タイトル: | 公開特許公報(A)_酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法 |
出願番号: | 2005346697 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 1/28,H01J 37/20 |
石川 信博 古屋 一夫 稲見 隆 光岡 那由多 JP 2007155345 公開特許公報(A) 20070621 2005346697 20051130 酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法 独立行政法人物質・材料研究機構 301023238 石川 信博 古屋 一夫 稲見 隆 光岡 那由多 G01N 1/28 20060101AFI20070525BHJP H01J 37/20 20060101ALI20070525BHJP JPG01N1/28 FH01J37/20 Z 3 2 OL 8 特許法第30条第1項適用申請有り 2005年6月1日 社団法人日本顕微鏡学会発行の「社団法人日本顕微鏡学会 第61回学術講演会要旨集」に発表 特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月1日 社団法人日本鉄鋼協会発行の「材料とプロセス Vol.18(2005)No.4」に発表 2G052 5C001 2G052AA21 2G052AD32 2G052AD52 2G052FD00 2G052GA34 5C001BB07 5C001CC01 本願発明は、酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法に関するものである。 鉄鉱石から鉄を作る際の、鉄鉱石の主成分であるα−Fe2O3(α−ヘマタイト)の還元過程は、次式で表される。上記反応を起こすために最も広く用いられている製鉄法としては、以下の反応式で表される高炉製鉄法が知られている。 上記反応式によれば、鉄鋼石の還元剤としてコークス(炭素)を使用した場合、鉄を作れば作るほど炭酸ガスが発生することになる。したがって、地球温暖化防止の観点からも、炭酸ガスの発生を抑制しより効率的な製鉄法の開発が求められているのが実情である。そのためには還元過程の詳細な解析が必要である。特に透過電子顕微鏡(TEM)による解析は、反応をその場解析することができ、最も分解能の高い手段として知られている。これまで、酸化鉄の固体炭素による還元過程を解析する方法として、共焦点顕微鏡が主に使用されてきた(たとえば非特許文献1参照)が分解能ではTEMにはるかにおよばず、走査電子顕微鏡、走査プローブ顕微鏡などによる方法では結像に時間がかかってしまい、高温で起こる酸化鉄還元反応の試料の熱ドリフトにより、その解析が困難であった。さらに、TEMを使っての酸化鉄還元のその場解析法としてはガス封入あるいはイオン注入法があるが、ガス封入では文字通り気体を使うこと、イオン注入ではイオン自体がエネルギーを持っていることから、通常の高炉反応と異なる自然界に存在しない実験条件であり、また、特別な装置を用いることが必要で設備が大がかりになってしまうという問題があった。K.Ohno ISIJ.Int 44, 12, (2004), 2033 そこで、本願発明は、以上のとおりの背景よりなされたものであって、透過電子顕微鏡内で簡便に酸化鉄の還元過程をその場解析できるような酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法を提供することを課題としている。 本願発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。<1>酸化鉄の固体炭素による還元過程を解析するために酸化鉄と固体炭素の界面を透過電子顕微鏡内で直接観察する試料の作製方法であって、観察対象物である酸化鉄を破断しその破断面に炭素を蒸着することを特徴とする酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法。<2>上記<1>の試料の作製方法において、破断面に固体炭素を蒸着後、さらに白金を蒸着して保護膜を形成することを特徴とする酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法。<3>酸化鉄は、ウスタイトであることを特徴とする上記<1>または<2>に記載の酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法。 本願発明によれば、酸化鉄を破断し、その破断面に固体炭素を蒸着することにより、酸化鉄の固体炭素による還元過程を透過電子顕微鏡内でその場解析できるような酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料を簡便に作製することができる。また、固体炭素の蒸着に際しては一般的な蒸着装置であればよく特別な装置を用いる必要がないため安価に作製できる。そして、以上の試料を用いて酸化鉄の還元過程を透過電子顕微鏡内でその場解析するのに際して、酸化鉄の還元反応がおこる温度まで試料を加熱すればよいこと、圧力を考慮することないので真空装置である透過電子顕微鏡内で実験しても問題が少ないこと等から、より簡便に観察することができる。 以上の方法を利用して酸化鉄還元をサブミクロンオーダーで解析した結果を製鉄法にフィードバックすることで鉄鉱石とコークスを混合する際に必要な形状、温度などを極めて精密に設計でき、より効率的な製鉄法の設計に寄与することができる。 本願発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。まず、酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法について説明すると、前記試料は、酸化鉄の固体炭素による還元過程を解析するために観察対象物の酸化鉄を破断してその破断面に固体炭素を蒸着して作製される。ここで、観察対象物となる酸化鉄表面に固体炭素を接触させて酸化鉄の還元過程を解析する場合には、酸化鉄と固体炭素とを清浄なまま接触させることが必要である。すなわち、酸化鉄の表面をできるだけ清浄にして汚染を少なくし、酸化鉄表面に固体炭素を接触させることが必要である。たとえば、酸化鉄として後述するウスタイトを用いてその表面に固体炭素を接触させて還元過程を解析しようした場合、ウスタイトは常温空気中に長時間放置すると酸化してより安定な酸化物に変化してしまうため、ウスタイトと固体炭素を接触させて還元過程を解析することが困難であった。また、酸化を防ぐためには真空中でおこなう必要があるが、装置が大がかりになってしまうという問題もあった。したがって、本願発明では、観察対象物の酸化鉄を破断しその破断面をもって清浄な表面とし、表面汚染を抑制したこの破断面に固体炭素を蒸着させることがなによりも重要である。なお、表面汚染は、以上のような酸化以外に、透過電子顕微鏡内で観察するための試料の薄板状化に用いる研磨剤、化学薬品等の表面への付着による汚染もあり、このような汚染を避けるためにも観察対象物の酸化鉄を破断することが必要である。 本願発明における酸化鉄としては、たとえば、α−三酸化二鉄(ヘマタイト)、γ−三酸化二鉄(マグヘマイト)、四酸化三鉄(マグネタイト)、酸化鉄(ウスタイト)など種々の組成の酸化鉄を例示することができ、これらいずれのものでもよいが、好ましくはウスタイトまたはヘマタイト、より好ましくはウスタイトであることが考慮される。 本願発明で用いられる酸化鉄の形状は、透過電子顕微鏡内で観察できるような形状であれば特に制限されるものではない。破断面における酸化鉄と固体炭素の界面の観察がしやすいこと、破断のしやすさ等を考慮すると薄板状であることが考慮される。その厚みとしては、たとえば0.05〜1mm程度であることが考慮される。 本願発明は、以上のとおり酸化鉄を破断することでその破断面において清浄な表面を実現している。酸化鉄を破断する方法としては、破断面が清浄になるような方法であれば特に制限されるものではなく、たとえば、薄板状の酸化鉄を金槌、針、ピンセット等を用いて機械的に割ることが考慮される。これによって、破断面に損傷を与えることなく、清浄な破断面の形成を実現することができる。なお、本願発明では、清浄な表面を実現できる限り各種の切断方法も考慮することができる。 酸化鉄を破断した後は、破断面を清浄に保つためにも空気に触れる時間を極力短くし、速やかに固体炭素を蒸着することが考慮される。具体的には10分以内、より好ましくは5分以内に固体炭素を蒸着することが考慮される。 本願発明では、一般的な蒸着装置を用いて固体炭素を蒸着している。また、用いる固体炭素は、どのような態様のものでもよく特に制限されるものでないが、たとえばアモルファス状態のものが考慮される。以上の固体炭素は、たとえば0.1〜5μmの範囲の厚さになるように蒸着することが好ましく、より好ましくは0.5〜1μmの範囲である。 本願発明は、酸化鉄の破断面に固体炭素を蒸着した後、さらに白金を蒸着して保護膜を形成してもよい。この保護膜は炭素蒸着面を保護するもので、たとえば後述する集束イオンビーム加工法で加工した時に酸化鉄から固体炭素を削り落としてしまうことを防ぐ。以上の保護膜は、好ましくは厚さ1μm以上であることが考慮される。1μm未満の場合、加工時に炭素を保護することができない場合があるので好ましくない。なお、本願発明では、作業性や入手のし易さ等から白金を好ましいものとして使用しているが、炭素と容易に反応せず上記イオン研磨で飛ばされにくいものであればどのようなものであってもよく、たとえば原子番号の大きい金属を用いることができる。 以上のようにして作製された試料は、その観察領域が層状構造となるため、たとえば集束イオンビーム加工(FIB)法で試料の所定箇所を加工することが望ましい。FIB法はGa(ガリウム)イオンビームを試料面にスパッタリングして表面加工するもので、電子線が通過する程度の厚さまでイオン研磨することが考慮される。 以上のようにして作製された試料を透過電子顕微鏡内で加熱することで、酸化鉄の固体炭素による還元過程を酸化鉄の破断面での酸化鉄と炭素の界面においてその場観察することができる。 以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本願発明が限定されることはない。<ウスタイトの作製> 電解鉄粉および試薬ヘマタイト(ともに3ナイン)をモル比1:1で混合した。これらを高純度鉄坩堝に充填後、Ar(アルゴン)気流中、1400℃で30分溶解し、次いで、大気中で900℃に加熱した鉄製鋳型で鋳造した。これを切り出した後、1000℃、CO−CO2混合ガス中で25時間アニールしてウスタイトを得た。<酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製> 上記ウスタイトを約1mm厚に機械的に切り出し、0.1mm程度までエメリー紙で研磨して薄板状体とした。次に、この薄板状体を金槌で機械的に割り、その破断面に固体炭素を蒸着し、さらに白金を蒸着した。その後、この薄板状体の観察領域をFIBで仕上げ研磨した。なお、固体炭素は0.5〜1μm程度の厚さとなるように蒸着し、白金は1〜2μm程度の厚さとなるように蒸着した。 図1は、ウスタイトを割って、その破断面において汚染少ない表面を出した様子を模式的に表している。この図において、破断面は平滑でなく固体炭素が蒸着しにくようにみえるがTEMレベルではほぼ平らである。 図2は、ウスタイトの破断面に固体炭素と白金を蒸着した試料を、ガリウムイオンビームで表面加工した様子を模式的に表している。<透過電子顕微鏡(TEM)での試料観察> 上記試料をTEM内で加熱し、破断面における酸化鉄と固体炭素の界面を観察した。この結果を図3に示す。なお、図3は、TEM内で700℃に加熱して反応させたときの経時的変化(加熱前、10分後、30分後、1時間後)を表したTEM像である。 700℃で1時間経過し、室温まで冷却した後、EDS分析した。この結果を図4に示す。この図において、矢印Aで表される部分では鉄(Fe)が100%生成していることがわかった。また、矢印Bで表される箇所は、ほぼ炭素(C)100%でアモルファス残存域である。干渉縞がみられる箇所(矢印C)は、炭素(C)100%であるためグラファイトに変化したと思われる。ウスタイトを破断して、その破断面を出したときの様子を模式的に表した図である。本願発明における酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料を模式的に表した図である。試料を700℃に加熱したときの酸化鉄と固体炭素の界面の様子を経時的変化(加熱前、10分後、30分後、1時間後)を表したTEM像である。試料を700℃で1時間加熱した後、室温まで冷却してEDS分析をおこなった結果である。 酸化鉄の固体炭素による還元過程を解析するために酸化鉄と炭素の界面を透過電子顕微鏡内で直接観察する試料の作製方法であって、観察対象物である酸化鉄を破断しその破断面に固体炭素を蒸着することを特徴とする酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法。 請求項1の試料の作製方法において、破断面に固体炭素を蒸着後、さらに白金を蒸着して保護膜を形成することを特徴とする酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法。 酸化鉄は、ウスタイトであることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法。 【課題】 透過電子顕微鏡内で簡便に酸化鉄の還元過程をその場解析できるような酸化鉄還元透過電子顕微鏡内直接観察用試料の作製方法を提供する。【解決手段】 酸化鉄の固体炭素による還元過程を解析するために酸化鉄と固体炭素の界面を透過電子顕微鏡内で直接観察する試料の作製方法であって、観察対象物である酸化鉄を破断しその破断面に炭素を蒸着することとする。【選択図】 図2