タイトル: | 再公表特許(A1)_新規栄養要求性分裂酵母 |
出願番号: | 2005016039 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/19,C12P 21/02 |
久野 高義 杉浦 麗子 齋藤 真理子 小池 敦資 JP WO2006046352 20060504 JP2005016039 20050901 新規栄養要求性分裂酵母 財団法人新産業創造研究機構 800000057 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 久野 高義 杉浦 麗子 齋藤 真理子 小池 敦資 JP 2004310061 20041025 JP 2005005641 20050112 C12N 15/09 20060101AFI20080425BHJP C12N 1/19 20060101ALI20080425BHJP C12P 21/02 20060101ALI20080425BHJP JPC12N15/00 AC12N1/19C12P21/02 C AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20080522 2006542266 22 4B024 4B064 4B065 4B024AA20 4B024CA02 4B024DA12 4B024EA04 4B024FA10 4B024GA11 4B024HA12 4B064AG01 4B064CA06 4B064CA19 4B064CC24 4B064DA20 4B065AA72X 4B065AB01 4B065AC20 4B065BA02 4B065BA25 4B065CA24 本発明は、分裂酵母用最少培地で生育せず、アルギニン、アスパラギン又はリジンを添加することで生育可能な栄養要求性分裂酵母に関する。 本出願は、参照によりここに援用されるところの、日本特許出願特願2004−310061号及び特願2005−005641号優先権を請求する。 分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)は、円筒形の形をした単細胞真核生物で、微生物の特徴としての大量培養が容易であり、世代間時間も短い。また、遺伝学、分子生物学、細胞生物学分野での応用がきわめて容易な単細胞生物として知られている(非特許文献1)。分裂酵母は、これまでゲノム解読されたどの生物よりもゲノムサイズが小さく、保有する遺伝子数も最小であり、ヒト病因遺伝子を100以上含むヒトに最も近い単細胞モデル生物である。このような利点から、分裂酵母は古くから網羅的な遺伝子解析実験に非常に適しており、医学的にも有用なデータが数多く得られている。 遺伝子組換技術において、ジェネティシン耐性マーカーをクローニングするための選別基準として用いることができる(非特許文献2)。しかしながら、このようなマーカーによる選別は、培地に抗生物質を添加する必要があり、経済的でない。 一方、栄養マーカーを指標とし、酵母等の細胞が生育するための最少培地では生育しない栄養要求性酵母を用いると、最少培地により選別することができるので安価である。この、栄養要求性酵母を用いて選別するためには、酵母の栄養マーカーが確認されていることが必要である。しかしながら、分裂酵母は通常用いられる出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)に比べ、栄養マーカーが少なく、研究や工業的生産等の実用化において限界があった。遺伝子導入に用いられる分裂酵母の栄養マーカーとしてleu1+及びura4+の遺伝子が公知である(非特許文献3、非特許文献4)。その他にも培地にアデニンあるいはヒスチジンを加える栄養マーカーは知られているが、アデニンは一倍体と二倍体の区別にade6+が用いられるため、またヒスチジンはhis2+が酵母の性の区別に用いられるため、遺伝子導入に使用するには限界があった。また、leu1+以外の遺伝子に起因する分裂酵母栄養要求性株の多くは、栄養豊富培地においても野生株に比べ生育速度が遅いことが実用化において支障となっていた。Nasim A. et al. eds., Molecular biology of the fission yeast, Academic Press, 1989J Bahler, et al., Yeast, Jul 1998; 14(10): 943-51.Curr Genet. 1988 Oct;14(4):375-9.Curr Genet. 1987;12(7):527-34. 本発明の課題は、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)(以下、単に「S. pombe」という場合がある。)において、新規栄養マーカーを持つ分裂酵母を提供することを課題とする。さらには、該変異分裂酵母と共に使用するベクターを提供することを課題とする。 本発明者らは、栄養豊富培地では野生株と同程度に増殖するが、最少培地で増殖できない分裂酵母変異体を3種類単離し、原因遺伝子を決定した。これにより各々アルギニン要求性、アスパラギン要求性又はリジン要求性の3種類の新規栄養マーカーを持つ分裂酵母が発見された。又これらの栄養要求性分裂酵母に導入可能なベクターを構築することができ、本発明を完成した。 すなわち、本発明は以下のとおりである。1.分裂酵母の新規栄養マーカー遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母。2.オルニチン及び/又はアルギニン生合成関連遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母。3.Genbank受入番号:AL031532に記載する塩基配列によりコードされるアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(arg1+遺伝子,SPCC777.09c)が変異したアルギニン要求性分裂酵母。4.アスパラギン生合成関連遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母。5.Genbank受入番号:AL022117に記載する塩基配列によりコードされるアスパラギン合成遺伝子(asn1+遺伝子,SPBC119.10)が変異したアスパラギン要求性分裂酵母。6.リジン生合成関連遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母。7.Genbank受入番号:AL096851に記載する塩基配列によりコードされるリジン合成遺伝子(lys4+遺伝子,SPBC1105.02c)が変異したリジン要求性分裂酵母。8.分裂酵母の新規栄養マーカー遺伝子を含む分裂酵母に導入可能なベクター。9.分裂酵母arg1+遺伝子(SPCC777.09c)を含み、前項1〜3のいずれか一に記載の分裂酵母に導入可能なベクター。10.出芽酵母ARG8遺伝子(YOL140W)を含み、前項1〜3のいずれか一に記載の分裂酵母に導入可能なベクター。11.分裂酵母asn1+遺伝子(SPBC119.10)を含み、前項1、4又は5のいずれか一に記載のアスパラギン要求性分裂酵母に導入可能なベクター。12.出芽酵母ASN1遺伝子(YPR145W)又はASN2遺伝子(YGR124W)を含み、前項1、4又は5のいずれか一に記載の分裂酵母に導入可能なベクター。13.分裂酵母lys4+遺伝子(SPBC1105.02c)を含み、前項1、6又は7のいずれか一に記載のリジン要求性分裂酵母に導入可能なベクター。14.前項1〜3のいずれか一に記載の分裂酵母に前項9又は10に記載するベクターを組み込んでなる形質転換体。15.前項1、4又は5のいずれか一に記載の分裂酵母に前項11又は12のベクターを組み込んでなる形質転換体。16.前項1、6又は7のいずれか一に記載の分裂酵母に前項13のベクターを組み込んでなる形質転換体。17.前項14〜16のいずれか一に記載の形質転換体を培養し、発現された異種タンパク質を採取することを特徴とするタンパク質の産生方法。 本発明のアルギニン要求性分裂酵母、アスパラギン要求性分裂酵母及びリジン要求性分裂酵母は、最少培地では生育しないが、アルギニン、アスパラギン又はリジンの添加により、野生型分裂酵母同様に生育可能である。また、本発明によりマーカー遺伝子として見つかったarg1+、asn1+及びlys4+はいずれ2キロベースに満たない比較的小さい遺伝子であり、通常サブクローニングで頻繁に使われる制限酵素であるBamH I、Pst Iなどのサイトがなく、マーカー遺伝子として非常に適したものである。つまり、本発明の栄養要求性分裂酵母及びマーカー遺伝子は、遺伝子組換技術によるタンパク質産生、遺伝子解析等において、容易に使用できる点でも優れている。13種類の栄養豊富培地では野生株と同程度に増殖するが、最少培地で増殖できない分裂酵母変異株の表現型を示す図である。(実施例1)KP2101の表現型を示す図である。(実施例2)KP2101を除く変異株の表現型を示す図である。(実施例2)KP2124の表現型を示す図である。(実施例3)インテグレーションベクターの構築の図である。(実施例4)KP2101にSad1-DsREDを含むベクターを導入したことを確認した図である。(実施例4)KP2132の表現型を示す図である。(実施例9)符号の説明c 分裂酵母 野生型 HM123株1 分裂酵母 KP2101株2 分裂酵母 KP2102株3 分裂酵母 KP2104株4 分裂酵母 KP2107株5 分裂酵母 KP2108株6 分裂酵母 KP2111株7 分裂酵母 KP2114株8 分裂酵母 KP2119株9 分裂酵母 KP2121株10 分裂酵母 KP2123株11 分裂酵母 KP2124株12 分裂酵母 KP2132株13 分裂酵母 KP2149株(栄養要求性分裂酵母) 本発明の「新規栄養マーカー遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母」とは、分裂酵母において従来公知の栄養マーカー遺伝子とは異なる栄養マーカー遺伝子の変異により、最少培地では生育しない分裂酵母をいう。従来公知の栄養要求性分裂酵母の例として、leu1遺伝子が変異したロイシン要求性の分裂酵母があり、該分裂酵母は最少培地では生育しないが、最少培地にロイシンを添加することで生育することができる。最少培地として、公知のEMM培地(Edinburgh minimal medium 培地:Gutz, H., heslot, H., Leupold, U., and Loprieno, N. (1974) in Handbook of Genetics (King, R. C., ed), Vol. 1 , pp. 395-446, Plenum, New York)を例示することができる。 本発明の分裂酵母の「新規栄養マーカー遺伝子」とは、分裂酵母において従来公知の栄養マーカー遺伝子、例えばleu1+, ura4+, his2+, his3+, his7+, ade1+, ade6+の各遺伝子を除く分裂酵母の栄養マーカー遺伝子をいう。 具体的にはアルギニン栄養マーカーに関連するarg1+遺伝子(SPCC777.09c)、アスパラギン栄養マーカーに関連するasn1+遺伝子(SPBC119.10)又はリジン栄養マーカーに関連するlys4+遺伝子(SPBC1105.02c)の各遺伝子をいう。本発明の新規栄養マーカーであるarg1+遺伝子(SPCC777.09c)の塩基配列は、Genbank受入番号:AL031532として、asn1+遺伝子(SPBC119.10)の塩基配列は、Genbank受入番号:AL022117として、lys4+遺伝子(SPBC1105.02c)の塩基配列はGenbank受入番号:AL096851として既に公知である。 arg1+遺伝子、asn1+遺伝子又はlys4+遺伝子の変異株は、突然変異株を取得する方法により、又は既存の遺伝子を人工的に組替えることにより取得することができる。好ましくは、突然変異株を取得する方法により得ることができ、例えば栄養豊富培地で野生株と同様に生育し、最少培地では生育できない変異株をスクリーニングすることにより得ることができる。変異株は、公知の方法、例えばMoreno S., Klar and Nurse P., (1991) Methods Enzymol. 194, p795-823又はThe Journal of Biological Chemistry, vol. 275, No. 45, p35600-35606 (2000)等に記載する方法により得ることができる。 本発明に利用できるarg1+遺伝子の変異は、arg1+遺伝子がコードするアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ酵素活性が失われるような変異であれば良いが、インテグレーションベクターを導入するためには点突然変異が、プラスミドベクターを導入するためには完全欠失変異が好ましい。 本発明に利用できるasn1+遺伝子の変異は、asn1+遺伝子がコードするアスパラギン合成酵素活性が失われるような変異であれば良いが、インテグレーションベクターを導入するためには点突然変異が、プラスミドベクターを導入するためには完全欠失変異が好ましい。 本発明に利用できるlys4+遺伝子の変異は、lys4+遺伝子がコードするリジン合成酵素活性が失われるような変異であれば良いが、インテグレーションベクターを導入するためには点突然変異が、プラスミドベクターを導入するためには完全欠失変異が好ましい。(栄養要求性分裂酵母に導入可能なベクター) 本発明において、上記の新規栄養マーカー遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母に導入可能な分裂酵母ベクターを提供することができる。例えば、正常なarg1+遺伝子を含むベクターを、arg1+遺伝子が変異したアルギニン要求性分裂酵母に導入すると、アルギニンを含まない最少培地でも生育可能な形質転換体を得ることができる。本発明の新規栄養マーカー遺伝子を含むベクターを構築し、本発明の栄養要求性分裂酵母に導入することにより、最少培地で生育が可能な形質転換体を得ることができる。本発明において、栄養要求性分裂酵母に導入可能なベクターとは、本発明の新規栄養マーカー遺伝子を含むベクターをいう。 また、例えば出芽酵母の栄養マーカー遺伝子を含むベクターを栄養要求性分裂酵母に導入すると、最少培地でも生育が可能な形質転換体を得ることができる。そこで、本発明の栄養要求性分裂酵母に導入可能なベクターとして、さらに出芽酵母由来の栄養マーカー遺伝子を含むベクターも含めることができる。 本発明の栄養要求性分裂酵母用ベクターに導入可能な栄養マーカー遺伝子として、分裂酵母arg1+遺伝子(SPCC777.09c)、分裂酵母asn1+遺伝子(SPBC119.10)、分裂酵母lys4+遺伝子(SPBC1105.02c)を挙げることができる。その他、アルギニン要求性分裂酵母用のベクターに導入可能な栄養マーカー遺伝子として、出芽酵母遺伝子に由来するARG8遺伝子(YOL140W、Genbank受入番号:Z74882)を、アスパラギン要求性分裂酵母用のベクターに導入可能な栄養マーカー遺伝子として、出芽酵母遺伝子に由来するASN1遺伝子(YPR145W、Genbank受入番号:Z48675)あるいはASN2遺伝子(YGR124W、Genbank受入番号:Z72909)を挙げることができる。また、リジン要求性分裂酵母用のベクターに導入可能な栄養マーカー遺伝子として、出芽酵母遺伝子に由来するLYS21遺伝子(YDL131W、Genbank受入番号:Z74179)を挙げることができる。(ベクターの調製方法) 栄養要求性分裂酵母に導入可能なベクターは、例えばBlueScript(Stratagene社製)などのMCS (multi cloning site)を持つ公知のベクターのMCS、複製開始点、あるいは抗生物質マーカーなど、ベクターにとって必須の配列以外の場所に、上述の各遺伝子を導入することにより構築することができる。各遺伝子の導入はPCRなどの公知手法により各遺伝子を増幅させ、通常の操作により行うことができる。 例えば、プラスミドベクターを構築するためには、分裂酵母内で自律的に複製可能なように自己複製配列 (autonomic replicative sequence:ARS)を導入すればよい。インテグレーションベクターは分裂酵母の染色体に組み込まれ、分裂酵母の増殖と共に増殖するので、ARSを導入する必要がない。 また、上記ベクターは、大腸菌の自己複製配列(ori)と、酵母における自己複製配列(ARS)を存在させることにより、シャトルベクターとしての使用も可能である。 上記栄養マーカー遺伝子を含むベクターに、例えば合成したいタンパク質の情報を組み込み、本発明の栄養要求性分裂酵母内で増殖させることにより、最少培地において所望のタンパク質を合成することができる。 以下に、本発明の理解をより確実にするために、実施例を示して説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではないことはいうまでもない。(実施例1)栄養要求性分裂酵母の構築 分裂酵母の野生株(一倍体ロイシン要求性酵母HM123(h- leu1))を300μMのニトロソグアニジンを含む栄養豊富なYPD培地(1% 酵母抽出液(yeast extract)、2% ペプトン, 2% グルコース)で30分間処理し、処理した分裂酵母を細胞数が1プレートあたり500-1000個となるようにYPD培地で希釈し、YPD培地で培養した。得られた分裂酵母のコロニーをYPD培地及び最少培地であるEMM培地(Edinburgh minimal medium 培地) 20 mLにロイシンを1 mg添加した培地(以下、単に「EMM+leu培地」という。)の2種の培地にレプリカし、30℃で2日間培養した。YPD培地では生育するが、EMM+leu培地では生育しない変異体を23株取得した。これらからアデニン、ウラシル、ヒスチジン要求性株を除外するために、これらを培地に加えてその生育を検討したところ、そのうちの6株はヒスチジンを培地上に加えると生育することからヒスチジン要求性株であることがわかった。次に、相互に掛け合わせるrandom spore analysisにより、遺伝子座位の異同を決定した。便宜上、変異株は通し番号KP(Kobe pombeの略)で管理しているが、解析の結果、KP2104とKP2113とKP2117は同じ遺伝子座位に変異があることが判明した。即ち、残り17株のうち、接合しなかった2株を除く計15株は、以下の13種類の異なる遺伝子座位グループに分類された(KP2101, KP2102, KP2104, KP2107, KP2108, KP2111, KP2114, KP2119, KP2121, KP2123, KP2124, KP2132及びKP2149)。(実施例2)アルギニン要求性分裂酵母1)変異の位置の確認 実施例1で得られた13種類の変異株のうち、KP2101株分裂酵母(以下、単に「KP2101」という。)について変異の位置を確認した。 KP2101にゲノムライブラリーを形質転換して最少培地で生育可能になった形質転換体酵母からプラスミドを単離した。該プラスミドを制限酵素Hind IIIで切断して短縮し、さらにKP2101に導入し、形質転換させた。その後また最少培地で生育可能になった形質転換体酵母からプラスミドを単離し、そのプラスミドDNAを鋳型としてシーケンスPCRを行いシーケンスにより塩基配列を決定したところ、複数の遺伝子が含まれた断片であることがわかった。該導入された複数の遺伝子中、栄養要求性に関連するのはアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ関連遺伝子であるarg1+遺伝子(SPCC777.09c)のみであった。再度、PCRによりarg1+のみを増幅し、KP2101に導入したところ最少培地で生育可能となった(図2)。 その結果、KP2101はアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ関連遺伝子であるarg1+遺伝子(SPCC777.09c)に変異のあることが確認された。KP2101は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に寄託した(国際受領番号FERM ABP-10359)。 上記arg1+ 遺伝子をPCRにより増幅するために以下のプライマーを用いた。 arg1 sense (オリゴ769) AAACTGCAGGATCCATGGCTTAATTTTTCATCAATC(配列番号1) arg1 antisense (オリゴ770) AAACTGCAGGATCCATTCAATGACCAAGTC(配列番号2)2)アルギニン要求性の確認 KP2101はarg1+遺伝子が変異していることが確認されたので、EMM+leu培地 20 mLにアルギニン1 mgを添加したEMM+leu+arg培地で培養したところ生育が認められた。KP2101はEMM+leu培地では生育しなかったのに対し、EMM+leu+arg培地では生育したことにより、アルギニン要求性分裂酵母であることが確認された。これにより、arg1+遺伝子(SPCC777.09c)は分裂酵母の新規栄養マーカーであることが確認された。 同様に、実施例1で得られた栄養要求性分裂酵母をストリークにより確認した結果、KP2104株、KP2107株、KP2108株、KP2119株、KP2121株、KP2119株、KP2123株、KP2149株がアルギニン要求性分裂酵母であることを確認した(図3)。しかし、これらはarg1+遺伝子の変異ではなかったので、他のアルギニン合成酵素に変異があると思われた。(実施例3)アスパラギン要求性分裂酵母1)変異の位置の確認 実施例1で得られた栄養要求性分裂酵母のうち、KP2124株分裂酵母(以下、単に「KP2124」という。)について変異の位置を確認した。 実施例2の変異の位置の確認と同様に、KP2124にゲノムライブラリーを形質転換して最少培地で生育可能になった形質転換体酵母からプラスミドを単離した。該プラスミドを制限酵素Hind IIIで切断して短縮し、さらにKP2124に導入し、形質転換させた。その後また最少培地で生育可能になった形質転換体酵母からプラスミドを単離し、そのプラスミドDNAを鋳型としてシーケンスPCRを行いシーケンスにより塩基配列を決定したところ、複数の遺伝子が含まれた断片であることがわかった。該導入された複数の遺伝子中、栄養要求性に関連するのはアスパラギン生合成酵素関連遺伝子であるasn1+遺伝子(SPBC119.10)のみであった。再度、PCRによりasn1+遺伝子のみを増幅し、KP2124に導入したところ最少培地で生育可能となった。 その結果、KP2124はアスパラギン生合成酵素関連遺伝子であるasn1+遺伝子(SPBC119.10)に変異のあることが確認された。KP2124は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に寄託した(国際受領番号FERM ABP-10358)。 上記asn1+遺伝子をPCRにより増幅するために以下のプライマーを用いた。 asn1 sense(オリゴ815) CGGGATCCTGAACTGATTGTTGGCTCAG(配列番号3) asn1 antisense(オリゴ816)GGAATTCGTCGGATAACGCCTACTGGGC(配列番号4)2)アスパラギン要求性の確認 同様に、実施例1及び2で得られたKP2124はアスパラギン生合成酵素のasn1+遺伝子が変異していることが確認されたので、EMM+leu培地 20 mLにアスパラギン 1 mgを添加したEMM+leu+asn培地で培養したところ生育が認められた(図4)。KP2124はEMM+leu培地では生育しなかったのに対し、EMM+leu+asn培地では生育したことにより、アスパラギン要求性分裂酵母であることが確認された。これにより、今回確認されたアスパラギン生合成酵素関連遺伝子は分裂酵母の新規栄養マーカーであることを確認した。(実施例4)arg1+遺伝子(SPCC777.09c)を含むベクターの構築及びその確認1)arg1+遺伝子のBamH I制限酵素部位を両末端に付加したものをPCRで増幅し、BlueScript プラスミド(Stratagene社製)のf1 originにあるBgl II制限酵素部位に導入し、インテグレーションベクターを構築した。2)確認 上記1)で構築したインテグレーションプラスミド中のBlueScriptのマルチクローニング部位に、赤色蛍光を発光するマーカーであるSad1-DsREDを導入した。該Sad1-DsREDを含むベクターをKP2101に導入し、インテグレーションベクターがKP2101で機能しうるかについて確認した。なお、Sad1-DsREDは、Sad1という核膜上の点に局在する遺伝子をDsREDと呼ばれる赤色蛍光を発するマーカーと融合させて構築したものであり、公知である。 Sad1-DsREDを含むインテグレーションベクターを導入したKP2101の染色体をサザンブロッティングにより確認した。その結果、インテグレーションベクターが導入された染色体は、Sad1-DsREDが導入されているため、野生株の分裂酵母の染色体に比べて分子量が大きい位置に観察された。 次に、インテグレーションベクターの導入が確認されたKP2101を顕微鏡で観察した。その結果、導入Sad1遺伝子産物にDsREDが融合したタンパク質が産生され、核膜上の点が赤く染色された。Sad1-DsREDが核膜上に存在することが確認しやすいように、さらにヘキスト染色で核を青く染色した。その結果を図6に示した。 このことより、KP2101の染色体上のarg1変異遺伝子に、インテグレーションベクター上の野生型のarg1+遺伝子が相同組み換えを起こし、Sad1-DsREDとともにKP2101の染色体に組み込まれたと考えられた。(実施例5)出芽酵母ARG8遺伝子(YOL140W)を含むベクターの構築 実施例4に記載の方法と同様に、出芽酵母ARG8遺伝子を出芽酵母染色体DNAを鋳型としてPCRで増幅し、BlueScript プラスミド(Stratagene社製)のf1 originにあるNae I制限酵素部位に導入し、インテグレーションベクターを構築した。 上記ARG8遺伝子をPCRにより増幅するために以下のプライマーを用いた。 ARG8 sense (オリゴ783)GCTCCAGCACCCCTTATTTC(配列番号5) ARG8 antisense (オリゴ811)GGAATTCTTAAGCGTAAACCGCTTC(配列番号6)(実施例6)asn1+遺伝子(SPBC119.10)を含む分裂酵母用ベクターの構築 実施例4に記載の方法と同様に、asn1+遺伝子のBamH I制限酵素部位を両末端に付加したものをPCRで増幅し、BlueScript プラスミド(Stratagene社製)のf1 originにあるBgl II制限酵素部位に導入し、インテグレーションベクターを構築した。(実施例7)出芽酵母ASN1遺伝子(YPR145W)を含む分裂酵母用ベクターの構築 実施例4に記載の方法と同様に、出芽酵母ASN1遺伝子を出芽酵母染色体DNAを鋳型としてPCRで増幅し、BlueScript プラスミド(Stratagene社製)のf1 originにあるBgl II制限酵素部位に導入し、インテグレーションベクターを構築した。 上記ASN1遺伝子をPCRにより増幅するために以下のプライマーを用いた。 ASN1 sense gCgCATTTATAgATACgCATATATAACCC(配列番号7) ASN1 antisense CTATAAAAATATCTATAAgATTAATCC(配列番号8)(実験例8)出芽酵母ASN2遺伝子(YGR124W)を含む分裂酵母用ベクターの構築 実施例4に記載の方法と同様に、出芽酵母ASN2遺伝子を出芽酵母染色体DNAを鋳型としてPCRで増幅し、BlueScript プラスミド(Stratagene社製)のf1 originにあるNae I制限酵素部位に導入し、インテグレーションベクターを構築した。 上記ASN2遺伝子をPCRにより増幅するために以下のプライマーを用いた。 ASN2 sense gggTgCCgCACggCgCgggTTTTTgC(配列番号9) ASN2 antisense CCgTTTgTATCACCgCATTTCTTggTTC(配列番号10)(実施例9)リジン要求性分裂酵母1)変異の位置の確認 実施例1で得られた13種類の変異株のうち、KP2132株分裂酵母(以下、単に「KP2132」という。)について変異の位置を確認した。 KP2132にゲノムライブラリーを形質転換して最少培地で生育可能になった形質転換体酵母からプラスミドを単離した。該プラスミドを制限酵素Hind IIIで切断して短縮し、さらにKP2132に導入し、形質転換させた。その後また最少培地で生育可能になった形質転換体酵母からプラスミドを単離し、そのプラスミドDNAを鋳型としてシーケンスPCRを行いシーケンスにより塩基配列を決定したところ、複数の遺伝子が含まれた断片であることがわかった。該導入された複数の遺伝子中、栄養要求性に関連するのはリジン合成酵素関連遺伝子であるlys4+遺伝子(SPBC1105.02c)であった。 その結果、KP2132はlys4+遺伝子(SPBC1105.02c)に変異のあることが確認された。KP2132は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に寄託した(国際受領番号受領番号FERM ABP-10373 )。 上記lys4+遺伝子をPCRにより増幅するために以下のプライマーを用いた。 lys4 sense (オリゴ) CGGGATCCACTTCCAATTTAAGCAGACGCTTC (配列番号11) lys4 antisense (オリゴ) CGGGATCCATACATACGTGCATCCTTGCTC (配列番号12)2)リジン要求性の確認 KP2132はlys4+遺伝子が変異していることが確認されたので、EMM+leu培地 20 mLにリジン1 mgを添加したEMM+leu+lys培地で培養したところ生育が認められた(図7)。KP2132はEMM+leu培地では生育しなかったのに対し、EMM+leu+lys培地では生育したことにより、アルギニン要求性分裂酵母であることが確認された。これにより、lys4+遺伝子(SPBC1105.02c)は分裂酵母の新規栄養マーカーであることが確認された。(実施例10)lys4+遺伝子(SPBC1105.02c)を含むベクターの構築及びその確認 実施例4に記載の方法と同様に、lys4+遺伝子のBamH I制限酵素部位を両末端に付加したものをPCRで増幅し、BlueScript プラスミド(Stratagene社製)のf1 originにあるBgl II制限酵素部位に導入し、インテグレーションベクターを構築した。 上記説明したように、本発明の新規栄養マーカー遺伝子の変異による栄養要求性株を用いると、安価な最少培地を用いて、遺伝子組換によりタンパク質等を合成することができる。また、遺伝子破壊の手法のために、解析したい遺伝子と栄養マーカー遺伝子を置換させることで、破壊された遺伝子の機能を確認することができる。これらの栄養要求性分裂酵母は、保存及び増殖が容易であるため、工業的生産にも活用しうる。分裂酵母の新規栄養マーカー遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母。オルニチン及び/又はアルギニン生合成関連遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母。Genbank受入番号:AL031532に記載する塩基配列によりコードされるアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(arg1+遺伝子,SPCC777.09c)が変異したアルギニン要求性分裂酵母。アスパラギン生合成関連遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母。Genbank受入番号:AL022117に記載する塩基配列によりコードされるアスパラギン合成遺伝子(asn1+遺伝子,SPBC119.10)が変異したアスパラギン要求性分裂酵母。リジン生合成関連遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母。Genbank受入番号:AL096851に記載する塩基配列によりコードされるリジン合成遺伝子(lys4+遺伝子,SPBC1105.02c)が変異したリジン要求性分裂酵母。分裂酵母の新規栄養マーカー遺伝子を含む分裂酵母に導入可能なベクター。分裂酵母arg1+遺伝子(SPCC777.09c)を含み、請求の範囲第1項〜第3項のいずれか一に記載の分裂酵母に導入可能なベクター。出芽酵母ARG8遺伝子(YOL140W)を含み、請求の範囲第1項〜第3項のいずれか一に記載の分裂酵母に導入可能なベクター。分裂酵母asn1+遺伝子(SPBC119.10)を含み、請求の範囲第1項、第4項又は第5項のいずれか一に記載のアスパラギン要求性分裂酵母に導入可能なベクター。出芽酵母ASN1遺伝子(YPR145W)又はASN2遺伝子(YGR124W)を含み、請求の範囲第1項、第4項又は第5項のいずれか一に記載の分裂酵母に導入可能なベクター。分裂酵母lys4+遺伝子(SPBC1105.02c)を含み、請求の範囲第1項、第6項又は第7項のいずれか一に記載のリジン要求性分裂酵母に導入可能なベクター。請求の範囲第1項〜第3項のいずれか一に記載の分裂酵母に請求の範囲第9項又は第10項に記載するベクターを組み込んでなる形質転換体。請求の範囲第1項、第4項又は第5項のいずれか一に記載の分裂酵母に請求の範囲第11又は12項のベクターを組み込んでなる形質転換体。請求の範囲第1項、第6項又は第7項のいずれか一に記載の分裂酵母に請求の範囲第13項のベクターを組み込んでなる形質転換体。請求の範囲第14項〜第16項のいずれか一に記載の形質転換体を培養し、発現された異種タンパク質を採取することを特徴とするタンパク質の産生方法。 本発明は、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)において、新規栄養マーカー遺伝子が変異した栄養要求性分裂酵母を提供することを課題とする。さらには、該栄養要求性分裂酵母と共に使用するベクターを提供することを課題とする。 アルギニン又はアスパラギンの栄養要求性の分裂酵母を獲得することができ、遺伝子解析を行なった。栄養要求性分裂酵母は、分裂酵母arg1+遺伝子(SPCC777.09c)、分裂酵母asn1+遺伝子(SPBC119.10)又は分裂酵母lys4+遺伝子(SPBC1105.02c)の各遺伝子が変異したことによる。これにより、共に使用可能なベクターを構築することができた。配列表