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タイトル:特許公報(B2)_ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素
出願番号:2004508294
年次:2010
IPC分類:C12N 9/10,C12N 15/09,C12P 7/62


特許情報キャッシュ

田口 精一 高瀬 和真 土肥 義治 JP 4445852 特許公報(B2) 20100122 2004508294 20030509 ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素 独立行政法人理化学研究所 503359821 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 田口 精一 高瀬 和真 土肥 義治 JP 2002154374 20020528 20100407 C12N 9/10 20060101AFI20100318BHJP C12N 15/09 20060101ALI20100318BHJP C12P 7/62 20060101ALN20100318BHJP JPC12N9/10C12N15/00 AC12P7/62 C12N 15/00-15/90 GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq SwissProt/PIR/GeneSeq PubMed JSTPlus(JDreamII) BIOSIS/WPI(DIALOG) HIROMI MATSUSAKI,JOURNAL OF BACTERIOLOGY,1998年12月,V180 N24,P6459-6467 FEMS Microbiology Letters,2001年,vol.198,p.65-71 日本生物工学会大会講演要旨集,2001年,vol.2001,p.263 高分子学会予稿集,2001年,50巻,p.3671 2 JP2003005839 20030509 WO2003100055 20031204 29 20060413 渡邉 潤也 技術分野本発明は、所望の物性を示す生分解性ポリエステルを製造できるポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素に関する。背景技術持続可能な社会を築いていく一環として、環境調和型の生分解性プラスチックの創製が注目されている。ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)等の微生物によって生産されるポリ3−ヒドロキシアルカン酸(PHA;poly(3−hydroxyalkanoate))は、熱可塑性及び生分解性を兼ね備えていることから、生分解性プラスチックとしての応用が検討され、既に一部で実用化が始まっている。生分解性プラスチックを、より広範に実用化するためには、より安価な生産システムの構築及び所望の物性を示す生分解性プラスチックを自在に生産することのできる微生物の育種が重要である。これを達成するために、これまでに、新しいタイプの生分解性ポリエステル合成酵素の探索、遺伝子工学的手法による酵素生産量の増強、細胞内の生合成経路の代謝工学的改変等が試みられている。例えば、生分解性プラスチックがコポリマーの場合には、モノマーの組成比によって当該生分解性プラスチックの諸物性を制御することができる。しかしながら、コポリマーにおけるモノマー組成比を効率的に改変する手法は特に確立されておらず、所望の物性を示す生分解性プラスチックは得られていない。発明の開示そこで、本発明は、所望の物性を示す生分解性ポリエステルを製造できる新規なポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素を提供することを目的とする。本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、進化工学的手法によって、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸の生合成に関与する酵素を所望の性質を有する酵素に改変することに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下を包含する。(1)以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素。(a)配列番号1のアミノ酸配列の130番目のグルタミン酸、325番目のセリン、477番目のセリン及び481番目のグルタミンからなる群のうち少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列(b)配列番号1のアミノ酸配列の130番目のグルタミン酸、325番目のセリン、477番目のセリン及び481番目のグルタミンからなる群のうち少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列において、130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸を除く少なくとも1以上のアミノ酸を欠失、置換、及び/又は付加したアミノ酸配列であって、生分解性ポリエステル酸生合成活性を示すアミノ酸配列(2)上記325番目のセリンをシステイン又はスレオニンに置換したことを特徴とする(1)記載のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素。(3)上記481番目のグルタミンをグリシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アルギニン、セリン又はスレオニンに置換したことを特徴とする(1)記載のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素。(4)上記481番目のグルタミンをリジン、アルギニン又はメチオニンに置換したことを特徴とする(1)記載のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素。(5)上記130番目のグルタミン酸をアスパラギン酸に置換したことを特徴とする(1)記載のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素。(6)上記477番目のセリンをアルギニンに置換したことを特徴とする(1)記載のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素。(7)配列番号1のアミノ酸配列において、27番目のアルギニンからヒスチジンへの置換及び477番目のセリンからアルギニンへの置換からなる変異と、130番目のグルタミン酸からアスパラギン酸への置換及び327番目のロイシンからフェニルアラニンへの置換からなる変異と、12番目のグルタミンからアルギニンへの置換、362番目のメチオニンからロイシンへの置換及び497番目のセリンからグリシンへの置換からなる変異と、304番目のアラニンからバリンへの置換及び369番目のメチオニンからロイシンへの置換からなる変異と、30番目のアスパラギン酸からアスパラギンへの置換及び274番目のアスパラギンからチロシンへの置換からなる変異と、477番目のセリンからアルギニンへの置換からなる変異と、130番目のグルタミン酸からアスパラギン酸への置換からなる変異とからなる群から選ばれる1つの変異を有することを特徴とするポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素。(8)(1)〜(7)いずれか1に記載された生分解性ポリエステル酸生合成変異酵素により製造された生分解性ポリエステル。(9)(1)〜(7)いずれか1に記載された生分解性ポリエステル酸生合成変異酵素をコードするポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素遺伝子。以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係る生分解性ポリエステル生合成変異酵素は、配列番号1にアミノ酸配列において、130番目のグルタミン酸、325番目のセリン、477番目のセリン及び481番目のグルタミンからなる群のうち少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。配列番号1に示すアミノ酸配列は、シュードモナスsp.(Pseudomonas sp.)61−3株由来の野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸合成酵素のアミノ酸配列である。130番目のグルタミン酸を置換する他のアミノ酸とは、グルタミン酸以外のアミノ酸であれば特に限定されないが、例えば、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、セリン、プロリン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、システイン、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、スレオニン及びグリシンを挙げることができる。特に、130番目のグルタミン酸を置換する他のアミノ酸としては、アスパラギン酸が好ましい。325番目のセリンを置換する他のアミノ酸とは、セリン以外のアミノ酸であれば特に限定されないが、例えば、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、スレオニン及びグリシンを挙げることができる。特に、325番目のセリンを置換する他のアミノ酸としては、システイン又はスレオニンが好ましい。また、477番目のセリンを置換する他のアミノ酸とは、セリン以外のアミノ酸であれば特に限定されないが、例えば、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、スレオニン及びグリシンを挙げることができる。特に、477番目のセリンを置換する他のアミノ酸としては、アルギニンが好ましい。さらに、481番目のグルタミンを置換する他のアミノ酸とは、グルタミン以外のアミノ酸であれば特に限定されないが、例えば、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、セリン、スレオニン及びグリシンを挙げることができる。特に、481番目のグルタミンを置換する他のアミノ酸としては、グリシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アルギニン、セリン又はスレオニンが好ましく、特に、リジン、アルギニン又はメチオニンがより好ましい。ここで、「ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素」とは、ポリエステル合成に必須な鍵酵素であり、(R)−3−ヒドロキシアシルCoAモノマーの重合を触媒する酵素である。ポリ3−ヒドロキシアルカン酸とは、3−ヒドロキシアルカン酸を構成ユニットとし、エステル結合によって3−ヒドロキシアルカン酸が結合した重合物であって、生物によって生合成され且つ土中や水中の微生物によって分解されるエステル重合物を意味する。また、本発明に係るポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素は、配列番号1のアミノ酸配列において、27番目のアルギニンからヒスチジンへの置換及び477番目のセリンからアルギニンへの置換からなる変異と、130番目のグルタミン酸からアスパラギン酸への置換及び327番目のロイシンからフェニルアラニンへの置換からなる変異と、12番目のグルタミンからアルギニンへの置換、362番目のメチオニンからロイシンへの置換及び497番目のセリンからグリシンへの置換からなる変異と、304番目のアラニンからバリンへの置換及び369番目のメチオニンからロイシンへの置換からなる変異と、30番目のアスパラギン酸からアスパラギンへの置換及び274番目のアスパラギンからチロシンへの置換からなる変異と、477番目のセリンからアルギニンへの置換からなる変異と、130番目のグルタミン酸からアスパラギン酸への置換からなる変異とからなる群から選ばれる1つの変異を有するものである。一般に、細菌中でのポリ3−ヒドロキシアルカン酸の生合成経路は、図1のように、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーユニットを供給する系(モノマー供給系)とモノマーユニットを重合する系(モノマー重合系)の2つの系から構成される。例えば、細菌中でのポリ3−ヒドロキシンアルカン酸の生合成は、図2及び3のように、3−ケトチオラーゼ(PhbA、BktB)やアセトアセチル−CoAレダクターゼ(PhbB)等により構成されるアセチルCoA二量体化系や、エノイル−CoAヒドラターゼ(PhaJ)や3−ケトアシル−ACPレダクターゼ(FabG)等により構成される脂肪酸分解経路、(R)−3−ヒドロキシアシル−ACP−CoAトランスアシラーゼ(PhaG)、3−ケトアシル−ACPシンターゼIII(FabH)、マロニル−CoA−ACPトランスアシラーゼ(FabD)等により構成される脂肪酸生合成経路などを経て生合成されたモノマーユニット(図2中:(R)−3−ヒドロキシバレリル−CoA,(R)−3−ヒドロキシブチリル−CoA;図3中:(R)−3−ヒドロキシアシル−CoAが、ポリ3−ヒドロキシブタン酸合成酵素やポリ3−ヒドロキシアルカン酸合成酵素によって重合されることによって行われる。ここで、ポリ3−ヒドロキシブタン酸は、3−ヒドロキシブタン酸のホモポリマーであり、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸は、炭素数4のヒドロキシブタン酸、炭素数5のヒドロキシ吉草酸、炭素数6のヒドロキシヘキサン酸、炭素数7のヒドロキシヘプタン酸、炭素数8のヒドロキシオクタン酸、炭素数9のヒドロキシノナン酸、炭素数10のヒドロキシデカン酸及び炭素数12のヒドロキシドデカン酸等、様々なモノマーユニットから構成される広範囲の3−ヒドロキシアルカン酸ホモポリマーを意味する。特に、シュードモナスsp.(Pseudomonas sp.)61−3株由来の野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素(以下、野生型酵素と呼ぶ場合もある)は、中長鎖(炭素数6〜14)の3−ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとした共重合ポリヒドロキシアルカン酸を合成でき、且つ、炭素数4の3−ヒドロキシブタン酸をモノマーユニットとした共重合ポリヒドロキシアルカン酸を合成することができる。本発明に係るポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素は、野生型酵素と比較して、3−ヒドロキシブタン酸の含有率(組成比)が高い共重合ポリヒドロキシアルカン酸を合成できる。このように、本発明に係るポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素は、野生型酵素と異なる物性を示す共重合ポリヒドロキシアルカン酸を合成できる。特に、配列番号1における325番目のセリンをシステイン又はスレオニンに置換してなるポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素は、野生型酵素と比較して、3−ヒドロキシブタン酸の含有率が大幅に高くなった共重合ポリヒドロキシアルカン酸を合成できる。また、配列番号1における481番目のグルタミンをリジン、アルギニン又はメチオニンに置換してなるポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素は、野生型酵素と比較して、3−ヒドロキシブタン酸の含有率が大幅に高くなった共重合ポリヒドロキシアルカン酸を合成できる。さらに、配列番号1における477番目のセリンをアルギニンに置換してなるポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素は、野生型酵素と比較して、3−ヒドロキシヘキサン酸の含有率が大幅に高くなった共重合ポリヒドロキシアルカン酸を合成できる。さらに、配列番号1における325番目のセリンをシステイン又はスレオニンに置換し、且つ481番目のグルタミンをリジン、アルギニン又はメチオニンに置換してなるポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素は、3−ヒドロキシブタン酸の含有率が上述した場合よりも高くなった共重合ポリヒドロキシアルカン酸を合成できる。本発明に係るポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素をコードする遺伝子は、シュードモナスsp.(Pseudomonas sp.)61−3株から採取したポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素をコードする遺伝子(以下、野生型遺伝子と呼ぶ)における所定の塩基に突然変異を導入することで得ることができる。このとき、野生型遺伝子は、例えば、Matsusaki,H.et.al.,J.Bacteriol.,180,6459−6467(1998)に記載された方法に準じて得ることができ、また、既にクローニングされているPhaClPsを持つプラスミドを鋳型としてPCR法で増幅させることによって得ることができる。野生型遺伝子における325番目のセリンをコードするコドンをセリン以外の他のアミノ酸をコードするコドンに変異させる場合には、いわゆる部位特異的変異導入法を用いることができる。同様に、野生型遺伝子における481番目のグルタミンをコードするコドンをグルタミン以外の他のアミノ酸をコードするコドンに変異させる場合にも、この部位特異的変異導入法を用いることができる。部位特異的変異導入法としては、特に限定されないが、例えば以下のように、組換えDNA技術、PCR法等を用いて行うことができる。すなわち、組換えDNA技術による変異の導入は、例えば、野生型遺伝子中の変異導入を希望する目的の部位の両側に適当な制限酵素認識配列が存在する場合に、そこを前記制限酵素で切断し、変異導入を希望する部位を含む領域を除去した後、化学合成等によって目的の部位のみに変異導入したDNA断片を挿入するカセット変異法によって行うことができる。また、PCRによる部位特異的変異の導入は、野生型遺伝子中の変異導入を希望する目的の部位に目的の変異を導入した変異プライマーと前記遺伝子の一方の末端部位の配列を含む変異を有しない増幅用プライマーとで前記遺伝子の片側を増幅し、前記変異用プライマーに対して相補的な配列を有する変異用プライマーと前記遺伝子のもう一方の末端部位の配列を含む変異を有しない増幅用プライマーでもう片側を増幅し、得られた2つの増幅断片をアニール後、さらに前記2種類の増幅用プライマーでPCRをすることにより行うことができる[SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,3rd ed,1995,F.A.Susubel et al.,WILEY]。このようにして得られた3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素をコードする遺伝子(以下、3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素遺伝子と呼ぶ)は、適当なベクターに連結することによって、所定の宿主でポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素を発現しうる組換えベクターを得ることができる。また、得られた組換えベクターを所定の宿主に導入することによって、当該ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素を発現する形質転換体を得ることができる。3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素遺伝子を挿入するためのベクターは、所定の宿主中で自律複製可能なものであれば特に限定されず、プラスミドDNAやファージDNAをベクターとして用いることができる。例えば、大腸菌を宿主として用いる場合には、pBR322、pUC18、pBluescript II等のプラスミドDNA、EMBL3、M13、λgt11等のファージDNA等を、酵母を宿主として用いる場合は、YEp13、YCp50等を、植物細胞を宿主として用いる場合には、pBI121、pBI101等を、動物細胞を宿主として用いる場合は、pcDNAI、pcDNAI/Amp(インビトロジェン社)等をベクターとして用いることができる。組換えベクターを導入する宿主としては、3−ヒドロキシアルカン酸を構成ユニットとし、エステル結合によって3−ヒドロキシアルカン酸を重合させポリ3−ヒドロキシアルカン酸を合成できるものであれば限定されないが、例えば、大腸菌LS5218(fadR−)、LS1298(fabB−)、LS1300(fre)、LS6596(fadA30)等のLSシリーズの大腸菌株を挙げることができる。これらLSシリーズの大腸菌株は、脂肪酸β酸化経路関連酵素遺伝子のマイナス制御因子であるfadRが破壊された変異株であり、他の大腸菌と比較して脂肪酸を効率よく代謝できるといった特徴を有している。また、宿主としては、通常の大腸菌であっても、アクリル酸(最適濃度0.24mg/ml)を添加することによって脂肪酸β酸化経路を阻害することによって使用することができる。細菌への組換えベクターの導入方法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法[Current Protocols in Molecular Biology,1巻,1.8.1頁,1994年]やエレクトロポレーション法[Current Protocols in Molecular Biology,1巻,1.8.4頁,1994年]等が挙げられる。酵母への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法[Methods Enzymol.,194,182−187(1990)]、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929−1933(1978)]、酢酸リチウム法[J.Bacteriol.,153,163−168(1983)]等が挙げられる。植物細胞への組換えベクターの導入方法としては、アグロバクテリウム感染法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法等が挙げられる。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等が挙げられる。上述した形質転換体で産生されたポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素の酵素活性は、例えば、当該形質転換体を、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸の生成が可能な条件下で培養し、細胞内におけるポリ3−ヒドロキシアルカン酸の生成蓄積状況を調べることで評価できる。すなわち、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸の生成蓄積量を、当該ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素と野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素とで比較することで、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素の酵素活性を評価できる。ポリ3−ヒドロキシアルカン酸の生産蓄積状況は、例えば、ポリ3−ヒドロキシブタン酸に特異的に染色するNile Redを寒天培地プレートに含有させることによって、プレート上に生育したコロニーのピンク色の呈色度合いを調べることによって判別することができる。ここで、呈色度が強い程、ポリ3−ヒドロキシブタン酸の細胞内含量が高いと評価することができ、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素の活性が高いと評価することができる。また、312nmの光照射によって発する蛍光の強度によっても高感度に観察できる[Spickermann et al.Arch Microbiol.,171:73−80(1999)]。また、各クローン中のポリ3−ヒドロキシブタン酸含量の正確な定量は、以下のようにして行うことができる。すなわち、ポリ3−ヒドロキシブタン酸含量が乾燥菌体重量換算で約1%以上の場合には、菌体からポリ3−ヒドロキシブタン酸を、有機溶媒(例えば、クロロホルム)により抽出後、メタノール−濃硫酸溶液中でメタノリシスさせ、3−ヒドロキシブタン酸のメチル化体をガスクロマトグラフィー(GC)によって分析する方法により行うことができる。また、ポリ3−ヒドロキシブタン酸含量が乾燥菌体重量換算で約1%未満の場合には、ポリ3−ヒドロキシブタン酸を、高温下濃硫酸によってクロトン酸変換(脱離反応)し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供試し、他成分と分離させ、210nmでの吸収を分光学的に検出する方法等によって行うことができる[Karr et al.:Appl.Environ.Microbiol.,46:1339−1344(1983);Seebach et al.:Eur.J.Biochem.,224:317−328(1994)]。また、上述した形質転換体を培地で培養し、培養物(培養菌体又は培養上清)中にポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素を生成蓄積させ、該培養物から採取することにより製造することができる。形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。大腸菌等の細菌を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、完全培地又は合成培地、例えばLB培地、M9培地等が挙げられる。また、培養温度は37℃で好気的に12〜14時間培養することによりポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素を菌体内に蓄積させ、回収する。炭素源は微生物の増殖に必要であり、例えばグルコース、フラクトース、スクロース、マルトース等の炭水化物が挙げられる。窒素源としては例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。また、無機物としては例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。プラスミド保持用の選択圧など必要に応じて、培地中に、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素の精製は、得られる培養物を遠心して回収し(細胞についてはソニケーターにて破砕する)、アフィニティークロマトグラフィー、陽イオン又は陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過等を単独で又は適宜組み合わせることによって行うことができる。得られた精製物質が目的の酵素であることの確認は、通常の方法、例えばSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、ウエスタンブロッティング等により行うことができる。さらに、上述した形質転換体を適当な培地で培養することによって、所定の物性を示す生分解性ポリエステルを製造することができる。得られた生分解性ポリエステルは、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素により生合成されたものであるため、野生型酵素により生合成されえものとは異なる物性を示すものとなる。得られた生分解性ポリエステルとしては、3−ヒドロキシブタン酸(3HB)と3−ヒドロキシアルカン酸(3HA)とのコポリマー、例えば、3HBと3−ヒドロキシヘキサン酸(3HHx)とのコポリマーを例示することができる。なお、以下において、3HBと3HAとのコポリマーを「P(3HB−co−3HA)」と記載し、3HBと3HHxとのコポリマーを「P(3HB−co−3HHx)」と記載する場合もある。すなわち、上述した形質転換体を適当な培地で培養することによって、P(3HB−co−3HA)を製造することができる。例えば、宿主として大腸菌LS5218を用いた場合には、菌体内部にP(3HB−co−3HHx)を製造することができる。上述した形質転換体においては、P(3HB−co−3HA)の蓄積量が多量であり、且つ、野生型酵素を用いる場合とは異なり、P(3HB−co−3HA)における3−ヒドロキシブタン酸の含有量(組成比)が大幅に向上している。P(3HB−co−3HA)において、3HBの組成比が高いことによりリジッドなものとなり、実用的に優れた特性を示すこととなる。なお、細胞内に蓄積されたポリエステルの細胞内含量及びポリエステルの組成は、加藤らの方法[Kato,M.et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.45,363(1996);Kato,M.et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.69,515(1996)]に従い、細胞からクロロホルム等の有機溶媒を用いて抽出後、抽出物をガスクロマトグラフィー、NMRなどに供試することに測定・分析することができる。本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2002−154374号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。発明を実施するための最良の形態以下に、本発明の実施例を示して具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例では、一例として、いわゆる進化工学的手法を用いて本発明に係るポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素を取得した例を説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。すなわち、本発明に係るポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素の取得方法は、以下の実施例に限定されない。〔実施例1〕error−prone PCR法によるポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素の改変error−prone PCR法によって、シュードモナスsp.(Pseudomonas sp.)61−3株由来のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素をコードする遺伝子(PhaClPs)における全領域にランダム変異を導入した。error−prone PCR法には、鋳型としてPhaClPsを含むプラスミドベクターpETphaClPs(図4参照)を用い、基本ベクターpET−23a(+)のマルチクローニングサイト上流側に対応する順方向プライマーpETMCS−for.:5’−CCCAACGCTGCCCGAGATCTCGATCCCGCG−3’(配列番号2)及び基本ベクターpET−23a(+)のマルチクローニングサイト下流側に対応する逆方向プライマーpETMCS−rev.:5’−AGCTTCCTTTCGGGCTTTGTTAGCAGCCGG−3’(配列番号3)を用いた。error−prone PCR法では、ポリメラーゼの基質取り込み忠実性を低下させる条件でPCRを行うことにより、変異の場所を限定することなくPhaClPs全域への変異の導入を試みた。なお、pETphaClPsは、基本ベクターとしてpET−23a(+)(Novagen社製)を用いた。PhaClPsは、まずpBSEX22(Matsusaki,H.et.al.,J.Bacteriology.180,6459(1998))を鋳型とし、PhaClPsの開始コドン(ATG)にオーバーラップするように制限酵素NdeI認識配列(CATATG)を導入したプライマーとPhaClPsの停止コドン下流に制限酵素BamHI認識配列(GGATCC)を導入したプライマーを用いPCR法により増幅した。次いで、PCRによって得られた増幅DNA断片を精製単離した後にNdeIとBamHIによって処理した。次いで、制限酵素によって処理されたDNA断片を基本プラスミドベクターpET−23a(+)の同制限酵素サイトに置換挿入することにより野生型PhaClPsを有するpETphaClPsを得た。error−prone PCRに際しては表1の組成となるように反応溶液を調製した。error−prone PCRの温度サイクルは、94℃1分間の熱変性、50℃で1分間のアニーリング、72℃で2分間の伸長反応を1サイクルとして、25サイクル行った。error−prone PCRには、Gene Amp PCR system 9700(Perkin−Elmer Applied Biosystems製)を用いた。次いで、error−prone PCRによって得られた増幅DNA断片を精製単離した後にXbaIとBamHIによって処理した。次いで、制限酵素によって処理されたDNA断片を用いてモノマー供給系遺伝子発現プラスミドpGEM″ABReのXbaIとBgIII制限酵素サイトの間に置換挿入することにより変異型PhaClPsの分子集団(変異クローンのプール)を得た。得られたプラスミドベクターをpGEM″ClPsABReとした(図5参照)。なお、pGEM″ABReは、基本ベクターpGEM−T(Promega社製)のマルチクローニングサイトに、Ralstonia eutropha由来のphbオペロンのプロモーター、β−ケトチオラーゼ遺伝子(phbARe)、アセトアセチルCoAリダクターゼ遺伝子(phbBRe)及びphbオペロンのターミネーターをこの順で挿入したものである。これらphbオペロンのプロモーター、β−ケトチオラーゼ遺伝子(phbARe)、アセトアセチルCoAリダクターゼ遺伝子(phbBRe)及びphbオペロンのターミネーターは、Matsusaki,H.et.al.,J.Bacteriol.,180,6459−6467(1998)に記載されているプラスミドベクターpGEM’−phbCABReを制限酵素処理することにより得た。得られたプラスミドベクターpGEM″ClPsABReは、変異型PhaClPsの分子集団であり、PhaClPs全領域にランダムに突然変異が導入された様々なPhaClPsが含まれている。次に、pGEM″ClPsABReを、Escherichia coli JM109株のコンピテント細胞に形質転換した。形質転換処理細胞を、ポリ3−ヒドロキシブタン酸を特異的に染色することができるNile Red、グルコース及びアンピシリンを含有するLB寒天培地(0.5μg/ml Nile Red、2%グルコース、50μg/mlアンピシリン、1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0)上で植え、37℃で14時間培養することによって形質転換細胞を選別するとともに、ピンク色の度合いによって、各形質転換細胞におけるポリ3−ヒドロキシブタン酸の生産蓄積量を見積もった。その結果、LB寒天培地上に形成された133671個のクローンのうち121個のクローンが淡いピンク色を呈した。これら121個のクローンにおけるPHB含有量についてHPLCを用いて分析した。なお、HPLCによる分析は、濃硫酸処理を行うことによって細胞内PHBをクロトン酸に変化させた後に行った。詳細には、菌体を30℃で96時間培養した後、1.5mlマイクローチューブにて集菌し、凍結させた後に凍結乾燥を行った。乾燥菌体重量を測定した後、濃硫酸による菌体内PHBのクロトン酸変換を行った。クロトン酸変換は、マイクロチューブ中の乾燥菌体に対し1mlの濃硫酸を加え、120℃、40分間加熱した後、氷中で急冷した。なお、この操作により菌体内のPHBは、高温下濃硫酸によって脱水反応がおこり、クロトン酸に変換される。次に、冷却したサンプルを、4倍量の0.014N硫酸溶液にて希釈し、さらに冷却した後HPLCサンプルとした。サンプルは、親水性PVDF膜、孔径0.45μmのフィルターでろ過した後、10μlをHPLC装置へ注入した。HPLC装置は、Shimadzu LC−10Avpシステムを用いた。カラムは、架橋度8%スチレンジビニルベンゼンコポリマー系陽イオン交換樹脂カラムであるBio−rad Aminex HPX−87H(300x7.8mm)を用いた。また、ガードカラムとしてBio−rad Cation−H Refill Cartridge(30x4.6mm)を用いた。移動層は、0.014N硫酸溶液を用い、流速は0.7ml/minで測定を行った。カラム温度は60℃に設定し、脱水反応により生成したクロトン酸のカルボニル基に由来する210nmの吸収を分光学的に検出した。クロトン酸の保持時間は、20.4分であった。PHB蓄積率は、クロトン酸量と面積の関係式(検量線)を基にして算出した121個のクローンについてHPLC装置を用いてPHB蓄積量を測定した結果、18個のクローンが野生型PhaClPs発現株より高いPHB蓄積量を示した。なお、野生型PhaClPs発現株は、野生型のPhaClPsを用いた以外は上述した方法と同様にして作製した。18個全ての変異体の塩基配列を決定したところ、その内訳は以下の通りだった。単独変異:7個、二重変異:9個、三重変異:2個であった。なお、塩基配列決定は、BigDye terminator cycle sequencing ready reaction kit(Applied Biosystems社製)を用い、Prism310 DNAシーケンサー又はPrism377 DNAシーケンサーを用いたジデオキシ連鎖ターミネーション法で行った。塩基配列決定により得られた塩基配列情報は、GENETYX−MACソフトウェア(Software Development社製)又はBLAST(Basic Local Aliginment Search Tool;National Center for Biotechnology Informationからの提供)を用いて解析した。この中で、有意にPHB含量が増大したアミノ酸置換体において後述のように部位指定飽和変異(Site−specific saturation mutagenesis)を実施することにした。野生型PhaClPs発現株より高いPHB蓄積量を示した18個のクローンと野生型PhaClPs発現株とにおけるPHB蓄積量測定結果を図6に示した。図6は、縦軸をPHB蓄積量とし横軸をクローン名とする。また、これら18個のクローンからpGEM″ClPsABReを抽出し、PhaClPsの塩基配列を決定して変異箇所を同定した。また、同定した変異箇所に基づいて、PhaClPsにおけるアミノ酸変異を解析した。図6に示した各クローンにおけるPHB蓄積量とアミノ酸変異との関係を表2に示す。〔実施例2〕実施例2では、図6及び表2に示した結果から、PHB蓄積量の向上に起因すると考えられるアミノ酸変異を検討した。先ず、野生型PhaClPs発現株より高いPHB蓄積量を示した18個のクローンにおいて、図6及び表2に示した結果から325番目のセリン及び481番目のグルタミンにおけるアミノ酸置換がPHB蓄積量の向上に影響を与えていると考えられた。そこで、有意にPHB含量が増大する変異をもたらす325番目及び481番目での部位指定飽和変異を試みた。先ず、325番目のセリンをセリン以外の他のアミノ酸に置換し、その置換がPHB蓄積量に与える影響を検討した。具体的には、先ず、325番目のセリンをコードするコドンを、セリン以外の他のアミノ酸をコードするコドンに変異させるべく変異導入用プライマーを設計した。次に、変異導入用プライマーを用いた部位特異的突然変異導入法により、325番目のセリンを所定のアミノ酸に置換したPhaClPsを作製した。すなわち、325番目のアミノ酸がセリン以外の19種類のアミノ酸のうちいずれかに置換さたポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素をコードする19種類のPhaClPsを作製した。なお、これら19種類のPhaClPsは、上述したpGEM″ABReに挿入されている。次に、得られた19種類のPhaClPsを用いてEscherichia coli JM109株のコンピテント細胞に形質転換した。形質転換処理細胞を用いて、実施例1と同様にしてPHB蓄積量を測定した。19種類のPhaClPs発現株と野生型PhaClPs発現株とにおけるPHB蓄積量測定結果を図7に示した。図7は、縦軸をPHB蓄積量とし横軸を変異の種類とする。図7に示した各変異におけるPHB蓄積量とアミノ酸変異との関係を表3に示す。図7及び表3に示した結果から、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素における325番目のセリンをシステイン又はスレオニンに置換したポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素は、野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素と比較して非常に高いPHB蓄積量を示すことが明らかとなった。このことから、これらポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素によれば、野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素とは異なる組成比のP(3HB−co−3HA)を取得することができる。特に、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素によれば、野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素から取得されたP(3HB−co−3HA)と比較すると、3HB成分の組成比が高いP(3HB−co−3HA)を取得することができる。次に、481番目のグルタミンをグルタミン以外の他のアミノ酸に置換し、その置換がPHB蓄積量に与える影響を、上述した325番目のセリンをセリン以外の他のアミノ酸に置換した際の手法に準じて検討した。481番目のグルタミンをグルタミン以外の他のアミノ酸に置換した19種類のPhaClPs発現株と野生型PhaClPs発現株とにおけるPHB蓄積量測定結果を図8に示した。図8は、縦軸をPHB蓄積量とし横軸を変異の種類とする。図8に示した各変異におけるPHB蓄積量とアミノ酸変異との関係を表4に示す。図8及び表4に示した結果から、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素における481番目のグルタミンを、グリシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アルギニン、セリン又はスレオニンに置換したポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素は、野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素と比較して非常に高いPHB蓄積量を示すことが明らかとなった。この中でも、リジン、アルギニン又はメチオニンに置換したポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素は、PHB蓄積量の向上が顕著であった。このことから、これらポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素によれば、野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素とは異なる組成比のP(3HB−co−3HA)を取得することができる。特に、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素によれば、野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素から取得されたP(3HB−co−3HA)と比較すると、3HB成分の組成比が高いP(3HB−co−3HA)を取得することができる。また、図7及び8並びに表3及び4に示した結果においてより高いPHB蓄積量を示したクローンに含まれるポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素によれば、3HB成分の組成比がより高いP(3HB−co−3HA)を取得することができる。さらに、この結果から、これら3HB基質に対して高い基質特異性を示すようになった変異の位置の探索・特定には、今回採用した進化工学的手法は非常にパワフルに機能することが示された。次に、基質特異性の変換に強く関与し、PHA含量を底上げする優良変異が特定された段階で、次世代の進化を試みた。すなわち、325番目(S325TとS325Cの2種)と481番目(Q481K、Q481R、Q481Mの3種)で得られた優良変異の組み合わせ(計6種の二重変異体)を遺伝子工学的に作製した。また、実施例1の結果より、PHB蓄積量を向上させると考えられる130番目の置換、477番目の置換、325番目の置換及び481番目の置換をそれぞれ単独で有するPhaClPs発現株と、これらの変異を組み合わせて有する(二重変異、三重変異及び四重変異)PhaClPs発現株と野生型PhaClPs発現株とにおけるPHB蓄積量測定結果を表5及び6に示す。また、表5に示した結果の中から、S325T、S325C、Q481K、Q481R及びQ481Mを単独で有するPhaClPs発現株及び組み合わせて有するPhaClPs発現株について図9に示す。図9は、縦軸をPHB蓄積量とし横軸を変異の種類とする。図9、表5及び表6に示した結果から、130番目の置換、477番目の置換、325番目の置換及び481番目の置換をそれぞれ単独で有するPhaClPs発現株と、これらの変異を組み合わせて有する(二重変異、三重変異及び四重変異)PhaClPs発現株において、野生型PhaClPs発現株と比較して、非常に高いPHB蓄積量を示した。また、二重変異、三重変異及び四重変異PhaClPs発現株では、単独変異PhaClPs発現株と比較して、非常に高いPHB蓄積量を示した。特に、325番目のセリンをシステイン又はスレオニンに置換するとともに481番目のグルタミンをリジン、アルギニン又はメチオニンに置換したポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変換酵素によれば、野生型のポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成酵素から取得されたP(3HB−co−3HA)と比較すると、3HB成分の組成比がより高いP(3HB−co−3HA)を取得することができる。この結果から、優良変異の相乗効果(325番目のセリン置換の効果及び481番目のグルタミン置換の効果)が出現し、それぞれの単独変異より飛躍的にPHB含量を増加(平均約38%)させることができた。基質特異性の決定に関与するアミノ酸残基の位置がこのマッピングによって、特定できたと推定される。このように本手法により、今後、他の基質特異性に関与する残基の位置が特定されていくことにより、それらの位置におけるアミノ酸置換体の組み合わせにより様々な優良変異酵素が創生できる可能性を示した。〔実施例3〕実施例3では、実施例1で得られた18個のクローンのなかでクローン名ep(1−1)、ep(1−8)、ep(1−16)、ep(4−2)、ep(10−3)、ep(10−4)及びep(10−5)について、それぞれに含まれる変異型PhaClPsで大腸菌LS5218を形質転換し、形質転換された大腸菌LS5218におけるP(3HB−co−3HA)コポリマー蓄積量及びP(3HB−co−3HA)を構成するモノマーの組成について検討した。なお、大腸菌LS5218は、ドデカン酸からP(3HB−co−3HA)コポリマーを合成することができる。大腸菌LS5218は、E.coli Genetic Stock Centerから入手した(寄託番号CGSC 6966)。先ず、実施例1で得られたep(1−1)、ep(1−8)、ep(1−16)、ep(4−2)、ep(10−3)、ep(10−4)及びep(10−5)それぞれについて、Millerらの方法により変異型PhaClPsを含むプラスミドベクターpGEM″ClPsABReを精製した。次に、精製したプラスミドベクターを制限酵素XbaIとPstIで処理し変異型PhaClPsを含むDNA断片を精製した。次いで、精製したDNA断片を用いてモノマー供給系遺伝子発現プラスミドpGEM″ABReJAcのXbaIとPstI制限酵素サイトの間に置換挿入することによりP(3HB−co−3HA)コポリマー合成用プラスミドベクターを得た。得られたプラスミドベクターをpGEM″ClPsABReJAcとした(図10参照)。なお、pGEM″ABReJAcは、実施例1で用いたpGEM″ABReのphbBReの下流にAeromonas caviae由来の(R)−特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子(phaJAc)を挿入したものである。(R)−特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子(phaJAc)は、Fukui,T.et.al.,J.Bacteriol.180,667(1998)に記載されているプラスミドベクターpETNB3を制限酵素処理することにより得た。次に、精製したプラスミドベクターpGEM″ClPsABReJAcを用いて大腸菌LS5218を形質転換した。形質転換された大腸菌LS5218は、0.5%のドデカン酸及び50μg/mlのアンピシリンを含むM9培地において72時間37℃で培養した。当該M9培地の組成を表7に示した。培養後、細胞内のP(3HB−co−3HA)コポリマー含有量と、P(3HB−co−3HA)を構成する3HAモノマーの分率を測定した。P(3HB−co−3HA)コポリマー含有量測定及び3HAモノマーの分率測定に際しては、先ず、約30mgの乾燥菌体を、1.7mlのメタノール、0.3mlの98%硫酸及び2.0mlのクロロフォルムからなる溶液で100℃、140分間処理してメタノリシスさせ、P(3HB−co−3HA)コポリマーの組成物をメチルエステルに変換した。その後、反応液に1mlの水を加え、相分離させた。そして、下層のクロロフォルム層をガスクロマトグラフィー分析に供した。ガスクロマトグラフィー分析は、ニュートラボンド−Iキャピラリーカラム及びフレームイオン化検出装置を備える島津GC−17Aシステムを用いて行った。結果を図11及び12並びに表8に示す。なお、表7及び図12において、炭素数4の3HAを「C4」と表記し、炭素数6の3HAを「C6」と表記し、炭素数8の3HAを「C8」と表記し、炭素数10の3HAを「C10」と表記し、炭素数12の3HAを「C12」と表記している。この表8から判るように、野生型の大腸菌LS5218では、乾燥菌体重量において3wt%のP(3HB−co−3HA)コポリマーを含有し、C4(炭素数4の3HA、以下同様)の分率が21%、C6の分率が45%、C8の分率が20%、C10の分率が9%及びC12の分率が5%であった。これに対して、ep(1−8)、ep(1−16)、ep(4−2)及びep(10−5)においては、P(3HB−co−3HA)コポリマー含有量が野生型と比較してそれぞれ4.7倍、8倍、12倍及び9.5倍に増加していた。また、ep(1−8)、ep(1−16)、ep(4−2)及びep(10−5)においては、3HBモノマー(C4)の分率がそれぞれ30%、39%、40%及び55%となっており、野生型と比較して3HBの分率が高いコポリマーを生産していることが判った。〔実施例4〕実施例4では、130番目の置換、477番目の置換、325番目の置換及び481番目の置換をそれぞれ単独で有するPhaClPs発現株と、これらの変異を組み合わせて有する(二重変異、三重変異及び四重変異)PhaClPs発現株における、P(3HB−co−3HA)コポリマー含有量と、P(3HB−co−3HA)を構成する3HAモノマーの分率を検討した。本例では、実施例3で使用したプラスミドベクターpGEM″ClPsABReJAcにおけるAeromonas caviae由来の(R)−特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子(phaJAc)を、Psedomonas aeruginosa由来の(R)−特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子(phaJ4Pa)に置換してなるプラスミドベクターpGEM″ClABJ4を使用した(図13)。なお、Psedomonas aeruginosa由来の(R)−特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子(phaJ4Pa)は、Tsuge T.et al.,Int.J.Biol.Micromol.31.195(2003)に記載されているプラスミドベクターpUCJ4を制限酵素処理することによって得ることができる。次に、プラスミドベクターpGEM″ClABJ4で大腸菌LS5218を形質転換した。その後、形質転換された大腸菌LS5218を、0.3%のドデカン酸及び100μg/mlのアンピシリンを含むM9培地で、実施例3と同様にして培養した。培養後、細胞内のP(3HB−co−3HA)コポリマー含有量と、P(3HB−co−3HA)を構成する3HAモノマーの分率を、実施例3と同様にして測定した。結果を表9及び表10に示す。表9及び10に示した結果から、E130D単独変異を有するPhaClPs発現株では、野生株と比較してP(3HB−co−3HA)蓄積量が増加しており、野生株と同様な3HAモノマー分率を有するP(3HB−co−3HA)を合成することが明らかになった。また、S477R単独変異を有するPhaClPs発現株では、野生株と比較して3HAモノマー分率が異なり、炭素数6の3HHx分率の高いP(3HB−co−3HA)を合成することが明らかになった。また、S325C、S325T、Q481K、Q481M及びQ481R単独変異を有するPhaClPs発現株では、野生株と比較して3HAモノマー分率が異なり、炭素数4の3HB分率の高いP(3HB−co−3HA)を合成することが明らかになった。なかでも、S325C、S325T及びQ481M単独変異を有するPhaClPs発現株では、野生株と比較してP(3HB−co−3HA)蓄積量が増加していることも明らかとなった。一方、二重変異、三重変異及び四重変異PhaClPs発現株に関する結果からは、複数の変異を組み合わせることによって、P(3HB−co−3HA)蓄積量を増加させられるとともに、様々な3HAモノマー分率のP(3HB−co−3HA)を合成できることが判る。特に、S477Rを含む三重変異及び四重変異を有するPhaClPs発現株では、野生株と比較して、3HB分率及び3HHx分率の高いP(3HB−co−3HA)を合成できる傾向にあることが判る。本実施例により、P(3HB−co−3HA)を合成するに際して、配列番号1における130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1のアミノ酸を置換することで、実用に即した物性を示すP(3HB−co−3HA)を合成できることが実証された。本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。産業上の利用の可能性以上、詳細に説明したように、本発明に係るポリ3−ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素によれば、野生型酵素が製造する生分解性ポリエステルとは異なる組成比を有し、異なる物性を示す生分解性ポリエステルを製造できる。配列表フリーテキスト配列番号2及び3は合成DNAである。【配列表】【図面の簡単な説明】図1は、ポリ3−ヒドロキシアルカン酸の生合成スキームを示した図である。図2は、細菌におけるアセチル−CoA二量化系からのポリエステル生産とそれにかかわる酵素を示した図である。図3は、細菌における脂肪酸代謝系からのポリエステル生産とそれにかかわる酵素を示した図である。図4は、プラスミドベクターpETphaClPsの概略構成図である。図5は、プラスミドベクターをpGEM″ClPsABReの概略構成図である。図6は、野生型PhaClPs発現株より高いPHB蓄積量を示した18個のクローンと野生型PhaClPs発現株とにおけるPHB蓄積量測定結果を示す特性図である。図7は、325番目のアミノ酸を変異させたPhaClPs発現株と野生型PhaClPs発現株とにおけるPHB蓄積量測定結果を示す特性図である。図8は、481番目のアミノ酸を変異させたPhaClPs発現株と野生型PhaClPs発現株とにおけるPHB蓄積量測定結果を示す特性図である。図9は、325番目及び481番目のアミノ酸を変異させたPhaClPs発現株と野生型PhaClPs発現株とにおけるPHB蓄積量測定結果を示す特性図である。図10は、プラスミドベクターpGEM″ClPsABReJAcの概略構成図である。図11は、変異型PhaClPs発現株と野生型PhaClPs発現株とにおけるPHA蓄積量測定結果を示す特性図である。図12は、変異型PhaClPs発現株と野生型PhaClPs発現株とにおけるモノマー分率を示す特性図である。図13は、プラスミドベクターpGEM″ClABJ4の概略構成図である。 以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるポリ3-ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素。(a)配列番号1のアミノ酸配列の130番目のグルタミン酸をアスパラギン酸とする置換、325番目のセリンをシステイン又はスレオニンとする置換、477番目のセリンをアルギニンとする置換及び481番目のグルタミンをリジン、アルギニン又はメチオニンとする置換からなる群のうち少なくとも1つのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列(b)上記(a)のアミノ酸配列において、130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸を除く、1又は2のアミノ酸を欠失、置換、及び/又は付加したアミノ酸配列であって、生分解性ポリエステル酸生合成活性を示すアミノ酸配列 請求項1に記載された生分解性ポリエステル酸生合成変異酵素をコードするポリ3-ヒドロキシアルカン酸生合成変異酵素遺伝子。


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