| タイトル: | 特許公報(B2)_5−ノルボルネン−2−カルボン酸およびそのエステルの製造方法 |
| 出願番号: | 2004358607 |
| 年次: | 2011 |
| IPC分類: | C07C 57/50,C07B 57/00,C07C 51/09,C07C 51/353,C07C 67/08,C07C 69/753,C07B 61/00 |
大竹 敦 中村 雅 小倉 邦義 野上 弘之 JP 4745655 特許公報(B2) 20110520 2004358607 20041210 5−ノルボルネン−2−カルボン酸およびそのエステルの製造方法 三菱レイヨン株式会社 000006035 志賀 正武 100064908 高橋 詔男 100108578 渡邊 隆 100089037 青山 正和 100101465 鈴木 三義 100094400 西 和哉 100107836 村山 靖彦 100108453 大竹 敦 中村 雅 小倉 邦義 野上 弘之 20110810 C07C 57/50 20060101AFI20110721BHJP C07B 57/00 20060101ALI20110721BHJP C07C 51/09 20060101ALI20110721BHJP C07C 51/353 20060101ALI20110721BHJP C07C 67/08 20060101ALI20110721BHJP C07C 69/753 20060101ALI20110721BHJP C07B 61/00 20060101ALN20110721BHJP JPC07C57/50C07B57/00 346C07C51/09C07C51/353C07C67/08C07C69/753 CC07B61/00 300 C07C 51/09 C07C 57/46 C07C 57/50 CA(STN) REGISTRY(STN) 国際公開第2004/077160(WO,A1) 特開平09−157222(JP,A) 特開2002−234918(JP,A) Journal of the American Chemical Society,1955年,Vol.77,p.3583−3586 Journal of the American Chemical Society,1950年,Vol.72,p.3116−3124 Journal of Molecular Structure,1988年,Vol.174,p.255−258 Tetrahedron Letters,1985年,Vol.26,p.6205−6208 2 2006160712 20060622 17 20071204 野口 勝彦 本発明は、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、そのエステルおよびそれらの製造方法に関する。 5−ノルボルネン−2−カルボン酸および5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、医薬、農薬、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の原料として有用であることが知られている。例えば、特許文献1には、5−ノルボルネン−2−カルボン酸から誘導された単量体を用いた重合体が記載されており、この重合体は、レジストとして、耐熱性、電気特性、低吸水性等に優れるとされている。また、非特許文献1においては、レジスト用重合体の原料として5−ノルボルネン−2−カルボン酸が用いられている。また、特許文献2には、レジスト用重合体の原料として、下記式(4)で表されるメタクリル酸エステルが用いられている。 該メタクリル酸エステルは、特許文献2に記載されているように、酸性条件下で、5−ノルボルネン−2−カルボン酸tert−ブチルまたは5−ノルボルネン−2−カルボン酸にメタクリル酸を付加させることで製造できる。 ところが、5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸tert−ブチルに酸性条件下でメタクリル酸を付加させようとすると、下記式(3−1)または(3−2)で表されるラクトンが多量に副生する。 このラクトンの副生は、主として下記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸が、分子内環化反応を起こしているためと考えられる。 しかしながら、5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸tert−ブチルは、エンド体が多く含まれている。例えば、非特許文献2には、シクロペンタジエンとアクリル酸メチルとの付加反応により得られる5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルには、通常、エンド体が多く含まれ、塩化アルミニウム等のルイス酸を用いた場合にエンド選択性が高くなることが記載されている。また、特許文献1の製造例3で得られる5−ノルボルネン−2−カルボン酸には、エキソ体が10%含まれることが記載されている。 よって、ラクトンの副生を抑制するために、エンド体の少ない(すなわち、エキソ体の多い)5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルが望まれている。 しかしながら、エキソ体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、有用であるにも関わらず、エキソ体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルが記載された文献はなく、その製造方法もこれまで知られていなかった。特開2003−292586号公報特開平10−171122号公報Proc.SPIE,2001年,vol.4345,p.159−167野依良治ら編,「大学院講義有機化学II」,第1版,東京化学同人,1998年8月,p.107 よって、本発明の目的は、医薬、農薬、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の原料として有用な、エキソ体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸、そのエステル、およびそれらの製造方法を提供することにある。 本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意検討した結果、エキソ体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸および5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを製造する方法を見出し、本発明に至った。(式(2−1)中、R1 は、アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、アミノ基から選ばれる1種以上の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシアルキル基、脂環式炭化水素基、テトラヒドロピラニル基、またはテトラヒドロフラニル基を表す。) 本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法は、上記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および下記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物から、式(1−1)で表されるエキソ体を酸性触媒存在下でエステル化して、上記式(2−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを得る工程を有することを特徴とする。 本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の製造方法は、上記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および上記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物から、式(1−2)で表されるエンド体を酸性条件下で加熱して下記式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンを得る工程と、式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンを除去して、上記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る工程とを有することを特徴とする。 本発明によれば、医薬、農薬、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の原料として有用な、エキソ体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸、または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを提供することができる。<5−ノルボルネン−2−カルボン酸> 5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、下記式(1)で表される。 上記式(1)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸の異性体としては、下記式(1−1)で表されるエキソ体、下記式(1−2)で表されるエンド体、およびこれらの光学異性体(式(1−1’)、式(1−2’))が存在する。 以下、特に断らない限り、上記式(1−1)と(1−1’)、(1−2)と(1−2’)とは区別せず、それぞれ上記式(1−1)および式(1−2)で表すこととする。 上記式(1)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、通常、以下の反応式(I)で表されるシクロペンタジエンとアクリル酸とのディールス・アルダー反応によって合成される。 シクロペンタジエンとアクリル酸とのディールス・アルダー反応は、エンド選択的であることが知られており、得られる5−ノルボルネン−2−カルボン酸のエキソ体の比率は、30モル%未満である。一方、本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、上記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含むものである。 5−ノルボルネン−2−カルボン酸のうち、エキソ体の比率は、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。エキソ体の比率は、高ければ高いほど好ましく、上限は100モル%である。<5−ノルボルネン−2−カルボン酸の製造方法> 本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。 (i)下記式(2−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルおよび下記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの混合物から、式(2−1)で表されるエキソ体のエステルを優先的に分解して、上記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る工程を有する方法。(式(2−1)および式(2−2)中、R1 は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。) (ii)上記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および上記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物から、式(1−2)で表されるエンド体を優先的に反応させて下記式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンを得る工程と、式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンを除去して、上記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る工程とを有する方法。((i)の方法) 式(2−1)、式(2−2)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルのカルボキシ基周辺の立体障害は、エキソ体の方がエンド体に比べ小さいため、エステルを分解してカルボン酸とする際の反応速度は、エキソ体の方がエンド体に比べ速いと考えられる。したがって、このエステル分解反応の反応速度の差を利用して、式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸を優先的に生成させることができる。 このエステル分解反応としては、特に限定されないが、加水分解反応が主として用いられる。エキソ体の比率を高めやすいことから、塩基性条件下での加水分解反応が好ましい。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、アンモニア等の水溶液が挙げられ、取り扱いが容易であることから、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が好ましい。また、酵素、微生物等の生体由来の触媒を用いて式(2−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを優先的に加水分解することも、式(1−1)で表されるエキソ体比率の高い5−ノルボルネン−2−カルボン酸を製造する上で有効である。 加水分解反応において、水のほかに溶媒は、用いても用いなくてもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン等の水溶性溶媒を用いることが反応速度の面から好ましい。 反応温度は、通常−80℃以上であり、−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましい。これより低いと反応が進みにくい場合がある。また、反応温度は、通常100℃以下であり、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。これより高いと、式(2−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを優先的に加水分解することが困難になる場合がある。((ii)の方法) 式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、酸性条件下において、分子内環化反応により上記式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンとなる。一方、式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、このような分子内環化反応は起こりにくい。これは、前述したように、分子内におけるカルボン酸の立体配置の違いによるものと考えられる。したがって、式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物を酸性条件下において、加熱するとエンド体を優先的に反応させ、上記式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンとすることができる。 反応に用いる酸としては、酸フッ化ホウ素等のルイス酸;硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸;リンタングステン酸、ケイタングステン酸等のヘテロポリ酸;強酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。反応性が高い点から、硫酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸が好ましく、取り扱いが容易であることから、硫酸が特に好ましい。酸の使用量は、5−ノルボルネン−2−カルボン酸1モルに対し、0.03モル以上が好ましく、0.05モル以上がさらに好ましい。また、酸の使用量は、5−ノルボルネン−2−カルボン酸1モルに対し、0.3モル以下が好ましく、0.25モル以下がさらに好ましい。酸が少なすぎると、エンド体の分子内環化反応が十分に進行しないことがあり、酸が多すぎると、酸付加反応後の精製が困難になる場合がある。 溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。また、これらの溶媒を常法によりあらかじめ脱水しておくことが、高い反応収率が得られるため好ましい。また、無溶媒でも反応を行うことができる。 反応温度は、50℃以上が好ましく、70℃以上がさらに好ましい。また、反応温度は、180℃以下が好ましく、150℃以下がさらに好ましい。反応温度が低すぎると、反応が十分に進行しないことがあり、また、反応温度が高すぎると、副生成物が増加する場合がある。 反応時間は、バッチサイズ、酸の種類・量、反応条件により異なるが、1〜12時間が好ましく、2〜8時間がさらに好ましい。反応時間が短すぎると、反応が十分進行しない場合があり、反応時間が長すぎると、副生成物が増加する場合がある。 ラクトンの除去は、洗浄、蒸留、結晶化等の常法により行うことができる。これらのうち、5−ノルボルネン−2−カルボン酸とラクトンのアルカリへの溶解性の差を利用して、5−ノルボルネン−2−カルボン酸とラクトンとを分離することが好ましい。5−ノルボルネンカルボン酸はアルカリ水溶液への溶解性が高い。一方、ラクトンはアルカリ水溶液への溶解性は低く、有機溶剤への溶解性が高い。この溶解性の差を利用して、5−ノルボルネンカルボン酸をアルカリ水溶液に溶解させ、ラクトンを有機溶媒に溶解させて分離することができる。具体的には、5−ノルボルネン−2−カルボン酸とラクトンの混合物を有機溶剤へ溶解した後、アルカリ水溶液を加え、攪拌した後に有機層と水層とを分離し、有機層を除去する方法が好ましい。有機溶剤としては、水と混和しないものであれば特に限定されないが、トルエン、ジエチルエーテル等のアルカリと反応しない溶媒が好ましい。また、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等の水溶液が好ましく、取り扱いが容易であることから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムの水溶液が好ましい。 ラクトンを有機層として除去した後、5−ノルボルネン−2−カルボン酸が溶解した水層に酸を加え、酸性化した後に有機溶剤により抽出することで、5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得ることができる。加える酸としては、アルカリを中和・酸性化するものであれば特に限定されないが、取り扱いが容易な点で塩酸または硫酸の水溶液が好ましい。抽出に用いる有機溶剤は、水に混和しないものであれば特に限定されないが、5−ノルボルネン−2−カルボン酸の溶解性が高い点で、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテルが好ましい。<5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステル> 5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、下記式(2)で表される。 式(2)中、R1 は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。本発明において、R1 としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基;アルコキシアルキル基、脂環式炭化水素基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、およびこれらが、アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、アミノ基等で置換されたもの等が挙げられる。 上記式(2)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの異性体としては、下記式(2−1)で表されるエキソ体、下記式(2−2)で表されるエンド体、およびこれらの光学異性体(式(2−1’)、式(2−2’))が存在する。(式(2−1)、式(2−2)、式(2−1’)、および式(2−2’)中、R1 は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。) 以下、特に断らない限り、上記式(2−1)と(2−1’)、(2−2)と(2−2’)とは区別せず、それぞれ上記式(2−1)および式(2−2)で表すこととする。 上記式(2)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、通常、以下の反応式(II)で表されるシクロペンタジエンとアクリル酸エステルとのディールス・アルダー反応によって合成される。(式中、R1 は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。) シクロペンタジエンとアクリル酸エステルとのディールス・アルダー反応は、エンド選択的であることが知られており、得られる5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルのエキソ体の比率は、30モル%未満である。一方、本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、上記式(2−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含むものである。 5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルのうち、エキソ体の比率は、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。エキソ体の比率は、高ければ高いほど好ましく、上限は100モル%である。<5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法> 本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法としては、以下の方法が挙げられる。 (iii)上記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを異性化し、上記式(2−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを得る工程を有する方法。 (iv)上記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および上記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物から、式(1−1)で表されるエキソ体を優先的にエステル化して、上記式(2−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを得る工程を有する方法。((iii)の方法) 上記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの異性化は、塩基性条件において行うことが好ましい。この異性化反応は、塩基によりカルボキシ基に隣接した炭素原子に結合した水素原子が引き抜かれ、再結合するものと考えられる。この水素引き抜き、再結合反応は、平衡的に起こると考えられ、反応条件によっては、エキソ体の比率を更に高めることができる。 異性化に用いられる塩基としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド等の金属アルコキシド;水素化ナトリウム、水素化リチウム等の金属水素化物;メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム等のアルキルリチウムが挙げられる。これらのうち、取り扱いが容易である点から、ナトリウムメトキシドが好ましく、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液がさらに好ましい。 溶媒は、用いても用いなくてもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン等が、塩基の溶解性が高い面から好ましい。 異性化を行う温度は、通常0℃以上であり、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。これより低いと異性化が起こりにくい場合がある。また、異性化を行う温度は、通常200℃以下であり、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。これより高いと、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルが分解する場合がある。((iv)の方法) 上記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および上記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸のカルボキシ基周辺の立体障害は、前述した5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの場合と同様に、エキソ体のほうが小さいと考えられ、エステル化反応もエキソ体のほうがエンド体よりも早く進行する。 エステル化反応は、上記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および上記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物を、目的とするエステルに対応するアルコールまたはオレフィンと反応させることで行われる。例えば、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルを合成する際には、酸性触媒存在下で、5−ノルボルネン−2−カルボン酸と、過剰量のメタノールとを反応させることが好ましい。また、5−ノルボルネン−2−カルボン酸tert−ブチルを合成する際には、酸性触媒存在下で、5−ノルボルネン−2−カルボン酸と、過剰量のイソブチレンとを反応させることが好ましい。また、エステル化を行う際に、酵素、微生物等の生体由来の触媒を用いることも、エキソ比の高い生成物が得られるため、好ましい。(他の製造方法) 本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法においては、上記(i)〜(iv)の方法に記載された工程を2回以上行ってもよい。この場合、同一の工程を2回以上行ってもよいし、異なる2つ以上の工程を組み合わせて行ってもよい。エキソ体比率を高くすることができる工程を、2回以上行うことで、エキソ体比率のより高い5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを製造することができる。 (i)〜(iv)の方法に記載された工程を2回以上行う製造方法としては、例えば、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの分解と5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの異性化とを組み合わせて行うことが好ましい。塩基性条件下で異性化を行いながら、徐々に加水分解を行うと、上記式(2−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルが、上記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸に分解される反応と、上記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸が式(2−1)で表されるエキソ体に異性化される反応とが同時に起こると考えられる。この方法により、式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の比率と、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルから5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る収率とを、同時に高めることができる。具体的には、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルと、ナトリウムメトキシド等の塩基とを反応させ、同時にその反応系内に若干量の水を添加することで、エステルを徐々に加水分解しながら、異性化を行うことができ、エキソ体比率の高い5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得ることができる。 また、この方法で5−ノルボルネン−2−カルボン酸を製造する際には、反応の進行に従って、5−ノルボルネン−2−カルボン酸のアルカリ金属塩が生じ、析出する場合がある。析出が起こると攪拌が困難になるおそれがあるが、溶媒を用いることが析出防止に有効である。用いる溶媒としては、5−ノルボルネン−2−カルボン酸のアルカリ金属塩の溶解性が高いこと、反応後の除去が容易であることから、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが好ましく、メタノールが特に好ましい。 また、エキソ体比率の高い5−ノルボルネン−2−カルボン酸をさらにエステル化、またはラクトン化することで、エキソ体比率がさらに高い5−ノルボルネン−2−カルボン酸、または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを収率よく得ることができる。((メタ)アクリル酸エステル) 本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、下記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルの原料として用いることができる。本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。(式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。) 上記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、下記式(III)または式(IV)で表される反応によって製造することができる。(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、R1 は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。) これらの反応において、式(1−2)で表されるエンド体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸または式(2−2)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを原料に用いると、多量の副生成物を生じ、好ましくない。この副生成物は、主として下記式(V)で表されるように、エンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸が分子内環化反応を起こしたラクトンであると考えられる。 このラクトンの副生は、上記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルの収率を下げるばかりでなく、副生成物が固体のため蒸留などの方法で精製することも困難になり、好ましくない。 本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、エキソ体を多く含むものであり、上記(V)で表される副反応が抑制され、収率よく上記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルを得ることができる。これは、式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、カルボキシ基の立体配置により分子内環化反応を起こしにくい構造となっているためと考えられる。 以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。[実施例1](5−ノルボルネン−2−カルボン酸の合成) 攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた1Lガラス製三口フラスコに、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル(大阪有機化学工業(株)製、ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は27:73(モル比))123g(0.89モル)を仕込んだ。室温で攪拌しながら、ナトリウムメトキシド28質量%メタノール溶液(和光純薬工業(株)製)312gを滴下ロートを用いて30分かけて滴下した。この溶液を70℃で1.5時間加熱した後、内温を70℃±5℃に保ったまま、メタノール202mlを加えた。さらに、内温を70℃±5℃に保ったまま、メタノール202ml、純水12mlの混合溶液を加えた。その後、70℃で12時間攪拌を行い、その後、室温まで冷却した。これに、純水350ml、濃塩酸(和光純薬工業(株)製、35〜37質量%)173gを加えた。この溶液をロータリーエバポレーターにて濃縮した。さらにトルエン300mlを加え、分液ロートに移した。水層を除去した後、トルエン層を濃縮し、5−ノルボルネン−2−カルボン酸を109g得た。得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、エキソ体:エンド体の比率は、74:26(モル比)であった。(メタクリル酸エステルの合成) 攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた1Lガラス製三口フラスコに、実施例1にて得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸(ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は74:26(モル比))69.0g(0.50モル)、メタクリル酸129.0g(1.5モル)、メタンスルホン酸4.8g(0.05モル)を仕込み、攪拌しながら130℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を130℃に保ったまま、2時間反応させた。反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、トルエン200ml、水100mlを加えた。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン層を濃縮したところ、下記式(4)で表されるメタクリル酸エステルを含む組成物が110.0g得られた。この組成物中に含まれる下記式(4)で表されるメタクリル酸エステルの割合をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、78モル%であった。[実施例2](5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルの合成) 攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた300mlガラス製三口フラスコに、実施例1にて得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸(ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は74:26(モル比))10gを仕込んだ。これを脱水メタノール(和光純薬工業(株)製)100mlに溶解した後、強酸性イオン交換樹脂アンバーリスト15DRY(ロームアンドハース社製)を1.0g加え、攪拌しながら加熱し、1時間加熱還流を行った。この反応液を室温まで冷却し、イオン交換樹脂をろ別した後、8質量%の水酸化ナトリウム水溶液50ml、トルエン200mlを加え、よく攪拌した。分液ロートを用いて、水層を除去した後、トルエン層を濃縮したところ、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルが8.5g得られた。得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルをガスクロマトグラフィーにて分析したところ、エキソ体:エンド体の比率は、85:15(モル比)であった。[実施例3](5−ノルボルネン−2−カルボン酸の合成) 攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた500Lガラス製三口フラスコに、実施例1にて得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸(ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は74:26(モル比))25gを仕込んだ。これをトルエン100mlに溶解した後、攪拌しながら硫酸3.5gを加え、加熱し、3時間加熱還流を行った。この反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら20質量%水酸化ナトリウム40mlを加えた。分液ロートを用いてトルエン層を除去した後、水層に濃塩酸(和光純薬工業(株)製、35〜37質量%)25.3gを加え酸性化した後、トルエン75mlを加え抽出した。トルエン層を濃縮したところ、5−ノルボルネン−2−カルボン酸を16.0g得た。得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、エキソ体:エンド体の比率は、95:5(モル比)であった。[比較例1](メタクリル酸エステルの合成) 実施例1にて得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸の代わりに、市販の5−ノルボルネン−2−カルボン酸(東京化成工業(株)製、ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は22:88(モル比))を用いた以外は、実施例1と同様にして上記式(4)で表されるメタクリル酸エステルを合成したところ、上記式(4)で表されるメタクリル酸エステルを含む組成物が109.5g得られた。この組成物中に含まれる上記式(4)で表されるメタクリル酸エステルの割合をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、45モル%であった。 本発明の製造方法を用いて、エキソ体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを合成することができた(実施例1〜3)。また、本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸を用いて、上記式(4)で表されるメタクリル酸エステルを収率よく合成することができた(実施例1)。 一方、比較例1のように、エキソ体の比率の低い市販の5−ノルボルネン−2−カルボン酸を用いた場合には、上記式(4)で表されるメタクリル酸エステルの収率および副生成物の生成の面で劣っていた。 本発明によれば、医薬、農薬、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の原料として有用な、エキソ体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを製造することができる。 下記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および下記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物から、式(1−1)で表されるエキソ体を酸性触媒存在下でエステル化して、下記式(2−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを得る工程を有する5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法。(式(2−1)中、R1 は、アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、アミノ基から選ばれる1種以上の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシアルキル基、脂環式炭化水素基、テトラヒドロピラニル基、またはテトラヒドロフラニル基を表す。) 下記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および下記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物から、式(1−2)で表されるエンド体を酸性条件下で加熱して下記式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンを得る工程と、 式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンを除去して、下記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る工程とを有する5−ノルボルネン−2−カルボン酸の製造方法。