生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_血液粘度低下剤
出願番号:2004331559
年次:2006
IPC分類:A61K 38/48,A61P 7/02,A61K 38/55


特許情報キャッシュ

一杉 正仁 前田 浩明 大村 和伸 JP 2006143601 公開特許公報(A) 20060608 2004331559 20041116 血液粘度低下剤 大和薬品株式会社 595154122 一杉 正仁 504424317 山川 政樹 100064621 山川 茂樹 100098394 一杉 正仁 前田 浩明 大村 和伸 A61K 38/48 20060101AFI20060512BHJP A61P 7/02 20060101ALI20060512BHJP A61K 38/55 20060101ALI20060512BHJP JPA61K37/547A61P7/02A61K37/64 3 OL 11 特許法第30条第1項適用申請有り 2004年5月24日又は2004年5月31日 貝原 眞発行の「日本バイオレオロジー学会誌(B&R)第18巻 増刊号 第27回 日本バイオレオロジー学会年会抄録号」に発表 4C084 4C084AA02 4C084AA06 4C084BA01 4C084BA22 4C084CA04 4C084DC03 4C084DC32 4C084NA06 4C084NA07 4C084ZA542 4C084ZC192 4C084ZC202 本発明は、血液の粘度を低下させる血液粘度低下剤に関するものである。 納豆は、江戸時代より現在に至るまで長期にわたり食されてきた日本の伝統食品であり、大豆タンパク質を効率よく摂取できる食品として優れている。例えば、納豆は大豆に比べ消化吸収率が高いという特徴がある。これは、大豆の主成分であるタンパク質や脂肪、デンプンなどが、納豆菌によりアミノ酸、脂肪酸、ブドウ糖に分解され、経口で摂取してからの消化吸収の効率が高く早くなるためである。 また、納豆に含まれるビタミンB群は、身体の機能をスムーズにし、疲労回復に効果が高いものが多く含まれている。納豆には、ビタミンB2が豊富に含まれるため、眼精疲労にも効果が期待できる。また、納豆に含まれるビタミンKは食品の含有量はトップクラスであり、骨粗しょう症予防や血液凝固能の低下予防など血液中カルシウム代謝の改善効果が期待できる。 また、近年では、納豆の多様な機能性が明らかにされつつあり、いわゆる健康食品としての効用が注目されて消費量が増加している。特に、納豆キナーゼとよばれている納豆に含まれている酵素は、開示されている生成法や物理化学的及び生化学的性質に示されているように、フィブリンの分解及び血栓の溶解などのように有用な効果がある(特許文献1,2,3参照)。 また、納豆キナーゼは、血栓溶解作用や血栓形成阻害作用があるものとして注目されている(特許文献4,5参照)。これら公報には、現在臨床の場で血栓症の治療に使用されている、ウロキナーゼ,ストレプトキナーゼ,組織型プラスミノーゲンアクチベータなどの血栓溶解剤や血小板凝集阻害剤に代わる薬剤として、納豆キナーゼを有効成分とした入手容易で安全な薬剤に関する技術が開示されている。 また、大豆から精製した大豆タンパク質の粉末を納豆菌で培養した培養濾液から納豆特有の臭いのない状態で納豆特有の有効成分をとりだした納豆の加工食品がある(特許文献6参照)。この納豆の加工食品を用いることで、納豆キナーゼによる血栓溶解作用に加え、血液凝固能力の遅延及び血栓形成抑制作用が得られることが提案されている。 なお、出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を出願時までに発見するには至らなかった。特開昭61−162184号公報特開平3−168082号公報特開平6−153977号公報特開平1−180834号公報特開平8−208512号公報特許第3532503号公報 以上に示したように、納豆由来の生成物においては、血栓溶解作用に加え、血液凝固能力の遅延及び血栓形成抑制作用など、様々な作用があるが、本発明者らは、特許文献6に示されている納豆の加工食品において、上述した作用以外の新たな機能を見いだした。従って、本発明は、納豆由来の生成物を用いた新たな機能の製剤を提供することを目的とする。 本発明に係る血液粘度低下剤は、アミノ基末端から順に、「アラニン,スレオニン,アスパラギン酸,グリシン,バリン,グルタミン酸,トリプトファン,アスパラギン,バリン,アスパラギン酸,グルタミン,イソロイシン,アスパラギン酸,アラニン,プロリン,リシン,アラニン,トリプトファン,アラニン,ロイシン,グリシン,チロシン,アスパラギン酸,グリシン,スレオニン,グリシン,スレオニン,バリン,バリン,アラニン,セリン,イソロイシン,アスパラギン酸,スレオニン,グリシン,バリン,グルタミン酸,トリプトファン,アスパラギン,ヒスチジン,プロリン,アラニン,ロイシン,リシン,グルタミン酸,リシン,チロシン,アルギニン,グリシン,チロシン,アスパラギン,プロリン,グルタミン酸,アスパラギン,プロリン,アスパラギン,グルタミン酸,プロリン,グルタミン酸,アスパラギン,グルタミン酸,メチオニン,アスパラギン,トリプトファン,チロシン,アスパラギン酸,アラニン,バリン,アラニン,グリシン,グルタミン酸,アラニン,セリン,プロリン,チロシン,アスパラギン酸,アスパラギン酸,ロイシン,アラニン,ヒスチジン,グリシン,スレオニン,ヒスチジン,バリン,スレオニン」、「アラニン,フェニルアラニン,セリン,グルタミン酸,アスパラギン酸,グリシン,グリシン,スレオニン,アスパラギン酸,アラニン,アスパラギン酸,イソロイシン,ロイシン,グルタミン酸,アラニン,グリシン,グルタミン酸,トリプトファン,バリン,ロイシン」、「アスパラギン酸,アラニン,グルタミン酸,グリシン,アスパラギン,プロリン,ヒスチジン,プロリン,グルタミン酸,メチオニン,アラニン,プロリン,アスパラギン酸,バリン」、「バリン,プロリン,グリシン,グルタミン,アラニン,チロシン,グルタミン酸,アスパラギン酸,グリシン,トリプトファン,アスパラギン酸」の各アミノ酸配列を含む納豆菌産生タンパク質から構成され、血液の粘度を低下させるものである。 上記血液粘度低下剤において、納豆菌生産タンパク質は、大豆から得られる大豆タンパクを含む原料を納豆菌で培養した培養液中から納豆菌とこの納豆菌が生産する酵素より分子量が小さい低分子成分とを除去した大豆タンパク質発酵物から構成されたものであり、上記低分子成分の除去は、限外濾過により行われたものであればよい。 以上説明したように、本発明によれば、前述したアミノ酸配列を含む納豆菌産生タンパク質から構成したことにより、納豆由来の生成物である納豆菌産生タンパク質を用いた、血液の粘度を低下させるという新たな機能の製剤を提供できるという優れた効果が得られる。 以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。発明者らは、納豆菌の大豆培養液から効率的に線溶活性物質を精製した精製物(以下NKCPと称する)を加工食品として開発し、納豆が有する血液の凝固塊を溶かす能力(線溶活性)に関する研究の過程で、血液粘度の低下作用という新しい知見を得た。 ここで、NKCPの製造について説明する。まず、納豆菌(高橋菌)を純水に加えて攪拌することで懸濁した状態にした後、これを標準寒天培地(ニッスイ製)を用いてシャーレに作製した平板培地に少量を加え(接種し)、37℃で24時間培養して上記平板培地上に納豆菌コロニーを得る。 一方、原料であるグルコース1gと粉末状大豆タンパク質(日清コスモフーズ(株)製,商品名:ソルピーNY)4gからなる液体培地200mlを内容積500mlの三角フラスコ内に作製し、オートクレープを用いて120℃の状態に30分間保持して上記三角フラスコ内を滅菌する。上記粉末状大豆タンパク質は、大豆より精製したものである。なお、原料として、大豆を粉砕するなどして得られる大豆の粉末を用いるようにしてもよく、大豆タンパクが原料に含まれていればよい。 この後、平板培地上に培養した納豆菌コロニーより、白金線の輪の径が2mmの白金耳で納豆菌を1回採取し、採取した納豆菌を上記三角フラスコ内の液体培地に接種する。次いで、納豆菌を接種した液体培地が収容されている三角フラスコを、40℃に保持したまま密閉せずに2日間回転振とうさせ、三角フラスコ内の液体培地を培養する。 また、内容積が30lのジャーファーメンターに、グルコース100g,粉末大豆タンパク質400g及び可溶性デンプン(敷島スターチ(株)製SF−400)からなる液体培地20lを作製し、これらを滅菌したものを用意する。加えて、上記三角フラスコ内に培養した納豆菌培養液200mlを、ジャーファーメンター内の液体培地に加え、42℃に加温した状態でバブリングしながら攪拌する状態を2日間保持して培養する。同様のものを3つ作製し、約50lの大豆タンパク質培養液を得る。 次に、得られた大豆タンパク質培養液より納豆菌及び不純物を遠心分離により除去した後、硫酸アンモニウムを1mol添加する。この硫酸アンモニウムの添加により、発酵液中に分散している種々の酵素などのタンパク質性の高分子化合物を含むタンパク質を疎水化して凝集しやすい状態とする。また、硫酸アンモニウムの添加により新たに不溶物が形成されるが、これら不溶物は、ガラス繊維濾紙で濾過する。 次いで、不溶物を濾過した濾液に、1molの硫酸アンモニウム溶液で平衡化した疎水クロマトグラフィー用樹脂(ブチルートヨパール650M)を浸漬し、樹脂上に疎水化した高分子化合物を凝集(添着)させる。次に、上記樹脂上を0.1mol濃度の炭酸水素アンモニウム水溶液に浸漬し、樹脂に添着した高分子化合物を溶出させることで、大豆タンパク質培養液を濃縮した濃縮培養液を40l得る。 次に、プレッブスケールM.W.1万の限外濾過膜を用いて限外濾過することで低分子物質を分離し、上記濃縮培養液40lを10lになるまで濃縮する。限外濾過することで限外濾過膜に濃縮された濃縮物に純水10lを加えて20lとし、再度上記限外濾過することで低分子物質を分離して10lになるまで濃縮する操作を3回繰り返し、大豆タンパク質培養液を濃縮した濃縮培養液から、ほとんどの低分子物質を除去した大豆タンパク質発酵物溶液を得る。 納豆特有の臭いの主な成分は、ジメチルピラジン(分子量108.14),トリメチルピラジン(分子量122.17),テトラメチルピラジン(分子量126.20),2−メチル酪酸(分子量102.13),イソ吉草酸(分子量102.13),アンモニア(分子量17.03)などの低分子化合物である。また、納豆に含まれているビタミンK2は、分子量が649の炭化水素化合物である。一方、納豆キナーゼをはじめとする酵素などのタンパク質は、分子量数万以上の高分子化合物である。 従って、前述した限外濾過による低分子物質の除去により、大豆タンパク質培養液中からは、納豆特有の上記臭いの成分やビタミンK2などの低分子物質が、ほぼ除去された状態となる。最後に、上記限外濾過により低分子物質が除去された大豆タンパク質発酵物溶液に、賦形剤として乳糖2キログラムを加えて凍結乾燥すれば、大豆タンパク質発酵物粉末(NKCP)約2.1kgが得られる。 1990年前後より納豆由来の線溶活性物質である納豆キナーゼはサブチリジン「Subtilisn (alkaline) protease」であるとの報告があった。上述したように製造したNKCPの主要活性物質を分離精製し、各種機器分析で検討したところ、納豆菌が細胞外へ分泌する酵素の一つであるバシロペプチダーゼ「Bacillopeptidase F」の34,000ダルトン断片と従来品とは異なることが判明した。 NKCPの機能性食品としての規格設定のため、従来の合成基質分解活性という代替指標に加え、バシロペプチダーゼの34,000ダルトン断片の抗体を作成して抗原抗体法(ELISA)による測定キットを作成して定量分析法を作成した。これらの方法は、日本食品分析センターにて検討を受け定量分析法としての妥当性が確認されている。 NKCPを機能性食品として開発するため、各種動物実験やヒト臨床試験において安全性と有効性を検討した。安全性については、特定保健用食品として厚生労働省に提出するレベルの知見を揃え、設定された臨床用量の範囲内で臨床上の問題は無かった。線溶活性が期待された有効性については、各種動物実験やヒト臨床試験でも確認することができた。これらの実験・試験の過程において、従来サブチリジンについて報告されてきた血栓に対する線溶活性化のみならず、血液凝固の抑制作用と血液粘度の低下作用が、NKCPに観察された。 次に、本実施の形態のNKCPを含む血液粘度低下剤における、血液粘度の低下作用の確認について説明する。20〜22歳の喫煙習慣や肥満のない、同意の得られたボランティアから提供を受けた新鮮血液を用いる。採血直後の新鮮血液を、オシロ粘度計(Viscomate VM-1G Yamaichi Electronics, Osaka, Japan)の37℃に保温された測定容器に入れ、ずり速度400〜500mPa・Sで臨床検査値や血液粘度を経時的に測定する。 試料は生理食塩水にて溶解し、新鮮血液の測定機器投入と同時に血液の1/100量を投入した。新鮮血液と試料の攪拌は粘度測定の過程で速やかになされた。血液検体の凝固・線溶系を刺激しないよう採血に注意を払い、凝固反応は全て測定機器内で観察できるよう取り扱う。 上述した方法で測定したヒト血液の粘度は、従来の測定法と異なり、生理的温度で抗凝固剤添加や希釈の処置なく、より体内状況に近い全血の性状変化を観察することが可能である。粘度変化は、測定系へ導入後速やかに平衡状態を示した後、血液の凝固反応に基づいて300秒程度から粘度の指数関数的な上昇が観察される(Thromb Res 104, 371〜374, 2001)。 MC−FANなど他の血液粘度測定装置においては、装置内での血液の凝固を防ぐために抗凝固剤を添加して測定している。血液中の血球成分(ほとんどが赤血球)の粘着や変形が関与する血液粘度の測定にはそれらでも十分であるが、血液に備わる凝固と線溶も含めたより生体に近い状況での測定は振動式粘度計が優れている。 NKCPは、血液添加量0.05mg/mLより粘度の指数関数的な上昇のタイミングの遅延が見られ、0.5mg/mL以上では粘度上昇が確認されない。また、平衡粘度の低下は0.25mg/mLで10%程度低下し、0.5mg/mLでは約20%低下した。これらNKCP添加時の凝固の兆候の程度や発現時期は、血栓溶解剤の組織型プラスミノーゲンアクチベータや高凝固剤のヘパリンの添加後とは異なるものである。 続いて、NKCPを経口摂取した際の臨床的状況下での血液粘度の測定を行う。対象は、事前に本試験参加の同意が得られた成人被験者8名を選択し、プラセボ処置した対照群を6名選択する。被験者選択時に明らかな急性疾患や慢性疾患の急性増悪を認めた人は組入れない。 摂取用量は1日当たり10錠、NKCP換算で1250mgと定める。被験者は、摂取初日は朝、米飯お握り2つとともに摂取させ、翌日より1週間1日1回夕食後に毎日摂取させる。摂取初日は、被験食品摂取前と摂取後45分,105分,180分,240分に、血液粘度検査を施行する。 血液粘度は、前述と同様に、一杉らの方法による、全血を振動式粘度計(Viscomate VM-1G Yamaichi Electronics, Osaka, Japan)の37℃に保温された測定容器中でずり速度400〜500mPa・Sで測定する。また、血液粘度変化の判断については、いずれも粘度の指数関数的変化の起る前の「平衡粘度」を用いる。以下の表1及び図1に示すように、180分、240分で血液粘度の下降が観察されるが、プラセボ処置した群では観察されない。 また、NKCPを添加した血液、他の納豆キナーゼを添加した血液、無添加の血液を、振動式粘度計により粘度を測定すると、図2に示すような変化が確認される。図2では、NKCPを添加した血液の測定結果を黒丸で示し、他の納豆キナーゼを添加した血液の測定結果を黒四角で示し、無添加の血液の測定結果を黒三角で示している。黒丸で示すNKCPを添加した血液の測定結果は、他の納豆キナーゼと比較して粘度の上昇があまり見られない。以上より、血液粘度の変化は、納豆に含まれている酵素・蛋白に普遍的に見られる現象ではない。なお、血液の粘度測定については、文献1(Masahito Hitosugi, et al, "Rheologic Changes in Venous Blood Durung Prolonged Sitting", Thrombosis Research 100, pp409-421, 2000),文献2(Masahito Hitosugi, et al, "Cheung in Blood Viscosity by Heparin and Argatroban", Thrombosis Research 104, pp371-374, 2001),文献3(Masahito Hitosugi, et al, "Cheung in Blood Viscosity With Synthetic Protease Inhibitors", Journal of Pharmacological Science, Vol.91, pp.334-336, 2003.)を参照されたい。 以上に示すように、NKCPを含む本実施の形態の血液粘度低下剤によれば、血液の粘度が低下することが明らかである。血液粘度の低下作用は、臨床的には血栓塞栓子の誘発因子である血流のうっ滞予防、筋肉など末梢組織における酸素や栄養供給効率の上昇に伴う活動能力の相対的向上、末梢血管抵抗改善に伴う高血圧改善、血管抵抗低減に伴う動脈硬化進展予防、慢性心不全に伴う症状軽減、など健康維持と公衆衛生の向上に幅広く貢献しうると期待される。 また、診断に伴う血液成分検査において問題となる採血後の血液の粘度上昇や凝固を阻止し、検査の正確性及び利便性を向上させる特性を有する。検査・治療で発生する器具の血液汚染において、粘度上昇抑制による洗浄効果の向上が期待される。また、処置や手術の対象となる組織や、生体から分離した組織や血液の維持保存にも貢献しうると考えられる。 次に、上述した本実施の形態の血液粘度低下剤であるNKCPの物理化学的性質の調査結果について説明する。まず、NKCPを生産する菌株である納豆菌(高橋菌)の遺伝子配列を「16SrDNA塩基配列法」で解析すると、バシラスサブチリス菌サブチリス属(Baclllus Subtilis subsp, Subtills)168株と、相同率99.9%以上が示される。 次に、NKCPの分子量は、電子飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)を用いて測定すると、34134ダルトンとなる。従って、NKCPの分子量は、34100ダルトン程度であるものと考えられる。なお、この測定では、スーパーQトヨパール650M(SuperQ-Toyopeal 650M)、ブチルトヨパール650M(Butyl-Toyopearl 650M)、トヨパールHW−40F(Toyopearl HW-40F)などの分子節担体を用いた自然落下クロマトフラムを繰り返して精製を行ったものを対象としている。以降でも、同様の精製を行ったものを測定等の対象としている。 次に、NKCPの構造を、エドマン分解法による自動アミノ酸残基配列分析装置により解析を行うと、アミノ基末端から85アミノ酸残基が解析される。また、リシル残基制限的蛋白分解酵素により制限的にNKCPを消化することで、いくつかのペプチド断片が得られる。これらの得られたペプチド断片を加圧式液体クロマクトグラムを用いて精製し、電子非行時間型質量分析器による質量分析とエドマン分解法による自動アミノ酸残基配列分析とを行うと、NKCPの構造は次に示すものとなる。 まず、NKCPは、アミノ基末端から、「ATDGVEWNVDQIDAPKAWALGYDGTGTVVASIDTGVEWNHPALKEKYRGYNPENPNEPENEMNWYDAVAGEASPYDDLAHGTHVT」、「AFSEDGGTDADILEAGEWVL」、「DAEGNPHPEMAPDV」、「VPGQAYEDGWD」の各アミノ酸配列(ペプチド断片)を備えることが確認された。言い換えると、NKCPは、アミノ基末端からこれらのアミノ酸配列を備えた納豆菌産生タンパク質である。 なお、A:アラニン,G:グリシン,M:メチオニン,S:セリン,C:システイン,H:ヒスチジン,N:アスパラギン,T:スレオニン,D:アスパラギン酸,I:イソロイシン,P:プロリン,V:バリン,E:グルタミン酸,K:リシン,Q:グルタミン,W:トリプトファン,F:フェニルアラニン,L:ロイシン,R:アルギニン,Y:チロシンである。 また、質量分析結果と分子構造の分子量による計算値の照合、バシラスサブチリス菌の遺伝子データベース(文献4:Xu-Chu Wu,et al, "Cloning, Genetic Organization, and Characterization of a Structural Gene Encoding Bacillopeptidase F from Bacillus Subtilis*", The Journal of Biological Chemistry, Vol.265, No.12, pp.6845-6850, 1990.)との照合,及び配列アミノ酸残基の生物学的な易切断性の判断結果より、NKCPは、「ATDGVEWNVDQIDAPKAWALGYDGTGTVVASIDTGVEWNHPALKEKYRGYNPENPNEPENEMNWYDAVAGEASPYDDLAHGTHVTGTMVGSEPDGTNQIGVAPGAKWIAVKAFSEDGGTDADILEAGEWVLAPKDAEGNPHPEMAPDVVNNSWGGGSGLDEWYRDMVNAWRAADIFPEFSAGNTDLFIPGGPGSIANPANYPESFATVATDINKKLADFSLQGPSPYDEIKPEISAPGVNIRSSVPGQAYEDGWDFTSMAGPHVSAVAALLKQANASLSVDEMEDILTSTAEPLTDSTFPDSPNNGYGHGLVNAFDAVSAVTDGLGK」の構造を有しているものと考えられる。 また、NKCPは、セリン残基制限的蛋白分解酵素としての活性を示す構造中心や、アスパラギン残基,ヒスチジン残基,及びセリン残基を中心としたアミノ酸配列と相同性のある部位が確認されている。これらは、バシラスサブチリス菌が細胞外へ放出するタンパク質分解酵素の1つであるバシロペプチダーゼFで証明されており、NKCPがセリン残基制限的蛋白分解酵素であることの裏付けとなる(文献4,文献5:Alan Sloma,et al, "Cloning and Characterization of the Gene for an Additional Extracellular Serine Protease of Bacillus Subtilis", Journal of Bacteriology, Vol.173, No.21, pp.6889-6895, Vov. 1991.)。 ここで、一般的な納豆の生理活性に関して説明する。納豆は大豆に比べ消化吸収率が高い。これは、大豆の主成分であるタンパク質や脂肪、デンプンなどが、納豆菌によりアミノ酸,脂肪酸,ブドウ糖に分解されるため、経口で摂取してからの消化吸収の効率が高く早い。納豆に含まれるビタミンB群は、身体の機能をスムーズにし、疲労回復に効果が高いものが多く含まれている。ビタミンB2が豊富に含まれるため、眼精疲労にも効果が期待できる。ビタミンKは食品の含有量はトップクラスで、骨粗しょう症予防や血液凝固能の低下予防など血液中カルシウム代謝の改善効果が期待できる。 納豆菌が大豆タンパクを分解する過程で、プロテアーゼやアミラーゼなどの各種分解酵素を生むため、活性酵素剤的な役割も果たすので、消化整腸力を高め、新陳代謝を活発にする。また納豆キナーゼは、血栓を溶かす作用がある。 次に、納豆キナーゼとNKCPの酵素としての違いについて考察する。納豆中で発見された強力な線維素溶解酵素である納豆キナーゼは、納豆菌から分泌されるセリンプロテアーゼの一種で、20,000ダルトンの分子量を示し、フィブリン分解能とプラスミン基質分解能を有する。納豆からは、本酵素以外に分子量27,000ダルトン以上に複数の繊維素溶解酵素が検出される。 納豆に見いだされた強力な線維素溶解活性を有する新規な線維素溶解酵素である納豆キナーゼは、納豆から生理食塩水で容易に抽出される。分子量は20,000ダルトンで等電点は8.6である。納豆キナーゼはフィブリンを分解するだけでなく、合成プラスミンの基質(S−2251)も分解する。納豆キナーゼは、中性のpHでは比較的安定で、60℃に加熱することで活性が徐々に失活する。 一方、納豆に4℃で10倍量の生理食塩水を加えて攪拌後遠心分離して得られる上清に80%エタノールを加えてゲル濾過し、濃縮した後、凍結乾燥させて粗酵素画分を作製する。作製した粗酵素画分には、プロウロキナーゼアクチベータ活性を有する複数の繊維素溶解酵素が存在しており、分子量27,000ダルトン以上に3つ以上の活性ピークが認められる。 前述したように、NKCPは納豆菌培養物から得られる線溶活性タンパク質の粗精製物である。NKCPから得られたLys−X結合に加水分解特異性の高い納豆菌産生タンパク質は、前述したように、一定量の活性タンパク質を含有しており、分子量は34100ダルトン程度であり、至適pHは9.0である。納豆キナーゼとは分子量が異なり、粗精製物中からは納豆特有の臭いと納豆菌、ビタミンKが除去されている。 次に、NKCPの血液凝固・線溶系に対する生理活性について説明する。NKCPはインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)において血栓溶解作用を有することが確認されているが、この作用は市販薬剤の組織型プラスミノーゲンアクチベータ(t−PA)に比較して穏やかである。NKCP線溶活性上昇の作用機序は、直接的なフィブリン分解とプラスミノーゲン活性化抑制因子1(PAI−1)の分解によるものであることが示唆されており、振動式粘度計の測定により血液の粘性低下も認められている。 NKCPの組織培養系及び動物実験レベルでの凝固線溶系への作用を検討した結果を示す。インビトロとインシッツ(in situ)の系でHUVEC細胞とU87−MG細胞を用いて、プラスミノーゲン活性化抑制因子1(PAI−1)の産生量を、NKCPを加えた場合と加えない場合で比較する。HUVEC細胞によって産生される総PAI−1は、48時間で700ng/ml、遊離PAI−1は580ng/mlまで増加する。遊離PAI−1量に対するNKCPの影響は、0時間と24時間後のいずれも見られない。 U87−MG細胞におけるPAI−1の産生量は、高濃度のNKCP(10μg/ml)の場合、完全培地中で、全てのインキュベーション時間において完全に抑制される。DMEM培地の場合、1μg/mlのNKCPによって、PAI−1の産生は完全に抑制される。完全培地とDMEM培地でのPAI−1の産生量を、NKCPを加えた場合と加えない場合で比較すると、HUVEC細胞ではNKCPによる影響は観察されないが、U87−MG細胞では低分子のタンパク質が増加する。このことから、NKCPの線溶活性は、PAI−1分解によるプラスミノーゲン賦活作用であることが示唆される。 また、採血直後の血液にNKCPを添加し、オシロ粘度計で測定すると血液粘度の低下が観察される。無添加、組織型プラスミノーゲンアクチベータ(t−PA)添加、ヘパリン添加を対照として、この振動式粘度計で凝固の兆候がみられる300秒時の血液の臨床検査を検討すると、NKCP添加で抗トロンビン活性とプラスミン活性によらないと考えられる線溶活性がみられる。また、健常成人がNKCP250mg〜500mgを7日間摂取すると、血液の粘性の低下が観察される。血液粘度の測定結果を示す特性図である。血液粘度の測定結果を示す特性図である。 アミノ基末端から順に、「アラニン,スレオニン,アスパラギン酸,グリシン,バリン,グルタミン酸,トリプトファン,アスパラギン,バリン,アスパラギン酸,グルタミン,イソロイシン,アスパラギン酸,アラニン,プロリン,リシン,アラニン,トリプトファン,アラニン,ロイシン,グリシン,チロシン,アスパラギン酸,グリシン,スレオニン,グリシン,スレオニン,バリン,バリン,アラニン,セリン,イソロイシン,アスパラギン酸,スレオニン,グリシン,バリン,グルタミン酸,トリプトファン,アスパラギン,ヒスチジン,プロリン,アラニン,ロイシン,リシン,グルタミン酸,リシン,チロシン,アルギニン,グリシン,チロシン,アスパラギン,プロリン,グルタミン酸,アスパラギン,プロリン,アスパラギン,グルタミン酸,プロリン,グルタミン酸,アスパラギン,グルタミン酸,メチオニン,アスパラギン,トリプトファン,チロシン,アスパラギン酸,アラニン,バリン,アラニン,グリシン,グルタミン酸,アラニン,セリン,プロリン,チロシン,アスパラギン酸,アスパラギン酸,ロイシン,アラニン,ヒスチジン,グリシン,スレオニン,ヒスチジン,バリン,スレオニン」、「アラニン,フェニルアラニン,セリン,グルタミン酸,アスパラギン酸,グリシン,グリシン,スレオニン,アスパラギン酸,アラニン,アスパラギン酸,イソロイシン,ロイシン,グルタミン酸,アラニン,グリシン,グルタミン酸,トリプトファン,バリン,ロイシン」、「アスパラギン酸,アラニン,グルタミン酸,グリシン,アスパラギン,プロリン,ヒスチジン,プロリン,グルタミン酸,メチオニン,アラニン,プロリン,アスパラギン酸,バリン」、「バリン,プロリン,グリシン,グルタミン,アラニン,チロシン,グルタミン酸,アスパラギン酸,グリシン,トリプトファン,アスパラギン酸」 の各アミノ酸配列を含む納豆菌産生タンパク質から構成され、血液の粘度を低下させることを特徴とする血液粘度低下剤。 請求項1記載の血液粘度低下剤において、 前記納豆菌生産タンパク質は、 大豆から得られる大豆タンパクを含む原料を納豆菌で培養した培養液中から前記納豆菌とこの納豆菌が生産する酵素より分子量が小さい低分子成分とを除去した大豆タンパク質発酵物から構成されたものである ことを特徴とする血液粘度低下剤。 請求項2記載の血液粘度低下剤において、 前記低分子成分の除去は、限外濾過により行われたものであることを特徴とする血液粘度低下剤。 【課題】納豆由来の生成物を用いた新たな機能の製剤を提供する。【解決手段】大豆から得られる大豆タンパクを含む原料を納豆菌で培養した大豆タンパク質培養液をプレッブスケールM.W.1万の限外濾過膜を用いて限外濾過し、納豆菌とこの納豆菌が生産する酵素より分子量が小さい低分子成分とを除去することで、大豆タンパク質培養液より低分子物質を分離した大豆タンパク質発酵物溶液を作製し、得られた大豆タンパク質発酵物により、血液粘度低下剤を作製する。【選択図】なし


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