生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_テロメライシン含有抗腫瘍剤耐性克服剤
出願番号:2005201156
年次:2007
IPC分類:A61K 48/00,A61K 35/76,A61P 35/00,A61K 31/337,A61K 31/475,A61K 31/4745,A61P 43/00,C12N 15/09,C12N 7/00


特許情報キャッシュ

藤原 俊義 田中 紀章 浦田 泰生 JP 2007015997 公開特許公報(A) 20070125 2005201156 20050711 テロメライシン含有抗腫瘍剤耐性克服剤 オンコリスバイオファーマ株式会社 504366165 小林 浩 100092783 片山 英二 100095360 大森 規雄 100120134 鈴木 康仁 100104282 藤原 俊義 田中 紀章 浦田 泰生 A61K 48/00 20060101AFI20061222BHJP A61K 35/76 20060101ALI20061222BHJP A61P 35/00 20060101ALI20061222BHJP A61K 31/337 20060101ALI20061222BHJP A61K 31/475 20060101ALI20061222BHJP A61K 31/4745 20060101ALI20061222BHJP A61P 43/00 20060101ALI20061222BHJP C12N 15/09 20060101ALN20061222BHJP C12N 7/00 20060101ALN20061222BHJP JPA61K48/00A61K35/76A61P35/00A61K31/337A61K31/475A61K31/4745A61P43/00 121C12N15/00 AC12N7/00 17 1 OL 22 4B024 4B065 4C084 4C086 4C087 4B024AA01 4B024CA04 4B024CA20 4B024EA02 4B024HA14 4B024HA17 4B065AA95X 4B065AB01 4B065AC20 4B065BA01 4B065CA44 4C084AA13 4C084CA53 4C084MA02 4C084NA14 4C084ZB262 4C086AA01 4C086AA02 4C086BA02 4C086CB20 4C086CB22 4C086MA02 4C086MA03 4C086MA04 4C086NA05 4C086ZB26 4C086ZC75 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC83 4C087MA02 4C087NA13 4C087ZB26 4C087ZC75 本発明は、ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを含む、抗腫瘍剤耐性克服剤に関する。 癌に対する化学療法においては、抗癌剤耐性克服という大きな課題がある。癌細胞はトランスポーターの活性化や受容体キナーゼの変化など、様々な分子機構により抗癌剤耐性を獲得する(非特許文献1)。この抗癌剤耐性に対する研究がなされているが、未だ解決策がないのが現状である。抗癌剤による細胞死はアポトーシスであり、抗癌剤耐性はすなわちアポトーシス耐性である(非特許文献2)。 難治癌に対する新しい治療法として、近年制限増殖型ウイルスが研究開発されている。それらは、抗癌剤とは全く異なる作用機序を有すると考えられ、米国を中心とした臨床試験では併用されることも多い。本発明者は、以前TERTプロモーターを用いた制限増殖型アデノウイルス製剤を開発した(非特許文献3)。このアデノウイルスをテロメライシンと名づけた。テロメライシンによる細胞死はアポトーシスとは異なる作用機序である。このテロメライシンと微小管作用剤ドセタキセルとの併用実験においても各々の薬剤は個々に非依存的な抗腫瘍効果を示し、その結果、インビボで相互に非依存的な併用効果が認められた。Bush JA, Li G. Cancer chemoresistance: the relationship between p53 and multidrugtransporters. Int J Cancer 98: 323-330, 2002.Schmitt CA, Lowe SW. Apoptosis and chemoresistance in transgenic cancer models. J Mol Med 80:137-146, 2002.Kawashima T, Kagawa S, Kobayashi N, ShirakiyaY, Umeoka T, Teraishi F, Taki M, Kyo S, Tanaka N, Fujiwara T. Telomerase-specific replication-selective virotherapyfor human cancer. Clin Cancer Res10: 285-292, 2004. 本発明は、ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを含む、抗腫瘍剤耐性克服剤を提供することを目的とする。 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、抗腫瘍剤耐性腫瘍細胞に対して、テロメライシンが極めて優れた殺細胞効果を示したことを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。 (1)ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを含む、抗腫瘍剤耐性克服剤。 上記の抗腫瘍剤耐性克服剤のうち、ヒトテロメラーゼのプロモーターとしては、例えばhTERTが挙げられる。また、ウイルスはアデノウイルスが好ましい。抗腫瘍剤は、白金製剤、微小管阻害活性剤、アルキル化活性剤、代謝拮抗活性剤、抗癌作用を有する抗生物質及びトポイソメラーゼ阻害活性剤並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つを使用することができる。抗腫瘍剤の具体例としては、ドセタキセル、パクリタキセル、シスプラチン、プスルファン、メトトレキサート、フルオロウラシル、テガフール、プレオマイシン、アドリアマイシン、マイトマイシンC、ビノレルビン及びイリノテカン並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。なお、腫瘍は、限定されるものではないが、肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、肝臓癌、膵臓癌、胆嚢・胆管癌、前立腺癌、膀胱癌、子宮頸癌、甲状腺癌、卵巣癌、白血病、リンパ腫、肉腫及び間葉系腫瘍からなる群から選択される少なくとも1つでもよい。 (2)ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスと、抗腫瘍作用を有する物質とを含む、抗腫瘍剤耐性を獲得した腫瘍の併用療法のための医薬組成物。抗腫瘍作用を有する物質は、ドセタキセル、ビノレルビン、イリノテカン及びヒストンデアセチラーゼ阻害活性阻害剤並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる (3)ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを哺乳動物に投与することを特徴とする、抗腫瘍剤耐性を獲得した腫瘍細胞の増殖を抑制する方法。 (4)ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスと、抗腫瘍作用を有する物質又はそれらの薬理学的に許容し得る塩とを併用して哺乳動物に投与することを特徴とする、抗腫瘍剤耐性を獲得した腫瘍細胞の増殖を抑制する方法。 (5)ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを哺乳動物に投与することを特徴とする、抗腫瘍剤耐性を獲得した腫瘍の治療方法。 上記(3)〜(5)において、ヒトテロメラーゼのプロモーターはhTERTでもよい。ウイルスはアデノウイルスであることが好ましい。抗腫瘍剤は、白金製剤、微小管阻害活性剤、アルキル化活性剤、代謝拮抗活性剤、抗癌作用を有する抗生物質及びトポイソメラーゼ阻害活性剤並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つでもよい。抗腫瘍剤の具体例としては、ドセタキセル、パクリタキセル、シスプラチン、プスルファン、メトトレキサート、フルオロウラシル、テガフール、プレオマイシン、アドリアマイシン、マイトマイシンC、ビノレルビン及びイリノテカン並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。なお、腫瘍は、肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、肝臓癌、膵臓癌、胆嚢・胆管癌、前立腺癌、膀胱癌、子宮頸癌、甲状腺癌、卵巣癌、白血病、リンパ腫、肉腫、及び間葉系腫瘍からなる群から選択される少なくとも1つでもよい。(4)においては、抗腫瘍作用を有する物質は、ドセタキセル、ビノレルビン、イリノテカン及びヒストンデアセチラーゼ阻害活性阻害剤並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つを例示することができる。 本発明により、ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを含む、抗腫瘍剤耐性克服剤が提供される。本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤は、抗腫瘍剤耐性腫瘍に対する新しい治療戦略としての応用できる点で有用である。 本発明は、ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを含む、抗腫瘍剤耐性克服剤に関する。以下に本発明を詳細に説明する。 1.本発明の概要 本発明は、抗腫瘍剤耐性を獲得した腫瘍細胞に対する殺細胞効果を発揮する抗腫瘍剤耐性克服剤に関する。抗腫瘍剤耐性とは、同一抗腫瘍剤による治療が反復されると次第にその効果が減弱し、腫瘍細胞がこれらの抗腫瘍剤に対する耐性を獲得することをいう。腫瘍細胞が抗腫瘍剤耐性を獲得するメカニズムとしては、トランスポーターの活性化や受容体キナーゼの変化など、様々な分子機構が関与している。また、抗腫瘍剤による細胞死はアポトーシスであるため、抗腫瘍剤耐性はアポトーシス耐性といえる。抗腫瘍剤耐性が生じた場合は、一般的には、それまで使用してきた抗腫瘍剤を他の薬剤に代えるといった治療方針の変更をせざるを得ないが、新たな抗腫瘍剤を用いた治療を行っても、再度薬剤耐性が起こることもあり得るため、抗腫瘍剤の変更は、必ずしも効果的であるとはいえない。 ところで、本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤に含まれる組換えウイルスは、テロメラーゼプロモーターが発現することにより増殖が開始される。ここで、腫瘍細胞では正常細胞と比較してテロメラーゼの発現が極めて高いため、上記組換えウイルスは正常細胞では増殖せずに、腫瘍細胞のみで増殖するという特徴を有する。さらに、この組換えウイルスが腫瘍細胞に及ぼす細胞死の作用機序は、従来の抗腫瘍剤によるアポトーシスの作用機序とは異なるため、抗腫瘍剤で腫瘍細胞が処理された場合でも、何らその影響を受けずにその細胞内での増殖複製を行うことができる。その結果、上記のように、腫瘍細胞において抗腫瘍剤に対する耐性が獲得された場合でも、腫瘍細胞を特異的に死滅させることができる。このように、抗腫瘍剤の反復使用の結果、抗腫瘍剤耐性を獲得して、もはや殺細胞効果が示されなくなった腫瘍細胞は、本発明に含まれる組換えウイルスを投与されることで、「抗腫瘍剤耐性を克服できる」といえる。したがって、本発明に含まれる組換えウイルスは、抗腫瘍剤耐性克服剤として有用である。 2.本発明の組換えウイルス 本発明で使用される組換えウイルスは、ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドがゲノムに組み込まれたウイルスをいう。用いられるウイルスは特に限定されないが、安全性等の点からアデノウイルスが好ましい。また、アデノウイルスの中でも、使用の簡便さ等の点からタイプ5のアデノウイルスが特に好ましい。 本発明に使用される組換えウイルスは、ヒトテロメラーゼプロモーターにより、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子が駆動される。腫瘍細胞では正常細胞と比較してテロメラーゼの発現が極めて高いため、テロメラーゼが含まれる腫瘍細胞においてはテロメラーゼプロモーターが発現し、これにより本発明に含まれる組換えウイルスが増殖する。その結果、腫瘍細胞内では、ウイルス増殖による細胞障害が起こり、これにより、本発明に使用される組換えウイルスは腫瘍細胞を特異的に死滅させることができる。 「テロメラーゼプロモーター」は、テロメラーゼの転写開始部位を決定し、その頻度を直接的に調節する。テロメラーゼとは、真核生物染色体の複製時の短縮に拮抗して、テロメア長を維持する酵素である。このようなテロメラーゼプロモーターの種類は特に限定されるものではないが、例えば、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)のプロモーターが好ましい。hTERTは、その5’末端の上流1.4kbpの領域で、多くの転写因子結合配列が確認されており、その領域がhTERTプロモーターと考えられるが、中でも、翻訳開始部位の上流181bpの配列が下流の遺伝子発現に重要なコア領域である。本発明において、このコア領域を含むものであれば、限定されずに使用することができるが、このコア領域を完全に含む上流378bp程度の配列をhTERTプロモーターとして使用するのが好ましい。この378bp程度の配列は、181bpのコア領域単独の場合と比べて、その遺伝子発現効率が同等であることが確認されている。このようなhTERTの塩基配列を配列番号1に示す。 hTERTは、配列番号1に示される塩基配列のほか、配列番号1からなるDNAに対し相補的な塩基配列よりなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつhTERT活性を有するヌクレオチドの塩基配列も含まれる。上記ハイブリダイゼーションにおいてストリンジェントな条件としては、たとえば、1×SSC〜2×SSC、0.1%〜0.5%SDS及び42℃〜68℃の条件が挙げられ、より詳細には、60〜68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、2×SSC、0.1%SDS中、室温で5〜15分の洗浄を4〜6回行う条件が挙げられる。 本発明において、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むこととしたのは、IRES配列をE1A遺伝子とE1B遺伝子との間に挿入したものを使用すると、ウイルスが宿主細胞に感染した際に、増殖能が高くなるためである。なお、E1A遺伝子とE1B遺伝子は、E1遺伝子に含まれる遺伝子であるが、このE1遺伝子とは、ウイルスの有するDNA複製に関する初期遺伝子(early:E)と後期遺伝子(late:L)のうちの初期遺伝子の一つをいい、ウイルスゲノムの転写の制御に係わるタンパク質をコードしている。E1A遺伝子によりコードされるE1Aタンパク質は、感染可能なウイルス産生に必要な遺伝子群(E1B、E2、E4等)の転写を活性化する。E1B遺伝子でコードされるE1Bタンパク質は、後期遺伝子(L遺伝子)のmRNAが、感染した宿主細胞の細胞質へ蓄積するのを助け、宿主細胞のタンパク質合成を阻害することで、ウイルスの複製を促進する。E1A遺伝子、E1B遺伝子の塩基配列を、それぞれ配列番号2及び配列番号3に示す。 E1A及びE1Bは、それぞれ配列番号2及び配列番号3に示される塩基配列のほか、配列番号2及び配列番号3からなるDNAに対し相補的な塩基配列よりなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ各々E1A及びE1B活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。上記ハイブリダイゼーションにおいてストリンジェントな条件としては、たとえば、1×SSC〜2×SSC、0.1%〜0.5%SDS及び42℃〜68℃の条件が挙げられ、より詳細には、60〜68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、2×SSC、0.1%SDS中、室温で5〜15分の洗浄を4〜6回行う条件が挙げられる。 IRES(Internal Ribosome Entry Site)とは、ピコルナウイルス科に特異的なタンパク質合成開始シグナルであり、18SリボソームRNAの3’末端と相補的な配列があるためリボソーム結合部位としての役割を果たすと考えられている。ピコルナウイルス科のウイルス由来mRNAはこの配列を介して翻訳されることが知られている。IRES配列からの翻訳効率は高く、mRNAの途中からでもキャップ構造非依存的にタンパク質合成が行われる。したがって、本ウイルスでは、ヒトテロメラーゼのプロモーターによりE1A遺伝子とIRES配列の下流にあるE1B遺伝子の両方が独立に翻訳される。IRESを使用すると、テロメラーゼプロモーターの発現制御がE1A遺伝子、E1B遺伝子に独立して及ぶために、E1A遺伝子あるいはE1B遺伝子のいずれか一方をテロメラーゼプロモーターで制御する場合に比べて、ウイルスの増殖をより厳格にテロメラーゼ活性を有する細胞に限定することができる。IRES配列を配列番号4に示す。 また、IRESは、配列番号4に示される塩基配列のほか、配列番号4からなるDNAに対し相補的な塩基配列よりなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつIRES活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。上記ハイブリダイゼーションにおいてストリンジェントな条件としては、たとえば、1×SSC〜2×SSC、0.1%〜0.5%SDS及び42℃〜68℃の条件が挙げられ、より詳細には、60〜68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、2×SSC、0.1%SDS中、室温で5〜15分の洗浄を4〜6回行う条件が挙げられる。 また、本発明において、ヒトテロメラーゼのプロモーターは、E1遺伝子の上流に位置する。テロメラーゼ活性を有する細胞内で増殖を促進することができるからである。 本発明の組換えウイルスに含まれる遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。ヒトテロメラーゼとして、hTERTを用いる場合について以下に説明する。 293細胞等のE1遺伝子を発現している細胞からE1A-S、E1A-AS、E1B-S、E1B-AS等のプライマーを用いて、RT-PCR及び/又はDNA-PCRを行うことによりE1A遺伝子及びE1B遺伝子を増幅し、必要に応じてTAクローニング等の公知の方法を用いて配列を確認した後、公知の制限酵素でE1A及びE1BのDNA断片を切り出すことができる。 次に、公知のベクター(例えばpIRES等)にE1A-IRES-E1Bを挿入し、次いで、MluI、BglIII等の制限酵素で切り出したhTERTプロモーター配列を、E1Aの上流に挿入することができる。 必要に応じて、pShuttleなどの公知ベクターに含まれるサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターをMfeI、NheI等の制限酵素により取り除き、その部位にphTERT-E1A-IRES-E1Bから制限酵素NheIおよびNotIで切り出した配列を挿入することができる。このように、本発明に使用されるhTERT-E1A-IRES-E1Bからなるカセット(図1a)を組込んだウイルスを、本発明では「テロメライシン」又は「Telomelysin」という。hTERTプロモーターの制御下にアデノウイルスの増殖に必要なE1遺伝子を発現させることによって、ウイルスを癌細胞特異的に増殖させることができる。 組換えウイルスを細胞に感染させるには、例えば、以下の方法で感染させることができる。まず、ヒト大腸癌細胞SW620、ヒト肺癌細胞A549、H1299等の細胞を適当な培養液が入った培養プレートに播き、炭酸ガス存在下で、37℃で培養する。培養液は、動物細胞培養に一般的に使用されるDMEM、MEM、RPMI-1640などが採用され、必要応じて血清、抗生物質、ビタミン等を添加することができる。培養した細胞に一定量の本ウイルス、例えば、0.1〜10 MOI、好ましくは、0.1〜1 MOI (multiplicity of infection)を接種することにより感染させる。MOIとは、一定量の培養細胞に一定量のウイルス粒子を感染させる場合のウイルス量(感染単位)と細胞数の比をいい、ウイルスを細胞に感染させる際の指標として用いられる。 なお、ウイルス増殖を確認するには、ウイルス感染細胞を回収し、DNAを抽出し、本ウイルスが有する適当な遺伝子を標的とするプライマーを用いてリアルタイムPCRを行うことで定量的に解析することができる。 3.抗腫瘍剤 抗腫瘍剤とは、生体の調節機構が乱れて細胞分裂を繰り返し、細胞が過剰増殖した結果、腫瘍塊となるような腫瘍細胞(癌細胞)の発育や増殖を抑制する作用を有する薬剤をいい、癌細胞の核酸合成を抑制したり、代謝を阻害したりして増殖を阻止するような薬剤も含まれる。具体的には、以下のようなアルキル化活性剤、代謝拮抗活性剤、抗生物質、微小管阻害活性剤、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害活性剤などが含まれるがこれらに限定されるものではない。また、これらの抗腫瘍剤は薬理学的に許容し得る塩を形成してもよい。(1)アルキル化活性剤:この製剤は、癌細胞の核酸タンパク質にアルキル基を導入して細胞障害を起こさせる作用を有するものであり、例えばカルボコン、プスルファン(マスタード薬)、ニムスチン(ニトロソウレア類)などがあげられる。(2)代謝拮抗活性剤:この製剤は、代謝過程で酵素に拮抗して、細胞合成を阻害する作用を有するものであり、例えばメトトレキサート(葉酸系)、メルカプトプリン、(プリン系)、シタラビン(ピリミジン系)、フルオロウラシル、テガフール、カルモフールなどがあげられる。(3)抗生物質:抗癌作用を有する、アクチノマイシンD、プレオマイシン、アドリアマイシン、マイトマイシンCなどがあげられる。(4)微小管阻害活性剤:この製剤は、微小管に作用して抗腫瘍効果を示すものであり、例えばドセタキセル、パクリタキセル(タキサン)、ビノレルビン、ピンクリスチン、ビンブラスチン(アルカロイド系)などがあげられる。(5)白金製剤:この製剤は、DNA鎖内又は鎖間結合あるいはDNAタンパク質結合を構成して、DNA合成を阻害する作用を有するものであり、例えば、シスプラチン、アルボプラチン、ネダプラチンなどがあげられる。(6)トポイソメラーゼ阻害活性剤:トポイソメラーゼを阻害する、イリノテカン(トポイソメラーゼI阻害薬)、ポドフィロトキシン誘導体(トポイソメラーゼII阻害薬)などがあげられる。なお、トポイソメラーゼとは、DNAに一時的に切れ目を入れてDNA鎖のリンキング数を変える反応を触媒する酵素である。 特に、上記した抗腫瘍剤のうち、本発明における抗腫瘍剤としては、微小管阻害活性剤及び白金製剤が好ましく、さらに、ドセタキセル及びシスプラチンがより好ましいが、これらに限定されるものではない。 ドセタキセルとは、上記微小管阻害薬のうちのタキサン系に分類され、主に乳がん、非小細胞肺癌の治療に適用される。ドセタキセルは、セイヨウイチイ針葉抽出物から半合成品として得られ、チューブリンとの重合を促進して、微小管形成と共に、微小管の脱重合を抑制するほか、細胞の有糸分裂を停止させる機能を有する。 シスプラチン(CDDP)は、主として、睾丸腫瘍、膀胱がん、腎盂尿管腫瘍、前立腺癌、卵巣癌、頭頚部癌、肺癌、食道癌、子宮頸癌の治療に適用される。 本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤が作用する腫瘍(癌)細胞の種類は、限定されるものではなく、あらゆる種類の腫瘍細胞を用いることができる。例えば、頭頸部、胃、大腸、肺、肝、前立腺、膵、食道、膀胱、胆嚢・胆管、乳房、子宮、甲状腺、卵巣等における固形癌、あるいは白血病、リンパ腫、肉腫、間葉系腫瘍等に有効である。ヒトの組織由来の腫瘍細胞のほとんどはテロメラーゼ活性の上昇を示しており、本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤はそのようなテロメラーゼ活性により増殖が活発になった腫瘍細胞に全般的に作用しうる。特に、大腸、肺、胃、食道、肝臓、前立腺等に効果がある。 上記抗腫瘍剤の薬理学的に許容し得る塩としては、無機酸塩(例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩)、有機酸塩(例えば酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、マロン酸塩 、コハク酸塩 、フマル酸塩、クエン酸塩 、リンゴ酸塩など)、有機スルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩など)、アミノ酸塩(例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩など)などが挙げられる。 4.抗腫瘍剤耐性克服剤(1)本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤は、ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを含むことを特徴とする。 これは、テロメライシンが腫瘍細胞に及ぼす細胞死の作用機序が、従来の抗がん剤によるアポトーシスの作用機序とは異なること、さらに、テロメライシン組換えウイルスは、抗腫瘍剤で腫瘍細胞が処理された場合でも、何らその影響を受けずにその細胞内での増殖複製を行うことができるといった、テロメライシンの性質により達成されたものである。 本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤は、そのまま患部に適用することもできるし、あらゆる公知の方法、例えば、静脈、筋肉、腹腔内又は皮下等の注射、あるいは鼻腔、口腔又は肺からの吸入、経口投与、カテーテルなどを用いた血管内投与等により生体(対象となる細胞や臓器)に導入することもできる。 また、例えば凍結などの方法により扱いやすくした後、そのまま用いてもよく、あるいは賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤等公知の薬学的に許容される担体、公知の添加剤(緩衝剤、等張化剤、キレート剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等が含まれる。)などと混合することができる。 本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、シロップ剤等の経口投与剤、注射剤、外用剤、坐剤、点眼剤等の非経口投与剤などの形態に応じて、経口投与又は非経口投与することができる。好ましくは、筋肉、腹腔等への局部注射、静脈への注射等が例示される。 投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象、患者の年齢、体重、性別、症状その他の条件により適宜選択されるが、本発明に含まれるウイルスの一日投与量としては、106〜1011PFU(plaque forming units)程度、好ましくは109〜1011PFU程度とするのがよく、1日1回投与することもでき、数回に分けて投与することもできる。また、本発明のウイルスを使用する際には、公知の免疫抑制剤等を用いることにより、生体の免疫を抑制し、該ウイルスが感染し易くすることもできる。 (2)併用療法用医薬組成物 本発明のヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスと、抗腫瘍作用を有する物質とを併用すれば、当該抗腫瘍物質に対して耐性を獲得した腫瘍(癌)に対する治療効果が回復する。したがって、本発明の上記ウイルスは、少なくとも1種の抗腫瘍作用を有する物質と併用して医薬組成物として用いることもできる。 本発明の抗腫瘍作用を有する物質とは、生体の調節機構が乱れて細胞分裂を繰り返し、細胞が過剰増殖した結果、腫瘍塊となるような腫瘍細胞(癌細胞)の発育や増殖を抑制する作用を有する物質をいい、癌細胞の核酸合成を抑制したり、代謝を阻害したりして増殖を阻止するような物質も含まれる。具体的には、以下のものが挙げられる。(i)アルキル化活性を有する物質:カルボコン、プスルファン、ニムスチンなど(ii)代謝拮抗活性を有する物質:メトトレキサート、メルカプトプリン、シタラビン、フルオロウラシル、テガフール、カルモフールなど(iii)抗生物質:アクチノマイシンD、プレオマイシン、アドリアマイシン、マイトマイシンCなど(iv)微小管阻害活性を有する物質:ドセタキセル、パクリタキセル、ビノレルビン、ピンクリスチン、ビンブラスチンなど(v)トポイソメラーゼ阻害活性を有する物質:イリノテカン、ポドフィロトキシン誘導体など 上記抗腫瘍作用を有する物質には薬学的に許容し得る塩も含まれる。このような塩としては前述した塩が挙げられる。 本発明に含まれる抗腫瘍作用を有する物質又はその薬学的に許容し得る塩の投与量も、有効成分の種類、投与経路、投与対象、患者の年齢、体重、性別、症状その他の条件により適宜選択される。例えば、ドセタキセルの場合は、通常、成人に1日1回、60mg/m2(体表面積)を1時間以上かけて3〜4週間間隔で点滴静注する。なお、症状により適宜増減することが可能である。ただし、1回最高用量は70mg/m2とする。 ビノレルビンの場合は、例えば、1回2.0〜2.5mg/m2を1週間間隔で静脈内に緩徐に静注することができる。イリノテカンの場合は、例えば、塩酸イリノテカンとして、通常、成人に1日1回、150mg/m2を2週間間隔で3〜4回点滴静注し、少なくとも3週間休薬する。これを1クールとして、投与を繰り返すことができる。 このように、本発明の抗腫瘍剤体制克服剤に含まれる組換えウイルスと、抗腫瘍作用を有する物質とを併用することにより、腫瘍細胞の増殖を抑制することができる。併用の態様は、組換えウイルスと抗腫瘍作用を有する物質とを混合して同時刻に投与する態様に限定されるものではなく、いずれか一方を先に投与して他方を後に投与する態様も含まれる。一つの治療スケジュールの中に、組換えウイルス及び抗腫瘍作用を有する物質の両者が含まれている限り、本発明における「併用」に含まれる。具体的には、例えば、以下のような治療方法があげられる。(i)テロメライシンを投与した後に抗腫瘍作用を有する物質を投与することができる。培養細胞を用いた実験から、この方法により顕著な併用効果が認められることが明らかである。(ii)テロメライシンを腫瘍内に投与し、同時に抗腫瘍作用を有する物質を全身投与してもよい。動物実験では、上記のような同時投与により明らかな併用効果が認められている。(iii)抗腫瘍作用を有する物質を投与した後に、テロメライシンを投与することもできる。抗腫瘍作用を有する物質の投与は、短期投与、長期投与を問わない。 (3)本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤は、以下の理由で副作用が生じる可能性は極めて低いと考えられ、非常に安全な製剤であるということができる。(i)正常の体細胞ではテロメラーゼ活性がほとんどなく、また、造血細胞等の浮遊細胞では本発明のウイルスは感染しにくい。(ii)本発明のウイルスは増殖能を有するので、通常の遺伝子治療で用いられている非増殖性ウイルスよりも低い濃度で使用することができる。(iii)本発明のウイルスが過剰に投与された場合であっても、生体内の通常の免疫作用によって抗ウイルス作用が働く。 (4)本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤の抗腫瘍作用は以下のように試験を行い検討することができる。 本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤が癌細胞に対して、どの程度の抗腫瘍効果が認められるか解析するには、例えば、XTTアッセイを行いることができる。 XTT (2,3-bis [2- Methoxy- 4-nitro- 5-sulfophenyl ]- 2H- tetrazolium- 5-carboxyanilide inner salt)アッセイは、生細胞中のミトコンドリアの脱水素酵素により生存細胞の活性を測定することを基本原理としており、インビトロにおける細胞毒性をモニターするのに適した方法である。以下にXTTアッセイについて具体的に説明する。 XTT溶液は、フェノールレッドを含まない場合又は平衡塩溶液に溶解させた場合は黄色を示す。このXTT溶液が生存細胞と接触すると、生存細胞のミトコンドリアの脱水素酵素がXTTのテトラゾリウム環を切断し、水溶液に可溶の橙色のフォルマザン結晶が生成する。なお、実際はXTTの生物学的還元が不十分であるため、還元促進剤としてフェナジンメトサルフェート(PMS)等の電子共役物質が反応液に添加されることが多い。そして、細胞数の増減によって、生成するフォルマザン量が変化することを利用し、得られた橙色の溶液を比色法により測定することによって、所望の物質の細胞毒性を測定することができる。本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤の解析にあたっては、本発明の組換えウイルスをインビトロで培養中の種々の癌細胞に適当な濃度(MOI: multiplicity of infection)で感染させる。上記細胞を適当な条件で培養後、種々の濃度の抗腫瘍剤を上記ウイルス感染細胞培養液に投与する。ウイルス感染後、適当な期間培養した後に、上記XTTアッセイを行い、抗腫瘍効果を解析することができる。 アデノウイルスはコクサッキーウイルス・アデノウイルス受容体(CAR)を介して細胞に感染・進入するが、CARが陰性である癌細胞ではウイルス感染効率が低下している。そこで、癌細胞においてもCARの発現が増強しているほど、アデノウイルスは癌細胞に進入しやすくなる。腫瘍細胞中でCARが発現しているか否かは、各種腫瘍細胞を適当な条件で培養した後、フローサイトメトリーを用いてCAR発現を解析すればよい。なお、抗癌剤FR901228(入手先:藤沢薬品工業 [現 アステラス製薬])は、癌細胞においてもCARの発現を増強させることができるため、FR901228と本発明の組換えアデノウイルスを併用して用いると、FR901228本来の抗腫瘍作用に加え、併用される組換えアデノウイルスの腫瘍細胞への感染効率を向上させる作用をも有している点で好ましい。 フローサイトメトリーとは、細胞浮遊液を高速で流動させて、個々の粒子から発する蛍光を測定することにより、細胞集団中の個々の細胞の大きさ、DNA含量等を測定する方法をいう。フローサイトメトリーは、細胞1個1個の相対的大きさや形状、内部構造の違いを解析できるばかりではなく、さらに蛍光標識を行うことにより蛍光強度や蛍光の種類を測定し、細胞の同定や細胞群を構成する種々の細胞の存在比を短時間で解析することができる。 細胞膜は、細胞死により、その状態を保てなくなるため、後述するPI (propidium iodide)等で容易に核が染色される。従って、このPIによる核染色の結果から、DNA量と細胞周期を判定することができる。 本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤における組換えウイルスが、標的とする細胞周期にどのような影響を及ばすのかについては、上記したフローサイトメトリーを用いて、核を染色するPIにより細胞周期を解析することができる。腫瘍細胞では、細胞周期におけるS期及びG2/M期の割合が高いと悪性度が高いとされる。従って、G2/M期の割合が抑制されるような結果が得られれば、抗腫瘍効果が認められるといえる。 本発明の抗腫瘍剤耐性克服剤における組換えウイルスの標的細胞内における増殖は、例えば、定量リアルタイムPCRを用いて以下のように測定することができる。すなわち、抗腫瘍剤を併用して組換えウイルスを適当な期間培養した後、ウイルス感染細胞を回収してDNAを抽出し、本ウイルスが有する適当な遺伝子を標的とするプライマーを用いてリアルタイムPCRを行うことで、本ウイルスが有する適当な遺伝子を定量的に解析することができる。このとき、例えば、本発明の組換えウイルスに蛍光物質をコードする遺伝子などを組み込んでおくと、本ウイルスの増殖がみられる細胞は、励起光をあてることにより所定の蛍光(例えばGFPの場合は緑色蛍光)を発するため、細胞内におけるウイルス増殖を可視化することができる。例えば、ウイルス感染細胞を蛍光顕微鏡下に観察すると、細胞でGFP蛍光発現が見られる。また、CCDカメラを用いて、経時的にGFP蛍光発現を観察することで、ウイルス感染細胞を経時的に観察することもでき、そのような組換えウイルスを生体内に投与すれば、生体内において細胞をリアルタイムで標識および検出することもできる。 以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 <組換えアデノウイルス(テロメライシン)の作製> ヒト胎児腎臓細胞293細胞から公知の手法を用いて抽出したRNAと、以下の特異的なプライマー(E1A-S、E1A-AS)を用いて以下の条件でRT-PCRを行い、897 bpのE1A遺伝子を増幅した。E1A-S :5’-aca ccg gga ctg aaa atg ag-3’ (配列番号5)E1A-AS:5’-cac agg ttt aca cct tat ggc-3’(配列番号6)PCR液組成: 1×PCR バッファー 各dNTP毎0.2mM 5mM MgCl2 2.5U AmpliTaq Gold 各プライマー毎0.2μM反応条件: 95℃ 10分 (95℃ 1分、56℃ 1分、72℃ 1.5分)×32サイクル 72℃ 7分 4℃ 5分 同様に、293細胞から抽出したDNAより以下のプライマー(E1B-S、E1B-AS)を用いてDNA-PCRを行い、1822bpのE1B遺伝子を増幅した。PCR液組成、反応条件(サイクル、温度)はE1A遺伝子の場合と同様に行った。E1B−S:5’-ctg acc tca tgg agg ctt gg-3’(配列番号7)E1B−AS:5’-gcc cac aca ttt cag tac ctc-3’(配列番号8) それぞれのPCR産物のTA Cloning (TA Cloning Kit Dual Promoter; Invitrogen)を行い、シークエンスを確認した後、制限酵素EcoRIにより、各々911bp(E1A)、1836bp(E1B)のDNA断片を切り出した。 pIRESベクター(CLONTECH)のMluI切断部位にE1Aを、SalI部位にE1Bをそれぞれ順方向に挿入した(E1A-IRES-E1B)。 制限酵素MluIおよびBglIIで切り出した455bpのhTERTプロモーター配列を、E1A-IRES-E1BのE1A上流にあるXhoI部位に順方向に挿入した(phTERT-E1A-IRES-E1B)。 pShuttleベクターに含まれるサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを制限酵素MfeIおよびNheI処理により取り除き、その部位にphTERT-E1A-IRES-E1Bより制限酵素NheIおよびNotIで切り出した3828bpの配列を挿入した(pSh-hAIB)。 pSh-hAIBより制限酵素I-CeuIおよびPl-SceIにより4381bpの配列を切り出し、Adeno-X Expression System(CLONTECH)のAdeno-X Viral DNAに挿入した(AdenoX-hAIB)。AdenoX-hAIBを制限酵素PacI処理で線状化した後、293細胞にトランスフェクションし、感染性のある組換えアデノウイルスを作製した(OBP-301;テロメライシン; Telomelysin)。テロメライシンに組み込まれた複製カセットの模式図を図1aに示す。 さらに、pEGFP-N1(CLONTECH)をAgeI/NheIで切断し、クレノウ断片で平滑化して、セルフライゲーションした(pEGFP-N2)。 このpEGFP-N2をNsiI/AflIIで切断し、T4 DNAポリメラーゼで平滑化しBglIIリンカーを使って、BglII 部位を作製した。このBglII断片をpHM11のBamHI部位に挿入した(pHM11-EGFP-N2)。 さらに、pHM11-EGFP-N2のCsp45I 断片をphTERT−E1A−IRES−E1Bを組み込んだpShuttleベクター(pSh-hAIB)のClaI siteに挿入した。 作製した組換え遺伝子を制限酵素I-CeuIおよびPI-SceIにより4381bpの配列を切り出し、Adeno−X Expression System(CLONTECH)のAdeno−X Viral DNAに挿入した(AdenoX−hAIB)。AdenoX−hAIBを制限酵素PacI処理で線状化した後、293細胞にトランスフェクションし、感染性のある組換えアデノウイルスを作製した(以下、「OBP-401」という)(図1b)。なお、E3領域にCMVプロモーターにより発現するgfp遺伝子を挿入すると、当該遺伝子産物の蛍光発色により、ウイルスの増殖とともに癌細胞を可視化することができる。<CDDPおよびパクリタキセルに対する抗腫瘍耐性の確認>ヒト扁平上皮がんA431細胞及び耐性を獲得しているA431/CDDP1、A431/CDDP2細胞にCDDP(シスプラチン)を投与し、ヒト前立腺癌細胞DU145細胞及び耐性を獲得しているclone2、3、4細胞にパクリタキセルを投与して各々の細胞がどの程度の抗腫瘍耐性を獲得するかを確認した。具体的には、96ウェルプレートに細胞を1000細胞/ウェルずつ播種し、A431系及びDU145系細胞にCDDP 0、0.1、1、3、10、30、50、100μMあるいはパクリタキセル 0、0.1、1、2、5、10、50、100nMを加えた。感染後3日目にキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いてXTTアッセイを行った。具体的には、ウェルから培養液を除去し、XTT試薬を含む反応液を調整した後に添加培養する。約4時間後にマイクロタイタープレート(ELISA)リーダーで吸光度を測定し、生細胞数を算出、抗腫瘍効果を確認した。 その結果、親株に対して、A431系では約3−4倍の、DU145系では約6−7倍の相対耐性が認められた(図2)。 さらに、A431とCDDP耐性A431株、DU145とパクリタキセル耐性DU145株に、それぞれCDDP 10μM、パクリタキセル 10nMを感染させた。感染後3日目に顕微鏡にて観察した。その結果、ともに親株においては著明な抗腫瘍効果が認められたが、耐性株においては耐性が確認された(図3)。図3aにおいて、A431/Pは親株、A431/CDDP1及びA431/CDDP2は耐性株である、図3bにおいて、Du145/Pは親株、clone2-4は耐性株である。 A431とCDDP耐性株、DU145とパクリタキセル耐性株に、それぞれCDDP、パクリタキセルを感染させ、感染後7日目にCBB染色を行った。その結果、ともに親株においては著明な抗腫瘍効果が認められたが、耐性株においては高濃度の抗癌剤に対しても耐性が認められた(図4)。次に、抗腫瘍耐性の分子機構を検討するために、各耐性細胞における多剤耐性遺伝子(multidrug resistance gene: MDR1)の発現を解析した。具体的には、各癌細胞からタンパク分画を抽出し、ゲル内で電気泳動した後にタンパクを膜にトランスファーする。その膜を抗MDR1抗体と反応させ、抗体を発色させることでMDR1タンパクの発現を比較した。その結果、A431 系、DU145系いずれの細胞株においてもMDR1の発現はほとんどみられず、MDR1発現による耐性獲得ではないと考えられた(図5)。 アデノウイルスの細胞内侵入に必要なコクサッキーウイルス・アデノウイルス受容体(CAR)の発現を、フローサイトメトリーを用いて確認した。その結果、実験に用いた全ての細胞株において著明なCAR発現が認められた(図6)。<OBP-301及びOBP-401に抗腫瘍剤耐性細胞に対する抗腫瘍効果の検討>96ウェルプレートにA431系及びDU145系細胞を1000細胞/ウェルずつ播種し、OBP-301をmock、0.01、0.1、1、5、10、20MOIで感染させた。OBP-301感染後5日目にXTTアッセイを行った。その結果、A431/Pにおいて若干抵抗性が認められたものの、ほぼすべての細胞株において、著明な殺細胞効果が認められた。DU145では、親株も耐性株も同様にOBP-301による著明な殺細胞効果が認められた(図7、表1)。 さらに、OBP-301感染後から1、2、3、5、7日目にXTT アッセイを行った。その結果、A431/Pにおいて若干抵抗性が認められたものの、すべての耐性細胞株において、1−3日目にかけて急速な殺細胞効果が認められた。DU145では、親株も耐性株も同様にOBP-301による急速な殺細胞効果が認められた(図8)。 その次に、24ウェルプレートに細胞を10000細胞/ウェルずつ播種し、OBP-301をmock、0.01、0.1、1、10および50MOIで感染させた。感染後7日目にCoomassie Brilliant Blue (CBB)染色を行い、抗腫瘍効果を検討した。その結果、A431/Pにおいてはやや抵抗性があったが、耐性株においては著明な殺細胞効果が認められた。DU145では、親株も耐性株も同様にOBP-301による著明な殺細胞効果が認められた(図9)。 A431とCDDP耐性株について、OBP-301、OBP-401を10MOIで2時間感染させた。感染後5日目に蛍光倒立顕微鏡にて形態学的変化と蛍光発現を観察した。その結果、明視野では、A431/Pに対してはやや抵抗性があったが、耐性株においては著明な殺細胞効果が認められた。また、OBP-401の蛍光を観察したところ、いずれの細胞株においても強い蛍光を認められ、細胞内増殖が十分であることが示された(図10)。 DU145とパクリタキセル耐性株にOBP-301およびOBP-401を0.1MOIで2時間感染させ、感染後5日目に顕微鏡にて観察した。その結果、明視野では、親株、耐性株すべてにおいて著明な殺細胞効果が認められた。また、蛍光では、いずれの細胞株においても強い蛍光が認められ、細胞内増殖が十分であることが示された(図11)。 定量的リアルタイムPCRを用いて、A431系及びDU145系にOBP-301を0.1MOI又は1MOIで2時間感染させた。感染後2、24、48、72時間後に細胞を回収して、DNAを抽出し、リアルタイムPCRにてウイルス増殖を定量的に解析した。E1Aプライマー配列:(forward):5’-CCT GTG TCT AGA GAA TGC AA-3’(配列番号9)(Reverse):5’-ACA GCT CAA GTC CAA AGG TT-3’(配列番号10)PCR液組成: 1×LC FastStart DNA Master SYBR Green I 3mM MgCl2 各プライマー毎0.5μM反応条件: 95℃ 10分 (95℃ 10秒、60℃ 15秒、72℃ 8秒)×40サイクル 70℃ 15秒 40℃ 30秒その結果、感染後24時間で急速に増殖し、約48時間でピーク値に達した。また、いずれの細胞株においても著明な増殖効率が示された(図12)。OBP-301(テロメライシン)及びOBP-401の構造を示す図である。薬剤耐性サブラインの特徴づけを示す図である。a) CDDP、b)パクリタキセル各種癌細胞耐性株に抗癌剤を投与して、抗腫瘍効果を顕微鏡にて観察した図である。細胞死アッセイを行った実験結果を示す図である。ウエスタンブロットによりMDR1タンパク質の発現を解析した図である。フローサイトメトリーを用いて、CAR発現を解析した図である。癌細胞耐性株にOBP-301を感染させた後にXTTアッセイを行った実験結果を示す図である。 a) A431系 b) DU145系癌細胞耐性株にOBP-301を感染させた後、経時的にXTTアッセイを行った実験結果を示す図である。a) A431系 b) DU145系癌細胞耐性株にOBP-301を感染させた後にCBB染色を行った図である。癌細胞耐性株にOBP-301及びOBP-401を感染させた後に顕微鏡にて観察した図である。癌細胞耐性株にOBP-301及びOBP-401を感染させた後に顕微鏡にて観察した図である。定量的Real time PCRを用いて、OBP-301の細胞内増殖を解析した。定量的Real time PCRを用いて、OBP-301の細胞内増殖を解析した実験結果を示す図である。a) A431系 b) DU145系配列番号5:プライマー配列番号6:プライマー配列番号7:プライマー配列番号8:プライマー配列番号9:プライマー配列番号10:プライマー ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを含む、抗腫瘍剤耐性克服剤。 ヒトテロメラーゼのプロモーターがhTERTである、請求項1記載の抗腫瘍剤耐性克服剤。 ウイルスがアデノウイルスである請求項1又は2記載の抗腫瘍剤耐性克服剤。 抗腫瘍剤が、白金製剤、微小管阻害活性剤、アルキル化活性剤、代謝拮抗活性剤、抗癌作用を有する抗生物質及びトポイソメラーゼ阻害活性剤並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項記載の抗腫瘍剤耐性克服剤。 抗腫瘍剤が、ドセタキセル、パクリタキセル、シスプラチン、プスルファン、メトトレキサート、フルオロウラシル、テガフール、プレオマイシン、アドリアマイシン、マイトマイシンC、ビノレルビン及びイリノテカン並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項記載の抗腫瘍剤耐性克服剤。 腫瘍が、肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、肝臓癌、膵臓癌、胆嚢・胆管癌、前立腺癌、膀胱癌、子宮頸癌、甲状腺癌、卵巣癌、白血病、リンパ腫、肉腫及び間葉系腫瘍からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜5のいずれか1項記載の抗腫瘍剤耐性克服剤。 ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスと、抗腫瘍作用を有する物質とを含む、抗腫瘍剤耐性を獲得した腫瘍の併用療法のための医薬組成物。 抗腫瘍作用を有する物質が、ドセタキセル、ビノレルビン、イリノテカン及びヒストンデアセチラーゼ阻害活性阻害剤並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項7項記載の医薬組成物。 ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを哺乳動物に投与することを特徴とする、抗腫瘍剤耐性を獲得した腫瘍細胞の増殖を抑制する方法。 ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスと、抗腫瘍作用を有する物質又はそれらの薬理学的に許容し得る塩とを併用して哺乳動物に投与することを特徴とする、抗腫瘍剤耐性を獲得した腫瘍細胞の増殖を抑制する方法。 ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを哺乳動物に投与することを特徴とする、抗腫瘍剤耐性を獲得した腫瘍の治療方法。 ヒトテロメラーゼのプロモーターがhTERTである、請求項9〜11のいずれか1項記載の方法。 ウイルスがアデノウイルスである、請求項9〜12のいずれか1項記載の方法。 抗腫瘍剤が、白金製剤、微小管阻害活性剤、アルキル化活性剤、代謝拮抗活性剤、抗癌作用を有する抗生物質及びトポイソメラーゼ阻害活性剤並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項請求項9〜13のいずれか1項記載の方法。 抗腫瘍剤が、ドセタキセル、パクリタキセル、シスプラチン、プスルファン、メトトレキサート、フルオロウラシル、テガフール、プレオマイシン、アドリアマイシン、マイトマイシンC、ビノレルビン及びイリノテカン並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項請求項9〜13のいずれか1項記載の方法。 腫瘍が、肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、肝臓癌、膵臓癌、胆嚢・胆管癌、前立腺癌、膀胱癌、子宮頸癌、甲状腺癌、卵巣癌、白血病、リンパ腫、肉腫、及び間葉系腫瘍からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項9〜15のいずれか1項記載の方法。 抗腫瘍作用を有する物質が、ドセタキセル、ビノレルビン、イリノテカン及びヒストンデアセチラーゼ阻害活性阻害剤並びにそれらの薬理学的に許容し得る塩からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項10記載の方法。 【課題】抗腫瘍剤耐性克服剤の提供。【解決手段】ヒトテロメラーゼのプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドが組み込まれた組換えウイルスを含む、抗腫瘍剤耐性克服剤。【選択図】図1配列表


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