タイトル: | 特許公報(B2)_ビニルモノマー用重合禁止剤及び重合防止方法 |
出願番号: | 2005015916 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C07C 51/50,C07C 57/075 |
沼田 繁明 JP 4461431 特許公報(B2) 20100226 2005015916 20050124 ビニルモノマー用重合禁止剤及び重合防止方法 川崎化成工業株式会社 000199795 沼田 繁明 20100512 C07C 51/50 20060101AFI20100415BHJP C07C 57/075 20060101ALI20100415BHJP JPC07C51/50C07C57/075 C08F 2/00 C07C 1/00〜409/44 CA(STN) 特開平7−138302(JP,A) 特開2003−40813(JP,A) 特開2003−55288(JP,A) 特開2003−89706(JP,A) 3 2006199893 20060803 8 20080121 繁田 えい子 本発明は、ビニルモノマー用重合禁止剤として有用な4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトール及びこのものを用いたビニルモノマーの重合防止方法に関する。 従来、ビニルモノマー用重合禁止剤としてメトキノン、ハイドロキノンが知られているほか、各種ナフトキノン化合物が重合禁止剤として知られている。例えば、芳香族ビニル化合物向け重合禁止剤として、アルキル化されたナフトキノン化合物(例えば、特許文献1)や2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン(例えば、特許文献2)等が知られており、前者の場合パラキノン化合物よりオルトキノン化合物のほうが優れているとされている。また、酢酸ビニル向け重合禁止剤として、1,4−ナフトキノン等が知られている(例えば、特許文献3)他、(メタ)アクリル酸及びエステル向け重合禁止剤として、1,2−ナフトキノンが知られている(例えば、特許文献4)。特開昭63−235390特開昭56−86123特開2003−89706特開平09−316022 しかしながら、これらのナフトキノン系化合物は、刺激性があったり熱的に不安定だったりするため、取り扱いが困難で工業的に使用するには問題があった。一方、ハイドロキノンやメトキノンは低分子量のため昇華性があり、モノマーの蒸留時にモノマー中に混入する恐れがあり、その用途によっては使用できない恐れがあった。 そこで、本発明者はナフトキノンやナフトハイドロキノン類の物性について鋭意検討した結果、モノアルコキシナフトールから得られる4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールがビニルモノマーの重合禁止剤として効果があり、かつ低昇華性であることを見いだし、本発明を完成させた。本特許はまた、この4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールを用いたビニルモノマーの重合防止方法に関する。 すなわち、本発明は、下記一般式(1)(上記一般式(1)中、Rはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表わす。)で示されるビニルモノマー用重合禁止剤及びビニルモノマーに当該重合禁止剤を共存させることを特徴とするビニルモノマーの重合防止方法を骨子とするものである。 本発明の4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールは、従来のビニルモノマー用重合禁止剤に比べて昇華性が格段に低く、かつ高い重合禁止効果を持つため、工業的に有用な化合物である。本発明の重合禁止剤は、下記一般式(1)(上記一般式(1)中、Rはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基又はハロゲン化アルキル基のいずれかを示す。)で示される4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトール(別名:4,4’−ジアルコキシ−1,1’−ジヒドロキシ−2,2’−ビナフチル)である。 一般式(1)のRで示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、n−アミル基、i−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。一般式(1)のRで示されるヒドロキシアルキル基としては、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基等が挙げられる。一般式(1)のRで示されるアルコキシアルキル基としては2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−ブトキシエチル基、2−フェノキシエチル基等が挙げられる。一般式(1)のRで示されるハロゲン化アルキル基としては、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基等が挙げられる。代表的な4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールの構造式を下記に示す。 これらの4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールのうち、好ましくは一般式(1)のRが、炭素数1から12までのアルキル基のものであり、特に好ましくは、炭素数1から4までのアルキル基のものである。具体的には、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビ−1−ナフトール、4,4’−ジエトキシ−2,2’−ビ−1−ナフトール、4,4’−ジプロポキシ−2,2’−ビ−1−ナフトール、4,4’−ジブトキシ−2,2’−ビ−1−ナフトール等が挙げられる。 本発明の4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールは、ビニルモノマーの重合禁止剤として有効に作用する。本発明の重合禁止剤の対象とするビニルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン等が挙げられる。アクリル酸やメタクリル酸のエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等が挙げられる。 これらビニルモノマーに対し、本発明の重合禁止剤を共存させることにより、ビニルモノマーの重合が抑制され、安定化させることができる。ビニルモノマーに共存させる重合禁止剤の量としては、任意の範囲から選定できるが、ビニルモノマー100万重量部に対し、通常1ないし10,000重量部の範囲であり、好ましくは1ないし1000重量部、特に好ましくは30ないし200重量部の範囲である。ビニルモノマーに重合禁止剤を共存させる方法としては、粉体のままビニルモノマーに添加する方法や、適当な溶剤あるいは重合禁止剤の対象とするビニルモノマーに溶かしたのち添加しても良い。 なお、本発明の重合禁止剤と共に、公知の重合禁止剤を用いてもよい。この場合、予め公知の重合禁止剤と混合して重合禁止剤組成物として用いてもよく、また、別々にビニルモノマーに添加してもよい。かかる公知の重合禁止剤としては、フェノチアジン、ジフェニルアミン等のアミン類、ジブチルジチオカルバミン酸銅等の銅塩、N−ニトロソジフェニルアミン等のニトロソ化合物等が挙げられる。本発明の重合禁止剤は、ビニルモノマーの製造や精製等の加工工程における重合禁止に効果的で、特に、高温での蒸留および精製工程に対して有効である。特に、本発明の4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールは通常使われている重合禁止剤と比べて低い昇華性を有する。このことは、たとえばビニルモノマーの蒸留時に生成物に重合禁止剤が混入する危険性が低いため、工業上好都合である。 本発明の4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトール誘導体は、対応するモノアルコキシナフトールを2量化することで得られる。2量化する方法としては、例えば、電解酸化による方法の他、アルコール性溶媒中、酸化剤の存在下に光照射する方法が挙げられる。以下、後者のアルコール性溶媒中で酸化する方法について詳細を記載するが、この方法に限られるものではない。2量化反応に用いるアルコール性溶媒としては、特に種類を選ばないが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が好適に使用でき、水やその他アルコールと混合可能な溶媒と共に用いてもよい。特にメチルアルコールは低沸点で蒸発させやすいため好まれる。 光照射の光源としては、太陽光やUV光が用いられる。UV光としては366nmの波長を含むことが好ましく、通常はブラックライト、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、ヒュージョン社製のDランプ等が用いられる。 使用する酸化剤としては空気または過酸化水素が好適に用いられる。酸化剤の濃度は、用いるモノアルコキシナフトールに対して等量以上であれば良く、特に上限はない。反応溶媒であるアルコールに対するモノアルコキシナフトールの濃度は高い程良く、通常5wt%から25wt%程度の濃度の溶液を使用する。反応温度は常温で良いが、50℃程度に加熱すると二量化の速度は促進される。アルカリ性条件では、重合禁止能の劣る4,4’−ジアルコキシ−[2,2’−ビナフチリデン]−1,1’−ジオンが生成するので好ましくない。二量化反応の進行とともに、二量体の白い結晶が析出してくるので、ろ過・乾燥することにより原料のモノアルコキシナフトールに対応する二量体が得られる。以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。「合成例1」 4−メトキシ−1−ナフトールを50g取り、メタノール300mlに溶解し、30%過酸化水素水を20g加える。ついで該メタノール溶液を太陽光の直射光にさらした。計20時間照射後、析出した結晶をろ別し、洗浄後、白い結晶が22g得られた。単離収率44モル%。化合物の同定は、IR及び1H NMRを用いて行い、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールであることを確認した。 融点: 233℃ IR: 3430,2920,1590,1460,1400,1338,1290,1215,1125,1092,980,815758 (cm-1) 1HNMR(CD3OCD3): δ3.95(6H,s,2OCH3),6.94(2H,s,芳香環),7.57(4H,t,芳香環),8.19(2H,d,芳香環),8.30(2H,d,芳香環),8.95(2H,bs;2OH)「合成例2」 4−n−プロポキシ−1−ナフトールを10g取り、メタノール30mlに溶解する。30%過酸化水素水を5g加え、ついで該溶液を太陽の直射光にさらした。計20時間照射後、析出した結晶を吸引ろ過してろ別する。白い結晶が3.5g得られた。単離収率35モル%。化合物の同定は、IR及び 1H NMRを用いて行い、4,4’−ジプロポキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールであることを確認した。融点: 152℃IR:3410,2950,2930,1590,1450,1416,1380,1294,1228,1150,1120,1086,950,920,812,752 (cm-1)1HNMR(CDCl3): δ1.10(6H,t,2CH3),1.94(4H,dt,2CH2),4.04(4H,bs,2OCH2),5.46(2H,bs,2OH),6.70(2H,s,芳香環),7.57(4H,bs,芳香環),8.30(4H,bs,芳香環)「合成例3」 4−n−ブトキシ−1−ナフトールを5g取り、メタノール10mlに溶解する。30%過酸化水素水1g加え、ついで該溶液を太陽光の直射光にさらした。計20時間照射後、析出した結晶を吸引ろ過してろ別する。白い結晶が2.2g得られた。単離収率44モル%。化合物の同定は、IR及び 1H NMRを用いて行い、4,4’−ジブトキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールであることを確認した。融点: 161℃IR及び 1H NMRIR:3420,2950,2860,1592,1450,1418,1378,1300,1270,1230,1150,1120,1088,922,754 (cm-1)1HNMR(CDCL3):1.03(6H,t,2CH3),1.60(4H,dt,2CH2),1.90(4H,dd,2CH2),4.10(4H,bs,2OCH2),5.46(2H,bs,2OH),6.71(2H,s,芳香環),7.58(4H,bs,芳香環),8.30(4H,bs,芳香環) 再結晶して重合禁止剤を除いた後アクリル酸4gを試験管に取り、ついで蒸留水2gを加えアクリル酸水溶液とした。該アクリル酸水溶液に実施例1で合成した4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールを60ppm添加し、窒素を5分間、15mL /分で液中に通気した。次いで、試験管に蓋をして、107 ℃に加熱したオイルバスに浸漬した。45分後にとりだしたアクリル酸の粘度は元と変わらず、重合は認められなかった。 再結晶して重合禁止剤を除いたアクリル酸4gを試験管に入れ、蒸留水2gを加えアクリル酸水溶液とした後、実施例2で合成した4,4’−ジプロポキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールを60ppm添加した。該水溶液に窒素を5分間、15mL /分で液中に通気した。次いで、試験管に蓋をして、107 ℃に加熱したオイルバスに浸漬した。45分後にとりだしたアクリル酸の粘度は元と変わらず、重合は認められなかった。 再結晶して重合禁止剤を除いたアクリル酸4gを試験管に入れ、蒸留水2gを加えアクリル酸水溶液とした後、実施例3で合成した4,4’−ジブトキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールを60ppm添加した。該水溶液に窒素を5分間、15mL /分で液中に通気した。次いで、試験管に蓋をして、107 ℃に加熱したオイルバスに浸漬した。45分後にとりだしたアクリル酸の粘度は元と変わらず、重合は認められなかった。「比較例1」 再結晶して重合禁止剤を除いたアクリル酸4gを試験管に入れ、蒸留水2gを加えアクリル酸水溶液とし、ハイドロキノンを60ppm添加した。該水溶液を試験管に仕込み、窒素を5分間、15mL /分で液中に通気した。次いで、試験管をセプタムで蓋をして107 ℃に加熱したオイルバスに10分間浸漬した。10分後とりだしたアクリル酸は重合していた。「比較例2」 再結晶して重合禁止剤を除いたアクリル酸4g を試験管に入れ、蒸留水2gを加えアクリル酸水溶液とし、4,4’−ジメトキシ−[2,2’−ビナフチリデン]−1,1’−ジオンを60ppm添加した。該水溶液を試験管に仕込み、窒素を5分間、15mL /分で液中に通気した。次いで、試験管に蓋をして107 ℃に加熱したオイルバスに10分間浸漬した。10分後とりだしたアクリル酸は重合していた。なお、4,4’−ジメトキシ−[2,2’−ビナフチリデン]−1,1’−ジオンは、メトキシナフトール348mgをメタノール27gに溶解し、水酸化バリウム(8水塩として350mgを水10gに溶解して添加)の存在下に空気酸化して青色の沈殿として得た。「昇華性試験」 ミル氏昇華管に試料(4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビ−1−ナフトール、ハイドロキノン)を200mg取り、所定温度(143℃、170℃)のオイルバスに30分間浸漬し、昇華した重量を求めた。結果を下表に示す。 本発明の4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビ−1−ナフトールは、従来のビニルモノマー用重合禁止剤に比べて昇華性が格段に低く、かつ高い重合禁止効果を有するため、各種ビニルモノマーの製造工程や精製工程等に利用可能である。下記一般式(1)(上記一般式(1)中、Rはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表わす。)で示されるビニルモノマー用重合禁止剤。 上記一般式(1)において、Rが炭素数1〜12のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載のビニルモノマー用重合禁止剤。 ビニルモノマーに、請求項1又は2に記載のビニルモノマー用重合禁止剤を共存させることを特徴とするビニルモノマーの重合防止方法。