タイトル: | 公開特許公報(A)_飛行時間型二次イオン質量分析法における質量軸校正方法 |
出願番号: | 2005237212 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 23/225,G01N 27/62 |
藤井 崇 JP 2007051934 公開特許公報(A) 20070301 2005237212 20050818 飛行時間型二次イオン質量分析法における質量軸校正方法 凸版印刷株式会社 000003193 藤井 崇 G01N 23/225 20060101AFI20070202BHJP G01N 27/62 20060101ALI20070202BHJP JPG01N23/225G01N27/62 DG01N27/62 K 3 1 OL 7 2G001 2G041 2G001AA05 2G001BA06 2G001CA05 2G001EA04 2G001EA20 2G001FA02 2G001GA02 2G001GA06 2G001HA13 2G001KA01 2G001LA11 2G001MA05 2G001RA02 2G001RA08 2G001RA20 2G001SA10 2G001SA29 2G001SA30 2G041CA01 2G041DA16 2G041EA04 2G041EA13 2G041FA06 2G041GA06 2G041GA20 2G041HA01 2G041LA10 本発明は飛行時間型二次イオン質量分析法における質量軸校正法に関する、さらには、飛行時間型二次イオン質量分析法における精密質量測定技術に関する。 二次イオン質量分析法は数百eVから20keVのエネルギーを有する細束イオンビームを試料表面に照射し、スパッタ現象に伴い二次的に放出される試料の構成元素による二次イオンを質量分析計にかけて、元素または化合物の同定および濃度の測定をおこなう分析法である。 二次イオン質量分析法には分析モードとしてダイナミックSIMS(Dynamic−SIMS、以下D−SIMSとする)とスタティックSIMS(Static−SIMS、以下S−SIMSとする)の2つが挙げられる。D−SIMSは高電流密度の一次イオンビームを用いて、表面から数10nmまでの深さ方向濃度分布の測定およびバルクの極微量分析に利用される。これに対し、S−SIMSは照射一次イオン電流密度を極端に低下させ、表面の損傷を可能な限り少なくして非破壊に近い状態で測定する方法である。 S−SIMSでは一次イオンのトータルドーズ量が1012から1013ions/cm2で測定が終了する。このような条件下では、試料表面において1個の一次イオンによって損傷を受けた場所に、2個目のイオンが当たる確率は極めて低く、したがって、原子間結合が保たれたままの分子イオンやフラグメントイオンが試料表面から生成、放出され、検出される。したがって、S−SIMSでは表面の極めて浅い領域における分子や化学構造に関する情報が得られる。 S−SIMSでは、高感度および高分解能に特徴のある飛行時間型質量分析計(TOF−MS)を備えたSIMS装置である飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)の開発により、S−SIMS分析モードによるバイオ関連、触媒、生体、環境物質など様々な分野への適用が提案されている(例えば、特許文献1)。 飛行時間型二次イオン質量分析法(以下、TOF−SIMSとする)に固有の特徴として、まずは、原理的に一次イオンの照射が時間的なパルスビームで与えられるために、トータルのドーズ量の微調整が可能で、容易に且つ正確にスタティックの条件が設定できるということが挙げられる。この他にも、一次イオンパルスによって生じた全ての二次イオンをロスなく検出できるということ、また、一次イオンのパルス幅を1ns以下と短くすることで、質量分解能が非常に高く、フラグメントの帰属を正確におこなうことができるということ、また、Ga+イオン等のサブミクロンの収束ビームを一次イオンとして用いることにより、イメージング測定や微小部の分析が可能であるということが挙げられる。 TOF−SIMS測定により得られた質量スペクトルについては質量軸校正がおこなわれる。質量軸校正の方法としてはスペクトル中にある既知物質の複数の基準ピークをもとに、校正直線を求め、校正をおこなう方法が一般的である。基準ピークとしては、例えばガラス上のSi+ピークといった試料由来のピークを用いることが可能であるが、多くの場合、表面コンタミといわれる試料表面の低分子汚染物質由来のピーク、例えば、CH2+(質量数14)、C2H3+(質量数27)、C3H5+(質量数41)、CH−(質量数13)、OH−(質量数17)、C2H−(質量数25)が用いられる。 また、非特許文献1においては、低分子有機化合物を添加したフィルムを作製し、添加した低分子有機化合物を質量軸校正物質として質量軸校正を行い、フィルム構成分子の精密質量測定を行う方法が提案されている。特開2004−37123号公報“ToF−SIMS Surface analysis by mass spectrometry” p465,2001年発行 IM Publications and Surface Spectra Limited. しかしながら、TOF−SIMS測定において、基準ピークとして試料表面の低分子汚染物質由来のピークを用いた場合、これら汚染物質由来のピークが十分な強度で検出されるのは質量数100未満であり、それ以上の質量数を有する低分子汚染物質由来のピークを質量軸校正のための基準ピークとして用いることは困難であった。したがって、低分子汚染物質由来のピークを基準とした質量軸校正方法では、質量数が大きくなるにつれ質量軸のズレが大きくなってしまい、例えば質量数が500を超えるような試料表面由来の未知ピークについてその精密質量を正確に求めることは困難であった。 そこで、本発明では、TOF−SIMS測定において500を超えるような試料表面由来のピークについてその精密質量を正確に求めることを目的とする。 上記課題を解決するために、請求項1に係る発明としては 試料表面にパルス状の一次イオンを照射し、飛行時間型の質量分析計を用いて前記試料表面の質量スペクトルを得る飛行時間型二次イオン質量分析法において、質量軸校正物質を試料表面に配し、測定時に試料表面由来の信号と質量軸校正物質の由来の信号を同時に検出し、質量軸校正物質を用いて得られた質量スペクトルの質量軸の校正をおこなうことを特徴とする飛行時間型二次イオン質量分析法の質量軸校正方法とした。 また、請求項2に係る発明としては、前記質量軸校正物質を試料表面に配する方法が、質量軸校正物質を溶液化し、ネブライザーを用いて試料表面に噴霧することを特徴とする請求項1記載の飛行時間型二次イオン質量分析法の質量軸校正方法とした。 また、請求項3に係る発明としては、前記質量軸校正物質がイオン性物質であることを特徴とする請求項1または2記載の飛行時間型二次イオン質量分析法の質量軸校正方法とした。 TOF−SIMS測定において試料表面に質量軸校正物質を表面に配し、測定時に試料表面由来の信号と質量軸校正物質由来の信号を同時に検出することにより、精密質量測定をおこなうことが可能になった。 また、質量軸校正物質を溶液化し、ネブライザーを用いて試料表面に噴霧することにより、質量軸校正物質を極めて簡便に試料表面に配することが可能となった。 また、質量軸校正物質としてイオン性有機化合物を用いることによって、TOF−SIMS測定において感度良く質量軸校正物質由来のピークを高強度で検出することが可能となった。 本発明によって試料表面構造を維持したまま質量数500を超える未知ピークについて、その精密質量をより精度良く求めることができるようになった。 以下に本発明を具体的に説明する。 本発明では試料表面に質量軸校正物質を配する。試料表面に対して質量軸校正物質を添加する際には、TOF−SIMS測定における検出深さが数nmであることから、質量軸校正物質を非常に薄く均一に塗布する必要がある。もし、質量軸校正物質を過剰に配した場合には、質量軸校正物質由来の信号強度が非常に大きくなってしまい、本来得たい試料表面由来の信号が非常に弱くなってしまう、または、試料表面由来の信号が検出されなくなってしまうといった問題が発生する。 試料表面に質量軸校正物質を配する方法としては、蒸着法、スパッタリング法といったドライプロセスが挙げられる。ドライプロセスを用いた場合、質量軸校正物質を数nmのオーダーの厚みで薄く、均一に配することは可能であるが、成膜を真空中でおこなう必要があり、真空引き等に時間を要する。ドライプロセス以外の方法として質量軸校正物質を溶媒に溶解させることにより溶液化し、溶液化した質量軸校正物質を塗布するといったウエットプロセスによる方法が挙げられる。しかし、通常の塗布方法では質量軸校正物質を数nmのオーダーの厚みで薄く、均一に配することは困難である。そこで、液体クロマトグラフ/質量分析装置や誘導結合プラズマ−質量分析装置などに使用されるネブライザーを用いて、試料表面に対して質量軸校正物質を噴霧する方法が挙げられる。ネブライザーを用いることにより、質量軸校正物質を極めて簡便に試料表面に配することが可能となった。 図1に、質量軸校正物質を溶媒に溶解し、溶液化した質量軸校正物質をネブライザーを用いて試料表面に噴霧する工程を説明する。ポンプ11から供給された質量軸校正物質はチューブ12を通り、二重構造となった金属配管14の内側に供給される。ガス13は金属配管14の外側に供給されており、金属配管先端15からガスと共に質量軸校正物質が液滴16として噴霧される。噴霧された校正物質を含む有機溶媒は、大気中で徐々に乾燥し微細な液滴となる。液滴が小さくなるにつれ質量軸校正物質は自らの電荷によって反発し更に微細な液滴が生成する。試料17表面とネプライザーの金属配管先端15の距離を溶媒が完全に乾燥する距離とし、その距離を保持したまま、試料17を金属配管先端の下に一定時間暴露することで、質量軸校正物質を試料17表面に薄く均一に配することができる。 質量軸校正物質は、TOF−SIMS測定において感度良く検出される物質、すなわちイオン化されやすい物質であるイオン性物質であることが好ましい。具体的には、正イオンマススペクトル測定では、質量軸校正物質としてアルキルアミンオキシド、アルキルベタイン、アルキルアミノ酸、銅フタロシアニン系化合物が挙げられる。負イオンマススペクトルではアルキルスルホン酸塩、アルキルアミノ酸、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドが挙げられる。イオン性物質を溶媒に溶解または安定して分散させる溶媒はそれぞれの質量軸校正物質に対して適宜選択される。これらの質量軸校正物質は複数を表面に配しても良い。質量軸校正物質としては、目的とする未知ピークの質量数と重ならないようにし、また、未知ピークと質量数を近づくことができるような物質を適宜選択する必要がある。 次に飛行時間型二次イオン質量分析装置による測定工程について説明する。質量軸校正物質を配した前述の試料基板を飛行時間型二次イオン質量分析装置で測定を行う。校正物質と試料分子イオンが同一測定範囲に高感度に検出されるように、一時イオン種を選択し、また、試料測定サイズや加速電圧を調整する。 次に前述の測定によって得られたマススペクトルの解析工程について説明する。マススペクトル解析時に試料表面に配した質量軸校正物質の分子イオンと、表面コンタミといわれる炭化水素由来のピークや試料由来の既知ピークを基準ピークとし、基準ピークの質量数の理論値と測定値から、例えば最小二乗法により求めた校正直線を用いて質量軸校正をおこなう。このような質量軸校正方法を用いることにより、未知のピークに対して、より精度の高い質量数を求めることができる。 試料表面と質量軸校正物質を別々に測定した場合、試料フォルダ内での測定箇所の違い等による装置起因の補正を考慮する必要がある。しかし、本発明では試料表面と質量軸校正物質を同時に測定することにより、得られたスペクトル中に試料由来のピークと質量軸校正物質由来のピークが存在するため、TOF−SIMS測定装置起因による質量軸のズレを考慮する必要が無く、精密な質量数を求めることができる。 以下に、正イオンマススペクトル測定の実施例を示す。なお、正イオンマススペクトル測定における一次イオンはGa+イオン、加速電圧は12kV、測定面積は25μm角である。 組成式C64H91N7F6S2O4、分子量理論値1199.6478で表されるような成分をシリコンウエハ基板表面に滴下・乾燥させたものを試料とする。この試料を飛行時間型二次イオン質量分析装置で測定したところ、この試料由来のピークは正イオンマススペクトルにおいて、質量数1201で高強度で検出されること、また、そのマッピング像から約10μmの円形状に基板上に点在していることが分かった。なお、試料由来の質量数1201のピークの理論値は試料組成により1200.6556である。 この試料表面に、アセトニトリルに溶解したイオン性化合物(C70H108N6)+Cl−を図1に示すようなネブライザーを用いて質量軸校正物質として噴霧した。このとき、試料はネブライザー先端から5cm離れた位置に固定することで有機溶媒が完全に乾燥することと、この位置で5秒間噴霧することで飛行時間型二次イオン質量分析装置で試料由来のピークと質量軸校正物質由来のピークが同時に感度よく検出されることがわかった。なお、質量軸校正物質由来のピークは質量数1033において高強度で検出された。この質量数1033の質量軸校正物質由来のピークの理論値は、組成により1032.8635である。 次に、質量軸校正物質を配した試料を飛行時間型二次イオン質量分析装置で正イオン測定をおこなった。正イオンマススペクトル測定から得られた質量スペクトルを低分子汚染物質CH2+(質量数14)、C2H3+(質量数27)、C3H5+(質量数41)で質量軸校正した場合と、低分子汚染物質CH2+、C2H3+、C3H5+と試料表面に配した質量軸校正物質由来のピーク(質量数1033)で質量軸校正した場合の質量数1201の試料由来のピークの校正した測定値と理論値とのズレを比較した表を表1に示す。 表1より、本発明による質量軸校正を行うことで、通常の校正方法を用いるより約20倍程度精度が向上していることが確認された。また、校正物質を塗布しても約10μmの円形状に点在している未知試料の表面構造を破壊することはなかった。 次に、負イオンマススペクトル測定の実施例を以下に示す。なお、正イオンマススペクトル測定における一次イオンはGa+イオン、加速電圧は18kV、測定面積は25μm角である。 組成式C76H145O3SNa、分子量理論値1161.0812で表されるような成分をシリコーンウエハ基板表面に滴下・乾燥させたものを試料とする。この試料を飛行時間型二次イオン質量分析装置で測定したところ、この試料由来のピークは負イオンマススペクトルにおいて、質量数1138で高強度で検出されること、約20μmの円形状に基板上に点在していることが分かった。なお、試料由来の質量数1138のピークの理論値は組成により1138.0914である。 この試料表面に、溶媒としてアセトニトリルに溶解したイオン性化合物(C56H105O3S)−Na+を図1に示すようなネブライザーを用いて噴霧した。このとき、試料はネブライザー先端から5cm離れた位置に固定することで有機溶媒が完全に乾燥することと、この位置で7秒間塗布することで飛行時間型二次イオン質量分析装置で試料由来のピークと質量軸校正物質由来のピークが同時に感度よく検出されることがわかった。なお、質量軸校正物質由来のピークは質量数858において高強度で検出された。この質量数858の質量軸校正物質由来のピークの理論値は、組成により857.7784である。 前述の試料基板を飛行時間型二次イオン質量分析装置でネガ測定を行う。ネガ測定から得られたマススペクトルを通常の低分子汚染物質CH−(質量数13)、OH−(質量数17)、C2H−(質量数25)で質量軸校正した場合と、低分子汚染物質CH−、OH−、C2H−と試料表面に配した校正物質由来のピーク(質量数858)で質量軸校正した場合の質量数1138の試料由来のピークの校正した測定値と理論値とのズレを比較した表を表2に示す。 表2より、本発明による質量軸校正を行うことで、通常の校正方法を用いるより約20倍程度精度が向上していることが確認された。また、校正物質を塗布しても約20μmの円形状に点在している未知試料の表面構造を破壊することはなかった。本発明に用いたネブライザーの概略図符号の説明11:ポンプ 12:チューブ13:ガス14:金属配管15:金属配管先端16:噴霧された液滴17:試料 試料表面にパルス状の一次イオンを照射し、飛行時間型の質量分析計を用いて前記試料表面の質量スペクトルを得る飛行時間型二次イオン質量分析法において、 質量軸校正物質を試料表面に配し、測定時に試料表面由来の信号と質量軸校正物質の由来の信号を同時に検出し、質量軸校正物質を用いて得られた質量スペクトルの質量軸の校正をおこなうことを特徴とする飛行時間型二次イオン質量分析法の質量軸校正方法。 前記質量軸校正物質を試料表面に配する方法が、質量軸校正物質を溶液化し、ネブライザーを用いて試料表面に噴霧することを特徴とする請求項1記載の飛行時間型二次イオン質量分析法の質量軸校正方法。 前記質量軸校正物質がイオン性有機化合物であることを特徴とする請求項1または2記載の飛行時間型二次イオン質量分析法の質量軸校正方法。 【課題】 試料表面にパルス状の一次イオンを照射し、飛行時間型の質量分析計を用いて前記試料表面の質量スペクトルを得る飛行時間型二次イオン質量分析法において、500を超えるような試料表面由来のピークについてその精密質量を正確に求めることを目的とする。【解決手段】 TOF−SIMS測定において、試料表面に質量軸校正物質を表面に配し測定時に試料表面由来の信号と質量軸校正物質由来の信号を同時に検出すること、質量軸校正物質をネプライザーを用いて試料表面に配すること、質量軸校正物質にイオン性物質を用いることにより質量数500を超える未知ピークについて、その精密質量をより精度良く求めることができるようになった。【選択図】図1