった。また、同組織を常法によりウラン・鉛重染色し、倍率3000〜5000倍で電子顕微鏡観察した。 その結果、子宮内膜症患者組織のトルイジンブルー染色標本では、肥満細胞の浸潤が観察され、また、電子顕微鏡観察では肥満細胞の浸潤と共に肥満細胞の脱顆粒が観察され、さらに間質成分増生の本体である膠原繊維が観察された。一方、健常者の標本では肥満細胞の浸潤や脱顆粒、膠原繊維は観察されなかった。肥満細胞の浸潤及びその脱顆粒は、I型アレルギーの徴候である。以上の顕微鏡観察から、子宮内膜症の本質がアレルギー性炎であることがわかった。比較例1 無処置の子宮内膜症モデルラットにおける子宮内膜症標本の観察 子宮内膜症モデルラットは、Michael W. Vernon et al., FERTILITY AND STERILITY, Vol. 44, No. 5, November 1985に記載の方法により作製した。すなわち、次のようにして子宮内膜症モデルラットを作製した。週齢8週のSprague-Dawleyラット(メス)を12時間明暗環境にて2週間順応させた後、セボフルラン及び塩酸ケタミンによる全身麻酔下において、右子宮角部を摘出、5 x 5 mmの子宮組織片を作成し、子宮内膜面を腹膜に向けて自家移植した。 モデル病変のピークである、モデル作製7日後に移植片を含めた腹膜組織を腹筋まで切除し、病変材料を採取した。これら材料より、光学顕微鏡標本(ヘマトキシリン・エオジン染色、トルイジンブルー染色)及び電子顕微鏡標本(ウラン・鉛重染色)を作製し、参考例1と同様に光学顕微鏡観察(ただし、ヘマトキシリン・エオジン染色が倍率4倍、トルイジンブルー染色が倍率20倍)及び電子顕微鏡観察した。 その結果、トルイジンブルー染色により肥満細胞の浸潤及び間質細胞の増生が観察され、電子顕微鏡観察では、肥満細胞の浸潤に加え、好酸球及びリンパ球の浸潤が観察された。実施例1 塩酸エピナスチン投与による治療効果 比較例1と同じ方法により子宮内膜症モデルラットを作製した。モデル作製24時間後より、塩酸エピナスチンを活性成分とする抗アレルギー薬(商品名「アレジオン錠」、ベーリンガーインゲルハイム社製)を、塩酸エピナスチンとして1日当たり0.04 mg/kg体重の投与量で6日間経口投与し、モデル病変のピークである、モデル作製7日後に移植片を含めた腹膜組織を腹筋まで切除し、病理材料を採取した。採取した病理材料を参考例1と同様に染色し、光学顕微鏡及び電子顕微鏡で観察した。 その結果、肥満細胞浸潤に関し、比較例1の場合と比較して、明確な抑制効果が観察された。さらに、光学顕微鏡及び電子顕微鏡観察において、線維芽細胞のアポトーシスが観察され、間質細胞、特に線維芽細胞のアポトーシス誘導による間質細胞増生抑制効果が顕著に認められた。これらにより、エピナスチンが子宮内膜症の治療に有効であることが明らかになった。実施例2 フマル酸ケトチフェン投与による治療効果 塩酸エピナスチンを活性成分とする抗アレルギー薬に代えて、フマル酸ケトチフェンを活性成分とする抗アレルギー薬(商品名「ザジテン」、日本チバガイギー社製)を投与したことを除き、実施例1と同じ操作を行った。 その結果、肥満細胞浸潤に関し、比較例1の場合と比較して、明確な抑制効果が観察された。さらに、光学顕微鏡及び電子顕微鏡観察において、線維芽細胞のアポトーシスが観察され、間質細胞、特に線維芽細胞のアポトーシス誘導による間質細胞増生抑制効果が顕著に認められた。これらにより、ケトチフェンが子宮内膜症の治療に有効であることが明らかになった。実施例3 プランルカスト水和物投与による治療効果 塩酸エピナスチンを活性成分とする抗アレルギー薬に代えて、プランルカスト水和物を活性成分とする抗アレルギー薬(商品名「オノンカプセル」、小野薬品工業社製)を投与したこと、及びその1日当たりの投与量がプランルカスト水和物として9 mg/kgであったことを除き、実施例1と同じ操作を行った。 その結果、肥満細胞浸潤に関し、比較例1の場合と比較して、顕著な抑制効果が観察された。肥満細胞浸潤の抑制効果は、実施例1及び2の場合よりもさらに顕著であった。さらに、光学顕微鏡及び電子顕微鏡観察において、線維芽細胞のアポトーシスが観察され、間質細胞、特に線維芽細胞のアポトーシス誘導による間質細胞増生抑制効果が顕著に認められた。これらにより、プランルカストが子宮内膜症の治療に有効であることが明らかになった。 エピナスチン、ケトチフェン若しくはプランルカスト、又はこれらの薬理学的に許容できる塩若しくは水和物を有効成分として含有する子宮内膜症の予防又は治療薬。