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タイトル:公開特許公報(A)_核酸とカチオン化多糖とのポリイオンコンプレックスを用いるリバーストランスフェクション
出願番号:2005316959
年次:2007
IPC分類:C12N 15/09,C12N 15/00,C12N 5/06


特許情報キャッシュ

田畑 泰彦 JP 2007117054 公開特許公報(A) 20070517 2005316959 20051031 核酸とカチオン化多糖とのポリイオンコンプレックスを用いるリバーストランスフェクション 株式会社メドジェル 503265876 大野 聖二 230104019 森田 耕司 100106840 田中 玲子 100105991 田畑 泰彦 C12N 15/09 20060101AFI20070413BHJP C12N 15/00 20060101ALI20070413BHJP C12N 5/06 20060101ALI20070413BHJP JPC12N15/00 AC12N15/00 ZC12N5/00 E 4 2 OL 11 4B024 4B065 4B024AA20 4B024BA08 4B024EA04 4B024GA11 4B024GA18 4B024HA20 4B065AA91X 4B065BA01 4B065BA02 4B065BB25 4B065BC03 4B065BC06 4B065BC07 4B065BC21 4B065BC41 4B065BC50 4B065CA44 本発明は、細胞に核酸を導入するための方法およびこの方法に用いる培養基材に関する。 細胞内に核酸を導入して、遺伝子を発現させる技術は、基礎生物医学研究だけではなく、遺伝子治療、細胞移植治療のための細胞の遺伝子改変、再生医療などにおいても重要である。 カチオン化多糖と核酸とを混合して両者のポリイオンコンプレックスを形成させると、核酸の分子サイズが小さくなり、かつその負電荷の正電荷への転換が生ずる。細胞表面は負電荷を帯びているため、得られた核酸を含むコンプレックスは、正−負電荷間の相互作用により、細胞表面に吸着する。加えて、多糖が細胞表面の糖認識レセプターにより認識されて、多糖と核酸との複合体の細胞への取込が促進される。この結果、カチオン化多糖によって、細胞への核酸の取込効率が高まると考えられている。この取り込み効率は、従来のカチオン化高分子あるいはカチオン化脂質を用いる場合と比べて、細胞表面レセプターを介することから、高いことがわかっている。 しかしながら、カチオン化多糖と核酸とのポリイオンコンプレックスを細胞培地中に添加する通常のトランスフェクション法では、無血清培地を用いたときには高いトランスフェクション効率が得られるが、血清成分の存在下ではトランスフェクションの効率が低下することが問題であった。この原因としては、血清中に含まれるタンパク質がコンプレックスと相互作用することで、コンプレックスの細胞内への取り込みが低下することが考えられている。無血清培地におけるカチオン化物質を用いたトランスフェクションにおけるもう一つの問題は、細胞の生存率の低下である。血清がない状態は、生理学的条件と異なるため、細胞の増殖とその機能維持にとっては良好な状態とはいえない。それに加えて、細胞表面に正電荷の物質が相互作用すると、細胞膜の流動性が悪くなり、それにより細胞が弱ったり障害をうけたりする。この細胞への障害性を抑制する一つの方法は、培養中に血清を加えることである。血清の存在は細胞の状態を良くすることがわかっている。 したがって、細胞の生存率の低下を防ぎ、細胞の状態を良好に保った状態である血清含有培地でも高い効率が得られるトランスフェクション法の開発が望まれていた。WO2005/094894Hosseinkhani et al, Gene Therapy, 11, 194-203 (2004) 本発明は、細胞に核酸を効率的に導入するための新規な方法ならびにこの方法に用いる培養基材を提供することを目的とする。 本発明者らは、細胞表面のレセプターに認識される多糖を利用すること、さらに、細胞を培養基材と強固に接着させるために細胞接着促進剤を組み合わせて用いることにより、細胞への核酸の取り込み効率が高まることを見いだした。すなわち、本発明は、細胞に核酸を導入する方法であって、培養基材上に核酸とカチオン化多糖とのポリイオンコンプレックスおよび細胞接着促進剤を固定化し、前記培養基材上で細胞を培養することにより核酸を細胞に取り込ませることを含む方法を提供する。好ましくは、カチオン化多糖は、カチオン化プルラン、カチオン化デキストランまたはカチオン化マンナンである。 別の観点においては、本発明は、細胞に核酸を導入するための培養基材であって、培養基材の上に核酸とカチオン化多糖とのポリイオンコンプレックスおよび細胞接着促進剤が固定化されていることを特徴とする培養基材を提供する。 遺伝子を細胞培養プレート表面に固定し、このプレートに細胞を播種することにより遺伝子を導入する方法は、リバーストランスフェクションあるいは固相系トランスフェクションと称される。この方法は、多種類の遺伝子を細胞に取り込ませてその機能を調べるハイスループットアッセイにおいて特に有用である。本発明においては、カチオン化多糖と核酸からなるポリイオンコンプレックスと細胞接着促進剤とを組み合わせてリバーストランスフェクションを行うことにより、高いトランスフェクション効率を達成しうることが見いだされた。本発明の方法にしたがえば、カチオン化多糖と核酸とのポリイオンコンプレックスは、細胞と基材間で血清成分の影響をうけることなく、細胞と相互作用して取り込まれる。細胞培養に血清を用いることができるため、細胞の状態もよく、高い効率で細胞内への核酸の取り込みが実現できる。 従来法である、カチオン化多糖と核酸とのポリイオンコンプレックスを培地に添加するトランスフェクションでは、血清成分の存在下ではトランスフェクション効率が低下することが知られている。しかし、本発明の方法にしたがえば、血清存在下でも、無血清培地を用いるトランスフェクションと同等あるいはそれよりも高いトランスフェクション効率を得ることができる。これは、ポリイオンコンプレックスが細胞培養プレート表面に固定化され、その直上に細胞が存在しているため、常にポリイオンコンプレックスが細胞近傍に存在することで、取り込みが促進されること、あるいは細胞培養プレート表面と細胞との閉鎖空間にポリイオンコンプレックスが存在するため、ポリイオンコンプレックスと血清成分との相互作用が抑制され、血清成分の影響を受けにくくなったためだと考えられる。細胞と培養基材との相互作用、すなわち、細胞の基材への接着が強固になればなるほど、本発明で求める細胞とポリイオンコンプレックスとの相互作用の増強、それにともなう核酸の取り込みの増強、および核酸の取り込みにネガティブに働いている血清成分とポリイオンコンプレックスとの相互作用の抑制が実現される。本発明の方法に従えば、血清成分の存在下でトランスフェクションを行うことができるため、血清のない、細胞にとって良好ではない条件に加えて、カチオン化物質による細胞膜の流動性の障害に起因する細胞の生存率の低下を大きく低減させることができる。加えて、細胞近傍に核酸が長期間存在し、細胞への核酸の取り込みが長期に維持される。その結果として、核酸物質による生物作用(例えば、遺伝子であればその発現期間)を長く持続させることが可能となる。 本発明の方法において用いることができる多糖としては、例えば、アミロース、アミロペクチン、デキストラン、グルコマンナン、プルラン、ヒアルロン酸、キチン、キトサンなど、およびこれらの各種誘導体が挙げられる。これらの多糖は、細胞表面上の糖認識レセプターにより認識されることができ、このため、多糖と核酸とを複合体化させたときに、核酸の細胞への取り込みが促進されると考えられる。本発明において用いる多糖は、動物、植物、微生物などに由来するものであっても、化学合成されたものであってもよい。上述の多糖あるいはその誘導体を複数混合するか、あるいはこれらの複合体を用いてもよい。本発明において用いられる多糖の分子量は、好ましくは、約2,000−2,000,000、より好ましくは約20,000−100,000である。 好ましい多糖の例として水溶性多糖のプルランがある。プルランは、デンプンの部分加水分解物を原料としてAureobasidium pullulans菌により発酵産生されるα−グルカンであり、ブドウ糖3個よりなるマルトトリオースがα−1,6結合で連鎖した直鎖状の水溶性高分子である。プルランは、細胞表面上に発現しているアシアロ糖タンパク質レセプターを介して細胞内に取り込まれることが知られており、種々の分子量の製品が市販されている。 本発明においては、負に荷電した核酸とのポリイオンコンプレックスを形成させるために、カチオン化した多糖を用いる。カチオン化多糖としては、プルランにカチオン基を導入したカチオン化プルラン、デキストランにカチオン基を導入したカチオン化デキストラン、またはマンナンにカチオン基を導入したカチオン化マンナンが挙げられる。 カチオン化の工程は、生理条件下でカチオン化する官能基を導入し得る方法であれば特に限定されないが、多糖の分子上の水酸基に1、2または3級のアミノ基またはアンモニウム基を温和な条件下で導入する方法が好ましい。例えばエチレンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン等のアルキルジアミンや、トリメチルアンモニウムアセトヒドラジド、スペルミン、スペルミジンまたはジエチルアミド塩化物等を、種々の縮合剤、例えば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、塩化シアヌル、N,N'−カルボジイミダゾール、臭化シアン、ジエポキシ化合物、トシルクロライド、ジエチルトリアミン−N,N,N',N'',N''−ペンタン酸ジ無水物等のジ無水物化合物、トリシルクロリド等を用いて反応させることができる。特に、エチレンジアミンまたはスペルミンを反応させる方法が簡便且つ汎用性があり好適である。本発明において用いられるカチオン基の導入率は、多糖に存在する水酸基に対して、スペルミンが導入された割合(モル%比)で表すと、好ましくは2%−90%、より好ましくは5%−60%、さらに好ましくは10%−30%である。多糖の種類が変わっても、好ましいモル%比は前述の範囲である。 ポリイオンコンプレックスは、核酸と水溶性多糖がイオン結合により結合することにより形成される複合体である。核酸とカチオン化多糖、例えば、カチオン化プルラン、カチオン化デキストランまたはカチオン化マンナンとのポリイオンコンプレックスは、核酸とカチオン化多糖とを、適当な緩衝溶液中で混合し、所定の時間放置することにより形成することができる。反応は室温で行うことができる。ポリイオンコンプレックスの形成は、混合液の濁度を指標として測定することができる。ポリイオンコンプレックスの特性は、用いるプルランの分子量およびカチオン化の程度を選択することにより調節することができる。カチオン化の程度は、カチオン化多糖中のアミノ基のモル数と核酸中のリン酸基のモル数との比率を指標として測定することができる。用いる細胞および核酸に応じて、細胞中への取込に最適な分子量およびカチオン化の程度を選択することができる。 多糖−核酸ポリイオンコンプレックスが糖認識レセプターを介して細胞内に取り込まれているか否かは、レセプターにより認識されることが知られている単糖あるいは物質で細胞表面の糖認識レセプターをあらかじめブロックした後、核酸の取り込みが減少するか否かを評価することで確認できる。 本発明の方法において用いる細胞接着促進剤とは、細胞接着を促す物質をいい、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチンなどの細胞接着タンパク質、あるいは細胞接着最小配列であるRGDアミノ酸配列単独およびそれらの配列を含む人工および天然化合物が挙げられる。RGD以外の細胞接着配列もこの目的に適応できる。RGD配列を認識するインテグリン以外の細胞表面レセプターに結合して、細胞接着と増殖を促す物質、例えば、細胞増殖因子、サイトカイン、ケモカイン、モノカイン、インターロイキン、オクルーディン、カドヘリン、ICAM、あるいは細胞間接着にかかわるデスモソーム、ヘミデスモソーム、タイトジャンクションなどに関係する物質などのタンパク質および類似の生物活性をもつペプチドなどの物質も、本発明において細胞接着促進剤として用いることができる。細胞接着促進剤の作用は、ポリイオンコンプレックスが固定化されている基材への細胞の接着を高めることである。このことにより、ポリイオンコンプレックスが固定化されている培養基材と細胞とがしっかりと接着し、培養基材と細胞との間の閉鎖空間で血清成分の影響を受けることなく核酸が細胞に効率よく取り込まれ、発現レベルが高まり、発現期間が延長される。血清の存在は細胞の生存と増殖にはポジティブに働き、細胞の状態を良好に保つ。 好ましい細胞接着促進剤の一例はプロネクチンである。プロネクチンとは、細胞接着に関与するアミノ酸配列であるRGD配列を多数もつ人工タンパク質である。以下の実施例に示されるように、培養基材上に結合させたプロネクチンの濃度が高くなるにつれ、トランスフェクションの効率が増大する。これは、プロネクチンのRGD配列を介して、細胞が培養プレートに強く接着するようになり、ポリイオンコンプレックスの細胞への取り込みが促進されるためだと考えられる。 本発明の方法において用いる培養基材としては、通常の細胞培養に用いられるプラスチック製の培養プレートや、他の汎用プラスチック、セラミクス、金属、ガラス、あるいはこれらの複合体などを用いることができる。核酸とカチオン化多糖とのポリイオンコンプレックスは、培養基材上に滴下するか、適当なスポッティングデバイスを用いて培養基材上にスポットし、風乾することにより、容易に培養基材上に固定化することができる。また、細胞接着促進剤も同様にして培養基材上に固定化することができる。ポリイオンコンプレックスと細胞接着促進剤とを加える順序、方法については特に限定されることはない。あるいは、ハイドロゲルを形成するような材料とともに、ポリイオンコンプレックスと接着性物質を組み合わせて用いる方法、あるいはポリイオンコンプレックスと接着性物質とを層状に塗りつけていく方法なども可能である。このようにしてポリイオンコンプレックスを固定化した培養基材上に細胞を播種して、適当な培地を加え、細胞の増殖に適した温度、例えば37℃で、2時間−2日間培養する。加えるポリイオンコンプレックスの量、濃度、培養条件については、用いる細胞の性質に応じて適宜選択することができる。 また、細胞培養法も本発明の核酸物質の細胞への取り込み、その生物活性の発現レベル、発現期間の延長に大きく影響する。培養液を静置した状態で培養する静置培養においても、本発明の効果は認められるが、細胞の状態を良好にする培養液を攪拌、振盪、循環するなどの培養法(攪拌培養、振盪培養、循環(パーフュージョン)培養)においては、本発明の効果がより高まることが見いだされた。培養液を動かすことによって、細胞への栄養、酸素の供給がよくなり、また、細胞の出す老廃物の細胞周辺部からの除去効果もよくなることで、細胞の生存、増殖状態がよくなることがその理由であると考えられる。培養液の動かし方は特に限定されるものではないが、細胞が剥離したり細胞に傷害を与えるような強い力がかかるような動きはよくなく、また、栄養、酸素の供給、老廃物の除去が効率よくできないような弱い動きでもよくない。つまり、細胞の状態をよくするための培養方法、培養装置(バイオリアクタ)と適宜組み合わせることが好ましい。 これに加えて、基材接着依存型の細胞では、細胞の増殖および生存には、接着するための基材が必要不可欠である。細胞の接着基材の表面積および細胞への栄養、酸素の供給、老廃物の除去効率の観点から、二次元のプラスチックシャーレに比べて、不織布(フェルト)やスポンジなどの三次元基材が好ましい。三次元基材を用いることによって、さらに本発明の核酸物質の取り込み促進とそれによる核酸の生物活性の増強が認められる。この増強効果は二次元基材に比較して大きい。また、これにバイオリアクタを組み合わせることによってさらに効果は高まる。これは、上述したように、細胞培養のための有効面積の増加と細胞周囲の培養液の動きが細胞の培養環境をよくしたことなどの理由により、細胞の培養状態がよりよくなったことが理由であると考えられる。 本発明の方法にしたがってトランスフェクションしうる細胞としては、通常の培養細胞であればいずれの細胞も用いることができる。また、その細胞の由来する動物種も限定されない。特に、幹細胞、例えば、胚性幹細胞に加えて、骨髄から採取できる造血系幹細胞、未分化間葉系幹細胞、あるいは脂肪、皮膚、筋肉、神経、肝臓、膵臓などの組織・臓器から採取できる組織幹細胞など、あるいは神経系細胞、リンパ球、樹状細胞、マクロファージ、ラングハンス細胞などの免疫細胞、軟骨細胞、上皮細胞、肝細胞などの成熟機能細胞および癌細胞などは、従来のトランスフェクション方法では核酸の取り込みの効率が低いことが知られているため、本発明のトランスフェクション法を適用するのに特に適している。 本発明において用いる核酸には、DNA、RNA、dsRNA、DNA−RNA複合体、PNA、ならびに、糖、リン酸または塩基に修飾を有するこれらの誘導体が含まれる。核酸の例としては、種々の疾患の治療に有用なタンパク質等をコードする遺伝子、これを含有するベクター、アンチセンスDNA、siRNA、およびデコイDNAを挙げることができる。疾患の治療に必要なタンパク質等をコードする遺伝子としては、ホルモン等の低分子量ペプチド、あるいはインターフェロン、インターロイキン、サイトカイン、ケモカイン、細胞成長因子あるいはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)類等のタンパク質、これらのタンパク質の生理活性部位の部分ペプチド等、またはこれらタンパク質およびペプチドの中和抗体およびレセプターのアゴニスト等の遺伝子が挙げられる。ホルモン等の低分子量ペプチドとしては、特に治療に好適なものであれば限定するものではないが、IFN等のものが挙げられる。細胞成長因子の例としては、hGH、EGF、NGF、HGF、FGF、HB−EGF、IGF等、およびこれらのフラグメント、例えばHGFの分子内断片であるNK4が挙げられる。 タンパク質をコードするDNAは、既知の配列に基づいてゲノムまたはcDNAライブラリからクローニングにより入手してもよく、化学合成により製造してもよい。タンパク質をコードするDNAは、導入された細胞内でそのタンパク質の機能が発現されることができるようにプラスミドベクター中に導入して用いる。プラスミドベクターは、細胞内でDNAが転写され、それにコードされるタンパク質が適切に発現されるような様式で配列された、プロモーター領域、開始コドン、終止コドンおよびターミネーター領域等を含む。このようなプラスミドベクターは、当分野において入手可能な発現ベクターに所望のDNAを適当な制限酵素部位を利用して挿入することによって容易に調製することができる。また、導入すべきDNAの塩基配列に基づいて、合成、半合成の手段により調製することも可能である。プラスミドベクター中のプロモーターの種類、開始コドン、終止コドン、ターミネータ領域は特に限定されるものではない。 本発明において用いられる核酸から発現されるタンパク質は、所望の活性を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されていてもよく、また同様に糖鎖が置換、欠失及び/又は付加されていてもよい。さらに、別のタンパク質またはそのフラグメントとの融合タンパク質として産生されてもよい。したがって、DNAはそのような改変型のタンパク質をコードするものであってもよい。このような改変型タンパク質をコードするDNAを部位特異的突然変異法、遺伝子組換え法または合成法により作製する方法は当該技術分野においてよく知られている。 さらに、本発明の方法は、細胞に特定の標的遺伝子を導入するのみならず、所望の機能を有する遺伝子の同定を目的として、遺伝子のライブラリを細胞に導入する場合にも用いることができる。具体的には、多種類の遺伝子をマイクロタイタープレートやマイクロアレイのフォーマットで培養基材に固定化し、この培養基材に細胞を播種してトランスフェクションを行った後に細胞の表現型を調べることにより、遺伝子の同定を行うことができる。 本発明の方法にしたがえば、通常のトランスフェクションに比べて遺伝子発現期間の延長が認められる。通常のトランスフェクションでは、導入すべき核酸を培地に添加し、一定時間培養した後に培地交換を行うため、培地中から核酸が失われてしまう。一方、本発明の方法では、細胞培養プレート表面にポリイオンコンプレックスが固定化され、その直上に細胞が存在する。そのため、常にポリイオンコンプレックスが細胞近傍に存在するために、細胞が遺伝子と接触する機会が多くなり、遺伝子導入および発現効率が高まる。加えて、細胞培養期間中に核酸が徐放されるため、遺伝子発現の期間も延長される。また、分裂してできた新たな細胞にも遺伝子を導入することができると考えられる。 このように、本発明の方法にしたがえば、血清成分の存在下で遺伝子を導入することにより、遺伝子に起因する毒性を低減することができるとともに、細胞培養プレート表面からポリイオンコンプレックスを徐放することにより、細胞を増やしながら同時に効率よく遺伝子を導入することができる。したがって、本発明の方法は、遺伝子細胞治療のための遺伝子導入法として有用であると考えられる。 以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。1.カチオン化プルランの作製 分子量47300のプルランを脱水ジメチルスルホキシドに溶解させ(50mg/DMSO 5ml)、N,N-カルボニルジイミダゾール(CDI)(225mg)を加えた。これを、スペルミンの脱水ジメチルスルホキシド溶液(1.97ml/DMSO4 3ml)に1滴ずつ加えていき、その後35℃で20時間撹拌させた。反応溶液を蒸留水に対して2日間透析、凍結乾燥することにより、スペルミン導入カチオン化プルランを得た。2.アニオン化ゼラチンの作製 ゼラチン(分子量100000、等電点 = 5.0)を脱水ジメチルスルホキシドに溶解させ(2g/DMSO 20ml)、無水コハク酸(60mg)を加えた。反応溶液を蒸留水に対して2日間透析、凍結乾燥することにより、アニオン化ゼラチンを得た。3.カチオン化プルランとプラスミドDNAとのポリイオンコンプレックス形成 ルシフェラーゼをコードするプラスミドDNAのPBS溶液(100μg/ml)とカチオン化プルラン水溶液(214μg/ml)とを等量混合し、室温で15分間静置することで両者のポリイオンコンプレックスを形成させた。カチオン化プルランとプラスミドDNAとの混合モル比(N/P比)を(カチオン化プルランのアミノ基モル数)/(プラスミドDNAのリン酸基モル数)と定義し、N/P比が3のポリイオンコンプレックスを形成させた。4.ラット骨髄由来幹細胞(MSC)の採取 ウイスターラット(3週齢、オス)の頚骨および大腿骨の両端をハサミで切断し、PBS1mlを注射針で骨髄腔内へ注入して、骨髄細胞成分を回収した。この骨髄細胞を、15vol%仔ウシ胎児血清(FCS)を添加した最少必須培地アルファ(α-MEM)5mlで培養し、2回継代したもの(P3)を以下の実験に用いた。5.細胞培養プレートのアニオン化ゼラチン/プロネクチンコーティング 100 μg/mlのアニオン化ゼラチン(100μl)および各種濃度のプロネクチンのPBS溶液100 μlを12ウェルプレートに塗布し、37℃で1時間インキュベートした。その後、PBSで洗浄した。6.カチオン化プルランを用いたトランスフェクション 上記のアニオン化ゼラチンとプロネクチンでコーティングした12ウェルプレートに、ルシフェラーゼ−プラスミドDNAとカチオン化プルランのポリイオンコンプレックス(50 μl、DNA 2.5 μg/ウエル)を塗布し、37℃で1時間インキュベートした。これに、5×104 個/ウエルのMSCを播種し、15%FCSを加えたα-MEM中にて、5%CO2、95%空気、37℃で2、4、6、7日間培養した。 対照として、従来法によるトランスフェクションを行った。12ウェルプレートに、5×104 個/ウエルのMSCを播種し、15%FCSを含むα-MEM中にて、5%CO2、95%空気、37℃で24時間培養した。血清を含まないα-MEM培地もしくは15%FCSを含むα-MEM培地に交換した後、ルシフェラーゼ−プラスミドDNAとカチオン化プルランのポリイオンコンプレックス(50 μl、DNA 2.5 μg/ウエル)を培養液に加えて6時間培養した。次に、培地を15%FCSを含むα-MEMに交換し、1、3、5、7日間培養を続けた。 培地を除去し、細胞をPBSでよく洗浄した後、細胞溶解液(Promega Luciferase Cell Culture Lysis 5x Reagent; 125mM Tris, 10mM CDTA, 10mM DTT, 50% グリセロール, 5% Triton(登録商標)X-100)を加え、細胞を溶解させた。細胞溶解液中のルシフェラーゼタンパク質の化学発光を測定することによって、遺伝子発現を定量した。また、Bicinchoninate(BCA)法によって細胞溶解液中の総タンパク質量を測定した。 結果を図1および図2に示す。図1から、コーティングしたプロネクチンの濃度が高くなるにつれて、トランスフェクションの効率が高くなり、血清の存在下でも高い遺伝子発現が得られることがわかる。また、図2に示されるように、カチオン化プルランを用いるリバーストランスフェクション法によれば、従来法と比較して長い時間遺伝子発現が得られた。7.PET不織布上でのトランスフェクション 繊維径22 μmのポリエチレンテレフタレート(PET)不織布を直径6 mmの円形に打ち抜き、メタノールおよび純水で超音波洗浄した後、70%エタノールで洗浄することにより滅菌し、さらにPBSおよび培地で洗浄した。これをポリプロピレンチューブに入れ、1×106 cells/mlのMSC懸濁液500 μlを加え、オービタルシェーカーで37℃、300 rpmで6時間振盪播種した。次に6ウェルプレートに移しα-MEM-FCS培地を6 ml加え、さらに18時間、静置培養、またはオービタルシェーカーによる振盪培養(50 rpm)で培養した。培地を無血清培地に交換し、ルシフェラーゼ−プラスミドDNAとカチオン化プルランのポリイオンコンプレックス200 μl(DNA 10 mg/不織布)を加えて6時間、静置培養、または振盪培養(50 rpm)で培養した。次に、培地をα-MEM-FCSに交換し、1、4、7日間、静置培養、または振盪培養(50 rpm)で培養を続けた。培養後、培地を除去、細胞をPBSでよく洗浄した後、細胞溶解液を加え、細胞を溶解させた。細胞溶解液中のルシフェラーゼタンパク質の化学発光を測定することによって、遺伝子発現を定量した。また、Bicinchoninate(BCA)法によって細胞溶解液中の総タンパク質量を測定した。8.PET不織布のアニオン化ゼラチン/プロネクチンコーティング 繊維系22 μmのポリエチレンテレフタラート(PET)不織布を直径6 mmの円形に打ち抜き、メタノールおよび純水で超音波洗浄したのち、70%エタノールで洗浄することにより滅菌した。これをPBSで洗浄し、エッペンドルフチューブ中で100 μg/mlのアニオン化ゼラチン、200 μg/mlのプロネクチンの混合溶液200 μlに浸し、37℃で1時間インキュベートした。その後PBSで洗浄した。9.PET不織布上でのリバーストランスフェクション 上記のアニオン化ゼラチンとプロネクチンでコーティングしたPET不織布を、エッペンドルフチューブ中で、ルシフェラーゼ−プラスミドDNAとカチオン化プルランのポリイオンコンプレックス200 μl(DNA 10 μg/不織布)に浸し、37℃で2時間インキュベートした。これを培地で洗浄したのちポリプロピレンチューブに移し、1×106 cells/mlのMSC懸濁液500 μlを加え、オービタルシェーカーで37℃、300 rpmで6時間振盪播種した。これを6ウェルプレートに移しα-MEM-FCS培地を6 ml加え、静置培養、または振盪培養(50 rpm)で2、5、8日間培養した。培養後、培地を除去、細胞をPBSでよく洗浄した後、細胞溶解液を加え、細胞を溶解させた。細胞溶解液中のルシフェラーゼタンパク質の化学発光を測定することによって、遺伝子発現を定量した。また、Bicinchoninate(BCA)法によって細胞溶解液中の総タンパク質量を測定した。 結果を図3に示す。カチオン化プルランを用いたリバーストランスフェクションを、PET不織布を用いた三次元培養にも応用することができた。通常の、カチオン性高分子とプラスミドDNAのポリイオンコンプレックスを培地に添加するトランスフェクションでは、血清成分の存在下では遺伝子発現が低下することが知られている。しかし、PET不織布上でのリバーストランスフェクションでは、血清存在下でも、無血清培地を用いる通常のトランスフェクションよりも高い遺伝子発現活性が得られた。さらに、リバーストランスフェクションでは、通常のトランスフェクションに比べて遺伝子発現期間の延長が認められた。 また、振盪培養することにより静置培養よりも高い遺伝子発現活性が得られた。振盪培養することにより、酸素や栄養分を細胞に効率よく供給できるようになるため、静置培養よりも細胞の増殖が良くなることが知られている。そのため、高い遺伝子発現を得るためには、細胞を効率よく増やすことが重要であると考えられる。 このリバーストランスフェクションを用いた三次元培養では、血清の存在下でも行うことができ、さらにバイオリアクターへも応用できるため、細胞を効率よく増やすことができる。それと同時に効率よく遺伝子を導入することができるため、リバーストランスフェクションは遺伝子細胞治療のための遺伝子導入法として有用であると考えられる。 本発明の方法は、基礎生物医学研究、遺伝子治療、細胞移植治療、再生医療等に有用である。図1は、カチオン化プルランを用いてリバーストランスフェクションを行った細胞における遺伝子発現を示す。図2は、カチオン化プルランを用いてリバーストランスフェクションを行った細胞における遺伝子発現の経時変化を示す。図3は、カチオン化プルランを用いてPET不織布上でリバーストランスフェクションを行った細胞における遺伝子発現を示す。細胞に核酸を導入する方法であって、培養基材上に核酸とカチオン化多糖とのポリイオンコンプレックスおよび細胞接着促進剤を固定化し、前記培養基材上で細胞を培養することにより核酸を細胞に取り込ませることを含む方法。カチオン化多糖がカチオン化プルラン、カチオン化デキストランまたはカチオン化マンナンである、請求項1記載の方法。細胞に核酸を導入するための培養基材であって、培養基材の上に核酸とカチオン化多糖とのポリイオンコンプレックスおよび細胞接着促進剤が固定化されていることを特徴とする培養基材。カチオン化多糖がカチオン化プルラン、カチオン化デキストランまたはカチオン化マンナンである、請求項3記載の培養基材。 【課題】 細胞に核酸を効率的に導入するための新規な方法ならびにこの方法に用いる培養基材を提供すること。【解決手段】 細胞に核酸を導入する方法であって、培養基材上に核酸とカチオン化多糖とのポリイオンコンプレックスと、細胞になじみのよい生理条件で細胞をしっかりと細胞培養基材に接着させるための細胞接着促進剤とともに固定化し、この培養基材上で細胞を培養することにより核酸を細胞に取り込ませることを特徴とする方法が開示される。また、培養基材の上に核酸とカチオン化多糖とのポリイオンコンプレックスおよび細胞接着促進剤が固定化されている培養基材も提供される。【選択図】 図2


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