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タイトル:特許公報(B2)_グリシンを含有する食品およびその用途
出願番号:2005516994
年次:2012
IPC分類:A23L 1/305,A23G 3/00,A23G 3/34,A23L 2/52,A61K 31/198,A61P 1/10,A61P 25/20


特許情報キャッシュ

幸田 徹 森島 千佳 稲川 健太郎 関 忍 JP 4913410 特許公報(B2) 20120127 2005516994 20041224 グリシンを含有する食品およびその用途 味の素株式会社 000000066 高島 一 100080791 田村 弥栄子 100121212 山本 健二 100122688 土井 京子 100125070 鎌田 光宜 100136629 村田 美由紀 100117743 竹井 増美 100158724 谷口 操 100119286 幸田 徹 森島 千佳 稲川 健太郎 関 忍 JP 2004007392 20040114 JP 2004158917 20040528 20120411 A23L 1/305 20060101AFI20120322BHJP A23G 3/00 20060101ALI20120322BHJP A23G 3/34 20060101ALI20120322BHJP A23L 2/52 20060101ALI20120322BHJP A61K 31/198 20060101ALI20120322BHJP A61P 1/10 20060101ALI20120322BHJP A61P 25/20 20060101ALI20120322BHJP JPA23L1/305A23G3/00A23G3/00 105A23L2/00 FA61K31/198A61P1/10A61P25/20 A23L 1/00-2/84, A23G 3/00, A61K 31/198, A61P 1/00-43/00 特開2003−116504(JP,A) 独国特許出願公開第10221403号明細書(DE,A1) 特開2001−224334(JP,A) 特開平04−207161(JP,A) 特開平02−072853(JP,A) 特開平06−505014(JP,A) 食品と開発,Vol.27,No.10,(1992),p.11−14 J.Clin.Psychopharmacol.,Vol.19,No.6,(1999),p.506−512 5 JP2004019771 20041224 WO2005067738 20050728 15 20050921 2006027095 20061130 秋月 美紀子 齊藤 真由美 郡山 順 柳 和子 鵜飼 健 本発明はグリシンを含有する食品およびその用途に関する。 グリシンは、CH2(NH2)COOHという最も簡単な構造の非必須アミノ酸である。グリシンは食品添加物としても認められているアミノ酸であり、多くの食品に含まれている。例えば、飲料には品質の保存を目的に添加されており、その含量は最大50mg/100ml程度である。また、グリシンは蒲鉾などの練り製品にも含まれている。グリシンの公知の機能として、一日あたり0.1gを摂取することで記憶や注意力を向上させることが挙げられる(サンドラ イー.(Sandra E.)ら著,「ジャーナル・オブ・クリニカル・サイコファーマコロジー(Journal of Clinical Psychopharmacology)」 ,(米国),1999年,第19巻,第6号,P.506-512)。さらに、食品の変質防止剤としてマルトースと共にグリシンを添加することが公知であり(特開平2−72853号公報)、その場合のグリシンの添加量は0.3%(W/W)程度が例示される。 本発明は、従来にない形態のグリシン含有食品を提供し、グリシンに基づく新たな機能を有する食品を提供することを目的とする。 本発明者らは一定量以上のグリシンの摂取が従来知られていない、いくつかの新たな機能を発現し得ることを見出し、以下のような本発明を完成した。(1)1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを1食摂取量として0.5g以上含有する熟眠障害改善用食品(但し、サポニンの含有量が1mg以上である食品を除く)。(2)さらに、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する、上記(1)に記載の食品。(3)さらに、賦形剤、矯味剤および香料から選ばれる少なくとも1種の添加物を含む、上記(1)または(2)に記載の食品。(4)前記矯味剤がクエン酸である、上記(3)に記載の食品。(5)食品の形態が粉末状、錠剤または顆粒状である、上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の食品。(6)食品の形態がスラリー状である、上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の食品。(7)食品の形態が飲料である、上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の食品。(8)食品の形態が菓子である、上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の食品。(9)食品の形態がゼリー、プリンまたはヨーグルトの形態である、上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の食品。(10)食品が保健機能食品である、上記(1)〜(9)のいずれか1に記載の食品。 以下に本発明の実施の形態について説明する。 本発明の本質は、グリシンの新規用途と、その用途に適した食品である。グリシンとは、上述の如く、CH2(NH2)COOH なる構造のアミノ酸である。「加水分解によりグリシンになり得る物質」とは、加水分解反応(特に生体内加水分解反応)によりグリシンが得られる物質であり、典型例として、グリシンを構成単位にもつ蛋白質やペプチドが挙げられる。加水分解反応によりグリシンが得られる物質は、摂取後の体内での加水分解によりグリシンが生成して、はじめからグリシンを摂取したのと同様の効果を奏することが期待される。 本発明における1食当たりの単位包装形態の食品は、グリシンまたは加水分解によりグリシンになり得る物質を、グリシン換算で1食当たり0.5g以上含有する。このような食品は多くのグリシンを手軽に摂取できるので、後述する新規作用による効果を享受しやすい食品である。 「1食当たりの単位包装形態」からなる食品とは、1食あたりに摂取する量が予め定められた形態の食品である。本明細書にて、食品とは、経口摂取し得るもの(医薬品を除く)を広く包含する概念であり、所謂「食べ物」のみならず飲料、健康補助食品、保健機能食品、サプリメント等を含む。1食当たりの単位包装形態としては、例えば、飲料、キャンディー、チューイングガム、ゼリー、プリン、ヨーグルト等の場合にはパック、包装、ボトル等で一定量を規定する形態が挙げられ、顆粒・粉末・スラリー状の食品の場合には、包装などで一定量を規定できる、あるいは容器などに1食当たりの摂取量を表示してある形態が挙げられる。 食品中の、グリシンまたは加水分解によりグリシンになり得る物質の含有量における「グリシン換算で」とは、グリシンそのものを含有する場合はそのグリシンの重量に着目し、加水分解によりグリシンになり得る物質を含有する場合には、その加水分解によりグリシンになり得る物質をすべてグリシンにしたときのグリシンの重量に着目するという意味である。食品中にグリシンと加水分解によりグリシンになり得る物質との両方が含まれている場合には、加水分解によりグリシンになり得る物質を加水分解により全てグリシンにしたときのグリシンの重量と、もともとグリシンであったものとの総重量を食品中の含有量とする。 1食あたりのグリシンまたは加水分解によりグリシンになり得る物質の含有量は、食品への含有させ易さや含有させることによる効果の観点から、グリシン換算で0.5g以上であり、好ましくは1.0g以上であり、より好ましくは1.5g以上である。一方、既知の知見から得られる食経験(エビンス エー.イー.(Evins A.E.)ら著,「アメリカン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー(American Journal of Psychiatry)」,(米国),2000年5月,第157巻,第5号,P.826-828)や包装・摂取の容易さの観点から、上記含有量は好ましくは100g以下であり、より好ましくは60g以下である。 本発明者らは、上記食品中にグリシン以外のアミノ酸が多く含まれていると、後述する効果を享受し難くなる傾向があることも見出した。よって、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の含有量は、グリシン以外のアミノ酸換算で1食当たり5g以下が好ましい。上記食品中に、機能の発現に必要最低レベルのグリシンしか含まれない場合に含まれるグリシン以外のアミノ酸および加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の量が5gを超える場合には本発明のグリシンの機能は抑制される。 グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の含有量の下限は特に定められるものではないが、例えば、グリシン以外のアミノ酸換算で1食当たり50mgが挙げられ、実質的に含まれないことが好ましい。 グリシン以外のアミノ酸とは、アミノ酸であって、上記グリシン以外のものをいう。ここで、「アミノ酸」とは、アミノ基(−NH2)とカルボキシル基(−COOH)の両方をもつ有機化合物である。「加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質」とは、加水分解(特に生体内加水分解反応)によりアミノ基とカルボキシル基の両方をもつ有機化合物(グリシンを除く)が得られる物質であって、典型例として、グリシン以外のアミノ酸を構成単位にもつ蛋白質やペプチドが挙げられる。 食品中のグリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシンになり得る物質の含有量における「グリシン以外のアミノ酸換算で」とは、グリシン以外のアミノ酸の重量と、加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質が加水分解によってグリシン以外のアミノ酸になったと仮定した場合のグリシン以外のアミノ酸の重量との総和に着目するという意味である。 食品中に含まれるグリシンまたは加水分解によりグリシンになり得る物質の形態は特に問わず、粉末状または顆粒状であってもよく、スラリー状、錠菓、カプセル状、溶液状、ゼリー状、乳液状であってもよい。中でも、携帯性や包装の容易さという理由から顆粒状や粉末状が好ましい。また、摂取の容易さという理由から、溶液状やゼリー状、スラリー状もまた好ましい。 食品中に含まれるグリシンが「スラリー状である」とは、液状の媒体中に固体のグリシンが懸濁している状態をいう。但し、上記媒体中にグリシンの一部が溶解していてもよい。 例えば、食品がいわゆる健康食品であるような場合には、0.5g以上の顆粒状のグリシンが1食あたりの摂取量単位で包装された形態などが挙げられ、食品が健康ドリンクであるような場合には、0.5g以上のグリシンが懸濁あるいは溶解したドリンクが1食あたり飲み切りの形態でビン等に入れられている形態が挙げられる。 なお、食品の形態は特に問わず、さまざまな食品への応用が可能である。グリシンは水への溶解性が高く、好ましい甘みを有することから、飲料、菓子類、ゼリー、プリン、ヨーグルトへの利用も適当である。飲料は瓶、缶、紙パックなどで溶液または懸濁液などとして供されるものだけでなく、お茶やコーヒー、粉末飲料などのように抽出、溶解して飲用に供してもよい。ここで、菓子とは食事以外に食べる甘味などの嗜好品をさし、キャンディーやチューイングガム、錠菓などが挙げられる。 投与するヒト以外の動物としては、家畜、家禽類などの哺乳動物のほか、実験動物などが含まれる。ヒト以外の動物への投与形態としては、飼料中への添加であってもよい。 次にグリシンの新規用途に係る発明について説明する。本発明の新規用途とは、食品香料、中途覚醒・早朝覚醒抑制食品、熟眠障害改善食品、便通改善食品としての用途である。 <食品香料> 従来、通常のアミノ酸は、高温条件での工業的な環境という特殊な条件下でリアクションフレーバーとして利用されていた。本発明者らは、グリシンに熱湯を添加するなど、家庭で一般的に実施可能な条件で食品中に含まれる糖類と反応して、好ましいフレーバーを生成することができることを見出した。また、食品中の好ましからざるフレーバーのマスキングにも利用することができることを見出した。 本発明における食品香料とは、香りがほとんどない食品素材に香りを付けたり、食品の製造工程中に失われる香りを補強したり、食品素材自身が持つあるいは加工時に生じる好ましくない香りをマスキングしたりする物質を表す概念である。 食品香料として使用するためには、グリシンを食品に含有させればよい。付与すべきフレーバーの程度、マスキングの程度によってグリシンの含有量を適宜設定すればよいが、1食当たりの摂取量単位の形態をとる食品であれば、グリシンを1食当たり、好ましくは0.5〜100g、より好ましくは1.0〜60g含有させる。また食品全体に占めるグリシンの重量は、溶解性、呈味性の好ましさ、フレーバーやマスキング効果の有効性という理由により、好ましくは0.15〜100重量%であり、より好ましくは0.3〜98重量%である。この用途における、好ましい使用態様として熱湯を添加するなどの加熱によって糖類と反応させる態様が挙げられる。この場合、反応させる糖類としてはショ糖、果糖、ブドウ糖、デキストリン、マルトース、麦芽糖などが例示される。 また、食品全体に対して0.15〜100%重量、好ましくは0.3〜98重量%のグリシンを含有させることを特徴とする、食品素材自身が呈する香りまたは食品加工によって付与された香りをマスキングする方法も本発明の対象である。 グリシンを食品中の好ましからざるフレーバーのマスキングに利用する場合の、「好ましからざるフレーバー」としては、生薬や漢方薬に用いられる薬草の他、一般の健康食品に含まれるヤーコン、杜仲、プーアルなど、民間療法的に使われるドクダミなどの植物抽出物、さらには一般にハーブとして食用あるいは抽出して飲用に供されるハーブ類のフレーバーが挙げられる。 <熟眠障害改善食品> 本発明の別の態様として、グリシン(または加水分解によりグリシンになり得る物質)を含有する食品を、熟眠障害改善食品として用いる態様が挙げられる。 ここで、「熟眠障害」とは、起床時に熟眠に対する満足感が無い、または、睡眠不足感を感じる状態、あるいは、適切な睡眠によって期待される様々な状態についての満足感が感じられない状態をいう。例えば、睡眠が浅い場合や、入眠後に深い眠りとされる徐波睡眠に移行しにくい場合や、睡眠が中断されたり、期待する時間に起床できない場合や、睡眠時間が不足する場合があげられ、また睡眠の環境が不適切な場合、精神的あるいは身体的ストレスがある場合、就寝前にカフェインなど覚醒作用を持つ成分を摂取した場合、過度に飲酒した場合、さらに不規則な睡眠周期や生体リズムの乱れがある場合、その他、時差のある環境においても起こりやすいとされる。一般に睡眠は体の休息だけでなく、より積極的に身体と精神の疲れを取ったり、記憶を整理したり、特に深い睡眠では、成長ホルモン等の分泌により、成長や体内の代謝バランスを整えたりする役割があることが知られている。したがって、熟眠障害によって、睡眠をとっても身体的・精神的状態が改善されなかったり、疲れが残ったり、生活への意欲が減退したり、翌日に過眠があったり、体にだるさがあったり、睡眠時間の不足感があったり、さらには頭痛があったりする場合には、これらを改善すると(熟眠障害の改善)、例えば、疲労感の低減や、起床時の目覚め感など身体的・精神的状態の改善、深い睡眠が得られたという実感、質の良い睡眠が得られたという実感が得られ、生活意欲が向上したり、集中力が向上することなどが期待される。また、交代勤務などの不規則な勤務や時差を伴う移動なども熟眠障害の原因となりえ、これを改善することで、覚醒中の集中力を高めたり日中の過眠を防止したり、疲労感を低減したり、労働意欲を増進したりすることも期待される。熟眠障害改善食品は、上記熟眠障害を改善するだけでなく、睡眠の質的改善により睡眠という行為が本来持っている役割を発揮させることに有効な食品である。そのような役割とは、例えば起床時のすっきりした気分や、疲労感の低減、日中の過眠傾向の防止などである。熟眠障害改善食品は上記熟眠障害を改善しうる食品である。なお、いわゆる「睡眠障害」や「不眠症」とよばれる概念も、上述の「熟眠障害」という概念に含まれる。 熟眠障害改善食品としての本発明の食品は、グリシンまたは加水分解によりグリシンになり得る物質を含有する食品である。この用途のための前記食品の摂取量は、グリシン換算で、好ましくは0.00625〜2.5g/kg/dayであり、より好ましくは0.125〜1.5g/kg/dayである(体重1kgあたりの1日当たりの摂取量)。「グリシン換算で」の意味は上述のとおりである。前記数値範囲の下限値以上であれば上述の効果を奏するのに十分であるが、摂取量を多くすると、摂取が困難になったり、コスト高となったりする傾向にある。上述した、1食当たりの摂取量単位の形態をとる食品は、グリシンの摂取量の管理を容易にする。 以上のような睡眠に関する効果により、日中の眠気の抑制、特にジェットラグなど時差のある環境での睡眠の質の向上が期待される。今日の生活では生活時間帯のシフトや交代勤務など規則的な睡眠をとることが困難な場合がある。このように生活パターンの乱れた環境において、起床時の熟睡感の向上や昼間の眠気の軽減により、生活の質を改善することができる。以上のようなグリシンの効果については、複数のメカニズムが関連すると想定されるが、特に交感神経・副交感神経系への作用が有力であると考えられる。実験動物で心電図を測定した実験では、グリシンの投与により副交感神経系が優位に作用する結果が得られている。現代の生活は、精神的なストレスなどにより交感神経優位になりやすいと言われているが、グリシンはこれと対照的に作用する副交感神経を優位に作用させることにより、徐波睡眠(深い眠り)への移行を誘発したり、睡眠中の眠りの質を向上させたり、睡眠中の内臓の活動を適切に調節したり、自然な眠りを助長するものと考えられる。このような睡眠に関する用途でグリシンを摂取する場合、就寝前に摂取することが最も適当である。 熟眠障害改善食品の下位概念として、中途覚醒抑制食品、早朝覚醒抑制食品を挙げることができる。ここで、「中途覚醒」とは夜中に目が覚め、その後しばらく眠れない状態をいい、「早朝覚醒」とは朝、意図したよりも早く目が覚め、そのまま眠れない状態をいう。中途覚醒・早朝覚醒抑制食品は、上記中途覚醒および早朝覚醒の少なくとも一方の状態を改善し得る食品である。 中途覚醒・早朝覚醒抑制食品としての本発明の食品は、グリシンまたは加水分解によりグリシンになり得る物質を含有する食品である。この用途のための前記食品の好ましい摂取量は、熟眠障害改善食品としての好ましい摂取量と同様である。 <便通改善食品> 本発明の別の態様として、グリシン(または加水分解によりグリシンになり得る物質)を含有する食品を、便通改善食品として用いる態様が挙げられる。ここで、「便通改善」とは、便通異常(所謂、便秘や下痢)を改善し得る食品である。 便通改善食品として使用するためには、グリシンまたは加水分解によりグリシンになり得る物質を含有する食品を摂取すればよい。この用途のための前記食品の好ましい摂取量は、熟眠障害改善食品としての好ましい摂取量と同様である。 <商業的パッケージ> 本発明の食品とその用途への使用に関する説明を記載した記載物を含むパッケージにおいて、記載物としては、用途・効能や飲食方法などに関する説明事項を記載したいわゆる能書などが挙げられる。 以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例の記載により何ら限定されない。実験動物による試験以外の、実験例1〜6、8の試験は、すべて被験者が本人の主体的希望に基づいて食品添加物用のグリシンを粉末または錠剤であるいは一般の食品に加えて自主的に摂取し、本人の自由意志によってコメントした結果をまとめたものである。なお、実験例9以降の試験は、社内倫理審査委員会の承認を得て、専門医師の指導の下、二重盲検法プラセボ試験にて実施したものである。(実験例1) 各々市販の表1に示すブレンド茶のティーバッグに粉末のグリシン(実質的に純粋なもの)2gを添加したものと添加しないものを用意し、これに所定量(150ml)の熱湯を加えて1分間抽出した。抽出したブレンド茶を5名の被験者が飲用した。グリシンを添加しない場合と比較したときの、グリシンを添加したものについてのフレーバーの減少について被験者からコメントを得た。フレーバーの減少をマスキング効果の指標とした(表1)。試験した3種類全てのブレンド茶について、過半数の被験者がマスキング効果を確認し、その大部分が好ましいマスキング効果であった。(実験例2) 被験者である日本在住の日本人(男性、44歳、体重62kg)が米国東海岸へ旅行したときの、グリシン摂取、睡眠の様子は図1に示すとおりである。図中、矢印を付した日時にグリシン(賦形剤、香料以外を含まない実質的に純粋な錠菓状のグリシン)を摂取した。このうち、「6月20日」および「6月21日」は1.0gを摂取し、「6月22日」〜「6月26日」および「6月29日」は1.5gを摂取した。この被験者は前回までの同様の旅行中には睡眠中に頻繁に覚醒していたが、図1の結果から明らかなようにグリシンの服用により中途覚醒が減少または消失した。(実験例3) 5日間の渡米中の3人の被験者(被験者A〜C、体重64〜74kg)に対し、睡眠前にグリシン(賦形剤、香料以外を含まない実質的に純粋な錠菓状のグリシン)を1.5g摂取した場合と、摂取しない場合とで、翌日の午後1時から5時に感じる眠気を3段階で評価した。結果を表2にまとめる。3人の被験者とも、グリシンを摂取した場合には摂取しなかった場合に比べ、翌日日中の眠気の程度が軽減された。(実験例4) 被験者(体重45kg)は、就寝前に直接または種々の食品(表3参照)に添加して3gのグリシンを摂取した。これらの食品中の、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の含有量(アミノ酸換算量)は、概ね0〜4gである。グリシンを摂取しなかった場合と比較して、就寝時の寝つきの良さと翌朝起床時の熟睡感を記録し、表3にまとめた。いずれの形態でグリシンを摂取した場合も、ほとんどの場合において熟睡感と寝つきが改善された。(実験例5) 被験者ら(体重45〜80kg)は3gのグリシン(顆粒及び粉末状の実質的に純粋なグリシン)をそのまま、あるいは水、ジュース、スポーツ飲料などに溶いてあるいは懸濁して、またはゼリー、プリンなどに添加し摂取して睡眠をとり、非摂取時と比較して眠りの質について自発的にコメントした。77名中58名から睡眠の質が向上したとのコメントがあり、2名から質が低下した、17名から何の効果もなかったとのコメントがあった。目覚めのさわやかさや熟睡感の向上といった起床時の効果の他、日中の眠気の軽減といった摂取翌日の効果、いびきの軽減といった摂取後睡眠中の効果があった。以上の他にも少数ではあったが、胃の痛みが軽減された、翌朝に疲れが残らなかった、受験前の精神的ストレスが軽減された、生理痛が軽くなった、寝坊しなくなった、鼻詰まりが解消した、などのコメントがあった(表4参照)。(実験例6) 2人の被験者(被験者A(体重52kg)、B(体重45kg))は、就寝前にグリシン(賦形剤、香料以外を含まない実質的に純粋な錠菓状のグリシン)を表5に示す形態で摂取した(摂取しない場合もあり)。表5は、その翌朝の便通の有無を該当する日数で表示したものである。就寝前にグリシンを摂取した場合に、翌朝の便通の頻度が増加した。ヨーグルトと共に摂取した場合にも便通は改善された。(実験例7) グリシン(粉末状の実質的に純粋なグリシン)を0、30、300mg/kg(0mg/kgは対照、CTRL)それぞれ投与したビーグル犬を用いて交感神経活動の指標となる心電図におけるR−R間隔をテレメトリーシステムにより測定した。測定は、グリシン投与の後の夜間に行った。またグリシン経口投与後のR−R間隔から高速フーリエ変換・パワースペクトラム解析により交感神経活動([低周波成分LF]/[高周波成分HF])および副交感神経活動(高周波成分HF)を調べた。図2は、投与後の経過時間とR−R間隔との関係を示す。その結果、対照と比較して、グリシンを投与すると、投与1〜4時間においてR−R間隔が増大し、副交感神経活動が優位にあることが示された。このことから、グリシンは交感神経亢進の相対的抑制により熟眠障害の緩和に関与している可能性が推察された。(実験例8) 被験者A(体重45kg)は、就寝前に表6記載の量のグリシン(粉末状の実質的に純粋なもの)を水に溶かして摂取して、翌朝の熟眠感を記録した。普段よりも熟眠感が向上した場合は「+」、普段の熟眠感とほぼ変わらない場合は「±」、悪化した場合は「−」と評価した。結果を表6に示す。(実験例9) グリシンの睡眠への効果の確認を目的とした二重盲検法クロスオーバーテストを、女性成人15人(20代〜50代、体重46〜58kg)を対象として実施した。被験者は就寝1時間前にグリシン(顆粒状、クエン酸などを含む)をグリシン換算で3g服用し、プラセボとしてはグリシン以外の成分を含み(クエン酸など)味に区別がつかない程度に調整した還元麦芽糖をもちいた。試験はグリシンとプラセボを各々4日間摂取し、間に3日間の非摂取日をはさんだ2週間で実施した。(1)睡眠の状態を評価する自記式の調査票を用いて調査したところ、32歳以上の被験者(15名中6人、体重46〜58kg)について、起床時の身体的(体の調子が良い、だるい、頭が重いなど)・精神的(気分がすっきりしている、気分が悪いなど)状態を改善する効果が有意に示され、ピッツバーグ睡眠調査票(PSQI)で9点以上であるような睡眠についての問題の多い被験者(15人中7人、体重46〜58kg)について、起床時の精神的状態を改善する効果が有意に示された。結果を表7に示す。(2)起床時の疲労度の状態を評価する自記式の調査票を用いて調査したところ、起床時の疲労感を低減する傾向が示された。結果を表8に示す。表中のグリシンおよびプラセボの値は、SAM疲労度チェックリストにおいて、起床時の疲労度を問う10問(各々0、1、2点の3段階)における4日間の総点において、プラセボ摂取に比べ疲労度の低減(総点の減少)あるいは増加(総点の増加)した被験者数を示したものである。表中では総点において1点以上の差があったもの(効果あり)と総点で4点以上差のあったもの(顕著な効果)の被験者数を示した。(3)睡眠の状態を評価する自記式の調査票を用いて調査したところ、32歳以上の被験者について、睡眠の深さを改善する効果が有意に示された。結果を表9に示す。表中のグリシンおよびプラセボの値は、睡眠調査票「睡眠の深さ」において、8段階で評価された点の被験者平均を表す値である。数値が大きいほど、被験者がより深い睡眠であったと回答したことを意味する。また、p値とは、統計学的な値で、差が無いと仮定したときの可能性を表す値である。特にこの値が0.05以下のときに有意差があるとされる。(4)各々1週間の試験期間の終了時に睡眠の良好さについて質問したところ、15人中6人はグリシンを服用した週が、1人はプラセボを服用した週が良好であったと応えた。残りの8人はどちらも同じと応えた。(5)睡眠の状態を評価する自記式の調査票を用いて調査したところ、32歳以上の被験者について特に、翌朝の頭をすっきりさせる効果が示された。結果を表10にまとめる。 以上のことから、グリシンの摂取により、深い睡眠が得られるとともに、起床時の疲労感や、身体的あるいは精神的な状態が改善させることが示された。深い睡眠が得られたことで疲れが取れ、起床時の状態が改善されたと考えられる。(実験例10) グリシンの睡眠への効果の確認を目的とした二重盲検法クロスオーバーテストを睡眠中のイビキや無呼吸状態を気にしている男性成人14人(体重64〜112.5kg、平均81.2kg)を対象として実施した。被験者は就寝1時間前にグリシン(顆粒状、クエン酸などを含む)をグリシン換算で3g服用し、プラセボとしてはグリシン以外の成分(クエン酸など)を含み味に区別がつかない程度に調整した還元麦芽糖をもちいた。(1)睡眠の状態を評価するため終夜ポリソムノグラフィーを用いて測定したところ、消灯から入眠までの時間に有意な差は認められず、消灯から深い睡眠とされる徐波睡眠に入るまでの時間が短縮されると共に、入眠初期の徐波睡眠の延長が確認された。 さらに、起床時に昨夜の睡眠の状態について睡眠調査票で調査したところ、「眠りの深さ」の項目で高い得点が得られた。このことから、グリシンの摂取により深い睡眠が得られやすくなったと考えられる。結果を表11にまとめる。表中の入眠初期の徐波睡眠(%)とは、入眠初期(1時間)に占める徐波睡眠の割合の、被験者平均を表す値である。 またOSA睡眠調査票においては、4段階(0、11、21、32点)で記載された得点の被験者平均を表す値を算出した。得点が高いほど眠りがより深かったと被験者が回答したことを示す。グリシン摂取での得点は16.7点で、プラセボ摂取での得点12.3に比べ高値を示した。これは、グリシン摂取により眠りが深くなったことを示している。(2)起床時に昨夜の睡眠の状態についてOSA睡眠調査票で調査したところ、寝つくまでにウトウトしていた状態が少なかったとの傾向が得られた。就寝時の入眠への抵抗を低減したと考えられる。結果は、OSA睡眠調査票における4段階(0、11、19、30)で記載された得点の被験者平均値で示す。得点が高いほど寝つくまでにウトウトしていた状態がより少なかったと、被験者が回答したことを意味する。グリシン摂取での得点は24.9で、プラセボ摂取での得点19.6に比べ高値を示した。これは、グリシン摂取で寝つくまでにウトウトしていた時間が少なくなったことを示しており、入眠後に深い眠りが得られたためと考えられる。(実験例11) グリシン(粉末状の実質的に純粋なグリシン)を、0g/kgおよび2g/kg(0g/kgは対照)それぞれ投与したラットを用いて、皮質・海馬に留置した電極から記録される自発脳波および頸部筋電図、さらに赤外線モニターによる自発運動量を測定した。脳波、筋電図および行動記録から睡眠−覚醒周期を解析し、明期および暗期の占有率および潜時時間を算出した。表12に3時間毎の睡眠−覚醒周期占有率、表13に潜時時間、表14に投与6時間後の自発運動量を示す(すべて平均値±標準誤差で表した)。 昼間にグリシンを投与した場合、対照と比較して覚醒期の割合が減少していた。睡眠期のうちわけについてみると、徐波睡眠期と速波睡眠期のいずれもやや増加する傾向にあった。一方、暗期については作用が認められなかった。また、表13に示したように、各睡眠期の潜時時間、すなわち投与後初めて出現するまでの時間について、グリシン投与群では徐波睡眠期潜時が短縮しており、グリシンによって深い眠りが誘発されやすくなっている可能性が示唆された。 さらに、表14に示したように、明期の自発運動量はグリシン投与群で減少したが、暗期には変化が認められなかった。以上の結果からグリシンは、ラットの本来の休息期である明期に限り、眠りの構成を著しく変化させることなく自然な眠りを助長することが示された。 本発明の食品は、好ましからざるフレーバーのマスク作用、中途覚醒抑制作用、早朝覚醒抑制作用などといった熟眠障害改善作用、便通改善作用を奏し得る。本発明の摂取量単位の形態をとる食品は、上記作用による効果を手軽に享受し得る食品である。図1は被験者が米国東海岸へ旅行したときの、グリシン摂取、睡眠の様子をあらわす図である(実験例2)。図2はビーグル犬を用いた実験における、グリシン投与後の経過時間とR−R間隔との関係をあらわすグラフである(実験例7)。 1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを1食摂取量として0.5g以上含有する、熟眠障害改善剤。 さらに、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する、請求項1に記載の熟眠障害改善剤。 さらに、賦形剤、矯味剤および香料から選ばれる少なくとも1種の添加物を含む、請求項1または2に記載の熟眠障害改善剤。 前記矯味剤がクエン酸である、請求項3に記載の熟眠障害改善剤。 液状である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熟眠障害改善剤。


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