タイトル: | 公開特許公報(A)_新規なβ−N−アセチルへキソサミニダーゼ |
出願番号: | 2004248183 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 1/21,C12N 9/24,C12P 19/26,C12N 5/10 |
西尾 俊幸 別府 輝彦 上田 賢志 奥 忠武 河内 隆 小川 真弘 JP 2006061085 公開特許公報(A) 20060309 2004248183 20040827 新規なβ−N−アセチルへキソサミニダーゼ 学校法人日本大学 899000057 小林 浩 100092783 片山 英二 100095360 小林 純子 100093676 大森 規雄 100120134 押鴨 涼子 100124305 西尾 俊幸 別府 輝彦 上田 賢志 奥 忠武 河内 隆 小川 真弘 C12N 15/09 20060101AFI20060210BHJP C12N 1/15 20060101ALI20060210BHJP C12N 1/19 20060101ALI20060210BHJP C12N 1/21 20060101ALI20060210BHJP C12N 9/24 20060101ALI20060210BHJP C12P 19/26 20060101ALI20060210BHJP C12N 5/10 20060101ALI20060210BHJP JPC12N15/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N9/24C12P19/26C12N5/00 A 14 OL 22 4B024 4B050 4B064 4B065 4B024AA05 4B024BA12 4B024CA04 4B024CA05 4B024CA06 4B024DA06 4B024EA04 4B024FA02 4B024FA10 4B024GA11 4B024GA19 4B024HA03 4B024HA08 4B024HA14 4B050CC01 4B050CC03 4B050CC04 4B050DD02 4B050FF05E 4B050FF09E 4B050FF11E 4B050FF12E 4B050LL02 4B050LL05 4B064AF21 4B064CA21 4B064CB07 4B064CC24 4B064CD21 4B064DA10 4B065AA01Y 4B065AA26X 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA02 4B065BA24 4B065CA31 4B065CA41本発明は、Symbiobacterium thermophirum由来の新規なβ-N-アセチルへキソサミニダーゼに関する。 海中や地中の深くから成層圏に至るまで、多種多様な微生物が地球環境のあらゆる所に生息あるいは存在している。これらの微生物のうち、現在、ヒトが単離し純粋に培養して増殖させることで利用に供することが可能となっている微生物はほんの一握りのものであり、大部分の微生物は純粋培養により増殖させることが難しいため、それらを利用することができない。このような微生物は、難培養性微生物として位置づけられている。これらの難培養性微生物の中には、単独では盛んな増殖を行うことはできないが、動植物や他の微生物と共生することにより比較的良く増殖するものが存在している。このような微生物を共生微生物とよんでいる。たとえば、植物の根に生息する根粒菌、動物の腸内細菌群、活性汚泥中の微生物群などがそれらの一例として挙げられる。 近年、このような未利用微生物に新規な有用物質の生産を期待し、その遺伝子資源の有効利用が盛んに検討されるようになってきた。本発明に使用したSymbiobacterium thermophirumも堆肥中から別府らによって発見された難培養性の共生微生物の一種である(非特許文献1 )。 本菌は好熱性のグラム陽性細菌で、単独で増やすことは困難であるが、特殊な培養装置を用いてある種のBacillus属細菌と共生培養を行うことによってある程度増殖させることができる。しかしながら、大量培養によって本菌に有用物質を大量に産生させるのは、非常に難しいのが現状である。しかも、このような特殊な微生物が生産する物質の中には、未だ知られていない有用なものが存在する可能性がある。S. Suzuki, et al., J. Gen. Microbiol. 134, p.2353-2362, 1988K. Ueda., et al., Appl. Environ. Microb., 67, p.3779-3784, 2001M. Ohno, et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 63, p.1083-1090, 1999K. Ueda., et al., Appl. Microboil. Biotechnol, 60, p.300-305, 2002 本発明は、未利用微生物遺伝子資源の有効利用の一環として、上記細菌のゲノムから有用酵素の生産に係わる遺伝子をクローニングし、それを大腸菌などの高増殖能を有する異種細胞に導入して大量生産を行わせることにより、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼを得ることを目的とする。 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。まず、未利用微生物遺伝子資源の有効利用の一環として、上記細菌のゲノムから有用酵素の生産に係わる遺伝子をクローニングし、それを大腸菌などの高増殖能を有する異種細胞に導入して有用物質の大量生産を行わせることを試みた。Symbiobacterium thermophirumのゲノムDNAについては全塩基配列解析が進行しており、その中に糖質関連酵素に関するいくつかのオープンリーディングフレーム(ORF)が発見されている。そのSymbiobacterium thermophirumゲノムDNA中の糖質関連酵素に関するいくつかのORFの解析により、発明者は、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼに関する遺伝子のクローニングに成功した。さらにその遺伝子の大量生産にも成功し、それにより本酵素の性質が明らかになり、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。(1)下記の理化学的性質を有するタンパク質。(a)作用:オリゴ糖を加水分解して、N-アセチルグルコサミンを生成する酵素反応を触媒する。(b)分子量:55,800±500(c)至適pHおよび安定pH範囲:至適pHはpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドを基質とした場合に5.5であり、安定pH範囲は5.3〜10である。(d)作用適温の範囲:55℃〜75℃の範囲にある。(e)熱安定性:pH5.5において30分間処理した場合に、55℃で90%以上の活性を保持し、60℃で60%の活性を保持する。なお、オリゴ糖がキチンオリゴ糖であってもよい。(2)以下の(a)または(b)の組換えタンパク質。 (a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質 (b)配列番号2において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、β-N-アセチルへキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質(3)以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子。 (a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるβ-N-アセチルへキソサミニダーゼをコードする遺伝子 (b)配列番号2において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、β-N-アセチルへキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子(4)以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子。 (a)配列番号1で示される塩基配列からなるDNA (b)配列番号1からなるDNAに対し相補的な塩基配列よりなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、β-N-アセチルへキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(5)(3)又は(4)に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。(6)(5)に記載の組換えベクターを含む形質転換体。(7)(6)に記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からβ-N-アセチルへキソサミニダーゼを採取することを特徴とする、β-N-アセチルへキソサミニダーゼの製造方法。(8)(1)又は(2)に記載のタンパク質を含むオリゴ糖の分解剤。オリゴ糖がキチンオリゴ糖であってもよい。(9)オリゴ糖を(1)又は(2)に記載のタンパク質で処理することを特徴とする、オリゴ糖の分解方法。 オリゴ糖がキチンオリゴ糖であってもよい。(10)キチンをキチナーゼにより加水分解し、得られた加水分解物を、さらに(1)又は(2)に記載のタンパク質で処理することを特徴とする、キチンの分解方法。(11)オリゴ糖を(1)又は(2)に記載のタンパク質で処理した後、得られる処理物からN-アセチルグルコサミンを採取することを特徴とする、N-アセチルグルコサミンの製造方法。 本発明の酵素は、弱酸性から高アルカリ性の広範囲なpH領域で極めて安定であり、また熱にも安定であるため、工業的利用に適した酵素である。また、本酵素はオリゴ糖、特にキチンオリゴ糖に対して高い活性を示すことから、オリゴ糖からのN-アセチルグルコサミンの製造に有用である。 バイオマス資源として天然に豊富に存在するキチンをキチナーゼにより分解すると、オリゴ糖まで分解される。従って、このオリゴ糖を本酵素により分解すれば、N-アセチルグルコサミンを製造することができる。 また、キチンを、N-アセチルグルコサミンまで酵素法により分解する手法は現在存在しない。N-アセチルグルコサミンは、機能性食品や特定健康食品として使用されるため、本酵素をN-アセチルグルコサミン製造のためのツールとして使用することができる。 本発明は、オリゴ糖をN-アセチルグルコサミンに分解することを特徴とするSymbiobacterium thermophirum由来のβ-N-アセチルへキソサミニダーゼに関する。1.Symbiobacterium thermophirum由来β-N-アセチルへキソサミニダーゼ Symbiobacterium thermophirumは、単独ではコロニーを形成しにくく、ある種のBacillus属細菌が共存するときに良好な生育を示す好熱性共生細菌である。この細菌は、耐熱性トリプトファナーゼやβ−チロシナーゼなどの有用酵素を生産する菌として堆肥中やから見いだされたが、自然環境に広く分布しており、特に草食動物の消化管の中に常住する。本発明のβ-N-アセチルへキソサミニダーゼは、Symbiobacterium thermophirumから単離されたものであり、その理化学的性質は、以下の通りである。(1)作用及び基質特異性 β-N-アセチルへキソサミニダーゼは、オリゴ糖、特にキチンオリゴ糖を加水分解して、N-アセチルグルコサミンを生成する酵素反応を触媒する。オリゴ糖とは、2〜10個の単糖がグリコシド結合で結合したものをいう。キチンオリゴ糖とは、キチンを構成する最小単位であるN−アセチルグルコサミンが2〜10個結合したものである。 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの基質特異性を検討するために、以下に示したような、p-ニトロフェニル(pNP)グリコシド分解活性やN-アセチルキトオリゴ糖分解活性を測定する方法を用いることができる。 (i) pNP グリコシド分解活性の測定 本発明のβ-N-アセチルへキソサミニダーゼがpNPグリコシドを分解するか否かを測定することにより上記酵素の基質特異性を検討する。pNPグリコシドとは、糖のアノメリックヒドロキシル基がp-ニトロフェノキシ基に置換された配糖体をいい、pNP N-アセチル-β-D-グルコサミニド、pNP N-アセチル-β-D-ガラクトサミニド、pNP β-D-グルコピラノシド、pNP β-D-ガラクトピラノシド、pNP β-D-マンノピラノシド、pNP β-D-キシロピラノシドなどがある。具体的には、pNPグリコシドのpNP基とグリコシド間の結合がβ-N-アセチルへキソサミニダーゼの作用により分解されると、その結果p-ニトロフェノールが遊離するため、その遊離したp-ニトロフェノールを定量することにより加水分解活性を測定する。実験手法としては、マレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5) に基質を溶解させた溶液に、酵素溶液を添加してインキュベートする。この反応液の反応を停止させたのち、加水分解によって遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し、本酵素の各基質に対する加水分解活性を求めることができる。 (ii) N-アセチルキトオリゴ糖分解活性の測定 N-アセチルキトオリゴ糖とは、キチンを加水分解して得られるオリゴ糖であり、ジ-N-アセチルキトビオース、トリ-N-アセチルキトトリオース、テトラ-N-アセチルキトテトラオース、ペンタ-N-アセチルキトペンタオース、又はヘキサ-N-アセチルキトヘキサオースなどがある。本発明のβ-N-アセチルへキソサミニダーゼがこのN-アセチルキトオリゴ糖を分解することができるか否かを測定することにより、上記酵素の基質特異性を検討する。 具体的には、キチンオリゴ糖が分解して遊離するN-アセチルグルコサミンを定量することにより、加水分解活性を測定する。測定手法としては、重合度2〜6のキチンオリゴ糖を超純水に溶解させて、マレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5)と酵素溶液を加えてインキュベートする。反応液の反応を加熱により停止させ、加水分解によって遊離したN-アセチルグルコサミンの量をReissing 法 (Reissing, J. L., et al., J. Biol. Chem., 217, 959-966, 1955) を用いて測定し、本酵素のキチンオリゴ糖に対する加水分解活性を求めることができる。Reissing 法とは、N-アセチルグルコサミンをアルカリ性条件下(pH8.9)で加熱することによって5-ジヒドロキシエチル-アセトアミド-フランを形成させた後、これをp-ジメチルアミノベンズアルデヒドと反応させることで赤紫色の色素を形成させ、その585nmにおける吸収を測定し、N-アセチルグルコサミンを定量する方法である。(2)分子量 β-N-アセチルへキソサミニダーゼの分子量は55,800±500である。実験により分子量を測定するには、例えば、当業者には周知であるSDS分子と結合したタンパク質の有する電荷の違いによるゲル内の移動速度の差を利用したSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いて測定することができる。また、ゲルろ過、質量分析装置を用いた方法等により推測することもできる。(3)至適pHおよび安定pH範囲:β-N-アセチルへキソサミニダーゼの至適pHはpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドを基質とした場合に5.5であり、安定pH範囲は5.3〜10である。β-N-アセチルへキソサミニダーゼの至適pHは以下の手順により求めることができる。すなわち、まず、一定範囲の緩衝液を作製する。たとえば、pH 3.5〜7.1ではMcIlvaine 緩衝液を、pH 7.1〜8.0 では100 mMリン酸緩衝液を用いることができる。そして、リン酸ナトリウム緩衝液に溶解させた酵素溶液を各pHの緩衝液を用いて適当に希釈する。この希釈した酵素溶液を、各pHの緩衝液に溶解させたN-アセチル-β-D-グルコサミニドに加えて反応させて、加水分解反応により遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し本酵素の各pHにおける加水分解活性を測定することにより求めることができる。β-N-アセチルヘキソサミニダーゼのpH安定性は、上記と同様にして作製した各緩衝液に酵素溶液を添加してインキュベートする。この各pHで処理した酵素溶液をマレイン酸ナトリウム緩衝液に溶解させたpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドに加えてインキュベートさせた後に、加水分解により遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定して、各pHにおける本酵素の残存活性を測定することにより求めることができる。(4)作用適温の範囲 β-N-アセチルへキソサミニダーゼの作用適温の範囲は55℃〜75℃である。β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの作用適温は、以下のように求めることができる。すなわち、マレイン酸ナトリウム緩衝液に溶解させた酵素溶液を、同緩衝液に溶解したpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドに添加してインキュベートして、加水分解によって遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し、本酵素の各温度での加水分解活性を測定することにより求めることができる。(5)熱安定性 β-N-アセチルへキソサミニダーゼはpH5.5において30分間処理した場合に、55℃で90%以上の活性を保持し、60℃で60%の活性を保持する。β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの熱安定性は以下の手順により求めることができる。すなわち、リン酸ナトリウム緩衝液に溶解させた酵素溶液にマレイン酸ナトリウム緩衝液を添加して適当に希釈させた酵素溶液を30〜80°Cの各温度にてインキュベートする。その後、この溶液をマレイン酸緩衝液に溶解させたpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドに加えてインキュベートさせ、反応停止後に、加水分解により遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し各温度における本酵素の残存活性を測定することにより求めることができる。2.β-N-アセチルへキソサミニダーゼタンパク質 本発明のβ-N-アセチルへキソサミニダーゼは、配列番号2で示されるアミノ酸配列および実質的に同一な配列からなるタンパク質を用いることができる。なお、実質的に同一なアミノ酸配列とは、配列番号2に示されるアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入などにより変異したタンパク質、あるいはアミノ酸側鎖などが修飾されている修飾タンパク質、他のタンパク質との融合タンパク質をいう。 これらタンパク質におけるアミノ酸の変異又は修飾の数、あるいは変異又は修飾の部位は、β-N-アセチルへキソサミニダーゼ活性が保持される限り制限はない。例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個若しくは複数個(例えば1個又は数個)のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入などにより変異したタンパク質、又はアミノ酸側鎖などが修飾されている修飾タンパク質を使用することができる。 具体的には、 (i) 配列番号2に示すアミノ酸配列のうち1個又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、 (ii) 配列番号2に示すアミノ酸配列のうち1個又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換したアミノ酸配列、 (iii) 配列番号2に示すアミノ酸配列のうち1個又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))の他のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列、又は (iv) 上記(i)〜(iii)を組み合わせたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ、上記β-N-アセチルへキソサミニダーゼと同様の作用を有する変異型のβ-N-アセチルへキソサミニダーゼタンパク質を使用することもできる。 また、本発明で用いられるタンパク質は、β-N-アセチルへキソサミニダーゼと同等の機能を有する限り、上記のβ-N-アセチルへキソサミニダーゼのアミノ酸配列とホモロジーを有するタンパク質でもよい。上記β-N-アセチルへキソサミニダーゼタンパク質のアミノ酸配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列などがあげられる。 このような配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press (1989))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons (1987-1997)、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-92、Kunkel (1988) Method. Enzymol. 85: 2763-6等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製することができる。このようなアミノ酸の欠失、置換又は付加等の変異型をコードする遺伝子の作製には、例えば、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。 また、本発明のβ-N-アセチルへキソサミニダーゼは、配列番号1に示される塩基配列およびそのような配列と実質的に同一な塩基配列よりなる。実質的に同一な塩基配列とは、配列番号1からなるDNAに対し相補的な塩基配列よりなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつβ-N-アセチルへキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列をいう。このような、β-N-アセチルへキソサミニダーゼをコードするDNAは、当業者に公知の方法で適当な断片を用いてプローブを作製し、このプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリーおよびゲノムライブラリーから得ることができる。上記ハイブリダイゼーションにおいてストリンジェントな条件としては、たとえば、1×SSC〜2×SSC、0.1%〜0.5%SDS及び42℃〜68℃の条件が挙げられ、より詳細には、60〜68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後、2×SSC、0.1%SDS中、室温で5〜15分の洗浄を4〜6回行う条件が挙げられる。3.β-N-アセチルへキソサミニダーゼ遺伝子のクローニング β-N-アセチルへキソサミニダーゼ遺伝子は、例えば、p-Direct (Clontech), pCR-Script TM SK(+) (Stratagene), pGEM-T (Promega), pAmp(TM: Gibco-BRL)などの市販のプラスミドベクターを用いてそれをクローニングすることもできる。また、β-N-アセチルへキソサミニダーゼ遺伝子を増幅することでクローニングすることもできる。遺伝子増幅は、公知の方法を用いることができるが、プライマーを用いてPCR反応で増幅することもできる。この場合、プライマーは、上記の配列番号1に示される塩基配列のいずれの部分も用いることができるが、たとえば、上流側用プライマー(F3-MFVSP-fw)として5'-CCA TAT GTT TGT TAG TCC TCC AGT ATA CAT TCA GCA GAG-3'(配列番号3)を用い、下流側プライマー(F3-MFVSP-re)として、5'-CGG ATC CGC ATG CGC ACC GAT GGT GAG GAT TC-3'(配列番号4)を用いることができる。そして、S. thermophilum ゲノムDNAに、上記プライマーおよびDNAポリメラーゼ等を作用させてPCR反応を行う。上記方法は、Moleculer cloning 2nd Edt. Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等に従い、当業者ならば容易に行うことができる。 得られたPCR産物の精製には公知の方法を用いることができる。たとえば、エチジウムブロマイドを用いる方法、SYBR GreenI (Molecular probes社)を用いる方法、GENECLEAN(フナコシ)、QIAGEN(QIAGEN 社)等によるアガロースゲルを用いる方法、DEAE-セルロース濾紙を用いる方法、フリーズ&スクイーズ法、透析チューブを用いる方法等がある。アガロースゲルを用いる場合には、アガロースゲル電気泳動し、DNA断片をアガロースゲルより切り出して精製する。 精製DNA断片を公知の方法によりクローニングした後に、DNAシーケンサーを用いて塩基配列の決定を行い、クローニングしたPCR産物が目的とするオープンリーディングフレーム (ORF) であるかを確認する。4.β-N-アセチルヘキソサミノダーゼ発現用ベクターの構築 PCR産物からクローニングを行ったプラスミドを、制限酵素を用いて消化する。用いる制限酵素は、たとえば、Nde IおよびBamH Iであるがこれらに限定されない。消化後のDNA断片をアガロースゲル電気泳動により精製する。このDNA断片を、発現用ベクターに公知の方法を用いて組み込み、β-N-アセチルヘキソサミノダーゼ発現用ベクターを得ることができる。この発現ベクターを宿主に導入し形質転換体を作製し、目的遺伝子の発現に供する。このとき、発現ベクター及び宿主は、目的とする遺伝子を発現できるものであれば特に限定されず、例えば、宿主として大腸菌(Escherichia coli) 、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis) 等の細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、COS細胞、CHO細胞等の哺乳類細胞などが挙げられる。大腸菌等の細菌を宿主として用いる場合は、本発明の遺伝子が宿主中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、転写終結配列を含む構成であることが好ましい。発現ベクターとしては、例えばファルマシア社のpGEX、pUC18 等が挙げられる。プロモーターとしては、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えば、trpプロモーター、lac プロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの大腸菌やファージ等に由来するプロモーターが用いられる。細菌への組み換え体DNAの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法や塩化カルシウム法を用いることができる。 酵母を宿主として用いる場合は、発現ベクターとして、例えばYEp13、YCp50等が挙げられる。プロモーターとしては、例えばgal1 プロモーター、gal10プロモーター等が挙げられる。酵母への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。哺乳類細胞を宿主として用いる場合は、発現ベクターとして例えばpcDNA3(INVITROGEN CORPORATION)等が挙げられる。TIGA1発現ベクタープラスミドを、例えばLipofectamine(GIBCO BRL社) を用いたリポソーム法にて細胞株に導入する。その後、ネオマイシンを含む選択培地にて培養を行い、薬剤耐性を示す細胞コロニーを得ることができる。5.β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの製造法及び精製 4.で得られたコロニーをたとえばアンピシリン(Amp)を含むルーリエ培地 (LB)(LB-Amp培地)等を用いて培養したものを集菌し、酵素が安定に保たれるのに適当なpHに調製されたPBS(-) 等の緩衝液に懸濁させ、さらにPMSF(フェニルメタンスルホニルフルオライド)等のプロテアーゼ阻害剤および溶菌作用を有するリゾチームを添加し、インキュベートして溶菌し、得られた上清を粗酵素溶液とする。プロテアーゼ阻害剤を用いるのは、本発明の酵素を抽出する過程において共存するプロテアーゼの作用によりこの酵素が分解されることを防ぐためである。粗酵素溶液を熱処理し、遠心分離した後に上清を回収して、大腸菌由来のタンパク質を除去する。この上清を透析したのち、塩化ナトリウム等を用いた直線濃度勾配により目的タンパク質を溶出させる。溶出画分の中で最も比活性の高かった画分を限外ろ過により濃縮し、この濃縮画分を、高速液体クロマトグラフィーを用いて精製し、本発明のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼを得る。 また、本発明においては、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ遺伝子又は上記ベクターからβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼを採取することも可能である。すなわち、本発明においては、生細胞を全く使用することなく無細胞タンパク質合成系を採用して、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼを製造することが可能である。 無細胞タンパク質合成系とは、細胞抽出液を用いて試験管などの人工容器内でタンパク質を合成する系であり、例えばmRNAの情報を読み取って、リボソーム上でタンパク質を合成するというものである。なお、本発明において使用される無細胞タンパク質合成系には、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系も含まれる。 上記細胞抽出液は、真核細胞由来又は原核細胞由来の抽出液、例えば、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、マウスL-細胞、HeLa細胞、CHO細胞、出芽酵母、大腸菌などの抽出液を使用することができる。なお、これらの細胞抽出液は濃縮されたものであっても濃縮されないものであってもよい。 ここで、DNA 上に暗号化された遺伝情報は、転写によりmRNAとなり、さらに翻訳されてタンパク質に変換される。人工容器内でこの翻訳過程を再現してタンパク質を合成するためには、リボソーム、tRNA、各種タンパク質因子など、翻訳因子群を安定化し、目的に応じてmRNA を生産するシステムを構築することが必要である。このシステムを構築するため、本発明においては小麦胚芽を選択することができる。小麦胚芽には、種子が発芽してタンパク質合成を行うための翻訳因子群が保存されている点で好ましい。 細胞抽出液は、例えば限外濾過、透析、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿等によって得ることができる。PEG沈殿による方法では、細胞抽出液にPEG溶液を混合することによりタンパク質、核酸を沈殿させて回収し、これを少量の緩衝液に溶かすことにより濃縮細胞抽出液を得る。透析による濃縮は、例えば、振とう又は攪拌可能な閉鎖系で細胞抽出液を透析内液とし、透析膜(例えば分子量限界1000〜10000)を介して透析外液に対して透析を行う。ここで透析外液は、緩衝液(酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ジチオスレイトール等を含有する)及び高分子吸収剤(PEG、Ficoll等)を含めることができる。 本発明において、無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。そのようなキットとしては、例えば試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)などが挙げられる。 無細胞タンパク質合成によって得られるβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼは、前述のように適宜クロマトグラフィーを選択して、精製することができる。また、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼが単離精製されたことの確認は、SDS-PAGEにより、活性の測定はHPLCにより行うことが可能である。6.β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの発現 組換えタンパク質発現の確認は以下のように行う。上記形質転換体を、たとえばアンピシリン(Amp)を含むルーリエ培地 (LB)(LB-Amp培地)等を用いて培養する。その培養液にIPTG溶液を添加し、培養中に定期的に培養液を分取し、菌体の全タンパク質をSDS-PAGE (Laemmli, U. K., Nature, 227, 680-685, 1970) を用いて解析する。 組換えタンパク質のpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドまたはpNPβ-D-グルコピラノシドの分解活性についての検討は以下のように行う。まず、上記形質転換体を培養後、培養液を溶菌させて、上清を回収し、この上清をpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドまたはpNPβ-D-N-グルコピラノシドとインキュベートさせる。この反応液の酵素反応を停止させたのち、加水分解により遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し、その加水分解活性を求める。7.β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの大量製造方法 上記のようにβ-N-アセチルヘキソサミノダーゼ発現用ベクターを導入した大腸菌BL21(DE3)株を試験管レベルの容量(例えば5ml)のLB-Amp培地にて適当な吸光度まで前々培養したのち、この前々培養液をボリュームアップして(例えば、20ml)適当な吸光度まで同様に前培養したのち、この前培養液をさらにボリュームアップして(例えば、250 mL)LB-アンピシリン培地に植え、同様に適当な吸光度まで培養し、IPTG(イソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトシド)を添加し、さらに適当な時間培養する。この培養液を上記と同様に集菌したのち、溶菌して粗酵素溶液を得たのちに、目的タンパク質を得て精製する。各精製段階におけるタンパク質量は、Lowry法 (Lowry, O. H., et al., J. Biol. Chem., 193, 265-275, 1951) により測定し、このとき標準タンパク質にはウシ血清アルブミン (BSA) を用いる。Lowry法とは、フェノール試薬法ともいい、タンパク質の微量呈色反応の標準的方法であり、チロシン、トリプトファン、システインとフェノール試薬の反応をビウレット法に合わせたもので、ビウレット法よりも感度が高く、生化学領域でよく用いられるタンパク質の定量方法である。酵素活性測定にはpNP N-アセチル-β-D-グルコサミドを基質として用いて、マレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5) 中で反応を行う。なお、1 ユニットは1分間に1 μmolのp-ニトロフェノールをpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドより遊離させる酵素量と定義する。各精製段階における試料の純度はSDS-PAGEを用いて確認できる。8.β-N-アセチルヘキソサミニダーゼによるオリゴ糖の分解 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼは、オリゴ糖、特にキチンオリゴ糖を加水分解して、N-アセチルグルコサミンを生成する酵素反応を触媒する。たとえば、キチンオリゴ糖の一つであるテトラ-N-アセチルキトテトラオースを分解させる方法を以下に記載する。β-N-アセチルヘキソサミニダーゼが安定性を維持できるようなpHを保持できるように、適当なpH に調製した緩衝液、例えば、マレイン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)にテトラ-N-アセチルキトテトラオースを溶解させる。これに、適当に濃度を調製したβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ溶液を添加し、適当な温度、例えば、60°Cでインキュベートするというものである。なお、一定時間ごとに反応液を分取し煮沸することにより酵素反応を停止させ、この反応液をTLC(薄層クロマトグラフィー)に供することにより、テトラ-N-アセチルキトテトラオースの分解物であるN-アセチルグルコサミンの分解が起こったことを確認できる。薄相クロマトグラフィーとは、ガラスのプレートにつけた吸着剤薄層を用いる吸着クロマトグラフィーをいう。具体的には、シリカゲル薄層を塗ったガラスのプレートに試料をプロットしたものを溶媒に浸して放置すると、溶媒が薄層を上昇するにつれて各成分の動きの差によって、各成分を分離することができる。これに色々な色素や試薬をスプレーしてスポットを検出する。 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼをオリゴ糖の分解剤として使用する場合には、その形態に限定されるものではない。例えば沈殿及び乾燥処理して粉末状、顆粒状又はタブレット状にしてもよく、水、緩衝液等に溶解して溶液とすることもできる。 さらに、必要に応じて、安定化剤としてグリセロールなどを配合したものであっても良い。使用量は、オリゴ糖1モルに対し1/104〜1/106モル程度であり、処理温度は、30〜50℃で攪拌しながら反応を行う。9.β-N-アセチルヘキソサミニダーゼを用いたN-アセチルグルコサミンの製造方法 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼを用いてN-アセチルグルコサミンを製造するには、例えば、キチンを出発物質として、キチナーゼでキチンを分解してオリゴ糖(キチンオリゴ糖)にし、さらにこのキチンオリゴ糖にβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼを作用させることにより、N-アセチルグルコサミンを製造することができる。キチン分解酵素のキチナーゼは、バチルス(Bacillus)属、セラチア(Serratia)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属の微生物由来のキチナーゼが知られており、キチンのβ−1,4結合をランダムに切断して、N−アセチルグルコサミンの4量体、2量体を主成分とするオリゴ糖にまで分解する。そして、分解産物であるオリゴ糖に、以下の処理をする。すなわち、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼが安定でいられるようなpHを保持できるように、適当なpH に調製した緩衝液、例えば、マレイン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)にキチンオリゴ糖、例えば、テトラ-N-アセチルキトテトラオースを溶解させ、適当に濃度を調製したβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ溶液を添加し、適当な温度、例えば、60°Cでインキュベートすればよい。このとき、上記と同様に薄層クロマトグラフィーを用いてN-アセチルグルコサミンが製造できたことを確認することができる。 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。 S. thermophilumのゲノムDNAは、Hiraharaらの方法(Hirahara, T., et al., Appl. Env. Microbiol., 58, 2633-2642, 1992)に従って調製した。TaKaRa LA TaqTM ポリメラーゼはタカラバイオより購入した。オリゴヌクレオチドプライマーはプロリゴ社に合成を依頼しそれを実験に用いた。サーマルサイクラーには、PTC-100TMProgrammable Controller(MJ Reserch, INC)を用いた。大腸菌発現用プラスミドpET25b(+)および大腸菌BL21(DE3)はNovagene より購入した。PCR産物のTA-クローニングにはpGEMTM-T Eazy Vector Systems (Promega) を用いた。制限酵素Nde I はNew England Biolabsより、BamH I はTOYOBOより購入した。 脱リン酸化酵素にはニッポンジーン社の大腸菌由来アルカリフォスファターゼ (BPA) を用いた。ライゲーションには、ニッポンジーン社のT4 DNAリガーゼを使用した。プラスミドDNAの調製にはQIAGEN Spin Miniprep Kit (QIAGEN)を用いた。アンピシリンナトリウムおよびフェニルメチルスルホニルフルオリド (PMSF) は和光純粋薬工業 (株) より、リゾチーム (卵白由来) はSigma社より購入した。pNP N-アセチル-β-D-グルコサミニド、pNP N-アセチル-β-D-ガラクトサミド、pNP β-D-グルコピラノシド、pNP β-D-ガラクトピラノシド、pNP β-D-マンノピラノシドおよびpNP β-D-キシロピラノシドはSigma社より購入した。キチンオリゴ糖(重合度 = 2〜6)は生化学工業(株)より購入した。コロイド状キチンは和光純薬工業(株)製のキチン(1級)をShimahara らの方法 (Shimahara, K.,et al., in "Method in Enzymology", Vol. 161, pp. 417-423, 1988) に従って処理し作製した。 β-N-アセチルヘキソサミノダーゼ遺伝子のPCRクローニング PCR用のプライマーの配列は本菌株の全ゲノムシーケンスの結果をもとにして作製した。上流側用プライマー(F3-MFVSP-fw)として、5'-CCA TAT GTT TGT TAG TCC TCC AGT ATA CAT TCA GCA GAG-3'(配列番号3)(Nde Iサイトを導入した部分を下線で示した)を用い、下流側プライマー(F3-MFVSP-re)として、5'-CGG ATC CGC ATG CGC ACC GAT GGT GAG GAT TC-3'(配列番号4)(BamH I サイトを導入した部分を下線で示した)を用いた。PCR反応液の組成は、全量50 μl中100 ngの S. thermophilum ゲノムDNA、50 pmol のF3-MFVSP-fwおよびF3-MFVSP-re プライマー、1× GC buffer I (LA Taq用)、0.25 mM dNTPs、および1.25 ユニットのTaKaRa LA TaqTMであった。サーマルサイクリングの条件は以下の通りである。始めに94°Cで5分間処理し、98°C 20 秒間、68°C 5 分間のシャトルサイクルを30 回繰り返したのち、72°Cで1時間インキュベートした。サーマルサイクリング終了後、PCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動し、1.75 kbpのDNA断片をアガロースゲルより切り出した後、GENECLEAN II Kit (BIO 101 Systems)を用いて精製した。この精製を行ったDNA断片を pGEMTM-T Eazy Vector Systemsを用いてTAクローニングした。TAクローニング後、DNAシーケンサーDSQ-2000L (島津製作所) を用いて塩基配列の決定を行い、TAクローニングしたPCR産物が目的とするオープンリーディングフレーム (ORF) であるかを確認した。 β-N-アセチルヘキソサミノダーゼ発現用ベクターの構築 PCR産物のTAクローニングを行ったプラスミドを、制限酵素Nde IおよびBamH Iで消化した。これを、1% アガロースゲルにより電気泳動したのち1.75 kbpのDNA断片をゲルから切り出しGENECLEAN II Kit を用いて精製した。このDNA断片を、あらかじめNde IおよびBamH I消化後、脱リン酸化した大腸菌発現用ベクターpET25b(+)にT4 DNAリガーゼを用いてライゲーションした。さらに、インサートDNA断片がpET25b(+)に正しく挿入されていることを、DNAシーケンサーによる塩基配列の決定により確認し、これをβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ発現用ベクターpST-BNAH-Aとして使用した。このpST-BNAH-Aを大腸菌BL21(DE3)株に導入し目的遺伝子の発現を行った。 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの大腸菌での発現の検討 まず、組換えタンパク質発現の確認を行った。pST-BNAH-Aを導入した形質転換体を5 mLの100 μg/mlのアンピシリン(Amp)を含むルーリエ培地 (LB)(LB-Amp培地)において、37°CでOD600nmが約0.4に達するまで37°C、200 rpmで前培養したのち4°Cで一晩保管した。次に保管していた前培養液を200 mLの LB-Amp培地に加え37°CでOD600 nmが0.6に達するまで培養した。この培養液にIPTG溶液を終濃度が1 mMになるように添加後、37°C、200 rpmで培養し、1時間ごとに1 mLの培養液を分取し、菌体の全タンパク質をSDS-PAGE (Laemmli, U. K., Nature, 227, 680-685, 1970) を用いて解析した。発現のネガティブコントロールでは、インサートを挿入していない発現用ベクターpET25b(+)を導入した大腸菌BL21(DE3)株を用い、pST-BNAH-Aを導入した形質転換体と同じ操作を行った。 次に、組換えタンパク質のpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドまたはpNPβ-D-グルコピラノシドの分解活性についての検討を行った。まず、pST-BNAH-Aを導入した大腸菌BL21(DE3)を200 mL のLB-Amp培地において、37°C、200 rpmでOD600nmが約0.6に達するまで培養したのち、終濃度が1 mMになるようにIPTGを添加し37°C、200 rpmで4時間培養した。培養終了後、4,000×gで10分間遠心分離を行って集菌したのち、これを20 mLのPBS(-)緩衝液に懸濁させた。これに、PMSFおよびリゾチームをそれぞれ終濃度が1 mMおよび 350 μg/mLとなるように添加して37°Cで2時間インキュベートし、氷上で超音波破砕を行い溶菌させた後、9,000×gで20 分間遠心分離し上清を回収した。この上清20 μlを80 μlの50 mM マレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5)に溶解させた1.25 mMのpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドまたはpNPβ-D-グルコピラノシドと37°Cで5分間インキュベートした。この反応液に100 μLの0.5 M炭酸ナトリウム溶液を添加して酵素反応を停止させたのち、加水分解により遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定しその加水分解活性を求めた。 その結果、pST-BNAH-Aを含む大腸菌の破砕液がpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドに対してのみ有意な活性を示したことから、発現させたORFがβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼであることを確認した。 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの大腸菌での大量発現および精製 pST-BNAH-Aを導入した大腸菌BL21(DE3)株を5 mLのLB-Amp培地4本に植え、37°C、200 rpmでOD600nmが約 0.4になるまで前々培養したのち、培養液を4°Cで一晩保存した。次に、それぞれの前々培養液を20 mLのLB-Amp培地に植え、37°C、200 rpmでOD600nmが約0.4になるまで前培養したのち、培養液を4°Cで一晩保管した。この保管していた前培養液をそれぞれ250 mLのLB-アンピシリン培地に植え、37°C、200 rpmでOD600nmが0.5〜0.6になるまで培養し、IPTGを終濃度1 mMになるように添加したのち37°C、200 rpmで4時間培養した。この培養液を9,000×g、10分間遠心分離して集菌し、80 mLのPBS(-) 緩衝液に懸濁させた。 この懸濁液にPMSFおよびリゾチームをそれぞれ終濃度が1 mMおよび 350μg/mLとなるように添加し、30°Cで2時間インキュベートしたのち氷上で超音波破砕したのち、Triton X-100を終濃度が1 mMになるように添加し、4°Cで1時間穏やかに撹拌した。撹拌終了後、9,000×g で20分間遠心分離し上清を粗酵素溶液とした。 次に、粗酵素溶液を60°Cで15分間熱処理し、8,000×gで20分間遠心分離し上清を回収して大部分の大腸菌由来のタンパク質を除去した。この上清を3 L の10 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0) 中で3回透析したのち、あらかじめ10 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)によって平衡化したDEAE-TOYOPEARL 650 M(o 2.3 × 19 cm、トーソー)に負荷し、10 mM リン酸ナトリウム緩衝液にて洗浄を行った後、0〜200 mM、カラム体積の4倍量 (約320 mL) の塩化ナトリウムによる直線濃度勾配により目的タンパク質を溶出させた。 溶出画分の中で最も比活性の高かった画分を3 Lの10 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0) 中で3回透析したのち、限外ろ過装置(Amicon 8050)をもちいて6 mLまで濃縮した。次に、この濃縮画分を高速液体クロマトグラフィー BioCAD 700E perfusion chromatographyTM workstation (Applied Biosystems)を用いて精製した。カラムにはPOROS HQ/20 (o 4.6 × 100 mm、Applied Biosystems)を使用した。 10 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0) により平衡化したPOROS HQ/20に2 mLの試料を負荷し、10 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0) によりカラムの洗浄を行ったのち、0〜500 mM、カラム体積の40倍量 (約70 mL) の塩化ナトリウムの直線濃度勾配により目的タンパク質を溶出させた。本精製操作を3回繰り返し6 mLの試料を処理した。 溶出画分の中で最も比活性の高かった画分を回収し、限外ろ過装置(Amicon 8050)および遠心式限外ろ過装置(MILLIPORE UFV 5BG500)を用いて 1 mLまで濃縮した。この濃縮画分を、あらかじめ10 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0) により平衡化したTOYOPEARL HW-55F (o 1.7 × 75 cm、トーソー)に負荷し平衡化と同じ緩衝液を用いて溶出させた。各精製段階におけるタンパク質量は、Lowry法 (Lowry, O. H., et al., J. Biol. Chem., 193, 265-275, 1951) により測定し、標準タンパク質にはウシ血清アルブミン (BSA) を用いた。酵素活性測定にはpNP N-アセチル-β-D-グルコサミドを基質 (終濃度2.0 mM) として用い、50 mM マレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5) 中、37°C、5〜15分間 (5 分間隔) 反応を行った。なお、1 ユニットは1分間に1 μmolのp-ニトロフェノールをpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドより遊離させる酵素量と定義した。結果を表1に示す。 精製後の試料の純度をSDS-PAGEを用いて確認した。結果を図2に示す。図2中、1は標準タンパク質のレーンであり、2はβ-N-アセチルへキソサミニダーゼ試料のレーンである。 表1の結果より、比活性3.05ユニット/mgタンパク質の精製酵素を、18.6ユニット得ることができた。また、収率は細胞破砕液における酵素活性を100%としたとき20.3%であった。 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼのpH安定性の検討 pH 3.5〜10.1までの範囲の緩衝液を作製した。pH 3.5〜7.1ではMcIlvaine緩衝液を、pH 7.1〜8.0 では100 mMリン酸ナトリウム緩衝液を、pH 8.0〜10.1では100 mMホウ酸緩衝液を用いた。200 μL の10 mMリン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0) に溶解した酵素溶液 (0.079 U/mL)に各pHの緩衝液を 800 μL添加し、37°Cで20時間インキュベートした。この各pHで処理した酵素溶液 20 μLを 80 μLの300 mMマレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5) に溶解させた2.5 mM pNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドに加え37°Cで15分間インキュベートした。反応液に100 μLの0.5 M炭酸ナトリウムを添加することにより反応を停止し、加水分解により遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し各pHにおける本酵素の残存活性を求めた。本酵素は、弱酸性から高アルカリ性の広範囲で安定性を示す(図3)。本酵素と報告されている他の細菌由来の同種酵素のpHおよび熱に対する性質を比較したものを表2に示す。 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの熱安定性の検討 10 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0)に溶解させた酵素溶液(1.58 U/mL)50 μLに950 μLの50 mMマレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5)を添加して20倍希釈した。この希釈した酵素溶液を30〜80°C(5°C間隔)の各温度にて30分間インキュベートした。このインキュベートした溶液20 μLを80 μLの50 mM のマレイン酸緩衝液 (pH 5.5) に溶解させた2.5 mM pNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドに加え37°Cでインキュベートした。この反応液に100 μLの0.5 M 炭酸ナトリウム溶液を添加することにより反応を停止し加水分解により遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し各温度における本酵素の残存活性を求めた。 それによれば、本酵素は55℃付近まで熱に対して安定であることが明らかとなった(図4)。 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの至適pHの検討 pH 3.5〜8.0までの範囲の緩衝液を作製した。pH 3.5〜7.1ではMcIlvaine 緩衝液を、pH 7.1〜8.0 では100 mMリン酸緩衝液を用いた。まず始めに、10 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0)に溶解させた酵素溶液(0.245 U/ml)を各pHの緩衝液を用いて5倍希釈した。この希釈した酵素溶液20 μLを、80 μL各pHの緩衝液に溶解させた2.5 mM pNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドに加え、37°Cで10分間反応させた。反応液に100 μLの0.5 M 炭酸ナトリウム溶液を添加することにより反応を停止し、加水分解反応により遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し本酵素の各pHにおける加水分解活性を求めた。 本酵素の最適作用pHは5.5であることが明らかとなった(図5)。 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの至適温度の検討 50 mM マレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5) に溶解させた酵素溶液 (0.0143 U/mL)40 μLを160 μLの50 mMマレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5) に溶解した2.5 mM pNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドに添加し40〜80°Cで15分間インキュベートした。反応液に200 μLの0.5 M炭酸ナトリウム溶液を添加することで反応を停止し、加水分解によって遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し、本酵素の各温度での加水分解活性を求めた。本酵素の最適作用温度は65℃であることが明らかとなった(図6)。 β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの基質特異性の検討 (i) pNP グリコシド分解活性 基質にはpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニド、pNP N-アセチル-β-D-ガラクトサミニド、pNP β-D-グルコピラノシド、pNP β-D-ガラクトピラノシド、pNP β-D-マンノピラノシド、pNP β-D-キシロピラノシドの6種類を使用した。80 μL の50 mM マレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5) に2.5 mMになるように各基質を溶解させた溶液に、0.0143〜1.43 U/mLの酵素溶液を20 μL添加し37°Cで15分間インキュベートした。この反応液に100 μLの0.5 M炭酸ナトリウム溶液を添加することで反応を停止し、加水分解によって遊離したp-ニトロフェノールの405 nmにおける吸収を測定し本酵素の各基質に対する加水分解活性を求めた。 (ii) キチンオリゴ糖分解活性の測定 重合度2〜6のキチンオリゴ糖を 4 mMになるように超純水に溶解させた。この溶液75 μLに50 mMマレイン酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.5)を50 μLと0.0223 U/m L (37°Cで反応させた時) または0.0149 U/mL (60°Cで反応させた時)の酵素溶液を25 μL加え、37°Cまたは60°Cで10 分間インキュベートした。反応液を100°Cで5 分間加熱して酵素反応を停止し、加水分解によって遊離したN-アセチルグルコサミンの量をReissing 法 (Reissing, J. L., et al., J. Biol. Chem., 217, 959-966, 1955) を用いて測定し本酵素のキチンオリゴ糖に対する加水分解活性を求めた。 これより、本酵素は、基質としてアリールグリコシド誘導体よりもキチンオリゴ糖に対して高い活性を示す(図7)ことが明らかとなった。なお図7において、aはpNP N-アセチル-β-D-グルコサミド、bはpNP N-アセチル-β-D-ガラクトサミド、cはpNPβ-グルコシド、dはpNPβ-ガラクトシド、eはpNPβ-マンノシド、fはpNPβ-キシロシド、gはジ-N-アセチルキトビオース、hはトリ-N-アセチルキトトリオース、iはテトラ-N-アセチルキトテトラオース、jはペンタ-N-アセチルキトペンタオース、kはヘキサ-N-アセチルキトヘキサオースを表している。また、図7中、a〜fは基質に作用し、1分間に1μmolのp-ニトロフェノールを遊離させる酵素量を1ユニットとする。同様に、図7のg〜kは、基質に作用し、1分間に1μmolのN-アセチルグルコサミンを遊離させる酵素量を1ユニットとする。 タンパク質の定量 タンパク質量は、Lowry法 (Lowry, O. H., et al., J. Biol. Chem., 193, 265-275, 1951) により定量し、標準タンパク質にはウシ血清アルブミン (BSA) を用いた。 まず、0.1mlの試料溶液にアルカリ性銅溶液1.0mlを加え、混和し、室温で10分放置した。1Nフェノール試薬0.1mlをすばやく加え、完全に混和した。さらに30分放置後、750nmの吸光度を測定した。その結果、実施例4に示した精製法における最終精製品の総タンパク質量は、6.1mgであることが示された。 テトラ-N-アセチルキトテトラオース加水分解産物のTLCによる分析 160 μLの20 mM マレイン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)に溶解させた12.5 mM のテトラ-N-アセチルキトテトラオースに1.15 U/mLの酵素溶液を40 μL添加し60°Cでインキュベートした。反応液を10、20、30、40分後に20 μLずつ分取し煮沸することにより酵素反応を停止した。この反応液をTLCプレート (Silica Gel 60 F254、Merck) にスポットし十分に乾かした後、水 : アセトニトリル = 1 : 3の展開溶媒により2回展開した。発色にはリンモリブデン酸発色液を使用した。 キチンテトラオース(4糖)の酵素反応による分解物をTLCにより調べたところ、反応初期に4糖は単糖と3糖に分解していることから、本酵素も従来のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼで知られているようなエキソ型であることがわかった(図8)。図8中、N-アセチルグルコサミンはN-アセチルグルコサミン、(N-アセチルグルコサミン)2はジ-N-アセチルキトビオース、(N-アセチルグルコサミン)3はトリ-N-アセチルキトトリオース、(N-アセチルグルコサミン)4はテトラ-N-アセチルキトテトラオースを示す。 キチンは、カニ・エビなどの甲殻類の殻や真菌類の細胞壁を構成する多糖類であり、地球上における年間生産量は1011トンとも見積られており、セルロースに匹敵すると推定されている糖質バイオマス資源である。β-N-アセチルヘキソサミニダーゼは、このキチンの分解に関わる酵素の一種である。 キチンはキチナーゼによってキチンオリゴ糖にまで加水分解され、その後、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼによって単糖であるN-アセチルグルコサミンに完全に加水分解されるのである。したがって、本酵素はキチンの酵素的完全加水分解には不可欠な酵素である。 近年、オリゴ糖に関する生理機能が明らかにされ、それに伴い様々なオリゴ糖が機能性食品や特定健康食品として商品化されている。その中で、N-アセチルグルコサミンは肌荒れの改善や皮膚の老化防止に高い効果を示す単糖類として注目され市販されている。 本発明の酵素は、キチナーゼと併用することにより、バイオマス資源として天然に豊富に存在するキチンからN-アセチルグルコサミンを効率良く生産することができる有用な酵素であると考えられる。本発明のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼのアミノ酸配列およびβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ遺伝子の塩基配列を示す図。精製された本発明のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼの純度をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動で解析した結果を示す図。本発明のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼのpH安定性を示す図。本発明のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼの熱安定性を示す図。本発明のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼの最適作用pHを示す図。本発明のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼの最適作用温度を示す図。本発明のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼの基質特異性を示す図。キチンオリゴ糖の酵素分解生成物をシリカゲル薄層クロマトグラフィーにて確認したことを示す図。 配列番号3:合成DNA 配列番号4:合成DNA 下記の理化学的性質を有するタンパク質。 (a)作用:オリゴ糖を加水分解して、N-アセチルグルコサミンを生成する酵素反応を触媒する。 (b)分子量:55,800±500 (c)至適pHおよび安定pH範囲:至適pHはpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドを基質とした場合に5.5であり、安定pH範囲は5.3〜10である。 (d)作用適温の範囲:55℃〜75℃の範囲にある。 (e)熱安定性:pH5.5において30分間処理した場合に、55℃で90%以上の活性を保持し、60℃で60%の活性を保持する。 オリゴ糖がキチンオリゴ糖である、請求項1記載のタンパク質。 以下の(a)または(b)の組換えタンパク質。 (a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質 (b)配列番号2において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、β-N-アセチルへキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質 以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子。 (a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるβ-N-アセチルへキソサミニダーゼをコードする遺伝子 (b)配列番号2において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、β-N-アセチルへキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子 以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子。 (a)配列番号1で示される塩基配列からなるDNA (b)配列番号1からなるDNAに対し相補的な塩基配列よりなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、β-N-アセチルへキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA 請求項4又は5に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。 請求項6に記載の組換えベクターを含む形質転換体。 請求項7に記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からβ-N-アセチルへキソサミニダーゼを採取することを特徴とする、β-N-アセチルへキソサミニダーゼの製造方法。 請求項1〜3のいずれか一項記載のタンパク質を含むオリゴ糖の分解剤。 オリゴ糖がキチンオリゴ糖である、請求項9記載の分解剤。 オリゴ糖を請求項1〜3のいずれか一項記載のタンパク質で処理することを特徴とする、オリゴ糖の分解方法。 オリゴ糖がキチンオリゴ糖である、請求項11記載の分解方法。キチンをキチナーゼにより加水分解し、得られた加水分解物を、さらに請求項1〜3のいずれか一項記載のタンパク質で処理することを特徴とする、キチンの分解方法。オリゴ糖を請求項1〜3のいずれか一項記載のタンパク質で処理した後、得られる処理物からN-アセチルグルコサミンを採取することを特徴とする、N-アセチルグルコサミンの製造方法。 【課題】キチンオリゴ糖からのN-アセチルグルコサミンの製造に有用な酵素の提供。【解決手段】 下記の理化学的性質を有するタンパク質。 (a)作用:オリゴ糖を加水分解して、N-アセチルグルコサミンを生成する酵素反応を触媒する。 (b)分子量:55,800±500 (c)至適pHおよび安定pH範囲:至適pHはpNP N-アセチル-β-D-グルコサミニドを基質とした場合に5.5であり、安定pH範囲は5.3〜10である。 (d)作用適温の範囲:55℃〜75℃の範囲にある。 (e)熱安定性:pH5.5において30分間処理した場合に、55℃で90%以上の活性を保持し、60℃で60%の活性を保持する。【選択図】なし配列表