タイトル: | 公開特許公報(A)_レモンフレーバーの香気劣化抑制方法およびその飲料 |
出願番号: | 2005227900 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C11B 9/00,C11B 5/00,A23L 1/22,C12G 3/04 |
三浦 裕 JP 2007039610 公開特許公報(A) 20070215 2005227900 20050805 レモンフレーバーの香気劣化抑制方法およびその飲料 アサヒビール株式会社 000000055 正林 真之 100106002 三浦 裕 C11B 9/00 20060101AFI20070119BHJP C11B 5/00 20060101ALI20070119BHJP A23L 1/22 20060101ALI20070119BHJP C12G 3/04 20060101ALI20070119BHJP JPC11B9/00 ZC11B5/00A23L1/22 ZC12G3/04 12 OL 11 4B015 4B047 4H059 4B015LG02 4B015LH11 4B047LF07 4B047LG09 4H059BA27 4H059BC23 4H059DA09 4H059EA01 本発明は、レモンフレーバーの香気劣化抑制方法およびその飲料に関するものであり、より詳しくはレモンフレーバーの香りの本体とされるシトラールの劣化抑制方法およびその飲料に関する。 レモンフレーバーは、例えば、炭酸飲料やチューハイにおいて、最も好まれる香りであり、炭酸飲料などの各種飲食品に柑橘類の風味を付与増強するために用いられている。 シトラールは、柑橘系フレーバー、特にレモンフレーバー中の主要香気成分であり、レモン様のフレッシュな香気を付与するための重要な香気成分である。しかしながら、シトラールは不安定で、酸性条件下では酸触媒反応により環化または酸化反応を起こし、分解される。それに伴い、レモン様のフレッシュ感が消失するとともに、これらの環化、酸化生成物がオフフレーバーとなり、フレーバーとしての寿命が短くなることが知られている。 このシトラールの環化と酸化反応は、図5に示すシトラールの分解経路のように、シトラールAは、まず、水素イオンの存在で環化反応により化合物Bで表されるp−メンタジエン−8−オールとなり、ついで酸化されて化合物Cで表されるp−サイメン−8−オールとなり、さらに化合物Dで表されるα−p−ジメチルスチレンを経て、化合物Eで表されるp−メチルアセトフェノンに分解されることが知られている。これらの分解物は劣化臭物質としフレーバーにとっては好ましくないものである。 このように、レモンの香りの本体であるシトラールが、製造、流通、保存等の各段階で環化、水和等の反応によりその構造が変化し、さらに酸化反応によって、これらの劣化臭物質の分解物が生じるため、レモン飲料は常温で半年も置くと、薬品臭が発生して、その品質が著しく悪化してしまい、フレッシュで爽やかなイメージが失われてしまう。 ところで、このシトラールの環化と酸化反応は、飲料のpHが酸性領域である程起こり易いが、クエン酸やその他の有機酸のナトリウム塩を添加して、pHを中性領域まで上げていくことで劣化が抑えられることが知られている(非特許文献1)。 また、レモンフレーバーとクエン酸、クエン酸カリウムを配合した飲料として、特許文献1に、レモンフレーバーとクエン酸、クエン酸カリウムとを配合した迅速に水に溶解する粉末飲料混合物が開示されている。 また、特許文献2には、シトラールを含有する柑橘系フレーバーの香味劣化抑制材として茶ポリフェノールを用いてシトラールの分解生成物であるp−メチルアセトフェノンの生成を抑制することが提案されている。日本食品工業学会誌,第15巻,第7号,pp.285−289(1968)米国特許第4619833号明細書特開2003−96486号公報 しかしながら、非特許文献1には、飲食品で一般的に用いられているクエン酸ナトリウムが飲料のpHを上げるために使用されているが、このクエン酸ナトリウムを充分にシトラールの劣化を抑制するまで使用すると、クエン酸ナトリウムの塩味が際立ってしまい、香味が劣るものとなるので、飲料としての嗜好性を損なわない範囲でのpH調整は3.2が限度である。従って、pH3.3以上の充分に劣化抑制効果のあるレモン飲料を造ることが困難となっている。また、ナトリウムの取りすぎは、高血圧の原因となるので、クエン酸ナトリウムを多く使用することは、健康上も好ましくない。 一方、クエン酸カリウムもpH調整剤として利用できることが知られており、また、若干苦みを有するが、クエン酸ナトリウムに比べて塩味が1/10程度と少なく、添加量を増やしても飲料の味覚を損ねることが少ない。ところが、飲食品に添加する場合、クエン酸ナトリウムは酸味料として表示できるが、クエン酸カリウムはクエン酸カリウムとの表示しか許されていない。このため、レモン飲料等の飲食品のpH調整に利用した例はなく、また、クエン酸カリウムをシトラールの劣化抑制として用いることも出願もされていない。しかし、レモンフレーバーを含有するレモン飲料において、レモンの香りの劣化防止とナトリウムの取りすぎの弊害を少なくする観点から、クエン酸カリウムのレモン飲料等への利用は重要性を増している。 また、特許文献1には、クエン酸カリウムはpH調整剤として添加されており、水に溶け易いこと、飲料の味やフレーバーに影響を与えないことで他のクエン酸塩よりも好適であると記載されている。しかしながら、該飲料は水等に溶かして飲用する粉末飲料であること、また、液体飲料におけるレモンフレーバーの劣化抑制を目的とするものではない。 また、特許文献2は、茶ポリフェノールを用いてシトラールからp−メチルアセトフェノンの悪臭物質の生成を抑制するものであって、シトラールの分解そのもの、すなわちシラトールの環化反応を抑制するものではないので、p−メチルアセトフェノン以外の悪臭物質の生成を抑制できず、フレッシュなレモンの香りを保持することは、この方法では不十分である。また、シトラールが、劣化臭のマスキング効果があることからも、シトラールの残存を図る方法の方が有効である。また、実施例中には、クエン酸ナトリウムが添加されているが、クエン酸カリウムの利用は開示されていないし、飲料のpHを上げてシトラールの香気劣化を抑制することも言及されていない。 以上のように、レモンフレーバーの香気劣化を抑制する方法として、シトラールの分解そのもの、すなわちシラトールの環化反応を阻止するためにクエン酸カリウムをレモンフレーバー含有の飲料に添加することは、これまで行われておらず、また、これを配合したレモン飲料もいまだに提供されていない。 本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、レモンフレーバー、特にその主要香気成分であるシトラールからオフフレーバーの原因物質であるp−メチルアセトフェノン等が生成されるシトラールの分解そのもの、すなわちシラトールの環化反応を阻止して、シトラール由来の劣化臭の発生を抑制することができる方法およびその飲料を提供することを目的とする。 本発明者等は、シトラールからオフフレーバーの原因物質であるp−メチルアセトフェノン等の生成を抑制するのではなく、シトラールの分解そのもの、すなわちシラトールの環化反応を阻止することについて鋭意研究を行なった結果、クエン酸カリウムをレモンフレーバー含有飲料に添加して飲料のpHを上げることで該飲料の味覚を損ねることなく、シトラールの分解そのものを抑制することが可能であることを見出して本発明を完成するに至った。 より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。 (1) レモンフレーバーを含有する飲料にクエン酸カリウムを添加して、前記飲料のpHを調整することを特徴とするレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 本発明によれば、レモンフレーバー含有飲料のpHが中性領域側に調整され、水溶液中の水素イオンが減少することになり、レモンフレーバーの香気成分であるシトラールの環化反応が阻止されて、その後の水和、酸化反応により生成されるp−サイメンやジメチルスチレン、p−メチルアセトフェノンの悪臭物質の発生が抑制される。これによって、レモンフレーバー含有飲料は、長期間レモン様のフレッシュ感が維持されて品質の低下が阻止される。 また、クエン酸カリウムは、塩味が少なくので、添加しても飲料の味覚を損ねることが少ない。 (2) 前記レモンフレーバーは香気成分としてシトラールを含有する(1)に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 (3) 前記pHを3.0以上に調整する(1)または(2)に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 (4) 前記pHを3.4以上に調整する(1)または(2)に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 (5) 前記pHを3.6以上に調整する(1)または(2)に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 (6) 前記pHを3.8以上に調整する(1)または(2)に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 (7) 前記飲料がチューハイである(1)から(6)いずれか記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 (8) 前記クエン酸カリウムを所定量添加して、シトラールを含有する飲料のpHを3.0以上に調整することにより該飲料中のシトラールの分解を抑制する方法。 (9) 香気劣化抑制剤として有効量のクエン酸カリウムが添加されたレモンフレーバー含有飲料。 (10) 前記飲料のpHが3.0以上である(9)に記載のレモンフレーバー含有飲料。 (11) 前記飲料は、アルコール飲料である(9)または(10)に記載のレモンフレーバー含有飲料。 (12) 前記アルコール飲料は、チューハイである(11)に記載のレモンフレーバー含有飲料。 本発明のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法は、クエン酸カリウムをレモンフレーバーを含有する飲料に添加することにより、該飲料の味覚を損ねることなく、pHを3.2以上に調整できるので、該飲料の味を損なうことなく、シトラールの環化反応が抑制され、レモンフレーバの劣化耐久性を2倍以上改善することができ、香気劣化の抑制されたレモンフレーバ含有の飲料を提供できる。したがって、レモンフレーバー含有飲料の製造、流通、保存期間中の各段階で徐々に進行する劣化臭の生成を効率的に抑制し、フレッシュ感を維持することにより、安価かつ長期間安定に品質を維持することができる。 また、カリウムイオンの効果で、利尿が促進され、飲料により補給された水分の代謝を促進することになる。したがって、特にレモンチューハイ等のアルコール飲料においては、飲酒しながらアルコール代謝を促進することができる。 以下、本発明について、具体的に説明する。 本発明は、レモンフレーバーを含有する飲料にクエン酸カリウムを添加して、該飲料のpHを調整することを特徴とするレモンフレーバーの香気劣化抑制方法である。 本発明のレモンフレーバーは、レモン果実の特徴を有するフレーバーであって、果皮から圧搾または水蒸気蒸留により得られる精油類(レモンオイル)、レモン果汁を濃縮する際などに得られる回収香、レモンの精油をアルコールに溶解したエッセンス類などの天然香料、シトラールなどのアルデヒド類、ネロール、ゲラニオールなどのアルコール類などからなる合成香料などから選ばれる少なくとも1種または2種以上を組み合わせたものである。そして、このレモンフレーバーは、レモン様の香気成分であるシトラールが主体となっているので、飲料に添加することで、飲料にレモン様のフレッシュな香気を付与することができる。 本発明のレモンフレーバーを含有する飲料とは、果糖ブドウ糖液等の甘味料、クエン酸等の酸味料、シトラールを含むレモンフレーバー液等を水で調合して得られる飲料であって、清涼飲料および炭酸ガスを圧入した炭酸飲料やチューハイ等のアルコールを含有するアルコール飲料が挙げられる。さらに、柑橘類等の果汁、果肉が調合された果汁飲料や果肉飲料であってもよい。 また、本発明に用いられるクエン酸カリウムは、クエン酸と水酸化カリウムを反応させて製造されたもので、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウムおよびクエン酸三カリウムの3種類の形態があるが、飲料等の飲食品に用いるには、食品添加物として新たに認定されたクエン酸一カリウムおよびクエン酸三カリウムが好ましく挙げられる。クエン酸カリウムは、若干苦みを有するが、クエン酸ナトリウムに比べて塩味が少なく、酸味もやわらかなために、飲料等に添加してもクエン酸ナトリウムを用いたものよりも味がまろやかであるので、より多くの量を添加することが可能となる。従って、飲料のpHを調整するには、クエン酸カリウムの方が飲料の味覚を損なわないで、より広い範囲でpHの調整が可能である。 本発明のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法は、上記のクエン酸カリウムをレモンフレーバー含有飲料の加工段階で適宜添加することにより実現できる。レモンフレーバー含有飲料中におけるクエン酸カリウムは、該飲料の調合時に添加される酸味料の量もよるが、該飲料のpHが3.0以上、好ましくは3.4以上、より好ましくは3.6以上、最も好ましくは3.8以上になるように添加されるのが好ましい。尚、この飲料のpH調整には、クエン酸カリウムとクエン酸ナトリウムとの併用、すなわち、飲料の味覚を損なわない範囲内でクエン酸ナトリウムを添加し、これにクエン酸カリウムを添加して所望のpHに調整するようにしてもよい。 以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。〔試験例1〕(クエン酸ナトリウムによる飲料のpH調整とシトラール劣化の関係について) シトラールを含有するチューハイについて、先ず、クエン酸ナトリウムによるpH調整により、飲料のpH調整とシトラール劣化の関係を検討した。 95.5%のアルコール63ml、砂糖30mg、クエン酸3.5g、6倍濃縮レモン果汁2g、を調合し1Lとしたアルコール飲料にシトラールが0.1vol%の濃度になるようにレモンフレーバー1.5mlを添加してpH2.5のレモンチューハイを調製した。このレモンチューハイに対して、クエン酸ナトリウムでpHが2.6〜3.5でpH別のレモンチューハイに調整した。尚、pH調製に使用したクエン酸ナトリウムの量は、0〜2.5g/Lの間で調整するpHによって、適宜選定した。 未調整および調整したこれら各レモンチューハイを60℃、4日間保存の熱虐待試験を行った。そして、それぞれのレモンチューハイのシトラールの劣化臭について、専門パネラー8人にて官能評価を行い、その結果を図1に示した。尚、評価は、熱虐待試験前の新鮮時(調合時)の評価を10として、劣化度合いを数値で表した。 図1に示すように、pHが2.5から2.8程度までは評価1でシトラールの劣化臭が著しく発生しているが、pHが2.9より高くなるにつれて評価が高まり、シトラールの劣化臭の発生が抑制されている。そして、pH3.3以上となると評価5と横ばいで改善が認められていない結果であった。これは、クエン酸ナトリウムの添加量を増加してくにともなってクエン酸ナトリウムが有する塩味によるもので、3.3以上のpHに調整するには、クエン酸ナトリウム量を0.8g/1L以上添加することになるので、塩味が強くなり、味覚の点で評価の改善が認められないためと考えられる。従って、クエン酸ナトリウムによるpH調整は、チューハイを調製する際に添加されるクエン酸の量にもよるが、pH3.3程度までと想定される。〔試験例2〕(飲料のpH調整とシトラールの経時劣化の関係について) シトラールを含有するチューハイについて、クエン酸ナトリウムのみによるpH調整は、試験例1の結果において味覚の点から限界があるため、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムによるpH調整とシトラール劣化の関係を検討した。 所定量のアルコール、甘味料、酸味料、レモン果汁等を調合したチューハイにシトラールが0.1vol%の濃度になるようにレモンフレーバーを添加してpH2.8のレモンチューハイを調製し、このレモンチューハイに対して、下記のように、クエン酸カリウム、または、クエン酸ナトリウム、あるいは、クエン酸カリウムとクエン酸ナトリウムとの併用で、pHが3.0、3.2、3.4、3.6および3.8に調製したレモンチューハイについて、シトラールの経時劣化を試験した。尚、未調整のレモンチューハイについても同時に試験した。〈試験体1〉未調整(pH2.8)のレモンチューハイ 95.5%のアルコール63ml、砂糖30mg、クエン酸3.2g、6倍濃縮レモン果汁2g、を調合し1Lとしたアルコール飲料にシトラールが0.1vol%の濃度になるようにレモンフレーバー1.5mlを添加してpH2.8のレモンチューハイを調製した。このレモンチューハイに対して、下記に示すようにクエン酸カリウム、または、クエン酸ナトリウム、あるいは、クエン酸カリウムとクエン酸ナトリウムとの併用で、pHが3.0、3.2、3.4および3.6の5試料のレモンチューハイを調製した。〈試験体2〉pH3.0に調整のレモンチューハイ 上記試験体1のレモンチューハイに対して、クエン酸カリウム0g、クエン酸ナトリウム0.4gを添加し、pHが3.0のレモンチューハイを調製した。〈試験体3〉pH3.2に調整のレモンチューハイ 上記試験体1のレモンチューハイに対して、クエン酸カリウム0g、クエン酸ナトリウム0.8gを添加し、pHが3.2のレモンチューハイを調製した。〈試験体4〉pH3.4に調整のレモンチューハイ 上記試験体1のレモンチューハイに対して、クエン酸カリウム0.6g、クエン酸ナトリウム0.8gを添加し、pHが3.4のレモンチューハイを調製した。〈試験体5〉pH3.6に調整のレモンチューハイ 上記試験体1のレモンチューハイに対して、クエン酸カリウム1.2g、クエン酸ナトリウム0.8gを添加し、pHが3.6のレモンチューハイを調製した。〈試験体6〉pH3.8に調整のレモンチューハイ 上記試験体1のレモンチューハイに対して、クエン酸カリウム2.0g、クエン酸ナトリウム0.8gを添加し、pHが3.8のレモンチューハイを調製した。 pH2.8の未調整およびpHを3.0、3.2、3.4、3.6および3.8に調整した試験体1〜6のそれぞれのレモンチューハイについて25℃で12ヶ月保存し、経時的にシトラールの劣化臭について、専門パネラー8人にて官能評価を行った。そして、その結果を図2に示した。尚、評価は、保存開始前の新鮮時(調合時)の評価を10として、劣化度合いを数値で示した。 シトラールの劣化臭の発生の評価は、図2に示すように、pHを調整する前のpH2.8のレモンチューハイは、9ヶ月程度で評価1までに評価が下がってしまうが、pH3.0に調整したレモンチューハイは、9ヶ月程度経過しても評価が5程度であり、未調整のpH2.8のレモンチューハイに比べてシトラールの劣化が大幅に抑制されている。また、pH3.2に調整したレモンチューハイは、9ヶ月程度経過しても評価が6程度、1年経過しても評価が4程度であり、さらに、pHを3.4程度と高めたレモンチューハイでは9ヶ月程度経過しても評価が7程度、1年経過しても評価が5でありシトラールの劣化がより抑制されている。さらには、pHを3.6、3.8とより高く調整することで、より一層シトラールの劣化が抑制され、特にpH3.8程度に調整したレモンチューハイでは1年経過しても評価が8程度で、ほとんどシトラールの劣化が認められない結果であった。 以上、試験例1および試験例2からレモンフレーバーの香気劣化抑制に対しては、pHが3.0以上、好ましくは3.4以上、より好ましくは3.6以上、最も好ましくは3.8以上に調整するのが良いことが確認された。 このように、レモンフレーバーを含有する飲料は、そのpHを高めることで、シトラールの劣化が抑制されるが、これはpHが高くなると、水溶液中の水素イオンが少なくなり、図5に示すシトラールの分解経路図において、シトラールAが水素イオンで環化される反応が阻止されるためである。例えば、pH3.5はpH2.6に比較して、水素イオン数が1/8程度となるので、劣化も約1/8程度と遅くなる。その結果、その後の悪臭物質である化合物Cで表されるp−サイメン、化合物Dで表されるジメチルスチレン等が生成される反応が起こり難くなり、飲料の劣化臭の発生が抑制されることになる。〔試験例3〕(クエン酸カリウム、またはクエン酸ナトリウム添加による飲料のpH調整について) シトラールを含有するチューハイについて、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムの添加量と飲料のpHとの関係を検討した。 95.5%のアルコール63ml、砂糖30mg、クエン酸3.6g、6倍濃縮レモン果汁2g、を調合し1Lとしたアルコール飲料にシトラールが0.1vol%の濃度になるようにレモンフレーバー1.5mlを添加してpH2.5のクエン酸含量0.4%のレモンチューハイを調製した。このレモンチューハイに対して、クエン酸カリウムを0〜3g/Lで添加量をかえて添加してレモンチューハイを調製し、調製したレモンチューハイのpHを測定し、その結果を図3に示した。 また、pH調整剤として、クエン酸カリウムに替えてクエン酸ナトリウムを用いて、上記のように、クエン酸ナトリウムを0.1〜2g/Lで添加量をかえて添加して、レモンチューハイを調製し、調製したレモンチューハイのpHを測定し、その結果を図4に示した。尚、参考までに、調整前のレモンフレーバー含有飲料として酸味料のクエン酸を0.3%含有するpH2.7程度のレモンチューハイ(図4中のクエン酸含量0.3%)およびクエン酸を0.2%含有するpH2.7程度のレモンチューハイ(図4中のクエン酸含量0.2%)についても、クエン酸ナトリウムを添加して、レモンチューハイを調製し、調製したレモンチューハイのpHを測定して併せて示した。 図3および図4より、クエン酸を0.4%含有するレモンチューハイにおいて、クエン酸カリウムやクエン酸ナトリウムのいずれであっても、同一量の添加でほぼ同じpHになっており、クエン酸カリウムやクエン酸ナトリウムのいずれであっても同様にpHを調整することは可能である。しかしながら、上述のように、クエン酸ナトリウムは塩味を有しているので、0.8g/L程度添加すると飲用時に塩味を感じるようになり、2g/Lまで添加すると塩味が強すぎて飲用できなくなった。また、炭酸ガスを含ませた炭酸飲料であると、炭酸ガスと反応して炭酸ナトリウムが生成されて炭酸ガスが消失される。例えば、クエン酸ナトリウム1g/Lで0.3〜0.4vol程度の炭酸ガスが消失されることになる。一方、クエン酸カルウムは、3g/L添加しても飲料の味覚を損なわない結果であった。このため、pHを調整する機能はほぼ同じであるが、嗜好面からクエン酸カリウムを用いるのが好ましい。また、クエン酸カリウムを用いることで、カリウムの作用により、利尿作用を促し、飲料の水分の吸収、代謝を促進する働きも期待できる。〔実施例1〕 95%原料用アルコール76mlと、55%果糖ブドウ糖液糖40gと、レモン果汁1gと、クエン酸3.6gと、レモンフレーバー1mlとを飲料水に加えて調合し、1Lのレモンアルコール飲料を得た。このレモンアルコール飲料の酸度は0.4無水クエン酸g/100mlであり、pHは2.63であった。そして、このレモンアルコール飲料にクエン酸カリウム2.5g添加し、pHを3.68に調製した。 次に、このpHを調製したレモンアルコール飲料に炭酸ガスを2.3vol含ませ、350mlの缶に詰めて缶入りレモンチューハイを作製した。次いで、この缶入りレモンチューハイを65℃で15分間殺菌処理した。 この殺菌処理した缶入りレモンチューハイを37℃で3ヶ月保存の熱虐待試験を行った。〔比較例1〕 実施例1と同様にしてpH2.6のレモンアルコール飲料を調製した。すなわち、95%原料用アルコール76ml、55%果糖ブドウ糖液糖40g、レモン果汁1g、クエン酸3.6g、レモンフレーバー1mlに水を加えて調合し、1Lのレモンアルコール飲料を得た。 次に、得られたレモンアルコール飲料に炭酸ガスを2.3vol含ませ、350mlの缶に詰めて缶入りレモンチューハイを作製した。次いで、この缶入りレモンチューハイを実施例1と同様に65℃で15分間殺菌処理した。 この殺菌処理した缶入りレモンチューハイを実施例1と同様に37℃で3ヶ月保存して熱虐待試験を行った。 実施例1および比較例1で得られた缶入りレモンチューハイについて、専門パネラー8名により官能評価を行った。 その結果、製造した直後では、実施例1の缶入りレモンチューハイと比較例1の缶入りレモンチューハイとはほぼ同じ評価(評価10)で、味覚、香り等の風味は遜色なかった。37℃で3ヶ月保存した後のレモンチューハイの官能評価では、実施例1は評価が8で、若干レモンの香りが弱くなっているが、劣化臭は感じられなかった。一方、比較例1は評価が1で、著しく劣化し、レモンの香りはしないで薬品臭を呈していた。 以上、レモンフレーバーを含有する飲料をクエン酸カリウムでpHを約3.7程度に調整すると、レモンフレーバーの劣化が大幅に抑制されていることが確認された。60℃、4日間保存の熱虐待試験を行った場合のレモンチューハイのpHとシトラールの劣化との関係を示した図である。25℃長期間保存でのレモンチューハイのpHと劣化との関係を示した図である。レモンチューハイのpH調整にクエン酸カリウムを用いた場合のクエン酸カリウム添加量とpHの関係を示した図である。レモンチューハイのpH調整にクエン酸ナトリウムを用いた場合のクエン酸ナトリウム添加量とpHの関係を示した図である。シトラールの分解経路を示した模式図である。 レモンフレーバーを含有する飲料にクエン酸カリウムを添加して、前記飲料のpHを調整することを特徴とするレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 前記レモンフレーバーは香気成分としてシトラールを含有する請求項1に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 前記pHが3.0以上である請求項1または2に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 前記pHを3.4以上に調整する請求項1または2に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 前記pHを3.6以上に調整する請求項1または2に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 前記pHを3.8以上に調整する請求項1または2に記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 前記飲料がチューハイである請求項1から6いずれか記載のレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。 前記クエン酸カリウムを所定量添加して、シトラールを含有する飲料のpHを3.0以上に調整することにより該飲料中のシトラールの分解を抑制する方法。 香気劣化抑制剤として有効量のクエン酸カリウムが添加されたレモンフレーバー含有飲料。 前記飲料のpHが3.0以上である請求項9に記載のレモンフレーバー含有飲料。 前記飲料は、アルコール飲料である請求項9または10に記載のレモンフレーバー含有飲料。 前記アルコール飲料は、チューハイである請求項11に記載のレモンフレーバー含有飲料。 【課題】レモンフレーバーを含有する飲料中のシトラールは、製造、流通、保存等の段階で環化、水和、異性化等の反応によりその構造が変化し、さらに酸化反応により悪臭物質を生じる。それ故、レモンフレーバー、特にその主要香気成分であるシトラールからオフフレーバーの原因物質であるp−メチルアセトフェノン等が生成されるシトラールの分解そのもの、すなわちシラトールの環化反応を抑制して、シトラール由来の劣化臭を抑制することができる方法およびその飲料を提供する。【解決手段】レモンフレーバーを含有する飲料にクエン酸カリウムを添加して、前記飲料のpHを3.0以上に調整することにより、シトラールの環化反応を抑制する。【選択図】 なし