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タイトル:公開特許公報(A)_生理活性物質とその製造方法、辛味生理活性物質の無味化方法、及び保健・医療用組成物
出願番号:2005059039
年次:2006
IPC分類:C07C 47/45,A61K 31/11,A61K 36/18,A61P 7/02,A61P 29/00,A61P 31/04,A61P 43/00,C07C 45/79,C07C 45/81,C12P 7/24


特許情報キャッシュ

中村 宜督 大澤 俊彦 森光 康次郎 阿部 雅子 小澤 好夫 宇田 靖 JP 2006241068 公開特許公報(A) 20060914 2005059039 20050303 生理活性物質とその製造方法、辛味生理活性物質の無味化方法、及び保健・医療用組成物 国立大学法人名古屋大学 504139662 国立大学法人お茶の水女子大学 305013910 学校法人高崎健康福祉大学 501410115 国立大学法人宇都宮大学 304036743 北川 治 100097733 中村 宜督 大澤 俊彦 森光 康次郎 阿部 雅子 小澤 好夫 宇田 靖 C07C 47/45 20060101AFI20060818BHJP A61K 31/11 20060101ALI20060818BHJP A61K 36/18 20060101ALI20060818BHJP A61P 7/02 20060101ALI20060818BHJP A61P 29/00 20060101ALI20060818BHJP A61P 31/04 20060101ALI20060818BHJP A61P 43/00 20060101ALI20060818BHJP C07C 45/79 20060101ALI20060818BHJP C07C 45/81 20060101ALI20060818BHJP C12P 7/24 20060101ALI20060818BHJP JPC07C47/45A61K31/11A61K35/78 CA61P7/02A61P29/00A61P31/04A61P43/00 111C07C45/79C07C45/81C12P7/24 11 OL 16 4B064 4C088 4C206 4H006 4B064AC25 4B064CA11 4B064CA21 4B064CB16 4B064DA01 4C088AB81 4C088AC03 4C088BA08 4C088CA09 4C088MA52 4C088NA14 4C088ZA54 4C088ZB11 4C088ZB35 4C088ZC20 4C206AA01 4C206AA02 4C206AA03 4C206AA04 4C206CB07 4C206MA01 4C206MA04 4C206MA72 4C206NA14 4C206ZA54 4C206ZB11 4C206ZB35 4C206ZC20 4H006AA01 4H006AA02 4H006AB22 4H006AB24 4H006AB29 4H006AD15 4H006AD17 4H006BQ10 4H006BQ20 本発明は、生理活性物質とその製造方法、辛味生理活性物質の無味化方法、及び保健・医療用組成物に関する。 更に詳しくは、新たな由来植物から新規に見出されたラブダン型ジテルペン化合物たる生理活性物質の発明と、これらの生理活性物質の製造方法の発明と、公知の辛味生理活性物質を無味の生理活性物質に変換させる辛味生理活性物質の無味化方法の発明と、これらの生理活性物質を利用して構成される保健・医療用組成物の発明とに関する。 従来より、ショウガ(生姜)、ターメリック等のショウガ科植物は香辛料や香味野菜として消費されており、又、炎症や胃腸障害等の症状を改善するために、民間薬的な利用が幅広く行われている。 更に、従来、ショウガ等に由来する種々のラブダン型ジテルペン化合物が報告されており、それらの化合物が抗菌作用、血小板凝集抑制作用、ヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用、抗癌作用等の種々の有用な生理活性作用を有するとして、抗菌剤、抗血栓剤、抗炎症剤、抗癌剤等への利用が提案されている。又、これらのラブダン型ジテルペン化合物は辛味を呈するものが多いため、呈味成分としての利用も提案されている。特開昭63−162644号公報 上記の特許文献1には、(E)−8,17−エポキシ−ラブド−12−エン−15,16−ジアールその他のラブダン型ジテルペン化合物が開示され、これらの化合物が Alpinia属植物に由来する点、辛味性である点、抗腫瘍剤等としての有用性が期待される点、等が述べられている。特開平6−25214号公報 上記の特許文献2には、7−アミノラブダン類とその製造方法、及びその医療用製剤としての利用等が開示され、7−アミノラブダン類は血圧作用、カリウムチャンネル孔活性を有して心臓血管性疾患、代謝性疾患、ガン化学療法等に有効である、としている。特開2002−47195号公報 上記の特許文献3には、有効成分を具体的に特定してはいないものの、所定の抽出操作を経て得られた、抗炎症医薬組成物、抗血小板凝集医薬組成物、又は抗真菌医薬組成物が開示されている。 一方、ショウガ科植物の一種であるミョウガ(Zingiber mioga)は、我が国に特徴的な香草であり、古来その新芽や蕾が食用や生薬として広く利用されているにも関わらず、その有効成分を分析する試みは殆どなされず、その報告も極めて限定的である。 このような状況にあって、本願発明者らは既に、下記の非特許文献1によって、ミョウガにはラブダン型ジテルペンジアルデヒド化合物であるミョウガジアール( miogadial)、即ち(E)−8β(17)−エポキシラブド−12−エン−15,16−ジアール〔 (E)-8β(17)-epoxylabd-12-ene-15,16-dial〕や、2種類のアセタール環化ラブダンジテルペンアルデヒド化合物等の成分が含まれることを明らかにしている。又、ミョウガの成分が強い抗菌活性を示すことを下記の非特許文献2によって報告し、更にミョウガの成分が癌細胞に対する優れたアポトーシス誘導活性や、強い血小板凝集阻害活性を示すことも、下記の非特許文献3等によって報告している。M. Abe et al., Biosci. Biotech. Biochem., 66, 2698-2700(2002)M. Abe et al., Biosci. Biotech. Biochem., 68(7),1601-1604(2004)N. Miyoshi et al., Cancer Lett., 199, 113-119(2003) ところで、上記の非特許文献1〜非特許文献3等によって本願発明者らが報告したミョウガの有効成分は、他のショウガ科植物等にも存在することが既に報告されている化合物である。この点を考察するに、本願発明者が上記の非特許文献1〜非特許文献3等で報告したミョウガ特有の多様かつ強力な生理活性が、他の植物にも存在が報告されている前記のミョウガジアールやアセタール環化ラブダンジテルペンアルデヒド化合物のみによって担われていると考えることは、論理的に整合し難いことである。本願発明者は、このような考察から、ミョウガ中には多様で強力な生理活性を示す未知の成分が含まれている可能性がある、と言うことを考えた。 そこで本発明は、ミョウガ中に存在を推定し得る未知の強力な生理活性物質を単離し、その構造を解明し、かつそのキャラクタリゼーションを行って、判明した生理活性物質の特徴を活用できる新規かつ有用な利用方法を開発することを、解決すべき技術的課題とする。 (第1発明の構成) 上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、ラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物であり、少なくとも抗菌作用、血小板凝集抑制作用、又はヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用のいずれか1以上の生理活性を有する、生理活性物質である。 (第2発明の構成) 上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係るラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物が、ラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物である、生理活性物質である。 (第3発明の構成) 上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第2発明に係るラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物が下記「化2」の一般式で表される無味の化合物である、生理活性物質である。(上記の「化2」式において、位置番号18,19,20で示す原子団はそれぞれメチル基である。) (第4発明の構成) 上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、ショウガ科植物であるミョウガ(Zingiber mioga)の抽出物より第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質を採取する、生理活性物質の製造方法である。 (第5発明の構成) 上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第4発明に係る抽出物をミョウガに対するヘキサン抽出によって調製する、生理活性物質の製造方法である。 (第6発明の構成) 上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、芳香環にエポキシ基が結合したラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を含む原料液に対して、ミョウガ花蕾より調製した粗酵素抽出液を作用させることにより第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質を生成させ、これを採取する、生理活性物質の製造方法である。 (第7発明の構成) 上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、芳香環にエポキシ基が結合した、辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を含む原料液に対して、ミョウガ花蕾より調製した粗酵素抽出液を作用させることにより、前記辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を、その生理活性を維持したままで、第3発明に係る無味の生理活性物質に転換させる、辛味生理活性物質の無味化方法である。 (第8発明の構成) 上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、有効成分として、少なくとも、第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含む、保健・医療用組成物である。 (第9発明の構成) 上記課題を解決するための本願第9発明の構成は、前記第8発明に係るミョウガ抽出物がミョウガのヘキサン抽出物である、保健・医療用組成物である。 (第10発明の構成) 上記課題を解決するための本願第10発明の構成は、前記第8発明又は第9発明に係る保健・医療用組成物が、抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤である、保健・医療用組成物である。 (第11発明の構成) 上記課題を解決するための本願第11発明の構成は、第3発明に係る生理活性物質を有効成分とし、経口的に摂取される、保健・医療用組成物である。 (第1発明の効果) 本願発明者は、詳しくは後述する各種クロマトグラフィー操作の組み合わせ等による精密な化合物探索によって、第1発明に係る生理活性物質を単離することに成功した。この生理活性物質は、優れた抗菌作用、血小板凝集抑制作用、ヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用を示すことが in vivoあるいは in vitro で既に確認されている。又、本願発明者は、第1発明に係る生理活性物質が更に、少なくとも優れた腎機能改善作用及び抗癌作用を示すであろうと推定している。即ち、第1発明の生理活性物質は非常に多様な生理活性を示す。 しかも第1発明に係る生理活性物質は、ラブダン型ジテルペン化合物の一種であるが、「トリアルデヒド」化合物である点において、従来知られたラブダン型ジテルペン化合物とは大きくカテゴリーを異にするだけでなく、自然界において非常に希有な新規化合物である。 第1発明に係る生理活性物質におけるトリアルデヒド化合物であると言う構造上の希有な特徴が、第1に、この生理活性物質の多様かつ強力な生理活性と関連しているものと考えられる。第2に、一般論として、化合物のトリアルデヒド構造が人体生理等に対して示し得る機能について貴重な示唆を与えると言う意味で、今後の各種医薬品や保健食品成分の開発に対して重要なリード化合物となる可能性がある。 (第2発明の効果) 上記した第1発明に係る生理活性物質は、より好ましくは、ラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物である。 (第3発明の効果) 上記した第2発明に係るラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物は、更に好ましくは前記「化2」の一般式で表される化合物である。 本願発明者は、少なくとも第3発明に係る生理活性物質については無味の化合物であることを確認している。この点は、近縁化合物であるラブダン骨格構造を持つ15,16−ジアール化合物たるミョウガジアール等が辛味を呈する点と、著しい対照をなす。 従って、第1に、第3発明に係る生理活性物質は、辛味のない経口摂取用の保健・医療用組成物等としての利用を考えることができる。第2に、近縁化合物における1個のアルデヒド基の違いが辛味と無味の分かれ目となっている点において、一般論として、今後の呈味成分の開発・研究における重要なリード化合物となる可能性がある。 (第4発明の効果) 本願発明者がミョウガより第1発明〜第3発明の生理活性物質を単離し得た点から、当然、これらの生理活性物質の有効な製造方法として第4発明の製造方法を提案することができる。 (第5発明の効果) 上記の第4発明の製造方法においては、抽出物をミョウガに対するヘキサン抽出によって調製することが、特に好ましい。但し、他の各種の手段にによる抽出物の調製も有効に採用することができるのは、もち論である。 (第6発明の効果) 第1発明〜第3発明の生理活性物質は、いわゆる粗酵素法によっても、有効に製造することができる。そのような粗酵素法の好ましい実施形態の一つとして、第6発明の製造方法を例示することができる。 なお、本願発明者は、第1発明〜第3発明の生理活性物質を有機合成法によっても有効に製造することができる可能性を考えているが、今までのところ、そのような有機合成法の具体的に有効な実施形態を完成するには到っていない。 (第7発明の効果) 一方、公知の代表的なラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物であるミョウガジアールが辛味を呈する反面、第3発明の生理活性物質は無味であり、かつ両者は生理活性において近似している。従って、経口摂取の場合の辛味を嫌う患者又は消費者の便宜を考慮した場合、前記の第6発明の方法は、第7発明のように、辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を、その生理活性を維持したままで無味の生理活性物質に転換させると言う、辛味生理活性物質の無味化方法の発明として提案することができる。 (第8発明の効果) 第8発明の保健・医療用組成物は、有効成分として、少なくとも、第1発明〜第3発明に係る生理活性物質、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含むので、第1発明〜第3発明に係る生理活性物質の優れた保健・医療効果を確実に期待することができる。 前記したように、ミョウガには第1発明〜第3発明に係る生理活性物質の他にミョウガジアールやジテルペンアルデヒド化合物も含まれることが既に確認されているので、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含む保健・医療用組成物においては、これらの化合物による相乗効果も期待できる。 本願発明者の知る限りにおいて、第1発明〜第3発明に係る生理活性物質や、ショウガ科植物の内のミョウガを特定した植物粉砕物又は抽出物を含有する保健・医療用組成物は見聞したことがなく、その意味で、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含有する保健・医療用組成物も含めて、第7発明の保健・医療用組成物は新規な保健・医療効果を期待できる保健・医療用組成物である。 なお、これらの保健・医療用組成物は、少なくとも経口用として利用できるし、通常は注射用その他の非経口用としても利用できる。ミョウガ粉砕物からなる場合には、非経口利用に注意を要する場合もある。 (第9発明の効果) 上記の第8発明において用いるミョウガ抽出物としては、第9発明のように、ミョウガのヘキサン抽出物が特に好ましい。 (第10発明の効果) 上記の第8発明又は第9発明に係る保健・医療用組成物は、少なくとも抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤としての有効性を確実に期待することができる。本願発明者は、その他にも、「第1発明の効果」欄で述べた点から、優れた腎機能改善剤又は抗癌剤としても有効であろうと推定している。更に今後、第1発明〜第3発明に係る生理活性物質の新たな生理活性が判明する可能性があり、それらの用途の保健・医療用剤としても使用できる可能性がある。 (第11明の効果) 第3発明に係る生理活性物質は、無味であり、しかも所定の優れた生理活性を示すので、第3発明に係る生理活性物質を有効成分とし経口的に摂取される保健・医療用組成物は、特に辛味を嫌う患者や消費者に対して最適である。 次に、本願の第1発明〜第11明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。以下において単に「本発明」と言う時は、第1発明〜第11明の内の該当する発明群を一括して指している。 〔生理活性物質〕 本発明に係る生理活性物質は、ミョウガより単離されたものであって、ラブダン型ジテルペン化合物のカテゴリーに属し、かつ公知のラブダン型ジテルペン化合物群と比較してトリアルデヒド化合物である点に大きな特徴がある。 このようなラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物として本願発明者が単離した生理活性物質は、より具体的には、ラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物であり、更に具体的には前記「化2」に示す化合物である。この化合物、即ち(E)−8β(17)−ラブド−12−エン−15,16,17−トリアール〔 (E)-8β(17)-labd-12-ene-15,16,17-trial 〕を、ミョウガトリアール(miogatrial)と呼んでいる。 実施例の「キャラクタリゼーション」の項で述べるように、ミョウガトリアールは優れた抗菌作用、血小板凝集抑制作用及びヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用を持つことが確認されている。周知のように、血小板凝集抑制作用は抗血栓作用に、ヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用は抗炎症作用に、それぞれ直結するものである。更に、ミョウガトリアールは、公知の辛味を呈する類縁化合物であるミョウガジアール等と異なり、無味であることを確認している。 ミョウガトリアールに対して、そのトリアルデヒド化合物と言う特徴点を維持したままで化学構造上の若干の変更・修飾を加えた多様な化合物を具体的に想定することができる。例えば、ミョウガトリアールは、前記の「化2」式において位置番号18,19,20で示す原子団がいずれもメチル基であるが、これらの1又は2以上の原子団がアルキル基、アルケニル基、又は、水酸基を有したアルキル基である場合が想定される。これらの化合物はミョウガトリアールと同等の生理活性を持ち、及び/又は、無味である可能性が十分にあると考えている。 更に、前記の「化2」式において、位置番号1〜3、6〜7、9等の炭素原子には水素に替わる各種の置換基を導入できる可能性が大きいが、それらの置換基誘導体の中には、ミョウガトリアールと同等又はそれ以上の生理活性を持ち、及び/又は無味であり、及び/又は、安定性等においてミョウガトリアールと同等あるいはそれ以上である化合物が含まれる可能性がある。 〔生理活性物質の製造方法〕 本発明に係る生理活性物質は、ミョウガからの抽出・精製法により、又は一定の類縁化合物(前駆化合物)に対する酵素処理によって製造することができる。適宜な有機合成反応によって製造することができる可能性もある。 ミョウガからの抽出・精製法において、ミョウガの植物体全組織を原料としても良いが、花蕾部又は地下茎部を選択的に用いることが特に好ましい。ミョウガ原料は、通常の生物体からの抽出の場合と同様に、スライサー等の装置を用いて予め磨砕又は粉砕することで、目的物質の抽出の効率を高めることができる。抽出溶媒は特段に限定されないが、有機溶媒、とりわけヘキサンを用いることが好ましい。抽出の方法あるいは利用する抽出装置の種類は任意に選択することができるが、例えばホモジナイザーによることが好ましい。 ミョウガからの抽出操作だけではミョウガトリアールを分離できず、抽出物からのミョウガトリアールの単離・精製のためには、クロマトグラフィー操作等を必要とする。特に、ミョウガ中にはミョウガジアール等のような非常に近似した化合物が存在するので、極めて慎重な単離プロセスの設計が必要となる。 本願発明者は、「実施例」の項で詳しく述べるように、シリカゲル フラッシュクロマトグラフィー( silica CC)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を一定の要領で組み合わせて行うことにより、ミョウガトリアールを単離することに成功した。 一方、ミョウガトリアールの化学構造が本願発明者によって確定されたため、一定の類縁化合物からミョウガトリアールを合成することも可能である。 例えば、ミョウガトリアールにおいては位置番号8の炭素原子に対して位置番号17の炭素原子を含むアルデヒド基が結合しているが、これに対してミョウガジアールにおいては、実施例の項で「化3」として示すように位置番号8の炭素原子と位置番号17の炭素原子とがエポキシ基を形成している点のみが異なる。従って、ミョウガ花蕾の粗酵素抽出液を作用させたりすることにより、このエポキシ基部分をアルデヒド基に変換させれば、ミョウガトリアールを得ることができる。そのための具体的な合成方法として、前記第6発明に係る粗酵素合成法を例示できる。 この粗酵素合成法は、辛味を有する生理活性物質たるミョウガジアールを無味の生理活性物質たるミョウガトリアールに変換させると言う意味で、辛味生理活性物質をその生理活性を維持したままで無味化する方法としても、重要な技術的意味を有する。 次に、例えば実施例の項で「化4」として示すガラナールAやガラナールBは、ミョウガトリアールにおける位置番号8の炭素原子と、アルデヒド基を構成している位置番号15の炭素原子とが共有結合により閉環した構造である。従ってこの場合にも、例えばミョウガ花蕾の粗酵素抽出液を作用させたりすることにより、ガラナールAやガラナールBにおけるこの閉環した構造を一定の様式で開環させれば、ミョウガトリアールを得ることができる。 〔保健・医療用組成物〕 本発明に係る保健・医療用組成物は、前記した第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質を有効成分として含み、又はミョウガ粉砕物を有効成分として含み、あるいはミョウガ抽出物を有効成分として含む。この場合、ミョウガ抽出物における抽出溶媒による区別は限定されないが、有機溶媒抽出物、とりわけヘキサン抽出物が好ましい。 これらの保健・医療用組成物は、経口用又は非経口用のヒト又は非ヒト動物用の医薬として用いられる他、いわゆるサプリメントとして、又はより広義の健康・保健食品あるいはその添加物として用いられる。医薬としては、抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤としての利用が特に好ましいが、その他にも、頭痛・解熱剤、アレルギー症状の緩和剤等としても有効である可能性がある。サプリメント等として利用する場合には、ミョウガトリアールの無味性が消費者に大きくアピールする可能性がある。 これらの保健・医療用組成物において、第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質、ミョウガ粉砕物あるいはミョウガ抽出物は要するに「有効成分」として含有されれば足りる。従って、保健・医療用組成物は、その他の任意の成分、例えば増量剤、酸化防止剤その他の安定化剤、液剤組成物におけるpH安定剤、着色剤、保存剤等を含むことができる。又、保健・医療用組成物の剤型は全く限定されず、例えば粉剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、内服用液剤、注射用アンプル剤等とすることができる。 次に、本願発明の実施例を説明する。本願発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。 〔実施例1:ミョウガからの生理活性物質の単離〕 (実施例1−1:前処理) 新鮮なミョウガ花蕾を準備し、これを良く水洗して水切りした後、次の抽出を効率良く行うためにスライサーでスライスし、抽出用試料とした。こうして準備した抽出用試料600gを用い、下記のように抽出操作を行った。 (実施例1−2:抽出) 上記の抽出用試料に3倍量のヘキサンを加えてホモジナイズした後、常温・常圧下で、マグネチックスターラー上で攪拌しながら30分間抽出処理を行った。この抽出処理の終了後、抽出残渣に対して更に同様の条件で抽出処理を行い、これらの各抽出液を混合した。 (実施例1−3:クロマトグラフィーによる生理活性物質の単離) 上記の混合した抽出液を濾過及び脱水し、ロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。これを15%アセトン−ヘキサン2mlに溶解し、ヘキサンで平衡化したシリカゲル7729(MERCK)フラッシュクロマトカラム50gに負荷した。そして15%アセトン−ヘキサン300mlでミョウガトリアールを含む画分を溶出した。 溶出画分をロータリーエバポレーターで1/10に濃縮し、分取HPLC(島津製作所)で精製した。カラムは silica-60(TOSOH)7.8×300mm、移動相は3.5%アセトン−ヘキサン、4.0ml/min.で行った。検出は232nmとし、30−34min.に溶出した化合物を回収した。同様の条件で精製を繰り返し、回収画分を窒素気流下にて濃縮乾固し、純度95〜98%の油状物質を得た。 〔実施例2:生理活性物質の構造決定〕 実施例1によって得た結晶を13C−NMRによって構造解析した結果、これが前記「化2」に示すラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物であって、その位置番号18,19,20で示す原子団がそれぞれメチル基である(E)−8β(17)−ラブド−12−エン−15,16,17−トリアールであることを確認し、これをミョウガトリアール(miogatrial)と名付けた。下記の「表1」に、その13C−NMRスペクトルのデータを示す。 〔実施例3:生理活性物質のキャラクタリゼーション〕 次に、ミョウガトリアールのキャラクタリゼーションを他の類縁化合物と対比しながら行った。 (実施例3−1:呈味性) 純度95〜98%のミョウガトリアールの溶解溶液(濃度1×10−2molのエタノール溶液)少量を濾紙上にスポットし、風乾した後に舌で官能テストを行った。その結果、辛味その他の特段の呈味性を感知せず、無味であった。更に、ミョウガトリアールを1×10−2molを超える幾通りかの濃度とした場合についても同上の官能テストを行い、やはり無味であることを確認した。 因みに、前記した類縁化合物であるミョウガジアール(下記の「化3」にその構造式を示す)は辛味を呈することが確認されている。一方、他の類縁化合物であるガラナールA( galanal A)とガラナールB( galanal B)とは無味であることが確認されている。ガラナールA/Bの構造式を下記の「化4」に示す。 (実施例3−2:抗菌活性) ミョウガトリアール、ミョウガジアール、ガラナールA及びガラナールBについて、下記の「表2」に示す微生物に対する抗菌活性試験を行った。抗菌活性試験は寒天希釈法とし、その具体的な実施条件は次の通りである。 1)被験試料:それぞれの生理活性物質物質(純度95〜98%)数mgを正確に測り、ジメチルスルホキシド(DMSO)にて濃度1mg/mlに溶解して滅菌フィルターで濾過した。濾液を無菌的にDMSOで数段階希釈した。 2)菌懸濁液の調整及び培地:ニュートリエント液体培地(日水製薬)3ml中で37°C、13〜15時間前培養し、660nmにおける濁度を測定した。その一部を生理食塩水で希釈して供試した。また寒天培地として寒天濃度1.5%としたソイビーン・カゼインダイジェスト(SCD寒天培地、ダイゴ)を調整し、直径9cmのシャーレに20mlずつ流し込んで固化させた。 3)抗菌活性試験:表2に列挙する4種類の菌についての、前培養して調整した菌懸濁液100μlを、上記した1)の被験試料100μl、及びトップアガー(0.6% NaCl −0.7%寒天)3mlと共に、上記SCD寒天培地に重層し、37°Cで一晩培養後、コロニーの形成の様子を肉眼で観察してMICを判定した。菌の生育を阻止する最小濃度を最小阻止濃度(MIC)と言う。原則として1つでもコロニーが形成された場合には菌が発育したとみなし、完全に発育が阻止された最も薄い濃度(μg/ml)をMICとした。この抗菌活性試験の結果を表2に示す。 上記の表2において、「 MIC(μg/ml)」を単位として示す数値は、例えば数値が「50」である場合、菌の生育を完全に阻止する被験試料の最も薄い濃度が50μg/mlであることを意味している。 (実施例3−3:ヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用) ミョウガトリアール及び他の4種類の化合物について、抗炎症作用と関連するヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用を in vitro で試験した。この試験の具体的な実施方法及び実施条件は次の通りである。 アッセイ混合液として、0.1mol トリス−塩酸緩衝液(pH8.0、37°C)、2mmol CaCl2、2mmol ATP、10μl 超音波処理したホスファチジルコリン、10μl 5−リポキシゲナーゼ(タンパク質)、10μl 測定サンプル(DMSO溶液)を準備し、30°Cで5分間プレインキュベートした後、0.1μmolのアラキドン酸を添加した。その添加後、直ちに30°Cで10分間のインキュベートを開始し、内部標準として0.2nmol 13−ヒドロキシリノール酸を含有した冷メタノール0.3ml(−20°C)を添加して反応を止めた。 そして1N酢酸1μlを添加し、遠心(10,000 r.p.m. 、10分間)後、上澄みを逆相HPLC(島津製作所)分析した。カラムはCAPCELL PAK C18(Shiseido)4.6×150mm、移動相はメタノール−水−酢酸(80:20:0.01)、流速は0.8ml/min.、検出は232nmとした。生成した5−ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(5−HPETE)の量をクロマトパック(島津製作所)で定量し、内部標準をもとに対照〔ケルセチン( quercetin)及びNDGA(nordihydroguaiaretic acid )〕からの5−HPETE生成量と比較し、阻害率を求めた。 上記の試験結果を下記の「表3」に示す。表3において縦軸に「%」で示す阻害率の算定方法は、阻害率(%)=100−(100×測定サンプル及び対照添加ピーク面積値/測定サンプル及び対照非添加ピーク面積値)である。 なお、上記の表3において、ミョウガトリアールは「MT」として表記する。又、「MD」の表記はミョウガジアールを示す。「NDGA」の表記は、酸化防止剤として知られるノルジヒドログアヤレチック酸( nordihydroguaiaretic acid)を示す。「ケルセチン」は、ビタミンPとして知られているポリフェノール化合物である。 (実施例3−4:ヒト血小板凝集阻害作用) ミョウガトリアールと、他の3種類の化合物(ミョウガジアール、ガラナールA、ガラナールB)と、2種のポジティブコントロール(アスピリン及びインドメタシン:これらは周知のように上市されている解熱・沈痛薬である)について、抗血栓作用と関連するヒト血小板凝集阻害作用を in vitro で試験した。この試験の具体的な実施内容及び実施条件は次の通りである。 健常なヒト静脈血27mlを医師により採血してもらい、すぐにクエン酸ナトリウム液(赤沈用チトラール:山之内製薬製)3mLを添加して混和後、750gの遠心力で10分間遠心し多血小板血漿(PRP)を調製した。残渣分について、2000gの遠心力で15分間遠心し乏血小板血漿(PPP)を調製した。光散乱・濁度併用凝集計(PA−20、興和オプチメド製)にて、PRPとPPPの濁度差を100%と設定し、凝集開始剤(惹起剤)としてADP(アデノシン二リン酸)を用いてコントロール(何も試料を加えていないPRP)の最大凝集率(濁度1)に対する、各試料添加時の最大凝集率(濁度2)よりヒト血小板凝集阻害率を下式のように計算した。 ヒト血小板凝集阻害率(%)=100−(濁度2/濁度1)×100このヒト血小板凝集阻害率から各濃度における曲線を作成して、ヒト血小板凝集を50%抑制する濃度をIC50値(μM)として求めることができる。この値が小さいほど、ヒト血小板凝集阻害活性が強いことを意味する。下記の「表4」にミョウガトリアール( miogatorial)、ミョウガジアール( miogadial)、ガラナールA( galanal A)、ガラナールB( galanal B)、アスピリン(aspirin)及びインドメタシン(indomethacin)について求めたIC50値を示す。 表4から、少なくとも次の点を指摘できる。ミョウガトリアールとミョウガジアールの阻害活性は、ほぼ同程度である。これらは、アスピリンよりも阻害活性が強く、インドメタシンとほぼ同程度の阻害活性である。ガラナールA、ガラナールBには阻害活性が認められない。 本願発明によって、ミョウガ由来の新規なラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物が提供される。この化合物は、抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤等の有効成分として有用であり、無味である点から、経口服用に特に適すると言う利点を持つ。ラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物であり、少なくとも抗菌作用、血小板凝集抑制作用又はヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用のいずれか1以上の生理活性を有することを特徴とする生理活性物質。前記ラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物がラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物であることを特徴とする請求項1に記載の生理活性物質。前記ラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物が下記「化1」の一般式で表される無味の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の生理活性物質。(上記の「化1」式において、位置番号18,19,20で示す原子団は、それぞれメチル基である。)ショウガ科植物であるミョウガ(Zingiber mioga)の抽出物より請求項1〜請求項3のいずれかに記載の生理活性物質を採取することを特徴とする生理活性物質の製造方法。前記抽出物をミョウガに対するヘキサン抽出によって調製することを特徴とする請求項4に記載の生理活性物質の製造方法。芳香環にエポキシ基が結合したラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を含む原料液に対して、ミョウガ花蕾より調製した粗酵素抽出液を作用させることにより請求項1〜請求項3のいずれかに記載の生理活性物質を生成させ、これを採取することを特徴とする生理活性物質の製造方法。芳香環にエポキシ基が結合した、辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を含む原料液に対して、ミョウガ花蕾より調製した粗酵素抽出液を作用させることにより、前記辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を、その生理活性を維持したままで、請求項3に記載の無味の生理活性物質に転換させることを特徴とする辛味生理活性物質の無味化方法。有効成分として、少なくとも、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の生理活性物質、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含むことを特徴とする保健・医療用組成物。前記ミョウガ抽出物がミョウガのヘキサン抽出物であることを特徴とする請求項8に記載の保健・医療用組成物。前記保健・医療用組成物が抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の保健・医療用組成物。請求項3に記載の生理活性物質を有効成分とし、経口的に摂取されるものであることを特徴とする保健・医療用組成物。 【課題】 抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤等の有効成分として有用な新規なラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物を提供する。【解決手段】 ショウガ科植物のミョウガに由来する新規なラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物、特に好ましくはラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物。これらの化合物のミョウガ植物体からの精製方法、これらの化合物の粗酵素法による製造方法。これらの化合物を有効成分とする保健・医療用製剤。【選択図】 なし


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特許公報(B2)_生理活性物質とその製造方法、辛味生理活性物質の無味化方法、及び保健・医療用組成物

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_生理活性物質とその製造方法、辛味生理活性物質の無味化方法、及び保健・医療用組成物
出願番号:2005059039
年次:2012
IPC分類:C07C 47/45,A61K 31/11,A61K 36/18,A61P 7/02,A61P 29/00,A61P 31/04,A61P 43/00,C07C 45/79,C07C 45/81,C12P 7/24


特許情報キャッシュ

中村 宜督 大澤 俊彦 森光 康次郎 阿部 雅子 小澤 好夫 宇田 靖 JP 4849388 特許公報(B2) 20111028 2005059039 20050303 生理活性物質とその製造方法、辛味生理活性物質の無味化方法、及び保健・医療用組成物 国立大学法人名古屋大学 504139662 国立大学法人お茶の水女子大学 305013910 学校法人高崎健康福祉大学 501410115 国立大学法人宇都宮大学 304036743 北川 治 100097733 中村 宜督 大澤 俊彦 森光 康次郎 阿部 雅子 小澤 好夫 宇田 靖 20120111 C07C 47/45 20060101AFI20111215BHJP A61K 31/11 20060101ALI20111215BHJP A61K 36/18 20060101ALI20111215BHJP A61P 7/02 20060101ALI20111215BHJP A61P 29/00 20060101ALI20111215BHJP A61P 31/04 20060101ALI20111215BHJP A61P 43/00 20060101ALI20111215BHJP C07C 45/79 20060101ALI20111215BHJP C07C 45/81 20060101ALI20111215BHJP C12P 7/24 20060101ALI20111215BHJP JPC07C47/45A61K31/11A61K35/78 CA61P7/02A61P29/00A61P31/04A61P43/00 111C07C45/79C07C45/81C12P7/24 C07C 47/45 A61K 31/11 A61K 36/18 A61P 7/02 A61P 29/00 A61P 31/04 A61P 43/00 C07C 45/79 C07C 45/81 C12P 7/24 CA/REGISTRY(STN) 特開昭63−162644(JP,A) 特開平06−025214(JP,A) 特開2002−047195(JP,A) 特開平01−224326(JP,A) 特開2005−104886(JP,A) 特表2002−500209(JP,A) 国際公開第00/024411(WO,A1) Cancer Letters,2003年,199,P113-119 Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2002年,66(12),P2698-2700 Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry ,2004年,68(7),P1601-1604 9 2006241068 20060914 16 20080226 増永 淳司 本発明は、生理活性物質とその製造方法、辛味生理活性物質の無味化方法、及び保健・医療用組成物に関する。 更に詳しくは、新たな由来植物から新規に見出されたラブダン型ジテルペン化合物たる生理活性物質の発明と、これらの生理活性物質の製造方法の発明と、公知の辛味生理活性物質を無味の生理活性物質に変換させる辛味生理活性物質の無味化方法の発明と、これらの生理活性物質を利用して構成される保健・医療用組成物の発明とに関する。 従来より、ショウガ(生姜)、ターメリック等のショウガ科植物は香辛料や香味野菜として消費されており、又、炎症や胃腸障害等の症状を改善するために、民間薬的な利用が幅広く行われている。 更に、従来、ショウガ等に由来する種々のラブダン型ジテルペン化合物が報告されており、それらの化合物が抗菌作用、血小板凝集抑制作用、ヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用、抗癌作用等の種々の有用な生理活性作用を有するとして、抗菌剤、抗血栓剤、抗炎症剤、抗癌剤等への利用が提案されている。又、これらのラブダン型ジテルペン化合物は辛味を呈するものが多いため、呈味成分としての利用も提案されている。特開昭63−162644号公報 上記の特許文献1には、(E)−8,17−エポキシ−ラブド−12−エン−15,16−ジアールその他のラブダン型ジテルペン化合物が開示され、これらの化合物が Alpinia属植物に由来する点、辛味性である点、抗腫瘍剤等としての有用性が期待される点、等が述べられている。特開平6−25214号公報 上記の特許文献2には、7−アミノラブダン類とその製造方法、及びその医療用製剤としての利用等が開示され、7−アミノラブダン類は血圧作用、カリウムチャンネル孔活性を有して心臓血管性疾患、代謝性疾患、ガン化学療法等に有効である、としている。特開2002−47195号公報 上記の特許文献3には、有効成分を具体的に特定してはいないものの、所定の抽出操作を経て得られた、抗炎症医薬組成物、抗血小板凝集医薬組成物、又は抗真菌医薬組成物が開示されている。 一方、ショウガ科植物の一種であるミョウガ(Zingiber mioga)は、我が国に特徴的な香草であり、古来その新芽や蕾が食用や生薬として広く利用されているにも関わらず、その有効成分を分析する試みは殆どなされず、その報告も極めて限定的である。 このような状況にあって、本願発明者らは既に、下記の非特許文献1によって、ミョウガにはラブダン型ジテルペンジアルデヒド化合物であるミョウガジアール( miogadial)、即ち(E)−8β(17)−エポキシラブド−12−エン−15,16−ジアール〔 (E)-8β(17)-epoxylabd-12-ene-15,16-dial〕や、2種類のアセタール環化ラブダンジテルペンアルデヒド化合物等の成分が含まれることを明らかにしている。又、ミョウガの成分が強い抗菌活性を示すことを下記の非特許文献2によって報告し、更にミョウガの成分が癌細胞に対する優れたアポトーシス誘導活性や、強い血小板凝集阻害活性を示すことも、下記の非特許文献3等によって報告している。M. Abe et al., Biosci. Biotech. Biochem., 66, 2698-2700(2002)M. Abe et al., Biosci. Biotech. Biochem., 68(7),1601-1604(2004)N. Miyoshi et al., Cancer Lett., 199, 113-119(2003) ところで、上記の非特許文献1〜非特許文献3等によって本願発明者らが報告したミョウガの有効成分は、他のショウガ科植物等にも存在することが既に報告されている化合物である。この点を考察するに、本願発明者が上記の非特許文献1〜非特許文献3等で報告したミョウガ特有の多様かつ強力な生理活性が、他の植物にも存在が報告されている前記のミョウガジアールやアセタール環化ラブダンジテルペンアルデヒド化合物のみによって担われていると考えることは、論理的に整合し難いことである。本願発明者は、このような考察から、ミョウガ中には多様で強力な生理活性を示す未知の成分が含まれている可能性がある、と言うことを考えた。 そこで本発明は、ミョウガ中に存在を推定し得る未知の強力な生理活性物質を単離し、その構造を解明し、かつそのキャラクタリゼーションを行って、判明した生理活性物質の特徴を活用できる新規かつ有用な利用方法を開発することを、解決すべき技術的課題とする。 (第1発明の構成) 上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、ラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物であり、少なくとも抗菌作用、血小板凝集抑制作用、又はヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用のいずれか1以上の生理活性を有する、生理活性物質である。 (第2発明の構成) 上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係るラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物が、ラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物である、生理活性物質である。 (第3発明の構成) 上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第2発明に係るラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物が下記「化2」の一般式で表される無味の化合物である、生理活性物質である。(上記の「化2」式において、位置番号18,19,20で示す原子団はそれぞれメチル基である。) (第4発明の構成) 上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、ショウガ科植物であるミョウガ(Zingiber mioga)の抽出物より第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質を採取する、生理活性物質の製造方法である。 (第5発明の構成) 上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第4発明に係る抽出物をミョウガに対するヘキサン抽出によって調製する、生理活性物質の製造方法である。 (第6発明の構成) 上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、芳香環にエポキシ基が結合したラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を含む原料液に対して、ミョウガ花蕾より調製した粗酵素抽出液を作用させることにより第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質を生成させ、これを採取する、生理活性物質の製造方法である。 (第7発明の構成) 上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、芳香環にエポキシ基が結合した、辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を含む原料液に対して、ミョウガ花蕾より調製した粗酵素抽出液を作用させることにより、前記辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を、その生理活性を維持したままで、第3発明に係る無味の生理活性物質に転換させる、辛味生理活性物質の無味化方法である。 (第8発明の構成) 上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、有効成分として、少なくとも、第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含む、保健・医療用組成物である。 (第9発明の構成) 上記課題を解決するための本願第9発明の構成は、前記第8発明に係るミョウガ抽出物がミョウガのヘキサン抽出物である、保健・医療用組成物である。 (第10発明の構成) 上記課題を解決するための本願第10発明の構成は、前記第8発明又は第9発明に係る保健・医療用組成物が、抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤である、保健・医療用組成物である。 (第11発明の構成) 上記課題を解決するための本願第11発明の構成は、第3発明に係る生理活性物質を有効成分とし、経口的に摂取される、保健・医療用組成物である。 (第1発明の効果) 本願発明者は、詳しくは後述する各種クロマトグラフィー操作の組み合わせ等による精密な化合物探索によって、第1発明に係る生理活性物質を単離することに成功した。この生理活性物質は、優れた抗菌作用、血小板凝集抑制作用、ヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用を示すことが in vivoあるいは in vitro で既に確認されている。又、本願発明者は、第1発明に係る生理活性物質が更に、少なくとも優れた腎機能改善作用及び抗癌作用を示すであろうと推定している。即ち、第1発明の生理活性物質は非常に多様な生理活性を示す。 しかも第1発明に係る生理活性物質は、ラブダン型ジテルペン化合物の一種であるが、「トリアルデヒド」化合物である点において、従来知られたラブダン型ジテルペン化合物とは大きくカテゴリーを異にするだけでなく、自然界において非常に希有な新規化合物である。 第1発明に係る生理活性物質におけるトリアルデヒド化合物であると言う構造上の希有な特徴が、第1に、この生理活性物質の多様かつ強力な生理活性と関連しているものと考えられる。第2に、一般論として、化合物のトリアルデヒド構造が人体生理等に対して示し得る機能について貴重な示唆を与えると言う意味で、今後の各種医薬品や保健食品成分の開発に対して重要なリード化合物となる可能性がある。 (第2発明の効果) 上記した第1発明に係る生理活性物質は、より好ましくは、ラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物である。 (第3発明の効果) 上記した第2発明に係るラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物は、更に好ましくは前記「化2」の一般式で表される化合物である。 本願発明者は、少なくとも第3発明に係る生理活性物質については無味の化合物であることを確認している。この点は、近縁化合物であるラブダン骨格構造を持つ15,16−ジアール化合物たるミョウガジアール等が辛味を呈する点と、著しい対照をなす。 従って、第1に、第3発明に係る生理活性物質は、辛味のない経口摂取用の保健・医療用組成物等としての利用を考えることができる。第2に、近縁化合物における1個のアルデヒド基の違いが辛味と無味の分かれ目となっている点において、一般論として、今後の呈味成分の開発・研究における重要なリード化合物となる可能性がある。 (第4発明の効果) 本願発明者がミョウガより第1発明〜第3発明の生理活性物質を単離し得た点から、当然、これらの生理活性物質の有効な製造方法として第4発明の製造方法を提案することができる。 (第5発明の効果) 上記の第4発明の製造方法においては、抽出物をミョウガに対するヘキサン抽出によって調製することが、特に好ましい。但し、他の各種の手段にによる抽出物の調製も有効に採用することができるのは、もち論である。 (第6発明の効果) 第1発明〜第3発明の生理活性物質は、いわゆる粗酵素法によっても、有効に製造することができる。そのような粗酵素法の好ましい実施形態の一つとして、第6発明の製造方法を例示することができる。 なお、本願発明者は、第1発明〜第3発明の生理活性物質を有機合成法によっても有効に製造することができる可能性を考えているが、今までのところ、そのような有機合成法の具体的に有効な実施形態を完成するには到っていない。 (第7発明の効果) 一方、公知の代表的なラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物であるミョウガジアールが辛味を呈する反面、第3発明の生理活性物質は無味であり、かつ両者は生理活性において近似している。従って、経口摂取の場合の辛味を嫌う患者又は消費者の便宜を考慮した場合、前記の第6発明の方法は、第7発明のように、辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を、その生理活性を維持したままで無味の生理活性物質に転換させると言う、辛味生理活性物質の無味化方法の発明として提案することができる。 (第8発明の効果) 第8発明の保健・医療用組成物は、有効成分として、少なくとも、第1発明〜第3発明に係る生理活性物質、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含むので、第1発明〜第3発明に係る生理活性物質の優れた保健・医療効果を確実に期待することができる。 前記したように、ミョウガには第1発明〜第3発明に係る生理活性物質の他にミョウガジアールやジテルペンアルデヒド化合物も含まれることが既に確認されているので、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含む保健・医療用組成物においては、これらの化合物による相乗効果も期待できる。 本願発明者の知る限りにおいて、第1発明〜第3発明に係る生理活性物質や、ショウガ科植物の内のミョウガを特定した植物粉砕物又は抽出物を含有する保健・医療用組成物は見聞したことがなく、その意味で、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含有する保健・医療用組成物も含めて、第7発明の保健・医療用組成物は新規な保健・医療効果を期待できる保健・医療用組成物である。 なお、これらの保健・医療用組成物は、少なくとも経口用として利用できるし、通常は注射用その他の非経口用としても利用できる。ミョウガ粉砕物からなる場合には、非経口利用に注意を要する場合もある。 (第9発明の効果) 上記の第8発明において用いるミョウガ抽出物としては、第9発明のように、ミョウガのヘキサン抽出物が特に好ましい。 (第10発明の効果) 上記の第8発明又は第9発明に係る保健・医療用組成物は、少なくとも抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤としての有効性を確実に期待することができる。本願発明者は、その他にも、「第1発明の効果」欄で述べた点から、優れた腎機能改善剤又は抗癌剤としても有効であろうと推定している。更に今後、第1発明〜第3発明に係る生理活性物質の新たな生理活性が判明する可能性があり、それらの用途の保健・医療用剤としても使用できる可能性がある。 (第11明の効果) 第3発明に係る生理活性物質は、無味であり、しかも所定の優れた生理活性を示すので、第3発明に係る生理活性物質を有効成分とし経口的に摂取される保健・医療用組成物は、特に辛味を嫌う患者や消費者に対して最適である。 次に、本願の第1発明〜第11明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。以下において単に「本発明」と言う時は、第1発明〜第11明の内の該当する発明群を一括して指している。 〔生理活性物質〕 本発明に係る生理活性物質は、ミョウガより単離されたものであって、ラブダン型ジテルペン化合物のカテゴリーに属し、かつ公知のラブダン型ジテルペン化合物群と比較してトリアルデヒド化合物である点に大きな特徴がある。 このようなラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物として本願発明者が単離した生理活性物質は、より具体的には、ラブダン骨格構造を持つ15,16,17−トリアール化合物であり、更に具体的には前記「化2」に示す化合物である。この化合物、即ち(E)−8β(17)−ラブド−12−エン−15,16,17−トリアール〔 (E)-8β(17)-labd-12-ene-15,16,17-trial 〕を、ミョウガトリアール(miogatrial)と呼んでいる。 実施例の「キャラクタリゼーション」の項で述べるように、ミョウガトリアールは優れた抗菌作用、血小板凝集抑制作用及びヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用を持つことが確認されている。周知のように、血小板凝集抑制作用は抗血栓作用に、ヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用は抗炎症作用に、それぞれ直結するものである。更に、ミョウガトリアールは、公知の辛味を呈する類縁化合物であるミョウガジアール等と異なり、無味であることを確認している。 ミョウガトリアールに対して、そのトリアルデヒド化合物と言う特徴点を維持したままで化学構造上の若干の変更・修飾を加えた多様な化合物を具体的に想定することができる。例えば、ミョウガトリアールは、前記の「化2」式において位置番号18,19,20で示す原子団がいずれもメチル基であるが、これらの1又は2以上の原子団がアルキル基、アルケニル基、又は、水酸基を有したアルキル基である場合が想定される。これらの化合物はミョウガトリアールと同等の生理活性を持ち、及び/又は、無味である可能性が十分にあると考えている。 更に、前記の「化2」式において、位置番号1〜3、6〜7、9等の炭素原子には水素に替わる各種の置換基を導入できる可能性が大きいが、それらの置換基誘導体の中には、ミョウガトリアールと同等又はそれ以上の生理活性を持ち、及び/又は無味であり、及び/又は、安定性等においてミョウガトリアールと同等あるいはそれ以上である化合物が含まれる可能性がある。 〔生理活性物質の製造方法〕 本発明に係る生理活性物質は、ミョウガからの抽出・精製法により、又は一定の類縁化合物(前駆化合物)に対する酵素処理によって製造することができる。適宜な有機合成反応によって製造することができる可能性もある。 ミョウガからの抽出・精製法において、ミョウガの植物体全組織を原料としても良いが、花蕾部又は地下茎部を選択的に用いることが特に好ましい。ミョウガ原料は、通常の生物体からの抽出の場合と同様に、スライサー等の装置を用いて予め磨砕又は粉砕することで、目的物質の抽出の効率を高めることができる。抽出溶媒は特段に限定されないが、有機溶媒、とりわけヘキサンを用いることが好ましい。抽出の方法あるいは利用する抽出装置の種類は任意に選択することができるが、例えばホモジナイザーによることが好ましい。 ミョウガからの抽出操作だけではミョウガトリアールを分離できず、抽出物からのミョウガトリアールの単離・精製のためには、クロマトグラフィー操作等を必要とする。特に、ミョウガ中にはミョウガジアール等のような非常に近似した化合物が存在するので、極めて慎重な単離プロセスの設計が必要となる。 本願発明者は、「実施例」の項で詳しく述べるように、シリカゲル フラッシュクロマトグラフィー( silica CC)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を一定の要領で組み合わせて行うことにより、ミョウガトリアールを単離することに成功した。 一方、ミョウガトリアールの化学構造が本願発明者によって確定されたため、一定の類縁化合物からミョウガトリアールを合成することも可能である。 例えば、ミョウガトリアールにおいては位置番号8の炭素原子に対して位置番号17の炭素原子を含むアルデヒド基が結合しているが、これに対してミョウガジアールにおいては、実施例の項で「化3」として示すように位置番号8の炭素原子と位置番号17の炭素原子とがエポキシ基を形成している点のみが異なる。従って、ミョウガ花蕾の粗酵素抽出液を作用させたりすることにより、このエポキシ基部分をアルデヒド基に変換させれば、ミョウガトリアールを得ることができる。そのための具体的な合成方法として、前記第6発明に係る粗酵素合成法を例示できる。 この粗酵素合成法は、辛味を有する生理活性物質たるミョウガジアールを無味の生理活性物質たるミョウガトリアールに変換させると言う意味で、辛味生理活性物質をその生理活性を維持したままで無味化する方法としても、重要な技術的意味を有する。 次に、例えば実施例の項で「化4」として示すガラナールAやガラナールBは、ミョウガトリアールにおける位置番号8の炭素原子と、アルデヒド基を構成している位置番号15の炭素原子とが共有結合により閉環した構造である。従ってこの場合にも、例えばミョウガ花蕾の粗酵素抽出液を作用させたりすることにより、ガラナールAやガラナールBにおけるこの閉環した構造を一定の様式で開環させれば、ミョウガトリアールを得ることができる。 〔保健・医療用組成物〕 本発明に係る保健・医療用組成物は、前記した第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質を有効成分として含み、又はミョウガ粉砕物を有効成分として含み、あるいはミョウガ抽出物を有効成分として含む。この場合、ミョウガ抽出物における抽出溶媒による区別は限定されないが、有機溶媒抽出物、とりわけヘキサン抽出物が好ましい。 これらの保健・医療用組成物は、経口用又は非経口用のヒト又は非ヒト動物用の医薬として用いられる他、いわゆるサプリメントとして、又はより広義の健康・保健食品あるいはその添加物として用いられる。医薬としては、抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤としての利用が特に好ましいが、その他にも、頭痛・解熱剤、アレルギー症状の緩和剤等としても有効である可能性がある。サプリメント等として利用する場合には、ミョウガトリアールの無味性が消費者に大きくアピールする可能性がある。 これらの保健・医療用組成物において、第1発明〜第3発明のいずれかに係る生理活性物質、ミョウガ粉砕物あるいはミョウガ抽出物は要するに「有効成分」として含有されれば足りる。従って、保健・医療用組成物は、その他の任意の成分、例えば増量剤、酸化防止剤その他の安定化剤、液剤組成物におけるpH安定剤、着色剤、保存剤等を含むことができる。又、保健・医療用組成物の剤型は全く限定されず、例えば粉剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、内服用液剤、注射用アンプル剤等とすることができる。 次に、本願発明の実施例を説明する。本願発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。 〔実施例1:ミョウガからの生理活性物質の単離〕 (実施例1−1:前処理) 新鮮なミョウガ花蕾を準備し、これを良く水洗して水切りした後、次の抽出を効率良く行うためにスライサーでスライスし、抽出用試料とした。こうして準備した抽出用試料600gを用い、下記のように抽出操作を行った。 (実施例1−2:抽出) 上記の抽出用試料に3倍量のヘキサンを加えてホモジナイズした後、常温・常圧下で、マグネチックスターラー上で攪拌しながら30分間抽出処理を行った。この抽出処理の終了後、抽出残渣に対して更に同様の条件で抽出処理を行い、これらの各抽出液を混合した。 (実施例1−3:クロマトグラフィーによる生理活性物質の単離) 上記の混合した抽出液を濾過及び脱水し、ロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。これを15%アセトン−ヘキサン2mlに溶解し、ヘキサンで平衡化したシリカゲル7729(MERCK)フラッシュクロマトカラム50gに負荷した。そして15%アセトン−ヘキサン300mlでミョウガトリアールを含む画分を溶出した。 溶出画分をロータリーエバポレーターで1/10に濃縮し、分取HPLC(島津製作所)で精製した。カラムは silica-60(TOSOH)7.8×300mm、移動相は3.5%アセトン−ヘキサン、4.0ml/min.で行った。検出は232nmとし、30−34min.に溶出した化合物を回収した。同様の条件で精製を繰り返し、回収画分を窒素気流下にて濃縮乾固し、純度95〜98%の油状物質を得た。 〔実施例2:生理活性物質の構造決定〕 実施例1によって得た結晶を13C−NMRによって構造解析した結果、これが前記「化2」に示すラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物であって、その位置番号18,19,20で示す原子団がそれぞれメチル基である(E)−8β(17)−ラブド−12−エン−15,16,17−トリアールであることを確認し、これをミョウガトリアール(miogatrial)と名付けた。下記の「表1」に、その13C−NMRスペクトルのデータを示す。 〔実施例3:生理活性物質のキャラクタリゼーション〕 次に、ミョウガトリアールのキャラクタリゼーションを他の類縁化合物と対比しながら行った。 (実施例3−1:呈味性) 純度95〜98%のミョウガトリアールの溶解溶液(濃度1×10−2molのエタノール溶液)少量を濾紙上にスポットし、風乾した後に舌で官能テストを行った。その結果、辛味その他の特段の呈味性を感知せず、無味であった。更に、ミョウガトリアールを1×10−2molを超える幾通りかの濃度とした場合についても同上の官能テストを行い、やはり無味であることを確認した。 因みに、前記した類縁化合物であるミョウガジアール(下記の「化3」にその構造式を示す)は辛味を呈することが確認されている。一方、他の類縁化合物であるガラナールA( galanal A)とガラナールB( galanal B)とは無味であることが確認されている。ガラナールA/Bの構造式を下記の「化4」に示す。 (実施例3−2:抗菌活性) ミョウガトリアール、ミョウガジアール、ガラナールA及びガラナールBについて、下記の「表2」に示す微生物に対する抗菌活性試験を行った。抗菌活性試験は寒天希釈法とし、その具体的な実施条件は次の通りである。 1)被験試料:それぞれの生理活性物質物質(純度95〜98%)数mgを正確に測り、ジメチルスルホキシド(DMSO)にて濃度1mg/mlに溶解して滅菌フィルターで濾過した。濾液を無菌的にDMSOで数段階希釈した。 2)菌懸濁液の調整及び培地:ニュートリエント液体培地(日水製薬)3ml中で37°C、13〜15時間前培養し、660nmにおける濁度を測定した。その一部を生理食塩水で希釈して供試した。また寒天培地として寒天濃度1.5%としたソイビーン・カゼインダイジェスト(SCD寒天培地、ダイゴ)を調整し、直径9cmのシャーレに20mlずつ流し込んで固化させた。 3)抗菌活性試験:表2に列挙する4種類の菌についての、前培養して調整した菌懸濁液100μlを、上記した1)の被験試料100μl、及びトップアガー(0.6% NaCl −0.7%寒天)3mlと共に、上記SCD寒天培地に重層し、37°Cで一晩培養後、コロニーの形成の様子を肉眼で観察してMICを判定した。菌の生育を阻止する最小濃度を最小阻止濃度(MIC)と言う。原則として1つでもコロニーが形成された場合には菌が発育したとみなし、完全に発育が阻止された最も薄い濃度(μg/ml)をMICとした。この抗菌活性試験の結果を表2に示す。 上記の表2において、「 MIC(μg/ml)」を単位として示す数値は、例えば数値が「50」である場合、菌の生育を完全に阻止する被験試料の最も薄い濃度が50μg/mlであることを意味している。 (実施例3−3:ヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用) ミョウガトリアール及び他の4種類の化合物について、抗炎症作用と関連するヒト5−リポキシゲナーゼ阻害作用を in vitro で試験した。この試験の具体的な実施方法及び実施条件は次の通りである。 アッセイ混合液として、0.1mol トリス−塩酸緩衝液(pH8.0、37°C)、2mmol CaCl2、2mmol ATP、10μl 超音波処理したホスファチジルコリン、10μl 5−リポキシゲナーゼ(タンパク質)、10μl 測定サンプル(DMSO溶液)を準備し、30°Cで5分間プレインキュベートした後、0.1μmolのアラキドン酸を添加した。その添加後、直ちに30°Cで10分間のインキュベートを開始し、内部標準として0.2nmol 13−ヒドロキシリノール酸を含有した冷メタノール0.3ml(−20°C)を添加して反応を止めた。 そして1N酢酸1μlを添加し、遠心(10,000 r.p.m. 、10分間)後、上澄みを逆相HPLC(島津製作所)分析した。カラムはCAPCELL PAK C18(Shiseido)4.6×150mm、移動相はメタノール−水−酢酸(80:20:0.01)、流速は0.8ml/min.、検出は232nmとした。生成した5−ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(5−HPETE)の量をクロマトパック(島津製作所)で定量し、内部標準をもとに対照〔ケルセチン( quercetin)及びNDGA(nordihydroguaiaretic acid )〕からの5−HPETE生成量と比較し、阻害率を求めた。 上記の試験結果を下記の「表3」に示す。表3において縦軸に「%」で示す阻害率の算定方法は、阻害率(%)=100−(100×測定サンプル及び対照添加ピーク面積値/測定サンプル及び対照非添加ピーク面積値)である。 なお、上記の表3において、ミョウガトリアールは「MT」として表記する。又、「MD」の表記はミョウガジアールを示す。「NDGA」の表記は、酸化防止剤として知られるノルジヒドログアヤレチック酸( nordihydroguaiaretic acid)を示す。「ケルセチン」は、ビタミンPとして知られているポリフェノール化合物である。 (実施例3−4:ヒト血小板凝集阻害作用) ミョウガトリアールと、他の3種類の化合物(ミョウガジアール、ガラナールA、ガラナールB)と、2種のポジティブコントロール(アスピリン及びインドメタシン:これらは周知のように上市されている解熱・沈痛薬である)について、抗血栓作用と関連するヒト血小板凝集阻害作用を in vitro で試験した。この試験の具体的な実施内容及び実施条件は次の通りである。 健常なヒト静脈血27mlを医師により採血してもらい、すぐにクエン酸ナトリウム液(赤沈用チトラール:山之内製薬製)3mLを添加して混和後、750gの遠心力で10分間遠心し多血小板血漿(PRP)を調製した。残渣分について、2000gの遠心力で15分間遠心し乏血小板血漿(PPP)を調製した。光散乱・濁度併用凝集計(PA−20、興和オプチメド製)にて、PRPとPPPの濁度差を100%と設定し、凝集開始剤(惹起剤)としてADP(アデノシン二リン酸)を用いてコントロール(何も試料を加えていないPRP)の最大凝集率(濁度1)に対する、各試料添加時の最大凝集率(濁度2)よりヒト血小板凝集阻害率を下式のように計算した。 ヒト血小板凝集阻害率(%)=100−(濁度2/濁度1)×100このヒト血小板凝集阻害率から各濃度における曲線を作成して、ヒト血小板凝集を50%抑制する濃度をIC50値(μM)として求めることができる。この値が小さいほど、ヒト血小板凝集阻害活性が強いことを意味する。下記の「表4」にミョウガトリアール( miogatorial)、ミョウガジアール( miogadial)、ガラナールA( galanal A)、ガラナールB( galanal B)、アスピリン(aspirin)及びインドメタシン(indomethacin)について求めたIC50値を示す。 表4から、少なくとも次の点を指摘できる。ミョウガトリアールとミョウガジアールの阻害活性は、ほぼ同程度である。これらは、アスピリンよりも阻害活性が強く、インドメタシンとほぼ同程度の阻害活性である。ガラナールA、ガラナールBには阻害活性が認められない。 本願発明によって、ミョウガ由来の新規なラブダン型ジテルペントリアルデヒド化合物が提供される。この化合物は、抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤等の有効成分として有用であり、無味である点から、経口服用に特に適すると言う利点を持つ。下記「化1」の一般式で表される化合物であることを特徴とする生理活性物質。(上記の「化1」式において、位置番号18,19,20で示す原子団は、それぞれメチル基である。)ショウガ科植物であるミョウガ(Zingibermioga)の抽出物より請求項1に記載の生理活性物質を採取することを特徴とする生理活性物質の製造方法。前記抽出物をミョウガに対するヘキサン抽出によって調製することを特徴とする請求項2に記載の生理活性物質の製造方法。芳香環にエポキシ基が結合したラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を含む原料液に対して、ミョウガ花蕾より調製した粗酵素抽出液を作用させることにより請求項1に記載の生理活性物質を生成させ、これを採取することを特徴とする生理活性物質の製造方法。芳香環にエポキシ基が結合した、辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を含む原料液に対して、ミョウガ花蕾より調製した粗酵素抽出液を作用させることにより、前記辛味を有するラブダン型ジテルペンアルデヒド化合物を、その生理活性を維持したままで、請求項1に記載の生理活性物質に転換させることを特徴とする辛味生理活性物質の無味化方法。有効成分として、少なくとも、請求項1に記載の生理活性物質、ミョウガ粉砕物又はミョウガ抽出物を含むことを特徴とする保健・医療用組成物。前記ミョウガ抽出物がミョウガのヘキサン抽出物であることを特徴とする請求項6に記載の保健・医療用組成物。前記保健・医療用組成物が抗菌剤、抗血栓剤又は抗炎症剤であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の保健・医療用組成物。請求項1に記載の生理活性物質を有効成分とし、経口的に摂取されるものであることを特徴とする保健・医療用組成物。


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