タイトル: | 公開特許公報(A)_ピニトール高含有納豆の製造方法及びピニトール分解活性欠損納豆菌 |
出願番号: | 2005295033 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | A23L 1/20,C12N 1/21,C12N 15/09,C12N 15/01 |
吉田 健一 山口 将憲 JP 2007097536 公開特許公報(A) 20070419 2005295033 20051007 ピニトール高含有納豆の製造方法及びピニトール分解活性欠損納豆菌 北興化学工業株式会社 000242002 国立大学法人神戸大学 504150450 奥山 尚一 100099623 有原 幸一 100096769 松島 鉄男 100107319 河村 英文 100114591 吉田 健一 山口 将憲 A23L 1/20 20060101AFI20070323BHJP C12N 1/21 20060101ALI20070323BHJP C12N 15/09 20060101ALI20070323BHJP C12N 15/01 20060101ALI20070323BHJP JPA23L1/20 109ZC12N1/21C12N15/00 AC12N15/00 X 15 OL 14 4B020 4B024 4B065 4B020LB13 4B020LC05 4B020LG01 4B020LK17 4B020LP18 4B020LY10 4B024AA05 4B024BA77 4B024CA02 4B024DA07 4B024GA11 4B024GA25 4B024HA20 4B065AA15X 4B065AA19X 4B065AB01 4B065AB10 4B065AC14 4B065BA01 4B065BA16 4B065BB27 4B065CA42 本発明は、新規納豆菌又は枯草菌、及びそれらを用いて製造された納豆に関し、より詳細には、ピニトール高含有納豆を製造できる納豆菌又は枯草菌及びピニトール高含有納豆の製造方法に関する。 ピニトールは、D−キロ−イノシトールの3位の水酸基がメチル化され、メトキシ基になったもので、動植物に広く存在する。特に、マメ科植物中には多く含まれており、マメ科植物である大豆の中には乾燥重当たり、0.3%〜0.5%存在することが知られている。また、ピニトールは、安定な物質であるため調理用の加熱などでは殆ど変化を受けず、人にとって摂取及び食経験のある物質である。 また、ピニトールのメトキシ基が水酸基になったD−キロ−イノシトールは、経口的、または非経口的に投与されると、細胞内情報伝達を活性化するイノシトールリン脂質系に作用して、II型糖尿病に改善効果をもたらすこと(非特許文献1参照、特許文献1参照)、および、多嚢胞性卵巣症候群に改善効果をもたらすこと(特許文献2参照、非特許文献2参照)が提唱されている物質である。D−キロ−イノシトールはヒト血中にも微量存在することが知られている物質であり、機能的には、広範な代謝系疾患に関与すると考えられ、今後その適用が拡大する可能性が期待される物質である。 こうした近年のD−キロ−イノシトール生理活性研究の中で、構造類縁体であるピニトールは、生体内でD−キロ−イノシトールに変換されるため、D−キロ−イノシトールと同様の生理活性を有することが判ってきている(特許文献3参照、非特許文献3参照、非特許文献4参照)。加えて、ピニトールにはI型糖尿病にも改善効果をもたらす効果があることも知られている(特許文献3参照、非特許文献4参照)。特に、大豆食品においては、オリゴペプチドや、フラボノイドなどの生理活性を有する有用物質が見出されており、ピニトールも注目されている物質のひとつである。特表平4−505218号公報米国特許5906979号特表平11−502223号公報「ジャーナル オブ アグリカルチュアル アンド フード ケミストリィ(Journal of Agricultural and Food Chemistry)」(アメリカ)、J. M. Kawa et al、2003年、51巻、7287頁「ザ ニュウイングランド ジャーナル オブ メディスン(The New England Journal of Medicine)」(アメリカ)、J. E. Nestler et al、1999年、340巻、1314頁「フード スタイル(FOOD Style)」(日本)、Yong Chul Shin、2002年、6巻、89頁「ブリティッシュ ジャーナル オブ ファーマコロジー(British Journal of Pharmacology)」(イギリス)、S. H. Bates et al、2000年、130巻、1944頁 本発明は、大豆中に本来含有されているピニトールの含量を維持した納豆を製造するための方法を提供すること目的とする。 本発明者らは、大豆の納豆発酵の前後で、イノシトール関連物質の増減に関する研究を行なう中で、本来、大豆に含まれるピニトールが、納豆発酵の後では消失することを発見した。つまり、納豆自体は大豆タンパクが消化吸収し易い様に変化されているなど、健康食品として有名である反面、物理化学的には安定なピニトールが納豆発酵により生化学的には容易に分解されていることを確認した。 本発明者らは、これまでに枯草菌において、ミオ−イノシトール代謝系遺伝子群にコードされる酵素が、どのようにして、ミオ−イノシトールを代謝するのかを解明している(Ken-ichi Yoshida et al、Microbiology、150巻、571〜580頁(2004年))。その結果、ミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼ(iolG遺伝子由来酵素)がピニトールを酸化する能力があることを新たに見出した。このことは、ミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼが、枯草菌においてピニトール代謝に深く関係していることを示している。 本発明者らは、ミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼの働きをより詳細に解明すべく、ミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子(iolG遺伝子)の機能を破壊した枯草菌を作成した。また、さらに、イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊した枯草菌を作成した。これらの枯草菌の変異株は、ピニトール含有培地で培養した場合であっても、ピニトールを分解しないことが確認された。 これらに基づいて、本発明者らは、イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊した納豆菌を作成し、この納豆菌を用いて大豆を原料に納豆発酵を行なうと、大豆中に本来含有されているピニトールが分解されずに納豆中に残存するため、ピニトールの含量を維持した納豆が製造できることを確認し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、ピニトール分解活性を欠損させた枯草菌又は納豆菌を使用して大豆を納豆発酵させることを特徴とする大豆由来のピニトールの含量を維持した納豆の製造方法を提供する。 iolA、iolB、iolC、iolD、iolE、iolG及びiolIの遺伝子から選ばれるイノシトール代謝系遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子の機能を破壊することにより、枯草菌又は納豆菌からピニトール分解活性を欠損させることができる。又は、イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊することにより、枯草菌又は納豆菌からピニトール分解活性を欠損させることができる。 これらの遺伝子の機能の破壊又はプロモーターの破壊は、物理・化学的変異誘発処理または、相同組換えによる塩基の挿入、欠失、置換により行なうことができる。 本発明によれば、発酵前の生大豆100g(生鮮重量)あたり、大豆由来のピニトールを20mg以上含有する納豆を提供することができる。より好ましくは、生大豆100gあたり、大豆由来のピニトールを100mg以上含有する納豆を提供することができる。さらに好ましくは、生大豆100gあたり、大豆由来のピニトールを300mg以上含有する納豆を提供することができる。 さらに、本発明は、枯草菌又は納豆菌に突然変異を誘発するステップと、 細胞壁合成阻害剤と、炭素源としてミオ−イノシトール、ピニトール、D−キロ−イノシトール、シロ−イノソースおよびD−キロ−1−イノソースからなる群から選ばれる1つの炭素源又は2つ以上の前記炭素源の混合物とを含む培地中で前記枯草菌又は納豆菌を培養するステップと、 生存した前記枯草菌又は納豆菌を回収するステップとを含む、ピニトール分解活性を欠損させた枯草菌又は納豆菌の作成方法及びこの方法により作成される枯草菌又は納豆菌を提供する。 ピニトール分解活性の欠損は、iolA、iolB、iolC、iolD、iolE、iolG、iolIの遺伝子から選ばれるイノシトール代謝系遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子の機能を破壊して行うこともでき、あるいは、イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊することにより行うこともできる。具体的には、これらの破壊は、物理・化学的変異誘発処理または、相同組換えによる塩基の挿入、欠失、置換によりなされる。 さらに、本発明は、納豆菌(食品総合研究所NAFM5菌株)のイノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターが機能しない様に破壊され、ミオ−イノシトール、ピニトール、D−キロ−イノシトールの分解能力を失った特性を有する、産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−20634の受託番号で寄託された納豆菌TMX004菌株を提供することができる。以下は、実施態様の例示である。(1)バチルス属、好ましくは、枯草菌又は納豆菌に、物理・化学的変異誘発処理を行ない、ピニトールを分解しない変異株を得た後、この変異株を用いて、大豆を原料に、納豆発酵を行ない、大豆由来のピニトール含有量を維持した納豆を製造する方法。(2)枯草菌、または納豆菌の遺伝子配列上に存在するイノシトール代謝系遺伝子群の中で、iolA、iolB、iolC、iolD、iolE、iolG、iolIの7種類の遺伝子から選ばれる少なくとも1つ、もしくは、2つ以上の遺伝子の機能を破壊した変異株を用いて、大豆を原料にして、納豆発酵を行ない、大豆由来のピニトール含有量を維持した納豆を製造する方法。(3)枯草菌、または納豆菌の遺伝子配列上に存在するイノシトール代謝系遺伝子群において、イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊した変異株を用いて、大豆を原料にして、納豆発酵を行ない、大豆由来のピニトール含有量を維持した納豆を製造する方法。(4)上記遺伝子の機能の破壊が、物理・化学的変異誘発処理または、相同組換えによる塩基の挿入、欠失、置換によりなされることを特徴とする大豆由来のピニトール含有量を維持した納豆を製造する方法。(5)上記遺伝子の機能を破壊した変異株を、標的遺伝子の機能が破壊されていない菌株と区別・単離する目的で使用される炭素源が、ミオ−イノシトール、ピニトール、D−キロ−イノシトール、シロ−イノソース、およびD−キロ−1−イノソースからなる群から選ばれる1つ、または2つ以上の混合物からなることを特徴とする遺伝子機能の破壊変異株のネガティブスクリーニング方法。(6)納豆菌(食品総合研究所NAFM5菌株)の遺伝子配列上に存在するイノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊し、ミオ−イノシトール、ピニトール、D−キロ−イノシトール、シロ−イノソースおよびD−キロ−1−イノソースの分解能力を失った特性を有する、産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−20634の受託番号で寄託された納豆菌TMX004菌株。 本発明により、大豆中に本来含有されているが、納豆発酵の過程で分解され発酵後の納豆にはほとんど含まれていないピニトールの含量を維持した納豆を提供できる。ピニトールは、I型及びII型糖尿病や多嚢胞性卵巣症候群に改善効果をもたらすことなどから、本発明の方法によれば、日本人の食経験に基づいた伝統食である納豆の栄養強化が可能であり、機能強化食品や特定保険用食品としての応用も期待される。 以下に、本発明を詳しく説明する。本願発明による枯草菌及び納豆菌は、Bacillus subtilis(バチルス・サブチリス)に属する細菌である。特に、納豆菌は、糸引物質など大豆発酵産物に納豆としての特徴を生じさせることができることから、Bacillus subtilis natto と、枯草菌と区別して分類されることが多い。また、対象となる枯草菌及び納豆菌の由来は、稲わらなど自然界に存在する枯草菌及び納豆菌の他、納豆製造用に育種された各種の枯草菌や納豆菌を広く使用して、大豆由来のピニトールを分解しない枯草菌や納豆菌を得ることができる。大豆を原料にした納豆発酵とは、通常の加熱処理、または蒸した大豆に、当該納豆菌を接種し、一定時間、発酵させたものを指し、発酵方法自体は、菌が増殖すればよく、目的とする風味等にあわせて、大豆品種、接種方法、発酵温度、発酵時間を適切に調節することができる。また、原料の大豆を丸のまま用いて納豆発酵を行う丸大豆納豆としてもよいし、予め砕いた大豆を用いたひきわり納豆としてもよい。 ピニトール分解活性が欠損している枯草菌又は納豆菌を確認するためには、当該枯草菌又は納豆菌による発酵後の大豆に存在するピニトール含有量を、発酵前の大豆及び通常の納豆菌で発酵させた大豆に存在するピニトール含有量と比較することによって行なうことができる。ピニトールの抽出は、例えば、発酵後のサンプルを脱脂した後、固体を熱水抽出し、その溶液に、強酸性イオン交換樹脂、強塩基性イオン交換樹脂、活性炭を加え、イオン性物質、疎水性物質を除去することで、中性物質画分を得ることにより行うことができる。ピニトール量の測定は、例えば、上記のようにして得られた中世物質画分の溶液をHPLCなどの分析機器で分析することによって行うことができる。変異を施さない納豆菌を作用させた場合、大豆中に含まれるピニトールが分解され、納豆中にはほとんど含まれないのに対して、ピニトール分解活性が欠損している枯草菌又は納豆菌を用いて納豆発酵させた場合、大豆に由来するピニトールが発酵後も残存していることを確認できる。 次に、本発明の枯草菌ミオ−イノシトール代謝系遺伝子群にコードされる重要な2つの酵素の作用について説明する。ミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼは、iolG遺伝子にコードされ、ミオ−イノシトール代謝の初発酵素であり、ミオ−イノシトール以外にもD−キロ−イノシトールに作用し、NAD依存の酸化反応により、それぞれ、シロ−イノソース、D−キロ−1−イノソースへ変換する酵素である。また、シロ−イノソースイソメラーゼは、iolI遺伝子にコードされ、シロ−イノソースとD−キロ−1−イノソースを相互変換(異性化)する酵素である。つまり、D−キロ−イノシトールは、ミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼによって、D−キロ−1−イノソースへ酸化され、さらに、シロ−イノソースイソメラーゼによって、シロ−イノソース(ミオ−イノシトールから変換される物質と同じ物質)へ異性化され、さらに代謝分解を受けていくことが判っている(特開2005−087149号参照)。 本発明者らは、枯草菌において、D−キロ−イノシトールの構造類縁体であるピニトール(D−キロ−イノシトールの3位がメトキシ基に置換されたもの)が、イノシトール代謝系遺伝子群を利用して代謝されることを明かにし、さらに、D−キロ−イノシトールと同様な反応機構により、3位がメトキシ基のシロ−イノソース−3−O−メチル(3位がメトキシ基のシロ−イノソース)まで、分解を受けることを明かにした。 また、iolG、iolI以降の分解は、イノシトール代謝系遺伝子群の主たる代謝経路に関する遺伝子の内、iolA、iolB、iolC、iolD、iolEが関与することが判っており(Yoshida, K. et al、Microbiology、150巻、571〜580頁(2004年))、資化性と、イノシトール代謝系遺伝子群発現のインデューサーの構造相関から、この経路の何れかの段階で、メトキシ基がアルコール基に脱メチル化される可能性が高いことも本研究者らは明かにした。 従って、本発明に供試される枯草菌又は納豆菌の遺伝子配列上に存在するイノシトール代謝系遺伝子群の中で、iolA、iolB、iolC、iolD、iolE及びiolG及びiolIの7種類の遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の機能を破壊した変異株を用いて、大豆を原料にして、納豆発酵を行なうことにより、大豆由来のピニトールの含量を維持した納豆を製造する方法を提供することができる。なお、本明細書において大豆由来のピニトール含量を維持した納豆とは、通常の納豆菌を用いた場合と異なり、納豆発酵過程において大豆に本来含まれているピニトールがほとんど分解されることなく発酵後も含まれている納豆を意味する。 上述したイノシトール代謝系遺伝子群は、培養液にミオ−イノシトールが含まれていても、グルコースなどの糖を同時に含む培地で培養した場合、転写レベルではほとんど発現しないことが判っている(Yoshida, K. et al、Nucleic Acids Research、29巻、683〜692頁(2001年))。そのため、培地に糖が含まれる通常の培養では、上述した酵素の活性は非常に低く、ピニトールの代謝分解はほとんど進行しない。これを利用して、納豆発酵において糖を添加すれば、大豆由来ピニトールを分解せずに保つことは可能であるが、有機酸への変換など、食味が変わる糖の添加は好ましくなく、課題の解決方法としては適切ではない。 また、イノシトール代謝系遺伝子群の遺伝子上の上流にある転写制御タンパク質(iolR遺伝子にコードされるリプレッサータンパク質)は、シロ−イノソース以降に存在するイノシトール代謝中間体(2−デオキシ5−ケト−D−グルクロン酸6−リン酸)がインデューサーとして作用し、プロモーターが抑制解除され、この代謝系遺伝子群が転写誘導されることが判っている(Ken-ichi Yoshida et al、Microbiology、150巻、571〜580頁(2004年))が、逆にプロモーターを機能しない様に破壊することによって、この代謝系遺伝子群が発現しないことが、実験的に示されている(Ken-ichi Yoshida et al、Journal of Bacteriology、179巻、4591〜4598頁(1997年))。 従って、イノシトール代謝系遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子を機能しないように破壊した枯草菌又は納豆菌の変異株を用いて、大豆を原料にして納豆発酵を行ない、大豆由来のピニトールの含量を維持した納豆を製造する方法を提供することができる。また、イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊した枯草菌又は納豆菌の変異株を用いて、大豆を原料にして納豆発酵を行ない、大豆由来のピニトールの含量を維持した納豆を製造する方法を提供することができる。 イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターが機能しない様に破壊され、ミオ−イノシトール、ピニトール、D−キロ−イノシトールの分解能力を失った特性を有する納豆菌の菌株の例として、産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−20634の受託番号で平成17年8月23日に寄託された納豆菌TMX004菌株を例示できる。 枯草菌の遺伝子の破壊方法は、通常の微生物の変異方法が使用できる。例えば、物理的変異誘発処理の例としては、UV照射、放射線照射、温度差処理などが例示できる。化学的変異誘発処理の例としては、Nニトロソグアニジン、メタンスルホン酸エチル、亜硝酸、メタンスルホン酸メチル、アクリジン色素、ベンゾピレン、硫酸ジメチルなどの変異剤の培地への添加などが例示できる。これらの変異処理は、遺伝子上で塩基の挿入、欠失、置換が期待される方法である。また、変異処理を施した枯草菌又は納豆菌から目的の菌を得る方法としては、後述するミオ−イノシトール等の資化能力の欠失を指標にした選択方法を用いることができる。 さらに、目的の遺伝子の破壊方法として、相同組換えによる塩基の挿入、欠失、置換を行なう方法がある。相同組換え法は、人為的に塩基の挿入、欠失、置換を施した目的の遺伝子と同じ配列を部分的に有する塩基配列を細菌内に導入し、相同組換えによって変異を行なう方法である。この方法の利点は、他の優れた特性は壊さずに、欠点となっている性質に関与する遺伝子だけに変異を起こさせて改良することができることである。本発明では、タンパク質の分解等に関する酵素等をコードする遺伝子には影響を与えることなく、目的とするイノシトール代謝系遺伝子又はそのプロモーターの一部又は全部を特異的に欠損させることが可能である点で有用である。 相同組換えは、枯草菌又は納豆菌に適用できる任意の方法を用いることができ、例えば、 日本生化学会著、「新生化学実験講座(第17巻)微生物実験法」、東京化学同人、p.367−372、「形質転換」に記載されているように、当業者に公知である。 相同組換えが起こった細菌のスクリーニングは、細菌に導入する塩基配列に、例えば、薬剤耐性遺伝子であるクロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などを連結させて、細菌に導入後、相当する薬剤で選抜し、生存する菌を得ることにより行うことができる。さらに、望むべき部分に挿入されたことをPCRなどの手段を用いて確認することによって、目的の菌を得ることが可能である。 従って、遺伝子の機能の破壊が、物理・化学的変異誘発処理または、相同組換えによる塩基の挿入、欠失、置換によりなされた変異株を用いて、通常の枯草菌又は納豆菌を用いた場合よりも大豆由来のピニトールの含量を維持した納豆を製造する方法を提供することができる。 本発明では、通常の枯草菌又は納豆菌を使用した場合と比べて、ピニトールの含量が高い納豆を得ることができる。大豆に含まれるピニトール含量は、大豆の品種により異なり、また同じ大豆の品種を用いた場合であっても、栽培条件等により変動する。通常の枯草菌又は納豆菌を用いて納豆発酵した場合には、発酵過程において、ピニトールは分解されてしまうため、発酵前の生大豆100g(生鮮重量)あたり5mg以下しか含まれない。それに対して、本発明の納豆では、原料の大豆に含まれるピニトールがほとんど分解されることなく、納豆中に含まれる。 そのため、本発明の納豆では、通常のものと比べて、大豆由来のピニトール含量が向上しており、例えば、発酵前の生大豆100g(生鮮重量)あたり、大豆由来のピニトールを20mg以上、より好ましくは、100mg以上、さらに好ましくは、大豆由来のピニトールを300mg以上含有する納豆を提供することができる。納豆中のピニトールの測定は、上述のとおり、発酵後の納豆に含まれるピニトールをHPLCなどにより測定することが可能である。 上記のような方法を用いて、イノシトール代謝系遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子の機能を破壊した変異株又はイノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊した変異株を、相同組換え以外の方法、例えば突然変異誘発により得るためには、標的遺伝子の機能が破壊されていない菌株からスクリーニングして、単離する方法が重要である。変異処理後の各菌を単離して培養し、その中からピニトール非資化性菌株を見出すことも事実上可能であるが、効率良く目的の菌を単離するには、以下で説明するネガティブスクリーニングが有効である。 本発明のスクリーニング方法の例の一つとして行う、ネガティブスクリーニングは、ミオ−イノシトール、ピニトール、D−キロ−イノシトール、シロ−イノソース、およびD−キロ−1−イノソースからなる群から選ばれる1つ、または2つ以上の混合物を培地に使用される炭素源として使用して変異処理後の菌を培養することにより、イノシトール代謝系遺伝子群の機能が破壊された変異株を単離できる。 ここで言う、ネガティブスクリーニング方法とは、変異を起こした菌のうち、上記炭素源のみを含む培地中では増殖できない菌を選択することにより、ピニトール非資化性菌株を選択することを含む方法である。すなわち、変異処理後の菌または胞子を、細胞壁合成阻害剤などの薬剤と上記炭素源とを含有する最小液体培地で一定時間培養し、分裂または発芽する細胞を致死させる。続いて、細胞と混在する薬剤を遠心分離、膜ろ過、透析などの方法で除去した後に、薬剤を含有しない栄養寒天培地に生存する細胞を塗布して、菌を個別に取り出す。さらに、得られた個々の菌株について、上述の炭素源を資化しない菌を選抜する方法である。 ネガティブスクリーニング方法に使用される薬剤としては、枯草菌および納豆菌の細胞壁合成阻害を行なう薬剤ならばよく、例えば、βラクタム系抗生物質(セフェム系抗生物質、モノバクタム系抗生物質、カルバペネム系抗生物質)、高分子炭化水素系抗生物質、環状および直鎖ペプチド系抗生物質、グリコホスホリピッド系抗生物質、エンラマイシン、ホスホノマイシン、シクロセリン類、ツニカマイシン、ポリオキシンなどが例示される。 菌株の単離後は、それぞれの菌株を純粋培養し、ピニトールの資化性を評価することで、目的の菌を得ることができる。このようなスクリーニング方法により得られた菌は、iolA、iolB、iolC、iolD、iolE、iolG及びiolIの遺伝子から選ばれるイノシトール代謝系遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子の機能を破壊されているか、及び/又は、イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊されているものと推定される。スクリーニングにより得られた菌は、ピニトール分解活性が欠損しているため、大豆由来のピニトールの含量を維持した納豆の製造に用いることができる。<相同組換えによるピニトール非資化性菌株の取得> 相同組換えによるピニトール非資化性菌株を得るために、YF248菌株(枯草菌のイノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターをコードするDNA配列にクロラムフェニコール耐性遺伝子を挿入し、プロモーターを機能しない様に破壊した株、(Ken-ichi Yoshida et al、Journal of Bacteriology、179巻、4591〜4598頁(1997年))のゲノムを、食品総合研究所納豆菌NAFM5菌株へ導入し、クロラムフェニコール耐性を指標に、相同組換えによる納豆菌NAFM5菌株のイノシトール代謝系遺伝子群プロモーターの破壊を行なった。以下に詳細を示す。<YF248菌株のゲノムDNAの取得> YF248を無菌のLB液体培地5ml(クロラムフェニコール15ppmを含む)に接種し、36℃、4時間培養後、遠心分離をし、上清を捨ててペレットを得た。これに溶解液(50mMトリス緩衝液(pH7.5)、20mMのEDTA、25%の庶糖、リゾチーム0.1mg)を加えて、37℃、10分間細胞壁分解処理を行なった。これに10%SDS溶液0.3mlを加えて、ゆっくりと混ぜて溶菌を行なった。この溶液に3Mの酢酸カリウム溶液(pH5.4)0.13mlを加えて、ゆっくりと混合し、さらに、TE飽和フェノール2mlを加えて混合してタンパク質を除去した。遠心分離を行ない、上清のゲノムDNAが溶解した水層を取り出し、これに等量のイソプロパノールを加えて、ゲノムDNAを析出させた。析出したゲノムDNAをピペットの先端で取り出し、70%エタノールに入れて洗浄し、新しい容器に析出したゲノムDNAを移し、完全に乾かない様にエタノールを減圧下で揮発させた。これに、0.05mlの1mg/mlRNaseを含むTE緩衝液1mlを加えて、36℃、1時間溶解させた。その後、この溶液に3Mの酢酸ナトリウム溶液(pH5.4)0.1ml、イソプロパノール1.1mlを加えて、ゆっくりと混合し、ゲノムDNAを析出させた。析出したゲノムDNAをピペットの先端で取り出し、70%エタノールに入れて洗浄し、新しい容器に析出したゲノムDNAを移し、完全に乾かない様にエタノールを減圧下で揮発させた。これに、TE緩衝液1mlを加えて、36℃で1時間溶解させ、ゲノムDNA溶液を得た。<納豆菌NAFM5菌株への遺伝子導入・相同組換え> 食品総合研究所納豆菌NAFM5菌株をコンピテントセルにするために、第一次培養培地5ml(0.1%のクエン酸三ナトリウム、0.2%の硫安、1.4%のK2HPO4 、0.6%のKH2PO4、0.5%のグルコース、5mMのMgSO4、0.02%のカサミノ酸、1ppmのビオチンを含む)に接種し、37℃で4時間培養した。この溶液から0.5mlを取り出し、遠心し、菌体ペレットを得た。これに第二次培養培地1ml(0.1%のクエン酸三ナトリウム、0.2%の硫安、1.4%のK2HPO4 、0.6%のKH2PO4、0.5%のグルコース、5mMのMgSO4、0.01%のカサミノ酸、1ppmのビオチンを含む)を加えて、菌を懸濁し、無菌の試験管に移し、上記のYF248菌株のゲノムDNA(約1mg)を加えて、37℃で1時間培養した。培養後、LB液体培地2mlを加えて、再度、37℃で1時間培養し、培養液を選抜培地(LB培地、15ppmクロラムフェニコール、1ppmビオチン1.5%寒天)に塗布し、37℃で一晩培養を行なった。<相同組換えの確認> 生育してくるコロニーを個別に培養し、各コロニーから一部の菌体を取り出し、ミオ−イノシトール資化性試験と、ミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼ活性測定試験に供試した。ミオ−イノシトール資化性試験は、最小培地(5mMのリン酸緩衝液(K塩:pH7.0)、100mMのMOPS緩衝液(pH7.0)、0.13%の硫安、0.005%のカサミノ酸、1mMのMgCl2、0.7mMのCaCl2、0.05mMのMnCl2、0.001mMのZnCl2、0.005mMのFeCl3、15ppmのクロラムフェニコール、1ppmのビオチンを含む)に0.45%ミオ−イノシトールを含有する寒天培地を使用し、この培地で生育しない菌株を選抜した。さらに、1%ミオ−イノシトールを含有するLB液体培地(15ppmのクロラムフェニコール、1ppmビオチンを含む)で37℃で5時間培養後、遠心分離を行ない、集菌し、50mMのトリス緩衝液(pH8.5)200μlを加え、超音波破砕後、遠心分離し、上清のミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼ活性測定を行なった。ミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼ活性測定は、酵素液10μlに、反応液190μl(100mMのトリス緩衝液(pH9.0)、1%のミオ−イノシトール、0.1mMのNAD+、0.2Uのジアホラーゼ、0.001%のNTB(ニトロテトラゾリウムブルー)を含む)を加え、コントロール(NAFM5菌株)と比較して、紫色のホルマザンの形成をしない菌株を選抜した。 この様にして得られたミオ−イノシトール資化性がなく、かつ、ミオ−イノシトール 2−デヒドロゲナーゼ活性を有しない納豆菌株は、ミオ−イノシトール以外に、ピニトール、及びD−キロ−イノシトールに対しても資化性が消失していることを、同様の資化性試験で確認した。 そして、得られた納豆菌株をTMX004菌株と命名し、産業枝術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−20634として寄託した(寄託日は平成17年8月23日)。<ピニトール非資化性納豆菌による納豆発酵と、ピニトール分析><ピニトール非資化性納豆菌による納豆発酵> 納豆菌NAFM5株、および、ピニトール非資化性納豆菌TMX004株を、それぞれ滅菌されたLB液体培地1ml(1ppmビオチンを含む)に接種し、36℃で8時間、震騰培養を行なった。 一方、大豆10gをガラスシャーレに取り、水30mlを加え、蓋をし、25℃で16時間静置浸水させた。その状態でオートクレーブを用いて、121℃で20分間加熱処理を行った。室温まで冷却後、シャーレに、上記の様に調製された納豆菌培養液0.5mlを加えて混合し、37℃で24時間、静置にて納豆発酵を行なった。対照として、納豆菌の代わりに0.5mlの滅菌水を加え、同様の処理をした無発酵大豆も同時に調製した。<中性物質の抽出・精製> 発酵後のサンプルに200mlのn−ヘキサンを加え、有機溶媒存在下に大豆形状が無くなるまで、押しつぶし、室温で1時間攪拌した。静置後、上清のヘキサン層を除去し、残留する固形物を冷凍、凍結させ、液体窒素中でホモゲナイザーを用いて粉末状にした。固形物を取り出し、再び100mlのn−ヘキサンを加えて1時間攪拌後、静置し、上清のヘキサン層を除去した。その後、150mlの酢酸エチルを加え、10分間攪拌後、静置し、上清の酢酸エチル層を除去する操作を3回行ない、脂溶性成分の除去を完了した。残留物は一晩、静置・乾燥させ、酢酸エチルを揮発させた。この様にして、脱脂粉末サンプルを得た。 脱脂粉末サンプル1gに水8mlを加え、超音波破砕機を用いて分散させた後、オートクレーブを用いて121℃、20分間熱水抽出を行なった。室温まで冷却後、抽出物を転倒攪拌し、3500rpmで20分間遠心分離を行なった。上清を取り出し、熱水抽出物を得た。 次に、熱水抽出物に両性イオン交換樹脂(Bio-Rad社製:AG501−X8)を1g加えて1時間攪拌後、3500rpmで20分間遠心分離を行なった。上清を取り出し、さらに15000rpm、20分間遠心分離を行い、薄茶色の透明な上清を得た。この様にしてイオン性物質を除去した粗中性物質溶液を得た。 次に、粗中性物質溶液1mlに、強塩基性イオン交換樹脂(住友化学社製:Duolite A116(OHタイプ))50mg、強酸性イオン交換樹脂(住友化学社製:Duolite C20(Hタイプ))50mg、活性炭20mgを加えて、2時間攪拌を行なった。その後、15000rpmで20分間遠心分離を行い、上清500μlをマイクロチューブ型限外ろ過(ミリポア社製:MW10000cut off)を用いて、5000×gの遠心力で、限外ろ過を行なった。通過した透明な中性物質溶液をHPLCサンプルとして分析に供試した。<HPLC分析> HPLC分析条件は、カラム:Wakosil5NH2カラム(φ4.6mm×250mm)、移動相:80%アセトニトリル、カラム温度:20℃、流速:2.0ml/min、検出器:RI検出器であり、この条件で、HPLCチャート上には、ピニトール、シュークロース、ミオ−イノシトールが検出され、相互に明瞭に分離し、定量できた。中性物質溶液中のピニトールの含有量は、標準品のHPLC面積値から算出し、使用した納豆(または無発酵大豆)中に含まれるピニトールの含有量を表1に記載した。尚、試験は2反復行ない、その数値の平均と幅を記載した。 表に示されるように、非発酵生大豆中には、生鮮重量当り、約0.34%(w/w)のピニトールが存在し、通常の納豆発酵では、検出限界以下(0.005%(w/w)以下)まで低下していた。それに対し、ピニトール非資化性納豆菌を用いた納豆発酵では、約0.36%(w/w)のピニトールが存在していた。つまり、ピニトール非資化性納豆菌を用いた納豆発酵は、発酵前の大豆中に含有されるピニトールを分解せずに維持できることが確認された。<変異誘発処理・ネガティブスクリーニングによるピニトール非資化性・非分解性納豆菌取得><変異誘発処理> 納豆菌NAFM5株を、滅菌されたLB液体培地20ml(1ppmビオチンを含む)に接種し、36℃でOD600nm=0.5になるまで(約3時間)、震騰培養を行なった。 培養後、この溶液を遠心して菌を沈澱させ、この沈澱に10mlの変異誘発液体培地(5mMのリン酸緩衝液(K塩:pH7.0)、100mMのMOPS緩衝液(pH7.0)、0.13%硫安、1mMのMgCl2、0.7mMのCaCl2、0.05mMのMnCl2、0.001mMのZnCl2、0.005mMのFeCl3、1ppmのビオチン、0.5%グルコース、2.5%のEMS(エチルメタンスルホン酸))を加えて混合し、36℃で1.5時間震騰培養させた。培養後の菌体を遠心し、沈澱させ、これにネガティブスクリーニング液体培地(5mMのリン酸緩衝液(K塩:pH7.0)、100mMのMOPS緩衝液(pH7.0)、0.13%の硫安、1mMのMgCl2、0.7mMのCaCl2、0.05mMのMnCl2、0.001mMのZnCl2、0.005mMのFeCl3、1ppmのビオチン、0.5%のミオ−イノシトールを含む)20mlを加え、懸濁後、遠心し、菌体を沈澱させる操作を3回繰返し、菌体を洗浄した。<ネガティブスクリーニング> 最後の洗浄で得られた菌体の沈澱に、ネガティブスクリーニング液体培地を30ml加え、36℃で3時間震騰培養した。3時間培養後、5000U/mlのペニシリンG溶液を0.6ml加え(終濃度100U/ml相当)、36℃で16時間培養を継続した。 培養後、この培養液を遠心し、菌を沈澱させ、この沈澱に薬剤洗浄培地(125mMのリン酸緩衝液(K塩:pH7.0)、0.2%の硫安を含む)30mlを加えて懸濁後、遠心し、菌体を沈澱させた。洗浄された菌体の沈澱を、保存溶液(薬剤洗浄培地と同一組成の培地に25%グリセロールを含む)3mlに懸濁し、0.3mlずつ小分けし、−20℃で保存した。 次に、この保存菌液を適度に希釈して、LB寒天培地(1ppmのビオチンを含む)にプレーティングし、単一のクローンからなるコロニーを形成させた。その後、選抜された800株のコロニーを個別に、ネガティブスクリーニング液体培地1mlに接種し、36℃、48時間震騰培養し、炭素源としてミオ−イノシトールを資化せず、生育しない3株を選抜した。<選抜されたミオ−イノシトール非資化性菌の性質評価> 上記で選抜された変異選抜株3株を、選抜培地(5mMのリン酸緩衝液(K塩:pH7.0)、100mMのMOPS緩衝液(pH7.0)、0.13%の硫安、1mMのMgCl2、0.7mMのCaCl2、0.05mMのMnCl2、0.001mMのZnCl2、0.005mMのFeCl3、1ppmビオチンを含む)を基本として、これに0.5%炭素源になるように、ピニトールを含有する液体培地1mlに接種し、36℃で48時間震騰培養し、生育の程度を評価した。結果として、変異選抜株3株は、ピニトールを炭素源とせず、生育は認められなかった。<選抜されたピニトール非資化性菌のピニトール非分解性評価> 上記で選抜された変異選抜株3株を、LB培地(1ppmのビオチンを含む)を基本として、これに0.3%になるように、ピニトールを含有する液体培地1mlに接種し、36℃で16時間震騰培養後、培養液上清をシリカゲルTLCに3ulチャージし、それを展開した(展開溶媒はCHCl3:MeOH:水=5:5:1)後、0.5%のKMnO4による発色を行ない、添加したピニトールの分解程度を白色スポットの大きさで判断した。 結果として、変異選抜株3株中2株はピニトールが消失し、分解されていたが、残りの1株は、ピニトールを残留し、分解は認められなかった。ピニトールを分解した2株は、グルコースを資化することができず、解糖系の代謝異常株であることがわかった。 このように、実施例3に示される方法によって、ミオ−イノシトール非資化性菌株を取得することができ、さらに、ミオ−イノシトール非資化性は、ピニトール、D−キロ−イノシトール、シロ−イノソース非資化性と関連し、ピニトール非資化性納豆菌を得ることができることが確認された。また、ピニトール非資化性納豆菌の中から、目的とするピニトール非分解性納豆菌を得ることができることが確認された。 ピニトール分解活性を欠損させた枯草菌又は納豆菌を使用して大豆を納豆発酵させることを特徴とする大豆由来のピニトールの含量を維持した納豆の製造方法。 ピニトール分解活性の欠損が、iolA、iolB、iolC、iolD、iolE、iolG及びiolIの遺伝子から選ばれるイノシトール代謝系遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子の機能を破壊したことによる請求項1に記載の納豆の製造方法。 ピニトール分解活性の欠損が、イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊したことによる請求項1に記載の納豆の製造方法。 遺伝子の機能の破壊又はプロモーターの破壊が、物理・化学的変異誘発処理または、相同組換えによる塩基の挿入、欠失、置換によりなされることを特徴とする請求項2又は3に記載の納豆の製造方法。 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造されるピニトール高含有納豆。 生大豆100gあたり、大豆由来のピニトールを20mg以上含有する納豆。 生大豆100gあたり、大豆由来のピニトール100mg以上含有する納豆。 生大豆100gあたり、大豆由来のピニトールを300mg以上含有する納豆。 枯草菌又は納豆菌に突然変異を誘発するステップと、 細胞壁合成阻害剤と、炭素源としてミオ−イノシトール、ピニトール、D−キロ−イノシトール、シロ−イノソースおよびD−キロ−1−イノソースからなる群から選ばれる1つの炭素源又は2つ以上の前記炭素源の混合物とを含む培地中で前記枯草菌又は納豆菌を培養するステップと、 生存した前記枯草菌又は納豆菌を回収するステップとを含む、ピニトール分解活性を欠損させた枯草菌又は納豆菌の作成方法。 請求項9に記載の方法により作成された枯草菌又は納豆菌。 ピニトール分解活性を欠損させたことを特徴とする納豆菌。 ピニトール分解活性の欠損が、iolA、iolB、iolC、iolD、iolE、iolG及びiolIの遺伝子から選ばれるイノシトール代謝系遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子の機能を破壊したことによる請求項11に記載の納豆菌。 ピニトール分解活性の欠損が、イノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターを機能しない様に破壊したことによる請求項11の納豆菌。 遺伝子の機能の破壊又はプロモーターの破壊が、物理・化学的変異誘発処理または、相同組換えによる塩基の挿入、欠失、置換によりなされることを特徴とする請求項12又は13に記載の納豆菌。 納豆菌(食品総合研究所NAFM5菌株)のイノシトール代謝系遺伝子群のプロモーターが機能しない様に破壊され、ミオ−イノシトール、ピニトール、D−キロ−イノシトール、シロ−イノソースおよびD−キロ−1−イノソースの分解能力を失った特性を有する、産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−20634の受託番号で寄託された納豆菌TMX004菌株。 【課題】大豆中に本来含有されているピニトールの含量を維持した納豆を製造する。【解決手段】ピニトール分解活性を欠損させた枯草菌又は納豆菌を使用して大豆を納豆発酵させる。ピニトール分解活性を欠損させた枯草菌又は納豆菌は、枯草菌又は納豆菌に突然変異を誘発し、細胞壁合成阻害剤と、炭素源としてミオ−イノシトール、ピニトール、D−キロ−イノシトール、シロ−イノソースおよびD−キロ−1−イノソースからなる群から選ばれる1つの炭素源又は2つ以上の前記炭素源の混合物とを含む培地中で前記枯草菌又は納豆菌を培養し、生存した前記枯草菌又は納豆菌を回収することを含む方法により作成することができる。【選択図】 なし