タイトル: | 公開特許公報(A)_精子形態形成不全を示す男性不妊症モデル動物 |
出願番号: | 2004378197 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12N 15/09,A01K 67/027,A61K 35/76,A61K 48/00,A61P 15/08,C07K 14/47,C12Q 1/68,G01N 33/15,A61K 38/00 |
石野 史敏 甲斐 正之 JP 2006006311 公開特許公報(A) 20060112 2004378197 20041227 精子形態形成不全を示す男性不妊症モデル動物 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 廣田 雅紀 100107984 石野 史敏 甲斐 正之 JP 2004154014 20040524 C12N 15/09 20060101AFI20051209BHJP A01K 67/027 20060101ALI20051209BHJP A61K 35/76 20060101ALI20051209BHJP A61K 48/00 20060101ALI20051209BHJP A61P 15/08 20060101ALI20051209BHJP C07K 14/47 20060101ALI20051209BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20051209BHJP G01N 33/15 20060101ALI20051209BHJP A61K 38/00 20060101ALI20051209BHJP JPC12N15/00 AA01K67/027A61K35/76A61K48/00A61P15/08C07K14/47C12Q1/68 AG01N33/15 ZA61K37/02 15 OL 47 特許法第30条第1項適用申請有り 2003年11月25日 第26回日本分子生物学会年会組織委員会発行の「第26回 日本分子生物学会年会」に発表 4B024 4B063 4C084 4C087 4H045 4B024AA11 4B024BA80 4B024CA04 4B024DA02 4B024EA04 4B024GA12 4B024GA14 4B024HA01 4B024HA14 4B024HA17 4B063QA01 4B063QA13 4B063QA19 4B063QQ08 4B063QQ43 4B063QR32 4B063QR62 4B063QS25 4C084AA02 4C084AA07 4C084AA13 4C084BA01 4C084BA08 4C084BA22 4C084CA18 4C084CA53 4C084DC50 4C084NA14 4C084ZA81 4C084ZC03 4C084ZC41 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC83 4C087CA12 4C087NA14 4C087ZA81 4C087ZC03 4C087ZC41 4H045AA10 4H045BA10 4H045CA40 4H045EA50 4H045FA72 4H045FA74 本発明は、これまで技術的に維持・継代が困難であった優性精子形態形成不全が引き起こされ男性不妊症を再現できるモデル動物や、かかる男性不妊症モデル動物の維持・継代方法や、かかる男性不妊症モデル動物を用いた男性不妊症の予防・治療剤のスクリーニング方法や、男性不妊症の原因物質のスクリーニング方法や、男性不妊症の診断方法などに関する。 生殖は、自身の遺伝情報を次世代に伝え生命の連続性を保つ、生物にとって極めて基本的な現象である。哺乳類を含む多細胞生物の場合、体細胞が個体の生命を維持するために分化し、一代限りで役割を終えるのに対して、生殖細胞はその個体を離れ、次世代の個体を形成する。雄性配偶子である精子は、体外に排出され雌性配偶子である卵と受精するが、哺乳類は胎生であるため、受精の場は雌の体内となり、かつ一度に排卵される卵の数も制限される。従って、哺乳類の雄は受精の機会を確実にするため多くの精子を連続的に生産し、かつ送りだすための機構を発達させている。この機構を理解する為に、精子形成に関与する遺伝子の単離と解析が進められている。(男性不妊)ヒトにおいては、約10〜15%の夫婦に不妊症状が見られ、その数は増加傾向にあると言われている。かつて不妊は女性側の問題が大きいと考えられていたが、現在の知見では男女の寄与はほぼ半々であると言われており、男性不妊の診断、治療の重要性が高まっている。臨床的に見た男性不妊の原因は、以下の3つに大別される。このうち最も多いのは造精機能障害で、男性不妊の約70〜90%がこれに分類される。(1)造精機能障害:睾丸(精巣)で精子を造る機能に関する障害。精液中の精子数・奇形精子率・運動性などに応じて、無精子症・乏精子症・精子無力症・精子奇形症などの症状に分類される。(2)精管通過障害:精巣上体・尿道など精子が通る器官の障害。閉塞性無精子症・精巣上体炎・逆行性射精など。(3)性機能障害:性行為に関する障害。勃起障害(ED)・射精障害など。 現在行われている男性不妊の治療は、主にホルモン剤や漢方等の薬物療法と、体外受精・顕微授精などの生殖補助技術(assisted reproductive technology;ART)を用いる方法である。精管閉塞の場合外科的に精管再建術を施す場合もあるが、改善が見られないケースも多い。ARTを用いる方法が現在のところ最も強力で、特に顕微授精(intracytoplasmic sperm injection;ICSI)によって、精巣内に完成精子のない完全無精子症の患者も、伸長精子細胞があれば子供を得ることができる。顕微授精は「現状で最も妊娠を望める方法」として適用数が増加しているが、問題点も議論されている。まずARTを用いる方法は患者に対する経済的な負担が小さくない。また、本来であれば次世代には伝わらないはずの遺伝的要素を人為的に残してしまうことへの懸念も議論されている。ICSIを受けて生まれた男子がまた不妊であったケースも報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。(Y染色体微少欠失) 造精機能障害には染色体異常などの先天的なものと、環境要因や感染症などによる後天的なものがある。しかし、実際には臨床の場で造精機能障害の原因を判別することは困難であり、多くは原因不明の「突発性造精機能障害」と診断されるため、造精機能障害のどの程度が遺伝的要因または環境要因によるものかを正確に知るのは難しい。これまでにいくつかの推測値が出されており、Lilfordらは男性不妊の60%が遺伝的要因であり、その多くが常染色体上の変異であるとしているが、常染色体上の男性不妊因子の多くは明らかにされていない(例えば、非特許文献3参照)。 精子形成障害の遺伝的要因のうち最もよく知られ、研究が進められているのはY染色体の微小欠失で、男性不妊患者のおよそ5%に認められる。Y染色体上には現在までに4つの無精子症因子(azoospermia factor)領域AZFa,AZFb,AZFc,AZFdがマップされている。AZFaにはUSP9Y(ubiquitin-specific protease 9, Y chromosome),DBY(dead box on the Y),UTY(ubiquitous TPR motif on the Y),AZFaT1(AZFa transcript 1)の4つの遺伝子が知られている。AZFbにはRBMY(RNA binding motif on Y chromosome)遺伝子ファミリーと呼ばれるRNA結合モチーフを持つタンパク質をコードする遺伝子がヒトの場合20〜50個存在し、さらに多くの偽遺伝子が存在する。AZFcは、これもRNA結合モチーフを持つDAZ(deleted in azoospermia)遺伝子ファミリーに属する遺伝子を複数含んでいる。これらAZF領域にマップされる遺伝子については詳細な解析が進められているが、造精機能障害の責任遺伝子はまだ判っていない。領域中の複数の遺伝子が関与している可能性も示唆されている(例えば、非特許文献4、5参照)。(男性不妊の環境要因・内分泌撹乱物質の影響) 後天的な男性不妊は生活環境からのストレスや細菌・ウィルスの感染症など様々な原因で起こり得るが、近年、環境中の内分泌撹乱物質への暴露による生殖機能の障害が注目されている。そもそもこの問題の発端は、1992年のSkakkebaek らによる、この50年間にヒトの精子数が半減しているという報告である(例えば、非特許文献6参照)。さらに1998年同グループによって、精巣腫瘍発生率の上昇傾向と精子数減少との相関が報告され(例えば、非特許文献7参照)、その中で、これらの現象は共に環境中のホルモン様作用を持つ物質、すなわち内分泌撹乱物質の影響であるという可能性が指摘された。Skakkebaek らの研究は過去の文献調査に基づくメタアナリシスによるものであり、その方法論と統計処理をめぐって議論がなされた。以降、様々な調査・研究がなされ、肯定・否定双方の意見が出されているが、本当にヒトの精子は減少しているのか、もしそうであるならばそれは内分泌撹乱物質の影響なのか、研究者間でも見解は一致していない。生殖の問題は人類の存続にも関わる問題であり、もし内分泌撹乱物質がヒトの精子数減少に寄与しているのであれば、その原因となりうる化合物の規制など、社会としての対策が必要であろう。その基盤となる客観的かつ科学的なリスク評価が求められている。(雄性生殖器官) 雄性生殖器官である精巣(testis)は、精細管(seminiferous tubule)と呼ばれる体外に通じる管の集合体から成っている。その管の内壁は精上皮(seminiferous epithelium)と呼ばれる組織で、支持細胞であるセルトリ細胞(Sertoli cell)の細胞質に生殖細胞が包まれて存在している(図1参照)。生殖細胞は精細管の外側(基底部)から内側の管腔に向けて分化しつつ移動し、完成した精子が管腔(lumen)に放出される。精細管は精巣網(rete testis)で集合し、集合管である精巣上体を通過中に成熟する。そして交尾の際に前立腺液、精嚢液とともに射出される。精細管外の間質にはライディッヒ細胞(Leydig cell)という体細胞が存在し、アンドロジェンの産生など、ホルモンによる精巣機能の調節を担っている。(哺乳類の精子形成過程) 雄の胎子期に胚体外の卵黄嚢に由来した始原生殖細胞(Primordial Germ Cell:PGC)は、胎生12日目前後に生殖隆起(genital ridge)に入る。この過程は雌雄ほぼ同様である。雄のPGCが定住することによって、雄の生殖巣原基は初めて精巣への分化を開始し、形態的に卵巣と区別できるようになる。生殖隆起は皮質と髄質からなり、精巣へと分化する際には皮質に入り込んでいたPGCが髄質に移る。PGCは、生殖隆起にたどりついた後も増殖を続けるが、いったん細胞分裂の休止期に入る。その間に精細管が形成されPGCは中胚葉由来のセルトリ細胞とともに精細管内の細胞となる。この時期からPGCは精原細胞(spermatogonia:核型は2N)と呼ばれるようになる。性成熟が近付くと精原細胞は細胞分裂を再開し、減数分裂を開始する。そして性成熟とともに成熟精子が射出されるようになる。減数分裂の開始から成熟精子の完成までは数週間を要する。マウス、ラットなど性成熟の早い動物(5〜8w)では出生直後からこの過程が開始する。雌の卵形成と異なり、雄はほぼ一生のあいだ、生殖細胞の増殖と分化を続ける。この精原細胞の分裂から精子完成までの過程を精子形成(spermatogenesis)と呼ぶ。マウス精細管の構造を図1に示した。 精原細胞にはA型(type A)とB型(type B)の2種類がある。A型細胞は幹細胞として精細管の基底部(=最外層)にとどまる細胞である。A型細胞は分裂してA型細胞それ自身と、減数分裂を開始するB型細胞に分かれる。B型細胞は徐々に精細管腔方向(=内側)に移動しながらDNA合成を行ない、一次精母細胞(primary spermatocyte:4N)となる。一次精母細胞は卵母細胞と同様、第一減数分裂の前期(prophase)が長く、レプトテン(leptotene:細糸)、ザイゴテン(zygotene:接合糸)、パキテン(pachytene:厚糸)、ディプロテン(diplotene:複糸)、の各期に分けられる。第一減数分裂が終了すると、二次精母細胞(secondary spermatocyte:2N)となる。二次精母細胞はすみやかに第二減数分裂を開始し、減数分裂後半数体の精子細胞(spermatid:N)となる。配偶子形成においては、2N→4N→2N→Nという核型の変化を経て最終的に半数体(N)の配偶子が作られるが、卵形成の場合、減数分裂は不等分裂であり極体(polar body)放出というかたちで片方の細胞は捨てられるため、一個の卵祖細胞から一個の配偶子(卵)しか作られない。それに対して精子形成では一個の精原細胞から等価な4つの配偶子(精子)が作られる。 減数分裂終了直後の精子細胞は円形精子細胞(round spermatid)と呼ばれる。減数分裂後の半数体精子細胞は未受精卵に直接注入することにより、正常に個体発生することができる。このことは、減数分裂直後の円形精子細胞はすでに個体発生に必要十分な遺伝情報を持っていることを示している。しかし、生体内では卵と受精するために精子細胞が機能的な精子に変化する必要がある。円形精子細胞から機能的な精子の完成までには著しい形態および生化学的変化が起こる。この段階を精子完成(spermiogenesis)と呼ぶ。この過程で起こることは、核の濃縮、運動機能の獲得、受精能の獲得(受精タンパク質、卵活性化物質)である。円形精子細胞の核が濃縮し、完成精子に至る途中の精子細胞は伸長精子細胞(elongated spermatid)と呼ばれる。 通常細胞核内のDNAはヒストンと結合して染色体を形成しているが、精子ではヒストンがプロタミンに置換され運動に好都合なコンパクトなかたちにまとめられている。核の凝縮によって精子はある程度の物理的および化学的変化に対する耐性を得る。一方で核の凝縮に伴って遺伝子の転写は困難になると考えられ、精子形態形成に関与する遺伝子のなかには翻訳調節を受けているものも存在する。例えば、核の凝縮前の精子細胞では過剰量のTATA結合タンパク質(TBP)が転写されているが、翻訳されている量は比較的少なく、翻訳調節機構の存在が示唆されている。次に精子が運動するための尾部(鞭毛)が形成される。これは精子細胞の中心子が伸長することでできる。鞭毛の頭部には中片(midpiece)と呼ばれるやや太い部分があり、ミトコンドリアがらせん状に巻き付いている。このミトコンドリアが精子の運動に必要なエネルギーを供給する。精巣内の精子にもある程度の尾部の運動が見られるが、前進性など精子本来の運動性を獲得するのは精巣上体においてである。精子頭部には先体(acrosome)と呼ばれる部分ができる。先体には加水分解酵素など受精に必要な様々なタンパク質が含まれている。また精子頭部には卵を活性化する因子が含まれている。完成した精子は精細管内に放出され、精巣上体での成熟を経て体外に放出される。 精子形成過程は非常に厳密に制御されており、効率良く大量の精子を作り出している。その制御には精巣内環境が重要であり、特に精細胞とセルトリ細胞の相互作用が不可欠である。セルトリ細胞は精細管の基底部から管腔方向に向かって伸びる柱状の体細胞である。核は不整形で内部に大きな核小体を持つ。セルトリ細胞は構造的に精細胞を支持しているだけではなく、種々のタンパク質(ホルモン)を分泌することで精子形成の一連の過程を制御しているため、セルトリ細胞の異常は精子形成異常につながる。セルトリ細胞と生殖細胞の接着は生殖細胞の分化に重要な役割を果たしていると考えられているが、その詳細はあまり分かっていない。精細管基底部にあるセルトリ細胞−セルトリ細胞結合(タイトジャンクション)は血液精巣関門(Blood Testis Barrier;BTB)と呼ばれ、体循環と生殖細胞を隔離している。哺乳類では出生後に精子形成が開始するため、精子特異的タンパク質に対しては胎児期から出生直後に獲得する自己免疫寛容が機能しない。そのため血液中に抗精子抗体が存在する場合があり、血液循環と精巣内環境を隔離する必要があると考えられている。(内分泌系による精巣機能の調節) 哺乳類の生殖機能は内分泌系の制御下にある。内分泌調整系の最上位にある視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin releasing hormone;GnRH)に反応して、下垂体前葉から性腺刺激ホルモン(gonadotropin)が分泌される。性腺(精巣・卵巣)における生殖細胞の分化は、性腺刺激ホルモンによる調節を受ける(図2参照)。下垂体前葉から分泌される性腺刺激ホルモンにはFSH(follicle stimulatinghormone)とLH(luteinizing hormone)がある。これらのホルモンは糖タンパク質の2つのサブユニットから構成されている。精巣機能はFSHおよびLHによる調節を受けている。胎生期および新生仔期のセルトリ細胞の分裂はFSHで促進され、FSHにより、精子形成の各段階をサポートする、セルトリ細胞の様々な機能が促進される。セルトリ細胞に対するFSHのアンドロジェン結合タンパク質(androgen binding protein;ABP)の産生促進効果は重要で、間質のライディッヒ細胞(Leydig cell)で産生されるアンドロジェン(テストステロン,Testosterone)が機能する為に必要である。LHの精巣機能に対する主な作用は、ライディッヒ細胞のアンドロジェン生成促進作用である。精巣内のアンドロジェン濃度は血中よりも高く、この高濃度が精子形成には必須である。アンドロジェン受容体は生殖細胞にはなく、セルトリ細胞に存在することから、アンドロジェンは直接生殖細胞に働くのではなく、セルトリ細胞を介して作用していると考えられている。(セルトリ−精子細胞特殊接合装置) セルトリ細胞は全ての分化段階の精子形成細胞と接しており、精子形成をサポートしている。セルトリ細胞質中の伸長精子細胞と接している部分にはセルトリ−精子細胞特殊接合装置(Sertoli-spermatid ectoplasmic specialization,ES)と呼ばれる特殊な構造が見られる。ES構造を図3に示した。ES構造はSertoli cell plasma membrane, actin filament layer, endoplasmic reticulum の三層から成り、セルトリ細胞膜の内側にアクチン繊維が層を成す構造をしている。ES構造の機能には未だ不明な部分が多いが、アクチン繊維を破壊する薬剤であるサイトカラシンD(Cytochalasin D)処理によって、ESのアクチン層が障害を受け、精子細胞とセルトリ細胞の乖離が起こること(例えば、非特許文献8参照)、また beta-estradiol 3-benzoate (E2B) 等のエストロジェン作用を持つ化合物を投与することによってもESアクチン層が障害を受け、精子細胞の奇形と精上皮からのはく離(exfoliation)が起こること(例えば、非特許文献9参照)など、精巣毒性の研究からES構造の障害例が報告されており、これらから、ESは精子細胞の形態形成を補助し、適切な時期の放出(spermiation)までセルトリ細胞と精子細胞の結合を保持する為に必要であると考えられている(例えば、非特許文献10参照)。(精子形成サイクル) 成熟精巣の精細管では、一定の分化段階にある生殖細胞の組み合わせ(ステージ,ステップ)が連続的かつ周期的に並んでいる(図4参照)。マウスの場合、ステージはIからXIIまでの12段階に分けられている。仮にある場所で精細管を輪切りにしたとすると、あるステージの断面が見え、同じ精細管を別の場所で切るとまた別のステージが見られる。あるステージの精細管には決まった分化段階の生殖細胞の組み合わせが見られる。ステップ(Step)とは減数分裂後の精子細胞の分化段階を表す数字で、マウスの場合1〜16までの16段階に分けられている。ステップ1〜8の精子細胞は円形をしており、円形精子細胞(round spermatid)と呼ばれる。ステップ8以降の精子細胞は伸長精子細胞(elongated spermatid)と呼ばれ、核の形態変化や尾部の形成を経て完成精子となっていく。例えばステージVIの精細管には、精細管の最も外側にB型精祖細胞(Type-B spermatogonia)、その内側にパキテン期の精母細胞(spermatocyte)、その内側にステップ6円形精子細胞(Step6 round spermatid)、さらにステップ15伸長精子細胞(Step 15 elongated spermatid)が見られる。 おおまかな精細管のステージ判別は、精子細胞の様子を観察することでできる。管腔に放出される直前のステップ16精子細胞は、精上皮のもっとも管腔側(精上皮の外)に位置している。従って管腔に面して精子細胞が並んでいる像から、その精細管がステージVII〜VIIIであると判別できる。ステップ15精子細胞は、頭部形態はほぼ完成しているが、頭部を精上皮中に突っ込んでいる。従って、濃縮した精子頭部(核染色により容易に判別できる)が精上皮中にある像からステージI〜VIを判別できる。ステージIX〜XII精細管は伸長精子細胞の核の濃縮が完全ではないことと円形精子細胞が存在しないことから判別できる。特に精子放出直後のステージIX精細管にはステップ9精子細胞があるが、ステップ9精子細胞は核の濃縮が完全ではなく、核染色がそれ以降のステップより薄いことから判別できる。より詳しい判別(特にステージI〜VI)は、円形精子細胞に生じるアクロソームをPAS染色などで観察することで行なうことができる。(雄性不妊マウス) これまで述べてきたように、哺乳類の精子形成は体細胞と生殖細胞の相互作用を必要とし、またホルモンや細胞増殖因子など様々な因子によって制御される高次の生命現象である。精子形成に必要な多くの因子を体外で再現することは難しく、試験管内(インビトロ)での精子形成は現在までに成功していない。従って、精子形成の研究は個体レベルでのインビボ解析が中心である。なかでも精子形成に関与する遺伝子のノックアウトマウスは精子形成機構の解明に大きく貢献している。これまで精子形成の各段階に異常をきたす種々のノックアウトマウスが報告されている。例えば、減数分裂後の精子細胞に発現している遺伝子の例として、転写因子CREM(cyclic AMP-responsive element modulator)が挙げられる。CREMノックアウトマウスは精子細胞の分化停止とアポトーシスを起こし、不妊となる。このことからCREMは精子細胞での多くの遺伝子発現を制御していると考えられる(例えば、非特許文献11、12参照)。また精子でヒストンに代わってDNAと結合しているプロタミン(Prm-1, -2)のノックアウトマウスは精子数の減少、精子の奇形、精子の化学耐性低下といった症状を示し、不妊となる。プロタミンノックアウトマウスは変異を片アリルに持っていれば症状が出ることが大きな特徴である(例えば、非特許文献13参照)。これらの他にも近年多くのノックアウトマウスが報告され、精子形成機構の解明に貢献している。 CREMやプロタミンような生殖細胞で発現している遺伝子が重要であることはもちろんであるが、セルトリ細胞などの体細胞で機能している遺伝子も精子形成にとって同様に重要である。細胞接着分子であるネクチン(nectin)−2ノックアウトマウスでは減数分裂後、伸長精子細胞頭部の奇形や精子の運動性低下を示す。ネクチン−2はセルトリ細胞で発現し、生殖細胞では発現していないことから、精子細胞とセルトリ細胞の接着に関与するセルトリ細胞側の因子であると考えられる(例えば、非特許文献14、15参照)。効率的な精子形成にセルトリ細胞が果たす役割は大きく、この他にも多くの生殖細胞−セルトリ細胞間相互作用に関わる分子があると考えられる。上記のようなノックアウトマウス以外に、突然変異による不妊マウスも報告されており、解析が行なわれているが、ノックアウトマウスの解析に比べ、突然変異マウスの解析は遅れている。(遺伝子先行型アプローチと表現型先行型アプローチ) 一般的に遺伝子の機能解析にはノックアウトマウス・トランスジェニックマウスのような遺伝子先行型のアプローチ(gene-driven approach)と、表現型を指標にして変異体を単離し原因を探る表現型先行型のアプローチ(phenotype-driven approach)がある。前者は逆遺伝学(reverse genetics)、後者は“順方向”遺伝学(”forward” genetics)とも呼ばれる。両者は互いに相補的であり、同時に進められることが望ましい。しかし、生殖の分野では変異体の維持・継代が難しく、また遺伝学的な解析が困難であるため、これまで表現型先行型のアプローチが遅れていた。特に優性の不妊突然変異マウスに関しては、これまで原因遺伝子が決定された例はない。しかし、生殖工学が発達し、例え不妊のマウスからであっても子孫が得られるようになったことや、マウスの全ゲノム配列が決定され、変異部位の同定が比較的容易に行えるようになったことで、表現型先行型のアプローチが可能になってきた。実際に生殖細胞をターゲットにしたマウス変異体作製プロジェクトも始まっている(例えば、非特許文献16参照)。今後生殖に関する変異体の解析が進み、より多くの知見がもたらされることが期待されている。(コートアクチン) コートアクチンは分子量80〜85kDのアクチン結合タンパク質である。HS1リピートと呼ばれるおよそ36アミノ酸の繰り返し配列を含んでおり、C末端にSH3ドメインを持つ。HS1リピートの数によって少なくとも3種類のスプライスバリアント(コートアクチン−A:6回,−B:5回,−C:4回)が報告されている(図10参照)。さらに繰り返し回数の少ないタイプ(3,2回)も発現量は少ないながら存在するらしい。コートアクチンと種々のタンパク質との相互作用が報告されており、N末端を介してArp2/3コンプレックス,N−WASPと、HS1リピートを介してF−アクチンと結合することが知られている。さらにC末端のSH3ドメインを介してZO−1,Shank3などの構造タンパク質と結合することが報告されている。タンパク質中のいくつかのSer,ThrおよびTyr残基がリン酸化を受けることが知られている。これらのことからコートアクチンは細胞内からのリン酸化シグナルを受け取って、アクチン細胞骨格の制御を行なうタンパク質であると考えられている。コートアクチンはヒト乳がんの15%で遺伝子増幅による発現の増加が見られ、乳がん発症への関与などが報告されているものの、コートアクチンのノックアウトマウスは現在まで報告されておらず、生体内での機能は不明な部分が多いが、Post-Synaptic Density(PSD)やTightJunctionへの局在から、細胞の接着や形態変化に関与している可能性が高い(例えば、非特許文献17〜20参照)。Kubo H. Sanka to Fujinka (Japanese) 2003; 6: 703-709Matsumiya K. Sanka to Fujinka (Japanese) 2003; 6: 751-756Lilford R, Jones AM, Bishop DT, Thornton J, Mueller R. Case-control study of whether subfertility in men is familial. Bmj 1994; 309: 570-573Buch B, Galan JJ, Lara M, Ruiz R, Segura C, Real LM, Martinez-Moya M, Ruiz A. Scanning of Y-chromosome azoospermia factors loci using real-time polymerase chain reaction and melting curve analysis. Fertil Steril 2003; 80: 907-913.Foresta C, Moro E, Ferlin A. Y chromosome microdeletions andalterations of spermatogenesis. Endocr Rev 2001; 22: 226-239Carlsen E, Giwercman A, Keiding N, Skakkebaek NE. Evidence for decreasing quality of semen during past 50 years. Bmj 1992; 305: 609-613Skakkebaek NE, Rajpert-De Meyts E, Jorgensen N, Carlsen E, Petersen PM, Giwercman A, Andersen AG, Jensen TK, Andersson AM, Muller J. Germ cell cancer and disorders of spermatogenesis: an environmental connection. 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Curr Opin Cell Biol 2002; 14: 76-81 近年ヒトの不妊治療に対する需要は大きくなりつつあり、その基盤となる生殖生物学の進歩が望まれるが、生殖細胞形成の分子機構は未だ十分に理解されているとは言い難い。これは生殖細胞形成に関する変異体の解析が十分ではないことがひとつの要因となっている。特に、男性不妊のモデル動物を作製した場合、子孫を作製することが出来ないため、多くの変異マウスが報告されているにも関わらず、原因遺伝子の同定まで至った例はない。本発明の課題は、これまで技術的に維持・継代が困難であった優性精子形態形成不全が引き起こされ男性不妊症を再現できるモデル動物や、かかる男性不妊症モデル動物の維持・継代方法や、かかる男性不妊モデル動物を用いた男性不妊症の予防・治療剤のスクリーニング方法や、男性不妊症の原因物質のスクリーニング方法や、男性不妊症の診断方法などを提供することにある。 本発明者らは、インプリンティング遺伝子PEG8/IGF2ASの機能を調べる目的でトランスジェニックマウス作製した。トランスジェニックマウスが作製される過程では、受精卵に注入された外来のDNAがゲノム上のランダムな場所に挿入されるが、その結果、挿入部位の遺伝子破壊が生じることがある。これを挿入変異(insertional mutation)と呼ぶ。一般的に、トランスジェニックマウスの数%に挿入変異による不妊マウスが生じると言われている。導入配列が本来のマウスゲノムには存在しない配列であった場合、その配列をタグとして変異部位を同定できる。近年マウスの全ゲノム配列が解読され、さらに一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphisms:SNPs)の情報が利用できるようになった結果、これまでよりも比較的簡便にゲノム上の変異部位を調べることが可能になった。また挿入変異には、しばしば染色体の転座や欠失など大規模なゲノムの異常が伴うが、これもゲノム情報の利用によって比較的容易に解析することができるようになった。 インプリンティング遺伝子PEG8/IGF2ASトランスジェニックマウスの一系統に発生した、精子形態形成不全を示す挿入突然変異マウスを見い出した。哺乳類の精子形成機構解明の為にこのような突然変異マウスは貴重であると考え、挿入変異体である系統の解析を進めた。通常交配ではこの雄から産仔を得ることができず、系統を維持することができないため、体外受精(IVF:in vitro fertilization)を行なうことを考えたが、精巣上体に精子がほとんどなくIVFは不可能であった。そこで精巣から採取した精子細胞を未受精卵に注入するICSI(intracytoplasmic sperm injection;顕微授精)を行なったところ、これによって産仔を得ることができ、変異を継代し、このモデルマウスを維持することに成功した。また、変異マウスがもつ遺伝子領域の欠損をSNPsデーターベースを活用することにより解析した。この結果、これまで技術的に維持・継代が困難であった優性精子形成不全マウスの解析に成功し、染色体の片側でコートアクチン遺伝子が欠損したマウスでは、コートアクチンタンパク質の発現量が半分に低下することにより、精子形態形成不全が引き起こされるという男性不妊症が再現できた。また、この遺伝子は小脳でも発現し、このモデルマウスは歩行異常などの行動異常もみられることから、行動制御研究に関するモデルマウスとしても、重要であることがわかった。 以上のように、本発明者らはPEG8トランスジェニックマウスの一系統に優性の挿入変異Dspd(Dominant spermiogenesis defect)を見い出し、以下のことを明らかにした。(1)セルトリ細胞中の特殊接合装置(ES)に含まれるアクチン繊維層に異常が生じており、伸長精子細胞の形態異常および精上皮からの剥離が起こっていた。(2)7番染色体と14番染色体の間に転座が生じていた。7番染色体テロメア近傍に約1Mbのゲノムの欠失があり、そこにマップされるコートアクチンの発現量が低下していた。(3)正常マウス精巣においてコートアクチンは伸長精子細胞周辺に局在しており、Dspdマウスにおいて精子細胞の異常が起こる時期とよく一致していた。Dspdマウス精巣ではコートアクチンタンパク質およびアクチンの局在が乱れていた。 これらの結果から、Dspdマウスにおいては、コートアクチンの片アリル欠失と発現量の減少が、セルトリ細胞のアクチン繊維(特にES構造のアクチン層)の制御異常につながり、結果として精子細胞の形態異常と精上皮からの精子細胞の剥離が起こっているという可能性が示された(図15参照)。このような知見に基づいて、本発明は完成するに至ったものである。 すなわち本発明は、(1)コートアクチンをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、コートアクチンを発現する機能が低下した、あるいは失なった非ヒト動物からなることを特徴とする男性不妊症モデル動物や、(2)遺伝子変異を片アリルに有することを特徴とする上記(1)記載の男性不妊症モデル動物や、(3)歩行異常などの行動異常を示すことを特徴とする上記(1)又は(2)記載の男性不妊症モデル動物に関する。 また本発明は、(4)非ヒト動物がマウスであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の男性不妊症モデル動物や、(5)マウス精細胞(独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター寄託番号01136)を用いて作製されたことを特徴とする上記(4)記載の男性不妊症モデル動物や、(6)コートアクチンをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、コートアクチンを発現する機能が低下した、あるいは失なった非ヒト動物から採取した精子細胞を野生型未受精卵に注入して培養後の4〜8細胞胚を、偽妊娠させた非ヒト動物の卵管に移植し、産仔を得ることを特徴とする男性不妊症モデル動物の維持・継代方法に関する。 また本発明は、(7)非ヒト動物がマウスであることを特徴とする上記(6)記載の男性不妊症モデル動物の維持・継代方法や、(8)精子細胞がマウス精細胞(独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンターに寄託番号01136)であることを特徴とする上記(7)記載の男性不妊症モデル動物の維持・継代方法や、(9)上記(1)〜(5)のいずれか記載の男性不妊症モデル動物に、被検物質を投与し、造精機能障害の症状改善の程度を測定・評価することを特徴とする男性不妊症の予防・治療剤のスクリーニング方法に関する。 また本発明は、(10)以下の(A)〜(F)の何れかの塩基配列からなる、その発現機能低下又は発現機能喪失が男性不妊症の原因となるタンパク質をコードするDNAに関する。(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする塩基配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;(D)配列番号1に示される塩基配列;(E)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;(F)配列番号1に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;さらに、(11)以下の(A)〜(C)の何れかのアミノ酸配列からなる、その発現機能低下又は発現機能喪失が男性不妊症の原因となるタンパク質に関する。(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、かつ該アミノ酸配列からなるタンパク質がアクチンとの結合活性を有するアミノ酸配列;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ該アミノ酸配列からなるタンパク質がアクチンとの結合活性を有するアミノ酸配列; また本発明は、(12)検体中のヒトコートアクチン遺伝子の異常の有無を調べることを特徴とする男性不妊症の診断方法や、(13)検体中のヒトコートアクチンタンパク質の異常の有無を調べることを特徴とする男性不妊症の診断方法や、(14)ヒトコートアクチン遺伝子又はヒトコートアクチン遺伝子が発現ベクターにインテグレートされた組換えベクターを有効成分として含有することを特徴とするヒトコートアクチン遺伝子やヒトコートアクチンタンパク質の異常に起因する男性不妊症の治療薬や、(15)上記(14)記載の男性不妊症の治療薬を、精巣に投与することを特徴とするヒトコートアクチン遺伝子やヒトコートアクチンタンパク質の異常に起因する男性不妊症の治療方法に関する。 男性不妊の原因解明には、変異モデル動物の役割が非常に大きい。本発明では精子形成不全に関する優性の変異を継代し、変異部位を決定した。本発明のコートアクチン遺伝子変異を片アリルに有する変異マウスをもちいた顕微授精を行えば、貴重なモデル動物の維持が可能となり、遺伝子解析も進むことが期待される。また、コートアクチンのように、特定の構造体形成に関与することが明らかになれば、他の構造体遺伝子を含めての不妊のスクリーニングが可能となる。すなわち、本発明によると、これまで技術的に維持・継代が困難であった優性精子形態形成不全が引き起こされ男性不妊症を再現できるモデル動物や、かかる男性不妊症モデル動物の維持・継代方法や、かかる男性不妊モデル動物を用いた男性不妊症の予防・治療剤のスクリーニング方法や、男性不妊症の原因物質のスクリーニング方法や、男性不妊症の診断方法などを提供することができる。 一遺伝子のhaploinsufficiencyによって不妊となるような例は、これまでプロタミン−1,−2(protamine-1,-2)が知られるのみだが [非特許文献13,Tanaka H, Miyagawa Y, Tsujimura A, Matsumiya K, Okuyama A, Nishimune Y. Single nucleotide polymorphisms in the protamine-1 and -2 genes of fertile and infertile human male populations. Mol Hum Reprod 2003; 9: 69-73]、ヒトの男性不妊の状況から考えて、このような優性の変異が他にもあることが予想される。精子形成機構の解明、また、ヒト不妊の理解に向けて、Dspdのような、これまで解析できなかった突然変異マウスの解析は重要な意味を持っている。 本発明の男性不妊症モデル動物としては、コートアクチンをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、コートアクチンを発現する機能が低下した、あるいはコートアクチンを発現する機能を失なった男性不妊を発症する非ヒト動物であれば特に制限されないが、遺伝子変異を片アリルに有する非ヒト動物、及び/又は歩行異常などの行動異常を示す非ヒト動物が好ましく、上記非ヒト動物としては、コートアクチンの発現が認められるマウスやラットの他、イヌ、ネコ、ウシ、サル、トリ、魚(ゼブラフィッシュ)、カエル(アフリカツメガエル)、ハエ(ショウジョウバエ)等を例示することができるが、取扱い易さからマウスが好ましい。以下、コートアクチンをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、コートアクチンを発現する機能が低下したコートアクチン遺伝子変異を片アリルに有する男性不妊症モデルマウスについて説明する。 コートアクチン遺伝子変異を片アリルに有する男性不妊症モデルマウスは、後述する実施例に記載のように、トランスジーンをマウス受精卵の雄性前核に注入し、処置受精卵を仮親である偽妊娠雌マウスの卵管に移植して仮親から産まれた産仔(変異マウス)から採取した円形および伸長精子細胞を野生型未受精卵に注入し、48時間培養の後、4〜8細胞胚を偽妊娠させた雌マウスの卵管に移植し、産仔を得ることもできる。産仔(変異マウス)から採取した伸長精子細胞の一例が、独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンターに寄託番号01136として寄託されている。 また上記実施例記載の方法の他、通常のノックアウトマウスの作製方法を利用することにより得ることもできる。具体的には、マウス遺伝子ライブラリーからPCR等の方法により得られた遺伝子断片を用いて、コートアクチン遺伝子をスクリーニングし、スクリーニングされたコートアクチン遺伝子 を組換えDNA技術により、コートアクチン遺伝子の全部又は一部を、例えばネオマイシン耐性遺伝子等のマーカー遺伝子で置換し、5'末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT−A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV−tk)遺伝子等の遺伝子を導入してターゲティングベクターを作製し、この作製されたターゲッティングベクターを線状化し、エレクトロポレーション(電気穿孔)法等によってES細胞に導入し、相同的組換えを行い、その相同的組換え体の中から、G418やガンシクロビア(GANC)等の抗生物質に抵抗性を示すES細胞を選択する。この選択されたES細胞が目的とする組換え体かどうかをサザンブロット法等により確認することが好ましい。 上記組換えES細胞をマウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションし、かかる胚盤胞を仮親のマウスに戻し、キメラマウスを作製する。このキメラマウスを野生型のマウスと交配させると、コートアクチン遺伝子変異を片アリルに有するヘテロ接合体マウスを得ることができる。このヘテロ接合体マウスから採取した円形および伸長精子細胞を野生型未受精卵に注入し、48時間培養の後、4〜8細胞胚を偽妊娠させた雌マウスの卵管に移植し、産仔を得ることもできる。なお、このヘテロ接合体マウスを交配させることによって、コートアクチンノックアウトマウスを得ることができるが、ノックアウトマウスが生まれない可能性がある。そのため、Cre−loxPシステム等を使用して条件的に(例えばセルトリ細胞のみで)欠損させることもできる。 そして、かかる変異マウス(ヘテロ接合体マウス)におけるコートアクチン遺伝子が染色体上で片アリルに欠損していることを確認する方法としては、例えば、上記の方法により得られたマウスの精巣からRNAを単離して、リアルタイムRT−PCR法およびウエスタンブロッティング法で、マウス精巣におけるコートアクチン遺伝子とコートアクチンタンパク質の発現量を調べる方法や、このマウスの精子細胞等から抽出したタンパク質をイムノブロット分析等により調べる方法等を挙げることができる。 本発明の男性不妊症モデル動物は、男性不妊症を発症することから、男性不妊発症のメカニズムの解析に有用であり、また、本発明の男性不妊症モデル動物を用いて、男性不妊症の予防・治療剤のスクリーニングに使用することができる。本発明の男性不妊症の予防・治療剤のスクリーニング方法としては、本発明の男性不妊症モデル動物に、被検物質を投与し、造精機能障害の症状改善の程度を測定・評価するスクリーニング方法であれば特に制限されず、造精機能障害の症状改善の程度の測定・評価は、以下の実施例に記載されているように、精巣組織の形態観察を行い、伸長精子細胞の数や配列の乱れ、セルトリ細胞の形態の乱れ、精巣上体管における精子の数などの程度を測定し、対照となる野生型と比較する方法を挙げることができる。 他方乏精子症患者の射出精液中に未成熟精子細胞が多く見られる症例がある一方で、本発明により、コートアクチンの発現量低下がES構造体の形成不全を引き起こし、精子形成不全となる道筋が明かとなった。また、特殊接合装置の異常、精子細胞の精上皮からの剥離は主に、エストロジェン投与、テストステロン減少などホルモン異常のラット・マウスで観察されてきた現象である。このES構造体の形成不全は、ダイオキシンをはじめとする環境ホルモンによる精子形成異常の際にも観察されることから、環境ホルモンのターゲット遺伝子がコートアクチンである可能性が高まった。環境ホルモンのターゲット遺伝子であることが確認できれば、環境有害物質のスクリーニングにこの遺伝子の発現解析が非常に有用であることになる。また、環境ホルモンは精子形成だけで無く、行動異常の原因となると考えられており、現在問題になっているキレる子供の増加との関係が示唆されている。神経系への影響は精子形成の1/100の量でも見られると考えられることから、このような環境有害物質の検出は、現代社会において不可欠である。コートアクチンは中枢神経系(特に、小脳)での発現が観察されており、モデル動物にも歩行異常が確認されている。 そこで、本発明の男性不妊症の原因物質のスクリーニング方法としては、非ヒト動物に被検物質を投与し、コートアクチン遺伝子やコートアクチンタンパク質の異常の有無を調べる方法であれば特に制限されず、上記非ヒト動物としては、コートアクチンの発現が認められるマウスやラットの他、トリ、魚、カエル等を例示することができるが、取扱い易さからマウスが、また、変異の出現し易さから鯉や鮒等の魚が好ましい。これら非ヒト動物のコートアクチン遺伝子の塩基配列としては、マウス(GenBankアクセッションナンバー:15030314)、ラット(GenBankアクセッションナンバー:11177917)、ニワトリ(GenBankアクセッションナンバー:45382632)、ゼブラフィッシュ(GenBankアクセッションナンバー:33417208)、アフリカツメガエル(GenBankアクセッションナンバー:17826995)、ハエ(GenBankアクセッションナンバー:3869203)を挙げることができる。 また、上記被検物質としては、動植物や微生物からの抽出物、各種ペプチド・タンパク質、多糖類、化学合成物質など特に制限されない。 上述の本発明により、コートアクチンの発現機能低下又は発現機能喪失が男性不妊症の原因となることから、コートアクチンが男性不妊症を防除する機能を有するタンパク質であることを見い出した。このような機能に注目したコートアクチンやコートアクチン遺伝子、コートアクチンやコートアクチン遺伝子の使用も本発明に包含される。以下、これらについて説明する。 本発明の“発現機能低下又は発現機能喪失が男性不妊症の原因となるタンパク質をコードするDNA”としては、(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列(ヒトコートアクチン)をコードする塩基配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列;(D)配列番号1に示される塩基配列(ヒトコートアクチンをコードするDNA);(E)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;又は(F)配列番号1に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;の何れかの塩基配列からなるDNAであれば特に制限されず、また、本発明の“発現機能低下又は発現機能喪失が男性不妊症の原因となるタンパク質”としては、(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するアミノ酸配列;又は(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するアミノ酸配列;の何れかのアミノ酸配列からなるタンパク質であれば特に制限されず、ここで「アクチンとの結合活性を有するタンパク質」とは、アクチンとの結合に何らかの形で関与するタンパク質を意味し、その具体的な作用機構は特に限定されないが、アクチンとの結合能を好適に例示することができる。 上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味する。また、上記「1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を意味する。 例えば、これら1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNA(変異DNA)は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.以後 "モレキュラークローニング第2版" と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。 上記「配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、配列番号2に示されるアミノ酸配列との相同性が60%以上であれば特に制限されるものではなく、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であることを意味する。 上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られる塩基配列を意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。 例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げることができ、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAを好適に例示することができる。 本発明のDNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列又は塩基配列情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該DNAが存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的の遺伝子を単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。 本発明の“その発現機能低下又は発現機能喪失が男性不妊症の原因となるタンパク質”の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来の単離タンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。天然由来のタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現している細胞又は組織からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせることにより、本発明のタンパク質を取得することができる。化学合成によりタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。遺伝子組換え技術によりタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードする塩基配列からなるDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。 例えば、遺伝子組換え技術によって、本発明の“その発現機能低下又は発現機能喪失が男性不妊症の原因となるタンパク質”を調製する場合、かかるタンパク質を細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのタンパク質の精製物を得ることができる。また、本発明のタンパク質が細胞膜に発現している場合は、細胞膜分解酵素を作用させた後、上記の精製処理を行うことにより精製標品を得ることができる。 さらに、配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列の一例を示す配列番号1に示される塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜調製又は取得することができる。例えば、配列番号1に示される塩基配列又はその一部を有するDNAをプローブとしてヒト以外の生物より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。このホモログDNAの全長DNAをクローニング後、動物細胞用発現ベクターに組み込み適当な動物細胞で発現させることにより、該ホモログDNAによりコードされるタンパク質を製造することができる。 コートアクチンが、精子形成に重要なES構造体に含まれること、変異マウスでは細胞内局在が変化していることを明らかにしたことから、このタンパク質の発現量の低下が男性不妊の原因となる可能性が高い。また、現在でも、このような症例の場合、顕微授精法によって子供を得ることができるが、本来起きないはずの男性不妊症を遺伝させた例がすでに報告されている。顕微受精後、受精卵診断をすることにより、正常遺伝子をもった個体を子宮に戻すことにより、このような医療に伴うリスクを無くすことが可能となる。このように、ヒトコートアクチン遺伝子の変異やヒトコートアクチンタンパク質の変異のスクリーニングにより、ヒトにおいて男性不妊症患者の診断を行うことが可能になる。本発明の男性不妊症の診断方法としては、検体中のヒトコートアクチン遺伝子の異常の有無やヒトコートアクチンタンパク質の異常の有無を調べる方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、かかる遺伝子配列決定法を利用した遺伝子診断は、ターゲットとするヒトコートアクチン遺伝子を精子細胞から単離したのち、増幅・精製し、遺伝子の塩基配列決定用装置を用いて、ヒトコートアクチン遺伝子の塩基配列を読むことによって行うことができるが、その操作に膨大な作業量と非常に長い時間、さらには多大のランニングコストを要することから、種々提案されている改良法(特開2004−093297号公報、特開2003−215031号公報、特開2003−159054号公報、特開2003−156476号公報、特開2002−340859号公報、特開2002−340858号公報、特開2002−340857号公報、特開2002−333444号公報、特開2002−171988号公報参照)を有利に用いることができる。また、ヒトコートアクチンタンパク質の異常の有無は、タンパク質の構造異常の他、その発現量や局在の異常を測定することにより調べることができる。 本発明のヒトコートアクチン遺伝子やヒトコートアクチンタンパク質の異常に起因する男性不妊症の治療薬としては、ヒトコートアクチン遺伝子又はヒトコートアクチン遺伝子が発現ベクターにインテグレートされた組換えベクターを有効成分として含有するとする予防・治療剤を挙げることができ、発現ベクターとしては、例えば、非分裂細胞を含む全ての細胞(血球系以外)での一過性発現に用いられるアデノウイルスベクター(Science,252, 431-434, 1991)や、分裂細胞での長期発現に用いられるレトロウイルスベクター(Microbiology and Immunology, 158, 1-23, 1992)や、非病原性、非分裂細胞にも導入可能で、長期発現に用いられるアデノ随伴ウイルスベクター(Curr. Top. Microbiol. Immunol., 158, 97-129, 1992)や、リポソーム等を具体的に挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、高い効率で細胞系や生体の臓器における遺伝子発現が可能なアデノウイルスベクターが特に好ましい。また、これらの発現ベクターへのヒトコートアクチン遺伝子の導入は常法によって行うことができ、例えばこれら発現ベクター中の適当なプロモーターの下流にヒトコートアクチン遺伝子等を挿入することにより発現ベクターを構築することができる。ヒトコートアクチン遺伝子は、プラスミドDNAを単独で投与する方法、遺伝子キャリアー分子を使った方法、デンドリティックポリリジンを用いた遺伝子デリバリー法等の遺伝子治療を目指した従来公知の遺伝子デリバリー技術により精巣までデリバリーされ、コートアクチンを発現する。 これら予防・治療薬は、男性患者の不妊症発症の予防や、不妊症を発症した男性患者の治療等に用いることができる。医薬品として用いる場合、経口的あるいは非経口的に投与することができるが、静脈投与等の非経口的投与が好ましい。非経口投与剤として注射剤、経皮製剤あるいは座薬等とすることができる。また、経口投与剤としては散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤などの固形製剤あるいはシロップ剤、エリキシル剤などの液状製剤とすることができる。これらの製剤は活性成分に薬理学的、製剤学的に認容される助剤を加えることにより常法に従って製造することができる。助剤としては、例えば、経口剤および粘膜投与剤にあっては、軽質無水ケイ酸、澱粉、乳糖、結晶セルロース、乳糖カルシウム等の賦形剤、カルボキシメチルセルロ−ス等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシム等の滑沢剤などの製剤用成分が、また注射剤にあっては、生理食塩水、マンニトール、プロピレングリコ−ル等の溶解剤ないし溶解補助剤、界面活性剤などの懸濁化剤などの製剤用成分が、さらに外用剤にあっては、水性ないし油性の溶解剤ないし溶解補助剤、粘着剤などの製剤用成分が使用される。また、投与量は、対象疾患の種類、患者の年齢、性別、体重、症状、投与形態に応じて適宜決定することができる。 本発明のヒトコートアクチン遺伝子やヒトコートアクチンタンパク質の異常に起因する男性不妊症の治療方法としては、上記のヒトコートアクチン遺伝子やヒトコートアクチンタンパク質の異常に起因する男性不妊症の治療薬を、精巣に投与する方法であれば特に制限されず、生体への遺伝子導入法としては、実際にインビボエレクトロポレーション法でセルトリ細胞の障害をレスキューした例が報告[Yomogida K, Yagura Y, Nishimune Y. Electroporated transgene-rescued spermatogenesis in infertile mutant mice with a sertoli cell defect. Biol Reprod 2002; 67: 712-717]されていることからして、インビボエレクトロポレーション法 [ Muramatsu T, Shibata O, Ryoki S, Ohmori Y, Okumura J. Foreign gene expression in the mouse testis by localized in vivo gene transfer. Biochem Biophys Res Commun 1997; 233: 45-49,Yamazaki Y, Fujimoto H, Ando H, Ohyama T, Hirota Y, Noce T. In vivo gene transfer to mouse spermatogenic cells by deoxyribonucleic acid injection into seminiferous tubules and subsequent electroporation. Biol Reprod 1998; 59: 1439-1444]を操作の簡便さ・安全性の点で好適に例示することができる。導入効率のみを考えるならば、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウィルス等のウィルスベクターが有効である。 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。(マウスの単離と表現型解析) PEG8/IGF2ASトランスジェニックマウスの一系統に、トランスジーンの挿入変異により雄マウスが重度の精子形成不全を示し不妊となる変異マウス系統が発生した。トランスジェニックマウスを作製する際には数%の割合で不妊マウスが発生することが従来から知られているが、このような変異マウスは維持・継代が難しく、また本来の実験の目的から外れてしまうために解析されずに失われることが多かった。しかし、不妊変異マウスの解析は生殖生物学にとって重要であると考え、この不妊マウスの解析を進めることにした。表現型解析の結果、不妊マウスの精巣では精子形態形成の異常が起こっていることが明らかになったため、変異マウスはDspd(Dominant spermiogenesis defect)と名付けた。 通常の交配からは産仔を得ることができず、解析を進めることができないため、精子細胞(spermatid)の核を未受精卵に直接注入するICSI(intracytoplasmic sperm injection)の技術を用いることにした。ICSIは既にヒトにも応用されている生殖補助技術である。完成精子が無くても、伸長精子細胞さえあれば子を得ることができるため、男性不妊の治療に非常に強力な方法であるが、マウスに応用することで不妊変異マウスの維持・継代が可能となる。Dspd変異マウスの異常は減数分裂後の異常であったため、ICSIを適用することで変異を維持し、それに続く解析を行なうことが可能になった。[実験方法]1.トランスジェニックマウスの作製 ヒトPEG8/IGF2AS cDNA全長(GenBank Accession Number:AB030733) [ Okutsu T, Kuroiwa Y, Kagitani F, Kai M, Aisaka K, Tsutsumi O, KanekoY, Yokomori K, Surani MA, Kohda T, Kaneko-Ishino T, Ishino F. Expression and imprinting status of human PEG8/IGF2AS, a paternally expressed antisense transcript from the IGF2 locus, in Wilms' tumors. J Biochem (Tokyo) 2000; 127: 475-483]をpCAGGS発現ベクターに組み込み、制限酵素Bam HIおよびSal Iで切り出した4.5kbの断片をコンストラクトとして用いた。ニワトリアクチンプロモータおよびCMV−IEエンハンサーの影響下でPEG8/IGF2ASが発現するよう設計されているこのコンストラクトをマウス受精卵(C57BL/6xC3H)F1の雄性前核に注入し、処置受精卵を仮親である偽妊娠雌マウスの卵管に移植した。仮親から産まれた産仔の尾からゲノムDNAを採取し、コンストラクトをプローブとしたサザンハイブリダイゼーションによってトランスジーンの有無を確認し、トランスジェニックマウスを選別した。2.RT−PCRによるトランスジーンの発現確認 作製したトランスジェニックマウス各系統雄の精巣から、組織(精巣一個)を1mlのISOGEN(Nippon Gene)中でホモジェナイズした。0.2mlのクロロホルムを加え、激しく混和した後、遠心(15,000rpm,10分間,4℃)して、水層(約0.5ml)を回収し、等容のイソプロパノールを加え混和し、遠心後、ペレットを250μlのDEPC処理水に溶解し、0.75mlのISOGEN−LSを加え、上記操作を再度繰り返した。10xDNase buffer,DNaseを加え、室温にて30分間DNase処理を行った。フェノール抽出を2回、クロロホルム抽出を2回行ない、タンパク質を除去した。エタノール沈殿の後100μl DEPC水に溶解した。以上の手順で全RNAを調製した。 調製したRNAからcDNAを合成し、それを鋳型として下記のプライマーを用いてPEG8/IGF2ASを増幅するPCRを行なうことで、トランスジーンの発現を確認した。cDNAの調製法は SUPERSCRIPT preamplification system(GIBCO BRL)に従った。PEG8−F:5'-TGGACACACAGCTCTGCTTG-3'(配列番号3)PEG8−R:5'-CCTGGGAATGCTCATTCATG-3'(配列番号4)3.顕微授精 変異マウスから採取した精細胞を保存液(PBS(−)中,7.5%ウシ胎児血清(FBS),7.5%グリセロール)中で凍結保存した。融解後、円形および伸長精子細胞を野生型未受精卵に注入した。48時間培養の後、4〜8細胞胚を偽妊娠させた雌ICRマウスの卵管に移植し、産仔を得た。[ Ogura A, Matsuda J, Asano T, Suzuki O, Yanagimachi R. Mouse oocytes injected with cryopreserved round spermatids can develop into normal offspring. J Assist Reprod Genet 1996; 13: 431-434、Ogura A, Ogonuki N, Inoue K, Mochida K. New microinsemination techniques for laboratory animals. Theriogenology 2003; 59: 87-94]4.ウエスタンブロッティング法によるPEG8/IGF2ASタンパク質の発現確認 ヒスチジンタグを付加したPEG8タンパク質(His−PEG8)を大腸菌内で合成し、Probond Nickel-Chelating Resin(Invitrogen)を用いて精製した。His−PEG8で免疫されたウサギから抗PEG8血清を得た。トランスジェニックマウス各系統の精巣から細胞抽出液(whole cell extract)を調製し、10μgのタンパク質を含む抽出液を10%SDS−ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、泳動されたタンパク質をHybond−P(Amersham)メンブレンに転写した。His−PEG8をポジティブコントロールとして同時に泳動した。メンブレン上のタンパク質と抗PEG8血清を反応させ、ECL ウエスタンブロッティング detection system(Amersham)を用いて可視化した。5.組織形態観察 光学顕微鏡による観察:精巣および精巣上体をBouin’s solution(0.9%ピクリン酸,9%ホルムアルデヒド,5%酢酸)で一晩固定し、70%エタノール中での洗浄の後、定法によりパラフィン包埋した。厚さ3〜4μmの切片を切り出し、キシレン中での脱パラフィン、エタノール溶液系列中での置換の後、ヘマトキシレン−エオジン(H−E)染色を行なった。光学顕微鏡下で15匹のDspd/wt雄マウスを観察し、同様の所見を得た。精子細胞の減少を定量するため、光学顕微鏡で組織切片上の精子細胞数を調べた。ステージI〜VI(ステップ15)とステージVII〜VIII(ステップ16)、それぞれのステージの精細管あたりの精子細胞数を数えた。正常マウスとDspd/wtマウスを3個体ずつ、一個体あたり各ステージ10本ずつの精細管を調べ、精細管あたり精子細胞数の平均値を比較した。 透過電子顕微鏡による観察:精巣組織の小片を0.1Mリン酸緩衝液(pH7.3)中2.5%グルタールアルデヒド,2%パラホルムアルデヒド溶液での固定の後、1% オスミウムテトラオキシドで固定した。脱水後、組織をエポン/アラルダイト樹脂に包埋し、超薄切片を作製した。切片を酢酸ウラニル・クエン酸鉛による染色後電子顕微鏡(JEM−1210,JEOL)で観察した。電子顕微鏡で4匹のDspd/wt雄マウスを観察し、同様の所見を得た。[結果] ヒトのインプリンティング遺伝子PEG8/IGF2ASの機能を調べるためにトランスジェニックマウスが作製された。PEG8/IGF2ASはWilms 腫瘍発生の原因遺伝子である可能性が示唆されていたが、4系統(1L,11L,16L,19L)作製されたトランスジェニックマウスのいずれにも腫瘍は認められなかった。4系統のうち、1L系統の雄マウスが不妊であった。他の系統のマウスには表現型の異常は認められなかった。各系統の雄の精巣におけるトランスジーンの発現をRT−PCRで調べたところ、全ての系統でPEG8のメッセンジャーRNA(mRNA)レベルでの発現を確認した(図5(C))。1L,11L,19Lは同程度の発現量を示し、16Lではそれらに比べ発現量は少なかった。さらに、抗PEG8血清を用いたウエスタンブロッティング解析の結果、1L,19Lの精巣で、PEG8タンパク質を検出することはできなかった(図5(D))。 全ての系統でトランスジーンのmRNAが発現しており、また、ウエスタンブロッティング解析の結果からPEG8がタンパク質として機能しているとは考えにくいことから、1L系統における不妊の原因は、PEG8トランスジーンの発現ではなく、トランスジーンがゲノムに挿入された際に挿入部位の遺伝子を破壊した挿入変異である可能性が高いと考えた。PEG8遺伝子の機能を調べる目的でトランスジェニックマウスを作製したが、哺乳類の精子形成機構解明の為にこのような突然変異マウスは貴重であると考え、挿入変異体である1L系統の解析を進めた。通常交配では1L雄から産仔を得ることができず、系統を維持することができないため、体外受精(IVF:in vitro fertilization)を行なうことを考えたが、精巣上体に精子がほとんどなくIVFは不可能であった。そこで精巣から採取した精子細胞を未受精卵に注入するICSI(intracytoplasmic sperm injection)を行なったところ、これによって産仔を得ることができた。ICSIにより変異を継代し、これに続く解析が可能になった(図5参照)。なお、精子細胞の一例が、独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンターに寄託番号01136として寄託されている。 トランスジーンを受け継いだTg(+)雄マウスは全て不妊であったが、Tg(+)雌およびTg(−)雄には表現型の異常は認められなかった。変異(トランスジーン)を片アリルに持っていれば不妊となる、すなわち優性の変異であることは興味深い。Tg(+)雌からは通常の交配で産仔を得ることができたが、正常なマウスに比べて一回の出産数が少ない傾向(平均3.0匹,S.D.=1.1,n=12)が見られた。続いて、不妊の原因をより詳細に調べるため精巣組織の形態観察を行なったところ、精子形態形成過程(spermiogenesis)での異常が明らかになった。そこで、この変異をDspdと命名した。Dspdマウスの精巣および精巣上体の組織像を図6に示した。 Dspdマウス(Dspd/wt)精巣では円形精子細胞(round spermatid)は正常であったが、伸長精子細胞(elongated spermatid)の数が減少しており、伸長精子細胞の配列も乱れていた。セルトリ細胞の形態が乱れており、精上皮中に空隙が見られるものもあった。精細管(ステージI〜VI)あたりのステップ15伸長精子細胞の数は正常個体のおよそ30%であった。伸長精子細胞の大部分が異常な形態の核(頭部)を持っていた。精上皮の最も管腔側に位置したステップ16精子細胞は著しく減少していた。精細管(ステージVII〜VIII)あたりのステップ16精子細胞の数は正常個体の7%であった。精上皮中には多核の精子細胞も散見された。ライディッヒ細胞(Leydig cell)は形態的には正常であった。精巣上体尾部の観察では、正常マウス(wt/wt)の精巣上体管が完成精子で満たされていたのに対して、変異マウスの精巣上体管にはほとんど精子が見られず、また数少ない精子の頭部も形態異常を示していた。興味深いことに精巣上体には未成熟な精子細胞の残骸が多く見られた。これは精上皮から剥離(exfoliation)した精子細胞が精巣上体に流れてきたものと思われる。 精子細胞の精上皮からの剥離は、電子顕微鏡観察によってより明らかになった(図7参照)。未成熟な精子細胞が精上皮からはがれ、管腔に遊離している像が得られた。遊離した伸長精子細胞は異常な形態の核を持っており、いくつかの細胞はおそらくセルトリ細胞のものと思われる細胞質を伴って上皮からはがれていた。少数の円形精子細胞も管腔に遊離している像が見られたが、これらは形態的には正常であった。これらの観察結果から、Dspdマウスの精巣では、伸長精子細胞が完成精子に向かって成熟していく過程で、多くの細胞が精上皮からはく離してしまい、結果として完成精子数の著しい減少が起こっていると考えられる。精子細胞の奇形と精上皮からのはく離は、エストロジェン化合物であるE2B(beta-estradiol 3-benzoate)を投与されたマウスに見られる現象である(非特許文献9参照)。同様な現象が、やはりエストロジェン作用を持つ化合物であるBPA(bisphenol A)投与マウスにも見られる。E2B投与マウスのセルトリ細胞では、セルトリ−精子細胞特殊接合装置(Sertoli-spermatid ectoplasmic specialization;ES)と呼ばれる精子細胞との結合構造に異常が生じており、それが精子細胞の形態異常や精上皮からのはく離につながっていると考えられている。Dspdマウスの精巣組織像がE2B投与マウスのそれと類似していたことからES構造の異常が疑われた。電子顕微鏡観察によって変異マウスのES構造を調べたところ、アクチン層が全くないもの、一部欠損したもの、アクチン繊維の配列が異常なもの等が認められた(図7参照)。これはE2B投与マウスと同様な現象がこの変異マウスで起こっていることを示唆している。エストロジェン投与によってES構造が障害を受ける機構は現在のところ全く分かっておらず、Dspdマウスの解析がこの機構の解明に寄与する可能性がある。(Dspdマウスのゲノム解析) 通常、遺伝学的にゲノム上の変異部位を同定(マッピング)するためには、1)変異マウスを正常マウスと交配し、2)表現型を受け継いだ子孫を選別し、3)多型マーカーなどを利用してゲノムのどの部分を変異マウスから受け継いだか調べる、という手順を何世代も繰り返す必要がある。SNPsなどゲノム配列の情報が整備されたことで、従来よりも非常に精度の高いマッピングが可能となったとはいえ、マウスは妊娠期間がおよそ20日、繁殖年齢に達するまでにおよそ2ヶ月かかるため、上記の一サイクルには少なくとも3ヶ月が必要で、この方法には多くの時間を要する。またDspdのような不妊変異にはこのような解析を行なうことは難しい。点突然変異はこのような方法で変異部位を同定するしかないが、それに対して挿入変異の場合には、外来DNA配列をタグとして利用し、一世代(一個体)から比較的短時間で変異部位を同定できるという大きな利点がある。 おおまかに変異部位を同定するため、まずFISH(fluorescein in situ hybridization)法によって、どの染色体上にトランスジーンが挿入されているのかを調べた。続いてトランスジーンの配列をプローブとして、ゲノムライブラリーから変異部位を含むクローンを得、トランスジーンに隣接する配列から変異部位を同定した。先に述べたように、挿入変異はしばしば染色体転座や欠失など大規模なゲノムの異常を伴う。中西らは、作製したGFPトランスジェニックマウス系統の約5%に染色体の転座が見られたことを報告している[ Nakanishi T, Kuroiwa A, Yamada S, Isotani A, Yamashita A, Tairaka A, Hayashi T, Takagi T, Ikawa M, Matsuda Y, Okabe M. FISH analysis of 142 EGFP transgene integration sites into the mouse genome. Genomics 2002; 80: 564-574]。このような染色体転座はしばしば大規模なゲノムの欠失を伴う。従来、特に大規模なゲノムの欠失を解析するのは容易ではなかったが、SNPsを用いることで、比較的容易に欠失の大きさを決定することができるようになった。そこで変異部位に生じたゲノムの欠失の大きさを一塩基多型(single nucleotide polymorphisms;SNPs)の情報が含まれたCelera Genomics社のゲノムデータベースを用いて解析した。[実験方法]1.FISH解析トランスジーン全長をプローブとしてFISH解析を行なった。Tg(+)のF1雄とF3雌を一匹ずつ、計2個体を解析した。2.ゲノミックライブラリーのスクリーニング Dspdマウスから採取したゲノムDNAを制限酵素Sau3AIで部分消化した後、コスミドベクターSupercos I(Stratagene)とライゲーションした。その産物をGigapack III XL(Stratagene)を用いてパッケージングし、大腸菌XL1−Blueに感染させた。このように作製したコスミドライブラリーを、PEG8 cDNAをプローブとしてスクリーニングした。3.SNPsを用いたゲノム欠失領域の解析 Dspd変異を持つ(C57BL/6xDBA2)F1マウスを、ICSIによって作製した。得られたF1マウス(Tg(+),Tg(−)それぞれ3匹ずつ)からゲノムDNAを採取し、DBA2とC57BL/6の間に多型のある配列をPCRで増幅し、PCR産物の配列をdirect sequencing法で読むことで多型の有無を確認した。マウス系統間の多型情報はCelera Genomics社のデータベース(Celera Discovery System, Celera Genomics, HYPERLINK http://www.celera.com/ http://www.celera.com/)から得た。解析に使用した多型の名称(mCV---)とプライマー配列は以下の通り。7番染色体mCV24660825:5'-CATGGGACTGTGATGGTAAC-3'(配列番号5),5'-GCATGTGTATCTGCTCAAGG-3' (配列番号6)mCV24854750:5'-ACACGCAGATGCTCTGTAG-3'(配列番号7),5'-ATGTATCTAACAGTGAAGGCC-3'(配列番号8)mCV237052395'-GAAGCATGCAAACACAGC-3'(配列番号9),5'-GTAAAGTCTGTGGTGCAGTG-3'(配列番号10)mCV22810840:5'-GCTGCTTTGACTTCTGCTC-3'(配列番号11),5'-AACTCTCCCAGGTTTGTT-3'(配列番号12)mCV24856115:5'-CCATGTATCAAAGCCAGG-3'(配列番号13),5'-GATCTGTCATTGA GTGTACCC-3'(配列番号14);mCV24317904:5'-TCGGAGCAGTAACTCTGTG-3'(配列番号15),5'-GGAGTACAGGTACTGCAGG-3'(配列番号16)mCV22532403:5'-GCAGGAGGTCACACTAAGC-3'(配列番号17),5'-AGTAAATGCAGAAATAGCTGG-3'(配列番号18)mCV22989836:5'-CCAAGGTTTCCAACAAAAG-3'(配列番号19),5'-ACCACCACCTATGTGATCAG-3'(配列番号20)14番染色体mCV24975960:5'-CAACTGTGTCACAGTATGG-3'(配列番号21),5'-GGTTTCTGGTGATTGTGG-3'(配列番号22);mCV22764767:5'-CTCCTGCTGTGATTGATCTC-3'(配列番号23),5'-TGCAGAGGATGAAAGATTGG-3'(配列番号24);mCV24986264:5'-TGTGCACACTGTAACAAACC-3'(配列番号25),5'-GCACTGTTTTGCATTGTTCC-3'(配列番号26);mCV24616564:5'-CTGCAGCCATAAAACTTCC-3'(配列番号27),5'-CAAGGGTCTTTATCACCAC-3'(配列番号28);mCV23859822:5'-TTCAGGTTGCTTGTAAGCC-3'(配列番号29),5'-TAAGCAGGAGTGA TTGCTG-3'(配列番号30)[結果] FISH解析の結果、Dspdマウスの染色体には転座が起こっていることが明らかになった。7番染色体のテロメア近傍に14番染色体のC−E領域が結合した長い融合染色体と、14番染色体の近位部を含んだ短い染色体が観察された。トランスジーンは融合染色体の7番と14番の結合部に挿入されていた(図8(A))。調べた2個体(F1とF3各一個体)は同じ核型であった。このことは転座の結果生じた2本の異常染色体が対になって遺伝していることを示唆している。前章で述べた、Dspd変異を持つ雌の一回の出産数が少ない傾向(平均3.0匹)は、減数分裂時の異常染色体の組み合わせによって発生しない卵ができてしまうことによる可能性が高い。ゲノミックライブラリーから単離したトランスジーンに隣接する配列は7番染色体と14番染色体にマップされた。これはFISHの結果と矛盾しない。続いて、トランスジーン挿入部位にゲノムの欠失が起こっているかどうかを調べるために2つのマウス系統(C57BL/6とDBA2)間のSNPsを用いてアリルの有無を調べた。SNPsのマッピング情報と名称はCelera genomics社のデータベースに基づいた。SNPs解析の結果を図8(B)にまとめた。 14番染色体については、調べた全てのマーカーについて、C57BL/6(B6)とDBA2(D2)両方のアリルを検出した。トランスジーンとマウスゲノムの結合部(Tg-genome ジャンクション)から、最も近いマーカーであるmCV24616564までの物理的距離はおよそ1メガベース(Mb)である。これはこの領域に1Mbを超える欠失は生じていないことを示している。従って、最も近くにマップされている遺伝子Sftpdは両アリルとも揃っている。Tg-genomeジャンクションからmCV24616564までの1Mbは現在のところ解析できていない。これはこの領域が反復配列を多く含んでおり、ゲノム配列が未完成であることによる。しかし、この領域のドラフト配列を調べた結果から、機能を持った遺伝子がある可能性は低いと考えている。一方で7番染色体の変異部位では、Tg-genomeジャンクションよりも遠位側(テロメア側)ではD2アリルのみが検出された。ジャンクションよりも近位側にある遺伝子Dhcr7近傍のマーカーでは両アリルが検出された。mCV24854750からmCV22532403までの全てのマーカーではB6アリル(すなわち転座が生じている異常アリル)の欠失が起こっていた。ジャンクションからmCV22532403(欠失している最も遠いマーカー)までの距離はおよそ1.2Mbである。よりテロメア寄りのマーカーmCV22989836で再びB6アリルを検出した。これは7番染色体の、ジャンクションからmCV22532403までの1Mbを超える領域が欠失していることを示している。mCV22532403とmCV22989836の間には遺伝子はマップされていない。これらのデータからDspdマウスの変異部位を図9にまとめた。7番染色体はトランスジーンを介して14番染色体C−E領域と結合している。14番染色体近位部は7番染色体のテロメアと結合していると思われる。7番染色体テロメア近傍の1Mbを越える領域が欠失している。14番染色体には少なくとも1Mbよりも大きな欠失は見られない。 7番染色体の欠失領域には6個の既知遺伝子(Cttn,Fadd,Fgf3,Fgf4,Fgf15,Ccnd1)と、少なくとも5個の機能未知遺伝子(LOC233977,AU040576,2210010N10Rik,BC025890,BC019711)が存在する。既知の遺伝子のうち、Cttnを除く5個の遺伝子(Fadd,Fgf3,Fgf4,Fgf15,Ccnd1)についてはノックアウトマウスの報告があり、精子形成に関する異常は報告されていない[Yeh WC, Pompa JL, McCurrach ME, Shu HB, Elia AJ, Shahinian A, Ng M, Wakeham A, Khoo W, Mitchell K, El-Deiry WS, Lowe SW, Goeddel DV, Mak TW. FADD: essential for embryo development and signaling from some, but not all, inducers of apoptosis. Science 1998; 279: 1954-1958、Zhang J, Cado D, Chen A, Kabra NH, Winoto A. Fas-mediated apoptosis and activation-induced T-cell proliferation are defective in mice lacking FADD/Mort1. Nature 1998; 392: 296-300、Mansour SL, Goddard JM, Capecchi MR. Mice homozygous for a targeted disruption of the proto-oncogene int-2 have developmental defects in the tail and inner ear. Development 1993; 117: 13-28、Moon AM, Boulet AM, Capecchi MR. Normal limb development in conditional mutants of Fgf4. Development 2000; 127: 989-996、Ornitz DM, Itoh N. Fibroblast growth factors. Genome Biol 2001; 2: REVIEWS3005、Sicinski P, Donaher JL, Parker SB, Li T, Fazeli A, Gardner H, Haslam SZ, Bronson RT, Elledge SJ, Weinberg RA. Cyclin D1 provides a link between development and oncogenesis in the retina and breast. Cell 1995; 82: 621-630](表1参照)。 したがってこれらの5遺伝子の欠失は、少なくともそれぞれ単独では、Dspdの表現型を説明できない。しかし、複数の遺伝子の欠失が組み合わされて精子形成異常を引き起こす可能性は否定できない。Fadd,Fgf4,Fgf15のホモ変異マウスは胎児期に致死(但しヘテロでは異常なし)であることが報告されていることから、Dspdのホモ変異体は、もし作られたとすると、胎児期致死であることが予想される。他の5個の機能未知遺伝子が表現型に寄与している可能性は現在のところ排除できない。これらのなかで、アミノ酸配列から、LOC233977はレセプタータイプのprotein tyrosine phosphatase、BC025890は膜6回貫通型のイオンチャンネルタンパク質、BC019711はGタンパク質共役受容体であると予想された。欠失が見られたマウス7番染色体遠位部はヒト11番染色体長腕(11q13)と相同性が高く、遺伝子の配列もほぼ完全に保存されている。従って、ヒトでも11q13の欠失によって、Dspdマウスと同様の組み合わせで遺伝子の欠失が起こり得る。しかし、現在までに11q13とヒトの男性不妊の関連は報告されていない。Dspdの表現型の責任遺伝子として、様々な可能性が残されているものの、その局在と予想される機能からCttn遺伝子が最も有力な候補であると考えられる。Cttnはアクチン結合タンパク質であるコートアクチンをコードしている。コートアクチンは細胞内からのリン酸化シグナルを受け取って、アクチン細胞骨格の制御を行なうタンパク質であると考えられている。(Dspdマウスで片アリル欠失していたコートアクチンの解析) Dspdマウスにおいて片アリルの欠失が見られたCttn遺伝子とその産物であるコートアクチンタンパク質について解析した。また、ラット精巣においてコートアクチンが精子細胞周辺に局在しているという報告[Chapin RE, Wine RN, Harris MW, Borchers CH, Haseman JK. Structure and control of a cell-cell adhesion complex associated with spermiation in rat seminiferous epithelium. J Androl 2001; 22: 1030-1052]があり、コートアクチンがDspdの原因遺伝子として有力な候補であると考えられた。また電子顕微鏡での表現型解析からDspdマウスではセルトリ細胞と精子細胞の相互作用に異常が起こっていると考えられ、そのことから考えてもアクチン細胞骨格の制御因子であるコートアクチンが関与している可能性が高い。そこで、まずReal−timeRT−PCR法およびウエスタンブロッティング法で、マウス精巣におけるCttn遺伝子とコートアクチンタンパク質の発現量を定量した。次にマウス精巣におけるコートアクチンタンパク質とアクチンの局在を調べ、正常マウスとDspdマウスを比較した。[実験方法]1.リアルタイムRT−PCR 実施例1記載の方法で精巣からRNAを抽出し、全RNAからcDNAを合成した。ABI PRISM 7700システムを使用して下記の手順でRT−PCRをおこない、得られた増幅曲線からcDNAサンプル中のCttnおよびDhcr7のコピー数を計算した。内部コントロールとしてGapdhを用いた。 生後10週齢のTg(+)(Dspd/wt)2個体とTg(−)(wt/wt)4個体を解析した。一個体あたりCttn,Dhcr7とGapdhそれぞれ4回の測定を行い、Cttn,Dhcr7の測定値(コピー数)をGapdhの測定値(コピー数)の平均値で除した。正常マウスの一匹(wt/wt_1)の発現量を1とし、各個体の相対値をグラフに示した。各個体のCttn/Gapdh値(相対値)から、等分散を仮定したunpaired t-test(有意水準0.01)によってDspd/wtとwt/wtの有意差を検定した。2.リアルタイムPCR(ABI PRISM 7700 Sequence Detector使用)(1)スタンダードDNA(Cttn,Gapd)の希釈系列(2×105、2×104、2×103、2×102、2×101 copy/μl)を作製した。(スタンダードDNAは、PCR産物をTAクローニングしたプラスミドDNAを、セシウム密度勾配遠心法で精製したものを使用した。)(2)調製したcDNAを1ng/μlに希釈した。(3)反応液調製:鋳型5μl(従って、スタンダードDNAは反応あたり106、105、104、103、102コピー、cDNAは5ngとなる。)、プライマー(100pmol/μl)各0.125μl、SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)12.5μl、超純水7.5μl(4)95℃で10分間変性し、95℃で15秒間、65℃で30秒間、72℃で1分間を40サイクル繰り返す条件でPCRを行ない、増幅曲線を得た。使用プライマーCttn_F:5'-TCTTGGACCTGCTCATGAC-3'(配列番号31)Cttn_R:5'-GCATTGATCCTCATGTATCCC-3' (配列番号32)Dhcr7_F:5’−AGAACGTATCACCAGTCAGTGG−3’ (配列番号33)Dhcr7_R:5’−CCTGCAAGGCTAAGATAAGCC−3’ (配列番号34)Gapdh_F:5'-CACTCTTCCACCTTCGATGC-3' (配列番号35)Gapdh_R:5'-CTCTTGCTCAGTGTCCTTGC-3' (配列番号36)3.ウエスタンブロッティングによるコートアクチンタンパク質定量 10週齢のマウス精巣から以下の方法で抽出液を調製した。摘出したマウス精巣を1mlの抽出バッファー(25mM HEPES,100mMKCl,12mM MgCl2,0.5mM EDTA,2mM DTT,17%グリセロール)中でホモジェナイズした。15,000rpm,4℃,10分間の遠心を行い、上清(可溶性画分)を回収した。この調製した精巣抽出液を10%SDS−ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEを行い、メンブレンに転写した後、以下の手順でタンパク質を検出した。タンパク質量の内部コントロールとしてDNA ligase IIIを用いた。DNA ligase IIIは精巣ではパキテン期の精母細胞で発現している[ Chen J, Tomkinson AE, Ramos W, Mackey ZB, Danehower S, Walter CA, Schultz RA, Besterman JM, Husain I. Mammalian DNA ligase III: molecular cloning, chromosomal localization, and expression in spermatocytes undergoing meiotic recombination. Mol Cell Biol 1995; 15: 5412-5422、Mackey ZB, Ramos W, Levin DS, Walter CA, McCarrey JR, Tomkinson AE. An alternative splicing event which occurs in mouse pachytene spermatocytes generates a form of DNA ligase III with distinct biochemical properties that may function in meiotic recombination. Mol Cell Biol 1997; 17: 989-998]。Dspdマウスの精母細胞は正常であるため、コントロールとして問題はない。4.ウエスタンブロッティング 5%スキムミルクを含むTBS−T中で、室温1時間のブロッキング反応を行った後、TBS−T洗浄(15分×3)を行った。抗コートアクチン抗体(Rabbit, polyclonal, Cell Signaling社 #3502)を1:500、DNA ligase III抗体(Mouse, polyclonal, GeneTex社 MS-LIG30UP50)を1:1000の希釈率で5mlPBS−MLK(3%スキムミルクを含むPBS)に希釈し、メンブレンに乗せ、室温3時間の一次抗体反応を行った後、TBS−T洗浄(15分×4)を行った。それぞれの一次抗体に結合する二次抗体(Horse radish peroxidase結合)で二次抗体反応した後、TBS−T洗浄(15分×4)を行った。次いで、ECL-Plus Western blotting detection system(Amersham)を使用してタンパク質を検出した。5.抗体染色によるコートアクチンの局在解析 マウスから、10倍希釈したネンブタール麻酔液(ダイナボット)による麻酔下で、臓器を摘出した。速やかにカミソリで割面を入れ、固定液(20%ホルマリン、5%ショ糖)に浸漬し、途中数時間に一度固定液を交換しながら一晩震盪固定した。定法に従いパラフィン包埋し、切片(3〜4μm厚)を作製した。切片をキシレン中での脱パラフィン、エタノール溶液中での置換の後、以下の手順で抗体染色した。(1)抗原賦活化:1mM EDTA(pH8.0)中で98℃,10分間加熱後、室温にて30分間放置した。その後PBSで洗浄した。(2)内在性ぺルオキシダーゼの阻害:1%H2O2中で室温にて10分間処理した後PBSで洗浄した。(3)正常血清処理:5%正常ヤギ血清(NGS)にて室温5分間処理した。(PBS洗浄なし)(4)一次抗体反応:抗コートアクチン抗体(ウサギポリクローナル,Cellsignaling社より市販されている,#3502)を0.1%BSA/PBS溶液にて50倍に希釈した。一次抗体溶液を組織に乗せ、室温にて1時間反応させた後PBSで洗浄した。(5)二次抗体反応:二次抗体としてanti-rabbit ENVISION Plus(DAKO Glostrup)を用いた。再度5%NGSで処理した後、二次抗体溶液を組織に乗せ、室温にて1時間反応した後PBSで洗浄した。(6)発色(DAB反応):発色液(100mlの0.05M Tris−Cl(pH7.6)+20mg DAB(3,3-diaminobenzidine,DOTITE)+65mg sodium azide)中にて、3分間の反応を行なった。(7)核染色・封入:メチルグリーンにて核染色を行ない、定法により封入した。6.ローダミン−ファロイジン染色によるアクチンの局在解析 マウスから麻酔下で精巣を摘出し、カミソリで割面を入れた後、4%パラホルムアルデヒド(PFA),5%ショ糖/PBS中で一晩の震盪固定を行なった(途中2回固定液を交換)。続いてショ糖/PBS溶液中で震盪し、PFAを洗浄した。数時間ごとに溶液を交換し、段階的にショ糖の濃度を上げていった(10%,15%,20%,25%:各二回ずつ)。その後、組織を液体窒素で冷却したイソペンタン(=ジメチルブタン)中でOCTコンパウンドに包埋した。作製した凍結ブロックを薄切し(5〜10μm厚)、切片を作製した。このように作製した固定凍結切片を以下の手順で染色した。7.ローダミン−ファロイジン染色 切片をPBSで洗浄の後、0.1%NP40を含むPBS(−)で室温5分間処理し、再びPBS洗浄し、ローダミン−ファロイジン染色液(5μM Rhodamine-Phalloidin(Molecular Probes社, Cat#R-415)+5%BSA/PBS)にて室温で30分間の処理(遮光)を行なった後、PBSで洗浄し、核染色液(1μg/ml DAPIを含むPBS)で室温2時間処理(遮光)した後、PBS洗浄し、褪色防止剤入り封入剤(0.05M Tris−Cl(pH9.0),10%ポリビニルアルコール,5%グリセロール,2.5% DABCO)にて封入後、蛍光顕微鏡にて観察した。[結果] リアルタイムRT−PCR法での定量の結果、Dspdマウスの精巣において、Cttn遺伝子の発現量が正常個体に比べ有意に減少していた(P<0.01)(図11(A))。Dhcr7遺伝子には減少は見られなかった。さらに抗コートアクチン抗体によるウエスタンブロッティング解析で、コートアクチンタンパク質が減少していることを確認した(図11(B))。この結果はCttn遺伝子が片アリル欠失しているというSNPs解析の結果を支持するものである。コートアクチンタンパク質の抗体染色の結果(図12)、正常マウス精細管においては全ステージの精細管周辺部に比較的弱い陽性像が見られた。これはセルトリーセルトリ間のTight junctionに含まれるものと思われる。ステップ8〜15伸長精子細胞周辺にも中程度の陽性像が見られた。さらにステップ16成熟精子細胞付近に強いドット状の陽性像が見られた(図13(A, inset))。これら伸長精子細胞周辺の局在は、コートアクチンが精子形態形成の過程で機能していることを示唆している。コートアクチンの局在は、ほとんど細胞質を持たないステップ16精子細胞の頭部とドット状の陽性像が必ずしも重なっていないことから、精子細胞ではなく、セルトリ細胞中の局在であると考えている。精巣以外の臓器では、特に小脳顆粒層と腎臓尿細管周辺に特徴的な局在を認めた。コートアクチンはmRNAレベルでは、ほぼ全ての組織で普遍的に発現しているが、タンパク質レベルでは組織ごとに異なる局在を示し、それぞれの組織において異なる役割を持っていることが示唆された。 Dspdマウスの精細管においては、精細管全体に弱い陽性像が見られたものの、精子細胞周辺の強い局在が見られなかった。Dspdマウス精細管には、少数のステップ16成熟精子細胞も見られたが、それらの周辺にもコートアクチンのドット状の局在が認められなかった。この結果はDspdマウス精巣において、コートアクチンの局在に異常が生じていることを示している。この局在の異常がコートアクチン自身の片アリル欠失および発現量低下に起因するものか、因果関係は不明である。小脳,腎臓での局在には異常は認められなかった。伸長精子細胞周辺のコートアクチンの局在はDspdマウスにおいて、精子細胞の異常(核の異常形態、上皮からのはく離)が起こる時期とよく一致していた。さらに、ステップ16精子細胞近傍のドット状のシグナルはコートアクチンが何らかの構造体を作っていることを示唆している。この構造体は精子細胞とセルトリ細胞の接着に重要な役割を果たしており、Dspd精巣ではその構造体が作られないためにセルトリ細胞と精子細胞の接着が不十分であると考えられる。 続いて正常マウス精巣に対してローダミン−ファロイジン染色を行ったところ、ステージごとに異なるアクチンの局在を示した。ステージIII-IVの精細管において精上皮中に存在する伸長精子細胞(ステップ15)の周辺に強いアクチンの集中が見られた。これは特殊接合装置に含まれるアクチンである。ステージVII-VIIIの精子細胞(ステップ16)の近傍にもアクチンの集中が見られた。円形精子細胞のアクロソームにもアクチンのシグナルが得られた。これはアクロソームの形成にアクチンが機能していることを示唆している。また、全てのステージで基底部付近のセルトリ−セルトリ結合部(血液精巣関門,BTB)にアクチンが局在していた。これらの観察は、アクチンが精子細胞の変形から完成精子の放出にかけて重要な役割を担っていることを示している。Dspd精細管においては、伸長精子細胞数の減少、精子細胞の配列の乱れが見られた。また精上皮中に空隙が目立った。空隙は本来なら精子細胞があるべき場所から精子細胞がはく離してしまった為に生じていると考えられる。数少ない伸長精子細胞(形態は異常なものが多い)の周辺には正常精巣と同様にアクチンの集中が見られた。しかし伸長精子細胞に附随しない、正常には見られない位置にも異常なアクチンの集中が見られた。アクチンの乱れはセルトリ細胞の形態が乱れていることを反映していると思われる。それがコートアクチンの減少によるものかどうか因果関係は不明であるが、コートアクチンがセルトリ細胞骨格の制御に関わっており、その減少によってセルトリ細胞が正常なかたちを保てなくなっているという可能性が考えられる。(Dspdマウス精巣へのコートアクチン遺伝子の導入) 正常マウス精巣で発現しているコートアクチン−A又は−Bと、マーカーとしてEGFPを共発現するプラスミドベクターを作製し、Dspdマウス精巣にインビボエレクトロポレーション法により導入した結果、セルトリ細胞および生殖細胞でのEGFPとコートアクチンの発現を確認した(導入後一週間)(図14参照)。(考察) 上記実施例2及び3で述べたように、Dspdマウスでは7番染色体のCttn遺伝子を含む領域が片アリル欠失しており、Cttnの発現量が半減していた、また精巣におけるコートアクチンタンパク質およびアクチンの局在に異常が見られた。 前述したように、減数分裂後の精子細胞は大きな形態の変化を経て完成精子となる。セルトリ細胞は精子細胞の変化と同時にその形態を変える。セルトリ細胞の動きがどのように精子細胞の形態形成に関わっているかはまだ充分な知識が得られていないが、セルトリ細胞の変性が精子細胞の異常につながることは、精巣毒性の研究から示されてきた。精子形態形成の過程ではセルトリ細胞は精子細胞の変形や、管腔への移動と合わせてその形を大きく変える必要がある。コートアクチンの局在は、そのセルトリ細胞のダイナミックな変化を制御するために必要である可能性が高い。 コートアクチンの局在はESの構成タンパク質の一つであるespinの局在と類似している [ Bartles JR, Wierda A, Zheng L. Identification and characterization of espin, an actin-binding protein localized to the F-actin-rich junctional plaques of Sertoli cell ectoplasmic specializations. J Cell Sci 1996; 109 ( Pt 6): 1229-1239]。またコートアクチンは精巣において、これもESに含まれるβ1−integrinと相互作用することが報告されている[31]。さらに、コートアクチンはSrc protein kinasefamilyに属するFynによってリン酸化を受けることが知られているが、Fynノックアウトマウスは生後3〜4週齢でES構造の異常を示すことが報告されている [ Maekawa M, Toyama Y, Yasuda M, Yagi T, Yuasa S. Fyn tyrosine kinase in Sertoli cells is involved in mouse spermatogenesis. Biol Reprod 2002; 66: 211-221]。これらの知見はコートアクチンのES構造への関与を示唆しており、コートアクチンの異常がESの異常につながることを示している。 Dspdが優性の変異であることは興味深い。遺伝子の欠失はホモにした時のみ表現型として現れることが多いが、いくつかの構造タンパク質や、複合体のコンポーネントは片アリル欠失による発現量の減少で表現型が現れることが知られている(haploinsufficiency)。例えば、desmosomal plaqueの主要な構成タンパク質であるdesmoplakinは片アリル欠失によって掌蹠(しょうせき)角皮症(palmoplantar keratoderma)を引き起こすことが示されている [ Armstrong DK, McKenna KE, Purkis PE, Green KJ, Eady RA, Leigh IM, Hughes AE. Haploinsufficiency of desmoplakin causes a striate subtype of palmoplantar keratoderma. Hum Mol Genet 1999; 8: 143-148]。また、post-synaptic densityのコンポーネントであり、コートアクチンと直接相互作用しているshank3のhaploinsufficiencyは精神遅滞等の原因であると考えられている[Boeckers TM, Bockmann J, Kreutz MR, Gundelfinger ED. ProSAP/Shank proteins - a family of higher order organizing molecules of the postsynaptic density with an emerging role in human neurological disease. J Neurochem 2002; 81: 903-910、Wilson HL, Wong AC, Shaw SR, Tse WY, Stapleton GA, Phelan MC, Hu S, Marshall J, McDermid HE. Molecular characterisation of the 22q13 deletion syndrome supports the role of haploinsufficiency of SHANK3/PROSAP2 in the major neurological symptoms. J Med Genet 2003; 40: 575-584]。これらと同様にコートアクチンもhaploinsufficiencyによって影響が現れている可能性がある。 構造体が動的なものであった場合、つまり構造体に含まれる分子が速い速度で入れ替わっている場合、構造体を維持する為に、細胞内に一定のタンパク質濃度が必要である場合がある。アクチンフィラメントは動的な構造であり、フィラメントの長さが変わらないように見えるときでも、連続的にアクチン分子が片方の端に重合し、もう一方の端から解離するという平衡状態を保っている(トレッドミル状態)。アクチンの重合速度は細胞内のアクチン分子濃度に依存しており、ある濃度で、重合と解離の速度が等しくなり平衡状態となる。 免疫染色の結果から、コートアクチンは、セルトリ細胞と精子細胞の接点でアクチンフィラメントの制御を行なっていると考えられ、その構造体はアクチンフィラメントの動きに対応する動的なものであることが考えられる。それを維持するためにはセルトリ細胞内にある閾値以上のコートアクチン濃度が必要である可能性がある。他にもDspdの優性を説明し得るいくつかの可能性が残っている。1)トランスジーンの挿入やゲノムの欠失がある遺伝子の一部のみを破壊した場合、正常な遺伝子産物の機能を拮抗的に阻害するdominant negativeタイプのタンパク質が生じる可能性がある。この可能性を検証するため、トランスジーン挿入部位および欠失領域の端に遺伝子を探したが、現在までにこのような遺伝子は見つかっていない。2)また染色体転座やトランスジーン(エンハンサーを含んでいる)の挿入が、周辺の遺伝子の発現に影響を及ぼす可能性もある。少なくともDhcr7に関しては正常個体と同じレベルの発現量であることがリアルタイムRT−PCR法で確認された(図10参照)。他の変異部位周辺に存在する遺伝子(Sftpd,Rbmxrt)に関しては、通常のRT−PCRで、全て正常個体精巣で発現しており、Dspd精巣でもほぼ同じレベルの発現量であることを確認した。3)ゲノミックインプリンティング(genomic imprinting)は父親由来と母親由来のゲノムに機能的な差異が生じる現象であり、インプリンティングを受ける遺伝子に関しては片アリルの変異が表現型に現れ易い。Dspdの変異部位は7番染色体遠位部のインプリンティング領域に近く、インプリンティングの関与が考えられた。しかしDspd変異を父親・母親どちらから受け継いでも同じ表現型を示すことから、この可能性は排除できると思われる。マウス精細管の構造を示す図である。内分泌系による精巣機能の調節を示す概略図である。マウスセルトリ−精子細胞 特殊接合装置を示す概略図である。セルトリ細胞と伸長精子細胞の間には、アクチン層を含む特殊な構造(ectoplasmic)が見られる。セルトリ細胞膜の内側にアクチンの層があり、精子細胞側の構造であるアクロソーム(Ac)を囲んでいる。ES構造の機能は不明であるが、精子細胞の形態変化をサポートし、適切な時期の放出までセルトリ細胞と精子細胞の接着を維持するのに必要であるとされている。マウス精子形成サイクル(Lonnie D.Russel et al.,Evaluation of the Testis より、一部改変) を示す図である。マウスの場合、精細管のステージはI−XIIまでの12段階に分けられている。ある精細管の断面には縦に並んだ種類の細胞の組み合わせが見られる。精祖細胞 (spermatogonia)の自己増殖と精母細胞への分化(青ワク)、精母細胞 (spermatocyte)の減数分裂(緑ワク)を経て、半数体の精子細胞 (spermatid)となる。精子細胞は大きな形態の変化を経て完成精子となる(赤ワク)この過程のことを spermiogenesis と呼ぶ。精子細胞の分化段階はステップ1〜16までの数字で表されている。PEG8トランスジーンやPEG8トランスジェニックマウスの家系を示す図である。Dspdマウス精巣,精巣上体を示す図である。Dspdマウス精細管では、伸長精子細胞の数が減少していた。また精子細胞の奇形が見られた。(A),(C)正常マウス精巣上体は完成精子で満たされているが(F),(H)、Dspdマウス精巣上体では精子数が減少していた。(E),(G)A,B,E,G Bar=100μm,C,D,G,H Bar=200μm,insets Bar=5μmDspdマウスのES構造を示す図である。Dspdマウスの変異部位を示す拡大図である。赤い矢印はゲノミックライブラリーからクローニングしたTg とゲノムのジャンクションを表している。7番染色体と14番染色体の長い融合染色体をピンクの線で、14番染色体近位部を含む短い染色体をブルーの線で表している。ブルーの点線はゲノム配列が完成しておらず解析できなかった領域を表している。7番染色体はトランスジーンを介して14番染色体C−E領域と結合している。14番染色体近位部は7番染色体のテロメアと結合していると思われる。7番染色体テロメア近傍の1Mbを越える領域が欠失している。14番染色体には少なくとも1Mbよりも大きな欠失は見られない。14番染色体変異部位の最も近くにある遺伝子Sftpdは欠失していない。コートアクチンの構造と機能を示す拡大図である。Dspdマウス精巣におけるコートアクチンの発現量を示す図である。Dspdマウス精巣におけるコートアクチンの発現量を示す図である。精細管におけるアクチンの局在を示す図である。正常マウス精細管では伸長精子細胞周辺に強いアクチンの局在を認めた。特にステップ15精子細胞周辺に強いアクチンの集中が見られた(A)−(C)。これはspermiogenesis の過程にアクチンが重要な役割を果たしていることを示唆している。Dspd精巣においては異常なアクチンの集中が見られた(I,L矢印)。精子頭部(H矢印)には正常精巣と同様にアクチンの集中が見られた。コートアクチン抗体染色の結果を示す図である。インビボエレクトロポレーション法によるマウス精巣への遺伝子導入を示す図である。Dspdマウス病態モデルを示す図である。コートアクチンの発現量の低下により、コートアクチンを含む構造体が正常に作られない。その結果アクチン繊維の制御が乱れ、ES構造の異常が起こり、精子細胞の奇形や精上皮からのはく離が起こる。 コートアクチンをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、コートアクチンを発現する機能が低下した、あるいは失なった非ヒト動物からなることを特徴とする男性不妊症モデル動物。 遺伝子変異を片アリルに有することを特徴とする請求項1記載の男性不妊症モデル動物。 歩行異常などの行動異常を示すことを特徴とする請求項1又は2記載の男性不妊症モデル動物。 非ヒト動物がマウスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の男性不妊症モデル動物。 マウス精細胞(独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター寄託番号01136)を用いて作製されたことを特徴とする請求項4記載の男性不妊症モデル動物。 コートアクチンをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、コートアクチンを発現する機能が低下した、あるいは失なった非ヒト動物から採取した精子細胞を野生型未受精卵に注入して培養後の4〜8細胞胚を、偽妊娠させた非ヒト動物の卵管に移植し、産仔を得ることを特徴とする男性不妊症モデル動物の維持・継代方法。 非ヒト動物がマウスであることを特徴とする請求項6記載の男性不妊症モデル動物の維持・継代方法。 精子細胞がマウス精細胞(独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンターに寄託番号01136)であることを特徴とする請求項7記載の男性不妊症モデル動物の維持・継代方法。 請求項1〜5のいずれか記載の男性不妊症モデル動物に、被検物質を投与し、造精機能障害の症状改善の程度を測定・評価することを特徴とする男性不妊症の予防・治療剤のスクリーニング方法。 以下の(A)〜(F)の何れかの塩基配列からなる、その発現機能低下又は発現機能喪失が男性不妊症の原因となるタンパク質をコードするDNA。(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする塩基配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;(D)配列番号1に示される塩基配列;(E)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;(F)配列番号1に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアクチンとの結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列; 以下の(A)〜(C)の何れかのアミノ酸配列からなる、その発現機能低下又は発現機能喪失が男性不妊症の原因となるタンパク質。(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、かつ該アミノ酸配列からなるタンパク質がアクチンとの結合活性を有するアミノ酸配列;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ該アミノ酸配列からなるタンパク質がアクチンとの結合活性を有するアミノ酸配列; 検体中のヒトコートアクチン遺伝子の異常の有無を調べることを特徴とする男性不妊症の診断方法。 検体中のヒトコートアクチンタンパク質の異常の有無を調べることを特徴とする男性不妊症の診断方法。 ヒトコートアクチン遺伝子又はヒトコートアクチン遺伝子が発現ベクターにインテグレートされた組換えベクターを有効成分として含有することを特徴とするヒトコートアクチン遺伝子やヒトコートアクチンタンパク質の異常に起因する男性不妊症の治療薬。 請求項14記載の男性不妊症の治療薬を、精巣に投与することを特徴とするヒトコートアクチン遺伝子やヒトコートアクチンタンパク質の異常に起因する男性不妊症の治療方法。 【課題】 これまで技術的に維持・継代が困難であった優性精子形態形成不全が引き起こされ男性不妊症を再現できるモデル動物や、かかる男性不妊症モデル動物の維持・継代方法や、かかる男性不妊モデル動物を用いた男性不妊症の予防・治療剤のスクリーニング方法や、男性不妊症の原因物質のスクリーニング方法や、男性不妊症の診断方法などを提供すること。【解決手段】 コートアクチンをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、コートアクチンを発現する機能が低下した、遺伝子変異を片アリルに有するマウス等の非ヒト動物を男性不妊症モデル動物とする。例えば、男性不妊モデルマウスでは、セルトリ細胞中の特殊接合装置(ES)に含まれるアクチン繊維層に異常が生じており、伸長精子細胞の形態異常および精上皮からの剥離が起こっていた。配列表