生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_セルトリ細胞様細胞株
出願番号:2005318846
年次:2007
IPC分類:C12Q 1/02,C12N 5/06,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

佐藤 陽子 岩本 晃明 JP 2007124923 公開特許公報(A) 20070524 2005318846 20051101 セルトリ細胞様細胞株 学校法人 聖マリアンナ医科大学 596165589 清水 初志 100102978 新見 浩一 100128048 佐藤 陽子 岩本 晃明 C12Q 1/02 20060101AFI20070420BHJP C12N 5/06 20060101ALI20070420BHJP C12N 15/09 20060101ALN20070420BHJP JPC12Q1/02C12N5/00 EC12N15/00 A 14 OL 26 特許法第30条第1項適用申請有り 2005年5月 日本発生生物学会第38回大会準備委員会発行の「日本発生生物学会第38回大会 発表要旨集」に発表 4B024 4B063 4B065 4B024AA01 4B024AA11 4B024BA21 4B024BA63 4B024CA05 4B024CA09 4B024DA02 4B024HA12 4B063QA01 4B063QA19 4B063QQ08 4B063QQ53 4B063QQ79 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR55 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS34 4B065AA90 4B065AC14 4B065BA22 4B065CA24 4B065CA44 4B065CA46 本発明は、セルトリ細胞様の機能を有する細胞株およびその製造方法に関する。 男性不妊の主たる原因として精子形成障害がある。精細管内での74日間の精子形成の機序が不明のために、乏精子症、無精子症に至る過程が明らかにされていない。従って創薬の開発につながっていない。自然の夫婦生活による妊娠、出産を不妊カップルは望んでおり、精子形成機序の解明が待たれている。 精巣は精子を形成する器官であり、精巣には、将来精子に分化する精細胞の他、セルトリ細胞、ライディヒ細胞等が存在する。本来の精子形成過程は、精巣内で様々な細胞間の相互関係の上に成り立っていると考えられている。精子形成過程をin vitroで精巣内に近い条件下で再現するためには、精巣における各種細胞の純粋な細胞集団を単離し、相互関係を調べることが重要である。 近年、マウスより精原細胞由来の細胞株がクローニングされ、マウスでは精原細胞から円形精子細胞までの精子形成過程をin vitroで再現することが可能になった。しかし、完全な精子形成を再現できるin vitroの実験系は未だ知られていない。精巣内の総ての細胞について細胞株が樹立されているわけではなく、また、既存の確立された細胞株では、精巣内のオリジナルな同種の細胞に比べ、その機能は一部に限られている。また、初代培養細胞では細胞の性質の変化が起こりやすいため実験に適していない。本来の機能をなるべく多く維持した細胞株を総ての細胞種に対して樹立することが、精子形成機序の解明につながるものと期待される。 セルトリ細胞(Sertoli cell)は、精細胞の支持細胞であり、精細胞の分化に深く関与する細胞である。精子形成過程の解明の点で、本来の機能をなるべく多く維持した細胞種樹立が最も待たれる細胞の一つである。これまでにも、セルトリ細胞の細胞株の報告があり、また市販されているものもあるが、いずれの細胞株も本来のセルトリ細胞を十分に再現しているとはいえない。例えば、TM4(ATCCから入手可)はBALB/C-nu/+未成熟マウス由来の細胞株であるが、α-インヒビンやトランスフェリン等のセルトリ細胞分泌物質を分泌しない、等の点で野生型細胞と異なる(非特許文献1)。また、15P-1(ATCCから入手可)は不死化遺伝子を導入したトランスジェニックマウス由来の細胞株であり、セルトリ細胞において本来発現するFSH受容体を産生しない等の点で野生型細胞と異なるほか、精子形成に関与するのは精子形成中期及び後期の一部のみであり、精子形成過程全体に関与できない(非特許文献2)。このほかにも、MSC-1(非特許文献3)、SK49,SK11(未成熟精巣由来)(非特許文献4)、SF7(未成熟精巣由来)(非特許文献5)、G5(未成熟精巣由来)(非特許文献6)、TTE3(非特許文献7)の報告があるが、不死化遺伝子のトランスジェニックまたはトランスフェクションを行ったマウスまたはマウス細胞由来であり、セルトリ細胞の機能の一部を示すのみに留まっている。Establishment and characterization of two distinct mouse testicular epithelial cell lines. Maher J.P. et al. Biology of Reproduction (1980) vol. 23, 243-252Expression in transgenic mice of the large T antigen of polyomavirus induces Sertoli cell tumours and allows the establishment of differentiated cell lines. Paquis-Flucklinger V. et al. Oncogene (1993) vol 8., 2087-94.Directed expression of an oncogene to Sertoli cells in transgenic mice using Mullerian inhibiting substance regulatory sequences. Peschon JJ et al. Mol Endocrinol. (1992) vol 6, 1403-1411.Sertoli cell lines established from H-2Kb-tsA58 Transgenic Mice differentially regulate the expression of cell specific genes. Walther N. et al. Experimental Cell Research. (1996) Vol 225, 411-421.Immortalization of germ cells and somatic testicular cells using the SV40 large T antigen. Hoffman MC et al. Experimental Cell Research. (1992) Vol 201, 417-435.Establishment and characterization of neonatal mouse Sertoli cell lines. Hoffman MC. et al. Journal of Andrology, (2003) Vol 24, 120-130Developmemt of the conditionally immortalized testicular sertoli cell line TTE3 expressingg sertoli cell specific genes from mice transgenic for temperature sensitive simian virus 40 large T antigen gene. Tabuchi Y. et al. The Journal of Urology. (2002) Vol 167, 1538-1545 本発明は、上述の状況に鑑みてなされるものであり、本発明が解決しようとする課題は、野生型の成熟したセルトリ細胞の多くの機能を維持した、セルトリ細胞株及びその製造方法の提供である。成熟したセルトリ細胞は通常すでに分化しているため、増殖能力を持たせることが難しい。 上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意努力を重ねた。まず、マウス精巣から接着性を示す初代細胞培養株を単離し、その中から飢餓状態を与えることにより、増殖能を持つ株のみを選抜した。選抜した増殖能を持つ株について、貪食能、形態および分裂状態、染色体数、アンドロゲン受容体およびプロゲステロン受容体の発現について観察し、セルトリ細胞の性質を示す株を最終的に12クローン選抜した。これら12クローンについて、精巣で発現する遺伝子の発現について検討、調査したところ、いずれも精細胞の分化・維持に重要な役割を果たす複数の遺伝子及び生殖巣の分化に必要とされる遺伝子を発現していた。上記細胞株が既知のセルトリ細胞株と比べより成熟した正常なセルトリ細胞に近い機能及び性質を有することが確認された。セルトリ細胞の機能(貪食能など)とアンドロゲン受容体およびプロゲステロン受容体の発現を指標として、セルトリ細胞株をスクリーニングした例は知られていない。アンドロゲン受容体およびプロゲステロン受容体は、精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現するタンパク質である。今回本発明者らは、精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現するタンパク質の発現とセルトリ細胞の機能を指標とすることで、従来スクリーニング方法よりも優れたセルトリ細胞株のスクリーニングが可能になることを見出した。すなわち、本発明はセルトリ様細胞株およびその製造方法に関し、具体的には以下の発明を提供するものである。(1)精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現し、精細胞の分化、保持に必要であると考えられる遺伝子あるいはタンパク質の発現を指標とする、セルトリ細胞由来の細胞株のスクリーニング方法、(2)上記精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現し、精細胞の分化、保持に必要であると考えられる遺伝子あるいはタンパク質が、アンドロゲン受容体(androgen receptor, AR)の遺伝子あるいはタンパク質および/またはプロゲステロン受容体(progesterone receptor, PGR)の遺伝子あるいはタンパク質である、上記(1)記載のスクリーニング方法、(3)下記(a)から(d)を指標として細胞株を選抜することを特徴とする、成熟したセルトリ細胞由来の細胞株のスクリーニング方法(a)核の形態が正常であること(b)貪食能を有すること(c)柵状構造を形成すること(d)アンドロゲン受容体タンパク質及びプロゲステロン受容体タンパク質を発現し、発現場所が正常であること、(4)さらに下記(e)を指標として細胞株を選抜することを特徴とする、上記(3)のスクリーニング方法(e)精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現し、セルトリ細胞で発現しない遺伝子を発現しないこと、(5)セルトリ細胞様性質を有する細胞を選抜する工程を含む、セルトリ細胞由来の細胞株の製造方法、(6)下記(a)から(d)の工程を含む、上記(5)記載の製造方法(a)精巣から初代培養セルトリ細胞株を単離する工程(b)上記(a)工程で得られた細胞株を飢餓状態で培養し、増殖能を持つ細胞株を単離する工程(c)上記(b)工程で得られた細胞株から、セルトリ細胞様性質を有する細胞を選抜する工程(d)上記(c)工程で得られた細胞株から、精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現し、セルトリ細胞で発現しない遺伝子を発現しない細胞を選抜する工程、(7)さらに下記(e)工程を含む、上記(6)に記載の製造方法(e)上記(d)工程で得られた細胞株から、未成熟なセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現しない細胞を選抜する工程、(8)上記セルトリ細胞様性質が下記(a)から(d)である、上記(5)から(7)のいずれかに記載の製造方法。(a)核の形態が正常であること(b)貪食能を有すること(c)柵状構造を形成すること(d)アンドロゲン受容体タンパク質及びプロゲステロン受容体タンパク質を発現し、発現場所が正常であること(9)上記精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子が、アンドロゲン受容体(androgen receptor, AR)、プロゲステロン受容体(progesterone receptor, PGR)α-インヒビン、βFGF (basic fibroblast growthfactor)、TGF-β(transforming growth factor beta)、LIF (leukemia inhibitory factor)、SCF (幹細胞因子、stem cell factor)、トランスフェリン、FSH-R(卵胞刺激ホルモン (follicle-stimulating hormone)受容体)、PGR (プロゲステロン受容体、progesterone receptor)、SGP-2 (sulfated glycoprotein 2)からなる群より選ばれる少なくとも一つの遺伝子である、上記(4)、(6)〜(8)のいずれかに記載の方法、(10)上記セルトリ細胞で発現しない遺伝子が、c-kit(tyrosinekinase receptor, チロシンキナーゼ受容体)、3β-HSD (3β-hydroxysteroid dehydrogenase,3βハイドロキシステロイドデハイドロゲナーゼ)、LHr(luteinizing hormone receptor, 黄体形成ホルモンレセプター)からなる群より選ばれる少なくとも一つの遺伝子である、上記(4)、(6)〜(8)のいずれかに記載の方法、(11)上記未成熟なセルトリ細胞に発現する遺伝子が、steroid genic factor-1 (SF-1)遺伝子である、上記(7)〜(10)のいずれかに記載の方法、(12)上記(5)〜(11)のいずれかに記載の製造方法によって製造された、セルトリ細胞由来の細胞株。(13)アンドロゲン受容体遺伝子またはタンパク質およびプロゲステロン受容体遺伝子またはタンパク質を発現し、SF-1遺伝子を発現しない、セルトリ細胞由来の細胞株、(14)細胞株を飢餓状態で培養する工程を含む、増殖能の高い細胞株の製造方法。 本発明によって、成熟したセルトリ細胞が本来有する性質の多くを保持し、精原細胞分化誘導機能を期待される細胞株およびその製造方法が提供された。成熟したセルトリ細胞のもとで、in vivoでは精子形成が行われるため、本発明の細胞株は、in vitroにおける精子形成の研究に有用である。また、セルトリ細胞が精子形成に関連するタンパク質を分泌する可能性が考えられ、本発明の細胞株は、不妊治療のための医薬品開発に有用であることが期待される。加えて、内分泌撹乱化学物質による精子形成障害がセルトリ細胞を介して起こっている可能性があることから、本発明の細胞株は内分泌化学撹乱物質のアッセイ系などに有効に利用できると考えられる。 本発明は、精巣内においてセルトリ細胞の機能とタンパク質の発現を指標とする、セルトリ細胞由来の細胞株のスクリーニング方法に関する。本発明のスクリーニング方法は、「精巣内においてセルトリ細胞の機能と発現するタンパク質」を指標とする方法である。本発明は、本発明者らが、マウス精巣由来のセルトリ細胞から細胞株を樹立する際、セルトリ細胞の機能と成熟したセルトリ細胞に発現するタンパク質の発現を指標として選抜した細胞株が、成熟したセルトリ細胞の細胞株であることを見出したことに基づく。すなわち本発明者らは、精巣から単離した細胞を由来とする細胞株について、「セルトリ細胞の機能と成熟したセルトリ細胞に発現するタンパク質の発現」が検出されるかどうかを基準として細胞株を選択すると、成熟したセルトリ細胞の機能及び性質を高度に保持した細胞株を得ることができることを明らかにした。また、成熟したセルトリ細胞は、すでに分化した細胞であり、通常では増殖能力を持つことが難しい。しかし、今回、飢餓状態を与えて増殖能力の高い細胞を選択するという条件下では、遺伝子のトランスジェニックまたはトランスフェクションを行ったマウス由来の公知細胞株と比較して、成熟したセルトリ細胞の本来の機能と性質を多く持つことが確認された。 本発明において、「セルトリ細胞由来の細胞株」とは、成熟した精巣由来のセルトリ細胞から得られた成熟したセルトリ細胞の性質を多数持つ細胞株のことをいう。セルトリ細胞は、哺乳類由来の細胞であればよく、哺乳類について特に制限はない。例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等のげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ロバ、ヤギ、ヒツジ、チンパンジー、サル、ヒト等を例として挙げることができる。また、トランスジェニック動物由来の細胞であってもよい。 本発明において、精巣以外の組織において発現していても、精巣内で成熟したセルトリ細胞に発現する場合は、本発明における「精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する」に該当する。 精巣内において成熟したセルトリ細胞が発現する遺伝子またはタンパク質として、アンドロゲン受容体(androgen receptor, AR)、プロゲステロン受容体(progesterone receptor, PGR)α-インヒビン、βFGF (basic fibroblast growthfactor)、TGF-β(transforming growth factor beta)、LIF (leukemia inhibitory factor)、SCF (幹細胞因子、stem cell factor)、トランスフェリン、FSH-R(卵胞刺激ホルモン (follicle-stimulating hormone)受容体)、SGP-2 (sulfated glycoprotein-2) を例示することができるが、必ずしもこれらに限定されない。本発明の「精巣内においてセルトリ細胞に発現する遺伝子またはタンパク質」は、セルトリ細胞以外に発現しても構わない。例えば、ARおよびPGRは、セルトリ細胞以外の細胞でも発現する。しかしながら、セルトリ細胞の機能を持ち、かつ、AR及びPGRの蛋白を発現する細胞は成熟したセルトリ細胞のみである。精巣内においてセルトリ細胞に発現する遺伝子またはタンパク質の検出は、一つの遺伝子またはタンパク質について行ってもよいが、好ましくは複数の遺伝子またはタンパク質の発現を検出することが望ましい。検出対象として、アンドロゲン受容体とプロゲステロン受容体との組み合わせは、本発明のスクリーニング方法として好ましい例である。 上記タンパク質の発現を検出するには、被検細胞株に対し、当業者に知られたタンパク質検出方法の中から適宜選択して実施すればよい。例えば、上記タンパク質に対する抗体を用い、被検細胞中のタンパク質の有無をウエスタンブロットや、ELISA, EIA, RIA, CLEIA, CLIA等の各種イムノアッセイで検出することにより、被検細胞株が上記タンパク質を発現するかどうかを知ることができる。または、被検細胞株を、上記タンパク質に対する抗体を用いたフローサイトメトリーに供することにより、被検細胞株の上記タンパク質の細胞表面での発現について知ることができる。あるいは、表面プラズモン共鳴を利用したアフィニティーセンサー(例:BIACORE)等によって検出してもよい。 セルトリ細胞の性質および機能をより高度に保持した細胞株を得るために、本発明の方法は、上記指標の他に、さらなる指標を追加することができる。上述のとおり、ARおよびPGRはセルトリ細胞以外の細胞でも発現するため、精巣由来の細胞をARとPGRの指標のみでスクリーニングした場合、他の細胞由来の細胞株がスクリーニングされる可能性がある。したがって、本発明の方法は、ARおよびPGR以外の他の指標と組み合わせて実施することが望ましい。このような他の指標の例として、以下の組み合わせスクリーニングを示す。具体的には、本発明のスクリーニング方法は、(a)細胞株の核の形態が正常であること、(b)細胞株が貪食能を有すること、(c)細胞株が柵状構造を形成すること、(d)細胞株がアンドロゲン受容体タンパク質及びプロゲステロン受容体タンパク質を発現し、発現場所が正常であること、を指標とすることができる。 本発明のスクリーニング方法は、「細胞株の核の形態が正常であること」を確認することにより、同一細胞由来でかつ、分裂の正常である細胞株を選択する。核のサイズがほぼ均一であり、光学顕微鏡下で、ほぼ円形からだ円形を示す細胞株は、同一細胞由来で、分裂が正常である細胞株と考えられる。例えば、透過型電子顕微鏡などにより、細胞から作成したサンプルを観察することや、固定した細胞の核をトルイジンブルーなどで染色することにより、光学顕微鏡下で細胞株内における細胞の核の形態を比較することで、「細胞株の核の形態が正常である」細胞株を選択できる。 本発明のスクリーニング方法は、「貪食能を有すること」を選抜基準の一つとする。セルトリ細胞は、分化途中でアポトーシスをおこした精細胞や、様々な分泌、残存物を貪食することが知られている。貪食能を選抜基準の一つとしたことにより、本発明のスクリーニング方法によって選抜された細胞株は、少なくとも貪食の点においてセルトリ細胞本来の性質・機能を有している。本発明の方法において「貪食能を有すること」を基準にした細胞株の選抜は、例えば、蛍光標識ビーズと被検細胞株とを接触させることにより実施することができる。蛍光標識ビーズを被検細胞株に接触させれば、貪食能のある細胞は該標識ビーズを取り込むため、該被検細胞株内部からのシグナル発生があるかどうか判断することにより、貪食反応の有無を知ることができる。貪食能のアッセイは、実施例で使用したfluoresbrite plain microspheresなど市販の製品を用いて行うことができる。 本発明のスクリーニング方法は、「細胞株が柵状構造を形成すること」を選抜基準の一つとする。セルトリ細胞は、基底膜に含まれる物質や、myoid cellとの培養下で3次元的にcord formationを作成することが知られている。柵状構造(linear formation)は、その基盤となる2次元構造(一部三次元構造を含む)と考えられる。セルトリ細胞は光学顕微鏡下での観察において、形態的には細胞が線上に並び、その線上に並んだ細胞集団が編み目状構造を形成する。披検細胞株の柵状構造形成の有無は、位相差顕微鏡により確認可能である。 また本発明のスクリーニング方法は、「アンドロゲン受容体タンパク質及びプロゲステロン受容体タンパク質を発現し、発現場所が正常であること」を選抜の基準とする。上述のとおり、アンドロゲン受容体タンパク質およびプロゲステロン受容体タンパク質は精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現するため、本来のセルトリ細胞の性質および機能を保持した細胞株を選ぶ基準として、これら受容体タンパク質の発現は本発明のスクリーニング方法で最も重要な指標である。本発明の方法は、さらに、これら受容体タンパク質の発現場所が正常なセルトリ細胞と同様であることを、基準の一つとすることができる。アンドロゲン受容体タンパク質及びプロゲステロン受容体タンパク質の正常な発現場所とは、核内である。 また、本発明のスクリーニング方法は、「精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現し、セルトリ細胞が発現しない遺伝子を発現しないこと」を選抜の指標とすることができる。本発明における「精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子」として、アンドロゲン受容体(androgen receptor, AR)、プロゲステロン受容体(progesterone receptor, PGR)α-インヒビン、βFGF (basic fibroblast growthfactor)、TGF-β(transforming growth factor beta)、LIF (leukemia inhibitory factor)、SCF (幹細胞因子、stem cell factor)、トランスフェリン、FSH-R(卵胞刺激ホルモン (follicle-stimulating hormone)受容体)、Wt-1、SGP2を例示することができるが、必ずしもこれらに限定されない。精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子の検出は、一つの遺伝子について行ってもよいが、好ましくは複数の遺伝子の発現を検出することが望ましい。 本発明における「セルトリ細胞が発現しない遺伝子」としては、c-kit、3β-HSD、LHrを例示することができる。c-kitは、本来、精原細胞に発現し、3β-HSD及びLHrは、 Leydig cellに発現する。 上記遺伝子の発現は公知方法によって検出することができ、例えば、被検細胞株からmRNAを抽出し、上記遺伝子の塩基配列をもとに設計したプライマーを用い、各mRNAを鋳型としてRT-PCR(FSHrについてはNested PCR)を行うことにより上記遺伝子の発現を検出することができる。このようなプライマーの例として、以下の配列を例示することができる。mFSHr-F1: 5'- tga tga tat gac tca gcc tg -3'(配列番号:1)mFSHr-F2: 5'- gtt gat gtg acc tgc tcg cc -3'(配列番号:2)mFSHr-R1: 5'- tgc caa tgt gta gac tga ca -3'(配列番号:3)mFSHr-R2: 5'- tga ggc tat aag tag caa gt -3'(配列番号:4)マウスFSHrの配列は、gi:3789955により公的データベースから入手可能である。 また、上記遺伝子の発現は公知文献に記載の方法に基づいて行うことができ、例えば、Cyclophilin, SCF, LIF, TGF-β, βFGF遺伝子の発現は、公知文献:Establishment and Characterization of Neonatal Mouse Sertoli Cell Lines. Hoffman MC. et al. Journal of Andrology, (2003) Vol 24, 120-130に記載の方法に基づいて検出することができる。c-kit遺伝子の発現は、例えば、公知文献:Differential expression of c-kit in mouse undifferentiated and differentiating type A spermatogonia. Schrans-Stassen Bhvet al. Endocrinology (1999) vol140, 5894-5900に記載の方法に基づいて検出することができる。α-inhibin, 3βHSD, AR, LHr, SGP-2, transferrin遺伝子の発現は、例えば、公知文献:Sertoli cell lines established from H-2Kb-tsA58 Transgenic Mice differentially regulate the expression of cell specific genes. Walther N. et al. Experimental Cell Research. (1996) Vol 225, 411-421.に記載の方法に基づいて検出することができる。Wt-1(ref.4)、遺伝子の発現は、例えば、公知文献:Molecular characterizaion of three gonad cell lines. Beverdam A. et al. Cytogenet Genome Research (2003) vol. 101, 242-249. に記載の方法に基づいて検出することができる。 または、上記遺伝子の塩基配列に基づいてプローブを設計し、標識したプローブをmRNAとハイブリダイズさせて標識からのシグナルを検出することにより、上記遺伝子の発現を検出することもできる。あるいは、上述したように、抗体を用いて上記遺伝子がコードするタンパク質を検出してもよい。 上記遺伝子の塩基配列は、上記Accession NO.または上記公知文献に記載された情報から、公共データベースにより入手可能である。 加えて、本発明のスクリーニング方法は、「未成熟なセルトリ細胞が発現する遺伝子を発現しないこと」を選抜の指標とすることができる。本発明における「未成熟なセルトリ細胞が発現する遺伝子」としては、SF-1を例示することができる。SF-1の検出は、例えば、公知文献:Sertoli cell lines established from H-2Kb-tsA58 Transgenic Mice differentially regulate the expression of cell specific genes. Walther N. et al. Experimental Cell Research. (1996) Vol 225, 411-421.に記載の方法に基づいて検出することができる。 本発明のスクリーニング方法によって選抜された細胞株は、セルトリ細胞の機能および性質を高度に保持する。本発明において、セルトリ細胞の機能および性質とは、セルトリ細胞が有する任意の機能を意味する。セルトリ細胞の機能および性質として、例えば、貪食能、柵状構造の形成を例示することができる。さらに、本発明のスクリーニング方法によって選抜された細胞株は、正常な成熟したセルトリ細胞が保持する、多数の遺伝子及びタンパク質を発現していることから、精細胞の分化誘導機能を持つことが期待される。 本発明は、精細胞分化誘導機能を有することが期待されるセルトリ細胞由来の細胞株の製造方法も提供する。本発明の製造方法は、「セルトリ細胞様性質を有する細胞を選抜する工程」を含む。本発明において「セルトリ細胞様性質を有する細胞」とは、セルトリ細胞が本来有する性質を有する細胞を意味する。セルトリ細胞が本来有する性質は、公知文献によって知ることができ、例えば、Hoffmann et al., Journal of Andrology 2003, vol.24, No.1p120-130、Michael P Mcguinness et al., Biology of Reproduction 1994, vol.51, 116-124によって知ることができる。セルトリ細胞が本来有する性質の具体的な例として、核の形態が正常であること、貪食能を有すること、柵状構造を形成すること、アンドロゲン受容体タンパク質及びプロゲステロン受容体タンパク質を発現し、発現場所が正常であること、を挙げることができるが、これらに限定されない。 本発明の製造方法は、「セルトリ細胞様性質を有する細胞を選抜する工程」以外の工程を含むことができる。例えば、本発明の方法は、(a)精巣から初代培養セルトリ細胞株を単離する工程、(b)上記(a)工程で得られた細胞株を飢餓状態で培養し、増殖能を持つ接着性細胞株を単離する工程、(c)上記(b)工程で得られた細胞株から、セルトリ細胞様性質を有する細胞を選抜する工程、(d)上記(c)工程で得られた細胞株から、精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現し、セルトリ細胞が発現しない遺伝子を発現しない細胞を選抜する工程、を含むことができ、さらに本発明の方法は上記(a)工程から(d)工程に加え、(e)上記(d)工程で得られた細胞株から、未成熟なセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現しない細胞を選抜する工程、を含むことができる。 本発明(a)工程の「精巣から初代培養セルトリ細胞株を単離する工程」は、当業者にとって公知の方法によって行うことができる。例えば実施例の記載した方法により、単離可能である。 本発明(b)工程の「増殖能を持つ細胞株を単離する工程」は、細胞株を飢餓状態で培養することが特徴である。本発明者らは、飢餓状態で培養により、高い増殖能を持つ細胞株を効率的に単離することに成功した。細胞株を飢餓状態で培養するには、例えば、実施例のように行うことができる。すなわち、培養液の交換の間隔を通常よりも長くすることで、飢餓状態を作り出すことができる。例えば、実施例のように、培養液交換を2週間に1度、または3週間に1度に制限することにより、飢餓状態を作り出すことができる。または、栄養成分の少ない培養液で培養することにより飢餓状態を作り出しても良い。飢餓状態に置く期間に特に制限はないが、例えば、2から30週間、好ましくは4から20週間、より好ましくは6から14週間、最も好ましくは8から12週間である。飢餓状態で培養することにより増殖能を持つ細胞株を単離することは、セルトリ細胞に限らず、他の細胞についても共通して適用可能と考えられる。 本発明の製造方法の(c)工程から(e)工程は、上述のスクリーニング方法と同様にして行うことができる。 本発明の製造方法の(e)工程の後に、(e)工程で得られた細胞株を免疫不全動物に移植し、移植を受けた動物に腫瘍が形成されるかどうかを観察し、腫瘍化を起さない細胞株を選択することにより、精子形成に異常を示す個体への移植用細胞として使用することも可能である。 上述のスクリーニング方法、または製造方法によって製造された細胞株(以下、本発明の細胞株)は、セルトリ細胞の本来の性質を多数保持する細胞である。よって本発明の細胞株は、精細胞分化誘導機能を有する可能性が大きい細胞である。 本発明の細胞株は、アンドロゲン受容体及びプロゲステロン受容体に代表される、成熟したセルトリ細胞に発現するタンパク質を発現する。好ましくは、成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子、例えば、アンドロゲン受容体、SGP-2、を発現し、また好ましくは、成熟したセルトリ細胞と同様の遺伝子発現傾向を示す。本発明の細胞株は、例えば、未成熟なセルトリ細胞が発現するSF-1は発現しない。SF-1は性腺分化に必要な転写因子で、ステロイドホルモン産生に必要なP450遺伝子の転写を制御することが知られている。セルトリ細胞の成熟は、セルトリ細胞の精子形成誘導能と関連する。そのため、成熟したセルトリ細胞は、精細胞から精子を形成させる精子形成誘導能力が高く、未成熟のセルトリ細胞は、精細胞から精子を形成させる精子形成誘導能力が低いと考えられる。本発明の細胞株が、成熟したセルトリ細胞と同様の遺伝子発現傾向を示すことは、本発明の細胞株が成熟したセルトリ細胞の性質および機能を多く受け継いでいることを裏付ける。 本発明の細胞株は、上記遺伝子の他、本来、精巣内においてセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現していてもよい。例えば、α-インヒビン、βFGF (basic fibroblast growth factor)、TGF-β(transforming growth factor beta)、LIF (leukemia inhibitory factor)、SCF (幹細胞因子、stem cell factor)、トランスフェリン、FSH-R(卵胞刺激ホルモン (follicle-stimulating hormone)受容体)、PGR (プロゲステロン受容体、progesterone receptor)、 S0X-9、 WT-1 (Wilm’s tumor-1)、MIS (Mu¨llarian inhibiting substance)の各遺伝子を発現していてもよい。上記のうち、α-インヒビン、βFGF、TGF-β、LIF、SCF、トランスフェリン、FSH-R、PGR は、精細胞の分化や維持に関与することが知られている。また、S0X-9、 WT-1、MISは、生殖巣の分化に必要と考えられている。本発明の細胞株は、好ましくは、上記AR、SGP-2、α-インヒビン、βFGF、TGF-β、LIF、SCF、トランスフェリン、PGR、S0X-9、WT-1、MISの12種類のうち、AR及びSGP-2を含む複数の遺伝子を発現し、より好ましくは、上記12種類全てを発現し、最も好ましくは、上記12種類全てに加えてFSH-Rを発現する。 本発明の細胞は、アンドロゲン受容体とプロゲステロン受容体を共に正常な場所に発現する。すなわち、アンドロゲン受容体及びプロゲステロン受容体を核内に発現する。 一方、本発明の細胞株は、本来、セルトリ細胞が発現しない遺伝子は発現しない。例えば、精原細胞が発現するc-kit、Leydig cell が発現する3β-HSD及びLHr(黄体化ホルモン(Luteinizing Hormone)受容体)は、セルトリ細胞は発現しない遺伝子であり、これら遺伝子を本発明の細胞株は、発現しない。 本発明の細胞株は、正常なセルトリ細胞の機能および性質を多く有する。例えば、形態学的には、細胞の形態は均一であり、細胞核は正常な形態を示す。また、本発明の細胞株は柵状構造を示す。さらに、セルトリ細胞は、精子への分化途中で死んだ精子形成細胞を貪食することが知られているが、同様に、本発明の細胞株は貪食能を有する。 飢餓状態に置かれて培養された本発明の細胞株は、増殖能が高く、細胞株として利用価値が高い。また、実施例記載の本発明の細胞株は、培養温度、培養液の点でも、既存のセルトリ細胞由来の細胞株よりも利用価値が高い。既存の細胞株の多くが37℃近辺で培養されるが、実施例記載の細胞株は32℃で培養可能であり、この温度はマウス精子形成温度(32-34℃)と一致する。すなわち、本発明の細胞株は、in vivoにより近い環境で培養可能である。培養液は、E-MEM, Sodium, Biocarbonate, L-glutamine, 10%FBSを含む一般的な場位置で培養可能であり、培養液交換は1週間に1度でよく、交換の手間が少ない。 本発明の細胞株は、好ましくは、貪食能を示し、柵状構造を形成する。さらに、正常な成熟したセルトリ細胞が保持する、多数の遺伝子及びタンパク質を発現するため、精細胞の分化誘導機能が期待される。上記のとおり、本発明の製造方法によって製造された細胞株は、成熟したセルトリ細胞が本来有する性質の多くを保持する。したがって、本発明の製造方法によって製造された細胞株は、in vitro精子形成の研究に有用であることが期待される。また、内分泌撹乱化学物質がセルトリ細胞に作用して精子形成傷害を起すことが知られており(財団法人日本公衆衛生協会 平成13年度 内分泌撹乱化学物質等の作用メカニズムの解明等基礎的研究 研究報告書 p.5-22)、成熟したセルトリ細胞の本来の性質及び機能を有する本発明の細胞株は、内分泌撹乱物質のアッセイ系に有効に利用できると考えられる。さらに、セルトリ細胞が精子形成作用を有するタンパク質を分泌する可能性が考えられることから、本発明の製造方法によって製造された細胞株は、不妊治療のための医薬品開発に利用できる可能性がある。加えて、本発明の製造方法によって製造された細胞株のうち、動物を癌化させない細胞株は、精子形成能力の回復等を目的とした移植に利用できる可能性がある。[実施例1]セルトリ細胞様細胞株の樹立(1−1)初代培養細胞株の単離 マウス精巣から初代培養細胞株を以下の手順で単離した。C57BL/6Jマウス(雄、6週齢)から精巣を摘出し、白膜を除去した後、精巣を細断した。細断した該組織を1mg/mL コラゲナーゼ in PBS中でインキュベーション(80cycle/min、37℃、1時間)した後、1700rpmで5分間遠心し、上清を除いた。1mg/ mLヒアルロニダーゼ(Type-1S)in PBSでインキュベーション後(80cycle/ min、37℃、1時間)、1700rpmで5分間遠心し、上清を除いた。さらに、PBSを加えて遠心し、上清を除いた後(1700rpm、5分X3)、E-MEMを加え、ナイロンメッシュ(100um)で濾して得られた細胞を、35mmシャーレと24穴の培養プレートに播いた。細胞を、10%FBS,0.292g/L L-グルタミン,1% ペニシリン,ストレプトマイシン in E-MEMを培地として32℃、5% CO2下で培養した。翌日培養液を交換し、接着性の細胞のみを残した。(1−2)増殖能を持つ接着性細胞株の単離 上記(1−1)で得られた接着性細胞を、培養液を一週間ごとに交換し一ヶ月の継代を行った。その後、飢餓状態にさらすため、培養液交換の頻度を変えた(培養液交換を2週間に一度を2回、続いて3週間に一度を2回行う)後、上述の通常の液交換頻度に戻し、優れた増殖能を有する接着性細胞集団を得た。 上記の優れた増殖能を有する接着性細胞集団について、ペニシリンカップ法によりサブクローニングを行い、6種類の形態的に異なる細胞集団88系列を4回の継代の後、凍結保存した。さらにペニシリンカップ法を用いて、2段回目のサブクローニングを行い、細胞集団33系列を6回の継代の後凍結保存した。(1−3)サブクローン接着性細胞株からの、セルトリ細胞様性質を持つ細胞の選抜 実施例2で得られたサブクローン接着性細胞株から、セルトリ細胞様性質を持つ細胞を選抜した。選抜のため、各細胞株について、貪食能、形態および分裂状態、染色体数、アンドロゲン受容体およびプロゲステロン受容体の発現について観察した。(1-3-1)貧食能の判定 3cmシャーレに70% コンフルエントな細胞に対し、fluoresbrite plain microspheres (2.5% Solids-latex)、 1μm YG(Polysciences, Inc.)を50μL加え、一晩培養した。PBSで3回洗浄した後、蛍光顕微鏡下で観察し、セルトリ細胞に特異的な貪食能を判定した(図1)。(1-3-2)形態、分裂状態の判定 コンフルエントに達した後、セルトリ細胞培養下で特徴的な柵状構造を形成するかどうか、核の形態のばらつき、分裂像の量について検討した。(1-3-3)染色体数の確認 コルセミド(0.1ug/ml)を培地に加え2時間インキュベーションした後、0.25%トリプシンで細胞をはがして回収し(1500rpmX5分)、上清を除去した。低張液(1% クエン酸ナトリウム水溶液)を加えピペッティングし、15分間室温においた後、Carnoy液を低張液の倍量加えて固定し、遠沈を3回実施した。細胞を少量のCarnoy液で希釈してからスライドグラスに滴下し、乾燥させた。Giemsa染色を行って検鏡し、染色体数を確認した。(1-3-4)免疫組織化学による細胞中のアンドロゲン受容体およびプロゲステロン受容体局在の検討 細胞を4%PFAで1時間、冷MeOHで30分間処理し、固定化した。1回目のブロッキング(3% H2O2/MeOH)、2回目のブロッキング(10% ヤギ血清/PBS)の後、ウサギ抗アンドロゲン受容体ポリクローナル抗体、またはウサギ抗プロゲステロン受容体ポリクローナル抗体と反応させた後、ペルオキシダーゼで標識した抗ウサギIgG抗体と反応させ、アミノエチルカルバゾールC(aminoethylcarbazol、AE)で染色し、ヘマトキシリン-エオジン(HE)染色を行った(図2、3)。(1-3-5)ウエスタンブロッティングによるアンドロゲン受容体、プロゲステロン受容体の発現量の比較 各クローンを 冷PBSで2回洗い、可溶化バッファー(RIPA2% CHAPS)を加え、遠心後上清をSDS-PAGE用サンプルとした。7.5%SDS-PAGEで分離後、ECLで標識した抗アンドロゲン受容体抗体または抗プロゲステロン受容体抗体を用い、アンドロゲン受容体またはプロゲステロン受容体の発現を検出した。また各クローンと同時に、精巣から調製したサンプルについても、同様に受容体の検出を行った。発現量の比較のため、各クローンの上記受容体および精巣のタンパク質をCBBで検出した。精巣に関しては、すべて同一・同量のサンプルを用い、異なる泳動・ウエスタンブロット間の補正を行った。(1−4)セルトリ細胞様性質を持つ細胞の最終クローニングとクローンにおける精巣発現遺伝子群の確認(1-4-1)最終クローニング 上記(1−3)で選抜した2系統の細胞集団を融解し、2〜3回継代した後、希釈法により最終クローニングを行った。それぞれの系統から44クローンと、33クローンの計77クローンを得て、5〜8回の継代の後凍結保存した。(1-4-2)クローンの選抜 上記77クローンについて、貪食能の判定、形態、分裂状態の判定、染色体数の確認、抗アンドロゲン受容体抗体、抗プロゲステロン受容体抗体を用いた免疫組織化学による細胞での局在の検討とウエスタンブロッティングによる発現量の比較を(1-3)における選抜と同様に行った。上記結果から、(i)細胞の形態が均一であること、(ii) 細胞の核が正常な形態を示すこと、 (iii) 貪食能を持つこと、(iv) 柵状構造を形成すること、(v) 増殖能力がすぐれていること、(vi)アンドロゲン受容体およびプロゲステロン受容体を共に発現し、発現場所が核内であること(vii)上記(i)〜(vi)の条件を満たし、アンドロゲン受容体、 プロゲステロン受容体の発現量が多いもの、を条件とし、最終的に12クローン(1B1, 1B4, 1C1, 2B4, 3A4, 1C3, 1C4, 2A3, 2A4, 2B4, 4A4)を選抜した(図4、5、表1)。(1-4-3)精巣発現遺伝子群の観察 上記12クローンについて、精巣発現遺伝子群の発現をRT-PCRで観察した。セルトリ細胞に発現する、アンドロゲン受容体(AR)、α-インヒビン、sulfated glycoprotein-2(SGP-2)、basic fibroblast growthfactor(βFGF)、transforming growth factor beta (TGF-β)、leukemia inhibitory factor (LIF)、stem cell factor (SCF)、transferrin、GATA-1、steroid genic factor-1(SF-1)、FSH-R 、S0X-9、 WT-1、Mu¨llarian inhibiting substance (MIS)の各遺伝子の他、マウスのハウスキーピング遺伝子であるシクロフィリン(cyclophilin)、本来セルトリ細胞以外の精巣細胞に発現する遺伝子として、c-kit、LH-R、3β-HSDの各遺伝子の発現についても観察した。 RT-PCRは、以下のとおり行った。培養細胞あるいは精巣組織100mgあたり1mlのISOGENを加えtotal RNAを抽出した。DNase処理後のRNA 1μgからGene Amp RNA PCR kit (Perkin-Elmer)を用い、cDNAを合成した。cDNA 1μlをtemplateとしてEx Taq polymerase(TaKaRa)を用い以下の条件にて40サイクルのPCR反応を行った(denaturation at 94℃ for 45 sec./ annealing at specific temp. for 1 min./ elongation at 72℃ for 1 min.)。公知文献に基づくプライマーを用いてPCRを行い、FSH-Rは、下記プライマーを用いてnested PCRを行った。mFSHr-F1: 5'- tga tga tat gac tca gcc tg -3'(配列番号:1)mFSHr-F2: 5'- gtt gat gtg acc tgc tcg cc -3'(配列番号:2)mFSHr-R1: 5'- tgc caa tgt gta gac tga ca -3'(配列番号:3)mFSHr-R2: 5'- tga ggc tat aag tag caa gt -3'(配列番号:4)反応後のサンプル8μlを2% agaroseにて電気泳動し、増幅されたバンドを確認した。 結果を表2に示す。上記12クローン細胞株はいずれも、マウスのハウスキーピング遺伝子であるシクロフィリンを発現し、一方、精原細胞に発現するc-kit、Leydig cellに発現するLH-R、 3β-HSDを発現しなかった。また、本来成熟したセルトリ細胞が持ち、精細胞の分化や維持に重要だと考えられている、SCF、LIF、β-FGF、TGF-β、 α-インヒビン、transferrin、AR、SGP-2を発現していた。生殖巣の分化に必要とされるS0X-9、 WT-1、MISも発現していたが、一方、未成熟なセルトリ細胞で発現するSF-1や、GATA-1の発現は見られなかった。FSH-Rは、A31C4、C22A4、C24A4の3クローンで発現していた(図6)。[実施例2]免疫不全マウスへの移植 上記細胞株をヌードマウスの皮下に移植し、細胞株移植による腫瘍形成が起こるかどうか観察した。本発明の細胞株移植による腫瘍形成は見られなかった(データ示さず)。クローニング途中のマウス精巣由来細胞株の貪食能を示す写真である。写真上は蛍光像、下は透過像を示す。蛍光が検出される細胞は、貪食能を持つ細胞であり、蛍光が検出されない細胞は、貪食能を持たない細胞である。成熟マウス精巣とクローニング途中のマウス精巣由来細胞株のアンドロゲン受容体の免疫局在を示す写真である。A)成熟したマウス精巣におけるアンドロゲン受容体の発現。A)’Aの拡大図。セルトリ細胞で強く発現していることがわかる。B) Aのネガティブコントロール。C) クローニング途中の#0913A3 細胞集団におけるアンドロゲン受容体の発現。核内での発現が見られる細胞と見られない細胞がある。D) C)のネガティブコントロール。クローニング途中のマウス精巣由来細胞株におけるプロゲステロン受容体の免疫局在を示す写真である。核および細胞質での発現が観察される。マウス精巣由来細胞株のアンドロゲン受容体の発現をウエスタンブロットで観察した結果を示す図および写真である。マウス精巣由来細胞株のプロゲステロン受容体の発現をウエスタンブロットで観察した結果を示す図および写真である。マウス精巣由来細胞株の各種遺伝子発現をRT-PCRで検討した結果を示す写真である。FSH受容体を発現する3クローン(A31C4、C22A4、C24A4)の形態を示す写真である。FSH受容体を発現するクローン(A31C4、C22A4)の貪食能を示す写真である。写真上が蛍光像、下は透過像を示す。蛍光が検出される細胞は、貪食能を持つ細胞である。FSH受容体を発現するクローンのAR(A31C4), PGR(C22A4)発現の局在を示す写真である。写真上は抗体染色像、下は抗原吸収抗体による染色像を示す。核内に特異的な染色が観察される。精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現し、精細胞の分化、保持に必要であると考えられる遺伝子あるいはタンパク質の発現を指標とする、セルトリ細胞由来の細胞株のスクリーニング方法。上記精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現し、精細胞の分化、保持に必要であると考えられる遺伝子あるいはタンパク質が、アンドロゲン受容体(androgen receptor, AR)の遺伝子あるいはタンパク質および/またはプロゲステロン受容体(progesterone receptor, PGR)の遺伝子あるいはタンパク質である、請求項1記載のスクリーニング方法。下記(a)から(d)を指標として細胞株を選抜することを特徴とする、成熟したセルトリ細胞由来の細胞株のスクリーニング方法。(a)核の形態が正常であること(b)貪食能を有すること(c)柵状構造を形成すること(d)アンドロゲン受容体タンパク質及びプロゲステロン受容体タンパク質を発現し、発現場所が正常であることさらに下記(e)を指標として細胞株を選抜することを特徴とする、請求項3のスクリーニング方法。(e)精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現し、セルトリ細胞で発現しない遺伝子を発現しないことセルトリ細胞様性質を有する細胞を選抜する工程を含む、セルトリ細胞由来の細胞株の製造方法。下記(a)から(d)の工程を含む、請求項5記載の製造方法。(a)精巣から初代培養セルトリ細胞株を単離する工程(b)上記(a)工程で得られた細胞株を飢餓状態で培養し、増殖能を持つ細胞株を単離する工程(c)上記(b)工程で得られた細胞株から、セルトリ細胞様性質を有する細胞を選抜する工程(d)上記(c)工程で得られた細胞株から、精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現し、セルトリ細胞で発現しない遺伝子を発現しない細胞を選抜する工程さらに下記(e)工程を含む、請求項6に記載の製造方法。(e)上記(d)工程で得られた細胞株から、未成熟なセルトリ細胞に発現する遺伝子を発現しない細胞を選抜する工程上記セルトリ細胞様性質が下記(a)から(d)である、請求項5から7のいずれかに記載の製造方法。(a)核の形態が正常であること(b)貪食能を有すること(c)柵状構造を形成すること(d)アンドロゲン受容体タンパク質及びプロゲステロン受容体タンパク質を発現し、発現場所が正常であること上記精巣内において成熟したセルトリ細胞に発現する遺伝子が、アンドロゲン受容体(androgen receptor, AR)、プロゲステロン受容体(progesterone receptor, PGR)α-インヒビン、βFGF (basic fibroblast growthfactor)、TGF-β(transforming growth factor beta)、LIF (leukemia inhibitory factor)、SCF (幹細胞因子、stem cell factor)、トランスフェリン、FSH-R(卵胞刺激ホルモン (follicle-stimulating hormone)受容体)、PGR (プロゲステロン受容体、progesterone receptor)、SGP-2 (sulfated glycoprotein 2)からなる群より選ばれる少なくとも一つの遺伝子である、請求項4、6〜8のいずれかに記載の方法。上記セルトリ細胞で発現しない遺伝子が、c-kit(tyrosinekinase receptor, チロシンキナーゼ受容体)、3β-HSD (3β-hydroxysteroid dehydrogenase,3βハイドロキシステロイドデハイドロゲナーゼ)、LHr(luteinizing hormone receptor, 黄体形成ホルモンレセプター)からなる群より選ばれる少なくとも一つの遺伝子である、請求項4、6〜8のいずれかに記載の方法。上記未成熟なセルトリ細胞に発現する遺伝子が、steroid genic factor-1 (SF-1)遺伝子である、請求項7〜10のいずれかに記載の方法。請求項5〜11のいずれかに記載の製造方法によって製造された、セルトリ細胞由来の細胞株。アンドロゲン受容体遺伝子またはタンパク質およびプロゲステロン受容体遺伝子またはタンパク質を発現し、SF-1遺伝子を発現しない、セルトリ細胞由来の細胞株。細胞株を飢餓状態で培養する工程を含む、増殖能の高い細胞株の製造方法。 【課題】野生型の成熟セルトリ細胞の機能を維持した、セルトリ細胞株及びその製造方法の提供。【解決手段】マウス精巣から接着性を示す初代細胞培養株を単離し、増殖能を持つ株のみを選抜した。貪食能、形態および分裂状態、染色体数、アンドロゲン受容体およびプロゲステロン受容体の発現について観察し、12クローン選抜した。これら12クローンは、いずれも精細胞の分化・維持に重要な役割を果たす複数の遺伝子及び生殖巣の分化に必要とされる遺伝子を発現した。FSH-Rは3クローンで発現していた。該細胞株が、貪食能などの機能を持つこと、また正常な成熟したセルトリ細胞が保持する、多数の遺伝子及びタンパク質を発現していることから、精細胞の分化誘導機能を持つことが期待される。【選択図】なし配列表


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