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タイトル:特許公報(B2)_ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料およびその製造方法
出願番号:2005082516
年次:2010
IPC分類:C04B 35/48,A61K 6/06,A61L 27/00,C04B 35/10


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名和 正弘 中西 秀雄 末廣 康彦 JP 4428267 特許公報(B2) 20091225 2005082516 20050322 ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料およびその製造方法 パナソニック電工株式会社 000005832 西川 惠清 100087767 森 厚夫 100085604 名和 正弘 中西 秀雄 末廣 康彦 JP 2004085102 20040323 20100310 C04B 35/48 20060101AFI20100218BHJP A61K 6/06 20060101ALI20100218BHJP A61L 27/00 20060101ALI20100218BHJP C04B 35/10 20060101ALI20100218BHJP JPC04B35/48 CA61K6/06A61L27/00 HC04B35/10 E C04B35/42−35/51 C04B35/10−35/115 A61L27/00 特開平08−268755(JP,A) 特開2004−051481(JP,A) 特開昭63−156063(JP,A) 14 2005306726 20051104 22 20070910 宮澤 尚之 本発明は、優れた機械的性質を有するジルコニア−アルミナ複合セラミック材料、およびその製造方法に関するものである。 金属材料やプラスチック材料と比較して、セラミック材料は、硬度、耐摩耗性、耐熱性、耐蝕性等の優れた性能を有するが、厳しい条件下で使用される自動車、航空機、宇宙船等の機械部品、ドリルや医療メスを含む刃物、医療用具、人工関節や人工歯のような生体材料部品等の広い分野への実用化にあっては、さらに高い強度と靭性を兼ね備えたセラミック材料の開発が望まれている。近年、そのようなセラミック材料の有力候補の一つとして、ジルコニア−アルミナ系複合セラミック材料が注目されている。 例えば、5〜30モル%のセリアを含有する正方晶ジルコニア粒子でなるマトリックス相と、マトリックス相の粒界およびジルコニア粒子内に分散される、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素および炭化硼素から選択される少なくとも1種の微粒子でなる分散相とで構成されるジルコニア系複合セラミック焼結体が提案されており(特許文献1)、分散相の存在によりマトリックス相の粒成長が抑制されるので、マトリックス相の微細組織が得られ、結果的に破壊源の寸法減少による高強度化を達成している。 また、安定化剤としてセリア(CeO2)を8〜12モル%及びチタニア(TiO2)を0.05〜4モル%含有する平均粒子径5μm以下の正方晶ジルコニア粒子でなるジルコニア相と、平均粒子径2μm以下のアルミナ(Al2O3)粒子でなるアルミナ相とを含む高強度/高靱性ジルコニア系セラミック材料が提案されている(特許文献2)。このセラミック材料においては、アルミナ粒子がジルコニア粒子内に2%もしくはそれ以上の分散率で分散される。ここに、分散率とは、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対するジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の比として定義されている。また、安定化剤としてセリアとチタニアを併用することによってジルコニアの粒成長を適度に促進し、アルミナ粒子の一部をジルコニア粒子内に有効に分散させるとともに、正方晶から単斜晶への応力誘起変態の臨界応力を増大させている。特許第2659082号公報特許第2703207号公報 ところで、この種のセラミック材料の耐摩耗性および硬度をさらに高めるための一つのアプローチとして、アルミナの添加量を増加することが考えられる。しかしながら、そのようなアルミナ量の増加は、通常、機械的強度との靭性の低下を招く。上記の場合においては、複合セラミック焼結体もしくはセラミック材料中のアルミナの好ましい量は、0.5〜50容量%であり、50容量%を超えると、アルミナがマトリックス相となり、ジルコニアの持つ応力誘起相転移に基づく強化機構を維持することが困難になる。その結果、著しい強度および靭性の低下を生じる恐れがある。 このように、従来のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、さらに多くのアルミナ量の下で、強度及び靭性の低下を生じることなく、優れた耐摩耗性と硬度を提供する上で、依然として解決すべき課題が残されている。 したがって、本発明の目的は、これまでより高いアルミナ量の下で、強度と靱性の良好なバランスを維持しつつ、耐摩耗性と硬度の向上したジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を提供することにある。 すなわち、本発明にかかるジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、90体積%もしくはそれ以上の正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア相と、アルミナ相とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であって、前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量は20〜70体積%であり、前記複合セラミック材料は、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなることを特徴とする。 上記した複合セラミック材料において、ジルコニア相は、安定化剤として10〜12モル%のセリアを含有することが好ましい。また、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、上記コンポジット粒子内に存在し且つ内部に微細ジルコニア粒子を含有するアルミナ粒子の数の比が0.3%もしくはそれ以上であることが好ましい。この比は、本発明の複合セラミック材料におけるコンポジット粒子の好ましい量を定義する。 また、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の比である第1分散率が1.5%もしくはそれ以上であることが好ましい。厳密に言えば、第1分散率は、内部に微細ジルコニア粒子を有するとともに、ジルコニア粒子内に取り込まれるコンポジット粒子を構成するアルミナ粒子の数と、ジルコニア粒子内に取り込まれるが微細ジルコニア粒子を内部に有していないアルミナ粒子の数の合計の複合セラミック材料中に分散されるすべてのアルミナ粒子の数に対する割合を定義する。第1分散率が1.5%もしくはそれ以上である場合は、ジルコニア粒子内に分散されたアルミナ粒子によって複合セラミック材料がより効果的に強化される。結果として、本発明の複合セラミック材料の機械的性質がさらに向上する。 また、上記複合セラミック材料中に分散される全ジルコニア粒子の数に対する、アルミナ粒子内に分散されるジルコニア粒子の数の比である第2分散率が4%もしくはそれ以上であることが好ましい。厳密に言えば、第2分散率は、コンポジット粒子を構成するアルミナ粒子内に分散された微細ジルコニア粒子の数と、コンポジット粒子を構成しないアルミナ粒子内に分散されているジルコニア粒子の数の合計の複合セラミック材料中に分散されるすべてのジルコニア粒子の数に対する割合を定義する。第2分散率が4%もしくはそれ以上である場合は、後述するように、アルミナ粒子内に取り込まれた正方晶の微細ジルコニア粒子によって形成されるZTA(zirconia toughened alumina)の量を増やすことができる。結果として、本発明の複合セラミック材料はより高い信頼性でもって優れた機械的性質を発揮する。 本発明のさらなる目的は、上記した複合セラミック材料の製造方法を提供することにある。すなわち、この製造方法は、前記ジルコニア相を提供するための第1粉末と前記アルミナ相を提供するための第2粉末とを前記複合セラミック材料中の前記アルミナ相の量が20〜70体積%になるように混合する工程と、得られた混合粉末を所望の形状に成形して圧粉体を得る工程と、前記圧粉体を酸素含有雰囲気下で焼結して、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなる前記複合セラミック材料を得る工程とを含むことを特徴とする。 上記方法における好ましい第2粉末の調整プロセスは、比表面積50〜400m2g−1のγ−アルミナ粉末およびθーアルミナ粉末から選択される少なくとも1種にジルコニア粉末を添加して混合粉末を得るステップを含む。また、アルミニウム塩の水溶液、もしくはアルミニウムアルコキシドの有機溶液にジルコニア粉末を添加し、得られた混合物を加水分解して沈殿物を得た後、この沈殿物を乾燥するステップを含む調整プロセスも好ましい。あるいは、アルミニウム塩の水溶液、もしくはアルミニウムアルコキシドの有機溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して混合物を得、この混合溶液を加水分解して沈殿物を得た後に、この沈殿物を乾燥するステップを含む調整プロセスが好ましい。これらの調製プロセスにおいては、混合粉末もしくは沈殿物を酸素含有雰囲気下800℃以上且つ1300℃以下の条件で仮焼することが好ましい。 本発明の複合セラミック材料中に上記コンポジット粒子を効率よく分散させる観点から、第2粉末は、平均粒径0.3μm以下の主としてαーアルミナ粒子からなり、内部に微細なジルコニア粒子を有することが特に好ましい。この場合は、焼結過程におけるコンポジット粒子の形成を促し、結果として複合セラミック材料中のZTAの量を増やすことができる。 本発明における複合セラミック材料の機械的性質の改善は、複合セラミック材料中にコンポジット粒子を積極的に分散させることによって、結果的にZTAの形成量を増加させて達成される。理論による制約を意図するものではないが、本発明における機械的性質の顕著な改善は以下のメカニズムによるものと考えられている。上記したように、本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、微細(正方晶)ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子が(より大きな)ジルコニア粒子内に取り込まれたコンポジット粒子が分散される点を特徴とする。アルミナ粒子内に取り込まれた微細(正方晶)ジルコニア粒子は、ZTAを提供するので、アルミナ粒子の靭性は微細ジルコニア粒子の存在によって顕著に改善される。このように靭性強化されたアルミナ粒子が(より大きな)ジルコニア粒子内に取り込まれると、そのジルコニア粒内にサブグレインバウンダリーが形成される。このサブグレインバウンダリーの形成は、アルミナ粒子を取り込んだジルコニア結晶粒を仮想的にさらに細分化する役割を担う。 また、上記の(より大きな)ジルコニア粒内に形成された残留応力場は、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの応力誘起相変態の臨界応力を高める。さらに、本発明においては、上記したコンポジット粒子(本明細書においては、このコンポジット粒子の構造を”トリプル型相互ナノコンポジット構造”と呼ぶ)の分散が、複合セラミック材料を構成するジルコニア粒子およびアルミナ粒子の平均粒径を大幅に低減することができる。このように、ナノメートルレベルでの独特の組織制御により、40〜70体積%というより多くのアルミナ量の下で、強度と靭性の良好なバランスを維持しつつ、優れた耐磨耗性と硬度を備えたジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を提供することができる。 従って、本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、例えば、光コネクタ用フェルール、軸受け、ダイス等の産業機械部品;ハサミ、鋸、その他種々の刃物類等の事務・理化学用品;メカニカルシール、粉砕メディア等の化学部品;スポーツ用品;人工関節、人工骨、人工歯根、アパットメント、クラウン等の生体材料;手術用メス等の医療用具などの広い分野での使用が期待される。 本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料のジルコニア相は、90体積%もしくはそれ以上の正方晶ジルコニアで構成される。このような多量の正方晶ジルコニアを得るため、ジルコニア相は安定化剤として10〜12モル%のセリアを含むことが好ましい。セリア量が10モル%未満であると、単斜晶ジルコニアの量が相対的に増加し、複合セラミック材料中にクラックが発生する恐れがある。一方、セリア量が12モル%を超えると、高温安定相である立方晶ジルコニアが出現し始め、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの応力誘起相変態による強度および靱性の改善が十分に達成できない恐れがある。好ましくは、ジルコニア相は、90体積%もしくはそれ以上の正方晶ジルコニアと、残りの単斜晶ジルコニアとで構成される。 本発明の複合セラミック材料は、20〜70体積%、好ましくは40〜60体積%のアルミナ相を含有することを本質とする。アルミナ量が20体積%に満たないと、複合セラミック材料の機械的強度および耐摩耗性を十分に改善できない。一方、アルミナ量が70体積%を超えると、著しい強度・靱性の低下を生じる。アルミナ量が40〜60体積%の範囲内である時は、強度と靭性の間の良好なバランスを有する高信頼性複合セラミック材料を提供することができる。 本発明の複合セラミック材料の最大の特徴は、図1に示すように、微細(正方晶)ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子がジルコニア粒子に取り込まれたコンポジット粒子を複合セラミック材料中に積極的に分散させている点にある。 本発明においては、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、上記コンポジット粒子内に存在し且つ内部に微細ジルコニア粒子を有するアルミナ粒子の数の比が0.3%以上であることが好ましい。この比が0.3%未満であると、ZTA(zirconia toughened alumina)の形成量が減少し、アルミナ量が増加するにつれて強度および靭性の改善効果が十分に得られない恐れがある。換言すると、この比が0.3%より大きくなると、ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の強度および靭性のより高い改善効果が得られる。 また、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の比である第1分散率は1.5%以上であることが好ましい。第1分散率が1.5%未満であると、サブグレインバウンダリーの形成によるジルコニア粒子の微粒化が不十分になる恐れがあり、その結果、アルミナ量が多くなるにつれて強度低下が起こりやすい。第1分散率の上限は特に限定されない。理論的には第1分散率が増加するにつれて複合セラミック材料の機械的特性はさらに改善される。コンポジット粒子内に存在するアルミナ粒子の数は、ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数に含まれる。 複合セラミック材料中に分散される全ジルコニア粒子の数に対する、アルミナ粒子内に分散されるジルコニア粒子の数の比として定義される第2分散率は4%以上であることが好ましい。第2分散率が4%未満であると、ZTAの形成量が減少し、結果的に複合セラミック材料の機械的性質の改善効果が不十分になる恐れがある。特に、多量のアルミナの存在下において第2分散率が4%未満になると、強度低下が起こりやすい。第2分散率の上限は特に限定されない。理論的には第2分散率が増加するにつれて、複合セラミック材料の機械的特性がさらに改善される。 コンポジット粒子の微細ジルコニア粒子の大きさは、アルミナ粒子内に取り込まれるのであれば限定されない。例えば、数十ナノメートルサイズの平均粒径を有する微細な正方晶ジルコニア粒子がアルミナ粒子内に取り込まれることが好ましい。コンポジット粒子のアルミナ粒子内に取り込まれた微細ジルコニア粒子の数は、アルミナ粒子内に分散されるジルコニア粒子の数に含まれる。 複合セラミック材料のアルミナ粒子は0.1〜0.5μmの平均粒径を有することが好ましい。平均粒径が0.5μmを越えると、上記した第1分散率でジルコニア粒子内にアルミナ粒子を分散させることが難しくなる。また、平均粒径が0.1μmに満たないと、常圧焼結によって複合セラミック材料の緻密な焼結体を得ることが難しい。 コンポジット粒子のジルコニア粒子の粒径は、このジルコニア粒子内にアルミナ粒子が取り込まれるように決定されるが、ジルコニア粒子の粗大化は複合セラミック材料の強度低下の原因となる恐れがある。この観点から、複合セラミック材料のジルコニア粒子の平均粒径は、0.1〜1μmの範囲内であることが好ましい。この平均粒径は、アルミナ粒子内に取り込まれた微細なジルコニア粒子以外のジルコニア粒子に基づくものである。平均粒径が1μm以上になると、複合セラミック材料の強度及び耐磨耗性の低下を生じる恐れがある。一方、平均粒径が0.1μm以下になると、常圧焼結によって複合セラミック材料の緻密な焼結体を得ることが困難になる。 ところで、数ミクロンレベルの平均粒径を有し、ジルコニア粒子とアルミナ粒子が単に混合されてなる組織の従来の複合セラミック材料の場合、アルミナ量が30体積%を超えると、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの応力誘起相転移は、もはや複合セラミックス材料の主要な強化機構ではなくなり、結果として強度および靭性が徐々に減少する傾向がある。また、アルミナ量が50体積%を超えると、それは複合セラミック材料のマトリックス相がアルミナ相で構成されることを意味する。これは、従来の複合セラミック材料の機械的性質の著しい劣化を招く。 トリプル相互ナノコンポジット構造のコンポジット粒子が分散された本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料によれば、アルミナ粒子内に分散された微細ジルコニア粒子およびジルコニア粒子内に分散されたアルミナ粒子が、結晶粒内での転位のパイルアップおよびサブグレインバンダリーの形成に寄与し、複合セラミック材料の強度および耐磨耗性が顕著に改善される。特に、アルミナ相の量が40〜60体積%である場合は、アルミナ粒子内に均一に分散された微細な正方晶ジルコニア粒子によってZTA(zirconia toughened alumina)構造が実現され、その結果アルミナ粒子が顕著に強化される。換言すれば、アルミナ量が50体積%を越えても、正方晶ジルコニア粒子によって効果的に強化された微細結晶粒組織の形成によって高い強度と靭性を維持できる。これらの理由から、アルミナの量が50体積%を越え、もはやマトリックス相がアルミナ相でなる条件下で得られた本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、ジルコニア相をマトリックス相とする従来のジルコニア−アルミナセラミック材料に匹敵する優れた強度と靭性を発揮する。 理論による制約を意図するものではないが、本発明における機械的性質は以下のメカニズムによって改善されるものと考えられる。すなわち、内部に微細な正方晶ジルコニア粒子有するアルミナ粒子が正方晶ジルコニア粒子内に取り込まれた構造のコンポジット粒子が複合セラミック材料中に分散されると、焼結後の冷却過程においてアルミナとジルコニアとの間の熱膨張係数差により正方晶ジルコニア粒子内のアルミナ粒子周囲およびアルミナ粒子内の微細ジルコニア粒子周囲には局所的に残留応力場が形成される。この残留応力場の影響により、それぞれの結晶粒子内には転位が発生しやすくなる。転移は互いにパイルアップされ、最終的にジルコニア粒子およびアルミナ粒子内にサブグレインバインダリーが形成される。サブグレインバインダリーは微粒化組織をもたらし、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの応力誘起相変態の臨界応力を高める働きを有する。その結果、本発明の複合セラミック材料が高い強度と靭性に加えて優れた耐摩耗性と硬度を発揮する。 図1のSEM写真を参照しながら、本発明の複合セラミック材料の構造をより具体的に説明する。このSEM写真は、内部にアルミナ粒子を有していない普通の正方晶ジルコニア粒子と、内部にジルコニア粒子を有していない普通のアルミナ粒子が均一に混在する組織の中に、上記したコンポジット粒子が存在している様子を示している。また、このコンポジット粒子を構成する大きなジルコニア粒子内には、内部に微細ジルコニア粒子を有するアルミナ粒子と、内部に微細ジルコニア粒子を有しない微細アルミナ粒子が分散されている。さらに、コンポジット粒子以外に微細ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子が複合セラミック材料中に存在している。単一のジルコニア粒子内のアルミナ粒子の数および単一のアルミナ粒子内の微細ジルコニア粒子の数は限定されない。例えば、単一のジルコニア粒子内に複数のアルミナ粒子が取り込まれたり、単一のアルミナ粒子内に複数の微細ジルコニア粒子が取り込まれてもよい。 本発明の好ましい実施形態として、ジルコニア相は、セリアの他に、マグネシア、カルシア、チタニアおよび/あるいはイットリアのような他の安定化剤を含有してもよい。例えば、10〜12モル%のセリアに加えてジルコニア相の全量に関して0.01〜1モル%のチタニアおよび/あるいは0.01〜0.5モル%のカルシアを含有することが好ましい。この場合、チタニアの添加はジルコニア相の粒成長を適度に促進させて、ジルコニア粒子内にアルミナ粒子を分散させやすくする。また、応力誘起相転移を起こす臨界応力を高めることができる。チタニアの添加量が0.01モル%に満たないと、ジルコニア相の粒成長を促進する効果が十分に得られない恐れがある。一方、チタニアの添加量が1モル%を超えると、ジルコニア相に異常粒成長が起こりやすく、その結果、複合セラミック材料の強度および耐磨耗性が劣化するおそれがある。 一方、カルシアの添加は、ジルコニアの異常粒成長を抑制して強度と靭性のバランスを改善する。特に、高強度で耐磨耗性に優れたジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を得るのに効果的である。カルシアの添加量が0.01モル%に満たないと、ジルコニア相の異常粒成長の抑制効果が十分に得られない恐れがある。一方、カルシアの添加量が0.5モル%を越えると、ジルコニア相中に立方晶ジルコニアが出現し始め、90体積%以上の正方晶ジルコニアでなるジルコニア相を得ることが困難になる。立方晶ジルコニアの生成は、ジルコニア相の平均粒径の増加を招きやすい。そのような場合、複合セラミック材料の強度、靭性および耐磨耗性の劣化を生じる恐れがある。尚、ジルコニア相は微量の不純物を含んでもよい。例えば、不純物の量をジルコニア相の全量に対して0.5モル%以下とすることが望ましい。 本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、従来のジルコニア−アルミナセラミック材料の強度および靭性を維持しながら、アルミナ量を増加させることによって期待される優れた耐摩耗性を必要とする用途に好適である。例えば、本発明の複合セラミック材料を国際公開第02/11780号パンフレットに開示されている人工関節に使用することが好ましい。即ち、人工関節の関節部がポリエチレンと複合セラミック材料との間の摺動接触によって提供される場合、ポリエチレンの摩耗量を減らすことができる。また、人工関節の関節部が複合セラミック材料同士の摺動接触によって提供される場合は、特に優れた耐摩耗性を達成できる。このように、本発明の複合セラミック材料の使用により。生体内の過酷な条件下で長期間にわたりスムーズな関節運動を安定して提供できる人工関節を得ることができる。 次に、本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法について詳細に説明する。本発明の製造方法は、ジルコニア相を提供するための第1粉末と、アルミナ相を提供するために第2粉末とを前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量が20〜70体積%になるように混合する工程と、得られた混合粉末を所望の形状に成形して圧粉体を作製する工程と、前記圧粉体を酸素含有雰囲気下、得られた複合セラミック材料中に、微細ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子がジルコニア粒子内に取り込まれた構造のコンポジット粒子が分散されるように焼成する工程とを含む。 90体積%もしくはそれ以上の正方晶ジルコニアで構成されたジルコニア相を得るために、第1粉末は、ジルコニア相が10〜12モル%のセリアを安定化剤として含有するように調製されることが好ましい。また、第1粉末として、セリアに加えて、所定量のチタニアおよび/あるいはカルシアを含有する正方晶ジルコニア粉末を用いることも好ましい。第1粉末の調製方法は制限されない。例えば、以下の調製方法が推奨される。 即ち、セリウム塩等のセリウム含有化合物をジルコニウム塩の水溶液に添加する。必要に応じて、チタニウム塩および/あるいはカルシウム塩の水溶液や、チタン含有化合物やカルシウム含有化合物としてチタンやカルシウムのアルコキシドの有機溶液を添加してもよい。次いで、得られた混合溶液にアンモニア水等のアルカリ性水溶液を加えて加水分解し、沈殿物を得る。この沈殿物を乾燥し、大気のような酸素含有雰囲気中で仮焼し、湿式ボールミル等により粉砕することにより、所望の粒度分布を有する正方晶ジルコニア粉末が得られる。 正方晶ジルコニア粉末を用いる場合は、十分な密度を有する圧粉体を得るために、10〜20m2g−1の比表面積を有することが好ましい。そのような圧粉体は、常圧焼結により焼結しやすい。比表面積が10m2g−1未満となると、焼結後に1μm以下の平均粒径を有するジルコニア相を得ることが困難になる。一方、比表面積が20m2g−1を超えると、かさ密度が顕著に低下し、第1粉末の取扱いが困難になり、常圧焼結により圧粉体を緻密に焼結できない恐れがある。 本発明において、複合セラミック材料内にトリプル型相互ナノコンポジット構造を有するコンポジット粒子を均一に分散させるためには、アルミナ粒子の内部に微細ジルコニア粒子を有してなるコンポジット粉末を第2粉末として使用することが特に好ましい。例えば、アルミナ粉末に所定量の第1粉末を混合し、得られた混合粉末を酸素含有雰囲気下800℃以上且つ1300℃以下、より好ましくは1000℃以上且つ1200℃以下の条件で仮焼することによりコンポジット粉末が得られる。この場合、アルミナ粉末としては、比表面積50〜400m2g−1のγ−アルミナ粉末およびθーアルミナ粉末から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。このアルミナ粒子の比表面積は、第1粉末の比表面よりも非常に大きい、換言すれば、コンポジット粉末を調製するために用いられるアルミナ粉末は第1粉末に比べて非常に細かいので、上記混合粉末は、超微細なアルミナ粒子で囲まれたジルコニア粒子を含む。 次に、仮焼工程中に混合粉末のγ−アルミナおよび/あるいはθーアルミナのαーアルミナへの相転移が起こる。この時、相転移によって得られ、増大した粒子径を有するα−アルミナ粒子内に、混合粉末中のジルコニア粒子が閉じ込められる。このようにして得られたコンポジット粉末は、γ−アルミナやθーアルミナ粉末を用いる場合に比べて成形性において優れる。また、複合セラミック材料中に分散するアルミナ粒子の平均粒径を0.1〜0.5μmの範囲内に制御しやすいという長所もある。 上記した方法によって調製されるコンポジット粉末は、平均粒径0.3μm以下の主としてαーアルミナからなる粉末であり、その内部に微細なジルコニア粉末を有してなることが好ましい。ただし、コンポジット粉末中のαーアルミナの量は特に限定されない。すなわち、仮焼によってγ−アルミナおよび/あるいはθーアルミナの一部がα−アルミナに相転移していればよく、α−アルミナとγ−アルミナが混在していても構わない。 第2粉末を調製する方法は、限定されない。例えば、アルミニウム塩の水溶液もしくはアルミニウムのアルコキシドの有機溶液にジルコニア粉末を添加し、得られた混合物を加水分解して沈殿物を得た後、この沈殿物を乾燥する。乾燥した沈殿物を、酸素含有雰囲気中、800〜1300℃で仮焼し、湿式ボールミル等により粉砕すれば所望の粒度分布を有する第2粉末が得られる。また、上記方法において、ジルコニア粉末の代わりに、例えば、ジルコニウム塩の水溶液を用いてもよい。 第2粉末としてコンポジット粉末を調整する場合、アルミナとジルコニアの混合比は限定されない。微細なジルコニア粒子を内部に有するαーアルミナ粒子を効率よく得るために、コンポジット粉末におけるアルミナとジルコニアの体積比を95:5〜50:50の範囲内とすることが好ましい。この体積比におけるジルコニアの割合が5以下であると、微細なジルコニア粒子を内部に有するαーアルミナ粒子の十分量を仮焼によって得ることが難しい。結果的に、複合セラミック材料中のコンポジット粒子の形成量が減少する。一方、この体積比におけるジルコニアの割合が50を超えると、ジルコニア粒子の凝集を生じる恐れがある。尚、上記体積比を90:10〜60:40の範囲内とする場合は、微細なジルコニア粒子を内部に有するαーアルミナ粒子をさらに効率よく得ることができ、それにより、本発明の複合セラミック材料の製造に最適な高品質のコンポジット粉末を提供することができる。 尚、必要に応じて、焼結工程後に酸素含有雰囲気下で熱間静水圧加圧(HIP)処理を実施してもよい。HIP処理の効果を最大限に得るため、常圧焼結によって得られた複合セラミック材料の焼結体は95%以上の相対密度を有することが好ましい。酸素含有雰囲気中の酸素濃度は制限されない。アルゴン等の不活性ガスと酸素との混合ガスを用いてもよい。この場合、酸素濃度は、混合ガス全量に対しておよそ5体積%以上であることが好ましい。 本発明を好ましい実施例に基づいて以下に説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されない。 (実施例1〜6および比較例1〜3) 実施例1〜6および比較例1〜3の各ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を以下の方法により製造した。複合セラミック材料のジルコニア相を提供するための第1成分としては、安定化剤としての11モル%のセリアと、0.05モル%のチタニアと、0.16モル%のカルシアを含有する比表面積が15m2g−1の正方晶ジルコニア粉末を用いた。一方、複合セラミック材料のアルミナ相を提供するための第2成分としては、比表面積が300m2g−1のγ−アルミナ粉末と、前記した正方晶ジルコニア粉末の一部との混合物でなる複合粉末を用いた。尚、γ−アルミナ粉末と正方晶ジルコニア粉末の混合比を体積比で70:30である。 複合粉末は以下のようにして作製した。すなわち、所定量の正方晶ジルコニア粉末とγ−アルミナ粉末をエタノール溶媒中で24時間ボールミル混合し、乾燥して混合粉末を得た。次いで、この混合粉末を大気中1000℃で2時間仮焼した。このようにして得られた仮焼粉末をエタノール溶媒中で24時間ボールミル粉砕し、乾燥することによって複合粉末を得た。 残りの正方晶ジルコニア粉末および複合粉末を、複合セラミック材料中のアルミナ量が表1に示すように、10〜80体積%の範囲となるように混合した。得られた混合物をエタノール溶媒中で24時間ボールミル混合した後、乾燥して焼結用粉末を得た。比較例1におけるアルミナ量は0である。 得られた焼結用粉末を10MPaの圧力で一軸加圧成形してφ68mmの円盤状の成形体を得た。147MPaの圧力で成形体をCIP(冷間静水圧加圧)処理した後、大気中、焼成温度1440℃で3時間の条件下で成形体を常圧焼結により焼成し、焼結体を得た。 実施例1〜6および比較例1〜3の各々において、得られた焼結体は相対密度99%以上であり、X線回折により、焼結体のジルコニア相は90体積%以上の正方晶ジルコニアと、残りが単斜晶ジルコニアでなることが確認された。また、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、実施例1〜6および比較例2および3の焼結体に、微細ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子がジルコニア粒子に取り込まれたトリプル型相互ナノコンポジット構造のコンポジット粒子が分散しているのを確認した。 また、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の比である第1分散率(W1)、複合セラミック材料中に分散される全ジルコニア粒子の数に対する、アルミナ粒子内に分散されるジルコニア粒子の数の比である第2分散率(W2)、および複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、上記コンポジット粒子内に存在し且つ内部に微細ジルコニア粒子を有するアルミナ粒子の数の比である第3分散率(W3)をそれぞれ表2に示す。 第1、第2、第3分散率(W1、W2、W3)は、以下の手順にて求めた。まず、焼結体を研磨した後、熱処理を研磨面に施して観察用試料を得た。次いで、この試料のSEM観察、あるいは焼結体のTEM観察を実施して、視野内に存在するアルミナ粒子の総数(S1)、同視野内に存在するジルコニア粒子の総数(S2)、同視野内においてジルコニア粒子内に存在するアルミナ粒子の数(n1)、同視野内においてアルミナ粒子内に存在するジルコニア粒子の数(n2)、同視野内においてコンポジット粒子内に存在し且つ内部に微細ジルコニア粒子を含有するアルミナ粒子の数(n3)をそれぞれカウントした。これらの値を下記の式に代入して、それぞれの分散率を算出した。結果を表2に示す。W1〔%〕=(n1/S1)×100W2〔%〕=(n2/S2)×100W3〔%〕=(n3/S1)×100 また、実施例1〜6および比較例1〜3の各々に関して、焼結体のジルコニア粒子およびアルミナ粒子の平均粒子径TEM/SEM観察により測定した。複合セラミック材料の機械的性質を評価するため、4mmx3mmx40mmの形状を有する試験片を焼結体から作製し、3点曲げ強度および破壊靱性を室温で測定した。破壊靭性はIF法に基づいて測定した。結果を表1および表2に示す。 さらに、複合セラミック材料の耐摩耗性を評価するため、潤滑液として蒸留水を用いたピンオンディスク試験を行った。ピンとディスクは同じ複合セラミック材料により作製した。ピンは、直径5mm、長さ15mmの円柱の先端に頂角30゜の円錐状のコーンを設け、その先端部に直径1.5mmの鏡面平滑部を設け摺動面を形成した。この摺動面の表面粗さは、0.005μmRa以下である。 一方、ディスクは直径50mm、厚さ8mmであり、ピンとの摺動面は表面粗さが、0.005μmRa以下になるように鏡面研磨してある。ピンオンディスク試験は、ピンをディスク中心から22mmの距離の円周上に配置し、60mm/secのディスク回転速度で行った。摺動距離は一定(25km)であり、ピンへの付加荷重は、60Nとした。ピンの先端径が1.5mmであるので、ピン先端にかかる初期の摩擦圧力は33MPaである。試験回数は、同じ試験条件下で3回行い、それらの試験の平均値をデータとして採用した。 試験後、ピンの質量減少を測定して、次式により比磨耗量(Wf)を算出した。Wf = (W1-W2)/P・L・ρここに、 Wf ;比摩耗量(mm3/Nm) W1 ;試験前のピンの乾燥質量(g) W2 ;試験後のピンの乾燥質量(g) P ;荷重(N) L ;摺動距離(m) ρ ;試験片の密度(g /mm3) さらに、複合セラミック材料のビッカース硬度を測定した。硬度と比磨耗量の測定結果を表2に示す。 表1および表2の結果から分かるように、アルミナを20〜70体積%含有する実施例1〜6の焼結体は、1.5%以上の第1分散率(W1)と、4%以上の第2分散率(W2)および0.3%以上の第3分散率(W3)を有している。また、これらの焼結体は、1200MPa以上の高い曲げ強度とともに10.0MPa・m1/2以上の優れた破壊靭性を示す。 一方、比較例1の焼結体は、アルミナ相を含まないジルコニア焼結体であるので、破壊靭性は高いが曲げ強度は著しく低い。また、比較例2の焼結体は、実施例1とほぼ同等の第1分散率、第2分散率および第3分散率を有し、優れた破壊靭性を示した。しかしながら、比較例2のジルコニア粒子の平均粒径(1.35μm)は、実施例1のジルコニア粒子の平均粒径(0.43μm)よりも顕著に大きい。このことは、アルミナ量が少ないとジルコニア粒子の粒成長を十分に抑制できないことを示唆している。結果として、比較例2の焼結体においては強度が相対的に低く、機械的性質のバラツキが増大する傾向がある。このように、強度と靭性の両方において優れる複合セラミック材料を提供することが困難である。比較例3の焼結体に関しては、アルミナ量が多すぎたために強度および靭性の両方が顕著に低い。また、ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数、すなわち、第1分散率(W1)が極めて低い。これは、過剰のアルミナ量を使用する場合、コンポジット粒子を複合セラミック材料中に効率よく分散できないことを示唆している。 上記のように、本発明の目的は、これまでよりも多いアルミナ量の下で、高い強度と靭性を維持しながら、優れた耐摩耗性と硬度を備えたセラミック材料を提供することにある。表2の結果は、アルミナ量が20〜70体積%の範囲内において、硬度と耐摩耗性の両方が大幅に改善されることを示している。これに対して、比較例2は、アルミナ量が少なく、ジルコニア粒子の平均粒径が大きいために耐摩耗性の劣化を示している。さらに、比較例3は、アルミナ量が多すぎるために、耐摩耗性の劣化に加えて強度および靭性の低下を示している。 (実施例7〜21) 実施例7〜21のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を以下の方法により製造した。複合セラミック材料のジルコニア相を提供するための第1成分としては、表3に示すように、10〜12モル%のセリアを安定化剤として含有する正方晶ジルコニア粉末、もしくは10〜12モル%のセリアと、0.02〜1モル%のチタニアおよび0.02〜0.5モル%のカルシアを含有する比表面積が15m2g−1の正方晶ジルコニア粉末を用いた。一方、複合セラミック材料のアルミナ相を提供する第2成分としては、以下のプロセスに基づいて調製した複合粉末を使用した。すなわち、塩化アルミニウム(AlCl3)の塩酸溶液に、前記した正方晶ジルコニア粉末をアルミナとジルコニアの混合比が、体積比で70:30になるように添加した。次に、得られた混合溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて加水分解して沈殿物を得た。この沈殿物を水洗、乾燥した。次に、乾燥した沈殿物を大気中1000℃で2時間仮焼した。このようにして得られた仮焼粉末をエタノール溶媒中で24時間ボールミル粉砕し、乾燥することによって複合粉末を得た。 残りの正方晶ジルコニア粉末と複合粉末を、複合セラミック材料中のアルミナ量が40体積%となるように混合した。得られた混合物をエタノール溶媒中で24時間ボールミル混合した後、乾燥して焼結用粉末とした。得られた焼結用粉末を実施例1と同様に一軸加圧により所定形状に成形し、常圧焼結して焼結体を得た。 実施例7〜21の各々において、焼結体は相対密度99%以上である。X線回折により焼結体のジルコニア相は90体積%以上の正方晶ジルコニアと、残りが単斜晶ジルコニアでなることが確認された。また、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察から、実施例7〜21の焼結体に、微細ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子がジルコニア粒子内に取り込まれたトリプル型相互ナノコンポジット構造のコンポジット粒子が分散しているのを確認した。実施例1と同様にして、実施例7〜21の各複合セラミック材料の第1、第2および第3分散率を求めた。結果を表4に示す。 また、実施例7〜21の各々に関して、焼結体のジルコニア粒子およびアルミナ粒子の平均粒子径をSEM/TEM観察により測定した。ジルコニア粒子の平均粒径は0.2〜0.5μmの範囲であり、アルミナ粒子の平均粒径は0.3μm以下であった。さらに、焼結体の機械的性質を評価するため、4mmx3mmx40mmの形状を有する試験片を焼結体から作製し、3点曲げ強度および破壊靱性を測定した。破壊靭性はIF法に基づいて測定した。結果を表3および表4に示す。 表3および4に示される結果は、安定化剤としてのセリアに加えて微量のチタニアおよびカルシアを使用することにより、破壊靭性を低下させることなく、曲げ強度をさらに改善できることを示唆している。 (実施例22〜27) 実施例22〜27の各ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を以下の方法により製造した。すなわち、複合セラミック材料のジルコニア相を提供するための第1成分としては、表5に示すように、安定化剤としての11モル%のセリアと、0.05モル%のチタニア及び0.13モル%のカルシアを含有する比表面積が15m2g−1の正方晶ジルコニア粉末を用いた。一方、複合セラミック材料のアルミナ相を提供するための第2成分としては、比表面積が100m2g−1のθ−アルミナ粉末と、前記した正方晶ジルコニア粉末の一部とでなる複合粉末を用いた。尚、θ−アルミナ粉末と正方晶ジルコニア粉末の混合比を、表5に示すように、体積比で95:5〜50:50の範囲において変化させた。 複合粉末は以下のようにして作製した。すなわち、所定量の正方晶ジルコニア粉末とθ−アルミナ粉末をエタノール溶媒中で24時間ボールミル混合し、乾燥して混合粉末を得た。次いで、この混合粉末を大気中1000℃で2時間仮焼した。得られた仮焼粉末をエタノール溶媒中で24時間ボールミル粉砕し、乾燥することにより複合粉末を得た。 残りの正方晶ジルコニア粉末と複合粉末を、複合セラミック材料中のアルミナ量が50体積%となるように混合した。得られた混合物をエタノール溶媒中で24時間ボールミル混合し、乾燥して焼結用粉末とした。得られた焼結用粉末を実施例1と同様に一軸加圧により所定形状に成形し、常圧焼結して焼結体を得た。 実施例22〜27の各々に関して、得られた焼結体は相対密度99%以上である。X線回折により、それぞれの焼結体のジルコニア相は、90体積%もしくはそれ以上の正方晶ジルコニアと、残りが単斜晶ジルコニアでなることが確認された。また、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察から、実施例22〜27の各焼結体に、微細ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子がジルコニア粒子内に取り込まれたトリプル型相互ナノコンポジット構造のコンポジット粒子が分散しているのを確認した。実施例1と同様にして、実施例22〜27の複合セラミック材料の第1、第2、第3分散率を求めた。結果を表6に示す。 また、実施例22〜27の各々に関して、焼結体のジルコニア粒子およびアルミナ粒子の平均粒子径をSEM/TEM観察により測定した。ジルコニア粒子の平均粒径は0.2〜0.3μmの範囲であり、アルミナ粒子の平均粒径は0.3μm以下であった。焼結体の機械的性質を評価するため、4mmx3mmx40mmの形状を有する試験片を焼結体から作製し、3点曲げ強度および破壊靱性を測定した。破壊靭性はIF法に基づいて求めた。結果を表5および表6に示す。 表5および表6の結果は、複合粉末中におけるアルミナと正方晶ジルコニアとの混合比が95:5〜50:50、特に90:10〜60:40の範囲である時、アルミナ粒子内に効率よくジルコニア粒子を取り込めることを示唆している。また、上記混合比を有する複合粉末を使用することにより、ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子の数、すなわち、第2分散率(W2)を高めることができる。さらに、複合粉末中におけるアルミナと正方晶ジルコニアとの適切な混合比を選択することにより、靭性をほぼ一定に維持しながら、さらに高い強度を有する複合セラミック材料を得ることができる。図1は、本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料に分散されるコンポジット粒子を示すSEM写真である。 90体積%もしくはそれ以上の正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア相と、アルミナ相とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であって、前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量は20〜70体積%であり、前記複合セラミック材料は、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなり、前記複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、前記コンポジット粒子内に存在し且つ内部に微細ジルコニア粒子を含有するアルミナ粒子の数の比が0.3%もしくはそれ以上であることを特徴とするジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 上記ジルコニア相は、安定化剤として10〜12モル%のセリアを含有することを特徴とする請求項1に記載のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 上記複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の比である第1分散率が1.5%もしくはそれ以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 上記複合セラミック材料中に分散される全ジルコニア粒子の数に対する、アルミナ粒子内に分散されるジルコニア粒子の数の比である第2分散率が4%もしくはそれ以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 上記ジルコニア相の平均粒径が0.1〜1μmであり、上記アルミナ相の平均粒径が0.1〜0.5μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 請求項1に記載のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法であって、前記ジルコニア相を提供するための第1粉末と前記アルミナ相を提供するための第2粉末とを前記複合セラミック材料中の前記アルミナ相の量が20〜70体積%になるように混合する工程と、得られた混合粉末を所望の形状に成形して圧粉体を得る工程と、前記圧粉体を酸素含有雰囲気下で焼結して、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなる前記複合セラミック材料を得る工程とを含み、前記第2粉末が、内部に微細なジルコニア粒子を含有するアルミナ粒子を含有することを特徴とするジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法。 上記第1粉末は、安定化剤として10〜12モル%のセリアを含有するジルコニア粉末を含むことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。 上記第2粉末の調整プロセスは、比表面積50〜400m2g−1のγ−アルミナ粉末およびθーアルミナ粉末から選択される少なくとも1種にジルコニア粉末を添加して混合粉末を得るステップを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。 上記第2粉末の調整プロセスは、アルミニウム塩の水溶液、もしくはアルミニウムアルコキシドの有機溶液にジルコニア粉末を添加し、得られた混合物を加水分解して沈殿物を得た後、この沈殿物を乾燥するステップを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。 上記第2粉末の調整プロセスは、アルミニウム塩の水溶液、もしくはアルミニウムアルコキシドの有機溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して混合物を得、この混合溶液を加水分解して沈殿物を得た後に、この沈殿物を乾燥するステップを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。 上記混合粉末を酸素含有雰囲気下800℃以上且つ1300℃以下の条件で仮焼するステップを含むことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。 上記沈殿物を酸素含有雰囲気下800℃以上且つ1300℃以下の条件で仮焼するステップを含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の製造方法。 上記第2粉末は、内部に微細なジルコニア粒子を有し、平均粒径0.3μm以下のαーアルミナ粒子から主としてなることを特徴とする請求項6乃至12のいずれか一項に記載の製造方法。 上記第2粉末におけるアルミナとジルコニアの体積比は、95:5〜50:50であることを特徴とする請求項6乃至13のいずれか一項に記載の製造方法。


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