タイトル: | 特許公報(B2)_プロトン駆動型トランスポーター介在型消化管吸収改善剤及びその製法 |
出願番号: | 2005507975 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A61K 31/545,A61K 38/00,A61K 45/00,A61K 47/32,A61P 43/00 |
辻 彰 玉井 郁己 崔 吉道 小富 正昭 豊福 秀一 JP 5175032 特許公報(B2) 20130111 2005507975 20040108 プロトン駆動型トランスポーター介在型消化管吸収改善剤及びその製法 辻 彰 597131521 大塚製薬株式会社 000206956 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 辻 彰 玉井 郁己 崔 吉道 小富 正昭 豊福 秀一 JP 2003006005 20030114 20130403 A61K 31/545 20060101AFI20130314BHJP A61K 38/00 20060101ALI20130314BHJP A61K 45/00 20060101ALI20130314BHJP A61K 47/32 20060101ALI20130314BHJP A61P 43/00 20060101ALI20130314BHJP JPA61K31/545A61K37/02A61K45/00A61K47/32A61P43/00 121 A61K45/00-45/08 A61K38/00-38/42 A61K47/00-47/32 A61P1/00-43/00 CAPLUS REGISTRY MEDLINE EMBASE BIOSIS JSTPLUS JMEDPLUS 特開平04−224517(JP,A) 特開平07−002645(JP,A) 玉井 郁巳,薬学雑誌,117(7),pp.415−434(1997) 辻 彰,日本薬学会第122年会講演要旨集,p.40(要旨番号26【B】1330)(2002) 玉井 郁巳,薬学研究の進歩,16,pp.77−87(2000) 玉井 郁巳,薬物動態,14(2),pp.158−170(1999) KITAGAWA,A.,et al.,Biol.Pharm.Bull.,22(7),pp.721−724(1999) GUO,A.,et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,289(1),pp.448−454(1999) 岡畑 恵雄,刺激応答性カプセルを用いた徐放性の制御,DDS技術の進歩,日本工業技術振興協会ほか,pp.137−160(1990) BARR,W.,et al.,J.Pharm.Sci.,59(2),pp.154−163(1970) 8 JP2004000070 20040108 WO2004062691 20040729 16 20061012 2010018262 20100812 内田 淳子 穴吹 智子 増山 淳子 本発明は、プロトン駆動型トランスポーター介在型消化管吸収改善剤及びその製法に関する。 一般に多くの慢性疾患領域において、経口投与法は、利便性もしくはコストの点から望ましい投与経路であると考えられている。しかしながら、多くの医薬品候補化合物は、消化管における膜透過性が低いもしくは消化管内において不安定であるため経口での吸収性が低下し、充分な薬理効果を得る血中濃度を維持できないという現状に直面する。 また、小腸上皮細胞に発現する吸収輸送系トランスポーターに認識される有機化合物が報告されているにもかかわらず、該有機化合物の中には難吸収性を示す傾向のあるものも存在することも知られている(例えば、Sakamato et al.,J.Antibiot.38:496−504(1985)、Kelly et al.,Clin.Pharmacokinet.19:177−196(1990)など)。 このような状況の中で、医薬品候補化合物の吸収改善に種々の吸収促進剤もしくは酵素阻害剤を利用することが検討されている。例えば、Swenson et al.,Adv.Drug.Del.Rev.8:39−92(1992)及びKompella et al.,Adv.Drug.Del.Rev.46:211−245(2001)には、ペプチドの吸収改善のために吸収促進剤を利用する方法が記載されている。しかし、この方法は、本来吸収を促進するために添加する吸収促進剤により細胞が障害を受けるという問題点がある。 一方、Hayakawa et al.,Pharm.Res.9:535−540(1992)及びZhou et al.,J.Control.Rel.29:239−252(1994)には、消化管における分解を抑制し吸収をさせる目的で、酵素阻害剤を添加する方法が記載されている。しかし、この方法を用いた場合には、吸収に基質特異性が得られないといった問題点がある。 また、消化管における排出輸送系に認識されるフロセミドの吸収を改善するために、pH感受性高分子を添加するなどの方法も知られているが(例えば、Terao et al.,J.Pharm.Pharmacol.53:433−440(2000))、トランスポーターを利用した消化管吸収の改善を示唆するものではなく、上記と同様、消化管吸収に基質特異性は得られないといった問題点がある。 また、従来、吸収輸送系トランスポーターの基質でありながら難吸収性を示す有機化合物の吸収を促進させた例はない。 本発明は、医薬品化合物の細胞内への吸収を改善し、経口投与等において充分な治療効果が期待できる血中濃度が得られる医薬製剤、及びその製法を提供することにある。具体的には、プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物と、該プロトン駆動型トランスポーターにおいて該化合物の消化管内における至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子とを含む、消化管での吸収性が良好な製剤及びその製法を提供することにある。 本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、以下の新規な知見(1)及び(2)を得た。 (1)ペプチドトランスポーター(プロトン駆動型トランスポーターの1つ)で認識される化合物(以下「基質」ともいう)が消化管で難吸収性の傾向を示す場合があるのは、ペプチドトランスポーターの基質輸送駆動力であるプロトン(H+)が消化管下部にいくにつれて減少し基質輸送能力が低下するためであること、及び (2)特定量のpH感受性高分子を基質に添加することによりペプチドトランスポーターの駆動力が向上し、難吸収性傾向を示す基質の消化管からの吸収性が改善されること。 本発明者らは、これらの知見に基づき、プロトン駆動型トランスポーターがその至適細胞内取り込みpHにおいて基質の取り込みが最も促進されることを見出し、これを更に発展させて本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の技術を提供する。 項1. プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物とpH感受性高分子を含む製剤であって、消化管内を該プロトン駆動型トランスポーターにおける該化合物の至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子を含有してなる、消化管での吸収性が良好な製剤。 項2. プロトン駆動型トランスポーターが、小腸の上皮細胞に発現する吸収輸送系トランスポーターである項1に記載の製剤。 項3. プロトン駆動型トランスポーターが、ペプチドトランスポーター、モノカルボン酸トランスポーター、及びD−サイクロセリンを輸送するアミノ酸トランスポーターからなる群から選ばれる1種である項2に記載の製剤。 項4. プロトン駆動型トランスポーターが、ペプチドトランスポーターである項3に記載の製剤。 項5. ペプチドトランスポーターに認識される化合物が、ペプチド、β−ラクタム抗生物質、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗ウイルス薬、抗腫瘍薬、及びω−アミノカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1つである項4に記載の製剤。 項6. プロトン駆動型トランスポーターが、モノカルボン酸トランスポーターである項3に記載の製剤。 項7. モノカルボン酸トランスポーターに認識される化合物が、乳酸、ピルビン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、ニコチン酸、サリチル酸、安息香酸、パラアミノ安息香酸、及びホスカルネットからなる群から選ばれる少なくとも1つである項6に記載の製剤。 項8. プロトン駆動型トランスポーターが、D−サイクロセリンを輸送するアミノ酸トランスポーターである項3に記載の製剤。 項9. D−サイクロセリンを輸送するアミノ酸トランスポーターに認識される化合物が、L−アラニン(α−アラニン)、β−アラニン、L−プロリン、及びグリシンからなる群から選ばれる少なくとも1つである項8に記載の製剤。 項10. プロトン駆動型トランスポーターにおける該化合物の至適細胞内取り込みpHが、該プロトン駆動型トランスポーターを発現した細胞を使用し、各種pH条件における該化合物の細胞内取り込み量を評価して測定されたものである項1に記載の製剤。 項11. プロトン駆動型トランスポーターにおける該化合物の至適細胞内取り込みpHが、イン シチュ クローズド ループ法を用いて該化合物の消化管内移行量を評価して測定されたものである項1に記載の製剤。 項12. pH感受性高分子が、乾燥メタクリル酸コポリマー、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーS、ポリアクリル酸、マレイン酸−n−アルキルビニルエーテル共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1つである項1に記載の製剤。 項13. pH感受性高分子が、オイドラギットL100−55、オイドラギット30D−55、オイドラギットL100、オイドラギットS100、オイドラギットP−4135F、ポリアクリル酸、マレイン酸−n−アルキルビニルエーテル共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1つである項1に記載の製剤。 項14. 項1〜13のいずれかに記載の経口投与用製剤。 項15. 下記の(1)及び(2)の工程を含む消化管での吸収性が良好な製剤の製法: (1)プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物の該プロトン駆動型トランスポーターにおける至適細胞内取り込みpHを測定する工程、及び (2)上記至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子を該化合物に配合する工程。 項16. 項15に記載の製法により得られる製剤。 項17. プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物の消化管での吸収性を向上させるための製剤であって、消化管内を該プロトン駆動型トランスポーターにおける該化合物の至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子と、プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物とを含有してなる製剤。 項18. プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物の消化管での吸収性を向上させる方法であって、消化管内を該プロトン駆動型トランスポーターにおける該化合物の至適細胞内取り込みpHに制御することを特徴とする方法。 項19. プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物の消化管での吸収性を向上させるために、消化管内を該プロトン駆動型トランスポーターにおける該化合物の至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子を配合する方法。 項20. プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物の消化管での吸収性を向上させるための、消化管内を該プロトン駆動型トランスポーターにおける該化合物の至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子の使用。 項21. プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物の消化管での吸収性が向上された製剤を製造するための、消化管内を該プロトン駆動型トランスポーターにおける該化合物の至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子の使用。発明の詳細な記述 本発明は、プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物(基質)とpH感受性高分子を含む製剤であり、消化管内を該プロトン駆動型トランスポーターにおける基質の至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子を含有してなる製剤であり、消化管での吸収性が良好な製剤に関する。 本発明について以下詳細に説明する。プロトン駆動型トランスポーター 本発明におけるプロトン駆動型トランスポーターとは、哺乳動物(特に、ヒト)の消化管から細胞内に向けてプロトン(H+)勾配を利用し輸送を行う能動輸送型のトランスポーターをいう。プロトン駆動型トランスポーターは、消化管、具体的には消化管刷子縁膜側表面近傍(特に、小腸上皮細胞刷子縁膜側表面)等に発現しており、細胞内に栄養物質や薬物を能動的に取り込む吸収輸送型のトランスポーターである。上記の小腸には、十二指腸、空腸、回腸が含まれる。 本発明におけるプロトン駆動型トランスポーターの具体例としては、ペプチドトランスポーター(PEPT)、モノカルボン酸トランスポーター、D−サイクロセリンを輸送するアミノ酸トランスポーター等が挙げられる。 上記ペプチドトランスポーター(PEPT)は、ジペプチド、トリペプチド、それらの類似化合物の輸送を媒介するトランスポーターであり、生体における蛋白質の吸収やペプチド性窒素源の維持に寄与する。具体的には、710個のアミノ酸からなり主に小腸や腎臓に発現しているペプチドトランスポーター1(PEPT1)、及び729個のアミノ酸からなり主に腎臓や、脳、肺、脾臓等に発現しているペプチドトランスポーター2(PEPT2)が挙げられる。 なお、上記の吸収輸送型ペプチドトランスポーターにより小腸上皮細胞内に取り込まれた化合物は、小腸上皮細胞の側底膜に存在する側底膜型ペプチドトランスポーターにより血中に輸送される。側底膜型ペプチドトランスポーターは、濃度勾配に従った輸送を媒介する促進拡散型のトランスポーターである。 上記モノカルボン酸トランスポーターは、乳酸の輸送を媒介するトランスポーターであり、生体における嫌気的解糖の最終生成物である乳酸の維持に寄与する。 上記D−サイクロセリンを輸送するアミノ酸トランスポーターは、アミノ酸の輸送を媒介するトランスポーターであり、生体におけるアミノ酸の維持に寄与する。プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物(基質) 本発明におけるプロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物とは、プロトン駆動型トランスポーターに認識され消化管から細胞内(例えば、小腸上皮細胞)に取り込まれ得る化合物をいう。まず、化合物がプロトン駆動型トランスポーターに認識されるか否かは、例えば次のようにして判定される。 対象となるプロトン駆動型トランスポーターが発現している細胞及び発現していない細胞を使用して、該化合物の細胞内取り込み量を測定する。プロトン駆動型トランスポーターが発現している細胞で該化合物の取り込みが高い場合には、該化合物の細胞内移行にプロトン駆動型トランスポーターが関与することが考えられる。 ここで、プロトン駆動型トランスポーターが発現している細胞とは、内在的にプロトン駆動型トランスポーターを発現している細胞を意味する。例えば、内因的にペプチドトランスポーターを発現している細胞として、Caco−2細胞、HT−29細胞、COLO−320細胞、HT−1080細胞、AsPc−1細胞、Capan−2細胞およびSK−ChA−1細胞等が挙げられる。 さらに、該化合物の取り込みが観察された細胞を使用し、プロトン駆動型トランスポーターに認識されることが既に判っている基質(例えば、セファドロキシル(CDX))を該化合物と同時に試験溶液に添加し、細胞内取り込みを評価したときに、該化合物の細胞内取り込み阻害効果が観察されれば、評価した該化合物はプロトン駆動型トランスポーターに認識されると判定される。 或いは、プロトン駆動型トランスポーターが発現している細胞を、例えば、PEPT1cDNAを哺乳類培養細胞発現ベクターに組み込み、PEPT1cDNAを含むベクターをトランスフェクトした後、モデル細胞(例えば、HeLa細胞)に過剰発現させる等の公知の方法により作製し、該化合物の細胞内取り込み量を測定してもよい。 化合物の細胞内取り込み量の測定は、プロトン駆動型トランスポーターを発現している細胞及び発現していない細胞における、単位細胞タンパク質重量あたりの化合物の細胞内移行量(細胞に含まれる全タンパク質量を基準とした細胞内に移行した該化合物量)を評価して測定される。例えば、ペプチドトランスポーターの場合は、ペプチドトランスポーターを発現した及び発現していない細胞に対する該当化合物移行量を測定し、両細胞における単位細胞タンパク質重量あたりの細胞内移行量(μL/mg protein)を比較し、取り込みに及ぼすトランスポーターの寄与を評価して測定される。 プロトン駆動型トランスポーターのうち上記のペプチドトランスポーター(PEPT)は、他の栄養物質トランスポーターに比べて広範な基質認識性を有している。そのため、PEPT(特に、PEPT1)において認識され小腸上皮細胞内に取り込まれる化合物としては、ペプチドのみならず、β−ラクタム抗生物質、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗ウイルス薬、抗腫瘍薬、ω−アミノカルボン酸等の広範な医薬化合物が挙げられる。 具体的には、ペプチドとしては、ジペプチド、トリペプチドが挙げられる。ジペプチドとしては、天然又は合成アミノ酸から選ばれる任意の2つのアミノ酸をアミド結合して得られるものであればよく、そのうち好ましいものとしてはグリシルサルコシン、カルノシン、リジノプリル等が例示される。トリペプチドとしては、天然又は合成アミノ酸から選ばれる任意の3つのアミノ酸をアミド結合して得られるものであればよく、そのうち好ましいものとしてはPhe−Cys−Val、Glu−His−Pro、Phe−Ala−Proが例示される。 β−ラクタム抗生物質としては、例えば、ペニシリン系、セフェム系抗生物質等が挙げられ、具体的には、アモキシリン、アンピシリン、シクラシリン、フェノキシ−メチルペニシリン(phenoxy−methylpenicillin)、プロピシリン、カルフェシリン(carfecillin)、カルベニシリン(carbenicillin)、バカムピシリン(bacampicillin)、ピバムピシリン(pivampicillin)、セファドロキシル、セフィキシム、セフチブテン、セファクロル、セファレキシン、セフラジン、SCE−100、セファトリジン、セファロチン、セフジニル、ロラカロベフ(loracarobef)、FK089、ラタモキセフ(latamoxef)、ピブセファレキシン(pivcefalexine)、セファゾリン、セフォペラゾン、セフォキシチン、セフォチアム、セフメタゾール等が例示される。 アンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、カプトプリル、エナラプリル、キナプリル、ベナゼプリル(benazepril)、フォシノプリル(fosinopril)、リシノプリル(lisinopril)、SQ29852、エナラプリラート、キナプリラート、ベナセプリラート(benazeprilat)、フォシノプリラート(fosinoprilat)等が例示される。 抗ウイルス薬としては、バラシクロビル等が例示される。 抗腫瘍薬としては、ベスタチン等が例示される。 ω−アミノカルボン酸としては、一般式[1]: H2N−(CH2)n−COOH [1](式中、nは4〜11の整数を示す)で示される化合物が挙げられる。 この他にも、L−ドーパ−L−フェニルアラニン(L−dopa−L−Phe)、4−アミノフェニル酢酸(4−aminophenyl acetic acid(4−APAA))、δ−アミノレブリン酸(δ−aminolevulinic acid(ALA))等が例示される。 プロトン駆動型トランスポーターのうち上記のモノカルボン酸トランスポーターにおいて認識され細胞内に取り込まれる化合物としては、乳酸、ピルビン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、ニコチン酸、サリチル酸、安息香酸、パラアミノ安息香酸及びホスカルネット等の化合物が挙げられる。 プロトン駆動型トランスポーターのうち上記のD−サイクロセリンを輸送するアミノ酸トランスポーターにおいて認識され細胞内に取り込まれる化合物としては、L−アラニン、β−アラニン、L−プロリン及びグリシン等の化合物が挙げられる。基質のpHプロファイル 本発明において、プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物(基質)のpHプロファイルとは、pHを変化させたときのプロトン駆動型トランスポーターにおける該基質の細胞内取り込み量の特徴(pHに応じた基質の細胞への移行特性)を意味する。これにより、特定のプロトン駆動型トランスポーターが特定の基質を細胞内に取り込むのに最も適したpHを求めることができる。 各種pHにおける基質の細胞内取り込み量(基質の細胞内移行量)の測定は、次のようにして行われる。プロトン駆動型トランスポーターを発現した細胞を使用し、in vitro条件下にて各種pH条件下における基質の細胞内取り込み量を測定する。例えば、PEPT1に認識される各基質のpHプロファイルは、消化管モデル細胞であるヒト大腸ガン由来Caco−2細胞等のPEPT1を発現した細胞を使用し、in vitro条件下にて各種pH条件下(例えば、pH5.4−7.5程度)における基質の細胞内取り込み量を測定すればよい。 具体的な測定方法は、報告された方法(Tsuji A,Takanaga H,Tamai I,Terasaki T.Transcellular transport of benzoic acid across Caco−2 cells by a pH−dependent and carrier−mediated transport mechanism.Pharm Res,11:30−37(1994))に従って行われる(例えば、実施例1を参照)。 In vitro条件下における細胞内移行性は、in vivo消化管における膜透過性を評価する指標となりうる。生理的条件下での消化管のpHは通常ヒトで5.4〜7.5と報告されているので(Davies B.and Morris T.,Physiological parameters in laboratory animals and humans,Pharm.Res.10:1093−1095(1993))、実際にはin vivoでの消化管からの吸収はこの条件に支配されるものと考えられる。 或いは、各種pHにおける基質の細胞内取り込み量は、ラット消化管ループ(腸管ループ)を用いて各種pHにおける基質の消化管内移行量を測定して見積もることも可能である(イン シチュ クローズド ループ法(in situ closed loop method))。ラット消化管ループを使用する場合には、以下の文献記載の方法を参考にして行われる。Barr WH,Riegelman S.Intestinal drug absorption and metabolism.I.Comparison of methods and models to study physiological factors of in vitro and in vivo intestinal absorption.J Pharm Sci,59:154−163(1970)。吉冨博則,基本的な消化管吸収実験,「生物薬剤学実験マニュアル」,後藤 茂(編),清至書院,東京,2−22(1985)。 例えば、ラットをペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)腹腔内投与により麻酔する。その後、正中線に沿って開腹し腸管を露出させて、回腸にループを作製する(例えば、図6に模式図を示す)。薬液及び高分子を含むMES buffer(5mM KCl,100mM NaCl,10mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(2−(N−morpholino)ethanesulfonic acid)(MES),85mMマンニトール(mannitol),ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)0.01%;pH6.0;浸透圧290mOs/kg)を腸管ループ内に入れ両端を結紮する。その後、直ちに腸管ループを腹腔内に戻し、白熱ランプを使用して体温を維持する。投与20分後、腸管ループ内溶液を回収し、pHをpHメーターで測定し及び薬物量をHPLCにより測定する。 また、PEPT1における各基質のpHプロファイルは、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞(X.laevis Oocyte)にcRNA hPEPT1を注入し、各種pHにおける卵母細胞への取り込みを測定してもよい。あるいは電気生理学的手法により、ペプチドトランスポーターの基質を添加した時の電位差を検出して測定してもよい。 具体的には、Fei YJ,Kanai Y,Nussberger S,Ganapathy V,Leibach FH,Romero MF,Singh SK,Boron WF,Hediger MA.Expression cloning of a mammalian proton−coupled oligopeptide transporter.Nature,368:563−566(1994)に記載の方法に準じて測定する。 一般に、消化管における基質の至適取り込みpHは、対象となるプロトン駆動型トランスポーター及びその基質の種類により変動する。しかし、上記の手法を用いて測定されるpHプロファイルにより、各pHでのプロトン駆動型トランスポーターにおける基質の細胞内取り込み量が明らかとなり、プロトン駆動型トランスポーターにおける基質の「至適細胞内取り込みpH」が求められる。pH感受性高分子 本発明で用いられるpH感受性高分子とは、生体内における特定部位(例えば、消化管)のpHを検知してプロトンの放出を制御する高分子をいう。例えば、pHが高くなればプロトンを放出し、溶解もしくは膨潤する高分子をいう。このpH感受性高分子の一定量を、基質と共に配合することにより、消化管内(特に、消化管刷子縁膜側表面近傍)が上記のプロトン駆動型トランスポーターの基質の至適細胞内取り込みpHになるように調節される。 具体的には、乾燥メタクリル酸コポリマー、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーS、ポリアクリル酸、マレイン酸−n−アルキルビニルエーテル共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等が例示される。より具体的には、オイドラギット(Eudragit)(登録商標、以下同じ)L100−55、オイドラギット30D−55、オイドラギットL100、オイドラギットS100、オイドラギットP−4135F等が例示される。これらは、いずれも市販されているもの又は公知の方法で製造できるものを採用することができる。 これらのpH感受性高分子のうち、本発明の製剤に好適に用いられるものとしては、例えば、オイドラギットL100−55、オイドラギットL100、オイドラギットS100、オイドラギットP−4135F等が挙げられ、より好ましくはオイドラギットL100−55、オイドラギットL100である。製剤 本発明の製剤は、上述のプロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物のpHプロファイルに基づき、該化合物に、消化管内を基質の至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子を配合して調製される。上記の消化管内とは、例えば小腸内のことを意味し、具体的には消化管刷子縁膜側表面近傍、より具体的にはプロトン駆動型トランスポーターが発現する小腸上皮細胞刷子縁膜側表面及びその近傍を意味する。 pH感受性高分子の配合量は、例えば、設定した基質吸収量になるように、実験により求めることができる。In situ closed loop法、ラットへの経口投与試験法等を用いて、基質に対するpH感受性高分子の配合量を変化させて、設定した基質吸収量になるようpH感受性高分子の配合量を求める(例えば、実施例3を参照)。 本発明の製剤におけるpH感受性高分子の配合量は、基質の特性により変化するが、例えば、基質1重量部に対し、1〜1000重量部程度、好ましくは50〜500重量部程度、より好ましくは100〜300重量部程度を配合すればよい。或いは、pH感受性高分子の配合量は、製剤全体の重量に対し5〜40重量%程度、好ましくは10〜20重量%程度配合されていてもよい。 プロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物とpH感受性高分子を含む本発明の製剤の好ましい配合形態としては、例えば、ジペプチドとメタクリル酸コポリマーを配合したもの、β−ラクタム抗生物質とメタクリル酸コポリマーを配合したもの等が挙げられる。 ジペプチドとメタクリル酸コポリマーを配合したもののうち、ジペプチドの具体例としては、グリシルサルコシン、カルノシン、リジノプリル等が挙げられ,メタクリル酸コポリマーの具体例としては、乾燥メタクリル酸コポリマー(例えば、オイドラギットL100−55)、メタアクリル酸コポリマーLD(例えば、オイドラギット30D−55)、メタアクリル酸コポリマーL(例えば、オイドラギットL100)、メタアクリル酸コポリマーS(例えば、オイドラギットS100)等が挙げられる。より好ましい配合形態としては、グリシルサルコシン又はカルノシンとオイドラギットL100−55とを配合したものが挙げられる。 β−ラクタム抗生物質とメタクリル酸コポリマーを配合したもののうち、β−ラクタム抗生物質としては、ペニシリン系、セフェム系抗生物質等が挙げられ、その具体例としては、アモキシリン、アンピシリン、シクラシリン、フェノキシ−メチルペニシリン、プロピシリン、カルフェシリン、カルベニシリン、バカムピシリン、ピバムピシリン、セファドロキシル、セフィキシム、セフチブテン、セファクロル、セファレキシン、セフラジン、SCE−100、セファトリジン、セファロチン、セフジニル、ロラカロベフ、FK089、ラタモキセフ、ピブセファレキシン、セファゾリン、セフォペラゾン、セフォキシチン、セフォチアム、セフメタゾール等が挙げられる。メタクリル酸コポリマーの具体例としては、上述のものが挙げられる。より好ましい配合形態としては、セファドロキシル、セフィキシム又はFK089とオイドラギットL100−55とを配合したもの等が挙げられる。 本発明の製剤は、上記のプロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物(基質)と所定量のpH感受性高分子を含有してなり、そのまま哺乳動物(特に、ヒト)における経口投与用の散剤として用いることができるが、さらに種々の方法により製剤化し投与することも可能である。例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注腸剤として用いることもできる。これらの製剤中には、必要に応じて製剤上知られる賦形剤、崩壊剤、滑沢剤等の種々の添加剤を配合することができる。 特に、消化管全域に渡って薬物及びpH感受性高分子を送達することが可能な、腸溶性の徐放化製剤等とするのが好ましい。或いは、pH感受性高分子と薬剤を含む液状の製剤(液剤、懸濁剤、シロップ剤など)としてもよく、これにより、水分含量の点で通常の錠剤と比較して、消化管全域に渡って薬物及びpH感受性高分子を送達することが可能となる。これらの製剤は、いずれも公知の方法に従い製造することが可能である。 本発明の製剤によれば、共存するpH感受性高分子により消化管内が基質の至適細胞内取り込みpHに制御されるため、消化管内においてプロトン駆動型トランスポーターに認識される化合物の吸収性が向上する。特に、本発明の製剤によれば、至適細胞内取り込みpHを維持する適量のpH感受性高分子が配合されているため、プロトンが減少する消化管下部(回腸など)においてもプロトン駆動型トランスポーターの輸送能力が低下せず良好な薬物(基質)の吸収性を示すという特徴を有している。そのため、本発明の製剤は、経口投与においても充分な薬物血中濃度を得ることができ、高いバイオアベイラビリティーが達成される。なお、pH感受性高分子により消化管内のpHが制御されるのは一過的であり、消化管内に何ら悪影響を与えるものではない。ここで一過的にとは、基質が細胞内に吸収されるのに必要な時間及び部位において一時的にpHが制御されること意味する。 図1Aは、Caco−2細胞における、各pHでのジペプチドの細胞内取り込み量(pHプロファイル)を示すグラフである。 図1Bは、Caco−2細胞における、各pHでのβ−ラクタム抗生物質の細胞内取り込み量(pHプロファイル)を示すグラフである。 図2は、酸性高分子のMES緩衝液のpHに及ぼす影響を示すグラフである。 図3は、β−ラクタム抗生物質(CDX又はCFIX)にオイドラギットL100−55を併用投与した場合の、ラット小腸下部における吸収率及びpHを示すグラフである。 図4は、CFIXに高分子を添加しラットに経口投与した場合の血中濃度推移を示すグラフである。 図5は、CFIX及びオイドラギットL100−55にCDXを添加しラットに経口投与した場合の、CFIXの血中濃度推移を示すグラフである。 図6は、In situ closed loop法で用いられる腸管ループを模式的に示した図である。 次に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 PEPT1によるジペプチド及びβ−ラクタム抗生物質の細胞内取り込みに対して細胞外液が影響を及ぼすかどうかを明らかにするため、消化管モデル細胞Caco−2細胞を用いて、ジペプチドである[14C]グリシルサルコシン(Glycylsarcosine)([14C]GlySar)及び[3H]カルノシン(carnosine)、及びβ−ラクタム抗生物質であるセファドロキシル(cefadroxil)(CDX)、セフィキシム(cefixime)(CFIX)及びFK089について、それらのpH5.0〜pH7.0における細胞内取り込みを評価した。 4穴プレートに培養した細胞を37°Cに加温したHanks’−balanced salt solution(HBSS)(0.952mM CaCl2,5.36mM KCl,0.441mM KH2PO4,0.812mM MgSO4,136.7mM NaCl,0.385mM Na2HPO4,25mM D−glucose,10mM HEPES,pH7.4;浸透圧315mOs/kg)1mLで3回洗浄し、薬液を含むHBSS 250μLを添加し取り込みを開始する。一定時間後に氷冷したHBSS 1mLで3回洗浄することで取り込みを終了させる。取り込み終了後、5N NaOH 0.25mLを加えて2時間振盪して細胞を可溶化し、5N HCl 0.25mLで中和し、細胞抽出液に含有される薬物量を、液体シンチレーションカウンターもしくは液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量する。細胞の蛋白量は、Bradford法に従い、Protein Assay Kit(Bio−Rad Richmond,CA,USA)を用いて定量する(Bradford MM.A rapid and sensitive method for the quantitation of microgram quantities of protein utilizing the principle of protein−dye binding.Anal Biochem,72:248−254(1976))。 Caco−2細胞における上記のジペプチド及びβ−ラクタム抗生物質の取り込みに及ぼすpHの影響を、図1A及び図1Bに示した。 図1Aは、異なるpHにおける、37℃で10μM[14C]GlySar(●)及び0.15μM[3H]カルノシン(▲)のCaco−2細胞における5分までの取り込みを測定したものである。各値は3〜4の実験の平均±標準誤差を表す。 図1Aによれば、[14C]GlySarの取り込みは明らかにpHに依存し、pH5.0〜pH6.0で最適な取り込みが観察された。これに対し、弱酸性領域においてはカチオン性を示す[3H]カルノシンの細胞内取り込みは、pH6.0〜7.0において高いことが示された。すなわち、最適な取り込みを示すpHが[14C]GlySarと[3H]カルノシンでは異なることが示された。 図1Bは、2mM CFIX(□)、2mM FK089(○)及び2mM CDX(△)の15分までの取り込みを測定したものである。各値は3〜4の実験の平均±標準誤差を表す。 一方、図1Bで示すように、β−ラクタム抗生物質のCaco−2細胞による最適取り込みにおいても、顕著なpH依存が示された。細胞外液のpHを6.0から5.0に低下させた時、アニオン性β−ラクタム抗生物質であるCFIX及びFK089の細胞内取り込みは顕著に増加することが示された。これに対し、生理的pHにおいて両性イオンβ−ラクタム抗生物質であるCDXの場合には、pH6.0において最適な取り込みが観察された。 pH感受性高分子の添加によりにpHの制御が可能であるかどうかを明らかにするため、MES緩衝液のpHに及ぼす高分子の影響について検討を行った。 pH感受性高分子としてメタアクリル酸コポリマー オイドラギットL100−55、pH非感受性高分子としてアミノアルキルメタクリレートコポリマー オイドラギットRS POを用いた。 MES緩衝液(pH6.0)に、高分子(メタアクリル酸コポリマー オイドラギットL100−55若しくはpH非感受性高分子としてアミノアルキルメタクリレートコポリマー オイドラギットRS PO)を添加し、溶液のpHを、pHメーターを使用して測定した。 緩衝液のpHは、オイドラギットL100−55の添加濃度に従って低下した(図2)。図2中、オイドラギットRS POを添加したMES緩衝液のpH(●)、オイドラギットL100−55を添加したMES緩衝液のpH(○)を示す。ポリマー未添加のpHと比較してオイドラギットL100−55の添加濃度が20%の場合には、およそpH3.0まで低下した。一方、構造内にプロトン解離基を有さないオイドラギットRS POでは、pHの顕著な低下は観察されなかった。 β−ラクタム抗生物質の生理的条件下におけるラット消化管からの吸収が、消化管腔内pHをコントロールすることにより改善されるかどうかを明らかにするため、pH感受性高分子(オイドラギットL100−55)の存在もしくは非存在下における両性化合物CDX及びアニオン性化合物CFIXの吸収を、イン シチュ クローズド ループ法(in situ closed loop method)により評価した(図6に模式図を示した)。 β−ラクタム抗生物質(CDX又はCFIX)を10mM MES緩衝液(pH6.0)に、1mM CDX、0.5mM CFIXになるように添加し、更にオイドラギットL100−55を全量で10wt%もしくは20wt%になるように配合し、本発明の経口組成物を調製した。また、対照としてオイドラギットL100−55を含まないβ−ラクタム抗生物質溶液をコントロール溶液として調製した。 SD系雄性ラットの盲腸接合部(回腸の終末端と盲腸開始部位との接合部)より胃に向かって14cm離れたところまでに作成した腸管ループに、これらの組成物を投与した。投与後、20分後に腸管ループ内の残存液を回収し、回収液中のβ−ラクタム抗生物質濃度をHPLCにより測定した。また、pHメーターを用いて回収液のpHについても測定した。得られた回収液中のβ−ラクタム抗生物質濃度を、投与液中濃度より減じることにより吸収性を評価した。 図3のAに示すように、オイドラギットL100−55未添加のCDXの吸収率は約40%であった。しかしながら、20wt%のオイドラギットL100−55を添加した場合には、CDXの吸収率は約80%であり顕著な増加が観察された。さらに、消化管腔内pHは、オイドラギットL100−55の添加により低下した(図3のB)。 一方、CFIXはラット回腸からはほとんど吸収されなかった(図3のC)。しかしながらCDXと同様に20wt%のオイドラギットL100−55の存在により、CFIXの吸収率は約35%と顕著に向上した。また、消化管内液のpHもオイドラギットL100−55の添加により減少した(図3のD)。 pH感受性高分子を用いて消化管内pHをコントロールすることにより、ペプチド性化合物のラットにおける経口吸収性が改善されるのかどうかを明らかにするため、ペプチド性化合物CFIXにpH感受性高分子(オイドラギットL100−55)もしくはpH非感受性高分子(オイドラギットRS PO)を同時に経口投与し、CFIXの血漿中濃度推移を評価した。 CFIXの0.23mg/mL水溶液に、オイドラギットL100−55を全量で5wt%になるように配合し、本発明の経口組成物を調製した。また、対照としてオイドラギットL100−55を含まないCFIX溶液をコントロール溶液として調製した。これらの組成物を、一昼夜絶食したSD系雄性ラット(体重:190−220g)に、CFIXの投与量として2.3mg/kgとなるように経口投与した。投与後15分から480分に渡り採血を行い、血漿中CFIX濃度をHPLCにより測定した。得られたCFIX血濃度プロファイルより、濃度時間曲線下面積(AUC)及び最高血漿中濃度(Cmax)を算出した。 図4は、ラットに上記組成物(CFIX:2.3mg/kg)を経口投与した後のCFIXの吸収プロファイルを示したものである。それぞれのプロットは、ポリマー非存在下のCFIXの濃度(○)、オイドラギットL100−55(500mg/kg)存在下のCFIXの濃度(●)、及びオイドラギットRS PO(500mg/kg)存在下のCFIXの濃度(□)を示す。各点は5つの実験の平均±標準誤差を表す。 表1より、CFIXとpH非感受性オイドラギットRS POを同時投与した場合には、CFIX単独投与のコントロールと比べて、濃度時間曲線下面積(AUC)、最高血漿中濃度(Cmax)及び最高血漿中濃度時間(Tmax)に有意な差は認められず、CFIXの経口吸収性に変化は観察されなかった。 しかしながら、CFIXとpH感受性酸性オイドラギットL100−55を同時投与した場合には、未添加のコントロールと比較して、AUC及びCmaxが顕著に増加し、CFIXの経口吸収性が顕著に増加した。 実施例4でみられたpH感受性酸性高分子によるCFIXの吸収改善効果が、小腸上皮細胞に発現するペプチドトランスポーター(PEPT1)を介在するのかどうかを明らかにするため、PEPT1の基質であるCDXを同時投与し、CFIXの経口吸収性に及ぼす影響について検討した(図5、表1)。 実験操作は、CDXを同時投与する以外は実施例4と同様にして行った。 図5は、ラットに組成物(CFIX:2.3mg/kg)を投与後のCFIXの経口投与プロファイルにおけるCDXの影響を評価したものである。それぞれのプロットは、オイドラギットL100−55(500mg/kg)+CDX 0mM(●)、オイドラギットL100−55(500mg/kg)+CDX 2mM(▲)、及びオイドラギットL100−55(500mg/kg)+CDX 10mM(■)のものを示す。各点は5つの実験の平均±標準誤差を表す。 図5及び表1より、CDX 2mMを同時投与した場合には、CDXを同時投与しない場合と比較して、CFIXのAUCに有意な差は認められなかったものの、Cmaxは有意に低下した。さらに、CDX 10mMを同時投与した場合には、CFIXのAUC及びCmaxは顕著に低下した。 以上より、オイドラギットL100−55併用投与によるCFIXの吸収改善効果には、ペプチドトランスポーターによる吸収が関与しているものと考えられる。 図4及び図5における血中濃度推移データから、薬物動態パラメーターを算出した結果を表1にまとめた。 なお、本明細書に記載された公知文献は、参考として援用される。 発明の効果 本発明の製剤は、プロトン駆動型トランスポーターがその至適細胞内取り込みpHにおいて基質の取り込みが最も促進されるという新規な知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明の製剤は、基質のプロトン駆動型トランスポーターにおける至適細胞内取り込みpHに着目し、そのpHに適合する量のpH感受性高分子を配合することによって製造されるものである。 そのため、本発明の製剤は、医薬品化合物の消化管での吸収を飛躍的に改善し、経口投与等において充分な治療効果が期待できる高い血中濃度が達成される。 また、これまで難吸収性として知られていたプロトン駆動型トランスポーターの基質においても、消化管全域において高い吸収率を達成することができる。 従って、本発明の製剤は、経口投与等での治療効果を低用量で有効に向上させることができるという、医薬製剤として優れた特性を有している。 ペプチドトランスポーター1(PEPT1)に認識される化合物と、乾燥メタクリル酸コポリマー、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーS、ポリアクリル酸、マレイン酸−n−アルキルビニルエーテル共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1つのpH感受性高分子とを含む製剤であって、消化管内を該PEPT1における該化合物の至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子を含有してなり、pH感受性高分子の配合量がPEPT1に認識される化合物1重量部に対し1〜1000重量部の範囲である、消化管での吸収性が良好な液状製剤。 PEPT1に認識される化合物が、ペプチド、β−ラクタム抗生物質、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗ウイルス薬、抗腫瘍薬、及びω−アミノカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の液状製剤。 PEPT1における該化合物の至適細胞内取り込みpHが、該PEPT1を発現した細胞を使用し、各種pH条件における該化合物の細胞内取り込み量を評価して測定されたものである請求項1に記載の液状製剤。 PEPT1における該化合物の至適細胞内取り込みpHが、イン シチュ クローズド ループ法を用いて該化合物の消化管内移行量を評価して測定されたものである請求項1に記載の液状製剤。 請求項1〜4のいずれかに記載の液状製剤からなる経口投与用製剤。 下記の(1)及び(2)の工程を含む消化管での吸収性が良好な液状製剤の製法:(1)ペプチドトランスポーター1(PEPT1)に認識される化合物の該PEPT1における至適細胞内取り込みpHを測定する工程、及び(2)上記至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子を該化合物に配合する工程、ここで、pH感受性高分子が、乾燥メタクリル酸コポリマー、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーS、ポリアクリル酸、マレイン酸−n−アルキルビニルエーテル共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、pH感受性高分子の配合量がPEPT1に認識される化合物1重量部に対し1〜1000重量部の範囲である。 請求項6に記載の製法により得られる液状製剤。 ペプチドトランスポーター1(PEPT1)に認識される化合物の消化管での吸収性を向上させるための液状製剤であって、消化管内を該PEPT1における該化合物の至適細胞内取り込みpHとするのに足る量のpH感受性高分子と、PEPT1に認識される化合物とを含有してなる液状製剤であって、pH感受性高分子が、乾燥メタクリル酸コポリマー、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーS、ポリアクリル酸、マレイン酸−n−アルキルビニルエーテル共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、pH感受性高分子の配合量がPEPT1に認識される化合物1重量部に対し1〜1000重量部の範囲である液状製剤。