生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_くも膜下出血の予後改善剤
出願番号:2005504811
年次:2013
IPC分類:A61K 31/202,A61K 31/232,A61P 9/00


特許情報キャッシュ

小林 誠 鈴木 倫保 池田 典生 JP 5362944 特許公報(B2) 20130913 2005504811 20040202 くも膜下出血の予後改善剤 持田製薬株式会社 000181147 渡辺 望稔 100080159 三和 晴子 100090217 小林 誠 鈴木 倫保 池田 典生 JP 2003031144 20030207 20131211 A61K 31/202 20060101AFI20131121BHJP A61K 31/232 20060101ALI20131121BHJP A61P 9/00 20060101ALI20131121BHJP JPA61K31/202A61K31/232A61P9/00 A61K31/00-31/80 CAPLUS,REGISTRY,MEDLINE,BIOSIS,EMBASE JSTPLUS,JMEDPLUS,JST7580 特開平5−32692(JP,A) JOURNAL OF NEUROSURGERY,1984年,VOL.61,p.1120−1128 8 JP2004000989 20040202 WO2004069238 20040819 6 20070131 2011006889 20110401 川上 美秀 増山 淳子 前田 佳与子 本発明は、イコサペント酸(以下EPAと略する)、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するくも膜下出血の予後改善剤および該薬剤を用いたくも膜下出血の予後を改善する方法に関する。 くも膜下出血は、脳動脈瘤の破裂などに起因し、くも膜下腔に出血した状態をいう。本邦においては年間10万人に12人程度の割合で発生し、そのうちの2割〜4割程度が死に至るという報告もあるきわめて重篤性の高い疾患である。 またくも膜下出血の合併症として、再出血、脳血管攣縮および水頭症などが知られている。これら合併症に対する臨床処置として、再出血の予防には、クリッピングまたはコイリングなどの施術がなされている。また水頭症を発症した場合には、脳室ドレナージ、vpシャントなどの施術がなされている。 脳血管攣縮の詳しい発生機序についてはまだ解明されていないことが多く、決定的な治療方法もないのが現状であるが、攣縮予防には、塩酸ニカルジピンの髄腔内投与(脳槽ドレナージ留置)などが、攣縮が起きた場合には、塩酸パパベリンの超選択的動注療法などが施される。くも膜下出血術後の脳血管攣縮およびこれに伴う脳虚血症状の改善剤として、エリル注(一般名:塩酸ファスジル)の静注が臨床的に使用されている。 一方、脳血管攣縮に関連して、EPAの開示がある。例えば特開2001−261556号公報には、EPAを有効成分とする平滑筋異常収縮の抑制剤を開示する文献中、該平滑筋異常収縮に起因する疾患の一つとして上記脳血管攣縮が例示される。 しかしながら、EPAがくも膜下出血の予後改善作用、とりわけ、臨床における使用、さらに臨床において回復率や生存率を高めるとの報告は、本発明者らの知る限りこれまでなされていなかった。 くも膜下出血は致死性が高く、また幸いにして、死に至らなかった場合においても植物状態になったり、重篤な後遺症が残ったりする事の多い、重篤性の高い疾患である。くも膜下出血を発症した場合には、上記したように再出血、水頭症に対する施術以外には、主として脳血管攣縮の予防または抑制のための治療剤が合併症に対する処置として用いられているが、現在臨床において用いられている治療薬や治療法の成績、特に予後の改善効果は十分ではなく、予後改善効果を有する薬剤の開発が望まれている。 従って、上記の如き状況にある、くも膜下出血患者の予後を改善し、回復率や生存率を高めるような薬剤を提供することが本発明の課題である。 本発明者は、くも膜下出血患者の予後を改善し、回復率や生存率を高めるような薬剤について鋭意研究を行ったところ、EPAを有効成分とする本発明の薬剤が上記作用、とりわけ、極めて高い救命効果を有することを見出し、本発明を完成した。 上記したようにくも膜下出血の合併症のうち、脳血管攣縮に対するEPAの(平滑筋異常収縮)抑制効果が知られているが、くも膜下出血後に死亡または重篤な状態に至る原因は、必ずしもその合併症である脳血管攣縮に限られない。 本発明の態様は、イコサペント酸(別称:イコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸)、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とする、くも膜下出血の予後改善剤(以下、単に予後改善剤とも称する)である。 また、本発明の別の態様は、上記予後改善剤を用いるくも膜下出血の予後を改善する方法であり、特には、くも膜下出血に伴う術前、術中および/または術後よりイコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する薬剤を経口投与または胃管を介して投与することを特徴とするくも膜下出血の予後を改善する方法である。 また、本発明の別の態様は、上記予後改善剤を用いるくも膜下出血の予後を改善する方法であり、特には、くも膜下出血に伴う術前、術中および/または術後よりイコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する薬剤および利胆剤、とりわけウルソデオキシコール酸を胃管を介して投与することを特徴とするくも膜下出血の予後を改善する方法である。 以下に本発明を詳細に説明する。本明細書において、くも膜下出血とは、くも膜下腔に出血した状態を意味する。原因の約6〜8割は脳動脈瘤の破裂であり、他に頭部外傷、脳動静脈奇形破裂、小児のもやもや病などが挙げられるが、特に限定されない。 本明細書において、予後改善とは、通常の治療法に比べて、症状や致死率が改善することを意味する。例えば、グラスゴー・アウトカム・スケール(GOS)などの臨床上の指標によって、通常の治療法に比べて、改善が認められることなどが具体例として挙げられるが、これに限定されるものではない。 本発明に用いられるEPAは、市販品の他、魚油やEPA産生菌およびその培養液を公知の方法、例えば連続式蒸留法、尿素付加法、液体クロマトグラフィー法、超臨界流体クロマトグラフィー法等あるいはこれらの組み合わせで精製して得ることができ、必要によりエステル化処理してエチルエステル等のアルキルエステルやグリセリド等のエステルとすることができる。また、ナトリウム塩、カリウム塩等の無機塩基またはベンジルアミン塩、ジエチルアミン塩等の有機塩基あるいはアルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸との塩とすることができる。 本発明においてEPAとは、特に断らない限りは、脂肪酸の遊離体のほか上記のような塩およびエステルも含むものとする。ヒトあるいは動物に投与する場合は、製薬学上許容しうるものが好ましい。これらのうちでも、EPAは、イコサペント酸エチル(以下EPA−Eと略する)のエステル形態での使用が好ましい。 本発明の予後改善剤は、EPAの純品を使用できることはもちろん、EPAとともに他の脂肪酸を有効成分として含有してもよい。これらの脂肪酸は、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサモノエン酸、アラキドン酸、イコサテトラエン酸、イコサトリエン酸、イコサモノエン酸オクタデカテトラエン酸、α−リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、パルミトオレイン酸、ヘキサデカトラエン酸、ヘキサデカトリエン酸およびヘキサデカジエン酸等の不飽和脂肪酸あるいはベヘン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸およびミリスチン酸等の飽和脂肪酸等が例示される。また、上述の例の脂肪酸は遊離体のほか、それらのナトリウム塩等の無機塩基との塩またはベンジルアミン塩等の有機塩基との塩、さらにはそれらのエチルエステル等のアルキルエステルまたはグリセリド等のエステル体であってもよい。 本発明の予後改善剤において、有効成分としてEPA以外の脂肪酸を含む場合には、EPAを全脂肪酸中、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上の量で含有することが望ましい。アラキドン酸含量は少ないことが望まれる。 本発明の予後改善剤は、有効成分(化合物)をそのまま投与してもよく、また有効成分を湯に溶かす、または懸濁して胃管を介して投与することもでき、適当な医薬用製剤に調製して投与することもできる。製剤調製時には、一般的に用いられる適当な担体または媒体の類、各種添加剤を適宜選択組み合わせて使用することができ、例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、香味剤、滅菌水、植物油、無害性有機溶媒、無害性溶解補助剤(例えばグリセリン、プロピレングリコール)、乳化剤、懸濁化剤(例えばツイーン80、アラビアゴム溶液)、等張化剤、pH調整剤、安定化剤、無痛化剤などを必要に応じて使用することができる。 特にEPAは高度に不飽和であるため、上記の製剤は、抗酸化剤をEPAの酸化を抑制する有効量で含有させることが望ましい。抗酸化剤としては、例えばブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、プロピルガレート、没食子酸、医薬として許容されうるキノンおよびα−トコフェロールを使用することができる。 製剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、経口用液体製剤、坐剤、シロップ剤、吸入剤、点眼剤、軟膏、注射剤(乳濁性、懸濁性、非水性)、あるいは用時乳濁または懸濁して用いる固形注射剤の形態などが挙げられる。 本発明では、有効成分そのままの、あるいは製剤化された予後改善剤は、経口、胃管を介して、静脈内あるいは動脈内、吸入、点眼、直腸内、膣内あるいは外用を問わず患者に投与されるが、とりわけカプセル例えば、軟カプセルやマイクロカプセルに封入しての経口投与が好ましい。注射剤(乳濁性、懸濁性、非水性)、あるいは用時乳濁または懸濁して用いる固形注射剤での静脈内あるいは動脈内投与でもよい。 なおEPA−E含有軟カプセル剤であれば、副作用の発現が少なく、安全な閉塞性動脈硬化症および高脂血症治療薬としてエパデールおよびエパデールS(いずれも持田製薬社製)の商品名で国内で市販されている高純度EPA−E含有軟カプセル剤の市販品を使用することができる。 本発明の予後改善剤の投与量は、対象となる作用を現すのに十分な量とされるが、その剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、年齢等によって適宜増減することができる。 経口投与する場合には、EPAとして0.1〜9g/日、好ましくは0.5〜6g/日、さらに好ましくは1〜3g/日を3回に分けて投与するが、必要に応じて全量を1回あるいは数回に分けて投与してもよい。 経口投与が困難な場合には、湯に溶かす、または懸濁して上記用量のEPAを胃管(マーゲンゾンデ)を介して投与することもできる。EPAは食後に投与することが望ましいが、IVH管理下で食物の経口摂取ができないような場合には、EPAの吸収性を高めるために、ウルソデオキシコール酸(商品名ウルソ、三菱ウェルファーマ社製、等)等の利胆剤を併用することができる。具体的には、ウルソ顆粒(三菱ウェルファーマ社製)50mgを胃管を介して投与し、15分後に、EPA600mgを湯に溶かす、または懸濁して胃管より投与する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。 静脈内あるいは動脈内投与の場合は、EPAとして1〜200mg、好ましくは5〜100mg、さらに好ましくは10〜50mgを1回あるいは数回に分けて投与するが、必要に応じて点滴あるいはインフュージョンポンプ等を用いて数時間から数日にかけて持続的に投与することもできる。 EPAの投与期間および投与スケジュールについては、くも膜下出血に伴う術前、術中および/または術後より、入院期間を経て、退院後まで、任意の投与期間、任意の投与スケジュールで投与することが可能であるが、現在市販されている製剤に関しては、出血している患者は禁忌となっており、術前、術中の投与には注意を要する。出血傾向の助長を回避する観点からは、術後に投与を開始するのが好ましい。投与期間の目安として、1週間以上続けて投与することが好ましく、さらに好ましい投与期間は2週間〜1年である。 以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。 [対象および方法] 発症第3日目までに外科的手術が施行された破裂動脈瘤によるくも膜下出血患者64名(男性22名、女性42名、年齢30歳代〜80歳代)を32名ずつ2群に分け、それぞれEPA投与群、EPA非投与群とした。なお、両群間の背景因子に差は認められなかった。 EPA投与群には術直後より、イコサペント酸エチル(商品名エパデール、持田製薬社製)1日1800mg/分3を14日間投与し、その後、入院期間中は投与を継続した。食事摂取不可能な段階においては経管栄養を施行し、湯に懸濁したEPAを胃管(マーゲンゾンデ)を介して投与した。その際、EPAの吸収を高めるために、EPA投与15分前にウルソ顆粒(三菱ウェルファーマ社製)50mgを胃管を介して投与した。食事摂取可能な段階においては市販のEPA製剤を経口投与した。なお両群とも、くも膜下出血に対する基本的な治療は併用したが、一部の薬物を禁止薬物として設定した。[結果] くも膜下出血発症第30日目にグラスゴー・アウトカム・スケール(GOS)により評価を実施し、その結果を表1にまとめた。 表1に示すように、EPA投与群で良好な成績が認められた。ウィルコクソンU検定の結果、P値はP=0.0128となり、両群間には有意な差が認められた。 また、生存率について表2にまとめた。 表2に示すように、EPA投与群できわめて高い生存率、すなわち、極めて高い救命効果が得られることが確認された。フィッシャーの正確検定の結果、P値はP=0.0265となり、両群間には有意な差が認められた。 なお、EPA投与によると思われる有害事象は全く認められなかった。 以上から、EPAはくも膜下出血患者の予後を改善し、回復率や生存率を高める作用を有することが確認された。 イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とする、くも膜下出血の予後改善剤は、くも膜下出血患者の予後を改善し、回復率や生存率を高める作用を有する。 外科的手術が施行されたくも膜下出血患者に、術直後より投与され、食事摂取不可能な段階では胃管を介して投与される、イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエチルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とする、くも膜下出血の予後改善剤。 前記くも膜下出血が破裂動脈瘤によるものである、請求項1に記載のくも膜下出血の予後改善剤。 前記術後の食事摂取可能な段階においては経口投与される請求項1または2に記載のくも膜下出血の予後改善剤。 くも膜下出血の予後改善が、グラスゴー・アウトカム・スケール(GOS)による回復率の改善である、請求項1ないし3のいずれかに記載のくも膜下出血の予後改善剤。 くも膜下出血の予後改善が、生存率の改善である請求項1ないし4のいずれかに記載のくも膜下出血の予後改善剤。 利胆剤と併用することを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載のくも膜下出血の予後改善剤。 前記利胆剤が、ウルソデオキシコール酸である請求項6に記載のくも膜下出血の予後改善剤。 前記有効成分が、イコサペント酸エチルであって、全脂肪酸中にイコサペント酸エチルを85重量%以上含有する、請求項1ないし7のいずれかに記載のくも膜下出血の予後改善剤。


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