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タイトル:特許公報(B2)_抗歯周病菌組成物
出願番号:2004506828
年次:2010
IPC分類:A61K 36/18,A61K 36/00,A61K 8/36,A61K 8/49,A61K 8/97,A61K 31/20,A61K 31/201,A61K 31/353,A61P 1/02,A61P 31/04,A61Q 11/00


特許情報キャッシュ

西村 栄作 平尾 千波 大島 朋子 佐藤 進 稲垣 宏之 亀井 優徳 加藤 正俊 橋爪 秀一 前田 伸子 JP 4440095 特許公報(B2) 20100115 2004506828 20030527 抗歯周病菌組成物 森永製菓株式会社 000006116 松井 茂 100086689 西村 栄作 平尾 千波 大島 朋子 佐藤 進 稲垣 宏之 亀井 優徳 加藤 正俊 橋爪 秀一 前田 伸子 JP 2002152185 20020527 20100324 A61K 36/18 20060101AFI20100304BHJP A61K 36/00 20060101ALI20100304BHJP A61K 8/36 20060101ALI20100304BHJP A61K 8/49 20060101ALI20100304BHJP A61K 8/97 20060101ALI20100304BHJP A61K 31/20 20060101ALI20100304BHJP A61K 31/201 20060101ALI20100304BHJP A61K 31/353 20060101ALI20100304BHJP A61P 1/02 20060101ALI20100304BHJP A61P 31/04 20060101ALI20100304BHJP A61Q 11/00 20060101ALI20100304BHJP JPA61K35/78 CA61K35/78 XA61K8/36A61K8/49A61K8/97A61K31/20A61K31/201A61K31/353A61P1/02A61P31/04A61Q11/00 A61K 36/18 A23L 1/30 A61K 8/36 A61K 8/49 A61K 8/97 A61K 31/20 A61K 31/201 A61K 31/353 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開平07−213251(JP,A) 大嶋隆 他,チョコレ-ト・ココアの効用 カカオ抽出物のう蝕抑制作用,食の科学,1999年,No.252,pp.46-49,図3,4 PORTER L J et al,Cacao procyanidins: major flavanoids and identification of some minor metabolites,Phytochemistry ,1991年,Vol.30,No.5,Page.1657-1663 HO K Y,Antimicrobial activity of tannin components from Vaccinium vitis-idaea L. ,J Pharm Pharmacol ,2001年,Vol.53,No.2,Page.187-191 7 JP2003006614 20030527 WO2003099304 20031204 24 20040909 鶴見 秀紀 【0001】【技術分野】 本発明は、カカオマス中に含まれるココア分を有効成分として含有する抗歯周病菌組成物、該抗歯周病菌組成物を含有する抗歯周病用飲食物及び口腔用洗浄剤に関する。【0002】【背景技術】 歯周炎や歯槽膿漏等の歯周病は、成人の歯損失の主原因であり、厚生労働省も1988年から歯周病予防に取り組んでいるが、その罹患率は年々上昇している。例えば、35〜64歳の日本人の80%前後が歯肉炎(歯周病初期)や歯周炎(歯周病後期)を疑われており、25〜34歳までの若い世代でも歯肉炎は約60%に達し、歯周炎に進行している患者も10%以上いると言われている。【0003】 また、米国歯周病学会の調査によると、歯周病患者は健常人に比べ、心筋梗塞を引き起こすリスクが約2.8倍高く、更に、女性の場合、早産のリスクが約7.5倍にもなることが判明している。また、肺炎、ぜんそく、咽頭炎などの呼吸器疾患を起こしやすくなったり、血糖値のコントロールが困難になり、結果として糖尿病を悪化させることになるとも言われている。【0004】 歯周病の主な原因は、歯周ポケットに蓄積する歯垢中の細菌である。通常、健常者の歯周ポケットではグラム陽性菌が大部分を占めているが、歯周病が進行するにしたがって、ポルフィロモナス(バクテロイデス)・ジンジバリス、フゾバクテリウム・ヌクレイタム、アクチノバシルス・アクチノミセテムコミタンス等のグラム陰性菌が増加する。そして、重度の成人歯周病者の病巣部からは高い割合でグラム陰性菌、特に、ポルフィロモナス・ジンジバリスが検出され、該菌に対する患者血清中の抗体価も上昇している例が多い。また、動物にポルフィロモナス・ジンジバリスを接種すると、歯周の炎症を悪化させることが示されており、これらの結果から、ポルフィロモナス・ジンジバリスが歯周疾患の成立と進行に重要な働きをしていることが示唆され、歯周病の病原菌(歯周病菌)として有力視されている。【0005】 歯周病の症状改善方法としては、抗炎症効果による歯周炎予防あるいは治療が挙げられるが、これらは対症療法であり、抗菌作用による予防あるいは治療はより根本的な原因除去である。【0006】 したがって、歯周病の症状改善のためには、歯周ポケットにおけるポルフィロモナス・ジンジバリス等のグラム陰性菌の生育を阻害することが重要であり、これらの菌に対して有効な様々な抗菌性物質を配合した歯磨き剤や含そう剤等が開発され、市販されている。例えば、特開平3−218320号公報(特許文献1)には、茶の水乃至熱水抽出物若しくはエタノール等の親水性有機溶媒抽出物を有効成分とする抗歯周病及び口臭の予防剤が開示されている。【0007】 また、特開平4−77424号公報(特許文献2)には、歯周病病原菌バクテロイデス・ジンジバリス(Bacteroides gingivalis)の特異的な生育阻害作用を有し、更にバクテロイデス・ジンジバリスの産生するコラゲナーゼ阻害作用を有する抗歯周病剤であって、没食子酸、(+)−カテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピカテキンガレート、(−)−エピガロカテキンガレート及びこれらの二量体、三量体等の茶(Cameria sinensis)より抽出されたカテキン類を有効成分として含有することを特徴とする抗歯周病剤が開示されている。【0008】 また、特開平6−56687号公報(特許文献3)には、茶葉の水乃至熱水抽出物若しくはエタノール等の親水性有機溶媒抽出物を有効成分とする歯垢除去剤及び歯石沈着防止剤が開示されている。【0009】 また、特開平7−238028号公報(特許文献4)には、アルカリ剤を用いて、アルカリ処理したカカオマスまたは該カカオマスより搾油して得られるココアパウダーから極性溶媒で抽出した抽出物又はその分解物を含有することを特徴とする歯垢形成抑制剤が開示されている。【0010】 また、特開平8−81380号公報(特許文献5)には、重量平均分子量が800〜10,000、重合度が3〜30であるポリフェノールを有効成分とする抗歯周病剤が開示されている。上記特許文献1〜3、5に開示されているように、これまで茶の抽出物を有効成分とする抗歯周病剤等は多く提案されているものの、カカオマス中に含まれるココア分やその抽出物が歯周病菌に対して抗菌効果を有することは報告されていない。例えば、上記特許文献4には、アルカリ剤を用いて、アルカリ処理したカカオマスまたは該カカオマスより搾油して得られるココアパウダーの抽出物又はその分解物が、う蝕原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンスによるグルカンの歯への付着蓄積(歯垢形成)を抑制することが記載されているが、歯周病菌への抗菌効果については何ら記載されていない。また、従来の抗菌性物質を配合した歯磨き剤や含そう剤等では、充分な除菌効果が得られない場合も多かった。一方、例えば、テトラサイクリン等の抗生物質は優れた抗菌活性を有するものの、耐性菌の出現や副作用等の問題からその使用には制限があった。更に、抗生物質は歯周病菌だけでなく非病原性の口腔内常在菌の生育までも阻害してしまうため、口腔内常在菌叢のバランスに悪影響を与えてしまうという問題もあった。【0011】 このように、歯周病の治療は、歯科医学における最も難しい問題のひとつであり、これまでに歯周病の効果的な予防策はなく、今後、老齢化が進むなかで歯周疾患の予防は重要な問題となっている。【0012】 したがって、本発明の目的は、副作用がなく安全で、非病原性の口腔内常在菌の生育に影響を与えることなく歯周病菌に対して優れた除菌効果を有する抗歯周病菌組成物、抗歯周病用飲食物及び口腔用洗浄剤を提供することにある。【0013】【発明の開示】 本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、ココア又はカカオマスから抽出された遊離脂肪酸類であって、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸を少なくとも含む遊離脂肪酸類がポルフィロモナス・ジンジバリス等の歯周病菌の生育を阻害し、優れた抗歯周病菌活性を有することを発見し、この事実に基づいて本発明を完成するに至った。【0014】 すなわち、本発明の第1は、ココア又はカカオマスから抽出された遊離脂肪酸類であって、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸を少なくとも含む遊離脂肪酸類を有効成分として含有することを特徴とする抗歯周病菌組成物を提供するものである。【0015】 上記第1の発明によれば、チョコレートやココアの原料として古くから摂取されているココア分に含有する成分を有効成分とするので、副作用の心配がなく安全で、優れた除菌効果を有する抗歯周病菌組成物を提供できる。また、ココア分は、栄養的にも優れた素材であり、ピロリ菌に対する除菌効果のある成分なども含有しているため(特許第3110020号公報参照)、栄養補給効果や健康維持効果も同時に期待することができる。また、優れた除菌効果を有すると共に使い勝手のよい抗歯周病菌組成物を提供できる。また、飲食物等に容易に配合することができる。【0016】 本発明の第2は、上記第1の発明において、前記遊離脂肪酸類を0.0001〜1質量%含有する抗歯周病菌組成物を提供するものである。【0017】 本発明の第3は、上記第1又は第2の発明において、更に、ココア又はカカオマスから抽出されたポリフェノールを有効成分として含有する抗歯周病菌組成物を提供するものである。【0018】 本発明の第4は、上記第3の発明において、前記ポリフェノールを0.0001〜10質量%含有する抗歯周病菌組成物を提供するものである。【0019】 上記第3又は第4の発明によれば、より優れた除菌効果を有する抗歯周病菌組成物を提供できる。【0020】 本発明の第5は、上記第1〜4の発明のいずれかの発明において、非病原性の口腔内常在菌の生育を阻害することなく、歯周病菌に対して抗菌作用を有する抗歯周病菌組成物を提供するものである。【0021】 本発明の第6は、上記第1〜5のいずれかの発明において、前記歯周病菌は、ポルフィロモナス属、プレボテラ属、フゾバクテリウム属又はアクチノバシルス属のいずれかに属する菌である抗歯周病菌組成物を提供するものである。【0022】 上記第5又は第6の発明によれば、非病原性の口腔内常在菌の生育を阻害することなく歯周病患者の病巣部から高い割合で検出される歯周病菌を効率よく除菌することができる。【0024】 本発明の第7は、上記第1〜6のいずれかの発明において、口腔用洗浄剤の剤形で用いられる抗歯周病菌組成物を提供するものである。【0025】 上記第7の発明によれば、安全で手軽に歯周病の予防ができる口腔用洗浄剤の剤形で用いることができる。【0026】【発明を実施するための最良の形態】 本発明において、ココア分とは、カカオマスからココアバターを除いた成分を意味し、主としてタンパク質、糖質、食物繊維(水溶性難消化性多糖類、ヘミセルロース、セルロース、リグニン等)、リン脂質、無機質(リン、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、銅、カリウム、ナトリウム等)、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE(各種トコフェロール等)、ナイアシン、シュウ酸、クエン酸、りんご酸、コハク酸、乳酸、酢酸、ポリフェノール類(タンニン、エピカテキン、カテキン、ケルセチン等)、無水カフェイン、テオブロミン、各種遊離脂肪酸類(パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等)等を含有している。【0027】 上記ココア分としては、具体的には、カカオマスからココアバターを搾油して得られるココア(ココアパウダー)や、カカオマス自体を好ましく用いることができる。【0028】 また、ココア分の熱水抽出物とは、上記ココア分を熱水で抽出して得られるココア分の水溶性画分であり、ココア分に含まれる上記有機酸類、遊離脂肪酸類、ビタミン類、ポリフェノール類等の水溶性成分を含有している。ココア分の熱水抽出物の調製方法は特に限定されないが、例えば、ココアパウダーあるいはカカオマスに、適量(通常、ココア分の質量の5〜100倍量)の水、好ましくは温水を加えて均一に分散させ、オートクレーブ等で加熱処理(通常、40〜130℃、1〜30分間)した後、濾過、遠心分離等の手段により不溶性画分を除去して得られた抽出液をそのまま用いることができ、必要に応じて濃縮してもよく、更に乾燥して用いることもできる。【0029】 また、ココア分由来のポリフェノールは、例えば、ココア又はカカオマスを水に懸濁した後、等量のヘキサンを加えてよく混合してヘキサン層と水層とに分画して水層を回収し、回収した水層に等量の50%(v/v)メタノール水溶液を加えてよく混合して、その上清を回収してメタノールを除去することにより調製することができる。【0030】 また、ココア分由来の遊離脂肪酸類とは、上記ココア分に含まれている各種遊離脂肪酸を意味し、具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミトレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸が挙げられる。本発明においては、ココア又はカカオマスから抽出された遊離脂肪酸類であって、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸を少なくとも含む遊離脂肪酸類が用いられる。該混合物中における各遊離脂肪酸の割合は、特に制限されないが、上記ココア分中に含まれる全遊離脂肪酸における各遊離脂肪酸の割合に基づいて決めることが好ましい。具体的には、全遊離脂肪酸中における各遊離脂肪酸の割合が、パルミチン酸10〜50質量%、ステアリン酸10〜50質量%、オレイン酸10〜70質量%、リノール酸1〜50質量%、リノレン酸1〜10質量%、パルミトレイン酸1〜10質量%、ミリスチン酸1〜10質量%、ラウリン酸1〜10質量%を含む混合物が好ましく用いられる。【0031】 上記の各遊離脂肪酸を含有する混合物は、上述した熱水抽出、アルコール抽出、ヘキサン抽出、アセトン抽出等の方法により、上記ココア分に含まれる各種遊離脂肪酸を抽出することにより得ることができる。例えば、上記ココア分の熱水抽出物中には、各遊離脂肪酸が上記のような割合で含まれており、この熱水抽出物をそのまま用いることができ、必要に応じて該熱水抽出物から遊離脂肪酸類を更に精製して用いてもよい。また、上記のココア分中に含まれる全遊離脂肪酸における各遊離脂肪酸の割合に基づいて、各遊離脂肪酸を所定の割合を配合して調製することもできる。【0032】 本発明の抗歯周病菌組成物は、ココア又はカカオマスから抽出された遊離脂肪酸類であって、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸を少なくとも含む遊離脂肪酸類を有効成分として含有するものであり、上記遊離脂肪酸類をそのまま抗歯周病菌組成物として用いることができる。また、必要に応じて、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤、蛋白質(乳蛋白、大豆蛋白等)、ビタミン類、ミネラル類、糖質(デキストリン等)、抗歯周病菌活性を有する乳酸菌や生薬等を含むことができる。中でも、栄養学的見地から乳蛋白及びビタミン類を含むことが好ましい。【0033】 本発明の抗歯周病菌組成物は、ココア分を用いる場合は、該ココア分を0.01〜50質量%含むことが好ましく、0.01〜10質量%含むことがより好ましい。【0034】 また、ココア分の熱水抽出物を用いる場合には、該熱水抽出物を固形物換算で0.001〜20質量%含むことが好ましく、0.1〜10質量%含むことがより好ましい。【0035】 また、ココア分由来のポリフェノールを用いる場合には、該ポリフェノールを0.0001〜10質量%含むことが好ましく、0.001〜1質量%含むことがより好ましい。【0036】 また、ココア分由来の遊離脂肪酸類を用いる場合には、該遊離脂肪酸類を0.0001〜1質量%含むことが好ましく、0.001〜0.2質量%含むことがより好ましい。【0037】 また、ココア分由来のポリフェノールと遊離脂肪酸類を併用する場合は、該ポリフェノールを0.0001〜10質量%、該遊離脂肪酸類を0.0001〜1質量%含むことが好ましく、該ポリフェノールを0.01〜1質量%、該遊離脂肪酸類を0.001〜0.2質量%含むことがより好ましい。【0038】 本発明の抗歯周病菌組成物の有効投与量は、成人1日当たり、ココア分(カカオマス)換算で1g以上であり、より好ましくは10g以上である。また、ココア分の熱水抽出物(固形物)換算で0.1〜10gであり、より好ましくは1〜10gである。また、ココア分由来のポリフェノール換算で0.01〜1gであり、より好ましくは0.1〜1gである。また、ココア分由来の遊離脂肪酸類換算で0.01〜1gであり、より好ましくは0.1〜1gである。【0039】 本発明の抗歯周病菌組成物は、後述する実施例に示されるように非病原性の口腔内常在菌の生育を阻害することなく歯周病患者の病巣部から高い割合で検出されるポルフィロモナス属、プレボテラ属、フゾバクテリウム属又はアクチノバシルス属に属する歯周病菌を効率よく除菌することができる。したがって、口腔内常在菌叢のバランスに悪影響を与えるおそれもない。【0040】 ポルフィロモナス属に属する歯周病菌としては、例えば、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、ポルフィロモナス・アサッカロリティカ(Porphyromonas asaccharolytica)、ポルフィロモナス・エンドドンタリス(Porphyromonas endodontalis)等が挙げられる。また、プレボテラ属に属する歯周病菌としては、例えば、プレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia)、プレボテラ・ニグレセンス(Prevotella nigrescens)、プレボテラ・メラニノゲニカ(Prevotella melaninogenica)等が挙げられる。また、フゾバクテリウム属に属する歯周病菌としては、例えば、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacteriumnucleatum)、フソバクテリウム・ネクロフォルム(Fusobacterium necrophorum)、フソバクテリウム・ナビフォルム AA(Fusobacterium naviforme)等が挙げられる。また、アクチノバシルス属に属する歯周病菌としては、例えば、アクチノバシルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)等が挙げられる。【0041】 一方、非病原性の口腔内常在菌としては、ストレプトコッカス・アンギノーサス(Streptococcus anginosus)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivalius)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)等が例示できる。【0042】 本発明の抗歯周病菌組成物の製剤形態は、特に制限はなく、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤等が例示でき、使用形態に合わせて選択できる。【0043】 固形製剤化の担体としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、デンプン、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等の界面活性剤、ステアリン酸塩等の滑沢剤等を使用できる。なお、錠剤の場合は必要に応じて糖衣錠、フィルムコーティング錠とすることもできる。【0044】 また、液剤、乳剤、懸濁剤等の形態に成形するには、希釈剤として例えば、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等の通常の溶解補助剤、緩衝剤等を用いてもよいが、ココア分の熱水抽出物の物性との兼ね合いの点からプロピレングリコールが特に好ましく用いられる。【0045】 本発明の抗歯周病菌組成物は、例えば、チョコレート、ココア飲料等の各種飲料(ゼリー飲料も含む)、ガム、キャンディー(ハードキャンディー、ソフトキャンディー)、錠菓、各種レトルト食品等の飲食物に添加することができる。【0046】 飲食物中における抗歯周病菌組成物の添加量は、上記の有効投与量に基づいて適宜設定できるが、ココア分(カカオマス)換算で0.01〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。また、ココア分の熱水抽出物(固形物)換算で0.1〜20質量%が好ましく、0.2〜10質量%がより好ましい。また、ココア分由来のポリフェノール換算で0.001〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。また、ココア分由来の遊離脂肪酸類換算で0.01〜1質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%がより好ましい。【0047】 また、本発明の抗歯周病菌組成物は、例えば、歯磨き剤、含そう剤等の口腔用洗浄剤に添加することもできる。口腔用洗浄剤中における抗歯周病菌組成物の添加量も上記の有効投与量に基づいて適宜設定できるが、ココア分換算で0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。また、ココア分の熱水抽出物(固形物)換算で0.001〜3質量%が好ましく、0.01〜2質量%がより好ましい。また、ココア分由来のポリフェノール換算で0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜1質量%がより好ましい。また、ココア分由来の遊離脂肪酸類換算で0.001〜1質量%が好ましく、0.01〜0.5質量%がより好ましい。【0048】【実施例】 以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。【0049】 実施例1〈歯周病菌に対するココアパウダーの抗菌効果の検討〉 ココアパウダー(商品名「森永純ココア」、森永製菓株式会社製)を30%(w/v)又は10%(w/v)となるように蒸留水に懸濁し、121℃、15分間オートクレーブ処理した。これらの溶液をココア全成分の熱水懸濁溶液として用い、以下の方法により抗菌活性の測定を行った。【0050】 BHI(Brain Heart Infusion)培地(ディフコ社製)に、5%(w/v)のYeast Extract(ディフコ社製)と0.05%(w/v)のL?システイン(シグマ社製)を添加した液体培地に、上記ココア全成分の熱水懸濁溶液をそれぞれ10%(v/v)添加して培地を調製し、対照培地として、ココア全成分の熱水懸濁溶液の代わりに蒸留水を加えたBHI培地を調製した。【0051】 各培地に、歯周病菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis ATCC33277)、又はフソバクリウム・ヌクレイタム(Fusobacterum nucleatum ATCC22486)、又はプレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia ATCC25611)、又はアクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans ATCC33844))を105CFU/ml前後となるように懸濁し、嫌気条件下、37℃で培養した。【0052】 培養開始後1、3、6時間後に、それぞれ培養液をサンプリングし、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)、プレボテラ・インテルメディア(ATCC25611)はヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天平板培地に、フソバクリウム・ヌクレイタム(ATCC22486)、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(ATCC33844)はBHI寒天平板培地に、それぞれ段階希釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。【0053】 そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。図1にポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)の結果、図2にフソバクリウム・ヌクレイタム(ATCC22486)の結果、図3にプレボテラ・インテルメディア(ATCC25611)の結果、図4にアクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(ATCC33844)の結果を示す。【0054】 図1に示されるように、30%(w/v)又は10%(w/v)ココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加したいずれの場合においても、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)は、培養時間の経過に伴って生菌数が大幅に減少していることが分かる。【0055】 また、図2に示されるように、30%(w/v)又は10%(w/v)ココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加したいずれの場合においても、フソバクリウム・ヌクレイタム(ATCC22486)は、培養時間の経過に伴い、生菌数が大幅に減少していることが分かる。【0056】 また、図3に示されるように、30%(w/v)又は10%(w/v)のココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加したいずれの場合においても、プレボテラ・インテルメディア(ATCC25611)は、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)やフソバクリウム・ヌクレイタム(ATCC22486)ほどではないが、培養時間の経過に伴い、生菌数が減少していることが分かる。【0057】 また、図4に示されるように、30%(w/v)又は10%(w/v)のココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加したいずれの場合においても、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(ATCC33844)は、プレボテラ・インテルメディア(ATCC25611)と同様に、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)やフソバクリウム・ヌクレイタム(ATCC22486)ほどではないが、培養時間の経過に伴い、生菌数が減少していることが分かる。【0058】 以上の結果から、ココア全成分の熱水懸濁溶液は、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)、フソバクリウム・ヌクレイタム(ATCC22486)、プレボテラ・インテルメディア(ATCC25611)、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(ATCC33844)に対して優れた抗菌活性を有していることが分かった。【0059】 実施例2〈歯周病菌に対するココアパウダー熱水抽出物の抗菌効果の検討〉 ココアパウダー(商品名「森永純ココア」、森永製菓株式会社製)を10%(w/v)となるように水に懸濁し、121℃、15分間オートクレーブ処理した。そして、室温で、15分間遠心(×1,000g)して上清を回収した。この上清をココア分の熱水抽出溶液(固形分2〜3質量%)として用い、以下の方法により抗歯周病菌活性の測定を行った。【0060】 BHI(Brain Heart Infusion)培地(ディフコ社製)に、上記ココア分の熱水抽出溶液を、1%(v/v)又は10%(v/v)添加して培地を調製し、対照培地として、ココア分の熱水抽出溶液の代わりに蒸留水を加えたBHI培地を調製した。【0061】 各培地に、歯周病菌(プレボテラ・ニグレセンス(ATCC33563)又はフゾバクテリウム・ヌクレイタム(ATCC22586))を106〜107 CFU/mlとなるように懸濁し、嫌気条件下、37℃で培養した。培養開始後1、3、6時間後にそれぞれ培養液をサンプリングし、ヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天プレートに、段階稀釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。図5にプレボテラ・ニグレセンス(ATCC33563)の結果、図6にフゾバクテリウム・ヌクレイタム(ATCC22586)の結果を示す。【0062】 図5に示されるように、プレボテラ・ニグレセンス(ATCC33563)においては、ココア分の熱水抽出溶液を10%(v/v)添加した場合、培養時間の経過の伴い、生菌数が大幅に減少していることが分かる。【0063】 また、図6に示されるように、フゾバクテリウム・ヌクレイタム(ATCC22586)においては、ココア分の熱水抽出溶液を1%(v/v)又は10%(v/v)添加したいずれの場合においても、培養時間の経過の伴い、生菌数が大幅に減少していることが分かる。【0064】 以上の結果から、ココア分の熱水抽出液は、歯周病菌であるプレボテラ・ニグレセンス(ATCC33563)、フゾバクテリウム・ヌクレイタム(ATCC22586)に対して優れた抗菌活性を有していることが分かった。【0065】 実施例3〈非病原性口腔内常在菌に及ぼすココアパウダーの影響の検討〉 実施例1で調製した30%(w/v)ココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加したBHI培地を実施例1と同様にして調製し、対照培地として、ココア全成分の熱水懸濁溶液の代わりに蒸留水を加えたBHI培地を調製した。【0066】 この培地に、非病原性の口腔内常在菌(ストレプトコッカス・アンギノーサス(Streptococcus anginosus ATCC333977)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivalius ATCC7075)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis ATCC10556))を105 CFU/ml前後となるように懸濁し、嫌気条件下、37℃で培養した。培養開始後4時間後に、それぞれ培養液をサンプリングし、BHI寒天平板培地に、それぞれ段階希釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。図7にストレプトコッカス・アンギノーサス(ATCC33977)の結果、図8にストレプトコッカス・サリバリウス(ATCC7075)の結果、図9にストレプトコッカス・サングイニス(ATCC10556)の結果を示す。【0067】 図7に示されるように、30%(w/v)のココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加した場合において、ストレプトコッカス・アンギノーサス(ATCC33977)は、培養時間が経過しても生菌数の減少が見られないことが分かる。【0068】 また、図8に示されるように、30%(w/v)のココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加した場合において、ストレプトコッカス・サリバリウス(ATCC7075)も、培養時間が経過しても生菌数の減少が見られないことが分かる。【0069】 また、図9に示されるように、30%(w/v)のココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加した場合において、ストレプトコッカス・サングイニス(ATCC10556)も、培養時間が経過しても生菌数の減少がみられないことが分かる。【0070】 以上の結果から、ココア全成分の熱水懸濁溶液は、非病原性の口腔内常在菌であるストレプトコッカス・アンギノーサス(ATCC33977)、ストレプトコッカス・サリバリウス(ATCC7075)、ストレプトコッカス・サングイニス(ATCC10556)に対しては全く抗菌活性を示さないことが分かった。【0071】 実施例4〈短時間におけるココアパウダーの抗歯周病菌効果の検討〉 実施例1で調製した30%(w/v)のココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加したBHI培地を実施例1と同様にして調製し、対照培地として、ココア全成分の熱水懸濁溶液の代わりに水を加えたBHI培地を調製した。【0072】 各培地に、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)を105 CFU/ml前後となるように懸濁し、嫌気条件下、37℃で培養した。培養開始後5、10、15、20、30、40、50、60分後に、それぞれ培養液をサンプリングし、ヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天平板培地に、それぞれ段階希釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。なお、実験は2回行った。それらの結果を図10に示す。【0073】 図10に示されるように、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)においては、30%(w/v)ココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加した場合において、培養10分後までは生菌数はほとんど変わらないが、培養15分後には生菌数が大幅に減少し、培養30分後には生菌が検出されないことが分かる。【0074】 以上の結果から、ココア全成分の熱水懸濁溶液は、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)に対して、短時間で優れた抗菌活性を発揮することが分かった。したがって、通常の飲用でも歯周病菌に対して充分な抗菌活性が期待できることが示唆された。【0075】 実施例5〈歯周病菌の臨床分離株に対するココアパウダーの抗菌効果の検討〉 実施例1で調製した30%(w/v)又は10%(w/v)のココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加したBHI培地を実施例1と同様にして調製し、対照培地として、ココア全成分の熱水懸濁溶液の代わりに水を加えたBHI培地を調製した。【0076】 鶴見大学付属病院で治療を受けている歯周病患者の病巣より、ペーパーポイントを用いて歯周病菌群を採取し、その中よりヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天平板培地上に黒色コロニーを形成する菌株を選択し、PCR法を用いた同定法(A. Ashimoto, C. Chen, I. Bakker, J. Slots,. Oral Microbiology Immunology 1996 Aug;11(4):266-73)によって、表1に示す5株のポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)臨床分離株(Porphyromonas gingivalis 113H、Porphyromonas gingivalis 823D、Porphyromonas gingivalis 1113C、Porphyromonas gingivalis 1113D、Porphyromonas gingivalis 1433F)を単離した。【0077】【表1】【0078】 上記の各培地に、各臨床分離株を105CFU/ml前後となるように懸濁し、嫌気条件下、37℃で培養した。培養開始後1、3、6時間後に、それぞれ培養液をサンプリングし、ヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天平板培地に、それぞれ段階希釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。【0079】 その結果、30%(w/v)又は10%(w/v)ココア全成分の熱水懸濁溶液を10%(v/v)添加したいずれの場合においても、全てのポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)の臨床分離株は、培養時間の経過に伴い、タイプストレインであるポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)と同様に生菌数が大幅に減少していた。【0080】 この結果から、歯周病菌ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)に対するココアパウダーの抗菌効果の実用性が確認された。【0081】 実施例6〈ココアパウダー中の抗菌成分の同定−1〉 ココアパウダー(商品名「レッドココア」、森永製菓株式会社製)を、10%(w/v)となるように蒸留水に懸濁した。以下、この溶液を「ココア溶液」とする。【0082】 上記ココア溶液に、等量のヘキサンを加えて脂肪分を分離した。脂肪分を除いた残りの水溶性画分に、等量の100%メタノールを加えて10分間振蘯し、遠心分離して上清を分離した。その沈渣に50%メタノールを加えて10分間振蘯し、遠心分離して上清を分離した。この作業を2回繰り返し、集めた上清をエバポレーターにかけ、メタノールを完全に蒸発させた後、10%(w/v)ココアパウダー相当となるように蒸留水に懸濁した。この画分を、以下「50%メタノール抽出画分」とする。この画分には、ココア中のポリフェノール類が含まれていると考えられる。【0083】 上記10%(w/v)ココア溶液、上記10%(w/v)ココアパウダー相当50%メタノール抽出画分懸濁液を10%(w/v)添加したBHI培地を調製し、対照培地として、ココア溶液の代わりに水を加えたBHI培地を調製した。【0084】 各培地に、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)を105 CFU/ml前後となるように懸濁し、嫌気条件下、37℃で培養した。培養開始後1、3、6時間後に、それぞれ培養液をサンプリングし、ヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天平板培地に、それぞれ段階希釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。その結果を図11に示す。【0085】 図11に示されるように、10%(w/v)ココア溶液、10%(w/v)ココアパウダー相当の50%メタノール抽出画分を10%(v/v)添加したいずれの場合においても、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)は、培養時間の経過に伴い、生菌数が大幅に減少していることが分かる。【0086】 以上の結果から、ココアの抗菌主成分はポリフェノール類である可能性が高いと考えられたため、ポリフェノール類等のフェノール基を持つ物質を吸着する樹脂であるPVPPを用いて以下のような実験を行った。【0087】 上記の方法で得た50%メタノール抽出画分を遠心分離して水溶性の上清を分離、回収した。これを「PVPP処理前画分」とする。この画分に、PVPPを1g/上清10ml加えて37℃で30分間振蘯し、遠心分離して上清とPVPPを分離し、上清を回収した。これを「PVPP処理後画分」とする。【0088】 上記のPVPP処理前画分、又はPVPP処理後画分を10%(w/v)添加したBHI培地を調製し、対照培地として、PVPP処理前画分の代わりに水を加えたBHI培地を調製した。【0089】 各培地に、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)を105 CFU/ml前後となるように懸濁し、嫌気条件下、37℃で培養した。培養開始後1、3、6時間後に、それぞれ培養液をサンプリングし、ヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天平板培地に、それぞれ段階希釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。その結果を図12に示す。【0090】 図12に示されるように、PVPP処理前画分を10%(v/v)添加した場合、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)の生菌数は大幅に減少したが、ポリフェノールを除去したPVPP処理後画分を10%(v/v)添加した場合には生菌数は大幅には減少していないことが分かる。これは各画分のポリフェノール濃度を測定した結果とも一致していた。以上の結果から、ココアの抗菌主成分はPVPPによって吸着されるポリフェノール類であることが確認された。【0091】 実施例7(ココア由来のポリフェノールと茶カテキンの抗菌効果の比較) エピガロカテキン等を含む茶由来ポリフェノール(商品名「サンフェノン」、太陽化学株式会社製)を0.05%(w/v)となるように蒸留水に懸濁し、121℃、15分間オートクレーブ処理した。この溶液を以下「茶カテキン溶液」とする。【0092】 上記茶カテキン溶液と、実施例6における「50%メタノール抽出画分」のポリフェノール濃度を測定し、「茶カテキン溶液」に含まれるポリフェノール量(0.313mg/ml)と同濃度となるように「50%メタノール抽出画分」を1.25%(w/v)ココアパウダー相当に調整した。【0093】 「茶カテキン溶液」と調整した「50%メタノール抽出画分」を、それぞれ10%(w/v)添加したBHI培地を調製した。【0094】 上記各培地に、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)を106 CFU/ml前後となるように懸濁し、嫌気性条件下37℃で培養した。培養開始後、1、3、6時間後にそれぞれ培養液をサンプリングし、ヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天平板培地に、それぞれ段階希釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。その結果を図13に示す。【0095】 図13に示されるように、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)においては、1.25%(w/v)ココアパウダー相当の「50%メタノール抽出画分」10%を添加した場合、培養1時間後には生菌は検出されなかったが、茶カテキン溶液10%を添加した場合は、0.3%CFU程度まで減少するにとどまった。なお、その後、培養時間以下に伴い、両サンプルにおいて生菌数が大幅に減少した。【0096】 以上の結果から、同量の茶カテキンとココア由来のポリフェノールの抗菌効果を比較した場合、ココア由来のポリフェノールの方がより高い比活性を有していることが示唆された。【0097】 実施例8〈ココアパウダー中の抗菌成分の同定−2〉 10%(w/v)ココア溶液を2N塩酸によってpH2に調整した。この操作によって、ココア溶液中の水分に塩となって溶け込んでいる遊離脂肪酸が、すべて油分に移行する。【0098】 上記ココア溶液に、等量のヘキサンを加えて室温で10分間振蘯した後、遠心分離してヘキサン画分を分離した。撹拌と遠心分離の操作を3回繰り返し、集めたヘキサン画分をエバポレーターにかけ、ヘキサンを完全に蒸発させた後、10%(w/v)ココアパウダー相当となるように蒸留水に懸濁し、更に8N水酸化ナトリウムによってpHを元に戻した。この画分に4倍量の100%メタノールを加えて、65℃に加温しながら15分間振蘯した後、遠心分離して油層と水層を分離した。撹拌と遠心分離の操作を2回繰り返し、集めた水層をエバポレーターにかけ、メタノールを完全に蒸発させた後、10%(w/v)ココアパウダー相当となるように蒸留水に懸濁した。この画分を以下「ヘキサン−メタノール抽出画分」とする。この画分には、ココア中の遊離脂肪酸が含まれていると考えられる。【0099】 上記10%(w/v)ココアパウダー相当のヘキサン−メタノール抽出画分懸濁液を10%(w/v)添加したBHI培地を調製し、対照培地として、ヘキサン−メタノール抽出画分懸濁液の代わりに水を加えたBHI培地を調製した。【0100】 各培地に、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)を105 CFU/ml前後となるように懸濁し、嫌気条件下、37℃で培養した。培養開始後1、3、6時間後に、それぞれ培養液をサンプリングし、ヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天平板培地に、それぞれ段階希釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。その結果を図14に示す。【0101】 図14に示されるように、10%(w/v)ココアパウダー相当のヘキサン−メタノール抽出画分を10%(v/v)添加した場合、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)は、培養時間の経過に伴い、生菌数が減少していることが分かる。以上の結果から、ココアに含まれる遊離脂肪酸にも抗菌効果があると考えられた。【0102】 実施例9 実施例2と同様にしてココア分の熱水抽出溶液を10%(v/v)添加したBHI培地を調製し、対照培地として、ココア分の熱水抽出溶液の代わりに蒸留水を加えたBHI培地を調製した。【0103】 また、表2に示す割合で遊離脂肪酸を精製水に添加した遊離脂肪酸組成物(以下、「FFA comp.」という)を調製し、これをBHI培地に10%(v/v)添加して培地を調製した。この「FFA comp.」は、マススペクトル等で分析した純ココア中の遊離脂肪酸組成に基づいて、その主要な遊離脂肪酸4種類を精製水に添加し、ココア分中の遊離脂肪酸組成を人工的に再現したものであり、各遊離脂肪酸を上記ココア分の熱水抽出溶液と同等量含有するものである。【0104】【表2】【0105】 これらの培地に、歯周病菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)、又はプレボテラ・ニグレセンス(ATCC33563))を106〜107 CFU/mlとなるように懸濁し、嫌気条件下、37℃で培養した。そして、培養開始後1、3、6時間後にそれぞれ培養液をサンプリングし、ヘミンメナジオン含有ブルセラ血液寒天平板培地に、それぞれ段階希釈した培養液を一定量接種して培養し、出現したコロニー数を計測した。そして、培養液1ml中の生菌数を求め、最初の生菌数に対する割合(%CFU)を求めた。図15にポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)の結果、図16にプレボテラ・ニグレセンス(ATCC33563)の結果を示す。【0106】 図15に示されるように、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)においては、ココア分の熱水抽出溶液を10%(v/v)添加した場合、培養時間の経過に伴い、生菌数が大幅に減少していることが分かる。また、「FFA comp.」を添加した場合も、培養時間の経過に伴い、生菌数が大幅に減少していることが分かる。【0107】 また、図16に示されるように、プレボテラ・ニグレセンス(ATCC33563)においては、図5に示す結果と同様に、ココア分の熱水抽出溶液を10%(v/v)添加した場合、培養時間の経過に伴い生菌数が減少していることが分かる。一方、「FFA comp.」を添加した場合も、コントロールに比べると、生菌数が減少していることが分かる。【0108】 以上の結果から、ココア分の熱水抽出物及びココア分由来の遊離脂肪酸類は、歯周病菌の種類によってその有効濃度が異なるものの、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)、プレボテラ・ニグレセンス(ATCC33563)、フゾバクテリウム・ヌクレイタム(ATCC22586)に対して優れた抗菌活性を有していることが分かった。【0109】 実施例10 下記表3の配合により、本発明の抗歯周病菌組成物を含有するチョコレートを製造した。【0110】【表3】【0111】 実施例11 下記表4の配合により、本発明の抗歯周病菌組成物を含有するチューインガムを製造した。【0112】【表4】【0113】 実施例12 下記表5の配合により、本発明の抗歯周病菌組成物を含有するキャンディーを製造した。【0114】【表5】【0115】 実施例13 下記表6の配合により、本発明の抗歯周病菌組成物を含有するスポーツ飲料を製造した。【0116】【表6】【0117】 実施例14 下記表7の配合により、本発明の抗歯周病菌組成物を含有するローヤルゼリー飲料を製造した。【0118】【表7】【0119】 実施例15 下記表8の配合により、本発明の抗歯周病菌組成物を含有するレトルトパウチ入り小豆粥を製造した。【0120】【表8】【0121】 実施例16 下記表9の配合により、本発明の抗歯周病菌組成物を含有するトローチ剤を製造した。【0122】【表9】【0123】 実施例17 下記表10の配合により、本発明の抗歯周病菌組成物を含有する含そう剤を製造した。【0124】【表10】【0125】 実施例18 下記表11の配合により、本発明の抗歯周病菌組成物を含有する練り歯磨き粉を製造した。【0126】【表11】【0127】【産業上の利用可能性】 以上説明したように本発明によれば、ココア又はカカオマスから抽出された遊離脂肪酸類であって、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸を少なくとも含む遊離脂肪酸類を有効成分として含有させることにより、副作用の心配がなく安全で、優れた除菌効果を有する抗歯周病菌組成物を提供できる。この抗歯周病菌組成物は、歯周病患者の病巣部から高い割合で検出されるポルフィロモナス属、プレボテラ属、フゾバクテリウム属又はアクチノバシルス属に属する歯周病菌に対して短時間で優れた抗菌活性を示し、該菌の増殖を抑制することにより、歯周炎や歯肉炎等の歯周病の予防、治療効果が期待できる。また、非病原性の口腔内常在菌の生育を阻害することがなく、口腔内常在菌叢のバランスの改善に役立つ。 したがって、この抗歯周病菌組成物を飲食物や口腔用洗浄剤等に含有させることにより、安全で手軽に歯周病の予防ができる抗歯周病用飲食物及び口腔用洗浄剤を提供できる。【図面の簡単な説明】【図1】ココア全成分の熱水懸濁溶液を添加した培地で、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis ATCC33277)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図2】ココア全成分の熱水懸濁溶液を添加した培地で、歯周病菌であるフソバクリウム・ヌクレイタム(Fusobacterium nucleatum ATCC22586)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図3】ココア全成分の熱水懸濁溶液を添加した培地で、歯周病菌であるプレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia ATCC25611)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図4】ココア全成分の熱水懸濁溶液を添加した培地で、歯周病菌であるアクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans ATCC33844))を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図5】ココア分の熱水抽出溶液を添加した培地で、歯周病菌であるプレボテラ・ニグレセンス(Prevotella nigrescens ATCC33563)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図6】ココア分の熱水抽出溶液を添加した培地で、歯周病菌であるフゾバクテリウム・ヌクレイタム(Fusobacterium nucleatum ATCC22586)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図7】ココア分の熱水抽出溶液を添加した培地で、非病原性の口腔内常在菌であるストレプトコッカス・アンギノーサス(Streptococcus anginosus ATCC333977)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図8】ココア分の熱水抽出溶液を添加した培地で、非病原性の口腔内常在菌であるストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivalius ATCC7075)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図9】ココア分の熱水抽出溶液を添加した培地で、非病原性の口腔内常在菌である、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis ATCC10556)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図10】ココア全成分の熱水懸濁溶液を添加した培地で、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis ATCC33277)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図11】ココア溶液、又はココア溶液から抽出したポリフェノール画分(50%メタノール抽出画分)を添加した培地で、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis ATCC33277)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図12】前記50%メタノール抽出画分の水溶性画分(PVPP処理前画分)、又は該画分からポリフェノールを吸着除去した画分(PVPP処理後画分)を添加した培地で、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis ATCC33277)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図13】前記50%メタノール抽出画分(ココア由来のポリフェノール)、又は茶カテキンを添加した培地で、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis ATCC33277)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図14】ココア溶液から抽出した遊離脂肪酸画分(ヘキサン−メタノール抽出画分)を添加した培地で、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis ATCC33277)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図15】ココア分の熱水抽出溶液、又は「FFA comp.」を添加した培地で、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis ATCC33277)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。【図16】ココア分の熱水抽出溶液、又は「FFA comp.」を添加した培地で、プレボテラ・ニグレセンス(Prevotella nigrescens ATCC33563)を培養した際の生菌数の経時的変化を示す図である。 ココア又はカカオマスから抽出された遊離脂肪酸類であって、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸を少なくとも含む遊離脂肪酸類を有効成分として含有することを特徴とする抗歯周病菌組成物。 前記遊離脂肪酸類を0.0001〜1質量%含有する請求項1記載の抗歯周病菌組成物。 更に、ココア又はカカオマスから抽出されたポリフェノールを有効成分として含有する請求項1又は2に記載の抗歯周病菌組成物。 前記ポリフェノールを0.0001〜10質量%含有する請求項3記載の抗歯周病菌組成物。 非病原性の口腔内常在菌の生育を阻害することなく、歯周病菌に対して抗菌作用を有する、請求項1〜4のいずれか一つに記載の抗歯周病菌組成物。 前記歯周病菌は、ポルフィロモナス属、プレボテラ属、フゾバクテリウム属又はアクチノバシルス属のいずれかに属する菌である、請求項1〜5のいずれか一つに記載の抗歯周病菌組成物。 口腔用洗浄剤の剤形で用いられる、請求項1〜6のいずれか一つに記載の抗歯周病菌組成物。


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