タイトル: | 公開特許公報(A)_インスリン反応性糖輸送担体の膜移行活性が測定可能な培養筋細胞 |
出願番号: | 2005167884 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12N 5/10,C12Q 1/02,C12Q 1/68,G01N 33/53,C12N 15/09,C12R 1/91 |
神崎 展 根建 拓 JP 2006340637 公開特許公報(A) 20061221 2005167884 20050608 インスリン反応性糖輸送担体の膜移行活性が測定可能な培養筋細胞 国立大学法人東北大学 504157024 阿部 正博 100100181 神崎 展 根建 拓 C12N 5/10 20060101AFI20061124BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20061124BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20061124BHJP G01N 33/53 20060101ALI20061124BHJP C12N 15/09 20060101ALN20061124BHJP C12R 1/91 20060101ALN20061124BHJP JPC12N5/00 AC12Q1/02C12Q1/68 ZG01N33/53 YC12N15/00 AC12N5/00 AC12Q1/02C12R1:91C12Q1/68 ZC12R1:91C12R1:91 22 5 OL 13 4B024 4B063 4B065 4B024AA11 4B024BA80 4B024CA04 4B024DA02 4B024EA02 4B024GA11 4B024HA11 4B063QA01 4B063QQ08 4B063QQ13 4B063QQ79 4B063QR48 4B063QR77 4B063QR80 4B063QS03 4B063QS38 4B063QX02 4B065AA91X 4B065AB01 4B065BA02 4B065CA24 4B065CA46 本発明は、糖輸送担体の膜移行活性が測定可能な筋管細胞、及び、該筋管細胞を用いるインスリン等の外来刺激依存的な糖輸送担体膜移行活性の測定方法等に関する。筋肉の生命維持や運動に必要なエネルギーは、主にインスリンや運動など様々な外来刺激に応答して取り込まれた糖を細胞内で代謝することで産生される。このような糖の細胞内への輸送は、これまでに13種類ほど同定されている促通拡散型糖輸送担体(グルコーストランスポーター;GLUT)ファミリーを介して達成される。特にインスリンによって誘導される糖の取り込み亢進は生理的に重要であり、現在、爆発的に患者数が増加している2型糖尿病では、この生理現象に著しい障害が惹起されていることが知られている。すなわち、インスリン刺激に応答した筋肉への糖取り込みが著しく減弱しており(インスリン抵抗性=インスリン反応性の減弱)、これがその発症の引き金となっている場合が多い。また、食後に上昇する血糖の大部分(70-85%)は、インスリンの刺激により筋組織において取り込まれることからも、筋組織は生体全体の血糖のコントロールに非常に重要な役割を果たしている。 そのため、筋細胞でのインスリン依存的な糖取り込み活性を正確に測定することは、基礎研究の分野のみならず、インスリン感受性を増加させる薬剤の開発、さらにはインスリン感受性を低下させる原因の探索、糖尿病初期段階での診断など多岐にわたる産業への応用に必須となっている。インスリンに反応して糖の取り込みの亢進が促進される筋組織や脂肪組織では、インスリンの刺激に反応して活性化されるGLUT4が臓器特異的に発現している。GLUT4は、インスリンの刺激がない場合は細胞膜上にはほとんど露出しておらず、細胞内の小胞群に組み込まれた状態で存在している。一方、インスリンの刺激は、この細胞内小胞に存在するGLUT4蛋白の細胞膜上への運搬を促進することにより、細胞膜表面に露出するGLUT4蛋白の量を増加させることができる。すなわち、インスリンによる糖の取り込み亢進は、このインスリン依存的なGLUT4蛋白の細胞膜への移行(GLUT4の膜移行)によって達成されている。このインスリンに依存したGLUT4の膜移行は、他のGLUTファミリーにはないGLUT4蛋白に特有な特徴といえる。従来、筋肉でのインスリン依存的な糖取り込み活性の測定は、筋全体での糖取り込みがインスリンによってどのように変化するかを、ラジオアイソトープラベルされた2デオキシグルコース取り込み量などを指標に測定する方法が用いられている。ところが、この方法では、筋肉など基礎的なエネルギー消費が高い組織・臓器で散見される、基底状態の糖取り込み、すなわちインスリン非依存的な糖取り込み活性が高い場合、純粋にインスリンに反応した糖の取り込み亢進量だけを正確に測定しづらい、あるいは測定できない欠点がある(非特許文献1、2)。そこで、インスリン依存的な糖取り込み活性を、より正確に判定するためには、インスリン依存的なGLUT4の細胞膜への移行量を正確に測定することが最適の方法である。内在性GLUT4の細胞内局在変化をウエスタンブロット法などの技術を用いて追跡する方法もある。しかし、この方法は細胞抽出液をフラクション分画する高度で時間のかかる作業が必要であるという問題点がある。このように、GLUT4の膜移行量だけを正確に測定することは容易ではないため、優れた培養細胞系の存在する培養脂肪細胞株(3T3L1)では、遺伝子工学的に各種のタグを導入したGLUT4蛋白を外来性に発現させるなどして、GLUT4の膜移行量を測定する技術が開発されている(非特許文献3)。又、mycタグを有するGLUT4を発現する筋芽細胞C2C12を分化させた後に薬剤と処理してその糖取り込み促進活性を調べた研究もある(非特許文献4)。しかしながら、複数の筋芽細胞が融合することによって形成される分化型の筋管細胞では、以下のような理由から遺伝子導入が難しく、インスリンに反応したGLUT4の膜移行を正確に測定できる優れた培養筋細胞系は未だ存在しないのが現状である。理由として、(1)多数の筋芽細胞が融合して形成され高度に分化した筋管細胞は、培養皿から剥離したあと元通り接着させることが不可能であり、一旦分散させた培養脂肪細胞でよく用いられるエレクトロポレーション法による遺伝子導入ができない。(2)未分化筋芽細胞への遺伝子導入は種々の方法で可能であるが、外来性に遺伝子を導入した筋芽細胞は分化能力が低下していることが多く、十分に発達しインスリン反応性を所有する筋管細胞にまで分化しない場合がある。また、ある程度まで分化したとしてもその外来遺伝子の発現が抑制されてしまうことも多く、分化筋管細胞での発現は期待できない。分化筋管細胞へ高効率な遺伝子導入を行える公知技術として、アデノウイルスベクターを用いる方法もある。しかし、アデノウイルスベクターはヒトへも感染してしまうため、実験者の極めて熟練した技術とアデノウイルスベクターを用いるための研究施設が必須であり、簡便かつ安全に行うことが非常に困難である。また、アデノウイルスベクターの感染そのものが細胞の機能に悪影響を与える場合もおおく、インスリン反応性の正確な測定などには適さない場合がある。Biochem. Pharmacol.、2003年、第65巻, 249-257頁Am. J. Physiol. (Endoclinol Metab),2002年、第283巻、E514-524頁J. Biol. Chem.、 2001年、第276巻(45号),42436-42444頁European J. Pharmacol., 2000年、第410巻,1-5頁 本発明の目的は、インスリン等の外来刺激に依存的なGLUT4の膜移行活性測定に極めて適している培養筋細胞を提供し、更に、その細胞を用いるGLUT4の膜移行活性の測定方法を提供することである。 本発明者は鋭意研究の結果、遺伝子工学を用いて作製した細胞外部位に標識物質を有する組換え型GLUT4 (myc-GLUT4-ECFP:enhanced cyan fluorescent protein;図1)を恒常的に発現する組換え型筋芽細胞株を、野生型筋芽細胞株を適切な割合で混合培養することでmyc-GLUT4-ECFPを恒常的に発現し、なおかつ高いインスリン反応性を示す筋管細胞へと分化誘導させることに成功した。さらに、この培養筋管細胞を用いることにより、インスリン等の外来刺激に依存的なGLUT4の膜移行量の測定が可能となることを見出し、本発明を完成した。 即ち、本発明は以下の態様にかかる。1.野生型筋芽細胞と、細胞外部位に標識物質を有する組換え型GLUT4を構成的に発現する組換え型筋芽細胞を混合培養することによって得られる、該組換え型GLUT4を構成的に発現する分化型培養筋管細胞。2.外来刺激依存的な組換え型GLUT4の膜移行活性を有する上記1記載の分化型培養筋管細胞。3.組換え型GLUT4の細胞内部位に更に標識物質が結合している、上記1又は2記載の分化型培養筋管細胞。4.標識物質が抗原エピトープである、上記1〜3のいずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞。5.野生型筋芽細胞と、組換え型筋芽細胞との混合培養における細胞数の比が100:1〜1:100の割合である、上記1〜4のいずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞。6.更に、他のタンパク質を発現する外来性遺伝子が導入されている組換え型筋芽細胞を加えて混合培養することを特徴とする、上記1〜5のいずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞。7.筋芽細胞がマウス筋芽細胞株C2C12である、上記1〜6のいずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞。8.上記1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞を用いる組換え型GLUT4の膜移行活性の測定方法であって、該細胞を固定した後、該細胞膜上に存在する組換え型GLUT4の細胞外部位の標識物質の量を測定することから成る、前記方法。9.標識物質の量を該標識物質に対する抗体を用いた免疫染色法により測定することを特徴とする、請求8項に記載の測定方法。10.分化型培養筋管細胞をヒト以外の動物体内に移植し、生着した後に再び取り出した該細胞を使用することを特徴とする、上記8又は9記載の測定方法。11.上記1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞を用いる組換え型GLUT4の膜移行活性の測定方法であって、該細胞膜上に存在する組換え型GLUT4及び該細胞膜上に移行した後に再び細胞内に取り込まれた組換え型GLUT4の細胞外部位の標識物質の量を測定することから成る、前記方法。12.標識物質に対する抗体を含む培養液中で分化型培養筋管細胞を培養し、その後、該細胞抽出液中に含まれる標識物質の量を測定することを特徴とする、上記11記載の測定方法。13.標識物質の量を該標識物質に対する抗体との抗原抗体反応を利用して測定する、上記12記載の測定方法。14.該分化型培養筋管細胞をヒト以外の動物体内に移植し、生着した後に再び取り出した該細胞を使用することを特徴とする、上記11記載の測定方法。15.標識物質に対する抗体を動物血液中に注射し、生着した分化型培養筋管細胞の膜上に存在する組換え型GLUT4の細胞外部位にある標識物質と反応させる、請求14に記載の測定方法。16.上記8〜15の何れか一項に記載の膜移行活性の測定方法を用いる、外来刺激依存的な組換え型GLUT4の膜移行活性の測定方法。17.インスリン存在下での上記1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞を培養することによりインスリン刺激を与えた後、標識物質の量を測定することを特徴とする、上記16記載の測定方法。18.外来刺激が、上記1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞の培養中に電気パルスを1〜100V、0.01〜10Hz、0.01〜500msで0.5〜200時間かけることで与えられる電気刺激である、上記16記載の測定方法。19.動物にインスリンを投与することによって外来刺激を与える、上記16記載の測定方法。20.動物を強制的に運動させることによって外来刺激を与える、上記16記載の測定方法。21.上記8〜20の何れか一項に記載の膜移行活性の測定方法を利用した、筋肉を標的とする薬剤のスクリーニング方法。22.上記1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞をヒト以外の動物に動物体内に移植し、生着した後に、薬剤を付加された、標識物質に対する抗体を動物に投与することから成る、該細胞が生着した組織又は臓器に該薬剤を運搬する方法。本発明において、筋芽細胞が複数融合し、筋管細胞へと分化する筋細胞の特性を利用することにより、上記の組換え型筋芽細胞と野生型筋芽細胞を混合培養するという、従来のアデノウイルスを用いる方法と比較しても飛躍的に安全かつ容易な方法で、ほぼ100%の筋管細胞に組換え型GLUT4遺伝子が導入された、高いインスリン反応性(インスリン刺激に応じた糖取り込み活性)を有する分化型培養筋管細胞を調製することができる。また、混合培養の割合を変化させることによって、筋管細胞での組換えタンパク質の発現量を容易に変更することができる。さらに、他の外来遺伝子導入を行った筋芽細胞を第3、第4の筋芽細胞として混合培養、分化誘導することによって、複数種類の任意のタンパク質の共発現も容易に行える。 本発明によって得られる分化型培養筋管細胞を用いて、筋細胞におけるGLUT4の膜移行活性及びその細胞内への選択的取り込み活性の定量的解析が可能となり、これまで主に糖取り込み量の増減で評価されていた、糖の取り込み活性、特にインスリン等の外来刺激依存的な糖の取り込み活性(インスリン感受性)や運動刺激による血糖降下作用が、本発明によって正確且つ簡便に評価できるようになる。本発明の分化型培養筋管細胞は、細胞外部位に標識物質を有する組換え型GLUT4を構成的に発現するものであり、又、外来刺激依存的な組換え型GLUT4の膜移行活性を有する。本発明の分化型培養筋管細胞の作製において使用する「筋芽細胞」は当業者に公知の任意のものを使用することができる。由来する動物の種類又は組織等に特に制限はないが、ヒトを含む霊長類、マウス及びラット等の哺乳類細胞が好ましく、又、骨格筋、平滑筋及び心筋等に由来するもので良い。又、「筋芽細胞」として細胞株化された当業者に公知の任意の細胞を使用することも出来る。このような細胞株の例として、マウス筋芽細胞株C2C12(ATCC No.CRL1772)及びラット骨格筋由来の筋芽細胞株L6(ATCC No.CRL1458)及びラット心筋細胞H9C2(ATCC No.CRL1446)等を挙げることが出来る。細胞外部位に標識物質を有する組換え型GLUT4を構成的に発現する組換え型筋芽細胞は、例えば、作製例1に記載の方法に準じて調製することが出来る。ここで、標識物質としては、タンパク質の標識するための物質として当業者に公知の任意の物質、例えば、myc, flag, HAおよびxpress等の「抗原エピトープ(アミノ酸配列)」として知られている物質、及び、「enhanced cyan fluorescent protein」のような各種の蛍光タンパク質を含む。該標識物質をコードする塩基配列をGLUT4遺伝子の適当な部位に挿入して組換え遺伝子を作成する。このような部位としては、GLUT4が細胞膜上に移行した際に細胞外部に露出する部分、例えば、N末端からみて第一番目及び二番目の貫通部位の間の細胞外露出部位等に相当する塩基配列が好適である。こうして得られた組換え遺伝子を適当なベクターに連結して得られる発現ベクターで筋芽細胞を形質転換することによって、このような標識物質を有する組換え型GLUT4を構成的に発現する、組換え型筋芽細胞を作成することが出来る。尚、「構成的に発現する」とは、挿入遺伝子が「構成的プロモーター」の調節下にあり、特に細胞外からの刺激がない状態で、常に実質的に一定量の遺伝子産物が産生されることを意味する。尚、組換え型GLUT4には、細胞外部位に加えて、細胞内部位に更に標識物質が結合していても良い。こうすることによって、組換え型GLUT4の細胞内における発現効率(細胞毎に発現量及び発現している細胞数)を視覚的に簡便に確認することが出来る。更に、細胞外部位と細胞内部位に結合させた標識物質が異なる場合には、例えば、夫々の標識物質に対する異なる抗体を使用することによって、細胞膜上に存在する組換え型GLUT4と細胞内に存在する組換え型GLUT4の量を個別に測定することが可能となる。尚、標識物質が結合させるGLUT4の細胞内部位としては、例えば、C末端の細胞内部位を挙げることが出来る。従って、このような場合には、GLUT4遺伝子の3‘末端に該標識物質をコードする塩基配列を誘導させた組換え遺伝子を作成することにより、細胞内部位に標識物質を結合させることができる。野生型筋芽細胞と、細胞外部位に標識物質を有する組換え型GLUT4の他に、更に、他のタンパク質を発現する外来性遺伝子が導入されている組換え型筋芽細胞を加えて混合培養することも可能である。その結果、複数種類の任意のタンパク質が共発現される分化型培養筋管細胞を容易に作成することが出来る。 混合培養に使用される培地は細胞の種類等に応じて、公知の任意の種類から当業者が適宜選択することが出来る。例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)及び最小必須培地(MEM培地)等を挙げることが出来る。更にこれらの培地には、細胞の分化誘導を阻害しない範囲で、細胞の増殖を促進する等の目的で、各種因子、例えば、ウシ胎児血清(FBS)、アルブミン、トランスフェリン、ホルモン、細胞成長因子、ビタミン等を適宜含有させることが出来る。通常、播種細胞数1〜5x105個(総数)/ウェル程度、湿度100%、培養温度37℃、培地のpH7.2〜7.4程度で混合培養を実施するが、その他の培養条件は通常の範囲で当業者が適宜決めることが出来る。野生型筋芽細胞と組換え型筋芽細胞との混合培養における細胞数の比は、筋芽細胞の種類、最終的に得られる分化型培養筋管細胞での組換えタンパク質の発現量等の諸条件に応じて、適宜選択することができるが、通常、100:1〜1:100の割合である。混合培養は、まず、通常、1〜4日間程度、好ましくは、筋芽細胞が増殖してコンフルエント(培養容器表面全体に密になった状態)になるまで細胞を増殖させる。例えば、筋芽細胞株を1〜4日程度、10〜20%ウシ胎児血清添加DMEM培地にて密になるまで培養する。次に、筋芽細胞を分化誘導させるが、これは、筋芽細胞株を1〜20日程度、1〜5%牛血清DMEM培地を用いた従来の方法に即した条件で行なうことができる。分化誘導効果を促進するために、使用する培地として高アミノ酸培地を用いたり、培養環境を高酸素分圧状態としたり、さらに10〜50V、0.1〜10Hz、0.1〜24msパルス幅にて0.5〜200時間の条件で電気パルス刺激を行うこともできる。又、筋管形成を促進させるための栄養源の補給及び老廃物の除去を目的とした培地交換は適当な間隔(例えば、12〜24時間おき)に実施することが好ましい。また、筋細胞の分化およびインスリン反応性に大きく影響を与える各種物質、例えば、アスコルビン酸、レチノイン酸、K252a(チロシンキナーゼの活性を修飾する薬剤)、PPAR(peroxisome proliferater-activated receptors)群のアゴニスト・アンタゴニスト等も添加することが出来る。本発明の測定方法は、上記の分化型培養筋管細胞を用いて、組換え型GLUT4の膜移行活性を測定するものである。具体的には、例えば、該細胞を固定した後、細胞膜上に存在する組換え型GLUT4の細胞外部位の標識物質の量、即ち、組換え型GLUT4の細胞膜への移行量、を測定することから成る。この場合には、ある時点で細胞膜上に存在する組換え型GLUT4の量を測定することになる。この方法では、例えば、当業者に公知の方法により、該標識物質に対する抗体を用いた免疫染色法により標識物質の量を測定することが出来る。より具体的には、ローダミンなどの蛍光色素を結合させた二次抗体を反応させて、その蛍光量を共焦点顕微鏡など使用して測定する。更に、分化型培養筋管細胞として、ヒト以外の動物(例えば、マウス及びラット等の齧歯類)体内に移植し、生着し一定期間経過した後に、再び取り出した該細胞を固定して以後の測定に使用することによって、生体内環境下での膜移行活性を測定することも可能となる。外来の刺激などによって細胞膜上に移行したGLUT4は、その後、エンドサイトーシスによって細胞内に再び移動することが知られている。従って、組換え型GLUT4の膜移行活性を測定するための別の方法として、細胞膜上に存在する組換え型GLUT4、及び細胞膜上に移行した後に再び細胞内に取り込まれた組換え型GLUT4の細胞外部位の標識物質の量を測定することもできる。この場合には、ある一定期間中に細胞膜上に移行した組換え型GLUT4の総量を測定することが可能となる。この方法、例えば、当業者に公知の方法により、標識物質に対する抗体を適当量、例えば、0.01〜500μg/ml含む培養液中で分化型培養筋管細胞を培養し、その後、該細胞抽出液中に含まれる標識物質の量を抗体との抗原抗体反応を利用して測定することが出来る。標識物質の量は、例えば、標識物質が放射性物質である場合には、液体シンチレーションカウンター又はSDS−PAGEを用いて直接測定することができ、又、細胞免疫染色法、ELISA (Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、免疫沈降法、及びウェスタンブロット法等の当業者に公知の任意の方法で測定することが出来る。この方法においても、分化型培養筋管細胞を上記の動物体内に移植し、生着し一定期間経過した後に、再び取り出した該細胞を使用することが可能である。例えば、生着した後に、標識物質に対する抗体を動物血液中に注射し、生着した分化型培養筋管細胞の膜上に存在する組換え型GLUT4の細胞外部位にある標識物質と反応させることが出来る。以上の膜移行活性の測定方法を利用し、外来刺激に依存的な組換え型GLUT4の膜移行活性を測定することが出来る。即ち、当業者に公知の適当な方法・手段によって、インビトロ又はインビボで分化型培養筋管細胞に外的刺激を与え、その後、上記測定方法によって、標識物質の量、即ち、組換え型GLUT4の膜移行活性の測定する。外来刺激としては、例えば、インスリン等の化学物質、電気刺激、運動、活性酸素、低酸素刺激等を挙げることが出来る。従って、外来刺激に依存的な組換え型GLUT4の膜移行活性を測定に際しては、例えば、インスリン存在下での本発明の分化型培養筋管細胞を培養することによりインスリン刺激を与えたり、該細胞の培養中に、例えば、1〜100V、0.01〜10Hz、0.01〜500msの電気パルスを0.5〜200時間かける等の手段によって適当な電気刺激を与えたり、又は、動物にインスリンを投与することによってインスリン刺激を与える。本発明の分化型培養筋管細胞を用いる上記の各測定方法によって、組換え型GLUT4の膜移行活性、即ち、糖の取り込み活性を測定することが可能となる。又、各種の外来刺激に依存的な組換え型GLUT4の膜移行活性及び糖の取り込み活性を測定することが出来る。従って、本発明の膜移行活性の測定方法を利用した、筋肉を標的とする薬剤(糖尿病治療薬、インスリン抵抗性改善薬、糖の取り込み亢進薬、代謝能改善薬、分化誘導促進薬、収縮増強薬など)のスクリーニングを非常に簡便、容易(ハイスループット)かつ正確に実施することが可能となる。このようなスクリーニングは当業者に公知の任意の方法で実施することが出来る。例えば、試験対象となる薬剤などの化学物質の存在下又は非存在下で、且つ、外来刺激の存在下又は非存在下で、本発明の測定を行い、その結果得られる組換え型GLUT4膜移行活性を比較すること等により行うことが可能である。 更に、GLUT4を発現する筋芽細胞と野生型筋芽細胞との混合比率や培養条件を適切に調節することにより、培養筋細胞のGLUT4発現量や発現している筋管細胞の割合をコントロールできる。そのため、該スクリーニングによって開発された薬剤の作用・効果が、GLUT4の発現量によってどのように変化するかを追跡することも可能となる。このことは、健常者・代謝病患者のGLUT4発現量の個人差を考えると極めて重要である。以下、実施例に則して本発明を更に説明するが、これはあくまで本発明の一例であり、本発明の技術的範囲はこれらによって限定されるものではなく、本明細書の記載に基づき、当業者が容易に想到し得る任意の変型・修飾法も本発明の範囲である。尚、方法又は手段に関して特に記載のない場合には、当業者に公知の周知方法で実施した。作製例1:mycタグを付加したGLUT4-ECFP組換えタンパク質(myc-GLUT4-ECFP)を以下の様に調製した。まず、J. Biol. Chem.、2004年、第279巻,30622-30633頁に記載されたpcDNA3-myc-GLUT4-EGFPプラスミドのmyc-GLUT4インサート部分を利用してpECFP-myc-GLUT4を作製後、Nucleic Acids Res.、1990年、第18巻,3587-3496頁に記載されたpBABE(ピューロマイシン抵抗性レトロウイルス作製ベクター)に導入してpBABE-myc-GLUT4-ECFPを構築した。構築したプラスミドは、レトロウイルスパッケージング細胞であるPlat E細胞にトランスフェクションしてレトロウイルスを産生させた。作製したレトロウイルスを回収・精製した後、野生型C2C12筋芽細胞へインフェクションした。その後、2 μg/mlのピューロマイシン存在下で継続培養を行い、単一の細胞から増殖したピューロマイシン抵抗性C2C12変異クローンを20個以上単離した。これらのクローンについて、myc-GLUT4-ECFP融合タンパク質を適量発現し、かつ該目的に最も適したクローンを、各種の細胞生物学的および生化学的手法を用いて選別し、以下の作製例に用いた。野生型マウス筋芽細胞株C2C12細胞(1)と上記で得られたmycタグを付加したGLUT4-ECFP組換えタンパク質(myc-GLUT4-ECFP)を発現するC2C12筋芽細胞(2)をそれぞれ2x 104個/ウェル(カバーグラスを底面に設置した6ウェルプレート)となるように混合播種した。その後、筋芽細胞がコンフルエントとなるまで3日間ダルベッコ改変イーグル培地+10%牛胎児血清を用いて培養した。その後、ダルベッコ改変イーグル培地+2%牛血清に置換して8日間培養を行い、筋管細胞へと分化誘導させた。また、栄養源の供給ならびに老廃物の除去を目的に培地交換は分化誘導後、24時間おきに行った。(2)の筋芽細胞単独では、野生型筋芽細胞を分化誘導した際に見られる筋管形成(図3A)はほとんど観察されないが(図3B)、混合培養することによって筋管形成が誘導されていることが判った(図3C)。測定例1: 作製例1に従って作製した、myc-GLUT4-ECFPを発現するC2C12筋管細胞(分化型培養筋管細胞)を終濃度100nMのインスリンで60分間刺激した。PBS(−)で3回洗浄したあと、2%パラホルムアルデヒドを添加したPBS(−)で15分間振とうすることで細胞固定を行った。PBS(−)で3回x10分間洗浄後、5%牛血清を添加したPBS(−)で1時間振とうしてブロッキングを行った。次に、一次抗体として抗mycモノクローナル抗体を1%牛血清アルブミンを添加したPBS(−)で200倍希釈したものを用いて1時間振とうした。PBS(−)で5回x10分間洗浄後、二次抗体としてローダミンを結合した抗マウスIgG抗体(Jackson Laboratory社)を1%牛血清アルブミンを添加したPBS(−)で2000倍希釈したものを用いて1時間振とうした。その後、カバーグラスを取り出し、Vecta Shieldを滴下したスライドグラス上にのせ、共焦点顕微鏡下でローダミン、ECFPの発現を観察した。その結果、図4に示したように、インスリンで処理しない筋管細胞はECFPの発現は観察されるものの(図4A)膜上のmycは検出されない(図4C)が、インスリンで処理した筋管細胞は、ECFPの発現(図4B)とともに膜上のmycが検出される(図4D)、すなわちGLUT4が膜上に移動していることが判った。尚、両染色を同時に観察した際の蛍光を (図4E, F)に示した。測定例2: 作製例1に従って作製した、組換えGLUT4を発現するC2C12筋管細胞を終濃度100nMのインスリンで60分間刺激した。インスリン刺激開始30分後より終濃度4μg/mlの抗mycモノクローナル抗体を培地中に添加した。インスリン刺激終了後、PBS(−)で5回洗浄して、細胞膜上に存在する抗myc抗体を除去した後、Laemmli`s bufferを用いて細胞抽出液を調製した。細胞抽出液は、12.5%SDS−PAGEに供し、ホースラディッシュパーオキシダーゼを結合した抗マウスIgG抗体を用いたウエスタンブロット解析を行った。なお、検出はウエストスーパーフェムトディテクションキット(PIERCE社)を用いて行った。その結果、インスリン刺激によって細胞内に取り込まれた抗myc抗体の量が著しく増加していることが判った(図5A)。更に、この効果は、インスリン信号を阻害するWortmanninによって阻害されていることも判った(図5B)。このようなウエスタンブロット解析の結果は、公知であるNIH imageなどのコンピュータソフトウェアを使って容易に定量化することが可能であり、本実施例の場合、インスリンによってGLUT4の活性が約3倍に上昇していることが判った(図5C)。本発明を用いれば、GLUT4と複合体を形成するタンパク質(IRAPなど)の動態を、例えばプロテオミクス技術を用いて解析することも可能となり、GLUT4やGLUT4複合体の安定性の測定をも容易に可能とする。これらの応用も全て筋肉を標的とした新しい様々な薬剤のスクリーニングにおいて、基礎的な情報を提供するものである。又、本発明の分化型培養筋管細胞のインスリン刺激や電気パルスによる収縮活動は人為的にコントロールすることができるため、例えば、生体における運動(筋肉の収縮伸展活動)刺激がいかにしてインスリン抵抗性を改善しているのかなど、培養細胞の利点を生かした研究(例えば、分子生物学、細胞生物学、生化学、遺伝子工学的手法を用いた研究)が可能になる。更に、本発明の分化型培養筋管細胞はマウスなど齧歯類に生着させることもできる。そこで、どのような薬剤投与、栄養投与や運動刺激などが、インスリン依存的・非依存的なGLUT4膜移行活性を制御しているかを動物の筋肉の部位別に解析することも可能となり、これらの基礎知見は、ヒトへの応用を考える上で極めて重要な情報を提供する。本発明によるGLUT4を恒常的に発現する筋管細胞作製に用いた、細胞外第2ループ部位にMycエピトープを持ち、細胞内C末端部位にECFPを持つGLUT4の構造である。このGLUT4は、野生型GLUT4とまったく同一の機能を果たすことがわかっている。本発明の一具体例の簡単な説明である。まず、myc-GLUT4-ECFPを恒常的に発現する筋芽細胞 (A)と若い継代数で高いインスリン反応性を示す野生型筋芽細胞 (B)を混合培養し、分化誘導を行うことにより、myc-GLUT4-ECFPを恒常的に発現する筋管細胞(C)を作製する。この細胞では、インスリン刺激にともない、myc-GLUT4-ECFPが細胞膜上に移行する (D)。この刺激によって、細胞膜に露出したmyc-GLUT4-ECFPだけを抗c-myc抗体によって選択的に標識することができる(E)。このようにして標識されたmyc-GLUT4-ECFPは、蛍光などで標識した2次抗体により、顕微鏡下で検出・定量が可能である。また、細胞に結合あるいは取り込まれた抗Myc抗体量をイムノブロット法などで測定することもできる。野生型筋芽細胞とMyc-GLUT4-ECFPを恒常的に発現する筋芽細胞とをそれぞれ単独 (A, B)あるいは混合して(C) 10%牛胎児血清を添加したDMEMでコンフルエントとなるまで培養し、その後2%牛血清を添加したDMEMを用いて6日間分化誘導した際の筋管細胞の形成の結果を示す写真(倍率:x20)である。Myc-GLUT4-ECFPを恒常的に発現する筋芽細胞と野生型筋芽細胞を混合培養した筋管細胞におけるGLUT4の発現とインスリン刺激による膜移行を示す、共焦点顕微鏡下でローダミン、ECFPの蛍光を観察した写真(倍率:x60)である。ウエスタンブロット解析による本発明の筋管細胞を用いたインスリン刺激によるGLUT4活性の測定の結果を示す電気泳動の写真(図5A,B)である。又、インスリンに応答してGLUT4の活性が約3倍に上昇すること示すグラフ(C)である。野生型筋芽細胞と、細胞外部位に標識物質を有する組換え型GLUT4を構成的に発現する組換え型筋芽細胞を混合培養することによって得られる、該組換え型GLUT4を構成的に発現する分化型培養筋管細胞。外来刺激依存的な組換え型GLUT4の膜移行活性を有する請求項1記載の分化型培養筋管細胞。組換え型GLUT4の細胞内部位に更に標識物質が結合している、請求項1又は2記載の分化型培養筋管細胞。標識物質が抗原エピトープである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞。野生型筋芽細胞と、組換え型筋芽細胞との混合培養における細胞数の比が100:1〜1:100の割合である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞。更に、他のタンパク質を発現する外来性遺伝子が導入されている組換え型筋芽細胞を加えて混合培養することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞。筋芽細胞がマウス筋芽細胞株C2C12である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞。請求項1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞を用いる組換え型GLUT4の膜移行活性の測定方法であって、該細胞を固定した後、該細胞膜上に存在する組換え型GLUT4の細胞外部位の標識物質の量を測定することから成る、前記方法。標識物質の量を該標識物質に対する抗体を用いた免疫染色法により測定することを特徴とする、請求8項に記載の測定方法。分化型培養筋管細胞をヒト以外の動物体内に移植し、生着した後に再び取り出した該細胞を使用することを特徴とする、請求項8又は9記載の測定方法。請求項1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞を用いる組換え型GLUT4の膜移行活性の測定方法であって、該細胞膜上に存在する組換え型GLUT4及び該細胞膜上に移行した後に再び細胞内に取り込まれた組換え型GLUT4の細胞外部位の標識物質の量を測定することから成る、前記方法。標識物質に対する抗体を含む培養液中で分化型培養筋管細胞を培養し、その後、該細胞抽出液中に含まれる標識物質の量を測定することを特徴とする、請求項11記載の測定方法。標識物質の量を該標識物質に対する抗体との抗原抗体反応を利用して測定する、請求項12記載の測定方法。該分化型培養筋管細胞をヒト以外の動物体内に移植し、生着した後に再び取り出した該細胞を使用することを特徴とする、請求項11記載の測定方法。標識物質に対する抗体を動物血液中に注射し、生着した分化型培養筋管細胞の膜上に存在する組換え型GLUT4の細胞外部位にある標識物質と反応させる、請求14に記載の測定方法。請求項8〜15の何れか一項に記載の膜移行活性の測定方法を用いる、外来刺激依存的な組換え型GLUT4の膜移行活性の測定方法。インスリン存在下での請求項1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞を培養することによりインスリン刺激を与えた後、標識物質の量を測定することを特徴とする、請求項16記載の測定方法。外来刺激が、請求項1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞の培養中に電気パルスを1〜100V、0.01〜10Hz、0.01〜500msで0.5〜200時間かけることで与えられる電気刺激である、請求項16記載の測定方法。動物にインスリンを投与することによって外来刺激を与える、請求項16記載の測定方法。動物を強制的に運動させることによって外来刺激を与える、請求項16記載の測定方法。請求項8〜20の何れか一項に記載の膜移行活性の測定方法を利用した、筋肉を標的とする薬剤のスクリーニング方法。請求項1〜7いずれか一項に記載の分化型培養筋管細胞をヒト以外の動物に動物体内に移植し、生着した後に、薬剤を付加された、標識物質に対する抗体を動物に投与することから成る、該細胞が生着した組織又は臓器に該薬剤を運搬する方法。 【課題】 インスリン等の外来刺激に依存的なGLUT4の膜移行活性測定に極めて適している培養筋細胞を提供し、更に、その細胞を用いるGLUT4の膜移行活性の測定方法を提供すること。【解決手段】 野生型筋芽細胞と、細胞外部位に標識物質を有する組換え型GLUT4を構成的に発現する組換え型筋芽細胞を混合培養することによって得られる、該組換え型GLUT4を構成的に発現する分化型培養筋管細胞、及び、該細胞用いる組換え型GLUT4の膜移行活性の測定方法、特に外来刺激依存的な糖取り込み活性の測定方法。 【選択図】 図5