生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_膵臓癌発生抑制剤
出願番号:2005301201
年次:2007
IPC分類:A61K 31/702,A61P 43/00,A61P 35/00,A61P 1/18,C07H 3/06,C07H 7/033


特許情報キャッシュ

堤 雅弘 出川 洋子 合屋 道士 柴沼 清 JP 2007106724 公開特許公報(A) 20070426 2005301201 20051017 膵臓癌発生抑制剤 三和澱粉工業株式会社 591173213 風早 信昭 100103816 浅野 典子 100120927 堤 雅弘 出川 洋子 合屋 道士 柴沼 清 A61K 31/702 20060101AFI20070330BHJP A61P 43/00 20060101ALI20070330BHJP A61P 35/00 20060101ALI20070330BHJP A61P 1/18 20060101ALI20070330BHJP C07H 3/06 20060101ALI20070330BHJP C07H 7/033 20060101ALN20070330BHJP JPA61K31/702A61P43/00 111A61P35/00A61P1/18C07H3/06C07H7/033 6 10 OL 15 4C057 4C086 4C057BB02 4C057BB04 4C057EE03 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA01 4C086MA01 4C086MA02 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA66 4C086ZB26 4C086ZC75 本発明は、難消化性の中性オリゴ糖を有効成分とする膵臓癌発生抑制剤に関する。 我が国の悪性腫瘍を原因とする死亡は、全国統計(2000年)では約300,000人であり、そのうち膵臓癌は6.5%(19,000人)を占める。悪性腫瘍死因における膵臓癌の順位は肺癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌についで第5位であるが、発生数は年々ごく緩やかに増加している。 膵臓は外分泌腺と内分泌腺の入り混じった特異な臓器であるが、発生学的には内胚葉(前腸)由来であるため、膵原基の細胞は内及び外分泌腺の両方へ分化する能力を持ち、膵臓の再生過程においても両者の腺が再生する。こうした特異な性質のために、膵臓では様々な形態を持つ特異な腫瘍(癌)が発生する。ほとんどの臓器では細胞の数として最も多い実質細胞から腫瘍が発生することが多いが、ヒトの膵臓では細胞の数としては少ない膵管細胞から発生する腫瘍の頻度が高い。 更に、この発生の違いは動物種間で明らかな差がある。ヒトやハムスターでは、大部分が膵管で腫瘍が発生するが、ラットやマウスでは大部分が腺房細胞で腫瘍が発生している。このように、膵臓は特異な臓器で、そこに発生する腫瘍も特異な存在であるといえる。 膵臓は消化管のような内視鏡検査や生検による検索が出来ないことから腫瘍の早期発見が難しい。また、膵臓に発生する腫瘍は小さなうちから他の臓器に拡がり、転移を起こしやすいという性質があることもあり、外科手術ができたとしても小さな腫瘍が他の臓器に浸潤し、あるいは転移していることが多く、再発することが少なくない。更に、膵臓癌の有効な治療法は、外科切除術以外は確立されておらず、この点からも、その診断法と治療法の検討が盛んに行われている。こうした背景から、膵臓癌の発生を抑制する薬剤の提供は医療分野において強く待ち望まれている。 膵臓における癌の発生過程については、従来より動物実験系を用いて研究が行われてきている。例えば、ラットにアザセリンなどの発癌物質を与えると腺房細胞癌が発生し、ハムスターにニトロソ化合物を与えると膵管癌が発生する。これら動物に発生する膵臓癌はヒトのそれと病理組織学的な形態が非常に類似している。 ラットの腺房細胞癌とハムスターの膵管癌は、形態観察結果からそれぞれ腺房細胞過形成、膵管上皮過形成がその発生母地として提示されている。ただ、一般臓器では、その臓器で最も多い実質細胞より癌が発生すると考えられることから、膵実質の構成細胞として少ない膵管上皮からの発生に対して疑問が唱えられていた。また、膵細胞が多分化能を持ち、容易に分化方向を変化し得るだろうとの考えもこの疑問を補足していた。こうした疑問に対しそれぞれの立場から試験結果が提示されている。 例えばPourらやBockmanらは、それぞれ動物試験の結果から、ランゲルハンス島細胞や腺房細胞が膵管に転移分化している可能性を指摘している(非特許文献1及び2)。 しかし近年、N−ニトロソ化合物を投与したハムスターの膵管病変の発生を経時的に観察した病理組織学的検索と分子生物学解析(ヒトやハムスターの膵管発癌過程で高頻度に検出されるK−ras遺伝子変異の調査)結果からは、膵管癌が膵管上皮由来である可能性が高いことがわかってきている(非特許文献3)。 このように、現時点では未だ膵臓の腫瘍(癌)発生の過程が解明されつつある状況にすぎず、膵臓の腫瘍発生の原因物質(発癌物質)やその働きを抑制する薬剤は未だ発見されていない。Schmied B.et al,Carcinogenesis,20,317-324(1999)Bockman D.E.,Guo J.et al,Lab Invest. 83,853(2003)Tsutsumi M.et al,Jpn J Cancer Res,84,1101(1993) 本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、膵臓癌の発生を抑制する薬剤を提供することを目的とする。 本発明者は、膵管癌の発生の前段階における、膵液の変異原性の増加に注目し、膵液の変異原性を増加させる化学物質を検索したところ、K−ras遺伝子変異を誘発して膵管癌を発生することが知られるN−ニトロソビス(2−オキサプロピル)アミン(BOP)により膵液の変異原性が増加することを確かめた。さらに、BOPのような化学合成物質ではなく、自然界で存在し得る膵液の変異原性増加物質を検索したところ、二次胆汁酸であるデオキシコール酸やリトコール酸が膵液の変異原性を増加させることを見出した。 デオキシコール酸やリトコール酸は一次胆汁酸の成分であるコール酸がある種の腸内細菌によって変異したものである。本発明者は体内でデオキシコール酸やリトコール酸の生成を抑制しうる及び/又は生成したデオキシコール酸やリトコール酸の膵液の変異原性増加作用を緩和しうる条件についてさらに検討したところ、難消化性の中性オリゴ糖を投与して腸内環境を整えることでデオキシコール酸やリトコール酸の生成を抑制し及び/又は生成したデオキシコール酸やリトコール酸の膵液の変異原性増加作用を緩和し膵臓癌の発生を抑制することができることを見出し、遂に本発明を完成させるに到った。 即ち、本発明によれば、難消化性の中性オリゴ糖を有効成分として含有することを特徴とする膵臓癌発生抑制剤が提供される。 本発明の膵臓癌発生抑制剤の好ましい態様によれば、難消化性の中性オリゴ糖は糖組成としてキシロース及び/又はアラビノースを含む。本発明の膵臓癌発生抑制剤の好ましい態様によれば、難消化性の中性オリゴ糖の膵臓癌発生抑制作用を増幅する成分として、難消化性の中性オリゴ糖(好ましくはキシロースを構成糖とするもの)に弱酸(好ましくはウロン酸又はフェノール酸、特にグルクロン酸)が結合された難消化性の酸性オリゴ糖をさらに含む。 本発明の膵臓癌発生抑制剤の有効成分である難消化性の中性オリゴ糖は、腸内細菌叢を調整して腸内環境を整える効果を有するもの、つまりBifidobacterium(ビフィズス菌)等の善玉菌を増加させかつClostridium等の悪玉菌を抑制する効果を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖、アラビノオリゴ糖、アラビノキシロオリゴ糖、アラビノガラクトオリゴ糖、ガラクトマンノオリゴ糖、マンノオリゴ糖、グルコマンノオリゴ糖等、特にキシロース及び/又はアラビノースを糖組成に含むキシロオリゴ糖、アラビノオリゴ糖、アラビノキシロオリゴ糖を用いることができる。 かかる難消化性の中性オリゴ糖は従来公知のいかなる方法でも製造することができるが、例えば特開平11−313700号公報に記載されているように、多糖を含む天然原料(例えばコーンスターチ製造時の副産物であるトウモロコシの種皮等)を酸及び/又は酵素で加水分解して多糖をオリゴ糖に変換することによって得ることができる。加水分解物には目的とする中性オリゴ糖に加えて単糖や酸性オリゴ糖も通常含まれているので、適当な方法で中性オリゴ糖のみを分離抽出して用いればよい。 また、本発明の膵臓癌発生抑制剤は難消化性の中性オリゴ糖の膵臓癌発生抑制作用を増幅する成分として、基本骨格である難消化性の中性オリゴ糖に弱酸が結合されている難消化性の酸性オリゴ糖をさらに含んでいてもよく、具体的には難消化性の中性オリゴ糖の一部を難消化性の酸性オリゴ糖で置換してもよい。かかる難消化性の酸性オリゴ糖は上述のように多糖を含む天然原料の酸及び/又は酵素による加水分解工程の副生成物として得ることができる。天然原料に含まれる多糖には通常、一定量の弱酸が結合されているからである。 本発明の膵臓癌発生抑制剤で用いる難消化性の酸性オリゴ糖では、基本骨格である難消化性の中性オリゴ糖に結合される弱酸は、ヒトの体内に摂取・吸収されても安全な弱酸ならいかなる弱酸であることもできるが、弱酸が結合された多糖を含む天然原料からの加水分解により酸性オリゴ糖を得る場合、弱酸は通常、グルクロン酸、4−0−メチルグルクロン酸、ガラクツロン酸等のウロン酸又はフェルラ酸、コマール酸等のフェノール酸であり、特にグルクロン酸である。弱酸が結合される難消化性の中性オリゴ糖は通常、キシロースである。弱酸のオリゴ糖への結合様式は通常、弱酸残基がオリゴ糖の側鎖として存在する様式であると考えられる。また、弱酸のオリゴ糖の構成単糖に対する結合比率は通常、1/2以下である。難消化性の酸性オリゴ糖の難消化性の中性オリゴ糖への配合比率は特に限定されないが、難消化性の中性オリゴ糖90〜10重量%に対して難消化性の酸性オリゴ糖10〜90重量%を配合することが好ましい。 本発明の膵臓癌発生抑制剤で用いる難消化性の中性又は酸性オリゴ糖の平均重合度は、オリゴ糖の重合度として通常規定される範囲(二から十数)であればいずれの値でもよいが、得られるオリゴ糖の粘度の低さ及び取扱いの容易さの観点からは平均重合度は2〜10であることが好ましい。平均重合度のさらに好ましい範囲は2〜8であり、特に好ましい範囲は2〜7である。難消化性オリゴ糖の平均重合度の制御は当業者には周知であるのでここでは詳細に述べないが、例えば多糖を含む天然原料からの加水分解によりオリゴ糖を得る場合、オリゴ糖の平均重合度の制御は加水分解時間や加水分解時の反応溶液のpHを適宜調節することによって行うことができる。なお、本発明において「難消化性」とは、消化液で実質的に分解されず、従って小腸で吸収されずにそのまま大腸に到達する程度の消化性しか有さないことを意味する。 本発明の膵臓癌発生抑制剤は、公知の医薬用担体もしくは賦形剤と組合せて医薬品とすることができるし、又は公知の食品もしくは飲料に添加して膵臓癌の発生を抑制する食品もしくは飲料とすることができる。本発明の膵臓癌発生抑制剤はその作用効果のメカニズムを考慮すると経口投与することが好ましい。本発明の膵臓癌発生抑制剤の投与量はその製剤形態、投与方法及び投与対象の患者の年齢、体重、症状等によって適宜設定され、一定ではないが、一般的には有効成分である難消化性の中性オリゴ糖の量が成人1日当たり1mg〜10g/kgである。もちろん、投与量は種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、上記投与量を超えて必要な場合もある。 本発明の膵臓癌発生抑制剤において、難消化性の中性オリゴ糖が膵臓癌発生抑制効果を奏する理由は、難消化性の中性オリゴ糖を投与することにより対象の腸内環境が整えられ、つまりビフィズス菌等の善玉菌が増加しかつClostridium等の悪玉菌が抑制され、これにより膵臓癌発生の原因物質であるデオキシコール酸やリトコール酸の生成が体内で抑制される及び/又は生成したデオキシコール酸やリトコール酸の膵臓癌発生作用が緩和されることにあるものと以下の実施例の結果から推定される。 以下、本発明の膵臓癌発生抑制剤で用いる難消化性の中性オリゴ糖の製造方法を製造例1により例示し、本発明の膵臓癌発生抑制剤で用いる難消化性の酸性オリゴ糖の製造方法を製造例2により例示する。次に、難消化性の中性オリゴ糖がビフィズス菌増殖作用等の腸内環境を整える効果を有すること、及び難消化性の酸性オリゴ糖が難消化性の中性オリゴ糖のビフィズス菌増殖作用を増幅することを検証試験1及び2により具体的に示す。さらに、本発明の膵臓癌発生抑制剤の膵臓癌発生抑制効果を検証試験3〜5により具体的に示す。なお、実施例の記載は純粋に発明の理解のためのみに挙げるものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。製造例1:難消化性の中性オリゴ糖の製造例 トウモロコシの種皮を、特開平11−313700号公報に例示されている方法に従って酸分解した。具体的には、トウモロコシの種皮にシュウ酸を添加してpHを2付近に調整し、130℃で30分〜3時間の適当な時間加圧分解して分解糖液を得た。得られた分解糖液を細胞壁分解酵素処理後、活性炭処理し、イオン交換樹脂に通液し、さらにCa型配位子交換樹脂に通液して、酸性成分(酸性オリゴ糖)、中性のアラビノキシロオリゴ糖、アラビノースやキシロース等の単糖類の順に溶出させた(図1)。このうちアラビノキシロオリゴ糖を抜出し、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合床に通液して、アラビノキシロオリゴ糖(AXO)を得た(図2)。 アラビノキシロオリゴ糖の糖組成を、その硫酸分解物の陰イオン交換液体クロマトグラフィー分析(Dionex社製)によって調べたところ、キシロースとアラビノースを主成分としたヘテロオリゴ糖(難消化性の中性オリゴ糖)であることがわかった(表1)。製造例2:難消化性の酸性オリゴ糖の製造例 トウモロコシの種皮を、特開平11−313700号公報に例示されている方法に従って酸分解した。具体的には、トウモロコシの種皮にシュウ酸を添加してpHを2付近に調整し、130℃で30分〜3時間の適当な時間加圧分解して分解糖液を得た。得られた分解糖液を細胞壁分解酵素処理後、活性炭処理し、イオン交換樹脂に通液し、さらにCa型配位子交換樹脂に通液し、酸性成分を主成分とする糖鎖混合液を得た。この糖液をアニオン交換樹脂に通液し、酸性成分を吸着させ、4%NaClで脱離後、ゲル濾過で脱塩して高純度の酸性成分(酸性オリゴ糖)AO99を得た(図3)。 このオリゴ糖糖液の構成糖を調べたところ、10%のグルクロン酸を含むヘテロ糖鎖(難消化性の酸性オリゴ糖)であることがわかった(表2)。 この酸性オリゴ糖には若干(0.3%程度)のフェノール酸も認められた(図4)。 主鎖となるキシロオリゴ糖(アラビノースも平均で0.1個結合)の重合度は平均で5であり、これにグルクロン酸が平均で2個結合した構造を持っていた(図5)。検証試験1:in vitroでのビフィズス菌増殖作用検証試験 製造例1で得られたアラビノキシロオリゴ糖(AXO)(難消化性の中性オリゴ糖)と製造例2で得られた難消化性の酸性オリゴ糖(AO99)のビフィズス菌を含む各種腸内細菌に対するin vitroでの資化性(資化選択性)試験を行った。また、混合例として、難消化性の酸性オリゴ糖を34%とアラビノキシロオリゴ糖等の難消化性の中性オリゴ糖を66%含む混合品(AO34)の資化選択性も調べた。試験方法 予備培養後の各腸内細菌を各種精製オリゴ糖を炭素源とした液体培地に植菌し、37℃、48時間後の培地のpHを測定して調べた。結果 難消化性の中性オリゴ糖であるアラビノキシロオリゴ糖は善玉菌であるビフィズス菌(Bifidobacterium)に対する資化選択性を示したが、難消化性の酸性オリゴ糖であるAO99はビフィズス菌を含むいずれの菌に対してもほとんど資化性を示さなかった(表3)。また、難消化性の中性オリゴ糖と難消化性の酸性オリゴ糖の混合品AO34は難消化性の中性オリゴ糖と同様にビフィズス菌に対する資化選択性を示した。この結果から、難消化性の中性オリゴ糖にはビフィズス菌増殖作用があるが、難消化性の酸性オリゴ糖にはビフィズス菌増殖作用がないこと、難消化性の中性オリゴ糖と難消化性の酸性オリゴ糖を混合した混合品はビフィズス菌増殖作用を有することがわかる。検証試験2:in vivoでの腸内環境調整作用の検証試験 製造例1で得られたアラビノキシロオリゴ糖(AXO)(難消化性の中性オリゴ糖)と、このアラビノキシロオリゴ糖に製造例2で得られた難消化性の酸性オリゴ糖(AO99)を75%混合した混合品(AO75)をラットに摂取させ、その腸内環境調整作用を調べた。試験方法 4週齢のWistar Hanovar GALAS雄ラットを市販固形飼料にて5日間予備飼育後、平均体重が同じになるように1群6匹(n=6)で3群に分け、4週間ラットに飼料と水を自由摂取させた後、解剖に供した。飼育環境は、温度23±1℃、相対湿度30〜50%、明暗周期12時間の条件とした。製造例1で得られたアラビノキシロオリゴ糖(AXO)を1%含有する飼料を摂取させた群をAXO 1%群(単にAXO群とも称する)とし、製造例1で得られたAXOに製造例2で得られた酸性オリゴ糖(AO99)を75%混合した混合品(AO75)を1%含有する飼料を摂取させた群をAO75 1%群(単にAO75群とも称する)とし、AXOやAO75をセルロースに置換えた飼料を摂取させた群をコントロール群とした。 飼育期間中は、体重、飼料摂取量を週に3回測定した。 ラットの解剖は、一昼夜絶食後、エーテル麻酔下で行い、門脈、腹部大動脈から採血して失血死させ、肝臓、腎臓、盲腸を摘出し、各臓器の重量を測定するとともに、盲腸内pHを測定した。 盲腸内容物菌叢の同定は、同内容物を懸濁、希釈した後、2種の非選択培地、4種の選択培地にそれぞれ塗布し、好気、嫌気各条件下で培養後、選択培地に生育したコロニー数を計数するとともに、非選択培地に生育したコロニーについて、グラム染色、好気生育テスト等を行い、菌叢を同定した。結果 体重及び飼料摂取量は、コントロール群とAXO群、AO75群間に差は見られず(表4)、肝臓、腎臓重量にも差は見られなかったが(表5)、AXO群、AO75群ともコントロール群と比べて盲腸重量が有意に増加し、盲腸内pHも低下傾向を示した(表5)。このことから、AXO群、AO75群では盲腸内細菌が活発化したと考えられる。 また、盲腸内容物菌叢については、AXO、AO75摂取により、盲腸内総菌数が増加し、特に、ビフィズス菌(Bifidobacterium)の菌数が数百倍から数千倍に増加し(データは示さず)、占有率(%)が数百倍に増加し(図6)、AXO、AO75にビフィズス菌を増殖させる作用があることが認められた。検証試験1及び2についての考察 検証試験2から、難消化性の中性オリゴ糖を1%投与した場合(AXO 1%群)と、難消化性の中性オリゴ糖を0.25%、難消化性の酸性オリゴ糖を0.75%投与した場合(AO75 1%群)とでは、腸内環境調整作用(ビフィズス菌増殖作用)に差は認められなかった。つまり、難消化性の中性オリゴ糖の添加量の3/4を難消化性の酸性オリゴ糖に置き換えても、難消化性の中性オリゴ糖のみを添加したときとほぼ同じ効果が得られた。 通常、難消化性の中性オリゴ糖の腸内環境調整作用効果は添加量にある程度依存するため、難消化性の中性オリゴ糖の添加量を1/4に減らすと、その腸内環境調整効果も1/4程度に低下すると考えられる。従って、検証試験2で難消化性の中性オリゴ糖を減らし、その分難消化性の酸性オリゴ糖を増やしてもその効果が変わらないのは、難消化性の酸性オリゴ糖それ自体にも腸内環境調整作用があるか、それとも難消化性の酸性オリゴ糖に他のオリゴ糖の腸内環境調整作用を増幅する働きがあるかどちらかである。ここで、検証試験1で、難消化性の酸性オリゴ糖自体には資化性、つまり腸内環境調整作用がないことが分かっている。従って、この試験の結果は、難消化性の酸性オリゴ糖が他のオリゴ糖の腸内環境調整作用(ビフィズス菌増殖作用)を増幅する働きを示したためであると考えられる。以上の結果から、難消化性の酸性オリゴ糖自体は腸内環境調整作用(ビフィズス菌増殖作用)を有さないが、難消化性の中性オリゴ糖と組合せて投与すると難消化性の中性オリゴ糖の腸内環境調整作用(ビフィズス菌増殖作用)を増幅する働きがあることは明らかである。検証試験3:膵臓癌の発生メカニズムの解析 ヒトの膵臓では膵管細胞から腫瘍が発生する頻度が高い。小動物では、ハムスターはヒトと同様に膵管細胞から、ラットは腺房細胞からそれぞれ腫瘍が発生する。そこで、膵臓癌の発生メカニズムを解析するためにハムスターとラットに発癌性の高い化学物質であるBOPを投与して膵液の変異原性を調査した。試験方法 ハムスターとラットそれぞれ10匹について、胆管と膵管を十二指腸乳頭部で結紮し、胆管より膵管までチューブを挿入した(図7)。胆汁が混入しないように胆管をチューブ挿入部より上方で結紮し、チューブ挿入時の胆汁の混じった液は捨てた。BOPを各動物体重kg当たり400mgの割合で静脈注射し、膵液の分泌を促進させるためにセクレチンを静脈注射し、BOP投与後5時間にわたって膵液を採取した(BOPi.v.膵液)。採取した膵液とアルキル化高感受性菌株であるサルモネラYG7108株を混合し、37℃で1時間インキュベーションした後、寒天培地に塗布して変異原性を調べた。また、比較のため、BOPを投与していないハムスター及びラットから膵液(正常な膵液)を採取し、同様にして変異原性を調べた。さらに、コントロールとして膵液を全く混合しない場合の変異原性を調べた。結果 ハムスターでは膵液の変異原性が正常な膵液及びコントロールに比べ約20倍増加した(図8左)。一方、ラットではBOPを与えても膵液の変異原性に変化が無かった(図8右)。この結果から、膵液の変異原性が膵管細胞からの腫瘍発生の直接的な原因であると考えられる。検証試験4:膵臓癌を発生する変異原性物質の検索 検証試験3で用いたBOPは化学合成物質であり、ヒトの体内で生じることはないことから、内分泌物で変異原性のある物質の検索を行ない、大腸癌の原因物質の一つと言われる二次胆汁酸(デオキシコール酸やリトコール酸)の影響を調べることにした。二次胆汁酸は、胆嚢より胆管を通って十二指腸に分泌された胆汁酸(一次胆汁酸(コール酸))が回腸の門脈で回収され再利用(腸管循環)される過程で、腸内細菌によって一部化学変化したものである。そこで、二次胆汁酸が膵管における腫瘍発生の原因であると考え、二次胆汁酸であるデオキシコール酸とリトコール酸をハムスターとラットの小腸内へそれぞれ投与して、膵液の変異原性を調査した。試験方法 ハムスターとラットそれぞれ10匹にデオキシコール酸を体重kg当たり400mgの割合で小腸内へ投与して、投与後6時間にわたって検証試験3と同じ手法で膵液を採取し(DCAi.g.膵液)、検証試験3と同じ手法(ただし、膵液と細菌のインキュベーション時間は20分)でその変異原性を調べた。また、リトコール酸についてもデオキシコール酸と同様にハムスターとラットそれぞれ10匹に投与して膵液を採取し、その変異原性を調べた。結果 ハムスターの膵液ではデオキシコール酸(DCA)投与で変異原性が正常な膵液及びコントロールに比べ約6倍に増加した(図9左)。一方、ラットの膵液では変異原性の変化は見られなかった(図9右)。リトコール酸についても、ハムスターの膵液でのみ約3倍、変異原性が増加した(データは示さず)。この結果から、二次胆汁酸であるデオキシコール酸やリトコール酸が、ヒトやハムスター等の膵管細胞から腫瘍を発生する動物において膵液の変異原性を増加させる原因であると考えられる。また、その詳しいメカニズムについて検討したところ、膵管は胆管と近接していることから胆管に分泌された胆汁酸の一部が膵管へ逆流する可能性があるが、門脈から回収された胆汁酸の一部は血中に取り込まれることから、血管を通して膵臓に分泌される可能性もある。今回の試験では、胆管からの混入のないような設定を行ったため、後者(門脈から回収された二次胆汁酸の血管を通した膵臓への分泌)を原因として膵液の変異原性が増加したものと考えられる。検証試験5:内因性発癌性物質の抑制試験 腸内環境を調整する作用を有するオリゴ糖を与えることで、デオキシコール酸投与による膵液の変異原性増加が抑制できるかどうか調査した。また、胆汁酸中のコール酸をデオキシコール酸やリトコール酸に化学変化させるのは、腸内細菌叢中のEubacteriumやClostridiumであると言われているので、かかるオリゴ糖を与えることで腸内細菌叢中のEubacteriumやClostridiumの量を減少させることができるかどうかも調査した。試験方法 製造例1で得られたAXO、及び製造例1で得られたAXOと製造例2で得られたAO99の混合物(AO75)は共に、腸内環境調整作用があることは、検証試験1と検証試験2で確かめている。この二つのオリゴ糖(AXO、AO75)をそれぞれ1%含有する飼料をハムスターそれぞれ10匹に4週間摂取させた。また、比較のため、AXOやAO75をセルロースに置換えた飼料(基礎食)をハムスター10匹に4週間摂取させた。 その後、検証試験4と同様にデオキシコール酸を体重kg当たり400mgの割合で小腸内へ投与し(DCAi.g.膵液)、デオキシコール酸投与後5時間にわたって検証試験3と同じ手法で膵液を採取し、その変異原性を調べた。その後、ハムスターを解剖し、検証試験2と同じ手法で盲腸内細菌叢を調べた。結果 膵液の変異原性については、両オリゴ糖摂取群とも基礎食を摂取させた群と比較してデオキシコール酸投与による変異原性を50%以下に抑制していた(図10)。このことから、腸内環境を調整する作用を有するオリゴ糖を投与することでデオキシコール酸による膵液の変異原性増加作用を緩和することができることがわかる。また、リトコール酸についても同様に腸内環境を調整する作用を有するオリゴ糖を投与することでリトコール酸による膵液の変異原性増加作用を緩和することができるものと考えられる。 また、盲腸内細菌叢については、両オリゴ糖摂取群では基礎食群と比較してLactobacillusやBifidobacterium等の善玉菌の増加は特に認められなかったが、デオキシコール酸やリトコール酸の産生に関与するといわれるClostridiumやEubacteriumが減少していた(表6)。このことから、腸内環境を調整する作用を有するオリゴ糖を投与することで体内におけるデオキシコール酸やリトコール酸の生成を抑制することができると考えられる。結論 以上のように、難消化性の中性オリゴ糖単独又は難消化性の中性このオリゴ糖と難消化性の酸性オリゴ糖の混合物を摂取させて腸内環境を調整することにより、膵臓癌発生の可能性を低減できることは明らかである。トウモロコシ種皮酸分解物のHPLC分析結果を示す。アラビノキシロオリゴ糖のHPLC分析結果を示す。酸性オリゴ糖の精製結果を示す。酸性オリゴ糖中のフェノール酸を示す。酸性オリゴ糖の基本構造を示す。AXO及びAO75摂取による盲腸内細菌叢への効果を示す。膵液の採取方法を示す。BOP投与(400mg/kg i.v.)によるハムスター、ラット膵液の変異原性の変化を示す。デオキシコール酸投与(400mg/kg i.g.)によるハムスター、ラット膵液の変異原性の変化を示す。AXO及びAO75を摂取したハムスターのデオキシコール酸投与(400mg/kg i.g.)後の膵液の変異原性の変化を示す。 難消化性の中性オリゴ糖を有効成分として含有することを特徴とする膵臓癌発生抑制剤。 難消化性の中性オリゴ糖が糖組成としてキシロース及び/又はアラビノースを含むことを特徴とする請求項1に記載の膵臓癌発生抑制剤。 難消化性の中性オリゴ糖の膵臓癌発生抑制作用を増幅する成分として、難消化性の中性オリゴ糖に弱酸が結合した難消化性の酸性オリゴ糖をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の膵臓癌発生抑制剤。 弱酸がウロン酸又はフェノール酸であることを特徴とする請求項3に記載の膵臓癌発生抑制剤。 弱酸が結合される難消化性の中性オリゴ糖がキシロースであることを特徴とする請求項3又は4に記載の膵臓癌発生抑制剤。 ウロン酸がグルクロン酸であることを特徴とする請求項4又は5に記載の膵臓癌発生抑制剤。 【課題】 膵臓癌の発生を抑制する薬剤を提供する。【解決手段】 難消化性の中性オリゴ糖を有効成分として含有することを特徴とする膵臓癌発生抑制剤。好ましくは、前記膵臓癌発生抑制剤は、難消化性の中性オリゴ糖の膵臓癌発生抑制作用を増幅する成分として、難消化性の中性オリゴ糖に弱酸が結合した難消化性の酸性オリゴ糖をさらに含む。【選択図】 図10


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