タイトル: | 特許公報(B2)_筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の予防治療用組成物 |
出願番号: | 2004530545 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | A61K 31/196,A61P 21/00 |
福島 一雅 海老原 隆仁 JP 4448447 特許公報(B2) 20100129 2004530545 20030807 筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の予防治療用組成物 キッセイ薬品工業株式会社 000104560 福島 一雅 海老原 隆仁 JP 2002241120 20020821 20100407 A61K 31/196 20060101AFI20100318BHJP A61P 21/00 20060101ALI20100318BHJP JPA61K31/196A61P21/00 A61K 31/196 A61P 21/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2003−081778(JP,A) 9 JP2003010047 20030807 WO2004017953 20040304 10 20060621 清野 千秋 本発明は、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の予防治療用組成物に関するものである。 さらに詳しく述べれば、本発明は、N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸(一般名:トラニラスト、以下トラニラストという)またはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を有効成分として含有する事を特徴とする、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患、特に、運動負荷に起因する筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の抑制および回復促進および外科的傷害若しくは外科的処置に起因または付随して起こる、損傷部の修復過程における筋線維化の予防治療用組成物に関するものである。 また、本発明は、トラニラスト、その薬理学的に許容される塩、またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物の有効量を含有する組成物を筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患、特に、運動負荷に起因する筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の抑制および回復促進および外科的傷害若しくは外科的処置に起因または付随して起こる、損傷部の修復過程における筋線維化の抑制および回復促進のために使用する方法を提供するものである。 更に、本発明は、運動負荷または外科的処置の少なくとも2日前から運動負荷または外科的処置の3日後以上、好適には1週間〜10日後以上、継続して服用または摂取することを特徴とする、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患予防治療用組成物の使用方法あるいはまた、該組成物を筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の抑制および回復促進のために使用する方法を提供するものである。 従来、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患、特に、運動負荷に起因する筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患を引き起こした場合、静養するか、軽いトレーニングまたはリハビリテーションを行いつつ自然回復を待つ方法がとられるだけで、使用される薬剤も、対症療法的な抗炎症剤や鎮痛剤および湿布薬程度にすぎない。従って、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患を確実に治療および回復促進できる薬剤の開発が望まれている。 一方、肉離れのような筋肉損傷疾患の修復過程においては、筋線維芽細胞の増殖が筋細胞の増殖再生に比べて早く優位に起こり、従って、自然回復では筋細胞の増殖と筋線維芽細胞の増殖のバランスが悪くなり、組織学的に完全に元の状態に回復することは困難と言われている。また、筋細胞の増殖に比べて筋線維芽細胞の増殖が優位であることにより損傷部に筋線維化が生じ、そのために筋肉の柔軟性が損なわれ、この事が再発の大きな要因の一つとなっている。 従って、特にスポーツの分野で、外科的傷害若しくは外科的処置に起因または付随して起こる、損傷部の修復過程における筋線維芽細胞の増殖を抑え、筋細胞増殖と筋線維芽細胞増殖のバランスを調整して、損傷部の筋線維化を抑制し、元の筋肉組織のように回復させうる薬剤の開発が嘱望されている。 本発明で解決しようとする課題は、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患を効果的に予防治療でき、さらに、肉離れのような筋肉損傷疾患および外科的傷害若しくは外科的処置に起因または付随して起こる、修復過程における損傷部の筋線維化を抑制し、元の筋肉組織のように回復させうる、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の予防治療用組成物を開発することである。 本発明は、 1)N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸またはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を有効成分として含有する事を特徴とする筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の予防治療用組成物; 2)筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の抑制および回復促進に使用するための、N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸またはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物の有効量を含有する組成物; 3)筋肉疲労および筋肉損傷が運動負荷に起因するものである、前記1)または2)記載の組成物; 4)筋肉損傷が外科的傷害若しくは外科的処置に起因または付随するものである、前記1)または2)記載の組成物; 5)筋肉損傷が肉離れである、前記1)または2)記載の組成物; 6)疾患が筋肉痛である、前記1)または2)記載の組成物; 7)疾患が筋肉損傷の修復過程における損傷部の筋線維化である、前記1)または2)記載の組成物; 8)医薬品として許容される添加物をさらに添加する事を特徴とする、前記1)〜7)の何れかに記載の組成物; 9)食品として許容される添加物をさらに添加する事を特徴とする、前記1)〜7)の何れかに記載の組成物; 10)ドリンク剤である、前記1)〜9)の何れかに記載の組成物; 11)ゼリー剤である、前記1)〜9)の何れかに記載の組成物; 12)筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の抑制および回復促進のための、前記1)〜11)の何れかに記載の治療用組成物の使用; 13)筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患が運動負荷に起因するものである、前記12)記載の使用; 14)筋肉損傷が外科的傷害若しくは外科的処置に起因または付随するものである、前記12)記載の使用; 15)筋肉損傷が肉離れである、前記12)記載の使用; 16)疾患が筋肉痛である、前記12)記載の使用; 17)疾患が筋肉損傷の修復過程における損傷部の筋線維化である、前記12)記載の使用; 18)運動負荷または外科的処置の少なくとも2日前から運動負荷または外科的処置の3日後まで以上継続して服用または摂取することを特徴とする、前記12)〜17)の何れかに記載の使用; 19)運動負荷または外科的処置の少なくとも2日前から運動負荷または外科的処置の3日後まで以上継続して服用または摂取することを特徴とする、前記1)〜11)の何れかに記載の組成物の使用方法; 20)前記1)〜11)の何れかに記載の組成物製造のための、N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸またはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物の使用; 21)N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸またはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を有効量投与することからなる、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の予防治療方法; 22)疾患が前記3)〜7)の何れかに記載の疾患である、前記21)記載の予防治療方法; 23)N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸またはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を有効量投与することからなる、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の抑制および回復促進方法; 24)疾患が前記3)〜7)の何れかに記載の疾患である、前記23)記載の抑制および回復促進方法;等に関するものである。 第1図は、運動負荷直後、1日後、2日後、3日後および7日後の歩行時痛の疼痛度を示したグラフである。黒菱形点の折れ線グラフが薬物群、黒四角点の折れ線グラフが対照群であり、縦軸は疼痛度(%)、横軸は経過時間(日)を示す。 第2図は、運動負荷直後、1日後、2日後、3日後および7日後のジョギング痛の疼痛度を示したグラフである。黒菱形点の折れ線グラフが薬物群、黒四角点の折れ線グラフが対照群であり、縦軸は疼痛度(%)、横軸は経過時間(日)を示す。 第3図は、運動負荷直後、1日後、2日後、3日後および7日後の大腿部圧痛の疼痛度を示したグラフである。黒菱形点の折れ線グラフが薬物群、黒四角点の折れ線グラフが対照群であり、縦軸は疼痛度(%)、横軸は経過時間(日)を示す。 第4図は、運動負荷1日後、2日後、3日後および7日後の立位体前屈能を示したグラフである。黒菱形点の折れ線グラフが薬物群、黒四角点の折れ線グラフが対照群であり、縦軸は能力(%)、横軸は経過時間(日)を示す。 第5図は、運動負荷直後、3日後および7日後のミオグロビンの血中濃度変動を示したグラフである。黒菱形点の折れ線グラフが薬物群、黒四角点の折れ線グラフが対照群であり、縦軸は変動度(%)、横軸は経過時間(日)を示す。 第6図は、運動負荷直後、3日後および7日後の乳酸の血中濃度変動を示したグラフである。黒菱形点の折れ線グラフが薬物群、黒四角点の折れ線グラフが対照群であり、縦軸は変動度(%)、横軸は経過時間(日)を示す。 第7図は、運動負荷直後、3日後および7日後のCPKの血中濃度変動を示したグラフである。黒菱形点の折れ線グラフが薬物群、黒四角点の折れ線グラフが対照群であり、縦軸は変動度(%)、横軸は経過時間(日)を示す。 本発明者らは、上記課題を解決しうる筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患予防治療用組成物を開発すべく鋭意研究を行った結果、ケミカルメディエーター遊離抑制作用、コラーゲン過剰増殖抑制作用等を有し、アレルギー性疾患予防治療剤あるいはケロイド、肥厚性瘢痕の予防治療剤等として用いられているトラニラストが、運動負荷による筋肉疲労の抑制および回復促進効果を示し、更には筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患を抑制し、しかも、筋線維芽細胞の増殖を抑え、筋細胞増殖と筋線維芽細胞増殖のバランスを調整することにより、外科的傷害若しくは外科的処置に起因または付随して起こる修復過程における損傷部の筋線維化を抑制し、元の筋肉組織のように回復させる効果も期待できるという知見を得、本発明をなすに至った。 すなわち、本発明者らは、健常人20名に、2時間以内、15km走行という運動負荷をかけ、運動負荷後トラニラストを1回100mgずつ、1日3回、1週間投与した群と、非投与群の各10名について、血液検査および筋肉疲労度テストを行ったところ、驚くべき事にトラニラスト投与群の方が非投与群に比べ明らかに、筋肉疲労の程度が低く、しかも回復が早く、回復度も良好であることを確認した。本発明はこのような知見に基づくものである。 トラニラストおよびその薬理学的に許容される塩は、アレルギー反応におけるケミカルメディエーターの遊離抑制作用を有し、アレルギー性気管支炎、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎などのアレルギー性疾患予防治療用組成物として既に広く用いられている。また、コラーゲン過剰産生に対する抑制作用、経皮的冠動脈形成術(PTCA)の術後再狭窄抑制作用などを有する事が確認されており、ケロイド、肥厚性瘢痕予防治療用組成物としても既に広く用いられている。 その他にも、高血圧自然発症ラット(SHR)を用いた動物実験モデルにおいて心肥大を抑制、退縮させ、心臓の硬化を抑制する効果を有し、心肥大予防治療剤として有用であること(特開平7−277966)、あるいは、家族性高脂血症動物モデルのWHHLウサギを用いた実験でアテロームの発生抑制効果を示し、粥状動脈硬化症の治療剤として有用であること(特開平9−227371)なども報告されており、さらには、ヒトモノサイトマクロファージからの悪性化増殖因子(TGF)−β1、インターロイキン(IL)−1βなどのサイトカインおよびプロスタグランジン(PG)E2などの遊離を抑制すること(ジャパン ジャーナル オブ ファーマコロジー、60巻、85〜90頁、1992年)なども報告されている。 しかしながら、これまでトラニラストが運動負荷による筋肉疲労の抑制および回復促進効果を示し、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患予防治療剤として有用であることは全く報告されておらず、示唆もされていない。 本発明者らは、トラニラストの多様な作用に注目し、コラーゲン過剰産生抑制作用あるいは経皮的冠動脈形成術(PTCA)の術後再狭窄抑制作用を有するトラニラストは、筋肉損傷疾患の治療においても有効に作用するのではないかとの推測の下に、運動負荷による筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患に対する作用について鋭意研究した結果、上記のように、トラニラストが筋肉疲労の抑制および回復促進作用を有しており、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患予防治療用組成物として期待できることを見出した。 すなわち、健常人20名を対象に、2時間以内に15kmを走行するという運動負荷をかけ、着順の奇数群をトラニラスト投与群とし、偶数群を非投与群として、トラニラスト投与群には、運動負荷した日の夕食後から、トラニラストを1回100mgずつ、1日3回、毎食後、1週間投与した。そして、各群について運動負荷の1日後、2日後、3日後および7日後(投薬最終日)に、それぞれ歩行時痛、ジョギング時痛、大腿部圧痛および立位体前屈を測定項目として、筋肉疲労度テストを行い、また一方で、運動負荷直前、負荷直後、負荷の3日後および7日後にそれぞれ採血して、血液成分分析を行った。 その結果、驚くべき事に、トラニラスト投与群は、運動負荷による筋肉疲労および筋肉損傷に対し、極めて良好な抑制および回復促進効果を示した。すなわち、筋肉疲労度テストにおける通常歩行時疼痛(以下、歩行時痛という)、ジョギング時疼痛(以下、ジョギング痛という)および大腿部圧迫時疼痛(以下、大腿部圧痛という)で、運動負荷直後の筋肉痛を100%として換算した疼痛度(%)において、トラニラスト投与群は非投与群に比べ、顕著な疼痛抑制および緩和効果が確認された。運動負荷による筋肉痛は、通常、運動負荷後、1日〜2日後に顕著に現れるが、運動負荷直後の疼痛を100%として換算した1日後の疼痛度は、トラニラスト投与群では、非投与群に比べ大きく下回った。さらに、2日後、3日後および7日後の疼痛度も非投与群に比べ、明らかに下回り、ほぼ同程度の隔差を保って低下した。 また、疼痛臨界までの立位での体前屈(以下、立位体前屈という)も測定し、トラニラスト投与群と非投与群と比較した。立位体前屈は上記のような疼痛と異なり、元々の個人的な体の柔軟度や運動能力に依存するため、運動負荷による筋肉疲労度が現れにくいと考えられるが、それでも、7日後の能力では、トラニラスト投与群が、非投与群に比べ、明らかに上回った。 これらのことは、トラニラストが筋肉疲労の抑制および回復促進作用を有することを示すものである。 さらに、血液成分分析においても、筋細胞の破壊によって生じると考えられるミオグロビンおよび筋肉疲労度の指標である乳酸量で、運動負荷直後の血中濃度を100%として換算した変動度(%)において、トラニラスト投与群は非投与群に比べ、明らかに血中濃度が低下していた。また、低下率は3日後と7日後であまり変化がなく、3日後でほぼプラトーに達していると思われる。 また、ミオグロビンと同様に筋細胞破壊の指標とされているクレアチニンホスホキナーゼ(CPK、以下CPKという)は、筋細胞の破壊の後にやや遅れて血中に現れてくるが、運動負荷直後の血中濃度を100%として換算した3日後の変動度(%)において、非投与群は160%以上まで増加しているのに対し、トラニラスト投与群では約110%程度しか増加しておらず、さらに7日後でも、非投与群は約90%程度までしか低下していないのに対し、トラニラスト投与群では、約60%まで低下していた。 これらのことは、トラニラストが、筋肉損傷回復促進作用とともに筋肉損傷抑制作用を有することを示すものである。 一方、トラニラストはコラーゲンの過剰産生抑制作用あるいは経皮的冠動脈形成術(PTCA)の術後再狭窄抑制作用を有することから、筋肉損傷の回復過程における、筋線維芽細胞の増殖を抑制することが期待される。従って、肉離れのような筋肉損傷疾患および外科的傷害若しくは外科的処置に起因または付随して起こる、損傷部の修復過程において、筋線維芽細胞の増殖を抑え、筋細胞増殖と筋線維芽細胞増殖のバランスを調整して、損傷部の筋線維化を抑制し、元の筋肉組織のように回復させることが期待できる。 このように、トラニラストは筋肉疲労に対する顕著な抑制および回復促進効果を示し、また、筋肉損傷に対しても回復促進とともに抑制効果も示す。さらに、筋肉損傷疾患の回復過程において、筋線維芽細胞の増殖を抑えて筋細胞増殖と筋線維芽細胞増殖のバランスを調整することにより、元の筋肉組織のように回復させうることが期待できるものである。従って、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を有効成分として含有させる事により、極めて効果的で優れた、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患予防治療用組成物を製造する事ができる。 さらに、本発明の組成物を使用することによって、従来は、対症療法的に抗炎症剤や鎮痛剤および湿布薬等を使用して、静養するか、軽いトレーニングまたはリハビリテーションを行いつつ自然回復を待つ方法がとるだけしかなかった筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の回復を、短期間に、且つ効果的に行うことができる。しかも、本発明の組成物を予防的に使用することによって、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患を効果的に抑制することができる。さらに、本発明の組成物を使用することによって、肉離れ等の筋肉損傷疾患の自然回復では困難とされていた、筋線維芽細胞の増殖を抑え、筋細胞増殖と筋線維芽細胞増殖のバランスを調整して、元の筋肉組織のように回復させることが期待できる。 本発明の組成物を実際に用いる場合、各種剤型の医薬品組成物にして経口的あるいは非経口的に投薬してもよく、あるいはまた各種形態の食品組成物としてそのまままたは他の食品と組み合わせて摂取してもよい。医薬品組成物の剤型としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、内用液剤などの経口投与剤および注射剤、座剤、貼付剤などの非経口投与剤を挙げる事ができ、食品組成物としては、例えば、ドリンク剤のような液状食品、ゼリーやプリンのようなゲル状食品、さらに、適宜、液状にして、あるいは他の食品と混合して摂取できるような粉末状食品などを挙げることができる。 これらの組成物の中、医薬品組成物は、通常の調剤学的手法に従い、その剤型に応じ、適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤などの医薬品として許容される添加物を適宜混合し、常法に従い調剤する事により製造する事ができる。 例えば、散剤は、有効成分に必要に応じ、適当な賦形剤、滑沢剤などを加え、よく混和して散剤とする。 錠剤は、有効成分に必要に応じ、適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤などを加え、常法に従い打錠して錠剤とする。さらに必要に応じ、適宜コーティングを施し、フィルムコート錠、糖衣錠、腸溶性皮錠などにする。 カプセル剤は、有効成分に必要に応じ、適当な賦形剤、滑沢剤などを加え、よく混和した後、あるいは又、常法により、顆粒あるいは細粒とした後、適当なカプセルに充填してカプセル剤とする。 食品組成物は、食品として許容される添加物、例えば、甘味料、矯味料、香料、着色料などを適宜混合し、通常の食品と同様にして製造する事ができる。このような食品組成物は、そのまま摂取してもよく、あるいはまた、他の食品と適宜組み合わせて摂取してもよい。 本発明の組成物には、活性成分のトラニラストまたはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物の他に、さらに鎮痛剤あるいは抗炎症剤から選ばれる少なくとも1種を含有させてもよい。また、各種ビタミン剤を含有させてもよい。 本発明の組成物は、筋肉疲労および筋肉損傷の抑制および回復促進作用を有するもので、従来対症療法的に使用されている抗炎症剤や鎮痛剤および湿布薬とは全く異なる作用のものであり、相互作用を起こすこともないことから、本発明の医薬はさらに、これらの鎮痛剤、抗炎症剤あるいは湿布薬などと組み合わせて使用することもできる。 本発明の組成物を実際に使用する場合、有効成分の投与量は、患者の年齢、体重、疾患の程度等によって適宜決定されるが、有効成分のトラニラストまたはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を、概ね、経口投与の場合、成人1日当たり、活性本体のトラニラストとして、100〜1000mg、好ましくは300〜600mgの範囲で投与する。 また、トラニラストは、アレルギー性疾患、特にアレルギー性喘息または花粉症等の治療においては、事前に継続的に使用する予防的な使用が一般に行われているが、このアレルギー性疾患予防治療剤の開発研究過程におけるトラニラストの体内動態解析において、1日300mgを継続投与した場合、2日後に最高血中濃度に到達することが確認されている。一方、上記のように、本発明者らは、トラニラストの筋肉疲労および筋肉損傷の抑制および回復促進効果は、投与3日後で、ある程度満足できることを確認できた。従って、本発明の組成物を筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患予防治療用として使用する場合、運動負荷または外科的処置前、少なくとも2日前から使用し、運動負荷または外科的処置後、継続運動負荷の場合は最終的な運動負荷が終わった後、3日以上継続して使用することが望ましく、運動負荷または外科的処置後1週間乃至10日以上継続使用することがより好ましい。 本発明の内容を詳細に説明するために、以下に実施例および処方例を挙げるが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。 健常な成人20名(男性14名、女性6名)を対象とし、2時間以内の制限付きで、15km走行させ、時間内完走者20名を、着順で、奇数群10名(男性8名、女性2名)と偶数群10名(男性6名、女性4名)に分け、奇数群をトラニラスト投与群(以下、薬物群という)、偶数群を非投与群(以下、対照群という)とした。 薬物群には、運動負荷日の夕食後から毎食後、トラニラストを1回100mgを1日3回、運動負荷7日後の昼食後まで連続投与し、対照群には何も投与しなかった。 両群について筋肉疲労度テストおよび血液成分分析を行い、筋肉疲労および筋肉損傷に対するトラニラストの作用を確認した。 試験方法及び結果(1)筋肉疲労度テスト 両群について、運動負荷直後、1日後、2日後、3日後および7日後(薬物投与最終日)に歩行時痛、ジョギング痛および大腿部圧痛の程度をビジュアルアナログスケール法のスコア(以下、VASスコアという)により数値化し、運動負荷直後の筋肉痛を100%として換算した疼痛度(%)を求めた。 結果は、第1図〜第3図に示すとおり、薬物群では全ての疼痛について、1日後の疼痛度が対照群に比べ大幅に下回っており、2日後、3日後および7日後の疼痛度もほぼ同程度の格差のまま低下している。 さらに、運動能力について、立位体前屈能を測定し、上記同様に、運動負荷直後の能力を100%として換算した能力(%)を求めた。 結果は、第4図に示すとおり、1日後、2日後および3日後の能力は薬物群と対照群で格差はないが、7日後の能力は明らかに薬物群が対照群を上回っている。(2)血液成分分析 両群について、運動負荷直前、直後、3日後および7日後に採血し、筋肉疲労および筋肉損傷に関連する成分(ミオグロビン、乳酸およびCPK)の分析を行い、運動負荷直後の血中濃度を100%として換算した変動度(%)を求めた。 結果は第5図〜第7図に示すとおり、ミオグロビンおよび乳酸値は、薬物群が対照群に比べ、明らかに低値を示している。なお、3日後と7日後の数値は変動が少なく、3日後でほぼプラトーに達している傾向を示している。一方、CPKは、運動負荷直後より3日後の値が上昇しているが、薬物群は対照群に比べ、上昇度が顕著に抑えられており、7日後の値でも、薬物群が対照群に比べ、明らかに低値を示している。処方例 以下のような処方に従い、各種製剤を製する。なお、剤型の種類および処方は調剤例として挙げたものに限るものではない。(A)散剤(10倍散) トラニラスト100gと乳糖900gをよく混和し、1g中トラニラスト100mgを含有する散剤、1000gを製する。(B)散剤(2倍散) トラニラスト500gと乳糖500gをよく混和し、1g中トラニラスト500mgを含有する散剤、1000gを製する。(C)錠剤 トラニラスト100g、乳糖50g、6%HPC乳糖40g、バレイショデンプン6gおよびステアリン酸タルク4gをよく混和して打錠し、1錠中トラニラスト100mgを含有する錠剤、1000錠を製する。(D)カプセル剤 トラニラスト100g、乳糖90g、バレイショデンプン6gおよびステアリン酸カルシウム4gをよく混和し、硬カプセルに充填し、1カプセル中トラニラスト100mgを含有するカプセル剤、1000カプセルを製する。 上述したように、トラニラストは顕著な筋肉疲労の抑制および回復促進効果を示し、また、筋肉損傷回復促進効果とともに筋肉損傷抑制効果も示す。さらに、筋肉損傷疾患の回復過程において、筋線維芽細胞の増殖を抑えて筋細胞増殖と筋線維芽細胞増殖のバランスを調整することにより、元の筋肉組織のように回復させうることが期待できるものである。 従って、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を有効成分として含有させる事により、極めて効果的で優れた、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患予防治療用組成物を製造する事ができる。 さらに、本発明の組成物を使用することによって、従来は、対症療法的に抗炎症剤や鎮痛剤および湿布薬等を使用して、静養するか、軽いトレーニングまたはリハビリテーションを行いつつ自然回復を待つ方法がとるだけしかなかった筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の回復を、短期間に、且つ効果的に行うことができ、しかも、本発明の組成物を予防的に使用することによって、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患を効果的に抑制することができる。 N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸またはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を有効成分として含有する事を特徴とする、筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の予防治療用医薬品組成物。 筋肉疲労若しくは筋肉損傷およびそれらに起因する疾患の抑制および回復促進に使用するための、N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸またはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物の有効量を含有する医薬品組成物。 筋肉疲労および筋肉損傷が運動負荷に起因するものである、請求項1または2記載の医薬品組成物。 筋肉損傷が外科的傷害若しくは外科的処置に起因または付随するものである、請求項1または2記載の医薬品組成物。 筋肉損傷が肉離れである、請求項1または2記載の医薬品組成物。 疾患が筋肉痛である、請求項1または2記載の医薬品組成物。 疾患が筋肉損傷の修復過程における損傷部の筋線維化である、請求項1または2記載の医薬品組成物。 医薬品として許容される添加物をさらに添加する事を特徴とする、請求項1〜7の何れかに記載の医薬品組成物。 請求項1〜8の何れかに記載の医薬品組成物製造のための、N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸またはその薬理学的に許容される塩またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物の使用。