生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ビフィズス菌増殖促進ペプチド
出願番号:2006008738
年次:2007
IPC分類:A23L 1/305,A23K 1/16,A61K 38/00,A61P 1/14


特許情報キャッシュ

有原 圭三 石川 伸一 伊藤 良 JP 2007189914 公開特許公報(A) 20070802 2006008738 20060117 ビフィズス菌増殖促進ペプチド 学校法人北里学園 598041566 大家 邦久 100081086 小澤 信彦 100117732 林 篤史 100121050 有原 圭三 石川 伸一 伊藤 良 A23L 1/305 20060101AFI20070706BHJP A23K 1/16 20060101ALI20070706BHJP A61K 38/00 20060101ALI20070706BHJP A61P 1/14 20060101ALI20070706BHJP JPA23L1/305A23K1/16 303FA61K37/02A61P1/14 9 OL 10 2B150 4B018 4C084 2B150AB03 2B150BB04 2B150DC23 4B018MD20 4B018MD90 4B018MF12 4C084AA02 4C084AA03 4C084BA01 4C084BA02 4C084BA15 4C084BA44 4C084CA21 4C084MA52 4C084NA14 4C084ZA732 本発明は、食肉タンパク質等をパパイン等のプロテアーゼで分解することにより得られるビフィズス菌増殖促進効果を有する組成物、及び組成物中の主要有効成分であるペプチドおよびこのペプチドを有効成分として含有する食品、飼料、サプリメント、医薬品に関する。 ビフィズス菌(Bifidobacterium属の細菌)はヒトや動物の消化管内に棲息し、有益な働きをする微生物として注目されている。ビフィズス菌の宿主への有益な作用として、整腸作用を初め、免疫防御系改善作用、抗腫瘍作用などが報告されている。また、近年、プロバイオティクス(probiotics)という概念に対する関心が高まっている。Fuller(1989)〔非特許文献1〕は、プロバイオティクスを、「腸内微生物フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生菌体」とした。さらに、Havenaar(1992)〔非特許文献2〕は、この概念を拡張し、「ヒトや動物に投与した際に、微生物フローラの改善効果によって、消化器系、呼吸器系、泌尿器系等を対象に広く宿主に好影響を与える、生きた一種もしくは混合微生物」とした。ビフィズス菌は、プロバイオティクスとして用いられている代表的な細菌であり、生菌剤、サプリメント、食品等に広く産業的に利用されている。 また、ビフィズス菌等のプロバイオティクスとして用いられる細菌の増殖を促進させる物質も注目されている。このような物質は、プレバイオティクス(prebiotics)と呼ばれるようになっている。Gibson and Rooberfroid(1995)〔非特許文献3〕は、プレバイオティクスを、「腸内に生息する有用菌に選択的に働き、増殖を促進したり、その活性を高めることによって、宿主の健康に遊離に作用する物質」と定義している。プレバイオティクスとして、オリゴ糖(イヌリンやフルクトオリゴ糖など)のような難消化性糖類がよく知られており、すでに食品等において盛んに利用されている。 一方、ビフィズス菌に対して増殖促進効果を示すペプチドも見出され、プレバイオティクスとしての可能性が注目されている。牛乳タンパク質の酵素分解物にはビフィズス菌増殖促進効果があるという報告が、これまでに比較的多くされてきたが、その多くはペプチドに結合する糖鎖部分の作用によることが明らかにされた。しかし、Liepleら(2002)〔非特許文献4〕は、人乳タンパク質のペプシン分解物にビフィズス菌増殖促進効果があることを見出し、この効果は糖鎖を含まないアミノ酸だけからなるペプチドによるものであることを示した。彼らは、分子量5,584および5,801Daの2種のペプチドを同定し、これらがラクトフェリンの部分配列であることを報告した。さらに、これらのペプチドの配列情報をもとにし、prebiotic lactoferrin-derived peptide-I(PRELP-I)をデザイン・合成した。また、タンパク質分解物以外のビフィズス菌増殖促進ペプチドとして、Etohら(2000)〔非特許文献5〕は、ゴムの木の樹液から10個のアミノ酸からなる特定配列のペプチドを発見した。 しかし、これらのビフィズス菌増殖促進効果を示すペプチドは、プレバイオティクスとして用いるには、なお、いくつかの問題が残されている。Liepleらのペプチドは、人乳由来のものであり、食品等の素材としては調製が困難であるし、合成ペプチドであるPRELP Iもコストの面から食品素材としての利用は困難であろう。また、Etohらの見出したペプチドは、食品由来のものでないため、安全性評価など検討すべき課題も残されている。さらに、これらのペプチドをヒトや動物が摂取した場合に、下部消化管内でビフィズス菌の増殖に寄与するためには、消化酵素(プロテアーゼ)の作用に対する抵抗性も求められるが、そのような検討は行われていない。 ところで、食肉タンパク質をプロテアーゼ分解することにより、生理活性ペプチドが生成することが報告されている〔特許文献1,2〕。このようなペプチドとして、血圧降下ペプチド、抗酸化ペプチドなどがある。食肉中には非常に多くの種類のタンパク質が存在するため、プロテアーゼ処理により様々なペプチドが生成することが期待される。しかし、これまでに、食肉タンパク質のプロテアーゼ分解物からビフィズス菌増殖促進ペプチドが見出された報告は全くない。Fuller, R. 1989. Probiotics in man and animals. Journal of Applied Bacteriology, 66 : 365-378Havenaar, R. and Huis in't Veld, J. H. J. 1992. Probiotics: A general review. p.151-170. In The Lactic Acid Bacteria, vol.1, The Lactic Acid Bacteria in Health and Disease. Wood, B. J. B. (ed.). Elsevier Applied Science, LondonGibson, G. R. and Rooberfroid, M. B. 1995. Dietary modulation of the human colonic microbiota : introducing the concept of prebiotics. Journal of Nutrition, 125 : 1401-1412Lieple, C., Adermann, K., Raida, M., Magert, H. J., Forssman, W. -G. and Zucht, H. D. 2002. Human milk provides peptides highly stimulating the growth of bifidobacteria. European Journal of Biochemistry, 269 : 712-718Etoh, S., Asamura, K., Obu, A., Sonomoto, K. and Ishizaki, A. 2000. Purification and identification of a growth-stimulating peptide for Bifidobacterium bifidum from natural rubber serum powder. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 64 : 2083-2088特許第3651878号特願2005-234407号 本発明の目的は、ヒトや動物の消化管内で有益な作用を示すビフィズス菌を増殖させるための有効な解決手段を得ることにある。具体的には、ビフィズス菌を増殖させることのできる食品・飼料あるいは医薬品のペプチド性素材を提供することである。このような素材は、摂取により消化管内の有用細菌であるビフィズス菌の増殖を促進し、宿主に有益な作用をするだけではなく、通常、食品中において増殖が緩慢であることが知られているビフィズス菌を、加工食品中において増殖を促進させる目的にも使用できる。 上記の課題を解決すべく、本発明者らは、鋭意研究を進め、食肉タンパク質(アクトミオシン)をプロテアーゼ(パパイン等)で処理し、不要物を除去したペプチド含有画分に高いビフィズス菌増殖促進効果のあることを見出した。さらに、アクトミオシンのパパイン処理により得たペプチド含有画分からビフィズス菌増殖促進効果を有するペプチドを精製・同定して、本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、〔1〕アクトミオシンあるいはアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液をプロテアーゼで処理することにより得られるペプチド含有画分を有効成分とすることを特徴とするビフィズス菌増殖促進剤や、〔2〕プロテアーゼがパパインであることを特徴とする〔1〕記載のビフィズス菌増殖促進剤や、〔3〕ペプチド含有画分が、Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチドを含有することを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載のビフィズス菌増殖促進剤や、〔4〕Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチド又はその塩を有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤に関するものである。 また本発明は、〔5〕アクトミオシンあるいはアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液をプロテアーゼで処理することにより得られるペプチド含有画分を含有し、ビフィズス菌増殖促進効果を有することが表示されている食品、サプリメント、飼料、医薬品に関するものである。さらに本発明は、〔6〕Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチド又はその塩に関するものである。 本発明の効果は、ヒトや動物の消化管内で有益な作用を示すビフィズス菌を増殖させ、ヒトや動物の健康維持や増進をはかるための問題に解決手段を与えることにある。すなわち、本発明により、ビフィズス菌増殖促進効果のある食品・飼料あるいは医薬品の素材を提供することができる。 本発明のビフィズス菌増殖促進効果を有する組成物は、アクトミオシン分解物(ペプチド)を有効成分として含む。アクトミオシンは何に由来するものでもよいが、アクトミオシンは、動物の筋肉(骨格筋)に多く存在しており、これを抽出して用いることができる。用いる骨格筋は、入手のしやすさから、豚、牛、鶏等が適しているが、これらの畜種に限定されるものではない。また、魚類その他の海生生物等に由来するものでもよい。また、筋肉の部位や状態は、アクトミオシンが調製できるものであれば、特に限定されるものではない。アクトミオシンの調製方法は、特定のものを採用する必要はなく、組成物の用途(例えば、飼料等)によってはアクトミオシンを単離精製する必要はなく、単にアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液として調製しても構わない。 アクトミオシンの分解は、アクトミオシンの水懸濁液またはアクトミオシンを含む食肉タンパク質の水懸濁液にプロテアーゼを添加して行う。プロテアーゼは、アクトミオシンを適度に分解するものであれば、様々なものが使用可能である。例えば、フィチン、トリプシン、プロテイネースK、プロナーゼE、パパイン、ブロメライン、パンクレアチン、プロチン及びズブチリシン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのプロテアーゼは単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。パパインを用いた場合に、高い効果を有する組成物が得られるため、その使用が好ましい。 プロテアーゼを作用させる場合、温度、pH等を、それぞれのプロテアーゼの至適条件に設定すると、速やかに分解物を得ることができるが、プロテアーゼの添加量や反応時間によっても制御可能であるため、特定の条件に限定されるものではない。プロテアーゼによりアクトミオシンを分解した後に、溶液を90〜100℃に加熱して、プロテアーゼ活性を消失させる。 このように調製したアクトミオシンの分解物に、ビフィズス菌増殖促進効果を有するペプチドが存在し、その効果を大きく阻害する共存物はないので、そのままでも食品素材等に利用することができる。しかし、より有効性を高める必要がある場合は、活性成分(ペプチド)の濃縮や精製を行うことが望ましい。例えば、減圧濃縮機で濃縮し、チャンバー温度を95℃以下に調整した噴霧乾燥機で乾燥し、得られた粉末を40℃以下に冷却して粉末状製品を製造することができる。あるいは、凍結乾燥による濃縮や液体クロマトグラフィーによる分取等を行なってもよい。 本発明者らは、アクトミオシンのプロテアーゼ(パパイン)分解物から、ビフィズス菌増殖促進効果を示すペプチドを発見した。すなわち、Glu-Leu-Metの配列を示すトリペプチドである。このペプチドは、アクトミオシンのパパイン分解物から後述の実施例に示すような操作により精製することも可能であるが、配列情報をもとに適当な化学合成法により得ることもできる。いずれの方法によって得たペプチドも同様のビフィズス菌増殖促進効果が認められる。 以上に述べた有効成分(ペプチド)、あるいは有効成分を含む組成物は、通常、経口的にヒトあるいは動物に投与(摂取)される。また、本有効成分は、食肉を摂取した場合に、生体(消化管)内で消化酵素の作用により食肉タンパク質から生成するペプチドと類似の構造を示すものであり、多量の摂取によっても生体への悪影響はきわめて小さいものと判断できる。したがって、ヒトを含め動物への安全性の高い素材と言えよう。さらに、通常、食品中において増殖が緩慢であることが知られているビフィズス菌を、食品中において増殖を促進させる目的にも、以上に述べた有効成分(ペプチド)、あるいは有効成分を含む組成物は、使用できる。 従って、本発明の組成物は、ビフィズス菌増殖促進剤として、また、ビフィズス菌増殖促進効果を有する食品、サプリメント、飼料、医薬品として広く利用できる。 本発明の有効成分(ペプチド)を経口投与(摂取)する場合、本発明の効果が損なわれない範囲で、上記の各製品に慣用される他の成分を含んでもよい。このような添加剤の例としては、賦形剤(ラクトース、スターチ等)、結合剤(シロップ、ゼラチン等)、香料、崩壊剤等が挙げられる。また、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、オリゴ糖等のビフィズス菌の増殖に有用な成分を添加してもよい。さらに、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ナイアシン(ニコチン酸)、パントテン酸、葉酸等のビタミン類、リジン、スレオニン、トリプトファン等の必須アミノ酸類や、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅等のミネラル類及び、例えば、α−リノレン酸、EPA、DHA、カゼインホスホペプチド(CPP)、カゼインカルシウムペプチド(CCP)等の人の健康に寄与する物質類、その他の食品や食品添加物として認可されている有用物質の1種又は2種以上が使用できる。 あるいは適当な食品等に添加・加工(混合、加熱等)してもよい。実施例 以下、本発明を実施例で説明する。以下の実施例は、本発明を説明するためにあげた例であり、これにより本発明を限定するものではない。(アクトミオシン分解物の調製方法) アクトミオシンは、豚骨格筋から調製した。すなわち、挽き肉にした豚骨格筋(大腿二頭筋)に緩衝液(0.6M KCl/0.04M NaHCO3/0.01m Na2CO3)を加え、混合・遠心分離を繰り返した後、透析による脱塩と凍結乾燥により、アクトミオシン標品を得た。蒸留水10mlにアクトミオシン100mgを入れ、十分に懸濁させた。これに、5種類のプロテアーゼ(パパイン、フィチン、トリプシン、プロテイネースK、プロナーゼE)のうちの1種を10mg添加し、37℃で3時間反応させた。反応終了後、95℃で10分間加熱し、プロテアーゼを失活させた。遠心分離により不溶物を除去した上澄液をアクトミオシン分解物溶液とした。(ビフィズス菌増殖促進効果の測定方法) ビフィズス菌に対するアクトミオシン分解物あるいはペプチドの増殖促進効果は、以下の方法により測定した。まず、110℃で10分間加熱殺菌した10%還元脱脂乳(以下、脱脂乳)5mlに、測定試料(アクトミオシン分解物溶液あるいはペプチド溶液)を50μl添加した。これに、増殖促進効果の指標菌として用いたビフィズス菌の培養液(MRS液体培地で前培養したもの)10μlを接種した。なお、ビフィズス菌にはヒト腸管由来の7菌株(Bifidobacterium bifidum JCM1254、B. breve JCM1192、B. longum JCM1217、B. catenulatum JCM1194、B. angulatum JCM7096、B. pseudocatenulum JCM1200、B. adolescentis JCM7042)を用いて検討したが、脱脂乳中においてペプチドの増殖促進効果が最も顕著にあらわれたB. bifidum JCM1254を最終的な指標菌として用いることとした。ビフィズス菌接種後の脱脂乳は、37℃で48時間培養した後に、pHを測定した。ビフィズス菌は増殖に伴い、乳酸や酢酸を生成し、培地pHを低下させることが知られている。このため、培地pHの低下程度から、ビフィズス菌の増殖程度を判定することができる。(アクトミオシン分解物のビフィズス菌増殖促進効果) 豚骨格筋アクトミオシンのプロテアーゼ分解物5種のビフィズス菌(B. bifidum JCM1254)増殖促進効果を測定した。図1に示した結果のように、アクトミオシンのパパイン分解物に強い活性(脱脂乳のpH低下=ビフィズス菌増殖促進効果)が見られた。(ビフィズス菌増殖促進ペプチドの精製方法) 目的ペプチドの精製は、ゲル濾過クロマトグラフィーと逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の組み合わせにより実施した。ゲル濾過クロマトグラフィーは、カラムにセファデックスG25Fine(26mm×100mm)を用い、溶出液には蒸留水を使用した。流速は2ml/minとし、溶出液中のペプチドの検出は、215nmの吸光度の測定により行った。アクトミオシン分解物溶液1mlをカラムに負荷し、溶出液を2分間隔(4mlずつ)で分画採取した。各画分は凍結乾燥させた後に、蒸留水に再溶解させ、ビフィズス菌増殖促進効果を判定した。 逆相HPLCは、カラムにCAPCELL PAK C18 UG-120 4.6 x 150mmを用い、溶出液A(0.1%トリフルオロ酢酸を含む蒸留水)から溶出液B(0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル)への直線濃度勾配系で溶出を行った。流速1ml/minで、溶出開始後10分目までは溶出液Aを流し、10分目から濃度勾配を開始し、溶出時間40分目でB液濃度が20%に達するようにした。HPLC装置には、島津製作所製高速液体クロマトグラフLC−VPシステムを利用した。溶出液中のペプチドの検出は、215nmの吸光度の測定により行った。分画採取した溶出液(各フラクション)は、凍結乾燥させた後に、蒸留水に再溶解させ、ビフィズス菌増殖促進効果を判定した。(ペプチドの構造決定方法) 精製したペプチドのアミノ酸配列は、自動エドマン法(気相法)によるN末端アミノ酸分析により決定した。自動分析装置としてアプライドバイオシステムズ社製プロテインシークエンサーモデル470Aを使用した。また、ペプチドの分子量測定には、島津製作所製質量分析装置QP8000αを使用した。 豚骨格筋アクトミオシンのパパイン分解物から、ビフィズス菌増殖促進効果を示すペプチドの精製を、ゲル濾過クロマトグラフィーと2回の逆相HPLC(1st,2nd HPLC run)により行った。まず、アクトミオシンのパパイン分解物をゲル濾過クロマトグラフィーにより分画した結果、溶出時間12〜14minの画分に最も強いビフィズス菌増殖効果が認められた。次にこの画分を逆相HPLCに供し、2分間隔で溶出液を採取した(1st HPLC run)。各画分の活性を測定した結果、溶出時間28〜30分の画分に最も高い活性が認められた。この画分を再度、同条件の逆相HPLCに供した(2nd HPLC run)。溶出時間24〜33分の溶出液を、出現したピークに注目し、9画分に分けて採取した。各画分の活性を測定した結果、溶出時間29.5〜30.0分の画分に最も高い活性が認められた。この画分を逆相HPLCに供した結果、1本のピークであることが確認されたため、精製を終了させた。 上述のように精製して得たペプチドのアミノ酸配列をプロテインシークエンサーにより解析した結果、Glu-Leu-Metであった。この配列から算出した分子量(391.52)は、質量分析装置による測定値(392.56)から算出した値(392.56 - 1.00 = 391.56)とよく一致していた。以上の結果から、精製したビフィズス菌増殖促進ペプチドの構造(アミノ酸配列)は、Glu-Leu-Metであると結論した。このペプチドのアミノ酸配列は、豚骨格筋のミオシン重鎖の配列中に認められるものであり、アクトミオシンをパパインで分解した際に、ミオシン重鎖から生成したものと考えられる。 アクトミオシンのパパイン分解物中より発見したビフィズス菌増殖促進ペプチド(Glu Leu-Met)の配列情報をもとに、合成ペプチドを調製した。合成ペプチドの調製には、アプライドバイオシステムズ社製ペプチド合成装置モデル430Aを使用した。合成ペプチドは、逆相HPLCにより、純度90%以上になるように精製した。 合成したトリペプチド(Glu-Leu-Met)がビフィズス菌増殖促進効果を示すことを確認すると共に、この活性が単に構成アミノ酸や構成部分ペプチド(ジペプチド)に起因するものではないことを示した。図2は、合成したトリペプチド(Glu-Leu-Met)と部分配列ジペプチド(Glu-Leu, Leu-Met)、そして構成アミノ酸(Glu, Leu, Met, 3種アミノ酸混合)のビフィズス菌増殖促進効果を測定した結果を示したグラフである。それぞれのペプチドとアミノ酸は、脱脂乳中の濃度が0.1mMになるように添加した。Glu-Leu-Metの部分配列であるジペプチド(Glu-Leu, Leu-Met)と構成アミノ酸(Glu, Leu, Met, 3種アミノ酸混合)は、いずれもGlu-Leu-Metより弱い活性しか示さなかった。このことから、Glu-Leu-Metのビフィズス菌増殖促進効果は、構成アミノ酸が単なる窒素源として利用されることにより発現するのではなく、トリペプチド配列に重要な意義があることが確認された。 Glu-Leu-Metのビフィズス菌増殖促進効果を、ビフィズス菌26菌株(B. bifidum 5株、B. breve 5株、B. adolescentis 7株、B. infantis 5株、B. longum 3株、B. catenulatum 1株)を用いて検討した。その結果、26株中11株(B. bifidum 3株、B. breve 3株、B. adolescentis 1株、B. infantis 1株、B. longum 3株)に対して効果が認められた。 Glu-Leu-Metの病原細菌の増殖に対する影響を検討した。7種の病原細菌(Escherichia coli, Salmonella enteritidis, Staphylococcus aureus, Listeria monocytogenes, Yersinia enterocolitica, Clostridium perfuringens, Bacillus cereus)を接種した液体培地に、Glu-Leu-Metを0.1mMになるように添加した場合、Glu-Leu-Met無添加のものと比べて、いずれの病原細菌の増殖も影響(増殖促進および増殖抑制)は見られなかった。この結果から、Glu-Leu-Metの微生物増殖促進効果は、ビフィズス菌に対して選択性の高い作用と見られる。 ペプチドを経口摂取(投与)し、下部消化管内でビフィズス菌増殖促進効果があらわれるためには、消化酵素(プロテアーゼ)による分解が行われずに消化管を通過することが必須である。合成ペプチド(Glu-Leu-Met)溶液(1mg/ml)に、代表的な消化酵素であるペプシンやパンクレアチンを添加(1mg/ml)し、37℃で2時間反応させた結果、いずれの酵素によってもGlu-Leu-Metの分解は全く認められなかった(高速液体クロマトグラフ質量分析装置により確認)。この結果から、Glu-Leu-Metは、消化酵素耐性が高く、ヒトや動物が経口摂取した場合、分解されないままで下部消化管に到達し、ビフィズス菌の増殖に寄与することが期待できる。豚骨格筋アクトミオシンを各種プロテアーゼで分解したもののビフィズス菌増殖促進効果を測定した結果を示したグラフである。合成トリペプチド(Glu-Leu-Met)、部分配列ジペプチド(Glu-Leu, Leu Met)、構成アミノ酸(Glu, Leu, Met, 3種アミノ酸混合)のビフィズス菌増殖促進効果を測定した結果を示したグラフである。 アクトミオシンまたはアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液をプロテアーゼで処理することにより得られるペプチド含有画分を有効成分とすることを特徴とするビフィズス菌増殖促進剤。 プロテアーゼがパパインであることを特徴とする請求項1記載のビフィズス菌増殖促進剤。 ペプチド含有画分が、Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチドを含有することを特徴とする請求項1又は2記載のビフィズス菌増殖促進剤。 Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチド又はその塩を有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤。 アクトミオシンまたはアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液をプロテアーゼで処理することにより得られるペプチド含有画分を含有することによりビフィズス菌増殖促進効果を有することを特徴とする食品。 アクトミオシンまたはアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液をプロテアーゼで処理することにより得られるペプチド含有画分を含有することによりビフィズス菌増殖促進効果を有することを特徴とするサプリメント。 アクトミオシンまたはアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液をプロテアーゼで処理することにより得られるペプチド含有画分を含有することによりビフィズス菌増殖促進効果を有することを特徴とする飼料。 アクトミオシンまたはアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液をプロテアーゼで処理することにより得られるペプチド含有画分を含有することによりビフィズス菌増殖促進効果を有することを特徴とする医薬品。 Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチド又はその塩。 【課題】 ビフィズス菌に対して増殖促進効果を示す食品あるいは医薬品素材を提供する。【解決手段】 食肉タンパク質(アクトミオシン)をパパイン等のプロテアーゼにより分解し、ビフィズス菌増殖促進効果を有する組成物を得る。また、Glu-Leu-Metの配列で示されるビフィズス菌増殖促進効果を有するペプチドを分解物から精製するか、配列情報をもとにこのペプチドを化学合成する。【選択図】なし


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特許公報(B2)_ビフィズス菌増殖促進ペプチド

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タイトル:特許公報(B2)_ビフィズス菌増殖促進ペプチド
出願番号:2006008738
年次:2011
IPC分類:A23L 1/305,A23K 1/16,A61K 38/00,A61P 1/14,C07K 5/093


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有原 圭三 石川 伸一 伊藤 良 JP 4726129 特許公報(B2) 20110422 2006008738 20060117 ビフィズス菌増殖促進ペプチド 学校法人北里研究所 598041566 大家 邦久 100081086 林 篤史 100121050 有原 圭三 石川 伸一 伊藤 良 20110720 A23L 1/305 20060101AFI20110630BHJP A23K 1/16 20060101ALI20110630BHJP A61K 38/00 20060101ALI20110630BHJP A61P 1/14 20060101ALI20110630BHJP C07K 5/093 20060101ALI20110630BHJP JPA23L1/305A23K1/16 303FA61K37/02A61P1/14C07K5/093 A23L 1/27− 1/308 A23K 1/16 A61K 38/00 A61P 1/14 C07K 1/00−19/00 CA/REGISTRY(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 米国特許第05711977(US,A) 特表平08−509366(JP,A) 特開平05−344865(JP,A) 特開2003−102427(JP,A) 特開2000−093166(JP,A) 特開2004−057047(JP,A) 特開平05−336954(JP,A) Pediatr. Res.,1994年 6月,Vol.35, No.6,pp.696-700 J. Agric. Food Chem.,2003年 6月 4日,Vol.51, No.12,pp.3661-3667 6 2007189914 20070802 9 20081219 小金井 悟 本発明は、食肉タンパク質等をパパイン等のプロテアーゼで分解することにより得られるビフィズス菌増殖促進効果を有する組成物、及び組成物中の主要有効成分であるペプチドおよびこのペプチドを有効成分として含有する食品、飼料、サプリメント、医薬品に関する。 ビフィズス菌(Bifidobacterium属の細菌)はヒトや動物の消化管内に棲息し、有益な働きをする微生物として注目されている。ビフィズス菌の宿主への有益な作用として、整腸作用を初め、免疫防御系改善作用、抗腫瘍作用などが報告されている。また、近年、プロバイオティクス(probiotics)という概念に対する関心が高まっている。Fuller(1989)〔非特許文献1〕は、プロバイオティクスを、「腸内微生物フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生菌体」とした。さらに、Havenaar(1992)〔非特許文献2〕は、この概念を拡張し、「ヒトや動物に投与した際に、微生物フローラの改善効果によって、消化器系、呼吸器系、泌尿器系等を対象に広く宿主に好影響を与える、生きた一種もしくは混合微生物」とした。ビフィズス菌は、プロバイオティクスとして用いられている代表的な細菌であり、生菌剤、サプリメント、食品等に広く産業的に利用されている。 また、ビフィズス菌等のプロバイオティクスとして用いられる細菌の増殖を促進させる物質も注目されている。このような物質は、プレバイオティクス(prebiotics)と呼ばれるようになっている。Gibson and Rooberfroid(1995)〔非特許文献3〕は、プレバイオティクスを、「腸内に生息する有用菌に選択的に働き、増殖を促進したり、その活性を高めることによって、宿主の健康に遊離に作用する物質」と定義している。プレバイオティクスとして、オリゴ糖(イヌリンやフルクトオリゴ糖など)のような難消化性糖類がよく知られており、すでに食品等において盛んに利用されている。 一方、ビフィズス菌に対して増殖促進効果を示すペプチドも見出され、プレバイオティクスとしての可能性が注目されている。牛乳タンパク質の酵素分解物にはビフィズス菌増殖促進効果があるという報告が、これまでに比較的多くされてきたが、その多くはペプチドに結合する糖鎖部分の作用によることが明らかにされた。しかし、Liepleら(2002)〔非特許文献4〕は、人乳タンパク質のペプシン分解物にビフィズス菌増殖促進効果があることを見出し、この効果は糖鎖を含まないアミノ酸だけからなるペプチドによるものであることを示した。彼らは、分子量5,584および5,801Daの2種のペプチドを同定し、これらがラクトフェリンの部分配列であることを報告した。さらに、これらのペプチドの配列情報をもとにし、prebiotic lactoferrin-derived peptide-I(PRELP-I)をデザイン・合成した。また、タンパク質分解物以外のビフィズス菌増殖促進ペプチドとして、Etohら(2000)〔非特許文献5〕は、ゴムの木の樹液から10個のアミノ酸からなる特定配列のペプチドを発見した。 しかし、これらのビフィズス菌増殖促進効果を示すペプチドは、プレバイオティクスとして用いるには、なお、いくつかの問題が残されている。Liepleらのペプチドは、人乳由来のものであり、食品等の素材としては調製が困難であるし、合成ペプチドであるPRELP Iもコストの面から食品素材としての利用は困難であろう。また、Etohらの見出したペプチドは、食品由来のものでないため、安全性評価など検討すべき課題も残されている。さらに、これらのペプチドをヒトや動物が摂取した場合に、下部消化管内でビフィズス菌の増殖に寄与するためには、消化酵素(プロテアーゼ)の作用に対する抵抗性も求められるが、そのような検討は行われていない。 ところで、食肉タンパク質をプロテアーゼ分解することにより、生理活性ペプチドが生成することが報告されている〔特許文献1,2〕。このようなペプチドとして、血圧降下ペプチド、抗酸化ペプチドなどがある。食肉中には非常に多くの種類のタンパク質が存在するため、プロテアーゼ処理により様々なペプチドが生成することが期待される。しかし、これまでに、食肉タンパク質のプロテアーゼ分解物からビフィズス菌増殖促進ペプチドが見出された報告は全くない。Fuller, R. 1989. Probiotics in man and animals. Journal of Applied Bacteriology, 66 : 365-378Havenaar, R. and Huis in't Veld, J. H. J. 1992. Probiotics: A general review. p.151-170. In The Lactic Acid Bacteria, vol.1, The Lactic Acid Bacteria in Health and Disease. Wood, B. J. B. (ed.). Elsevier Applied Science, LondonGibson, G. R. and Rooberfroid, M. B. 1995. Dietary modulation of the human colonic microbiota : introducing the concept of prebiotics. Journal of Nutrition, 125 : 1401-1412Lieple, C., Adermann, K., Raida, M., Magert, H. J., Forssman, W. -G. and Zucht, H. D. 2002. Human milk provides peptides highly stimulating the growth of bifidobacteria. European Journal of Biochemistry, 269 : 712-718Etoh, S., Asamura, K., Obu, A., Sonomoto, K. and Ishizaki, A. 2000. Purification and identification of a growth-stimulating peptide for Bifidobacterium bifidum from natural rubber serum powder. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 64 : 2083-2088特許第3651878号特願2005-234407号 本発明の目的は、ヒトや動物の消化管内で有益な作用を示すビフィズス菌を増殖させるための有効な解決手段を得ることにある。具体的には、ビフィズス菌を増殖させることのできる食品・飼料あるいは医薬品のペプチド性素材を提供することである。このような素材は、摂取により消化管内の有用細菌であるビフィズス菌の増殖を促進し、宿主に有益な作用をするだけではなく、通常、食品中において増殖が緩慢であることが知られているビフィズス菌を、加工食品中において増殖を促進させる目的にも使用できる。 上記の課題を解決すべく、本発明者らは、鋭意研究を進め、食肉タンパク質(アクトミオシン)をプロテアーゼ(パパイン等)で処理し、不要物を除去したペプチド含有画分に高いビフィズス菌増殖促進効果のあることを見出した。さらに、アクトミオシンのパパイン処理により得たペプチド含有画分からビフィズス菌増殖促進効果を有するペプチドを精製・同定して、本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、〔1〕アクトミオシンあるいはアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液をプロテアーゼで処理することにより得られるペプチド含有画分を有効成分とすることを特徴とするビフィズス菌増殖促進剤や、〔2〕プロテアーゼがパパインであることを特徴とする〔1〕記載のビフィズス菌増殖促進剤や、〔3〕ペプチド含有画分が、Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチドを含有することを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載のビフィズス菌増殖促進剤や、〔4〕Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチド又はその塩を有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤に関するものである。 また本発明は、〔5〕アクトミオシンあるいはアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液をプロテアーゼで処理することにより得られるペプチド含有画分を含有し、ビフィズス菌増殖促進効果を有することが表示されている食品、サプリメント、飼料、医薬品に関するものである。さらに本発明は、〔6〕Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチド又はその塩に関するものである。 本発明の効果は、ヒトや動物の消化管内で有益な作用を示すビフィズス菌を増殖させ、ヒトや動物の健康維持や増進をはかるための問題に解決手段を与えることにある。すなわち、本発明により、ビフィズス菌増殖促進効果のある食品・飼料あるいは医薬品の素材を提供することができる。 本発明のビフィズス菌増殖促進効果を有する組成物は、アクトミオシン分解物(ペプチド)を有効成分として含む。アクトミオシンは何に由来するものでもよいが、アクトミオシンは、動物の筋肉(骨格筋)に多く存在しており、これを抽出して用いることができる。用いる骨格筋は、入手のしやすさから、豚、牛、鶏等が適しているが、これらの畜種に限定されるものではない。また、魚類その他の海生生物等に由来するものでもよい。また、筋肉の部位や状態は、アクトミオシンが調製できるものであれば、特に限定されるものではない。アクトミオシンの調製方法は、特定のものを採用する必要はなく、組成物の用途(例えば、飼料等)によってはアクトミオシンを単離精製する必要はなく、単にアクトミオシンを含む食肉タンパク質懸濁液として調製しても構わない。 アクトミオシンの分解は、アクトミオシンの水懸濁液またはアクトミオシンを含む食肉タンパク質の水懸濁液にプロテアーゼを添加して行う。プロテアーゼは、アクトミオシンを適度に分解するものであれば、様々なものが使用可能である。例えば、フィチン、トリプシン、プロテイネースK、プロナーゼE、パパイン、ブロメライン、パンクレアチン、プロチン及びズブチリシン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのプロテアーゼは単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。パパインを用いた場合に、高い効果を有する組成物が得られるため、その使用が好ましい。 プロテアーゼを作用させる場合、温度、pH等を、それぞれのプロテアーゼの至適条件に設定すると、速やかに分解物を得ることができるが、プロテアーゼの添加量や反応時間によっても制御可能であるため、特定の条件に限定されるものではない。プロテアーゼによりアクトミオシンを分解した後に、溶液を90〜100℃に加熱して、プロテアーゼ活性を消失させる。 このように調製したアクトミオシンの分解物に、ビフィズス菌増殖促進効果を有するペプチドが存在し、その効果を大きく阻害する共存物はないので、そのままでも食品素材等に利用することができる。しかし、より有効性を高める必要がある場合は、活性成分(ペプチド)の濃縮や精製を行うことが望ましい。例えば、減圧濃縮機で濃縮し、チャンバー温度を95℃以下に調整した噴霧乾燥機で乾燥し、得られた粉末を40℃以下に冷却して粉末状製品を製造することができる。あるいは、凍結乾燥による濃縮や液体クロマトグラフィーによる分取等を行なってもよい。 本発明者らは、アクトミオシンのプロテアーゼ(パパイン)分解物から、ビフィズス菌増殖促進効果を示すペプチドを発見した。すなわち、Glu-Leu-Metの配列を示すトリペプチドである。このペプチドは、アクトミオシンのパパイン分解物から後述の実施例に示すような操作により精製することも可能であるが、配列情報をもとに適当な化学合成法により得ることもできる。いずれの方法によって得たペプチドも同様のビフィズス菌増殖促進効果が認められる。 以上に述べた有効成分(ペプチド)、あるいは有効成分を含む組成物は、通常、経口的にヒトあるいは動物に投与(摂取)される。また、本有効成分は、食肉を摂取した場合に、生体(消化管)内で消化酵素の作用により食肉タンパク質から生成するペプチドと類似の構造を示すものであり、多量の摂取によっても生体への悪影響はきわめて小さいものと判断できる。したがって、ヒトを含め動物への安全性の高い素材と言えよう。さらに、通常、食品中において増殖が緩慢であることが知られているビフィズス菌を、食品中において増殖を促進させる目的にも、以上に述べた有効成分(ペプチド)、あるいは有効成分を含む組成物は、使用できる。 従って、本発明の組成物は、ビフィズス菌増殖促進剤として、また、ビフィズス菌増殖促進効果を有する食品、サプリメント、飼料、医薬品として広く利用できる。 本発明の有効成分(ペプチド)を経口投与(摂取)する場合、本発明の効果が損なわれない範囲で、上記の各製品に慣用される他の成分を含んでもよい。このような添加剤の例としては、賦形剤(ラクトース、スターチ等)、結合剤(シロップ、ゼラチン等)、香料、崩壊剤等が挙げられる。また、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、オリゴ糖等のビフィズス菌の増殖に有用な成分を添加してもよい。さらに、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ナイアシン(ニコチン酸)、パントテン酸、葉酸等のビタミン類、リジン、スレオニン、トリプトファン等の必須アミノ酸類や、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅等のミネラル類及び、例えば、α−リノレン酸、EPA、DHA、カゼインホスホペプチド(CPP)、カゼインカルシウムペプチド(CCP)等の人の健康に寄与する物質類、その他の食品や食品添加物として認可されている有用物質の1種又は2種以上が使用できる。 あるいは適当な食品等に添加・加工(混合、加熱等)してもよい。実施例 以下、本発明を実施例で説明する。以下の実施例は、本発明を説明するためにあげた例であり、これにより本発明を限定するものではない。(アクトミオシン分解物の調製方法) アクトミオシンは、豚骨格筋から調製した。すなわち、挽き肉にした豚骨格筋(大腿二頭筋)に緩衝液(0.6M KCl/0.04M NaHCO3/0.01m Na2CO3)を加え、混合・遠心分離を繰り返した後、透析による脱塩と凍結乾燥により、アクトミオシン標品を得た。蒸留水10mlにアクトミオシン100mgを入れ、十分に懸濁させた。これに、5種類のプロテアーゼ(パパイン、フィチン、トリプシン、プロテイネースK、プロナーゼE)のうちの1種を10mg添加し、37℃で3時間反応させた。反応終了後、95℃で10分間加熱し、プロテアーゼを失活させた。遠心分離により不溶物を除去した上澄液をアクトミオシン分解物溶液とした。(ビフィズス菌増殖促進効果の測定方法) ビフィズス菌に対するアクトミオシン分解物あるいはペプチドの増殖促進効果は、以下の方法により測定した。まず、110℃で10分間加熱殺菌した10%還元脱脂乳(以下、脱脂乳)5mlに、測定試料(アクトミオシン分解物溶液あるいはペプチド溶液)を50μl添加した。これに、増殖促進効果の指標菌として用いたビフィズス菌の培養液(MRS液体培地で前培養したもの)10μlを接種した。なお、ビフィズス菌にはヒト腸管由来の7菌株(Bifidobacterium bifidum JCM1254、B. breve JCM1192、B. longum JCM1217、B. catenulatum JCM1194、B. angulatum JCM7096、B. pseudocatenulum JCM1200、B. adolescentis JCM7042)を用いて検討したが、脱脂乳中においてペプチドの増殖促進効果が最も顕著にあらわれたB. bifidum JCM1254を最終的な指標菌として用いることとした。ビフィズス菌接種後の脱脂乳は、37℃で48時間培養した後に、pHを測定した。ビフィズス菌は増殖に伴い、乳酸や酢酸を生成し、培地pHを低下させることが知られている。このため、培地pHの低下程度から、ビフィズス菌の増殖程度を判定することができる。(アクトミオシン分解物のビフィズス菌増殖促進効果) 豚骨格筋アクトミオシンのプロテアーゼ分解物5種のビフィズス菌(B. bifidum JCM1254)増殖促進効果を測定した。図1に示した結果のように、アクトミオシンのパパイン分解物に強い活性(脱脂乳のpH低下=ビフィズス菌増殖促進効果)が見られた。(ビフィズス菌増殖促進ペプチドの精製方法) 目的ペプチドの精製は、ゲル濾過クロマトグラフィーと逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の組み合わせにより実施した。ゲル濾過クロマトグラフィーは、カラムにセファデックスG25Fine(26mm×100mm)を用い、溶出液には蒸留水を使用した。流速は2ml/minとし、溶出液中のペプチドの検出は、215nmの吸光度の測定により行った。アクトミオシン分解物溶液1mlをカラムに負荷し、溶出液を2分間隔(4mlずつ)で分画採取した。各画分は凍結乾燥させた後に、蒸留水に再溶解させ、ビフィズス菌増殖促進効果を判定した。 逆相HPLCは、カラムにCAPCELL PAK C18 UG-120 4.6 x 150mmを用い、溶出液A(0.1%トリフルオロ酢酸を含む蒸留水)から溶出液B(0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル)への直線濃度勾配系で溶出を行った。流速1ml/minで、溶出開始後10分目までは溶出液Aを流し、10分目から濃度勾配を開始し、溶出時間40分目でB液濃度が20%に達するようにした。HPLC装置には、島津製作所製高速液体クロマトグラフLC−VPシステムを利用した。溶出液中のペプチドの検出は、215nmの吸光度の測定により行った。分画採取した溶出液(各フラクション)は、凍結乾燥させた後に、蒸留水に再溶解させ、ビフィズス菌増殖促進効果を判定した。(ペプチドの構造決定方法) 精製したペプチドのアミノ酸配列は、自動エドマン法(気相法)によるN末端アミノ酸分析により決定した。自動分析装置としてアプライドバイオシステムズ社製プロテインシークエンサーモデル470Aを使用した。また、ペプチドの分子量測定には、島津製作所製質量分析装置QP8000αを使用した。 豚骨格筋アクトミオシンのパパイン分解物から、ビフィズス菌増殖促進効果を示すペプチドの精製を、ゲル濾過クロマトグラフィーと2回の逆相HPLC(1st,2nd HPLC run)により行った。まず、アクトミオシンのパパイン分解物をゲル濾過クロマトグラフィーにより分画した結果、溶出時間12〜14minの画分に最も強いビフィズス菌増殖効果が認められた。次にこの画分を逆相HPLCに供し、2分間隔で溶出液を採取した(1st HPLC run)。各画分の活性を測定した結果、溶出時間28〜30分の画分に最も高い活性が認められた。この画分を再度、同条件の逆相HPLCに供した(2nd HPLC run)。溶出時間24〜33分の溶出液を、出現したピークに注目し、9画分に分けて採取した。各画分の活性を測定した結果、溶出時間29.5〜30.0分の画分に最も高い活性が認められた。この画分を逆相HPLCに供した結果、1本のピークであることが確認されたため、精製を終了させた。 上述のように精製して得たペプチドのアミノ酸配列をプロテインシークエンサーにより解析した結果、Glu-Leu-Metであった。この配列から算出した分子量(391.52)は、質量分析装置による測定値(392.56)から算出した値(392.56 - 1.00 = 391.56)とよく一致していた。以上の結果から、精製したビフィズス菌増殖促進ペプチドの構造(アミノ酸配列)は、Glu-Leu-Metであると結論した。このペプチドのアミノ酸配列は、豚骨格筋のミオシン重鎖の配列中に認められるものであり、アクトミオシンをパパインで分解した際に、ミオシン重鎖から生成したものと考えられる。 アクトミオシンのパパイン分解物中より発見したビフィズス菌増殖促進ペプチド(Glu Leu-Met)の配列情報をもとに、合成ペプチドを調製した。合成ペプチドの調製には、アプライドバイオシステムズ社製ペプチド合成装置モデル430Aを使用した。合成ペプチドは、逆相HPLCにより、純度90%以上になるように精製した。 合成したトリペプチド(Glu-Leu-Met)がビフィズス菌増殖促進効果を示すことを確認すると共に、この活性が単に構成アミノ酸や構成部分ペプチド(ジペプチド)に起因するものではないことを示した。図2は、合成したトリペプチド(Glu-Leu-Met)と部分配列ジペプチド(Glu-Leu, Leu-Met)、そして構成アミノ酸(Glu, Leu, Met, 3種アミノ酸混合)のビフィズス菌増殖促進効果を測定した結果を示したグラフである。それぞれのペプチドとアミノ酸は、脱脂乳中の濃度が0.1mMになるように添加した。Glu-Leu-Metの部分配列であるジペプチド(Glu-Leu, Leu-Met)と構成アミノ酸(Glu, Leu, Met, 3種アミノ酸混合)は、いずれもGlu-Leu-Metより弱い活性しか示さなかった。このことから、Glu-Leu-Metのビフィズス菌増殖促進効果は、構成アミノ酸が単なる窒素源として利用されることにより発現するのではなく、トリペプチド配列に重要な意義があることが確認された。 Glu-Leu-Metのビフィズス菌増殖促進効果を、ビフィズス菌26菌株(B. bifidum 5株、B. breve 5株、B. adolescentis 7株、B. infantis 5株、B. longum 3株、B. catenulatum 1株)を用いて検討した。その結果、26株中11株(B. bifidum 3株、B. breve 3株、B. adolescentis 1株、B. infantis 1株、B. longum 3株)に対して効果が認められた。 Glu-Leu-Metの病原細菌の増殖に対する影響を検討した。7種の病原細菌(Escherichia coli, Salmonella enteritidis, Staphylococcus aureus, Listeria monocytogenes, Yersinia enterocolitica, Clostridium perfuringens, Bacillus cereus)を接種した液体培地に、Glu-Leu-Metを0.1mMになるように添加した場合、Glu-Leu-Met無添加のものと比べて、いずれの病原細菌の増殖も影響(増殖促進および増殖抑制)は見られなかった。この結果から、Glu-Leu-Metの微生物増殖促進効果は、ビフィズス菌に対して選択性の高い作用と見られる。 ペプチドを経口摂取(投与)し、下部消化管内でビフィズス菌増殖促進効果があらわれるためには、消化酵素(プロテアーゼ)による分解が行われずに消化管を通過することが必須である。合成ペプチド(Glu-Leu-Met)溶液(1mg/ml)に、代表的な消化酵素であるペプシンやパンクレアチンを添加(1mg/ml)し、37℃で2時間反応させた結果、いずれの酵素によってもGlu-Leu-Metの分解は全く認められなかった(高速液体クロマトグラフ質量分析装置により確認)。この結果から、Glu-Leu-Metは、消化酵素耐性が高く、ヒトや動物が経口摂取した場合、分解されないままで下部消化管に到達し、ビフィズス菌の増殖に寄与することが期待できる。豚骨格筋アクトミオシンを各種プロテアーゼで分解したもののビフィズス菌増殖促進効果を測定した結果を示したグラフである。合成トリペプチド(Glu-Leu-Met)、部分配列ジペプチド(Glu-Leu, Leu Met)、構成アミノ酸(Glu, Leu, Met, 3種アミノ酸混合)のビフィズス菌増殖促進効果を測定した結果を示したグラフである。 Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチド又はその塩を有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤。 請求項1に記載のビフィズス菌増殖促進剤を含有するビフィズス菌増殖促進効果を有することを特徴とする食品。 請求項1に記載のビフィズス菌増殖促進剤を含有するビフィズス菌増殖促進効果を有することを特徴とするサプリメント。 請求項1に記載のビフィズス菌増殖促進剤を含有するビフィズス菌増殖促進効果を有することを特徴とする飼料。 請求項1に記載のビフィズス菌増殖促進剤を含有するビフィズス菌増殖促進効果を有することを特徴とする医薬品。 Glu-Leu-Metの配列で示されるペプチド又はその塩。


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