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タイトル:特許公報(B2)_バキュロウイルスベクター、バキュロウイルスベクター製造方法及び遺伝子導入方法
出願番号:2004539540
年次:2010
IPC分類:C12N 7/00,C12N 15/09


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松浦 善治 JP 4431039 特許公報(B2) 20091225 2004539540 20030925 バキュロウイルスベクター、バキュロウイルスベクター製造方法及び遺伝子導入方法 財団法人大阪産業振興機構 801000061 廣田 浩一 100107515 松浦 善治 JP 2002278469 20020925 20100310 C12N 7/00 20060101AFI20100218BHJP C12N 15/09 20060101ALN20100218BHJP JPC12N7/00C12N15/00 A C12N 15/00-90 C12N 7/00-08 CA/BIOSIS/MEDLINE(STN) PubMed WPI JSTPlus(JDreamII) J Virol.,Vol.75,No.6,pp.2544-2556 (2001) Virology,Vol.254,pp.297-314 (1999) Virology,Vol.279,pp.343-353 (2001) 9 JP2003012275 20030925 WO2004029259 20040408 18 20051214 飯室 里美 本発明は、遺伝子治療等に好適に利用できるバキュロウイルスベクター、該バキュロウイルスベクターの製造方法及び該バキュロウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法に関する。 遺伝子治療の臨床研究がスタートして10年が経過し、必ずしも満足できる成績ではないものの、本治療法が今世紀の先端医療の要となることは疑いの余地はない。遺伝子治療の成否を握るのは、安全に効率よく標的細胞へ遺伝子を導入できる、大きな組み込み容量を持った遺伝子導入ベクターの開発である。 これまでの遺伝子治療用ベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、そしてアデノ随伴ウイルスなどが主に利用されてきた。しかしながら、自立増殖ウイルスの出現や、ランダムな遺伝子の組み込みによる癌遺伝子の活性化等、安全性に問題があり、遺伝子導入効率や特異的な遺伝子導入法の改善についても十分ではなかった。また、細胞毒性や免疫反応の誘導、中和抗体による不活化等の問題もあった。 これに対し、昆虫ウイルスであるバキュロウイルスは近年まで昆虫にしか感染しないと考えられており、専ら昆虫細胞を用いて導入遺伝子を大量に発現できる系として利用されてきた。 バキュロウイルスは鱗翅目、膜翅目及び双翅目などの昆虫に感染をおこす昆虫病原ウイルスで、環状の二本鎖DNAを遺伝子として持つ。その中で、核多角体病ウイルス(Nuclear Polyhedorosis Virus, NPV)といわれる一群のウイルスは、感染後期には感染細胞の核内に多角体と呼ばれる封入体を全細胞蛋白の40〜50%に達するほど大量に作り、その中に多数のウイルス粒子を埋め込んでいる(図1)。このため感染により宿主が死滅しても、この中でウイルスは紫外線や熱などの外界からの不活化作用から保護され、長期間感染性を保持することが可能になる(図2)。 このように多角体はウイルスが自然界で生存するためには必須であるが、ウイルスの増殖そのものには必要ないため、多角体遺伝子の代わりに発現したい外来遺伝子を挿入してもウイルスは全く支障なく感染、増殖し、外来遺伝子産物を大量に産生する。現在まで、キンウワバ亜科のAutographa californica NPV(AcNPV)とカイコのBombyx mori NPV (BmNPV)の二つのウイルスがベクターとして利用されているが、AcNPVを用いた発現例が圧倒的に多い。 本発明者等は、バキュロウイルスベクターにおいて、世界で最も発現効率の高いベクターpAcYM1の開発に成功している(例えば、非特許文献1参照)。そして、C型肝炎ウイルスの構造タンパクを該ベクターを用いた系で発現し、それを抗原とした早期抗体診断系の開発に成功し、この診断系の導入によって我が国における輸血後C型肝炎の発生はほぼ制圧された。 近年、バキュロウイルスを用いた、哺乳動物細胞への遺伝子導入が報告された(例えば、非特許文献2及び3参照)。当初、バキュロウイルスを用いた遺伝子導入は、肝細胞に特異的であるとされたが、本発明者等は広範な動物細胞にも遺伝子導入が可能であることを明らかにした(例えば、非特許文献4参照)。 このように、バキュロウイルスベクターは、広範な哺乳動物細胞へ感染し、複製することなく、外来遺伝子を効率よく発現できることが明らかにされたことにより、遺伝子治療ベクターとしての可能性が注目されるようになった。 バキュロウイルスベクターは1)ウイルス遺伝子は130kbpもあり、大きな(<15kbp)外来遺伝子を挿入できる、2)ウイルスの遺伝子は全く哺乳動物細胞では発現しないため、細胞傷害性がほとんどなく有害な免疫応答の誘導もない、3)組換えウイルスを短時間で作製できる、4)ヒトにはバキュロウイルスに対する中和抗体が存在しない等の点で、ヒトへの遺伝子導入ベクターとして、極めて優れた性質を有する。 これまでに感染効率を向上させる目的で、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質等の他のウイルスのエンベロープタンパク質をバキュロウイルス自身のエンベロープタンパク質であるgp64タンパク質とともに粒子表面に提示させる試みが報告されている(例えば、非特許文献5参照)(図3左)。これにより哺乳動物細胞への遺伝子導入効率は飛躍的に向上した。 また、バキュロウイルスのgp64タンパク質を他のウイルスのエンベロープタンパク質と完全に置換することも試みられ、バキュロウイルスに近縁なウイルスのエンベロープタンパク質や水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質に置き換えても組換えウイルスは昆虫細胞で複製できることが報告されている(例えば、非特許文献6参照)(図3右)。 しかし、このような従来の方法においては、感染時に必要な力価のウイルスを得るためには、増殖のために昆虫細胞への感染性が必要であり、前記ウイルスDNAの組換えによる方法では、エンベロープタンパクとして特異的な感染性を有するタンパク質のみを選択することができなかった。 したがって、これらのベクターの感染には、特異性を持たせることができず、特異性を付与しうるようなバキュロウイルスベクターは報告されていない。前記バキュロウイルスベクターの優れた特性を有し、かつ、所望の感染性を付与しうるバキュロウイルスベクターの開発が強く求められていた。Matsuura, Y., Possee, R. D., Overton, H. A., and Bishop, D. H. L. (1987). Baculovirus expression vectors: the requirements for high level expression of proteins, including glycoproteins. J. Gen. Virol. 68, 1233-1250.Hofmann, C., Sandig, V., Jennings, G., Rudolph, M., Schlag, P., and Strauss, M. (1995). Efficient gene transfer into human hepatocytes by baculovirus vectors. Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 92, 10099-10103.Boyce, F. M., and Bucher, N. L. R. (1996). Baculovirus-mediated gene transfer into mammalian cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 2348-2352.Shoji I., Aizaki H., Tani H., Ishii K., Chiba T., Saito I., Miyamura T., and Matsuura Y. (1997). Efficient gene transfer into various mammalian cells including non-hepatic cells by baculovirus vectors. J. Gen. Virol. 78, 2657-2664.Tani, H., Nishijima, M., Ushijima, H., Miyamura, T., and Matsuura, Y. (2001). Characterization of cell-surface determinants important for baculovirus infection. Virology 279, 343-353.Mangor J.T., Monsam S.A., Johnson C.M., and Blissard G.W. (2001). A gp64-null baculovirus pseudotyped with vesicular stomatitis virus G protein. J. Virol. 75, 2544-2556. 本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、昆虫細胞に感染性を示す必要のない、所望のタンパク質をウイルス粒子表面に提示し得る新規なバキュロウイルスベクター、その製造方法及び該バキュロウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法を提供することを目的とする。 発明者らは、バキュロウイルスのgp64遺伝子を欠損させ、その代わりに目的のタンパク質をウイルス粒子表面に効率よく取り込ませる方法を開発したことに基づき、本発明に至った。 すなわち、本発明の前記課題を解決するための手段は以下の通りである。 <1> 少なくとも、細胞表面に発現可能なタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドと、野生型、変異型及び組換えバキュロウイルスDNAのいずれかとを昆虫細胞にコトランスフェクトするコトランスフェクション工程を含み、かつ、該バキュロウイルスDNAの少なくとも一部を含み、該細胞表面に発現可能なタンパク質を被ったシュードタイプバキュロウイルスが生成され、 該コトランスフェクション工程の後に、細胞表面に発現可能なタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドが発現する細胞に、前記コトランスフェクション工程により生成された第一のシュードタイプバキュロウイルスを感染させ、ウイルスを増幅させ、第二のシュードタイプバキュロウイルスを生成する増幅工程をさらに含むことを特徴とするバキュロウイルス製造方法である。 <2> バキュロウイルスDNAが、組換えバキュロウイルスDNAであり、多角体遺伝子と第一の外来遺伝子との相同組換えと、gp64タンパク質と第二の外来遺伝子との相同組換えがなされたバキュロウイルスDNAである前記<1>に記載のバキュロウイルスベクター製造方法である。 <3> バキュロウイルスDNAが、組換えバキュロウイルスDNAであり、多角体遺伝子と第一の外来遺伝子との相同組換えがなされたバキュロウイルスDNAである前記<1>に記載のバキュロウイルスベクター製造方法である。 <4> コトランスフェクション工程において、第二の外来遺伝子を含むベクターを同時にコトランスフェクトし、gp64タンパク質と第二の外来遺伝子との相同組換えが起こり、外来遺伝子を含むバキュロウイルスDNAを含み、かつ、該細胞表面に発現可能なタンパク質を被ったシュードタイプバキュロウイルスが生成される前記<3>に記載のバキュロウイルスベクター製造方法である。 <5> 第一の外来遺伝子が導入遺伝子及びマーカー遺伝子の少なくともいずれかである前記<2>から<4>のいずれかに記載のバキュロウイルスベクター製造方法である。 <6> 第二の外来遺伝子が導入遺伝子及びマーカー遺伝子の少なくともいずれかである前記<2>及び<4>のいずれかに記載のバキュロウイルスベクター製造方法である。 <7> 細胞表面に発現可能なタンパク質が、昆虫細胞に感染不可能なタンパク質である前記<1>から<6>のいずれかに記載のバキュロウイルスベクター製造方法である。 <8> 細胞表面に発現可能なタンパク質が、昆虫細胞に感染可能なタンパク質である前記<1>から<6>のいずれかに記載のバキュロウイルスベクター製造方法である。 <9> バキュロウイルスDNAがgp64遺伝子を欠損した組換えバキュロウイルスDNAであり、前記コトランスフェクション工程において、更に、導入遺伝子を有するベクターをコトランスフェクトする前記<1>に記載のバキュロウイルスベクター製造方法である。ターゲッティングベクターの構築の概要 本発明者等はこれまでにバキュロウイルス粒子のgp64タンパク質が細胞表面のフォスファチジールイノシトール(PI)を認識することが、バキュロウイルスの哺乳動物細胞への侵入に重要であることを明らかにした(Tani et al., 2001)。PIは各種細胞に広く分布することから、gp64タンパク質を保持する限りバキュロウイルスベクターに細胞特異性を付与することは不可能である(図4)。 また、前述のように、外被タンパク質をウイルスDNAに組換える方法によれば、外被タンパク質が昆虫細胞に感染性を保持することが必須であり、外被タンパク質の種類が限られ、細胞に普遍的な感染性があるようなタンパク質しか選択することができなかった。 ターゲッティングベクターの開発を目指すならば、gp64タンパク質を完全に欠損させ、目的のリガンド分子のみを持った組換えウイルスを作製しなくてはならない。そこで、まずgp64タンパク質を一過性に発現させた昆虫細胞にgp64遺伝子を欠損させたウイルスDNAをトランスフェクトさせることにより、一時的にgp64タンパク質を粒子表面に被ったウイルスを回収できる系を構築する(図5)。 これらの組換えウイルスは一回だけgp64タンパク質を介して昆虫細胞に感染できるため、あらかじめ目的のリガンド分子を細胞表面に発現している昆虫細胞にこのウイルスを感染させると、目的のリガンド分子を被ったウイルス粒子が細胞表面から出芽してくることになる(図6及び7)。なお、プラスミドを用いた外被タンパク質の発現により一過性にタンパク質を被らせることは、遺伝子導入効率の点から困難であると考えられていた。 本発明のバキュロウイルスベクター製造方法は、少なくとも、細胞表面に発現可能なタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドと、野生型、変異型及び組換えバキュロウイルスDNAのいずれかとを昆虫細胞にコトランスフェクトするコトランスフェクション工程を含み、かつ、該バキュロウイルスDNAの少なくとも一部を含み、該細胞表面に発現可能なタンパク質を被ったシュードタイプバキュロウイルスが生成されることを特徴とする。 なお、本発明において、シュードタイプバキュロウイルスとは、該バキュロウイルスのウイルスDNAに由来しないタンパク質をウイルス表面に有するものをいう。具体的には、別個に導入されたプラスミドにより一過性に発現されたタンパク質を被ったウイルスをいい、バキュロウイルスの外被タンパク質であるgp64を被ったバキュロウイルスであっても、該バキュロウイルスのウイルスDNAのgp64領域が欠損している等の理由で、該gp64タンパク質がウイルスDNAに由来せず、プラスミドに由来するタンパク質である場合にはシュードタイプバキュロウイルスに含まれる。ここで、一過性に発現とは、ウイルスDNAに組込まれないで発現されることをいう。 細胞表面に発現可能なタンパク質としては、昆虫細胞に感染不可能なタンパク質であっても良いし、昆虫細胞に感染可能なタンパク質であっても良い。ここでいう昆虫細胞に感染可能なタンパク質とは、バキュロウイルスエンベロープ上に発現させた場合に、昆虫細胞にウイルスの侵入を可能ならしめるタンパク質をいう。このベクターをそのままヒト等へのトランスフェクションに用いる場合には、昆虫細胞への感染性は必要ないが、このベクターを最終ベクター製造の中間体として用いる場合には、昆虫細胞に感染させて増殖させるため、昆虫細胞に感染可能であることが必要である。 昆虫細胞に感染可能なタンパク質としては、例えば、gp64タンパク質、バキュロウイルスに近縁なウイルスのエンベロープタンパク質及び水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質等が挙げられる。 昆虫細胞に感染不可能なタンパク質としては、細胞表面に発現可能なタンパク質であれば特に制限はないが、生体内の遺伝子導入したい細胞又は組織に特異的なレセプターや抗原に対応するリガンドやレセプターであることが好ましく、例えば、癌特異抗原や正常細胞とは異なる細胞表面分子を認識できる分子や、エイズウイルス等のウイルス感染細胞に特異的に発現した抗原に対するレセプター分子等が挙げられる。 ここで、トランスフェクトする昆虫細胞は、特に制限はないが、Sf9細胞が好適に用いることができる。 細胞表面に発現可能なタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドとしては、公知のプラスミドの中から適宜選択し、所望のタンパク質をコードする遺伝子を挿入することによって、作製することが出来る。例えば、下記の実施例のpIB/gp64、pA3Fb/gp64等が挙げられる。 また、プラスミド中のプロモーターは、gp64プロモーター以外で、昆虫細胞中でよく発現するプロモーターが好ましく、アクチンプロモーターが特に好ましい。 バキュロウイルスDNAは、野生型、変異型及び組換えバキュロウイルスDNAのいずれであってもよいが、バキュロウイルスDNAが、組換えバキュロウイルスDNAであり、多角体遺伝子と第一の外来遺伝子との相同組換えと、gp64タンパク質と第二の外来遺伝子との相同組換えがなされたバキュロウイルスDNAであることが好ましい。 また、バキュロウイルスDNAが、組換えバキュロウイルスDNAであり、多角体遺伝子と第一の外来遺伝子との相同組換えがなされたバキュロウイルスDNAであることが好ましく、この場合には、コトランスフェクション工程において、第二の外来遺伝子を含むベクターを同時にコトランスフェクトし、gp64タンパク質と第二の外来遺伝子との相同組換えが起こるものであることが好ましい。 相同組換えされた外来遺伝子は、ターゲットとなる細胞に導入される目的の遺伝子である導入遺伝子、単離や導入の指標等に用いられるマーカー遺伝子のいずれかであることが好ましく、第一の外来遺伝子が導入遺伝子であることがさらに好ましい。また、相同組換えされた外来遺伝子は、多角体プロモーター等昆虫細胞内でよく発現するプロモーターを有することが好ましいが、宿主に適応する最終ベクターにする場合には、導入遺伝子のプロモーターは宿主で発現するプロモーターを用いる。 ヒトで発現するプロモータートしては、特に制限はないが、ニワトリのβ-アクチンプロモーターとCMVのエンハンサーからなるCAGプロモーター、CMVプロモーター、RSVプロモーター等が好ましい。 また、導入する外来遺伝子としては、前記プロモーターで発現できるものであれば特に制限はないが、有用性の観点から、各種遺伝疾患に関与する欠損遺伝子や、サイトカイン類、神経栄養因子類、非自己抗原遺伝子、ウイルス抗原等をコードするヌクレオチド配列、癌抑制遺伝子、癌遺伝子であるRas等のアンチセンス配列、又はチミジンキナーゼのような自殺遺伝子等であることが好ましい。 また、本発明のシュードタイプバキュロウイルス製造方法は、前記コトランスフェクション工程の後に、細胞表面に発現可能なタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドが発現する細胞に、前記コトランスフェクション工程により生成された昆虫に感染性を有する第一のシュードタイプバキュロウイルスを感染させ、ウイルスを増幅させ、第二のシュードタイプバキュロウイルスを生成する増幅工程をさらに含むことが、容易に増幅が可能である点で好ましい。 また、本発明の他の態様のバキュロウイルスベクター製造方法は、細胞表面に発現可能なタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドと、gp64遺伝子を欠損した組換えバキュロウイルスDNAと、導入遺伝子を有するベクターとを、昆虫細胞にコトランスフェクトするコトランスフェクション工程を含み、かつ、該細胞表面に発現可能なタンパク質を被ったシュードタイプバキュロウイルスが生成されることを特徴とする。前記gp64遺伝子を欠損した組換えバキュロウイルスDNAは、多角体プロモーターとその下流のマーカーを含む2種類の遺伝子を有する組換えバキュロウイルスDNAであることが好ましい。 また、本発明の他の態様のバキュロウイルスベクター製造方法は、細胞表面に発現可能なタンパク質を細胞表面に一過性に発現させる昆虫細胞に、gp64タンパク質を粒子表面に被ったgp64遺伝子を欠損するバキュロウイルスを感染させ、該細胞表面に発現可能なタンパク質を被ったウイルス粒子を細胞表面から出芽させる工程を少なくとも含むことを特徴とする。 ここで、細胞表面に発現可能なタンパク質を細胞表面に一過性に発現させる昆虫細胞とは、プラスミドにより、該タンパク質を発現している昆虫細胞をいい、該タンパク質をコードするプラスミドを導入することにより得ることができる。 前記バキュロウイルスベクター製造方法は、前記工程の前に、該gp64タンパク質を粒子表面に被ったgp64遺伝子を欠損するバキュロウイルスを作製する工程である、gp64タンパク質を一過性に発現させた昆虫細胞にgp64遺伝子を欠損させたウイルスDNAをトランスフェクトすることにより、一代のみgp64タンパク質を粒子表面に被ったバキュロウイルスを発芽させる工程をさらに含んでいてもよい。 本発明の、バキュロウイルスベクターは、前記本発明のバキュロウイルスベクター製造方法により製造されたことを特徴とする。 その他、昆虫細胞の取り扱い方、遺伝子組換え、コトランスフェクションの一般的な手法については、周知の昆虫細胞の組換えウイルス作成方法と同様の手法を用いることができる。(松浦善治、タンパク核酸酵素、37,211−222,1992、松浦善治、バキュロウイルス発現系、「遺伝子導入と発現・解析法」横田崇、新井賢一編、洋土社、松浦善治、細胞33(2)30−34,2001) 例えば、発現したい遺伝子を組み込んだトランスファーベクター、感染性ウイルスDNA、及び、本発明の場合はプラスミドを、共にSf9細胞(0.8×106個/35mm ディッシュ)に同時に導入し、4日目の培養上清を希釈して35mmディッシュにプラークを作らせる。それを400ml培養液に浮遊させ、ボルテックスして寒天よりウイルスを溶出させ、遠心して上清を回収する。これを、一過性にエンベロープタンパク質を発現したSf細胞等に接種して、再度培養後、上清をとると、白いウイルスペレットが得られる。プラスミドの導入は、Sf9細胞(1×106個/35mm)にプラスミドDNA2μg、トランスフェクション試薬(UniFector, Bridge社製等)6μl程度が好ましい。 また、バキュロウイルスは哺乳動物細胞に感染し、遺伝子を核内まで導入するものの、細胞内で増殖することはない。したがって、高い発現を得るには精製して高い感染価のウイルス(1×109−10pfu/ml)を準備し、ハイコピーの遺伝子を導入する必要がある。本発明のバキュロウイルス製造方法では、該gp64タンパク質を粒子表面に被ったgp64遺伝子を欠損するバキュロウイルスを、所望のタンパク質を有するプラスミドを一過性に発現させた細胞に感染させることにより、これを行うことができ、プラスミドを発現させておく以外は、例えば以下のような公知の方法で行うことができる。 Sf9細胞(1×107個/10cm ディッシュ)にストックウイルス(通常1×107−8pfu/ml)を0.5〜1.0ml接種し、感染4日後に培養上清を回収し、軽く遠心(6000g,10分間)して細胞片を除いて保存しておく。この上清をSW28ローター(Beckman)で25000rpm,60分間4℃で遠心し、得られたウイルスペレットを1mlのPBSに懸濁する。これを10〜60%のショ糖勾配にのせ、SW41ローター(Beckman)で25000rpm,60分間4℃で遠心しウイルスバンドで回収する。これをPBSに懸濁後、SW41ローターで25000rpm、60分間4℃で遠心し、得られた精製ウイルスのペレットを1mlのPBSに懸濁し4℃で遮光保存する。精製ウイルスの感染価はSf9細胞を用いてプラックアッセイで測定することができる。通常250−500mlの培養上清から0.2×1010pfu/mlの精製ウイルスが得られる。 また、本発明の他の態様のバキュロウイルスベクターは、バキュロウイルスDNAがgp64遺伝子を欠損し、昆虫細胞に感染不可能なタンパク質を被ったシュードタイプウイルスであることを特徴とし、例えば、gp64プロモーター領域を含むgp64遺伝子と、多角体遺伝子との領域に、それぞれ多角体プロモーター領域を有するマーカー遺伝子を導入したバキュロウイルスDNAを含み、プラスミドに由来する一過性に細胞表面に発現可能なタンパク質であって、昆虫細胞に感染不可能な任意のタンパク質を被ったバキュロウイルスベクターなどが挙げられるが、該昆虫細胞に感染不可能なタンパク質の由来については、これに制限されるものではない。 また、本発明の他のバキュロウイルスベクターは、バキュロウイルスDNAがgp64遺伝子を欠損し、昆虫細胞に感染可能なタンパク質を被ったシュードタイプウイルスであり、該タンパク質が該バキュロウイルスDNAから発現されたタンパク質ではないバキュロウイルスベクターである。前記バキュロウイルスベクターとしては、後述のAcΔ64/GFP/LacZ*64(図11及び図12)のように導入遺伝子を含まずにgp64タンパク質を一過性に被っているものであってもよいし、AcΔ64/GFP/CAGluc*64(図13)のように導入遺伝子が組込まれていてgp64タンパク質を一過性に被っているものであってもよいし、また導入遺伝子が組込まれていてgp64タンパク質以外の細胞表面に発現可能なタンパク質であって、昆虫細胞に感染可能なタンパク質を一過性に被っているものであってもよい。 前記昆虫細胞に感染可能なタンパク質を被ったシュードタイプバキュロウイルスベクターは、昆虫細胞における該バキュロウイルスベクターの増殖や、ストックに用いることができる。 また、前記昆虫細胞に感染不可能なタンパク質を被ったシュードタイプバキュロウイルスベクターは、ヒトを含む生体内及び生体外のいずれかの細胞に遺伝子を導入するための最終的なベクターとして用いることができる。 前記バキュロウイルスベクターは、生体に投与する場合には、経口的又は非経口的(例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与、経気道投与、臓器内投与など)に投与することができる。 投与量、投与回数は、投与対象の体重や導入遺伝子に併せて、適宜調節することが出来る。 生体への遺伝子発現は補体による不活化が障害となる場合があるため、補体系のタンパク分解阻害剤のフサンを同時に適用することにより不活化を回避できる。 本発明の遺伝子導入方法は、前記本発明のバキュロウイルスベクターを用いて、生体内(ヒトを除く)及び生体外のいずれかの細胞に遺伝子を導入することを特徴とする。 哺乳動物細胞への遺伝子導入は、通常のウイルスベクターと同様に行うことができる。例えば、遺伝子を導入したい哺乳動物細胞を60〜80%confluentの状態でプレートもしくはディッシュに用意する。感染方法は一般のウイルス接種と同じである。まず、培養上清を除去し、組換えウイルスを細胞当たりの感染価(moi)10〜100で接種し、30〜60分間吸着する。その後、培地を加えて37℃で培養する。感染後24〜48時間で細胞を回収し、遺伝子の発現を調べる。また、バキュロウイルスは血清中の補体により不活化されることがあるため、培養液中の牛胎仔血清は予め非働化しておくことが好ましい。実施例 以下に本発明のバキュロウイルスベクター、及びその製造方法並びにこれを用いた遺伝子導入方法について、実施例より更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 (実施例1)gp64遺伝子ノックアウトベクターの作製 バキュロウイルスのgp64遺伝子領域を多角体プロモーターと緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子とで置換することによってその発現を消失させるため、ノックアウトベクターpUCΔ64/GFPを図8に示す手順で作製した。 バキュロウイルス(AcNPV)のgp64遺伝子領域を含むEcoRI-SmaI断片(nt 107,325-112,049)を、pUC18の同様の制限酵素サイトに組み込み、pUCgp64locusを作製した。次に多角体プロモーターの下流にGFP遺伝子及び宮崎らによって開発されたCAGプロモーター (Niwa et al., 1986) の下流にルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだトランスファーベクター pAcGFP-CAGluc(Tani et al., 2001)をEcoRVとSnaBIで切断して、多角体プロモーターとGFP遺伝子を含む断片を回収し、pUCgp64locusをSpeI(nt 109,761)とBglII(nt 108,039)で切断後klenow fragmentで平滑末端化した部位に組み込んで、gp64遺伝子のノックアウトベクター、pUCΔ64/GFPを作製した。 (実施例2)gp64遺伝子を欠損させたバキュロウイルスAcΔ64/GFP/LacZの作製(図9) 多角体プロモーターの下流にβ-ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子を組み込んだ組換えバキュロウイルス(AcLacZ)の感染性ウイルスDNAを抽出し、gp64遺伝子のノックアウトベクター、pUCΔ64/GFPと共に、Sf-9細胞にコトランスフェクトすると、昆虫細胞の核内で、ウイルスDNAとpUCΔ64/GFPが相同組換えを起こし、ウイルスDNAのgp64遺伝子領域が多角体プロモーターとGFP遺伝子に置換された組換えウイルスAcΔ64/GFP/LacZが生じる。このウイルスはgp64遺伝子とそのプロモーター領域が欠損しており、エンベロープタンパク質を完全に欠損するため、感染性を全く示さない。そこで、一過性にgp64タンパク質をAcΔ64/GFP/LacZに被せて、一回だけ感染できるように改変する。 (実施例3)gp64タンパク質を一過性に昆虫細胞で発現できるプラスミドの作製(図10) 昆虫由来のSf-9細胞内でgp64タンパク質を発現できるプラスミドを作製するため、pUCgp64locusからgp64遺伝子をSpeIとBglIIで切りだし、その断片を同じ制限酵素で切断したpUC18に組み込み、pUCgp64を作製した。さらにpUCgp64からgp64遺伝子を含む断片をHindIIIとEcoRIで切り出し、同じ酵素で切断したpIB/V5-His(Invitrogen)に組み込み、発現ベクターpIB/gp64を作製した。pIB/V5-Hisのバキュロウイルス初期遺伝子プロモーター(IEプロモーター)の下流に挿入された遺伝子は昆虫細胞で効率よく発現させることが可能である。また、昆虫細胞で高率に転写されるアクチンプロモーターを利用した同様の発現ベクターを作製した。まず、pUCgp64locusを鋳型としたPCR法によって、gp64遺伝子を増幅した。primerには、gp64-Fw(Bgl):AAAGATCTACCatggtaagcgctattgttt(配列番号1)と、gp64-Rv(Sal):TTGTCGACttaatattgtctattacggttt(配列番号2)を用いた。増幅させたgp64遺伝子をBglIIとSalIで切断し、pA3FbのBamHIとSalIサイトに組み込み、pA3Fb/gp64を作製した。 (実施例4)gp64タンパク質を一過的に被ったgp64遺伝子欠損ウイルスAcΔ64/GFP/LacZ*64の作製(図11) 上記のAcLacZの感染性ウイルスDNA、pUCΔ64/GFP、及び、pIB/gp64あるいはpA3Fb/gp64を共に、Sf-9細胞にコトランスフェクトする。これにより昆虫細胞の核内で、ウイルスDNAとpUCΔ64/GFPが相同組換えを起こし、ウイルスDNAのgp64遺伝子領域が多角体プロモーターとGFP遺伝子に置換された組換えウイルスAcΔ64/GFP/LacZが生じる。このウイルスはgp64遺伝子とそのプロモーター領域を欠損するため、通常の昆虫細胞では増殖できながコトランスフェクトしたpIB/gp64あるいはpA3Fb/gp64によりトランスにgp64タンパク質が細胞表面に供給されるため、gp64遺伝子を欠損しているにもかかわらず、gp64タンパク質を被って感染性を保持して出芽できる。さらに組換えウイルスはGFPの発現を指標に、親のAcLacZと識別可能である。即ち組換えウイルスはLacZとGFPの両方を発現する。実際のウイルス分離はトランスフェクト後4日目の培養上清を、前日にpIB/gp64あるいはpA3Fb/gp64をトランスフェクトしたSf-9細胞を用いて、通常のプラックアッセイ法で相同組換えを起こしたと思われるGFPとLacZの両方が陽性のプラックを回収し、プラックアッセイを4回繰り返して純化して、gp64遺伝子領域を多角体プロモーターとGFP遺伝子に置換し、一過的にgp64タンパク質を被って感染性を保持したAcΔ64/GFP/LacZ*64を得た。 (実施例5)AcΔ64/GFP/LacZ*64の増幅(図12) 上記で単離したAcΔ64/GFP/LacZ*6は、一過性にgp64タンパク質を被っているが、gp64遺伝子を欠失していることから、通常のSf-9細胞には一回しか感染できず増幅はできない。しかしながら、予めpIB/gp64あるいはpA3Fb/gp64をトランスフェクトしてgp64タンパク質を細胞表面に発現させたSf-9細胞に感染させることによって、高力価のストックウイルスを容易に調整することが可能である。 (実施例6)各種リポーター遺伝子を発現する組換えウイルスの作製 遺伝子導入する標的哺乳動物細胞内で導入遺伝子を発現させるため、CAGプロモーターの下流に3種のレポーター遺伝子、ホタルのルシフェラーゼ遺伝子、赤色蛍光タンパク質(DsRed)遺伝子、GFP遺伝子をそれぞれ組み込んだトランスファーベクター、pAcCAGluc、pAcCAGDsRed、及びpAcCAGGFPを用いた。これらのベクターは多角体遺伝子領域で相同組換えを起こすように設計されている。pAcCAGlucの作製は既に報告している(Tani et al., 2001)。pDsRed2-N1(Clontech)をKpnIで切断し、DsRed遺伝子を回収し、同じ制限酵素で切断したpAcCAGMCS2(Shoji et al., 1997)に組み込み、pAcCAGDsRedを作製した。pIRES2-EGFP(Clontech)をNcoIで切断し、GFPを含む断片をklenow fragmentで平滑化後、SmaIとNotIで切断し、klenow fragmentで平滑末端化したpAcCAGMCS2に組み込んでpAcCAGGFPを作製した。 図13にpAcCAGlucを用いた組換えウイルスの作製手順を示す。AcΔ64/GFP/LacZ*64からDNAを抽出し、LacZ遺伝子内に存在するユニークなBsu36Iサイトで切断してウイルスDNAを直鎖状にした。この直鎖ウイルスDNA、pAcCAGluc、及び、pIB/gp64あるいはpA3Fb/gp64を共にSf-9細胞にコトランスフェクトして、同様の手法でGFP陽性でLacZ陰性のプラークを回収した。プラックアッセイを4回繰り返して純化して、ルシフェラーゼ遺伝子を持つ組換えバキュロウイルスAcΔ64/GFP/CAGluc*64を作製した。このウイルスを予めpIB/gp64あるいはpA3Fb/gp64をトランスフェクトしてgp64タンパク質を発現しているSf-9細胞に感染させることによって、高力価のストックウイルスを調整した。 (実施例7)水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質を被ったシュードタイプウイルスの作製(図14) 導入遺伝子の一例として、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質遺伝子について検証した。pIB/V5-His及びpA3Fbに水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質遺伝子を挿入したpIB/VSVG及びpA3Fb/VSVGを作製した。これらのいずれかのプラスミドをSf-9細胞にトランスフェクトし、24時間後にAcΔ64/GFP/CAGluc*64を感染させることによって、gp64タンパク質の代わりに水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質を被ったシュードタイプウイルスAcΔ64/GFP/CAGluc*VSVGを作製した。これらのウイルスがgp64タンパク質を欠損し、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質を保持していることを、精製ウイルスの抗gp64抗体及び抗水疱性口内炎ウイルス抗体を用いた免疫ブロットで確認した(図15)。また、前記水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質を一過性に被ったシュードタイプウイルスAcΔ64/GFP/CAGluc*VSVGは、前記gp64を一過性に被ったシュードタイプウイルスAcΔ64/GFP/CAGluc*64同様各種哺乳動物細胞に効率よく感染することが分かった。図16は、AcΔ64/GFP/CAGluc*64とAcΔ64/GFP/CAGluc*VSVGとを各々293Tcell(ATCC社製)へ細胞あたりの感染価(moi)10、30及び50で接種した結果を表す。培養上清を除去してウイルス接種し、60分間吸着した後、培地を加え37℃で培養した。感染後24から48時間で細胞を回収し、luciferase遺伝子の発現をBright-Glo luciferase Assay system(Promega社製)により測定した数値を表す。 また、前記AcΔ64/GFP/CAGluc*64及びAcΔ64/GFP/CAGluc*VSVGについて、gp64及び水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質(VSVG)それぞれに対する特異抗体(Anti-gp64 : 抗gp64抗体 clone #AcV1 (Virology 125,p432-444(1983))、Anti-VSVG : 抗VSVG抗体)で、細胞接種前に中和し、293Tcell細胞に感染させて中和試験を行ったところ、AcΔ64/GFP/CAGluc*VSVGは、VSVGに対する特異抗体でよく中和された(図17)。中和試験は、前記ウイルスベクターと抗体とを図の横軸に示す希釈濃度になるように混合し、室温で1時間プレインキュベートした後、前記と同様に293Tcell細胞に感染させ、発現を測定した。図の横軸において、1/2のとき、ウイルスベクターを抗体が1:1になっている濃度を示す。 このことから、本発明のバキュロウイルス製造方法によれは、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質の昆虫細胞への感染性を全く用いることなく、該タンパク質を被ったバキュロウイルスベクターを増殖して得ることができることが分かった。したがって、所望のエンベロープのタンパク質を、その昆虫細胞への感染の有無にかかわらず、自由に被せることができることが実証された。また、この方法によれば、遺伝子導入される細胞に感染した後には、再度そのエンベロープタンパク質が発現されることはなく、安全性の高いバキュロウイルスベクターを作成することができる。 (実施例8)二つの蛋白質を粒子表面に発現するバキュロウイルス:麻疹ウイルスの宿主特異性を規定する二つのエンベロープ蛋白質を持つバキュロウイルスの作製 麻疹は強い感染性を示す急性ウイルス感染症で、発展途上国を中心に毎年100万人の命を奪っている。麻疹ウイルスは粒子表面にHとFの二つのエンベロープ蛋白質を持ち、H蛋白質が感染の組織特異性を規定している。即ち、実験室で継代された麻疹ウイルス株(Edmonston株)ではCD46あるいはSLAM(Signaling lymphocyte activating molecule; CDw150)をリセプターとして利用できるのに対し、野外からの新鮮分離株はSLAMのみをリセプターとすることが明らかにされている。そこで、Edmonston株あるいは新鮮分離株由来のHとF蛋白質をそれぞれ粒子表面に発現した組換えバキュロウイルスを作製し、麻疹ウイルスの感染特異性をバキュロウイルスで再現できるか否かを検討した。 実施例7のpA3Fb/VSVGの替わりに、Edmonston株あるいは新鮮分離株由来の麻疹ウイルスのHおよびF遺伝子を組み込んだプラスミドを、AcΔ64/GFP/CAGlucとコトランスフェクトし、AcΔ64/GFP/CAGluc*MV-H/Fを作製した。次に、これらのバキュロウイルスの感染特異性をSLAMあるいはCD46を発現しているハムスター由来細胞株(CH0細胞)で検定した。その結果、Edmonston株由来のHおよびF蛋白質を被ったバキュロウイルスベクターはSLAMを発現するCHO細胞及びCD46を発現するCHO細胞への感染が確認された。一方、新鮮分離株由来のHおよびF蛋白質を被ったバキュロウイルスはSLAMを発現するCHO細胞にのみに遺伝子導入が可能であった。陽性対照ウイルスのAcΔ64/GFP/CAGluc*VSVGはいずれのCHO細胞株にも感染し、陰性対照ウイルスのgp64蛋白質を欠損したAcΔ64/GFP/CAGlucは全く感染性を示さなかった。 この成績は、バキュロウイルスの粒子表面に二つのウイルス蛋白質を生物活性を保持した形で提示できることを示すものである。二つの蛋白質を粒子表面に提示することで、より精度の高いターゲッティングが可能となると思われる。また、ウイルスのエンベロープ蛋白質だけでなく、逆にウイルスのリセプター分子や癌抗原に対する単鎖抗体を粒子表面に提示すれば、ウイルスに感染してエンベロープ蛋白質を発現している細胞や癌細胞だけにチミジンキナーゼ等の自殺遺伝子を導入し、プロドラッグとの併用によって目的の細胞だけを生体から排除することが可能となる。特に、エイズウイルスは慢性持続感染し、感染細胞表面にエンベロープ蛋白質を高度に発現するので、エイズウイルスのリセプターとコリセプターを提示させた組換えバキュロウイルスにより、生体から感染細胞だけを排除することが期待される。 本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、昆虫細胞に感染性を示す必要のない、所望のタンパク質をウイルス粒子表面に提示し得る新規なバキュロウイルスベクター、その製造方法及び該バキュロウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法を提供することができる。図1は、バキュロウイルスの多角体の昆虫細胞への感染を説明する図である。図2は、バキュロウイルスの生活環を表す図である。図3は、従来の組換えベクターを表す図である。図4は、従来の組換えベクターを表す図である。図5は、新規シュードタイプバキュロウイルスの作製を表す図である。図6は、新規シュードタイプバキュロウイルスの作製を表す図である。図7は、新規シュードタイプバキュロウイルスの作製を表す図である。図8は、gp64遺伝子ノックアウトベクターの作製を表す図である。図9は、gp64遺伝子を欠損させたバキュロウイルスAcΔ64/GFP/LacZの作製を表す図である。図10は、gp64タンパク質を一過性に昆虫細胞で発現できるプラスミドの作製を表す図である。図11は、gp64タンパク質を一過性に被ったgp64遺伝子欠損ウイルスAcΔ64/GFP/LacZ*64の作製を表す図である。図12は、AcΔ64/GFP/LacZ*64の増幅を表す図である。図13は、gp64タンパク質を一過性に被ったルシフェラーゼ遺伝子を持ったAcΔ64/GFP/LacZ*64の作製を表す図である。図14は、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質を被ったシュードタイプウイルスの作製を表す図である。図15は、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質を被ったシュードタイプウイルスの性状を表す図である。図16は、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質を被ったシュードタイプウイルスによる遺伝子導入を表す図である。図17は、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質を被ったシュードタイプウイルスの中和試験の結果を表す図である。 少なくとも、細胞表面に発現可能なタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドと、野生型、変異型及び組換えバキュロウイルスDNAのいずれかとを昆虫細胞にコトランスフェクトするコトランスフェクション工程を含み、かつ、該バキュロウイルスDNAの少なくとも一部を含み、該細胞表面に発現可能なタンパク質を被ったシュードタイプバキュロウイルスが生成され、 該コトランスフェクション工程の後に、細胞表面に発現可能なタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドが導入され、かつ、前記プラスミドにより前記細胞表面に発現可能なタンパク質が発現する細胞に、前記コトランスフェクション工程により生成された第一のシュードタイプバキュロウイルスを感染させ、ウイルスを増幅させ、第二のシュードタイプバキュロウイルスを生成する増幅工程をさらに含むことを特徴とするバキュロウイルス製造方法。 バキュロウイルスDNAが、組換えバキュロウイルスDNAであり、多角体遺伝子と第一の外来遺伝子との相同組換えと、gp64タンパク質と第二の外来遺伝子との相同組換えがなされたバキュロウイルスDNAである請求項1に記載のバキュロウイルスベクター製造方法。 バキュロウイルスDNAが、組換えバキュロウイルスDNAであり、多角体遺伝子と第一の外来遺伝子との相同組換えがなされたバキュロウイルスDNAである請求項1に記載のバキュロウイルスベクター製造方法。 コトランスフェクション工程において、第二の外来遺伝子を含むベクターを同時にコトランスフェクトし、gp64タンパク質と第二の外来遺伝子との相同組換えが起こり、外来遺伝子を含むバキュロウイルスDNAを含み、かつ、該細胞表面に発現可能なタンパク質を被ったシュードタイプバキュロウイルスが生成される請求項3に記載のバキュロウイルスベクター製造方法。 第一の外来遺伝子が導入遺伝子及びマーカー遺伝子の少なくともいずれかである請求項2から4のいずれかに記載のバキュロウイルスベクター製造方法。 第二の外来遺伝子が導入遺伝子及びマーカー遺伝子の少なくともいずれかである請求項2から4のいずれかに記載のバキュロウイルスベクター製造方法。 細胞表面に発現可能なタンパク質が、昆虫細胞に感染不可能なタンパク質である請求項1から6のいずれかに記載のバキュロウイルスベクター製造方法。 細胞表面に発現可能なタンパク質が、昆虫細胞に感染可能なタンパク質である請求項1から6のいずれかに記載のバキュロウイルスベクター製造方法。 バキュロウイルスDNAがgp64遺伝子を欠損した組換えバキュロウイルスDNAであり、前記コトランスフェクション工程において、更に、導入遺伝子を有するベクターをコトランスフェクトする請求項1に記載のバキュロウイルスベクター製造方法。配列表


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