タイトル: | 公開特許公報(A)_イオン感応膜、イオン選択性電界効果型トランジスタ、イオンセンサ |
出願番号: | 2005219379 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 27/414,G01N 27/333,C08F 20/36 |
木村 恵一 矢嶋 摂子 大崎 秀介 JP 2007033333 公開特許公報(A) 20070208 2005219379 20050728 イオン感応膜、イオン選択性電界効果型トランジスタ、イオンセンサ 国立大学法人 和歌山大学 504145283 杉本 勝徳 100076406 木村 恵一 矢嶋 摂子 大崎 秀介 G01N 27/414 20060101AFI20070112BHJP G01N 27/333 20060101ALI20070112BHJP C08F 20/36 20060101ALI20070112BHJP JPG01N27/30 301GG01N27/30 331CC08F20/36 8 OL 10 特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第85春季年会 講演予稿集 1」に発表 4J100 4J100AL08P 4J100BA02P 4J100BA40P 4J100BC44P 4J100CA01 4J100CA03 4J100DA01 4J100JA15 この発明は、臨床分析及び環境分析に使用可能なイオンセンサ等に関し、特に、前処理をしなくても特定のイオンの濃度を定量的に測定することができるイオンセンサ等に関する。 イオン選択性電界効果型トランジスタ(以下、ISFETと略す。)、イオン選択性電極(以下、ISEと略す。)等を作用電極として使用するイオンセンサは、作製が簡単で安価であること、迅速且つ簡便に測定できること、測定出力が安定していること、そして何よりも、特定のイオンに対して選択的に応答することなどの優れた性質を備えているため、様々な分野で利用されている。 そして、臨床分析や環境分析の分野で幅広く利用するため、前処理なく何時でも何処でも定量的に特定のイオンを測定できるように、イオンセンサのイオン選択性を向上させることが求められており、従来から数多くの研究がなされている。 さて、ISE、ISFET等のイオンセンサの作用電極において、実際にイオンを感知するのは、作用電極の先端に取り付けられたイオン感応膜である。このイオン感応膜は、PVCなどの高分子物質からなる支持体と、特定のイオンと反応するイオノフォアと、イオノフォアを溶解する膜溶媒等から構成されており、イオン感応膜の性能は、多くの場合、イオノフォアと膜溶媒との組み合わせに依存する。 そこで、従来から、既知のイオノフォアと膜溶媒を組み合わせることによって、イオン感応膜の性能を向上させることが試みられてはいるが、性能をさらに向上させることは困難であった。 そのため、イオン感応膜の性能を向上することを目指して、新しい化合物を合成・利用することが研究・実用化されている。この様な例としては、例えば、新規イオノフォアの合成に関するもの(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)が多いが、イオン感応膜の膜溶媒に液晶を使用するもの(例えば、非特許文献1を参照。)についても研究がなされている。なお、膜溶媒に液晶を利用することによって、イオン選択性が向上する理由は、液晶の配向に伴ってイオノフォアが配向し、イオノフォアと金属イオンとが二対一錯体を形成し易くなるからである。 しかし、膜溶媒に液晶を利用することには、(a)感応膜が純液膜となり取り扱いが難しくなる、(b)臨床分析や環境分析の分野で利用できるほどイオン選択性が高くない、との問題点があった。特許第3093069号公報特開2003−149193号公報K. Kimura et al., Anal. Chem ., 74, 5544-5549 (2002). そこで、この発明は、取り扱いが易しく、臨床分析や環境分析の分野で十分利用できるほどイオン選択性が高いイオンセンサ及びその構成要素であるイオン感応膜を提供することを課題とする。 この発明のイオン感応膜は、その構成成分である支持体に高分子液晶を使用することを最も主要な特徴とする。また、この発明のイオンセンサは、前記イオン感応膜を作用電極に使用することを最も主要な特徴とする。 この発明のイオン感応膜は、膜強度が高くて取り扱いが易しいとともに、イオン選択性が従来からあるものに比べて高い。そのため、このイオン感応膜をイオンセンサの作用電極に使用すれば、臨床分析や環境分析の分野において、前処理の必要なく、特定イオンの濃度を定量的に測定することができる。 この発明のイオン感応膜は、膜材料である支持体と、イオノフォアと、膜溶媒、アニオン性又はカチオン性添加塩などを含んでいる。そこで、これら構成成分について以下に詳説する。(1)支持体 支持体は、膜の形状を一定に保つものであり、高分子液晶から構成されている。ここで、高分子液晶とは、光学材料などとして使用される液晶性を有する高分子物質であり、その数平均分子量が数千〜数万程度のものである。そして、その構造は通常の高分子鎖に液晶性を示す置換基が導入されている。また、通常の高分子とは異なり、溶融状態で分子の配向が見られ、温度を下げても溶融状態における分子配向がそのまま固定される。具体的には、下記の化学式(1):で示される構造単位を有し、数平均分子量が30,000〜60,000の高分子物質が例示できる。(2)イオノフォア イオノフォアは、特定のイオンと結合してイオンを検出するものであり、公知ものであれば特に制限することなく使用することができる。 ここで、測定の対象となるイオンの種類は、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、過塩素酸イオンなどを例示できるが、これに限定するものではない。 また、イオノフォアの具体例としては、硝酸トリオクチルアンモニウム(NO3-)、バリノマイシン(K+)、ビス(12-クラウン-4)(Na+)、塩化トリオクチルアンモニウム(Cl-)、ノナクチン(NH4+)、ジn-オクチルフェニルリン酸カルシウム(2価陽イオン)、四フッ化ホウ素酸トリオクチルアンモニウム(BF4-)、過塩素酸トリオクチルアンモニウム(ClO4-)、カリックス[4]アレン型化合物(Na+) などの公知のイオノフォア(括弧内のイオンが、測定対象イオンである。)等が挙げられるが、これに限定するものではない。なお、支持体として前記化学式1に記載の高分子液晶を使用する場合には、下記の化学式(2):で示されるベンゾ-15-クラウン-5誘導体が好ましい。(3)膜溶媒 膜溶媒は、支持体やイオノフォアを溶解して流動性を与えるためのものであり、低分子液晶等を使用する。また、低分子液晶の具体例としては、例えば、下記の化学式(3)に示すものを挙げることができる。なお、支持体として使用する高分子液晶のガラス転移点が低い場合には、膜溶媒を使用しなくてもイオン感応膜を製膜できる可能性がある。(式中、nは6又は8の何れかを表す。)(4)アニオン性又はカチオン性添加塩 アニオン性又はカチオン性添加塩は、イオン感応膜に加えることによって、測定対象であるアニオンやカチオンに対する応答性を向上することができる。これは、例えば、アニオン性添加塩をイオン感応膜に加えることによって、脂溶性のアニオンがイオン感応膜中にとどまり、膜が負電荷を帯びたようになることによって、測定対象であるカチオンを膜中に取り込み易くし、アニオンを取り込み難くする、からである。 アニオン性又はカチオン性添加塩としては、通常のイオン選択性電極に使用するものであれば特に限定なく使用できる。具体的には、測定対象がカチオンの場合は、脂溶性のアニオンと親水性のカチオンからなるアニオン性添加塩、例えば、テトラキス(4−クロロフェニル)ホウ酸カリウム等を挙げることができ、測定対象がアニオンの場合は、脂溶性のカチオンと親水性のアニオンからなる塩化トリドデシルメチルアンモニウム等を挙げることができる。 次に、前記各成分から、この発明のイオン感応膜やイオンセンサを作る方法について以下に詳説する。(1)混合・溶解工程 前記各成分をテトラヒドロフラン(以下、THFと略す。)等からなる適量の溶媒に混合・溶解して混合液とする。なお、イオン感応膜中、支持体、イオノフォア、膜溶媒、添加塩などの含有量は、具体的な材料によって異なるが、概ね以下のとおりである。また、溶媒の量は、後述する塗布工程で選択する塗布方法に適した粘度が得られる量である。 イオン感応膜中に含まれる支持体の含有率は、支持体+イオノフォアの合計重量の87重量%〜92重量%であり、好ましくは87重量%〜90重量%であり、イオノフォアの含有率は、同じく8重量%〜13重量%であり、好ましくは10重量%〜13重量%である。 膜溶媒の添加量は、支持体+イオノフォアの合計重量を100重量%とすると、68重量%〜155重量%であり、好ましくは103重量%〜155重量%である。そして、添加塩の添加量は、同じく、支持体+イオノフォアの合計重量を100重量%とすると、2重量%〜3重量%である。(2)塗布工程 (1)で得られた混合液を、キャスト法、スプレー塗布、スパッタリング法、ディップ法やスピンオンコート法などによって、テフロン(登録商標)多孔質膜等の多孔質膜、単極型やMOS型の電界効果型トランジスタ(以下、FETと略す。)のゲート部に塗布する。なお、混合液は、FETのゲート部に直接塗布するのではなく、ガラス管などに接着剤により接着し、FETのゲート部とハンダ等などによって結合している銅板などの導電性基板に塗布してもよい。(3)乾燥工程 混合液を塗布した多孔質膜やFETは、これらを埃が降ってこない乾燥器に入れて、室温で6時間以上放置し、その後減圧下、室温で1時間乾燥させることにより、イオン感応膜、イオン選択性電界効果型トランジスタとなる。(4)組み立て工程 (3)で作製されたイオン感応膜やイオン選択性電界効果型トランジスタを、作用電極としてポテンショメータの一極に取り付け、ポテンショメータの他極に参照電極を取り付けることにより、イオンセンサが完成する。なお、前記ポテンショメータや参照電極は、公知のイオンセンサに使用可能であれば特に限定することなく使用することができる。 以上のように、この発明のイオン感応膜は、高分子液晶を含んでいるため、膜強度が高くなり、取り扱いが易しくなる。また、高分子液晶によって、イオン感応膜中のイオノフォアの配向性がより強く規制され、金属イオンとイオノフォアとの二対一錯体が形成し易くなるので、イオン感応膜のイオン選択性がより高くなる。そして、この発明のイオン感応膜を作用電極に使用することによって、この発明のイオンセンサは、臨床分析や環境分析の分野において、前処理の必要なく容易に特定イオンの濃度を定量的に測定することができる。 以下に、この発明を実施例に従ってさらに詳しく説明するが、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても下記の実施例により限定されるものではない。(1)イオンセンサの作製 (a)作用電極の作製 支持体である化学式(1)の高分子液晶と、イオノフォアである化学式(2)のベンゾ-15-クラウン-5誘導体と、膜溶媒である化学式(3)の低分子液晶と、アニオン性添加塩であるテトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム(KTpClPB)とを下記の表1に記載した割合で混合し、任意量のTHF中に溶解した。 この様にして得られたTHF溶液を市販の電界効果型トランジスタ(ビー・エー・エス(株)社製コード1314)のゲート部に塗布し、室温で6時間以上放置し、その後減圧下、室温で1時間乾燥させることにより、ISFETを得た。 また、調製したTHF溶液をテフロン(登録商標)多孔質膜(住友電気化学工業(株)社製FP100)に塗布し、室温で6時間以上放置し乾燥させることにより、イオン感応膜を得た。そして、この膜をPhilips型イオン選択性電極本体に取り付けてISEを作製した。 (b)イオンセンサの作製 (a)で作製したISFET及びISEを、0.1 Mの塩化カリウム水溶液に一晩以上浸してコンディショニングを行ったのち、ポテンショメータ(東興化学研究所(株)社製TP-1000)、参照電極(電気化学計器(株)社製4083)と組み合わせて、イオンセンサを作製した。作製したイオンセンサの概略を図1及び図2に示す。 これらの図に示すように、ISFETを作用電極として使用するイオンセンサ(図1)及びISEを作用電極として使用するイオンセンサ(図2)の何れも、ポテンショメータ3,13の一極に作用電極1,11が接続し、他極に参照電極2,12が接続したものである。そして、作用電極1,11と参照電極2,12はその一部が試料溶液を入れる恒温槽4,14に浸かっており、恒温槽4,14には、その内部をなるべく均一に保つため、攪拌子5、15が回転している。 また、作用電極1の先端には前記のイオン感応膜1aが取り付けてある。そして、作用電極11は、その電極11aに銀−塩化銀電極を、その内部溶液11bに塩化銀を飽和させた1×10-3 Mの塩化カリウム水溶液をそれぞれ使用し、その先端には前記のイオン感応膜11cが取り付けてある。 なお、参照電極2、12は、電極として銀−塩化銀電極2a、12a、内筒溶液として3 M飽和塩化カリウム水溶液2b、12b、外部溶液として1 M酢酸リチウム水溶液2c、12cを使用するダブルジャンクション型のものである。(2)カリウムイオンの活量変化に対する電位応答の測定 (1)で作製したイオンセンサを使用して、塩化カリウム水溶液の活量を1X10-6 M〜1X10-1 Mの範囲で変化させてその電位応答を測定した。具体的には、25℃に保温した恒温槽4、14に試料溶液である1X10-6 M 塩化カリウム水溶液を入れ、この試料溶液に高濃度の塩化カリウム水溶液を任意量添加することによって、その活量を徐々に増加させながら(インジェクション法)、それに伴う電位応答を測定した。その結果を図3及び図4に示す。 これらの図からも明らかなように、このカリウムイオンセンサの応答結果は、ISFET、又はISEを作用電極として使用した何れの場合にも、1X10-5 M〜1X10-1 Mの幅広い範囲において良好な直線性を示した。なお、このグラフは直線部分が長いほど直線性が良好であり、グラフが直線となっている活量の範囲は、グラフの左上の括弧内に対数値で記載した。 また、イオンセンサの応答の傾きについても、これらのグラフの左上に示すように、ISFETの場合は 59.1 mV decade-1、 ISEの場合は58.9 mV decade-1であり、何れの場合も、ネルンスト応答の理論値(59.15 mV decade-1)とほぼ同一であることから、このイオンセンサはネルンスト応答していると考えられる。(3)ナトリウムイオンに対する選択係数(logkK,Na)の測定 ナトリウムイオンに対するカリウムイオンの選択係数は、妨害イオン(ナトリウムイオン)の活量を一定にして、目的イオン(カリウムイオン)の活量を変化させる混合溶液法によって算出した。具体的には、25℃に保温した恒温槽4、14に試料溶液である塩化カリウム及び塩化ナトリウムをそれぞれ1X10-6 M、0.3 Mずつ含む水溶液を入れ、この試料溶液に0.3 M 塩化ナトリウムと高濃度の塩化カリウム水溶液とを含む水溶液を任意量添加して、試料溶液の塩化カリウム活量のみを増加させながら、それに伴う電位応答を測定した。その結果を図5及び図6に示す。 この様にして得られた電位応答から選択係数の値を算出した。なお、選択係数は、低濃度における電位の一定値を延長した線と,高濃度における直線を外挿した線の交点の活量が選択係数の値と等しいとして算出した。 その結果、算出した選択係数は、グラフの左上に示すように、ISFETの場合は-3.51であり、ISEの場合は-3.50であり、何れの作用電極を使用した場合でも-3.5前後の値であった。そして、この値は、以前より使用されていたバリノマイシン(天然物)による値(-4程度)には劣るものの、従来からあるイオノフォアとしてクラウンエーテル誘導体を使用するISEで得られる値(-3程度)よりは高かった。 このように、前記(2)及び(3)の結果から、(1)で作製したイオンセンサは、広いイオン濃度範囲で測定可能であるとともに、高いイオン選択性をも備えた優れたイオンセンサであることが分った。また、テフロン(登録商標)多孔質膜によって補強したイオン感応膜を使用しても、イオンセンサの性能が低下しなかったことから、この発明にかかるイオンセンサの実用化は比較的容易に行えると考えられる。ISFETを作用電極として使用するイオンセンサの概略図である。ISEを作用電極として使用するイオンセンサの概略図である。ISFETを作用電極として使用するイオンセンサにより、カリウムイオンの活量変化に対する電位応答を測定した結果を示すグラフである。ISEを作用電極として使用するイオンセンサにより、カリウムイオンの活量変化に対する電位応答を測定した結果を示すグラフである。ISFETを作用電極として使用するイオンセンサにより、ナトリウムイオンに対するカリウムイオンの選択係数を測定した結果を示すグラフである。ISEを作用電極として使用するイオンセンサにより、ナトリウムイオンに対するカリウムイオンの選択係数を測定した結果を示すグラフである。符号の説明1,11 作用電極2,12 参照電極3,13 ポテンショメータ4,14 恒温槽 高分子液晶からなる支持体と、イオノフォアとを含有するイオン感応膜。 低分子液晶からなる膜溶媒を含有する請求項1に記載のイオン感応膜。 高分子液晶からなる支持体が、下記の化学式(1):で示される構造単位を有し、数平均分子量が30,000〜60,000である請求項1に記載のイオン感応膜。 イオノフォアが、下記の化学式(2):で示されるベンゾ-15-クラウン-5誘導体である請求項1に記載のイオン感応膜。 低分子液晶からなる膜溶媒が、下記の化学式(3):(式中、nは6又は8の何れかを表す。)で示される化合物である請求項2に記載のイオン感応膜。 請求項1から請求項5のいずれかに記載のイオン感応膜を電界効果型トランジスタのゲート部に接続してなるイオン選択性電界効果型トランジスタ。 請求項1から請求項5のいずれかに記載のイオン感応膜を使用する作用電極と、参照電極とを備えたイオンセンサ。 請求項6に記載のイオン選択性電界効果型トランジスタを使用する作用電極と、参照電極とを備えたイオンセンサ。 【課題】取り扱いが易しく、前処理することなく、臨床分析や環境分析の分野で十分利用できるほどイオン選択性が高いイオンセンサ及びその構成要素であるイオン感応膜を提供する。【解決手段】イオン感応膜は、イオン感応膜の構成成分である支持体に高分子液晶を使用する。また、イオンセンサは、前記イオン感応膜を作用電極に使用する。なお、支持体として使用する高分子液晶としては、下記の化学式(1):で示される構造単位を有し、数平均分子量が30,000〜60,000の高分子物質が例示できる。【選択図】なし