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タイトル:特許公報(B2)_非ウィルス由来のエンハンサーと、cPPTと、CTSとを含むことを特徴とするベクター
出願番号:2004363338
年次:2011
IPC分類:C12N 15/09


特許情報キャッシュ

黄 科 JP 4766297 特許公報(B2) 20110624 2004363338 20041215 非ウィルス由来のエンハンサーと、cPPTと、CTSとを含むことを特徴とするベクター 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 本多 一郎 100096714 黄 科 20110907 C12N 15/09 20060101AFI20110818BHJP JPC12N15/00 A C12N 15/09 Science,2003年,Vol.302, No.5653,p.2088-94 Biochim. Biophys. Acta.,2001年,Vol.1517, No.2,p.236-42 Arch. Biochem. Biophys.,1997年,Vol.338, No.1,p.43-9 J. Biol. Chem.,1992年,Vol.267, No.29,p.20584-8 Mol. Endocrinol.,2000年,Vol.14, No.10,p.1682-95 Gene,1995年,Vol.167, No.1-2,p.267-72 Molecular Therapy,2002年,Vol.5, No.4,p.479-84 Molecular Therapy,2003年,Vol.7, No.2,p.281-7 7 2006166782 20060629 17 20071214 松田 芳子 本発明はエンハンサーに関し、詳しくはエンハンサーをベクターDNAに組み込み、ベクター中の遺伝子発現レベル、細胞への遺伝子導入効率を高めることを可能とするエンハンサーである。 遺伝子導入法には人体に直接遺伝子を導入する方法(in vivo法)と、一度体外に取り出した細胞に遺伝子を導入して、人体に戻す方法(ex vivo法)がある。 遺伝子導入法はいままで、物理的方法である微小注入法、電気穿孔法、遺伝子銃法、化学的方法であるリポソーム法、膜融合蛋白質―リポソーム法、リポフェクション法、カチオン性ペプチド法、リン酸カルシウム共沈法、DEAEデキストラン法、その他、エンドサイトーシス法、ウイルスを使う方法など数多く開発され、応用されている。 これらの方法はそれぞれ長所と短所があり、目的により方法を選択する必要がある。物理的方法は、安全性が高く、プラスミドDNAのサイズの制限がない。また、in vivoの場合には、血液中の酵素の分解作用、および尿からの排泄により、Naked核酸が生体内に残る時間は短いため、Naked核酸を細胞に導入する効率が非常に低い。 化学的方法ではウイルスを使う方法より安全性が高く、プラスミドDNAのサイズに制限がなく、物理的方法より導入遺伝子の発現効率が高いが、導入できる細胞は分裂細胞に限られ、また、遺伝子発現は一過性である。 ウイルスを使う方法は上記の方法に比べ安全性が劣るが、導入遺伝子の発現効率が最も高く非常に有用である。特に、レトロウイルス科のレンチウイルスベクターは分裂細胞にも非分裂細胞にも導入ができ、遺伝子発現の持続性を持っているため、最も遺伝子治療に応用されている。 遺伝子を細胞内に導入し、効率よく発現させるためには細胞質内への導入、核内移行、核内での遺伝子の維持および高効率の発現、こちら4つの段階を乗り越えなければならないため、遺伝子の核内運送システムの開発はますます重要になってくる。 例えば、核移行シグナル(nuclear localization signals)による核蛋白質の核内運送システムを利用した人工ウイルスベクターが開発された。DzauおよびカネダらはHVJ(hemagglutinating virus of Japan,Sendai virus)リポソームベクターを開発した。共導入する核蛋白質HMG-1 (high mobility group 1 protein)を用いている(特許文献1参照)。HMG-1は核内限定シグナルを持っておらず、DNAと結合し凝縮させ核移行を補助していると考えられる。しかし、HMG-1の精製はコストが高く、労力が必要となる。 MistryらはHMG-1の正電荷によって、DNAと結合する核内運送システムを開発したが、その導入効率は低い。核蛋白質HMG-1および-2はリポフェクション試薬に添加され、(株)ワコーバイオプロダクツ(Wako BioProducts)より市販されている。 Fritzらはcalf thymus histonesまたはSV40 NLSを含む組変え蛋白質、ヒトのヒストンH1(human histone H1)を利用し、DNAと結合するシステムを開発した。ただし、DNA―蛋白質の複合体が大きいため、核内への運送できず、細胞質内へしか運送することができない。 また、コストが低いという理由で核内限定シグナルを含む合成ペプチドも使われている。Hawley-Nelsonらは、SV40の核移行シグナル(NLS)を含む合成ペプチドをベクターDNAと混合させ、形成した複合体をリポフェクションに用いた(特許文献2)。しかし、NLSの認識配列がマスクされ、NLSによる導入効率の増加は認められなかった。 HIVおよび他のレンチウイルスをウイルス蛋白質により非分裂細胞に感染させ、核内運送システムによって、DNAを核内に運送することができる。HIV pre-integration complexに存在するVprおよびmatrix proteinにはNLSが含まれており、非分裂細胞に感染させるために必要であるアデノウイルスDNAがmajor capsid protein、hexonにより核内運送されている。HSV(Herpes simplex virus)のcapsid proteinに特異的に変異(mutation)させると、ウイルスDNAの核内運送が阻害される(Batterson et al., 1983)。SV40(Simian virus 40)DNAがVp3(viral protein)により核内運送される。 ウイルスベクターによる遺伝子治療は1990年に始められて以来、現在では世界で3000名を超える患者に施行されている。ウイルスベクターによる遺伝子導入技術の有力な手段として、セントラルポリプリントラクト(cPPT)・CTS、ウッドチャック肝炎ウイルス由来の転写後調節因子(WPRE:woodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory element)配列が広く応用されている。 WPREはウッドチャック肝炎ウイルスゲノムに含まれる転写後調制因子で、RNAを安定にし、発現を高める作用があり、レトロウイルスベクターでは293T細胞での遺伝子発現効率がコントロールと比較し5〜8倍となった(特許文献3参照)。WPREはレトロウイルスベクターだけではなく、AAV(adeno-associated virus) ベクター(非特許文献1参照)、アデノウイルスベクター(非特許文献2参照)にも高い遺伝子発現効率が確認された。 cPPT・CTS、WPRE両者を搭載したレンチウイルスベクターはヒト幹細胞(非特許文献3参照)、ヒト造血幹細胞(非特許文献4参照)にも高い遺伝子導入、発現効率が報告された。逆に、Philippe-Emmanuel Mangeotが指摘したように、WPREがヒト神経樹状細胞(Dendritic Cell)に対し、不利な作用を及ぼした(非特許文献5参照)。Priscilla Y. Yamも指摘したように、WPREはヒトリンパ球T細胞に対し、導入効率を少し高め、GFPの発現効率を2〜3倍上昇させた(非特許文献6参照)。cPPT・CTS、WPRE両者を搭載した場合はWPRE単独より遺伝子導入発現効率を4〜10倍上がる。ヒトリンパ球T細胞に対し、cPPT・CTSはWPREより高い遺伝子導入発現効率を持つことが証明された。米国特許第5631237号明細書米国特許第5736392号明細書米国特許第6013516号明細書HUMAN GENETHERAPY 1999,10:2295-2305MOLECULARTHERAPY 2002,5,(5):509-516MOLECULARTHERAPY 2003,7,(2):281-287MOLECULARTHERAPY 2002,5,(4):479-484MOLECULARTHERAPY 2002,5,(3):283-290MOLECULARTHERAPY 2002,5,(4):479-484 上記技術によりベクターにおける遺伝子導入効率および遺伝子発現レベルは向上したが、遺伝子治療等を行う上で、まだ十分なものではなく更なる向上が望まれる。そこで本発明の目的は、ベクター中の遺伝子発現レベルを高め、さらに、細胞への遺伝子導入効率を高めるエンハンサーを提供することにある。 本発明者は上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の配列をエンハンサーとして挿入することにより、上記課題を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明のエンハンサーは、ベクターに挿入されたエンハンサーであって、動物ゲノムに存在するcis-acting elementのうち少なくとも一部を有することを特徴とするものである。動物ゲノムとしては、マウス、ヒトまたはラット等のゲノムを挙げることができる。例えば、cis-acting elementとして、マウスのゲノムのGenBank no:AE008683の214722bp〜216731bp、GenBank no:AF259074の50041bp〜2050bpである配列番号1、ヒトのゲノムのGenBank no:HUAE000658の209041bp〜211150bp、GenBank no:NG001332.1の209041bp〜211150bpである配列番号2またはラットのゲノムのGenBank no:NW_042967の2162172bp〜2164672bpである配列番号3で示される塩基配列を有するDNAが挙げられる。 また、本発明のエンハンサーは、遺伝子の転写を開始するプロモーターの前、または遺伝子の3’側に好適に挿入できる。また、ベクターとしては組換えウイルスベクターを好適に用いることができ、組換えウイルスベクターとしては、オンコウイルス由来のベクター(Oncovirus Vector)もしくはレンチウイルスベクター(Lentiviral Vector)等のレトロウイルスベクター(Retroviral Vector)、アデノウイルスベクター(Adenoviral Vector)、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV Vector:adeno-associated virus vector)またはバキュロウイルスベクター(Baculovirus Vector)等を用いることが可能である。なお、レンチウイルスベクターとしては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)ベクターまたはサル免疫不全ウイルス(SIV)ベクターが好ましい。 本発明のエンハンサーにより、遺伝子発現レベルを高まり、さらに、細胞への遺伝子導入効率を高めることが可能となった。これにより、新規の遺伝子治療用ベクターの開発および有用な遺伝子の発現、蛋白質の大量生産が可能となる。 本発明の好適な実施形態について、詳細に説明する。本発明者は動物のゲノムに存在するcis-acting elementをエンハンサーとして選択した。エンハンサーというのは遺伝子の転写開始を促進し、転写開始点からかなり離れた上流または下流に位置して、逆向きでも働く塩基配列と定義される。本発明のエンハンサーはベクター中の遺伝子発現レベルを高めるための動物のゲノムに存在するcis-acting elementである。このエンハンサーは、例えば、マウスの嗅覚受容体遺伝子MOR28(mouse olfactory receptor 28)の上流領域75kb、ヒトの嗅覚受容体遺伝子HOR28の上流領域32kbに存在している。マウスの嗅覚受容体(OR)遺伝子は約1000種類存在することが知られており、嗅神経細胞はこのうち1種類のみを発現する。YAC(yeast artificial chromosomes)にMOR28を含む数100kb DNAを組み込み、マウスの受精卵前核へ微注射し、MOR28遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作成し、このトランスジェニックマウスを解析した結果、このエンハンサーはMOR28遺伝子の発現を活性化することが明らかになっている(Shou Serizawa et al. 2003 Science 2088-2094)。しかし、このエンハンサーをGFP遺伝子の転写を促進するCMVプロモーターの前に組み込んだプラスミドDNAをリポフェクション法により培養細胞HEK293に導入した場合、コトロールと比較しGFP遺伝子発現の増加は見られなかった。このエンハンサーの遺伝子発現を高めるメカニズムを解明するために、本発明者はHIV-1由来のレンチウイルスベクターシステムを用いて研究を行った。 レンチウイルスベクターシステムの基本構造として、4つの独立した発現プラスミドを使用した。ベクター粒子形成に必須な蛋白質を供給するパッケージングベクター、ベクターにパッケージングされるmRNAを供給し、標的細胞に対して目的の遺伝子を運搬、導入するジーントランスファーベクター、シュードタイプベクター粒子を形成するための外殻蛋白質供給ベクターのVSV-G供給ベクターである。パッケージングベクターはgag, polを含むプラスミド、revを発現するプラスミド、この2つの発現プラスミドからなる。 ジーントランスファーベクターは3’LTRの配列を部分的に削除している。これはSelf Inactivating Vector(SIN vector)と呼ばれ、標的細胞の染色体に侵入したレンチウイルスのプロウイルスは3’LTRの僅かに残っているU3部分を5’端に結合した形となる。それにより、標的細胞内では5’LTRのプロモーター活性が無くなるため、全長のRNAや宿主遺伝子の転写が起こらない。そして、内部プロモーターからの目的遺伝子の転写のみが行われることになり、安全性が向上する。 VSV-G供給ベクターは水庖性口内炎ウイルス (VSV:Vesicular stomatitis virus)の表面糖蛋白質であるVSV-Gを発現する。VSV-Gのレセプターであるりん脂質、ホスファチジルセリンがほとんどの動物細胞に存在するため、VSV-Gによって、作られたレンチウイルスベクターは感染指向性が広くなり、ほとんどの動物細胞に感染できる。 パッケージングベクター、ジーントランスファーベクター、VSV-G供給ベクターを細胞にコトランスフェクションすると、ジーントランスファーベクターの5’LTRのプロモーター活性によりmRNAが転写、パッケージングベクターより供給されるウイルス蛋白によりパッケージングシグナル(Packaging Signal)配列が認識され、ベクター粒子内にRNAがパッケージングされる。次に、VSV-Gによって、シュードタイプ化され、ベクター粒子が完成する。ベクターが標的細胞に感染すると、パッケージングされていたRNAは逆転写酵素によりDNAとなり、両端のLTRとインテグラーゼの働きで宿主のゲノムにインテグレーションされる。そして、内部プロモーターの活性により目的遺伝子が発現する。 ジーントランスファーベクターは両端のLTRの間に、内在性プロモーターCMVと、それに次ぐGFP遺伝子を含み、それをコトロールとする。cPPT(cis-acting central polypurine tract)およびCTS(cis-acting termination region)により、HIVの逆転写過程でトリプレックスDNA構造を形成し、DNAの核内運送に関与している(米国特許第6682907号明細書)。本発明者はコトロールベクターのCMVプロモーター前にcPPTおよび CTS配列を組み込んだジーントランスファーベクターを構築した。さらに、そのcPPT及びCTS配列の前にマウス由来の2kbエンハンサーを組み込んだジーントランスファーベクター(以下、「エンハンサージーントランスファーベクター」ともいう)を構築した。 本発明者はこの3つのジーントランスファーベクターを、それぞれレンチウイルスベクターシステムを利用し、リポフェクション法により培養細胞HEK293に導入し、シュードタイプ化されたレンチウイルスを作製し、HIV-1p24 Antigen ELISA kit (ZepoMetrixCorporation製)により、それぞれのウイルスのgag 蛋白質の量を測った。その結果、2kbエンハンサー、cPPTおよびCTSを含むウイルスは、コトロールウイルスより6倍以上、cPPTおよびCTSを含むウイルスよりも3倍以上高い。おそらく、この2kbエンハンサーは単独では、cPPTおよびCTSを含むウイルスより遺伝子を細胞内に2倍以上、コトロールより3倍以上導入し発現させると考えられる。 前述したように、遺伝子を細胞内に導入し効率よく発現させるためには細胞質内への導入、核内移行、核内での遺伝子の維持及び高効率の発現、こちら4つの段階を乗り越えなければならない。この2kbエンハンサーの高導入効率、高効率の発現を説明するために、細胞核、核膜孔構造及びレンチウイルスDNA複合体の核内移行の複雑なメカニズムを分析する必要がある。 細胞核は最も大きい細胞小器官であり、細胞内の多くの情報が蛋白質や受容体結合ホルモンとして核に入り、遺伝子の発現を制御している。核に必要なリボソーム蛋白質、ヒストン、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼなども核膜孔から入る。一方、リボソーム前駆体、mRNA、tRNAをはじめとしてその遺伝情報と翻訳の要素が細胞質内に送り出される。そのために核には巨大分子を選択的に通す核膜孔がある。核膜孔は内径が80nm、外径が120nmのリングとそれに8個のスポークがつき、中央に中心顆粒があるのでこの全体を指して、核膜孔複合体という。核膜の裏にはラミナという構造物が付着しており、ラミンA、B、Cという中間径フィラメントと相同性のある蛋白質を成分としている。1個の核当たり約3000個の核膜孔がある。分子量60kDaまでの分子は拡散によって核膜孔を非選択的に通過する。しかし、これよりも大きい分子は特定のシグナル配列を持ったものだけが通過することができる。 レンチウイルスDNA複合体の非分裂細胞核内移行システムの定説は以下のようになっている。逆転写された二本鎖DNAは非分裂細胞質内に、gag蛋白質に含まれるリン酸化されたp17(MA) 蛋白、Vpr蛋白及びインテグレース蛋白、逆転写酵素などとともにプレインテグレーション複合体(preintegration complex, PIC)を形成し核内に運ばれる。その中に、リン酸化されたp17(MA) 蛋白が強い核移行シグナルを持つことによって、核輸送蛋白Importinと結合し、PIC複合体が核膜孔を通ることを促進する。Vpr蛋白及びインテグレース蛋白も似たような作用を果たしている。 前述したようにcPPT(cis-acting central polypurine tract)およびCTS (cis-acting termination region )はトリプレックスDNA構造を形成し、レンチウイルスDNA複合体の細胞核内移行に機能している。一方、レンチウイルのRev蛋白はそのN端側に核移行シグナルを有し、核内に移行し、ウイルスRNA に存在する−RRE領域に結合し、ウイルスRNAのスプライシングを抑制する。そのRev蛋白C端側にNES(nuclear export signal)と呼ばれる核外輸送シグナルを持ち、輸出蛋白(exportin-1)、Ran-GTPと結合し、ウイルスRNAを核内から細胞質内へ運ばれる。細胞質内にRan-GTPase-activating protein(GAP)はRan-GTPを分解することによって、Rev蛋白はRev-RRE複合体から離れて、また繰り返し、核内に移行し、ウイルスRNAを核内から細胞質内へ運ぶ。 コトロールジーントランスファーベクターを、レンチウイルスベクターシステムを利用し、リポフェクション法により培養細胞HEK293に導入し、ジーントランスファーベクターの5’LTRのプロモーター活性によりGFPのmRNAが転写される。パッケージングベクターはgag, polを含むプラスミド、revを発現するプラスミド、VSV-G供給ベクターもそれぞれのプロモーター活性によりmRNAが転写される。分裂細胞HEK293の細胞質内に導入し2日目に、それらの蛋白質が合成される。合成されたRev蛋白が核内に移行し、ある程度の量になると、パッケージングベクターのRRE領域に結合し、スプライシングを抑制され、gag, polのmRNAが転写される。Rev蛋白がジーントランスファーベクターのRRE領域に結合すると、スプライシングが抑制され、RRE領域下流のGFP遺伝子の転写を阻害する。同時に、Rev蛋白それぞれgag, polのmRNA後のRRE領域に、すでにできたGFPmRNA前のRRE領域に結合し、核外輸送シグナルと輸出蛋白の結合により、RNAが核内から細胞質内へ運ばれる。細胞質内に、パッケージングベクターより供給されるウイルス蛋白によりPackaging Signal配列が認識され、ベクター粒子内にRNAがパッケージングされる。次に、VSV-Gによって、シュードタイプ化され、ベクター粒子が完成する。 2kbエンハンサー、cPPTおよびCTSを含むベクター粒子はコトロールベクター粒子より、gag 蛋白質の量が6倍以上高いことの可能性としてはこのエンハンサーはRev蛋白のRNA核外輸送を促進が挙げられる。cPPTおよびCTSを含むベクター粒子はgag 蛋白質量がコントロールと比較して2倍となった。この結果は米国特許第6682907号明細書の主張と一致している。つまり、cPPT・CTSはトリプレックスDNA構造を形成し、レンチウイルスDNA複合体の細胞核内移行に機能している。また、もう一つの可能性として、このエンハンサーはcPPT・CTSが機能しているレンチウイルスDNA複合体(preintegration complex, PIC)の細胞核内移行に何らかの役割を果たしていることが考えられる。遺伝子を細胞内に導入し、効率よく発現させるためには分裂細胞HEK293に細胞周期の静止期でも、DNA複合体(PIC)の細胞核内移行システムが働いていると考えられる。 2kbエンハンサー、cPPTおよびCTSを含まれているベクター粒子はコトロールベクター粒子より、機能力価で約9倍になった。単位ベクターあたりの遺伝子発現能を高めたベクターは有効性の上昇だけでなく、投与量の減少による副作用の軽減も期待できることから、今後の応用が期待される。血液のリンパ球細胞に関わる遺伝子病はADA欠損症、白血病、悪性リンパ腫、HIV感染症などが知られている。リンパ球細胞への治療用遺伝子の導入は現実的になっている。 cPPT・CTS/ジーントランスファーベクター、エンハンサージーントランスファーベクター由来の濃縮されたウイルスのリンパ球細胞への遺伝子導入効率を持つことを調べるために、ディプリーション(Depletion)法によるマウスSpleen mature B 、T細胞を調製した。cPPT・CTS/ジーントランスファーベクター、エンハンサージーントランスファーベクター由来の濃縮されたウイルスを用いて、調製したマウスSpleen mature B 細胞を感染させ、フローサイトメーターによる解析を行った結果、エンハンサージーントランスファーベクター由来の濃縮されたウイルスはcPPT・CTS/ジーントランスファーベクターウイルスより、マウスSpleen mature B 細胞への遺伝子導入効率を2倍増加した。 cPPT・CTS/ジーントランスファーベクター、エンハンサージーントランスファーベクター由来の濃縮されたウイルスを用いて、調製したマウスSpleen mature T 細胞を感染させ、フローサイトメーターによる解析を行った。その結果、エンハンサージーントランスファーベクター由来の濃縮されたウイルスはcPPT・CTS/ジーントランスファーベクターウイルスより、マウスSpleen mature T細胞への遺伝子導入効率を若干増加した。これよりエンハンサーがcPPT・CTSよりSpleen mature B、T 細胞への高い遺伝子導入効率を持つことが確認された。 また、上記実験の感染条件は感染3時間後、ウイルス液を排除し、24時間培養であった。Spleen mature B、T 細胞がウイルスの感染により、傷害を受けて、感染時間の経過に伴い、死んでいくことを配慮し、感染時間を短くした。適当な感染時間を検討するために、本発明者は感染時間を3時間、24時間と設定し、エンハンサージーントランスファーベクター由来の濃縮されたウイルスを用いて、調製したマウスSpleen mature B 細胞を感染させ、フローサイトメーターによる解析を行った。その結果、MOI(multiplicity of infection) 1、24時間感染の場合は、遺伝子導入効率が42%に達成し、3時間感染の場合より4倍高くなった。エンハンサーとcPPT・CTSと組み合わせて、MOI(multiplicity of infection) 1のウイルス量で、高い遺伝子導入効率が得られており、高いMOIの感染はより高い遺伝子導入効率が得られることが予想され、本発明は遺伝子治療の応用に関し、高く評価されると考えられる。 本発明はエンハンサーである動物のゲノムに存在するcis-acting elementを含む組換えウイルスベクターを用いて、動物細胞を感染し、遺伝子発現レベル及び導入効率を高めるものである。ウイルスベクターに含まれるこのエンハンサーはそのウイルスベクターに組み込まれる単一の遺伝子の発現だけではなく、2つの遺伝子の同時的な発現にも作用し、遺伝子の発現レベルを高めることが考えられる。なお、ウイルスベクターに含まれるこのエンハンサーを遺伝子の転写を開始するプロモーターの前に置いても、遺伝子の3’側に置いても、遺伝子の発現レベルを高めることができる。 本発明のエンハンサーを挿入するベクターとして、人工ウイルスベクターおよび組換えウイルスベクターが挙げられる。人工ウイルスベクターとしては、核移行シグナル(NLS)を含む蛋白質または合成ペプチドが挙げられる。核移行シグナルは核蛋白質の核内運送を行う役割を果たしている。核移行シグナルを含む蛋白質型の人工ウイルスベクターとしては、核蛋白質HMG-1 (high mobility group 1 protein)が挙げられ、核移行シグナルを含む合成ペプチド型の人工ウイルスベクターとしては、SV40に含まれる核移行シグナル(NLS)を含む合成ペプチドが挙げられる。また、HIV pre-integration complex (Gallay et al., 1996)に存在するVpr、matrix protein、RevはNLSを含み、人工ウイルスベクターとして利用することができる。 レトロウイルスベクターとはレトロウイルスのバックボーンを有することを指す。例えば、Oncovirus(オンコウイルス属)Vector、レンチイウルスベクター(Lentiviral Vector)でありレンチウイルスベクターとしてはHIV,SIVが好ましい。 その感染される動物細胞としては、T細胞、B細胞、動物の胚性幹細胞(ES細胞)、動物の胚細胞、血球系または造血系幹細胞、人の組織の細胞、鼻腔または呼吸系統の気管支の粘膜上皮細胞等が挙げられる。B細胞においては抗体の産生に関与することが好ましい。例えば、抗体遺伝子を搭載するベクターにこのエンハンサーを組み込み、B細胞を感染させて、抗体の産生を高めることができると考えられる。 また、T細胞においてはHIV感染によるCD4陽性T細胞の減少の治療が好ましい。例えば、治療遺伝子を搭載するベクターにこのエンハンサーを組み込み、ex vivoでCD4陽性T細胞を感染させ、再び、ヒトの身体に戻すことが考えられる。胚細胞、ES細胞においては目的遺伝子を搭載するベクターにこのエンハンサーを組み込み、胚細胞、ES細胞での高い遺伝子発現レベルを得られることが考えられる。 人の組織の細胞、例えば、鼻腔または呼吸系統の気管支の粘膜上皮細胞、特に嚢胞性繊維症(cystic fibrosis, CF)を治療することが好ましい。嚢胞性繊維症とは、白人種に極めて高頻度にみられる常染色体劣性遺伝子病で、欧米では出生児2500人当たり1人の発症頻度を示し、気道上皮では気道管腔内に粘稠な痰が多く溜まり、呼吸困難を起こす。このエンハンサー配列を含むパラミクソウイルスエンベロープシュードタイプレチウイルスベクターを作製し、鼻腔または呼吸系統の気管支の粘膜上皮細胞での高い遺伝子発現レベルを得られることが考えられる。実験例1エンハンサー、cPPT・CTSによるシュードタイプレンチウイルスベクターの調製 プラスミドDNA(p EYFP-N1、Clontech社製)を制限酵素HindIII, BamHIで切断し、ブランティング(Bluntting)させ、セルフライゲーション(self-ligation)により環状のPlasmid DNAとした。その環状のPlasmid DNAのAseI siteに制限酵素HindIII, BamHIの認識配列を含むLinkerAseIを組み込んで、コトロールベクターを得た。 2kbエンハンサー断片はマウスのゲノムDNAであるGenBank no:AE008683の214722bpから216731bpまでの配列を元にして、primer EcoRV F (5’-GATATCcagaatagtacttcattatg)、primer EcoRV R(5’-GATATCTTGATCATCATTTCTATCTT)を用いたPCR 反応により2kbエンハンサー断片を増幅させた。増幅させた2kbエンハンサー断片をコトロールベクターに組み込み、発現ベクターを得た。 プラスミドDNA (pBluescriptII SK(+) 、Stratagene社製)のKpnI, ApaI部位の間に、AscI, BglII, AatIIの認識配列を、SacII, SacI部位の間に、NsiI, NheI, AscIの認識配列を組み込み、改変した。次に、コトロールベクター、増幅させた2kbエンハンサー断片を含む発現ベクターをそれぞれ、制限酵素HindIII, NotIで切断し、1.4kb、3.4kb断片を回収し、改変したPlasmid DNA(pBluescriptII SK(+))の制限酵素HindIII, NotIサイトに組み込み、pBluescriptII SK-CMV/EYFP、pBluescriptII SK-Enhancer/CMV/EYFとした。 ジーントランスファーベクターpLenti6V5-DEST、パッケージングベクターpLP 1、pLP2、VSV-G供給ベクターpLPVSVG、レンチウイルス生産細胞293FTを含むpLenti6V5-DEST Gateway Vector Pack(Invitrogen社製)を使用し、以下の操作を行った。 ます、ジーントランスファーベクターpLenti6V5-DESTを制限酵素ClaI, KpnIで切断し、5400bpの断片をゲルから回収した。回収された5400bpの断片に制限酵素ClaI, EcoRI, AscIなどの認識配列を含むLinker ClaI-KpnIを入れ込み、環状のプラスミドDNAを得た。 pBluescriptIISK-CMV/EYFPを制限酵素AscIで切断し、改変されたpLenti6V5-DEST環状のPlasmid DNAの制限酵素AscI部位に組み込んで、コトロールジーントランスファーベクターを得た。 cPPT・CTS断片はpLP 1を鋳型(template)として、プライマーcPPTClaIF(5’-ATCGATTTTTAAAAGAAAAGGGGGG:配列番号4)、cPPTEcoRIR(5’-GAATTCAAAATTTTGAATTTTTGTAATTTG:配列番号5)を用いて、PCR 反応を行い、cPPT・CTS断片を増幅させた。増幅させたcPPT・CTS断片をコトロールジーントランスファーベクターの制限酵素ClaI、EcoRI部位に組み込んで、cPPT・CTS/ジーントランスファーベクターとした。 pBluescriptII SK-Enhancer/ CMV/EYFPを制限酵素AscIで切断し、cPPT・CTS/ジーントランスファーベクターDNAの制限酵素AscI部位に組み込んで、エンハンサージーントランスファーベクターとした。各ジーントランスファーベクターおよびパッケージングベクターの構造模式図を図1に示す。 レンチウイルス産生に用いたヒト胎児腎細胞由来細胞株293FT細胞(Invitrogen社製)を、10%非動化ウシ胎児血清、500μg/ml neomycine(Invitrogen社製)を含むD-MEM(Invitrogen社)で培養した。ベクターのトランスフェクションはLIPOFECTAMINE PLUS(Invitrogen社製)を用い、添付説明書に従い行った。 293FT細胞を直径15cm dish (コラーゲンタイプI コート製品、IWAKI社製)へ3×106個の細胞密度でまき、炭酸ガスインキュベーター中(37℃、5%炭酸ガス存在下)で48時間培養した。トランスフェクションの30分前に培養液を10mlのOptiMEM(Invitrogen社製)に培地交換し培養を続けた。トランスフェクションに使用するDNA量はそれぞれ20μgの3つのジーントランスファーベクターと、6μgのパッケージングベクターpLP 1、pLP2(Invitrogen社製)とを使用し、それらに加えて2μgのVSV-G供給ベクターpLPVSVGを使用した。DNAを3mlのOptiMEM(Invitrogen社製)に溶解させた後に400μlのPLUS reagent(Invitrogen社製)を加え、攪拌後15 分室温で静置した。DNAとPLUS reagent(Invitrogen社製)との混合液に、3mlのOptiMEMで希釈した100μl のLIPOFECTAMINEを添加し、攪拌後さらに15 分室温で静置した。以上の方法により調製したDNAとLIPOFECTAMINEとの複合体を含む溶液を直径15cm dishで培養している293FT細胞へ滴下して緩やかに攪拌した後に炭酸ガスインキュベーター中(37℃、5%炭酸ガス存在下)で3時間培養した。培養後30mlの10%非動化ウシ胎児血清を含むD-MEM(Invitrogen社製)を添加し、炭酸ガスインキュベーター中(37℃、5%炭酸ガス存在下)で48時間培養した後に培養上清を0.45μmのポアサイズのフィルター(DISMIC-25CSフィルター、ADVANTEC)で濾過してベクター溶液調製した。実験例2p24蛋白質の発現量の測定 p24蛋白質の発現量の測定はHIV-1p24 Antigen ELISA kit (ZepoMetrix Corporation製)を用いて添付説明書に従い行った。まずは、HIV-1 P24 Antigen Standardを作り、次は225μlのコトロールジーントランスファーベクター、cPPT・CTS/ジーントランスファーベクター、エンハンサージーントランスファーベクター由来のウイルス液を5倍希釈し、順番に5回希釈系列を作って、添付説明書に従って反応を行った。最後に450nmのフィルターを持つマイクロプレートリーダー (BIO-RAD社製)を用いて測定し、解析ソフトMPMIIIにより解析を行った。その結果を図2に示す。これによりCPPT配列の後、レンチウイルスベクターのCMVプロモーターの前に、マウスのcis-acting element配列を挿入することによって、遺伝子発現レベルがCPPT配列なしのベクターと比較して6倍、CPPT配列ありのベクターと比較して3倍以上上昇することが確認された。実験例3ベクターの濃縮 実験例1にて回収された3種類のウイルス液をそれぞれ20000rpm (45 Ti rotor, Beckman)、4℃にて、2時間遠心し、ペレットをPBS (5% FCS, 2μg/ml polybrene)に溶解し、使用まで-80℃に保存した。実験例4ベクターの力価測定 実験例2のHIV-1p24 Antigen ELISAの結果により、1000pgのp24蛋白質の量を持つ、コトロールジーントランスファーベクター由来のウイルス液140μl、cPPT・CTS/ジーントランスファーベクター由来のウイルス液70μl、エンハンサージーントランスファーベクター由来のウイルス液23μlを293FT細胞に感染させ、遺伝子導入される細胞の数によって、力価を計算した。293FT細胞を1×106/wellで6wellカルチャープレートにまき、48時間培養した。光学顕微鏡で200倍の倍率で検鏡、視野内の遺伝子導入細胞数を測定し、3視野の平均を求め、視野の面積とプレートの面積よりもとめた係数854.865をかけることにより力価の算出を行った。その結果は図3に示す。図3(a)は1000pgあたりの力価(T. U.:Transducing Unit)を表し、コトロール、cPPT・CTS、エンハンサージーントランスファーベクターの力価は夫々、6×104T.U./1000pg、1.4×105T.U./1000pg、1.2×105T.U./1000pgであった。また、図3(b)は、1mlあたりの力価(T. U./ml)に換算しものであり、エンハンサージーントランスファーベクターの力価は5.14×106T.U./mlとなり、コトロール(4.3×105T.U./ml)の約11倍、cPPT・CTS(1.9×106T.U./ml)の約2.5倍となった。実験例5ディプリーション(Depletion)法によるマウスSpleen mature B細胞の調製 3週齢のBALB/c系のマウスより脾臓を採取し、フロスト付きスライドガラスのフロスト部分で脾臓を挟み、5%FCSを含むRPMI1640中にスライドガラスを摩擦させることにより、脾臓細胞浮遊液を調製した。得られた細胞浮遊液をスピッツ遠心管(Falcon)に回収し、1500 rpm, 5分間遠心して、細胞のペレートを得た。次に、赤血球溶血用緩衝液(0.83% 塩化アンモニウムを含む)を細胞のペレートに添加してよく攪拌し、氷に1分間置き、10mlの2%FCSを含むHBSS溶液(Hanks, balanced salt solution, Sigma社製)を加えて2回遠心洗浄してから、5mlの最終濃度20μg/mlのanti-FcγRII/II(2.4G2;PharMingen,San Diego,CA)を加えて氷上に15分間置いた。この操作により低親和性Fc受容体への抗体の非特異的結合を阻害する。細胞浮遊液を2×107個/mlに調整した。 ビオチン標識抗体混合物(Miltenyi Biotec社製)に含まれるanti-CD90、anti-CD43、anti-CD5、anti-CD3、anti-CD11b(Mac-1)、anti-Gr-1、anti-Ter119を最適濃度に希釈し、調整された細胞浮遊液に添加し、氷上で30分間反応させた。HBSS溶液で細胞浮遊液を遠心洗浄して余分な抗体を除き、メッシュを通す。100μlの標識ストレプトアビジンmicrobeads(Miltenyi Biotec社製、Gladbach、Germany)を細胞に添加し、氷上で15分間反応させた。また、HBSS溶液で細胞浮遊液を遠心洗浄して500μl浮遊液とし、MACS clumn(Miltenyi Biotec社製)により分離し、15mlの細胞とした。 得られた15 mlの細胞にマウスSpleen mature B細胞がどの割合で存在しているかを調べるために、フローサイタメーターFACS Calibur(Becton Dickinson, Mountain View, CA)を用い、以下の6つの細胞検体を使用した。1は細胞のみであり、抗体を添加しないネガテイブコトロールである。2、3、4の細胞は2.4G2抗体を添加したコトロールである。5の細胞はビオチン標識抗体混合物(Miltenyi Biotec社製)に含まれるanti-CD90、anti-CD43、anti-CD5、anti-CD3、anti-CD11b(Mac-1)、anti-Gr-1、anti-Ter119を添加し、MACS clumnを掛ける前のコトロールである。6の細胞はMACS clumnを掛けた後のサンプルである。 50μlずつ各6つの細胞(1×106個/ml)を96 wellプレートに載せて、HBSS溶液で細胞を遠心洗浄した。2、3、4の細胞にはそれぞれ100μlのanti-CD45R/B220-FITC標識(BD PharMingen)、anti-TCRβ-PE標識(BD PharMingen)、anti-CD45R/B220-APC標識(BD PharMingen)を添加した。5、6の細胞はanti-CD45R/B220-FITC標識(BD PharMingen)、anti-TCRβ-PE標識(BD PharMingen)、anti-CD45R/B220-APC-streptavidin標識(BD PharMingen)を含む抗体の混合物をそれぞれ100μl添加した。そのプレートを氷上で遮光し、30分間反応させた。その後、150μlのHBSS溶液で細胞を2回遠心洗浄し、1mlのPI staining buffer(1×HBSS溶液、2% FCS, 1 ug/ml Propidiumiodide)に浮遊させ、メッシュを通し、FACSチューブに載せてフローサイタメーターFACS Calibur(Becton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。6の細胞はマウスSpleen mature B 細胞の割合が97.4%を示して、良い結果になった。実験例6ディプリーション(Depletion)法によるマウスSpleen mature T細胞の調製 3週齢のBALB/c系のマウスより脾臓を採取し、フロスト付きスライドガラスのフロスト部分で脾臓を挟み、5%FCSを含むRPMI1640中にスライドガラスを摩擦させることにより、脾臓細胞浮遊液を調製した。得られた細胞浮遊液をスピッツ遠心管(Falcon)に回収し、1500 rpm、5分間遠心して、細胞のペレートを得た。次に、赤血球溶血用緩衝液(0.83%塩化アンモニウムを含む)を細胞のペレートに添加してよく攪拌し、氷に1分間置き、10mlの2%FCSを含むHBSS溶液(Hanks, balanced salt solution, Sigma社製)を加えて2回遠心洗浄してから、5mlの最終濃度20μg/mlのanti-FcγRII/II(2.4G2; PharMingen, San Diego, CA)を加えて氷上に15分間置いた。この操作によって、低親和性Fc受容体への抗体の非特異的結合を阻害する。細胞浮遊液を2×107個/mlに調整した。 ビオチン標識抗体混合物(PharMingen)に含まれるanti-IgM、anti-IgD、anti-CD45R/B220、anti-CD11b(Mac-1)、anti-Gr-1、anti-Ter119を最適濃度に希釈し、調整された細胞浮遊液に添加し、氷上で30分間反応させた。HBSS溶液で細胞浮遊液を遠心洗浄して余分な抗体を除き、メッシュを通した。100μlの標識ストレプトアビジンmicrobeads(Miltenyi Biotec社製、Gladbach、Germany)を細胞に添加し、氷上で15分間反応させた。また、HBSS溶液で細胞浮遊液を遠心洗浄して500μl浮遊液とし、MACS clumn(Miltenyi Biotec)により分離し、10 mlの細胞とした。 得られた10mlの細胞にマウスSpleen mature T細胞がどの割合で存在しているかを調べるために、フローサイタメーターFACS Calibur(Becton Dickinson, Mountain View, CA)を用い、以下の6つの細胞検体を使用した。1は細胞のみであり、抗体を添加しないネガテイブコトロールである。2、3、4の細胞は2.4G2抗体を添加したコトロールである。5の細胞はビオチン標識抗体混合物(Miltenyi Biotec社製)に含まれるanti-CD90、anti-CD43、anti-CD5、anti-CD3、anti-CD11b(Mac-1)、anti-Gr-1、anti-Ter119を添加し、MACS clumnに掛ける前のコトロールである。6の細胞はMACS clumnを掛けた後のサンプルである。50μlずつ各6つの細胞(1×106個/ml)を96wellプレートに載せて、HBSS溶液で細胞を遠心洗浄した。2、3、4の細胞にはそれぞれ100μlのanti-CD3-FITC標識(BD PharMingen)、anti- CD45R/B220-PE標識(BD PharMingen)、anti-CD3-APC標識(BD PharMingen)を添加した。5、6の細胞はanti-CD3-FITC標識(BD PharMingen)、anti- CD45R/B220-PE標識(BD PharMingen)、anti-CD3-APC-streptavidin標識(BD PharMingen)を含む抗体の混合物をそれぞれ100μl添加した。そのプレートを氷上で遮光し、30分間反応させた。その後、150μlのHBSS溶液で細胞を2回遠心洗浄し、1 mlのPI staining buffer(1×HBSS溶液、2% FCS、1μg/ml Propidiumiodide)に浮遊させ、メッシュを通し、FACSチューブに載せてフローサイタメーターFACS Calibur(Becton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。6の細胞はマウスSpleen mature T 細胞の割合が91 %を示し、良い結果になった。実験例7マウスSpleenmature B細胞への遺伝子導入及びフローサイトメーターによる解析 実験例5で調製されたマウスSpleen matureB細胞を10%FCS, 10-5M2−メルカプトエタノール(2-ME:2-mercaptoethanol)、25mM HEPESおよびペニシリン−ストレプトマイシン(penicillin-streptomycin)を含むRPMI1640培地で交換し2.5×105/wellで6wellカルチャープレートに撒いた。実験例3にて濃縮されたcPPT・CTS/ジーントランスファーベクター由来のウイルス液、エンハンサージーントランスファーベクター由来のウイルス液をそれぞれMOI(multiplicity of infection) 1, 0で調製した。つまり、MOIが1の場合は、2.5×105/wellの細胞に対して、2.5×105TU/mlにて調製した。調製されたウイルス液をそれぞれマウスSpleen mature B細胞に3時間感染させてから、10%FCS, 10-5M 2-ME、25mM HEPESおよびペニシリン−ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地で交換し、24時間培養し、PI staining buffer(1×HBSS溶液、2% FCS, 1 ug/ml Propidiumiodide)に浮遊させ、メッシュを通し、FACSチューブに載せてフローサイタメーターFACS Calibur(Becton Dickinson)にてYFP及びPEの2蛍光により蛍光強度を測定し、解析した。その結果を図4に示す。エンハンサージーントランスファーベクター(MOI=1)の場合はSpleen mature B細胞でのEYFP陽性発現細胞割合は12%で、cPPT・CTS(6%)の2倍になっている。これにより本発明のエンハンサーがcPPT・CTSよりSpleen mature B細胞への高い遺伝子導入効率を持つことが証明された。実験例8マウスSpleenmature T細胞への遺伝子導入及びフローサイトメーターによる解析 実験例6にて調製されたマウスSpleen mature T細胞を10%FCS、10-5M 2−メルカプトエタノール(2-ME:2-mercaptoethanol), 25mM HEPESおよびペニシリン−ストレプトマイシン(penicillin-streptomycin)を含むRPMI1640培地で交換し2.5×105/wellで6well カルチャープレートに撒いた。実験例3で濃縮されたcPPT・CTS/ジーントランスファーベクター由来のウイルス液、エンハンサージーントランスファーベクター由来のウイルス液をそれぞれMOI(multiplicity of infection) 1, 0で調製した。つまり、MOI(multiplicity of infection) 1の場合は、2.5×105/wellの細胞に対して、2.5×105TU/mlにて調製した。調製されたウイルス液をそれぞれマウスSpleen mature T細胞を3時間感染させてから、10%FCS、10-5M 2-ME, 25mM HEPESおよびペニシリン−ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地で交換し、24時間培養し、PI staining buffer(1×HBSS溶液、2% FCS, 1μg/ml Propidiumiodide)に浮遊させ、メッシュを通し、FACSチューブに載せてフローサイタメーターFACS Calibur(Becton Dickinson)にてYFP及びPEの2蛍光により蛍光強度を測定し、解析した。結果を図6に示す。エンハンサージーントランスファーベクター(MOI=1)の場合はSpleen mature T 細胞でのEYFP陽性発現細胞割合は12%で、cPPT・CTSの場合は9.7%であった。これにより本発明のエンハンサーがcPPT・CTSよりSpleen mature T細胞への高い遺伝子導入効率を持つことが証明された。実施例93時間及び24時間感染の条件でマウスSpleen mature B細胞への遺伝子導入およびフローサイトメーターによる解析 実験例5で調製されたマウスSpleen mature B細胞を10%FCS、10-5M 2−メルカプトエタノール(2-ME:2-mercaptoethanol)、25mM HEPESおよびペニシリン−ストレプトマイシン(penicillin-streptomycin)を含むRPMI1640培地で交換し2.5×105/wellで6wellカルチャープレートに撒いた。実験例3で濃縮されたエンハンサージーントランスファーベクター由来のウイルス液をそれぞれMOI(multiplicity of infection) 1, 0.1, 0で調製した。つまり、MOI(multiplicity of infection) 1の場合は、2.5×105/wellの細胞に対して、2.5×105TU/mlにて調製した。調製されたウイルス液をそれぞれマウスSpleen mature B細胞を3時間、24時間感染させてから、10% FCS, 10-5M 2-ME、25 mM HEPES及びペニシリン−ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地で交換し、PI staining buffer(1×HBSS溶液、2% FCS, 1μg/ml Propidiumiodide)に浮遊させ、メッシュを通し、FACSチューブに載せてフローサイタメーターFACS Calibur(Becton Dickinson)にてYFP及びPEの2蛍光により蛍光強度を測定し、解析した。その結果を図6に示す。エンハンサージーントランスファーベクター(感染3時間)の場合はSpleen mature B 細胞でのEYFP陽性発現細胞割合は10.4% (MOI=1)、1.1% (MOI=0.1)となった。エンハンサージーントランスファーベクター(感染24時間)の場合はSpleen mature B 細胞でのEYFP陽性発現細胞割合は42.2% (MOI=1)、11.7% (MOI=0.1)になった。感染時間が3時間から24時間変わると、エンハンサージーントランスファーベクターはSpleen mature B 細胞でのEYFP陽性発現細胞割合は4倍(MOI=1)、10倍(MOI=0.1)増加した。これにより、エンハンサーによるSpleen mature B細胞での高発現レベルが感染時間延長により促進されていることが分かる。 本発明者はこのエンハンサーとWPREとの比較的な実験を行っていないが、厚生労働科学研究費補助金(エイズ対策研究事業)総合研究報告書にて、SIVベクターの開発と血友病A遺伝子治療への応用に関し、株式会社ディナベック研究所により以下の報告がなされている。ベクター自身の性能を高めるためにレンチウイルスベクターの骨格配列に細胞への導入効率を上昇させる目的でSIVゲノムに含まれるcPPT配列、および導入遺伝子の発現効率を高めるWPRE配列を挿入し、緑色蛍光蛋白質(GFP)遺伝子をマーカーに用い、293T細胞に遺伝子導入実験を行った結果、cPPT配列の搭載により遺伝子導入効率が、WPRE配列の搭載により遺伝子発現効率が上昇したことが明らかになった。さらに両者を同時搭載することにより従来のSIVベクターに比べて機能力価で約10倍ベクターの生産性を上昇させた。 本発明の実験例4によると、エンハンサー、cPPT・CTSを含むベクター粒子はコトロールベクター粒子より、機能力価で約9倍になっている。即ち、293T細胞の場合はこのエンハンサーとWPREとは相当なレベルになっている。ヒトリンパ球T細胞の場合はこのエンハンサーはcPPT・CTS、WPREより高い遺伝子導入効率を持つ進歩性で、遺伝子治療における応用がかなり期待される。ジーントランスファーベクター、パッケージングベクターおよびVSV-G供給ベクターの構造模式図である。各ジーントランスファーベクターの(a)ウイルス液70μLのp24蛋白質の発現量(b)ウイルス液1mLあたりに換算した際のp24蛋白質の発現量の平均を示すグラフである。各ジーントランスファーベクターの(a)1000pgあたりの力価、(b)1mlあたりに換算した力価を示すグラフである。マウスSpleen matureB細胞への遺伝子導入及びフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。マウスSpleen mature T細胞への遺伝子導入及びフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。3時間および24時間感染の条件におけるマウスSpleen mature B細胞への遺伝子導入及びフローサイトメーターによる解析結果を示すグラフである。 配列番号1、配列番号2または配列番号3で示される塩基配列を有するDNAからなるエンハンサーと、cPPTと、CTSとを含む組み替えウィルスベクターであって、レトロウィルスベクターであることを特徴とするベクター。 導入遺伝子のためのプロモーターとして、CMVプロモーターを含む請求項1または2記載のベクター。 遺伝子の転写を開始するプロモーターの前、または遺伝子の3’側に前記エンハンサーを挿入した請求項1または2記載のベクター。 レンチウィルスベクターである請求項1〜3のいずれか一項記載のベクター ヒト免疫不全ウィルス(HIV)ベクターである請求項1〜4のいずれか一項記載のベクター。 サル免疫不全ウィルス(SIV)ベクターである請求項1〜4のいずれか一項記載のベクター。 gag、polを含むプラスミド、revを発現するプラスミド、VSV-Gを供給するためのプラスミド、および、配列番号1、配列番号2または配列番号3で示される塩基配列を有するDNAからなるエンハンサーと、cPPTと、CTSとを含むプラスミドから構成されるレンチウィルスベクターシステム。配列表


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