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タイトル:公開特許公報(A)_鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液および鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出方法
出願番号:2005020212
年次:2005
IPC分類:7,G01N33/20


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木村 秀途 林 功 松崎 明博 高宮 生人 豊岡 高明 JP 2005241635 公開特許公報(A) 20050908 2005020212 20050127 鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液および鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出方法 JFEスチール株式会社 000001258 杉村 興作 100072051 高見 和明 100100125 徳永 博 100101096 岩佐 義幸 100086645 藤谷 史朗 100107227 来間 清志 100114292 冨田 和幸 100119530 木村 秀途 林 功 松崎 明博 高宮 生人 豊岡 高明 JP 2004023297 20040130 7G01N33/20 JPG01N33/20 K 5 OL 11 2G055 2G055AA03 2G055BA05 2G055EA06 2G055FA02 2G055FA09 本発明は、鉄鋼材料の評価・品質管理・新規開発等に広く用いられる金属組織の観察手法に属し、主として焼入れまたは焼入れ焼戻し熱処理を行った鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界を現出するための腐食液と現出方法に関するものである。 鉄鋼材料の高性能化は、合金化による方法が飽和状態に達しつつあり、種々の製造プロセスの組み合わせによる方法が、現下盛んに行われている。そして、それらの技術を側面から支えているのが、各種特性や性能を評価する方法であり、評価方法なくしては新技術の開発は困難である。 最近、特に鉄鋼材料の高性能化で注目されているのが、結晶粒の微細化技術である。加工硬化、固溶強化および析出強化など、通常考えられる多くの強化方法では、金属の延性・靭性は損なわれる傾向にあるのに対し、結晶粒の微細化、即ち細粒化は、強度、延性、靭性のいずれの向上にも有効であるため、多くの開発者により、特に鉄鋼材料の超細粒化が盛んに研究されている。 ここに、焼入れまたは焼入れ焼戻し熱処理を行った鉄鋼材料の組織微細化は、旧オーステナイト粒の細粒化が主要な方法であることから、その粒径制御を主眼とする開発ならびにその評価には、旧オーステナイト粒を観察する必要があり、そこで旧オーステナイト粒界を現出するためのエッチング技術が、これまでに無いほど重要になっている。 この旧オーステナイト粒界の現出自体は、非常に困難な技術として認識されているが、特許文献1および2には、ピクリン酸水溶液、硝酸、塩酸、塩化物および界面活性剤を組み合わせて添加した腐食液による、旧オーステナイト粒界の現出技術が提案されている。いずれも、仔細な成分調整と液の加熱等の制御を伴う技術ではあるが、旧オーステナイト粒組織を評価する技術として一定の成果を上げている。特開平7−325080号公報特開平9−43230号公報 しかしながら、上記の技術の適用範囲は、従来の旧オーステナイト粒径が5μm超の一般鉄鋼材料における旧オーステナイト粒組織の現出に留まっており、現状ないし将来の重要技術となる鉄鋼材料の超細粒化の評価手段としては、十分とはいえないものであった。すなわち、上掲の手段にて、現下の先進材料である結晶粒径5μm以下さらには2μm 以下という、超細粒の鉄鋼材料の金属組織を評価しようとした場合、結晶粒径の評価が出来ないのみならず、金属組織自体の観察が困難であるのが実体である。 そこで、本発明は、これら従来技術の問題点を解決し、例えば結晶粒径2μm以下の超細粒組織の鉄鋼材料をも含む、鉄鋼材料全般の旧オーステナイト粒界を現出し得る腐食液を、旧オーステナイト粒界の現出技術に併せて提供することを目的とするものである。 本発明を成すに当たり、従来方法で腐食したとき金属組織が不鮮明となる超細粒鋼の顕微鏡観察を繰り返すうち、発明者らは、超細粒鋼では結晶粒界の体積率が通常鋼より非常に大きいため、粒界を僅かでも過腐食することにより組織が認識できなくなること、超細粒鋼の観察には高倍率での顕微鏡観察を実施するために、より繊細で鮮明度が高く選択的な粒界の腐食が必要であること、を見出すに至った。 従って、これらのことから、特に必要とされる技術は、粒面および粒界を腐食させる薬剤を分類し、注意深く組み合わせることにあると考え、幾多の実験を重ねた。即ち、種々の試行錯誤から、ピクリン酸、硝酸および硫酸等は粒面腐食を促進する傾向があり、一方、還元剤、塩化物および塩酸等は粒界腐食を促進する傾向が強いことを明らかにした。 しかし、上記の組み合わせを繰り返しても、超細粒鋼の旧オーステナイト組織は現出し得ず、特に硝酸や硫酸等の強酸は、少量の添加でも劇的に腐食液のpHを下げる作用を持つことから、それらを含有させたものは腐食性が強すぎる傾向があった。例えば、上記の特許文献1で開示の腐食液には、硝酸、硫酸および塩酸が含まれ、また上記の特許文献2で開示の腐食液には、塩酸が含まれることから、従来材料の旧オーステナイト粒界の腐食には問題はなかったばかりか、腐食速度を上げる働きをしていると考えられるものの、一方で、超細粒鋼において、同時に組織全面を腐食させてしまい粒界の観察が困難になるのは、これらの強腐食性が原因であると考えられた。 そこで、発明者らは、腐食速度を抑制しつつ、粒内および粒界をバランスよく腐食させる組み合わせとして、ピクリン酸と塩化第一鉄との配合という全く異なった基本組成から出発し、試行を重ねた。その中で、強酸である塩酸を用いない、あるいは、その量を規制し、局部腐食、ひいては粒界の腐食を促進する物質の添加が必要と結論し、さらに模索を続けるうち、シュウ酸を鉄鋼材料のエッチングへ適用することを着想し、種々の濃度でピクリン酸−塩化第一鉄溶液に添加を試みた結果、超細粒鋼の組織を鮮明に現出する最適値があることを見出した。 すなわち、上記腐食液にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤を添加することによって、組織現出の作業に最適な腐食速度となるように調整した。さらに、界面活性剤としては、アルキルスルホン酸ナトリウム、αスルホ脂肪酸エステルナトリウム等の他種でも働きは同等であること、塩化物は塩化第二鉄や塩化カルシウム等でも働きは同等であることを確認し、本発明を完成するに至った。 本発明の要旨は、次のとおりである。(1)ピクリン酸水溶液に、界面活性剤、塩化物およびシュウ酸を添加して成る鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。(2)上記(1)において、前記水溶液が、さらに反応速度調整剤を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。(3)上記(2)おいて、前記反応速度調整剤として、塩酸を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。(4)上記(2)または(3)において、前記反応速度調整剤として、グリセリンおよびアルコール類から選ばれる1種又は2種を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。(5)鉄鋼材料の断面を鏡面研磨した後、上記(1)乃至(4)いずれかに記載の腐食液中に浸漬して鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界を選択的に現出することを特徴とする鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出方法。 ここで、上記界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウムおよびαスルホ脂肪酸エステルナトリウム等を用いることができる。同様に、塩化物としては、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化第二銅、塩化第二銅アンモニウム、塩化第二錫、塩化マグネシウムおよび塩化カリウム等が適合する。 本発明により、従来は観察が困難であった、超微細オーステナイト粒鋼材の旧オーステナイト粒の観察が可能となり、ここに、強度並びに靱性の観点から優れた特性をもつ超細粒鋼の開発を支援するための、評価技術を確立することができる。 以下、本発明の腐食液について、その各成分の添加理由について説明する。[ピクリン酸] ピクリン酸は、鉄鋼材料の比較的均一な腐食をゆるやかに進行させるため、腐食液のベースとして用いる。ここで、ピクリン酸の濃度は、30mass%以下となるように調整する。すなわち、30mass%を超えると、他の添加物との反応により沈殿を生じ易くなる。なお、1mass%未満の低濃度では粒面腐食が著しく遅滞するため、好ましくは1mass%以上、さらに好ましくは3mass%以上とする。[界面活性剤] 界面活性剤は、腐食生成物の溶解そして浮遊を助けるため、粒内と粒界の腐食速度を調整する目的で腐食液に加える。望ましくは、7mass%以下の濃度のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが最適である。すなわち、7mass%を超えると腐食液の腐食性が低下する。なお、1.5mass%未満の濃度では腐食生成物の金属表面からの浮遊に十分な働きを示さないため、好ましくは1.5mass%以上、さらに好ましくは2mass%以上とする。また、同じモル濃度のアルキルスルホン酸ナトリウム、αスルホ脂肪酸エステルナトリウム等でも準じた働きを有する。[塩化物] 塩化物は、腐食液に塩素イオンを供給し、粒界腐食を促進させる目的で腐食液に加える。望ましくは、1mass%以下の濃度で塩化第一鉄を加えるのが最適である。すなわち、1mass%超では、局部腐食が促進されすぎる。なお、0.05mass%未満の含有量では粒界腐食を生じさせる働きが十分でないため、好ましくは0.05mass%以上、さらに好ましくは0.1mass%以上とする。また、同じモル濃度の塩化第二鉄や塩化カルシウム等の上掲した塩化物でも作用は塩化第一鉄に準じる。[シュウ酸] シュウ酸の含有は、本発明の腐食液の特徴とするところの一つであり、強酸を用いずに(但し、少量の塩酸を用いる場合は除く)、局部腐食、ひいては粒界の腐食を促進する物質として、腐食液に添加する。望ましくは、添加量を1mass%以下とする。すなわち、1mass%超では、局部腐食が促進されすぎる。なお、0.05mass%未満の含有量では鮮明な粒界が現出しなくなるため、好ましくは0.05mass%以上、さらに好ましくは0.1mass%以上とする。 さらに、本発明の腐食液には、反応速度調整剤が含有されていてもよい。反応速度調整剤としては塩酸、グリセリンやエタノール、メタノール等のアルコール類などが挙げられる。これらの作用は、以下のとおりである。[塩酸] 上述の通り、強酸である塩酸は液の腐食性を過度に促進するため、含まれないことが望ましいが、少量の含有であれば反応速度の調整に有効である。従って、含有させる場合は、1mass%以下とすることが好ましい。[グリセリン] グリセリンは、溶媒として水より導電性が劣るため、腐食速度を低下させることができ、腐食速度の調整を目的として、適宜添加することが出来る。望ましくは、20mass%以下の添加量とする。[アルコール類] エタノールおよびメタノール等のアルコール類は、グリセリンと同様に腐食速度を低下させることができ、腐食速度の調整を目的として、適宜添加することが出来る。望ましくは、それぞれ20mass%以下の添加量とする。 0.48mass%C、0.7mass%Si、0.54mass%Mn、0.31mass%Mo、0.25mass%Ti、0.0015mass%B、0.02mass%Al、残部Feおよび不可避的不純物の組成となる鋼を、熱間圧延後、0.7℃/sで冷却して30mmφの棒鋼を得た。この棒鋼に対し、高周波焼入れを行って表面に硬化層を形成させた。 ここで、高周波焼入条件を下記の2条件として、旧オーステナイト粒径の大きさが2水準の鋼材を得た(超微細粒鋼:平均旧オーステナイト粒径2.5μm、通常粒鋼:平均旧オーステナイト粒径7μm)。 記 超微細粒鋼を得るための高周波焼入条件 加熱温度830℃ 加熱温度での保持時間:1秒 加熱温度までの昇温速度:800℃/s 加熱後の冷却速度:1000℃/s 通常粒鋼を得るための高周波焼入条件 加熱温度1000℃ 加熱温度での保持時間:1秒 加熱温度までの昇温速度:800℃/s 加熱後の冷却速度:1000℃/s 高周波焼入れ後の硬化層を厚さ方向に切断した断面を、鏡面仕上げした後に、表1に示す調合になる腐食液中に浸漬し、旧オーステナイト粒界の現出を行った。 なお、表1中、符号1から6および符号9から17が本発明に従う腐食液であり、符号7および8、18から24は比較例である。これら腐食液を用いた旧オーステナイト粒界の現出結果について、光学顕微鏡による目視観察にて評価した。その評価結果を、表1に併記する。 ここで、評価は鮮明に旧オーステナイト粒界が観察できる場合を○、旧オーステナイト粒径の測定が可能な程度に旧オーステナイト粒界を概ね観察できるが、一部にやや不明瞭な部分がある場合を△、旧オーステナイト粒界を観察できない場合を×とした。 表1から、本発明の腐食液を用いることによって、結晶粒径が2μm 以下の超微細粒のオーステナイト鋼から結晶粒径が20μm程度の一般の鉄鋼材料(通常粒鋼)まで、焼き入れ材の旧オーステナイト粒界を鮮明に現出することができ、その観察を確実に行えることがわかる。例えば、超微細粒オーステナイト鋼材に符号4の腐食液を適用して旧オーステナイト粒界の現出を行った際の、組織の光学顕微鏡写真を図1に示すように、超微細粒が鮮明に現出していることがわかる。同様に、符号4の腐食液を適用して通常の鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界を現出した結果について、図2に示す。図2から、粗粒についても観察できることがわかる。なお、図1および図2に示した光学顕微鏡写真から、JIS G 0522に記載されたフェライト結晶粒度試験方法に準拠して、切断法により平均旧オーステナイト粒径を求めることができ、その結果、図1の場合は2.5μmおよび図2の場合は7μmであった。 一方、表1の符号7および8の腐食液は比較例であり、これらの腐食液により上記と同じ鉄鋼材料をエッチングしたが、シュウ酸に替えて強酸が存在する事による腐食速度の制御の困難さにより、鮮明な現出は得られなかった。一例として、符号7の腐食液によって超微細粒オーステナイト鋼材をエッチング後の光学顕微鏡組織写真を、図3に示すように、粒界が不鮮明で組織観察ができる状態にはならなかった。符合18から24は、ピクリン酸、界面活性剤、塩化物、シュウ酸のうちのいずれかが不足している比較例であり、超微細粒鋼については、旧オーステナイト粒界の鮮明な現出は得られなかった。本発明による旧オーステナイト粒界を示す超細粒鋼の金属組織の光学顕微鏡写真である。本発明法による旧オーステナイト粒界を示す金属組織の光学顕微鏡写真である。従来の方法による超細粒鋼の金属組織の光学顕微鏡写真である。 ピクリン酸と、界面活性剤、塩化物およびシュウ酸を含有する水溶液から成る鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。 請求項1において、前記水溶液が、さらに反応速度調整剤を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。 請求項2において、前記反応速度調整剤として、塩酸を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。 請求項2または3において、前記反応速度調整剤として、グリセリンおよびアルコール類から選ばれる1種又は2種を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。 鉄鋼材料を、請求項1及至4のいずれかに記載の腐食液中に浸漬して鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界を現出させることを特徴とする鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出方法。 【課題】結晶粒径2μm以下の超細粒組織の鉄鋼材料をも含む、鉄鋼材料全般の旧オーステナイト粒界を現出し得る腐食液を提供する。【解決手段】ピクリン酸と、界面活性剤、塩化物およびシュウ酸を含有する水溶液から構成する。水溶液は反応速度調整剤として、塩酸又はグリセリンおよびアルコール類から選ばれる1種又は2種を含有する。鉄鋼材料の断面を鏡面研磨した後、上記記載の腐食液中に浸漬して鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界を選択的に現出する。【選択図】なし


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特許公報(B2)_鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液および鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出方法

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タイトル:特許公報(B2)_鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液および鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出方法
出願番号:2005020212
年次:2011
IPC分類:G01N 33/20


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木村 秀途 林 功 松崎 明博 高宮 生人 豊岡 高明 JP 4604737 特許公報(B2) 20101015 2005020212 20050127 鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液および鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出方法 JFEスチール株式会社 000001258 杉村 興作 100072051 徳永 博 100101096 岩佐 義幸 100086645 藤谷 史朗 100107227 来間 清志 100114292 冨田 和幸 100119530 木村 秀途 林 功 松崎 明博 高宮 生人 豊岡 高明 JP 2004023297 20040130 20110105 G01N 33/20 20060101AFI20101209BHJP JPG01N33/20 K G01N 33/20 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2001−049387(JP,A) 特開2004−045106(JP,A) 特開平08−252886(JP,A) 特開平08−193942(JP,A) 熱処理,1985年,Vol.25, No.6, Page.338-342 Zavod Lab,1984年,Vol.50, No.5, Page.27-31 5 2005241635 20050908 10 20071025 三木 隆 本発明は、鉄鋼材料の評価・品質管理・新規開発等に広く用いられる金属組織の観察手法に属し、主として焼入れまたは焼入れ焼戻し熱処理を行った鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界を現出するための腐食液と現出方法に関するものである。 鉄鋼材料の高性能化は、合金化による方法が飽和状態に達しつつあり、種々の製造プロセスの組み合わせによる方法が、現下盛んに行われている。そして、それらの技術を側面から支えているのが、各種特性や性能を評価する方法であり、評価方法なくしては新技術の開発は困難である。 最近、特に鉄鋼材料の高性能化で注目されているのが、結晶粒の微細化技術である。加工硬化、固溶強化および析出強化など、通常考えられる多くの強化方法では、金属の延性・靭性は損なわれる傾向にあるのに対し、結晶粒の微細化、即ち細粒化は、強度、延性、靭性のいずれの向上にも有効であるため、多くの開発者により、特に鉄鋼材料の超細粒化が盛んに研究されている。 ここに、焼入れまたは焼入れ焼戻し熱処理を行った鉄鋼材料の組織微細化は、旧オーステナイト粒の細粒化が主要な方法であることから、その粒径制御を主眼とする開発ならびにその評価には、旧オーステナイト粒を観察する必要があり、そこで旧オーステナイト粒界を現出するためのエッチング技術が、これまでに無いほど重要になっている。 この旧オーステナイト粒界の現出自体は、非常に困難な技術として認識されているが、特許文献1および2には、ピクリン酸水溶液、硝酸、塩酸、塩化物および界面活性剤を組み合わせて添加した腐食液による、旧オーステナイト粒界の現出技術が提案されている。いずれも、仔細な成分調整と液の加熱等の制御を伴う技術ではあるが、旧オーステナイト粒組織を評価する技術として一定の成果を上げている。特開平7−325080号公報特開平9−43230号公報 しかしながら、上記の技術の適用範囲は、従来の旧オーステナイト粒径が5μm超の一般鉄鋼材料における旧オーステナイト粒組織の現出に留まっており、現状ないし将来の重要技術となる鉄鋼材料の超細粒化の評価手段としては、十分とはいえないものであった。すなわち、上掲の手段にて、現下の先進材料である結晶粒径5μm以下さらには2μm 以下という、超細粒の鉄鋼材料の金属組織を評価しようとした場合、結晶粒径の評価が出来ないのみならず、金属組織自体の観察が困難であるのが実体である。 そこで、本発明は、これら従来技術の問題点を解決し、例えば結晶粒径2μm以下の超細粒組織の鉄鋼材料をも含む、鉄鋼材料全般の旧オーステナイト粒界を現出し得る腐食液を、旧オーステナイト粒界の現出技術に併せて提供することを目的とするものである。 本発明を成すに当たり、従来方法で腐食したとき金属組織が不鮮明となる超細粒鋼の顕微鏡観察を繰り返すうち、発明者らは、超細粒鋼では結晶粒界の体積率が通常鋼より非常に大きいため、粒界を僅かでも過腐食することにより組織が認識できなくなること、超細粒鋼の観察には高倍率での顕微鏡観察を実施するために、より繊細で鮮明度が高く選択的な粒界の腐食が必要であること、を見出すに至った。 従って、これらのことから、特に必要とされる技術は、粒面および粒界を腐食させる薬剤を分類し、注意深く組み合わせることにあると考え、幾多の実験を重ねた。即ち、種々の試行錯誤から、ピクリン酸、硝酸および硫酸等は粒面腐食を促進する傾向があり、一方、還元剤、塩化物および塩酸等は粒界腐食を促進する傾向が強いことを明らかにした。 しかし、上記の組み合わせを繰り返しても、超細粒鋼の旧オーステナイト組織は現出し得ず、特に硝酸や硫酸等の強酸は、少量の添加でも劇的に腐食液のpHを下げる作用を持つことから、それらを含有させたものは腐食性が強すぎる傾向があった。例えば、上記の特許文献1で開示の腐食液には、硝酸、硫酸および塩酸が含まれ、また上記の特許文献2で開示の腐食液には、塩酸が含まれることから、従来材料の旧オーステナイト粒界の腐食には問題はなかったばかりか、腐食速度を上げる働きをしていると考えられるものの、一方で、超細粒鋼において、同時に組織全面を腐食させてしまい粒界の観察が困難になるのは、これらの強腐食性が原因であると考えられた。 そこで、発明者らは、腐食速度を抑制しつつ、粒内および粒界をバランスよく腐食させる組み合わせとして、ピクリン酸と塩化第一鉄との配合という全く異なった基本組成から出発し、試行を重ねた。その中で、強酸である塩酸を用いない、あるいは、その量を規制し、局部腐食、ひいては粒界の腐食を促進する物質の添加が必要と結論し、さらに模索を続けるうち、シュウ酸を鉄鋼材料のエッチングへ適用することを着想し、種々の濃度でピクリン酸−塩化第一鉄溶液に添加を試みた結果、超細粒鋼の組織を鮮明に現出する最適値があることを見出した。 すなわち、上記腐食液にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤を添加することによって、組織現出の作業に最適な腐食速度となるように調整した。さらに、界面活性剤としては、アルキルスルホン酸ナトリウム、αスルホ脂肪酸エステルナトリウム等の他種でも働きは同等であること、塩化物は塩化第二鉄や塩化カルシウム等でも働きは同等であることを確認し、本発明を完成するに至った。 本発明の要旨は、次のとおりである。(1)ピクリン酸と、界面活性剤、塩化物およびシュウ酸を含有する水溶液から成る旧オーステナイト粒の結晶粒径が5μm以下の鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液であって、前記ピクリン酸の濃度が1mass%以上30mass%以下、前記塩化物の濃度が0.05mass%以上1mass%以下、前記シュウ酸の濃度が0.05mass%以上1mass%以下である鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。(2)上記(1)において、前記水溶液が、さらに反応速度調整剤を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。(3)上記(2)おいて、前記反応速度調整剤として、塩酸を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。(4)上記(2)または(3)において、前記反応速度調整剤として、グリセリンおよびアルコール類から選ばれる1種又は2種を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。(5)旧オーステナイト粒の結晶粒径が5μm以下の鉄鋼材料を、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の腐食液中に浸漬して前記鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界を現出させることを特徴とする鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出方法。 ここで、上記界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウムおよびαスルホ脂肪酸エステルナトリウム等を用いることができる。同様に、塩化物としては、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化第二銅、塩化第二銅アンモニウム、塩化第二錫、塩化マグネシウムおよび塩化カリウム等が適合する。 本発明により、従来は観察が困難であった、超微細オーステナイト粒鋼材の旧オーステナイト粒の観察が可能となり、ここに、強度並びに靱性の観点から優れた特性をもつ超細粒鋼の開発を支援するための、評価技術を確立することができる。 以下、本発明の腐食液について、その各成分の添加理由について説明する。[ピクリン酸] ピクリン酸は、鉄鋼材料の比較的均一な腐食をゆるやかに進行させるため、腐食液のベースとして用いる。ここで、ピクリン酸の濃度は、30mass%以下となるように調整する。すなわち、30mass%を超えると、他の添加物との反応により沈殿を生じ易くなる。なお、1mass%未満の低濃度では粒面腐食が著しく遅滞するため、1mass%以上、好ましくは3mass%以上とする。[界面活性剤] 界面活性剤は、腐食生成物の溶解そして浮遊を助けるため、粒内と粒界の腐食速度を調整する目的で腐食液に加える。望ましくは、7mass%以下の濃度のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが最適である。すなわち、7mass%を超えると腐食液の腐食性が低下する。なお、1.5mass%未満の濃度では腐食生成物の金属表面からの浮遊に十分な働きを示さないため、好ましくは1.5mass%以上、さらに好ましくは2mass%以上とする。また、同じモル濃度のアルキルスルホン酸ナトリウム、αスルホ脂肪酸エステルナトリウム等でも準じた働きを有する。[塩化物] 塩化物は、腐食液に塩素イオンを供給し、粒界腐食を促進させる目的で腐食液に加える。1mass%以下の濃度で塩化第一鉄を加えるのが最適である。すなわち、1mass%超では、局部腐食が促進されすぎる。なお、0.05mass%未満の含有量では粒界腐食を生じさせる働きが十分でないため、0.05mass%以上、好ましくは0.1mass%以上とする。また、同じモル濃度の塩化第二鉄や塩化カルシウム等の上掲した塩化物でも作用は塩化第一鉄に準じる。[シュウ酸] シュウ酸の含有は、本発明の腐食液の特徴とするところの一つであり、強酸を用いずに(但し、少量の塩酸を用いる場合は除く)、局部腐食、ひいては粒界の腐食を促進する物質として、腐食液に添加する。添加量を1mass%以下とする。すなわち、1mass%超では、局部腐食が促進されすぎる。なお、0.05mass%未満の含有量では鮮明な粒界が現出しなくなるため、0.05mass%以上、好ましくは0.1mass%以上とする。 さらに、本発明の腐食液には、反応速度調整剤が含有されていてもよい。反応速度調整剤としては塩酸、グリセリンやエタノール、メタノール等のアルコール類などが挙げられる。これらの作用は、以下のとおりである。[塩酸] 上述の通り、強酸である塩酸は液の腐食性を過度に促進するため、含まれないことが望ましいが、少量の含有であれば反応速度の調整に有効である。従って、含有させる場合は、1mass%以下とすることが好ましい。[グリセリン] グリセリンは、溶媒として水より導電性が劣るため、腐食速度を低下させることができ、腐食速度の調整を目的として、適宜添加することが出来る。望ましくは、20mass%以下の添加量とする。[アルコール類] エタノールおよびメタノール等のアルコール類は、グリセリンと同様に腐食速度を低下させることができ、腐食速度の調整を目的として、適宜添加することが出来る。望ましくは、それぞれ20mass%以下の添加量とする。 0.48mass%C、0.7mass%Si、0.54mass%Mn、0.31mass%Mo、0.25mass%Ti、0.0015mass%B、0.02mass%Al、残部Feおよび不可避的不純物の組成となる鋼を、熱間圧延後、0.7℃/sで冷却して30mmφの棒鋼を得た。この棒鋼に対し、高周波焼入れを行って表面に硬化層を形成させた。 ここで、高周波焼入条件を下記の2条件として、旧オーステナイト粒径の大きさが2水準の鋼材を得た(超微細粒鋼:平均旧オーステナイト粒径2.5μm、通常粒鋼:平均旧オーステナイト粒径7μm)。 記 超微細粒鋼を得るための高周波焼入条件 加熱温度830℃ 加熱温度での保持時間:1秒 加熱温度までの昇温速度:800℃/s 加熱後の冷却速度:1000℃/s 通常粒鋼を得るための高周波焼入条件 加熱温度1000℃ 加熱温度での保持時間:1秒 加熱温度までの昇温速度:800℃/s 加熱後の冷却速度:1000℃/s 高周波焼入れ後の硬化層を厚さ方向に切断した断面を、鏡面仕上げした後に、表1に示す調合になる腐食液中に浸漬し、旧オーステナイト粒界の現出を行った。 なお、表1中、符号1から6および符号9から17が本発明に従う腐食液であり、符号7および8、18から24は比較例である。これら腐食液を用いた旧オーステナイト粒界の現出結果について、光学顕微鏡による目視観察にて評価した。その評価結果を、表1に併記する。 ここで、評価は鮮明に旧オーステナイト粒界が観察できる場合を○、旧オーステナイト粒径の測定が可能な程度に旧オーステナイト粒界を概ね観察できるが、一部にやや不明瞭な部分がある場合を△、旧オーステナイト粒界を観察できない場合を×とした。 表1から、本発明の腐食液を用いることによって、結晶粒径が2μm 以下の超微細粒のオーステナイト鋼から結晶粒径が20μm程度の一般の鉄鋼材料(通常粒鋼)まで、焼き入れ材の旧オーステナイト粒界を鮮明に現出することができ、その観察を確実に行えることがわかる。例えば、超微細粒オーステナイト鋼材に符号4の腐食液を適用して旧オーステナイト粒界の現出を行った際の、組織の光学顕微鏡写真を図1に示すように、超微細粒が鮮明に現出していることがわかる。同様に、符号4の腐食液を適用して通常の鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界を現出した結果について、図2に示す。図2から、粗粒についても観察できることがわかる。なお、図1および図2に示した光学顕微鏡写真から、JIS G 0522に記載されたフェライト結晶粒度試験方法に準拠して、切断法により平均旧オーステナイト粒径を求めることができ、その結果、図1の場合は2.5μmおよび図2の場合は7μmであった。 一方、表1の符号7および8の腐食液は比較例であり、これらの腐食液により上記と同じ鉄鋼材料をエッチングしたが、シュウ酸に替えて強酸が存在する事による腐食速度の制御の困難さにより、鮮明な現出は得られなかった。一例として、符号7の腐食液によって超微細粒オーステナイト鋼材をエッチング後の光学顕微鏡組織写真を、図3に示すように、粒界が不鮮明で組織観察ができる状態にはならなかった。符合18から24は、ピクリン酸、界面活性剤、塩化物、シュウ酸のうちのいずれかが不足している比較例であり、超微細粒鋼については、旧オーステナイト粒界の鮮明な現出は得られなかった。本発明による旧オーステナイト粒界を示す超細粒鋼の金属組織の光学顕微鏡写真である。本発明法による旧オーステナイト粒界を示す金属組織の光学顕微鏡写真である。従来の方法による超細粒鋼の金属組織の光学顕微鏡写真である。 ピクリン酸と、界面活性剤、塩化物およびシュウ酸を含有する水溶液から成る旧オーステナイト粒の結晶粒径が5μm以下の鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液であって、 前記ピクリン酸の濃度が1mass%以上30mass%以下、前記塩化物の濃度が0.05mass%以上1mass%以下、前記シュウ酸の濃度が0.05mass%以上1mass%以下である鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。 請求項1において、前記水溶液が、さらに反応速度調整剤を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。 請求項2において、前記反応速度調整剤として、塩酸を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。 請求項2または3において、前記反応速度調整剤として、グリセリンおよびアルコール類から選ばれる1種又は2種を含有する鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出用腐食液。 旧オーステナイト粒の結晶粒径が5μm以下の鉄鋼材料を、請求項1乃至4のいずれかに記載の腐食液中に浸漬して前記鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界を現出させることを特徴とする鉄鋼材料の旧オーステナイト粒界現出方法。


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