| タイトル: | 公開特許公報(A)_スプライシング解析用ベクター |
| 出願番号: | 2006000723 |
| 年次: | 2007 |
| IPC分類: | C12Q 1/68,C12N 15/09 |
松尾 雅文 竹島 泰弘 羽原 靖晃 JP 2007181417 公開特許公報(A) 20070719 2006000723 20060105 スプライシング解析用ベクター 財団法人新産業創造研究機構 800000057 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 大杉 卓也 100135208 松尾 雅文 竹島 泰弘 羽原 靖晃 C12Q 1/68 20060101AFI20070622BHJP C12N 15/09 20060101ALI20070622BHJP JPC12Q1/68 AC12N15/00 A 8 1 OL 17 4B024 4B063 4B024AA11 4B024AA20 4B024CA01 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA02 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA11 4B024HA11 4B063QA01 4B063QA13 4B063QA19 4B063QQ03 4B063QQ42 4B063QQ52 4B063QR32 4B063QR35 4B063QR55 4B063QR59 4B063QR62 4B063QS16 4B063QS25 4B063QS34 4B063QX01 本発明は、試料中に含まれる遺伝子(ゲノムDNA)の特定の遺伝子断片のスプライシングパターンの解析を可能とするスプライシング解析用ベクターおよびスプライシング解析方法に関する。詳しくは、遺伝子から転写されたmRNA前駆体が成熟mRNAへとスプライシングされる際に、エクソンがエクソンとして正常にスプライシングされるか否かを簡便に解析しうるスプライシング解析用ベクターに関する。さらには、該スプライシング解析用ベクターを用いたスプライシング解析方法に関する。 遺伝子から転写されて生成されたmRNA前駆体は、スプライシングによりイントロンが除去される等の修飾を受け、エクソンのみからなる成熟mRNAとなる。さらに、この成熟mRNAがそのリーディングフレームに従って翻訳され、遺伝子にコードされた遺伝情報に忠実に従ったタンパク質の合成が可能となる。mRNA前駆体のスプライシング時には、mRNA前駆体の塩基配列のうちでイントロンとエクソンを正確に決定する機構がある。これらのイントロンとエクソンを正確に決定する塩基配列の中で、わずか1塩基の置換でも発生すると、スプライシングの異常を起こすことが各種の疾病で報告される(非特許文献1)。 スプライシング異常と疾患との関連が詳しく研究されている例として、ジストロフィン遺伝子の異常で発症する筋ジストロフィーが知られている。ジストロフィン遺伝子はX染色体短腕21領域に存在し、西尾等の研究により、その遺伝子サイズは3,000kbでヒトの最大の既知遺伝子であることが明らかにされているが、ジストロフィンタンパク質をコードしている領域はわずか14kbに過ぎず、しかもそのコード領域は79ものエクソンに分かれて遺伝子内に分散して存在している(Roberts, RG., et al., Genomics, 16: 536-538 (1993))。 ジストロフィン遺伝子という同一遺伝子の、しかも同じ様な遺伝子異常から発症する2種の疾病であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD: Duchenne Muscular Dystrophy)とベッカー型筋ジストロフィー(BMD: Becker Muscular Dystrophy)の臨床的な病態における大きな相違は、いわゆるフレームシフト説(Monaco, AP., et al., Genomics,2: 90-95 (1988))で説明される。すなわち、DMDでは遺伝子内の部分的な欠失によりアミノ酸読取り枠にずれが生じ(アウトオブフレーム)、結果的にストップコドンが出現し、ジストロフィンの合成が途中で停止してしまう。これに対し、BMDでは遺伝子に部分欠失が存在してもアミノ酸読取り枠が維持されている(インフレーム)が、本来のジストロフィンとはタンパク質のサイズが異なり、エクソンが欠失したジストロフィンが生成されているものと考えられる。 この仮説に合わない例と、その理由がスプライシング異常にあるということが、志賀らにより報告された(非特許文献2)。この文献で報告された患者は、ジストロフィン遺伝子エクソン27に点突然変異(G3839C)があり、変異の結果、グルタミン酸をコードするコドンがストップコドンへと変化している。ストップコドンを生じる変異のためDMDになると予想されるが、この患者は筋細胞の染色像も臨床的病状もBMDである。非特許文献2では、上記の突然変異により、一部のmRNAでエクソン27全体が欠失(エクソンスキッピング)し、ストップコドンを含むエクソン27を欠くmRNAが生成されることが報告されており、この結果、本来よりサイズの小さなジストロフィン蛋白質が合成され、BMDになったのであろうと考察されている。一般的には、スプライシング異常を引き起こす変異は病気の原因となる場合がほとんどであるが、この例のジストロフィン遺伝子のように、エクソンスキップにより病状が本来より軽くなる場合が存在し、これに着目した筋ジストロフィーの治療剤について報告がある(特許文献1〜3)。 スプライシングの異常を起こす疾患の他の例として、脊髄性筋萎縮症が知られている。この疾患原因に関連する遺伝子として、ヒト第5染色体5q13座に局在するsurvival motor neuron (SMN)遺伝子が見出されている(Cell, 80, p.155-165 (1995), Hum. Genet., 108, p.255-266, (2001))。SMN遺伝子のスプライシング機能を確認するために、SMN2遺伝子のイントロン6、同エクソン7およびスプライシング調節エレメントの核酸配列を含有したSMN2遺伝子のイントロン7を含む核酸構築物が作動可能に結合されたエクソントラップベクターについて開示がある(特許文献4)。 上記ジストロフィン遺伝子のスプライシングパターンをレポータープラスミドを培養細胞に導入し解析した報告がある(非特許文献3)。しかしながら、本文献に記載のプラスミドは、特定の遺伝子の特定のエクソン領域の解析に使用するために作製されたものであり、汎用性があるとはいえない。 上述のように、mRNA前駆体からのスプライシングの異常に伴う各種疾患については、解明されつつあるものの、スプライシングの異常を検出しうる簡便な検査方法は未だ見出されていない。特に、特定の組織でのみ発現する遺伝子のスプライシングパターンを解析する場合には、その組織から生検試料を取得し、RNAを抽出してスプライシングパターンを調べる方法が主流であった。例えば、筋疾患に関連する遺伝子で、筋組織においてのみ遺伝子が発現するような遺伝子に関してスプライシングパターンを解析するためには、筋組織を生検し、RNAの解析を行うことが必要であった。しかし、生検は、組織によっては被検者にとって負担が大きく、病状の進行具合によっては実施できないこともあり、また、生検が事実上不可能な組織も人体には多く存在する。このように、遺伝子の種類や疾患の種類によっては、被検者の組織由来のRNA解析は事実上不可能という例が多々存在し、可能だとしても被検者の負担が大きい例も多く存在する。 また、ある疾患に関して、候補遺伝子内に変異が発見されたが、それがスプライシング異常を引き起こす病気の原因変異なのか、それとも遺伝学的多型(ヒトによる個性のようなもので、病気の原因にはならない遺伝子の変化)なのかが不明な場合に、正常タイプと変異タイプ(あるいは多型タイプ)のスプライシングパターンの比較を行う簡便な検査方法は未だ見出されていない。さらに、ある遺伝子について塩基配列に変異を認めるものの、変異と疾患との関係が解明されていない場合も多い。このような場合に、特定の遺伝子に限定しないで、汎用的に、しかも被検者に負担をかけることなく、候補となる各種遺伝子のスプライシングパターンを解析することができれば、疾患と遺伝子との関係が解明でき、医療の分野において特に貢献することができる。Human Molecular Genetics 3rd edtion, T. Strachan and A.P. Reed, Garland Science, ISBN 0-8153-4182-2Journal of Clinical Investigation 100 (1997) 2204-2210Molecular Genetics and Metabolism, 85 (2005) 213-219特開2000-325085号公報特開2002-10790号公報特開2002-325582号公報特開2004-344072号公報 本発明は、遺伝子(ゲノムDNA)を含む試料を用いて、特定の遺伝子断片のスプライシングの異常を簡便に検出しうる汎用性のスプライシング解析用ベクターおよび該ベクターを用いたスプライシングの解析方法を提供することを課題とする。 上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、少なくとも2個の、正常に機能するエクソン配列と、前記少なくとも2個のエクソン配列の間にマルチクローニングサイトを含む配列を含むベクターを用いることにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。より詳しくは、該ベクターの該マルチクローニングサイトに解析対象物である遺伝子断片を組み込み、ベクター上のレポーター遺伝子を細胞内で転写することにより成熟mRNAを生成させ、得られた成熟mRNA中に解析対象とする遺伝子断片が正常に含まれるかどうかを確認すれば、解析対象物である遺伝子断片のスプライシングパターンが容易に解析可能なことを見出し、本発明を完成した。 すなわち本発明は以下よりなる。1.少なくとも2個の正常に機能するエクソン配列と、前記少なくとも2個のエクソン配列とエクソン配列の間にマルチクローニングサイトを含む配列を配置し、該マルチクローニングサイトに解析対象物である遺伝子断片を組み込むことで、該遺伝子断片のスプライシングパターンを解析可能とするスプライシング解析用ベクター。2.前記ベクターにおいて、上流側に配置されたエクソン配列の上流側にプロモーターが配置され、下流側に配置されたエクソン配列の下流側にポリAシグナル配列が配置されてなる請求項1に記載のスプライシング解析用ベクター。3.前記ベクターにおいて、上流側に配置されたエクソン配列が、ジストロフィン遺伝子のエクソン18由来であり、下流側に配置されたエクソン配列が、ジストロフィン遺伝子のエクソン20由来である請求項1または2に記載のスプライシング解析用ベクター。4.遺伝子(ゲノムDNA)を含む試料から解析対象物である遺伝子断片を取得し、少なくとも2個の正常に機能するエクソン配列と、前記少なくとも2個のエクソン配列の間にマルチクローニングサイトを含む配列を含むベクターに、解析対象物である遺伝子断片を組み込むことによる該遺伝子断片のスプライシングパターンの解析方法。5.以下の工程を含む請求項4に記載のスプライシングパターンの解析方法:1)ベクターのマルチクローニングサイトに、解析対象物である遺伝子断片を組込み、プラスミドを作製する工程;2)工程1で作製したプラスミドを宿主へ導入し、宿主内で転写させ、スプライシング反応をおこさせる工程;3)工程2の宿主よりRNAを回収し、スプライシングパターンを確認する工程。6.比較したい少なくとも2種類の試料から各々解析対象物である遺伝子断片を取得し、各々を請求項5に記載のスプライシングパターンの解析方法で解析することによる解析対象物のスプライシングパターンの解析方法。7.解析対象物由来のエクソンが存在しうるか否か、あるいは、予想される部位でスプライシングされているか否かを、電気泳動および/または塩基配列の決定により確認する前項4〜6のいずれか一に記載の解析方法。8.前項1〜3のいずれか一に記載のスプライシング解析用ベクターを含む、遺伝子断片のスプライシング機能を解析可能とするスプライシング解析用キット。 本発明のスプライシング解析用ベクターを用いることで、遺伝子(ゲノムDNA)を含む試料さえあれば、目的遺伝子のRNAを発現しうる組織について生検しなくとも、例えば血液のようにゲノムDNAを含む試料さえ入手できれば、目的遺伝子のスプライシングパターンを解析することができる。 特に、正常型(野生型)と変異型のように、少なくとも2種類以上の遺伝子断片を比較することで、これらの遺伝子断片がどのようにスプライシングされるかについて、解析することができる。 例えば、ある遺伝子に変異が発見されたが、その変異が病気の原因か遺伝学的多型かの判断ができない場合、本発明のベクターを用いることにより、該変異によりスプライシング異常が引き起こされるかどうかを簡便に試験することができる。これにより、該遺伝子の特定部分もしくは全体の欠失が、特定の疾患と関係することが既知の場合には、特定の疾患を容易に診断することができ、未知の場合でも、その変異を病因候補変異と推定できる。 例えば、遺伝子の塩基配列から、構成されるタンパク質のアミノ酸配列には影響を及ぼさない塩基の変異であるにもかかわらず、その変異によりある疾患に結びつく場合に、従来の遺伝子の塩基配列の解読だけでは、疾患の原因を究明することは困難であった。ところが、アミノ酸配列には影響を及ぼさない塩基の変異であるにもかかわらず、その変異によりスプライシングパターンに影響を及ぼす場合、例えばスプライシング促進配列の活性を低下させる変異の場合には、正常にスプライシングが行われない可能性がある。このような場合に、本発明のスプライシング解析用ベクターを用いれば、特定領域の遺伝子断片に関し、スプライシングが正常に行われているか否か、本来エクソンとして認識される塩基配列が、正常にエクソンとして認識されるか否かを解析することができる。 さらに、イントロンに含まれる塩基配列の多型についても、スプライシングに影響を及ぼすことが考えられるが、従来はイントロンの塩基配列については、エクソン前後の限られた領域以外は注目されていなかった。エクソン部分の塩基配列が正常であっても、イントロンの塩基配列が変異することによりスプライシングが正常に行われない場合もありうる。本発明のスプライシング解析用ベクターに、解析したいエクソン部分とイントロン部分の配列を組み込むことで、イントロンの配列によるスプライシングに及ぼす影響も解析することができる。 本発明は、遺伝子(ゲノムDNA)を含む試料中の特定の遺伝子の遺伝子断片のスプライシングパターンの解析を可能とするスプライシング解析用ベクターおよびスプライシング解析方法に関する。 本発明のスプライシング解析用ベクターは、転写ベクターであって、少なくとも2個の正常に機能するエクソン配列と、前記少なくとも2個のエクソン配列の間にマルチクローニングサイトを含む配列が配置されている。 本明細書において、転写ベクターとは、いわゆる当業者が一般的に使用される意味で用いられ、ベクターに組み込まれた遺伝子断片のDNAを鋳型としてmRNAが合成されうるベクターをいう。このようなベクターは、自体公知の転写ベクターを利用することができるし、独自にプロモーター、ポリAシグナル配列などを適宜選択してベクターに配置することにより調製することもできる。さらに、正常にスプライシングされるエクソン・イントロンを適当な生物のゲノムからクローニングしたり、完全に人工的に合成したりしても本発明のベクターを構築することができる。 本発明において、「正常に機能するエクソン配列」とは、正常なスプライシングを受けるエクソンおよびイントロンを含む配列をいう。具体的には、エクソン配列には、エクソンとそのスプライスサイトを含むことが必要であり、通常はエクソン上流に3’スプライスサイト、下流に5’スプライスサイトが含まれることになるが、例外として、転写された場合に第一エクソンとなるものに関しては上流に3’スプライスサイトがなく、最終エクソンとなるものに関しては下流に5’スプライスサイトがないものが、正常なエクソン配列である。本明細書において、「エクソン」はエクソンそのものを意味し、「エクソン配列」とは、「エクソン」に何らかの配列が付加されていてもよい配列からなるゲノム断片を意味する。なお、本発明において、「3’スプライスサイト」とは、ブランチサイト、ポリピリミジントラクトを含む、正常なスプライシングに必要なイントロン3’末側の領域全体を指すものとする。 図1を参考に説明する。本発明のスプライシング解析用ベクターでは、プロモーター下流より、上流側エクソン配列、マルチクローニングサイト、下流側エクソン配列が配置され、ポリAシグナル配列へと続く。上流側エクソン配列は5’スプライスサイトを、下流側エクソン配列は3’スプライスサイトを、それぞれ機能するのに十分な長さのイントロンと共に含む。 具体的には、上流側エクソン配列として、ジストロフィン遺伝子のエクソン18の一部およびイントロン18の一部を使用し、下流側エクソン配列として、ジストロフィン遺伝子のエクソン20の一部およびイントロン19の一部を使用することができる。本明細書において、便宜上、例えばエクソン18の一部およびイントロン18の一部を含む配列を、「エクソン18由来のエクソン配列」といい、エクソン20の一部およびイントロン19の一部を含む配列を、「エクソン20由来のエクソン配列」という場合がある。 本発明のスプライシング解析用ベクターに含まれるマルチクローニングサイトは、上記上流側エクソン配列と下流側エクソン配列の間に位置する。マルチクローニングサイトには、例えばNheI、HpaI、ClaI、EcoRV、BspEIおよびBamHIの制限酵素認識部位を含むことができる。また、本発明のベクターは、マルチクローニングサイト以外の部位に、該マルチクローニングサイトを認識する制限酵素の切断部位がないように設計されている。かかるマルチクローニングサイトを設けたことで、各種遺伝子断片のスプライシングパターンを解析しうる汎用性のスプライシング解析用ベクターが構築された。 該スプライシング解析用ベクターを宿主へと導入すると、これらは一連のものとしてRNAへと転写され、前駆体mRNAとなり、その後にスプライシングを受け、上流側エクソンおよび下流側エクソンが結合しイントロン部分が除去された成熟mRNAとなる。 図1では、2個のエクソンと1個のイントロンのスプライシング解析用ベクターを示したが、必要に応じて3個のエクソンと2個のイントロンから、n個のエクソンと(n−1)個のイントロンなど、転写ベクターが機能しうる範囲内でエクソン・イントロンの数を増やすことができる。 本発明のスプライシング解析用ベクターは、上記性質を有するものであれば、特に限定されず、当業者が通常用いる自体公知の市販の転写ベクターをバックボーンとして用いることができる。また、組み込んだ遺伝子がタンパク質として発現しうるように設計されたものであっても良い。 本発明のスプライシング解析用ベクターには、解析対象物である遺伝子断片を組み込むことができる。本発明において、「解析対象物」とは、スプライシングが正常に行われるか否かを解析するための遺伝子断片をいい、遺伝子は特に限定されない。例えば、遺伝子断片は、本発明のスプライシング解析用ベクターに配置された各種エクソン配列由来の遺伝子と同じであっても良いし、異なっていてもよい。例えば、配置されたエクソン配列がジストロフィン遺伝子に含まれるエクソンの配列であり、解析対象物が腫瘍マーカーとなりうる遺伝子の遺伝子断片であってもよい。 このような遺伝子断片は、遺伝子(ゲノムDNA)を含む試料から得られたものであれば良い。遺伝子(ゲノムDNA)を含む試料は一定量以上の細胞が含まれるものであれば良い。例えば、ジストロフィン遺伝子のゲノムDNAは、細胞から得ることができるが、ジストロフィン遺伝子が発現してRNAが生合成され、ジストロフィンタンパク質が発現するのは、筋肉などの特定の組織に限られる。しかし、本発明のベクターを用いると、例えばジストロフィンの特定のスプライシングパターンを調べようとする場合には、筋肉組織を生検することなく、被検者から採取した血液・繊維芽細胞などを試料とすることができる。それ以外にも、一定量以上の細胞が含まれ、解析に十分な量のゲノムDNAが採取できる試料ならば、例えば精液・髄液などでも試料として用いることができる。特に好適には、臨床検査において採取される血液を試料として用いるのが便利である。試料から、遺伝子断片を取得するためのDNAの抽出方法は、自体公知の方法を利用することができる。さらに、目的の遺伝子断片は、自体公知の方法、例えばPCRなどの核酸増幅方法により得ることができる。 また、「解析対象物となりうる遺伝子断片」は、ある遺伝子が正常の場合に、スプライシングを正常に受けるエクソンに該当する領域およびその両端のスプライスサイトを含む断片をいう。ただし、解析したい対象が、エクソン内のスプライシング促進、もしくは抑制配列の場合や、イントロン内のスプライシング促進、もしくは抑制配列の場合などは、エクソンのみ、あるいはイントロンのみが解析対象物になる場合もある。この場合、ベクターの設計は上記の例より若干の変更が必要となる。 解析対象物の塩基配列の長さは、ベクターからの転写を妨げない範囲内で、かつ、細胞への導入が可能な長さならば、特に限定されず、長大なものを使用することもできる。つまり、本発明のスプライシング解析用ベクターに組み込んだときに、該ベクターから解析に十分な量のRNAが転写され、また、細胞に対して解析に十分な導入効率が得られるのであれば、解析対象物にエクソン部分が複数個あっても、長大なイントロンを含んでもかまわない。 解析対象物となる遺伝子断片は、上記目的に合致するものであれば良い。例えば、遺伝子の変異と疾患との関係が解明されていないものや、遺伝子の変異とスプライシングとの関係、その遺伝子のスプライシングパターンと疾患の表現型の関係が解明されていない遺伝子についても、本発明の解析対象物として使用することができる。 例えば、本発明のベクターに、少なくとも2つの遺伝子断片、例えば野生型遺伝子の断片と変異型遺伝子の断片、あるいは遺伝的多型に関して、ある型の遺伝子断片と他の型の遺伝子断片などの遺伝子断片を各々解析対象物として組み込んだ各プラスミドを用いて、解析対象物のスプライシングパターンを比較することで、該遺伝子の変異と疾患、あるいは変異とスプライシングとの関係を解析することができる。さらに、ある遺伝子のイントロンに該当する部分に、その遺伝子のスプライシングに影響を及ぼしうる配列があるか否かなどの解析にも利用することができる。このことにより、今まで未解明であった疾患を診断することも可能となる。 本明細書において、スプライシング解析用ベクターは各種遺伝子由来の解析対象物を組み込むことができる点で汎用性があり、この様に汎用性のあるプラスミドを「ベクター」ということとする。一方、例えばスプライシング解析用ベクターに、解析対象物である遺伝子断片が組み込まれたもののように、解析対象物に限定して作用する汎用性のないものは、「プラスミド」といい、ベクターと区別される。 本発明のベクターを用いると、解析対象物となる遺伝子断片のスプライシングパターンを解析することができる。解析方法の手順は、少なくとも以下の工程を含む。1)本発明のスプライシング解析用ベクターのマルチクローニングサイトに、解析対象物である遺伝子断片を組込み、プラスミドを作製する工程。2)上記1)の工程1で作製したプラスミドを宿主へ導入し、宿主内で発現させ、スプライシング反応を起こさせる工程。3)上記2)の工程後の宿主よりRNAを回収し、スプライシング状況を確認する工程。 上記1)の工程について説明する。 本発明のスプライシング解析用ベクターのマルチクローニングサイトは制限酵素を用いて切断することができる。制限酵素は、自体公知のものを使用することができ、特に限定されないが、解析対象物の種類や使用するベクターとの関係において、適宜選択することができる。 解析対象物である遺伝子断片を得るために、マルチクローニングサイトを切断するのに使用した制限酵素と同じ制限酵素を使用すると、遺伝子断片を特別に操作することなく、スプライシング解析用ベクターに挿入することができる。多くの場合、ゲノム上にそのように便利な制限酵素サイトは見つからないため、何らかの形で解析対象物に制限酵素サイトを付加するか、平滑末端を用いたクローニングを行うことになる。これらの技術は、自体公知の方法により行うことができ、特に限定されない。現時点で最も簡便と予想されるのは、制限酵素サイトを付加したプライマーを用いて、解析したい部分のゲノム配列をPCR法により増幅させ、制限酵素で切断の後にクローニングする方法である。技術的には、Sambrook, et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (第2版)、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)などに記載の一般的な方法が利用でき、ライゲーション・形質転換などには市販のキットなどを用いることができる。 本発明の解析対象物として、野生型と変異型、正常型と異常型、その他異なるタイプの遺伝的多型など、少なくとも2種以上の遺伝子断片を各々組み込むことで、より明確な結果が得られると考えられる。また、人工的に変異導入した遺伝子断片を組み込むことで、スプライシングに必要なシス配列、例えばESE(エクソン内スプライシング促進配列)の同定など、スプライシング制御配列の同定に使用することも可能である。 上記2)の工程について説明する。 解析対象物となる遺伝子断片を本発明のスプライシング解析用ベクターに組み込んだプラスミドを宿主に導入し、該プラスミド上の遺伝子を転写させる。挿入可能な宿主は、プラスミドの種類により選択されるが、例えば酵母のような単細胞生物や培養細胞などが挙げられる。 本発明において、宿主としては特に好適には培養細胞が用いられる。導入する培養細胞の種類は特に限定されず、必要に応じて、ヒト以外の哺乳類の培養細胞や初代培養、被検者由来の細胞も使用可能である。また、野生型遺伝子の正確なスプライシングに細胞の分化誘導が必要な場合は、適時分化誘導を行うことが望ましい。培養細胞の種類は解析する遺伝子ごとに個別に判断すべきことであるため、まず野生型遺伝子断片を導入したレポータープラスミドを用いて、どの細胞種をどの条件で使用すれば野生型のスプライシングパターンが再現できるかをテストする必要性がある。 宿主は、市販されているか、または公共の研究機関により入手可能であり、必要に応じて初代培養細胞を用いることもできる。解析対象物となる遺伝子断片を組み込んだプラスミドの培養細胞への導入方法は、自体公知の方法および市販の試薬類を使用して行うことができ、例えばInvitrogen社から販売されているリポフェクタミンなどを利用することが可能である。プラスミド導入後、1日程度培養することにより、解析に十分なmRNAが発現する。 上記3)の工程について説明する。 宿主からRNAを回収するために、RNAを抽出し精製する。RNAの抽出および精製は、一般的な方法や市販の試薬を用いるなど、自体公知の方法によることができる。例えばニッポン・ジーン社から発売されているISOGENを利用すると簡便に培養細胞からRNAを抽出することができる。 回収されたRNAを含むサンプルは、逆転写反応後、遺伝子増幅反応により増幅させ、増幅産物(cDNA)を解析する。遺伝子増幅反応は、例えばPCR法などを利用でき、特に限定されない。また、解析の方法としては電気泳動が好適であり、アガロースもしくはアクリルアミドによる一般的な電気泳動で確認することができる。さらには、市販の解析機械、GeneScan(ABI社)やAgilent 2100を使用して増幅産物の構造を解析することもできる。なお、予想外のクリプティックスプライスサイト(本来のスプライスサイトからずれたスプライシング可能なサイト)が使用されている可能性が否定できないため、必要に応じて増幅産物の塩基配列決定を行うことが望ましい。配列決定は、適当なクローニングベクターにクローニングしてから行ってもよいし、増幅産物を精製して直接行ってもよい。塩基配列の決定方法は、自体公知の方法により行うことができ、特に限定されない。 さらに、本発明は本発明のスプライシング解析用ベクターを含むスプライシング解析用キットにも及ぶ。キットには、該ベクターおよびプライマーのほか、解析対象物の目的に応じて、制限酵素、各種緩衝液などを含むことができる。 以下に、実施例を挙げてこの発明をさらに具体的に説明するが、この発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。(実施例1)ベクターの構築 本実施例では、スプライシング解析用ベクターとしてのカセットベクターH492の構築について説明する。 図1および図2に示すように、カセットベクターH492には、バックボーンとしてInvitrogen社の転写ベクターpcDNA3を用いた。上流側ゲノム断片としてジストロフィン遺伝子エクソン18およびイントロン18の一部、下流側ゲノム断片としてジストロフィン遺伝子エクソン20およびイントロン19の一部を配置し、中央部に合成オリゴヌクレオチドを利用したマルチクローニングサイトを配置した。プロモーターおよびポリAシグナルはpcDNA3ベクター由来のものを使用した。カセットベクターH492の配列は、配列表の配列番号1に示した。 マルチクローニングサイトの配列は、図2(配列番号2)に示すとおりである。 図3にカセットベクターH492の配列のうち、pcDNA3に組み込んだ部分、すなわちHindIIIサイトからApaIサイトまでの配列を示す(配列番号3)。実際にはAcc65IおよびXhoIをクローニングに使用した。なお、pcDNA3の塩基配列はInvitrogen社のホームページ上で公開されている。図3にAからTへの1塩基置換(A>T mutation)が示してあるが、これは国際的なDNAデータベース(GenBank/EMBL/DDBJ Accession No. AF213418)の配列と差異が見つかった部分である。遺伝的多型なのかPCRによる変異なのかは未確認であるが、スプライシング反応には影響がないことを確認済みである。(実施例2)プラスミドの作製(解析対象遺伝子断片のカセットベクターへの挿入) 図2のプラスミドTVK01、TVK02を作成した際の手順を説明する。本実施例における解析対象物はジストロフィン遺伝子エクソン38およびその変異型である。正常なエクソン38を含む遺伝子断片(野生型)とエクソン38内に4塩基の欠失を持つ同じ領域の遺伝子断片(変異型)のスプライシングの比較を行う。変異型は、123塩基のエクソン38のうち、109番から112番に渡るTTCAの4塩基が欠失している。使用する遺伝子断片は、図2のNheIからBamHIの領域であり、イントロン37後半の一部−エクソン38−イントロン38前半の一部が繋がったものである。 上記のエクソン38を含む遺伝子断片の野生型・変異型両遺伝子断片を増幅するために、制限酵素サイトを付加したプライマーをデザインした。制限酵素は、図2のマルチクローニングサイトに存在する酵素であればいずれも利用可能であるが、本実施例ではNheIおよびBamHIを用いた。 In37F-Nhe:5'-GCCGCTAGCGATTAGTTTAGCAACAGGAGG-3'(配列番号4) In38R-Bam:5'-CGGGATCCGTGCTCTGAAAATTCAGTTGGAG-3'(配列番号5) 次に、健常者のゲノムDNAおよび上記の4塩基欠失を持つ患者のゲノムDNAを鋳型として、上記のプライマー(In37F-NheおよびIn38R-Bam)を用いてPCR反応を行った。反応条件はごく一般的なものであるが、例として下記に示す。1)下記成分を混合した。 ゲノムDNA 2.0μl フォワードプライマー In37F-Nhe(10pmol/μl) 1μl リバースプライマー In38R-Bam(10pmol/μl) 1μl PCR用DNA ポリメラーゼ(Takara Ex Taq; タカラバイオ社) 0.1μl 2.5mM dNTPs (Takara Ex Taqに添付) 2μl 10X PCR Buffer (Takara Ex Taqに添付) 2μl 滅菌水で総量が20μlとなるように調整した。2)94℃30秒・60℃30秒・72℃30秒の処理を35サイクル行った。3)72℃で3分間加熱した。 PCR反応の後、増幅産物の一部をアガロース電気泳動で確認し、残りの産物をPCR Purification Kit (QIAGEN社製)で精製した。その後、制限酵素NheIおよびBamHI (NEB社製)で切断し、低融点アガロースで電気泳動し、バンドを切り出し精製断片とした。一方で、H492カセットベクターも、同一の制限酵素で切断後、DNA末端の脱リン酸化をCIP(NEB社製)で行い、同様に低融点アガロース電気泳動の後にバンドを切り出し精製断片とした。 これらの精製断片をT4 DNA ligase (NEB社製)でライゲーション処理し、該ライゲーションしたDNA産物をDH5αコンピテントセル(タカラ社製)に導入し、形質転換を行った。得られたコロニーを液体培地で培養した後、Miniprep Kit (QIAGEN社製)で処理し、NheI-BamHI断片の挿入を確認した。さらに、挿入配列、すなわちプラスミド上のNheIからBamHIまでの配列を、カセットベクターH492のNheIサイト上流およびBamHIサイト下流にデザインしたプライマー(図3に示されているYH230(配列番号6)およびYH231(配列番号7))を用いて確認した。 YH230:5'-CTGTACTCATTTTGTGCTGC-3' (配列番号6) YH231:5'-ATCTGAAAGCCAACACATCC-3' (配列番号7) 配列決定にはアプライドバイオシステムズ社製のBig-Dyeおよび310 Genetic Analyzerを使用した。塩基配列に間違いがないことを確認した後、野生型の方のプラスミドにTVK01、変異型の方のプラスミドにTVK02と名前をつけた。 これらの方法は、他のキット類を使用したり、より一般的に、Sambrook, et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (第2版)、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)などに記載の方法も利用できる。(実施例3)培養細胞への導入からスプライシング状態の確認まで1.培養細胞の培養 本実施例では培養細胞としてHeLa細胞を用いた。HeLa細胞を6ウェル培養ディッシュに撒き、5%FBS DMEMを培地として使用し、37℃、5% CO2で培養した。60〜80% コンフルエントになったときにトランスフェクションを行った。2.トランスフェクション トランスフェクションはInvitrogen社から市販されているリポフェクタミン試薬およびPlus Reagenetを用いて行った。 培養ディッシュの1ウェル当たり1.5μgのプラスミドDNAを上記HeLa細胞へ導入した。実際の手順は試薬添付の説明書に沿って行った。トランスフェクション終了後、6時間は無血清培地のまま培養し、その後10% FBS DMEMを加えて最終濃度が5% FBSとなるように調整し、37℃、5%CO2条件で培養した。3.RNAの抽出 トランスフェクションから24時間培養後、細胞を破砕してRNA抽出を行った。抽出にはISOGEN試薬(ニッポン・ジーン社)を用いた。 培地を培養ディッシュから吸引し、細胞をPBSで2回洗った後、1ウェル当たり1 mLのISOGEN試薬を加えた。その後の操作はISOGEN試薬の説明書に従った。最終的に得られた乾燥RNAは、20μlの超純水に溶解した。4.逆転写反応 Random 6mer Primer(Invitrogen社)を用いて逆転写反応を行った。本実施例では、1サンプル当たり1〜5μgのRNAを用いた。 まず、pre-mix 1と2 を、サンプルの数に合わせて準備した。pre-mix 1 150ng/μl Random Primer (6mer)(Invitrogen社製) 2μl 2.5mM dNTP 5μl pre-mix 2 5X buffer(逆転写酵素に付属、Invitrogen社製) 4μl 0.1M DTT(逆転写酵素に付属、Invitrogen社製) 2μl RNase Inhibitor(Invitrogen社製) 1μl M-MLV-RT(Invitrogen社製) 1μl 抽出したRNAをPCR用チューブに1〜5μg/5μlになるように調整して加えた。次にpre-mix 1を7μlずつ加え、65℃で5分間加熱した後、氷上に移して急冷した。その後、25℃で10分間置いた後にpre-mix 2を各8μlずつ加え、37℃で55分間反応させた。逆転写反応後、cDNA溶液を短期間なら4℃もしくは氷上で保存し、長期間なら-20℃以下で保存した。5.PCR反応(スプライシング確認用)1)下記成分を混合した。 逆転写反応産物 2.5μl フォワードプライマー(10pmol/μl) 1μl リバースプライマー(10pmol/μl) 1μl PCR用DNA ポリメラーゼ(Takara Ex Taq; タカラバイオ社) 0.1μl 2.5mM dNTPs (Takara Ex Taqに添付) 2μl 10X PCR Buffer (Takara Ex Taqに添付) 2μl 滅菌水で総量が20μlとなるように調整した。2)94℃1分・60℃1分・72℃1分の処理を35サイクル行った。3)72℃で3分間加熱した。 なお、PCR反応に用いることが可能なフォワードプライマーとリバースプライマーの組み合わせは、本実施例では、図1および図3に示す上流エクソン(UE:Upstream Exon)と下流エクソン(DE:Downstrem Exon)の配列の部分配列であるYH303(配列番号8)およびYH304(配列番号9)を使用した。YH303:5'-GGTACCACAGCTGGATTACTCGCTC-3'(配列番号8)YH304:5'-CTCGAGCAGCCAGTTAAGTCTCTCAC-3(配列番号9) 使用するプライマーは、バックボーンとして使用するpcDNA3ベクターから転写される部分の配列、例えばT7およびSP6プロモーターの配列も、PCR反応に用いることが可能である。T7およびSP6プロモーター周辺の配列、例えばT7(19)(配列番号10)およびSP6(19)(配列番号11)を使用すると、YH303およびYH304を使用した際よりバックグラウンドを下げることができる利点があり、多くの場合に適している。しかし、解析対象物となるエクソン(TE:Test Exon)のサイズが小さい場合は、電気泳動によってPCR反応の反応産物のサイズを比較する際に、サイズの差が分かりにくくなるという欠点もある。従って、解析対象物の大きさや配列など目的に応じて適切なプライマーを選択することが望ましい。T7(19):5'- TAATACGACTCACTATAGG-3(配列番号10)SP6(19):5'- CATTTAGGTGACACTATAG-3(配列番号11)6.PCR反応の反応産物の確認 本実施例では、PCR反応による増幅産物を2%アガロースで電気泳動した後に、エチジウムブロマイドで染色した。結果を図4に示す。マーカーはφX174/HaeIIIを使用した。TVK01が野生型、TVK02がエクソン内に4塩基欠失がある変異型、NPCはNo Plasmid Control、すなわち細胞にプラスミドを導入していない対照である。野生型では、プラスミド由来の上流エクソン(UE:Upstream Exon)と下流エクソン(DE:Downstrem Exon)の間に、解析対象物であるジストロフィン遺伝子エクソン38(TE:Test Exon)が挿入されたバンドが観察されたが、変異型ではTEはスキップされ、UEとDEが繋がったもののみが観察された。これより、欠失した4塩基が正常なスプライシングに必要な配列であることが推定される。7.臨床所見との比較、考察 本実験例の患者、すなわち、ジストロフィン遺伝子エクソン38内部にTTCAの4塩基欠失を持つ患者は、血液中のCK(クレアチンキナーゼ)値が典型的DMD患者と比較すると低く、むしろBMD患者に近い。ジストロフィン遺伝子において、エクソン内に4塩基の欠失があるということは通常ならDMDになることを意味するが、ここでゲノム遺伝子の異常と臨床上の診断の間に不一致が生じる。ところが、スプライシング解析ベクターを用いた実験で、上記の4塩基欠失があるとエクソン38全体がmRNAに含まれないことが示された。つまり、123塩基からなるエクソン38全体がジストロフィンmRNAに含まれないことが強く示唆されたことになり、これはフレームシフト説によるとBMDとなるため、臨床所見にも一致する。このように、本実験例では、スプライシング解析ベクターを用いた解析により、筋生検を経ることなく、臨床所見と実験結果を矛盾なく一致させることができた。 以上説明したように、本発明のスプライシング解析用ベクターを用いれば、生検試料を得ることなく、ゲノムDNAを含む試料から、特定の遺伝子断片のスプライシングパターンを解析することができる。例えば比較したい2種以上の遺伝子断片に関し、該遺伝子断片がどのようにスプライシングされるかについて、解析することができる。例えば、遺伝子に変異が発見されたが、その変異が病気の原因か遺伝学的多型かの判断ができない場合、本発明のベクターを用いることにより、該変異によりスプライシング異常が引き起こされるか否かを簡便に試験することができる。これにより、該遺伝子の特定部分もしくは全体の欠失が、特定の疾患と関係することが既知の場合には、特定の疾患を容易に診断することができ、未知の場合でも、その変異を病因候補変異と特定できる。 例えば、遺伝子の塩基配列から、構成されるタンパク質のアミノ酸配列には影響を及ぼさない塩基の変異であるにもかかわらず、その変異によりある疾患に結びつく場合に、従来の遺伝子の塩基配列の解読だけでは、疾患の原因を究明することは困難であった。ところが、アミノ酸配列には影響を及ぼさない塩基の変異であるにもかかわらず、その変異によりスプライシングの機能に影響を及ぼす配列、すなわちスプライシング促進配列の機能に影響を及ぼす配列となってしまった場合には、正常にスプライシングが行われない可能性がある。このような場合に、本発明のスプライシング解析用ベクターを用いれば、特定領域の遺伝子断片に関し、スプライシングが正常に行われているか否か、本来エクソンとして機能しうる配列が、エクソンとして機能しうるか否かを解析することができる。 さらに、イントロンに含まれる配列の多型についても、スプライシングに影響を及ぼすことが考えられるが、従来はイントロンの機能については、注目されていなかった。エクソン部分の配列が正常であっても、イントロンの配列が変異することによりスプライシングが正常に行われない場合もありうる。本発明のスプライシング解析用ベクターに、解析したいエクソン部分とイントロン部分の配列を組み込むことで、イントロンの配列によるスプライシングに及ぼす影響も解析することができる。 従って、本発明のスプライシング解析用ベクターを用いれば、従来診断不可能であった疾患についても検査を容易に行うことができる。さらに、血液などの試料から、遺伝子断片を取り出して解析を行うことが可能となるため、被検者に負担を強いることなく、かつ多くの試料について効率的に検査を行うことが可能となる。本発明のスプライシング解析用ベクターの概念を示す図である。スプライシング解析用ベクターの具体例(カセットベクターH492)を示す図である。(実施例1)カセットベクターH492の配列を示す図である。(実施例1,2)カセットベクターH492を用いて筋ジストロフィン遺伝子のエクソン38について解析した結果を示す図である。(実施例3)符号の説明 UE 上流エクソン(Upstream Exon) DE 下流エクソン(Downstrem Exon) TE テストエクソン(Test Exon)少なくとも2個の正常に機能するエクソン配列と、前記少なくとも2個のエクソン配列とエクソン配列の間にマルチクローニングサイトを含む配列を配置し、該マルチクローニングサイトに解析対象物である遺伝子断片を組み込むことで、該遺伝子断片のスプライシングパターンを解析可能とするスプライシング解析用ベクター。前記ベクターにおいて、上流側に配置されたエクソン配列の上流側にプロモーターが配置され、下流側に配置されたエクソン配列の下流側にポリAシグナル配列が配置されてなる請求項1に記載のスプライシング解析用ベクター。前記ベクターにおいて、上流側に配置されたエクソン配列が、ジストロフィン遺伝子のエクソン18由来であり、下流側に配置されたエクソン配列が、ジストロフィン遺伝子のエクソン20由来である請求項1または2に記載のスプライシング解析用ベクター。遺伝子(ゲノムDNA)を含む試料から解析対象物である遺伝子断片を取得し、少なくとも2個の正常に機能するエクソン配列と、前記少なくとも2個のエクソン配列の間にマルチクローニングサイトを含む配列が配置されたベクターのマルチクローニングサイトに、解析対象物である遺伝子断片を組み込むことによる該遺伝子断片のスプライシングパターンの解析方法。以下の工程を含む請求項4に記載のスプライシングパターンの解析方法:1)ベクターのマルチクローニングサイトに、解析対象物である遺伝子断片を組込み、プラスミドを作製する工程;2)工程1で作製したプラスミドを宿主へ導入し、宿主内で転写させ、スプライシング反応をおこさせる工程;3)工程2の宿主よりRNAを回収し、スプライシングパターンを確認する工程。比較したい少なくとも2種類の試料から各々解析対象物である遺伝子断片を取得し、各々を請求項5に記載のスプライシングパターンの解析方法で解析することによる解析対象物のスプライシングパターンの解析方法。解析対象物由来のエクソンが存在しうるか否か、あるいは、予想される部位でスプライシングされているか否かを、電気泳動および/または塩基配列の決定により確認する請求項4〜6のいずれか一に記載の解析方法。請求項1〜3のいずれか一に記載のスプライシング解析用ベクターを含む、遺伝子断片のスプライシング機能を解析可能とするスプライシング解析用キット。 【課題】遺伝子(ゲノムDNA)を含む試料を用いて、特定の遺伝子断片のスプライシングの異常を簡便に検出しうる汎用性のスプライシング解析用ベクターおよび該ベクターを用いたスプライシングの解析方法の提供。【解決手段】少なくとも2個の正常に機能するエクソン配列と、前記少なくとも2個のエクソン配列の間にマルチクローニングサイトを含む配列が配置されたスプライシング解析用ベクター。前記ベクター上の2つのエクソン配列のマルチクローニングサイトに解析対象物である遺伝子断片を組み込み、細胞へ導入し、遺伝子を転写させ、成熟mRNAを生成させることで、得られた成熟mRNA中に遺伝子断片由来物質が含まれるか否かを確認することができる。【選択図】図1配列表