| タイトル: | 公開特許公報(A)_ジカルボン酸モノエステルの製造方法 |
| 出願番号: | 2006017870 |
| 年次: | 2007 |
| IPC分類: | C07D 319/06 |
竹辻 耕治 JP 2007197364 公開特許公報(A) 20070809 2006017870 20060126 ジカルボン酸モノエステルの製造方法 伯東株式会社 000234166 青山 陽 100118706 竹辻 耕治 C07D 319/06 20060101AFI20070713BHJP JPC07D319/06 5 2 OL 8 4C022 4C022GA04 本発明はジカルボン酸モノエステルの製造方法に関し、さらに詳しくはジカルボン酸無水物とアルコールとを反応させてジカルボン酸モノエステルとする場合において、再結晶法を用いて簡便にジカルボン酸モノエステルを製造する方法に関する。従来より、ジカルボン酸無水物とアルコールとを反応させてジカルボン酸モノエステルを合成する方法(下記反応式参照)が知られている。この方法では、例えばメタノールやエタノールなどのアルコールとジカルボン酸無水物とを加熱還流によって反応させてジカルボン酸モノエステルとし、反応液から蒸留等の精製方法によってジカルボン酸モノエステルを単離する(例えば非特許文献1〜3参照)。 この反応をより促進するために、ピリジンなどの塩基触媒を加える場合もある(例えば非特許文献4〜7参照)。この方法によれば、モノエステル化反応が迅速に進行し、塩基触媒がない場合よりも温和な条件で反応が進行させることができる。U.Aeberhard, et al.,Helv.Chim.Acta.,66(8),2740(1983).K.A.Walker, et al., J.Med.Chem.,26(2),174(1983).S.M.Spatz, et al.,J.Org.Chem.,23,1559(1958).A.Padwa,et al.,J.Am.Chem.Soc.,110(9),2894(1988).M.Y.Moridani,et al.,J.Pharm.Pharmacol.,54(3),349(2002).S.K.Sharma,et al.,J.Med.Chem.,32(2),357(1989).M.A.Carnahan,M.W.Grinstaff, Macromolecules,34,7648(2001). しかし、塩基触媒の存在下でジカルボン酸無水物とアルコールとを反応させてジカルボン酸モノエステルとした場合、上記従来の製造方法では、反応液からジカルボン酸モノエステルを単離するために抽出工程及び洗浄工程の繰り返しという煩雑な操作が必要となる。また、抽出工程や洗浄工程において、原料であるジカルボン酸無水物が加水分解された場合、ジカルボン酸モノエステルと同様にカルボキシル基を有する化合物となるため、ジカルボン酸モノエステルとの分離が困難となるという問題もある。例えば、塩基触媒としてピリジンを用いた場合は、反応後に生成したジカルボン酸モノエステルは塩基触媒との塩の形で存在しており、ジカルボン酸モノエステルを単離するためには、カルボン酸として遊離させなければならない。このため、図1に示すように、まず反応後にピリジンを留去した後(ステップS1)、反応液を分液ロートに入れ、非水溶性の有機溶媒を加え、水相側が酸性になるまで希塩酸で洗浄してジカルボン酸モノエステルを有機層に移す(ステップS2)。そして、分液した有機相の溶媒を留去し(ステップS3)、残留物に水を加え、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液でpH7程度にして再度カルボン酸のナトリウム塩として溶解させる(ステップS4)。さらに、適当な非水溶性の有機溶媒で洗浄し、未反応のジカルボン酸無水物などを除去する(ステップS5)。そして、水相を塩酸などでpH4程度にして再度カルボン酸を遊離させた後、適当な非水溶性有機溶媒でジカルボン酸モノエステル抽出する(ステップS6)。そして 非水溶性有機溶媒を留去し(ステップS7)、最後に再結晶法によって精製する(ステップS8)。上記従来の方法では、pH調整、洗浄、抽出、静置、分液など多くの操作を繰り返さなければならず、工程数が多くて煩雑である。また、酸やアルカリや有機溶媒を多量に使用する。このため、製造に長期間を要し、製造コストが高騰化するという問題があった。 本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、工程数が少なく簡便で製造コストが低廉なジカルボン酸モノエステルの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。 発明者らは、塩基触媒の存在下でジカルボン酸無水物とアルコールとを反応させてジカルボン酸モノエステルを得る場合において、ジカルボン酸モノエステルを簡便に単離する方法について鋭意研究を行った。そして、塩基触媒の存在下でジカルボン酸無水物とアルコールとを反応させてジカルボン酸モノエステルとし、反応液から再結晶法によって直接ジカルボン酸モノエステルを晶出させることができるという驚くべき事実を発見し、本発明をなすに至った。 すなわち、本発明のジカルボン酸モノエステルの製造方法は、ジカルボン酸無水物とアルコールとを塩基触媒の存在下で反応させてジカルボン酸モノエステルとするモノエステル化工程と、該モノエステル化工程で得られた反応液に対して抽出工程や洗浄工程を行うことなく再結晶化法によって該ジカルボン酸モノエステルを単離する再結晶工程とを備えることを特徴とする。 本発明においてモノエステル化工程では、ジカルボン酸無水物がアルコールと反応してジカルボン酸モノエステルとなる。この反応は塩基性触媒の存在下で行われるため、反応が促進される。塩基触媒としては、特に限定はなく、例えば、4-ジメチルアミノピリジン、ピリジン、ピペリジン、各種のアルキルアミンなどを用いることができる。 モノエステル化工程で生じたジカルボン酸モノエステルは、塩基触媒との塩となっているにもかかわらず、ジカルボン酸モノエステルを再結晶法のみによって晶出させることができる。この理由については明らかではないが、ジカルボン酸モノエステルの塩基触媒塩と、遊離のジカルボン酸モノエステルとの間に一定の平衡関係が成立しており、このため遊離のジカルボン酸モノエステルが反応液から再結晶法によって晶出したものと推測される。こうして晶出したジカルボン酸モノエステルは、ろ過等の方法によって母液から単離される。なお、塩基性触媒が溶媒として過剰に存在しており、減圧留去が可能である場合には、モノエステル化工程後であって再結晶の操作を行う前に、塩基性触媒を減圧留去させておいてもよい。 再結晶化工程では、有機溶媒を加えることなく反応基質自身を溶媒としての役割を持たせることもできるし、再結晶のための有機溶媒を加えてもよい。溶媒の種類はジカルボン酸モノエステルの特性に合わせて適宜選択すればよく、混合溶媒を用いても良い。ジカルボン酸モノエステルの薄層クロマトグラフのRf値を参考に適宜選択をすることが好ましい。再結晶用の有機溶媒の種類としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン及びこれらの混合物などが挙げられる。 本発明のジカルボン酸モノエステルの製造方法では、モノエステル化工程におけるアルコールの投入モル数はジカルボン酸無水物の投入モル数よりも過剰とされていることが好ましい。こうであれば、反応終了後にジカルボン酸無水物の未反応物が少なくなり、再結晶工程において晶出したジカルボン酸モノエステルの純度が高くなり、収率も上がる。また、過剰に加えられたアルコールは、再結晶の際の母液である有機溶媒層に残り、除去される。特に好ましい仕込み比は(アルコールの投入モル数)/(ジカルボン酸無水物の投入モル数)が1.01〜2.0であり、さらに好ましくは1.05〜1.2である。 本発明のジカルボン酸モノエステルの製造方法では、モノエステル化工程によって得られた反応液からジカルボン酸モノエステルを単離する場合、従来の方法のように何度もpH調整を行って酸洗浄とアルカリ洗浄を繰り返す必要はない。このため、何度も抽出操作を繰り返す必要がなく、工程数が少なくて簡便である。また、溶媒の使用量も少なくてすむ。このため、ひいては製造コストを低廉化することができる。 ジカルボン酸無水物は無水コハク酸、無水マレイン酸及び無水フタル酸のいずれかとすることができる。これらの化合物はジカルボン酸の中でも安価で手に入りやすい。 また、アルコールは炭素数が10〜20であることが好ましい。あまり炭素数が大きいとエステル化の反応性が小さくなる。また、炭素数が10より小さくなると、ジカルボン酸モノエステルの再結晶による晶出が困難となる。 アルコールは下記一般式(1)で示される化合物とすることができる(ただしR1はメチル基、エチル基及び水素のいずれかであり、R2はヒドロキシル基又はヒドロキシメチル基である)。このような化合物として、例えば下記に示す(2)〜(5)の化合物が挙げられる。 (実施例1) 実施例1では、下記反応式に示すように、ピリジンを塩基触媒兼溶媒とし、アルコールとしてcis-1,3−O−Benzylideneglycerol(6)を用い、無水コハク酸(7)と反応させて相当するジカルボン酸モノエステル(8)を合成した。詳細は以下に示すとおりである(図1の工程図参照)。(モノエステル化工程S11) cis−1,3−O−Benzylideneglycerol(6)(5.0g,27.7mmol)、無水コハク酸(7)(2.48g,24.7mmol)を15mLのピリジンに加え、窒素雰囲気下、マグネティックスターラーにて室温で17時間の撹拝を行った。反応完了の確認はTLCにより行った。(溶媒留去工程S12) モノエステル化工程S11で得られた反応液をトルエン約8mLで洗い込みながらナスフラスコに移し、40℃でピリジンを減圧留去した。(再結晶工程S13) そして、残留した固体(半固体)をメタノール約8mLに溶解させた後、トルエンを約16mL加えてから氷浴にて冷却し、再結晶精製した。 析出した白色結晶を吸引濾過で取り出し、真空乾燥し、第一晶を得た。濾液を溶媒留去し、残った白色固体を同様に再結晶精製し、第二晶〜第四晶を得た。この際、溶媒のメタノールとトルエンの容量比は1:0〜1:2とした。また、晶出を繰り返す毎に順次溶媒の量を減らして再結晶を行った。こうして合計5.9gのジカルボン酸モノエステル(8)を白色結晶として収率85%で得た。このもののプロトンNMRのデータは下記のとおりであり、原料や触媒に起因するピークは認められなかった。1H−NMR(CDCl3) δ(ppm)2.67〜2.69(m,4H,−CH2−CH2−)4.13〜4.20(m,2H,−CH2−CH−CH2−)4.25〜4.32(m,2H,−CH2−CH−CH2−)4.73〜4.76(m,1H,−CH2−CH−CH2−)5.55(s,1H,O−CH−O)7.33〜7.41(m,3H,Ph)7.47〜7.52(m,2H,Ph) また、GC−MSの測定では親イオン280となり、ジカルボン酸モノエステル(8)の構造を支持する結果であった。 (比較例1) 比較例1でも、実施例1と同様にピリジンを塩基触媒兼溶媒とし、アルコールとしてcis-1,3-O-Benzylideneglycerol(6)を用い、無水コハク酸(7)と反応させて相当するジカルボン酸モノエステル(8)を合成した。ただし、反応液からジカルボン酸モノエステル(8)を精製する方法として、以下に示すように、洗浄と抽出を繰り返す方法(すなわち、非特許文献7に開示されている方法)を採用した(図2の工程図参照)。 ピリジン(15mL)にcis-1,3-O-Benzylideneglycerol(6)(5.0g,27.7mmol)と無水コハク酸(7)(2.48g,24.7mmol)を加え、マグネティックスターラーで撹拌して溶解させた後、反応容器内を窒素置換した。そして、室温で17時間撹拌した後、40°Cにおいて減圧下で反応液に含まれているピリジンを留去させた(ステップS1)。そして残留固体をジクロロメタンに溶解させ、0.2Nの塩酸で3回洗浄した後(ステップS2)、有機相を減圧下で留去した(ステップS3)。さらに、析出した固体に脱イオン水を加え、1Nの水酸化ナトリウム溶液でpHを7となるよう調節してナトリウム塩として水層に溶解させ(ステップS4)、ジクロロメタンで洗浄した(ステップS5)。そして、pHを4に調節して再びカルボン酸に戻した後、ジクロロメタンで2回抽出し、この抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた(ステップS6)。その後、デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒を留去させた(ステップS7)。こうして得られた白色固体をジエチルエーテルで−25°Cにおいて再結晶させることにより、白色結晶を得た(ステップS8)。このものの1H−NMR(CDCl3)のデータは実施例1の場合と一致した。また、GC−MSの測定では親イオン280となり、ジカルボン酸モノエステル(8)の構造を支持する結果であった。<評 価> 以上の結果から、実施例1によるジカルボン酸モノエステルの製造方法では、目的とするジカルボン酸モノエステル(8)を85%という高い収率で簡便に得られることが分かった。実施例1の方法によるジカルボン酸モノエステルの製造方法の工程(図2参照)と、比較例1によるジカルボン酸モノエステルの製造方法の工程(図1参照)とを比較した場合、比較例1では反応液から精製するために8工程も必要であり、所要時間も8〜18時間も要したのに対し、実施例1の方法では僅か2工程ですみ、所要時間も3〜4時間で終了させることができた。また、使用する有機溶媒の量も本発明の製造方法は従来法の1/3となった。 本発明はジカルボン酸モノエステルの製造方法として利用可能である。実施例によるジカルボン酸モノエステルの製造方法の工程図である。従来法によるジカルボン酸モノエステルの製造方法の工程図である。符号の説明 S11…モノエステル化工程 S12…再結晶工程 ジカルボン酸無水物とアルコールとを塩基触媒の存在下で反応させてジカルボン酸モノエステルとするモノエステル化工程と、 該モノエステル化工程で得られた反応液に対して抽出工程や洗浄工程を行うことなく再結晶化法によって該ジカルボン酸モノエステルを単離する再結晶工程と、 を備えることを特徴とするジカルボン酸モノエステルの製造方法。 モノエステル化工程におけるアルコールの投入モル数はジカルボン酸無水物の投入モル数よりも過剰とされていることを特徴とする請求項1記載のジカルボン酸モノエステルの製造方法。 ジカルボン酸無水物が無水コハク酸、無水マレイン酸及び無水フタル酸のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2記載のジカルボン酸モノエステルの製造方法。 アルコールは炭素数が10〜20であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のジカルボン酸モノエステルの製造方法。 アルコールは下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のジカルボン酸モノエステルの製造方法(ただしR1はメチル基、エチル基及び水素のいずれかであり、R2はヒドロキシル基又はヒドロキシメチル基である)。 【課題】工程数が少なく簡便で製造コストが低廉なジカルボン酸モノエステルの製造方法を提供する。【解決手段】ジカルボン酸無水物とアルコールとを塩基触媒の存在下で反応させてジカルボン酸モノエステルとするモノエステル化工程と、該モノエステル化工程で得られた反応液に対して抽出工程や洗浄工程を行うことなく再結晶化法によって該ジカルボン酸モノエステルを単離する再結晶工程とを備える。【選択図】図2