タイトル: | 公開特許公報(A)_カゼイン加水分解物およびその製造方法 |
出願番号: | 2005285277 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C07K 14/78,A23J 3/10,A23J 3/34,A23L 1/305,A23L 1/30,C12P 21/06,C12R 1/07,C12R 1/01 |
山田 明男 越智 浩 JP 2007091669 公開特許公報(A) 20070412 2005285277 20050929 カゼイン加水分解物およびその製造方法 森永乳業株式会社 000006127 志賀 正武 100064908 高橋 詔男 100108578 渡邊 隆 100089037 青山 正和 100101465 鈴木 三義 100094400 西 和哉 100107836 村山 靖彦 100108453 山田 明男 越智 浩 C07K 14/78 20060101AFI20070316BHJP A23J 3/10 20060101ALI20070316BHJP A23J 3/34 20060101ALI20070316BHJP A23L 1/305 20060101ALI20070316BHJP A23L 1/30 20060101ALI20070316BHJP C12P 21/06 20060101ALI20070316BHJP C12R 1/07 20060101ALN20070316BHJP C12R 1/01 20060101ALN20070316BHJP JPC07K14/78A23J3/10A23J3/34A23L1/305A23L1/30 AC12P21/06C12P21/06C12R1:07C12P21/06C12R1:01 9 OL 16 4B018 4B064 4H045 4B018MD19 4B018MD20 4B018MD21 4B018MD22 4B018MF01 4B018MF12 4B064AG01 4B064BA02 4B064BA03 4B064BA04 4B064BA05 4B064BA06 4B064BA07 4B064BA08 4B064BA09 4B064BA10 4B064BA11 4B064CA21 4B064CB06 4B064CE06 4B064DA10 4H045AA10 4H045AA20 4H045CA43 4H045EA01 4H045FA16 4H045GA10 4H045HA02 4H045HA03 本発明は、カゼイン加水分解物およびその製造方法に関する。 蛋白質を加水分解して得られる、ペプチドと遊離アミノ酸との混合物は、単独の蛋白質、アミノ酸混合物などと比較して種々の優位性があるため、各方面から注目されている。 例えば、栄養学的には、ジペプチドおよびトリペプチドはアミノ酸とは別の経路により、その構成アミノ酸の混合物よりも速く吸収されること、及び蛋白質の加水分解物は、その構成アミノ酸と比較して、個々のアミノ酸の吸収量に変動がないことなどが知られている。 また、食品蛋白質は、人間にとって異種蛋白質であり、消化が不十分な状態で抗原性を有するまま体内に吸収された場合、アレルギー症状を呈することがある。この解決策の一つとして、食品中の蛋白質を酵素を用いて加水分解することによって、抗原性を低減又は消失させることが行われており、このような蛋白質加水分解物を配合した食品も増加している(下記、特許文献1、非特許文献1)。 一方、グルタミンは腸管粘膜代謝において重要な役割を果たすことが指摘されていた。近年、手術や外傷などの侵襲時にグルタミンの需要が顕著に増加することが報告され、ここ数年、侵襲下、特に中心静脈栄養法施行時のグルタミン投与の意義が注目されてきている(下記、非特許文献2)。 また、グルタミン酸は人体が生体内で合成できるため、これまでの栄養学では非必須アミノ酸とされてきたが、代謝中間体としての重要性から言えば必須なアミノ酸のひとつと言える。すなわち、グルタミン酸は、アミノ基転移反応に必須な基質であるため他の非必須アミノ酸の合成に必須であること、体内の蛋白質と炭水化物の代謝の架け橋であること、哺乳類では酸化的脱アミノ化が多く起こる唯一のアミノ酸であること、体内のTCAサイクルと尿素サイクルの架け橋であること、そしてグルタミン、オルニチン、プロリン、γ−アミノ酪酸、及びグルタチオンの前駆体であることなどから、中間代謝の中心的位置を占めているといえる。 近年のアミノ酸代謝に関する知見の進歩により、上記のごとくグルタミンやグルタミン酸の重要性が注目されるなか、アミノ酸の形態では熱に不安定であったり化学的修飾が必要であったりすること、また蛋白質では病態食などとしては消化吸収の負担が大きくグルタミンやグルタミン酸含量が高含量になりにくいことなどの点でペプチド態である蛋白分解物が着目されている。 カゼインを原料とした従来のカゼイン加水分解物については、例えば下記特許文献2〜5に記載されている。特開平4―248959号公報特開2001―78684号公報特開2000―210030号公報特開平8―228692号公報特公昭54−36235号公報ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・デイリー・アンド・フード・サイエンス(Japanese Journal of Dairy and Food Sciense)、第33巻、第1号、第A―5〜A―12ページ、1984年JJPEN、第12巻、第1251ページ、1990年 しかしながら、従来のカゼイン加水分解物は、後記する試験例からも明らかなとおり、グルタミンまたはグルタミン酸を豊富に含有するものではなく、グルタミンまたはグルタミン酸を豊富に含有するカゼイン加水分解物が求められている。カゼインを原料とした、グルタミンまたはグルタミン酸を豊富に含有するペプチド混合物が実現すれば、新たな栄養補給原料として産業上利用価値は高い。 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、食品素材として広く使用可能であり、グルタミンまたはグルタミン酸を豊富に含有するカゼイン加水分解物およびその製造方法を提供することを目的とするものである。 上記課題を解決すべく、本発明者らは、カゼインを原料とし、グルタミンおよびグルタミン酸を豊富に含有するペプチド混合物を製造する方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、牛乳由来の蛋白質であるカゼインを原料とし、特定の酵素の組合せを用いてカゼインを加水分解し、特定の精製処理を施すことにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち本発明は、カゼインを含有する原料溶解液を、バシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ及びトリプシンからなる酵素群A、又はバシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ及びトリプシン及び乳酸菌由来のペプチダーゼからなる酵素群Bのいずれか一方で加水分解し、得られた加水分解液を限外濾過膜処理し、得られた膜透過画分をナノフィルトレーション膜処理し、膜非透過画分としてカゼイン加水分解物を得ることを特徴とするカゼイン加水分解物の製造方法を提供する。 また、本発明は下記a)〜e)の理化学的性質を有することを特徴とするカゼイン加水分解物を提供する。a)カゼインの分解率が15〜35%であること、b)分子量1000ダルトン以下の画分の比率が75%以上であり、かつ分子量3500ダルトン以上の画分の比率が1%未満であること、c)エライザ(ELISA:Enzyme linked immuno−sorbent assay)抑制試験法により測定した抗原性がカゼインの抗原性の1000分の1以下であること、d)カゼイン加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合が5%未満であること、e)カゼイン加水分解物の酸加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計の35%以上がグルタミン酸として定量されること。 本発明によれば、牛乳蛋白質であるカゼインを原料とし、低分子量で消化吸収性に優れ、抗原性が低く、遊離アミノ酸含量が低く、酸加水分解により定量されるグルタミン酸含量が高く、したがってグルタミン酸及びグルタミンの供給源として食品素材に好適に利用できる新規なカゼイン加水分解物及びその製造方法が得られる。 まず、本発明のカゼイン加水分解物の製造方法(以下、本発明の方法と略記する。)について説明する。 本発明の方法に使用するカゼインは、牛乳由来の蛋白質であるカゼインを主成分とするものであれば、如何なるものでも使用することができる。具体的には、市販の各種カゼイン、カゼイネート、例えば、乳酸カゼイン、硫酸カゼイン、塩酸カゼイン、ナトリウムカゼイネート、カリウムカゼイネート、カルシウムカゼイネート、マグネシウムカゼイネート又はこれらの任意の混合物等が望ましい。また、牛乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳から常法により精製して得られるカゼインも原料として使用できる。 カゼイン加水分解物を製造するには、まず、上記カゼインを水に分散し溶解して原料溶解液を得る。該原料溶解液の濃度は格別の制限はないが、通常、蛋白質換算で5〜15質量%前後の濃度範囲が効率性及び操作性の点から望ましい。 該原料溶解液のpHを、後工程で使用する蛋白質分解酵素の至適pH付近に調整することが好ましい。具体的には、酵素群A、Bのいずれを用いる場合にも原料溶解液のpHを7〜10に調整することが好ましい。 原料溶解液のpH調整はアルカリ溶液を用いて行うことが望ましい。pH調整に用いるアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等が例示される。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 次に、前記原料溶解液に蛋白質分解酵素を添加して、酵素反応によりカゼインの加水分解を行って、加水分解液を得る。 蛋白質分解酵素としては、バシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ及びトリプシンからなる酵素群A、又はバシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ及びトリプシン及び乳酸菌由来のペプチダーゼからなる酵素群Bのいずれか一方の酵素群を用いる。 本発明において、蛋白質分解酵素として上記酵素群AまたはBを用いることが、グルタミンまたはグルタミン酸を豊富に含有するペプチド混合物を得ることに寄与していると推定される。またN末端に存在していないペプチド態のグルタミンを豊富に含有するペプチド混合物を得ることに寄与していると推定される。また、好ましい分子量分布を達成し、抗原性を好ましく低下できることに寄与していると推定される。 特に酵素群Bは、より良好な風味が得られる点で好ましい。これは、カゼインの加水分解により生じる苦味ペプチドの末端の疎水性アミノ酸が乳酸菌由来のペプチダーゼによって切り離されることで、該苦味ペプチドによる苦味が低減されるためと推定される。 本発明で用いられるバシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ及びトリプシンは、例えば市販品を使用できる。 具体的には、バシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼは、アルカラーゼ、ニュートラーゼ(以上、ノボザイムズ社製)、プロチンA、プロチンP(以上、大和化成社製)、プロレザー、プロテアーゼN(以上、天野エンザイム社製)、コロラーゼ7089(樋口商会社製)、ビオオプラーゼ(ナガセケムテック社製)、オリエンターゼ90N、オリエンターゼ22BF(以上、エイチビイアイ社製)等を例示することができる。これらのバシラス属由来のエンドプロテアーゼは単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。 トリプシンは、PTN(ノボザイムズ社製)、トリプシンV(日本バイオコン社製)等を例示することができる。これらのトリプシンは単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。 本発明で用いられる乳酸菌由来のペプチダーゼは、例えば特公昭54−36235号公報第6欄4行「(3)使用する酵素について」の項に記載の方法により次のとおり製造することができる。 乳酸菌(ビフィズス菌を含む)を公知の方法(例えば特公昭48−43878号公報記載の方法)により培養し、得られた培養液を遠心分離して乳酸菌菌体を回収し、滅菌水に菌体を懸濁し、遠心分離して乳酸菌菌体を回収する操作を2回繰り返し、菌体を洗浄し、20質量%の濃度で菌体を滅菌水に懸濁し、菌体破砕機[例えば、ダイノミル(Willy Bachnfen Engineering)社製。KDL型]により菌体を破砕し、凍結乾燥し、乳酸菌由来のペプチダーゼ粉末を得る。 乳酸菌としては、ビフィドバクテリウム属の乳酸菌であるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンチス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)など、ラクトバシラス属の乳酸菌であるラクトバチルス・ヘルベチクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)など、ストレプトコッカス属の乳酸菌であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophillus)などが例示される。 これらの乳酸菌由来のペプチダーゼは単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。 乳酸菌由来のペプチダーゼを使用する際は、ペプチダーゼ粉末を4〜10℃の冷水に分散して溶解した溶解液の形態で使用することが好ましい。該溶解液の濃度は格別の制限はないが、通常3〜10質量%程度の酵素濃度として使用することが効率性及び操作性の点から望ましい。 蛋白質分解酵素の使用量は、基質濃度、酵素力価、反応温度、及び反応時間により異なる。 酵素群Aを用いる場合、バシラス属由来のエンドプロテアーゼは、原料溶解液中の蛋白質1g当たり1000〜20000活性単位の割合で用いることが好ましく、トリプシンは、原料溶解液中の蛋白質1g当たり1000〜20000活性単位の割合で用いることが好ましい。 バシラス属由来のエンドプロテアーゼおよびトリプシンの各使用量が上記範囲の下限値未満であると十分な分解が行われないおそれがあり、上記範囲の上限値を超えると分解が進みすぎて、N末端にグルタミンが存在していないペプチドが減少するおそれがある。 酵素群Aを用いる場合のバシラス属由来のエンドプロテアーゼの使用量のより好ましい範囲は3000〜10000活性単位であり、トリプシンの使用量のより好ましい範囲は5000〜12000活性単位である。 酵素群Bを用いる場合、バシラス属由来のエンドプロテアーゼは、原料溶解液中の蛋白質1g当たり1000〜20000活性単位の割合で用いることが好ましい。トリプシンは、原料溶解液中の蛋白質1g当たり1000〜20000活性単位の割合で用いることが好ましい。乳酸菌由来のペプチダーゼは、原料溶解液中の蛋白質1g当たり20〜2000活性単位の割合で用いることが好ましい。 バシラス属由来のエンドプロテアーゼおよびトリプシンの各使用量が上記範囲の下限値未満であると十分な分解が行われないおそれがあり、上記範囲の上限値を超えると分解が進みすぎて、N末端にグルタミンが存在していないペプチドが減少するおそれがある。 乳酸菌由来のペプチダーゼの使用量が上記範囲の下限値未満であると、期待される風味改善効果が十分に得られないおそれがあり、上記範囲の上限値を超えると分解が進みすぎて、N末端にグルタミンが存在していないペプチドが減少するおそれがあるほか、遊離アミノ酸が増大して、精製工程における目的成分の回収率の低下をまねくおそれがある。 酵素群Bを用いる場合のバシラス属由来のエンドプロテアーゼの使用量のより好ましい範囲は1500〜8000活性単位であり、トリプシンの使用量のより好ましい範囲は1500〜10000活性単位であり、乳酸菌由来のペプチダーゼの使用量のより好ましい範囲は200〜1000活性単位である。 前記活性単位は、次のとおりである。 エンドプロテアーゼおよびトリプシンの活性単位は、カゼイン([ハマーシュタイン]メルク社製)にエンドプロテアーゼおよびトリプシンをそれぞれ作用させ、30℃で1分間に1μgのチロシンに相当するアリルアミノ酸のフォリン試薬での呈色反応を示す酵素活性が1活性単位である。 ペプチダーゼの活性単位は、次の方法により測定される。まずペプチダーゼ粉末を0.2g/100mlの割合で0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に分散又は溶解し酵素溶液とする。一方、ロイシルパラニトロアニリド(国産化学社製。以下Leu−pNAと記載する)を0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解して2mMの基質溶液を調製する。前記酵素溶液1mlに基質溶液1mlを加え37℃で5分間反応させた後、濃度30質量%の酢酸溶液2mlを加えて反応を停止させる。反応液をメンブランフィルターで濾過し、波長410nmで濾液の吸光度を測定する。ペプチダーゼの活性単位は、1分間に1μmolのLeu−pNAを分解するのに必要な酵素量が1活性単位であり、次式により算出する。 活性単位(ペプチダーゼ粉末1g当たり)=20×(A/B)(ただし、前記の式においてA及びBは、それぞれ波長410nmにおける試料の吸光度及び0.25mMパラニトロアニリン(水溶液)の吸光度である) 酵素の添加に当っては、1種類ずつ水に溶解し、添加することが望ましいが、添加の順番には特に制限はない。 酵素反応の温度は格別の制限はなく、酵素作用が発現する最適温度範囲を含む実用に供され得る範囲から選ばれる。通常、30〜60℃の範囲から選ばれる。 酵素反応の停止は、加水分解液中の酵素の失活により行われる。例えば、常法による加熱失活処理により実施することができる。 加水分解の程度は、反応温度、初発pH、酵素添加量等の反応条件によって進行状態が異なり、酵素反応の反応継続時間を一定とすると製造バッチ毎に異なる理化学的性質を有する加水分解物が生じる可能性があるため、一概に決定することは難しい。従って、酵素反応をモニターして、酵素反応の継続時間を決定することが好ましい。好ましくは、原料溶解液中のカゼインの分解率が15〜35%の範囲となるように、反応温度、反応時間、酵素添加量等の反応条件を設定する。該カゼインの分解率が15%より小さいと分解が不十分となるおそれがある。分解が不十分であると、後の精製工程における目的成分の回収率が低下する、抗原性が十分に低減されない、分子量分布において高分子量部分が多く残存してしまう等の不都合が生じる。また、35%を超えるとN末端にグルタミンが位置する可能性が高くなる。より好ましい範囲は20〜30%である。 加熱失活処理の加熱反応時間と温度は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定する。例えば、80〜130℃の温度範囲で30分間〜2秒間の保持時間で行うことができる。 次いで、加熱失活処理された加水分解液を限外濾過膜処理し、膜透過画分として、目的とするカゼイン加水分解物を含む溶液を得る。 限外濾過膜は、公知の装置を用いて行うことができる。 限外濾過膜による精製を行うことにより、加水分解によって生じた粘度の高い不溶物や沈殿などを、ナノフィルトレーション膜を用いた処理工程の前に除去できる。このことは、孔径が小さいナノフィルトレーション膜の目詰まりを防止しするうえで好ましい。また、得ようとするペプチド以外の未分解蛋白成分などが混在するのを防止して、良好な理化学的性質を有するカゼイン加水分解物を効率良く得るうえでも好ましい。 限外濾過膜の分画分子量は3000以上10000以下の範囲が好ましい。限外濾過膜の分画分子量が10000より大きいと、特に分解率が上記好ましい範囲の下限値である15質量%付近において、分子量1000を超えるペプチドが膜を透過してしまい、最終的に得られるカゼイン加水分解物における分子量1000以下の画分の収率が低下してしまう。 一方、限外濾過膜の分画分子量が3000より小さいと、膜を透過することが可能な成分がジ−、トリ−ペプチドのほかに、遊離アミノ酸、ミネラルが主体となり、その結果最終的に得られるカゼイン加水分解物におけるペプチド成分の収率が低下してしまう。 具体的には、限外濾過モジュールSEP1053(旭化成社製、分画分子量3,000)、SIP1053(旭化成社製、分画分子量6,000)、SLP1053(旭化成社製、分画分子量10,000)等を用いることができる。 次いで、上記限外濾過膜処理の膜透過画分をナノフィルトレーション膜処理し、膜非透過画分として目的とするカゼイン加水分解物を含む溶液を得る。 ナノフィルトレーション膜は、公知の装置を用いることができる。 ペプチド成分を膜内に保持しながら遊離アミノ酸及びミネラルを膜外へ排出するために、ナノフィルトレーション膜は食塩阻止率が10%以上50%以下であることが好ましい。該食塩阻止率の値が大きいほど膜内に保持される食塩(指標物質)が多い、すなわち膜孔径が小さくなり膜内に保持される物質量が多くなる。 食塩阻止率が10%より低い場合には限外濾過膜の孔径に近づいてしまい、目的のペプチド成分が膜内に保持されなくなってしまう。また食塩阻止率が50%を超える場合には水のみが透過可能なRO(Reverse Osmosis逆浸透)膜に近づいてしまい、ナノフィルトレーション精製によって期待される遊離アミノ酸やミネラルなどペプチド以外の成分の膜外への排除が不十分となり、目的のグルタミン及びグルタミン酸含量が得られないという結果を招く恐れが生じる。 また、上記ナノフィルトレーション膜処理において、荷電したナノフィルトレーション膜を用いることが好ましい。 荷電したナノフィルトレーション膜を用いることにより、遊離アミノ酸の膜外への排出を電気的に促進することができる。その結果、最終的に得られるカゼイン加水分解物中における、N末端に存在していないペプチド態のグルタミンの含有率を増大させることができる。 荷電したナノフィルトレーション膜として、具体的には、NTR−7410(食塩阻止率10%、日東電工社製)、NTR−7450(食塩阻止率50%、日東電工社製)等を用いることができる。 さらに、前記荷電したナノフィルトレーション膜を用いる場合、ナノフィルトレーション膜処理の前に、上記限外濾過膜処理の膜透過画分に酸を添加することによってpH4以下に調整することが好ましい。 前記荷電したナノフィルトレーション膜の荷電は、例えばSO3−などによるマイナスチャージであり、酸を添加すると遊離アミノ酸のアミノ基がプラスチャージを帯びるため、荷電したナノフィルトレーション膜からより排出され易くなり、相対的にペプチド成分の膜内残存割合がより上昇する。 これによって、たとえばN末端に存在していないペプチド態のグルタミン含有率を、該処理を行わない場合に比べて約1.05〜1.20倍に増大させることができる。 荷電ナノフィルトレーション膜を用いる場合の、被処理液のpHは、余分な酸添加を避け、後工程で中和を行う場合の効率も考慮すると、pH2〜4が好ましく、pH4が最も好ましい。 上記ナノフィルトレーション膜処理の膜非透過画分として得られる、カゼイン加水分解物を含有する溶液(以下、カゼイン加水分解物溶液ということもある)は、そのまま使用することもでき、また、必要に応じて濃縮して濃縮液として使用することもでき、更に、この濃縮液を乾燥し、粉末として使用することもできる。 本発明の方法によれば、下記a)〜e)の理化学的性質を有するカゼイン加水分解物、より好ましくは、さらに下記f)および/またはg)の理化学的性質を有するカゼイン加水分解物が得られる。a)カゼインの分解率が15〜35%である。 本発明におけるカゼインの分解率は後述の「分解率の測定方法」方法で求められる。b)分子量1000ダルトン以下の画分の比率が75%以上であり、かつ分子量3500ダルトン以上の画分の比率が1%未満である。これらの比率は、カゼイン加水分解物の分子量分布を後述の「分子量分布の測定方法」で測定することによって求められる。c)エライザ(ELISA:Enzyme linked immuno−sorbent assay)抑制試験法により測定した抗原性がカゼインの抗原性の1000分の1以下である。カゼイン加水分解物の抗原性およびカゼインの抗原性は、具体的には、後述の「抗原性の測定方法」で求められる。d)カゼイン加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合(以下、アミノ酸遊離率ということもある。)が5%未満である。この割合は、後述の「遊離アミノ酸組成の測定方法」で求められる。e)カゼイン加水分解物の酸加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計の35%以上がグルタミン酸として定量される。この値は、後述の「アミノ酸組成の測定方法」により求められる。 本発明における「カゼイン加水分解物の酸加水分解物に含まれるグルタミン酸として定量される値」とは、カゼイン加水分解物に含まれているグルタミン及びグルタミン酸の合計を意味する。f)遊離グルタミン酸及び遊離グルタミンが共に2mg/g未満である。この遊離グルタミン酸の含量および遊離グルタミンの含量は、後述の「遊離アミノ酸組成の測定方法」で測定できる。g)N末端に存在していないペプチド態のグルタミンが65mg/g以上である。このペプチド態のグルタミン含量は、後述の「N末端に存在していないペプチド態のグルタミンの測定方法」により求められる。特に、N末端に存在していないペプチド態のグルタミンの含量が多いカゼイン加水分解物は、例えば食品製造工程中の加熱工程等において、N末端にグルタミンを有するペプチドに由来する、消化不可能なピログルタミンの生成が抑えられる点で有利である。 本発明のカゼイン加水分解物は、本発明の方法により製造することができる。 上記の理化学的性質を有する本発明のカゼイン加水分解物は、低分子量で抗原性が低減されており、遊離アミノ酸が少ないペプチド混合物であり、グルタミン、グルタミン酸を豊富に含有するという良好な性質を有する。かかる性質を有するカゼイン加水分解物は、流動食、医療食、栄養補給食などに好適に利用できる。 以下試験例を示して本発明を詳細に説明する。尚、本発明においては、次の試験方法を採用した。(1)分解率の測定方法 分解率(%)は、原料蛋白質溶液の全窒素量当たりの、カゼイン加水分解物溶液のホルモル態窒素量の百分率(質量基準)であり、次の方法により求めた。なお、ここでの原料蛋白質溶液には、原料として用いたカゼイン(未分解のカゼイン)以外の蛋白質は含まれないものとする。 まずカゼイン加水分解物溶液4mlと蒸留水30mlを混合し、0.2N水酸化ナトリウム溶液又は塩酸溶液でpHを6.8に調整する。この溶液に、0.2N水酸化ナトリウム溶液でpHを8.0に調整したホルマリン溶液5mlを添加した後、0.1N水酸化ナトリウム溶液でpHが7.9に達するまで滴定する。 この時の0.1N水酸化ナトリウム溶液の滴定量をAml、用いた0.1N水酸化ナトリウム溶液のファクターをF、原料蛋白質溶液の蛋白濃度をB(%)(質量基準)として、分解率を次式から算出する。 分解率(%)=22.3×A×F/B(2)アミノ酸組成の測定方法 トリプトファン、システイン及びメチオニン以外のアミノ酸については、試料(カゼイン加水分解物溶液)を6N塩酸で110℃、24時間加水分解し、トリプトファンについては、水酸化バリウムで110℃、22時間アルカリ分解し、システイン及びメチオニンについては、過ギ酸処理後、6N塩酸で110℃、18時間加水分解し、それぞれアミノ酸分析機(日立製作所製。835型)により分析し、アミノ酸の質量を測定した。 こうして測定された各アミノ酸の質量の合計を、本発明における「カゼイン加水分解物の酸加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計」とする。 なお、この方法では、試料(カゼイン加水分解物溶液)に含まれているグルタミンの量およびグルタミン酸の量は、両者を合わせた合計量であるグルタミン酸分析値として定量される。(3)遊離アミノ酸組成の測定方法 スルホサリチル酸で試料(カゼイン加水分解物溶液)を除蛋白し、アミノ酸分析機(日立製作所社製。835型)により分析し、遊離アミノ酸の質量を測定した。そして前記「アミノ酸組成の測定方法」で測定された各アミノ酸の質量の合計に対する遊離アミノ酸質量の百分率を算出した。(4)分子量分布の測定方法 高速液体クロマトグラフィーにより分子量分布を測定した(宇井信生ら編、「タンパク質・ペプチドの高速液体クロマトグラフィー」、化学増刊第102号、第241頁、株式会社化学同人、1984年)。 具体的には、ポリハイドロキシエチル・アスパルタミド・カラム[Poly Hydroxyethyl Aspartamide Column:ポリ・エル・シー(Poly LC)社製。直径4.6mm及び長さ220mm]を用い、20mM塩化ナトリウム、50mMギ酸により溶出速度0.4ml/分で溶出した。 検出はUV検出器(島津製作所社製)を用い、データ解析はGPC分析システム(島津製作所社製)を使用した。(5)抗原性の測定方法 エライザ(ELISA:Enzyme linked immuno−sorbent assay)抑制試験法[小児アレルギー学会誌、第1巻、第2号、第36ページ、1987年]により次のようにして測定した。 まず、96穴プレート(ヌンク社製)にカゼインをコーティングし、洗浄し、被検抗原液をプレートの穴に供給して反応させ、洗浄後アルカリホスファターゼ標識ヤギ抗ウサギIgG抗体[ザイメット・ラボラトリー(Zymed Laboratories)社製]を反応させ、洗浄後、酵素基質であるp−ニトロフェニル・リン酸ナトリウムを添加して反応を停止させた後、各穴における吸光度をマイクロプレートリーダー(和光純薬工業社製)で測定した。 被検抗原液として、カゼインを感作して調製したウサギ抗カゼイン血清と試料(カゼイン加水分解物溶液)の混合物を用いた穴の吸光度をXとする。 被検抗原液として、カゼインを感作して調製したウサギ抗カゼイン血清と抗原を含まない試料溶媒(水)の混合物を用いた穴の対照吸光度をYとする。 カゼイン加水分解物の抗原性の指標として、次の式で算出した抑制率を用いる。該抑制率の値が低いほど抗原性が低いことを表す。 カゼイン加水分解物による抑制率(%)=(1−X/Y)×100 また、上記被検抗原液として、カゼインを感作して調製したウサギ抗カゼイン血清と未分解のカゼインの混合物を用いた他は同様にして、カゼインによる抑制率を求める。そして、被検抗原が(a)カゼイン加水分解物である場合、および(b)未分解のカゼインである場合について、それぞれ被検抗原の量を変化させてXを測定し、該被検抗原の量と抑制率との関係を示す曲線をそれぞれ得る。この曲線から抑制率が50%となるときの被検抗原の量(上記(a)の場合の量をa50、(b)の場合の量をb50とする)を求め、b50/a50の値を算出する。この値(b50/a50)でカゼイン加水分解物の抗原性を評価する。(6)N末端に存在していないペプチド態のグルタミンの測定方法 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、従来法を一部改変して測定した[ジャーナル・オブ・アグリカルチャアル・アンド・フード・ケミストリー(Journal of Agricultural and Food Chemistry)、第44巻、第1808〜1811ページ、1996年]。 具体的には、試料(カゼイン加水分解物溶液)を反応チューブに入れ、BTI([bis(trifluoroacetoxy)iodo]benzene [ビス(トリフルオロアセトキシ)イオド]ベンゼン)のDMF(dimethylformamide ジメチルホルムアミド)溶液及びピリジン水溶液を加え、ブロックヒーターにて50℃、4時間反応させた後DMFと水を除去し、残渣をノルロイシンに溶解し、ガラス反応チューブで6規定塩酸で150℃、75分間の加水分解を行った。加水分解後、生成したDABA(L−2,3−diaminopropionic acid エル−2,3−ジアミノプロピオニックアシド)をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)にてカプセルパックカラム[Capcellpak UG−80 Column:資生堂社製、直径2.0mm及び長さ150mm]を用い、THF(Tetrahydrofuran テトラヒドロフラン)とギ酸により溶出速度0.2ml/分で溶出し、検出は蛍光検出器(島津製作所社製)を用いて定量した。[試験例1](1)試験試料の調製試験試料1:後述の実施例1で得られた本発明にかかるカゼイン加水分解物。試験試料2:特開2001−78684号公報の実施例1に従って、カゼインをパパイン(天野エンザイム社製)で分解することにより得られたカゼイン加水分解物。試験試料3:特開2000−210030号公報の実施例1に従って、カゼインをペプシン(ヴォルフガングミュールバウアー社製)で分解することにより得られたカゼイン加水分解物。試験試料4:特開平8−228692号公報の実施例1に従って、カゼインをビオプラーゼsp−20(ナガセケムテック社製)、プロテア−ゼN(天野エンザイム社製)及びPTN6.0S(ノボザイムズ社製)で分解することにより得られたカゼイン加水分解物。試験試料5:特公昭54−36235号公報の実施例1に従って、カゼインをラクトバチルス・ヘルベチクス(森永乳業社製)粉末破砕物、パンクレアチン(天野エンザイム社製)及びアマノA(天野エンザイム社製)で分解することにより得られたカゼイン加水分解物。(2)試験方法 下記の特性について、前述の試験方法により試験した。(b1)分子量1000ダルトン以下の画分の比率、(b2)分子量3500ダルトン以上の画分の比率、(c)抗原性(上記b50/a50の値、すなわち未分解のカゼインによる抑制率を1としたときの、カゼイン加水分解物による抑制率の割合)、(d)アミノ酸遊離率(カゼイン加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合)、(e)カゼイン加水分解物の酸加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に対するグルタミン酸(試料のグルタミンとグルタミン酸の合計量として定量される分析値)の割合。(3)試験結果 本試験の結果を、下記表1に示す。 なお、試験試料2における(c)抗原性の評価は、未分解のカゼインと差が認められなかった。 表1の結果から明らかなように、試験試料1〜5のうち、(b1)が75%以上、(b2)が1%未満、(c)が1000分の1以下、(d)が5%未満、および(e)が35%以上という理化学的性質を併せ持つカゼイン加水分解物は試験試料1のカゼイン加水分解物のみであった。さらに、酵素を固定し、出発原料の種類を変更して同様に試験したところ、同様の傾向が得られた。[試験例2](1)試験試料の調製試験試料6:後述の実施例2で得られた本発明にかかるカゼイン加水分解物。酵素群Aを使用し、ナノフィルトレーション膜処理においてはpHが4に調整された被処理液を用いた。試験試料7:後述の実施例2において、ナノフィルトレーション膜処理を行わず、被処理液のpH調整も行わなかった。その他は実施例2と同様にして得られたカゼイン加水分解物。試験試料8:後述の実施例2において、ナノフィルトレーション膜処理に用いる被処理液のpH調整を行わなかった。その他は実施例2と同様にして得られたカゼイン加水分解物。試験試料9:後述の実施例3で得られた本発明にかかるカゼイン加水分解物。酵素群Bを使用した。ナノフィルトレーション膜処理の前に被処理液のpH調整は行なわなかった。試験試料10:後述の実施例3において、ナノフィルトレーションを行わなかった。その他は実施例3と同様にして得られたカゼイン加水分解物。試験試料11:後述の実施例3において、ナノフィルトレーション膜処理前に被処理液のpHを4に調整した。その他は実施例3と同様にして得られたカゼイン加水分解物。(2)試験方法 下記の特性について、前述の試験方法により試験した。(e)カゼイン加水分解物の酸加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に対するグルタミン酸(試料のグルタミンとグルタミン酸の合計量として定量される分析値)の割合。(f1)遊離グルタミン酸の含量、(f2)遊離グルタミンの含量、(g)N末端に存在していないペプチド態のグルタミン含量。(3)試験結果 本試験の結果を、下記表2に示す。 表2の結果から明らかなように、試験試料6,8,9,11では、(e)が35%以上で、(f1)および(f2)が共に2mg/g未満で、かつ(g)が65mg/g以上という良好な特性が得られた。 ナノフィルトレーション膜処理を行なわなかった試験試料7および10は、(e)および(g)において好ましい特性が得られず、試験試料10は、さらに(f1)遊離グルタミン酸の含量が多かった。 またナノフィルトレーション膜処理前に被処理液をpH4に調整した試験試料6、11は、試験試料8,9とそれぞれ比べて(e)および(g)の特性がさらに向上し、試験試料11は(f1)遊離グルタミン酸の含量も低減した。 さらに、酵素を固定し、出発原料の種類を変更して同様に試験したところ、同様の傾向が得られた。 以下に実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。<実施例1> 乳酸カゼイン(蛋白質含有量85%。タツア社製)1kgを精製水10kgに溶解し、水酸化ナトリウム(日本曹達社製)13g及び水酸化カリウム(日本曹達社製)33gを添加してpHを9.3に調整して原料溶解液とした。 この原料溶解液に、バシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ(商品名:プロテアーゼN;天野エンザイム社製)168万活性単位(蛋白質1g当たり2,000活性単位)、バシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ(商品名:ビオプラーゼ;ナガセケムテック社製)100.8万活性単位(蛋白質1g当たり1,200活性単位)、及びトリプシン(商品名:トリプシンV;日本バイオコン社製)588万活性単位(蛋白質1g当たり7,000活性単位)を添加し、50℃で加水分解した。酵素反応を分解率によりモニターし、分解率が24%かつアミノ酸遊離率が4.3%に達した時点で、130℃で2秒間加熱して酵素を失活させて加水分解液を得た。 この加水分解液を、分画分子量6,000の限外濾過膜モジュール(商品名:SIP1030;旭化成社製)により限外濾過膜処理し、得られた膜透過画分を、食塩阻止率50%の荷電したナノフィルトレーション膜モジュール(商品名:NTR7450;日東電工社製)を用いてナノフィルトレーション膜処理した。得られた膜非透過画分を濃縮し、噴霧乾燥し、粉末状のカゼイン加水分解物約0.5kgを得た。 前記ナノフィルトレーション膜処理における膜非透過画分として得られたカゼイン加水分解物溶液について、前記試験方法で下記の各特性を試験した。その結果を下記表3にまとめて示す。(a)カゼインの分解率、(b1)分子量1000ダルトン以下の画分の比率、(b2)分子量3500ダルトン以上の画分の比率、(c)抗原性(カゼインによる抑制率を1としたときの、カゼイン加水分解物による抑制率の割合)、(d)アミノ酸遊離率(カゼイン加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合)、(e)カゼイン加水分解物の酸加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に対するグルタミン酸(試料のグルタミンとグルタミン酸の合計量として定量される分析値)の割合、(f1)遊離グルタミン酸の含量、(f2)遊離グルタミンの含量、(g)N末端に存在していないペプチド態のグルタミン含量。<実施例2> 実施例1と同様にして、原料溶解液を調製し、酵素反応による加水分解を行い、限外濾過処理を行った。 限外濾過膜処理で得られた膜透過画分にクエン酸(三栄源エフエフアイ社製)を添加してpH4に調整し、食塩阻止率10%の荷電したナノフィルトレーション膜モジュール(商品名:NTR7410;日東電工社製)を用いてナノフィルトレーション膜処理した。得られた膜非透過画分を濃縮し、噴霧乾燥し、粉末状のカゼイン加水分解物約0.5kgを得た。 前記ナノフィルトレーション膜処理における膜非透過画分として得られたカゼイン加水分解物溶液について、実施例1と同様にして各特性を試験した。その結果を下記表3にまとめて示す。<実施例3> ナトリウムカゼイネート(蛋白質含有量90%。フォンテラ社製)10kgを精製水90kgに溶解し、水酸化ナトリウム(日本曹達社製)0.15kgを添加してpHを9.2に調整して原料溶解液とした。 この原料溶解液に、バシラス属細菌由来の中性エンドプロテアーゼ(商品名:アルカラーゼ;ノボザイムズ社製)1700万活性単位、(蛋白質1g当たり1880活性単位)、及びトリプシン(商品名:トリプシンV;日本バイオコン社製)1620万活性単位(蛋白質1g当たり1800活性単位)、及び乳酸菌ラクトバチルス・ヘルベチクス由来ペプチダーゼ(森永乳業社製)900万活性単位(蛋白質1g当たり1000活性単位)を添加し、50℃で加水分解した。酵素反応を分解率によりモニターし、分解率が32%かつアミノ酸遊離率が27%に達した時点で、130℃で2秒間加熱して酵素を失活させて加水分解液を得た。 この加水分解液を、分画分子量3,000の限外濾過膜モジュール(商品名:SEP3051;旭化成社製)により限外濾過膜処理し、得られた膜透過画分を、食塩阻止率10%の荷電したナノフィルトレーション膜モジュール(商品名:NTR7410;日東電工社製)を用いてナノフィルトレーション膜処理した。得られた膜非透過画分を濃縮し、噴霧乾燥し、粉末状のカゼイン加水分解物約0.4kgを得た。 前記ナノフィルトレーション膜処理における膜非透過画分として得られたカゼイン加水分解物溶液について、実施例1と同様にして各特性を試験した。その結果を下記表3にまとめて示す。 実施例1〜3で得られたカゼイン加水分解物はいずれも、良好な理化学的特性を有しており、流動食、医療食、栄養補給食などにそのまま使用可能な優れたものであった。 カゼインを含有する原料溶解液を、バシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ及びトリプシンからなる酵素群A、又はバシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ及びトリプシン及び乳酸菌由来のペプチダーゼからなる酵素群Bのいずれか一方で加水分解し、得られた加水分解液を限外濾過膜処理し、得られた膜透過画分をナノフィルトレーション膜処理し、膜非透過画分としてカゼイン加水分解物を得ることを特徴とするカゼイン加水分解物の製造方法。 前記ナノフィルトレーション膜処理において、荷電したナノフィルトレーション膜を用いることを特徴とする請求項1記載のカゼイン加水分解物の製造方法。 前記ナノフィルトレーション膜処理を行う前に、前記限外濾過膜処理の膜透過画分をpH2〜4に調整することを特徴とする請求項2に記載のカゼイン加水分解物の製造方法。 前記限外濾過膜処理において用いられる限外濾過膜の分画分子量が3000乃至10000であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のカゼイン加水分解物の製造方法。 前記ナノフィルトレーション膜処理において用いられるナノフィルトレーション膜の食塩阻止率が10%乃至50%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のカゼイン加水分解物の製造方法。 前記加水分解におけるカゼインの分解率が15〜35%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のカゼイン加水分解物の製造方法。 下記a)〜e)の理化学的性質を有することを特徴とするカゼイン加水分解物。a)カゼインの分解率が15〜35%であること、b)分子量1000ダルトン以下の画分の比率が75%以上であり、かつ分子量3500ダルトン以上の画分の比率が1%未満であること、c)エライザ(ELISA:Enzyme linked immuno−sorbent assay)抑制試験法により測定した抗原性がカゼインの抗原性の1000分の1以下であること、d)カゼイン加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合が5%未満であること、e)カゼイン加水分解物の酸加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計の35%以上がグルタミン酸として定量されること。 さらに、f)遊離グルタミン酸及び遊離グルタミンの含量が共に2mg/g未満であることを特徴とする請求項7記載のカゼイン加水分解物。 さらに、g)N末端に存在していないペプチド態のグルタミンの含量が65mg/g以上であることを特徴とする請求項7または8に記載のカゼイン加水分解物。 【課題】 食品素材として広く使用可能であり、グルタミンおよびグルタミン酸を豊富に含有するカゼイン加水分解物の製造方法を提供する。【解決手段】カゼインを含有する原料溶解液を、バシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ及びトリプシンからなる酵素群A、又はバシラス属細菌由来のエンドプロテアーゼ及びトリプシン及び乳酸菌由来のペプチダーゼからなる酵素群Bのいずれか一方で加水分解し、得られた加水分解液を限外濾過膜処理し、得られた膜透過画分をナノフィルトレーション膜処理し、膜非透過画分としてカゼイン加水分解物を得る。【選択図】 なし