タイトル: | 特許公報(B2)_抽出試薬を担持した吸着材料およびその製造方法 |
出願番号: | 2005123948 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | G01N 30/88,B01J 20/26 |
斎藤 恭一 浅井 志保 須郷 高信 JP 4660793 特許公報(B2) 20110114 2005123948 20050421 抽出試薬を担持した吸着材料およびその製造方法 国立大学法人 千葉大学 304021831 株式会社 環境浄化研究所 502017364 林 佳輔 100121267 高橋 雄一郎 230106714 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 505374783 林 佳輔 100121267 斎藤 恭一 浅井 志保 須郷 高信 JP 2004125917 20040421 20110330 G01N 30/88 20060101AFI20110310BHJP B01J 20/26 20060101ALI20110310BHJP JPG01N30/88 101PG01N30/88 201GB01J20/26 E G01N 30/88 B01J 20/26 B01J 20/281 JSTPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特開昭58−037006(JP,A) 特開平02−119937(JP,A) 特開平04−035743(JP,A) A.Ghods, M.Hussain, and A.Mirna,Rapid Determination of 90Sr in Foodstuffs and Environmental Material,Radiochimica Acta,1994年,Vol.65, No.4,P.271-274 U.Niese, and S.Niese,Application of Neutron Activation Analysis in Chemical Yield Determination for 89Sr and 90Sr Separation of Environmental Samples,Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry Articles,1988年 6月,Vol.122, No.2,P.347-354 渡辺 泰,角井 昭充,和唐 直樹,高分子量第四アンモニウム塩による酒石酸水溶液からのルテニウム(III)およびロジウム(III)の抽出,資源と素材,2000年 9月25日,Vol.116,No.9,P.784-788 Taichi Sato, Keiichi Sato, and Yoshitomo Noguchi,Liquid-Liquid Extraction of Mercury(II) from Hydrochloric and Nitric Acid Solutions by Trioctyl Phosphine Oxide,資源と素材,2001年11月25日,Vol.117, No.11,P.880-884 井手 俊輔,原口 俊秀,畑中 千秋,山田 憲二,磯村 計明,竹原 健司,幡手 泰雄,CYANEX272担持粒子の金属イオン吸着,分離への応用(第1報)−遷移金属イオンの吸着,分離,北九州工業高等専門学校研究報告,1997年 1月30日,No.30,P.127-130 芝田 隼次,金属イオンの新分離技術の開発,第5回 関西大学先端科学技術シンポジウム講演集,2001年 3月 7日,P.106-109 14 2005331510 20051202 22 20070326 河野 隆一朗本発明は,金属イオンを分離精製するために抽出試薬を担持した吸着材料,ならびにその製造方法に関するものである。環境試料や放射性廃棄物中に含まれる核分裂生成物,放射化生成物,およびアクチノイド元素の定量のためには,測定の前処理として,金属イオンの分離精製をおこなう必要がある。これまで,抽出試薬を用いる溶媒抽出法(例えば,非特許文献1参照)やイオン交換樹脂(例えば,非特許文献2参照)を用いるイオン交換法による分離精製がおこなわれてきた。しかしながら,溶媒抽出法では有害な有機廃液が多量に発生する,イオン交換法では特定の金属イオンに対する吸着選択性が低いという問題点がある。赤岩英夫「抽出分離分析法」(第4版),講談社,1976年三菱化学株式会社イオン交換樹脂部「イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル 応用編」(第8版),三菱化学株式会社,1995年抽出試薬を固体,主に高分子基材に担持した抽出クロマトグラフィーレジンと呼ばれる固相抽出材料が開発され,それを用いた金属イオンの分離精製法が溶媒抽出法やイオン交換法の代替方法として注目されている。抽出クロマトグラフィーレジンの形状はビーズであり,金属イオンを分離精製するときにはビーズをカラムに充填する。抽出試薬の例として,オクチル(フェニル)-N,N-ジイソブチルカルバモイルメチルホスフィンオキシド,ジアミルアミルホスフェイト,トリ-n-ブチルホスフェイト,ジメチルグリオキシム,ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェイト,ビス(2, 4, 4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸,トリ−n―オクチルホスフィンオキシドが挙げられる。抽出クロマトグラフィーレジンの高分子基材が架橋構造をもつことから抽出試薬の担持量が少ない,あるいは担持した抽出試薬の一部しか金属イオンの吸着に寄与しないという欠点がある。さらに,レジン内部への金属イオンの拡散物質移動に時間がかかるという問題点がある。上記の従来技術に鑑み,本発明は,多孔性中空糸膜,多孔性フィルム,繊維,不織布等の基材表面にグラフト(接ぎ木)高分子鎖を高密度に付与し,そこへ抽出試薬を担持することによって,金属イオンの分離精製を高容量かつ高速でおこなえる吸着材料を提供することを目的にする。グラフト高分子鎖に抽出試薬を担持することによって金属イオンの分離精製性能の向上を図った例は知られていない。本発明者らは,基材に付与したグラフト高分子鎖にプラスあるいはマイナスに解離しうる官能基を導入すると,グラフト高分子鎖が電荷の反発によって伸長することを報告した。また,その伸長によってグラフト高分子鎖間に生じた空間に,グラフト高分子鎖の電荷とは反対符号の電荷をもつタンパク質が多層で,例えば40層にも,積み重なって吸着することを見出した。言い換えると,基材に付与したグラフト高分子鎖が分子やイオンを担持するのに有用な構造を与えるという知見を得た。そこで,抽出試薬の担持にこの構造を適用することを思いついた。本発明者らは鋭意研究を重ねた結果,基材に付与したグラフト高分子鎖に抽出試薬担持機能を有する官能基を導入し,そこへ抽出試薬を担持することにより,金属イオンを効率よく分離精製することが可能であることを見出し,本発明を完成させた。本発明による抽出試薬を担持した吸着材料は,グラフト高分子鎖が非架橋高分子構造であるため金属イオンを吸着する抽出試薬を高密度に担持することができる,および金属イオンの拡散物質移動抵抗を最小化できるという特徴を有する。すなわち,本発明は,基材に付与したグラフト高分子鎖に抽出試薬担持機能をもつ官能基を導入した材料であって,前記グラフト高分子鎖が重合性単量体をグラフト重合することにより形成された,抽出試薬を担持した吸着材料に関する。本明細書中で使用する「抽出試薬担持機能を有する官能基」とは,それ自身で抽出試薬を担持する機能を有する官能基と,適当な試薬との反応によってこうした官能基に変換しうる官能基をいう。本発明において利用できる抽出試薬担持機能を有する官能基としては,疎水性基,カチオン交換基,アニオン交換基,又はそれらを組み合わせた官能基を用いることができる。カチオン交換基として,例えば,スルホン基,リン酸基,カルボキシル基が挙げられる。一方,アニオン交換基として,例えば,1級アミノ基,2級アミノ基,3級アミノ基,4級アミノ基,4級アンモニウム塩基が挙げられる。抽出試薬のなかでも,その一部に疎水性基を含む抽出試薬を担持するには,グラフト高分子鎖が,アルキル基,アルキルアミノ基,エポキシ基,フェニル基,又はそれらを組み合わせた官能基を有することが有効である。アルキルアミノ基の例として,オクタデシルアミノ基,ドデシルアミノ基,オクチルアミノ基,ブチルアミノ基,オクタデカンチオール基が挙げられる。抽出試薬担持機能を有する官能基に変換しうる官能基には,例えば,エポキシ基がある。エポキシ基は反応性が高いことから,適当な試薬との反応により抽出試薬担持機能を有する官能基に変換することができる。例えば,エポキシ基と,オクタデシルアミン,ドデシルアミン等の1種又はそれ以上とを反応させることにより,エポキシ基に抽出試薬担持機能を有する官能基をグラフト高分子鎖に導入することができる。本発明で用いる重合性単量体として,例えば,エポキシ基を有する重合性単量体を基材に重合することができる。エポキシ基を有する重合性単量体として特に有用なものには,グリシジルメタクリレートやグリシジルアクリレートがある。また,担持する抽出試薬の種類に応じて,さまざまな重合性単量体を用いることができる。親水性基を有する重合性単量体として,例えば,2-ヒドロキシエチルメタクリレート,ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミド,エチレングリコールジメタクリレートがある。一方,疎水性基を有する重合性単量体として,例えば,アルキルメタクリレート,アルキルアクリレートがある。これらの重合性単量体は任意の割合で基材に共重合させることができる。本発明は,多種の重合性単量体を任意に組み合わせることが可能なグラフト重合を採用し,それにより機能を複合化できる点が特徴である。本発明の抽出試薬を担持した吸着材料の基材には特に制限はなく,重合性単量体が結合し得るものであればいかなる材料をも使用することができる。本発明においては,例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン,ポリテトラフルオロエチレン,又はこれらの組み合わせ(混合体や共重合体)を使用することができる。また,その形態についても特に制限はなく,例えば,既存の繊維,布帛,不織布,多孔性フィルム,多孔性中空糸膜,多孔性ロッド,又は多孔性フィルターを使用することができる。重合性単量体のグラフト重合法としては,例えば,反応開始剤重合法又は電離放射線重合法を用いることができる。いずれの場合であっても,反応条件を適宜制御することによって,目的の重合度を得ることができる。電離放射線を用いる場合には,紫外線,電子線,X線,α線,β線又はγ線等を使用することができる。抽出試薬とその担持機能を有する官能基の組み合わせとして,ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェイトとオクタデシルアミノ基との組み合わせ,ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェイトとドデシルアミノ基との組み合わせ,ビス(2, 4, 4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸とオクタデシルアミノ基の組み合わせ,ビス(2, 4, 4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸とドデシルアミノ基の組み合わせ,トリオクチルメチルアンモニウムクロライドと6-アミノヘキサン酸基の組み合わせ,トリオクチルメチルアンモニウムクロライドとオクタデシルアミノ基及び6-アミノヘキサン酸基の組み合わせ,トリ−n―オクチルホスフィンオキシドとオクタデカンチオール基との組み合わせ等が挙げられる。また,官能基としては,他にも,1分子のなかにアミノ基とカルボキシル基を併せ持つ物質,例えば,各種アミノ酸や6-アミノヘキサン酸等も挙げられる。また,本発明は,抽出試薬を担持した吸着材料の製造方法であって,抽出試薬担持機能を有する官能基を含む重合性単量体を基材表面にグラフト重合することを特徴とする。これまで説明した抽出試薬を担持した吸着材料から構成される機能性材料が提供される。こうした機能性材料は,使用の目的や用途に応じて,その形態を適宜変更することができる。その例として,分析用キット又は分析用カートリッジが挙げられる。本発明が提示する方法で抽出試薬を担持すると,抽出試薬が有効に,最大で100%,金属イオンの捕集に利用できる。基材に付与したグラフト高分子鎖に抽出試薬を担持するという本発明による作製法の長所が実証された。従来の材料ではこのように高い値は報告されていない。本発明の抽出試薬を担持した吸着材料は抽出試薬の利用効率が高い材料として有望である。さらに,本発明の抽出試薬を担持した吸着材料は,既存の多孔性中空糸膜や繊維を基材に,化学的・物理的に安定なグラフト高分子鎖を付与し,そこへ抽出試薬を担持することによって製造することができることから,材料として取扱い性に優れている。既存の材料を利用した抽出試薬を担持した吸着材料として用途の拡大が期待される。本発明に係わる抽出試薬を担持した吸着材料の実施例を,図面を参照しながら詳細に説明する。なお,本実施形態は本発明のいくつかの例を示したものであって,本発明は本実施例に限定されるものではない。以下の実施例においては,重合性単量体,基材等については,上述の種々のものを用いることができる。多孔性中空糸膜を基材にした抽出試薬を担持した吸着材料の作製経路を図1に示した。また,抽出試薬を担持した吸着材料への金属イオンの吸着の仕組みを図2に示した。ここでは,抽出試薬としてビス(2-エチルヘキシル)ホスフェイト,金属イオンとしてイットリウムイオンの組み合わせを選んだ。ポリエチレン製多孔性中空糸膜(内径2mm,外径3mm,平均孔径0.4μm,空孔率70%)を基材膜に用いて,電子線を常温,窒素雰囲気下で200 kGy照射した。照射基材をグリシジルメタクリレートの10体積%メタノール溶液に40℃で15分間浸漬することによって,グリシジルメタクリレートをグラフト重合させた。このとき重量増加率で定義されるグラフト率は200%であった。得られた膜をGMAグラフト重合膜と呼ぶ。その後,GMAグラフト重合膜を,オクタデシルアミン(C18H37NH2)に80℃で所定時間,浸漬した。この反応によってグラフト高分子鎖中のエポキシ基の一部をオクタデシルアミノ(C18H37NH)基へ転化した。グラフト高分子鎖中のエポキシ基からオクタデシルアミノ基への転化率およびオクタデシルアミノ基密度を,反応に伴う膜の重量増加量から次式(1)及び(2)に従い算出した。得られた膜をオクタデシルアミノ膜と呼ぶ。 転化率 (%) = 100 [(W2 - W1)/270]/[(W1-W0)/142] (1) オクタデシルアミノ基密度 (mol/kg) = 1000 (W2 - W1)/270/W1 (2)ここで,W0,W1,およびW2は,それぞれ基材膜,GMAグラフト重合膜,およびオクタデシルアミノ膜の重量である。ここで,142および270はそれぞれグリシジルメタクリレートおよびオクタデシルアミンの分子量である。反応時間と転化率およびオクタデシルアミノ基密度との関係を図3に示す。反応時間の増加とともに転化率は増加し,3時間で一定値64%に達した。このときオクタデシルアミノ基密度は3.0 mol/kgと算出された。抽出試薬にはビス(2-エチルヘキシル)ホスフェイト(以後,HDEHPと呼ぶ)を用いた。オクタデシルアミノ膜への抽出試薬の担持は,さまざまなオクタデシルアミノ基密度を有するオクタデシルアミノ膜を,HDEHPの5体積%エタノール溶液中に,室温で2時間浸漬することによりおこなった。浸漬後60℃で2時間乾燥した。抽出試薬担持量を次式(3)に従い算出した。得られた膜を抽出試薬担持膜とよぶ。 抽出試薬担持量 [mol/kg] = 1000 (W3 - W2)/322/W1 (3)ここで,W3は抽出試薬担持膜の重量である。また,322はHDEHPの分子量である。さまざまなオクタデシルアミノ基密度を有するオクタデシルアミノ膜へのHDEHPの担持量を図4に示した。抽出試薬担持量は,オクタデシルアミノ基密度の増加に伴って増加し,オクタデシルアミノ基密度が2.8 mol/kgのときに2.1 mol/kgに達した。これは,オクタデシルアミノ基密度が増大すると,アミノ基同士の荷電反発によってグラフト高分子鎖が伸長したためである。GMAグラフト重合膜,オクタデシルアミノ膜,および抽出試薬担持膜の膜厚方向断面の走査電子顕微鏡写真を図5に示した。オクタデシルアミノ基の導入およびHDEHPの担持後も,膜の多孔構造が維持されていることが観察された。多孔構造をもつ材料に抽出試薬を担持した場合には,金属イオンを含む溶液を材料中に透過させることが金属イオンの吸着速度を高めるために有効である。そこで,図6に示したように,シリンジポンプに,抽出試薬担持膜を取り付けて,膜の内面から外面に金属イオンを含む溶液を透過させた。ここでは,抽出試薬HDEHPによって選択的に吸着される金属イオンとしてイットリムイオンを選び,本発明によって作製された抽出試薬を担持した吸着材料が金属イオンを効率よく捕捉することを実証した。0.01M硝酸に溶かして調製した50 mg-Y/Lのイットリウム溶液を,HDEHP担持量1.4 mol/kgを有する抽出試薬担持膜の内面に供給し,一定流量で外面まで透過させた。流量は30から120 mL/hの範囲で変化させた。外面からの流出液を連続的に採取して,流出液中のイットリウムを定量した。供給液中のイットリウム濃度と流出液中のそれが一致するまで液の透過を続けた。この実験により得られた,流出液量と流出液中のイットリウム濃度との関係,すなわち破過曲線を図7に示した。破過曲線の横軸は流出液量を膜(中空部を除く)体積で割った値,縦軸は流出液中のイットリウム濃度を供給液中のそれで割った値である。破過曲線は,イットリウム溶液の流量に依らず重なった。これは,イットリウムイオンが,膜の孔中からグラフト高分子鎖に担持された抽出試薬まで瞬時に移動して吸着されるということを示している。このことは産業での分離精製操作において有利である。破過曲線から,供給液中のイットリウム濃度に対する抽出試薬担持膜のイットリウム平衡吸着容量を算出した。平衡吸着容量Qは,次項の式(4)により算出した。ここで,C0, CおよびVはそれぞれ供給液の濃度,流出液の濃度および流出液体積である。イットリウム平衡吸着容量は0.38mol/kgであった。3価の陽イオンであるイットリウムイオンと抽出試薬HDEHPとが,理想的には1:3のモル比で結合する。したがって,HDEHP担持量が1.4 mol/kgに対してイットリウムの吸着量が0.38 mol/kgであったことから,担持されたHDEHPの82%がイットリウムの吸着に寄与していることがわかった。さらに,抽出試薬担持膜に吸着したイットリウムは,7M硝酸を膜に透過させることによってすべて溶出された。抽出試薬担持機能を有する官能基の一つとしてアルキル鎖で代表される疎水性基がある。実施例1では,オクタデシルアミノ基を有するグラフト高分子鎖に抽出試薬を担持した。実施例2では,ドデシルアミノ基を有するグラフト高分子鎖に抽出試薬を担持して,より高い金属イオン吸着容量を示す材料が作製できたことを示す。GMAグラフト重合膜を,ドデシルアミンに80℃で5分間,浸漬した。この反応によってグラフト高分子鎖中のエポキシ基の30モル%をドデシルアミノ基へ転化した。このときドデシルアミノ基密度は1.3mol/kgであった。得られた膜をドデシルアミノ膜と呼ぶ。抽出試薬にはHDEHPを用いた。ドデシルアミノ膜への抽出試薬の担持は,実施例1と同様にしておこなった。HDEHP担持量は1.6 mol/kgであった。得られた膜を抽出試薬担持膜と呼ぶ。この膜の内面から,実施例1と同一の50 mg-イットリウム/Lのイットリウム溶液を供給し,膜の外面まで透過させた。流量は120 mL/hとした。この実験により得られた破過曲線を図8に示した。破過曲線から,供給液中のイットリウム濃度に対する抽出試薬担持膜のイットリウム平衡吸着容量は0.57 mol/kgと算出された。3価の陽イオンであるイットリウムイオンと抽出試薬HDEHPとが,理想的には1:3のモル比で結合する。したがって,HDEHP担持量が1.6 mol/kgに対してイットリウムの吸着量が0.57 mol/kgであったことから,担持されたHDEHPがすべてイットリウムの吸着に寄与していることがわかった。上述の実施例1においては,グリシジルメタクリレート(GMA)をグラフト重合により付与したポリエチレン製多孔性中空糸膜に,オクタデシルアミノ基を導入して疎水性膜を作製し,酸性の抽出試薬HDEHPを担持したが,本実施例3においては,オクタデシルアミノ基の代わりに6-アミノヘキサン酸(6AHA)基を官能基として導入し,塩基性の抽出試薬Aliquat 336(正式名:tri-n-octylmethylammoniumchloride)を担持した例について説明する。なお,本実施例では,Aliquat 336に選択的に吸着する白金族元素(白金,パラジウム,ルテニウム,ロジウムなど)のうち,吸着モデル金属イオンとして[PtCl6]2-を選び,作製したAliquat336担持膜の吸着性能を評価した。(6AHA膜の作製)6AHA基を官能基として導入したポリエチレン製多孔性中空糸膜作製経路を図9(a)に示す。NaOH溶液(16%)によってpH 13となるよう調整した0.8 Mの6-アミノヘキサン酸(6AHA)水溶液とジオキサンとを等量混合して80℃に保持し,重合溶媒としてメタノールを用いたGMAグラフト重合膜(グラフト率200%)を浸漬した。転化率および導入された6AHA基の密度は,次式(5)から算出した。得られた疎水性膜を6AHA膜とよぶ。 転化率 [%]=[(W2- W1) / 131 ] / [ (W1- W0)/142]×100 (5)ここで,W0,W1およびW2は,それぞれ基材膜,GMAグラフト重合膜,および6AHA膜の重量である。(Aliquat336の担持)次に,エタノールに対する純水の体積割合をエタノール/水=2/1となるように調整した混合液に,図9(b)に構造が示されたAliquat 336を溶解し,Aliquat 336濃度を10 wt%とした担持溶液に,6AHA膜を常温で2時間浸漬させた。浸漬後40℃で乾燥し,重量を測定した。Aliquat 336担持量は,次式(6)によって算出される。 Aliquat336担持量[ mol/ kg ] = 1000 (W3 -W2)/Mr /W1 (6)ここで,W3は,Aliquat 336担持膜の重量,MrはAliquat 336の分子量である。得られた膜をAliquat 336担持膜とよぶ。(白金の平衡吸着容量の算出)塩酸でpH 4となるよう調整した100 mg-Pt/L溶液を,流量120 mL/minでAliquat 336担持膜に透過させ,一定時間ごとに透過液の濃度をICP-AESで測定した。平衡吸着容量Qは,上述の式(4)により算出した。以下,得られた実験結果について詳細に説明する。(Aliquat 336担持膜による白金の吸着)pH 4の[PtCl6]2-溶液(100 mg-Pt/L)をAliquat 336担持膜に透過させたときの破過曲線を図10に示す。白金の吸着量は,0.37mol-Pt/kgであり,吸着材料としては十分な性能であった。以上説明したとおり,本実施例3における6-アミノヘキサン酸(6AHA)基を官能基として導入し,塩基性の抽出試薬Aliquat 336(正式名:tri-n-octylmethylammonium chloride)を担持した吸着材料は,良好な吸着特性を有する。本実施例4においては,実施例3において,6-アミノヘキサン酸(6AHA)基を官能基として導入した後に,残存したエポキシ基とオクタデシルアミン(C18H37NH2)を反応させ,抽出試薬Aliquat 336を担持させ,吸着モデル金属イオンとしてパラジウム(Pd)を選んだ例について説明する。本発明の本実施例に係る抽出試薬Aliquat 336を担持した吸着材料の作製のための反応条件を以下の表1に示す。(6AHA膜の作製)6AHA基を官能基として導入したポリエチレン製多孔性中空糸膜作製経路を図11に示す。6AHA基を導入するステップについては,上述の実施例3で説明したステップと同様である。反応時間に対する転化率の変化を図12(a)に示す。反応時間とともに転化率は増加し,10時間で平衡に達した。このとき,転化率は50%であり,6AHA基密度は,2.3 mol/kgであった。(オクタデシルアミン基の導入)次に,さまざまな転化率の6AHA膜を用いて,6AHA基との反応後に残されたエポキシ基とオクタデシルアミン(C18H37NH2)を反応させた(図11(4))。エポキシ基のC18H37NH基への転化率変化を図12(b)に示す。エポキシ基のC18H37NH基への転化率は,先に導入した6AHA基の転化率の増大にともない減少した。これは,6AHA基がエポキシ基とC18H37NH基との反応を妨害するためである。また,最終転化率は,導入された6AHA基とC18H37NH基を合わせると40-50%の範囲になった。ここでは,6AHA膜にC18H37NH基を導入した膜を6AHA-C18H37NH膜とよぶ。(6AHA-C18H37NH膜へのAliquat 336の担持)エタノールおよびエタノール/水=2/1(体積比)を溶媒として,Aliquat 336の10%(v/v)溶液を調製し,6AHA-C18H37NH膜を浸漬させた(図11(5))。エポキシ基の6AHA基への転化率に対するAliquat 336の担持量を図13に示す。担持溶媒として,エタノール/水=2/1の混合溶媒を用いた場合は,エタノールを用いた場合よりも多量に担持され,最大1.2mol/kgとなった。エタノール/水=2/1の混合溶媒中では,グラフト高分子鎖は荷電反発により伸張し,Aliquat 336が接近できる空間が確保できるためである。一方,エタノール中では,グラフト高分子鎖は伸張しないので,Aliquat 336は近づきにくく,担持量が少ない結果となった。したがって,エタノール/水=2/1とした担持溶媒が好ましいことが実証された。Aliquat 336を担持した膜をAliquat 336(x, y)膜と呼ぶ。ここで,xおよびyはそれぞれ,エポキシ基から6AHA基への転化率およびエポキシ基からオクタデシルアミノ基への転化率を示す。(担持されたAliquat 336によるパラジウムの吸着性能)100 mg-Pd/L (1M HCl) のパラジウム溶液をAliquat336 (14,26)膜に透過させた。このときの破過曲線を図14に示す。破過曲線から算出されるパラジウムの吸着容量は,0.30mol-Pd/kgであった。また,透過流量は,60 mL/hであり,透過流束は,1.5 m/hを保持し,Aliquat 336の漏出は確認されなかった。担持されたAliquat 336は,パラジウムの吸着性能を失うことなく,C18H37NH基に保持されていることが示された。以上説明したとおり,本実施例に係る本発明の吸着材料は,抽出試薬Aliquat 336を担持させ,良好な吸着特性を有することがわかる。本実施例5においては,グリシジルメタクリレート(GMA)をグラフト重合により付与したポリエチレン製多孔性中空糸膜に,C18H37S基を導入して疎水性膜を作製し,中性抽出試薬TOPO(Tri-n-octylphosphineoxide)を担持した例について説明する。なお,本実施例では吸着モデル金属イオンとしてBi(III)を選んだ。(diol-C18H37S膜の作製)本実施例におけるdiol-C18H37S膜の作製経路を図15(a)に示す。重合溶媒にメタノールを用いて作製したグラフト率180-200%のGMAグラフト重合膜を,0.5 M H2SO4に60℃で浸漬させ,diol基を導入後,C18H37SHに80℃で浸漬させ,diol-C18H37S膜を作製した。その後,60℃で一晩乾燥した。前後の膜重量の増加量を測定し,次式(7)によりエポキシ基から各官能基への転化率を算出した。 転化率[%]=[ (W2 - W1) / Mr ] / [ (W1 - W0) / 142 ]×100 (7)ここで,W0,W1,W2,およびMrは,それぞれ基材膜の重量,GMAグラフト重合膜の重量,官能基導入後の膜重量,および官能基の分子量である。(抽出試薬担持膜の作製)diol-C18H37S膜をTOPO(100%)溶液に60℃で12時間浸漬した。TOPOの構造式を図15(b)に示す。浸漬後の膜を純水で20min×3回洗浄し,60℃で一晩乾燥した。前後の膜重量の増加量から,抽出試薬の担持量を算出した。得られた膜をTOPO担持膜とよぶ。(モデル金属イオンBi(III)の吸着)1M HClで溶解して1mmol-Bi/Lとなるように調整したBi(III)溶液を,一定流量(10 mL/h)でTOPO担持膜に膜の内面から外面に透過させた。また,ブランクとして,TOPOを担持していないdiol-C18H37S膜にも同様にBi(III)溶液を透過させた。そのときの,破過曲線を図16に示す。TOPO担持膜のBi(III)吸着容量は,0.52 mol/kgであった。これは,従来のビーズ状樹脂の吸着容量(0.33〜0.61 mol/kg-樹脂)と同程度の値である。また,TOPOを担持していないdiol-C18H37S膜にはBi(III)は吸着しなかったので,Bi(III)はdiol基及びC18H37S基にではなく,TOPOに吸着していることが示された。以上説明したとおり,本実施例に係る本発明の吸着材料は,抽出試薬TOPOを担持させ,良好な吸着特性を有することがわかる。以上実施例1乃至5で説明したとおり,グラフト高分子鎖に抽出試薬担持機能を持つ種々の官能基を導入した疎水性膜である材料に,様々な抽出試薬を担持させることにより,多種・多様な核種(金属イオン)を吸着させることができる。つまり,担持される抽出試薬と,担持される抽出試薬に適当な官能基を有する疎水性膜とを組み合わせることによって,多種・多様な核種を吸着させることができる(図17)。担持される抽出試薬としては,上述の実施例1乃至5に記載したものの他,TBP(Tri-n-butylphosphate),オクチル(フェニル)-N,N-ジイソブチルカルバモイルメチルホスフィンオキシド,ジアミルアミルホスフェイト,ジメチルグリオキシム,ビス(2, 4, 4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を用いてもよい。以上のように,本発明によって作製された抽出試薬を担持した吸着材料は金属イオンを効率よく吸着することが示された。本発明の抽出試薬を担持した吸着材料は,さまざまな液体から高効率で金属イオンやその錯体を分離精製することが可能なので,分析や水処理技術で多用される吸着操作に広範に利用できる。本発明の一実施例に係る抽出試薬を担持した吸着材料の作製経路の一例を示す図である。本発明の一実施例に係る抽出試薬担持吸着材料による金属イオンの吸着の仕組みを示す図である。本発明の一実施例における抽出試薬担持機能を有する官能基を導入する反応における,反応時間と官能基(ここでは,オクタデシルアミノ基)への転化率およびオクタデシルアミノ基密度との関係を示す図である。本発明の一実施例における材料中の官能基(ここでは,オクタデシルアミノ基)密度に対する抽出試薬(ここでは,ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェイト,図中でHDEHPと略記)の担持量を示す図である。本発明の一実施例における多孔性膜を基材にして作製した抽出試薬を担持した吸着材料の断面の走査電子顕微鏡写真である。本発明の一実施例における多孔性膜を基材にして作製した抽出試薬を担持した吸着材料へ金属イオン溶液を透過させる装置を示す図である。本発明の一実施例におけるオクタデシルアミノ基にHDEHPを担持した多孔性膜にイットリウム溶液を透過させて得られた破過曲線を示す図である。本発明の一実施例におけるドデシルアミノ基にHDEHPを担持した多孔性膜にイットリウム溶液を透過させて得られた破過曲線を示す図である。(a)は,本発明の一実施例に係る抽出試薬を担持した吸着材料の作製経路の一例を示す図であり,(b)は,Aliquat 336の構造式を示す図である。本発明の一実施例における6AHA基にAliquat 336を担持した多孔性膜にPt溶液を透過させて得られた破過曲線を示す図である。本発明の一実施例に係る抽出試薬を担持した吸着材料の作製経路の一例を示す図である。(a)は,本発明の一実施例における,反応時間に対するエポキシ基のC18H37NH基へ転化率の変化を示す図であり,(b)は,エポキシ基の6AHA基への転化率に対するエポキシ基のC18H37NH基への転化率を示す図である。本発明の一実施例における,エポキシ基の6AHA基への転化率に対するAliquat 336の担持量を示す図である。本発明の一実施例において,100 mg-Pd/L (1 M HCl) のパラジウム溶液をAliquat 336 (14,26)膜に透過させたときの破過曲線を示す図である。(a)は,本発明の一実施例に係る抽出試薬を担持した吸着材料の作製経路の一例を示す図であり,(b)は,TOPOの構造式を示す図である。本発明の一実施例における破過曲線を示す図である。本発明の吸着材料において,担持される抽出試薬と,担持される抽出試薬に適当な官能基を有する疎水性膜とを組み合わせることによって,多種・多様な核種を吸着させることができることを説明する図である。基材に付与したグラフト高分子鎖の官能基の少なくとも一部を、疎水性基及び親水性基の両方の官能基を有し且つ抽出試薬担持機能をもつ官能基に転化した材料であって,前記グラフト高分子鎖が重合性単量体をグラフト重合することにより形成された,抽出試薬を担持した吸着材料。前記疎水性基及び親水性基が,カチオン交換基,アニオン交換基,アルキル基,アルキルアミノ基,エポキシ基,ジオール基より選択されたことを特徴とする請求項1に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記重合性単量体が,グリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレートである,請求項1又は2に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記重合性単量体が,ヒドロキシルメタクリレート,ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミド,エチレングリコールジメタクリレート,アルキルメタクリレート,又はアルキルアクリレートである,請求項1又は2に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記基材が,ポリオレフィン,ポリテトラフルオロエチレン,又はそれらの組み合わせから構成されたものである,請求項1乃至4のいずれか一に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記基材が繊維,布帛,不織布,多孔性フィルム,多孔性中空糸膜,多孔性ロッド,又は多孔性フィルターの形態である,請求項1乃至5のいずれか一に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記グラフト重合が反応開始剤重合法又は電離放射線重合法により行われる,請求項1乃至6のいずれか一に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記抽出試薬がビス(2-エチルヘキシル)ホスフェイト,前記抽出試薬担持機能を有する官能基がオクタデシルアミノ基又はドデシルアミノ基である,請求項1乃至7のいずれか一に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記抽出試薬がビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸,前記抽出試薬担持機能を有する官能基がオクタデシルアミノ基又はドデシルアミノ基である,請求項1乃至7のいずれか一に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記抽出試薬がトリオクチルメチルアンモニウムクロライド,前記抽出試薬担持機能を有する官能基が6-アミノヘキサン酸基である,請求項1乃至7のいずれか一に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記抽出試薬がトリオクチルメチルアンモニウムクロライド,前記抽出試薬担持機能を有する官能基がオクタデシルアミノ基及び6-アミノヘキサン酸基である,請求項1乃至7のいずれか一に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。前記抽出試薬がトリ−n―オクチルホスフィンオキシド,前記抽出試薬担持機能を有する官能基がオクタデカンチオール基である,請求項1乃至7のいずれか一に記載の抽出試薬を担持した吸着材料。基材表面に重合性単量体をグラフト重合してグラフト高分子鎖を付与し,前記グラフト高分子鎖の官能基の少なくとも一部を、疎水性基及び親水性基の両方の官能基を有し且つ抽出試薬担持機能をもつ官能基に転化し、抽出試薬を担持させる吸着材料の製造方法。請求項1乃至12のいずれか一に記載の抽出試薬を担持した吸着材料から構成される分析用キット又は分析用カートリッジ。