タイトル: | 公開特許公報(A)_塗膜外観の評価方法及び塗装物 |
出願番号: | 2005081809 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G01B 21/30,G01N 21/84 |
池原 慎一 小島 圭介 JP 2006266728 公開特許公報(A) 20061005 2005081809 20050322 塗膜外観の評価方法及び塗装物 本田技研工業株式会社 000005326 正林 真之 100106002 池原 慎一 小島 圭介 G01B 21/30 20060101AFI20060908BHJP G01N 21/84 20060101ALN20060908BHJP JPG01B21/30 102G01N21/84 Z 8 1 OL 21 2F069 2G051 2F069AA60 2F069BB40 2F069CC06 2F069NN07 2F069NN26 2G051AA89 2G051AB12 2G051AB20 2G051EA12 2G051EC03 2G051EC05 2G051EC07 本発明は、塗膜外観の評価方法及び塗装物に関し、特に、自動車塗装の塗膜についての新規な外観評価方法等に関する。より詳細には、需要者の嗜好性調査に立脚した新規な塗膜評価方法、及び当該評価方法により需要者満足レベルを有する塗装を施した自動車塗装物品等に関するものである。 自動車塗装の意匠外観は、表面の粗さの程度により感じられる質感(艶感、ムジ感、チリ感、うねり感など)と、着色顔料の種類、光輝材の配向程度により感じられる質感(明度、彩度、陰影感、緻密感、奥行き感、深み感など)と、に大別される。これらのうち、表面の粗さの程度により感じられる質感は、自動車における格付けにより差別化されている程、商品魅力に大きな影響を与えるものである。そこで、その品質を高めるべく、各自動車メーカーにおいては、種々の取り組みがなされてきた。 従来より、これらの質感は官能的であるため好みも十人十色であり、そのため、その嗜好性には触れることなく、むしろ需要者が感じ得る質感を細分化して、それを定量的に評価する方法が用いられてきた。また、質感を定量化する外観測定方法や外観測定機については、数多くの先行文献が存在している。 例えば、特許文献1においては、ツヤ感は波長0.1mm以下の成分と、肉持ち感は波長0.1mm〜1mmの成分と、また、平滑感は波長1mm〜10mmの成分とそれぞれ関係があるとし、それぞれの質感を、塗装物表面に投影した明暗スリットパターンの乱れを複数の周波数レベルへ分離して定量化する方法が提案されている。 また、特許文献2においては、明暗パターン光からチリ感を定量化する方法について提案されている。これらの波長毎、あるいは質感毎の定量化は、材料や塗装方法の設計治具として非常に有用なものである。特許第2588297号公報特開平11−194096号公報 しかしながら、従来技術においては、波長が混在した塗膜に対して、波長成分に対する需要者が感じる重み付けや嗜好性との関係は考慮されていない。自動車メーカーにおいては、各社各様の外観測定機を用いて、各様の重み付けが曖昧になされた良否判断基準を尺度として、自動車を商品化し、提供しているのが現状である。 本発明の目的は、波長が混在した塗膜に対して、需要者の嗜好性に原点を置いた新規で簡便な塗膜外観の評価方法を見出し、その評価方法により需要者満足度の高い塗装レベルとは何かを明らかにし、更に、需要者満足度の高い塗装を有する塗装物品、塗装物品の製造方法、塗膜外観の評価装置を提供することにある。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定のうねりの振幅の大きさに着目し、その測定データを用いて塗装外観を評価することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。 (1) 塗膜の表面うねりのうち、波長1mm〜10mmのうねりの振幅の大きさを選択的に測定し、この測定結果の大小によって前記塗膜の表面の塗膜外観を評価する塗膜外観の評価方法。 (1)の塗膜外観の評価方法は、表面うねりのうち、波長1mm〜10mmのうねりの振幅の大きさを選択的に測定し、その測定結果に基づき塗膜外観を評価するものである。(1)の評価方法は、需要者が感じる重み付けや嗜好性に対して、最も大きく作用する波長となる波長1mm〜10mmのうねりの振幅の大きさを選択的に使用することから、需要者の嗜好性が加味された塗膜外観の評価が可能となる。したがって、(1)の評価方法を用いれば、従来の各種の曖昧な良否判断基準を尺度とした評価よりも、より需要者の好みに適った商品的魅力の高い塗装物品を提供することができる。 好き嫌いという嗜好性は個人差による多様性が予想され、多変数から導かれる複雑系と考えられるため、需要者が塗装物を見た時にどのような印象を受けるのかを明確に知る必要がある。そこで、本発明においては、需要者が塗装物を見た時に感じる質感の種類とその重み付けを明確にする目的で、表面粗度の異なる数種類のパネルを用いて、種々の塗装質感を表現する意味言語を使った因子分析を実施した。その結果、以下の2つの因子が抽出された。 一つ目の因子は、「つるり−ボテボテ弁別軸」であり、78%の因子寄与率を持つ主因子であった。二つ目の因子は、「厚み感弁別軸」であり、17%の因子寄与率を持つ副因子であった。即ち、需要者は、主に「つるり−ボテボテ」を弁別する軸上で、塗装物を見ていると言える。 本発明においては、需要者が塗装を見た時に感じる質感の種類とその重み付けが明確になった所で、次に、これらと、嗜好性との関係について調査した。その結果、「つるり−ボテボテ弁別軸」のみにおいて、嗜好性と強い直線的相関が見られ、「厚み感弁別軸」については、嗜好性とは無相関であった。即ち、需要者の嗜好性は、簡単な「つるり−ボテボテ弁別軸」の1軸で決定される。 更に、「つるり−ボテボテ弁別軸」は、塗膜におけるどのようなうねり波長成分と関わりがあるのか、塗膜の3次元表面粗さデータをフーリエ変換し、各波長のうねりの振幅の二乗をPowerとしたとき、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長Xmm〜Ymmにおける積分値(∫XYPower(λ)dλ)について、様々な分割波長で調査した。その結果、1mm〜10mmの長波長うねりのみに、相関が認められた。 以上を総括すると、需要者の嗜好性は、1mm〜10mmの波長のうねり成分の振幅のみで、ほぼ説明できることになる。 従来より、塗装関係者においては、1mm〜10mm波長成分のみならず、中波長と言われる0.1mm〜1mm、短波長といわれる0mm〜0.1mm、といった全ての波長成分のうねりの振幅を、同じ重み付けで低減しようとしていた。しかしながら、今回の調査結果に基づくと、中波長以下の波長については、需要者の質感としてある程度は検出されているものの、嗜好の決定に関してはほとんど使われていないことが判った。極論すれば、例えば、長波長成分のうねりの振幅を低減することと、中波長成分のうねりの振幅を低減することがトレードオフの関係にある場合には、長波長成分のうねりの振幅を低減する為に、中波長成分のうねりを犠牲にしても良いことになる。 (2) 塗膜外観の評価方法であって、(a)塗膜の3次元表面粗さデータをフーリエ変換し、各波長のうねりの振幅の二乗をPowerとしたとき、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長1mm〜10mmにおける積分値(∫110Power(λ)dλ)、(b)波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)、及び、(c)塗装外観測定機「Wave Scan−DOI(商品名)」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)、から選ばれる少なくとも一つに需要者の嗜好性に関する情報を付加して得られる嗜好スコアSを評価基準として前記塗膜の外観を評価する塗膜外観の評価方法。 ここで、需要者の嗜好性に関する情報を加味して得られる「嗜好スコアS」とは、単に塗装の良否、満足度といったものではなく、むしろ需要者の購買動機に繋がる感性と思われる好き嫌いを示す指標となる。嗜好スコアの高いもの程、需要者の好みに適ったものであり、購買動機としての商品的魅力が高いことを意味する。 (a)で示される積分値(∫110Power(λ)dλ)は、3次元表面粗さ計によって、X軸評価長さ52mm、X軸のサンプリングピッチ10μm、Y軸ピッチ4mmで、11本の粗さ曲線データを採取し(カットオフλcは50mmであり、試験片の素材反りの影響を排除する為、50mm以上の波長成分を事前に排除した)、X軸方向のみの積算サンプルデータをフーリエ変換し得たフーリエ関数の、波長毎のうねりの振幅の二乗をPowerとしたときの、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長1mm〜10mmにおける積分値(Power曲線と波長軸で囲まれる面積(μm3))である。この数値が小さい程、平滑であることを示す。 (b)で示される算術平均うねり(Wa)は、JIS B0601 4.2.1により、Wa=1/L∫0L|Z(x)|dxで定義される算術平均うねりである。本発明においては、X軸評価長さ52mm、サンプリングピッチ10μmで、1本の断面曲線データを採取し、1mmの低域カットオフフィルタでそれ以下の波長成分を遮断し、10mmの高域カットオフフィルタでそれ以上の波長成分を遮断して得たうねり曲線から、Wa=1/L∫0L|Z(x)|dxを算出する。この数値が小さい程、平滑であることを示す。尚、式(2)において、Lは評価長さ、Z(x)はカットオフ値1mm、10mmのうねり曲線関数である。 ところで、本発明における「嗜好スコアS」を、外観評価指標として活用していくためには、材料開発、塗装方法開発、品質管理等のあらゆる状況下で算出できることが、当然に望まれる。本発明の塗膜外観の評価方法は、塗装方法、塗膜の材料によらず、あらゆる塗膜に対して同一の評価結果が得られるものとする必要がある。 上述の(a)で示される積分値(∫110Power(λ)dλ)や(b)で示される算術平均うねり(Wa)は、開発段階の実験室では算出可能である。しかしながら、製造ラインにおける品質管理や市場調査時などの実車に対する測定には不向きである。そこで、1mm〜10mmの波長うねりを表現するあらゆる携帯外観測定機データを用いて、嗜好スコアを算出するための検討を行った。その結果、Wave Scan−DOI測定機によるパラメーター「Wd値」が、相関性が最適であることを見出した。 図1及び図2は、Wave Scan−DOI測定機によるパラメーター「Wd値」と、上記の(b)で示される算術平均うねり(Wa)との相関を示す図である。図1及び図2に示されるように、Wd値は、波長3mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)よりも、波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)との相関性が良い。従って、Wave Scan−DOI測定機によるパラメーター「Wd値」を、塗膜外観の評価方法の情報として用いることが可能であることが判る。 したがって、本発明においては、実験室においては、(a)で示される積分値(∫110Power(λ)dλ)や(b)で示される算術平均うねり(Wa)、あるいは(c)で示される塗装外観測定機「Wave Scan−DOI」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)により、「嗜好スコアS」を算出することができる。また、製造ラインにおける品質管理や市場調査などの実車測定時においては、(c)で示される塗装外観測定機「Wave Scan−DOI」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)により、「嗜好スコアS」を算出することができる。 本発明においては、いずれも同じ「嗜好スコアS」を得ることが可能であるため、状況に応じて算出パラメーターを選択することができる。 (c)で示される塗装外観測定機「Wave Scan−DOI」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)は、極めて多くのパラメータの中の一つであり、一般的には波長3mm〜10mmの成分のうねりの大きさを示すと言われている。しかしながら、上述した通り、波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)との相関性が高く、この数値が小さい程、平滑であることを示す。 ここで、(a)で規定する積分値「∫110Power(λ)dλ」、(b)の算術平均うねり「Wa」、(c)のうねり「Wd」は、一般に、オレンジピール、長波長うねり、平滑感などと表現されるうねりを示すものである。 塗膜業界における「オレンジピール」とは、塗面がオレンジの表皮のような凹凸の塗り肌となる現象をいう。オレンジピールとなる原因は、塗液から塗膜になる過程で、塗膜が平滑になる前に乾燥してしまうことである。オレンジピールの起きる要因としては、高温、風速が速い等の環境的な要因、スプレーガンの口径が大きく微粒子化不足となる、あるいはスプレーガンのパターン不良である等の設備や機器的な要因、塗膜が薄い、吹付圧が低い、吐出量が少ない、スプレーガンのガンスピードが速い、スプレー距離が遠い等の塗装作業面における要因、希釈剤の選定不適で蒸発速度が速い、塗料粘度が高い、塗料の流展性が少ない等の材料面での要因が挙げられる。 (2)の塗膜外観の評価方法によれば、需要者が感じる重み付けや嗜好性に対して、最も大きく作用する波長についての測定データを用いることから、需要者の嗜好性が加味された評価が可能となる。したがって、(2)の評価方法を用いれば、従来の各種の曖昧な良否判断基準を尺度とした評価よりも、より需要者の好みに適った商品的魅力の高い塗装物品を提供することができる。 (3) 前記嗜好スコアSは、下記の数式(1)により表される嗜好スコアS1、下記数式(2)により表される嗜好スコアS2、及び、下記数式(3)により表される嗜好スコアS3、から選ばれる少なくとも一つである請求項2記載の塗膜外観の評価方法。 ここで、嗜好スコアS1〜S3は、1から5までの巾を持っており、スコア1は好みでない、2があまり好みでない、3が普通、4がやや好み、5が好み、で表現される指標である。 (3)の塗膜外観の評価方法によれば、需要者が感じる重み付けや嗜好性に対して、最も大きく作用する波長についての測定データを用いて特定の数式により演算された、需要者の嗜好性が加味された嗜好スコアSを評価基準とした評価が可能となる。したがって、(3)の評価方法を用いれば、需要者の好みに適った、購買動機としての商品的魅力が高い塗膜であるか否かを評価することができる。 (4) (1)から(3)いずれか記載の塗膜外観の評価方法による評価を行う工程を含む塗装物の製造方法。 (4)の塗装物の製造方法は、(1)から(3)いずれか記載の塗膜外観の評価方法による評価を行う工程を含むものである。即ち、(4)の塗装物の製造方法は、需要者が感じる重み付けや嗜好性に対して、最も大きく作用する波長についての測定データを用いることにより、需要者の嗜好性が加味された評価を、製造工程に含むものとなる。したがって、(4)の製造方法によれば、評価工程による評価結果により選別することにより、より需要者の好みに適った商品的魅力の高い塗装物品を提供することが可能となる。 (5) 被塗物を塗装して得られた塗装物であって、(a)塗膜の3次元表面粗さデータをフーリエ変換し、各波長のうねりの振幅の二乗をPowerとしたとき、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長1mm〜10mmにおける積分値(∫110Power(λ)dλ)、(b)波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)、及び、(c)塗装外観測定機「Wave Scan−DOI(商品名)」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)、から選ばれる少なくとも一つに需要者の嗜好性に関する情報を付加して得られる嗜好スコアSが、略水平部位では3.7以上であり、且つ、略垂直部位では3.0以上である塗装物。 塗装物品の研究開発を行う上で重要なことは、目標値を決定すること、すなわち嗜好スコア軸上のいくつのポイント以上で、需要者の満足が得られるのかを決めることである。このポイントは、商品を提供する自動車製造会社が決めるものではあるが、自動車製造会社の都合で決められるべきものではなく、また、塗装関係者の好みで決められるべきものでもない。嗜好スコアSの目標値は、需要者の視点により決められるべきものである。 本発明者らは、嗜好スコアSのレベルの異なる塗装物品として、水平はボンネット、垂直はドアスキンを用いて、一般需要者による調査を実施した。その結果、需要者の望むレベルは、一般大衆車において、水平部位の嗜好スコアS≧3.7、垂直部位の嗜好スコアS≧3.0という結果が得られた。 水平部位における目標値となる3.7のレベルとは、例えば、Wdにして2未満、テンションメーターにして18とほぼ等価である。また、垂直部位における目標値となる3.0のレベルとは、例えば、Wdにして4.0未満、テンションメーターにして17とほぼ等価である。 一方、現状の一般大衆車では、水平部位の嗜好スコアSは2.1〜2.3、Wdにして11〜13、テンションメーターにして13〜15となっている。また、一般大衆車の垂直部位の嗜好スコアSは1.8〜2.0、Wdにして20〜25、テンションメーターにして10〜12となっている。 したがって、需要者が要求するレベルと、業界の常識レベルとの間には、大きな乖離がある。しかしながら、自動車塗装開発においては、塗装に係る制約や所謂限界にこだわることなく、需要者の満足を得ることが可能となる商品を提供していくことが使命となる。 (4)の塗装物によれば、需要者要求レベルを満たす塗装は、水平部位における嗜好スコアS≧3.7、垂直部位における嗜好スコアS≧3.0であり、これらのスコアは、塗膜の表面うねりのうち、波長1mm〜10mmの長波長うねり成分を平滑化することにより満たされるものである。また、長波長うねり成分のみに着目すればよく、短中波長成分については、特に問わない。例えば、短波長成分はツヤ感に作用するものであり、現在の主流である着色ベースコートと透明クリヤーコートをウェットオンウェットで重ねる2コート1ベイクトップコート方式の範疇では、短波長成分は大差なく、むしろ、粗度とは関係のないクリヤーコートの屈折率により、優位性が出る程度のものである。一般大衆車においては、本発明の測定方法において着目した波長1mm〜10mmのうねりの振幅の大きさを選択的に評価して塗装が施された自動車車体、組み付け部品は、現在のところ存在していない。 (5)の塗装物は、需要者が感じる重み付けや嗜好性に対して、最も大きく作用する波長についての測定データを用いることにより、需要者の嗜好性が加味された評価を、需要者が要求するレベル以上としたものである。このため、(5)の塗装物は、需要者の好みに適った塗装物となり、このため、購買動機としての商品的魅力が高い塗膜を有する塗装物を提供することが可能となる。 (6) 前記塗装物は、自動車車体又は自動車部品である(5)記載の塗装物。 (6)の塗装物は、自動車車体又は自動車部品として用いられるものである。(6)によれば、需要者の嗜好性が加味された評価が、需要者が要求するレベル以上となる自動車車体又は自動車部品となるため、この塗装物を用いることにより、格付けが高く、商品魅力の大きい自動車を提供することが可能となる。 (7) 前記塗膜の平滑性に関する情報が入力される入力装置と、前記塗膜の平滑性に関する情報に、需要者の嗜好性に関する情報を付加して嗜好スコアSを演算する、下記の数式(1)、数式(2)、及び、数式(3)で表される演算式を予め記憶している記憶装置と、前記演算式に従って嗜好スコアSを演算させる演算装置と、前記嗜好スコアSが所定値以上である場合には合格と判断させる判断装置と、前記判断の結果を出力させる出力装置と、を備える塗膜外観の評価装置に使用されるプログラムであって、前記塗膜の平滑性に関する情報を、(a)塗膜の3次元表面粗さデータをフーリエ変換し、各波長のうねりの振幅の二乗和をPowerとしたとき、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長1mm〜10mmにおける積分値(∫110Power(λ)dλ)、(b)波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)、及び、(c)塗装外観測定機「Wave Scan−DOI(商品名)」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)、から選ばれる少なくとも一つとし、前記入力手段に入力された情報に基づき、前記記憶装置から下記の数式(1)、数式(2)、及び、数式(3)を適宜呼び出し、前記(a)の入力については数式(1)を適用して前記演算装置にS1を算出させ、前記(b)の入力については数式(2)を適用して前記演算装置にS2を算出させ、前記(c)の入力については数式(3)を適用して前記演算装置にS3を算出させ、それぞれ算出された前記S1、S2、及び、S3につき、これらが所定値以上であるか否かを前記判断装置に判断させ、その判断結果を前記出力装置に出力させる、塗膜外観の評価をコンピュータに実行させるためのプログラム。 (7)のプログラムによれば、需要者が感じる重み付けや嗜好性に対して、最も大きく作用する波長における平滑性に関する測定データに基づき、需要者の嗜好性を加味した演算を行い、需要者の満足が得られるか否かの合否判定までを行うことが可能となる。したがって、(7)のプログラムによれば、塗膜外観が需要者の要求レベルに達しているか否かを容易に判定することが可能となる。このため、(7)のプログラムを実行することにより、商品魅力のある塗装物のみを選択的に需要者に提供することも可能となる。 (8) 前記塗膜の平滑性に関する情報が入力される入力装置と、前記塗膜の平滑性に関する情報に、需要者の嗜好性に関する情報を付加して嗜好スコアSを演算する、下記の数式(1)、数式(2)、及び、数式(3)で表される演算式を予め記憶している記憶装置と、前記演算式に従って嗜好スコアSを演算する演算装置と、前記嗜好スコアSが所定値以上である場合には合格と判断する判断装置と、前記判断結果を出力する出力装置と、を備える塗膜外観の評価装置であって、前記塗膜の平滑性に関する情報は、(a)塗膜の3次元表面粗さデータをフーリエ変換し、各波長のうねりの振幅の二乗和をPowerとしたとき、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長1mm〜10mmにおける積分値(∫110Power(λ)dλ)、(b)波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)、及び、(c)塗装外観測定機「Wave Scan−DOI(商品名)」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)、から選ばれる少なくとも一つであり、前記入力手段に入力された情報に基づき、前記記憶装置から下記の数式(1)、数式(2)、及び、数式(3)を適宜呼び出し、前記(a)の入力については数式(1)を適用して前記演算装置にS1を算出し、前記(b)の入力については数式(2)を適用して前記演算装置にS2を算出し、前記(c)の入力については数式(3)を適用して前記演算装置にS3を算出し、それぞれ算出された前記S1、S2、及び、S3につき、これらが所定値以上であるか否かを前記判断装置が判断し、その判断結果を前記出力装置が出力する塗膜外観の評価装置。 (8)の装置によれば、需要者が感じる重み付けや嗜好性に対して、最も大きく作用する波長における平滑性に関する測定データに基づき、需要者の嗜好性を加味した演算を行い、需要者の満足が得られるか否かの合否判定までを、自動的に行うことが可能となる。したがって、(8)の装置によれば、塗膜外観が需要者の要求レベルに達しているか否かを容易に判定することが可能となる。このため、商品魅力のある塗装物のみを選択的に需要者に提供することも可能となる。 本発明は、需要者の嗜好性に原点を置いた塗膜外観の評価方法であるため、需要者満足度の高い塗装レベルを有する塗膜か否かを判断することが可能となる。また、本発明の評価方法による評価を行う工程を含む製造方法によれば、評価結果により選別を行うことにより、需要者満足度が高く、このため商品魅力が大きく、格付けの高い塗装物品を提供することができる。さらには、本発明のプログラム及び装置によれば、需要者の満足が得られる塗膜か否かの合否判定までを、自動的に行うことが可能となるため、簡便に、商品魅力のある塗装物のみを選択し、需要者に提供することも可能となる。 次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 <実施例1>[サンプルの準備] 評価を進めるにあたり、12種類のサンプルを準備した。これらのサンプルについて、従来より表現されている質感に相当する波長成分の振幅水準を表1に示す。尚、本評価は、表面の凹凸と嗜好性との関係を把握する必要があることから、塗色の因子を排除する目的で、パネラが見た時に最も凹凸検出力の高いブラックソリッド色に統一したサンプルとした。[需要者] 需要者による塗膜外観評価にあたり、表2に示されるような塗装に関する知識のない日本人およびアメリカ人の合計127名をパネラとした。[意味言語] 需要者が塗装を見た時に感じる質感の種類とその重み付けを明確にする目的で、種々の塗装質感を表現する意味言語を使った因子分析を実施するため、上記の12種類のサンプルにつき、塗装質感を表現する意味言語による塗膜外観の目視評価を行った。図3に、使用した意味言語およびその重み付けの基準を示す。[意味言語スコア] 表3に、各サンプルについて、127名のパネラによる、11種類の意味言語項目の評価結果の平均値(意味言語スコア)を示す。[因子分析] 得られた意味言語スコアから、因子分析を実施した。ここで、因子分析とは、ある事象について複雑多様な因子が混沌としている場合、より少数の本質的な因子によって全貌を把握するために、多変量解析を用いて因子数を整理させる統計分析手法である。本評価においては、11種類の意味言語が複雑多様な因子に相当する。 本評価では、多変量解析の常法に従い、固有値が1以上であることを基準として第2因子までを抽出した。評価にあたり、各サンプルにつき、11種類の意味言語スコアをX1、X2・・・、X11とし、抽出された2つの因子の能力をF1、F2とした場合、意味言語スコアは以下の数式で表せる。ここで、抽出された2つの因子の能力F1及びF2は、サンプルによって異なるものである。尚、aは因子負荷量といい、意味言語と抽出された2つの因子との相関係数に相当するウエイトである。また、E1、E2、・・・、E11は誤差を表す。 これらの数式に基づき、各因子の固有値および寄与率は、表4のように求めることができる。尚、固有値は2乗和とも呼ばれ、因子の分散すなわち影響度を表すものであり、本実施例ではバリマックス回転後の値である。また、寄与率とは、固定値を意味言語数で除した値である。 本評価においては、因子分析により、「つるり−ボテボテ弁別軸」と「厚み感弁別軸」の2つの因子が抽出された。因子分析によって得られた結果を表5に示す。 一つ目の因子である「つるり−ボテボテ弁別軸」は、78%の因子寄与率を持つ主因子となった。二つ目の因子である「厚み感弁別軸」は、17%の因子寄与率を持つ副因子となった。即ち、需要者は、主に「つるり−ボテボテ」を弁別する軸上で、塗装を見ていることが判る。[2つの因子に対する因子負荷量] 図4に、11種類の意味言語における2つの因子に対する因子負荷量を示す。[塗膜に対する嗜好性] 上記12種類のサンプルにつき、127名のパネラによる塗膜の嗜好性に関する5点満点の目視評価を行った。図5に、評価基準を示す。[嗜好性と因子との関係] 図6は、つるり−ボテボテ因子スコアと、127名のパネラによる嗜好スコアの平均値との関係を示す図である。図6に示されるように、つるり−ボテボテ因子スコアと嗜好スコアの間には、相関性が見られた。一方、図7は、厚み感因子スコアと、嗜好スコアの平均値との関係を示す図である。図7に示されるように、厚み感因子スコアと嗜好スコアとの間には、相関性はなかった。このことから、需要者の購買動機ともなりうる嗜好性と直結する因子は、「つるり−ボテボテ弁別軸」であることが判った。[平滑感に関する測定] 上記12種類のサンプルにつき、種々の平滑感に関する測定を実施した。結果を表6に示す。尚、測定した平滑感の測定条件等は、以下の通りとした。(Wa) JIS B0601 4.2.1でWa=1/L∫0L|Z(x)|dxで定義される算術平均うねりを求めた。 L:評価長さ Z(x):うねり曲線関数 うねり曲線:断面曲線にカットオフ値λf、λcの輪郭曲線フィルタを順次かけることによって得られる輪郭曲線である。λfフィルタによって長波長成分を遮断し、λcフィルタによって短波長成分を遮断した。(Power) 3次元表面粗さ計として、表面粗さ測定機サーフテストSV−3000S4・3D(株 ミツトヨ製、スタイラス先端半径:5μm、スタイラス先端角度:90°)を用いて、波長1mm以上の長波長と、1mm未満の短波長に分けて、以下のように求めた。{波長1mm以上の長波長} 3次元表面粗さ計によって、X軸評価長さ52mm、X軸のサンプリングピッチ10μm、Y軸ピッチ4mmで、11本の粗さ曲線データを採取し(カットオフλcは50mmであり、試験片の素材反りの影響を排除する為50mm以上の波長成分を事前に排除した)、X軸方向のみの積算サンプルデータをフーリエ変換し、各波長毎のうねりの振幅の二乗をPowerと定義した。(μmΛ2){波長1mm未満の短波長} 同様に、X軸評価長さ10mm、X軸のサンプリングピッチ1μm、Y軸ピッチ1mmで、11本の粗さ曲線データを採取し(カットオフλcは2.5mmであり表面の長波長成分の影響を排除する為2.5mm以上の波長成分を事前に排除した)、X軸方向のみの積算サンプルデータをフーリエ変換し各波長毎のうねりの振幅の二乗をPowerと定義した。(μmΛ2)[嗜好スコアと平滑感に関する測定結果との相関性](波長1mm〜10mmのPower曲線の積分値) 図8に、波長1mm〜10mmのPower積分値と、嗜好スコアとの関係を示す。図8に示されるように、これらには相関性が見られた。(波長0.1mm〜1mmのPower曲線の積分値) 図9に、波長0.1mm〜1mmのPower曲線の積分値と、嗜好スコアとの関係を示す。図9に示されるように、これらにはまったく相関性が見られなかった。(波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)) 図10に、波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)と、嗜好スコアとの関係を示す。図10に示されるように、これらには相関性が見られた。(波長0.1mm〜1mmの算術平均うねり(Wa)) 図11に、波長0.1mm〜1mmの算術平均うねり(Wa)と、嗜好スコアとの関係を示す。図11に示されるように、これらにはまったく相関性が見られなかった。(Wave Scan−DOI(商品名)によるうねり(Wd)) 図12に、Wave Scan−DOI(商品名)(BYK Gardner社製)によるうねり(Wd)と、嗜好スコアとの関係を示す。図12に示されるように、これらには相関性が見られた。Wd値と算術平均うねり(Wa)との相関を示す図である。Wd値と算術平均うねり(Wa)との相関を示す図である。因子分析にあたり、使用した意味言語およびその重み付けの基準を示す図である。11種類の意味言語における抽出因子に対する因子負荷量を示す図である。塗膜の嗜好性についての評価基準を示す図である。つるり−ボテボテスコアと嗜好スコアの関係を示す図である。厚み感スコアと嗜好スコアの関係を示す図である。波長1mm〜10mmのPower曲線の積分値と嗜好スコアとの関係を示す図である。波長0.1mm〜1mmのPower曲線の積分値と嗜好スコアとの関係を示す図である。波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)と、嗜好スコアとの関係を示す図である波長0.1mm〜1mmの算術平均うねり(Wa)と、嗜好スコアとの関係を示す図である。Wave Scan−DOI(商品名)によるうねり(Wd)と、嗜好スコアとの関係を示す図である。 塗膜の表面うねりのうち、波長1mm〜10mmのうねりの振幅の大きさを選択的に測定し、この測定結果の大小によって前記塗膜の表面の塗膜外観を評価する塗膜外観の評価方法。 塗膜外観の評価方法であって、 (a)塗膜の3次元表面粗さデータをフーリエ変換し、各波長のうねりの振幅の二乗をPowerとしたとき、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長1mm〜10mmにおける積分値(∫110Power(λ)dλ)、 (b)波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)、及び、 (c)塗装外観測定機「Wave Scan−DOI(商品名)」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)、 から選ばれる少なくとも一つに需要者の嗜好性に関する情報を付加して得られる嗜好スコアSを評価基準として前記塗膜の外観を評価する塗膜外観の評価方法。 前記嗜好スコアSは、下記の数式(1)により表される嗜好スコアS1、下記数式(2)により表される嗜好スコアS2、及び、下記数式(3)により表される嗜好スコアS3、から選ばれる少なくとも一つである請求項2記載の塗膜外観の評価方法。 請求項1から3いずれか記載の塗膜外観の評価方法による評価を行う工程を含む塗装物の製造方法。 被塗物を塗装して得られた塗装物であって、 (a)塗膜の3次元表面粗さデータをフーリエ変換し、各波長のうねりの振幅の二乗をPowerとしたとき、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長1mm〜10mmにおける積分値(∫110Power(λ)dλ)、 (b)波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)、及び、 (c)塗装外観測定機「Wave Scan−DOI(商品名)」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)、 から選ばれる少なくとも一つに需要者の嗜好性に関する情報を付加して得られる嗜好スコアSが、略水平部位では3.7以上であり、且つ、略垂直部位では3.0以上である塗装物。 前記塗装物は、自動車車体又は自動車部品である請求項5記載の塗装物。 前記塗膜の平滑性に関する情報が入力される入力装置と、 前記塗膜の平滑性に関する情報に、需要者の嗜好性に関する情報を付加して嗜好スコアSを演算する、下記の数式(1)、数式(2)、及び、数式(3)で表される演算式を予め記憶している記憶装置と、 前記演算式に従って嗜好スコアSを演算させる演算装置と、 前記嗜好スコアSが所定値以上である場合には合格と判断させる判断装置と、 前記判断の結果を出力させる出力装置と、を備える塗膜外観の評価装置に使用されるプログラムであって、 前記塗膜の平滑性に関する情報を、 (a)塗膜の3次元表面粗さデータをフーリエ変換し、各波長のうねりの振幅の二乗和をPowerとしたとき、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長1mm〜10mmにおける積分値(∫110Power(λ)dλ)、 (b)波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)、及び、 (c)塗装外観測定機「Wave Scan−DOI(商品名)」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)、 から選ばれる少なくとも一つとし、 前記入力手段に入力された情報に基づき、前記記憶装置から下記の数式(1)、数式(2)、及び、数式(3)を適宜呼び出し、前記(a)の入力については数式(1)を適用して前記演算装置にS1を算出させ、前記(b)の入力については数式(2)を適用して前記演算装置にS2を算出させ、前記(c)の入力については数式(3)を適用して前記演算装置にS3を算出させ、 それぞれ算出された前記S1、S2、及び、S3につき、これらが所定値以上であるか否かを前記判断装置に判断させ、その判断結果を前記出力装置に出力させる、塗膜外観の評価をコンピュータに実行させるためのプログラム。 前記塗膜の平滑性に関する情報が入力される入力装置と、 前記塗膜の平滑性に関する情報に、需要者の嗜好性に関する情報を付加して嗜好スコアSを演算する、下記の数式(1)、数式(2)、及び、数式(3)で表される演算式を予め記憶している記憶装置と、 前記演算式に従って嗜好スコアSを演算する演算装置と、 前記嗜好スコアSが所定値以上である場合には合格と判断する判断装置と、 前記判断結果を出力する出力装置と、を備える塗膜外観の評価装置であって、 前記塗膜の平滑性に関する情報は、 (a)塗膜の3次元表面粗さデータをフーリエ変換し、各波長のうねりの振幅の二乗和をPowerとしたとき、このPowerの波長分布であるPower曲線の波長1mm〜10mmにおける積分値(∫110Power(λ)dλ)、 (b)波長1mm〜10mmの算術平均うねり(Wa)、及び、 (c)塗装外観測定機「Wave Scan−DOI(商品名)」(BYK Gardner社製)により得られるうねり(Wd)、 から選ばれる少なくとも一つであり、 前記入力手段に入力された情報に基づき、前記記憶装置から下記の数式(1)、数式(2)、及び、数式(3)を適宜呼び出し、前記(a)の入力については数式(1)を適用して前記演算装置にS1を算出し、前記(b)の入力については数式(2)を適用して前記演算装置にS2を算出し、前記(c)の入力については数式(3)を適用して前記演算装置にS3を算出し、 それぞれ算出された前記S1、S2、及び、S3につき、これらが所定値以上であるか否かを前記判断装置が判断し、その判断結果を前記出力装置が出力する塗膜外観の評価装置。 【課題】波長が混在した塗膜に対して、需要者の嗜好性に原点を置いた新規で簡便な塗膜外観の評価方法を見出し、その評価方法により需要者満足度の高い塗装レベルとは何かを明らかにし、更に、需要者満足度の高い塗装を有する塗装物品、塗装物品の製造方法、塗膜外観の評価装置を提供する。【解決手段】塗膜の表面うねりのうち、波長1mm〜10mmのうねりの振幅の大きさを選択的に測定し、この測定結果の大小によって前記塗膜の表面の塗膜外観を評価する塗膜外観の評価方法。【選択図】図120050408A16331図93