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タイトル:公開特許公報(A)_精製ルシフェラーゼの製造方法、精製ルシフェラーゼ、及びATP検出試薬
出願番号:2005358137
年次:2007
IPC分類:C12N 9/02,C12Q 1/66


特許情報キャッシュ

松野 忠宏 小川 淑未 五十嵐 亮 JP 2007159449 公開特許公報(A) 20070628 2005358137 20051212 精製ルシフェラーゼの製造方法、精製ルシフェラーゼ、及びATP検出試薬 株式会社バイオエネックス 506020517 長谷川 芳樹 100088155 青木 博昭 100129296 松野 忠宏 小川 淑未 五十嵐 亮 C12N 9/02 20060101AFI20070601BHJP C12Q 1/66 20060101ALI20070601BHJP JPC12N9/02C12Q1/66 5 OL 13 4B050 4B063 4B050CC07 4B050DD11 4B050FF02C 4B050FF09E 4B050LL03 4B063QA01 4B063QQ63 4B063QR01 4B063QR50 4B063QS26 4B063QX02 本発明は、精製ルシフェラーゼの製造方法、精製ルシフェラーゼ、及びATP検出試薬に関する。 近年、飲食料中の微生物(細菌、真菌等)を検出するために、微生物中に存在するアデノシン三リン酸(ATP)を、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に基づく発光を利用して検出することが行われている。しかしながら、検体液(検体を含有する液体)中には微生物中のATP以外のATP(以下、「バックグラウンドATP」という。)が混入していることが多く、必ずしも、高い精度で微生物中のATPを検出することはできなかった。 そのようなバックグラウンドATPを除去し、微生物中のATPの検出精度を高める方法として、下記特許文献1及び2では、検体液中にATP分解酵素(アデノシンリン酸デアミナーゼ又はルシフェラーゼ)を添加してバックグラウンドATPを分解するという方法が開示されている。また、下記特許文献3では、半透膜からなるチューブにATP分解酵素(アピラーゼ)を封入し、このチューブを検体液中に浸すことにより、バックグラウンドATPを分解するという方法が開示されている。特開平11−56393号公報特開2000−189197号公報特開2003−210197号公報 しかしながら、上記特許文献1〜3の方法では、微生物中のATPに関して、検出精度がある程度は向上したものの、十分に高い精度の検出が可能になったわけではなかった。具体的には、検体中に微生物が微量しか存在しない場合は、上記特許文献1〜3の方法を実施したとしても、必ずしも、ATPを指標として微生物を検出することはできなかった。 本発明者らは、上述の従来の方法でバックグラウンドATPを除去しても、検出対象のATPが十分に高い精度で検出されない原因について検討を重ねたところ、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応で用いるルシフェラーゼにはATPが付着しており、ルシフェラーゼに付着した状態のATPは従来の方法では除去されないこと、及び、ルシフェラーゼに付着しているATPは徐々に検体液中に遊離し、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に関与して、その分だけ検出対象のATPの検出精度を低下させることを見出した。 そこで、本発明は、付着しているATPが十分に少なく、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することを可能にする精製ルシフェラーゼ、及びそのような精製ルシフェラーゼを含有するATP検出試薬を提供することを目的とする。 上記目的を達成するために、本発明は、ATPが付着している粗ルシフェラーゼを液体中でポリリン酸化合物と共存させることにより、前記ATPを前記液体中に遊離させて、中間ルシフェラーゼを得る遊離ステップと、遊離した前記ATPを前記液体中から除去し、又は前記中間ルシフェラーゼと前記液体とを分離して、精製ルシフェラーゼを得る除去/分離ステップと、を備えることを特徴とする、精製ルシフェラーゼの製造方法を提供する。 ここで、「ポリリン酸化合物」とは、少なくとも2つのリン酸が重合した化合物又はその塩を意味する。また、ATPを「液体中から除去」することには、ATPを液体中から物理的に除去することだけでなく、液体中でATPを化学的に他の物質に変換することも含まれる。 上記の精製ルシフェラーゼの製造方法のように、粗ルシフェラーゼを液体中でポリリン酸化合物と共存させると、粗ルシフェラーゼからのATPの遊離が促進され、付着しているATPが粗ルシフェラーゼから液体中に迅速に遊離する。従って、上記の精製ルシフェラーゼの製造方法によれば、ATPが付着している粗ルシフェラーゼから、ATPを迅速、容易、かつほぼ完全に除去することができる。すなわち、付着しているATPが十分に少なく、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することを可能にする精製ルシフェラーゼを迅速かつ容易に製造することができる。 本発明はまた、上記の精製ルシフェラーゼの製造方法によって得ることができる精製ルシフェラーゼを提供する。この精製ルシフェラーゼは、具体的には、付着しているATPの量が、例えば1×10−14 mol/mgタンパク質未満である精製ルシフェラーゼである。なお、ここで、精製ルシフェラーゼに「付着しているATPの量」とは、次のようにして求められたATP量をいうものとする。すなわち、まず、10mM塩化マグネシウム及び5%トレハロースを含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)を溶媒として、所定濃度の精製ルシフェラーゼ溶液を調製し、この溶液を95℃で10分間加熱する。次に、精製ルシフェラーゼ溶液100μLとルシフェール250(キッコーマン社製)100μLとを混和し、発光量を ARVO Light(PerkinElmer 社製)で測定する。最後に、発光量と溶液中の精製ルシフェラーゼの濃度とからATP量(mol/mgタンパク質)を求める。 このような精製ルシフェラーゼでは、付着しているATPが十分に少ない。従って、上記精製ルシフェラーゼを、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に基づくATPの検出に用いれば、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の際に検体液中に遊離するATPが十分に少なくなり、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することができる。そして、上記精製ルシフェラーゼを、ATPを指標とする微生物の検出に用いれば、極微量の微生物を検出することができる。 なお、付着しているATPが液体中に自然に遊離するのを待って、これを除去することによっても、ルシフェラーゼに付着したATPに起因する検出精度の低下を防ぐことができるが、そのような方法は長時間を要し、実用に適さない。 本発明はまた、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及び2価金属イオンからなるATP検出試薬であって、ルシフェラーゼが上記精製ルシフェラーゼであることを特徴とするATP検出試薬を提供する。 このようなATP検出試薬では、ルシフェラーゼとして、付着しているATPが十分に少ない精製ルシフェラーゼが用いられている。従って、上記ATP検出試薬を用いれば、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の際にルシフェラーゼから検体液中に遊離するATPが十分に少なく、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することができる。そして、上記ATP検出試薬を、ATPを指標とする微生物の検出に用いれば、極微量の微生物を検出することができる。 上記ATP検出試薬は、凍結乾燥された固体の状態で存在していることが好ましい。凍結乾燥された固体の状態で存在していれば、長期に渡って、試薬(特に、タンパク質であるルシフェラーゼ)の本来の活性が維持される。 なお、特開平8−47399号公報には、ポリリン酸化合物をルシフェリン及びルシフェラーゼと共存させることにより、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応における発光強度の増強及び発光時間の延長が可能になることが記載されている。しかしながら、本発明におけるように、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応を行う前にルシフェラーゼをポリリン酸化合物で処理することにより、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応によるATP検出の精度を顕著に高くすることができることは、本発明者らが初めて見出した知見であり、この知見について、上記公報(特開平8−47399号公報)には記載も示唆もない。 本発明によれば、付着しているATPが十分に少なく、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することを可能にする精製ルシフェラーゼ、及びそのような精製ルシフェラーゼを含有するATP検出試薬が提供される。 以下、本発明の好適な実施形態を説明する。(精製ルシフェラーゼの製造方法) 本発明の精製ルシフェラーゼの製造方法は、ATPが付着している粗ルシフェラーゼを液体中でポリリン酸化合物と共存させることにより、前記ATPを前記液体中に遊離させて、中間ルシフェラーゼを得る遊離ステップと、遊離した前記ATPを前記液体中から除去し、又は前記中間ルシフェラーゼと前記液体とを分離して、精製ルシフェラーゼを得る除去/分離ステップと、を備えるものである。 遊離ステップでは、ATPが付着している粗ルシフェラーゼを液体中でポリリン酸化合物と共存させることにより、付着しているATPを粗ルシフェラーゼから液体中に遊離させる。粗ルシフェラーゼを液体中でポリリン酸化合物と共存させると、粗ルシフェラーゼからのATPの遊離が促進され、付着しているATPが迅速に遊離する。 ここで、粗ルシフェラーゼを液体中でポリリン酸化合物と共存させる方法としては、粗ルシフェラーゼを含有する液体と、ポリリン酸化合物を含有する液体とを混合すること、粗ルシフェラーゼを含有する液体と、固体状のポリリン酸化合物とを混合すること、固体状の粗ルシフェラーゼと、ポリリン酸化合物を含有する液体とを混合すること、等が挙げられる。 また、粗ルシフェラーゼは、ATPが付着しているルシフェラーゼであれば、未精製のものであっても、精製されたものであってもよい。また、粗ルシフェラーゼは、ルシフェラーゼ活性を有するものであれば、野生型であっても、変異型であってもよい。 また、ポリリン酸化合物は、少なくとも2つのリン酸が重合した化合物又はその塩であればよいが、入手が容易であることから、ピロリン酸、トリリン酸、ヘキサメタリン酸、又はこれらの塩が好ましい。 また、液体に添加するポリリン酸化合物の量は、粗ルシフェラーゼ1mg/mL当たり、好ましくは0.01〜100mMである。ポリリン酸化合物の量が、粗ルシフェラーゼ1mg/mL当たり、0.01mM未満であると、0.01mM以上の場合と比較して、粗ルシフェラーゼからのATPの遊離に要する時間が長くなる傾向がある。他方、100mMを超えると、100mM以下の場合と比較して、精製ルシフェラーゼとポリリン酸化合物との分離が困難となり、精製ルシフェラーゼの活性が低下する傾向がある。 除去/分離ステップでは、遊離ステップで液体中に遊離したATPを液体中から除去し、又は遊離ステップで得られた中間ルシフェラーゼと液体とを分離する。ATPを液体中から除去する操作、及び中間ルシフェラーゼと液体とを分離する操作は、いずれか一方のみを単独で、又は両者を組み合わせて行うことができる。 ここで、ATPを液体中から除去する方法としては、ATP分解酵素(アピラーゼ等)により、液体中でATPを分解すること、液体にルシフェリン及び2価金属イオン(Mg2+等)を加えて、ATPを消費させること、等が挙げられる。また、中間ルシフェラーゼと液体とを分離する方法としては、濾過により、ATPを含有する液体から中間ルシフェラーゼを物理的に分離すること、等が挙げられる。 上述の遊離ステップ及び除去/分離ステップは連続的に行ってもよい。すなわち、例えば、粗ルシフェラーゼを含有する液体をカラムに流通させて、粗ルシフェラーゼのみをカラムの担体に吸着させた後、ポリリン酸化合物を含有する液体を更にカラムに流通させて、付着しているATPを粗ルシフェラーゼから遊離させ、遊離したそのATPをカラムから洗い流すという操作を行ってもよい。 上述のような遊離ステップ及び除去/分離ステップを備える本発明の精製ルシフェラーゼの製造方法によれば、ATPが付着している粗ルシフェラーゼから、ATPを迅速、容易、かつほぼ完全に除去することができる。すなわち、付着しているATPが十分に少なく、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することを可能にする精製ルシフェラーゼを迅速かつ容易に製造することができる。(精製ルシフェラーゼ) 本発明の精製ルシフェラーゼは、上記の精製ルシフェラーゼの製造方法により得ることができる精製ルシフェラーゼである。具体的には、付着しているATPの量が、例えば1×10−14 mol/mgタンパク質未満である精製ルシフェラーゼである。なお、ここで、精製ルシフェラーゼに「付着しているATPの量」とは、次のようにして求められたATP量をいうものとする。まず、10mM塩化マグネシウム及び5%トレハロースを含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)を溶媒として、所定濃度の精製ルシフェラーゼ溶液を調製し、この溶液を95℃で10分間加熱する。次に、精製ルシフェラーゼ溶液100μLとルシフェール250(キッコーマン社製)100μLとを混和し、発光量を ARVO Light(PerkinElmer 社製)で測定する。最後に、発光量と溶液中の精製ルシフェラーゼの濃度とからATP量(mol/mgタンパク質)を求める。 このように、本発明の精製ルシフェラーゼでは、付着しているATPが十分に少ない。従って、本発明の精製ルシフェラーゼを、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に基づくATPの検出に用いれば、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の際に検体液中に遊離するATPが十分に少なくなり、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することができる。そして、ATPを指標とする微生物の検出に用いれば、極微量の微生物(例えば、1個の細菌)を検出することができる。 本発明の精製ルシフェラーゼは、液体外に存在していても、液体中に存在していてもよいが、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に供する前は、凍結乾燥された固体の状態で液体外に存在していることが好ましい。凍結乾燥された固体の状態で存在していれば、長期(例えば、半年以上)に渡って、その本来の活性が維持される。(ATP検出試薬) 本発明のATP検出試薬は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及び2価金属イオンからなるATP検出試薬であって、ルシフェラーゼが上記精製ルシフェラーゼであることを特徴とするものである。 ATPは、酸素存在下でルシフェラーゼ、ルシフェリン及び2価金属イオンと反応して、ルシフェリンによる発光を生じさせる。従って、本発明のATP検出試薬は、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に基づくATPの検出、及びATPを指標とする微生物等の検出に利用することができる。 また、上述のように、本発明のATP検出試薬では、ルシフェラーゼとして、付着しているATPが十分に少ない精製ルシフェラーゼが用いられている。従って、本発明のATP検出試薬を用いれば、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の際に検体液中に遊離するATPが十分に少なくなり、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することができる。そして、本発明のATP検出試薬を、ATPを指標とする微生物の検出に用いれば、極微量の微生物(例えば、1個の細菌)を検出することができる。 本発明のATP検出試薬において、ルシフェラーゼ及びルシフェリンとしては、例えば、ホタルルシフェリン及びホタルルシフェラーゼ、すなわちホタル(ゲンジボタル、ヘイケボタル、アメリカホタル等)に由来するルシフェリン及びルシフェラーゼが挙げられる。 また、2価金属イオンとしては、Mg2+、Ca2+、Mn2+等が挙げられるが、高いルシフェラーゼ活性が得られることや、比較的安価であることから、Mg2+が好ましい。なお、2価金属イオンは、液体中でイオンとして解離するならば、液体外では陰イオン(Cl−等)と結合した状態で存在していてもよい。 本発明のATP検出試薬は、液体外に存在していても、液体中に存在していてもよいが、ATP検出のために使用する前は、凍結乾燥された固体の状態で液体外に存在していることが好ましい。凍結乾燥された固体の状態で存在していれば、長期(例えば、半年以上)に渡って、試薬(特に、タンパク質であるルシフェラーゼ)の本来の活性が維持される。 以下、実施例、比較例及び参考例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。〔実施例1〕 野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列において、423位のイソロイシンがロイシンに置換され、かつ530位のロイシンがアルギニンに置換されているアミノ酸配列からなる変異型ホタルルシフェラーゼを用いて、精製ルシフェラーゼを製造した。なお、用いた変異型ホタルルシフェラーゼは、野生型北米ホタルルシフェラーゼと比較して、発光強度が増大されたものである。(粗ルシフェラーゼの調製) 粗ルシフェラーゼの調製(変異型ホタルルシフェラーゼの作製)を次のように行った。 まず、野生型北米ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼ遺伝子(DNA)(塩基配列は配列番号1に示すとおりである。)を含むプラスミド(pGL2-Basic Vector、Promega 社製)を鋳型とし、プライマーとして、制限酵素 NcoI 認識配列が付加された塩基配列:5'-gactccatggaagacgccaaaaac-3'(配列番号2)からなるDNA、及び制限酵素 XhoI 認識配列が付加された塩基配列:5'-gacactcgagcaatttggactttccgcc-3'(配列番号3)からなるDNAを用いて、PCRを行った。PCR反応液としては、Diversify PCR Random Mutagenesis Kit(Clontech 社製)添付の TITANIUM Taq DNA ポリメラーゼ、dNTP Mix 及び TITANIUM Taq バッファーに、各プライマーDNAを0.2μM、鋳型DNAを50ng/50μLとなるように加えて調製した溶液を用いた。GeneAmp PCR System 2700(Applied Biosystems 社製)を用いて、「94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で120秒」のサイクルを25回繰り返して反応を行い、野生型北米ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含有するDNA断片を得た。塩基配列は、DTCS Quick Start Master Mix キット及び泳動解析装置 CEQ8000(いずれも Beckman Coulter 社製)を用いて決定した。上記の二つの制限酵素認識配列が付加されている上記DNA断片を NcoI 及び XhoI(いずれも New England Biolabs 社製)で切断し、これを、予め NcoI 及び XhoI で切断したプラスミド(pET-28a(+) plasmid DNA、Novagen 社製)に、DNA Ligation Kit(BioDynamics Laboratory 社製)を用いて組み込んだ。なお、pET-28a(+)は、T7プロモーター及びT7ターミネーターを含有している。また、発現する目的タンパク質のC末端側にヒスチジンタグが付加されるように、クローニング部位の近傍に、ヒスチジン(His)タグをコードする遺伝子を含有している。また、pET-28a(+)はカナマイシン耐性を有する。 次に、得られた組換えプラスミドを鋳型として、Transformer 部位特異的突然変異誘発キット(Clontech 社製)を用いて部位特異的変異導入を行った。選択プライマーとしては、pET-28a(+)中の制限酵素 FspI 認識配列と一塩基異なる配列を含む塩基配列:5'-cacgatcatgagcacccgtgg-3'(配列番号4)からなるDNAを用いた。また、変異誘発プライマーとしては、塩基配列:5'-ccggaaaacgcgacgcaag-3'(配列番号5)からなるDNAを用いた。いずれのプライマーも、予めT4ポリヌクレオチドキナーゼ(TOYOBO 社)で5’末端をリン酸化した。Transformer 部位特異的突然変異誘発キット添付のT4 DNAポリメラーゼ及びT4 DNAリガーゼを用いて、組換えプラスミドを合成した。FspI で切断処理した後、FspI で切断されなかった組換えプラスミドを大腸菌のミスマッチ修復欠損株 BMH71-18mutS に導入し、大腸菌を培養した。得られた組換えプラスミドを更に FspI で切断処理し、FspI で切断されなかった組換えプラスミドを、変異が導入された組換えプラスミド(530位のロイシンがアルギニンに置換された変異型北米ホタルルシフェラーゼの遺伝子を含有する組換えプラスミド)として選択した。 次に、選択した組換えプラスミドを、制限酵素 NcoI 及び XhoI(いずれも New England Biolabs 社製)で切断し、アガロースゲル電気泳動により分離後、530位のロイシンがアルギニンに置換された変異型北米ホタルルシフェラーゼの遺伝子を含有するDNA断片のみを回収した。NcoI 認識配列及び XhoI 認識配列が付加されている上記DNA断片を、予め NcoI 及び XhoI で切断したプラスミド(pET-28a(+) plasmid DNA、Novagen 社製)に、DNA Ligation Kit(BioDynamics Laboratory 社製)を用いて組み込んだ。このようにして得られた組換えプラスミドを部位特異的変異導入における鋳型として用い、変異誘発プライマーとして、塩基配列:5'-ggctacattctggagacttagcttactgggacg-3'(配列番号6)からなるDNAを用いたこと以外は、上述したのと同様にして、更に部位特異的変異導入を行った。 変異が導入された組換えプラスミド中の変異型北米ホタルルシフェラーゼ遺伝子(DNA)の塩基配列は、DTCS Quick Start Master Mix キット及び泳動解析装置 CEQ8000(いずれも Beckman Coulter社製)を用いて決定した。塩基配列は、配列番号7に示すとおりであった。これにより、組換えプラスミド中の変異型北米ホタルルシフェラーゼ遺伝子が、423位のイソロイシンがロイシンに置換され、かつ530位のロイシンがアルギニンに置換されている変異型北米ホタルルシフェラーゼをコードしていることが確認された。 次に、変異型北米ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含有する組換えプラスミドを、塩化カルシウム法により、ゲノムDNA中にT7 RNAポリメラーゼ遺伝子が組み込まれている大腸菌(HMS174(DE3)、Novagen 社製)に導入し、この大腸菌を、カナマイシン30μg/mLを含有する選択寒天培地上で平板培養し、形質転換大腸菌を選択した。 次に、選択した形質転換大腸菌を、振盪培養機(高崎科学器械社製)を用いて、37℃の下、2×YT培地(カナマイシン30μg/mLを含有する。)200mL中で2.5時間振盪培養した後、培地中のイソプロピルβ−チオガラクトシド(IPTG)濃度が0.1mMになるように100mM IPTGを200μL加え、25℃で6時間発現誘導を行った。なお、IPTGは、lac リプレッサーによる発現抑制を解除し、T7 RNAポリメラーゼを誘導する発現誘導物質である。 最後に、培養液190mLを8000rpmで30分間遠心分離することにより大腸菌の菌体2.21gを回収し、これを、ピロリン酸50mM及び塩化ナトリウム500mMが20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した溶液20mLに懸濁した後、菌体を超音波破砕した(2分間×4回)。そして、菌体破砕液を4℃の下、9000rpmで遠心分離して(30分間×2回)、変異型北米ホタルルシフェラーゼを含有する上清を得た。更に、得られた上清をフィルターで2回濾過して(フィルター孔径:1回目:0.45μm;2回目:0.22μm)、上清中の不溶性の菌体破砕残渣を除去した。こうして粗ルシフェラーゼ溶液を得た。(精製ルシフェラーゼの製造) 調製した粗ルシフェラーゼから精製ルシフェラーゼを次のように製造した。 まず、得られた粗ルシフェラーゼ溶液をカラム(1mL His Trap、Amersham Biosciences 社製)にチャージした後、カラムを高速液体クロマトグラフィー装置(AKTA、Amersham Biosciences 社製)に接続した。そして、ピロリン酸50mM及び塩化ナトリウム500mMが20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した溶液10mLでカラムを洗浄した。なお、作製した変異型北米ホタルルシフェラーゼは、C末端側にヒスチジン(His)タグが付加されていることから、上記カラムの担体に吸着する。 そして、イミダゾール20mM及び塩化ナトリウム500mMが20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した溶液でカラムを平衡化した後、その溶液をカラムに流通させながら、12分で溶液中のイミダゾール濃度を500mMまで上げ、更にその溶液(イミダゾール濃度:500mM)をカラムに流通させて、変異型北米ホタルルシフェラーゼを溶出させた。更に、得られた変異型北米ホタルルシフェラーゼ溶液(変異型北米ホタルルシフェラーゼを含有する画分)6mLを脱塩カラム(PC-10、Amersham Biosciences 社製)にチャージした後、塩化マグネシウム10mM及びトレハロース5%が50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に溶解した溶液を脱塩カラムに流通させて、変異型北米ホタルルシフェラーゼ溶液の溶媒を置換した。こうして精製ルシフェラーゼ溶液(11.5mg/mL変異型北米ホタルルシフェラーゼ溶液10.5mL)を得た。(付着ATPの定量) 製造した精製ルシフェラーゼに付着しているATPを次のように定量した。 得られた精製ルシフェラーゼ溶液を95℃で10分間加熱した後、溶液100μLとルシフェール250(キッコーマン社製)100μLとを混和し、発光量を ARVO Light(PerkinElmer 社製)で測定した。そして、発光量と溶液中の変異型北米ホタルルシフェラーゼの濃度とから精製ルシフェラーゼ(変異型北米ホタルルシフェラーゼ)1mg当たりのATP量を求めた。〔比較例1〕 精製ルシフェラーゼの製造において、カラム(1mL His Trap)の洗浄を、塩化ナトリウム500mMが20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した溶液(ピロリン酸を含有しない。)10mLで行ったこと以外は、実施例1と同様にして、粗ルシフェラーゼの調製、精製ルシフェラーゼの製造、及び付着ATPの定量を行った。 実施例1及び比較例1の結果を表1及び図1に示す。図1は、実施例1及び比較例1において測定された、精製ルシフェラーゼ1mg当たりのATP量を示す棒グラフである。表1及び図1に示されるように、付着しているATPの量は、実施例1の精製ルシフェラーゼの方が、比較例1の精製ルシフェラーゼよりもはるかに少なかった。また、実施例1の精製ルシフェラーゼでは、付着しているATPの量が1×10−14 mol/mgタンパク質未満であり、十分に少なかった。 実施例1及び比較例1により、本発明の精製ルシフェラーゼの製造方法を用いれば、付着しているATPが十分に少なく、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することを可能にする精製ルシフェラーゼを迅速かつ容易に製造することができることが示された。〔実施例2〕(ATP検出試薬の調製) 実施例1と同様の方法で得た精製ルシフェラーゼ溶液(変異型北米ホタルルシフェラーゼ溶液)を用いて、精製ルシフェラーゼ0.25mg/mL、ルシフェリン(和光純薬工業社製)1.5mM及び塩化マグネシウム(MgCl2)10mM及びトレハロース5%が50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に溶解したATP検出試薬溶液(ルシフェラーゼ、ルシフェリン及びMg2+からなるATP検出試薬の溶液)を調製した。(ATPの検出) 検体液として、5種のATP水溶液(ATP濃度:2.0×10−10M,2.0×10−11M,2.0×10−12M,2.0×10−13M,2.0×10−14M)を調製した後、各検体液(ATP水溶液)100μLと上記ATP検出試薬溶液100μLとを混和し(混和後のATP濃度:1.0×10−10M,1.0×10−11M,1.0×10−12M,1.0×10−13M,1.0×10−14M)、発光量をルミテスター C-1000(キッコーマン社製)で測定した。〔比較例2〕 ATP検出試薬の調製に、比較例1と同様の方法で得た精製ルシフェラーゼ溶液(変異型北米ホタルルシフェラーゼ溶液)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ATP検出試薬の調製、及びATPの検出を行った。 実施例2及び比較例2の結果を図2に示す。図2は、実施例2及び比較例2において得られた、検体液中のATP濃度(検出対象のATPの濃度)と発光量との関係を示すグラフである。図2に示されるように、高いATP濃度(1.0×10−10M,1.0×10−11M,1.0×10−12M)の範囲においては、実施例2及び比較例2のいずれでも、ATP濃度と発光量との間に強い相関関係が認められた。しかし、低いATP濃度(1.0×10−13M,1.0×10−14M)の範囲においては、実施例2では、ATP濃度と発光量との間に強い相関関係が認められたのに対して、比較例2では、ATP濃度と発光量との間に強い相関関係が認められなかった。これは、次の理由によるものと推察される。すなわち、実施例2では、精製ルシフェラーゼに付着していたATPが極めて少ないので、検体液中の検出対象のATPが微量であっても、精製ルシフェラーゼに付着していたATPに起因する発光量が、検出対象のATPに起因する発光量に対して、無視しうる程度に小さい。これに対して、比較例2では、精製ルシフェラーゼに付着していたATPが多いので、検体液中の検出対象のATPが微量の場合、精製ルシフェラーゼに付着していたATPに起因する発光量が、検出対象のATPに起因する発光量に対して、無視しえない程度に大きくなる。 実施例2及び比較例2により、本発明の精製ルシフェラーゼ又はATP検出試薬を用いれば、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することができることが示された。〔参考例1〕 まず、実施例1と同様にして、粗ルシフェラーゼの調製(変異型ホタルルシフェラーゼの作製)を行い、粗ルシフェラーゼ溶液を得た。そして、得られた粗ルシフェラーゼ溶液を用いて、粗ルシフェラーゼ0.25mg/mL、ルシフェリン(和光純薬工業社製)1.5mM、トレハロース5%及び塩化マグネシウム(MgCl2)10mMが50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に溶解した発光試薬溶液を2mL調製した。調製後直ちに、発光試薬溶液100μLを96穴マイクロプレートの各ウェルに入れ、発光量を ARVO Light(PerkinElmer 社製)で経時的に測定した。測定開始後150分の時点で、上記発光試薬溶液100μLに10mMピロリン酸ナトリウム水溶液1μLを添加し、引き続き発光量を測定した。 図3は、参考例1において測定された発光量の時間変化を示すグラフである。図3に示されるように、10mMピロリン酸ナトリウム水溶液の添加により発光量が顕著に増大した。上記ピロリン酸ナトリウム水溶液にはATPが含有されていないことから、発光量の増大は、上記発光試薬溶液中に存在していたATP、すなわち粗ルシフェラーゼに付着していたATPに起因するものと推察される。 参考例1により、粗ルシフェラーゼに多量のATPが付着していること、及び、粗ルシフェラーゼを液体中でポリリン酸化合物と共存させると、粗ルシフェラーゼからのATPの遊離が促進され、付着しているATPが迅速に遊離することが示された。 本発明の精製ルシフェラーゼの製造方法、精製ルシフェラーゼ、及びATP検出試薬は、ATPを指標とする飲食料中の微生物(細菌、真菌等)の検出に利用することができる。実施例1及び比較例1において測定された、精製ルシフェラーゼ1mg当たりのATP量を示す棒グラフである。実施例2及び比較例2において得られた、検体液中のATP濃度と発光量との関係を示すグラフである。参考例1において測定された発光量の時間変化を示すグラフである。 ATPが付着している粗ルシフェラーゼを液体中でポリリン酸化合物と共存させることにより、前記ATPを前記液体中に遊離させて、中間ルシフェラーゼを得る遊離ステップと、 遊離した前記ATPを前記液体中から除去し、又は前記中間ルシフェラーゼと前記液体とを分離して、精製ルシフェラーゼを得る除去/分離ステップと、を備えることを特徴とする、精製ルシフェラーゼの製造方法。 請求項1に記載の精製ルシフェラーゼの製造方法によって得ることができる精製ルシフェラーゼ。 付着しているATPの量が1×10−14 mol/mgタンパク質未満である精製ルシフェラーゼ。 ルシフェラーゼ、ルシフェリン及び2価金属イオンからなるATP検出試薬であって、 前記ルシフェラーゼが、請求項2又は3に記載の精製ルシフェラーゼであることを特徴とするATP検出試薬。 凍結乾燥された固体の状態で存在していることを特徴とする、請求項4に記載のATP検出試薬。 【課題】 付着しているATPが十分に少なく、検出対象のATPを十分に高い精度で検出することを可能にする精製ルシフェラーゼ、及びそのような精製ルシフェラーゼを含有するATP検出試薬を提供すること。【解決手段】 ATPが付着している粗ルシフェラーゼを液体中でポリリン酸化合物と共存させることにより、ATPを液体中に遊離させて、中間ルシフェラーゼを得る遊離ステップと、遊離したATPを液体中から除去し、又は中間ルシフェラーゼと液体とを分離して、精製ルシフェラーゼを得る除去/分離ステップとを備える、精製ルシフェラーゼの製造方法。【選択図】 なし配列表


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