生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_抗真菌剤
出願番号:2004367580
年次:2011
IPC分類:A61K 33/42,A61K 31/22,A61P 17/00,A61P 31/10


特許情報キャッシュ

柴 肇一 川添 祐美 JP 4783010 特許公報(B2) 20110715 2004367580 20041220 抗真菌剤 柴 肇一 598119197 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 深見 伸子 100120905 柴 肇一 川添 祐美 20110928 A61K 33/42 20060101AFI20110908BHJP A61K 31/22 20060101ALI20110908BHJP A61P 17/00 20060101ALI20110908BHJP A61P 31/10 20060101ALI20110908BHJP JPA61K33/42A61K31/22A61P17/00 101A61P31/10 A61K 33/42 A61K 31/22 A61P 17/00 A61P 31/10 CA/REGISTRY(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2003−089652(JP,A) 特開平09−110693(JP,A) 国際公開第2004/073715(WO,A1) DATABASE EMBASE ON STN,2002年,ACC.NO.2005394966 5 2006169217 20060629 11 20071121 松波 由美子 本発明は、真菌、特には白癬菌やカンジダ菌に対して優れた抗菌活性を有し、水虫などの皮膚真菌症の予防及び治療に用いることができる抗真菌剤に関する。 皮膚真菌症は、白癬菌属(Trichophyton)、カンジダ属(Candida)、小胞子菌属(Microsporum)、表皮菌属(Epidermophyton)などの真菌を原因菌とする皮膚疾患で、紅色菌(Trichophyton rubrum)と毛瘡菌(Trichophyton mentagrophytes)が原因となるものが80%を占める。皮膚真菌症は、原因菌の感染部位により頭部白癬、体部白癬、股部白癬、足白癬(水虫)、爪白癬、手白癬等に分けられる。上記原因菌は、皮膚角質層を分解する酵素を分泌し、その分解産物を栄養源として皮膚角質層内で増殖するが、この増殖に対する生体防御として炎症応答が惹起され、浸潤、発赤、かゆみなどの症状が起こる。 水虫に代表される表在性皮膚真菌症の治療には、一般的には抗真菌剤が用いられおり、代表的にはアゾール系(イミダゾール系、トリアゾール系)、アリルアミン系、チオカルバメート系、ベンジルアミン系、モルホリン系、抗真菌抗生物質(グリセオフルビンなど)がある。しかしながら、これらはそれ自体が皮膚を刺激し、発赤を惹起することもあり、また幅広い抗菌スペクトルを持っていても白癬菌に対しては必ずしも満足にいく抗菌活性を得られないなどの問題がある。 一方、ポリリン酸はもともと多くの生物種の組織内及び細胞内に含有されており、生体内で常に合成されている物質である(非特許文献1参照)。また、ポリリン酸の生体に対する安全性は古くから確かめられており、生体内で無毒なリン酸に分解される生分解性物質であることがわかっている。また、ポリリン酸は容易に化学合成でき、純度の高い原料から非常に安価に入手できる。ポリリン酸の生理機能は未知の部分が多いが、本発明者らのポリリン酸に関する一連の研究によって、ポリリン酸にはFGF等の細胞増殖因子のような生理活性タンパク質を安定化し、細胞の生理活動をコントロールする機能があることが見出された。具体的には培養細胞増殖促進作用、組織再生促進作用(特許文献1、非特許文献2)や、石灰化促進作用、骨分化誘導促進作用(特許文献2)が確認されている。また、さらなる研究の結果、ポリリン酸の組織再生促進作用を有効に発揮させるために、コラーゲンとの複合体にすることが提案されている(特許文献3)。 さらに、ポリリン酸には、防カビ、変色防止、ビタミンC分解防止、缶の腐食・黒変防止、食味向上、濁り防止などの多岐にわたる効果も知られており、醤油、ジュース類、缶詰類などに食品添加物としても利用されている。上記の防カビ作用に関するこれまでの報告としては、Penicillium expansum, Rhizopus nigricans, Botrytis sp.などのカビに対する生育抑制がある(非特許文献3)。しかしながら、上記のカビはいずれも食品に生えるカビであり、また、ポリリン酸の鎖長に関しては本文献には何ら記載がない。また、これまで水虫の原因となる白癬菌に対する抗菌活性については報告がない。特開2000-069961号公報特開2000-79161号公報特開2004-000543号公報H. C. Schroder et al., Inorganic polyphosphate in eukaryotes: Enzymes, metabolism and function, Progress in Molecular and Subcellular Biology, Vol. 23, 45-81, 1999T.Shiba et al., Modulation of Mitogenic activity of fibroblast growth factors by inorganic polyphosphate, The Journal of Biological Chemistry, Vol. 278, pp.26788-26792, 2003F. J. Post, W. S. Coblentz, T. W. Chou, and D. K. Salunkhe, Applied Microbiology vol. 16, 138-142, 1968 本発明の課題は、白癬菌に対して優れた抗菌活性を有し、かつ安全性に優れた水虫治療薬として用いることのできる抗真菌剤を提供することにある。 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、生体適合性があり、安全性の高いポリリン酸が、白癬菌に対して優れた抗菌活性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下の発明を包含する。(1) ポリリン酸を有効成分として含有する抗真菌剤。(2) ポリリン酸が、下記一般式:(式中、nは3〜800の整数を表す)で表される直鎖状リン酸の1種又は2種以上の混合物である、(1)に記載の抗真菌剤。(3) 式中のnが60〜300の整数である、(2)に記載の抗真菌剤。(4) ポリリン酸がポリリン酸塩である、(1)から(3)のいずれか記載の抗真菌剤。(5) ヒノキチオールをさらに含む、(1)から(4)のいずれかに記載の抗真菌剤。(6) 皮膚真菌症の予防及び治療のための、(1)から(5)のいずれかに記載の抗菌剤。(7) 皮膚真菌症が水虫である、(6)に記載の抗菌剤。 本発明によれば、白癬菌に対して優れた抗菌活性を有する抗真菌剤が提供される。本発明の抗真菌剤を水虫などの皮膚真菌症患部に適用すると、原因菌の増殖を顕著に阻害し、治癒に導くことができる。また、本発明の抗真菌剤は、生体適合性、生分解性があり、安全面においても優れている。 本発明の抗真菌剤は、ポリリン酸を有効成分として含む。 本発明において使用されるポリリン酸は、代表的にはオルトリン酸の脱水縮合によって2個以上のPO4四面体が頂点の酸素原子を共有して直鎖状に連なった構造を有する直鎖状ポリリン酸であるが、側鎖に有機基が導入された側鎖状ポリリン酸、環状ポリリン酸(メタリン酸)、枝分かれ状のリン酸重合体構造のポリリン酸、ウルトラリン酸、あるいはこれらの混合物であってもよい。 本発明において特に好適に使用されるポリリン酸は、一般式:(式中、nは3〜800の整数を表す)で表される直鎖状リン酸から選ばれる1種又は2種以上の混合物が挙げられる。 上記一般式中のnは3〜800、好ましくは15〜500、より好ましくは40〜300、最も好ましくは60〜300の整数である。 なお、鎖長が1000以上のポリリン酸は水溶液の形で存在することが確認できておらず、水に難溶性であると考えられるので好ましくない。また、生体内でポリリン酸の鎖長は約800であるから、鎖長が800以下のポリリン酸が、生体内で種々の生理機能に関する高い有効性を持つと考えられる(K.D.Kumble and A.Kornberg, Inorganic polyphosphate in mammalian cells and tissues, The Journal of Biological Chemistry, Vol.270, pp.5818-5822, 1995)。 また、本発明においては、上記のポリリン酸の水酸基の水素が金属と置換した分子構造を有するポリリン酸塩を使用してもよく、金属としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。 本発明に使用するポリリン酸又はその塩は、1種類であってもよいが、複数種の混合物であってもよい。複数種のポリリン酸又はその塩には、重合度の異なるポリリン酸又はその塩、分子構造の異なるポリリン酸又はその塩、及び金属イオンの異なるポリリン酸塩を包含する。またポリリン酸とその塩とを両方包含してもよい。 上記のポリリン酸は、リン酸を加熱する方法、リン酸に五酸化リンを添加溶解する方法など、通常用いられる製法により製造することができる。 また、特に鎖長が20以上の中長鎖ポリリン酸は、本発明者らにより開発された以下の方法により製造することができる。まず、ヘキサメタリン酸塩を0.1〜10重量%、好ましくは10重量%となるように水に溶解する。このヘキサメタリン酸水溶液に、87〜100%エタノール、好ましくは96%エタノールを、ヘキサメタリン酸溶液とエタノールとの混合後の全体液量の1/10〜1/3量で、すなわちヘキサメタリン酸水溶液:エタノールが2:1〜9:1の体積比となる量で添加する。この混合溶液を十分に攪拌し、その結果析出する沈殿物を、限定するものではないが、遠心分離又はフィルター濾過等の分離方法を用いて水溶液成分と分離する。このようにして分離した沈殿物が中長鎖ポリリン酸である。このポリリン酸を続いて70%エタノールにより洗浄し、その後乾燥させる。このような分離操作で得られるポリリン酸の平均鎖長は60から70であり、10以下の短鎖ポリリン酸はほとんど含まれていない。従って、その分子量分布はリン酸残基数で10から150程度である。 本発明の抗真菌剤におけるポリリン酸の含有量は、例えば鎖長が60の場合、0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましく0.1〜5重量%、最も好ましくは0.1〜2重量%とすればよいが、ポリリン酸の鎖長に応じて適宜増減できる。 ポリリン酸又はその塩は、それ単独で、あるいは薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した形態の各種製剤に製剤化することができる。本発明の抗真菌剤に適した製剤形態としては、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、エアゾール剤、パップ剤等が挙げられる。 軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。また、エアゾール剤は、成分の溶液、懸濁液等を、容器に充填した液化ガス又は圧縮ガスの圧力により用時噴出して用いる外用製剤をいい、噴出形態は、霧状、粉末状、泡沫状、ペースト状等のいずれであってもよい。 上記の各製剤形態の本発明の抗真菌剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品、トイレタリー用品として提供できる。 これらの抗真菌剤は、通常用いられる方法(例えば日本薬局方に規定する方法(医薬品各条の製法、製剤総則)等)に従って調製することができる。上記の剤形で本発明の抗真菌剤を調製する場合、各剤形におけるポリリン酸の含有量は、前述の有効含有量が好ましい。 薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて賦形剤、増粘剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、保存剤、分散剤、乳化剤、ゲル化剤、色素、香料等を用いることができる。 本発明の抗真菌剤は、その抗真菌活性を増強するために、さらに、殺菌剤(例えばヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム、等)、抗炎症剤(例えば、グリチルリチン酸及び塩類、グリチルレチン酸、アラントイン等)、鎮痒剤(例えば、クロタミトン等)、抗生物質(アンフォテリシンB、イトラコナゾール、ナイスタチン、グリセオフルビン、フルコナゾール、フルシトシン、トリコマイシン)等の他の有効成分を含んでいてもよい。これらの併用成分は、対象とする真菌の種類、使用するポリリン酸の鎖長や使用量に応じて適宜選択さればよいが、特にヒノキチール、アンテフォテリシンBが好ましい。 また、併用成分の配合量については、抗真菌活性を増強する限り特に限定はされないが、例えばヒノキチオールを併用する場合、ポリリン酸ナトリウム:ヒノキチオール(濃度比率)の配合比を、例えば1:0.004〜1:0.02程度に調整すればよい。 本発明の抗真菌剤は、トリコフィトン(Trichophyton)、カンジダ(Candida)、に対して優れた抗菌作用を有する。従って、本発明の抗真菌剤は、真菌による感染症、すなわち皮膚真菌症の予防及び治療に好適に用いることができる。ここで、皮膚真菌症には、真菌の感染が角質・表皮といった皮膚の表層に留まる浅在性皮膚真菌症、及び、感染が真皮から皮下組織、さらに深部に及んだ深在性皮膚真菌症のいずれもが含まれ、例えば、足白癬(水虫)のほか、頭部白癬(俗称:シラクモ)、体部白癬(俗称:ゼニタムシ)、股部白癬(頑癬、俗称:インキンタムシ)、爪白癬、手白癬等、皮膚カンジダ症、癜風、マラセチア毛包炎、慢性粘膜皮膚カンジダ症、口腔カンジダ症、外陰部カンジダ症、陰嚢カンジダ症、皮膚クリプトコッカス症などが挙げられる。 本発明の抗真菌剤の用量は、特に限定はされず、患者の症状(皮膚真菌症の進行度)、年齢、投与経路、剤形等により適宜調整されるが、例えば、有効成分であるポリリン酸を、乾燥重量として1μg〜100mg、好ましくは10μg〜10mgを1回あたりに使用すればよい。皮膚への局所投与の場合、例えば、一日1回又は数回に分けて適用することが好ましい。 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。(製造例1)ポリリン酸(中鎖ポリリン酸)の製造 食品添加物規格のヘキサメタリン酸ナトリウム20gを精製水200mlに溶解し、これに96%のエタノール32mlを徐々に加えた。これをよく攪拌し室温で30分ほど放置した後,遠心分離(10,000×g、20分、25℃)を行い、水溶液成分と沈殿物とを分離した。水溶液成分を廃棄し、回収した沈殿物に70%エタノールを加えて洗浄し、真空乾燥した。このようにして、9.2gの中鎖(平均鎖長40〜60)ポリリン酸塩を沈殿物として得た(収量46.0%)。(製造例2)ポリリン酸(長鎖ポリリン酸)の製造 50gの不溶性長鎖ポリリン酸ナトリウム(シグマ社製)を1リットルの0.2N塩酸水溶液に懸濁し、37℃で20分間攪拌しながら加水分解した。その後、5Nの水酸化ナトリウム40mlを加え中和した。中和後の液を遠心し、分解されていない不溶性の長鎖ポリリン酸ナトリウムを沈殿として分離した。加水分解後の水溶性長鎖ポリリン酸ナトリウムを含む上清に208mlのエタノールを加えて再び遠心し、水溶性の長鎖ポリリン酸(平均鎖長約300)を沈殿として回収した。 以下の実施例では、上記の製造例で得られた中長鎖ポリリン酸を用いた。(実施例1)ポリリン酸ナトリウムによる白癬菌の増殖阻害 Trichophyton mentagrophytes IFO 7522株を用い、ポリリン酸ナトリウムによる菌体増殖阻害効果を調べた。各最終濃度(0, 0.015, 0.03, 0.06, 0.125%)のポリリン酸ナトリウム(平均鎖長40)を含むポテトデキストロース寒天プレート(直径10 cm)を作製した。ポテトデキストロース寒天培地上で充分に生育したT. mentagrophytes IFO 7522株の菌糸をコルクポーラーを用いて型抜きし、直径8ミリメートルのディスク状に成形した。このディスクを上記の寒天プレートの中央に接種して25℃で培養を行い、菌体増殖の様子を視覚的に確認した。 図1に培養17日目における菌体増殖の様子を示した。ポリリン酸ナトリウム濃度0.06%以下では顕著な増殖阻害効果はみられなかったが、ポリリン酸ナトリウムを0.125%添加した場合では増殖が完全に阻害された。このことから、T. mentagrophytes IFO 7522株はポリリン酸ナトリウムによる増殖阻害を受け、この効果はポリリン酸ナトリウムの濃度に依存することがわかった。(実施例2)白癬菌の増殖阻害におけるポリリン酸ナトリウムの鎖長依存性 T. mentagrophytes IFO 5466株を用いて実施例1と同様の方法により、各種鎖長をもつポリリン酸ナトリウムの菌体増殖阻害効果について調べた。はじめに各最終濃度(0, 0.03, 0.06, 0.12%)の各種鎖長をもつポリリン酸ナトリウム [トリポリリン酸ナトリウム (P3)、平均鎖長15 (P15)、40 (P40)、60 (P60)、300 (P300)]を含むポテトデキストロース寒天プレート(直径6 cm)を作製した。比較群として同じ濃度のオルトリン酸 (P1)、及びピロリン酸 (P2) を含むプレートを作製した。次に、直径6ミリメートルのディスク状に成形したT. mentagrophytes IFO 5466株の菌糸を上記のプレート中央に接種して25℃で培養を行い、菌体増殖の様子をコロニーの直径を測定することにより経時的に観察した。同時にスキャナを用いて菌体の増殖を視覚的に確認した。 図2に各種濃度の各種鎖長をもつポリリン酸ナトリウムを添加した場合の菌体増殖を経時的に(培養後13、19、24、30日目)観察した結果を示した。ポリリン酸ナトリウム濃度0.03%においては比較群及びすべてのポリリン酸ナトリウム処理群において顕著な増殖阻害効果はみられなかった。ポリリン酸ナトリウム濃度を0.06%とした場合、トリポリリン酸ナトリウム(P3)以上の鎖長をもつポリリン酸ナトリウムで増殖阻害がみられ、特に平均鎖長60以上のものでその効果が顕著であった。培養日数が増えるに従って、鎖長の短いポリリン酸ナトリウムを含む培地でも菌体の増殖が確認されたが、鎖長の長いポリリン酸ナトリウムを含んだ培地ほど増殖阻害効果が長続きした。 また、この菌体増殖阻害効果はポリリン酸ナトリウム濃度にも依存しており、0.12%のポリリン酸ナトリウムを含む培地では平均鎖長15以上のポリリン酸ナトリウムを含む培地ではほとんど増殖が見られなかった。上記の結果から、ポリリン酸ナトリウムによる抗白癬菌活性はポリリン酸ナトリウムの鎖長(分子量)と濃度の両方に依存することがわかった。 実施例1と実施例2の結果より、ポリリン酸ナトリウムによる菌体増殖阻害効果は、T. mentagrophytes IFO 7522株とIFO 5466株の両方で確認された。(実施例3)白癬菌の増殖阻害におけるポリリン酸ナトリウムと抗菌性物質との相乗効果 T. mentagrophytes IFO 5466株を用い、菌体増殖阻害におけるポリリン酸ナトリウムと既存の抗菌性物質との相乗効果を調べるため、実施例1と同様の方法により菌体増殖阻害実験を行った。本実施例ではバクテリアのほかCandidaやTricophytonなどの真菌に対して抗菌活性をもつ物質として知られるヒノキチオールを用い、ポリリン酸ナトリウムと併用した場合のT. mentagrophytesの増殖阻害に対する相乗効果について調べた。各最終濃度(0, 0.00025, 0.0005, 0.001%)のヒノキチオール及び各種濃度(0, 0.03, 0.06%)のポリリン酸ナトリウム(平均鎖長40)を含むポテトデキストロース寒天プレート(直径10 cm)を作製し、直径6ミリメートルのディスク状に成形したT. mentagrophytes IFO 5466株の菌糸をプレート中央に接種して25℃で培養を行い、菌体増殖の様子をコロニーの直径を測定することにより経時的に観察した。同時にデジタルカメラ及びスキャナを用いて菌体の増殖を視覚的に確認した。 図3Aに培養27日目におけるT. mentagrophytes IFO 5466株の増殖の様子を示す。また、図3Bに図3Aで示したそれぞれの処理群における菌体増殖部分の直径を計測し、抗菌性を定量的に解析したグラフを示す。 図3A及びBより、T. mentagrophytes 5466株ではポリリン酸ナトリウムを0.03%添加した培地に各種濃度のヒノキチオールを加えても、この濃度範囲のヒノキチオールでは菌体増殖にはほとんど影響はなく、ヒノキチオール濃度に依存した抗菌性は確認できなかった。しかしながら、0.06%のポリリン酸ナトリウムを添加した場合にヒノキチオールとの濃度依存的な相乗効果がみられ、0.0005%ヒノキチオールと0.06%ポリリン酸ナトリウムの併用で増殖がほぼ完全に阻害された。 また表1はポリリン酸ナトリウム又はヒノキチオール単独、あるいはそれらの両方を含む培地におけるT. mentagrophytes IFO 7522株の増殖の様子(培養14日目)を、それぞれの処理群における菌体増殖部分の直径を計測し、薬剤を含まない培地で生育した菌体の直径を100%とした時の生育率(増殖阻害率)で表わしたものである。 0.03%のポリリン酸ナトリウムのみを含む培地では何も添加されていない培地(対照)の92.7%(低下率7.3%)の生育がみられ、0.00025%ヒノキチオールのみを含む培地では対照の94.5%(低下率5.5%)の生育がみられた。このことから、0.03%ポリリン酸ナトリウムもしくは0.00025%ヒノキチオールそれぞれ単独ではいずれも同程度のわずかな抗菌性しか示さないことがわかった。これに対して0.03%ポリリン酸ナトリウムと0.00025%ヒノキチオールの両方を含む培地では、菌体の生育は対照の70%(低下率30%)にまで低下した。また、0.06%のポリリン酸ナトリウムのみを含む培地では何も添加されていない培地(対照)の37.3%(低下率62.7%)の生育にとどまったが、これに対して0.06%ポリリン酸ナトリウムと0.00025%ヒノキチオールの両方を含む培地では、菌体の生育はさらに低下し、対照の16.4%(低下率83.6%)にまで低下した。 以上の結果から、T. mentagrophytes 5466株及びT. mentagrophytes IFO 7522株の両白癬菌においてポリリン酸ナトリウムとヒノキチオールの併用による菌体増殖抑制の相乗効果が確認できた。(実施例4)ポリリン酸ナトリウムによるカンジダ菌の増殖阻害 Candida albicans IFO 0579株を用い、ポリリン酸ナトリウムによる増殖阻害効果を調べた。各最終濃度(0, 0.06, 0.12%)のポリリン酸ナトリウム(平均鎖長40)を含むポテトデキストロース液体培地を作製した。ポテトデキストロース液体培地中で一晩培養を行い充分に生育したCandida albicans IFO 0579株を、上記のポリリン酸ナトリウムを含む液体培地に1/100希釈で接種して23℃で24時間振盪培養を行い、菌体増殖の様子を660 nmにおける培養液の濁度を経時的に測定することにより確認した。 菌体増殖の経時変化を図4に示した。ポリリン酸ナトリウム添加なしの培養液で培養した時の24時間後の増殖率を100%とし、それに対するポリリン酸ナトリウム含有培養液での相対的な増殖率を%で示した。その結果、培養液中にポリリン酸ナトリウムを0.06%添加した場合に増殖が完全に阻害された。このことから、Candida albicans IFO 0579株がポリリン酸による増殖阻害を受けることがわかった。(実施例5)ポリリン酸ナトリウムによる酵母菌の増殖阻害 出芽酵母(Saccaromyces cerevisiae)YPH499株を用い、ポリリン酸ナトリウムの増殖阻害効果について調べた。各最終濃度(0, 0.03, 0.06, 0.12, 0.25 %)のポリリン酸ナトリウム(平均鎖長40)を含むYPD液体培地を作製した。YPD液体培地中で一晩培養を行い充分に生育したYPH499を、上記のポリリン酸ナトリウムを含む液体培地に一定量接種して30 ℃で24時間振盪培養を行い、菌体増殖の様子を660 nmにおける培養液の濁度を経時的に測定することにより確認した。 図5に菌体増殖の経時変化を示した。ポリリン酸ナトリウム添加なしの22時間後の増殖率を100%とし、それに対するポリリン酸ナトリウム含有培養液での相対的な増殖率を%で示した。ポリリン酸ナトリウム濃度0.03%では菌体増殖に全く影響がなかったが、ポリリン酸ナトリウム濃度を0.06%とした場合、菌体増殖がポリリン酸ナトリウム添加なしの培養液の場合の64%に抑制された。また、ポリリン酸ナトリウム0.12%以上含む培養液では、菌体増殖が完全に阻害された。このことから、酵母菌であるYPH499株が白癬菌やカンジダ菌等の真菌類と同様にポリリン酸ナトリウムによる増殖阻害を受けることが確認できた。(実施例6)ポリリン酸ナトリウムによる抗真菌剤アンフォテリシンB(ファンジソン)の酵母菌増殖阻害効果の増強 出芽酵母(Saccaromyces cerevisiae) YPH499株を用い、ポリリン酸ナトリウム(平均鎖長40)による抗真菌剤アンフォテリシンB(ファンジソン)の抗菌効果の増強に関して調べた。YPH499株の一晩培養液を10-7倍までYPD液体培地で希釈し、その希釈液(0.1 ml)をファンジソン、ポリリン酸ナトリウム、ファンジソン及びポリリン酸ナトリウムを含むYPD寒天培地(プレート)上に塗布することによって菌体を播種した。30℃で一晩培養後、プレート上のコロニー数を計測し、薬剤を含まないYPD寒天培地上で生育したコロニー数を100%として、それぞれの薬剤を含むプレート上での菌の生存率を算出した。結果を表2に示した。 ファンジソン(50 ng/ml)のみを含む培地では、78%の生存率であり、わずかな抗菌性が見られた。またポリリン酸ナトリウム(0.06%)を含む培地では、寒天培地上での生育率は100%で抗菌性は見られなかった。液体培地では0.06%のポリリン酸ナトリウムで菌体の増殖抑制が見られたが、寒天培地では長時間培養後の状態での菌体数を計測しているので、この方法では増殖抑制に関しては観察できなかったものと考えられる。ファンジソン(50 ng/ml)及びポリリン酸ナトリウム(0.06%)を両方含む培地では、菌体の生存率は49.8%にまで減少し、両薬剤の相乗効果による抗菌効果の増強が確認された。またポリリン酸ナトリウムを0.24%加えた培地では、菌体の生存が確認されず、これにファンジソンを加えた場合も菌体は生存していなかった。各種濃度のポリリン酸ナトリウムによる白癬菌の菌体増殖阻害を観察(培養17日目)した結果を示す。各種濃度、各種鎖長のポリリン酸ナトリウムによる白癬菌の菌体増殖阻害を経時的に観察した結果を示す。ポリリン酸ナトリウムとヒノキチオール併用による白癬菌の菌体増殖阻害を観察(培養27日目)した結果を示す。ポリリン酸ナトリウムとヒノキチオール併用による白癬菌の菌体増殖阻害を定量的に解析したグラフを示す。各種濃度のポリリン酸ナトリウムによるカンジダ菌の菌体増殖阻害を経時的に観察した結果を示す。各種濃度のポリリン酸ナトリウムによる酵母菌の菌体増殖阻害を経時的に観察した結果を示す。 下記一般式:〔化1〕Hn+2(PnO3n+1)(式中、nは40〜300の整数を表す)で表される直鎖状リン酸の1種又は2種以上の混合物からなるポリリン酸を有効成分として含有し、その含有量が0.1〜5重量%である、抗白癬菌剤。 ポリリン酸がポリリン酸塩である、請求項1に記載の抗白癬菌剤。 ヒノキチオールをさらに含む、請求項1または2に記載の抗白癬菌剤。 ポリリン酸とヒノキチオールの配合比が濃度比で1:0.004〜1:0.02である、請求項3に記載の抗白癬菌剤。 足白癬(水虫)、頭部白癬(シラクモ)、体部白癬(ゼニタムシ)、股部白癬(インキンタムシ)、爪白癬、および手白癬から成る群から選択される皮膚真菌症の予防及び治療のための、請求項1から4のいずれか1項に記載の抗白癬菌剤。


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