タイトル: | 公開特許公報(A)_腸内細菌群検出用核酸断片 |
出願番号: | 2005203402 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12Q 1/04,C12Q 1/68 |
松木 隆広 藤本 淳治 渡辺 幸一 JP 2007020423 公開特許公報(A) 20070201 2005203402 20050712 腸内細菌群検出用核酸断片 株式会社ヤクルト本社 000006884 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 浅野 康隆 100089048 的場 ひろみ 100101317 守屋 嘉高 100121153 大野 詩木 100134935 松田 政広 100130683 松木 隆広 藤本 淳治 渡辺 幸一 C12N 15/09 20060101AFI20070105BHJP C12Q 1/04 20060101ALI20070105BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20070105BHJP JPC12N15/00 AC12Q1/04C12Q1/68 A 5 OL 18 4B024 4B063 4B024AA11 4B024CA02 4B024CA11 4B024HA14 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ06 4B063QQ43 4B063QQ54 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR56 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS34 4B063QX02 本発明は、腸内細菌叢の分析に有用な核酸断片に関する。 ヒト腸内細菌叢にはおよそ300種のバクテリアが存在する。これらの腸内細菌は、健康者では常時ほぼ一定のバランスを保っており、消化の補助、ビタミンの合成、外来菌の感染に対する防御的役割等の様々な働きをしていると言われている。このように、生体にとって重要である腸内細菌叢について、宿主との関係をより詳細に理解するためには、腸内細菌叢の構成を正確に分析する方法の確立が不可欠である。 しかしながら、ヒト腸内細菌はほとんどが嫌気性細菌であることから、その多くが分離培養されておらず、このような菌種については、同定はおろか検出さえ困難である。また、分離培養が可能な菌種を定量する際は、予め予測した選択培地において微生物を培養し菌数を計測する方法、選択液体培地中で微生物を培養し濁度や吸光度を測定する方法が主に用いられてきたが、これらの方法は時間や熟練が要求され、迅速性や簡便性の観点から問題があった。 斯かる状況の下、本出願人らはある種の腸内細菌に特異的なプライマーやプローブを用いて菌の同定や定量を行う方法を種々検討し、これまでに、腸内細菌叢における最優勢の35菌種について菌種レベルでの解析を可能とした(非特許文献1)。また、腸内細菌叢の全体像を把握するためには、菌種レベルのように詳細な解析のみでなく、菌属又は菌群レベルでの解析を行う必要があるが、これまでにビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に特異的なプローブ(特許文献1)、バクテロイデスグループ(Bacteroidaceae)の各クラスターに特異的なプローブ(特許文献2、3)、フソバクテリウム・バリウム(Fusobacterium varium)グループに特異的なプローブ・プライマー(特許文献4)、ビフィドバクテリウム属、バクテロイデスグループの各クラスター、クロストリジウム属(Clostridium)クラスターXIVに特異的なプローブ・プライマー(特許文献5)、エンテロコッカス属(Enterococcus)に特異的なプローブ・プライマー(特許文献6)、プレボテラ属(Prevotella)クラスター、クロストリジウム属の各クラスターに特異的なプローブ・プライマー(特許文献7)、プレボテラ属クラスターに特異的なプローブ(特許文献8)、バクテロイデスグループに特異的なプローブ(特許文献9)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)に特異的なプライマー(非特許文献2)等を用いた当該菌属又は菌群の同定・定量方法を報告している。 現在のところ、腸内細菌叢を構成する細菌は、19種の菌属又は菌群に分類できると考えられているが(図1A参照)、このうち、ユーバクテリウム・シリンデロイデス(Eubacterium cylindroides)グループ、アシダミノコッカス(Acidaminococcus)グループ、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)グループ、ベイヨネラ属(Veillonella)及びフソバクテリウム属(Fusobacterium)については、分析が特に困難であることから、斯かる細菌群の生理作用や腸内細菌叢に及ぼす影響はほとんど解明できず、従って、腸内細菌叢の全体像を把握するには至っていない。特許第3605496号特開平11−28090号公報特開平11−221082号公報特開2001−46063号公報特開2001−112485号公報特開2001−120277号公報特開2002−142771号公報特開2003−144199号公報特開2003−144200号公報第104回アメリカ細菌学会要旨集p415 (2004)FEMS Microbiology Letters 214, 271-275 (2002) 本発明は、これまで検出が困難であった上記5種の菌属又は菌群を特異的に検出でき、腸内細菌叢の全体像を把握するために有用な核酸断片を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ、アシダミノコッカスグループ、クロストリジウム・ラモーサムグループ、ベイヨネラ属及びフソバクテリウム属から選ばれる腸内細菌叢を構成する細菌群を、菌属又は菌群特異的に検出するための核酸断片を見出し、これを用いることで、迅速かつ簡便に腸内細菌叢の大部分を把握できることを見出した。 すなわち、本発明は、腸内細菌叢を構成する細菌群を、菌属又は菌群特異的に検出するための核酸断片であって、配列番号1〜10で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片に係るものである。 また本発明は、上記核酸断片を用いることを特徴とする腸内細菌群の検出方法に係るものである。 また本発明は、上記核酸断片、並びにラクトバチルス属、クロストリジウム・コッコイデスグループ、クロストリジウム・レプタムサブグループ、バクテロイデス・フラジリスグループ、ビフィドバクテリウム属、アトポビウムクラスター及びプレボテラ属からなる腸内細菌群にそれぞれ特異的な核酸断片を用いることを特徴とする腸内細菌叢の分析方法に係るものである。 本発明の核酸断片を使用すれば、菌を培養することなく、迅速、簡便、低コスト且つ高精度にヒトや動物の腸内細菌叢の大部分を把握することができる。これにより、各個体の消化管等の状態が把握でき、また、各種疾病患者における特徴的な腸内細菌叢の解明、抗生物質の服用やプロバイオティクスの摂取が腸内細菌叢に与える影響等の検討が可能となり、これらの知見から、各個体に適切な抗生物質やプロバイオティクスの選択、種々疾病等の予防・治療が容易になる。 本発明の配列番号1〜10で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片は、ユーバクテリウム・シリンデロイデス(Eubacterium cylindroides)グループ、アシダミノコッカス(Acidaminococcus)グループ、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)グループ、ベイヨネラ属(Veillonella)及びフソバクテリウム属(Fusobacterium)に属する細菌群を特異的に検出し得るものである。尚、本明細書における「細菌群」とは、菌群及び菌属のいずれをも含む意味である。 斯かる本発明の核酸断片は、PCR法等におけるプライマーとして用いられる他、プローブとしても使用できる。 本発明の上記核酸断片には、配列番号1〜10で示される塩基配列からなる核酸断片又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片の他、これらと相同な塩基配列、すなわち当該塩基配列のうちの1又は数個、好ましくは1乃至10個の塩基が欠失、置換又は付加した塩基配列からなる核酸断片であって、対応する細菌群を特異的に検出し得るという、前記核酸断片が有する機能と同一の機能を有する核酸断片が包含される。尚、ここでいう付加には、その両端又は片端、好ましくは5’端に任意の数、好ましくは20個、さらに好ましくは10個以下の塩基の付加が含まれる。 配列番号1若しくは2で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列からなる核酸断片は、ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループに特異的な核酸断片である。そのため、プライマーとして使用する場合は両者を組み合わせて用いることが好ましい。 配列番号3若しくは4で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列からなる核酸断片は、アシダミノコッカスグループに特異的な核酸断片である。そのため、プライマーとして使用する場合は両者を組み合わせて用いることが好ましい。 配列番号5若しくは6で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列からなる核酸断片は、クロストリジウム・ラモーサムグループに特異的な核酸断片である。そのため、プライマーとして使用する場合は両者を組み合わせて用いることが好ましい。 配列番号7若しくは8で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列からなる核酸断片は、ベイヨネラ属に特異的な核酸断片である。そのため、プライマーとして使用する場合は両者を組み合わせて用いることが好ましい。 配列番号9若しくは10で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列からなる核酸断は、フソバクテリウム属に特異的な核酸断片である。そのため、プライマーとして使用する場合は両者を組み合わせて用いることが好ましい。 本発明の核酸断片を作成するにあたり、そのターゲットには系統分類の指標として信頼性の高い16S rRNA遺伝子が用いられ、分析にはPCR法等の手段が必要になるため、RNAではなくDNAを用いるのが好ましい。 本発明の核酸断片は、本発明者らが標的とする菌についてシークエンスを行って得た塩基配列とデータベース(DDBJ、Genbank 等)とを比較・検討することにより得ることができる。ここで、核酸断片の設計の際には、標的とする菌とその近縁の菌の配列のアライメントが行われるが、例えば、現在の遺伝子配列を指標とした分類体系(Nucleic Acids Res 31:442-3 (2003)に基づいて近縁菌種を選択し、アライメントを行えばよい。 このように設計された核酸断片は、その塩基配列に従い、DNA合成機により人工的に合成することができる。 斯くして得られる本発明の核酸断片の特異性は、後記実施例に示すように、当該核酸断片をプライマーとして用いた場合の近縁種のDNAに対するバンド生成能を指標として確認した場合、上記全ての菌群又は菌属に高い特異性を有する。一方で、配列番号1〜10で示される塩基配列からなる核酸断片以外にも、菌群又は菌属特異的な塩基配列が見出されているが、これらの塩基配列や他の公知の塩基配列を持つ核酸断片を用いた場合、標的とする菌群又は菌属以外に属する細菌と反応したり、或いは標的とする菌群又は菌属に属する細菌と反応しない場合もあり、使用上好ましいものではない。このような核酸断片を用いても、PCR反応等の分析時の条件設定によって菌群又は菌属特異的な反応性が達成される可能性はあるが、現状ではそのような条件は見出されていない。 本発明の核酸断片は、ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ、アシダミノコッカスグループ、クロストリジウム・ラモーサムグループ、ベイヨネラ属又はフソバクテリウム属に属する細菌に特異的であるので、糞便や腸管内容物等から得たDNAを対象としたPCR反応、或いはFISH(Fluorescence in situ hybridization)等を行うことにより、これらの細菌群の菌群や菌属を容易に検出・分析できる。 PCR反応を用いる分析方法は、例えば(1)検体中のDNAを抽出する工程、(2)上記核酸断片の1又は2以上を用いてPCR反応を行う工程、及び(3)工程(2)により増幅されたDNA断片を検出する工程により行うことができる。 より詳細には、まず、糞便等の検体1mL程度を遠心分離して得られるペレットからビーズ・フェノール法等によってDNAを抽出し、これを鋳型DNAとする。この鋳型DNAに本発明の核酸断片を組み合わせ、増幅反応を行うことにより、標的とする菌群又は菌属に属する細菌に特異的なDNA配列(PCR産物)を得ることができる。このようにして得られたDNAを電気泳動すれば、バンドの有無と用いた核酸断片から標的とする菌群又は菌属に属する細菌を特異的に検出し、同定することができる。 DNAを抽出する方法としては、ボイリング法、常法であるMarmaur法、その変法である酵素法、塩化ベンジル法、及び上記ビーズ・フェノール法が好ましい。特に、ビーズ・フェノール法においては、幅広い菌種から収率よくDNAを抽出できる。 このように、コロニーや糞便、腸管内容物等の検体から抽出したDNAを鋳型とし、本発明の核酸断片を用いると、従来の方法では検出不可能又は検出限界以下であった菌群又は菌属であるユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ、アシダミノコッカスグループ、クロストリジウム・ラモーサムグループ、ベイヨネラ属、フソバクテリウム属に属する細菌の検出及び同定が可能となる。また、鋳型のDNAを段階希釈しPCRを行えば、標的とする菌群又は菌属の定量化も可能である。さらに、本発明の核酸断片は、PCR反応におけるアニーリング温度をほぼ一定に設定してあるので、複数の核酸断片を同時に検定することが可能である。 PCR反応を用いて定量を行う際は、上記方法の他、リアルタイムPCR(Real-time PCR)を用いる方法がより好ましい。PCR反応により増幅されるPCR産物を経時的に観察し、一定のDNA量に達した時のPCRサイクル数を特定することにより、検体中の標的とする菌群又は菌属の定量が可能となる。 増幅されるPCR産物の経時的な観察は、PCR産物をSYBR(R)Green I等のインターカレーター性蛍光色素により標識し、各PCR段階での蛍光強度を測定することにより行うことができる。インターカレーター性色素は二本鎖核酸にインカレーションすることで蛍光強度が増加する性質を有することから、標的細菌のDNAからPCR反応により生成するPCR産物を正確に測定することができ、特にSYBR(R)Green Iが好適に用いられる。任意に設定された一定の蛍光強度(DNA量)に達した時のPCRサイクル数(以下CT値とする)を特定することにより、検体中の標的とする菌群又は菌属の定量、或いは検出・同定が可能となる。 また、蛍光色素により標識したTaqManプローブやMoleculer Beacon等を使用することにより行うこともできる。TaqManプローブやMoleculer Beaconは、PCRにより増幅される領域の内部配列と相同性を有するオリゴヌクレオチドに蛍光色素とクエンチャーを結合させたプローブであり、PCR反応に共存させて用いる。プローブに結合した蛍光色素とクエンチャーの相互作用でPCR増幅反応に応じた蛍光を発するため、各PCR段階での蛍光強度を測定することにより増幅されるPCR産物の経時的な観察を行うことができる。しかし、TaqManプローブやMoleculer Beacon等では、プローブに適した、細菌に特異的な相補配列を見出さなければならず、対象によっては困難な場合がある。 検体中の標的とする菌群又は菌属の定量或いは検出・同定は、培養法等により計測した細菌数の対数値とCT値の検量線により求めることができる。すなわち、標的とする細菌数の対数値を横軸に、CT値を縦軸にプロットした検量線を予め作成し、PCR反応の結果得られたCT値を該検量線に適用して、検体中の標的とする菌群又は菌属の定量、或いは検出・同定を行う。検量線作成の際に用いる細菌は、標的とする菌群又は菌属に属する基準株等の公知の菌株を用いてもよい。 また、本発明の核酸断片をプローブとして用いる場合は、他の公知のユニバーサルプローブ、オリゴヌクレオチド等と組み合わせても用いることができる。 プローブとして用いる分析方法としては、例えばインサイチュハイブリダイゼーション(in situ hybridization)、ドットブロットハイブリダイゼーション(dot blot hybridization)等が挙げられ、中でもインサイチュハイブリダイゼーションは菌体内の核酸を抽出する工程を必要としないため迅速な手法として好ましく、蛍光物質により標識した核酸断片をプローブとして用いるFISHがより好ましい。 FISHは、具体的には、(1)検体をホルムアルデヒド或いはホルマリンにより固定する工程、(2)固定した検体をスライドグラス又はメンブレンフィルターに塗抹する工程、(3)蛍光標識した核酸断片によりハイブリダイゼーションを行う工程、(4)ハイブリダイゼーション後の余分な核酸断片及び非特異的に結合した核酸断片を洗浄する上程、及び(5)ハイブリダイズ後の結果について蛍光顕微鏡を用いて肉眼的に観察、或いはCCDカメラ等により画像として取得する工程により行うことができる。 また、検体中に標的とする菌群又は菌属に属する細菌が存在する場合は、用いた核酸断片とハイブリダイズし、上記ハイブリダイズ後の結果におけるシグナルが陽性となるので、これらの細菌を特異的に検出し、同定することができる。また、それを計数することにより、定量化も可能となる。 また、腸内細菌叢を構成する細菌群としては、上記のユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ、アシダミノコッカスグループ、クロストリジウム・ラモーサムグループ、ベイヨネラ属及びフソバクテリウム属の他に、クロストリジウム・コッコイデス(Clostridium coccoides)グループ、クロストリジウム・レプタム(Clostridium leptum)サブグループ、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)グループ、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、アトポビウム(Atopobium)クラスター、プレボテラ属(Prevotella)、大腸菌群(Enterobacteriaceae)、クロストリジウム・リツセブレンセ(C. lituseburense)グループ、クロストリジウム・バラティー(C. barati)サブグループ、アナエロコッカス・ペプトニフィルス(Anaerococcus-Peptoniphilus)グループ、メガスフェラ属(Megasphaera)、エンテロコッカス(腸球菌)属(Enterococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)が存在すると考えられている(図1−1 A)。 そして、このうち、ラクトバチルス属、クロストリジウム・コッコイデスグループ、クロストリジウム・レプタムサブグループ、バクテロイデス・フラジリスグループ、ビフィドバクテリウム属、アトポビウムクラスター及びプレボテラ属からなる7つの細菌群については、菌属又は菌群特異的な検出が可能であり(非特許文献2、Appl Environ Microbiol 70:7220-8(2004))、しかも、ヒト大便から300株の腸内細菌を分離・同定した報告(Appl Environ Microbiol 68:5445-51 (2002))に基づけば、287株(96%)が、ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ、アシダミノコッカスグループ、クロストリジウム・ラモーサムグループ、ベイヨネラ属及びフソバクテリウム属の細菌群に、当該7つの細菌群を加えた12の菌群・菌属のいずれかに属している。また、腸内細菌からランダムにピックアップした284個の16S rRNA遺伝子配列をクローンライブラリー法により分析した報告(Appl Environ Microbiol 65:4799-807 (1999))に基づいても、284個のうち264個(93%)がこの12菌属・菌群のいずれかに属している。従って、ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ、アシダミノコッカスグループ、クロストリジウム・ラモーサムグループ、ベイヨネラ属及びフソバクテリウム属からなる細菌群の検出と、ラクトバチルス属、クロストリジウム・コッコイデスグループ、クロストリジウム・レプタムサブグループ、バクテロイデス・フラジリスグループ、ビフィドバクテリウム属、アトポビウムクラスター及びプレボテラ属からなる細菌群の検出を併せて行い、解析することで、実質的に腸内細菌叢の大部分の把握が可能となると考えられる。 ラクトバチルス属、クロストリジウム・コッコイデスグループ、クロストリジウム・レプタムサブグループ、バクテロイデス・フラジリスグループ、ビフィドバクテリウム属、アトポビウムクラスター及びプレボテラ属からなる細菌群の検出、分析は、これらの菌属又は菌群特異的な核酸断片を用い、上述した方法と同様の方法を行えばよい。当該菌属又は菌群特異的な核酸断片としては、例えば以下の(a)〜(g)に示す公知のプライマーセットが挙げられる。 斯くして、ヒトや動物の腸内細菌叢の大部分の把握が可能となれば腸内細菌叢の全体像がほぼ把握でき、各個体の消化管等の状態が把握可能となる。また、各種疾病患者における特徴的な腸内細菌叢の解明、抗生物質の服用やプロバイオティクスの摂取が腸内細菌叢に与える影響等の検討が可能となり、これらの知見から、各個体に適切な抗生物質やプロバイオティクスの選択、各種疾病等の予防・治療が容易になる。 例えば、大腸がん患者に特徴的な腸内細菌叢の構成が明らかとなれば、腸内細菌叢を調べることによって、この疾患の発症リスクを推測することや、腸内細菌叢のバランスをコントロールすることによって、発症リスクを軽減できる。腸内細菌叢が関連しているとされる炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、感染症、一部のビタミン欠乏症等についても同様のことが言える。 以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例1 各菌属・菌群特異的な核酸断片の設計及び系統樹の作製 標的とする菌と近縁種の16S rRNA配列比較から、各菌属・菌群に特徴的な配列を検索したところ、特異的プライマーの候補となる領域が見つかった(表2)。 腸内細菌叢を構成する菌属及び菌群の系統樹は、Clustal-X及びTree-Viewプログラムを用いて作成した(Nucleic Acids Res 25:4876-82 (1997))。図1のB)〜D)にプライマーの標的菌属・菌群の系統樹を示した。実施例2 核酸断片の特異性の確認 各菌属・菌群に特徴的な配列を標的として、特異的プライマーを設計した(表3)。Ribosomal Database ProjectのCheck Probeプログラム(Nucleic Acids Res 31:442-3 (2003)を用いて、データベース上の16S rRNA配列とクロスがないかを検索し、標的としていない菌種がプライマーと同一の配列を有していないことを確認した。さらに、各菌属・菌群特異的プライマーをDNA合成機を用いて合成した。設計したプライマーの特異性は、以下の手順で確認した。 表4に示す代表的な腸内菌59菌種を、変法GAM液体培地(ニッスイ社製)をもちいて37℃で嫌気的に24〜48時間培養した。これらの菌体から、ビーズ・フェノール法によりそれぞれのDNAを抽出した。ビーズ・フェノール法は、菌体のペレットを、450μlのExtraction Buffer (100 mM Tris-HCl、40mM EDTA、pH 9.0)と50μlの10% SDSに浮遊させ、0.3 gのガラスビーズ(直径0.1 mm)と500μlのTE飽和フェノールを加え、振とう装置(FastPrep FP120 [BIO101, Vista, CA]又はBead Extractor LY-32[ライフテック社])により5,000rpmで30秒間激しく振とうすることにより行った。15,000 rpmで10分間遠心分離を行い、イソプロパノール沈殿を行って、得られたDNAをTE(10 mM Tris-HCl、1 mM EDTA、pH 8.0)に溶解し、鋳型DNAとしてPCR反応に供した。 PCRはABI PRISM 7900HTを用い、蛍光物質としてSYBR Green Iを用いて行った。PCR反応は総量を10μlとし、10 mM Tris-HCl (pH 8.3)、50 mM KCl、2.5 mM MgCl2、200μM dNTP mixture、25μM各菌属・菌群特異的プライマー(表3)、0.45U Taq DNA polymerase (Takara)、11 ngのTaq抗体(クローンテック社製)、1 μlの鋳型DNAを含む反応液で行った。反応液は、鋳型DNAの二本鎖の解離のため94℃で5分間加熱した後、94℃で20秒間、55℃又は50℃で20秒間、72℃で50秒間の反応を1サイクルとしてこれを40サイクル繰り返し、72℃で3分間反応させ、PCR反応を行った。また、反応の特異性を評価するために、解離曲線解析(melting curves analysis)を行った(Anal Biochem 245:154-60, 1997)。すなわち、PCR反応の後、まず60℃で2分反応させ、さらに0.2℃/秒の温度勾配で95℃まで温度を上げていき、この時のSYBRの蛍光を測定して2本鎖が解離する時の温度を測定した。その結果、6つの各菌属・菌群に特異的なプライマーは、標的菌種の鋳型DNAを用いた時のみ目的とするPCR産物(解離温度:87〜90℃)を生じることが分かった(表4)。また、同時にPCR反応後に電気泳動を行ってプライマーの特異性を評価した。すなわち、1%アガロース(バイオラッド社)でMupid-2(コスモバイオ社)によりTAEバッファー中で100V、20分電気泳動し、エチヂウムブロマイド(0.5 mg/ml)で染色後、紫外線ランプ下でバンドを確認した。その結果、6つの各菌属・菌群に特異的なプライマーは、標的菌種の鋳型DNAを用いた時のみ目的とするサイズのPCR産物(416〜570bp)を生じ、解離曲線解析の結果と一致した(表4)。実施例3 各菌属・菌群の定量的分析のための標準曲線の作成 標準曲線作成のため、g-EcylindはClostridium innocuum YIT 10151T、g-AcidはAcidaminococcus fermentans YIT 6071T、g-CramはClostridium ramosum YIT 10062 T、g-VeilloはVeillonella paruvula YIT 6072T、g-FusoはFusobacterium varium ATCC 8501T、g-LactはLactobacillus gasseri YIT 0192Tから抽出したDNAを用いた。鋳型DNAの調製及びReal-time PCRは実施例2と同様に行い、上記の基準株の増幅産物が、一定の閾値を超えた時のPCRのサイクル数と菌数から検量線の傾きを求めた。 その結果、アシダミノコッカスグループを除く5菌群の検量線の傾きは、-3.46から-3.89の範囲でPCRの増幅効率に特に問題はなかった(ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ-3.66、クロストリジウム・ラモーサムグループ-3.86、ベイヨネラ属-3.46、フソバクテリウム属-3.85、ラクトバチルス属-3.89)。アシダミノコッカスグループは傾きが-4.57となっていて増幅効率がよくないことが示唆されたが、非特異的PCR産物が生じないのでPCRあたり10個まで(大便1gあたり106まで)定量可能であると考えられた。ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ、クロストリジウム・ラモーサムグループ、ベイヨネラ属、ラクトバチルス属についてもPCRあたり10個まで(大便1gあたり106まで)定量可能であった。しかし、フソバクテリウム属は、PCR反応の後半で非特異的な増幅産物が生成するため、PCRあたり102以下(大便1gあたり107以下)の定量化は困難であることが示唆された。実施例4 ヒト腸内細菌叢の解析 健常成人46名(男41名、女5名、25才〜59才、平均37 ± 9才)から提供された大便サンプルから抽出したDNAを試料とし、各菌属・菌群特異的プライマーを用いて、菌群分布を定量的PCR法により調べた。 大便からの鋳型DNAの調製は、菌体ペレットの代わりに大便サンプル20mgを用いる以外は実施例2と同様に行い、定量的PCRは実施例3と同様に行った。 その結果、ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループは98%の個体から検出され、検出された個体における菌数は8.4±1.2(平均±SD)だった。46名中8名では大便1gあたり1010以上で検出され、最優勢菌の一つであった。その他の菌属の菌数(平均±SD)は、検出頻度の高い順に、クロストリジウム・ラモーサムグループが7.6±0.7 (67%)、ラクトバチルス属が7.4±0.8 (67%)、ベイヨネラ属が7.0±0.6 (67%)、アシダミノコッカスグループが8.9±0.6 (61%)、フソバクテリウム属が8.6±0.9 (30%)となっていた。総菌数に占める割合では、ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループが平均で3.10%、クロストリジウム・ラモーサムグループが0.07%、ラクトバチルス属が0.19%、ベイヨネラ属が0.02%、アシダミノコッカスグループが1.02%、フソバクテリウム属が0.99%となっていた。なお、総菌数は、顕微鏡下で菌数をカウントする方法(DAPI法)により測定した。そして、上記6つの菌属・菌群特異的プライマー以外に、クロストリジウム・コッコイデス(Clostridium coccoides)グループ、クロストリジウム・レプタム(Clostridium leptum)サブグループ、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)グループ、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、アトポビウム(Atopobium)クラスター、プレボテラ属(Prevotella)についてプライマーを用いて腸内細菌叢を解析したところ(Appl Environ Microbiol 70:7220-8、2004)、図2のようになり、既存のプライマーと本発明のプライマーを併せて用いることで、腸内細菌叢の分布及び構成が明らかとなり、腸内細菌叢の全体像を把握することが可能となった。腸内フローラ構成菌の系統解析及び新規菌属・菌群特異的プライマーの標的菌種を示した図である。A):全体図、B):フソバクテリウム属腸内フローラ構成菌の系統解析及び新規菌属・菌群特異的プライマーの標的菌種を示した図である。C):ベイヨネラ属及びアシダミノコッカスグループ、D):ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ及びクロストリジウム・ラモーサムグループ定量的PCRにより解析した健常成人の腸内細菌叢構造図である。( )内の数字は検出頻度を示す。 腸内細菌叢を構成する細菌群を、菌属又は菌群特異的に検出するための核酸断片であって、配列番号1〜10で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片。 腸内細菌叢を構成する細菌群が、ユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ、アシダミノコッカスグループ、クロストリジウム・ラモーサムグループ、ベイヨネラ属及びフソバクテリウム属から選ばれるものである請求項1記載の核酸断片。 下記(a)〜(e)のプライマーセットとして使用するものである請求項1又は2記載の核酸断片。 (a)配列番号1で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片、及び配列番号2で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片よりなるユーバクテリウム・シリンデロイデスグループ検出用プライマーセット。 (b)配列番号3で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片、及び配列番号4で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片よりなるアシダミノコッカスグループ検出用プライマーセット。 (c)配列番号5で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片、及び配列番号6で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片よりなるクロストリジウム・ラモーサムグループ検出用プライマーセット。 (d)配列番号7で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片、及び配列番号8で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片よりなるベイヨネラ属検出用プライマーセット。 (e)配列番号9で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片、及び配列番号10で示される塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片よりなるフソバクテリウム属検出用プライマーセット。 請求項1〜3のいずれか1項記載の核酸断片を用いることを特徴とする腸内細菌群の検出方法。 請求項1〜3のいずれか1項記載の核酸断片、並びにラクトバチルス属、クロストリジウム・コッコイデスグループ、クロストリジウム・レプタムサブグループ、バクテロイデス・フラジリスグループ、ビフィドバクテリウム属、アトポビウムクラスター及びプレボテラ属からなる腸内細菌群にそれぞれ特異的な核酸断片を用いることを特徴とする腸内細菌叢の分析方法。 【課題】これまで検出が困難であった菌属又は菌群を特異的に検出でき、腸内細菌叢の全体像を把握するために有用な核酸断片を提供する。【解決手段】腸内細菌叢を構成する細菌群を、菌属又は菌群特異的に検出するための核酸断片であって、特定の塩基配列又はそれと相補的な塩基配列からなる核酸断片。【選択図】なし配列表