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タイトル:公開特許公報(A)_ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法
出願番号:2005322105
年次:2007
IPC分類:C12N 15/09,C12Q 1/68,A01K 67/027


特許情報キャッシュ

山川 和弘 バルジンダー・シン 井上 有史 JP 2007124974 公開特許公報(A) 20070524 2005322105 20051107 ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法 独立行政法人理化学研究所 503359821 社本 一夫 100089705 増井 忠弐 100076691 小林 泰 100075270 千葉 昭男 100080137 富田 博行 100096013 泉谷 玲子 100107386 山川 和弘 バルジンダー・シン 井上 有史 C12N 15/09 20060101AFI20070420BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20070420BHJP A01K 67/027 20060101ALI20070420BHJP JPC12N15/00 AC12Q1/68 AC12N15/00 FA01K67/027 23 OL 25 4B024 4B063 4B024AA01 4B024AA11 4B024BA80 4B024CA04 4B024CA09 4B024CA11 4B024DA02 4B024EA04 4B024GA11 4B024HA14 4B024HA17 4B063QA01 4B063QA05 4B063QA13 4B063QA17 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ03 4B063QQ08 4B063QQ43 4B063QQ52 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR56 4B063QR62 4B063QR83 4B063QS25 4B063QS34 4B063QX02 本発明は、ヒトてんかんの遺伝的素因の有無を検出する方法に関する。 てんかんとは、大脳の神経細胞の過剰な同期的反射活動が起こることによって、同一個人の中で同じ型の臨床発作(全身強直−間代発作、欠伸発作、幻聴発作、四肢の一部の強直発作など)を繰り返す病態をいう。また、多種多様な臨床および検査所見を伴う。 てんかんは、てんかん発作のみを症状とし脳室病変を認めない特発性てんかん、脳室病変を認め、難治・重篤な症候性てんかん、および脳室病変は見られないものの、重篤な症状から特発性てんかんには分類しがたい潜因性てんかんの3つに分類される。 特発性てんかんはてんかん全体の約7割をしめるとされる。家族内発症や一卵性双生児での高い一致率(70%)などから、特発性てんかんには遺伝的な背景が想定され、実際に現在までに20弱の遺伝子が同定され、そのほとんどがイオンチャネルをコードする。 症候性てんかんでは、その原因の多くが交通事故などによる脳へのけが、感染症、周産期障害などによる。遺伝性のものは1割に満たない(てんかん全体の3%以下)が、その種類は200を越え、報告された原因遺伝子の数は特発性てんかんのそれを上回る。これまでに特発性てんかんとは対照的に、イオンチャネルをコードする原因遺伝子は報告されていない。 代表的な遺伝性症候性てんかんの例としてはラフォーラ病が知られている。ラフォーラ病は、常染色体劣性遺伝形式をとる遺伝性症候性てんかんであり、全身性痙攣を初発症状として6歳から18歳で発症し、刺激誘起性ミオクローヌス、欠神発作、大発作、痴呆、小脳失調症などを示す。症状は進行性であり、発症後10年以内(平均5.5年)で死亡する非常に重篤で悲惨な疾患である。現在までにEPM2A(プロテインフォスファターゼをコード),NHLRC1(ユビキチンリガーゼをコード)の2つの原因遺伝子が報告されており、ほとんどのラフォーラ病患者でいずれかの遺伝子の変異が検出される。 また、症候性てんかんに分類される側頭葉てんかんは、成人難治てんかんの最も多くを占める頻度の高いてんかんであり、複雑部分発作(しばしば運動停止、凝視で始まり、口部などの自動症、姿勢異常、意識障害、健忘、近時記憶障害、言語障害などを伴う)を示す。多くが内側側頭部(海馬周辺)を発作の起始部とし外科手術の最も良い適応の1つとされる。海馬硬化がしばしば見られるが病因は未だ明らかではない。側頭葉てんかんは、これまで後天的な症候群として見られてきたが、ある側頭葉てんかんは遺伝要素を有するとする新たなコンセンサスがある。 これまでにラットおよびマウスを用いた実験により、側頭葉てんかんについて生物学的研究がなされている。具体的には、メチルアゾキシメタノールを用いたヒト側頭葉てんかんのラットモデルを使用した最近の研究は、KCND2遺伝子がコードするKv4.2チャネルにより伝導される抑制性細胞体樹状突起A型電流の喪失が、てんかん発作の根底にある正のフィードバックループを促進する可能性を示唆している(非特許文献1)。また、KCND2ノックアウトマウスは誘導可能なてんかん発作の傾向がある、との報告もある(非特許文献2)。 現在までにKCND2遺伝子は、電位依存型カリウムチャネルのShalサブファミリーのメンバーであるKv4.2をコードし、それは脳内でA型外向き(outward)カリウム電流を仲介し、そして神経の樹状突起における逆伝播活動電位(b−AP)の調節に重大な役割を果たすことが知られている(非特許文献3)。また、KCND2遺伝子のカルボキシル末端のフィラミンへの相互作用領域を破壊した、突然変異体Kv4.2タンパク質を発現する細胞では、より低い電流密度を有する報告がある(非特許文献4)。しかしながら、これらの報告はいずれも非ヒトであるモデル動物または培養細胞におけるものであり、Kv4.2カリウムチャネルをコードするKCND2遺伝子がヒトの側頭葉てんかんの原因遺伝子であることを直接実証するに至るものではなかった。 日本全国においててんかん患者は、およそ120万人に達し、うち難治性の患者は20万人に達するきわめて一般的な疾患であり、的確に患者の遺伝的素因を検出することは、その後の治療計画の面からも重要である。さらに症候性てんかん、特に側頭葉てんかんにおいて、てんかん性発作の原因が遺伝的素因にあるのか、その他の原因にあるのかを同定することは、同様に治療計画などの面から必要とされている。したがって、正確かつ容易にてんかんに関わる遺伝的素因を検出できる方法の開発が望まれている。Bernard, C. et al. Science 305,532(2004)Forbes L. et al. American Epilepsy Society 58th annual meeting(2004)Birnbaum S.G. et al. Physiol Rev.84,803(2004)Petrecca K. J et al. Neurosci 20、8736(2000)Engel J. Jr,Neuroscientist,7(4),340(2001)Kobayashi E. et al. Arch Neurol.59、1891(2002)Duno M. et al. Eur J Hum Genet 12、738(2004) 本発明は、ヒトてんかんの診断および治療の可能性などを探るために、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法を提供することを目的とする。本発明の方法は、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の存在を検出する、ことを含む。 本発明はまた、本発明のヒトてんかんの遺伝的素因を検出するキットであって、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の検出に使用するプライマー、プローブ、および核酸チップ、並びにそれらを用いたキットを提供することを目的とする。 本発明はさらに、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異を有する、核酸を提供することを目的とする。 本発明はまた、ヒトてんかんモデル用の、非ヒトノックアウト哺乳動物を提供することを目的とする。本発明の非ヒトノックアウト哺乳動物は、KCND2遺伝子のDNA領域の一部または全部の改変により、KCND2タンパク質の生物学的機能の一部または全部が不活性化されていることを特徴とする。 本発明はさらにまた、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法であって、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列またはその発現の制御配列において、ヒトのKCND2遺伝子またはそのタンパク質の発現量に変化を生じさせる変異の存在を検出する、ことを含む、上記方法を提供する。 発明者らは、上記問題の解決のために鋭意研究に努めた結果、ヒトの側頭葉てんかん(TLE)に関連した初めてのカリウムチャネル突然変異、KCND2一部切除突然変異、を同定した。KCND2は、脳内におけるA型外向きカリウム電流を仲介する電位依存型カリウムチャネルKv4.2をコードする。本発明は、特にヒトにおいて、TLEの遺伝的素因を初めて明らかにしたものである。 具体的には、発明者らは、日本の家系の65人の親族でない、TLEと診断された個人のこの遺伝子における突然変異を、6つのエクソンおよびイントロン−エクソンの境界すべてを直接的シークエンスによりスクリーニングした。その結果、ナンセンスコドンを生じるc.2723_2727delAAACTの5塩基対欠失が、TLEの一人の発端者で同定された(図1)。同定されたアミノ酸変化(N587fsX)に対応する同定された変異は、カルボキシル末端の最後の44アミノ酸を欠く一部切除Kv4.2タンパク質を産生することが予想された。重要なことに、この欠失領域は重要なERKリン酸化部位、並びに細胞骨格タンパク質PSD−95およびフィラミンへの相互作用モチーフを持つ(実施例1)。 発明者らは、細胞全体のパッチクランプ記録を使用して、HEK293細胞中で発現したヒト野生型Kv4.2チャネル(WT)および変異体Kv4.2(delAAACT_N587fsX)チャネルの電気生理学的特性を解析した。主要な発見は、突然変異チャネルでトランスフェクトされた細胞における電流密度(current density)はWTチャネルの細胞の記録に比べて劇的に減少したことであった(図3)(実施例2)。 これらの発見はKCND2遺伝子がTLEの原因遺伝子であることを示すものである。本発明は上記発見に基づき、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の存在を検出することを含む、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法を見出し、本発明を想到した。 (I)ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法 本発明の方法は、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法を提供する。本発明の方法は、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の存在を検出することを含む。 本発明のおいて、「てんかん」とは、大脳の神経細胞の過剰な同期的反射活動が起こることによって、同一個人の中で同じ型の臨床発作(全身強直−間代発作、欠伸発作、幻聴発作、四肢の一部の強直発作など)を繰り返す病態を意味する。てんかんの種類は、遺伝的原因が関連するものであれば、特に限定されず、特発性てんかん、症候性てんかんおよび潜因性てんかんのいずれも含む。好ましくは側頭葉てんかんであるが、脳内病変がみられないタイプを含む。 「ヒトてんかんの遺伝的素因」とは、ヒトてんかんの発症と関連のあるゲノムDNA配列中の塩基配列の特徴のことであり、1塩基またはそれ以上の長さにわたり既知の天然の塩基配列と比べて変異を有していることをいう。具体的には、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異を指す。あるいは、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列またはその発現の制御配列において、ヒトのKCND2遺伝子またはそのタンパク質の発現量に変化を生じさせる変異を指す。遺伝的素因が検出され、遺伝的素因を有すると判断された場合には、当該遺伝的素因を有する個体は、ヒトてんかんに罹患している、あるいは、ヒトてんかんになる確率が高いことを意味する。 「ヒトのKCND2遺伝子」とは、ヒトのカリウムチャネル「ヒトのKCND2タンパク質」をコードする遺伝子である。「ヒトのKCND2タンパク質」とは、Kv4.2としても知られ、好ましくは配列番号2で表わされる。 しかしながら、配列番号2以外にも、配列番号2と比べて「ヒトのKCND2タンパク質」の生物学的性質を変えない変異を有するのもの含む。即ち、「生物学的性質を変えない変異」とは、規定のアミノ酸を、例えば同様の物理化学的特性を有する残基により置換してもよいことを意味する。こうした保存的置換の例には、1つの脂肪族残基を互いに、例えばIle、Val、Leu、またはAlaを互いに置換するもの;LysおよびArg、GluおよびAsp、またはGlnおよびAsn間といった、1つの極性残基から別のものへの置換;あるいは芳香族残基の別のものでの置換、例えばPhe、Trp、またはTyrを互いに置換するものが含まれる。他の保存的置換、例えば、同様の疎水性特性を有する領域全体の置換が、周知である。 あるいは、「生物学的性質を変えない変異」とは、上記の保存的置換以外のものであっても、KCND2タンパク質のチャネルとしての活性に変化を与えない変異を有するのものを含む。KCND2タンパク質の生物学的性質とは、例えば、電位依存型カリウムチャネルとしての機能、即ち、電位依存的に(電気刺激により)カリウムイオンを細胞内から細胞外に出す、機能を意味する。電位依存型カリウムチャネルとしての機能は、例えばKCND2タンパク質の電流密度の値、活性化・不活性化の膜電位依存性等により決定することができる。 「ヒトのKCND2遺伝子」は、好ましくは配列番号1で表わされるが、遺伝子の縮重により、配列番号1以外にも配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものも含まれる。さらに、配列番号2以外のアミノ酸配列をコードするものであっても、KCND2タンパク質の生物学的機能を失わせないSNPs、ハプロタイプまたはその他の塩基配列の変異を含むものも、本明細書における「ヒトのKCND2遺伝子」に含まれる。 (i)ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる塩基配列の変異 本発明の方法により、KCND2遺伝子の配列番号1の2723番目から2727番目のAAACTの塩基配列が欠失した変異体が検出された。ここで、野生型KCND2遺伝子は2720番目以降の塩基配列は、CTAAACTGTGAA・・・であり、この配列が、ロイシン−アスパラギン−システイン−グルタミン酸−・・・をコードする。一方、当該KCND2遺伝子の変異体KCND2遺伝子では欠失により、CTGTGAA・・・となり、TGAはストップコドンであることから、対応するアミノ酸はロイシン、で翻訳が停止することが明らかとなった。即ち、生じたナンセンス変異のため、アスパラギン以降の44アミノ酸を欠失したタンパク質が生産されることが明らかとなった。 実施例2の記載から、変異体Kv4.2(delAAACT_N587fsX)チャネルを発現する細胞は電流密度が有意に減少することが明らかとなった。ここで変異体Kv4.2は、C末端側の44アミノ酸を欠くだけでこの表現型を有している。したがって、ヒトKCND2遺伝子に当該ナンセンス以外の変異が起きても、同様に電流密度を有意に減少することが予測される。したがって、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる塩基配列の変異は、特に限定されず、公知のあらゆるアミノ酸配列の変化を生じさせる塩基配列の変異を含む。このため、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる塩基配列の変異は、好ましくはミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、スプライシングサイト形成もしくは欠失、トランケート形成を含み、さらに好ましくは、KCDN2タンパク質の生物学的機能を低下させるか実質的に失わせる変異も含む。 「ミスセンス」とは、遺伝子の翻訳領域内にある塩基配列に変異が生じて、あるアミノ酸に対するコドンが別のアミノ酸に対応するコドンに置き換わることを言う。「ナンセンス」とは、遺伝子上の塩基配列に生じた変異のうち、それまであるアミノ酸に対応していたコドンを終始コドンに変化させ、タンパク質合成を中断、終始させることをいう。「フレームシフト」とは、遺伝子の翻訳領域内にある塩基配列に変異が生じて、DNAに1個または数個(3の倍数は除く)の塩基が付加または欠失することで、遺伝子のリーディングフレームがずれることをいう。「スプライシングサイト形成もしくは欠失」とは、ゲノムDNAに生じた変異のうち、本来イントロンとしてスプライシングにより除去される部位が除去されず、またはエキソンの領域がスプライシングにより誤って除去されることをいう。「トランケート形成とは」とは、遺伝子の翻訳領域内にある塩基配列に変異が生じて、本来生じるはずのタンパク質の一部分が欠如することをいう。 「KCND2タンパク質の生物学的機能」とは、例えば、電位依存型カリウムチャネルとしての機能、即ち、電位依存的に(電気刺激により)カリウムイオンを細胞内から細胞外に出す、機能を意味する。電位依存型カリウムチャネルとしての機能は、例えばKCND2タンパク質の電流密度の値、活性化・不活性化の膜電位依存性等により決定することができる。 電流密度の量、活性化・不活性化の膜電位依存性などは、当業者に公知のいずれの方法、例えばパッチクランプ法により測定してよい。パッチクランプ法は、培養細胞にチャネルタンパク質を発現させ、これに微小電極を当てることにより、細胞膜を流れる電流を測定することができる。好ましくは、実施例2の方法により、達成することができる。 「KCND2タンパク質の生物学的機能を低下させる」とは、KCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化によって、KCND2タンパク質の電位依存型カリウムチャネルとしての機能が低下するこという。例えば、実施例2では、KCND2タンパク質の電流密度の値が、変異を有しない場合と比較して、電位が例えば、0mVの際に約66%(75→25pA/pF)、40mVの際に約70%(190→60pA/pF)減少した(図3)。よって、本発明においてKCND2タンパク質の電流密度の値が、変異を有しない場合と比較して「KCND2タンパク質の生物学的機能を低下する」とは、KCND2タンパク質の電流密度の値が、変異を有しない場合と比較して、好ましくは10%以上、より好ましくは40%、さらに好ましくは60%以上、最も好ましくは70%以上減少することを意味する。 「KCND2タンパク質の生物学的機能を実質的に失わせる」とは、KCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化によって、KCND2タンパク質が電位依存型カリウムチャネルとしての実質的に機能しなくなることを意味する。 「KCDN2タンパク質の生物学的機能を低下させる」および「KCND2タンパク質の生物学的機能を実質的に失わせる」いずれの場合も、ヒトKCDN2遺伝子の塩基配列中に変異が生じることで、変異型タンパク質が発現することを含む。これは、コード領域内に終始コドンが入った結果の短縮型タンパク質を含む。さらには、カリウムチャネルは4分子が会合して、その機能を発揮することが知られているが、この分子会合を妨げるような変異であってもよい。あるいはナンセンス変異依存分解系(nonsense−mediated mRNA decay:NMD)等を介した系によりタンパク質が発現しなくなる場合も含む。 「KCND2タンパク質の電流密度を減少する」とは、KCND2タンパク質が単位時間当たりに通過させることができるカリウムイオンの絶対量が減少することをいう。ここにおいても、変異型タンパク質が発現し1分子当たりの通過イオン量が減少する場合と、塩基配列の変化により細胞に発現するタンパク質の量が減少する場合を含む。 したがって、本発明は、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる塩基配列の変異の結果が、ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、スプライシングサイト形成もしくは欠失、トランケート形成のいずれかである、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法を提供する。さらに本発明は、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異が、ヒトKCND2タンパク質の生物学的機能を低下させるか実質的に失わせる変異である、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法を提供する。 (ii)ヒトのKCND2遺伝子の変異を生じる部位 本発明の方法においては、ヒトKCND2タンパク質の生物学的機能を低下させる、または実質的に失わせる変異は、いずれもてんかんに関連することが予測できる。例えば、実施例2の記載から、KCND2タンパク質のヒトのKCND2タンパク質の電流密度を減少させる変異に着目することができる。したがって、ヒトのKCND2遺伝子の変異を生じる部位は、KCND2遺伝子の塩基配列のいずれの部位でもよい。 非限定的に、以下好ましさが増える順に特定すると:最もC末端側の膜貫通セグメントの直後のアミノ酸をコードするコドンよりも3’側である;587番目のアスパラギンに相当するアミノ酸をコードするコドンであるかあるいはそれよりも3’側である;フィラミンへの相互作用モチーフ、MAP/ERKリン酸化部位、またはPSD95結合ドメイン、から選択される1つまたは複数の部分をコードする領域内に存在するまたは同領域を含む;配列番号2の587番目のアスパラギンに相当するアミノ酸をコードするコドン;そして、配列番号1の2723ないし2727番目に相当する塩基配列のAAACTである。 「最もC末端側の膜貫通セグメントの直後のアミノ酸」とは、6回膜貫通型のタンパク質であるKCND2タンパク質の、6番目の膜貫通領域の最もC末端のアミノ酸の次のアミノ酸をいう。しかしながら、これに限定されることなく、スプライシングバリアントまたはその他の変異などによって膜の貫通領域の数が異なるタンパク質が生成する場合は、周囲の配列などから前記6番目の膜貫通領域の最もC末端のアミノ酸の次のアミノ酸と同等と判断されるアミノ酸を意味する。膜貫通領域の決定は、各アミノ酸のハイドロパシー値を用いたハイドロパシー図の作成により、その分野の通常の知識から推測することができる。ハイドロパシー値とは、ポリペプチド鎖中の連続しているアミノ酸それぞれについて、そのアミノ酸の前後の一定の大きさ(通常は10個程度)の断片から計算される、各アミノ酸の疎水性を表わす生物学的変数である。経験的に、正のハイドロパシー値がおよそ20〜30アミノ酸連続する領域が膜貫通領域と推測される。また、アミノ酸配列から膜貫通領域を予測するソフトウエアやウェブサイトを利用してもよい。 「587番目のアスパラギンに相当するアミノ酸」とは、好ましくは配列番号2のヒトKCND2タンパク質の578番目のアミノ酸であるアスパラギンを指す。スプライシングバリアントまたはその他の変異などによって配列番号2と比べてアミノ酸配列の異なるタンパク質が生成する場合は、周囲の配列などから前記アスパラギンと同等と判断されるのアスパラギンを意味する。 本発明の一態様において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異は、配列番号2の587番目のアスパラギンに相当するアミノ酸からC末端側のアミノ酸配列をすべて欠如させる変異である。 「フィラミンへの相互作用モチーフ」とは、配列番号2の601−604番目のアミノ酸配列PTPPに相当する部分を、「MAP/ERKリン酸化部位」とは、配列番号2の602番目のT、607番目のT、616番目のSに相当するアミノ酸を、そして「PSD95結合ドメイン」とは、配列番号2の627−630番目のアミノ酸配列VSALに相当する部分を言うが、スプライシングバリアントまたはその他の変異などによって配列番号2と比べて一部アミノ酸の異なるタンパク質が生成する場合は、周囲の配列などから各部位と同等の部位を指すという意味である。 本発明の一態様において、ヒトのKCND2遺伝子の変異を生じる部位は、好ましくは、フィラミンへの相互作用モチーフ、MAP/ERKリン酸化部位、またはPSD95結合ドメイン、から選択される1つまたは複数の部分をコードする領域内に存在する、または同領域を含む。より好ましくは上記3つの部位をすべてコードする領域を含む。 「2723ないし2727番目に相当する塩基配列のAAACT」とは、配列番号1の2723ないし2727番目のAAACTを指すが、変異などによって塩基配列が異なる場合は、周囲の配列などから2723ないし2727番目のAAACTと同等と判断される配列を意味する。 さらに本発明の一態様において、本発明は、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法であって、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列またはその発現の制御配列において、ヒトのKCND2遺伝子またはそのタンパク質の発現量に変化を生じさせる変異の存在を検出する、ことを含む、上記方法を提供する。 「KCND2の発現制御配列」とは、開始コドンを含む5’側上流の部分、即ち、ゲノム中の転写または翻訳を制御するための核酸配列を含む部位であって、例えば、転写プロモーター、オペレーター、又はエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位、及び、その他、転写および翻訳の開始を調節する部位を含む領域をいう。 (iii)ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異を検出する手法 本発明においては、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異を検出するための具体的な手法は特に限定されず、塩基配列決定、核酸増幅反応、ハイブリダイゼーション、電気泳動、制限酵素処理のいずれかの手法、あるいはこれらの組み合わせを用いた、ヌクレオチドの差異を検出するための公知の方法を使用することが可能である。例えば、非限定的に、塩基配列の決定、RFLP(制限酵素断片長多型)、プローブを用いた系、SSCP法、などが含まれる。 変異を検出する工程の一方法として、KCND2の塩基配列の配列決定を行うことが可能である。即ち、KCND2遺伝子を、ゲノムDNAを生体試料、例えば、血液、毛、または頬由来の試料から抽出し、PCRなどの適当な手段により増幅し、配列決定することができる。または、生体試料からmRNAを精製し、逆転写により得られたcDNAを基に配列決定してもよい。PCR用のプライマー群は、KCND2遺伝子を含むゲノム配列中の6つのコード領域および境界領域すべてを増幅するように設計する。PCRに用いるDNAポリメラーゼは、増幅反応中に塩基の変異が生じないように複製忠実度の高いものを使用する。配列決定は既知のいずれの方法で行ってよく、好ましくはキャピラリー自動シークエンスシステムで行う。 変異を検出する工程の他の一方法として、RFLP(制限酵素断片長多型)の原理を用いて変異の有無を検出することもできる。即ち、ゲノムDNAにおいて変異があると思われる領域の両端を適切な制限酵素で切断する。その後に、制限酵素処理後のゲノムDNA断片を1本鎖に変性し、変異があると思われる領域に対するプローブを加え、ハイブリダイズし電気泳動することでヌクレオチド長の違いを検出することができる。 変異を検出する工程の他の一方法として、プローブを用いた系で変異の有無を検出することも可能である。即ち、変異DNA断片に特異的にハイブリダイズするプローブのハイブリダイゼーションの有無に基づいて検出することもできる。その場合のプローブは、蛍光標識、放射性標識、酵素標識などの適当な標識により、検出を容易にすることも可能である。また、複数のプローブをDNAチップ上の担体に固定し、核酸チップとして用いることもできる。別の態様においては、プローブはビーズまたはマルチウェルプレート中の担体等に固定化してもよい。 変異を検出する工程の他の一方法として、SSCP(single strand comformation polymorphism)法を用いて変異の有無を検出することもできる。2本鎖DNAを1本鎖に解離すると、各鎖はその塩基配列に依存した特有の高次構造をとる。この解離したDNAを非変性ポリアクリルアミドゲル中で電気泳動すると、それぞれの高次構造の差に応じて、異なる位置に泳動される(SSCP解析)。SSCP法は、この性質を利用して32Pなどの放射性同位体、蛍光標識、または酵素標識などで標識したプライマーを用いたPCR、または反応基質の1つに32P標識ヌクレオチドなどの放射性同位体、蛍光標識、または酵素標識などを用いたPCRで目的の遺伝子断片を増幅し、SSCP解析を行うことで変異の有無を同定できる。 (iv)てんかんの遺伝的素因を有すると判断する工程 実施例2によれば、KCND2遺伝子の塩基配列に変異が生じ、アミノ酸配列に変化を生じさせ、KCND2タンパク質の電流密度を著しく減少させる場合、または活性化・不活性化の膜電位依存性を減少させる場合などは、それによりてんかん症状を起こすことが示唆されている。したがって、本発明のヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法は、好ましくは、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異が存在する場合に、てんかんの遺伝的素因を有すると判断する、工程を含む。 (II)プライマー 本発明は、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の存在を検出するプライマーを提供する。 本発明のプライマーは、抽出した生体試料からの核酸を増幅するために使用することができ、増幅した核酸を、制限酵素処理による多型の検出方法に使用、または直接的シークエンスによる配列決定に使用することができる。 本発明の検出方法の一態様において、特定の部位および/または変異に限定して検出を行う場合、例えば、PCR等による増幅産物の制限酵素断片の長さの相違が多型を生じるので、これを利用した多型検出用マーカーをPCR−RFLP(PCR−retriction fragment length polymorphism)マーカー、またはCAPS(cleaved amplified polymorphic sequences)マーカーを用いて検出することができる(A.Konieczny,F.M.Ausubel,A procedure for mapping Arabidopsis mutations using co−dominant ecotype−specific PCR−based markers,(1993),Plant J.4(2)p.403−410)。したがって、本発明はそのためのプライマーも提供する。 限定されるわけではないが、本発明のプライマーは、増幅される領域が、好ましくは約50塩基ないし約3000塩基、より好ましくは約50塩基ないし約2000塩基、より好ましくは約100塩基ないし約1000塩基の範囲内にある。 本発明では、上記プライマー対を用いて、ヒトのゲノムDNAを鋳型に核酸増幅反応を行う。核酸増幅反応は、複製連鎖反応(PCR)(サイキら、1985,Science 230,p.1350−1354)である。 直接的シークエンスためのプライマー対は、KCND2遺伝子の塩基配列に基づき、公知の方法により作成することが可能である。具体的には、限定されるわけではないが、例えば、転移因子および/またはその隣接領域の塩基配列に基づき、以下の条件: 1)各プライマーの長さが15−30塩基であること; 2)各プライマーの塩基配列中のG+Cの割合が30−70%であること; 3)各プライマーの塩基配列中のA、T、GおよびCの分布が部分的に大きく偏らないこと; 4)プライマー対によって増幅される核酸増幅産物の長さが50−3000塩基、好ましくは100−2000塩基であること;そして 5)各プライマー自身の塩基配列中、又はプライマー同士の塩基配列間に相補的な配列部分が存在しないことを満たすように、KCND2遺伝子の塩基配列と同じ塩基配列若しくはそれに相補的な塩基配列を有する一本鎖DNAを製造し、または、必要であれば、KCND2遺伝子に対する結合特異性を失わないように修飾した上記一本鎖DNAを製造することを含む方法により、プライマー対を作成できる。 本発明の検出方法の一態様において、KCND2における突然変異を、6つのコード領域および境界領域すべてでプライマー対によって増幅し、直接的シークエンスにより配列を決定する。したがって、本発明のプライマーは、KCND2遺伝子の6つのコード領域および境界領域の少なくとも1つの領域の5’側または3’側に対応し、KCND2遺伝子のコード領域を増幅するものをすべて含む。即ち、本発明に使用するプライマーの選択は、各エキソンを挟むイントロン領域または5’側もしくは3’側UTRを選択することにより、各エキソンを増幅、および配列決定することができる。これらの条件を満たせば、プライマーの選択はエキソン−イントロン境界付近のイントロン領域が増幅され、一部配列決定されてもよい。本発明に使用するプライマーセット間の塩基長は、配列決定に用いる場合は、好ましくは800塩基以下、さらに好ましくは600塩基以下である。 したがって、本発明は、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法に使用するプライマーを含む。好ましくは配列番号3〜18で表わされる。 プライマーを用いて特定の領域を増幅する方法は、当業者に既知の方法を用いて行う。即ち、試料から取り出したゲノムDNA試料に、プライマー、dNTP、DNAポリメラーゼ、緩衝液などを加え、試料増幅用の混合液を作る。その混合液を、2本鎖のDNAを解離させる工程、鋳型DNAとプライマーのアニーリング工程、それぞれのプライマーからDNA合成をする工程を含むサイクルを繰り返すサーマルサイクラーのプログラムにより増幅される。2本鎖のDNAを解離させる工程は、90℃〜100℃の温度に数十秒置くことにより容易に2本鎖DNAは1本鎖DNAに解離する。鋳型DNAとプライマーのアニーリング工程の温度は、各プライマー配列ごとの融解温度(Tm)により決定される。融解温度(Tm)とは、オリゴヌクレオチドの50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度をいい、反応条件が融解温度(Tm)より高くなると、鋳型DNAとプライマーのアニーリングが起こりにくくなり増幅効率が減少する。一方、反応条件が融解温度(Tm)より低くなると、プライマーがその相補配列以外の配列ともアニーリングを起こし、増幅したい配列以外の配列も増幅されてしまう。そして、プライマーからDNA合成をする工程はDNAポリメラーゼに適した温度で、増幅したい塩基配列長に応じた時間で反応を行う。例えば、94℃2分を1回、94℃30秒、59℃30秒、72℃60秒のPCRサイクルを30回、最後に72℃5分のインキュベートを行うことで増幅する。 (III)プローブ 本発明は、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の存在を検出するプローブも提供する。プローブはDNAであってもよく、RNAであってもよい。 本発明のプローブの塩基配列は、KCND2遺伝子の各エキソンに対応した配列の全部または一部を有する。この配列を有するならば、各エキソンと連続するイントロン領域または5’側もしくは3’側UTRの配列も、適宜連結していてよい。本発明のプローブの適切な塩基長はいずれの長さでもよいが、好ましくは10から100塩基、さらに好ましくは20から100塩基である。 本発明のプローブの生成方法は、既知のいずれの方法を用いてもよいが、例えば合成プローブ、またはin vitroでの転写による系などを用いてもよい。好ましくは、合成プローブである。 本発明の態様において、本発明のプローブはヒトのKCND2遺伝子またはその断片とのハイブリダイゼーションの確認を容易にする手段、たとえば蛍光ラベル、放射性同位体元素(RI)、およびビオチンなどによる標識を付してもよい。また、本発明のプローブには上記の配列の他のDNA配列を付加してもよく、付加するDNAの配列はヒトのKCND2遺伝子配列とは関連がない、すなわち、該遺伝子との相同性がなくてもよい。 本発明の態様において、プローブは、配列番号1の塩基配列の変異DNA断片にストリンジェントな条件下、例えば、中程度又は高程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能である。 「ストリンジェントな条件下」とは、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度にストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版,第6−7章,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40−50℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。好ましくは中程度にストリンジェントな条件は、約50℃、6×SSCのハイブリダイゼーション条件を含む。高ストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。一般に、こうした条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度および/または低い塩濃度でのハイブリダイゼーション(例えば、約65℃、6×SSCないし0.2×SSC、好ましくは6×SSC、より好ましくは2×SSC、最も好ましくは0.2×SSCのハイブリダイゼーション)および/または洗浄を含み、例えば上記のようなハイブリダイゼーション条件、およびおよそ68℃、0.2×SSC、0.1% SDSの洗浄を伴うと定義される。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の緩衝液では、SSC(1×SSCは、0.15M NaClおよび15mM クエン酸ナトリウムである)にSSPE(1×SSPEは、0.15M NaCl、10mM NaH2PO4、および1.25mM EDTA、pH7.4である)を代用することが可能であり、洗浄はハイブリダイゼーションが完了した後で15分間行う。 (IV)核酸チップ 本発明は、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の存在を検出する核酸チップも提供する。核酸チップは前述のプローブの複数をスライドガラスに固定化してもよい。 本発明の核酸チップは、KCND2遺伝子の各エキソンに対応した配列の全部または一部を有する核酸がガラス等の基盤上に整列することを特徴とする。この各エキソンの配列を有するならば、各エキソンと連続するイントロン領域または5’側もしくは3’側UTRの配列も、適宜連結していてよい。本発明の核酸チップは、基盤上で核酸を合成していく型でも、基盤上に核酸を貼り付けて作成する型でもよい。本発明の核酸チップに使用する核酸の適切な塩基長はいずれの長さでもよいが、好ましくは10から100塩基、さらに好ましくは20から100塩基である。 本発明の核酸チップに使用する核酸の生成方法は、既知のいずれの方法を用いてもよいが、例えば合成核酸、またはin vitroでの転写による系、またはPCRなどによるcDNAなどを用いてもよい。好ましくは、合成核酸である。 核酸チップは当業者に一般的な方法で作成可能であり、例えば「新遺伝子工学ハンドブック 第4版」羊土社、289−294(2003)を参照されたい。具体的には、市販のアレイヤー、例えばAffymetrix417Arrayerなどを用いてアミノシランコートしたガラス基盤上に前述のプローブなどスポットして調製することができる。アレイヤーとは、具体的には、コンピューター制御下でピン先あるいはスライドホルダーをXYZ軸方向に作動し、ガラス基盤の表面上に核酸サンプルを運び、洗浄、乾燥という工程を繰り返す装置をいう。 核酸チップは当業者に一般的な方法で使用可能である。具体例として以下にmRNAサンプルの塩基配列の変異を核酸チップで検出する方法を示す。初めにmRNAサンプルをランダムプライマーと混合し、サーマルサイクラーにセットして、99℃で3分間、70℃で10分間、42℃で10分間インキュベートすることにより、mRNAサンプルとランダムプライマーをアニーリングする。次いで、DTT、緩衝液、dNTPとともに、シアニン5(または3)−dUTPのような検出可能な色素とdNTPの連結体、さらにSuperScript IIIのような逆転写酵素を混合し、プレミックスを作成する。サーマルサイクラーの試料を15℃で5分間保温した後、プレミックスを混合し、42℃で2時間反応して、逆転写反応とともにそれにより生成したcDNAを標識する。mRNAを分解した後に、例えばMicropureEZやMicroconYM−30などの核酸精製用フィルター付き遠心チューブにより、シアニン5(または3)で標識したcDNAサンプルを精製する。次いで、本試料を核酸チップに滴下し、ハイブリダイゼーションチャンバーに入れて密封して、42℃で16〜18時間程度放置する。それから、2×SSC/0.1%SDS溶液、1×SSC、0.2×SSC、ミリQ水で室温中にて洗浄する。核酸チップの水分を、例えば軽く遠心することで取り除き、スキャナーで各スポットのシグナル強度の画像をコンピューターに取込み、適宜変異の有無を解析する。 (V)ヒトてんかんの遺伝的素因を検出するためのキット 本発明は、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出するためのキットを提供する。 本発明のキットは、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異を生じさせる変異を検出するための、プライマー、プローブおよび/または核酸チップを含む。本発明のキットは、さらにヒトゲノムDNA、mRNAの抽出手段、DNAの増幅手段、反応容器、陽性および陰性対照サンプル、説明書、パッケージなどを適宜含んでよい。 (VI)核酸 本発明は、KCND2遺伝子に上述のいずれかの変異を有する核酸を含有する。即ち、この変異とは、好ましくなっていく順に:ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異;ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる塩基配列の変異の結果が、ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、スプライシングサイト形成もしくは欠失、トランケート形成のいずれかである変異;ヒトKCND2タンパク質の生物学的機能を低下させるか実質的に失わせる変異である。 また、変異を生じる部位に関しても、上述のいずれも部位を含む。即ち、「(ii)ヒトのKCND2遺伝子の変異を生じる部位」の項目にあげられたいずれの部位に変異を生じていてもよい。 ここでいう「核酸」とは、DNA、RNA、cDNAの他に合成DNA、合成RNAを含む。さらにはこれらを含むベクターなども本発明の範囲内である。特に言及しない限り、二本鎖、一本鎖のいずれかの態様も含む。二本鎖の場合、本明細書で塩基配列に言及する場合、その相補的な塩基配列も含めて意図する。 (VII)非ヒトノックアウト哺乳動物 本発明は、KCND2遺伝子のDNA領域の一部または全部の改変により、KCND2タンパク質の生物学的機能の一部または全部が不活性化されているヒトてんかんモデル用の、非ヒトノックアウト哺乳動物を提供する。本発明において、ヒトてんかんとKCND2タンパク質の関連が明らかにされたことにより、KCND2遺伝子のDNA領域の一部または全部を改変させた、非ヒトノックアウト哺乳動物の提供が可能となった。 本発明中の非ヒトノックアウト哺乳動物とは、ゲノムDNA中のKCND2が相同組換えなどにより一部または全部が欠失している非ヒト哺乳動物のみならず、KCND2遺伝子の発現をRNAiなどの機構により抑制する、KCND2遺伝子に対する2本鎖RNAを発現するようなトランスジェニック非ヒト哺乳動物も含む。 本発明の非ヒトノックアウト哺乳動物は、非ヒトの哺乳動物であり、好ましくはマウス、ラット、ヤギ、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ等である。取扱いが容易で、実験系が確立しているマウスが最も好ましい。また、本発明のノックアアウト哺乳動物は成体のみならず、ES細胞、受精卵、8細胞期から胚盤胞形成そして出生直前までの胚、卵、精子、組織・器官培養物、キメラ動物等の全ての態様を含む。これらは、保存のため、必要に応じ冷凍された状態であってもよい。 以下にノックアウトマウスの作成法を示す。 1)ターゲティングベクターの作成 ターゲティングベクターは、KCND2遺伝子のゲノムDNA領域の一部または全部を相同組換えするために使用する。したがって、本発明のノックアウトマウス作成のためのターゲティングベクターは、マウスゲノムDNA中において、KCND2遺伝子の5’および3’側の配列を有し、KCND2遺伝子のエキソン領域の全部または一部が欠損する形で構築される。また、同時に、後の工程において行わなければならない相同組換え体のスクリーニングを、より容易に行うことができるようにポジティブ選別、ネガティブ選別等の選別用の遺伝子を適切に導入する。このターゲティングベクターにより、KCND2遺伝子の5’および3’側により相同組換えが誘発され、改変KCND2遺伝子遺伝子とともにゲノムDNA中に組み込まれうる。 ポジティブ選別とは、ターゲティングベクターが染色体に導入された胚性幹細胞のみを選別することを意味する。一般に形質転換に用いられるエレクトロポレーション法により、導入した遺伝子DNAが染色体に組み込まれる確率は、103−104個の細胞に1個程度の頻度であるため、遺伝子DNAが導入された細胞のみを選び出すための配列(ポジティブ選別)をまず考えなければならない。 ポジティブ選別用マーカー遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子(G418によって選別)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(BPH)遺伝子(ハイグロマイシン−Bによって選別)、ブラスティシジンSデアミナーゼ遺伝子(ブラスティシジンSによって選別)、ピューロマイシン耐性遺伝子(ピューロマイシンによって選別)等が使用可能である。ネオマイシン耐性遺伝子が最も好ましい。 ネガティブ選別とは、非相同組換えを生じた胚性幹細胞を選択的に除くことを意味する。これは、特に対象とする遺伝子がES細胞で発現していないか、発現量が低い場合に、利用しうる。相同組換えは相同領域で生じるが、非相同組換えは多く直線化した導入DNAの両末端で生じる。ネガティブ選別は導入DNAの一端に、これが組み込まれると細胞に毒性を持つ遺伝子を付加することによって行う。ネガティブ選別としては、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント(DT−A)遺伝子を用いる方法等が知られている。細胞内在性のチミジンキナーゼ(TK)に比し、HSV由来のTKは、より高率にFIAU、ガンサイクロビアなどの核酸類似体をリン酸化する。tk選別は、非相同組換えでHSVtk遺伝子が導入されるとFIAUなどを加えた場合、これがリン酸化されて染色体DNA中に取り込まれDNA合成が阻害されることを利用したものである。DT−Aは、細胞内で伸長因子IIをpolyADPリボシル化してタンパク質合成を阻害する。ES細胞で高い発現活性を有するプロモーターと連結したDT−A遺伝子を用いれば、非相同組換えでこれが染色体に組み込まれた細胞は死滅すると期待される。翻訳レベルの選別で、選択剤を必要としない、という利点を有する。 2)ターゲッティングベクターによる相同組換え 上記の方法により作製したターゲティングベクターを使用して、相同組換えを行う。現在確立されている遺伝子ターゲティング法では、ES細胞を使用する系が望ましい。現時点では、ヒト、ミンク、ハムスター、ブタ、ウシ、マーモセット、アカゲザル等の複数の哺乳動物でES細胞が樹立されている。将来さらに多種の動物で同様なES細胞が樹立されれば、同様な方法を用いて遺伝子改変動物を作製することができる。 遺伝子改変マウス作製用のES細胞株は、公知のマニュアルを使用して自己で作製してもよいが、既存の樹立されたES細胞株が入手可能であり、好ましい。現在使用することができるマウス由来のES細胞は、TT2細胞、AB−1細胞、などがある。所期のES細胞株は必要に応じ、各々特定の研究機関より入手可能である。 作成したKCND2遺伝子のゲノムDNA領域の一部又は全部を改変したターゲティングベクターをES細胞中に導入する。相同組換えは、KCND2遺伝子のゲノムDNA配列と、ターゲティングベクター中の非改変部分の配列との相同性を利用して生じさせることができる。ターゲティングベクターをES細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法など公知の方法を使用することができる。 3)相同組換え体のスクリーニング 得られた組換えES細胞を、ネオマイシン耐性のフィーダー細胞上にプレーティングする。そしてES培養液中で、相同組換えによってES細胞に導入されたポジティブ選別用マーカー及び/又はネガティブ選別用マーカーにより、スクリーニングである選択培養を行う。即ち、培養液中には、選択マーカー遺伝子の種類に依存して、たとえばネオマイシンなどが含まれている。選択培養6−8日目に生存するコロニーを耐性クローンとして採取する。また、相同組換えを起こした形質転換体を確実に選択するために、PCR法、サザンブロットハイブリダイゼーション法などにより相同組換えの有無を適宜確認する。 4)KCND2遺伝子改変動物の作成 次いで、相同組換えの結果得られた組換えES細胞を、8細胞期または胚盤胞の胚内に移植する。このES細胞移植胚を偽妊娠仮親の子宮内に移植して出産させることによりキメラ動物を作製することができる。 ES細胞を胚内に移植する方法は、たとえばマイクロインジェクション法、アグリゲーション(凝集)法などが知られておりいずれを用いてもよい。マウスの場合、まず、ホルモン剤(たとえば、FSH様作用を有するPMSGおよびLH作用を有するhCGを使用)により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させる。その後、8細胞期胚を用いる場合には受精から2.5日目に、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目に、それぞれ子宮から初期発生胚を回収する。このように回収した胚に対して、ターゲティングベクターを用いて相同組換えを行ったES細胞をin vitroにおいて注入し、キメラ胚を作製する。 一方、仮親にするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上述の方法により作成したキメラ胚を子宮内移植し、妊娠・出産させることによりキメラ動物を作製することができる。キメラ胚の着床、妊娠がより確実に起こるようにするために、受精卵を採取する雌マウスと仮親になる偽妊娠マウスとを、同一の性周期にある雌マウス群から作出することが望ましい。 このようなキメラマウスの中から、ES細胞移植胚由来の雄マウスを選択する。選択したES細胞移植胚由来のオスのキメラマウスが成熟した後、このマウスを純系マウス系統の雌マウスと交配させ、そして次世代産仔にES細胞由来の被毛色が現れることにより、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認することができる。ES細胞が生殖系列へ導入されたことを確認するためには、様々な形質を指標として用いることができるが、確認の容易さを考慮して、被毛色により行うことが望ましい。このように、胚内に移植された組換えES細胞が生殖系列に導入された動物を選択し、そのキメラ動物を繁殖することにより目的とする遺伝子を欠損する個体を得ることができる。これにより得られたKCND2遺伝子ヘテロ欠失マウス同士を掛け合わせることによって、KCND2欠失ホモ接合体マウスを得ることができる。遺伝的背景の単一性の観点から、できるだけ戻し交配の回数を経たものがノックアウトマウスとしては好ましい。 (VIII)てんかんを遺伝子治療する方法 本発明の発見により、ヒトのてんかんを遺伝子治療により克服することができる。遺伝子治療とは、遺伝的素因が病気の発症原因となっている場合に、特定の遺伝子クローンを患者の体細胞に導入し、導入された遺伝子が機能を発揮することによって治療する方法である。患者の幹細胞、リンパ球や骨髄細胞などをいったん体外に取り出して遺伝子クローンを導入した後、患者の体内に戻すex vivo法と、患者の病変組織へ遺伝子クローンを直接導入するin vivo法とがある。in vivo法は安全性に問題が残るため、ex vivo法が一般的であるが、いずれの方法によっても良い。 以下にex vivo法による遺伝子治療の方法を述べる。 KCND2遺伝子は、脳内におけるA型外向きカリウム電流を仲介する電位依存型カリウムチャネルKv4.2をコードする。したがって、本発明の遺伝子治療に用いられる細胞は神経に分化可能な幹細胞であり、例えば神経幹細胞などが適当である。神経幹細胞は、幹細胞の特徴である、増殖能、自己複製能、多分化能、組織修復能を有し、発生期から生体において、一生を通じて存在することが明らかとなっている。これまでに神経幹細胞は、海馬の歯状回の顆粒細胞層下部や前脳の脳室下帯などに存在すると考えられ、これらの領域から分離することが可能である。 神経幹細胞を分離する方法としては、これまでにいくつかの方法が確立している。例えば、表面抗原に対する抗体を用いて神経幹細胞を回収するという方法である。コレラ毒素Bサブユニット(ChTx)、破傷風毒素フラグメントC(TnTx)、A2B5などの抗体の組み合わせで神経幹細胞が分離できる。 分離された神経幹細胞は、EGFやFGF−2を添加することにより、細胞増殖を引き起こし、さらに様々な因子を投与することにより分化誘導することも可能である。したがって1個の神経幹細胞から多量の神経幹細胞を確保することができ、これらの細胞は患者から分離したものであるため、免疫応答を引き起こすことなく自家移植が可能である。 神経幹細胞への遺伝子の導入方法は、ウイルスベクター(レトロウイルスまたはレンチウイルスなど)を用いる方法、化学的な、例えばリポフェクションによる方法、あるいは物理的な、例えばエレクトロポレーションによる方法のいずれの方法も使用可能である。本発明においては、これらの遺伝子導入方法を用いて、変異を有さないKCND2遺伝子を発現するように導入する。安定的にKCND2遺伝子が導入された神経幹細胞を、適切な神経分化誘導因子で誘導することにより神経細胞に分化することができ、あるいは分化させないままで脳内に移植することで、正常なKCND2遺伝子を有する神経の存在によりてんかんを治療できることが期待される。 したがって、本発明は、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の存在が検出された患者に、変異のないKCND2を発現するように遺伝子治療する方法も含む。 本発明により、初めて、てんかんとKCND2遺伝子の変異の関係が明らかとなった。本発明から、65人の患者で4パターンの変異が発見された(実施例1)。このことから、今後新たなてんかんとKCND2遺伝子の変異の関係が明らかになると期待される。また、てんかん患者の発症原因を的確に同定することができ、臨床治療への有意義な情報を提供する。 以下、実施例によって本発明を説明するが、実施例は例証のためのものであり、本発明を制限するものではない。本発明の範囲は、請求の範囲の記載に基づいて判断される。さらに、当業者は本明細書の記載に基づいて、容易に修正、変更を加えることが可能である。 実施例1 側頭葉てんかん患者のKCND2遺伝子の変異解析 発端者および突然変異解析 発明者らは、日本人家系の65人の親族でない、側頭葉てんかん(TLE)と診断された個人のKCND2における突然変異を、6つのコード領域および境界領域すべてを直接的シークエンスによりスクリーニングした。ゲノムDNAは、ヘパリン処理された血液試料からQIAamp DNA Blood Mini Kit(Qiagen)を使用して、そして毛および頬の試料はISOHAIR Kit(Nippon Gene)を使用して抽出した。すべてのゲノムDNA試料は初めPCRにより増幅し、そしてPCR産物はABI3700キャピラリー自動シークエンスシステム(PE Applied Biosystems)を利用して直接的シークエンスにより解析した。 ゲノムDNAの増幅に用いられたプライマーは、配列番号3〜18であり、それぞれのプライマーセットはKCND2遺伝子のcDNA(配列番号1)の各領域を増幅する。即ち、配列番号3と配列番号4のプライマーセットは配列番号1の843〜1388(第1エキソンの一部)を、配列番号5と配列番号6のプライマーセットは配列番号1の1138〜1699(第1エキソンの一部)を、配列番号7と配列番号8のプライマーセットは配列番号1の1648〜2080(第1エキソンの一部)を、配列番号9と配列番号10のプライマーセットは配列番号1の2081〜2243(第2エキソン)を、配列番号11と配列番号12のプライマーセットは配列番号1の2244〜2339(第3エキソン)を、配列番号13と配列番号14のプライマーセットは配列番号1の2340〜2432(第4エキソン)を、配列番号15と配列番号16のプライマーセットは配列番号1の2433〜2680(第5エキソン)を、配列番号17と配列番号18のプライマーセットは配列番号1の2681〜2976(第6エキソン)を、それぞれ増幅する。ただし、配列番号6〜15はKCND2遺伝子のイントロン領域に相補する配列であるため、イントロン領域の一部もともに増幅される。 PCR反応のために、Pwo(Roche)、Pyrobest(Takara)、およびBlend Taq Plus(Toyobo)DNAポリメラーゼシステムを、製品の説明書に従って使用した。65人のTLE患者すべては、日本、静岡県、静岡てんかん・神経医療センターで、疾患の確立した臨床基準を満たし、そして診断され、そして治療された。インフォームドコンセントを、本発明で試験したすべての個人から得た。 結果 65人の日本人TLE患者の発明者らのプールにおいて、計4つの異なったヌクレオチド変化が同定された。 5塩基対の欠失が早まったストップコドンを生じるフレームシフトを作り出すヘテロ接合体c.2723_2727delAAACT突然変異である、これらのうち1人が、アミノ酸変化(N587fsX)を含むと予想される。この突然変異タンパク質で欠失される44カルボキシル末端アミノ酸は、フィラミンへの相互作用モチーフ、アミノ酸601−604(PTPP);3MAP/ERKリン酸化部位、アミノ酸T602、T607、S616;およびPSD95結合ドメイン、アミノ酸627−630(VSAL)を含む。該発端者の無症候性の父親からのリンパ球とともに毛および頬の標本試料からのDNAは、直接的シークエンスにより検査され、ヘテロ接合体c.2723_2727delAAACT突然変異を表わした(図2)。 ヘテロ接合体非コード領域SNP、IVS3+40T>C、は2人のTLE患者で発見されたが、親族でない健康な個人から得た224人の染色体のプール中に存在しなかった。ヘテロ接合体コード領域サイレント突然変異、c.756 C>T(C252C)、は唯一のTLE患者で発見され、そして1人の親族でない健康な個人でも発見された。c.756 C>T(C252C)およびIVS3+40T>Cの両方とも、NCBIまたは日本のSNPデータベースのいずれかにリストアップされていなかった。 他のヘテロ接合体非コード領域SNP、IVS3+68T>C、はNCBI refSNP ID:rs7795370としてNCBIデータベースにリストアップされる。 これらのデータは、NCBI SNPデータベースとの関連で見られるとき重要性を持ち、このデータベースはKCND2遺伝子のおよそ1000のSNPsをリストアップし、このKCND2遺伝子は唯一のサイレント突然変異がコード領域内にある。 即ち、c.2723_2727delAAACT突然変異は、KCND2タンパク質にアミノ酸変化として現れたために、てんかんと直接的に関わることが示唆される。一方、そのほか3つの変異(c.756 C>T(C252C)、IVS3+40T>C、IVS3+68T>C)は、いずれもKCND2のアミノ酸変化に現れる変異ではなく、また健常人でも発見されることから、いずれも疾患との関わりは薄いことが考えられる。 実施例2 パッチクランプ 2−A 野生型および突然変異KCND2発現ベクターの構築 野生型ヒトKCND2のcDNAは、SuperScript III 逆転写酵素(Invitrogen)を使用して、正常ヒトトータル脳ポリ(A)RNA(Clontech)から合成した。次いで、結果得られたcDNAを、BglII部位を含有する5’オリゴヌクレオチドプライマーおよびEcoRI部位を含有する3’プライマーを使用して、PCRにより増幅した。結果得られた増幅物(amplicon)を、初めにpBluntII−TOPO(Invitrogen)に挿入し、そして次いで、pIRES2−EGFP(Clontech)のBglII部位およびEcoRI部位の間にサブクローニングした。突然変異ベクターを、QuikChange Site−Directed Mutagenesis キット(Stratagene)を使用して、野生型ベクターから生成した。すべての構築物はシークエンスにより確認した。 2−B 細胞培養およびトランスフェクション HEK293細胞を、10%(v/v)の熱非動化ウシ胎児血清、ペニシリン(100U/mL)、およびストレプトマイシン(100mg/mL)で補ったダルベッコ変法イーグル培地中で生育し、そして37℃で、加湿した5%のCO2インキュベーターで維持した。細胞全体のパッチクランプのために、初めにHEK293細胞を、ポリリジンでコートした6ウェルディッシュにまき、そして次いで製品の説明書に従って、Fugene6(Roche)を使用して、1μgのpKCND2−IRES2−EGFPおよび/またはpKCND2(N587fsX)−IRES2−EGFPで、翌日にトランスフェクトした。パッチクランプ解析のために、HEK293細胞を、トランスフェクションの24時間後、ポリリジンでコートしたカバースリップ(Sumitomo Bakelite Co.,日本、東京)の上にまいた。 2−C パッチクランプ解析 倒立顕微鏡(IX70、Olympus,日本、東京)を使用して、GFP陽性のトランスフェクトされたHEK293細胞を、電気的記録のために選択した。スペースクランプの問題を最小限にするために、融合細胞(syncytia)のGFP陽性細胞は考慮に入れず、そして強い蛍光の細胞のみを選択した。外部の溶液はNaOHでpH7.4に調節し、そして以下を(mM)で含有する:NaCl、135;KCl、4.0;CaCl2、1.0;MgCl2、2.0;グルコース、10;およびHepes,10。ピペット電極は、ホウケイ酸ガラスキャピラリーチューブ(内径0.8−1.0mm、Hilgenberg GmbH、ドイツ、マルスフォード)から、多工程水平プラー(P−97、Sutter Instrument Co.カナダ、ノボト)を使用して作成した。ピペット溶液はKOHでpH7.2に調節し、そして以下からなる(mM):KCl、135;MgCl2、1.0;EGTA、10;グルコース、5.0;およびHEPES、10。内部ピペット溶液で満たしたとき、ピペット抵抗は1.0−3.5MΩであった。一角(very tip)を除いて、ピペットの外壁は、浮遊容量を減少するため歯科用ワックスでコートした(GC Corporation、日本、東京)。参照電極は、150mM NaClで満たされた寒天橋を使用した槽につながった、壁内のAg−AgClペレットであった。電流は、Axopatch 200B 増幅器(Axon Instruments、カナダ、バーリンゲーム)を使用して記録した。電流シグナルおよび電圧シグナルは、10kHzの周波数でカットするlow−pass Bessel filterを使用してフィルターをかけ、V450JS2(Iiyama、日本、名古屋)のハードディスクに保存した;“pclamp8.0”ソフトウエアを終始使用した(Axon Instruments、カナダ、バーリンゲーム)。すべてのパルスプロトコルの値を、コンピューターでプログラムした。細胞の電気容量を、“pclamp8.0”ソフトウエアを使用して計算した。容量性の電流および直列抵抗を、電気的に補った。すべての実験を、室温(22℃)で行った。電流密度の比較のため、K+過渡電流のピーク振幅を計測し、総細胞電気容量に対して標準化した。 細胞全体の設定を導入した後、保持電流(holding current)が<200pAのときに、記録を始めた;これは日常的に5分間の細胞内潅流を必要とした。図4は、K+過渡電流(transient K+ current)が野生型Kv4.2チャネルの細胞で、−80mVの保持電位から脱分極電圧ステップ(−70から70mV)により引き出されることを示した。K+過渡電流は25ms以内にピークに達し、そして次第に不活性化した。外因性のK+過渡電流は、トランスフェクトされないHEK293細胞でK+過渡電流が存在しないことにより確認された。delAAACT_N587fsX突然変異チャネルを発現する細胞において、同様のK+過渡電流が観察され(データは示さない)、そして突然変異チャネルの表面の発現レベルもまた野生型チャネルレベルと同様であった(データは示さない)。また、保持電位の−80mVでは、いずれをトランスフェクトした細胞でも、K+過渡電流は観察されなかった。しかしながら、delAAACT_N587fsXチャネルの細胞により表わされた電流密度は、野生型チャネルを持つ細胞の電流密度よりも有意に低かった。具体的には、KCND2タンパク質の電流密度の値が、変異を有しない場合と比較して、電位が例えば、0mVの際に約66%(75→25pA/pF)、40mVの際に約70%(190→60pA/pF)減少した(図3)。野生型チャネルおよびdelAAACT_N587fsXチャネルの両方を発現する細胞において、電流密度は野生型チャネルまたは突然変異チャネルのどちらかで記録された値の間に収まった(図3)。 実施例3 KCND2一部切除突然変異の発端者 発端者 c.2723_2727delAAACT(N587fsX)突然変異を持つ31歳女性の発端者は、13歳に始まった医学的に難治性な発作の複雑な病歴を有する。前兆はなく、彼女の発作の型はけいれん発作(convulsion)および口の自動症を伴う複雑な部分発作から、全身けいれん(spasm)に続く静止した凝視および口の自動症の範囲に及んだ。バルプロエート(valproate)療法およびカルバマゼピン(carbamazepine)療法で非常に限られた発作調節しか観察されないように、てんかんは顕著に薬剤耐性がある。発作の完全な休止は、立て続けの2回の外科的治療行為の後、28歳の時にはじめて達成された。 標準EEG(脳波図)解析は、てんかん発作性の放電が左前方側頭領域から右側へ広がることを示した。これらの研究および脳磁図(magnetencephalography)法を使用した他の機能的研究は、左側頭領域がてんかん発生に関わるとするが、神経イメージングデータは注目に値するものではなかった。従って、進入性(invasive)頭蓋内のEEG評価は、変則の放電活性の源として左中央基底(mesio−basal)側頭領域の地図を描くために使用した。実際に、11の記録された発作すべては、左中央基底側頭領域で始まった。 これらの所見は、27歳の時の、扁桃体および海馬は切除するが側頭新皮質には触れない選択的左扁桃対−海馬切除(amygdalo−hippocampectomy)によっててんかん発生組織を切除するための最初の試みを容易にした。不幸なことに、解決困難な発作が手術後6か月に再発し、それはてんかん発作性活性を最終的に根絶するために第二のより大規模な外科的医療行為、即ち左前方側頭葉切除(left anterior temporal lobectomy)を必要とした。 考察 近心(mesial)TLE(mTLE)は、ヒトてんかんの最も一般的な型としてしばしば引用され、そしててんかん患者で単一の最も頻繁に遭遇するてんかん発生障害因子である海馬硬化症とほとんど不変に同時に生じる(非特許文献5)。放電が中央基底構造から生じる電気診断的発見とともに、発端者により表わされる臨床上の徴候がmTLEの診断と一致するが、発端者から切除した組織において明白な病変は明らかでなかった。これは逆説的であるように思われるが、家族性mTLEで無症候性の一等親血縁者におけるそのような異常な特性の発見により認められたように(非特許文献6)、海馬の萎縮は直接的に明白なてんかん症状に関係はない。それにもかかわらず、患者の左前方側頭葉切除後3年間発作なしのままであるという外科的に治療できる成果が、てんかん発生に重要で、切除された組織内に生来の、基礎を成すある病理を示す。 発端者の無症候性の父親は、リンパ球のゲノムDNAにヘテロのN587fsX突然変異も有していた。ほとんどのてんかんは遺伝の複雑な形態を有し、そしてこれはおそらく、今では発生的要因、環境的要因、および遺伝的要因の多因子性の病因を有すると信じられている(非特許文献5)、TLEについても当てはまるであろう。多くの変異因子の相互作用がしばしば不完全な浸透度に至り、そしてこのことが発端者の無症候性の父親のN587fsX突然変異の発見の説明になるかもしれない。同様に、父親と発端者の間の表現型の食い違いは、表現度の差異、即ち、父親はより重大でなく、臨床診断を逃れることができた表現型の形を有することができたことの指標になるかもしれない。このようなばらつきは、突然変異mRNA対正常mRNAの発現レベルが、表現型に影響されたまたはされない個人で異なって調節されることによる、対立遺伝子不均衡からしばしば生じる。重要なことに、対立遺伝子不均衡は少なくとも1つのチャネル病(channelopathy)について記載され(非特許文献7)、そしてここにおいて役割を果たしているかもしれない。他の可能性はモザイク現象(mosaicism)、即ち父親のN587fsX突然変異はある細胞系列に限られるのかもしれないことを含む。ヘテロの、早まったストップコドン(TGA)を生じるフレームシフトを起こすKCND2の5塩基対欠失、c.2723_2727delAAACT、はTLEの発端者で同定された。無症候性の父親もまた、この突然変異のヘテロであった。アミノ酸587−630を欠く一部切除Kv4.2タンパク質を産生することが予想された、N587fsXアミノ酸変化に対応する5塩基欠失。電位依存型カリウムチャネル電流を、野生型ヒトKv4.2チャネルのみ(WT)、WT及び突然変異Kv4.2(WT+delAAACT_N587fsX)チャネル、並びに突然変異Kv4.2チャネルのみ(delAAACT_N587fsX)を発現するHEK293から記録した。HEK293細胞におけるK+電流の電流−電圧の関係。突然変異Kv4.2タンパク質のみを発現する細胞は、WTチャネルでの細胞に比べて有意に(p=1.49x10−5)低い電流密度を示す。データの要点は、プールされたデータの平均電流密度を表わす。WTチャネルの電位依存型カリウム過渡電流。電流を、−80mVの保持電流から脱分極工程(−70mVから70mV、により引き起こした。パルスインターバル15秒)により引き起こした。 ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法であって、 ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の存在を検出することを含む、上記方法。 ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列が、配列番号1で表わされる請求項1の方法。 ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる塩基配列の変異の結果が、ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、スプライシングサイト形成もしくは欠失、トランケート形成のいずれが生じる、請求項1または2の方法。 ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異が、ヒトKCND2タンパク質の生物学的機能を低下させるか実質的に失わせる変異である、請求項1ないし3のいずれか1つの方法。 ヒトのKCND2遺伝子の変異を生じる部位が、最もC末端側の膜貫通セグメントの直後のアミノ酸をコードするコドンよりも3’側である、請求項1ないし4のいずれか1つの方法。 ヒトのKCND2遺伝子の変異を生じる部位が、配列番号2の587番目のアスパラギンに相当するアミノ酸をコードするコドンであるか、あるいはそれよりも3’側である、請求項1ないし5のいずれか1つの方法。 ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異が、配列番号2の587番目のアスパラギンに相当するアミノ酸からC末端側のアミノ酸配列をすべて欠如させる変異である、請求項1ないし6のいずれか1つの方法。 ヒトのKCND2遺伝子の変異を生じる部位が、フィラミンへの相互作用モチーフ、MAP/ERKリン酸化部位、またはPSD95結合ドメイン、から選択される1つまたは複数の部分をコードする領域内に存在するまたは同領域を含む、請求項1ないし7のいずれか1つの方法。 ヒトのKCND2遺伝子の変異を生じる部位が、配列番号2の587番目のアスパラギンに相当するアミノ酸をコードするコドンである、請求項1ないし8のいずれか1つの方法。 ヒトのKCND2遺伝子の変異を生じる部位が、配列番号1の2723ないし2727番目に相当する塩基配列のAAACTである、請求項1ないし9のいずれか1つの方法。 ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異が、配列番号1の2723ないし2727番目に相当する塩基配列のAAACTが欠失する変異である、請求項10の方法。 ヒトてんかんが、症候性てんかん群に含まれるてんかんである、請求項1ないし11のいずれか1つの方法。 ヒトてんかんが、側頭葉てんかんである、請求項12の方法。 ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異を検出する工程が、塩基配列決定、核酸増幅反応、ハイブリダイゼーション、電気泳動、制限酵素処理のいずれかの手法、あるいはこれらの組み合わせを用いて行われる、請求項1ないし13のいずれか1つの方法。 ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異を検出する工程が、血液、毛、または頬由来の試料中のゲノムDNAの塩基配列を調べることを含む、請求項1ないし14のいずれか1つの方法。 ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異が存在する場合に、てんかんの遺伝的素因を有すると判断することをさらに含む、請求項1ないし15のいずれか1つの方法。 請求項1ないし16のいずれか1つの方法に使用するための、プライマー。 請求項1ないし16のいずれか1つの方法に使用するための、プローブ。 請求項1ないし16のいずれか1つの方法に使用するための、核酸チップ。 ヒトてんかんの遺伝的素因を検出するためのキットであって、 ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異を生じさせる変異を検出するための、プライマー、プローブおよび/または核酸チップを含む前記キット。 ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異を有する、核酸。 KCND2遺伝子のDNA領域の一部または全部の改変により、KCND2タンパク質の生物学的機能の一部または全部が不活性化されているヒトてんかんモデル用の、非ヒトノックアウト哺乳動物。 ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法であって、 ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列またはその発現の制御配列において、ヒトのKCND2遺伝子またはそのタンパク質の発現量に変化を生じさせる変異の存在を検出することを含む、上記方法。 【課題】 本発明は、ヒトてんかんの遺伝的素因を検出する方法を提供することを目的とする。【解決手段】 本発明の方法は、ヒトのKCND2遺伝子の塩基配列において、ヒトのKCND2タンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる変異の存在を検出することを含む。【選択図】 なし配列表


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