生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_マクロファージ系細胞の活性化制御物質のスクリーニング方法
出願番号:2005003231
年次:2008
IPC分類:C12N 15/09,C12Q 1/02,A01K 67/027,G01N 33/15,G01N 33/50,G01N 21/78


特許情報キャッシュ

▲高▼坂 新一 JP WO2005090561 20050929 JP2005003231 20050221 マクロファージ系細胞の活性化制御物質のスクリーニング方法 財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 803000056 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 深見 伸子 100120905 ▲高▼坂 新一 JP 2004078633 20040318 C12N 15/09 20060101AFI20080111BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20080111BHJP A01K 67/027 20060101ALI20080111BHJP G01N 33/15 20060101ALI20080111BHJP G01N 33/50 20060101ALI20080111BHJP G01N 21/78 20060101ALI20080111BHJP JPC12N15/00 AC12Q1/02A01K67/027G01N33/15 ZG01N33/50 ZG01N21/78 C AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20080207 2006511141 16 2G045 2G054 4B024 4B063 2G045AA35 2G045CA11 2G045CB01 2G045FA16 2G045FB12 2G054AA07 2G054CE02 2G054EA03 4B024AA11 4B024CA04 4B024CA06 4B024DA02 4B024EA02 4B024FA02 4B024FA10 4B024GA11 4B024HA11 4B063QA07 4B063QQ08 4B063QQ13 4B063QR32 4B063QR40 4B063QR60 4B063QR66 4B063QR77 4B063QR80 4B063QS05 4B063QS24 4B063QS36 4B063QX02 本発明は、カルシウム結合タンパク質Iba1遺伝子の発現制御領域を含むDNAに蛍光タンパク質遺伝子を連結した融合遺伝子を導入したトランスジェニック動物、及び該トランスジェニック動物を用いるマクロファージ系細胞の活性化制御物質のスクリーニング方法に関する。 中枢神経系に存在する細胞のほとんどがグリア細胞であり、それらはミクログリア(脳マクロファージとも呼ばれる)、アストロサイト、オリゴデンドロサイトに分類される。ミクログリアは脳の中でマクロファージの役割をする細胞で、その主な機能は、障害を受けた細胞を食作用により処理することであることが従来から知られていた。その一方、ミクログリアが異常活性化を受け、活性酸素等の細胞毒性の強い物質を産生し、神経細胞を死滅させる現象は、アルツハイマー病等の神経変性疾患に共通してみられる現象である。実際、アルツハイマー患者の老人斑には多くのミクログリアが集積している。このように、脳内でミクログリアは、神経変性疾患や神経損傷時等に活性化され、神経の機能維持・生存・損傷修復に働く因子を産生する一面、時にはラジカル、一酸化窒素(NO)、腫瘍壊死因子(TNF)などを産生し神経傷害的に働いている。 従って、活性化ミクログリアの動態を観察することは、脳や神経の傷害や保護機能の解明、アルツハイマー病に代表される神経変性疾患の診断に有用である。しかしながら、これまでミクログリアの観察は、スライスした脳組織切片を作製し、その切片中の細胞をローダミン等の蛍光色素でラベルしておいた抗体で標識し、蛍光顕微鏡で観察するという、いわゆる免疫組織化学的染色法により行われていた。しかしながら、かかる方法は、組織切片を固定した後、染色する必要があり、生体内のミクログリアをリアルタイムで解析し、可視化することができないなどの問題がある。 一方、カルシウム結合タンパク質Iba1は、本発明者らにより見出されたミクログリアやマクロファージにおいて特異的に発現する分子量約17,000のタンパク質である[Ohsawa K.,Imai Y.,Kanazawa H.,Sasaki Y.,and Kohsaka S.,Involvement of IbaI in membrane ruffling and phagocytosis of macrophage/microglia,J.Cell.Sci.,113,3073−3084(2000)]。Iba1の発現は、ミクログリアの活性化に伴って上昇することからミクログリアの活性化に重要な機能を持っていること示唆される。さらに、Iba1は、M−CSF、ATP、PAFなどの刺激によって膜ラッフル部に単量体Gたんぱく質Rac・F−ラクチンと共に集積し、神経傷害又は保護にこれらの分子が協調して機能していると考えられている。 従って、本発明の目的は、ミクログリアなどのマクロファージ系細胞を特異的に可視化する手段を提供することにある。本発明のさらなる目的はマクロファージ系細胞の活性化制御物質をスクリーニングする方法を提供することにある。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カルシウム結合タンパク質Iba1遺伝子プロモーターと緑色蛍光タンパク質遺伝子との融合遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製し、該マウスの脳組織切片において緑色蛍光タンパク質を発現している細胞を観察したところ、抗Iba抗体により染色された細胞と一致し、ミクログリア細胞を可視化することができることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。 即ち、本発明は以下の発明を包含する。(1)カルシウム結合タンパク質Iba1遺伝子の発現制御領域を含むDNAに蛍光タンパク質遺伝子を連結した融合遺伝子。(2)蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質(GFP)又は黄色蛍光タンパク質(YFP)である、(1)に記載の融合遺伝子。(3)(1)又は(2)に記載の融合遺伝子を導入したトランスジェニック動物。(4)動物が、げっ歯類に属するものである(3)に記載の動物。(5)動物が、マウスである(4)に記載の動物。(6)(3)〜(5)のいずれかに記載の動物、又は該動物の組織若しくは細胞を用いて蛍光タンパク質遺伝子の発現を検出することを特徴とする、マクロファージ系細胞の可視化方法。(7)マクロファージ系細胞がミクログリアである、(6)に記載の方法。(8)(3)〜(5)のいずれかに記載の動物、又は該動物の組織若しくは細胞に被験物質を接触させ、蛍光発光しているマクロファージ系細胞の集積度又は数を指標としてマクロファージ系細胞の活性化促進が起こるか否かを評価することを特徴とする、マクロファージ系細胞の活性化促進物質のスクリーニング方法。(9)マクロファージ系細胞の活性化促進物質が炎症性物質である、(8)に記載のスクリーニング方法。(10)マクロファージ系細胞の活性化促進物質が発がん性物質である、(8)に記載のスクリーニング方法。(11)(3)〜(5)のいずれかに記載の動物、又は該動物の組織若しくは細胞に、炎症惹起物質の投与により炎症反応を誘発した後、蛍光発光しているマクロファージ系細胞の集積度又は数を指標としてマクロファージ系細胞の活性化抑制が起こるか否かを評価することを特徴とする、マクロファージ系細胞の活性化抑制物質のスクリーニング方法。(12)マクロファージ系細胞の活性化抑制物質が、マクロファージ系細胞の異常活性化を伴う疾患を予防及び/又は治療するための医薬である、(11)に記載のスクーニング方法。(13)マクロファージ系細胞がミクログリアである、(8)〜(12)に記載の方法。 図1は、Iba1/EGFP融合遺伝子の構造(上段)、トランスジェニックマウスの脳組織切片の蛍光顕微鏡写真(中段)、抗−IbaI抗体による免疫組織染色との比較結果(下段)を示す。 図2は、THP−1細胞におけるEGFPの発現の蛍光顕微鏡写真を示す。 図3は、導入遺伝子の確認を行った電気泳動写真を示す(レーン1,2,4:トランスジェニックマウス、レーン3:野生型マウス、M:DNAサイズマーカー λDNA/Hind III)。 以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2004年3月18日に出願された日本国特許出願2004−078633号の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。1.融合遺伝子の作製 本発明の融合遺伝子は、カルシウム結合タンパク質Iba1遺伝子の発現制御領域の制御下に蛍光タンパク質遺伝子が機能しうるように結合したDNAをいう。 本発明において、カルシウム結合タンパク質Iba1遺伝子は、プロモーター、エンハンサー領域等の発現制御領域のみからなるDNA断片を用いることも可能であるが、生体内のIba1遺伝子のマクロファージ系細胞における発現や動態を、該遺伝子を導入したインビトロ系において再現するために、該発現制御領域を含むゲノムDNAを用いることが好ましい。具体的には、かかるゲノムDNAとして、カルシウム結合タンパク質Iba1遺伝子のプロモーター、エキソン1、イントロン1、及びエキソン2の一部からなるDNA断片を用いることができ、このDNA断片は、市販のゲノムライブラリーのクローンから取得できる。DNA断片の由来は、これを導入する宿主と同種のものが好ましいが、宿主細胞内で導入されたDNA断片が機能できるものであればこれに限られるものではない。取得したDNA断片がこれを導入する宿主体内で発現制御領域として活性を有するか否かは、取得したDNA断片の3’下流側にEGFP遺伝子等のリポーター遺伝子を結合し、これを導入する細胞、又はこれと近似する適当な細胞等に導入した後に、該細胞内で発現しているリポーター遺伝子がコードするタンパク質の蛍光を解析することにより確認することができる。 蛍光タンパク質としては、緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein:GFP)、黄色蛍光タンパク質(yellow fluorescent protein:YFP)、赤色蛍光タンパク質(redfluorescent protein:RFP)、青色蛍光タンパク質(blue fluorescent protein:BFP)又はこれらの誘導体が挙げられ、1個又は2個以上、好ましくは2個〜3個を適宜組み合わせて使用することができる。これらの蛍光タンパク質遺伝子は、PCR等で増幅して取得することもできるし、市販のものを用いることもできる。 この蛍光タンパク質遺伝子を、前記Iba1遺伝子の発現制御領域を含むDNA断片の3’下流側に、Iba1遺伝子の翻訳領域(ORF)の読みとり枠(トリプレットコドン)がずれないように結合することによって本発明の融合遺伝子を作製することができる。2.トランスジェニック動物の作製 本発明のトランスジェニック動物は、1.で作製した融合遺伝子をヒト以外の動物の生殖細胞に導入し、これを発生させることにより作製することができる。 トランスジェニック動物の対象となる動物としては、ヒトを除く哺乳動物であれば特に限定されないが、例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ等が挙げられる。これらの中でげっ歯類に属する動物が好ましく、その中でもマウスが特に好ましい。 融合遺伝子の動物への導入は、代表的には受精卵の雄性前核に直接遺伝子を注入する方法(遺伝子微量注入法)により行うことができる。受精卵は、上記のヒト以外の動物の雄と雌を交配させ、交配後1日目の雌の卵管から摘出することによって得られる。交配は自然交配でもよいが、動物の雌の性周期を人工的に調節して過排卵を惹起させた後、雄と交配させる方法が好ましい。動物の雌の性周期を人工的に調節する方法としては、例えば、初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン:PMSG)、次いで黄体形成ホルモン(ヒト繊毛性性腺刺激ホルモン;hCG)を、例えば腹腔注射等により投与する方法が挙げられる。これらのホルモンの投与量、投与間隔等は、該動物の種類により適宜決定すればよい。摘出した受精卵に前記融合遺伝子をマイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、リポソーム法等の通常用いられる方法にて注入した後、該受精卵を偽妊娠雌動物の輸卵管に人工的に移植、着床させ、出産させることにより、トランスジェニック動物を得ることができる。偽妊娠雌動物は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)又はその類縁体を投与した後に動物の雄と交配させて受精能を誘起させることによって作製できる。LHRH又はその類縁体の投与量、投与間隔等は、該動物の種類により適宜決定すればよい。 以下に、本発明のトランスジェニック動物の作製についてトランスジェニックマウスを例として説明する。まず、採卵用の雌マウスに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン:PMSG)及び黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン:hCG)を投与して過剰排卵させ、雄マウスと交配して、膣栓確認後に卵管から受精卵を採取する。次に、得られた受精卵の雄性前核に前記融合遺伝子をマイクロインジェクション法により導入し、この遺伝子導入卵細胞をWhitten’sの培地等で培養した後、偽妊娠させた雌マウスの輸卵管に移植し、飼育し、出産させる。最後に、生まれた仔マウスから蛍光タンパク質遺伝子を発現した仔マウスを選択することにより、本発明のトランスジェニックマウスを得ることができる。上記マウスの受精卵としては、例えば、C57BL/6、129/sv、BALB/c、C3H、SJL/Wt等に由来するマウスの交配により得られるものを用いることができるが、前核段階で細胞質内において雄性前核と雌性前核が独立したときに識別が可能であること、受精卵を多く採取できること、また、マイクロインジェクション操作に好適で産仔の発生率が高いことなどから、C57BL/6系マウス同士の交配によって得られるマウスの受精卵を用いるのが好ましい。また、導入する融合遺伝子の量は2〜4コピーが適当である。 融合遺伝子が導入された仔マウスの選択は、マウスの尾の先を切り取って、高分子DNA抽出法(発生工学実験マニュアル、野村達次監修・勝木元也編、講談社(1987))又はDNAeasy Tissue Kit(QIAGEN社製)等の市販のキットを用いることによりゲノムDNAを抽出し、サザンブロット法やPCR法等の通常用いられる方法により該DNA中の蛍光タンパク質遺伝子、Iba1遺伝子の存在を確認することによって行うことができる。また、実際にその個体内で導入された蛍光タンパク質遺伝子が発現され、蛍光タンパク質が生成されていることは、蛍光の発光量の測定や、蛍光顕微鏡等による観察によって行うことができる。 本発明のトランスジェニック動物は、上記のようにして得られる個体を交配し、導入された遺伝子が安定に保持されることを確認して通常の飼育環境で継代飼育することによりその子孫を得ることもでき、また、体外受精を繰り返すことによりその子孫を得て系統を維持することもできる。本発明のトランスジェニック動物には、このようにして得られる導入遺伝子を有するその子孫等も含まれる。3.トランスジェニック動物の用途 本発明のトランスジェニック動物は、マクロファージ系細胞において特異的に蛍光タンパク質遺伝子を発現することができる。従って、この蛍光タンパク質遺伝子の発現を検出することによって、本発明のトランスジェニック動物、又は該動物から得られた生体試料におけるマクロファージ系細胞を可視化することができる。 蛍光タンパク質遺伝子の発現は、蛍光量を測定することによって行われる。蛍光量の測定の方法は、蛍光顕微鏡等による可視化やFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)等による定量化、二光子励起法、あるいはフローサイトメトリー等によることができる。 上記の生体試料としては、例えば、脳(大脳、間脳、中脳、小脳、延髄、網膜)又は脊髄などの中枢神経系組織切片、肝臓、胃、小腸、大腸、膵臓などの消化器系組織切片、脾臓、骨髄、胸腺、リンパ節などの免疫系組織切片、腎臓等の全身のあらゆる臓器組織、これらの各組織由来の細胞、血液、リンパ液などの体液などが挙げられる。 また、マクロファージ系細胞とは、脳ミクログリア、肺胞マクロファージ、腹腔マクロファージ、脾臓マクロファージ、肝クッパー細胞、ランゲルハンス細胞、リンパ組織の洞組織球、単核球細胞、血中マクロファージ等が含まれる。マクロファージ系細胞は、生体内に侵入した病原体を貪食、認識することにより活性化され、炎症反応を惹起し、感染防御に対して重要な働きを有する。 従って、本発明のトランスジェニック動物を用いることにより、蛍光発光しているマクロファージ系細胞の集積度又は数を指標として、生体内のあらゆる炎症の有無や程度、代表的にはミクログリアの異常活性化を伴う脳神経の損傷の有無や程度を診断することができる。 また、本発明のトランスジェニック動物は、マクロファージ系細胞の活性化制御物質のスクリーニングに用いることができる。ここで、マクロファージ系細胞の活性化制御物質とは、マクロファージ系細胞の活性化を促進する物質及び抑制する物質の両方を含む。 マクロファージ系細胞の活性化促進物質のスクリーニングは、本発明のトランスジェニック動物、又は該動物の組織若しくは細胞に、被験物質を接触させ、蛍光発光しているマクロファージ系細胞の集積度又は数を指標としてマクロファージ系細胞の活性化が促進されたか否かを評価することによって行う。例えば、被験物質を投与したトランスジェニック動物において、被験物質を投与しない以外は同じ条件の対照動物に比べて蛍光発光しているマクロファージ系細胞集積度や数の増加が認められる場合、その被験物質はマクロファージ系細胞の活性化促進物質として選抜することができる。ここで、マクロファージ系細胞の活性化促進物質としては、例えば、炎症性物質、発がん性物質、内分泌撹乱化学物質などが含まれる。従って、本スクリーニング方法は薬物や化学物質の副作用、安全性評価試験として用いることができる。 一方、マクロファージ系細胞の活性化抑制物質をスクリーニングは、本発明のトランスジェニック動物、又は該動物の組織若しくは細胞に、炎症惹起物質の投与により炎症反応を誘発した後、被験物質を接触させ、蛍光発光しているマクロファージ系細胞の集積度又は数を指標としてマクロファージ系細胞の活性化が抑制されたか否かを評価することによって行う。例えば、炎症惹起物質の投与により炎症反応を誘発した後、被験物質を投与したトランスジェニック動物において、被験物質を投与しない以外は同じ条件の対照動物に比べて蛍光発光しているマクロファージ系細胞集積度や数の減少が認められる場合、その被験物質はマクロファージ系細胞の活性化抑制物質として選抜することができる。ここで、選抜されたマクロファージ系細胞の活性化抑制物質は抗炎症作用を有することから、例えば、マクロファージ系細胞の異常活性化を伴う疾患の予防及び/又は治療のための医薬の候補とすることができる。 ここで用いる炎症惹起物質としては、マクロファージ系細胞の活性化(増加、集積、遊走など)をもたらすものであれば特に限定はされないが、例えば、サイトカイン[インターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、コロニー刺激因子(CMF))、血小板活性化因子(PAF)]、ブラジキニン、カリクレイン、ヒスタミン、セロトニン、血小板活性化因子、LPS等が挙げられる。 マクロファージ系細胞の異常活性化を伴う疾患としては、例えば、神経変性疾患〔アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、シドナム舞踏病、ピック病、大脳皮質基底核神経節変成症(CBGD)、進行性核上性麻痺(PSP)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症(SCD)、多系統萎縮症等〕、筋疾患(進行性筋ジストロフィー、多発性筋炎)、炎症性疾患〔胃癌、大腸癌、乳癌、肺癌、食道癌、前立腺癌、肝癌、腎臓癌、膀胱癌、皮膚癌、子宮癌、脳腫瘍、骨肉種、骨髄腫瘍等の癌;慢性関節リウマチ、多発性硬化症、重症筋無力症、甲状腺炎、多発性筋炎、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発性動脈炎、全身性エリテマトーデス、ベーチェット病、バセドー病等の自己免疫疾患;気管支喘息発作、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、蕁麻疹等のアレルギー疾患;炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎、クローン病、敗血症、関節炎、ブドウ膜炎、SIRS(全身性炎症反応症候群)等〕などが挙げられるがこれらに限定はされない。 本発明のスクリーニング方法の対象となる被験物質の種類は特に限定されない。例えば、天然に生じる分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、核酸、脂質、ステロイド、グリコペプチド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど);天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチド擬態物など):発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液;天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作成した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)、ペプチドライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)などが挙げられる。 被験物質の投与量や濃度は適宜設定することができるが、例えば、希釈系列を作成するなどして複数の投与量を設定してもよい。被験物質の投与期間も適宜設定することができるが、例えば、1日から数週間までの期間に渡って投与することができる。本発明のトランスジェニック動物に被験物質を投与する場合の投与経路は特に限定されず、被験物質の種類に応じて経口投与、静脈注射、腹腔内注射、経皮投与、皮下注射等の投与形態を適宜使用することができる。 本発明のスクリーニング方法によって選抜されたマクロファージ細胞の活性化抑制物質は、上記のマクロファージ系細胞の異常活性化を伴う疾患の治療及び/又は予防のための医薬として用いることができる。また、上記の選抜された物質から誘導される化合物もまた同様に用いることができる。これらの物質を上記疾患の治療及び/又は予防のための医薬として用いる場合には、該物質を単独で用いることもできるが、薬学的に許容され得る担体と配合して医薬組成物として用いることもできる。このときの有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で適宜調整すればよい。また、かかる医薬は種々の形態で投与することができ、それらの投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、あるいはシロップ剤等による経口投与、又は注射剤、点滴剤、リポソーム剤、坐薬剤等による非経口投与を挙げることができる。また、その投与量は、症状、年齢、体重等によって適宜選択することができる。 また、本発明のトランスジェニック動物と既に確立されている病態動物(例えば、アルツハイマー病モデル動物)とを交配させると、蛍光タンパク質遺伝子が組み込まれた病態トランスジェニック動物を作製することもできる。この動物から得た組織切片の発色パターンと正常トランスジェニック動物から得た組織切片の発色パターンとを比較すると、その病態を検出することができ、ヒト疾患に関する基礎的資料として用いることができる。 以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。 Iba1/EGFP融合遺伝子導入マウスの作製(1)Iba1/EGFP融合遺伝子の作製及びマクロファージ系細胞発現予備試験 マウスiba1遺伝子のプロモーター領域と増強緑色蛍光タンパク質(Enhanced Green Fluorescent Protein:EGFP)をコードする遺伝子の融合遺伝子(pIEH−GFP)を以下のようにして構築した。 pIRES−EGFP(Clontech社製)から切り出したEGFP−ポリAシグナル断片を、プロモーター、エキソン1、イントロン1、及びエキソン2の一部を含むiba1ゲノムクローン(GeneBank Accession No.AB036423;2178−4066位)の1.9kbp EcoRI−HindIII断片の3’側にライゲートした。オープンリーディングフレームはエキソン1内のATGから始まり、エキソン2にスプライスし、EGFPにフレームを合わせて融合させた(図1上段)。上記操作によりEGFPのN末端に17個のアミノ酸が付加した。 融合遺伝子(pIEH−GFP)の塩基配列を配列番号1に示す。また、pIEH−GFPの完全マップを以下に示す。 マップにおける位置 1−6 EcoRI部位、iba1 EcoRI−HindIII断片の開始部位 1884−1889 HindIII部位、iba1 EcoRI−HindIII断片の終結部位 1607−1709 iba1遺伝子のエクソン1 1878−1889 iba1遺伝子のエクソン2 1685−1687 iba1の翻訳開始コドンATG 1904−1906 EGFPの翻訳開始コドンATG 2621−2623 EGFPの翻訳停止コドン 2695−2612 ウシ成長ホルモンポリAシグナル 作成した構築物をpBluescrpitIISK(−)(Stratagene社製)のEcoRI−XhoI部位にサブクローニングした。得られたプラスミドを単芽球白血病細胞THP−1又はアフリカミドリザル腎臓由来COS−7細胞にエレクトロポレーション法で導入し、24時間インキュベートした後、EGFPの発現を蛍光顕微鏡にて観察した。細胞導入のために、プラスミドはXhoI消化によって線状化した。顕微鏡観察の結果、pIEH−GFPは、THP−1に活性で(図2)、COS−7細胞で不活性であった。(2)トランスジェニックマウスの作製 (1)の融合遺伝子をTEバッファー(10mM Tris−HCl(pH8),1mM EDTA)に100ng/μlとなるように50μl以上調製した。 採卵用のC57BL/6J系統雌マウス(8週齢以上)にPMSG(妊馬血清性ゴナドトロピン)及びhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)をそれぞれ個体あたり5単位を腹腔内投与して過剰排卵させ、C57BL/6J系統雄マウス(8週齢以上)の精子と体外受精させた。媒精3時間後に第二極体が観察され、6時間以上経過すると雌雄前核の判別が可能となった。modified Whitten’s medium(mWM)で洗浄し、卵丘細胞などを除去し、この受精卵を供試卵とした。 受精卵への遺伝子注入は、チャンバー内の受精卵を支持ピペットで固定し、注入ピペットに充填した前記融合遺伝子溶液(2μl)を、受精卵の雄性前核にマイクロインジェクションした。なお、注入溶液は500〜1000コピー/μlに調整し、1300回転で3分間遠心後の上清を使用した。注入操作後、2細胞期までmodified Whitten’s medium(mWM)にて37℃で一晩培養し、2細胞期に発生した胚(20〜25個/匹)を予め移植用に準備した偽妊娠状態(0.5日、膣栓確認)の雌マウスの輸卵管に戻して個体を発生させ、移植日から19日後に帝王切開により産仔を得、得られた仔マウスは、すぐにSPF里親につけて離乳期まで育てた。(3)トランスジェニックマウスのスクリーニング 出生後3〜4週間経過したところで、仔の尾の一部約1cmを切り取って、高分子DNA抽出法によりゲノムDNAを抽出し、エタノール沈澱を行って濃縮した。沈澱として得られたDNAはTEバッファー(10mM Tris−HCl(pH8),1mM EDTA)に再溶解し、PCRのテンプレートとして用いた。 導入遺伝子の存在はExpand High Fidelity PCR system(ロシュ社製)を用いるPCRによって調べた。配列は、Iba1プロモーター断片の5’末端、EGFPの3’末端をそれぞれ認識するプライマー:5’−TACCGCATCCTTGGTTTGAG−3’(配列番号2)及び5’−CTTGTACAGCTCGTCCATGC−3’(配列番号3)を用い、94℃1分、55℃1分、72℃2分を1サイクルとするサーマルサイクルを40サイクル行うことによって増幅した。 増幅遺伝子の電気泳動写真を図3に示す。図中、レーン3は野生型マウス、レーン1,2,4はトランスジェニックマウスの増幅遺伝子、Mは分子量マーカーの電気泳動パターンを示す。レーン1,2,4にはEGFPのORFを示す約1.5kbのバンドが検出され、EGFPを含むDNAが導入されていることが確認された。 Iba1/EGFP融合遺伝子導入マウスの解析 上記実施例1の(3)で取得されたIba1/EGFP融合遺伝子導入マウスから摘出した脳の切片について蛍光顕微鏡(オリンパス光学製)にB励起フィルターを装着して自家蛍光を観察したところ、ミクログリアにおいてGFP発光が観察された(図1中段、右側は拡大図)。 次に、同様の脳切片に対して免疫組織染色をIto D.,Imai Y.,Ohsawa K.,Nakajima K.,Fukuuchi Y.,and Kohsaka S.,Microglia−specific localization of a normal calcium binding protein,Iba1,Mol.Brain Res.,57,1−9(1998)に記載の方法に従って行った。まず、調製した脳切片にマウス抗Iba1抗体(和光純薬工業製)を反応させ、次いでFITC標識抗ウサギIgG抗体を反応させて、蛍光顕微鏡により検出した。その結果、ミクログリアにおいて抗体による染色とEGFP蛍光が一致し、Iba1/EGFP融合遺伝子導入マウスにおいてミクログリアを免疫組織染色することなく、EGFPの蛍光により同定することが可能であることがわかった(図1下段、左図:GFP発光(GFP)、中図:免疫組織染色(Iba1)、右図:両者を重ね合わせたもの(Merged))。 本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に組み入れるものとする。 本発明により得られるトランスジェニック動物を用いることによってマクロファージ系細胞の集積、移動などを視覚的に捉えることが可能となる。従って、本発明は、マクロファージ系細胞の活性化制御(促進又は抑制)物質のスクリーニング、アルツハイマー病などのミクログリアの異常活性化に関連する疾患の診断、病態の解析、などに有用である。 カルシウム結合タンパク質Iba1遺伝子の発現制御領域を含むDNAに蛍光タンパク質遺伝子を連結した融合遺伝子。 蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質(GFP)又は黄色蛍光タンパク質(YFP)である、請求項1に記載の融合遺伝子。 請求項1又は2に記載の融合遺伝子を導入したトランスジェニック動物。 動物が、げっ歯類に属するものである請求項3に記載の動物。 動物が、マウスである請求項4に記載の動物。 請求項3〜5のいずれかに記載の動物、又は該動物の組織若しくは細胞を用いて蛍光タンパク質遺伝子の発現を検出することを特徴とする、マクロファージ系細胞の可視化方法。 マクロファージ系細胞がミクログリアである、請求項6に記載の方法。 請求項3〜5のいずれかに記載の動物、又は該動物の組織若しくは細胞に被験物質を接触させ、蛍光発光しているマクロファージ系細胞の集積度又は数を指標としてマクロファージ系細胞の活性化促進が起こるか否かを評価することを特徴とする、マクロファージ系細胞の活性化促進物質のスクリーニング方法。 マクロファージ系細胞の活性化促進物質が炎症性物質である、請求項8に記載のスクリーニング方法。 マクロファージ系細胞の活性化促進物質が発がん性物質である、請求項8に記載のスクリーニング方法。 請求項3〜5のいずれかに記載の動物、又は該動物の組織若しくは細胞に、炎症惹起物質の投与により炎症反応を誘発した後、被験物質を接触させ、蛍光発光しているマクロファージ系細胞の集積度又は数を指標としてマクロファージ系細胞の活性化抑制が起こるか否かを評価することを特徴とする、マクロファージ系細胞の活性化抑制物質のスクリーニング方法。 マクロファージ系細胞の活性化抑制物質が、マクロファージ系細胞の異常活性化を伴う疾患を予防及び/又は治療するための医薬である、請求項11に記載のスクリーニング方法。 マクロファージ系細胞がミクログリアである、請求項8〜12に記載の方法。 本発明は、マクロファージ系細胞を可視化し、炎症や傷害に関連するマクロファージ系細胞の活性化制御物質のスクリーニング手段を提供することを課題とする。 本発明によれば、カルシウム結合タンパク質Iba1遺伝子の発現制御領域を含むDNAに蛍光タンパク質遺伝子を連結した融合遺伝子、該遺伝子を導入したトランスジェニック動物、及び該動物動物を用いるマクロファージ系細胞の活性化制御物質のスクリーニング方法が提供される。 配列表


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