タイトル: | 公開特許公報(A)_ブランデーの製造法 |
出願番号: | 2004289698 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12G 3/12 |
長尾 公明 吉岡 知哉 JP 2006101723 公開特許公報(A) 20060420 2004289698 20041001 ブランデーの製造法 マンズワイン株式会社 390032193 鈴木 英之 100125542 長尾 公明 吉岡 知哉 C12G 3/12 20060101AFI20060324BHJP JPC12G3/12 3 OL 11 4B015 4B015NB02 4B015NG04 4B015NG09 4B015NG11 4B015NP01 4B015NP03 本発明は、ブランデーの製造法に関する。 ブランデーは、果実を原料とした蒸留酒であり、通常、ブドウを原料とし、その破砕・圧搾後に固液分離した果汁を発酵させた後に蒸留したものが広く知られ、製造されている。また、ブドウ以外の果実を原料とするブランデー(ブドウを原料とする一般的なブランデーと区別して、フルーツブランデーと称している場合もある)も各種製造されている。 一般に、蒸留酒であるブランデーは、蒸留工程を経ないワインと比較した場合、原料果実由来のフルーティな香りが非常に弱い。この原因には、蒸留工程においてブランデーとして回収される画分に各種香気成分が十分に含まれないこと、および蒸留中の高温により各種香気成分が変性・消失することが挙げられる。原料果実由来のフルーティな香りは、酒類の付加価値を高める要素のひとつであると考えられるが、ワインのように果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーはこれまで知られておらず、また、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを製造することを目的に、その手段を詳細に検討した報告も知られていない。 ブドウを原料とするブランデーの製造法としては、一般に白ブドウ酒用の品種を破砕し、圧搾機で搾汁後、固液分離した果汁に酵母を加えて20〜30℃で発酵させ、発酵物をおり引きせず直ちに蒸留する方法等が広く知られている。また、ブランデーの蒸留方法としては、主として単式蒸留法や連続式蒸留法が広く用いられている(例えば、非特許文献1〜2参照。)。 蒸留酒の製造方法としては、減圧蒸留を使用した方法も知られており、特に焼酎においてクセのない香味を有する製品が得られる方法として用いられている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーが減圧蒸留によって製造できるとの報告はなく、またそのための蒸留条件等の詳細な検討はなされていない。 ワイン製造法としては、ナシを固液分離せずに発酵(醸発酵)させることにより、ナシ特有のフルーティな香りと色を呈するナシワインを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーが醸発酵によって製造できるとの報告はなく、またそのための発酵条件等の詳細な検討はなされていない。 柿およびブラジルやしを原料としたブランデー製造法としては、果実醪を醸発酵させてから減圧蒸留する方法が開示されている(例えば、特許文献3および4参照。)。しかしこれらは、果実成分が溶解困難である、好ましくない風味を有する、あるいは香りに乏しい等、従来酒の原料として不向きな特殊な原料からブランデーを製造するための手段として提示されたものであり、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを得るための発酵および蒸留方法の検討が十分になされたものではない。この方法により得られる柿ブランデーは香りに乏しく、蒸留後に柿乾燥皮を長期浸漬することで香り付けを行うものである。また、柿およびブラジルやし以外の果実原料に関する検討は行われていない。「醸造学」野白喜久雄、小崎道雄、好井久雄編著(講談社サイエンティフィク)P.133:1982年4月10日第1版発行「醸造学」大塚謙一編著(養賢堂)P.148〜158:1981年12月10日第1版発行特開平09−238673号公報特開2001−54378号公報特開昭56−29989号公報特開昭61−015682号公報 本発明は、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを製造することを課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、フルーティな香り高い原料果実破砕物の一部または全部を固液分離することなく発酵(醸発酵)させ、発酵物を減圧蒸留することにより、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを製造できることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下に関する。(1)原料果実を破砕し、破砕物の一部または全部を固液分離することなく、酵母を用いて発酵させ、得られた発酵物を減圧蒸留する工程を含むことを特徴とするブランデーの製造法。(2)発酵温度が10〜25℃であり、発酵に要する時間が3〜14日である、上記1に記載のブランデーの製造法。(3)減圧蒸留時の品温が40〜55℃である、上記1または2に記載のブランデーの製造法。 本発明のブランデーの製造法によれば、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを製造できるので、高品質のブランデー製造法として使用できる。本発明は、高品質のブランデーの製造・供給のために有用である。 以下、本発明の実施の形態を、具体的に説明する。 [原料果実] 本発明に使用される原料果実としては、フルーティな香り高いものが好ましく、例えばブドウ、レモン、グレープフルーツ、ミカン等柑橘類、メロン、洋梨等、各種果実が好適に使用できる。従来果実酒あるいはブランデー製造に使用されてきた各種果実が好適に使用でき、特に、原料果実特有の香りを顕著に有する果実・品種・収穫時期(熟度)のものを選択することが望ましい。 例えば、ブドウであれば、特にアメリカ系の品種、ナイアガラやコンコード等の品種、柑橘類であれば、レモン、ミカン、グレープフル−ツ、伊予柑、夏みかん、ゆず等、メロンであればアールスメロン、プリンスメロン、クインシーメロン、ロイアルメロン等の品種等は、特に好ましい効果を得られるものの一例である。また、同時に複数の原料果実を使用してもよい。 [原料の破砕] 原料果実の破砕は、通常のブランデー製造や、ワイン製造に使用される各種方法に従って行えばよい。例えば、本発明で使用する破砕装置としては、ローラー式除梗破砕機、ハンマークラッシャー、スライサー、ディスインパルパー等が使用でき、特に、ハンマークラッシャー処理後にディスインパルパー処理を行う方法、又はスライサー処理後にディスインパルパー処理を行う方法等は、原料果実の破砕度が高く、好ましい。 本発明に記載する、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを製造するために、果皮部の破砕状態は重要な条件のひとつである。適切な破砕条件の設定により原料果実の破砕度を高くすることができ、以降の発酵工程において、原料果実由来のブランデーの香気として好ましい香気成分をできる限り多量に発酵液中に抽出させ、また好ましい香気成分をより多量に生成しうる発酵を行わせることが可能となる。 原料果実の破砕処理前に原料果実の一部(例えば梗や大型の種子等)を部分的に除去する、あるいは破砕後、発酵工程に供する前の段階で破砕物の一部を除去する等の処理は、原料果実の特性に応じて個別に条件設定することができる。例えば、ブランデーの品質にとって好ましくない味や香りに関与する成分が多量に特定部分に局在する場合等には、その部分を全てもしくは一部除去することにより、果実醪中に占める特定部分の割合を減少させることができ、より好ましい品質のブランデー原料となりうる果実醪を製造することができる。 固形成分の除去もしくは量の調整と同様の目的で、原料果実破砕後に果実破砕物から果汁を一部抜き取り、そのことによって果汁と固形分との比率を意識的に変えることで、より固形分の多い組成の、すなわち果皮や種子等に含まれるタンニン類やその他の成分をより多く含有する果実醪を製造することも可能であり、このような手法はワイン醸造における「セニエ」の手法として、当業者にはよく知られたものである。 [酵母等による発酵] 上記のようにして得られた破砕物の一部または全部を、酵母を用いて発酵させる。本発明における醸(かもし)発酵とは、果皮・果肉・種子等を含む原料果実破砕物の一部または全部を固液分離することなく発酵工程に供する発酵方法をいう。また、発酵によって得られる、ブランデー製造のための果実原料由来の発酵物を「醪」という。 本発明で使用する酵母としてはワイン酵母が好適であるが、清酒酵母、ビール酵母、焼酎酵母、パン酵母等も使用できる。 酵母を添加する方法には、例えば市販の乾燥ワイン酵母を定法(例えば、35〜40℃の温水5Lに乾燥酵母500gを入れ20分放置した後、攪拌し果汁に添加する等の方法)により戻し、所定量を添加する方法がある。この場合添加量としては300〜500ppmが好適である。その他の添加方法として、発酵の旺盛な他のワイン醪の一部を遠心分離して得られた酵母を添加する方法や、事前に同一果汁中で前培養したものを酒母として添加する方法等もある。 本発明における発酵温度は、好ましくは10〜25℃、より好ましくは15〜18℃である。これは、一般的なブランデー製造の発酵温度である20〜30℃よりも低温条件であり、これにより果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーが製造できる。 本発明に記載する、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを製造するための発酵工程管理において、特に重要な条件が発酵温度である。これらを適切に設定することにより、発酵工程において、原料果実由来のブランデーの香気として好ましい香気成分をできる限り多量に発酵液中に抽出させ、かつ、好ましくない香気成分が発酵液中に抽出されることをできる限り抑制することが可能となる。 さらに、発酵工程において、原料果実由来の成分が酵母等の作用により変換されて生成する香気成分のうち、ブランデーの香気として好ましい香気成分をできる限り多量に生成させ、かつ、好ましくない香気成分の生成をできる限り抑制することが可能となる。 加えて、発酵中の発酵液の温度を低く維持することによって、発酵中の醪から低沸点のフルーティな香気成分が揮散することをできる限り抑制できる。 例えばブランデーの香気として好ましい香気成分の一例としては、高級アルコール類(例えばイソアミルアルコール、フェネチルアルコール、イソブタノール等)、エステル類(低級脂肪酸エステル、高分子脂肪酸エステル、芳香酸エステル、例えばエチルアセテート、エチルカプリレート、エチルカプロレート等)、またはテルペン化合物等が挙げられる。また、ブランデーの香気として好ましくない香気成分としては、例えばアセトアルデヒド、ダイアセチル、S化合物(ジメチルサルファイド、エチルメルカプタン等)等が知られている。 なお、発酵温度が高すぎる(30℃以上)場合には、発酵物中にS化合物を含んだような香りを生じ、フルーティな香り高いブランデーの品質としては好ましくない製品となる傾向を有する。一方、発酵温度が低すぎる(10℃未満)場合には、酵母による十分な発酵が行われず、フルーティな香り高いブランデー製造に寄与する香り成分を十分に含む発酵液を得ることが困難となる傾向がある。 本発明においては、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを製造するために、好ましくは低温条件(10〜25℃)で3〜14日間の発酵を行う。この発酵期間は、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを製造するために設定した低温発酵温度条件において好適なものである。この期間中、発酵醪は1日1回以上、好ましくは2〜3回攪拌を行って、浮上固形物の浸漬を行うことが好ましい。 発酵期間が短すぎる場合、酵母による十分な発酵が行われず、フルーティな香り高いブランデー製造に寄与する香り成分を十分に含む発酵液を得ることが困難となる傾向がある。特に、本発明における発酵温度は一般的なブランデー製造法の温度条件と比較して低いため、発酵の進み具合が遅く、3日より短い発酵期間によっては、高品質のブランデーを得ることが困難である。 また、適切な発酵期間を超過して発酵を進めた場合には、発酵物中に生じたフルーティな香りが徐々に変性してしまい、フルーティな香り高いブランデーの品質としては好ましくない製品となる傾向を有する。従って、本発明においては、14日を越えない発酵期間が好ましい。 発酵停止は固液分離後、遠心分離して行うか、もしくはそれらの処理を行わないで蒸留にもちこむ。上記のような工程を経て、発酵液(果実醪)が製造される。 [発酵物の減圧蒸留] 上記のようにして得られた発酵液(果実醪)をおり引きせず、あるいはおり引き後に蒸留する。本発明が課題とする、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーの製造には、好適な蒸留方法および蒸留条件の設定が重要である。 すなわち、原料果実に由来する、および原料果実成分の発酵による変換に由来する、ブランデーの香気として好ましい香気成分の分解・消失・変質を防止しつつ、それらをできる限り多量に留出液(すなわち、ブランデーとなる画分)に含有させることが可能な条件設定が重要である。そのための蒸留方法としては、減圧蒸留が好適に使用できる。ポットスチルやパテントスチル等の装置を用いて従来広く用いられている常圧蒸留を行うよりも低い温度で蒸留を行うことが可能であり、これによって各種香気成分の分解を防止することができるからである。 減圧蒸留を行う際に重要な条件のひとつは品温である。品温を高めることにより蒸留はより速やかに行われ、作業効率は向上するが、一方で、品温を高めすぎることによって、ブランデーの香気として好ましい香気成分の分解・消失・変質が生じる。本発明に記載する、品温を40〜55℃に維持した減圧蒸留を行うことにより、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーの製造にとって好ましい香気成分を、できる限りそれらの分解、消失、変質を防止しつつ、できる限り多量に留出液に含有させることが可能となり、かつ一定の作業効率を得ることができる。 減圧蒸留を行う際の減圧度は、品温を上記範囲に維持しながら、醪の状態もしくは装置の状態等に応じて任意に設定することができる。例えば、好ましくは10〜260Torrの減圧度において減圧蒸留を行うことができる。 減圧蒸留時における品温が高温(55℃を超える)となった場合、果実醪の種類によっては、蒸留中に香気成分の加熱酸化反応が起こり、果実香成分の高沸点成分や雑味臭を付与する成分が留出し、それらが製品中に加わることにより、得られる香気が重く、嗜好性の低いものとなる傾向がある。 また、減圧蒸留時における品温が低温(40℃未満)となった場合、ブランデーの製造にとって好ましい香気成分の分解、消失、変質等は防止できるが、蒸留効率は著しく低下し、工業生産において好ましい条件とはいえない。従って、本発明に記載する、品温40〜55℃での減圧蒸留という条件が、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーの製造条件として好適である。 本発明の減圧蒸留に用いる装置としては、例えば減圧蒸留装置の原理に基づく自作の装置を用いることができる。該装置は少なくとも、減圧条件下で発酵物を収納できる空間と、減圧状態を作り出すことが可能な真空装置(真空ポンプ等)、品温コントロールが可能な温調設備(ジャケツト式循環装置等)を備え、また蒸発させた気体成分を留出液として回収するための冷却装置(蛇管付き冷却タンク等)および留出液回収部を備えたものである。必要に応じ、バッチ式、連続式等の様式の装置を使用することができ、攪拌機能や制御システムなどの機能が付加されていてもよい。また、減圧濃縮が可能な市販の装置に、温調装置や留出液回収装置を付加することにより、本発明の減圧蒸留用装置として利用することも可能である。例えばワイン用の果汁濃縮装置(VERO社(イタリア)、減圧濃縮装置 AES70 R22等)が使用可能である。 このようにして得られた留出液(すなわちブランデー)に、例えば後から色を付けることも可能である。例えば、減圧蒸留後の留出液を回収後、留出液に色素を混合する部分を製造ラインに設けることができ、色素には一般的に酒類や飲食料品に使用できる各種色素が使用可能である。 原料果実を利用した着色方法の一例としては、原料果実の圧搾果皮等をカラム等に詰めておき、その中を留出液が通過するような装置を製造ライン中に設けることができる。該カラムを通過する留出液(すなわち香気成分を豊富に含有する高濃度のアルコール)により原料果実果皮由来の色素が抽出されることによって、原料果実の香気に富み、原料果実に由来する色合いを有する蒸留酒を製造できる。該着色工程に使用する原料果実と蒸留酒の原料果実は同一のものでも、異なるものでもよい。 上記の条件で減圧蒸留を行った後は、常法に従い安定化、瓶詰、熟成等を行えばよい。 以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。実施例1では、デラウエアブドウを原料としたブランデーの製造において、本発明の製造法により製造されたブランデーと、本発明の製造法によらず製造されたブランデーの、香気に関する比較を行った。1.ブドウ果汁発酵物の製造 デラウエアブドウ5kgを手作業により除梗・破砕後、簡易圧搾器(口径1mmの多数の穴を設けた直径100mm、高さ300mmの円筒形の構造を有し、ジャッキを用いたピストン方式により加圧可能なもの)にて搾汁し、果皮や種子等の固形分を含まないブドウ果汁3,500mlを得た。この果汁の糖度を測定し、果汁糖度が20%となるよう結晶ブドウ糖にて補糖した。その後、ワイン酒母用乾燥酵母(EC1118、ラレマン社(スイス)製)を酒母として添加し(300ppm)、発酵温度を16〜19℃に維持した水槽中で10日間発酵させ、果汁発酵物(以降、「果汁醪」と称する)を得た。2.ブドウ醸発酵物の製造 デラウエア葡萄10kgを手作業により除梗・破砕後、果汁および果皮や種子等の固形分を含む該破砕液の糖度が20%になるよう結晶ブドウ糖にて補糖した。その5/7量にワイン酒母用乾燥酵母(EC1118、ラレマン社製)を酒母として添加し(300ppm)、発酵温度を16〜19℃に維持した水槽中で7日間発酵させ、醸発酵物(以降、「醸醪」と称する)を得た。なお、その後の蒸留工程に供する前に、ガーゼ濾過により該醸醪中から不溶性固形物を取り除いた。3.ブドウ醸発酵物の製造(高温条件での発酵) 発酵の温度条件のみを変更した以外は上述の2に準じて、ブドウ醸発酵物を製造した。具体的には、上述の2.で得られた補糖済み果実破砕物の2/7量に、ワイン酒母用乾燥酵母(EC1118、ラレマン社製)を酒母として添加し(300ppm)、低温恒温循環機(CRT42WS、ヤマト科学(株)社製)を使用して発酵温度を30〜35℃に制御した恒温水槽中にて5日間醸発酵させて、醸発酵物(以降、「高温醸醪」と称する)を得た。なお、高温醸醪に関しても、2.の醸醪同様、その後の蒸留工程に供する前に、ガーゼ濾過により該醸醪中から不溶性固形物を取り除いた。4.果汁醪を常圧蒸留することによるブランデーの製造 上述の1.で得られた果汁醪1,500mlを、小型蒸留装置(5L容平底フラスコ、ガラス製冷却器ジムロール、トラップの冷却は低温恒温循環機(CRT42WS、ヤマト科学(株))にて10℃に制御、熱源として松下電器工業(株)製電気コンロNK−C6050を使用)にて常圧蒸留した。初留4%(約60ml)をカットした後、中心部15%(約225ml)を分画し、ブランデーサンプル−aを得た。5.果汁醪を減圧蒸留することによるブランデーの製造 上述の1.で得られた果汁醪1,500mlを、フラッシュエバポレーター(ROTARY VACUUM EVAPORATOR、株式会社東洋製作所)を用いて品温45℃、減圧度150Torrにて減圧蒸留し、4.の常圧蒸留の場合と同様に中心部15%(約225ml)を分画し、ブランデーサンプル-bを得た。6.醸醪を常圧蒸留することによるブランデーの製造 上述の2.で得られた不溶性固形物除去後の醸醪1,500mlを、上述の4.に準じ常圧蒸留して、中心部15%(約225ml)を分画し、ブランデーサンプル-cを得た。7.醸醪を減圧蒸留することによるブランデーの製造 上述の2.で得られた不溶性固形物除去後の醸醪1,500mlを、上述の5.に準じて減圧蒸留して、中心部15%(約225ml)を分画し、ブランデーサンプル-dを得た。8.高温醸醪を減圧蒸留することによるブランデーの製造 上述の3.で得られた不溶性固形物除去後の高温醸醪1,500mlを、上述の5.に準じて減圧蒸留して、中心部15%(約225ml)を分画し、ブランデーサンプル-eを得た。9.醸醪を減圧蒸留することによるブランデーの製造(高温にて蒸留) 上述の2.で得られた不溶性固形物除去後の醸醪1,500mlを、上述の5.に準じて、ただし蒸留時の品温を65℃として減圧蒸留して、中心部15%(約225ml)を分画し、ブランデーサンプル-fを得た。 このようにして得られた各サンプルについて、専門パネラ−8名による品質評価を行った。評価基準および結果は下表に示した通りである。評価基準:4:原料果実特有のフルーティな香りが際立って強く、非常に好ましい3:原料果実特有のフルーティな香りを有しており、好ましい2:原料果実特有のフルーティな香りがやや弱い1:原料果実特有のフルーティな香りが弱い、および/または若干の雑味臭を感じる 表1の結果より、醸発酵および減圧蒸留を組み合わせて製造された本発明のブランデーは、原料果実特有のフルーティな香りを有するという点において、果汁発酵のもの、または醸発酵であって常圧蒸留のものに比べ有意に優れた品質のブランデーを製造することができた。また、醸発酵と減圧蒸留を組み合わせた製造工程ではあっても発酵温度または減圧蒸留時の品温が本発明に示すものよりも高い設定で製造されたブランデーとの比較により、本発明に示す各条件が、原料果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデー製造において重要であることが示された。 実施例2では、レモンを原料としたブランデーの製造において、本発明の製造法により製造された醸醪(発酵物)を、各種品温条件で減圧蒸留することにより製造したブランデーの香気に関する比較を行った。 レモン果実15kgを水洗浄後10〜20mm幅にカットした。これに原料の5倍量の水を加え、ブドウ糖にて糖度14%になるよう補糖した後、酒母としてラレマン社製ワイン酒母用乾燥酵母(EC1118)を添加し、恒温水槽(16〜19℃)にて7日間醸発酵させて醸醪を得た。 この発酵物をレモンブランデー原酒とし、この発酵物を6等分し、各々を、フラッシュエバポレーター(ROTARY VACUUM EVAPORATOR、株式会社東洋製作所)を用いて、異なる品温(30℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃)において、減圧度150Torrで減圧蒸留し、20%量の蒸留液をそれぞれ分画した。得られた各サンプルについて、専門パネラ−8名による品質評価を行った。結果は下表に示した通りである。評価基準:実施例1と同様 表2の結果より、減圧蒸留時の品温を様々に変えて製造されたブランデーにおいて、原料果実特有のフルーティな香りを有する点において顕著に優れていたのは、本発明に含まれる、減圧蒸留時の品温が40〜55℃のものであった。 実施例3では、パイナップルを原料としたブランデーの製造において、果実破砕液を各温度条件において発酵させて得た醸醪(発酵物)を、本発明に記載する条件で減圧蒸留することにより製造したブランデーの香気に関する比較を行った。 パイナップル果実10kgを水洗浄後ヘタの部分を除去し、一片40〜50mmのサイコロ状にカットした。これを松下電器工業(株)製Speed CutterK・3にて破砕後、果汁分析を行い、ブドウ糖にて糖度20%になるよう補糖した後、酒母としてラレマン社製ワイン酒母用乾燥酵母(EC1118)を添加した後、得られた果醪を4等分した。 そのうちの一つを恒温水槽(10〜12℃)にて10日間醸発酵させ、醪を得た。他の一つは恒温水槽(16〜18℃)にて7日間醸発酵させ、醪を得た。さらに他の一つは恒温水槽(22〜24℃)にて5日間醸発酵させ、醪を得た。残る一つは恒温水槽(28〜30℃)にて4日間醸発酵させ、醪を得た。次に、得られた各発酵物を、フラッシュエバポレーター(ROTARY VACUUM EVAPORATOR、株式会社東洋製作所)を用いて品温50℃、減圧度150Torrにて減圧蒸留し、20%量の蒸留液をそれぞれ分画した。このようにして得られた各サンプルについて、専門パネラ−8名により品質評価を行った。結果は下表に示した通りである。評価基準:実施例1と同様 表3の結果より、減圧蒸留時の品温を様々に変えて製造されたブランデーにおいて、原料果実特有のフルーティな香りを有する点において顕著に優れていたのは、本発明に含まれる、発酵温度が10〜24℃のものであった。 実施例4では、ももを原料としたブランデーの製造において、果汁醪および醸醪を、常圧蒸留および減圧蒸留することにより製造したブランデーの香気に関する比較を行った。 もも果実(白鳳種)15kgを水洗浄後、徐核し8〜10等分にカットした。これを松下電器工業(株)製Speed CutterK・3にて破砕後、果実破砕液の果汁分析を行い、その1/2量を簡易圧搾器にて搾汁し、3,600mlの果汁を得た。果汁の糖度が20%になるよう結晶ブドウ糖にて補糖した後、ワイン酒母用乾燥酵母(EC1118、ラレマン社製)を酒母として添加し(300ppm)、低温恒温循環機(CRT42WS、ヤマト科学(株))を使用して発酵温度を16〜19℃に制御した恒温水槽中にて10日間発酵させて、発酵物を得た(果汁醪)。 果実破砕液の残り1/2量は固液分離せず、ブドウ糖にて糖度20%になるよう補糖した後、酒母としてワイン酒母用乾燥酵母(EC1118)を添加して恒温水槽(16〜19℃)にて7日間醸発酵させて、発酵物を得た(醸醪)。 各醪の発酵終了後、各発酵物を2等分し、各一方(1,500ml)の醪を小型蒸留装置(5L容平底フラスコ、ガラス製冷却器ジムロール、トラップの冷却は低温恒温循環機(CRT42WS、ヤマト科学(株))にて10℃に制御、熱源として松下電器工業(株)製電気コンロNK−C6050を使用)を用いて常圧蒸留し、初留4%(約60ml)をカットした後、中心部15%(約225ml)を分画した。また、残る各一方(1,500ml)の醪を、フラッシュエバポレーター(ROTARY VACUUM EVAPORATOR、株式会社東洋製作所)を用いて品温50℃、減圧度150Torrにて減圧蒸留し、20%量の蒸留液をそれぞれ分画した。このようにして得られた各サンプルについて、専門パネラ−8名により品質評価を行った。結果は下表に示した通りである。評価基準:実施例1と同様 表4の結果より、本発明の方法により製造したものが、原料果実由来のフルーティーな芳香を顕著に有していた。 実施例5では、りんごを原料としたブランデーの製造において、醸醪を、発酵に要する期間および発酵温度を様々に変えて発酵させた後、本発明に記載の方法で減圧蒸留することにより製造したブランデーの香気に関する比較を行った。 りんご果実(ふじ種)15kgを水洗浄後、8〜10等分にカットした。これを松下電器工業(株)製Speed CutterK・3にて破砕後、果実破砕液の分析を行った。ブドウ糖にて糖度20%になるよう補糖した後、酒母としてラレマン社製ワイン酒母用乾燥酵母(EC1118)を添加した後、これを4等分した。 その一つを恒温水槽(3〜5℃)にて20日間醸発酵させて醪を得た。他の一つは恒温水槽(13〜15℃)にて10日間醸発酵させた。他の一つは恒温水槽(23〜25℃)にて5日間醸発酵させて醪を得た。残りの一つは恒温水槽(33〜35℃)にて2日間醸発酵させて醪を得た。 得られた発酵物を、それぞれフラッシュエバポレーター(ROTARY VACUUM EVAPORATOR、株式会社東洋製作所)を用いて品温50℃、減圧度150Torrにて減圧蒸留し、20%量の蒸留液をそれぞれ分画した。このようにして得られた各サンプルについて、専門パネラ−8名により品質評価を行った。結果は下表に示した通りである。評価基準:実施例1と同様 表5の結果より、ブランデー醪の発酵条件を様々に変えて製造されたブランデーにおいて、原料果実特有のフルーティな香りを有する点において顕著に優れていたのは、本発明に含まれる発酵温度および発酵期間の組み合わせである、発酵温度が13〜15℃であり発酵期間が10日間のもの、および発酵温度が23〜25℃であり発酵期間が5日間のものであった。なお、33〜35℃の高温条件にて2日間発酵させたものは、原料果実特有のフルーティな香りが弱いことに加えて、ブランデーの品質として好ましくないとされる、還元的な重い香りを有していた。原料果実を破砕し、破砕物の一部または全部を固液分離することなく、酵母を用いて発酵させ、得られた発酵物を減圧蒸留する工程を含むことを特徴とするブランデーの製造法。発酵温度が10〜25℃であり、発酵に要する時間が3〜14日である、請求項1に記載のブランデーの製造法。減圧蒸留時の品温が40〜55℃である、請求項1または2に記載のブランデーの製造法。 【課題】果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーの製造法を提供すること。【解決手段】ブドウ、柑橘類、メロン、洋梨等のフルーティな香り高い原料果実を破砕し、破砕物の一部または全部を固液分離することなく、酵母を用いて、発酵温度10〜25℃において3〜14日間発酵させ、得られた発酵物を品温40〜55℃において減圧蒸留することにより、果実特有のフルーティな香りを顕著に有するブランデーを製造することができる。