タイトル: | 特許公報(B2)_新規ピリチオン複合化合物、その製造方法およびその用途 |
出願番号: | 2005514978 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C07D 213/89,C09D 5/16,A61K 8/49,A61K 8/19,A61K 8/27,A61Q 5/00,A61Q 5/02,A61Q 15/00,A01N 43/40,A01N 59/20,A01N 59/16,A01N 43/80,A01P 3/00,C07F 1/08,C07F 3/06 |
日高 靖浩 JP 4185526 特許公報(B2) 20080912 2005514978 20041022 新規ピリチオン複合化合物、その製造方法およびその用途 有限会社 ワイエイチエス 502220115 谷 良隆 100071973 日高 靖浩 JP 2003364295 20031024 20081126 C07D 213/89 20060101AFI20081106BHJP C09D 5/16 20060101ALI20081106BHJP A61K 8/49 20060101ALI20081106BHJP A61K 8/19 20060101ALI20081106BHJP A61K 8/27 20060101ALI20081106BHJP A61Q 5/00 20060101ALI20081106BHJP A61Q 5/02 20060101ALI20081106BHJP A61Q 15/00 20060101ALI20081106BHJP A01N 43/40 20060101ALI20081106BHJP A01N 59/20 20060101ALI20081106BHJP A01N 59/16 20060101ALI20081106BHJP A01N 43/80 20060101ALI20081106BHJP A01P 3/00 20060101ALI20081106BHJP C07F 1/08 20060101ALN20081106BHJP C07F 3/06 20060101ALN20081106BHJP JPC07D213/89C09D5/16A61K8/49A61K8/19A61K8/27A61Q5/00A61Q5/02A61Q15/00A01N43/40 101LA01N59/20 ZA01N59/16 ZA01N43/80 102A01P3/00C07F1/08 CC07F3/06 C07D 213/00-213/90 C09D 5/00- 5/46 A61K 8/00- 8/99 A01N 43/00- 43/92 A01N 59/00- 59/26 C07F 1/00- 1/12 C07F 3/00- 3/14 CAplus(STN) REGISTRY(STN) 米国特許第02809971(US,A) 特表2003−522734(JP,A) 12 JP2004015710 20041022 WO2005040122 20050506 25 20071019 關 政立 本発明は、無機金属化合物とピリチオン金属塩からなる新規な無機・有機化合物の複合化合物、その製造方法およびその用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、亜鉛、銅およびアルミニウム等の金属の酸化物または水酸化物と高含有率のピリチオン金属塩からなる複合化合物、その製造法およびその用途に関する。本発明の複合化合物は、従来シャンプーおよびヘアリンス等のヘアケア製品に配合されているふけ防止剤としての亜鉛ピリチオン、船底塗料および魚網防汚剤等に配合されている水中防汚剤としての亜鉛ピリチオンまたは銅ピリチオン、プラスチック製品、ゴム製品および繊維製品等の高分子材料に添加される抗菌抗かび剤、工業用水、エマルジョン、水懸濁液製品および木材処理剤等の水系製品や家庭用品の防腐防ばい剤としての亜鉛ピリチオン、フットパウダーに配合される抗菌・消臭剤としての亜鉛ピリチオンよりもそれぞれの効力に優れ、しかも種々のより好適な性質を有する新規なピリチオン複合化合物である。 金属酸化物または金属水酸化物の一部分にピリチオン金属塩を付加させる技術は公知である。例えば特表2002−521339号公報には、金属酸化物または金属水酸化物を芯として、その表面に金属ピリチオンを殻として形成させる技術、およびこの複合体を含有する殺生物組成物が記載されている。しかしこの技術では、金属酸化物または金属水酸化物に付加されている金属ピリチオンは金属酸化物または金属水酸化物に対してわずか10W%程度にすぎず、ピリチオン金属塩の持つ生物活性が十分に生かされていない。 また金属酸化物または金属水酸化物と金属ピリチオンの併用により金属ピリチオンの効力を増強させる技術も公知である。例えば特表2003−522734号公報には、酸化亜鉛、酸化第一銅、水酸化亜鉛または水酸化第二銅と金属ピリチオンの組み合わせ使用によって抗菌抗かび力が増すことが示唆されているが、金属酸化物や金属水酸化物が金属イオンを発生しない限り、効果が発現しないため、用途は水系製品に限定され、しかも安定した効果が得られない。 さらに特開昭51−95078号公報には2−ピリジルチオ亜鉛オキシ錯体の製造法として、ピリジンチオールと亜鉛塩とを塩基と水の存在下に反応させる方法が開示されている。この錯体は、後述する本発明の(I)で示される化合物のうち、Mが亜鉛、Qが1個の酸素、Dが亜鉛ピリチオン、y=0、p+2q=0、n=0、A及びBは不存在であり、xは1/3であるときのピリチオン複合化合物の製造法と類似してはいるが、第一に両者により得られる物質が互いに異なっている点、第二に、本発明の亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物が殺生物活性を有するものであるのに対し、上記2−ピリジルチオ亜鉛オキシ錯体は重金属との接触による樹脂の劣化防止に効果を奏するものである点で、両者は互いに物質も、その有する効果も異なったものである。特表2002−521339号公報特表2003−522734号公報特開昭51−95078号公報 従来実用されてきた亜鉛および銅ピリチオンは、次に示す構造式を有する化合物であり、それぞれの用途においてその性能が高く評価されている化合物ではあるが、効力、効用、物理化学的性質および安定性等において必ずしも問題がないわけではない。(式中、Xは1/2Zn、1/2Cuの金属を示す。) 例えば、シャンプーおよびヘアリンス等のヘアケア製品のふけ防止剤として用いられる亜鉛ピリチオンは、商品化されてから既に40年以上経っているが、より強力且つ安定した効果の付与が望まれている。 船底塗料および魚網防汚剤等の水中防汚剤として用いられる亜鉛ピリチオンおよび銅ピリチオンは、海水に対する溶解度に問題がある。環境毒性問題のため現在新たに使用されなくなった有機錫系防汚剤は、バインダーであるアクリル樹脂と結合しており、加水分解によって樹脂と一体になって海水へ溶出するいわゆる自己研磨型樹脂であるため、非常に効率よく効果が発揮される。しかしピリチオン系防汚剤は、樹脂と結合していないため、例えば自己研磨型樹脂との海水に対する溶解度差により、樹脂より速く溶出したり、樹脂とともに溶出しても十分に海水に溶解しないという溶出機構上の問題がある。即ち亜鉛ピリチオンの海水に対する溶解度は高過ぎ、銅ピリチオンの海水に対する溶解度は低過ぎる。高分子材料の抗菌抗かび剤として用いられる亜鉛ピリチオンは、他の抗菌抗かび剤に比べ効力が十分でないうえに、加工時の熱安定性および製品の耐候性に問題がある。さらにエマルジョン塗料、接着剤、コーティングカラー、高分子エマルジョンおよび工業用水等の防腐防ばい剤として用いられる亜鉛ピリチオンは、効力が、特にシュードモナス菌に対して不十分である。フットパウダーに用いられる亜鉛ピリチオンについても、必ずしも抗菌および消臭効果が十分とはいえない。 本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに次の一般式(I)で示されるピリチオン複合化合物が、従来の亜鉛および銅ピリチオンが有していた上記課題をことごとく解決することを見出した。この本発明のピリチオン複合化合物は、金属酸化物または金属水酸化物への一部分の付加物でなく、一定の化学構造を有する均一な複合化合物である点で、従来技術と根本的に異なるものである。 すなわち本発明は、(1)一般式(I) xMQ・yAl(OH)3・D・(CO3)q・nH2O (I)(式中MはZn又はCu、Qは1個の酸素または2個の水酸基である。x、y、qおよびnはそれぞれ次の式を満足する0または正数(ただしxは0ではない。): yが0の場合、MはZn又はCu、0<x≦1、q=0、0≦n≦2、yが0でない場合は、MはZn、0<x≦3、0<y≦2、0≦q≦1/5、0≦n≦3である。Dはyが0の場合は、Zn(Py)2又はCu(Py)2を、yが0でない場合は、Zn(Py)2−2qを、Pyは2−ピリジルチオ−N−オキサイドを示す。)で示されるピリチオン複合化合物、(2) 一般式(I)において、MがZn、Qが1個の酸素、DがZn(Py)2、0<x≦1/3、y=0、q=0、n=0である(1)記載のピリチオン複合化合物、(3) 一般式(I)において、MがCu、Qが1個の酸素、DがCu(Py)2、0<x≦1/3、y=0、q=0、0≦n≦2である(1)記載のピリチオン複合化合物、(4) 一般式(I)において、Qが1個の酸素、MがZnのときDがZn(Py)2、MがCuのときDがCu(Py)2であり、y=0、q=0、n=0、x=1/3である(1)記載のピリチオン複合化合物、(5) アルカリピリチオン水溶液に対して1/2〜2倍モルの亜鉛または銅の水溶性塩の水溶液及び3/4〜3倍モルの水酸化アルカリ水溶液を加えてpH9〜12で反応させ、析出物を採取することを特徴とする一般式(I) xMQ・yAl(OH)3・D・(CO3)q・nH2O (I)(式中MはZn又はCu、Qは1個の酸素または2個の水酸基である。x、y、q、n、DおよびPyは、(1)のyが0の場合のものと同義。)で示されるピリチオン複合化合物の製造方法、(6) アルカリピリチオン、水酸化アルカリ、必要により、アルカリ炭酸塩との混合水溶液に亜鉛の水溶性塩、アルミニウムの水溶性塩を加えてpH8〜10で反応させ、得られた析出物を採取することを特徴とする一般式(I) xMQ・yAl(OH)3・D・(CO3)q・nH2O (I)(式中MはZn、Qは2個の水酸基である。x、y、q、n、DおよびPyは(1)のyが0でない場合のものと同義。)で示されるピリチオン複合化合物の製造方法、(7) (1)〜(4)のいずれかに記載のピリチオン複合化合物の1種または2種以上を有効成分として含有するふけ防止剤、(8) (1)〜(4)のいずれかに記載のピリチオン複合化合物の1種または2種以上を有効成分として含有する水中防汚剤、(9)さらに、バインダー、無機銅化合物および/又は無機亜鉛化合物を有効成分として含有する(8)記載の水中防汚剤、(10) バインダーがアクリル樹脂であり、無機銅化合物が酸化銅(I)、酸化銅(II)およびロダン銅から選ばれた少なくとも1種であり、無機亜鉛化合物が酸化亜鉛である(9)記載の水中防汚剤、(11) (1)〜(4)のいずれかに記載のピリチオン複合化合物の1種または2種以上を有効成分として含有する防黴抗菌剤、(12) (2)記載のピリチオン複合化合物、又はこれと酸化亜鉛との混合物と、2−イソチアゾロン系防腐剤を含有する水系防腐防黴剤、である。 以上 本発明の上記一般式(I)で示されるピリチオン複合化合物において、Mで示される2価金属としては、例えば、Zn、Mg、Ca、Ba、CuおよびFe等が、M′で示される3価金属としては、例えば、AlおよびFe等が挙げられる。これらの金属の水溶性塩としては、どのようなものでもよいが、硝酸塩、硫酸塩および塩酸塩等が適当である。 アルカリピリチオンとしては、好ましくはピリチオンのナトリウム塩やカリウム塩が挙げられるが、ナトリウム塩が好ましい。 Aで示されるPy以外の1価アニオンとしては、NO3−およびCl−等の1価の無機アニオンや、酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびベンゼンスルホン酸等の一塩基性有機酸のアニオン等が、Bで示される2価のアニオンとしては、例えばCO22−、SO42−、HPO42−およびHPO32−等の2価の無機アニオンや、コハク酸、フタル酸、サリチル酸およびマレイン酸等の二塩基性有機酸のアニオンが挙げられる。 一般式(I)中、x、y、p、qおよびnは、それぞれ0≦x≦7、0≦y≦6、0≦p+2q<6/5、0≦n≦7を満足する0又は正数(ただしxとyは同時に0ではない)を表すが、より好ましくは、x≠0でy=0またはx=0でy≠0のときは、x、y、p、qおよびnがそれぞれ0≦x≦1、0≦y≦1、0≦p+2q≦2/5、0≦n≦2を、またx≠0でy≠0のときは、0≦x≦5、0≦y≦3、0≦p+2q≦2/5、0≦n≦4を満足する0又は正数(ただしxとyは同時に0ではない)である。 一般式(I)で示されるピリチオン複合化合物であって、x≠0でかつy=0、またはx=0で且つy≠0のときのピリチオン複合化合物は、ピリチオンアルカリ金属塩、たとえばナトリウム塩およびカリウム塩、好ましくはナトリウム塩に、水酸化アルカリ、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびアンモニウム、好ましくは水酸化ナトリウムを加えた混合水溶液にMで示される2価金属の水溶性塩、またはM′で示される3価金属の水溶性塩を加えpH9.0〜12.0、好ましくはpH9.5〜11.5で反応させた後、必要によりpH7〜10、好ましくは8〜10に調整し、0〜80℃、好ましくは、10〜60℃で1〜10時間、好ましくは3〜5時間熟成させることにより得ることができる。 各原料の使用割合は、ピリチオンアルカリ金属塩に対し、水酸化アルカリは3/4〜3倍モル、好ましくは1〜2倍モル、2価または3価金属の水溶性塩は1/2〜2倍モル、好ましくは1〜3/2倍モルであればよく、また各原料は0.01〜10モル濃度、好ましくは0.02〜5モル濃度の水溶液として混合するのがよい。これらの原料をいて反応させるとき、反応時のpHは9.0〜12.0であることが必要で、例えばナトリウムピリチオンに対する硫酸亜鉛と水酸化ナトリウムのモル比がそれぞれ2の場合、反応時のpHは7となり、pH9.5での熟成処理にもかかわらず、ピリチオン複合化合物は生成しない。また反応時のpHが12.0以上の場合、ピリチオン複合化合物の収率は大幅に低下する。 一般式(I)で示されるピリチオン複合化合物であって、x≠0かつy≠0のときのピリチオン複合化合物は、ピリチオンアルカリ金属塩、たとえばナトリウム塩またはカリウム塩と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびアンモニウムのような水酸化アルカリ、好ましくは水酸化ナトリウムと、必要によりAまたはBで示される1価または2価アニオンのアルカリ金属塩、たとえばナトリウム塩またはカリウム塩の混合水溶液に、Mで示される2価の金属の水溶性塩とM′で示される3価の金属の水溶性塩の混合水溶液を加えて、pH7〜11、好ましくは8〜10に調整し、0〜60℃、好ましくは10〜30℃で、1〜10時間、好ましくは1〜3時間反応させることによって析出物として得られる。 反応により得られた析出物は、そのまま濾取してもよいが、好ましくはそのまま90〜120℃で7〜25時間熱水中で処理するか、またはろ過後水洗してウエットケーキとなし、水中に移して、必要により水洗した後、90〜120℃で7〜25時間水熱中で処理した後採取する。このようにして得られた析出物を50〜60℃で約5時間乾燥し、粉砕して白色粉末となす。 当初からピリチオンアルカリ金属塩とMで示される2価の金属の水溶性塩、M′で示される3価の金属の水溶性塩を混合すると、金属ピリチオンが生成し、目的のピリチオン複合化合物が十分得られない。 各原料の使用割合は、目的とするピリチオン複合化合物の組成比に対応する割合で使用すればよく、また各原料は0.01〜10モル濃度、好ましくは0.02〜5モル濃度の水溶液として混合するのがよい。 本発明の一般式(I)で示されるピリチオン複合化合物は、QまたはQ′を除くアニオンの40W%以上、好ましくは80W%以上がピリチオンにより置換されたものである。 本発明の一般式(I)で示されるピリチオン複合化合物は、従来の亜鉛ピリチオン同様、シャンプーおよびヘアリンス等のヘアケア製品に配合されるふけ防止剤として使用される。ふけ防止効果の指標とされるマラセツィア菌(Malassezia furufur)に対する発育抑制効果(MIC)は亜鉛ピリチオンと同等であり、また家兎の眼粘膜に対する一次刺激性(Draize法による判定基準)も2.0W%水懸濁液の点眼で亜鉛ピリチオンと同等(若干刺激性あり)の結果を示した。しかし本発明の亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物は、皮膚常在菌である黄色ぶどう球菌や大腸菌に対して亜鉛ピリチオンより優れた抗菌力を有しているのみならず、さらにふけ防止効果と育毛効果を併せもつ新タイプのヘアケア製品としての可能性を有している。米国特許第6033653号公報には酸化亜鉛が育毛効果を有していること、及び酸化亜鉛は育毛剤としてシャンプーに1.25〜1.56W%配合されることが示唆されているが、無機化合物の酸化亜鉛の形で適用されるよりも、頭皮に対しより親和性の高い亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物の形で適用される方がより効果的である。また、精製水に本発明の亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物および亜鉛ピリチオンをそれぞれ2重量%加え、明るい室内に放置して上澄液の着色度を観察したところ、亜鉛ピリチオンを添加した方の上澄液が1週間後黄色に着色したのに対し、本発明の複合化合物を加えた上澄液はかすかに黄色に着色した程度であった。これは明らかに本発明の複合化合物配合のシャンプーの方が光に対して安定であることを示している。 液状シャンプーには0.5〜5W%、好ましくは1〜3W%の濃度、クリーム状シャンプーにはその1〜2倍の濃度、ヘアリンスには0.1〜1W%、好ましくは0.2〜0.6W%の濃度で配合される。 またシャンプーの基剤としては例えばラウリルサルフェート、エトキシラウリルサルフェート、アルキルアリールスルホネートの各ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩およびアンモニウム塩等のアニオン系、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのようなノニオン系界面活性剤の1種または2種以上が用いられ、それに加えて精製水、泡形成剤、香料、着色料、増粘剤および防腐剤の1種または2種以上が、また訴求ポイントを付加するために種々の薬効成分および/または機能性成分が使用される。 上記一般式(I)で示されるピリチオン複合化合物は、船底塗料用防汚剤、漁網用防汚剤および水中構築物用防汚剤として使用される。本化合物は、有機錫に代わる船底塗料用防汚剤として多用されている亜鉛ピリチオンおよび銅ピリチオンに比べ、より好ましい海水への溶解度を有している。例えば自己研磨型塗料の海水への溶解度により近い溶解度を有している。海水への溶解度は、亜鉛ピリチオンが6ppm以上、銅ピリチオンが0.2ppm以下であり、本発明の亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物の海水への溶解度は3〜4ppm、銅ピリチオン・酸化銅(II)複合化合物は0.6ppm程度であるから、従来問題とされている亜鉛ピリチオンの速すぎる溶出、銅ピリチオンの冷海水域での溶出不足を改善することができる。 本発明のピリチオン複合化合物は、船底塗料には0.1〜15W%、好ましくは1〜5W%の濃度、魚網防汚剤には0.1〜10W%、好ましくは1〜7W%の濃度に配合される。 船底塗料のバインダーとしては、例えばアクリル樹脂、ビニル樹脂および塩化ゴム等が使用されるが、特にアクリル樹脂については自己研磨性を付与するために一部のアクリル酸基に有機珪素基や亜鉛または銅を介した有機酸基を結合させ、加水分解によって徐々に樹脂が水可溶性になるような型のものが脚光を浴びている。 防汚剤としての金属ピリチオン類は、藻類には有効であるが、フジツボの他動物系付着生物には必ずしも有効ではない。そのため通常亜酸化銅およびロダン銅等の1種または2種以上の銅化合物と組み合わせて使用される。また″好ましい海水への溶出濃度/時間″曲線を得るため、本発明のピリチオン複合化合物と従来使用されてきた亜鉛ピリチオンまたは銅ピリチオンとを併用して使うこともできる。加えて相補的または相乗的効果を得るために亜酸化銅およびロダン銅等の銅化合物以外の防汚有効成分、例えば酸化亜鉛、ジチオカルバミン酸化合物の重金属塩、チウラムジスルフィッド化合物、4,5−ジクロローN−オクチル−1,2−イソチアゾリン−3−オン(ローム・アンド・ハース社「シーナイン」)、トリフェニルボランピリジン塩およびチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社のトリアジン系化合物「イルガロール1051」等の1種または2種以上と組み合わせて用いてもよい。バインダー、防汚剤以外の必須成分として、さらにキシレンのような溶媒が使用され、着色顔料および体質顔料を用いて、適当なPVC(顔料容積濃度)に調整される。さらに所望により上記銅化合物の溶出調節および塗膜性改良のためロジンの他、粘度調整剤、沈降防止剤およびたれ防止剤等の1種または2種以上を用いてもよい。 魚網防汚剤には、必須成分であるアクリル樹脂のようなバインダー、キシレンのような溶媒、および動物系付着生物の付着防止に有効な銅粉、亜酸化銅、トリフェニルボラン化合物および酸化亜鉛の1種または2種以上、ヒドロ虫に対する付着防止に特に有効なジチオカルバミン酸重金属塩化合物と組み合わせて用いることができる。さらにt−ノニルポリサルファイドのような溶出調整・効力増進剤と併用してもよい。 本発明のピリチオン複合化合物がx≠0、y=0のときの代表的な化合物である金属酸化物と金属ピリチオンの複合化合物である場合と、x≠0、y≠0のときの代表的な化合物であるハイドロタルサイト型複合物である場合とでは、抗菌抗かびのメカニズムが異なる。すなわち前者の場合、金属酸化物と金属ピリチオンが結合した状態で菌の細胞内に侵入し、両者の相乗効果によって、金属ピリチオンよりも同等から4倍強い抗菌抗かび力を示す。前述の公知技術のピリチオン金属塩と金属塩の混合物の場合、金属酸化物が例えば亜鉛および銅等の金属イオンにならないと相乗効果を発揮しないが、本発明の複合化合物の場合、金属酸化物は金属イオンの形態をとることなく細胞内に侵入するため、確実に相乗効果を発揮することができる。また後者の場合、ピリチオン複合化合物は耐候性に優れており、かつピリチオン複合化合物中のピリチオンアニオンは塩素イオンとのアニオン交換によって放出されるので、例えば劣化によって遊離塩化水素を発生しやすい塩化ビニル樹脂の抗菌抗かび剤および安定剤として有用である。 本発明の上記一般式(I)で示されるピリチオン複合化合物は、抗菌抗かび剤としてプラスチック、ゴムおよび繊維等の高分子材料、およびトイレ用品、台所用品等の家庭用品に0.01〜0.5W%配合される。また従来の亜鉛ピリチオンに代わる防腐防ばい剤として工業用水、エマルジョンおよび水性懸濁液等の水系製品に配合される。これらの目的の場合、本発明のピリチオン複合化合物は、一般に分散剤および/または増粘剤、必要により消泡剤を含む5〜20W%水性懸濁液に製剤化して用いられるが、用途および目的によって原体換算で0.01〜0.5W%の濃度になるように調製される。工業用水には冷却塔用循環水および製紙用白水等が、エマルジョンには原料用高分子エマルジョン、エマルジョン塗料および接着剤等が、水懸濁液には掘削液およびコーティングカラー等が含まれる。さらに木材用防かび剤として、灯油等の油性懸濁剤または水懸濁剤に1〜20W%配合される。 本発明のピリチオン複合化合物をプラスチック製品、ゴム製品および繊維製品等の高分子材料に混練して用いるときは、亜鉛ピリチオンより優れた抗菌抗かび力に加え、亜鉛ピリチオンと比べ樹脂、ゴムおよび繊維の表面への移行が遅いため、効力持続性に優り、また耐候性に優れている。さらに本発明の製造方法によって製造されるピリチオン複合化合物は、一般に副生物として酸化亜鉛等の金属酸化物を含んでいるが、ピリチオン複合化合物及び副生したときの金属ピリチオンと会合し、熱分解温度を上昇させるため、加工時の熱安定性に優れている。 本発明のピリチオン複合化合物を前記の水系製品に添加して用いる場合は、他の工業用防腐防ばい剤と組み合わせて使用するのが好ましい。一般にピリチオン化合物は、広い抗菌スペクトルを有する化合物であるが、比較的シュードモナス属菌に対して効果が弱く、シュードモナス属菌に対して強い効力を有する5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、ホルムアルデヒド放出型のブロノポールまたは1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)ヘキサハイドロ−s−トリアジン等と組み合わせて使用すると効果的である。また、防腐剤として汎用されている2−イソチアゾロン系化合物、例えば1、2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンおよび2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンは、皮膚刺激性が強い化合物で、その製剤は作業上注意を要するが、本発明のピリチオン複合化合物と組み合わせて使用することにより、皮膚刺激性を軽減することができる。 本発明の一般式(I)で示されるピリチオン複合化合物は、フットパウダー用抗菌抗かび剤として、タルク、カオリンまたはロジン等の媒体に0.05〜10.0W%、好ましくは0.5〜5W%配合し、さらに必要により少量の香料を加えて、パウダーそのままか、エアゾールの剤形にして用いられる。本発明のピリチオン複合化合物は優れた抗菌抗かび効果によって、悪臭発生の原因となる菌の発育を抑制するうえに、複合化合物または副生物として含まれる例えば酸化亜鉛のような金属酸化物が、臭い成分である乳酸、酪酸およびカプロン酸等の有機酸または脂肪酸と反応して消臭効果を発揮する。特に靴のなかの抗菌および消臭に効果的である。 実施例3の白色粉末のX線回折チャート実施例3のクロロホルム抽出物のX線回折チャート亜鉛ピリチオン(和光純薬製試薬)のX線回折チャート実施例3の白色粉末のIRチャート実施例8の暗緑色粉末のX線回折チャート実施例8のクロロホルム抽出物のX線回折チャート実施例9の暗緑色粉末のX線回折チャート実施例9のクロロホルム抽出物のX線回折チャート銅ピリチオン(エーピーアイコーポレーション製)のX線回折チャート実施例12(ii)の白色粉末のX線回折チャート炭酸型ハイドロタルサイトZn4Al2(OH)12(CO3)・3H2OのX線回折チャート 符号の説明 A:亜鉛ピリチオン B:酸化亜鉛 C:銅ピリチオン D:酸化銅(II) E:水酸化銅(II) F:炭酸製ハイドロタルサイト 以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。 化合物の合成(1) ナトリウムピリチオン1モル水溶液41.5mLと水酸化ナトリウムNaOH2モル水溶液50mLを合わせて300mL三角フラスコに入れ、20℃に保って硫酸亜鉛ZnSO4・7H2Oの12.0g(ナトリウムピリチオンと等モル量)を含む水溶液120mLを70分滴下したところ、白濁を生じた(pH値約11)。この液に濃塩酸5mLを加えてpHを9.5に調整し、さらに4時間攪拌を続けた。反応液をNo.2ろ紙でろ過し、得られた固体をさらに100mLの水を含む200mLのビーカー中に戻してデカンテーションにより水洗浄した。No.2ろ紙でろ過して得られた固体を50℃で5時間乾燥し、粉砕して8.3gの白色粉末を得た。 なお、ろ液及び洗浄液から回収したナトリウムピリチオンは、鉄ピリチオンとして0.03gであった。 得られた白色粉末をX線回折分析した結果、亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛の存在を示す回折パターンが得られた。 化合物の合成(2) 実施例1の4時間の攪拌操作の代わりに、pHを9.5に調整後そのまま1時間攪拌し、次いで90〜100℃に昇温して、1時間攪拌した。また3回の水洗を行った。その他は実施例1と同量の原料を用い同様の操作を行い、7.4gの白色粉末を得た。 なお、ろ液および洗浄液から回収したナトリウムピリチオンは、鉄ピリチオンとして0.13gであった。 得られた白色粉末をX線回折分析した結果、チャートは実施例1で得られたものと同様の波形を示していた。 化合物の合成(3) ナトリウムピリチオン260.4g(1.75モル)を含む水溶液1000mLと水酸化ナトリウム152g(3.8モル)を含む水溶液1800mLを合わせて10Lのガラス反応器に入れ、20℃に保って硫酸亜鉛ZnSO4・7H2Oの506g(1.75モル)を含む水溶液4000mLを100分かけて滴下し、白濁を生じさせた(約pH値11)。この液に約180mLの濃塩酸を加えて滴下し、pHを9.5に調整し、さらに20℃に保って約4時間攪拌を続けた。反応液をNo.2ろ紙でろ過し、得られた固体をさらに2000mLの精製水を含む10Lの反応器に戻してデカンテーションにより水洗浄した。この水洗浄を2度繰り返し、鉄(II)イオンでろ液が紫色に着色しなくなったのを確認後、No.2ろ紙でろ過して得られた固体を50℃で5時間乾燥し、粉砕して344.2gの白色粉末を得た。融点は250℃以上であった。 得られた白色粉末をX線回折分析した結果、チャートは実施例1及び2で得られたものと同様の波形を示していた。また、赤外線吸収スペクトル(IR)は亜鉛ピリチオンと同一の波形を示した。 次に亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物と副生した酸化亜鉛を分離するため、得られた白色粉末の400mgを500mL三角フラスコに入れたクロロホルム300mLに加え、60℃で60分攪拌した後、メンブランフィルターで減圧ろ過し、ソックスレー抽出器を用いて沸騰水浴上で溶液中のクロロホルムを留去し、留去残を60℃で4時間乾燥して、亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物約340mgを得た。融点は241〜245℃であった。さらにこれを2回繰り返して得た亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物の量はそれぞれ約340mg、約330mgであった。使用したナトリウムピリチオンと硫酸亜鉛のモル比が1:1であること、多少の未反応ナトリウムピリチオンがあったこと(白色粉末の収率:94W%)を考慮に入れ、亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物の化学構造式は(Py)2Zn・1/3ZnOであると推定した(ただしPyはピリチオンアニオンを示す。)。なおこのもののX線回折分析の結果、チャートから酸化亜鉛に相当するピークが消失していた。複合化合物を形成している酸化亜鉛部分は非晶質であると考えられる。 本実施例の白色粉末とクロロホルム抽出物の蛍光X線分析を行い、両者について亜鉛とその他元素の比率を比較し、亜鉛の相対含量比を求めた結果(白色粉末:亜鉛72.35%、その他元素26.5%、クロロホルム抽出物:亜鉛64.25%、その他元素35.75%)、白色粉末の亜鉛含量1に対し、クロロホルム抽出物の亜鉛含量は0.69であった。この値は理論値0.67に近似していることから、上記化学構造式の亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛の亜鉛当量比が1対1/3であることを裏付けている。また、クロロホルム抽出物のC、H、Oの各元素について元素分析を行った結果、次の結果が得られた。 実測値(%) C:35.21 H:2.76 O:11.56 計算値(%) C:34.80 H:2.34 O:10.84 以上のデータから、クロロホルム抽出物の化学構造式は推定通り(Py)2Zn・1/3ZnOであることを確認した。 また得られた白色粉末とクロロホルム抽出物の熱分析(TG/DTA)結果、前者の吸熱ピーク温度は約268℃、発熱ピーク温度は約332℃、後者の吸熱ピーク温度は約265℃、発熱ピーク温度は約310℃であった。さらに亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛を重量比3:1粉体混合した混合物と亜鉛ピリチオンの吸熱ピークは前者が約265℃、後者が約263℃、発熱ピークは前者が約314℃、後者が約311℃であった。白色粉末と他の三つの明白なデータ差は、得られた白色粉末において亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物同士が、または複合化合物と副生した酸化亜鉛が会合している可能性を示唆している。 化合物の合成(4) ナトリウムピリチオン248.6g(1.67モル)を含む水溶液1000mLと水酸化ナトリウム70g(1.75モル)を含む水溶液800mLを合わせて10Lのガラス反応器に入れ、20℃に保って硫酸亜鉛ZnSO4・7H2Oの483g(1.67モル)を含む水溶液2800mLを100分かけて滴下し、白濁を生じさせた(pH値約10)。この液に約5mLの濃塩酸を加えてpHを9.5に調整し、さらに20℃に保って約4時間攪拌を続けた。反応液をNo.2ろ紙でろ過し、得られた固体をさらに2000mLの精製水を含む10Lの反応器に戻してデカンテーションにより水洗浄した。この水洗浄を2度繰り返し、鉄(II)イオンでろ液が着色しなくなったのを確認後、No.2ろ紙でろ過して得られた固体を50℃で5時間乾燥し、粉砕して335.2gの白色粉末を得た。 得られた白色粉末をX線回折分析した結果、チャートは実施例1、2及び3で得られたものと同様の波形を示していた。 化合物の合成(5) ナトリウムピリチオンに対する硫酸亜鉛、水酸化ナトリウムのモル比を実施例1〜4のそれぞれ1:1、1:2強から1:3/4、1:3/2に変えて実験を行った。 ナトリウムピリチオン40W%水溶液(APIコーポレ−ション製「トミサイドS」)32.3g(0.087モル)に精製水を加えて50mLとしたものと、水酸化ナトリウム5.2g(0.13モル)を含む水溶液90mLを合わせて500mL三角フラスコに入れ、温度を20℃に保って硫酸亜鉛ZnSO4・7H2Oの18.8g(0.065モル)を含む水溶液200mLを60分滴下したところ、白濁を生じた(pH値約11)。この液に濃塩酸8mLを加えて、pHを9.5に調整し、さらに20℃に保って4時間攪拌を続けた。反応液をNo.2ろ紙でろ過し、得られた固体を100mLの精製水を含む200mLのビーカー中に戻してデカンテーションにより水洗浄した。この水洗浄を1回繰り返し、ろ液が鉄(II)イオンで着色しないことを確認後、ろ過して得られた固体を50℃で5時間乾燥し、粉砕して15.0gの白色粉末を得た。 得られた白色粉末をX線回折分析した結果、チャートは実施例1〜4同様亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛の存在を示したが、本実施例のチャートと実施例3のチャートを比較したとき、2θ=25°付近の亜鉛ピリチオン特有の回折角と2θ=36°付近の酸化亜鉛特有の回折角との強度比を測定することにより、白色粉末はおおよそ亜鉛ピリチオン7:亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物3の比率の有効成分と酸化亜鉛、または亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛の結合比が1対1/10の複合化合物と酸化亜鉛であると推定した。また得られた白色粉末を実施例3と同様の方法でクロロホルム抽出した結果、400mgの白色粉末から約350mgの抽出物が得られたが、上記原料比率および白色粉末収率からも、抽出物はおおよそ亜鉛ピリチオン7対亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物3の組成比の混合物、または亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛の結合比が1対1/10の複合化合物であると推定された。 化合物の合成(6) 実施例5で用いた硫酸亜鉛0.065モル、水酸化ナトリウム0.13モルをそれぞれ2倍量の1.3モル、0.26モルに変えて、実施例5と同様の操作を行い、白色粉末19.7gを得た。なおこのときの反応時のpH値は約11であった。また得られた白色粉末を実施例3と同様の方法でクロロホルム抽出した結果、400mgの白色粉末から約260mgの亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物を得た。使用したナトリウムピリチオンと硫酸亜鉛のモル比が1:3/2であること、実施例3よりも多いかなりの未反応ナトリウムピリチオンがあったこと(白色粉末の収率:90W%)を考慮に入れ、実施例3同様亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物の化学構造式は(Py)2Zn・1/3ZnOであると推定した。〔比較例1〕 化合物の合成(7) ナトリウムピリチオンに対する硫酸亜鉛のモル比を実施例1〜3の1:1から1:1/2に変え、水洗を2回にした以外実施例1と同様の操作を行って白色粉末を得た(pH値約11)。 ナトリウムピリチオンの使用量は0.0415モル、硫酸亜鉛の使用量は0.0208モル、得られた白色粉末の量は6.2g、ろ液、水洗浄液から回収したピリチオン量は鉄ピリチオンとして0.09gであった。得られた白色粉末をX線回折分析した結果、チャートは亜鉛ピリチオン(和光純薬製試薬)と同一の波形を示した。 また熱分析(TG/DTA)の結果、吸熱ピークは約268℃、発熱ピークは約326℃であったのに対し、亜鉛ピリチオン(和光純薬製試薬)の吸熱ピークは約262℃、発熱ピークは約311℃であった。この差違は一部生成している亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物と亜鉛ピリチオンが酸化亜鉛を介して会合している可能性を示唆している。比較例2 化合物の合成(8) ナトリウムピリチオンに対する硫酸亜鉛のモル比を実施例1〜3の1:1から1:2に変え、水洗を2回にした以外実施例1と同様の操作を行って白色粉末を得た。融点は235〜238℃であった。 ナトリウムピリチオンの使用量は0.0415モル、硫酸亜鉛の使用量は0.0830モル、得られた白色粉末の量は11.8g、ろ液、水洗浄液から回収したピリチオン量は鉄ピリチオンとして0.04gであった。なおナトリウムピリチオンと水酸化ナトリウムの混合水溶液に硫酸亜鉛を滴下した後のpH値は約7であった。得られた白色粉末の得量及びX線回折分析結果から、亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛・1水和物(水酸化亜鉛)の混合物または複合化合物と想定された。さらにこのものの400mgを300mLのクロロホルムに溶解させ、ろ過した溶液を留去して抽出したクロロホルム溶解成分の得量は約190mgであった。収率が100W%のときの亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛・1水和物との当量関係(1:3)及び若干の未反応ナトリウムピリチオンがあることを考慮し、生成物は亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛・1水和物との混合物であると推定した。すなわちpH7の反応条件では亜鉛ピリチオン複合化合物は生成しないと考えられる。 化合物の合成(9) 硫酸亜鉛ZnSO4・7H2Oを等モルの硫酸銅CuSO4・5H2Oに代えた以外、実施例2と同様の条件、操作を行って、暗緑色粉末6.9gを得た。若草色の銅ピリチオンとは異なる外観を呈していた。 化合物の合成(10) ナトリウムピリチオン40W%水溶液(エーピーアイコーポレーション製「トミサイドS」)32.5g(0.087モル)を精製水に加えて50mLにしたものと水酸化ナトリウム7.6gを含む水溶液90mLを合わせて500mL三角フラスコに入れ、温度を20℃に保って硫酸銅CuSO4・5H2Oの21.7g(0.087モル)を含む水溶液200mLを60分滴下したところ、暗緑色の濁りを生じた(pH値約11)。この液に濃塩酸8.5mLを加えて、pHを9.5に調整し、さらに20℃に保って4時間攪拌を続けた。反応液をNo.2ろ紙でろ過し、得られた固体を200mLの精製水を含む500mLのビーカー中に戻してデカンテーションにより水洗浄した。この水洗浄を1回繰り返し、ろ液が鉄(II)イオンで着色しないことを確認した後、ろ過して得られた固体をさらに50mLの精製水で洗い、50℃で5時間乾燥し、粉砕して暗緑色粉末17.9gを得た。 得られた暗緑色粉末をX線回折分析の結果、暗緑色粉末の結晶性が悪く、不明確ではあるが、銅ピリチオン複合化合物由来と思われる銅ピリチオンに加えて、水酸化銅(II)の回折角ピークが認められた。また、赤外線吸収スペクトル(IR)は、銅ピリチオンと同一の波形を示した。銅ピリチオン複合化合物と水酸化銅(II)を分離するため、得られた暗緑色粉末400mgを取って、実施例3と同様の方法でクロロホルム抽出を行い、約330mgの暗緑色クロロホルム抽出物を得た。外観は若草色の銅ピリチオンに対して明らかに相違していた。 このもののX線回折分析の結果、それぞれのピーク強度には差違があるものの、銅ピリチオンと同一の回折角ピークを認めた。また熱分析(TG/DTA)の結果、発熱ピーク温度が約285℃で、結晶水の存在を示す吸熱ピークが約180℃で見られた。一方上記暗緑色粉末については、発熱ピーク温度が約282℃、結晶水の存在を示す吸熱ピークが約176℃で見られた。クロロホルム抽出物の化学成分は、銅ピリチオン・水酸化銅(II)複合化合物、または銅ピリチオン・水酸化銅(II)と銅ピリチオン・酸化銅(II)複合化合物との混合物であると推定された。実施例3同様、銅ピリチオン複合化合物の水酸化銅(II)、または酸化銅(II)成分は、非晶質であると考えられる。 化合物の合成(11) 硫酸銅(II)の代わりに塩化銅(II)CuCl2・2H2O14.8g(0.087モル)を用い、水酸化ナトリウムの使用量を7.6g(0.174モル)から3.8g(0.087モル)、塩化銅水溶液滴下後の攪拌温度を20℃から60℃に変えた以外、実施例8と同様にして合成を行い、暗緑色粉末17.5gを得た。塩化銅水溶液滴下終了後のpH値は約10であった。 得られた暗緑色粉末のX線回折分析の結果、チャートには銅ピリチオンと酸化銅(II)に相当する回折角ピークが認められた。また、赤外線吸収スペクトル(IR)は、銅ピリチオンと同一の波形を示した。 次に銅ピリチオン・酸化銅(II)複合化合物と副生した酸化銅(II)を分離するために、得られた暗緑色粉末400mgを取って、実施例3と同様の方法でクロロホルム抽出を行い、約350mgの暗緑色クロロホルム抽出物、すなわち銅ピリチオン・酸化銅(II)複合化合物を得た。これを2度繰り返し、それぞれ約350mg、約340mgの銅ピリチオン・酸化銅(II)複合化合物を得た。実施例3の推定方法により、銅ピリチオン・酸化銅(II)複合化合物の化学構造式は(Py)2Cu・1/3CuOであると推定した。なおこのもののX線回折分析の結果、チャートは実施例8で得られたクロロホルム抽出物及び銅ピリチオン(エーピーアイコーポレーション製)と同一の回折角ピークを示したが、回折角強度はそれぞれ異なっていた。また上記暗緑色粉末のX線回折チャートから酸化銅(II)に相当するピークが消失していた。実施例3同様複合化合物を形成している酸化銅(II)部分は非晶質であると考えられる。本実施例の暗緑色粉末およびクロロホルム抽出物について、蛍光X線分析を行い、実施例3同様両者の相対的銅含量比率を求めた結果(暗緑色粉末:銅74.10%。その他元素25.90%、クロロホルム抽出物:銅65.04%、その他元素34.96%)、0.65の数値が得られたので、上記構造式の銅ピリチオンと酸化銅(II)の銅当量比は1対1/3であることを確認した。また、クロロホルム抽出物のC、H、Oの各元素について元素分析を行った結果、次の結果が得られた。 実測値(%): C:35.83 H:2.74 O:11.62 計算値(%): C:35.08 H:2.35 O:10.90 以上のデータから、クロロホルム抽出物の化学構造式は推定通り、(Py)2Cu・1/3CuO(II)であることを確認した。このクロロホルム抽出物の融点は247℃(分解)であった。本実施例のクロロホルム抽出物、すなわち銅ピリチオン・酸化銅(II)複合化合物の熱分析(TG/DTA)結果、発熱ピーク温度は約293℃であり、結晶水を示す吸熱ピークは認められなかった。なお上記暗緑色粉末の発熱ピーク温度は約290℃、および銅ピリチオン(エーピーアイコーポレーション製)の発熱ピーク温度は約299℃であった。 化合物の合成(12)実施例9の塩化銅(II)0.087モルを0.065モルに、水酸化ナトリウム0.087モルを0.13モルに変えた以外は、実施例9と同様の操作を行って、暗緑色粉末15.1gを得た(pH値約11、暗緑色粉末の収率:98W%)。得られた暗緑色粉末をX線回折分析した結果、チャートは実施例9同様銅ピリチオンと酸化銅(II)の存在を示したが、本実施例のチャートと実施例9のチャートを比較したとき、2θ=28°付近の銅ピリチオン特有の回折角と2θ=35°付近の酸化銅(II)特有の回折角との強度比を測定することにより、暗緑色粉末はおおよそ銅ピリチオン1対銅ピリチオン・酸化銅(II)複合化合物1の比率の有効成分、または銅ピリチオンと酸化銅(II)の結合比が1対1/6の複合化合物に加えて酸化銅(II)からなると推定した。 化合物の合成(13) 1000mLのフラスコにそれぞれナトリウムピリチオン約40W%を含む水溶液(エーピーアイコーポレーション製「トミサイドS」)9.6g、水酸化ナトリウム(純度96W%)6.4g/水490mLを入れ、合わせて500mLの混合水溶液を作り、水温を20℃に調整した。別にそれぞれ硫酸亜鉛7水和物14.4g、塩化アルミニウム6水和物6.1gを水に溶かした150mLの混合水溶液を作り、上記ナトリウムピリチオンと水酸化ナトリウムの混合水溶液に1時間かけて滴下し、反応させた(白濁)。さらに100mLの水を加え、pHを9.5に調整した後、20℃で1時間攪拌した後、引き続き90〜100℃で24時間加熱処理し熟成した。このものをNo.2ろ紙とメンブランフィルターを用いて固液分離し、ろ紙が0.5g硫酸鉄(II)7水和物/20mL水溶液を加えても鉄ピリチオンの生成による着色がなくなるまで、100mLの水で2回水戻し洗いを行った後、再度固液分離し、固体を乾燥した後、粉砕してハイドロタルサイト特有のやや青色みを帯びた白色微粒結晶7.8gを得た。X線回折、熱分析(TG/DTA)およびDMSO可溶物が亜鉛ピリチオンに特有の茶褐色に着色しないことから、主成分は3Zn(OH)2・2Al(OH)3・Zn(Py)2・3H2O、またはZn4Al2(OH)12(Py)2・3H2O、亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物および酸化亜鉛の混合物であると推定された。水はすべて精製水を用いた。 化合物の合成(14) (i)5Lのフラスコにナトリウムピリチオン1モル/L水溶液415mLと水酸化ナトリウム2モル/L水溶液1300mLを入れて混合し、20℃に保った。これに硫酸亜鉛7水和物ZnSO4・7H2O、239gと塩化アルミニウム6水和物AlCl3・6H2O、100gを加えて1200mLとした混合水溶液を90分かけて滴下し、濃塩酸でpHを9.5に調整して、1時間攪拌を行った。さらに90〜100℃で24時間攪拌後、冷却して反応液をろ過した。得られたケーキ状固体を100mLの水で洗った後、1000mL×4回水戻し洗いを行い、ろ別した固体を50℃で5時間乾燥した後粉砕して、147.3gのやや青色味を帯びた白色粉末を得た。X線回折、熱分析(TG/DTA)および実施例11のDMSO溶解試験結果から、主成分は3Zn(OH)2・2Al(OH)3・Zn(Py)2・3H2O、またはZn4Al2(OH)12(Py)2・3H2O、亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物および酸化亜鉛の混合物であると推定された。水はすべて精製水を用いた。 (ii)ナトリウムピリチオン1モル/L水溶液415mLのうち15W%の水溶液量を炭酸ナトリウムNa2CO3(無水)0.5モル/L水溶液で置き換えた。 このようにして得られたウェットケーキの量は670gであった。このうちの190gを取って、本実施例(i)と同様の操作を行った結果、やや青色味を帯びた白色微粒結晶46gを得た。X線回折、熱分析(TG/DTA)の結果から、主成分は3Zn(OH)2・2Al(OH)3・Zn(Py)1.6(CO3)0.2・3H2O、またはZn4Al2(OH)12(Py)1.6(CO3)0.2・3H2O亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物の混合物であると推定された。なお、この場合炭酸型ハイドロタルサイトと亜鉛ピリチオンに特有の回折角ピークが見られたが、酸化亜鉛が存在しないにもかかわらず、鉄(II)イオンによる着色が見られないこと、また実施例11のDMSO溶解試験でも着色が見られなかったことから、亜鉛ピリチオンは存在せず、亜鉛ピリチオンの回折角ピークは酸化亜鉛との複合化合物由来のものと推定した。水はすべて精製水を用いた。 DMSO中での安定性 実施例3、4、12(i)の化合物および亜鉛ピリチオンについて、ジメチルスルホキサイド(DMSO)中での安定性を調べた。これら4化合物のそれぞれ2gを10gDMSOに加え、1日実験室内に常温で放置し、ろ過後のろ液の着色を調べた。そしてろ過残をさらにもう一度10gDMSOに加えて同様の操作を行った。その結果亜鉛ピリチオンは第1回、第2回のろ液とも茶褐色の外観を呈したのに対し、実施例3および4の化合物は第1回のろ液ではかすかな黄色の着色が認められたが、第2回のろ液には着色は認められなかった。また実施例12(i)の化合物については、第1回、第2回ともろ液の着色は全く認められなかった。さらに上記ろ液を室内に6ヶ月後おいて外観をチェックしたが、変化はみられなかった。これから本発明のピリチオン複合化合物は、DMSOのような極性溶媒中で安定であり、同時に複合化合物が容易に亜鉛ピリチオンに分解しないことを示している。 抗菌活性(1) 上記実施例4で得られた白色粉末について、亜鉛ピリチオンとの比較抗菌(MIC)試験を行った。結果を表1に示す。 試料調製:所定の濃度になるようブイヨン培地に添加 試験菌株:大腸菌(Escherichia coli IFO 3972) 枯草菌(Bacillus subtilis IFO 3215) 培養条件:28℃、24時間、振とう培養 抗菌活性(2) 上記実施例12(i)で得られた白色粉末について、亜鉛ピリチオンとの比較抗菌(MIC)試験を行った。結果を表2に示す。ただし試料調製、試験菌株、培養条件は実施例14と同じである。 抗菌活性(3) 上記実施例4で得られた白色粉末について、亜鉛ピリチオン、イソチアゾロン系水性製剤(ケーソンWT)との比較抗菌(MIC)試験及び上記イソチアゾロン系水性製剤との組み合わせ抗菌(MIC)試験を行った。結果を表3に示す。ただし試料調製、培養条件は実施例14と同じである。 試験菌株:緑濃菌(Pseudomonas aeruginosa IAM 1514) 抗菌活性(4) 実施例3で得られたクロロホルム抽出物について、亜鉛ピリチオンとの比較抗菌(MIC)試験を行った。結果を表4に示す。 試料調製 ジメチルスルホキサイドに溶解し、0.1W%Tween 80水溶液を加えて試料液とした。 試験菌種及び培地・培養条件 1.大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)乳糖添加NB寒天培地、30℃、3日間 2.マラセツィア菌(Malassezia furufur NBRC 0656) オリーブ油添加YM寒天培地、30℃、6日間 3.黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732) ソイビーンカゼインダイジェスト寒天培地、30℃、5日間 抗菌活性(5) 実施例9で得られたクロロホルム抽出物について、銅ピリチオン(エーピーアイコーポレーション製)との比較抗菌(MIC)試験を行った。結果を表5に示す。 ただし試料調製:実施例17と同じである。 試験菌種及び培地・培養条件 黒かび(Aspergillus niger ATCC 6275) ポテトデキストローズ寒天培地、30℃。7日間 殺藻性(1) 上記実施例2及び11で得られた白色粉末の殺藻性試験を行った。試料を減圧下150℃で10分加熱した。その0.1mg、1mg、10mgを滅菌した人工海水(塩分濃度3.5W%、pH8.3)100mLに添加し、1mg/L、10mg/L、100mg/Lとなるよう調整した。前日和歌山県湯浅海岸で採取し、海水に入れたまま冷蔵庫に保存していたアオサを2cm×2cmの小片に切り取り、人工海水で洗浄した後、試験液に各3片ずつ加え、常温で24時間照明下で攪拌し(60r.p.m)、アオサの色変化を観察した。その結果、実施例2及び11の白色粉末ともアオサの一部が明緑色から暗緑色に変わった試料濃度は1mg/L、3片とも全面が暗緑色に変わった試料濃度は10mg/Lであった。暗緑色に変わったアオサを光学顕微鏡で観察したところ、細胞の破壊が認められた。なお試料無添加の人工海水により、同様の試験を行ったアオサについては、変色が観察されなかった。 人工海水に対する溶解度 実施例3及び9のクロロホルム抽出物、亜鉛ピリチオン(和光純薬製試薬)及び銅ピリチオン(エーピーアイコーポレーション製)について、原子吸光分析により下記処方の人工海水中の溶解亜鉛および溶解銅を測定し、測定値を分子量に換算することによって人工海水に対する溶解度を測定した。結果を表6に示す。 人工海水処方 濃度(g/L)NaCl 24.53MgCl2・6H2O 11.11Na2SO4 4.09CaCl2 1.54KCl 0.695NaHCO3 0.201KBr 0.100H3BO3 0.027SrCl2・6H2O 0.042NaF 0.003測定方法 試料0.1gを人工海水500mL中に加え、20℃および30℃で4時間撹拌後、ろ過し、ろ液について原子吸光分析を行った。 シャンプー液 下記組成の各成分を均一に混合してシャンプー液を得た。 ポリオキシエチレン(EO=2モル)ラウリル エーテル硫酸ナトリウム 16.0W% ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 6.0W% ヒドロキシエチルセルロース 0.3W% 実施例4の白色粉末 1.5W% クエン酸 微量 精製水 残部 計 100.0W% (pH=6.0) 船底防汚塗料 下記組成の各成分をプロペラ粉砕機を用いて均一に混合し、船底防汚塗料を得た。 塩化ビニル/イソブチルビニルエーテル共重合体(50W%キシレン溶液) 10.0W% 亜酸化銅 20.0W% 弁柄 8.0W% 実施例3の白色粉末 3.0W% タルク 12.0W% ロジン(60W%キシレン溶液) 25.0W% 脂肪酸ポリアミドワックス(20W%キシレン溶液)2.0W% キシレン 10.0W% ソルベッソ100(エッソ株式会社) 10.0W% 計 100.0W% この船底防汚塗料の調製過程および1ヶ月後の開缶調査で、塗料の粘度変化(またはゲル化)は認められなかった。また、このようにして調製した塗料を防食処理した鋼板パネル(10cm×30cm)上に塗膜厚みが120μmになるように塗装し、平成14年11月末から平成15年8月末までに兵庫県相生湾で海水に9ヶ月間垂下浸漬した。浸海後9ヶ月の本防汚塗料パネルにはまったく汚損生物の付着が認められなかったのに対し、上記組成の実施例3の白色粉末の代わりにタルクを追加配合した塗料を塗装したパネルには藻類の付着が認められた。 魚網防汚剤 下記組成の各成分を均一に混合し、2種(処方I及び処方II)の魚網防汚剤を得た。 ブチルアクリレート/メチルメタクリレート共重合体(50W%キシレン溶液) 20.0W% 亜酸化銅 15.0W% 実施例3の白色粉末(処方I)または実施例9の暗緑色粉末(処方II) 2.0W% ポリエーテルシリコンオイル 2.0W% ディスパロン4200−20(楠本化成株式会社)3.0W% キシレン 58.0W% 計 100.0W% ポリエチレン製無結節網(6節、400デニール、60本)を上記処方の魚網防汚剤に浸漬塗布して風乾した後、平成15年5月末から平成15年8月末までに兵庫県相生湾に浸海した。浸海後3ヶ月の処方I及び処方IIの製剤処理網にはまったく汚損生物の付着が認められなかったのに対し、実施例3の白色粉末または実施例9の暗緑色粉末のいずれも含まず、代わりにタルクを追加配合した処方の製剤処理網には多量のアオサの付着が認められた。なお上記処方I及びIIの魚網防汚剤の保存性は良好であった。 防菌製剤 下記組成の各成分を均一に混合し、防菌製剤を得た。 実施例4の白色粉末 10.0W% デモールN(芳香族アニオン系分散剤、花王株式会社)0.5W% カルボキシメチルセルロース 0.1W% 水 残部 計 100.0W% 循環式冷却水に発生したスライムを用いて35℃で前培養したスライム液0.3mLと上記実施例14で用いたブイヨン培地9.7mLを合わせた試験液10mLに、上記防菌製剤の有効成分(実施例4の白色粉末)が5ppm、10ppm、20ppmになるように添加し、35℃で8時間振とう培養した。試験液の濁度を660nmの吸光度で測定した結果、10ppmの有効成分濃度で菌の生育抑制が認められた。 ポリエチレン樹脂成形品耐候性 添加剤無添加LDPE(低密度ポリエチレン)に実施例3の白色粉末、実施例3のクロロホルム抽出物、実施例12(i)の白色粉末及び亜鉛ピリチオン(対照)を樹脂100部に対し0.15部になるよう添加して、2本ロールを用い140℃で6〜7分混練した。次いで140℃、200kgf/cm2の条件で、200×200×1.1mmのシートにプレス成形した。これら4枚のシートから、それぞれ30×110mmの試験片2枚ずつを切り取り、平成16年9月15日から同月25日までの晴天の日を選んで5日間、午前8時から午後5時まで、天日のもとに吊るした。 天日に吊るす前の試料と吊るした後の試料各2枚の色差(ΔE*)とYI(イエローインデックス)の平均値を表7に示す。 実施例12(i)の白色粉末の着色度(目視ではあまり着色が感じられない)が最も小さく、次いで実施例3の白色粉末、実施例3のクロロホルム抽出物と続き、亜鉛ピリチオンの着色度(黄色)が最も大きかった。 フットパウダー 下記組成の各成分を均一に混合し、フットパウダーを得た。 実施例4の白色粉末 3.0W% タルク 97.0W% 計 100.0W% 平成15年の夏季の間10名のテニスプレイヤーに毎日テニスを始める前に上記抗菌パウダーをテニスシューズ中に撒布しておいてもらい、プレー後の足臭をチェックしてもらった。その結果、全員明らかに臭いが少なくなったとの評価を得た。 本発明のピリチオン複合化合物は、従来のピリチオン金属塩に金属酸化物または金属水酸化物を結合させることによって、ピリチオン金属塩より優れた抗菌抗かび力や新たに育毛効果を付与すること、さらに従来のピリチオン金属塩の化学安定性、物性上の欠点および問題点を克服することに成功したものである。 これらの優れた性質を生かして、ヘアケア製品に配合される育毛効果をあわせもつふけ防止剤・育毛剤、船底塗料防汚剤、魚網防汚剤、プラスチック製品、ゴム製品、繊維製品、水系製品、工業用水、木材およびフットパウダーの抗菌抗かび剤または防腐防ばい剤として利用することができる。 一般式(I) xMQ・yAl(OH)3・D・(CO3)q・nH2O (I)(式中MはZn又はCu、Qは1個の酸素または2個の水酸基である。x、y、qおよびnはそれぞれ次の式を満足する0または正数(ただしxは0ではない。): yが0の場合、MはZn又はCu、0<x≦1、q=0、0≦n≦2、yが0でない場合は、MはZn、0<x≦3、0<y≦2、0≦q≦1/5、0≦n≦3である。Dはyが0の場合は、Zn(Py)2又はCu(Py)2を、yが0でない場合は、Zn(Py)2−2qを、Pyは2−ピリジルチオ−N−オキサイドを示す。)で示されるピリチオン複合化合物。 一般式(I)において、MがZn、Qが1個の酸素、DがZn(Py)2、0<x≦1/3、y=0、q=0、n=0である請求項1記載のピリチオン複合化合物。 一般式(I)において、MがCu、Qが1個の酸素、DがCu(Py)2、0<x≦1/3、y=0、q=0、0≦n≦2である請求項1記載のピリチオン複合化合物。 一般式(I)において、Qが1個の酸素、MがZnのときDがZn(Py)2、MがCuのときDがCu(Py)2であり、y=0、q=0、n=0、x=1/3である請求項1記載のピリチオン複合化合物。 アルカリピリチオン水溶液に対して1/2〜2倍モルの亜鉛または銅の水溶性塩の水溶液及び3/4〜3倍モルの水酸化アルカリ水溶液を加えてpH9〜12で反応させ、析出物を採取することを特徴とする一般式(I) xMQ・yAl(OH)3・D・(CO3)q・nH2O (I)(式中MはZn又はCu、Qは1個の酸素または2個の水酸基である。x、y、q、n、DおよびPyは、請求項1のyが0の場合のものと同義。)で示されるピリチオン複合化合物の製造方法。 アルカリピリチオン、水酸化アルカリ、必要により、アルカリ炭酸塩との混合水溶液に亜鉛の水溶性塩、アルミニウムの水溶性塩を加えてpH8〜10で反応させ、得られた析出物を採取することを特徴とする一般式(I) xMQ・yAl(OH)3・D・(CO3)q・nH2O (I)(式中MはZn、Qは2個の水酸基である。x、y、q、n、DおよびPyは請求項1のyが0でない場合のものと同義。)で示されるピリチオン複合化合物の製造方法。 請求項1〜4のいずれかに記載のピリチオン複合化合物の1種または2種以上を有効成分として含有するふけ防止剤。 請求項1〜4のいずれかに記載のピリチオン複合化合物の1種または2種以上を有効成分として含有する水中防汚剤。 さらに、バインダー、無機銅化合物および/又は無機亜鉛化合物を有効成分として含有する請求項8記載の水中防汚剤。 バインダーがアクリル樹脂であり、無機銅化合物が酸化銅(I)、酸化銅(II)およびロダン銅から選ばれた少なくとも1種であり、無機亜鉛化合物が酸化亜鉛である請求項9記載の水中防汚剤。 請求項1〜4のいずれかに記載のピリチオン複合化合物の1種または2種以上を有効成分として含有する防黴抗菌剤。 請求項2記載のピリチオン複合化合物、又はこれと酸化亜鉛との混合物と、2−イソチアゾロン系防腐剤を含有する水系防腐防黴剤。